説明

黒色水性インク組成物、それを用いたインクジェット記録方法および記録物

【課題】
耐光性及び耐オゾン性に優れ、ブラックインクとして普通紙をはじめ各種メディアに対しても優れた色相を有し、十分な発色濃度の確保と、目詰まりが少なく保存安定性にも優れた黒色水性インク組成物を提供する。
【解決手段】
水と、水溶性有機溶剤と、下記式(1):
【化1】


で表される化合物及びその塩からなる群から選ばれる少なくとも一種の黒色染料と、補色染料として少なくともC.I.ダイレクトレッド225を含み、より好ましくは、これにさらにC.I.ダイレクトイエロー86及び/又はC.I.ダイレクトイエロー132を含有してなる黒色水性インク組成物とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録に好適に用いることができ、保存安定性に優れ、しかも優れた色相を有する黒色水性インク組成物、そのインク組成物を用いたインクジェット記録方法、及びその記録方法によって記録された記録物に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方法は、細いノズルからインク組成物を小滴として吐出し、文字や画像を記録媒体表面に付着させて記録する公知の方法である。実用化されているインクジェット記録方法としては、(i) 電歪素子を用いて電気信号を機械信号に変換し、ノズルヘッド部分に貯えたインク組成物をこの機械信号によって断続的にノズルヘッドから吐出して記録媒体表面にインク組成物を付着させて文字や画像を記録する方法、(ii)ノズルヘッドの吐出部にごく近い一部分を急速に加熱し、ノズルヘッド部分に貯えたインク組成物中に泡を発生させ、その泡の体積膨張によってインク組成物をノズルヘッドから断続的に吐出して記録媒体表面にインク組成物を付着させて文字や画像を記録する方法等がある。
【0003】
インクジェット記録方法に用いられるインク組成物は、各種染料を水または有機溶剤、あるいはそれらの混合液に溶解させた溶液が一般的であり、しかもこのインク組成物には、万年筆及びボールペン等の筆記具用のインクに比べて高い安全性及び良好な印字特性が要求される。
【0004】
さらに近年、広告用の印刷物の作成にインクジェットプリンタが採用されるようになってきており、水性インク組成物を用いたインクジェット記録方法によって作成された印刷物は、室内のほかに室外にも設置される。したがって、太陽光及び/または種々の光源からの光、並びに大気中に含まれるオゾン、窒素酸化物、及び硫黄酸化物等の化学物質に晒されることにより、印刷物の画質が経時に劣化しないことが必要となっている。この要求に対し、イエロー、マゼンタ、シアン等のカラーインクに対する検討が種々行われてきている。ブラックインクに関しては、画像の中における使用率の低さやその染料濃度の高さにより、インク自身の堅牢度がカラーインクに比べて高いこと等から開発が遅れていた。しかし、ブラックインクは、画像中において画像のコントラストを得るといった観点から重要であり、カラーインクの特性向上と相まって、近年開発が加速されている。
【0005】
このような状況の下、染料を着色剤として用いたインク組成物の耐ガス性、特に耐オゾン性を改善可能な染料として、例えば、下記構造のジスアゾ系の染料が知られている(例えば、特許文献1及び特許文献2参照)。
【0006】
【化1】

【0007】
【化2】

【0008】
しかしながら、前記染料を用いたインク組成物でも耐光性及び耐オゾン性等が不十分であり、印刷物が光及びオゾン等にさらされることによって印刷物の画質が経時的に劣化、たとえば退色するという問題があった。
【0009】
【特許文献1】特開平3−229770号公報
【特許文献2】特開平3−91576号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述のとおり、耐光性及び耐オゾン性に優れた黒色水性インク組成物が求められている一方で、黒色水性インク組成物には、色相が所望する色相、例えばニュートラル(無彩色)であることや、十分な発色濃度が確保でき、目詰まりが少なく、インク組成物自身が優れた保存安定性を有していることも求められている。
【0011】
本発明は、耐光性及び耐オゾン性に優れ、長期間にわたって高品質な画像を保つことができる印刷物を作成することが可能であり、しかも、ブラックインクとして優れた色相を有する黒色水性インク組成物、さらに、十分な発色濃度の確保と普通紙に対しても優れた色相を有し、目詰まりが少なくインクとしての保存安定性にも優れた黒色水性インク組成物を提供するとともに、そのインク組成物を用いたインクジェット記録方法、及びそのインクジェット記録方法によって記録された記録物を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は各種黒色染料の色調調整のために、該黒色染料に種々の補色染料を添加した多数の黒色水性インク組成物を調製し、その特性について鋭意検討の結果、特に下記式(1)で表される化合物及び/またはその塩からなる黒色染料に特定の補色染料を含有させた黒色水性インク組成物が、黒色インクとしての優れた発色濃度を確保し、該補色染料の配合比の調整により、普通紙をはじめとして各種メディアに対しての色相が改良される上に、インク保存安定性や目詰まり信頼性も確保されて、前記本発明の課題が達成され得ることを見いだし本発明に到った。
【0013】
本発明の黒色水性インク組成物は、水と、水溶性有機溶剤と、下記式(1):
【化3】

(前記式(1)中、R1は置換基を有するフェニル基又は置換基を有するナフチル基を表し、R2は置換基を有するフェニレン基又は置換基を有するナフチレン基を表し、R3は少なくとも1つの二重結合及び置換基を有する5〜7員環の複素環基を表す。さらに前記R1〜R3における前記置換基は独立して、OH、SO3H、PO32、CO2H、NO2、C1〜4のアルキル基、置換基を有するアルキル基、C1〜4のアルコキシ基、置換基を有するアルコキシ基、置換基を有するアミノ基、及び置換基を有するフェニル基からなる群から選ばれる。)
で表される化合物及びその塩からなる群から選ばれる少なくとも一種の黒色染料と、補色染料として少なくともC.I.ダイレクトレッド225とを含んでなることを特徴とするものである。
【0014】
本発明の前記黒色水性インク組成物は、前記補色染料として、さらにC.I.ダイレクトイエロー86及び/又はC.I.ダイレクトイエロー132を含むことが好ましい。
また、本発明の前記黒色水性インク組成物は、前記式(1)で表される化合物が以下の式(2):
【化4】

