説明

黒色感光性樹脂組成物およびカラーフィルタ

【課題】近接露光方式の一般的なフォトマスクを用い、線幅バラつきが少なくパターン欠損のない、高品質な線幅5μm以下のブラックマトリックスを形成するための黒色感光性樹脂組成物を提供する。
【解決手段】少なくとも黒色顔料、バインダ樹脂、光重合性モノマー、下記式(1)で表される光重合開始剤、重合禁止剤および溶剤を含有する黒色感光性樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、テレビ受像機、コンピュータおよび携帯電話端末等に用いられるカラーフィルタ、およびカラーフィルタのブラックマトリックス形成に用いられる黒色感光性樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
カラーフィルタは、近年様々な分野に応用が進んでいる液晶表示装置のカラー化に必要不可欠な部品である。カラーフィルタは、ガラスなどの透明基板上に例えば赤色、緑色、青色などの着色画素を設けたものである。各着色画素の間には、コントラストを向上させるため、また、液晶表示装置において対向基板上に設けられるTFT素子の光による誤動作を防ぐために遮光部(ブラックマトリックス)が設けられるのが一般的である。
【0003】
着色画素並びにブラックマトリックスを形成する方法としては、印刷法、電着法およびインクジェット法等様々な手法が考案されているが、品質面で優れたフォトリソグラフィ法が幅広く用いられている。一般に、フォトリソグラフィ法によるカラーフィルタの作製は、以下のような手順で行う。基板に黒色感光性樹脂組成物を塗布し、所定のパターンを有するマスクを介して露光、現像処理を施すことにより、ブラックマトリックスを形成する。露光方式としては、基板とフォトマスクの間隔(露光ギャップ)をμmオーダーに保持して露光光を照射する近接露光(プロキシミティ露光)方式が一般的である。続いて、例えば赤色の顔料を分散した感光性樹脂組成物を塗布し、表示領域内のブラックマトリックス開口部に対応したフォトマスクを介して露光、現像処理を施すことにより、赤色画素を形成する。同様の操作を緑色、青色の顔料を分散した感光性樹脂組成物を用いて行うことにより、赤色、緑色、青色の着色画素を有するカラーフィルタを製造することができる。
【0004】
近年、携帯電話端末等のモバイル機器に用いられる液晶表示装置は、表示内容の高度化に伴い高精細化が強く求められるようになってきている。液晶表示装置の高精細化にはTFT素子とカラーフィルタ双方の高精細化が必要である。
【0005】
高精細化のためにカラーフィルタの画素サイズを細かくすると、透過率が低下し液晶表示装置の輝度が低下してしまう。高精細と高透過率を両立するためには、カラーフィルタのブラックマトリックスを細線化することが必須となる。
【0006】
従来、モバイル機器向けカラーフィルタのブラックマトリックス線幅は6μm程度が主流であったが、5μm、更には4μmといった細線形成が求められるようになってきている。
【0007】
ブラックマトリックスを細線化するためには、露光量を低く抑え、現像時間を長くする必要がある。しかしながら、露光量を低く抑えた場合、黒色感光性樹脂組成物の硬化が不十分であることから、露光部の現像耐性が不足し、基板内での線幅バラつきが大きくなり、パターン欠損が発生しやすくなる。また、現像時間を長くした場合もパターン形状不良あるいはパターン欠損が発生しやすくなる。
