説明

黒色腫における治療応答のための早期指標としての黒色腫阻害性活性(MIA)タンパク質の使用

【課題】 黒色腫阻害性薬剤での処置に対する黒色腫腫瘍細胞を有する哺乳動物の対象の応答を測定するための方法を提供すること。
【解決手段】 (a)黒色腫阻害性薬剤での処置の前に哺乳動物の対象から採取した第一の生物学的試料中の黒色腫阻害性活性タンパク質(MIA)の第一の濃度を測定し;(b)黒色腫の、阻害性薬剤での処置の後に取られる哺乳動物の対象からの第二の生物学的試料中のMIAの第二の濃度を測定し;そして(c)MIAの第一と第二の濃度を比較することを含み、ここで、第一の生物学的試料中で測定されるMIAの第一の濃度と比較して第二の生物学的試料中で測定されるMIAの第二の濃度の減少が、黒色腫阻害性薬剤での処置に対する陽性応答を指示することを見いだした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、黒色腫に罹患している哺乳動物の対象において黒色腫腫瘍細胞の阻害剤での処置に対する応答のための早期指標としての黒色腫阻害性活性(MIA)タンパク質の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
黒色腫についての全体的な発症率は、米国において男性および女性の中で増加しつつある(Edwards B.K. et al., J. Nat. Cancer Inst. 97:1407−1427 (2005)を参照)。1981年以来、増加率は1年当り約3%である。米国がん学会からの推計によれば、2005年には米国で約59,580人の黒色腫の新たな症例があって、約7,700人が本疾患で死亡した(American Cancer Society Cancer Facts and Figures 2005、Amer. Cancer Soc. 2005:1-62)。転移性の黒色腫に対するFDA承認の処置としては、ダカルバジン、インターフェロン−アルファおよびインターロイキン−2が含まれる。しかしながら、播種性疾患を有する患者の予後は不良のままであり、米国では16%またはそれ以下の5年生存率である。現在の処置の限定的な有効性のため、新しい治療法の必要性が特に切実である。抗血管新生剤、Rafキナーゼ阻害剤およびワクチンのような新しい処置が現在開発中であって、この疾患を持つ患者の生存の改善を提供し得る(Mandara M. et al., Expert Rev. Anticancer Ther. 6:121−130 (2006))。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
黒色腫の高い発症率および現行の処置の限定的な有効性に鑑み、黒色腫阻害性薬剤候補の有効性を測定するために、哺乳動物の対象において治療応答のための正確な早期指標として役立ち得る黒色腫のバイオマーカーおよび黒色腫のバイオマーカーのためのアッセイが必要とされる。
【課題を解決するための手段】
【0004】
前述の事項にしたがい、一つの局面では、黒色腫阻害性薬剤での処置に対する黒色腫腫瘍細胞を有する哺乳動物の対象の応答を測定するための方法が提供される。本方法は、(a)黒色腫阻害性薬剤での処置の開始前に採取した第一の生物学的試料中の黒色腫阻害性活性タンパク質(MIA)の第一の濃度を測定し;(b)黒色腫阻害性薬剤での処置の開始後に採取した哺乳動物の対象からの第二の生物学的試料中のMIAの第二の濃度を測定し;そして(c)MIAの第一と第二の濃度を比較することを含み、ここで第一の生物学的試料中で測定されるMIAの第一の濃度と比較して第二の生物学的試料中で測定されるMIAの第二の濃度の減少が、黒色腫阻害性薬剤での処置に対する陽性応答を指示する。
【0005】
もう一つの局面では、本発明は、黒色腫を有する哺乳動物の対象において黒色腫を処置するための黒色腫阻害性薬剤の有効性を評価する方法を提供する。本方法は、(a)黒色腫阻害性薬剤での処置の開始前に採取した第一の生物学的試料中の黒色腫阻害性活性タンパク質(MIA)の第一の濃度を測定し;(b)黒色腫阻害性薬剤での処置の開始後に採取した哺乳動物の対象からの第二の生物学的試料中のMIAの第二の濃度を測定し;そして(c)MIAの第一と第二の濃度を比較することを含み、ここで第一の生物学的試料中で測定されるMIAの第一の濃度と比較して第二の生物学的試料中で測定されるMIAの第二の濃度の減少が、黒色腫を処置するための阻害性薬剤の有効性を指示する。
【0006】
もう一つの局面では、本発明は、患者が黒色腫阻害性薬剤での処置を受けることを継続すべきかどうかを決定する方法を提供する。本方法は、(a)黒色腫阻害性薬剤での処置の開始前に採取した第一の生物学的試料中の黒色腫阻害性活性タンパク質(MIA)の第一の濃度を測定し;(b)黒色腫阻害性薬剤での処置の開始後に採取した哺乳動物の対象からの第二の生物学的試料中のMIAの第二の濃度を測定し;(c)MIAの当該第一と第二の濃度を比較し、そして(d)第二のMIAの濃度が第一のMIAの濃度と比較して少なくとも20%低減していれば、該患者は黒色腫阻害性薬剤での処置を継続すべきであると決定することを含む。
【0007】
なおもう一つの局面では、本発明は、黒色腫の処置における有用性を有する薬剤を確認する方法を提供する。本方法は、(a)黒色腫哺乳動物細胞株に薬剤投与前に培養黒色腫哺乳動物細胞株から採取した第一の試料中の黒色腫阻害性活性タンパク質(MIA)の第一の濃度を測定し;(b)黒色腫哺乳動物細胞株に薬剤投与後に黒色腫哺乳動物細胞株から採取した第二の試料中のMIAの第二の濃度を測定し;(c)MIAの第一と第二の濃度を比較し、そして(d)MIAの第二の濃度がMIAの第一の濃度と比較して少なくとも20%低減していれば、該薬剤が黒色腫の処置に有用性を有すると決定することを含む。
【図面の簡単な説明】
【0008】
前述の局面および本発明の多くの付随的な利点は、付随する図と一緒にして、以下の詳細な説明を参照することにより本発明がさらに良く理解されるに連れて、更に容易に認識できるようになるであろう、ここで:
【図1】図1Aは種々の哺乳動物および非哺乳動物の種から単離されたMIAタンパク質のアミノ酸配列の整列(alignment)を提供し;図1Bは霊長類より単離されたMIAタンパク質のアミノ酸配列の整列を提供し;
【図2】図2は、実施例1に記述される通り、MIAが黒色腫の細胞株からの培養液の中に分泌されるが、大腸がん細胞株では分泌されないことを立証するMIAのELISAアッセイの結果を図示し;
【図3】図3は、実施例2に記述される通り、無処置非腫瘍保持マウス(n=4)およびA375Mヒト黒色腫の細胞を移植して凡そ250mmの体積の腫瘍を有する無胸腺ヌードマウス(n=10)についてのMIAのELISAアッセイの結果を図示し;
【図4】図4Aは、実施例2に記述される通り、A375Mヒト黒色腫を異種移植したマウスモデルにおいてCHIR-265の経口投与により誘導される腫瘍の増殖阻害に応答してMIAの血漿レベルが減少することを図示し;図4Bは、実施例2に記述される通り、MEXF 276ヒト黒色腫細胞を異種移植したマウスモデルにおいてCHIR-265およびソラニフェブの経口投与により誘導される腫瘍の増殖阻害に応答してMIAの血漿レベルが減少することを図示し;図4Cは、実施例2に記述される通り、MEXF 1341ヒト黒色腫細胞を異種移植したマウスモデルにおいてCHIR-265およびソラニフェブの経口投与により誘導される腫瘍の増殖阻害に応答してMIAの血漿レベルが減少することを図示し;
【図5】図5Aは、実施例3に記述される通り、A375Mヒト黒色腫細胞を異種移植したマウスモデルにおいてCHIR-258およびCHIR-265での処置に応答してMIAの血漿レベルの早期変化を図示し;図5Bは、実施例3に記述される通り、ビークル対照と比較して、CHIR-258でもしくはCHIR-265での投与前(0日目)ならびに処置後3、8および13日目のA375Mヒト黒色腫腫瘍を保持するマウスにおける腫瘍の体積を示し;
