説明

黒色系インク組成物、インクセット及び画像形成方法

【課題】色相の変動が抑制され、耐ブロッキング性及び耐擦性に優れた画像を形成できる黒色系インク組成物を提供する。
【解決手段】カーボンブラック顔料と、マゼンタ顔料及びシアン顔料から選ばれる少なくとも1種の着色顔料と、水溶性の重合性化合物と、重合開始剤と、水と、を含有し、前記カーボンブラック顔料の平均一次粒子径が20nm以上35nm未満であり、前記カーボンブラックの含有比率が、全顔料の総量に対して70質量%以下であり、全顔料の総量が黒色系インク組成物の総量に対して4質量%以下であるインクジェット記録用の黒色系インク組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、黒色系インク組成物、インクセット及び画像形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット技術は、オフィスプリンタ、ホームプリンタ等の分野においてカラー画像を記録する画像記録方法として適用されてきた。インクジェットに用いられるインク成分の着色剤として顔料が広く用いられており、中でも黒色インクにはカーボンブラックが用いられることが多い。
【0003】
カーボンブラック顔料を用いたインク組成物においては、カーボンブラック顔料に加えて着色顔料を併用することで黒インクの色相改良が可能とされている(例えば、特許文献1参照)。
また、インクジェット記録用インクとして、紫外線硬化型顔料インクが開発されている(例えば、特許文献2及び3参照)。紫外線硬化型顔料インクは、基本的に、顔料、重合性化合物、及び重合開始剤を含む。紫外線硬化型顔料インクが黒色系の場合、顔料としては一般にカーボンブラック顔料が用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3859109号公報
【特許文献2】特開2004−027211号公報
【特許文献3】特開2005−178331号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、カーボンブラック顔料、重合性化合物、及び重合開始剤を含む水性インクでは、形成された画像において、耐ブロッキング性や耐擦性が低下する場合や、色相変動が大きくなる場合がある。
本発明は上記に鑑みなされたものであり、色相変動が抑制され、耐ブロッキング性及び耐擦性に優れた画像を形成できる黒色系インク組成物、インクセット、及び画像形成方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、カーボンブラック顔料、重合性化合物、重合開始剤、及び水を含む黒色系インク組成物に対し、マゼンタ顔料及びシアン顔料から選ばれる少なくとも1種の着色顔料を含有させること、並びに、カーボンブラック顔料の平均一次粒子径、全顔料中におけるカーボンブラック顔料の含有比率、及びインク組成物中における全顔料の総量を特定することにより、画像の色相変動が抑制され、画像の耐ブロッキング性及び耐擦性が向上するとの知見を得、この知見に基づき本発明を完成させた。
【0007】
即ち、前記課題を解決するための具体的手段は以下の通りである。
<1> カーボンブラック顔料と、マゼンタ顔料及びシアン顔料から選ばれる少なくとも1種の着色顔料と、水溶性の重合性化合物と、重合開始剤と、水と、を含有し、前記カーボンブラック顔料の平均一次粒子径が20nm以上35nm未満であり、前記カーボンブラック顔料の含有比率が全顔料の総量に対して70質量%以下であり、全顔料の総量が黒色系インク組成物の総量に対して4質量%以下であるインクジェット記録用の黒色系インク組成物。
<2> 前記カーボンブラック顔料及び前記少なくとも1種の着色顔料は、塩生成基を有する樹脂でその表面の少なくとも一部が被覆されている<1>に記載の黒色系インク組成物。
<3> 前記水溶性の重合性化合物は、多官能の重合性化合物及び(メタ)アクリルアミド構造を有する単官能の重合性化合物を含む<1>又は<2>に記載の黒色系インク組成物。
<4> 前記塩生成基を有する樹脂は、架橋剤によって架橋されている<2>又は<3>に記載の黒色系インク組成物。
<5> 前記塩生成基を有する樹脂は、芳香環構造及び脂環構造の少なくとも1種を有する<2>〜<4>のいずれか1項に記載の黒色系インク組成物。
【0008】
<6> 前記重合開始剤は、下記一般式(1)で表される化合物である<1>〜<5>のいずれか1項に記載の黒色系インク組成物。
【0009】
【化1】