【0008】
露光時に用いるフォトマスクの開口幅を狭くすることもブラックマトリックスの細線化を達成するための有力な手段である。しかしながら、開口幅を狭くしていくと干渉の影響が強くなり、実際に黒色感光性樹脂組成物の塗膜に照射される光強度分布はブロードになりピーク強度も顕著に低下してしまう。結果、期待していたような細線化効果は得られず
、パターン表面剥れのような不具合が生じる。
【0009】
露光ギャップを狭くすることで開口幅の狭いフォトマスクを用いた際にもシャープな光強度分布を保つことが可能である。しかしながら、露光装置の基板ステージの歪み、フォトマスクの撓みを完全に無くすことは困難であり、ギャップを狭くした場合マスクと感光性樹脂組成物の塗膜が接触し同一欠陥が発生する危険性が高まる。最悪の場合、フォトマスクの破損といった事態も想定され得る。
【0010】
投影露光方式を用いることにより上記の問題を解決することが可能であるが、該方式では装置が高価であること、スループットが低いことといった課題がある。液晶表示装置に対する低コスト化の要望は高まるばかりであり、こうした流れに逆行する投影露光方式の採用は困難な状況である。このため、一般的な近接露光方式にて5μm以下のブラックマトリックスの細線パターンを形成する方法が求められている。
【0011】
こうした問題を解決するために、例えば下記特許文献1には、フォトマスクに開口幅より狭く、現像処理後に解像されない補助パターンを配設することにより、実際に感光性樹脂組成物の塗膜に照射される光強度分布を変化させ、ブラックマトリックスの細線パターンを形成する提案がなされている。しかしながら、該提案においてはブラックマトリックスの線幅が6μm±1μmの範囲までしか議論されておらず、5μm以下に関しては記載がない。また、補助パターンを配設することでマスクの描画作業が煩雑なものとなりリードタイムの遅延、コストアップを招く懸念もある。
【0012】
一方、下記特許文献2には、特定の構造を有する酸性基含有モノマーと重合禁止剤を併用することでブラックマトリックスの細線パターンを形成する提案がなされている。しかしながら、該提案では開口幅が数十μmのフォトマスクを用いた際の露光条件(露光ギャップ)並びに現像条件(現像時間)のバラつきに対するマージンアップが議論されており、線幅5μm以下のブラックマトリックスの細線パターンを形成する具体的な手法を提供するものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2007−148300号公報
【特許文献2】特開2007−34119号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明はかかる事情を鑑みてなされたものであり、従来広く用いられている近接露光方式にて一般的なフォトマスクを用い、線幅バラつきが少なくパターン欠損のない、高品質な線幅5μm以下のブラックマトリックスを形成するための黒色感光性樹脂組成物を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の請求項1に係る発明は、少なくとも黒色顔料、バインダ樹脂、光重合性モノマー、光重合開始剤、重合禁止剤および溶剤を含有する黒色感光性樹脂組成物であって、前記光重合開始剤が下記式(1)で表される化合物であることを特徴とする黒色感光性樹脂組成物である。
【0016】
【化1】