【図6】図6Aは、実施例4に記述される通り、ビークル対照と比較して、CHIR-258(30mg/kgおよび80mg/kgで)での投与前(0日目)ならびに処置後8および22日目のCHL-1ヒト黒色腫腫瘍を保持するマウスにおける腫瘍の体積を示し;図6Bは、実施例4に記述される通り、CHL-1ヒト黒色腫異種移植マウスモデルにおいてCHIR-258(30mg/kgおよび80mg/kgで)での処置に応答してMIAの血漿レベルの早期変化を図示する。
【発明を実施するための形態】
【0009】
好ましい態様の詳細な説明
本明細書中で具体的に定義されない限り、本明細書中で使用される全ての用語は、それらが本発明の当業者が理解するであろうものと同一の意味を有する。以下の定義は、本発明を記述するためにそれらが明細書および請求項で使用されるときに、用語に関して明瞭性を提供するために提供する。
【0010】
本明細書中で使用される用語“哺乳動物の対象における処置に対する陽性応答”とは、黒色腫阻害性薬剤での処置後に腫瘍容積の低減および/もしくは腫瘍増殖の阻害を指す。
【0011】
一つの局面では、黒色腫阻害性薬剤での処置に対する黒色腫腫瘍細胞を有する哺乳動物の対象の応答を決定する方法が提供される。本方法は:(a)黒色腫阻害性薬剤での処置の開始前に採取した第一の生物学的試料中の黒色腫阻害性活性タンパク質(MIA)の第一の濃度を測定し;(b)黒色腫阻害性薬剤での処置の開始後に取られる哺乳動物の対象からの第二の生物学的試料中のMIAの第二の濃度を測定し;そして(c)MIAの第一および第二の濃度を比較することを含み、ここで、第一の生物学的試料中で測定されるMIAの第一の濃度に比較して第二の生物学的試料中で測定されるMIAの第二の濃度における減少が黒色腫阻害性薬剤での処置に対する陽性応答を指示する。
【0012】
本明細書中で使用される用語“黒色腫阻害性活性タンパク質(MIA)”とは、GenBank受託番号NM_006533の下でリストされるcDNAによりコード化される、受託番号NP_006524の下でとしてGenBankデータベースの中に公的に入手可能である12kDaの可溶性タンパク質およびMIAタンパク質の少なくとも10個の連続的な残基を含む哺乳動物の同族体もしくはそのフラグメントを指す。MIAは、フィブロネクチンおよびラミニン分子に結合することにより細胞外マトリックスからの黒色腫細胞の脱離に関与し、それにより細胞−マトリックス相互作用を阻害すると示されている(Brockez L. et al., Br. J. Dermatol. 143:256−268 (2000))。MIAは、ヒトHTZ-19黒色腫細胞株の上澄み液から当初単離された(Bogdahn U. et al., Cancer Res. 49:5358−5363 (1989))。図1Aに示される通り、ヒトのMIAタンパク質は131個のアミノ酸であり、そこでは最初の24個のアミノ酸はMIAの細胞外区分への分泌を指示するシグナル配列を含む。成熟、分泌ヒトMIAは107個のアミノ酸である。
【0013】
図1Aにさらに示される通り、MIAタンパク質の同族体は、例えば、ラット(r)、マウス(m)、チンパンジー(chimp)、アカゲザル(rh)、イヌ(d)、ウシ(bov)、ハムスター(ham)およびフグ(pf)を含む種々の哺乳動物のならびに非哺乳動物の種の中に確認されている。2006年7月20日に受託されたヒトのMIAアミノ酸配列は、GenBank番号NP_006524に提供され;マウスのMIAタンパク質は、GenBank番号NP_062267として提供され;ラットのMIAタンパク質は、GenBank番号NP_110479として提供され、ハムスターのMIAタンパク質は、GenBank番号AAF76220として提供され、ウシのMIAタンパク質は、GenBank番号NP_776361として提供され、アカゲザルのMIAタンパク質は、GenBank番号XP_001098600として提供され、イヌのMIAタンパク質は、GenBank番号XP_541610として提供され、チンパンジーのMIAタンパク質は、GenBank番号XP_512675として提供され、そしてフグのMIAタンパク質は、GenBank番号AAL26991として提供されている(それらのそれぞれは、出典明示により本明細書の一部とする)。
【0014】
一つの態様では、本発明の実施に有用なMIAタンパク質は、図1Aに示される、GenBank番号NP_006524に提供されている、ヒトのMIAタンパク質のアミノ酸配列、もしくはMIAタンパク質の少なくとも10個の連続的な残基を含むそのフラグメントに少なくとも70%同一(例えば、少なくとも80%同一、または少なくとも90%同一、少なくとも95%同一、少なくとも99%同一)である。
【0015】
用語“パーセント同一性”もしくは“パーセント同一な”は、MIAタンパク質と共に使用されるときには、候補のおよび対象の配列を最大のパーセント同一性を達成するように整列した後で、対象のアミノ酸配列と同一である候補のアミノ酸配列におけるアミノ酸残基の百分率として定義される。例えば、二つのアミノ酸配列の間の同一性百分率を、the National Center for Biotechnology Information (NCBI), U.S. National Library of Medicine, 8600 Rockville Pike, Bethesda, Md. 20894, U.S.Aのウエブサイトにおけるbl2seqインターフェイスを用いる二つの配列の対比較により決定することができる。bl2seqインターフェイスは、Tatiana A., et al.,“Blast 2 Sequences - A New Tool for Comparing Protein and Nucleotide Sequences”, FEMS Microbiol Lett. 174:247−250, 1999により記述されるブラストツールを用いる配列の整列を許容する。以下の整列パラメターが使用される:マトリックス=BLOSUM62;ギャップ・オープン・ペナルティー=11;ギャップ伸長ペナルティー=1;ギャップx_ドロップオフ=50;期待=10.0;ワード・サイズ=3;およびフィルター=オフ。
【0016】
図1Aは、例示的MIA同族体のアミノ酸配列の整列を提供する。図1Aの中に示されるMIAの種々の同族体についてのパーセント同一性は表1の中に下で提供されている。図1B、および表1の中に示される通り、霊長類のMIAアミノ酸配列は非常に高度に保存されていて、ヒトおよびチンパンジーは同一の配列を有する。
【0017】
【表1】

【0018】
MIAは分泌されたタンパク質であって、それ故に、血液(血漿および血清を含む)、尿を含む生化学的流体のような利用可能な組織、および黒色腫腫瘍生検試料のような組織試料でそれを検出することができる。それ故に、処置の前後に測定されるMIAの存在もしくは濃度を使用して、実施例1〜2に記述されそして図2〜4に示される通り、黒色腫阻害性薬剤での処置に対する哺乳動物の対象の応答を決定し得る。処置の前のMIAの濃度に比較して、黒色腫阻害性薬剤候補での処置の後で測定されるMIAの濃度の減少は、実施例3〜4に記述されそして図4〜5Bに示される通り、哺乳動物の対象の中で黒色腫を処置するための薬剤の有効性の早期のかつ正確な指針として役立つ。
【0019】
本発明のこの局面にしたがい、第一の生物学的試料は、黒色腫阻害性薬剤での処置開始前に哺乳動物の対象から採取され、第二の生物学的試料は、黒色腫阻害性薬剤での処置開始後に少なくとも一回哺乳動物の対象から採取した。ある態様では、対象(例えば、前臨床試験での対象)からの複数処置した生物学的試料が、黒色腫阻害性薬剤での処置開始後、周期的な時間間隔に亘り採取される。
【0020】