【0010】
〔一般式(1)中、mおよびnは、それぞれ独立に0以上の整数を表し、m+nは0〜3の整数を表す。〕
【0011】
<7> アセチレングリコール系界面活性剤をさらに含む<1>〜<6>のいずれか1項に記載の黒色系インク組成物。
<8> 全顔料の総量が黒色系インク組成物の総量に対して1.8質量%以上である<1>〜<7>のいずれか1項に記載の黒色系インク組成物。
<9> 前記カーボンブラック顔料の含有比率が全顔料の総量に対して50質量%以上である<1>〜<8>のいずれか1項に記載の黒色系インク組成物。
【0012】
<10> <1>〜<9>のいずれか1項に記載の黒色系インク組成物と、前記黒色系インク組成物と接触することで凝集体を形成可能な凝集剤を含む処理液と、を含むインクジェット記録用のインクセット。
<11> 前記凝集剤は酸性化合物である<10>に記載のインクセット。
【0013】
<12> <10>又は<11>に記載のインクセットが用いられ、前記処理液を記録媒体に付与する処理液付与工程と、前記黒色系インク組成物を記録媒体に付与するインク付与工程と、前記処理液付与工程及び前記インク付与工程によって形成された画像に活性エネルギー線を照射し、前記画像を硬化させる硬化工程と、を有する画像形成方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、色相変動が抑制され、耐ブロッキング性及び耐擦性に優れた画像を形成できる黒色系インク組成物、インクセット、及び画像形成方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではなく、その趣旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
本明細書において「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
【0016】
≪黒色系インク組成物≫
本発明の黒色系インク組成物(以下、単に「インク組成物」や「インク」ともいう)は、インクジェット記録用の黒色系インク組成物であり、カーボンブラック顔料と、マゼンタ顔料及びシアン顔料から選ばれる少なくとも1種の着色顔料と、水溶性の重合性化合物と、重合開始剤と、水と、を含有し、前記カーボンブラック顔料の平均一次粒子径が20nm以上35nm未満であり、前記カーボンブラック顔料の含有比率が、全顔料の総量に対して70質量%以下であり、全顔料の総量が黒色系インク組成物の総量に対して4質量%以下である。
本発明のインク組成物によれば、色相変動が抑制され、ブロッキングが抑制され、耐擦性に優れた画像を形成することができる。
かかる効果が得られる理由は、以下のように推測される。
【0017】
一般に、重合性化合物、重合開始剤、及び水を含むインク組成物にカーボンブラック顔料を含有させると、カーボンブラック顔料により重合(硬化)が阻害される傾向がある。この原因は、カーボンブラック顔料は、短波長領域(例えば紫外線領域)における吸光度が、該短波長領域よりも長波長の領域における吸光度と比較して高いため、及び、カーボンブラック顔料がラジカルを吸着し易いためである。更に、本発明者の検討により、カーボンブラック顔料の平均一次粒子径が小さくなるにつれ、短波長領域における吸光度がより上昇し、重合がより阻害されやすくなることがわかった。
インク組成物において重合が阻害されると、形成された画像において、耐擦性が低下したり、ブロッキングが発生しやすくなる。
ここで、ブロッキングとは、記録媒体上に形成された画像の上に、他の記録媒体を重ねた場合(当該他の記録媒体に画像が形成されており、画像同士を接触させる場合を含む)に、該画像と他の記録媒体とが接着され、他の記録媒体を剥離した際に、画像が損傷を受ける現象を指す。
【0018】
上記重合の阻害は、インク組成物に、カーボンブラック顔料に加えてマゼンタ顔料及びシアン顔料から選ばれる少なくとも1種の着色顔料を含有させることにより、ある程度改善する傾向があると考えられる。
しかし、本発明者の検討により、インク組成物にカーボンブラック顔料とマゼンタ顔料及びシアン顔料から選ばれる少なくとも1種の着色顔料とを含有させた系では、カーボンブラック顔料の平均一次粒子径とカーボンブラック顔料の含有比率との関係や、全顔料の総量によっては、画像の色相変動が起こりやすくなることがわかった。
ここで、色相変動とは、画像の網点密度を変化させたときに、網点密度の変化に伴って色相が変化する現象を指す。
該色相変動が大きいと、所望とする、黄色味の少ない黒色や黄色味の少ない中間色調(グレー色調など)が得られない場合がある。
また、カーボンブラック顔料の平均一次粒子径が大きくなるにつれ、重合が阻害されにくくはなるもののカーボンブラック顔料の粒子径の大きさ自体に起因して、ブロッキングが発生し易くなる傾向があることも明らかとなった。
【0019】
そこで本発明のインク組成物では、カーボンブラック顔料、重合性化合物、重合開始剤、及び水を含む黒色系インク組成物に対し、マゼンタ顔料及びシアン顔料から選ばれる少なくとも1種の着色顔料を含有させること、カーボンブラック顔料の平均一次粒子径を20nm以上35nm未満と特定すること、並びに、この平均一次粒子径20nm以上35nm未満のカーボンブラック顔料の含有比率及び全顔料の総量を上記範囲とすることにより、該インク組成物により形成された画像において、色相変動が抑制され、耐ブロッキング性及び耐擦性が向上する。
【0020】
<カーボンブラック顔料>
本発明の黒色系インク組成物は、カーボンブラック顔料の少なくとも1種を含む。
前記カーボンブラック顔料の平均一次粒子径は、前述のとおり、20nm以上35nm未満である。
前記平均一次粒子径が20nm未満であると、短波長領域における吸収が大きくなりすぎる結果、画像の耐擦性及び耐ブロッキング性が低下する。
前記平均一次粒子径が35nm以上であると、画像の色相変動が大きくなり、耐ブロッキング性が低下する。
本発明において平均一次粒子径は、日本電子(株)社製の透過型電子顕微鏡TEM2010(加圧電圧200kV)を用いて撮影された画像から、任意に選択した一次粒子1000個の粒子径(面積円相当径)を測定してその算術平均として算出される。すなわち、本発明の平均一次粒子径は、面積円相当径の算術平均粒子径を表す。
【0021】
前記カーボンブラック顔料の平均一次粒子径は、本発明の効果をより効果的に奏する観点から、22nm〜33nmがより好ましい。
【0022】
また、本発明の黒色系インク組成物において、前記カーボンブラック顔料の体積平均二次粒子径には特に限定はないが、色相の観点から、70nm〜140nmであることが好ましい。なお、体積平均二次粒径径は、ナノトラック粒度分布測定装置UPA−EX150(日機装(株)製)によって測定することができる。
【0023】
前記カーボンブラック顔料のDBP吸収量は特に制限されないが、色調と印画濃度の観点から、30ml/100g以上200ml/100g以下であることが好ましく、50ml/100g以上150ml/100g以下であることがより好ましい。
尚、DBP吸収量は、JIS K6221 A法によって測定される。
【0024】
また前記カーボンブラック顔料のBET比表面積は特に制限されないが、印画濃度と保存安定性の観点から、30m/g以上450m/g以下であることが好ましく、200m/g以上400m/g以下であることがより好ましい。
【0025】
カーボンブラック顔料としては、例えば、コンタクト法、ファーネス法、サーマル法などの公知の方法によって製造されたものが挙げられる。
具体例としては例えば、Raven1250、Raven1200、Raven1190 ULTRA、Raven1170、Raven1255、Raven1080ULTRA、Raven1060ULTRA、Raven1040、Raven1035、Raven1020、Raven1000、Raven900、Raven890、Raven850、Raven780ULTRA(以上、コロンビアン・カーボン社製)、Regal400R、Regal330R、Regal660R、Mogul L、Black Pearls L、(以上、キャボット社製)、Color Black S160、Color Black S170、Printex35、Printex U、Printex V、Printex140U、Printex140V、Printex300、Special Black 5、Special Black 4A、Special Black4、Special Black550、Special Black 350、NEROX3500(以上、エボニックデグッサ社製)、No.33、No.40、No.45、No.47、No.52、MA7、MA8、MA11、MA77、MA100、MA230、MA600(以上、三菱化学社製)等を挙げることができる。但し、これらに限定されるものではない。
【0026】
上記のカーボンブラック顔料は、1種単独でも、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
本発明のインク組成物におけるカーボンブラック顔料の含有比率(2種以上の場合には合計の含有比率)は特に制限されないが、本発明の効果をより効果的に奏する観点より、0.5〜4質量%であることが好ましく、0.8〜3.5質量%であることがより好ましい。
【0027】
<着色顔料>
本発明のインク組成物は、前記カーボンブラック顔料に加えて、マゼンタ顔料及びシアン顔料の少なくとも1種の着色顔料を含む。
前記マゼンタ顔料及び前記シアン顔料は、目的に応じて公知の有機顔料から適宜選択することができる。本発明に用いられる有機顔料の具体的な例を以下に示す。
【0028】
マゼンタ顔料としては、例えば、C.I.ピグメント・レッド2、C.I.ピグメント・レッド3、C.I.ピグメント・レッド5、C.I.ピグメント・レッド6、C.I.ピグメント・レッド7、C.I.ピグメント・レッド15、C.I.ピグメント・レッド16、C.I.ピグメント・レッド48:1、C.I.ピグメント・レッド53:1、C.I.ピグメント・レッド57:1、C.I.ピグメント・レッド122、C.I.ピグメント・レッド123、C.I.ピグメント・レッド139、C.I.ピグメント・レッド144、C.I.ピグメント・レッド149、C.I.ピグメント・レッド166、C.I.ピグメント・レッド177、C.I.ピグメント・レッド178、C.I.ピグメント・レッド222、C.I.ピグメントバイオレット19等が挙げられる。
これらの中でも、密着性と耐擦性の観点から、C.I.ピグメント・レッド122、C.I.ピグメント・レッド202、C.I.ピグメント・レッド209、C.I.ピグメントバイオレット19から選ばれる少なくとも1種であることが好ましく、C.I.ピグメント・レッド122、C.I.ピグメントバイオレット19が特に好ましい。
【0029】
シアン顔料としては、例えばC.I.ピグメント・ブルー15、C.I.ピグメント・ブルー15:2、C.I.ピグメント・ブルー15:3、C.I.ピグメント・ブルー15:4、C.I.ピグメント・ブルー16、C.I.ピグメント・ブルー60、C.I.ピグメント・グリーン7、及び米国特許4311775号明細書に記載のシロキサン架橋アルミニウムフタロシアニン等が挙げられる。
これらの中でも、密着性と耐擦性の観点から、C.I.ピグメント・ブルー15:3、C.I.ピグメント・ブルー15:4、C.I.ピグメント・ブルー16から選ばれる少なくとも1種であることが好ましく、C.I.ピグメント・ブルー15:3、C.I.ピグメント・ブルー15:4から選ばれる少なくとも1種であることがより好ましい。
【0030】
また、本発明のインク組成物は、マゼンタ顔料及びシアン顔料の少なくとも1種に加え、必要に応じイエロー顔料の少なくとも1種を含んでいてもよい。
イエロー顔料としては、例えば、C.I.ピグメント・オレンジ31、C.I.ピグメント・オレンジ43、C.I.ピグメント・イエロー12、C.I.ピグメント・イエロー13、C.I.ピグメント・イエロー14、C.I.ピグメント・イエロー15、C.I.ピグメント・イエロー17、C.I.ピグメント・イエロー74、C.I.ピグメント・イエロー93、C.I.ピグメント・イエロー94、C.I.ピグメント・イエロー128、C.I.ピグメント・イエロー138、C.I.ピグメント・イエロー151、C.I.ピグメント・イエロー155、C.I.ピグメント・イエロー180、C.I.ピグメント・イエロー185等が挙げられる。
これらの中でも、密着性と耐擦性の観点から、C.I.ピグメント・イエロー74、C.I.ピグメント・イエロー155、C.I.ピグメント・イエロー185から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0031】
本発明においては、色相変動の抑制並びに密着性及び耐擦性の向上の観点から、着色顔料としてマゼンタ顔料の少なくとも1種とシアン顔料の少なくとも1種とを含むことが好ましい。
【0032】
本発明において、前記カーボンブラック顔料の含有比率は、全顔料の総量に対して70質量%以下である。前記カーボンブラック顔料の含有比率が70質量%を超えると、画像の色相変動が大きくなり、また、耐ブロッキング性及び耐擦性が低下する。
また、本発明において、前記カーボンブラック顔料の含有比率の下限には特に限定はないが、色相や光学濃度(OD)の観点から、該下限は、50質量%であることが好ましく、60質量%であることがより好ましい。
【0033】
また、本発明において、全顔料の総量は、黒色系インク組成物の総量に対して4質量%以下である。
全顔料の総量が4質量%を超えると、色相変動が大きくなり、耐擦性及び耐ブロッキング性が低下する。
全顔料の総量の下限には特に限定はないが、画像の光学濃度(OD)をより向上させる観点からは、該下限は、1.5質量%であることが好ましく、1.8質量%であることがより好ましく、2.0質量%であることが特に好ましい。
【0034】
また、本発明のインク組成物が、マゼンタ顔料及びシアン顔料の両方を含む場合、マゼンタ顔料及びシアン顔料の総質量に対するマゼンタ顔料の質量比〔マゼンタ顔料の質量/(マゼンタ顔料及びシアン顔料の総質量)〕は、色相の観点から、0.5〜0.8が好ましく、0.5〜0.7がより好ましい。
【0035】
<樹脂>
本発明において、前記カーボンブラック顔料及び前記少なくとも1種の着色顔料(以下、これらをまとめて「顔料」ともいう)は、分散安定性の観点から、それぞれ、樹脂でその表面の少なくとも一部が被覆されていることが好ましい。以下、樹脂でその表面の少なくとも一部が被覆された顔料を「樹脂被覆顔料」ともいう。
前記樹脂としては、例えば、ポリビニル類、ポリウレタン類、ポリエステル類等が挙げられるが、中でもポリビニル類が好ましい。
また、前記樹脂は、分散安定性の観点から、塩生成基を有することが好ましい。
前記塩生成基としては、アニオン性基(以下、「酸性基」ともいう)、カチオン性基が挙げられ、より具体的には、カルボキシ基、スルホ基、ホスホネート基、アミノ基、アンモニウム基等が挙げられる。
前記塩生成基としては、酸性基(例えば、カルボキシ基、スルホン酸基、リン酸基)が好ましく、中でも、カルボキシ基が特に好ましい。
【0036】
また、前記樹脂は、分散安定性の観点から、水溶性を有する樹脂(以下、「水溶性樹脂」ともいう)が好ましい。
ここで、「水溶性」とは、樹脂が25℃において蒸留水に2質量%以上溶解することを意味するが、5質量%以上溶解することが好ましく、10質量%以上溶解することがより好ましい。また、樹脂が塩生成基(例えば酸性基)を有する場合は、当モルの塩基又は酸によって中和した状態とした場合の溶解度が、上述の範囲となるものが好ましい。
前記水溶性樹脂としては、例えば、親水性高分子化合物が挙げられる。親水性高分子化合物の中でも、カーボンブラックを水系媒体中に分散させる水溶性樹脂分散剤が好ましい。
【0037】
また、本発明において、顔料を被覆している塩生成基を有する樹脂は、分散安定性の観点から、架橋剤によって架橋されていることが好ましい。
この場合、樹脂は、架橋剤により架橋可能な官能基を有することが好ましい。
該架橋可能な官能基としては、前述の塩生成基(例えばカルボキシ基)、イソシアナート基、エポキシ基等が挙げられるが、分散性向上の観点からカルボキシ基が特に好ましい。
塩生成基を有する樹脂によって被覆され、該樹脂が架橋剤によって架橋されている形態の顔料(以下、「架橋された樹脂被覆顔料」ともいう)は、例えば、塩生成基を有する樹脂を用いて顔料を分散することにより樹脂被覆顔料を作製し、その後樹脂被覆顔料の該樹脂を、架橋剤により架橋することにより作製することができる。
【0038】
前記樹脂被覆顔料は、具体的には例えば、
(i)顔料と、前記水溶性樹脂(分散剤)と、塩基性物質を含む水溶液と、前記水溶性樹脂を溶解または分散可能な有機溶剤とを混合し分散処理する工程(混合・水和工程)と、
(ii)前記有機溶剤の少なくとも一部を除く工程(溶剤除去工程)と、
を含む製造方法により製造することができる。
前記架橋された樹脂被覆顔料は、例えば、上記(i)と(ii)の間に、更に、
(iii)前記分散処理により得られた分散物に架橋剤を加えて加熱し、前記水溶性樹脂を架橋させる工程(架橋工程)と、
(iv)架橋後の分散物を精製して不純物を除去する工程(精製工程)と、
を含む製造方法により製造することができる。
上記(i)〜(iv)により、顔料が微細に分散され、保存安定性に優れた顔料分散物を作製することができる。
より具体的には例えば、特開2009−190379号公報に記載の方法によって、表面の少なくとも一部が水溶性樹脂で被覆された顔料(樹脂被覆顔料)を製造することができる。
【0039】
また、前記塩生成基を有する樹脂は、分散安定性の観点から、芳香環構造及び脂環(以下、「脂肪族環」ともいう)構造の少なくとも1種を有することが好ましい。
特に、インク組成物において、塩生成基を有する樹脂が架橋されていない場合に限っていえば、前記カーボンブラック顔料及び前記少なくとも1種の着色顔料を被覆する樹脂の全てが芳香環構造を有することが、分散安定性の観点からより好ましい。
【0040】
芳香環構造及び脂環構造の少なくとも1種を有し、かつ塩生成基を有する樹脂として、具体的には、下記一般式(a)で表される繰り返し単位と、塩生成基を有する繰り返し単位と、を含む樹脂(以下、「特定樹脂」ともいう)が好ましい。
【0041】
(一般式(a)で表される繰り返し単位)
【0042】
【化2】

【0043】
一般式(a)において、Rは水素原子、メチル基、又はハロゲン原子(例えば、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等)を表し、Lは、−COO−、−OCO−、−CONR−、−O−、又は置換もしくは無置換のフェニレン基を表し、Rは水素原子、又は炭素数1〜10のアルキル基を表す。なお、Lで表される基中の*印は、主鎖に連結する結合手を表す。Lは、単結合、又は2価の連結基を表す。Aは、芳香環又は脂肪族環から誘導される1価の基を表す。
【0044】
前記一般式(a)において、Rは、水素原子、メチル基、又はハロゲン原子を表し、好ましくはメチル基を表す。
【0045】
前記一般式(a)において、Lは、−COO−、−OCO−、−CONR−、−O−、又は置換もしくは無置換のフェニレン基を表す。Lがフェニレン基を表す場合、無置換が好ましい。該Lとしては、−COO−が特に好ましい。
前記一般式(a)において、Rは、水素原子、炭素数1〜10のアルキル基を表す。
【0046】
は、単結合、又は2価の連結基を表す。前記2価の連結基としては、好ましくは炭素数1〜30の連結基であり、より好ましくは炭素数1〜25の連結基であり、更に好ましくは炭素数1〜20の連結基であり、特に好ましくは炭素数1〜15の連結基である。
中でも、Lとして特に好ましくは、炭素数1〜20(より好ましくは1〜10)のアルキレンオキシ基、イミノ基(−NH−)、スルファモイル基、及び、炭素数1〜20(より好ましくは1〜15)のアルキレン基やエチレンオキシド基[−(CHCHO)−,n=1〜6の整数]などの、アルキレン基を含む2価の連結基等、並びにこれらの2種以上を組み合わせた基などである。
中でも、Lとして最も好ましくは、単結合、炭素数1〜20(より好ましくは1〜15、更に好ましくは1〜6)のアルキレン基、エチレンオキシド基[−(CHCHO)**;n=1〜6の整数、**はAとの結合位置を表す]である。
【0047】
前記一般式(a)において、Aは、芳香環又は脂肪族環から誘導される1価の基を表す。
前記Aが芳香環から誘導される1価の基である場合、該芳香環としては特に限定されないが、ベンゼン環、炭素数8以上の縮環型芳香環、ヘテロ環が縮環した芳香環、2以上のベンゼン環が縮環した芳香環が挙げられる。
また、Aが脂肪族環から誘導される1価の基である場合、該脂肪族環としては特に限定されないが、炭素数3〜12の脂肪族環(好ましくは、シクロヘキサン環、イソボルネン環)が挙げられる。
【0048】
前記「炭素数8以上の縮環型芳香環」は、少なくとも2以上のベンゼン環が縮環した芳香環、又は、少なくとも1種の芳香環と該芳香環に縮環して脂環式炭化水素で環が構成された炭素数8以上の芳香族化合物である。具体的な例としては、ナフタレン、アントラセン、フルオレン、フェナントレン、アセナフテンなどが挙げられる。
【0049】
前記「ヘテロ環が縮環した芳香環」とは、ヘテロ原子を含まない芳香族化合物(好ましくはベンゼン環)と、ヘテロ原子を有する環状化合物とが縮環した化合物である。ここで、ヘテロ原子を有する環状化合物は、5員環又は6員環であることが好ましい。ヘテロ原子としては、窒素原子、酸素原子、又は硫黄原子が好ましい。ヘテロ原子を有する環状化合物は、複数のヘテロ原子を有していてもよい。この場合、ヘテロ原子は互いに同じでも異なっていてもよい。
芳香環が縮環したヘテロ環の具体例としては、フタルイミド、アクリドン、カルバゾール、ベンゾオキサゾール、ベンゾチアゾールなどが挙げられる。
【0050】
前記一般式(a)で表される繰り返し単位を形成するモノマーの具体例としては、(メタ)アクリレート類、(メタ)アクリルアミド類、スチレン類、及びビニルエステル類などのビニルモノマー類を挙げることができる。
【0051】
前記特定樹脂において、前記一般式(a)で表される繰り返し単位は、芳香環又は脂肪族環が連結基を介して主鎖をなす原子と結合された構造、即ち、芳香環又は脂肪族環が主鎖をなす原子に直接結合しない構造を有する。このため、疎水性の芳香環又は脂肪族環と、塩生成基を有する繰り返し単位と、の間に適切な距離が維持されるため、特定樹脂と顔料との間で相互作用が生じやすい。よって、特定樹脂は顔料に対してより強固に吸着するので、顔料の分散性をより向上させる。
【0052】
前記一般式(a)で表される繰り返し単位を形成するモノマーの具体例としては、芳香環を有するモノマーとして、下記のモノマーを挙げることができる。
但し、本発明においては、これらに限定されるものではない。
【0053】
【化3】