〔式(1)において、X・X・Xは、それぞれ独立にR11、OR11、COR11、SR11、CONR1213又はCNを表し、Xは置換基を有していてもよい
炭素原子数1〜20のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素原子数6〜30のアリール基、置換基を有していてもよい炭素原子数7〜30のアリールアルキル基又は置換基を有していてもよい炭素原子数2〜20の複素環基を表し、X及びXは、それぞれ独立に、R11、OR11、SR11、COR11、CONR1213、NR12COR11、OCOR11、COOR11、SCOR11、COSR11、COSR11、CSOR11、CN、ハロゲン原子又は水酸基を表す。R11、R12及びR13は、それぞれ独立に、水素原子、置換基を有していてもよい炭素原子数1〜20のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素原子数6〜30のアリール基、置換基を有していてもよい炭素原子数7〜30のアリールアルキル基又は置換基を有していてもよい炭素原子数2〜20の複素環基を表す。a及びbはそれぞれ独立に、0〜3である。〕
【0017】
また、本発明の請求項2に係る発明は、前記光重合開始剤の含有量が前記黒色感光性樹脂組成物の全固形分に対して、1〜20重量%であることを特徴とする請求項1記載の黒色感光性樹脂組成物である。
【0018】
また、本発明の請求項3に係る発明は、前記重合禁止剤として、ハイドロキノン系重合禁止剤を少なくとも1種類以上含有することを特徴とする請求項1又は請求項2記載の黒色感光性樹脂組成物である。
【0019】
また、本発明の請求項4に係る発明は、前記重合禁止剤の含有量が前記黒色感光性樹脂組成物の全固形分に対して、0.01〜0.5重量%であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の黒色感光性樹脂組成物である。
【0020】
また、本発明の請求項5に係る発明は、請求項1〜4のいずれかに記載の黒色感光性樹脂組成物を用いて形成したブラックマトリックスを具備することを特徴とするカラーフィルタである。
【0021】
また、本発明の請求項6に係る発明は、前記ブラックマトリックスのパターン線幅が5μm以下であることを特徴とする請求項5記載のカラーフィルタである。
【発明の効果】
【0022】
本発明の黒色感光性樹脂組成物を用いることにより、従来広く用いられている近接露光方式にて一般的なフォトマスクを用い、線幅バラつきが少なくパターン欠損のない、高品質な線幅5μm以下のブラックマトリックスを形成することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明に係る一実施形態の光重合開始剤の合成方法である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の詳細な内容を以下に説明する。
【0025】
本発明の黒色感光性樹脂組成物に用いられる黒色顔料としては、カーボンブラック、黒鉛、アニリンブラックおよびシアニンブラックなどの有機顔料、酸化チタン、酸化鉄などの無機顔料が挙げられるが、遮光性に優れたカーボンブラックが特に好ましい。
【0026】