(前記式(2)中、R1〜R9は独立して、H、OH、SO3H、PO32、CO2H、及びNO2からなる群から選ばれる基を表す。)
で表される化合物であることが好ましい。
【0015】
本発明の前記黒色水性インク組成物は、前記黒色染料が前記黒色水性インク組成物の総重量に対して0.5〜12.0重量%含まれていることが好ましい。
また、本発明の前記黒色水性インク組成物は、前記C.I.ダイレクトレッド225が前記黒色水性インク組成物の総重量に対して0.02〜3.0重量%含まれていることが好ましい。
【0016】
本発明の前記黒色水性インク組成物は、前記C.I.ダイレクトイエロー86及び/又はC.I.ダイレクトイエロー132が前記黒色水性インク組成物の総重量に対して0.03〜3.0重量%含まれていることが好ましい。
また、本発明の前記黒色水性インク組成物は、前記黒色染料と前記C.I.ダイレクトレッド225とを15:1〜10:3の重量比で含むことが好ましい。
【0017】
本発明の前記黒色水性インク組成物は、前記黒色染料と前記C.I.ダイレクトイエロ86及び/又はC.I.ダイレクトイエロー132とを12:1〜10:3の重量比で含むことが好ましい。
【0018】
本発明の前記黒色水性インク組成物は、前記黒色インク組成物中にノニオン系界面活性剤を含むことが好ましい。
また前記黒色水性インク組成物は、前記ノニオン系界面活性剤が、アセチレングリコール系界面活性剤であることが好ましい。
さらにまた前記黒色水性インク組成物は、前記ノニオン系界面活性剤を0.1〜5重量%含むことが好ましい。
【0019】
本発明の前記黒色水性インク組成物は、前記黒色インク組成物中に浸透促進剤を含むことが好ましい。
また本発明の前記黒色水性インク組成物は、前記浸透促進剤がグリコールエーテル類であることが好ましい。
【0020】
本発明のインクジェット記録方法は、前記黒色水性インク組成物を細いノズルより液滴として吐出させ、前記液滴を記録媒体に付着させることを特徴とするものである。
【0021】
本発明の記録物は、前記インクジェット記録方法によって印刷されたことを特徴とするものである。
【0022】
本発明の黒色水性インク組成物は、前記組成式(1)で表される特定の化学構造を有する黒色染料と、この黒色染料を用いたインクの色相を調整するため、少なくともC.I.ダイレクトレッド225を、またより好ましくは、さらにこれにC.I.ダイレクトイエロー86及び/又はC.I.ダイレクトイエロー132のそれぞれを特定量、補色染料として黒色水性インク組成物に含有させることによって、普通紙をはじめとして各種メディアに印刷した場合にも黒色水性インク組成物の色相を所望する色相に調整することができる。それに加えて目詰まりが少なく、十分な発色濃度が確保され、インクとしての保存安定性にも優れる。さらに本発明の黒色水性インク組成物を用いて印刷された画像は、耐光性及び耐オゾン性に優れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明者らは、前記組成式(1)で表される特定の化学構造を有する黒色染料と、この特定黒色染料の色相を調整するための特定の染料(補色染料)とを含む黒色水性インク組成物が、優れた色相を有し、かつ、この黒色水性インク組成物を用いることによって、耐光性及び耐オゾン性に優れた画像を有する印刷物が得られるのに加えて、インクの保存安定性及び目詰まり性に優れることを見出した。本発明は、これらの知見に基づいて完成したものである。
【0024】
本発明の黒色水性インク組成物(以下、「ブラックインク組成物」とも記す。)は、水、または水と水溶性有機溶剤からなる水性媒体中に、下記の式(1):
【化5】

で表される化合物及び式(1)で表される化合物の塩からなる群(以下、あわせて「式(1)の染料」という。)から選ばれる一種以上を含有するとともに、式(1)の染料の色相を調整するために、式(1)の染料以外の下記の特定の補色染料を必須成分として含むものである。
【0025】
前記式(1)中、R1は置換基を有するフェニル基または置換基を有するナフチル基を表す。さらに式(1)中、R2は置換基を有するフェニレン基または置換基を有するナフチレン基を表す。さらに式(1)中、R3は少なくとも1つの二重結合及び置換基を有する5〜7員環の複素環基を表す。さらにR1〜R3における前記置換基は独立して、OH、SO3H、PO32、CO2H、NO2、C1〜4のアルキル基、置換されたアルキル基、C1〜4のアルコキシ基、置換されたアルコキシ基、置換されたアミノ基、及び置換されたフェニル基からなる群から選ばれる基を表す。
【0026】
さらに前記の置換されたアルキル基は、OH、SO3H、PO32及びCO2H基からなる群から選ばれた1種以上の基で置換されたC1〜4のアルキル基から選ばれることが好ましい。また、前記の置換されたアルコキシ基は、OH、SO3H、PO32及びCO2Hからなる群から選ばれる1種以上の基で置換されたC1〜4のアルコキシ基から選ばれることが好ましい。また、前記の置換されたアミノ基は、OH、SO3H、PO32及びCO2Hからなる群から選ばれた1種以上の基で置換されたC1〜4のアルキル基を1つまたは2つ有するアミノ基からなる群から選ばれることが好ましい。また、前記の置換基されたフェニル基は、OH、SO3H、PO32、CO2H、C1〜4のアルキル基、及び置換されたC1〜4のアルキル基からなる群から選ばれる置換基を1つまたは2つ有するフェニル基からなる群から選ばれることが好ましい。
【0027】
さらに本発明に用いる前記式(1)で表される化合物としては、以下の式(2):
【化6】