【0054】
【化4】

【0055】
【化5】

【0056】
また、前記一般式(a)で表される繰り返し単位を形成するモノマーの具体例としては、脂肪族環を有するモノマーとして、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレートが挙げられる。但し、本発明においては、これらに限定されるものではない。
【0057】
前記一般式(a)で表される繰り返し単位を形成するモノマーとしては、被覆された顔料の分散安定性の観点から、ベンジル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレートが好ましい。
【0058】
前記一般式(a)で表される繰り返し単位は、1種単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
前記一般式(a)で表される繰り返し単位のポリマー中における含有割合は、ポリマーの全質量に対して、好ましくは20〜90質量%の範囲であり、より好ましくは45〜90質量%であり、特に好ましくは65〜90質量%の範囲である。
【0059】
(塩生成基を有する繰り返し単位)
塩生成基を有する繰り返し単位は、塩生成基含有モノマーから誘導された繰り返し単位であることが好ましい。
前記塩生成基含有モノマーとしては、カチオン性モノマー、アニオン性モノマー等が挙げられる。その例として、特開平9−286939号公報5頁7欄24行〜8欄29行に記載されているもの等が挙げられる。
【0060】
カチオン性モノマーの代表例としては、不飽和アミノ基含有モノマー、不飽和アンモニウム塩含有モノマー等が挙げられる。これらの中では、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N−(N’,N’−ジメチルアミノプロピル)(メタ)アクリルアミドが好ましい。
【0061】
アニオン性モノマーの代表例としては、不飽和カルボン酸モノマー、不飽和スルホン酸モノマー、不飽和リン酸モノマー等が挙げられる。
不飽和カルボン酸モノマーとしては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、β−カルボキシエチルアクリレート、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、2−メタクリロイルオキシメチルコハク酸等が挙げられる。
不飽和スルホン酸モノマーとしては、スチレンスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、3−スルホプロピル(メタ)アクリレート、ビス−(3−スルホプロピル)−イタコネート等が挙げられる。
不飽和リン酸モノマーとしては、ビニルホスホン酸、ビニルホスフェート、ビス(メタクリロキシエチル)ホスフェート、ジフェニル−2−アクリロイロキシエチルホスフェート、ジフェニル−2−メタクリロイロキシエチルホスフェート、ジブチル−2−アクリロイロキシエチルホスフェート等が挙げられる。
前記塩生成基含有モノマーとしては、前記アニオン性モノマーが好ましく、その中でも、分散安定性、吐出性等の観点から、不飽和カルボン酸モノマーがより好ましく、アクリル酸又はメタクリル酸が特に好ましい。
【0062】
前記特定樹脂は、その他の繰り返し単位を含んでいてもよい。
その他の繰り返し単位としては、炭素数1〜20のアルキル(メタ)アクリレート;スチレン及びその誘導体;等から誘導された繰り返し単位が挙げられる。
【0063】
前記特定ポリマーの合成方法は特に限定されないが、ビニルモノマーのランダム重合が分散安定性の点で好ましい。
【0064】
前記塩生成基を有する樹脂としては、炭素数1〜20のアルキル(メタ)アクリレート、芳香環基を有する(メタ)アクリレート、及び脂環基を有する(メタ)アクリレートの少なくとも一つと、カルボキシ基含有モノマーと、を用いて得られる共重合体が好ましい。
中でも、前記塩生成基を有する樹脂としては、少なくとも、ベンジル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、及びイソボルニル(メタ)アクリレートの少なくとも一つと、(メタ)アクリル酸と、を共重合させて得られた共重合体(即ち、ベンジル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、及びイソボルニル(メタ)アクリレートの少なくとも一つに由来の繰り返し単位と、(メタ)アクリル酸に由来の繰り返し単位と、を少なくとも含む共重合体)であることが特に好ましい。
【0065】
前記樹脂は、顔料の分散性の観点から、酸価(該樹脂が架橋されている場合には架橋前の酸価)が50〜250mgKOH/gであることが好ましく、50〜150mgKOH/gであることがより好ましい。尚、樹脂の酸価は、JIS規格(JISK0070:1992)に記載の方法によって測定される。
また、前記樹脂が架橋されている場合、該樹脂の架橋率は、顔料の分散安定性やインクの凝集性の観点から、好ましくは1〜60モル%、より好ましくは5〜50モル%、さらに好ましくは10〜45モル%である。ここで、架橋率(モル%)は、下記の式により求めた値をいう。
架橋率(モル%)=[ポリマー1モルと反応させる架橋剤のモル当量数×100/ポリマー1モルが有する架橋剤と反応できる反応性基のモル数]
ここで、「ポリマー1モルと反応させる架橋剤のモル当量数」とは、ポリマー1モルと反応させる架橋剤のモル数に架橋剤1分子中の反応性基の数を乗じた値である。
【0066】
前記樹脂は、顔料の分散性の観点から、重量平均分子量(該樹脂が架橋されている場合には架橋前の重量平均分子量)が3,000〜100,000が好ましく、5,000〜80,000がより好ましく、10,000〜60,000が更に好ましい。
尚、樹脂の重量平均分子量は、TSKgel GMHxL、TSKgel G4000HxL、TSKgel G2000HxL(いずれも東ソー(株)製の商品名)のカラムを備えたGPC分析装置を用いて、溶媒としてTHFを使用し、示差屈折計により検出し、標準物質としてポリスチレンを用い換算して表した分子量である。
【0067】
前記黒色系インク組成物における前記樹脂と顔料との質量比〔樹脂の質量/顔料の質量〕は、インク安定性の観点等から、0.30〜0.80であることが好ましい。
【0068】
また、本発明において、前記樹脂として水溶性樹脂を用いる場合、該水溶性樹脂に加え、非水溶性樹脂(例えば非水溶性分散剤)を併用してもよい。
前記非水溶性樹脂としては、疎水性構成単位と親水性構成単位とを有する水不溶性樹脂を用いることができる。前記親水性構成単位としては、塩生成基を有する構成単位であることが好ましく、酸性基を有する構成単位であることがより好ましく、カルボキシ基を有する構成単位であることが特に好ましい。
非水溶性樹脂としては、例えば、スチレン−(メタ)アクリル酸共重合体、スチレン−(メタ)アクリル酸−(メタ)アクリル酸エステル共重合体、(メタ)アクリル酸エステル−(メタ)アクリル酸共重合体、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート−(メタ)アクリル酸共重合体、酢酸ビニル−マレイン酸共重合体、スチレン−マレイン酸共重合体等が挙げられる。
より具体的には例えば、特開2005−41994号公報、特開2006−273891号公報、特開2009−084494号公報、特開2009−191134等に記載の水不溶性樹脂を本発明においても好適に用いることができる。
【0069】
(架橋剤)
前記樹脂被覆顔料において顔料を被覆している樹脂は、架橋剤により架橋されていることが好ましい。
前記架橋剤は、前記樹脂と反応する部位を2つ以上有している化合物であれば、特に限定されないが、中でもカルボキシ基との反応性に優れている点から、好ましくは2つ以上のエポキシ基を有している化合物(2官能以上のエポキシ化合物)である。
具体例としては、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、1,6−へキサンジオールジグリシジルエーテル、ジエチレングリコールジグリシジルエーテル、ジプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル等が挙げられ、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、ジエチレングリコールジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテルが好ましい。
【0070】
前記架橋剤としては市販品を用いることもできる。市販品としては、例えば、Denacol EX−321、EX−821、EX−830、EX−850、EX−851(ナガセケムテックス(株)製)等を用いることができる。
【0071】
前記架橋剤の架橋部位(例えばエポキシ基)と前記樹脂の被架橋部位(例えばカルボキシ基)のモル比は、架橋反応速度、架橋後の分散液安定性の観点から、1:1〜1:10が好ましく、1:1〜1:5がより好ましく、1:1〜1:1.5が最も好ましい。
【0072】
<水溶性の重合性化合物>
本発明の黒系インク組成物は、水溶性の重合性化合物の少なくとも1種を含む。
これにより、本発明の黒系インク組成物は、活性エネルギー線(例えば、放射線もしくは光、又は電子線など)が照射されることにより重合し、硬化する。
ここで、「水溶性」とは、水に一定濃度以上溶解できることをいう。具体的には25℃の水に対する溶解度が5質量%以上であることが好ましく、10質量%以上であることがより好ましい。また水溶性の重合性化合物は、水性のインク組成物中に(望ましくは均一に)溶解し得るものであることが好ましい。また後述する水溶性有機溶剤を添加することにより溶解度が上昇してインク組成物中に(望ましくは均一に)溶解するものであってもよい。
【0073】
本発明における水溶性の重合性化合物としては、特に限定はなく、単官能の重合性化合物であっても多官能の重合性化合物であってもよい。
前記水溶性の重合性化合物としては、分子内に(メタ)アクリルエステル構造を有する化合物及び分子内に(メタ)アクリルアミド構造を有する化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましく、分子内に(メタ)アクリルアミド構造を有する化合物を少なくとも1種含むことがより好ましい。ここで、(メタ)アクリルエステル構造とは、メタクリルエステル構造及びアクリルエステル構造の少なくとも一方を意味し、(メタ)アクリルアミド構造とは、メタクリルアミド構造及びアクリルアミド構造の少なくとも一方を意味する。
【0074】
(分子内に(メタ)アクリルエステル構造を有する化合物)
分子内に(メタ)アクリルエステル構造を有する重合性化合物は、水溶性であって、分子内に(メタ)アクリルエステル構造を有する重合性化合物であれば限定されず、単官能の重合性化合物であっても、多官能の重合性化合物であってもよい。
【0075】
分子内に(メタ)アクリルエステル構造を有する単官能の重合性化合物としては、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、が挙げられる。
【0076】
分子内に(メタ)アクリルエステル構造を有する多官能の重合性化合物は、下記一般式(M−1)で表される化合物であることが好ましい。
【0077】
【化6】