前記黒色顔料の含有量としては、黒色感光性樹脂組成物の全固形分に対して、35〜60重量%であることが好ましく、より好ましくは40〜55重量%の範囲である。黒色顔料の含有量がこの範囲である場合、高遮光性と良好なパターニング特性(直線性、断面形状等)を両立することが可能である。黒色顔料の含有量が35重量%以下である場合、パターンの熱フロー性が大きくなり、ポストベイク工程における線幅シフト量が大きくなり細線形成には不適である。一方、黒色顔料の含有量が60重量%以上である場合、パターンの直線性が悪化し、逆テーパー形状になりやすくなる。
【0027】
前記バインダ樹脂としては、アクリル酸、メタクリル酸、メチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルアクリレート、エチルメタクリレート、ブチルアクリレート、ブチルメタクリレートなどのアルキルアクリレートまたはアルキルメタクリレート、環状のシクロヘキシルアクリレートまたはメタクリレート、ヒドロキシエチルアクリレートまたはメタクリレート、スチレンなどの内から3〜5種類程度のモノマーを用いて合成した、分子量5000〜100000程度の樹脂を好ましく用いることができる。
【0028】
また、アクリル系樹脂の一部に不飽和二重結合を付加させた樹脂として、上記のアクリル樹脂、イソシアネート基と少なくとも1個以上のビニル基を有するイソシアネートエチルアクリレート、メタクリロイルイソシアネートなどの化合物を反応させて得られる、酸価50〜150の感光性共重合体が、耐熱性、現像性等の点から好ましく使用できる。更に、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、ポリカルボン酸グリシジルエステル、ポリオールポリグリシジルエステル、脂肪族又は脂環式エポキシ樹脂、アミンエポキシ樹脂、トリフェノールメタン型エポキシ樹脂、ジヒドロキシベンゼン型エポキシ樹脂などのエポキシ樹脂と(メタ)アクリル酸を反応させて得られるエポキシ(メタ)アクリレート等の通常の光重合可能な樹脂等やカルド樹脂も使用できる。
【0029】
前記光重合性モノマーとしては、例えば、エチレングリコール(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ヘキサンジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、グリセリンジ(メタ)アクリレート、グリセリントリ(メタ)アクリレート、グリセリンテトラ(メタ)アクリレート、テトラトリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等が挙げられ、これらの成分は単独又は混合物として使用される。また、各種変性(メタ)アクリレート、ウレタン(メタ)アクリレート等を用いることも可能である。この中でも、ポストベイク工程における線幅シフト量を抑えることができる5官能/6官能モノマー、具体的にはジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレートが好適に用いられる。
【0030】
光重合性モノマーの含有量としては、黒色感光性樹脂組成物の全固形分に対して、5〜20重量%であることが好ましく、より好ましくは10〜15重量%の範囲である。光重合性モノマーの含有量がこの範囲である場合、黒色感光性樹脂組成物の感度、現像速度を生産上好適な水準に調整することができる。光重合性モノマーの含有量が5重量%以下である場合、黒色感光性樹脂組成物の感度が不足する。一方、黒色顔料の含有量が20重量%以上である場合、パターンの直線性が悪化し、逆テーパー形状になりやすくなる。
【0031】
本発明の黒色感光性樹脂組成物は、光重合開始剤として下記式(1)で表される化合物を含有する。
【0032】
【化2】