(式(2)中、R1〜R9は独立して、H、OH、SO3H、PO32、CO2H、NO2及びNO2からなる群から選ばれる基を表す。)
で表される化合物であることが特に好ましい。
【0028】
本発明のインク組成物に用いる式(1)で表される化合物としては、以下の式(3)〜式(9)で表される化合物が特に好ましい。
【0029】
【化7】

【0030】
【化8】

【0031】
【化9】

【0032】
【化10】

【0033】
【化11】

【0034】
【化12】

【0035】
【化13】

【0036】
本発明のインク組成物に用いる前記式(1)又は式(2)で表される化合物は、好ましい方法を用いて適宜合成することができるが、例えば各化合物において3つのアゾ基によって結合されている4つの対応する各構造を有するビルディングブロックをアゾカップリングによって結合することによって合成することができる。すなわち、たとえば式(1)で表されるジヒドロキシナフタレン骨格部分をQで表すと、式(1)の化合物は、R3N=N−R2−N=N−Q−N=N−R1で表すことができる。この化合物を合成する一つの具体的な方法を模式的に示すと、まずR1−NH2をジアゾ化して得られたジアゾニウム塩をQHと反応させてR1−N=N−QHとする。次にCH3CON−R2−NH2をジアゾ化して得られる化合物とR1−N=N−QHをカップリングさせてR1−N=N−Q−N=N−R2NCOCH3を合成する。この化合物のアセチル基を除去してアミノ基としてからジアゾ化し、続いてR3HとカップリングさせてR1−N=N−Q−N=N−R2−N=N−R3が合成できる。
【0037】
さらに合成の具体例として前記式(3)で表される化合物の合成例を以下に説明する。
5−アセチルアミノ−2−アミノベンゼンスルホン酸(23.0g、0.10モル)を濃硝酸(30ml)を含む水(300ml)に添加した。亜硝酸ナトリウム(6.9g)を0〜5℃の温度で10分かけて加えた。60分後、過剰の亜硝酸を分解し、得られたジアゾニウム塩溶液を、5〜10℃、pH8〜9を維持しながらゆっくりと、水(500g)に溶解しておいた1,8−ジヒドロキシナフタレン−3,6−ジスルホン酸(32.0g、0.10モル)の溶液に添加した。この反応が定量的に進行したことは、HPLCにより確認できた。これによってカップリング生成物を含む溶液(染料ベースという)が得られた。
【0038】
次に5−ニトロ−2−アミノベンゼンスルホン酸(43.6g、0.20モル)を、濃塩酸(60g)を含む水(500g)に添加した。亜硝酸ナトリウム(13.8g)を0〜5℃の温度で15分かけて加えた。60分後、得られたジアゾニウム塩溶液を、5〜10℃、pH6〜7を維持しながら120分かけて、あらかじめテトラヒドロフラン(1000g)を添加しておいた前記染料ベースに添加した。5時間後、生成した沈殿物を集め、乾燥器で乾燥させると、暗赤色の固形物が得られた(55.3g)。この暗赤色の固形物を水(1000ml)に溶解させて、80℃まで加熱した。水酸化ナトリウム(10g)を加え、さらに8時間温度を80℃に保った。8時間後、濃塩酸を用いてpH7〜8に調節し、溶液を放冷して室温にまで下げた。この溶液をVisking(商標)チュービングを用いて透析(50μScm-1未満)してから、フィルタを用いて濾過し、乾燥器で乾燥させると47.2gの黒色固形物が得られた。
【0039】
前記で得られた黒色固形物をpH7〜9で水に再溶解させたが、pHの調整には水酸化リチウムを用いた。次いで亜硝酸ナトリウム(8.3g)を加え、10分間攪拌した。それから、この染料/亜硝酸塩の溶液を、濃塩酸(30g)を含む氷水(100ml)中に移した。放置すると温度は15〜25℃に上昇したが、そのまま3時間おいた。得られたジアゾジウム塩溶液を、15〜20℃、pH6〜7を維持しながら120分かけて、1−(4−スルホフェニル)−3−カルボキシ−5−ピラゾロン(17.9g、0.06モル)の溶液に加えた。このpHは水酸化リチウムを添加することによって維持した。次いでこの溶液をVisking(商標)チュービングを用いて透析(50μScm-1未満)し、さらにフィルタを用いて濾過し、乾燥器で乾燥させると60.0gの前記式(3)で表される化合物が黒色固形物として得られた。
【0040】
本発明のブラックインク組成物に用いるための前記式(1)で表される化合物の塩としては、式(1)で表される化合物がOH、SO3H、PO32基等のプロトン酸基を有す る場合に、そのプロトン酸基のアルカリ金属塩、例えばリチウム塩、ナトリウム塩、及びカリウム塩が好ましく、特にリチウム塩及びナトリウム塩が好ましい。式(1)で表される化合物のアルカリ金属塩を用いることによって、優れた保存安定性を有するブラックインク組成物を得ることができる。
【0041】
本発明のブラックインク組成物に用いる式(1)の染料は、それ自身では色相が完全にニュートラル、すなわち無彩色ではなく、一般に青味を帯びた色相を有する。本発明においては、ブラックインク組成物に式(1)の染料以外に補色染料として所定量のC.I.ダイレクトレッド225を、またより好ましくは、さらにこれにC.I.ダイレクトイエロー86及び/又はC.I.ダイレクトイエロー132を添加することによって式(1)の染料を用いたブラックインクの有する色相を調整する。一般には、ブラックインク組成物の色相は無彩色であることが好まれるため、色相を無彩色に調整することが特に好ましいが、所望により無彩色以外の色相に調整することもできる。本発明においては、式(1)の染料とC.I.ダイレクトレッド225を加え、また必要に応じてさらにこれにC.I.ダイレクトイエロー86及び/又はC.I.ダイレクトイエロー132を補色染料としてそれぞれ特定量添加、混合することによって、ブラックインク組成物の色相を所望の色相に調整する。このような染料を用いて得られる、本発明のブラックインク組成物は、印字物(記録物)の画像保存性に優れ、保存安定性が良好である上、十分な発色濃度が得られるという効果を奏する。また、この補色染料は、水性溶媒に容易に溶解できるため、インクの目詰まりが改善される上にインクの保存安定性が確保されるという効果がある。