【0078】
一般式(M−1)中、Qはi価の連結基を表し、Rは水素原子またはメチル基を表す。また、iは2以上の整数を表す。
【0079】
一般式(M−1)で表される化合物は、不飽和単量体がエステル結合により連結基Qに結合したものである。Rは、水素原子、またはメチル基を表し、好ましくは水素原子である。連結基Qの価数iに制限はないが、2以上6以下であることがより好ましく、2以上4以下であることがさらに好ましい。
【0080】
また、連結基Qは(メタ)アクリルエステル構造と連結可能な基であれば特に制限はないが、一般式(M−1)で表される化合物が前述の水溶性を満たすことを可能にするような連結基から選択されることが好ましい。具体的には以下の化合物群Xから1以上の水素原子またはヒドロキシル基が除去された残基を挙げることができる。
【0081】
−化合物群X−
エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール,2,3−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,4−ペンタンジオール、2,4−ペンタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール、1,5−ヘキサンジオール、1,6−ヘキサンジオール、2,5−ヘキサンジオール、グリセリン、1,2,4−ブタントリオール、1,2,6−ヘキサントリオール、1,2,5−ペンタントリオール、チオグリコール、トリメチロールプロパン、ジトリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、ジトリメチロールエタン、ネオペンチルグリコール、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、及びこれらの縮合体、低分子ポリビニルアルコール、または糖類などのポリオール類、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、ポリエチレンイミン、ポリプロピレンジアミン、などのポリアミン類。
【0082】
さらに連結基Qとしては、メチレン、エチレン、プロピレン、ブチレン基等の炭素数4以下の置換又は無置換のアルキレン鎖、更にはピリジン環、イミダゾール環、ピラジン環、ピペリジン環、ピペラジン環、モルホリン環などの飽和もしくは不飽和のヘテロ環を有する官能基などを例示することができる。
【0083】
連結基Qとしては、これらの中でも、オキシアルキレン基(好ましくは、オキシエチレン基)を含むポリオール類の残基であることが好ましく、オキシアルキレン基(好ましくは、オキシエチレン基)を3以上含むポリオール類の残基であることが特に好ましい。
【0084】
前記分子内に(メタ)アクリルエステル構造を有する水溶性の重合性化合物の具体例としては、例えば以下に示すノニオン性化合物を挙げることができるが、本願はこれに限定されない。
【0085】
【化7】

【0086】
また、ノニオン性の重合性化合物としては、ポリオール化合物から誘導される1分子中に2以上のアクリロイル基を有する(メタ)アクリル酸エステルも用いることができる。前記ポリオール化合物としては、例えば、グリコール類の縮合物、オリゴエーテル、オリゴエステル類等や、単糖類、2糖類などの2以上の水酸基を有するポリオール化合物が挙げられる。
【0087】
またトリエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリスヒドロキシアミノメタン、トリスヒドロキシアミノエタン等との(メタ)アクリル酸エステル等も好適である。
【0088】
−分子内に(メタ)アクリルアミド構造を有する化合物−
分子内に(メタ)アクリルアミド構造を有する化合物は、分子内に(メタ)アクリルアミド構造を有する重合性化合物であれば特に限定されず、単官能の重合性化合物であっても、多官能の重合性化合物であってもよい。
【0089】
分子内に(メタ)アクリルアミド構造を有する単官能の重合性化合物としては、ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリルアミド、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミドなどが挙げられ、特に好ましくはヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミドであり、最も好ましくはヒドロキシエチルアクリルアミドである。
【0090】
分子内に(メタ)アクリルアミド構造を有する多官能の重合性化合物としては、下記一般式(M−2)で表される化合物が好ましい。式(M−2)の構造を有することで、後述する一般式(1)で表される化合物と重合性化合物との相溶性が向上し、硬化感度等を高めることが可能となるため好ましい。
【0091】
【化8】

【0092】
一般式(M−2)中、Qはj価の連結基を表し、Rは水素原子またはメチル基を表す。また、jは2以上の整数を表す。
【0093】
一般式(M−2)で表される化合物は不飽和単量体が、アミド結合により連結基Qに結合したものである。Rは、水素原子、またはメチル基を表し、好ましくは水素原子である。連結基Qの価数jに制限はないが、2以上6以下であることがより好ましく、2以上4以下であることがさらに好ましい。
【0094】
また、連結基Qは(メタ)アクリルアミド構造と連結可能な基であれば特に制限はない。連結基Qの詳細は前記連結基Qと同様であり、好ましい態様も同様である。
【0095】
前記分子内に(メタ)アクリルアミド構造を有する水溶性の重合性化合物の具体例としては、例えば以下に示す水溶性の重合性化合物を挙げることができる。
【0096】
【化9】

【0097】
【化10】

【0098】
【化11】

【0099】
【化12】

【0100】
【化13】

【0101】
【化14】

【0102】
上記重合性化合物以外にも、例えば、下記に代表されるマレイミド構造を有する化合物、スルファミド構造を有する化合物又はN−ビニルアセトアミド構造を有する化合物等も使用することができる。
【0103】
【化15】

【0104】
水溶性の重合性化合物は、1種単独又は2種以上を組み合わせて含有することができる。
重合性化合物のインク組成物中における総含有量としては、インク組成物全質量に対して、3〜50質量%が好ましく、10〜30質量%がより好ましく、15〜25質量%がさらに好ましい。
【0105】
本発明のインク組成物では、前記水溶性の重合性化合物が単官能の重合性化合物と多官能の重合性化合物とを共に含む場合に、耐ブロッキング性向上の効果がより効果的に奏される。
即ち、一般的には、単官能の重合性化合物を用いたインク組成物では硬化性が不足して耐ブロッキング性が低下する傾向があるが、本発明のインク組成物では、単官能の重合性化合物を用いた場合でも、耐ブロッキング性を好適に維持しやすい。このため、前記水溶性の重合性化合物が単官能の重合性化合物と多官能の重合性化合物とを共に含む場合に、本発明の耐ブロッキング性向上の効果がより顕著に奏される。
前記水溶性の重合性化合物が単官能の重合性化合物を含む場合、該単官能の重合性化合物としては、耐ブロッキング性をより向上させる観点から、(メタ)アクリルアミド構造を有する単官能の重合性化合物が好ましい。
更に、前記水溶性の重合性化合物が(メタ)アクリルアミド構造を有する単官能の重合性化合物を含むことにより、耐擦性が向上する。
【0106】
前記水溶性の重合性化合物が(メタ)アクリルアミド構造を有する単官能の重合性化合物を少なくとも1種含む場合、前記水溶性の重合性化合物は、該(メタ)アクリルアミド構造を有する単官能の重合性化合物の少なくとも1種に加え、多官能の重合性化合物(好ましくは(メタ)アクリルアミド構造を有する多官能の重合性化合物)を少なくとも1種含むことが特に好ましい。
【0107】
前記水溶性の重合性化合物が、単官能の重合性化合物(例えば(メタ)アクリルアミド構造を有する単官能の重合性化合物)を含む場合、インク組成物に含まれる重合性化合物の全量に対する単官能の重合性化合物(例えば(メタ)アクリルアミド構造を有する単官能の重合性化合物)の含有量は、10〜90質量%が好ましく、20〜80質量%がより好ましく、30〜80質量%が更に好ましく、40〜80質量%が特に好ましい。
【0108】
<重合開始剤>
本発明の黒系インク組成物は、重合開始剤の少なくとも1種を含む。
前記重合開始剤は、水溶性の重合開始剤であることが好ましい。ここで重合開始剤における水溶性とは、25℃において蒸留水に0.5質量%以上溶解することを意味する。前記水溶性の重合開始剤は、25℃において蒸留水に1質量%以上溶解することが好ましく、3質量%以上溶解することがより好ましい。
【0109】
前記水溶性の重合開始剤としては、例えば、下記一般式(1)で表される化合物や、特開2005―307198号公報に記載の化合物等を挙げることができる。中でも、密着性と耐擦性の観点から、下記一般式(1)で表される水溶性の重合開始剤であることが好ましい。
【0110】
【化16】

【0111】
一般式(1)中、mおよびnはそれぞれ独立に0以上の整数を表し、m+nは0〜3の整数を表す。
一般式(1)において、mが0〜3であってnが0または1であることが好ましく、mが0または1であってnが0であることがより好ましい。
一般式(1)で表される化合物の具体例を以下に示すが、本発明はこれらに限定されない。
【0112】
【化17】

【0113】
一般式(1)で表される化合物は、特開2005−307198号公報等の記載に準じて合成した化合物であっても、市販の化合物であってもよい。一般式(1)で表される市販の化合物としては例えば、イルガキュア2959(m=0、n=0)を挙げることができる。
【0114】
本発明のインク組成物における重合開始剤の含有量は、固形分換算で0.1〜30質量%の範囲であることが好ましく、0.5〜20質量%の範囲であることがより好ましく、1.0〜15質量%の範囲であることがさらに好ましく、1.0〜5.0質量%の範囲であることが最も好ましい。
【0115】
<一般式(i)で表される繰り返し単位を含む重合体>
本発明の黒色系インク組成物は、下記一般式(i)で表される繰り返し単位を含む重合体(以下、単に「(成分a)」ともいう。)を含むことができる。本発明の黒色系インク組成物が該(成分a)を含むことにより、画像の耐擦性がより向上する。
前記(成分a)中に複数存在する一般式(i)で表される繰り返し単位は、互いに同一であっても、異なっていてもよい。
【0116】
【化18】

【0117】
一般式(i)中、mは2〜15の整数を表し、Rは水素原子又はメチル基を表す。
【0118】
前記一般式(i)中、Rは、水素原子が好ましい。
前記一般式(i)中、mは、2〜5の整数が好ましく、3又は5が更に好ましく、3が特に好ましい。
前記(成分a)中に複数存在する一般式(i)で表される繰り返し単位が互いに異なる場合、一般式(i)中のmが3である繰り返し単位と、一般式(i)中のmが5である繰り返し単位と、を含むことが好ましい。
【0119】
前記(成分a)は前記一般式(i)で表される繰り返し単位を、(成分a)の全量に対し、50質量%以上含むことが好ましく、75〜100質量%含むことが更に好ましく、80〜100質量%含むことが特に好ましい。
【0120】
前記(成分a)は、更に下記一般式(ii)で表される繰り返し単位を含むことが好ましい。
【0121】
【化19】