式(1)において、X・X・Xは、それぞれ独立にR11、OR11、COR11、SR11、CONR1213又はCNを表し、Xは置換基を有していてもよい炭素原子数1〜20のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素原子数6〜30のアリー
ル基、置換基を有していてもよい炭素原子数7〜30のアリールアルキル基又は置換基を有していてもよい炭素原子数2〜20の複素環基を表し、X及びXは、それぞれ独立に、R11、OR11、SR11、COR11、CONR1213、NR12COR11、OCOR11、COOR11、SCOR11、COSR11、COSR11、CSOR11、CN、ハロゲン原子又は水酸基を表す。R11、R12及びR13は、それぞれ独立に、水素原子、置換基を有していてもよい炭素原子数1〜20のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素原子数6〜30のアリール基、置換基を有していてもよい炭素原子数7〜30のアリールアルキル基又は置換基を有していてもよい炭素原子数2〜20の複素環基を表す。a及びbはそれぞれ独立に、0〜3である。
【0033】
は、合成の容易さ、感度、溶解性、感光性着色組成物に含有したときの保存安定性の観点から、特に好ましくはメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、n−アミル基、イソアミル基、t−アミル基、n−ヘキシル基、2−エチルヘキシル基等の炭素数10以下のアルキル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等の炭素数10以下の側鎖を有しても良い環状アルキル基、メトキシメチル基、エトキシメチル基、エトキシエチル基、2−(1−メトキシプロピル)基、2−(1−エトキシプロピル)基等の炭素数10以下でありメチレン鎖中にエーテル結合を1個有するアルキル基である。
【0034】
は、合成の容易さ、感度、溶解性、感光性着色組成物に含有したときの保存安定性の観点から、特に好ましくは水素、またはメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、n−アミル基、イソアミル基、t−アミル基、n−ヘキシル基等の炭素数6以下のアルキル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等の炭素数6以下の環状アルキル基、メトキシメチル基、エトキシメチル基、エトキシエチル基、2−(1−メトキシプロピル)基、2−(1−エトキシプロピル)基等の炭素数6以下でありメチレン鎖中にエーテル結合を1個有するアルキル基である。
【0035】
は、合成の容易さ、感度、溶解性、感光性着色組成物に含有したときの保存安定性の観点から、特に好ましくはメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、n−アミル基、イソアミル基、t−アミル基、n−ヘキシル基等の炭素数6以下のアルキル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等の炭素数6以下の環状アルキル基、メトキシメチル基、エトキシメチル基、エトキシエチル基、2−(1−メトキシプロピル)基、2−(1−エトキシプロピル)基等の炭素数6以下でありメチレン鎖中にエーテル結合を1個有するアルキル基である。
【0036】
は、合成の容易さ、感度、溶解性、感光性着色組成物に含有したときの保存安定性の観点から、特に好ましくはメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、n−アミル基、イソアミル基、t−アミル基、n−ヘキシル基等の炭素数6以下のアルキル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等の炭素数6以下の環状アルキル基、メトキシメチル基、エトキシメチル基、エトキシエチル基、2−(1−メトキシプロピル)基、2−(1−エトキシプロピル)基等の炭素数6以下でありメチレン鎖中にエーテル結合を1個有するアルキル基である。
【0037】
及びXは、合成の容易さ、感度、溶解性、感光性着色組成物に含有したときの保存安定性の観点から、特に好ましくは水素、またはメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、n−アミル基、イソアミル基、t−アミル基、n−ヘキシル基等の炭素数6以下のアルキル基である。
【0038】
前記式(1)で表される光重合開始剤の好ましい具体例としては、以下の式(2)〜(10)の化合物があげられる。
【0039】
【化3】