本明細書中で使用される用語“処置”とは、黒色腫に関連する症状の軽減、またはこれらの症状のさらなる進行もしくは悪化の停止、または黒色腫の防止もしくは予防のための一つもしくはそれ以上の黒色腫阻害性薬剤(複数を含む)の投与を指す。例えば、成功的処置としては、腫瘍の増殖速度減速、腫瘍増殖停止、腫瘍サイズ減少、黒色腫の部分的もしくは完全な寛解、または生存率増加もしくは臨床的有用性により測定される、症状の軽減または疾患の進行停止が含まれる。用語“処置の開始”とは、黒色腫阻害性薬剤(複数を含む)の投与開始時点を指す。
【0021】
例えば、生物学的試料は、処置の開始後に毎日、または黒色腫阻害性薬剤での処置開始後、少なくとも3日〜3ヶ月までまたはそれより長い周期ベースで、処置された対象から採取し得る。ある態様では、処置された対象からの生物学的試料は、処置の開始前におよび処置開始後、3日〜3ヶ月(例えば1週間以内に、2週間以内に、1ヶ月以内に、2ヶ月以内に、もしくは3ヶ月以内に)の期間内に少なくとも一度採取される。
【0022】
本明細書中で意図される、黒色腫阻害性薬剤のための処置計画は、当業者に周知である。例えば、黒色腫阻害性薬剤は、7、14、21、もしくは28日間毎日それを必要とする患者に投与し、その後7もしくは14日該化合物を投与しないが、それに限定されない。ある態様では、処置サイクルは、一定量の黒色腫阻害性薬剤を毎日7日間投与して、その後7日間該化合物を投与しない。処置サイクルは、一回もしくはそれ以上の回数で繰り返されて、処置のコースを提供する。加えて、黒色腫阻害性薬剤を、処置サイクルの投与相の間、毎日一回、二回、三回、もしくは四回投与し得る。他の態様では、方法は、処置のコースの間、毎日または隔日に一回、二回、三回、もしくは四回一定量の黒色腫阻害性薬剤を投与することをさらに含む。
【0023】
ある態様では、処置計画はさらに、処置サイクルの一部として黒色腫阻害性薬剤を投与することを含む。処置サイクルは、黒色腫阻害性薬剤が定期的ベースで対象に投与される投与相と、化合物を投与しない休薬日を含む。例えば、処置サイクルは、一定量の黒色腫阻害性薬剤を7、14、21、もしくは28日間毎日投与し、その後7もしくは14日間該薬剤を投与しないことを含み得る。ある態様では、処置サイクルは、一定量の黒色腫阻害性薬剤を7日間毎日投与して、その後7日間該薬剤を投与しないことを含む。処置サイクルは、一回もしくはそれ以上の回数で繰り返されて、処置のコースを提供し得る。加えて、黒色腫阻害性薬剤を、処置サイクルの投与相の間、毎日一回、二回、三回、もしくは四回投与し得る。他の態様では、方法はさらに、処置のコースの間毎日または隔日に一回、二回、三回、もしくは四回一定量の黒色腫阻害性薬剤を投与することを含む。処置のコースとは、対象が現在の方法によりがんの処置を受ける期間を指す。かくして、処置のコースは、一回それ以上の処置サイクルまで拡張されるか、または対象が毎日もしくは間欠的に黒色腫阻害性薬剤投与を受ける期間を指し得る。
【0024】
生物学的試料は、組織試料、または血液もしくは尿の試料のような、哺乳動物対象からの流体試料、または黒色腫生検試料のような臨床試料であり得る。ある態様では、生物学的試料は血液試料である。血液試料は、MIAタンパク質の存在もしくは濃度を測定するのに適する任意の型の血液試料であり得る。例えば、全血;血漿(例えば、遠心分離により分離される);または血漿からの血清(例えば、血液の凝固もしくは血清分離管により得られる)を、本発明の方法の実施に使用し得る。
【0025】
本発明の方法は、ヒト、アカゲザル、チンパンジー、マウス、ラット、イヌ、ウシ、ウサギ、モルモット、ハムスター、ヤギ、ヒツジ、またはウマのような黒色腫腫瘍細胞を有する任意の哺乳動物の対象において実施され得る。
【0026】
哺乳動物の対象から採取した第一の生物学的試料中のMIAタンパク質の存在または濃度は、MIAタンパク質の量を検出および/または測定する能力のある任意のアッセイを用いて測定され得る。例えば、MIAタンパク質の存在または濃度は、免疫蛍光法染色、流量血球計算法、質量分光測定法、免疫細胞化学、免疫組織化学、免疫ブロット法、またはELISAを用いて測定され得る。一つの態様では、MIAタンパク質の濃度は、ELISAアッセイまたはウエスタンブロットのように、MIAに特異的に結合する抗体を用いて哺乳動物の対象の生物学的試料中で測定される。血液試料中のMIAのレベルを検出するための例示的ELISAアッセイは、実施例1で記述されている。
【0027】
もう一つの態様では、MIAタンパク質の濃度は、実施例1で記述されている通り、ウエスタンブロット分析を用いて生物学的試料中で測定される。
【0028】
もう一つの態様では、MIAタンパク質の濃度は、免疫組織化学の手順を用いて生物学的試料中で測定される。例えば、パラフィン包埋ヒト黒色腫細胞ペレット、黒色腫の異種移植片ならびに患者から単離される黒色腫のおよび正常な皮膚組織のような生物学的試料を用いて、免疫組織化学によりMIA発現レベルを評価し得る。そのような免疫組織化学の手順を、当業者に公知の方法を用いて行ってよく、例えば、抗原の回収のために細胞調整1標準プロトコールを用いるVentana Discovery Autostainer (Ventana Medical Systems, Inc., Tucson, AZ)で、MIAの検出を達成し得る。組織切片をヒトMIAに対する抗体および前免疫IgG対照(Novartis AG, Emeryville, CA)と共に1〜20μg/mlで加熱無しで30〜120分間培養する。Ventata Universal Secondary (Ventana Medical Systems, Inc.)を組織切片に加えて、10〜60分間培養し、次いで検出のためにVentana DABMap (Ventana Medical Systems, Inc)を加える。Ventana HematoxylinおよびBluing Reagent (Ventana Medical Systems, Inc.)を対比染色として使用し得る。切片を無水アルコールで脱水し、キシレンで浄化し、合成マウンティング媒体を用いてカバーガラスをつける。
【0029】
本発明のこの局面の方法にしたがって、処置の開始前に対象から採取した第一の生物学的試料中で測定されるMIAの第一の濃度に比較して(もしくは予め定められた参照レベルに比較して)黒色腫阻害性薬剤での処置の開始後に対象から採取した第二の生物学的試料中で測定されるMIAの第二の濃度の減少が、阻害性薬剤での処置に対する対象内での陽性応答を指示する。実施例3および4に示される通り、黒色腫阻害性薬剤での処置の開始後の哺乳動物の対象からの生物学的試料中のMIAの濃度の統計学的に有意な減少と、黒色腫腫瘍細胞を有し、阻害性薬剤での処置を受けていない哺乳動物の対象と比較した哺乳動物の対象の中の黒色腫腫瘍負荷における相当する減少の間に、相関関係が観測されている。
【0030】
本方法のある態様では、処置開始後3〜8日のように、黒色腫阻害性薬剤での処置後の早期の時点で採取される生物学的試料中のMIAの濃度の減少が、処置された哺乳動物の対象の腫瘍負荷の低減の早期の指標(例えば、予測的)である。ある態様では、腫瘍負荷の低減は、処置の開始における腫瘍容積に比較して腫瘍容積の退化によるものであり、それにより阻害性薬剤が黒色腫のがん細胞に細胞毒性であることが示される。他の態様では、腫瘍負荷の低減は、黒色腫阻害性薬剤を受けていない哺乳動物の対象に比較して腫瘍の増殖の阻害によるものであり、それにより阻害性薬剤が黒色腫のがん細胞に細胞増殖抑制性であることが示される。
【0031】
ある態様では、処置されていない対象から採取した生物学的試料に比して、処置後3ヶ月以内に哺乳動物の対象から採取した生物学的試料中で測定されるMIAレベルの少なくとも20%の減少が、黒色腫阻害性薬剤への陽性応答を指示する。ある態様では、処置されていない対象から採取した生物学的試料に比して、処置後3日以内に哺乳動物の対象から採取した生物学的試料中で測定されるMIAレベルの少なくとも20%の減少が、黒色腫阻害性薬剤への陽性応答を指示する。
【0032】