【0042】
本発明のブラックインク組成物において用いられる、前記の式(1)の染料以外の補色染料は、式(1)の染料と異なる色相を有する、マゼンタ染料及びイエロー染料である。この式(1)の染料以外の前記各補色染料の所定量を前記の式(1)の染料に添加してブラックインク組成物と添加することにより、ブラックインク組成物を所望する色相にする。式(1)の染料が一般に青味を帯びているため、ブラックインク組成物の色相をニュートラルにするためには、前記マゼンタ染料及びイエロー染料をブラックインク組成物に添加して色相を調整する。
【0043】
次に本発明のブラックインク組成物の色相を調整するためにブラック染料に添加する補色染料のマゼンタ染料及びイエロー染料について説明する。
本発明において補色染料として用いるC.I.ダイレクトレッド225は、マゼンタ系
の色相を有し、一級アミノ基を有さず、しかもアンモニウム塩でなく、かつ、有機カチオ
ンとの塩でもない染料である。この染料は水溶性が室温において10wt%以上である。
この染料の水溶性は、室温で10重量%以上である。
【0044】
また、本発明において補色染料として所望によりC.I.ダイレクトレッド225と
ともに用いるC.I.ダイレクトイエロー86及び/又はC.I.ダイレクトイエロー
132も、前記のC.I.ダイレクトレッド225と同様、一級アミノ基を有さず、し
かもアンモニウム塩でなく、かつ、有機カチオンとの塩でもない染料である。なお、C.
I.ダイレクトイエロー132の室温での水溶性は、約8wt%であり、C.I.ダイレ
クトイエロー86の室温での水溶性は、約5wt%である。
【0045】
次に本発明のブラックインク組成物中に含有させる染料の量について説明する。本発明
のブラックインク組成物は、黒色染料として前記式(1)の染料の少なくとも一種を含む
ほか、色相を調整するために式(1)の染料以外に補色染料として、前記C.I.ダイレ
クトレッド225を含み、さらに必要に応じてC.I.ダイレクトイエロー86及び/又
はC.I.ダイレクトイエロー132を含むが、この場合、本発明のブラックインク組成
物に含有させる式(1)の染料以外の前記補色染料の量は、ブラックインク組成物の色相
を所望の色相に調整できるように適宜決定することができる。ただし、一般には以下に示
す量で染料を用いることが好ましい。
【0046】
本発明のブラックインク組成物中には、黒色染料として前記式(1)の染料の少なくとも一種を含有させるが、前記式(1)の染料が合計で、ブラックインク組成物の総重量に対して0.5〜12.0重量%含まれることが好ましく、1.0〜10.0重量%含まれることがさらに好ましい。ブラックインク組成物中に含まれる式(1)の染料の合計量が0.5重量%以上の場合、そのインク組成物を用いて記録媒体に画像等を記録したときに、充分良好な発色、及び高い画像濃度を得ることができる。また、ブラックインク組成物中に含まれる式(1)の染料の含有量を12.0重量%以下にすることにより、そのインク組成物の粘度を好ましい値に調節することができ、またインクジェットヘッドからのインク組成物の吐出量を安定化することができ、さらにインクジェットヘッドの目詰まりを防止することができる。
【0047】
本発明のブラックインク組成物に含有させるC.I.ダイレクトレッド225はブラックインク組成物の総重量に対して0.02〜3.0重量%含有させることが好ましく、0.1〜2.0重量%含有させることがさらに好ましい。
【0048】
本発明のブラックインク組成物に含有させるC.I.ダイレクトイエロー86及び/又
はC.I.ダイレクトイエロー132は、ブラックインク組成物の総重量に対して0.0
3〜3.0重量%含有させることが好ましく、0.1〜2.0重量%含有させることがさ
らに好ましい。
【0049】
また、本発明のブラックインク組成物に黒色染料として式(1)の染料の少なくとも一種とともに前記C.I.ダイレクトレッド225を含有させる際、ブラックインク組成物中に前記黒色染料と前記C.I.ダイレクトレッド225とを15:1〜10:3の重量比で含有させることが、ブラックインク組成物として好ましい色相が得られるという点から好ましい。
【0050】
さらに、本発明のブラックインク組成物に黒色染料として式(1)の染料の少なくとも
一種とともに前記C.I.ダイレクトイエロー86及び/又はC.I.ダイレクトイエロ
ー132を含有させる際、ブラックインク組成物中に前記黒色染料と前記C.I.ダイレ
クトイエロー86及び/又はC.I.ダイレクトイエロー132とを12:1〜10:3
の重量比で含有させることが、ブラックインク組成物として好ましい色相が得られるとい
う点から好ましい。
【0051】