【0040】
【化4】

【0041】
【化5】

【0042】
【化6】

【0043】
【化7】

【0044】
【化8】

【0045】
【化9】

【0046】
【化10】

【0047】
【化11】

【0048】
前記式(1)で表される光重合開始剤の合成法は、特に制限は無いが、図1に示す方法により合成できる。
<ステップ1>
アシル体の合成:ニトロカルバゾール化合物1と酸クロライド2を塩化アルミニウムの存在下で反応し、図1(a)のアシル体3を得る。
<ステップ2>
オキシム化合物4の合成:アシル体3と、塩酸ヒドロキシルアミンと、ジメチルホルムアミドを仕込み、加熱攪拌し、図1(b)のオキシム化合物4を得る。
<ステップ3>
光重合開始剤の合成:オキシム化合物4と酸無水物5を加熱攪拌し、反応終了後、アルカリで中和し、前記式(1)で表される光重合開始剤を得る。
【0049】
前記式(1)で表される光重合開始剤は、近接露光装置の光源として広く用いられている高圧水銀ランプとのマッチングに優れ、主要な輝線であるi線(365nm)、h線(405nm)の光を効率よく吸収するため、黒色感光性樹脂組成物を高感度化することができる。このため、細線化のために露光量を低く抑えた場合にもパターンを十分に硬化することができ、線幅ばらつきを低減しパターン欠損の発生を防止することが可能である。また、少量で黒色感光性樹脂組成物の感度を生産性に支障が生じないレベルに調整できるため、その分組成物中の樹脂量を増やすことができ、現像マージンを拡大することが可能である。
【0050】
また、前記式(1)で表される光重合開始剤の含有量は、前記黒色感光性樹脂組成物の固形分中1〜20重量%であることが好ましく、より好ましくは2〜15重量%の範囲である。光重合開始剤の含有量がこの範囲である場合、生産上好適な露光量で線幅5μm以下のブラックマトリックスパターンを形成することが可能である。光重合開始剤の含有量が1重量%以下である場合、黒色感光性樹脂組成物の感度が不足する。一方、光重合開始剤の含有量が20重量%以上である場合、ブラックマトリックスのパターン線幅が太りすぎてしまう。
【0051】
本発明の黒色感光性樹脂組成物には、前記式(1)で表される光重合開始剤と共に、他の光重合開始剤を併用することができる。他の光重合開始剤としては、4−フェノキシジ
クロロアセトフェノン、4−t−ブチル−ジクロロアセトフェノン、ジエトキシアセトフェノン、1−(4−イソプロピルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−メチル−1[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノプロパン−1−オン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタン−1−オン等のアセトフェノン系化合物、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンジルジメチルケタール等のベンゾイン系化合物、ベンゾフェノン、ベンゾイル安息香酸、ベンゾイル安息香酸メチル、4−フェニルベンゾフェノン、ヒドロキシベンゾフェノン、アクリル化ベンゾフェノン、4−ベンゾイル−4´−メチルジフェニルサルファイド、3,3´,4,4´−テトラ(t−ブチルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン等のベンゾフェノン系化合物、チオキサントン、2−クロルチオキサントン、2−メチルチオキサントン、イソプロピルチオキサントン、2,4−ジイソプロピルチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン等のチオキサントン系化合物、2,4,6−トリクロロ−s−トリアジン、2−フェニル−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−(p−メトキシフェニル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−(p−トリル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−ピペロニル−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2,4−ビス(トリクロロメチル)−6−スチリル−s−トリアジン、2−(ナフト−1−イル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−(4−メトキシ−ナフト−1−イル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2,4−トリクロロメチル−(ピペロニル)−6−トリアジン、2,4−トリクロロメチル(4´−メトキシスチリル)−6−トリアジン等のトリアジン系化合物、1,2−オクタンジオン,1−〔4−(フェニルチオ)−,2−(O−ベンゾイルオキシム)〕、O−(アセチル)−N−(1−フェニル−2−オキソ−2−(4´−メトキシ−ナフチル)エチリデン)ヒドロキシルアミン等のオキシムエステル系化合物、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキサイド、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド等のホスフィン系化合物、9,10−フェナンスレンキノン、カンファーキノン、エチルアントラキノン等のキノン系化合物、ボレート系化合物、カルバゾール系化合物、イミダゾール系化合物、チタノセン系化合物等が用いられる。これらの光重合開始剤は1種または必要に応じて任意の比率で2種以上混合して用いることができる。他の光重合開始剤の含有量は、前記黒色感光性樹脂組成物の固形分中0.1〜5重量%であることが好ましく、より好ましくは0.2〜1重量%の範囲である。
【0052】
本発明の黒色感光性樹脂組成物は、前記式(1)で表される光重合開始剤と共に、重合禁止剤を含有することを特徴とする。重合禁止剤を添加することにより、近接露光方式で細線を形成する際の障壁となる回折光起因の線幅太りを大幅に抑制することが可能である。また、回折光の影響を受けにくいことからパターンエッジの硬化性に優れ、現像ばらつきに対する線幅変化を低減することができる。前記式(1)で表される光重合開始剤の効果と重合禁止剤の効果を組み合わせることにより、線幅5μm以下のブラックマトリックスパターンを精度よく形成することが可能になる。
【0053】
前記重合禁止剤としては、黒色感光性樹脂組成物及びアルカリ現像液との相溶性に優れ、露光感度の水準そのものへの影響が軽微な、少なくとも1種類以上のハイドロキノン系の重合禁止剤を含有することが好ましい。具体的には、ハイドロキノン、tert‐ブチルハイドロキノン、2,5‐ビス(1,1‐ジメチルブチル)ハイドロキノン、2,5‐ビス(1,1,3,3‐テトラメチルブチル)ハイドロキノン等が用いられる。その他、カテコール、tert‐ブチルカテコールといったカテコール系の重合禁止剤を用いることも可能である。
【0054】
また、上記単環芳香族系の化合物以外にも、多環芳香族系の化合物を用いることが可能
である。多環芳香族系の化合物としては、例えば下記式(11)、(12)で表される化合物等が挙げられる。
【0055】
【化12】