本発明のこの局面の方法を実施して、小分子、タンパク質治療薬、抗体、核酸分子のような任意の黒色腫阻害性薬剤での処置に対する哺乳動物の応答を測定し得る。本明細書中で使用される、黒色腫阻害性薬剤は、培養された細胞の中でインビトロでおよび/もしくは哺乳動物の対象の中でインビボでのいずれかで、黒色腫細胞の増殖阻害を引き起こす全ての薬剤である。本発明の実施で有用な黒色腫阻害性薬剤の例としては、CHIR-265、ソラフェニブ、CHIR-258、ダカルバジン、(DTIC, DTIC-Dome[登録商標])、テモゾロミド(Temodar[登録商標])、カルムスチン(BCNU, BiCNU[登録商標])、ロムスチン(CeeNU[登録商標])、IL-2 (Proleukin[登録商標])、およびインターフェロンアルファ−2b(IntonA[登録商標])が含まれるが、それらに限定されない。
【0033】
一つの態様では、本発明の方法を使用して、実施例2〜4でさらに詳述する通り、CHIR-265、ソラフェニブおよびCHIR-258からなる群より選択される黒色腫阻害性薬剤での処置に対する黒色腫腫瘍細胞を有する哺乳動物の応答を測定する。
【0034】
現在はRFB-265として知られている、CHIR-265は、構造:
【化1】

を有する化合物{1−メチル−5−[2−(5−トリフルオロメチル−1H−イミダゾール−2−イル)−ピリジン−4−イルオキシ]−1H−ベンゾイミダゾール−2−イル}−(4−トリフルオロメチル−フェニル)−アミンである。
【0035】
CHIR-265は、Venetsanakos E. et al., Proc. Amer. Assoc. Cancer Res. 2006:47: Abstract 4854; Amiri P. et al., Proc. Amer. Assoc. Cancer Res. 2006:47: Abstract 4855; and Stuart D. et al., Proc. Amer. Assoc. Cancer Res. 2006:47: Abstract 4856(それらの全ては、出典明示により本明細書の一部とする)に記述される通り、新規なRaf/VEGFRの阻害剤である。
【0036】
現在はTKI258として知られている、CHIR-258は、米国特許番号第6,774,237号の中で記述される通り、化合物4−アミノ−5−フルオロ−3−[5−(4−メチルピペラジン−1−イル)−1H−ベンズイミダゾール−2−イル]キノリン−2(1H)−オンである。CHIR-258は、Lopes de Menezes DE et al., Clin. Cancer Res. 2005:11: 5281−5291 and Lee SH et al., Clin. Cancer Res. 2005:11:3633−3641(それらの全ては、出典明示により本明細書の一部とする)に記述される通り、複数の標的を有するRTK阻害剤である。
【0037】
ソラフェニブ(“BAY 43-9006”としてまた知られる)は、Wilhelm S.M. et al., Cancer Res. 64:7099−7109 (2004)(出典明示により本明細書の一部とする)に記述される通り、Rafおよび受容体チロシンキナーゼ(RTK)の阻害剤である。
【0038】
一つの態様では、本発明の方法を使用して、CHIR-265での処置に対する黒色腫腫瘍細胞を有する哺乳動物の応答を測定する。この態様にしたがって、100mg/kgで隔日にCHIR-265を経口投与された黒色腫腫瘍担持動物から得られる生物学的試料で、MIAのレベルが急速に減少したことが観察されている。図5に示されて、実施例3に記述する通り、MIAのレベル(27.8ng/mlの中央値レベルで出発して)は、CHIR-265(100mg/kg)で処置された動物で、3日目までに10.4ng/mlの中央値レベルに減少し(62%低減)、それは3日目に測定した29%の腫瘍の退化に関連した(図5Bを参照)。
【0039】
もう一つの態様では、本発明の方法を使用して、CHIR-258での処置に対する黒色腫腫瘍細胞を有する哺乳動物の応答を測定する。この態様にしたがって、13日間の期間に亘り10回、60mg/kgでCHIR-265を経口投与した黒色腫腫瘍担持動物から得られる生物学的試料で、MIAのレベルが減少したことが観察されている。図4Aで示される通り、MIAの統計学的に有意な減少が、CHIR-258(60mg/kg)で処置された動物で3日目までに観測され、それは8日目に測定される腫瘍の増殖阻害に関連した(図5Bを参照)。
【0040】
ある態様では、処置前にヒトの対象から得られる第一の生物学的試料中のMIAの濃度に比較して、処置後にヒトの対象から得られる、血液の血清のような、第二の生物学的試料中のMIAの濃度の減少は、早期の有効性エンドポイントとして利用され、臨床試験に参加した対象において腫瘍負荷を低減する黒色腫阻害性薬剤の有効性を予測する。
【0041】
本発明の方法を使用して、任意の適当な投与経路を介して投与される黒色腫阻害性薬剤での処置に対する哺乳動物の対象の応答を測定し得る。黒色腫阻害性薬剤は医薬組成物で投与され得る。医薬の当業者に既知の、従来の方法を使用して、従来の経路(例えば、経口、皮下、肺内、経粘膜、腹腔内、尿内、舌下、髄腔内もしくは筋肉内経路)を介して標準的な方法により哺乳動物の対象に医薬組成物を投与することができる。例えば、投与に望ましい製剤の型に依存して、広範囲の型をとり得る、薬学的に許容される担体、ビークルもしくは賦形剤と配合されるかまたはと共に投与され得る。例えば、経口投与型で組成物を調製するには、例えば、水、グリコール、油、アルコール等のような任意の通常の薬学的媒体を使用し得る。
【0042】
本発明の方法を使用して、哺乳動物に投与すべき黒色腫阻害性薬剤の効果的な量を決定し得る。効果的な量は、処置を受けている哺乳動物で望ましい治療利益をもたらすのに一般的に十分な量もしくは服用量を意味する。黒色腫阻害性薬剤の効果的な量もしくは服用量は、モデル化、服用量の段階的な拡大研究もしくは臨床試験のような日常的な方法により、ならびに投与の方式もしくは経路または薬物送達のような日常的要素、薬剤の薬動力学、黒色腫の重篤度および経過、対象の以前のもしくは実施中の治療、対象の健康状態および薬物に対する応答を考慮に入れることにより決定され得る。例示的な服用量は、対象の体重のkg当り一日当り約0.001〜約200mg、好ましくは約0.05〜100mg/kg/日、もしくは1〜35mg/kg/日の範囲にある。これに代えて、投与量を、隔日に一回(例えば、0.05〜100mg/kgを隔日に)のように周期的な根拠で投与し得る。
【0043】
もう一つの局面では、本発明は、哺乳動物の対象が黒色腫阻害性薬剤での処置を受けることを継続すべきかどうかを決定する方法を提供する。本発明のこの局面の方法は、(a)黒色腫阻害性薬剤での処置の開始前に採取した第一の生物学的試料中の黒色腫阻害性活性タンパク質(MIA)の第一の濃度を測定し;(b)黒色腫阻害性薬剤での処置の開始後に採取した哺乳動物の対象からの第二の生物学的試料中のMIAの第二の濃度を測定し;(c)MIAの当該第一および第二の濃度を比較し;そして(d)MIAの第二の濃度がMIAの第一の濃度に比較して少なくとも20%低減されるならば、該患者が黒色腫阻害性薬剤での処置の継続を決定することを含む。本発明のこの局面にしたがう方法は、本明細書中で記述されているものを含む、任意の黒色腫阻害性薬剤を用いて実施され得る。ある態様では、第二の生物学的試料は、処置の開始前におよび処置後3日〜3ヶ月(例えば1週間以内に、2週間以内に、1ヶ月以内に、2ヶ月以内に、もしくは3ヶ月以内に)の期間内に少なくとも一回対象から採取した。
【0044】
もう一つの局面では、本発明は、黒色腫を有する哺乳動物の対象の中で黒色腫を処置するための黒色腫阻害性薬剤の有効性を評価する方法を提供する。本方法は、(a)黒色腫阻害性薬剤での処置の開始前に採取した第一の生物学的試料中の黒色腫阻害性活性タンパク質(MIA)の第一の濃度を測定し;(b)黒色腫阻害性薬剤での処置の開始後に採取した哺乳動物の対象からの第二の生物学的試料中のMIAの第二の濃度を測定し;そして(c)MIAの第一および第二の濃度を比較することを含み;そこでは第一の生物学的試料中で測定されるMIAの第一の濃度に比較して、第二の生物学的試料中で測定されるMIAの第二の濃度の減少が黒色腫を処置するための阻害性薬剤の有効性を指示する。