なお、本発明のブラックインク組成物においては、前記式(1)の染料の少なくとも一種とともに含有させる補色染料としては、前記C.I.ダイレクトレッド225に加えてさらに前記C.I.ダイレクトイエロー86及び/又はC.I.ダイレクトイエロー132を含有させることが所望の色調に調整する上でより好ましい。その場合、ブラックインク組成物中における、式(1)の染料の少なくとも一種の黒色染料と、C.I.ダイレクトレッド225と、前記C.I.ダイレクトイエロー86及び/又はC.I.ダイレクトイエロー132との含有重量比は、得られるブラックインク組成物の所望とする色調に応じて、黒色染料:C.I.ダイレクトレッド225の重量比が15:1〜10:3であり、かつ、黒色染料:C.I.ダイレクトイエロー86及び/又はC.I.ダイレクトイエロー132の重量比が12:1〜10:3となる範囲内において適宜選択される。
【0052】
本発明のブラックインク組成物は前記式(1)の染料の少なくとも一種及び色相を調整するための補色染料(C.I.ダイレクトレッド225、さらにはC.I.ダイレクトイエロー86及び/又はC.I.ダイレクトイエロー132)を、水を含む溶媒中に溶解して製造することができる。本発明のインク組成物に用いる溶剤としては、水、または水と水溶性有機溶剤との混合物が好ましい。本発明に用いる水溶性有機溶剤としては、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド類;アセトン、ジアセトンアルコール等のケトンまたはケトアルコール類;テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類;エチレングリコール、プロピレングリコール、1,5−ペンタンジオール、トリエチレングリコール、ジエチレングリコール等のアルキレングリコール類;グリセリン;ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のポリアルキレングリコール類;メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、n−ブチルアルコール等のアルキルアルコール類;尿素;及び、2−ピロリドン、スルフォラン、ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン等の極性有機溶媒からなる群から選ばれる一種以上が例示できる。本発明に用いる水溶性有機溶剤は、常温において水より蒸気圧が小さいものが好ましい。
【0053】
インク組成物の記録媒体への浸透性を高めることができること、及びカラー印刷を行う場合に本発明のブラックインクとそれに隣接するカラーインクとが接する境界においてインクがにじみにくくなることによって非常に鮮明な画像が得られることから、浸透促進剤としてグリコールエーテル系水溶性有機溶剤を本発明のブラックインク組成物に含有させることが特に好ましい。本発明で用いるグリコールエーテル系水溶性有機溶剤としては、例えば、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル等が好ましい。
【0054】
本発明のブラックインク組成物にグリコールエーテル系水溶性有機溶剤を含有させる場合、ブラックインク組成物中に含まれるグリコールエーテル系水溶性有機溶剤の割合は特に限定されるものではなく、当業者は本発明の効果を損なわないように適宜その割合を定めることができる。ただし、本発明のブラックインク組成物は、グリコールエーテル系水溶性有機溶剤を3〜30重量%含有することが好ましく、5〜20重量%含有することがさらに好ましい。ブラックインク組成物に含まれるグリコールエーテル系水溶性有機溶剤の量を3重量%以上にすることによって記録媒体へのインクの浸透性を高めることができ、さらにカラー印刷においては、本発明のブラックインクによって形成された画像とカラーインクによって形成された画像との境界で、インクのにじみ(ブリーディング)を生じにくくすることができる。また、ブラックインク組成物に含まれるグリコールエーテル系水溶性有機溶剤の量を30重量%以下にすることによって、そのブラックインク組成物を用いて記録媒体上に形成した画像をにじみにくくできること加え、ブラックインク組成物が分離することなく均一な状態に保つことができる。ブラックインク組成物が分離する場合は、用いたグリコール系水溶性有機溶剤を水に溶解してブラックインク組成物を均一にするための溶解助剤を添加することが必要になり、溶解助剤の添加によってブラックインク組成物の粘度が高くなるため、インクジェットヘッドではブラックインク組成物の吐出が困難になる場合がある。なお、前記グリコールエーテル系水溶性有機溶剤は1種のみを用いること、及び2種以上を併用することができる。
【0055】
本発明のブラックインク組成物には、さらに界面活性剤を添加することができる。本発明に用いる界面活性剤としてはノニオン系界面活性剤が好ましい。ノニオン系界面活性剤を本発明のブラックインク組成物に添加すると、ブラックインク組成物が記録媒体に速やかに浸透かつ定着されやすくなり、しかもインクジェット方法により記録媒体上に吐出された一滴のインクによって形成される像の形状を真円に近いものにすることができることにより、得られる画像の画質を高めることができる。
【0056】
含有させるノニオン界面活性剤としては、例えばアセチレングリコール系界面活性剤を用いることが好ましいが、これに限定されるものではない。本発明のブラックインク組成物に用いるアセチレングリコール系界面活性剤としては、特に以下の式(10):
【化14】