【0122】
前記一般式(ii)中、Rはアルキル基を表し、Rは水素原子又はメチル基を表す。
【0123】
前記一般式(ii)中、Rで表されるアルキル基としては、炭素数1〜5のアルキル基が好ましい。該アルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、ブチル基等が挙げられる。
前記一般式(ii)中、Rで表されるアルキル基としては、炭素数1〜3のアルキル基が更に好ましく、炭素数1のアルキル基(即ちメチル基)が特に好ましい。
【0124】
前記式(ii)中、Rは、水素原子が好ましい。
【0125】
前記(成分a)は、前記式(ii)で表される繰り返し単位を、前記(成分a)の全量に対し、1質量%〜80質量%含むことが好ましく、1質量%〜50質量%含むことが更に好ましく、1質量%〜10質量%含むことが特に好ましい。
【0126】
前記(成分a)は、分子量(分子量分布を有するものに関しては、重量平均分子量)500〜800,000であることが好ましく、より好ましくは800〜100,000であり、更に好ましくは1,000〜25,000である。
【0127】
なお、重量平均分子量は、ゲル透過クロマトグラフ(GPC)で測定される。GPCは、HLC−8020GPC(東ソー(株)製)を用い、カラムとしてTSKgel SuperHZM−H、TSKgel SuperHZ4000、TSKgel SuperHZ200(東ソー(株)製、4.6mmID×15cm)を、溶離液としてTHF(テトラヒドロフラン)を用いる。
【0128】
前記(成分a)の具体例としては、ポリビニルピロリドン(PVP K12(アクロス社製)、PVP K15、PVP K30(いずれもアイエスピージャパン(株)製))、ビニルピロリドン/ビニルアセテート共重合体(Luvitec VA64W、Luviskol VA37E(いずれもBASF・ジャパン社製)、PVP/VA W635(アイエスピージャパン(株)製))、ビニルピロリドン/ビニルカプロラクタム共重合体(Luvitec VPC K65W(BASF・ジャパン社製))等を挙げることができ、ポリビニルピロリドン(PVP K15、K30(いずれもアイエスピージャパン(株)製))、ビニルピロリドン/ビニルアセテート共重合体(PVP/VA W635(アイエスピージャパン(株)製)、Luviskol VA37E(BASF・ジャパン社製))、ビニルピロリドン/ビニルカプロラクタム共重合体(Luvitec VPC K65W(BASF・ジャパン社製))が好ましい。
【0129】
本発明の黒色系インク組成物が前記(成分a)を含む場合、前記(成分a)は、1種単独で含まれていてもよいし、2種以上含まれていてもよい。
本発明の黒色系インク組成物が前記(成分a)を含む場合、該(成分a)の含有量(2種以上である場合には総含有量)は、黒色系インク組成物の全量に対し、0.1〜10質量%であることが好ましく、0.1〜5質量%であることが更に好ましく、0.5〜5質量%であることが更に好ましく、0.5〜3質量%であることが特に好ましい。
【0130】
<コロイダルシリカ>
本発明の黒色系インク組成物は、コロイダルシリカの少なくとも1種をさらに含むことが好ましい。コロイダルシリカを含むことで吐出安定性が向上すると共にインクジェットヘッド部材における撥液性の低下を抑制できる。特にインクジェットヘッド部材の少なくとも一部にシリコンが使用されている場合に、特にその効果が大きい。
これは例えば、コロイダルシリカを含むことでインク成分の加水分解が効果的に抑制され、インク組成物の安定性が向上することにより、インクジェット記録装置上でインク組成物の吐出を止めて一定の時間放置し、その後吐出を再開した場合でも吐出安定性(放置回復性)において優れた効果が得られ、かつ画像の耐擦性も両立できるものと考えられる。さらに、コロイダルシリカがインクジェットヘッド部材の表面に適度に吸着して、インク成分による表面の侵食を緩和することにより、撥液性の低下を防止できるものと推察される。
【0131】
コロイダルシリカは、平均粒子径が数100nm以下のケイ素を含む無機酸化物の微粒子からなるコロイドである。主成分として二酸化ケイ素(その水和物を含む)を含み、少量成分としてアルミン酸塩を含んでいてもよい。少量成分として含まれることがあるアルミン酸塩としては、アルミン酸ナトリウム、アルミン酸カリウムなどが挙げられる。
またコロイダルシリカには、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化アンモニウム等の無機塩類やテトラメチルアンモニウムヒドロキシド等の有機塩類が含まれていてもよい。これらの無機塩類および有機塩類は、例えば、コロイドの安定化剤として作用する。
【0132】
コロイダルシリカの分散媒としては特に制限はなく、水、有機溶剤、およびこれらの混合物のいずれであってもよい。前記有機溶剤は水溶性有機溶剤であっても非水溶性有機溶剤であってもよいが、水溶性有機溶剤であることが好ましい。具体的には例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、n−プロパノール等を挙げることができる。
【0133】
コロイダルシリカの製造方法には特に制限はなく、通常用いられる方法で製造することができる。例えば、四塩化ケイ素の熱分解によるアエロジル合成や水ガラスから製造することができる。あるいは、アルコキシドの加水分解といった液相合成法(例えば、「繊維と工業」、Vol.60、No.7(2004)P376参照)などによっても製造することができる。
【0134】
本発明におけるコロイダルシリカに含まれる粒子の平均粒子径としては特に制限はないが、好ましくは1nm〜25nm、より好ましくは3nm〜20nmであり、さらに好ましくは3nm〜15nmであり、特に好ましくは5nm〜10nmである。
平均粒子径が25nm以下であることで、インクジェットヘッドを構成する部材、例えば、基材、保護膜、撥液膜等に対するインクによるダメージ(例えば、撥液性の低下等)をより効果的に抑制することができる。これは例えば、平均粒子径が小さいことで、粒子の総表面積が大きくなり、インクジェットヘッドを構成する部材に対するダメージを、より効果的に抑制するためと考えることができる。またさらに、インク組成物の吐出性、粒子による研磨剤効果の観点からも、粒子の平均粒子径は25nm以下であることが好ましい。また、1nm以上の平均粒子径であることで、生産性が向上し、また性能のバラツキの少ないコロイダルシリカを得ることができる。