【0045】
ある態様では、本発明のこの局面の方法はさらに、阻害性薬剤での処置前に;および阻害性薬剤の投与後に少なくとも一回哺乳動物の対象において少なくとも一つの黒色腫腫瘍の体積を測定することならびに処置開始前におよび処置後に取る腫瘍体積の測定を比較して、腫瘍体積が減少するかを決定することを含む。本発明のこの局面のある態様では、腫瘍体積の測定可能な減少の検出前のMIAの血清濃度の減少が、黒色腫の処置のための阻害性薬剤の有効性と正に相関する。例えば、実施例3に記述される通り、黒色腫阻害性薬剤CHIR-258(60mg/kg)での処置が、3日目までのMIAの血清濃度の統計学的に有意な減少をもたらしたことが黒色腫の異種移植片のマウスモデルにおいて観察され、これは8日目に観察されるビークルで処置された対象に比較して腫瘍負荷の統計学的に有意な低減の検出に先立ち、そして予測的であった(図5Aおよび5Bを参照)。さらに、異なる黒色腫阻害性薬剤での処置、例えば、CHIR-265の処置(3ng/mlにおける検出レベル以下のMIA,>97%腫瘍増殖阻害);ソラフェニブの処置(MIA28.9ng/ml,69%腫瘍増殖阻害)によりもたらされる腫瘍の低減の程度は、MIAの血漿レベルと相関した。
【0046】
哺乳動物の対象の中の腫瘍体積は、任意の当分野で認められている方法を用いて測定され得る。例えば、ノギスの測定を用いて、実施例2に記述される通り、式:(a×b)×0.5(式中、“a”は最大直径であって、“b”は直径に垂直の長さである)を用いて腫瘍体積を評価する。ヒトのような哺乳動物の対象の中で腫瘍の収縮を検出するための他の有用な技法は、コンピュータ断層撮影法(CT)走査、磁気共鳴映像(MRI)走査のような映像技法を含む。映像技法と組合せる腫瘍の収縮は、Jour Natl. Cancer Instit. 92: 205-216 (2000)(出典明示により本明細書の一部とする)に記述される通り、Response Evaluation Criteria In Solid Tumors(RECIST)基準を用いて典型的に評価される。陽電子放出断層撮影法(PET)、フルオロデオキシグルコース-PET(FDG−PET)を含む他の技法を用いて、インビボでの腫瘍代謝活性を評価し得て、DNA合成はフルオロデオキシチミジン-PET(FLT−PET)を用いて評価され得る。前臨床モデルについては、ルシフェラーゼ遺伝子のようなマーカー遺伝子で遺伝学的に修飾される黒色腫腫瘍細胞の使用を伴う別の技法を使用し得る。
【0047】
本発明の方法を用いて、前臨床試験におけるように、動物モデルにおいて一つもしくはそれ以上の黒色腫阻害性薬剤候補の有効性を評価し得る。例えば、本発明の方法の態様の実施は、下の実施例2の中にヒト黒色腫の異種移植片の腫瘍モデルを用いて記述されている。
【0048】
なおもう一つの局面において、本発明は、黒色腫の処置において有用性を有する薬剤を確認する方法を提供する。本方法は、(a)黒色腫哺乳動物細胞株に薬剤投与前に培養黒色腫哺乳動物細胞株から採取した第一の試料中の黒色腫阻害性活性タンパク質(MIA)の第一の濃度を測定し;(b)黒色腫哺乳動物細胞株に薬剤を投与後に黒色腫哺乳動物細胞株から採取した第二の試料中のMIAの第二の濃度を測定し;(c)MIAの第一および第二の濃度を比較し;そして(d)MIAの第二の濃度がMIAの第一の濃度に比較して少なくとも20%低減されるならば、該薬剤が黒色腫の処置において有用性を有すると決定することを含む。
【0049】
本発明のこの局面の方法は、黒色腫に罹患している哺乳動物の対象の処置における治療的使用のための黒色腫阻害性薬剤候補である全ての型の薬剤を用いて実施し得る。例えば、薬剤は、小分子、タンパク質の治療薬、抗体、もしくは核酸分子であり得る。ある態様では、本方法を実施して、小分子のコンビナトリアルライブラリーのような、複数の薬剤から一つもしくはそれ以上の薬剤を同定する。本薬剤は、当業者に周知の方法を用いて、培養された黒色腫の哺乳動物細胞に、薬剤の型に適する任意の様式で投与され得る。ある態様では、本明細書に記述の通り、CHIR-265、ソラフェニブもしくはCHIR-258のような、陽性対照の黒色腫阻害性薬剤と共に方法を実施し得る。実施例1の中にさらに記述される通り、G361、SKMEL-28、A375MおよびCHL-1からなる群より選択される、例えば、ヒトの黒色腫哺乳動物細胞株のような、任意の黒色腫哺乳動物細胞株を用いて、本方法を実施し得る。
【0050】
本発明の好ましい態様が説明され、記述されているが、本発明の精神および範囲を逸脱すること無しに種々の変化をそこで為し得ることが認識されるであろう。
【実施例1】
【0051】
この実施例は、MIAがヒト黒色腫細胞株中で発現され、そこから分泌されて、そしてヒト大腸がん細胞株では発現されないことを立証する。
【0052】
方法:
細胞株:ヒト黒色腫の細胞株G361、SKMEL-28およびCHL-1;ならびに大腸がんの細胞株、HCT−116、はthe American Type Culture Collection (ATCC) (Manassas, VA)から得られた。ヒト黒色腫の細胞株A375Mおよびヒト大腸がんの細胞株HT−29Pはthe University of Texas, M.D. Anderson Cancer Center (Houston, TX) から得られた。
【0053】
細胞培養:G361、A375MおよびHT−29Pの細胞株をマッコイの5A培地で培養し;SKMEL-28細胞株を最小必須培地(MEM)に維持し;CHL-1細胞株をダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)で増殖させ;そしてHCT−116細胞株をRPMI 1640培地の中で培養した。全ての細胞培養培地に、10%仔牛血清、2mML-グルタミン、1mMピルビン酸ナトリウム、1X MEMビタミン、1X MEMアミノ酸および1X MEM非必須アミノ酸を補った。全ての細胞株を37℃で5%COの、加湿した大気中で維持した。
【0054】
ウエスタンブロット分析:ヒト黒色腫の細胞株(A375M、G361、SKMEL-28およびCHL-1)ならびにヒト大腸がんの細胞株(HT−29PおよびHCT−116)をリン酸緩衝生理食塩水(PBS、Mediatech, Inc. , Herndon, VA)で2回洗浄し、新鮮な1mMフッ化フェニルメチルスルホニル、Complete Mini Protease Inhibitor Cocktail錠剤(2錠/溶菌緩衝液25ml)(Roche Diagnostics GmbH, Mannheim, Germany)および1X Phosphatase Inhibitor Cocktail II(Sigma−Aldrich, St. Louis, MO)を含むRIPA緩衝液(50mM Tris HCl、pH7.4、150mM NaCl、1mM EDTA、1mM EGTA、2mMオルトバナジウム酸ナトリウム、20mMピロリン酸塩、1%Triton X−100、1%デオキシコール酸ナトリウムおよび0.1%SDS)の中で、氷上で20分間溶菌した。溶菌物を遠心管の中に収集し、14K RPM、4℃で20分遠心分離して、QIAshredderチューブ(QIAGEN, Inc., Valencia, CA)を通して濾過した。タンパク質濃度を、製造業者のプロトコール(Pierce, Rockford, IL)にしたがってBCAアッセイを用いて測定した。試料を、Novex[登録商標] 18%Tris−グリシンゲル(Invitrogen, Carlsbad, CA)を用いる標準的な方法によりウエスタンブロット用に処理した。MIAを、5%乾燥ミルクを含有するTBST(0.1% Tween[登録商標]20を含有するTris緩衝生理食塩水、Fisher Scientific, Hampton, NH)の中で1:1000に希釈したヤギポリクローナル抗体(R&D Systems, Minneapolis, MN)で検出して、4℃で終夜培養した。第二抗体は、1:5000に希釈した西洋ワサビペルオキシダーゼ・コンジュゲート・抗ヤギ抗体(Vector Laboratories, Burlingame, CA)であった。タンパク質のバンドを、Enhanced Chemiluminescence(Amersham Biosciences, Piscataway, NJ)を用いて可視化した。同じ装填および移送をβ−アクチン検出(Sigma-Aldrich, St. Louis, MO)により確認した。商業的供給源二社(Axxora, LLC, San Diego, CAおよびProSpec−Tany TechnoGene, LTD, Rehovot, Israel)からのヒト遺伝子組換えMIAタンパク質(分子量12-kDa)を陽性対照として使用した。