(式(10)中、R1、R2、R3、及びR4はそれぞれ独立して、C1〜C6の直鎖、環式又は分枝アルキル鎖を表し、さらにA1O及びA2Oはそれぞれ独立してC2〜C3のオキシアルキレン鎖、例えばオキシエチレンまたはオキシプロピレン、またはC2〜C3のアルキレンオキサイドが重合または共重合して得られるポリオキシアルキレン鎖、例えばポリオキシエチレン鎖、ポリオキシプロピレン鎖、もしくはポリオキシエチレンプロピレン鎖を表す。また式中、n及びmはA1OまたはA2O単位、すなわちオキシアルキレンの繰り返し数を表し、0≦n<30、0≦m<30、及び0≦n+m<50を満たす数である。)で表される化合物を用いることが好ましい。このアセチレングリコール系界面活性剤としては、例えば、サーフィノール465(商標)、サーフィノール104(商標)(以上商品名、Air Products and Chemical社製)、オルフィンSTG(商標)、オルフィンE1010(商標)(以上商品名、日信化学工業株式会社製)を例示することができ、これらから選ばれる一種以上を本発明のブラックインク組成物に添加することが好ましい。
【0057】
本発明においては、ブラックインク組成物中に例えば前記の界面活性剤が、好ましくは0.1〜5重量%、さらに好ましくは0.5〜2重量%含まれるように、ブラックインク組成物に界面活性剤を添加するのがよい。ブラックインク組成物に対して界面活性剤を0.1重量%以上含有させることによって、記録媒体に対するインク組成物の浸透性を高くすることができる。またブラックインク組成物に含有される界面活性剤の量を5重量%以下にすることにより、ブラックインク組成物によって記録媒体上に形成された画像がにじみにくいという効果が得られる。
【0058】
本発明のブラックインク組成物には、さらに所望により、保湿剤、粘度調整剤、pH調整剤、及びブラックインク組成物に用いることができる他の添加剤を添加することができる。具体的には、アルギン酸ナトリウム等の水溶性オリゴマー及び水溶性ポリマー、水溶性樹脂、酸化防止剤、紫外線吸収剤、防腐剤、防かび剤、防錆剤などを本発明のインク組成物に添加することができる。当業者は本発明の効果を損なわない範囲で、選択された好ましい添加剤を好ましい量で用いることができる。
【0059】
本発明のブラックインク組成物は、そのpHが20℃において7.0〜9.0であることが好ましく、7.4〜8.5であることがさらに好ましい。20℃におけるインク組成物のpHを7.0以上にすることによってインクジェットヘッドの共析メッキが剥離することを防止することができ、かつインクジェットヘッドからのインク組成物の吐出特性を安定化することができる。また、ブラックインク組成物のpHを20℃において9.0以下にすることによって、ブラックインク組成物が接触する各種の部材、たとえばインクカートリッジやインクジェットヘッドを構成する部材が劣化されることを防ぐことができる。
【0060】
本発明においては、ブラックインク組成物にpH調整剤を添加することによって、20
℃におけるブラックインク組成物のpHを好ましい値に調節することが好ましい。本発明において用いることができるpH調整剤としては、例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、及び水酸化カリウムなどのアルカリ金属水酸化物、トリエタノールアミン、ジエタノールアミン、及びトリプロパノールアミンなどのアミン類を用いることが好ましい。ブラックインク組成物へのpH調整剤の添加量は、ブラックインク組成物のpHを上述の好ましい範囲に入れることができる量であり、その量は適宜定めることができる。
【0061】
本発明のブラックインク組成物を調製するためには、たとえば、ブラックインク組成物に含有されるべき各成分を充分に混合して均一な溶液にした後、平均目開き0.8μmのメンブランフィルターを用いて加圧濾過したのち、減圧下で脱泡する方法を用いることができる。
【0062】
本発明のブラックインク組成物は一般の筆記具用、記録計用、ペンプロッター用等に使用することができるが、インクジェット記録方法に用いることが特に好ましい。本発明のブラックインク組成物を用いることができるインクジェット記録方法は、ブラックインク組成物を細いノズルから液滴として吐出させ、その液滴を記録媒体に付着させるいかなる記録方法も含む。本発明のブラックインク組成物を用いることができるインクジェット記録方法の具体例を以下に説明する。
【0063】
第一の方法は静電吸引方式とよばれる方法である。静電吸引方式は、ノズルとノズルの前方に配置された加速電極との間に強電界を印加し、ノズルから液滴状のインクを連続的に噴射させ、そのインク滴が偏向電極間を通過する間に印刷情報信号を偏向電極に与えることによって、インク滴を記録媒体上に向けて飛ばしてインクを記録媒体上に定着させて画像を記録する方法、または、インク滴を偏向させずに、印刷情報信号に従ってインク滴をノズルから記録媒体上にむけて噴射させることにより画像を記録媒体上に定着させて記録する方法である。本発明のインク組成物はこの静電吸引方式による記録方法に用いることが好ましい。
【0064】
第二の方法は、小型ポンプによってインク液に圧力を加えるとともに、インクジェットノズルを水晶振動子等によって機械的に振動させることによって、強制的にノズルからインク滴を噴射させる方法である。ノズルから噴射されたインク滴は、噴射されると同時に帯電され、このインク滴が偏向電極間を通過する間に印刷情報信号を偏向電極に与えてインク滴を記録媒体に向かって飛ばすことにより、記録媒体上に画像を記録する方法である。本発明のインク組成物はこの記録方法に用いることが好ましい。
【0065】
第三の方法は、インク液に圧電素子によって圧力と印刷情報信号を同時に加え、ノズルからインク滴を記録媒体に向けて噴射させ、記録媒体上に画像を記録する方法である。本発明のインク組成物はこの記録方法に用いることが好ましい。
【0066】
第四の方法は、印刷信号情報に従って微小電極を用いてインク液を加熱して発泡させ、この泡を膨張させることによってインク液をノズルから記録媒体に向けて噴射させて記録媒体上に画像を記録する方法である。本発明のインク組成物はこの記録方法に用いることが好ましい。
【0067】
本発明の黒色水性インク組成物は、上述した4つの方法を含むインクジェット記録方式による画像記録方法を用いて記録媒体上に画像を記録する場合に用いるブラックインク組成物として特に好ましい。本発明のブラックインク組成物を用いて記録された記録物は優れた画質を有し、さらに耐光性及び耐オゾン性にも優れている。
【実施例】
【0068】
以下に実施例に基づいて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0069】
〔ブラックインク組成物の調製〕
以下の表1に示した配合比に基づき、各成分を混合して均一な溶液とした後、得られた溶液を平均目開き0.8μmのメンブランフィルターを用いて加圧濾過して実施例1、2及び比較例1、2の各ブラックインク組成物を得た。
【0070】
【表1】