【0056】
【化13】

【0057】
重合禁止剤の添加量は、前記黒色感光性樹脂組成物の固形分中0.01〜0.5重量%であることが好ましく、より好ましくは0.05〜0.3重量%の範囲である。光重合禁止剤の含有量がこの範囲である場合、生産上好適な露光量で線幅5μm以下のブラックマトリックスパターンを形成することが可能である。光重合禁止剤の含有量が0.01重量%以下である場合、十分な効果が得られなくなる。一方、光重合禁止剤の含有量が0.5重量%以上である場合、黒色感光性樹脂組成物の感度が不足する。
【0058】
溶剤としては、メタノール、エタノール、エチルセロソルブ、エチルセロソルブアセテート、ジグライム、シクロヘキサノン、エチルベンゼン、キシレン、酢酸イソアミル、酢酸nアミル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、トリエチレングリコール、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、液体ポリエチレングリコール、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、乳酸エステル、エチルエトキシプロピオネートなどが挙げられる。
【0059】
本発明のカラーフィルタにおける着色画素は赤色、緑色、あるいは青色の着色材を含有した感光性樹脂組成物を用い、ブラックマトリックスの場合と同様に形成することができる。前記着色材としては、従来のカラーフィルタ製造に使用されている公知のものをいずれも用いることが出来る。また、カラーフィルタの分光調整のために、複数の着色材を組み合わせて用いることもできる。
【0060】
本発明の黒色感光性樹脂組成物には、さらに塗布性を向上させるための界面活性剤、基板との密着性を向上させるためのシランカップリング剤等を併用することができる。
【0061】
上記界面活性剤としては、パーフルオロアルキルリン酸エステル、パーフルオロアルキルカルボン酸塩等のフッ素界面活性剤、高級脂肪酸アルカリ塩、アルキルスルホン酸塩、アルキル硫酸塩等のアニオン系界面活性剤、高級アミンハロゲン酸塩、第四級アンモニウム塩等のカチオン系界面活性剤、ポリエチレングリコールアルキルエーテル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、脂肪酸モノグリセリド等の非イオン界面活性剤、両性界面活性剤、シリコーン系界面活性剤等の界面活性剤を用いることができ、これらは組み合わせて用いてもよい。
【0062】
シランカップリング剤としては、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン等のビニルシラン類、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルジメトキシシラン等のエポキシシラン類、3−メタクリ
ロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン等のメタクリルシラン類、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン類等のアミノシラン類、3−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン等のメルカプトシラン類、3−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン等のイソシアネートシラン類等が挙げられる。
【0063】
本発明のカラーフィルタは、具体的には、以下のようにして製造することができる。はじめに、基板上に、スピンコート法などにより本発明の黒色感光性樹脂組成物の塗膜を形成する。次いで、ブラックマトリックスのパターンに対応したフォトマスクを介して露光し、露光された部分を光硬化する。次に、アルカリ現像して未露光部を除去し、加熱焼成することによりブラックマトリックスを形成する。次いで、赤色、緑色、青色の着色材を含有した着色感光性樹脂組成物と、ブラックマトリックスの開口部に対応したフォトマスクを用いて同様の工程を繰り返すことにより、本発明のカラーフィルタを形成することができる。
【実施例】
【0064】
以下、実施例等を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0065】
<実施例1>
下記材料を加えてよく撹拌し、黒色感光性樹脂組成物No.1を得た。
・黒色顔料:カーボンブラック分散液(固形分77%) 43.9g
(御国色素社製「ABK−2015」)
・バインダ樹脂:ビスフェノールフルオレン型エポキシ樹脂 7.0g
(新日鐵化学社製「V259−ME」)
・光重合性モノマー:
ジペンタエリスリトールペンタ/ヘキサアクリレート混合物 2.2g
(日本化薬社製「KAYARAD DPHA」)
・光重合開始剤:式(2)と同じ構造 0.7g
(ADEKA社製「NCI−831)
・重合禁止剤:(和光純薬工業社製「メチルハイドロキノン」) 0.01g
・溶剤:プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート 46.2g
【0066】
<実施例2>
重合禁止剤を0.02gとした以外は、実施例1と同様にして黒色感光性樹脂組成物No.2を得た。
【0067】
<実施例3>
光重合開始剤にADEKA社製「NCI−831」0.4gと、BASF社製「Irgacure369」0.4gとを用いた以外は、実施例1と同様にして黒色感光性樹脂組成物No.3を得た。
【0068】
<実施例4>
重合禁止剤を式(11)と同じ構造の川崎化成工業社製「キノパワーMNT」0.01gとした以外は、実施例1と同様にして黒色感光性樹脂組成物No.4を得た。
【0069】
<比較例1>
光重合開始剤を下記式(13)に示すBASF社製「Irgacure OXE 02」0.4gにした以外は、実施例1と同様にして黒色感光性樹脂組成物No.5を得た。
【0070】
【化14】