【0055】
MIAのELISAアッセイ:同数のヒト黒色腫のおよび大腸がんの細胞(それぞれの細胞株について約250,000個の細胞)を組織培養用プレートの上に撒いて、48時間後にそれぞれの細胞株について培養液を収集した。培養液もしくは血漿中のMIAレベルを、製造業者のプロトコールにしたがって市販の1工程ELISAキット (Roche Diagnostics Corporation, Indianapolis, IN)により測定した。被検試料中のMIA濃度を、3〜37ng/mlの範囲にある標準曲線を用いて計算した。MIA濃度が最高の標準濃度を超えたときには、試料を1:5に希釈して、再びアッセイして、結果が標準曲線の線の範囲の中に収まるようにした。データを、有意水準としてP≦0.05を用いる、スチューデントのt検定(両側分布、二試料不均等分散)を用いて、評価した。
【0056】
結果:試験された全てのヒト黒色腫の細胞株(A375M、G361、SKMEL-28およびCHL-1)について、検出可能なレベルのMIAタンパク質がウエスタンブロットで観察されて、ヒト大腸がん(HT−29PおよびHCT−116)の細胞株では観察されなかった(データを示さない)。黒色腫の細胞株で観察されたMIAタンパク質は、陽性対照の遺伝子組換えMIAタンパク質(分子量12kDa)と同じに移動した。ウエスタンブロットの上で同じ装填および移送をβ−アクチン検出(Sigma-Aldrich, St. Louis, MO)により確認した。
【0057】
図2は、黒色腫のおよび大腸がんの細胞株からの培地の中へのMIAの分泌を測定するELISAアッセイの結果を示す。図2に示される通り、MIAの分泌は黒色腫の細胞株A375M、G361、SKMEL-28およびCHL-1で検出されたが、大腸がんの細胞株HT−29PおよびHCT−116では検出されなかった。破線(- - - -)はアッセイの検出限界(3ng/ml)を示す。
これらの結果は、MIAが黒色腫の細胞株により発現されて分泌されるが、大腸がんの細胞株ではそうで無いことを立証する。
【実施例2】
【0058】
この実施例は、MIAが、ヒト黒色腫腫瘍担持マウスにおいて腫瘍の負荷について代理マーカーとして使用され得ることを立証する。
【0059】
方法:
動物モデル:
A375ヒト黒色腫の異種移植試験を、Charles River Laboratories (Wilmington, MA)から購入した雌性の無胸腺nu/nuマウス(8〜12週令)で行った。およそ2.5×10個の細胞をマウスの後側腹部領域に皮下(s.c.)で移植した。腫瘍が平均サイズの250mm(n=10)に到達したときに、血漿試料を収集して、MIA分析前に−80℃に保存した。投与を典型的には、腫瘍が平均サイズの250mmに到達したときに開始した。図3に示される通り、非腫瘍担持(無処置)マウス(n=4)からの血漿試料を比較のためにまた収集した。ノギスの測定を週二回実施して、式:(a×b)×0.5(式中、“a”は最大直径であって、“b”は直径と垂直の長さである)を用いて腫瘍体積を評価した。
【0060】
MEXF 276ヒト黒色腫腫瘍外植片異種移植試験およびMEXF1341ヒト黒色腫腫瘍外植片異種移植試験を以下の通りに行った。MEXF 276ヒト黒色腫腫瘍細胞およびMEXF1341ヒト黒色腫腫瘍外植片細胞は、異なる黒色腫患者から単離された外科標本(Oncotest GmbH, Institute for Experimental Oncology, Frieburg, Germanyから入手)から当初誘導され、ヌードマウスの中で異種移植片として増殖させた。ドナーマウスから腫瘍を摘出後、試料をフラグメント(直径1〜2mm)に切断して、RPMI 1640培地に置いた後で、レシピエントの雄性NMRI nu/nuマウス(6〜8週齢)に皮下移植した。投与を典型的には、腫瘍が直径で平均サイズの6〜8mmに到達したときに開始した。動物は無菌フィルタートップ・ケージの中で、クリーンルームの状態下で維持され、無菌げっ歯類用固形飼料および水を自由に摂取させた。
【0061】
治療薬:小分子化合物CHIR-265、ソラフェニブおよびCHIR-258は、Chiron Corporation(Emeryville, CA)で合成された。CHIR-265およびソラフェニブをPEG400緩衝液の中で調剤し;CHIR-258は水の中に溶解された。CHIR-265は新規なRaf/VEGFR阻害剤である(Venetsanakos E. et al., Proc. Amer. Assoc. Cancer Res. 2006:47: Abstract 4854; Amiri P. et al., Proc. Amer. Assoc. Cancer Res. 2006:47: Abstract 4855; and Stuart D. et al., Proc. Amer. Assoc. Cancer Res. 2006:47: Abstract 4856を参照)。CHIR-258は複数の標的を有するRTK阻害剤である(Lopes de Menezes DE et al., Clin. Cancer Res. 2005:11: 5281−5291; Lee SH et al., Clin. Cancer Res. 2005:11:3633−3641を参照)。ソラフェニブは、Rafおよび受容体チロシンキナーゼ(RTK)の阻害剤である(Wilhelm S.M. et al., Cancer Res. 64:7099−7109 (2004)を参照)。
【0062】
治療薬での処置:
第一の実験では、A375Mヒト黒色腫腫瘍担持マウス(n=5)を無作為化して、100mg/kg(n=5)のCHIR-265でもしくはビークル(n=5)を、隔日に一回経口投与した。PEG400緩衝液単独で処置された腫瘍担持マウスをビークル対照として使用した。薬物処置後の腫瘍増殖の阻害(TGI)の百分率を100×[1−(平均腫瘍体積薬物処置/平均腫瘍体積ビークル処置)]として計算した。4回目の投与(10日目)後の48時間に、ELISAによるMIA分析用に血漿試料を収集した。MIAのELISA分析の結果を図4Aに示す。
【0063】
第二の実験では、MEXF 276ヒト黒色腫腫瘍担持マウスを無作為化して、CHIR-265(100もしくは10mg/kg)またはソラフェニブ(100mg/kg)n=4/群で経口投与した。投与の第一日を0日目と定めた。これ自体、CHIR-265についての投与スケジュールは、0、2、4、6、14、16および20日目に10mg/kgであった。CHIR-265については、投与スケジュールは0、2、14、16および20日目に100mg/kgであった。最後に、ソラフェニブおよびPEG400ビークルについての投与スケジュールは、0〜20日目に毎日100mg/kgであった。腫瘍体積を各週2回測定して、腫瘍増殖の阻害の百分率を上で記述される通りに測定した。腫瘍体積の測定値を表2に示す。20日目の最終投与後4時間に血漿試料を収集して、MIA分析前に−80℃で保存した。MIAの血漿レベルを、実施例1の中で記述される通りに行ったELISAアッセイにより測定した。MIAのELISAアッセイの結果を図4Bに示す。