【0071】
なお、表1中のブラック染料1は、以下の式(3):
【化15】

で表される化合物のリチウム塩である。このブラック染料1は、前記式(1)及び式(2)で表される化合物のアルカリ金属塩の例である。
また、比較例2で使用するマゼンタ染料1は以下の式(11)で表される化合物である。このマゼンタ染料1及びC.I.ダイレクトイエローC.I.173は、共に水溶性基のカウンターイオンがアンモニウムイオンであり、また、その水溶性が室温で約5wt%程度の染料である。
【化16】

【0072】
〔試験用記録物の印刷〕
インクジェットプリンタ Stylus Color 880 (商標)(商品名、セイコーエプソン株式会社製)を用いて印刷試験を行った。このプリンタ用のブラックインク専用カートリッジに実施例1、2及び比較例1、2の各ブラックインク組成物をそれぞれ充填し、EPSON写真用紙(商品名、セイコーエプソン株式会社製、型番:KA420PSK)に印刷を行って記録物を得た。印刷は、得られた画像のOD(Optical Density)が0.9〜1.1の範囲に入るようにDutyを調整して行った。得られた記録物を室温下で暗所に1日静置した後、記録された画像の耐光性及び耐ガス性(耐オゾン性)の各試験を以下のように行った。また、得られた記録物を用いて、画像の色相の測定も行った。なお、色相に関しては、PREMIUM MULTIPURPOSE 4024 PAPER (商品名、XEROX社製)を普通紙の一例として併せて評価した。
【0073】
〔耐光性試験〕
耐光性試験は、蛍光灯耐光性試験機SFT−II(商品名、スガ試験機株式会社製)を使用し、温度が24℃、湿度が60RH%、照度70000luxの条件下で、前記記録物に21日間、光照射することによって行った。反射濃度計Spectrolino(商標)(商品名、GRETAG社製)を使用して、光照射前及び光照射後の記録物の画像のOD値を測定し、下記計算式によりRODを算出した。OD値の測定は、光源がD50、光源フィルタなし、絶対白を白色標準とし、視野角は2°で行った。
ROD(%)=(Dn/Do)×100
(式中、Dnは光照射試験終了後の画像のOD値、Doは光照射試験開始前の画像のOD値)
前記式から算出して得られた測定値(OD値)から、光照射後の各記録物の画像の光学濃度残存率(Relict Optical Density:ROD)を計算によって求めた。
【0074】
得られたRODに基づき、以下の判定基準を用いて試験結果をA〜Dにランク付けすることによって記録物の耐光性を評価した。
A:RODが80%以上。
B:RODが60%以上80%未満
C:RODが40%以上60%未満
D:RODが40%未満
RODの値が高い方が光照射による画像の劣化が少なく好ましい。得られた結果を表2に示す。
【0075】
〔耐ガス(耐オゾン)試験〕
オゾンウェザーメーターOMS−H型(商品名、スガ試験機株式会社製)を使用し、温度が24℃、湿度が60%RH、及びオゾン濃度が10ppmの条件下で、前記記録物を24時間オゾンに曝露した。反射濃度計 Spectrolino(商標)(商品名、GRETAG社製)を使用して、オゾン曝露前後の記録物のOD値(Optical Density)を測定した。その測定は、光源がD50、光源フィルタなしで、絶対白を白色標準とし、視野角は2°という条件で行った。前記耐光性試験における計算方法と同じ計算方法、及び前記耐光性試験における判定基準と同じ判定基準を用いて、得られた結果をA〜Dにランク付けすることにより記録物の耐オゾン性を評価した。得られた評価結果を前記耐光性試験結果とともに表2に示した。RODの値が高いほうがオゾン曝露による画像の劣化が少ない。
【0076】
【表2】

表2に示した結果からわかるように、耐光性及び耐オゾン性に関しては本発明のブラックインク組成物(実施例1、2のインク組成物)も従来のブラックインク組成物(比較例1、2のインク組成物)もともに良好である。
【0077】
〔インクの保存性試験〕
前記実施例1、2及び比較例1、2の各ブラックインク組成物を70℃に6日間保持することにより保存性試験を行った。次に、試験を行う前のブラックインク組成物、及び前記試験を行った後のブラックインク組成物を、それぞれ超純水を用いて体積で2000倍に希釈し、分光光度計を使用して吸光度を測定した。保存試験前のインク組成物の可視域での最大吸収波長(λmax)における吸光度を保存試験前後で比較し、保存試験による前記吸光度の変化を「残存率」として以下の計算式:
残存率(%)=70℃で6日間保持した後のインクの吸光度/初期のインクの吸光度 ×100
を用いて計算した。前記式で算出される「残存率」が高いほどそのインクの保存安定性が良好であることを意味する。
得られた「残存率」の結果を表3に示す。なお、このときのインク保存性は下記のようにランク分けして評価した。
A:残存率が95%以上
B:残存率が90%以上、95%未満
C:残存率が85%以上、90%未満
D:残存率が85%未満
【0078】
【表3】

表3からわかるように、ブラック染料1に加え、補色染料として少なくともC.I.ダイレクトレッド225を含むブラックインク組成物(実施例1及び2のブラックインク組成物)の保存安定性は良好であるが、同じブラック染料1にC.I.ダイレクトレッド225や、C.I.ダイレクトイエロー86又はC.I.ダイレクトイエロー132以外の補色染料を含有させると(比較例2のブラックインク組成物)インクの保存安定性は大きく低下する。
なお、組成中に補色染料を含まない比較例1のブラックインク組成物では実施例のインク組成物と同様にインク保存性は良好であった。
【0079】
〔ブラックインク組成物の色相〕
ブラックインク組成物の色相は、目視による画像の色相の評価を行い、最も無彩色に感じられるものを「最も好ましい色相」、ごくわずかにシアン味などの色味が感じられるものを「好ましい色相」とし、シアン、緑、紫の色が明らかに感じられるものをそれぞれ「シアン味」、「緑味」、「紫味」と表現した。得られた結果を表4に示す。
【0080】
【表4】