【0071】
<比較例2>
光重合開始剤にADEKA社製「NCI−831」0.4gと、BASF社製「Irgacure369」0.4gを用い、且つ、重合禁止剤を用いないこと以外は、実施例1と同様にして黒色感光性樹脂組成物No.6を得た。
【0072】
<黒色感光性樹脂組成物の評価>
実施例1〜4及び比較例1〜2で得られた黒色感光性樹脂組成物を用いて、以下の方法にてブラックマトリックスパターンを形成し、ブラックマトリックスパターンの線幅の測定と、パターンの外観を光学顕微鏡で観察した。なお、パターンの外観に関する判定は、欠損がなく直線性良好であったものを○、パターンの欠損及び/又は直線性悪化が認められたものを×とした。以下の表1にその結果を示す。
ガラス基板(コーニング社製「EAGLE XG」)上にスピンコート法により、上記黒色感光性樹脂組成物No.1の塗膜を形成した。乾燥後、90℃のホットプレートで1分間プリベイクした。次に、開口幅が6μmのフォトマスクを介し、超高圧水銀ランプ(照度26mW/cm)を用いて黒色感光性樹脂組成物の塗膜に紫外光を照射した。露光後、2.5重量%炭酸ナトリウム水溶液で現像し、ガラス基板上にブラックマトリックスパターンを形成した。現像時間は60秒、70秒、80秒の230℃のクリーンオーブンで30分間ベイクした後、ブラックマトリックスパターンの線幅を測定し、パターンの外観を光学顕微鏡で観察した各黒色感光性樹脂組成物につき、現像時間60秒、70秒の2水準で評価を行った。
【0073】
【表1】

【0074】
<比較結果>
実施例1〜4で得られた本発明品は、いずれも線幅5μm以下の外観良好なブラックマトリックスパターンを形成でき、現像マージンも良好であった。一方、比較例1及び2で得られた比較例品は、線幅太りや外観不良が発生し、線幅5μm以下の外観良好なブラックマトリックスパターンを形成することが不可能であった。
【0075】
上記の結果より、本発明の黒色感光性樹脂組成物を用いることにより、線幅5μm以下のブラックマトリックスパターンを精度よく形成することが可能であり、またその結果、カラーフィルタの開口率を向上させることができ、高精細の液晶表示装置において高輝度化が可能となった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも黒色顔料、バインダ樹脂、光重合性モノマー、光重合開始剤、重合禁止剤および溶剤を含有する黒色感光性樹脂組成物であって、前記光重合開始剤が下記式(1)で表される化合物であることを特徴とする黒色感光性樹脂組成物。
【化15】

〔式(1)において、X・X・Xは、それぞれ独立にR11、OR11、COR11、SR11、CONR1213又はCNを表し、Xは置換基を有していてもよい炭素原子数1〜20のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素原子数6〜30のアリール基、置換基を有していてもよい炭素原子数7〜30のアリールアルキル基又は置換基を有していてもよい炭素原子数2〜20の複素環基を表し、X及びXは、それぞれ独立に、R11、OR11、SR11、COR11、CONR1213、NR12COR11、OCOR11、COOR11、SCOR11、COSR11、COSR11、CSOR11、CN、ハロゲン原子又は水酸基を表す。R11、R12及びR13は、それぞれ独立に、水素原子、置換基を有していてもよい炭素原子数1〜20のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素原子数6〜30のアリール基、置換基を有していてもよい炭素原子数7〜30のアリールアルキル基又は置換基を有していてもよい炭素原子数2〜20の複素環基を表す。a及びbはそれぞれ独立に、0〜3である。〕
【請求項2】
前記光重合開始剤の含有量が前記黒色感光性樹脂組成物の全固形分に対して、1〜20重量%であることを特徴とする請求項1記載の黒色感光性樹脂組成物。
【請求項3】
前記重合禁止剤として、ハイドロキノン系重合禁止剤を少なくとも1種類以上含有することを特徴とする請求項1又は請求項2記載の黒色感光性樹脂組成物。
【請求項4】
前記重合禁止剤の含有量が前記黒色感光性樹脂組成物の全固形分に対して、0.01〜0.5重量%であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の黒色感光性樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の黒色感光性樹脂組成物を用いて形成したブラックマトリックスを具備することを特徴とするカラーフィルタ。
【請求項6】
前記ブラックマトリックスのパターン線幅が5μm以下であることを特徴とする請求項5記載のカラーフィルタ。

【図1】
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【公開番号】特開2013−114249(P2013−114249A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−263464(P2011−263464)
【出願日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】