【0064】
第三の実験では、MEXF 1341ヒト黒色腫腫瘍を保持するマウスを無作為化して、CHIR-265(100もしくは10mg/kg)またはソラフェニブ(100mg/kg)n=4/群で経口投与した。投与の第一日を0日目と定めた。それ自体では、CHIR-265(10mg/kg)の投与スケジュールは、0、2、4、6、14、16および20日目に10mg/kgであった。CHIR-265(100mg/kg)については、投与スケジュールは、0、2、14、16および20日目に100mg/kgであった。最後に、ソラフェニブおよびPEG400ビークルの投与スケジュールは、0〜20日目に毎日100mg/kgであった。腫瘍体積を各週二回測定して、腫瘍増殖の阻害の百分率を上で記述される通りに測定した。腫瘍体積の測定値を表2に示す。20日目の最終投与後4時間に血漿試料を収集して、MIA分析前に−80℃で保存した。MIAの血漿レベルを、実施例1の中で記述される通りに行ったELISAアッセイにより測定した。MIAのELISAアッセイの結果を図4Cに示す。
【0065】
結果:
図3は、無処置の非腫瘍担持マウス(n=4)およびA375Mヒト黒色腫の細胞を移植されて体積およそ250mmの腫瘍を有する無胸腺ヌードマウス(n=10)についてのMIAのELISAアッセイの結果を示す。図3に示される通り、16〜48ng/ml(中央値=31ng/ml)の範囲にあるMIAの血漿レベルが、黒色腫腫瘍を保持するマウスの中に検出された。対照的に、無処置動物でのMIAのELISAアッセイから得られた値はアッセイの検出限界(図3の中で破線により示される通り3ng/ml)以下であった。これらの結果は、ヒト黒色腫の細胞を保持するマウスの中でインビボでMIAが分泌されて、ELISAにより血漿の中に検出され得ることを立証する。
【0066】
【表2】

【0067】
図4は、A375M黒色腫の異種移植マウスモデルにおいてCHIR-265の経口投与により誘導される腫瘍増殖の阻害に応答してMIAの血漿レベルが減少することを図示している。グラフ上のそれぞれの点は個別の動物から得られたデータを表す。ビークル対CHIR-265の処置の比較におけるMIAの血漿レベルについては、スチューデントのt検定により測定される通りP≦0.05であった。グラフの破線はアッセイの検出限界(3ng/ml)を示す。上の表2に示される通り、ビークルおよびCHIR-265の処置群について10日目の平均腫瘍体積は、それぞれ436±69.5および133±14.1mm(±SE)(P<0.02)であった。それ故に、100mg/kgで隔日に経口投与されるCHIR-265は、最初の腫瘍体積(250mm)と比較して4回の投与後に殆ど50%有意な腫瘍の縮小を引き起こした。これは、ビークルの処置と比較するとき70%の腫瘍増殖の阻害に相当した(p<0.02)。図4Aに示される通り、MIAの血漿レベルの有意な減少がこの腫瘍縮小と関連していた。全ての薬物処置動物におけるMIAレベルは、CHIR-265の4回投与後には検出下限(4ng/ml)近くであった。対照的に、ビークルで処置されたマウスは、中央値のMIA濃度69.2ng/ml(21ng/ml〜119ng/mlの範囲にある)を有していて、これはCHIR-265で処置されたマウス(n=5/群)より17倍更に高かった(P≦0.05)。
【0068】
図4Bは、MEXF 276黒色腫の異種移植マウスモデルにおいてCHIR-265およびソラフェニブの経口投与により誘導される腫瘍増殖の阻害に応答してMIAの血漿レベルが減少することを図示する。表2の中に上で示される通り、平均腫瘍体積は、ビークル(2902±374mm)、100mg/kgでのCHIR-265(19±2.9mm)、10mg/kgでのCHIR-265(58±15.2mm)およびソラフェニブ(887±196mm)(±SE)について20日目の測定値であった(全ての薬物で処置された群対ビークル群についてP<0.007)。それ故に、CHIR-265のおよびソラフェニブの処置は、MEXF 276黒色腫のモデルにおいて有意な腫瘍増殖の阻害を引き起こして、両用量のCHIR-265により誘導される>97%の腫瘍増殖の阻害およびソラフェニブの処置で69%の腫瘍増殖の阻害があった。図4Bに示される通り、これらの腫瘍阻害の応答は、処置された動物においてMIAの血漿レベルの有意な減少と関連していた。ソラフェニブ処置群(28.9ng/ml)と比較してビークルからの中央値のMIAの血漿濃度は(113.5ng/ml)であった。CHIR-265で処置された群からのMIAの血漿レベルは検出限界以下であった(全ての薬物処置対ビークルについてP<0.04)。加えて、異なる処置からもたらされる腫瘍低減の程度はMIAの血漿レベルと相関していて、例えばCHIR-265処置(MIA検出されず、腫瘍増殖の阻害>97%);ソラフェニブ処置(MIA28.9ng/ml、腫瘍増殖の阻害69%)であった。
【0069】
図4Cは、MEXF 1341黒色腫の異種移植マウスモデルにおいてCHIR-265およびソラフェニブの経口投与により誘導される腫瘍増殖の阻害に応答してMIAの血漿レベルが減少することを図示する。表2の中に上で示される通り、平均腫瘍体積は、ビークル(1895±535mm)、100mg/kgでのCHIR-265(575±214mm)、10mg/kgでのCHIR-265(1190±291mm)およびソラフェニブ(1338±264mm)(±SE)について20日目の測定値であった(全ての薬物処置群対ビークル群についてP>0.08)。それ故に、CHIR-265のおよびソラフェニブの処置は、両用量のCHIR-265により誘導される37%〜70%の腫瘍増殖の阻害をもってMEXF 1341黒色腫モデルにおいて有意な腫瘍増殖の阻害を引き起こさなかったことが観測された。図4Cに示される通り、MEXF276と比較してMEXF1341異種移植においては基準の血漿MIA値の更に低いレベルにも拘わらず、両方のCHIR-265処置に応答してMIAの有意な(2倍)低減が検出された(P<0.02)。ソラフェニブ処置はまた、MIAの血漿レベルを低減した(P>0.17)。A375MのおよびMEXF276の異種移植モデルで観察される結果と一致して、異なる処置からもたらされるMEXF1341の異種移植モデルにおける腫瘍低減の程度は血漿のMIAレベルと相関した。異種移植モデルのMEXF276およびMEXF1341の結果はヒトの腫瘍について予測的であるが、それは腫瘍細胞がヒト黒色腫の患者から単離されて、ヌードマウスの中で継代培養されたからである。これらの腫瘍細胞は培養では増殖されなかったので、それらはヒト対象における元の腫瘍の特色を更に密接に模倣する。
【0070】
これらの結果は、MIAの血漿レベルが黒色腫腫瘍担持動物において腫瘍負荷および黒色腫阻害性薬剤での処置への応答に対する高感度の代理マーカーとして役立つことを指示する。
【実施例3】
【0071】
この実施例は、MIAが前臨床黒色腫モデルにおいて抗腫瘍薬の活性に対する早期のかつ正確な指標であることを立証する。
【0072】
方法:薬物処置後の血漿中のMIA濃度の動力学を以下の通りに検討した。A375Mの腫瘍を保持するマウスに、CHIR-265(100mg/kg)、CHIR-258(60mg/kg)もしくはビークル(n=10/群)のいずれかを経口投与した。血漿試料を投与開始前、ならびに3、8および13日目に再び収集した。腫瘍体積を実施例2の中に記述される方法を用いて、同じ時点で測定した。
【0073】