表4からわかるように、色相に関しては本発明のブラックインク組成物(実施例1、及び2)も、補色染料を含む比較例2のブラックインク組成物も、目視評価において少なくとも好ましい色相を有している。
【0081】
〔ブラックインク組成物の目詰まり性〕
前記のインクカートリッジを用い、10分間連続して印刷し、全てのノズルが正常に吐出していることを確認後、インクカートリッジを装着したまま、ノズルでの乾燥状態を加速するために、記録ヘッドをヘッドキャップから外した状態で、40℃の環境に2週間放置した。放置後、全ノズルが初期と同等に吐出するまでクリーニング動作を繰り返し、以下の判断基準により、回復しやすさを評価し、その結果を表5に示した。
A:1〜3回のクリーニング操作で初期と同等に回復。
B:4〜6回のクリーニング操作で初期と同等に回復。
C:7〜9回のクリーニング操作で初期と同等に回復。
D:10〜12回のクリーニング操作で初期と同等に回復。
【0082】
【表5】

表5からわかるように、本発明のブラックインク組成物(実施例1及び2)の目詰まり性は、補色染料としてC.I.ダイレクトレド225を含有しない比較例2のブラックインク組成物に比べて良好である。
なお、比較例1の目詰まり性が、実施例1及び2より良好なのは、補色染料(マゼンタ染料1及びC.I.ダイレクトイエロー173)の固形分が含まれていないためであり、比較例2の諸特性が悪いのは補色染料(マゼンタ染料1及びC.I.ダイレクトイエロー173)の水溶性が低いことと、補色染料の発色性が悪い分、固形分も多くなっているためである。
【0083】
前記実施例及び比較例からもわかるように、ブラック染料1に添加される色相の調整のための補色染料として、C.I.ダイレクトレッド225、及びC.I.ダイレクトイエロー86またはC.I.ダイレクトイエロー132を用いた本発明のブラックインク組成物(実施例のインク組成物)は、少なくとも補色染料としてC.I.ダイレクトレッド225が添加されていないブラックインク組成物(比較例のインク組成物)よりも、画像保存性、インク保存性、色相、目詰まり性の総合的な観点において優れる。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明のブラックインク組成物は、普通紙をはじめ各種メディアに対しても優れた色相を有し、目詰まりが少なくて、しかも耐光性、耐オゾン性がよく保存安定性に優れていて、特にインクジェット記録方法に用いた場合に有用である外、一般の筆記具用、記録計用、ペンプロッター用等にも使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水と、水溶性有機溶剤と、下記式(1):
【化1】

(前記式(1)中、R1は置換基を有するフェニル基又は置換基を有するナフチル基を表し、R2は置換基を有するフェニレン基又は置換基を有するナフチレン基を表し、R3は少なくとも1つの二重結合及び置換基を有する5〜7員環の複素環基を表す。さらに前記R1〜R3における前記置換基は独立して、OH、SO3H、PO32、CO2H、NO2、C1〜4のアルキル基、置換基を有するアルキル基、C1〜4のアルコキシ基、置換基を有するアルコキシ基、置換基を有するアミノ基、及び置換基を有するフェニル基からなる群から選ばれる。)
で表される化合物及びその塩からなる群から選ばれる少なくとも一種の黒色染料と、補色染料として少なくともC.I.ダイレクトレッド225とを含んでなる黒色水性インク組成物。
【請求項2】
前記補色染料として、さらにC.I.ダイレクトイエロー86及び/又はC.I.ダイレクトイエロー132を含むことを特徴とする請求項1に記載の黒色水性インク組成物。
【請求項3】
前記式(1)で表される化合物が以下の式(2):
【化2】

(前記式(2)中、R1〜R9は独立して、H、SO3H、PO32、CO2H及びNO2からなる群から選ばれる基を表す。)
で表される化合物であることを特徴とする請求項1または2に記載の黒色水性インク組成物。
【請求項4】
前記黒色染料が前記黒色水性インク組成物の総重量に対して0.5〜12.0重量%含まれていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の黒色水性インク組成物。
【請求項5】
前記C.I.ダイレクトレッド225が前記黒色水性インク組成物の総重量に対して0.02〜3.0重量%含まれていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の黒色水性インク組成物。
【請求項6】
前記C.I.ダイレクトイエロー86及び/又はC.I.ダイレクトイエロー132が前記黒色水性インク組成物の総重量に対して0.03〜3.0重量%含まれていることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の黒色水性インク組成物。
【請求項7】
前記黒色染料と前記C.I.ダイレクトレッド225とを15:1〜10:3の重量比で含むことを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の黒色水性インク組成物。
【請求項8】
前記黒色染料と前記C.I.ダイレクトイエロ86及び/又はC.I.ダイレクトイエロー132とを12:1〜10:3の重量比で含むことを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の黒色水性インク組成物。
【請求項9】
前記黒色インク組成物中にノニオン系界面活性剤を含むことを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の黒色水性インク組成物。
【請求項10】
前記ノニオン系界面活性剤が、アセチレングリコール系界面活性剤であることを特徴とする請求項9に記載の黒色水性インク組成物。
【請求項11】
前記ノニオン系界面活性剤を0.1〜5重量%含むことを特徴とする請求項9または10に記載の黒色水性インク組成物。
【請求項12】
前記黒色インク組成物中に浸透促進剤を含むことを特徴とする請求項1〜11のいずれか1項に記載の黒色水性インク組成物。
【請求項13】
前記浸透促進剤がグリコールエーテル類であることを特徴とする請求項12に記載の黒色水性インク組成物。
【請求項14】
請求項1〜13のいずれか1項に記載の黒色水性インク組成物を細いノズルより液滴として吐出させ、前記液滴を記録媒体に付着させることを特徴とするインクジェット記録方法。
【請求項15】
請求項14に記載のインクジェット記録方法によって印刷されたことを特徴とする記録物。


【公開番号】特開2006−176585(P2006−176585A)
【公開日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−369549(P2004−369549)
【出願日】平成16年12月21日(2004.12.21)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】