【0135】
本発明においてコロイダルシリカの平均粒子径は、分散粒子の一般的な測定である光散乱法、レーザー回折法などの手法により測定できるが、本発明では、より直接的な手法として、TEM(透過型電子顕微鏡)撮影法により、任意に選択した300個のコロイダルシリカ粒子の粒径(面積円相当径)を実測し、その算術平均として算出される。すなわち、本発明に用いることができるコロイダルシリカの平均粒子径は、面積円相当径の算術平均粒子径を表す。
またコロイダルシリカの形状は、インクの吐出性能を妨げない限り、特に限定されない。例えば、球状、長尺の形状、針状、数珠状のいずれであってもよい。中でも、インクの吐出性の観点から、球状であることが好ましい。
【0136】
<界面活性剤>
本発明の黒色系インク組成物は、界面活性剤の少なくとも1種を含むことが好ましい。界面活性剤は、表面張力調整剤として用いることができる。
表面張力調整剤として、分子内に親水部と疎水部を合わせ持つ構造を有する化合物等を有効に使用することができ、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、ベタイン系界面活性剤のいずれも使用することができる。
本発明においては、インク組成物の打滴干渉抑制の観点から、ノニオン性界面活性剤が好ましく、中でもアセチレングリコール系界面活性剤がより好ましい。
【0137】
アセチレングリコール系界面活性剤としては、例えば、2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオール及び2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオールのアルキレンオキシド付加物等を挙げることができ、これから選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。これらの化合物の市販品としては例えば、日信化学工業社のオルフィンE1010などのEシリーズを挙げることができる。
【0138】
界面活性剤(表面張力調整剤)を黒色系インク組成物に含有する場合、界面活性剤はインクジェット方式によりインク組成物の吐出を良好に行う観点から、インク組成物の表面張力を20〜60mN/mに調整できる範囲の量を含有するのが好ましく、表面張力の点からはより好ましくは20〜45mN/mであり、更に好ましくは25〜40mN/mである。
界面活性剤の黒色系インク組成物中における界面活性剤の具体的な量としては、前記表面張力となる範囲が好ましいこと以外は特に制限はなく、0.1質量%以上が好ましく、より好ましくは0.1〜10質量%であり、更に好ましくは0.2〜3質量%である。
【0139】
<水溶性有機溶剤>
本発明の黒色系インク組成物は少なくとも水を含むが、水に加え、更に水溶性有機溶剤の少なくとも1種を含むことができる。
水溶性有機溶剤は、乾燥防止、湿潤あるいは浸透促進の効果を得ることができる。乾燥防止には、噴射ノズルのインク吐出口においてインクが付着乾燥して凝集体ができ、目詰まりするのを防止する乾燥防止剤として用いられ、乾燥防止や湿潤には、水より蒸気圧の低い水溶性有機溶剤が好ましい。また、浸透促進には、紙へのインク浸透性を高める浸透促進剤として用いることができる。
【0140】
水溶性有機溶剤の例としては、例えば、グリセリン、エチレングリコール、プロピレングリコール等のアルカンジオール(多価アルコール類);糖アルコール類;エタノール、メタノール、ブタノール、プロパノール、イソプロパノールなどの炭素数1〜4のアルキルアルコール類;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノ−n−プロピルエーテル、エチレングリコールモノ−iso−プロピルエーテル、ジエチレングリコールモノ−iso−プロピルエーテル、エチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、エチレングリコールモノ−t−ブチルエーテル、ジエチレングリコールモノ−t−ブチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、1−メチル−1−メトキシブタノール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノ−t−ブチルエーテル、プロピレングリコールモノ−n−プロピルエーテル、プロピレングリコールモノ−iso−プロピルエーテル、ジプロピレングリコール、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノ−n−プロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノ−iso−プロピルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテルなどのグリコールエーテル類等が挙げられる。これらは、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0141】
<樹脂粒子>
本発明における黒色系インク組成物は、必要に応じて樹脂粒子を含有することができる。
また樹脂粒子は、後述の処理液又はこれを乾燥させた記録媒体上の領域と接触した際に凝集、又は分散不安定化してインクを増粘させることにより、インク組成物、すなわち画像を固定化させる機能を有することが好ましい。このような樹脂粒子は、水および有機溶剤の少なくとも1種に分散されているものが好ましい。
【0142】
樹脂粒子としては、アクリル系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、スチレン−ブタジエン系樹脂、塩化ビニル系樹脂、アクリル−スチレン系樹脂、ブタジエン系樹脂、スチレン系樹脂、架橋アクリル樹脂、架橋スチレン系樹脂、ベンゾグアナミン樹脂、フェノール樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン系樹脂、パラフィン系樹脂、フッ素系樹脂等あるいはそのラテックスを用いることができる。アクリル系樹脂、アクリル−スチレン系樹脂、スチレン系樹脂、架橋アクリル樹脂、架橋スチレン系樹脂を好ましい例として挙げることができる。
また樹脂粒子はラテックスの形態で用いることもできる。
【0143】
樹脂粒子の重量平均分子量は1万以上、20万以下が好ましく、より好ましくは2万以上、20万以下である。
また樹脂粒子の体積平均粒径は、1nm〜1μmの範囲が好ましく、1nm〜200nmの範囲がより好ましく、1nm〜100nmの範囲が更に好ましく、1nm〜50nmの範囲が特に好ましい。なお、樹脂粒子の体積平均粒径は、ナノトラック粒度分布測定装置UPA−EX150(日機装(株)製)によって測定することができる。
樹脂粒子のガラス転移温度Tgは30℃以上であることが好ましく、40℃以上がより好ましく、50℃以上がさらに好ましい。
【0144】
前記樹脂粒子としては、自己分散性樹脂の粒子(自己分散性樹脂粒子)を用いることが好ましい。
ここで、自己分散性樹脂とは、界面活性剤の不存在下、転相乳化法により分散状態としたとき、ポリマー自身が有する官能基(特に塩生成基)によって、水性媒体中で分散状態となり得る水不溶性ポリマーをいう。自己分散性樹脂が有することがある塩生成基の具体例については、顔料を被覆する樹脂における塩生成基と同様であり、好ましい範囲も同様である。
ここで、分散状態とは、水性媒体中に水不溶性ポリマーが液体状態で分散された乳化状態(エマルション)、及び、水性媒体中に水不溶性ポリマーが固体状態で分散された分散状態(サスペンジョン)の両方の状態を含むものである。
前記自己分散性樹脂粒子としては、特開2010−64480号公報の段落0090〜0121や、特開2011−068085号公報の段落0130〜0167に記載されている自己分散性樹脂粒子を用いることができる。
【0145】
樹脂粒子の添加量は黒色系インク組成物に対して、0.1〜20質量%が好ましく、0.1〜10質量%がより好ましく、0.1〜5質量%がさらに好ましい。
また、樹脂微子の粒径分布に関しては、特に制限は無く、広い粒径分布を持つもの、又は単分散の粒径分布を持つもの、いずれでもよい。また、単分散の粒径分布を持つ樹脂粒子を、2種以上混合して使用してもよい。
【0146】
<その他の成分>
前記黒色系インク組成物は、上記の成分に加え、必要に応じて更にその他成分として各種の添加剤を含むことができる。
前記各種の添加剤としては、例えば、紫外線吸収剤、褪色防止剤、防黴剤、pH調整剤、防錆剤、酸化防止剤、乳化安定剤、防腐剤、消泡剤、粘度調整剤、分散安定剤、又はキレート剤等の公知の添加剤が挙げられる。これらの添加剤の含有量はその用途に応じて適宜決定すればよいが、例えば、黒色系インク組成物中に各々0.02〜1.00質量%程度とすればよい。
【0147】
<黒色系インク組成物の物性>
本発明におけるインク組成物の表面張力(25℃)としては、20mN/m以上60mN/m以下であることが好ましい。より好ましくは、20mN/m以上45mN/m以下であり、更に好ましくは、25mN/m以上40mN/m以下である。
表面張力は、Automatic Surface Tensiometer CBVP-Z(協和界面科学株式会社製)を用い、インク組成物を25℃の条件下で測定される。
【0148】
また、本発明におけるインク組成物の25℃での粘度は、1.2mPa・s以上15.0mPa・s以下であることが好ましく、より好ましくは2mPa・s以上13mPa・s未満であり、更に好ましくは2.5mPa・s以上10mPa・s未満である。
粘度は、VISCOMETER TV−22(TOKI SANGYO CO.LTD製)を用い、インク組成物を25℃の条件下で測定される。
【0149】
<製造方法>
前記黒色系インク組成物は、定法により製造することができる。例えば、着色顔料の少なくとも1種およびカーボンブラック顔料を含む顔料分散物(又は、顔料の種類ごとに調製された各顔料分散物)と、水溶性重合性化合物の少なくとも1種と、重合開始剤の少なくとも1種と、水と、必要に応じてその他の成分(界面活性剤等)と、を混合することにより製造することができる。混合方法は特に制限されず、通常用いられる混合方法を適宜選択して適用できる。
【0150】
≪インクセット≫
本発明のインクセットは、既述の本発明の黒色系インク組成物の少なくとも1種と、前記黒色系インク組成物と接触することで凝集体を形成可能な凝集剤を含む処理液の少なくとも1種と、を含む。
前記黒色系インク組成物に加えて処理液を用い、後述する画像形成方法によって画像を形成することにより、耐ブロッキング性及び耐擦性に更に優れた画像を形成することができる。また、密着性及び膜強度に優れた画像を得ることができる。
また、処理液を用いることで、インクジェット記録を高速化でき、高速記録しても、色相変動が抑制され、耐ブロッキング性及び耐擦性に優れた画像が得られる。また、高速記録しても、濃度、解像度の高い描画性(例えば細線や微細部分の再現性)に優れた画像が得られる。
【0151】
<処理液>
処理液は、既述の黒色系インク組成物と接触することで凝集体を形成可能な凝集剤の少なくとも1種を含み、必要に応じて、さらに他の成分を含んで構成される。
【0152】
本発明における凝集剤は、記録媒体上においてインク組成物と接触することにより、インク組成物中の成分を凝集(固定化)可能なものであり、例えば、固定化剤として機能する。例えば、処理液を記録媒体(好ましくは、塗工紙)に付与することにより記録媒体上に凝集剤が存在している状態で、インク組成物がさらに着滴して凝集剤と接触することにより、インク組成物中の成分を凝集させて、インク組成物成分を記録媒体上に固定化することができる。
凝集剤としては、酸性化合物、多価金属塩、およびカチオン性ポリマー等を挙げることができる。中でもインク組成物成分の凝集性の観点から、酸性化合物であることが好ましい。凝集剤は1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0153】
−酸性化合物−
酸性化合物としては、例えば、硫酸、塩酸、硝酸、リン酸、ポリアクリル酸、酢酸、グリコール酸、マロン酸、リンゴ酸、マレイン酸、アスコルビン酸、コハク酸、グルタル酸、フマル酸、クエン酸、酒石酸、乳酸、スルホン酸、オルトリン酸、メタリン酸、ピロリドンカルボン酸、ピロンカルボン酸、ピロールカルボン酸、フランカルボン酸、ピリジンカルボン酸、クマリン酸、チオフェンカルボン酸、ニコチン酸、およびこれらの化合物の誘導体等が好適に挙げられる。
【0154】
これらの中でも、水溶性の高い酸性化合物が好ましい。また、インク組成物成分と反応してインク全体を固定化させる観点から、3価以下の酸性化合物が好ましく、2価または3価の酸性化合物が特に好ましい。
酸性化合物は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0155】
前記処理液が酸性化合物を含む場合、処理液のpH(25℃)は、0.1〜6.8であることが好ましく、0.5〜6.0であることがより好ましく、0.8〜5.0であることがさらに好ましい。
【0156】
前記酸性化合物の含有量は、前記処理液の全質量に対し、40質量%以下であることが好ましく、15〜40質量%であることがより好ましく、15質量%〜35質量%であることがさらに好ましい。酸性化合物の含有量を40質量%以下とすることでインク組成物中の成分をより効率的に固定化することができる。
【0157】
−多価金属塩−
前記多価金属塩としては、周期表の第2属のアルカリ土類金属(例えば、マグネシウム、カルシウム)、周期表の第3属の遷移金属(例えば、ランタン)、周期表の第13属からのカチオン(例えば、アルミニウム)、ランタニド類(例えば、ネオジム)の塩を挙げることができる。これら金属の塩としては、カルボン酸塩(蟻酸、酢酸、安息香酸塩など)、硝酸塩、塩化物、及びチオシアン酸塩が好適である。中でも、好ましくは、カルボン酸(蟻酸、酢酸、安息香酸塩など)のカルシウム塩又はマグネシウム塩、硝酸のカルシウム塩又はマグネシウム塩、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、及びチオシアン酸のカルシウム塩又はマグネシウム塩である。
前記多価金属塩は、1種単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0158】
前記多価金属塩の含有量は、前記処理液の全質量に対し、15質量%以上であることが好ましい。多価金属塩の含有量を15質量%以上とすることでより効果的にインク組成物中の成分を固定化することができる。
多価金属塩の含有量は、前記処理液の全質量に対し、15質量%〜35質量%であることが好ましい。
【0159】
−カチオン性ポリマー−
カチオン性ポリマーとしては、ポリ(ビニルピリジン)塩、ポリアルキルアミノエチルアクリレート、ポリアルキルアミノエチルメタクリレート、ポリ(ビニルイミダゾール)、ポリエチレンイミン、ポリビグアニド、及びポリグアニドから選ばれる少なくとも1種のカチオン性ポリマーである。
カチオン性ポリマーは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
上記カチオン性ポリマーの中でも、凝集速度の観点で有利な、ポリグアニド(好ましくは、ポリ(ヘキサメチレングアニジン)アセテート、ポリモノグアニド、ポリメリックビグアニド)、ポリエチレンイミン、ポリ(ビニルピリジン)が好ましい。
【0160】
前記カチオン性ポリマーの重量平均分子量としては、処理液の粘度の観点では分子量が小さい方が好ましい。処理液をインクジェット方式で記録媒体に付与する場合には、500〜500,000の範囲が好ましく、700〜200,000の範囲がより好ましく、更に好ましくは1,000〜100,000の範囲である。重量平均分子量は、500以上であると凝集速度の観点で有利であり、500,000以下であると吐出信頼性の点で有利である。但し、処理液をインクジェット以外の方法で記録媒体に付与する場合には、この限りではない。
【0161】
前記処理液がカチオン性ポリマーを含む場合、処理液のpH(25℃)は、1.0〜10.0であることが好ましく、2.0〜9.0であることがより好ましく、3.0〜7.0であることがさらに好ましい。
【0162】
カチオン性ポリマーの含有量は、前記処理液の全質量に対して、1質量%〜35質量%であることが好ましく、5質量%〜25質量%であることがより好ましい。
【0163】
処理液は前記凝集剤に加えて、水溶性有機溶剤の少なくとも1種を含むことが好ましい。水溶性有機溶剤の詳細は、インク組成物におけるそれと同様であり、好ましい態様も同様である。
【0164】
処理液は、本発明の効果を損なわない範囲内で、更にその他の成分として他の添加剤を含有することができる。他の添加剤としては、例えば、乾燥防止剤(湿潤剤)、褪色防止剤、乳化安定剤、浸透促進剤、紫外線吸収剤、防腐剤、防黴剤、pH調整剤、表面張力調整剤、消泡剤、粘度調整剤、分散剤、分散安定剤、防錆剤、キレート剤等の公知の添加剤が挙げられる。
【0165】
≪画像形成方法≫
本発明の画像形成方法は、既述の本発明のインクセットが用いられ、前記処理液を記録媒体に付与する処理液付与工程と、前記黒色系インク組成物を記録媒体に付与するインク付与工程と、前記処理液付与工程及び前記インク付与工程によって形成された画像に活性エネルギー線を照射し、前記画像を硬化させる硬化工程と、を有する。本発明の画像形成方法は、必要に応じ、その他の構成を有していてもよい。
【0166】
本発明の画像形成方法では、前記処理液に含まれる凝集剤によってインク組成物の成分を凝集状態にし、これに活性エネルギー線を照射して重合性化合物を重合、硬化させることで、色相変動が抑制され、耐ブロッキング性及び耐擦性に更に優れた画像を形成することができる。また、記録媒体への密着性により優れた画像を形成することができる。また硬化して得られる画像は膜強度がより向上する。
【0167】
(インク付与工程)
インク付与工程は、既述の本発明の黒色系インク組成物を、記録媒体上に例えばインクジェット法により付与する。本工程では、記録媒体上に選択的にインク組成物を付与でき、所望の画像を形成できる。
【0168】
インクジェット法は、特に制限はなく、公知の方式、例えば、静電誘引力を利用してインクを吐出させる電荷制御方式、ピエゾ素子の振動圧力を利用するドロップオンデマンド方式(圧力パルス方式)、電気信号を音響ビームに変えインクに照射して放射圧を利用してインクを吐出させる音響インクジェット方式、及びインクを加熱して気泡を形成し、生じた圧力を利用するサーマルインクジェット(バブルジェット(登録商標))方式等のいずれであってもよい。尚、前記インクジェット法には、フォトインクと称する濃度の低いインクを小さい体積で多数射出する方式、実質的に同じ色相で濃度の異なる複数のインクを用いて画質を改良する方式や無色透明のインクを用いる方式が含まれる。
【0169】
また、インクジェット法で用いるインクジェットヘッドは、オンデマンド方式でもコンティニュアス方式でも構わない。また、吐出方式としては、電気−機械変換方式(例えば、シングルキャビティー型、ダブルキャビティー型、ベンダー型、ピストン型、シェアーモード型、シェアードウォール型等)、電気−熱変換方式(例えば、サーマルインクジェット型、バブルジェット(登録商標)型等)、静電吸引方式(例えば、電界制御型、スリットジェット型等)及び放電方式(例えば、スパークジェット型等)などを具体的な例として挙げることができるが、いずれの吐出方式を用いても構わない。
尚、前記インクジェット法により記録を行う際に使用するインクノズル等については特に制限はなく、目的に応じて、適宜選択することができる。
【0170】
インクジェット法としては、短尺のシリアルヘッドを用い、ヘッドを記録媒体の幅方向に走査させながら記録を行うシャトル方式と、記録媒体の1辺の全域に対応して記録素子が配列されているラインヘッドを用いたライン方式とがある。ライン方式では、記録素子の配列方向と直交する方向に記録媒体を走査させることで記録媒体の全面に画像記録を行うことができ、短尺ヘッドを走査するキャリッジ等の搬送系が不要となる。また、キャリッジの移動と記録媒体との複雑な走査制御が不要になり、記録媒体だけが移動するので、シャトル方式に比べて記録速度の高速化が実現できる。本発明のインクジェット記録方法は、これらのいずれにも適用可能であるが、一般にダミージェットを行わないライン方式に適用した場合に、吐出精度及び画像の耐擦過性の向上効果が大きい。
【0171】
インクジェットヘッドから吐出されるインクの液滴量としては、高精細な画像を得る観点で、0.5〜6pl(ピコリットル)が好ましく、1〜5plがより好ましく、更に好ましくは2〜4plである。
【0172】
(処理液付与工程)
処理液付与工程は、前記処理液を記録媒体に付与し、処理液をインク組成物と接触させて画像化する。この場合、インク組成物中の樹脂粒子や顔料などの分散粒子が凝集し、記録媒体上に画像が固定化される。なお、処理液における各成分の詳細及び好ましい態様については、既述した通りである。
【0173】
処理液の付与は、塗布法、インクジェット法、浸漬法などの公知の方法を適用して行うことができる。塗布法としては、バーコーター、エクストルージョンダイコーター、エアードクターコーター、ブレードコーター、ロッドコーター、ナイフコーター、スクイズコーター、リバースロールコーター等を用いた公知の塗布方法によって行うことができる。インクジェット法の詳細については、既述の通りである。
【0174】
処理液付与工程は、インク組成物を用いたインク付与工程の前又は後のいずれに設けてもよい。
本発明においては、処理液付与工程で処理液を付与した後に、インク付与工程を設ける態様が好ましい。すなわち、記録媒体上に、インク組成物をインクジェット法で付与(吐出)する前に、予めインク組成物中の顔料を凝集可能な処理液を付与しておき、記録媒体上に付与された処理液に接触するようにインク組成物を吐出して画像化する態様が好ましい。これにより、インクジェット記録を高速化でき、高速記録しても濃度、解像度の高い画像が得られる。
【0175】
処理液の付与量としては、インク組成物を凝集可能であれば特に制限はないが、好ましくは、凝集剤の付与量が0.1g/m以上となる付与量とすることができる。中でも、凝集剤の付与量が0.1〜1.0g/mとなる量が好ましく、より好ましくは0.2〜0.8g/mである。凝集成分の付与量は、0.1g/m以上であると凝集反応が良好に進行し、1.0g/m以下であると光沢度が高くなり過ぎず好ましい。
【0176】
また、本発明においては、処理液付与工程後にインク付与工程を設け、処理液を記録媒体上に付与した後、インク組成物が付与されるまでの間に、記録媒体上の処理液を加熱乾燥する加熱乾燥工程を更に設けることが好ましい。インク付与工程前に予め処理液を加熱乾燥させることにより、滲み防止などのインク着色性が良好になり、色濃度及び色相の良好な可視画像を記録できる。
【0177】
加熱乾燥は、ヒータ等の公知の加熱手段やドライヤ等の送風を利用した送風手段、あるいはこれらを組み合わせた手段により行うことができる。加熱方法としては、例えば、記録媒体の処理液の付与面と反対側からヒータ等で熱を与える方法や、記録媒体の処理液の付与面に温風又は熱風をあてる方法、赤外線ヒータを用いた加熱法などが挙げられ、これらの複数を組み合わせて加熱してもよい。
【0178】
(加熱乾燥工程)
本発明の画像形成方法は、前記インク吐出工程の後、インク組成物の付与により形成されたインク画像を加熱して、インク組成物中の溶媒の少なくとも一部を除去する加熱乾燥工程を有することが好ましい。加熱乾燥処理を施すことにより、後の硬化工程によって密着性と耐擦性により優れた画像を形成することができる。
【0179】
加熱の方法は、特に制限されないが、ニクロム線ヒーター等の発熱体で加熱する方法、温風又は熱風を供給する方法、ハロゲンランプ、赤外線ランプなどで加熱する方法など、非接触で乾燥させる方法を好適に挙げることができる。
【0180】
(硬化工程)
硬化工程は、少なくとも前記処理液付与工程及び前記インク付与工程によって形成された画像に活性エネルギー線を照射し、前記画像を硬化させる工程である。
ここで使用される活性エネルギー線は、α線、γ線、電子線、X線、紫外線、可視光、赤外光などが挙げられる。中でも、紫外線が好ましい。
硬化工程により、画像中のモノマー成分(水溶性の重合性化合物)を確実に重合硬化させることができる。このとき、活性エネルギー線を照射する光源を記録媒体の記録面に対向配置し、記録面の全体を照射すれば、画像全体の硬化を行うことができる。なお、活性エネルギー線を照射する光源は、紫外線照射ランプ、ハロゲンランプ、高圧水銀灯、レーザー、LED、電子線照射装置などを採用することもできる。
活性エネルギー線を照射する硬化工程は、インク付与工程および処理液付与工程の後であれば、前記加熱乾燥工程の前後のいずれに設置されていてもよく、加熱乾燥工程の前後両方に設置してもよい。
【0181】
活性エネルギー線の照射条件としては、重合性化合物が重合硬化可能であれば特に制限されない。例えば活性エネルギー線の波長としては、例えば、200〜600nmであることが好ましく、300〜450nmであることがより好ましく、350〜420nmであることがさらに好ましい。
活性エネルギー線の出力としては、5000mJ/cm以下であることが好ましく、10〜4000mJ/cmであることがより好ましく、20〜3000mJ/cmであることがさらに好ましい。
【0182】
−記録媒体−
本発明の画像形成方法は、記録媒体に上に画像を記録するものである。
記録媒体には、特に制限はないが、一般のオフセット印刷などに用いられる、いわゆる上質紙、コート紙、アート紙などのセルロースを主体とする一般印刷用紙を用いることができる。セルロースを主体とする一般印刷用紙は、水性インクを用いた一般のインクジェット法による画像記録においては比較的インクの吸収、乾燥が遅く、打滴後に色材移動が起こりやすく、画像品質が低下しやすいが、本発明のインクセットを用いた画像形成方法によると、色材移動を抑制して色濃度、色相に優れた高品位の画像の記録が可能である。
【0183】
記録媒体としては、一般に市販されているものを使用することができ、例えば、王子製紙(株)製の「OKプリンス上質」、日本製紙(株)製の「しらおい」、及び日本製紙(株)製の「ニューNPI上質」等の上質紙(A)、王子製紙(株)製の「OKエバーライトコート」及び日本製紙(株)製の「オーロラS」等の微塗工紙、王子製紙(株)製の「OKコートL」及び日本製紙(株)製の「オーロラL」等の軽量コート紙(A3)、王子製紙(株)製の「OKトップコート+」及び日本製紙(株)製の「オーロラコート」等のコート紙(A2、B2)、王子製紙(株)製の「OK金藤+」及び三菱製紙(株)製の「特菱アート」等のアート紙(A1)等が挙げられる。また、インクジェット記録用の各種写真専用紙を用いることも可能である。
【0184】
上記の中でも、色材移動の抑制効果が大きく、従来以上に色濃度及び色相の良好な高品位な画像を得る観点からは、好ましくは、水の吸収係数Kaが0.05〜0.5でmL/m・ms1/2の記録媒体であり、より好ましくは0.1〜0.4mL/m・ms1/2の記録媒体であり、更に好ましくは0.2〜0.3mL/m・ms1/2の記録媒体である。
【0185】
水の吸収係数Kaは、JAPAN TAPPI 紙パルプ試験方法No51:2000(発行:紙パルプ技術協会)に記載されているものと同義であり、具体的には、吸収係数Kaは、自動走査吸液計KM500Win(熊谷理機(株)製)を用いて接触時間100msと接触時間900msにおける水の転移量の差から算出されるものである。
【0186】
記録媒体の中でも、一般のオフセット印刷などに用いられるいわゆる塗工紙が好ましい。塗工紙は、セルロースを主体とした一般に表面処理されていない上質紙や中性紙等の表面にコート材を塗布してコート層を設けたものである。塗工紙は、通常の水性インクジェットによる画像形成においては、画像の光沢や擦過耐性など、品質上の問題を生じやすいが、本発明のインクジェット記録方法では、光沢ムラが抑制されて光沢性、耐擦性の良好な画像を得ることができる。特に、原紙とカオリン及び/又は重炭酸カルシウムを含むコート層とを有する塗工紙を用いるのが好ましい。より具体的には、アート紙、コート紙、軽量コート紙、又は微塗工紙がより好ましい。
【実施例】
【0187】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。尚、特に断りのない限り、「部」及び「%」は質量基準である。
【0188】
≪樹脂分散剤P−1の合成≫
下記に従って合成した。
モノマー供給組成物を、メタクリル酸(172部)、メタクリル酸ベンジル(828部)、及びイソプロパノール(375部)を混合することにより調製した。開始剤供給組成物を、2,2−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)(22.05部)およびイソプロパノール(187.5部)を混合することにより調製した。
次に、イソプロパノール(187.5部)を窒素雰囲気下、80℃に加温した中に、上記モノマー供給組成物及び上記開始剤供給組成物の混合物を、2時間かけて滴下した。滴下終了後、更に4時間、80℃に保った後に、25℃まで冷却した。
冷却後、溶媒を減圧除去することにより、重量平均分子量約50000の樹脂分散剤P−1を得た。
【0189】
≪ブラックインク組成物(K1)の作製≫
<ブラック顔料分散物K1の作製>
上記で得られた樹脂分散剤P−1(150部)を、水酸化カリウム水溶液を用いて、樹脂分散剤中のメタクリル酸量の0.8当量を中和し、さらにイオン交換水を加えて、樹脂分散剤の濃度が20質量%となるように樹脂分散剤水溶液を調製した。
この樹脂分散剤水溶液(117部)と、カーボンブラック顔料(Printex300、エボニックデグサ(株)製)(52.5部)と、イオン交換水(75.5部)と、ジプロピレングリコール(105部)と、を混合し、ビーズミル(ビーズ径0.1mmφ、ジルコニアビーズ)で所望の体積平均粒子径を得るまで分散し、顔料濃度15質量%の樹脂被覆ブラック顔料粒子の分散物N1(未架橋分散物)を得た。
上記分散物N1(136部)に対して超純水(100部)、Denacol EX−321(0.9部)、ホウ酸水溶液(ホウ酸濃度4質量%水溶液、9.9部)添加し、50℃にて6時間半反応後、25℃に冷却した。さらに、得られた架橋分散物を、攪拌型ウルトラホルダー(ADVANTEC社製)及び限外ろ過フィルター(分画分子量5万、Q0500076Eウルトラフィルター、ADVANTEC(株)製)を用いて、イオン交換水を加えて限外ろ過を行い、分散物中のジプロピレングリコール濃度が顔料の総質量に対して1質量%以下となるように精製した後、顔料濃度15質量%となるまで濃縮してブラック顔料分散物K1を得た。
また、得られたブラック顔料分散物K1を0.1部、イオン交換水を19.9部混合し、これを用いてナノトラック粒度分布測定装置UPA−EX150(日機装(株)製)によって2次粒子の体積平均粒子径を測定したところ、130nmであった。
【0190】
<シアン顔料分散物C1の作製>
上記で得られた樹脂分散剤P−1(150部)を、水酸化カリウム水溶液を用いて、樹脂分散剤中のメタクリル酸量の0.8当量を中和し、さらにイオン交換水を加えて、樹脂分散剤の濃度が20質量%となるように樹脂分散剤水溶液を調製した。
この樹脂分散剤水溶液(117部)と、シアン顔料(ピグメントブルー15:3、大日精化(株)製)(52.5部)と、イオン交換水(75.5部)と、ジプロピレングリコール(100部)と、を混合し、ビーズミル(ビーズ径0.1mmφ、ジルコニアビーズ)で所望の体積平均粒子径を得るまで分散し、顔料濃度15質量%の樹脂被覆シアン顔料粒子の分散物N2(未架橋分散物)を得た。
上記分散物N2(136部)に対して超純水(100部)、Denacol EX−321(0.9部)、ホウ酸水溶液(ホウ酸濃度4質量%水溶液、9.9部)添加し、50℃にて6時間半反応後、25℃に冷却した。さらに、得られた架橋分散物を、攪拌型ウルトラホルダー(ADVANTEC社製)及び限外ろ過フィルター(分画分子量5万、Q0500076Eウルトラフィルター、ADVANTEC(株)製)を用いて、イオン交換水を加えて限外ろ過を行い、分散物中のジプロピレングリコール濃度が顔料の総質量に対して1質量%以下となるように精製した後、顔料濃度15質量%となるまで濃縮してシアン顔料分散物C1を得た。
また、得られたシアン顔料分散物C1を0.1部、イオン交換水を19.9部混合し、これを用いてナノトラック粒度分布測定装置UPA−EX150(日機装(株)製)によって2次粒子の体積平均粒子径を測定したところ、80nmであった。
【0191】
<マゼンタ顔料分散物M1の作製>
上記で得られた樹脂分散剤P−1(150部)を、水酸化カリウム水溶液を用いて、水樹脂分散剤中のメタクリル酸量の0.8当量を中和し、さらにイオン交換水を加えて、樹脂分散剤の濃度が20質量%となるように樹脂分散剤水溶液を調製した。
この樹脂分散剤水溶液(78.8部)と、マゼンタ顔料(ピグメントレッド122、大日精化(株)製)(52.5部)と、イオン交換水(106.7部)と、ジプロピレングリコール(112部)と、を混合し、ビーズミル(ビーズ径0.1mmφ、ジルコニアビーズ)で所望の体積平均粒子径を得るまで分散し、顔料濃度15質量%の樹脂被覆マゼンタ顔料粒子の分散物N3(未架橋分散物)を得た。
上記分散物N3(136部)に対して超純水(100部)、Denacol EX−321(0.6部)、ホウ酸水溶液(ホウ酸濃度4質量%水溶液、6.6部)を添加し、50℃にて6時間半反応後、25℃に冷却した。さらに、得られた架橋分散物を、攪拌型ウルトラホルダー(ADVANTEC社製)及び限外ろ過フィルター(分画分子量5万、Q0500076Eウルトラフィルター、ADVANTEC(株)製)を用いて、イオン交換水を加えて限外ろ過を行い、分散物中のジプロピレングリコール濃度が顔料の総質量に対して1質量%以下となるように精製した後、顔料濃度15質量%となるまで濃縮してマゼンタ顔料分散物M1を得た。
また、得られたマゼンタ顔料分散物M1を0.1部、イオン交換水を19.9部混合し、これを用いてナノトラック粒度分布測定装置UPA−EX150(日機装(株)製)によって2次粒子の体積平均粒子径を測定したところ、80nmであった。
【0192】
<重合性化合物2の合成>
攪拌機を備えた1Lの三口フラスコに4,7,10−トリオキサ−1,13−トリデカンジアミン40.0g(182mmol)、炭酸水素ナトリウム37.8g(450mmol)、水100g、テトラヒドロフラン300gを加えて、氷浴下、アクリル酸クロリド35.2g(389mmol)を20分かけて滴下した。滴下後、室温で5時間攪拌した後、得られた反応混合物から減圧下でテトラヒドロフランを留去した。次に水層を酢酸エチル200mlで4回抽出し、得られた有機層を硫酸マグネシウムで乾燥後、ろ過を行い、減圧下溶媒留去することにより目的の重合性化合物2の固体を35.0g(107mmol、収率59%)得た。
重合性化合物2の構造を以下に示す。
【0193】
【化20】

【0194】
<ブラックインク組成物(インク1)の作製>
下記組成を混合し、ADVANTEC社製ガラスフィルター(GS−25)でろ過した後、ミリポア社製フィルター(PVDF膜、孔径5μm)でろ過を行い、ブラックインク組成物(インク1)を作製した。
【0195】
〜ブラックインク組成物(インク1)の組成〜
・ブラック顔料分散物K1 … 13.3部
・シアン顔料分散物C1 … 2.7部
・マゼンタ顔料分散物M1 … 4部
・上記重合性化合物2 … 10部
・ヒドロキシエチルアクリルアミド … 10部
・オルフィンE1010(日信化学工業(株)製、界面活性剤) … 1部
・ポリビニルピロリドン(PVP K15、アイエスピージャパン(株)製)… 1部
・イルガキュア2959(BASFジャパン(株)製;光重合開始剤) … 3部
・イオン交換水 … 合計で100部になる残量
【0196】
<ブラックインク組成物(インク2〜5、10〜11)の作製>
ブラックインク組成物(インク1)の作製において、カーボンブラック顔料、シアン顔料、及びマゼンタ顔料の含有率をそれぞれ下記表1のように変え、かつ、必要に応じてインク組成物中のイオン交換水の量をインク全体で100部となるように調整したこと以外はブラックインク組成物(インク1)と同様にして、ブラックインク組成物(インク2〜5、10〜11)を作製した。
【0197】
<ブラックインク組成物(インク6〜9)の作製>
ブラックインク組成物(インク1)の作製において、ブラックインク組成物中におけるヒドロキシエチルアクリルアミドと重合性化合物2との総量を20部に固定した上で、ヒドロキシエチルアクリルアミドと重合性化合物2との総量(即ち、重合性化合物の総量)に対するヒドロキシエチルアクリルアミド(即ち、単官能の重合性化合物)の比率(質量%)を、下記表1に示すように変更したこと以外はブラックインク組成物(インク1)と同様にして、ブラックインク組成物(インク2〜5、10〜11)を作製した。
【0198】
<ブラックインク組成物(インク12〜16)の作製>
ブラックインク組成物(インク1)の作製(詳しくは、ブラック分散物K1の作製)において、カーボンブラック顔料の種類を、下記表1に示すように変更したこと以外はブラックインク組成物(インク1)と同様にして、ブラックインク組成物(インク12〜16)を作製した。
表1において、NIPEX170、Special Black5、及びPrintex35は、いずれもエボニックデグサ(株)製のカーボンブラック顔料であり、MA100及びMA14は、いずれも三菱化学(株)製のカーボンブラック顔料である。
【0199】
≪処理液の調製≫
下記組成の成分を混合して、処理液を調製した。
処理液の粘度、表面張力、及びpH(25±1℃)は、粘度2.5mPa・s、表面張力40mN/m、pH1.0であった。
ここで、表面張力は協和界面科学(株)製 全自動表面張力計CBVP−Zを用いて測定し、粘度はブルックフィールドエンジニアリング社製、DV-III Ultra CPを用いて測定した。pHは、東亜ディーケーケー(株)製PHメーター HM−30Rを用いて測定した。
【0200】
〜処理液の組成〜
・マロン酸(和光純薬工業(株)製) … 11.3%
・DL−リンゴ酸(扶桑化学工業(株)製) … 14.5%
・トリプロピレングリコールモノメチルエーテル(東京化成(株)製) … 4.0%
・ジエチレングリコールモノブチルエーテル(ダイセル化学工業(株)製 …4.0%
・イオン交換水 … 合計で100%になる残量
【0201】
≪画像形成および評価≫
<画像形成>
GELJET GX5000プリンターヘッド(リコー社製のフルラインヘッド)を備えた評価用プリンタを用意し、これに繋がる貯留タンクに上記で得た黒色系インク組成物を詰め替えた。記録媒体として三菱製紙(株)製の「特菱アート両面N」を、500mm/秒で所定の直線方向に移動可能なステージ上に固定し、ステージ温度を30℃に保持した。これに上記で得た処理液をワイヤーバーコーターで約1.5g/mとなる量にて塗布し、塗布直後に50℃で2秒間乾燥させた。
その後、インクジェットヘッドを、前記ステージの移動方向(副走査方向)と直交する方向に対して、ノズルが並ぶラインヘッドの方向(主走査方向)が75.7度傾斜するように固定配置し、記録媒体を副走査方向に定速移動させながらインク液滴量3pL、吐出周波数25.5kHz、解像度1200dpi×1200dpiの吐出条件にてライン方式で吐出してベタ画像を記録した。画像を記録した後、インク着滴面の裏側(背面)から赤外線ヒータで加熱しながら、送風器により120℃、5m/secの温風を記録面に15秒間あてて乾燥させた。画像乾燥後、UV光(アイグラフィックス(株)製メタルハライドランプ、最大照射波長365nm)を積算照射量0.8J/cmになるように照射して画像を硬化して印画サンプルを得た。
【0202】
<耐擦性評価>
上記で得られた印画サンプルを25℃、50%RHの環境下に15分間放置した。放置後のサンプルのベタ画像表面上に、画像形成していない特菱アート両面N(以下、本評価において未使用サンプルという。)を重ねて荷重200kg/mをかけて10往復擦った。その後、未使用サンプルとベタ画像を目視で観察し、下記の評価基準に従って評価した。評価結果を表1に示す。
【0203】
〜耐擦性の評価基準〜
A:未使用サンプルへの色の付着が認められず、かつ、擦られたベタ画像の劣化も認められなかった。
B:未使用サンプルへの色の付着が僅かに認められたが、擦られたベタ画像の劣化は認められなかった。
C:未使用サンプルへの色の付着が認められ、かつ、擦られたベタ画像の一部(ベタ画像面積の半分未満)が劣化した。
D:未使用サンプルへの色の付着が認められ、かつ、擦られたベタ画像面積の半分以上が劣化した。
※Dは実用上問題となるレベルである。
【0204】
<耐ブロッキング性評価>
上記で得られた印画サンプルを2cm四方に裁断し、25℃、60%RHの環境下で1時間保管し、耐ブロッキング性評価用サンプルを作製した。この耐ブロッキング性評価用サンプルを2枚準備した。
次に、2枚の耐ブロッキング性評価用サンプルを画像部同士が接するように重ね、荷重350kg/mをかけて密着させた状態で、60℃、30%RHの環境下で24時間放置した。
24時間放置後、2枚の耐ブロッキング性評価用サンプルを剥離し、剥離面(画像部)を目視で観察し、下記評価基準に従って耐ブロッキング性評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0205】
〜耐ブロッキング性の評価基準〜
A:2枚の耐ブロッキング性評価用サンプルを剥離するときに貼り付き感がなく、かつ、剥離面において画像の剥がれが認められなかった。
B:剥離面の1箇所のみにおいて、画像部同士の接着に起因する画像の剥がれが認められた。
C:2枚の耐ブロッキング性評価用サンプルを剥離するときに貼り付き感があり、かつ、剥離面の2箇所以上において、画像部同士の接着に起因する画像の剥がれが認められた。
D:2枚の耐ブロッキング性評価用サンプルを剥離するときに顕著な貼り付き感があり、かつ、剥離面の全面において、画像部同士の接着に起因する画像の剥がれが認められた。
【0206】
<画像の色相変動及び光学濃度>
画像の網点密度を種々変化させたこと以外は上記画像形成と同様にして、網点密度10%から100%まで10%毎のグレー画像をそれぞれ形成した。
得られた各グレー画像のL*、a*、b*値(L*, a*, b*)をグレタグマクベス社製のスペクトロスキャンで計測した。同様に、非画像部のL*、a*、b*値(L*、a*、b*)も計測した。
これらの計測値から下記式により、各グレー画像について、非画像部との色差(ΔEab)をそれぞれ計算した。
ΔEab={(a*−a*+(b*−b*1/2
次に、各グレー画像におけるΔEabの変動(最大値と最小値との差の絶対値)を求め、下記評価基準に従って画像の色相変動を評価した。
また、網点密度100%の画像について、画像の光学濃度(OD)を測定した。
表1に、画像の色相変動の評価結果、及び、網点密度100%の画像の光学濃度を示す。
【0207】
〜画像の色相変動の評価基準〜
A:ΔEabの変動が2より小さく色相変動が小さく良好であった。
B:ΔEabの変動が2以上4未満で実用上許容できる範囲であった。
C:ΔEabの変動が4以上6未満で実用上許容できない範囲であった。
D:ΔEabの変動が6以上で色相変動が顕著であった。

【0208】
【表1】



【0209】
表1に示すように、カーボンブラック顔料の平均一次粒子径が20nm以上35nm未満であり、カーボンブラックの含有比率が、全顔料の総量に対して70質量%以下であり、全顔料の総量が黒色系インク組成物の総量に対して4質量%以下である実施例では、色相変動が抑制され、耐ブロッキング性及び耐擦性に優れていた。
一方、カーボンブラックの含有比率が全顔料の総量に対して70質量%を超えるインク2(比較例)及びインク10(比較例)、並びに、全顔料の総量が黒色系インク組成物の総量に対して4質量%を超えるインク10(比較例)及びインク11(比較例)では、色相変動が増大し、耐ブロッキング性及び耐擦性が低下した。
また、カーボンブラック顔料の平均一次粒子径が20nm未満であるインク12(比較例)では、耐擦性及び耐ブロッキング性が低下した。
また、カーボンブラック顔料の平均一次粒子径が35nmを超えるインク15(比較例)では、色相変動が増大し、耐ブロッキング性が低下した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボンブラック顔料と、マゼンタ顔料及びシアン顔料から選ばれる少なくとも1種の着色顔料と、水溶性の重合性化合物と、重合開始剤と、水と、を含有し、
前記カーボンブラック顔料の平均一次粒子径が20nm以上35nm未満であり、
前記カーボンブラック顔料の含有比率が全顔料の総量に対して70質量%以下であり、
全顔料の総量が黒色系インク組成物の総量に対して4質量%以下であるインクジェット記録用の黒色系インク組成物。
【請求項2】
前記カーボンブラック顔料及び前記少なくとも1種の着色顔料は、塩生成基を有する樹脂でその表面の少なくとも一部が被覆されている請求項1に記載の黒色系インク組成物。
【請求項3】
前記水溶性の重合性化合物は、多官能の重合性化合物及び(メタ)アクリルアミド構造を有する単官能の重合性化合物を含む請求項1又は請求項2に記載の黒色系インク組成物。
【請求項4】
前記塩生成基を有する樹脂は、架橋剤によって架橋されている請求項2又は請求項3に記載の黒色系インク組成物。
【請求項5】
前記塩生成基を有する樹脂は、芳香環構造及び脂環構造の少なくとも1種を有する請求項2〜請求項4のいずれか1項に記載の黒色系インク組成物。
【請求項6】
前記重合開始剤は、下記一般式(1)で表される化合物である請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の黒色系インク組成物。
【化1】


〔式中、mおよびnは、それぞれ独立に0以上の整数を表し、m+nは0〜3の整数を表す〕
【請求項7】
アセチレングリコール系界面活性剤をさらに含む請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載の黒色系インク組成物。
【請求項8】
全顔料の総量が黒色系インク組成物の総量に対して1.8質量%以上である請求項1〜請求項7のいずれか1項に記載の黒色系インク組成物。
【請求項9】
前記カーボンブラック顔料の含有比率が全顔料の総量に対して50質量%以上である請求項1〜請求項8のいずれか1項に記載の黒色系インク組成物。
【請求項10】
請求項1〜請求項9のいずれか1項に記載の黒色系インク組成物と、
前記黒色系インク組成物と接触することで凝集体を形成可能な凝集剤を含む処理液と、
を含むインクジェット記録用のインクセット。
【請求項11】
前記凝集剤は酸性化合物である請求項10に記載のインクセット。
【請求項12】
請求項10又は請求項11に記載のインクセットが用いられ、
前記処理液を記録媒体に付与する処理液付与工程と、
前記黒色系インク組成物を記録媒体に付与するインク付与工程と、
前記処理液付与工程及び前記インク付与工程によって形成された画像に活性エネルギー線を照射し、前記画像を硬化させる硬化工程と、
を有する画像形成方法。

【公開番号】特開2013−47311(P2013−47311A)
【公開日】平成25年3月7日(2013.3.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−186610(P2011−186610)
【出願日】平成23年8月29日(2011.8.29)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】