結果:図5Aは、A375Mヒト黒色腫の異種移植モデルにおけるCHIR-258およびCHIR-265での処置に応答するMIAの血漿レベルの早期かつ有意な変化を図示する。ビークル対全ての比較についてP<0.05。エラーバーは標準誤差(SE)を指示する。破線はアッセイの検出限界を指示する。
【0074】
図5Bは、CHIR-258もしくはCHIR-265での処置後3、8および13日目におけるA375Mヒト黒色腫腫瘍を保持するマウスにおける腫瘍体積をビークル対照と比較して示す。CHIR-265対ビークルについてP<0.01、CHIR-258対ビークルについてΦP<0.005。エラーバーは標準誤差(SE)を指示する。
【0075】
図5Aおよび図5Bの中の結果は、CHIR-258およびCHIR-265の両方とも3日目までにMIAの血漿濃度の統計学的に有意な減少をもたらし、それは処置中減少し続けた(P<0.05)ことを示す。0日目に測定された基準値のMIA濃度は27.8ng/kgであった。MIAの血漿濃度の低減はCHIR-265での処置で更に多く著明であり、これは腫瘍阻害をもたらしたが縮小はもたらさなかったCHIR-258に比較して、腫瘍縮小を誘導した。CHIR-265での処置後、MIA濃度は3日目までに10.4ng/mlに減少していて、29%の腫瘍縮小と関連したMIC濃度の62%の低減であった(図5A)。13日目までに、MIAの濃度はCHIR-265で処置された群では検出不能であった。CHIR-258の処置は腫瘍増殖の阻害をもたらしたが、しかしながら縮小は観察されなかった。それにもかかわらず、MIAのレベルは3日目までにビークルと比較して統計学的に有意な更に低いレベルに低減して、基準値と比較して13日目に63%低減した。
【0076】
これらのデータは、MIAが薬物活性の早期指標であることおよびELISAにより検出される血中MIAレベルの変化が腫瘍負荷の観察され得る体積変化に先行することを立証する。化合物CHIR-265およびCHIR-258での処置は種々の程度の腫瘍増殖の阻害および/もしくは腫瘍縮小をもたらして、腫瘍負荷に対するこれらの効果と同時に、MIAの血漿レベルの有意かつ相関する減少があった。例えば、CHIR-265の処置はMIAレベルの迅速かつ有意な減少を伴う腫瘍縮小を誘導し、一方ではCHIR-258の処置はMIAレベルのより劇的でない低減を伴う腫瘍増殖の阻害をもたらした。
【0077】
もう一つの有意な観察は、MIAレベルが腫瘍体積がしたよりも更に早期におよび更に大きな幅で減少したことである。これは、投与スケジュールにおける早期の時点でのMIAレベルの有意な減少により例証された。CHIR-258の処置で観察される通りに、腫瘍体積が安定したときでも、MIAレベルは減少し続けた。理論に束縛されることを望むわけではないが、この効果は腫瘍体積に貢献したが最早MIAを分泌しない壊死したおよび死にかけている細胞の存在によるものである可能性がある。
【0078】
これらの前臨床結果に基づき、ヒトにおける臨床試験は、腫瘍応答が測定され得る前に減少したMIAレベルを示し得て、かくしてヒト対象において黒色腫阻害性薬剤に応答して陽性応答があることの早期の指標を提供する。さらに、本明細書中で記述されるデータは、MIAが細胞増殖抑制性である薬剤のならびに細胞毒性である薬剤についてのヒト臨床試験で有用であり得ることを示唆する。
【実施例4】
【0079】
この実施例は、MIAがCHL-1ヒト黒色腫を保持するマウスにおける腫瘍負荷のための代理マーカーとして使用され得ることを立証する。
【0080】
方法:
動物モデル:
CHL-1ヒト黒色腫の異種移植研究を、Charles River Laboratories (Wilmington, MA)から購入した雌性無胸腺nu/nuマウス(8〜12週齢)で行った。Matrigel[登録商標]の中でおよそ5×10個の腫瘍細胞をマウスの後側腹部領域の中に皮下(s.c.)で移植した。腫瘍が平均サイズの200mmに到達したときに投与を開始した。ノギスの測定を週二回実施して、式:(a×b)×0.5(式中、“a”は最大直径であって、“b”は直径と垂直の長さである)を用いて腫瘍体積を評価した。
【0081】
治療薬:小分子化合物CHIR-258を実施例2に記述される通りに調製した。
【0082】
治療薬での処置:CHL-1ヒト黒色腫腫瘍を保持するマウスを無作為化して、CHIR-258を30mg/kgおよび80mg/kg(n=10/群)で毎日一回経口投与した。最初の投与日を0日目と定めた。血漿試料を投与前、ならびに8日目および22日目に収集した。ビークル対照群を試験(n=10)にまた用いた。
【0083】
結果:図6Aは、CHIR-258もしくはビークル対照での処置に続いてCHL-1ヒト黒色腫腫瘍細胞担持マウスにおける腫瘍体積を図示する。ビークル対両方のCHIR-258の処置についてP<0.03。エラーバーは標準誤差(SE)を指示する。図6Aに示される通り、30mg/kgまたは80mg/kgで1日1回投与されるCHIR-258は、ビークルの処置と比較して8日目までに有意な腫瘍増殖の阻害(P<0.03)を引き起こした。
【0084】
図6Bは、MIAの血漿濃度に及ぼすCHIR-258の処置の効果を図示する。ビークル対全ての比較についてP<0.05。エラーバーは標準誤差(SE)を指示する。破線はアッセイの検出限界を指示する。図6Bに示される通り、30mg/kgおよび80mg/kgの投与量の両方で投与されるとき、CHIR-258はMIA分泌を有意に阻害した。図6Bにさらに示される通り、投与前の全てのマウス群において血漿のMIAレベルは、アッセイ検出限界近くかもしくは以下であった。投与前の平均出発時腫瘍体積は同様の範囲(それぞれ、200対250mm)にあったにも拘わらず、CHL-1の異種移植における投与前のMIAレベル(2.6ng/ml)がA375Mヒト黒色腫の異種移植マウスにおけるMIAレベル(実施例2に記述される通り31ng/ml)より更に低かったことに注目することは興味深い。CHL-1の異種移植試験の対照群における中央値の血漿MIAレベルは8日目までにおよそ7.7ng/mlであり、一方ではCHIR-258で処置された両群からの血漿のMIAレベルは8日目までおよび以後の時点で検出不能であった(図6Bを参照)。
【0085】
これらの結果は、CHIR-258での処置は腫瘍増殖の阻害を引き起こすが縮小は引き起こさないけれども、薬物が血漿のMIAレベルを有意に低減させるのに有効であったことを示唆する。これらの結果は、実施例2に記述される通り、A375M黒色腫の異種移植モデルにおける知見と合致する。理論に束縛されることを望むわけではないが、この効果は、腫瘍体積に貢献したが最早MIAを分泌しない壊死したおよび死にかけている細胞の存在によるものである可能性がある。結果はさらに、黒色腫の処置における薬物応答および有効性の早期の指標としてのMIAの使用を支持する。
【0086】
本発明の好ましい態様を例示して記述してきたが、種々の変化を本発明の精神および範囲から逸脱することなくそこで行うことができることが認識されるであろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
黒色腫阻害性薬剤での処置に対する黒色腫腫瘍細胞を有する哺乳動物の対象の応答を測定するための方法であって、
(a)黒色腫阻害性薬剤での処置の開始前に採取した第一の生物学的試料中の黒色腫阻害性活性タンパク質(MIA)の第一の濃度を測定し;
(b)黒色腫阻害性薬剤での処置の開始後に採取した哺乳動物の対象からの第二の生物学的試料中のMIAの第二の濃度を測定し;
(c)MIAの第一と第二の濃度を比較することを含み:ここで、第一の生物学的試料中で測定されるMIAの第一の濃度と比較して第二の生物学的試料中で測定されるMIAの第二の濃度の減少が黒色腫阻害性薬剤での処置に対する陽性応答を指示する、方法。
【請求項2】
黒色腫阻害性薬剤がCHIR-265、ソラフェニブおよびCHIR-258からなる群より選択される小分子である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
処置開始後3ヶ月以内に測定される第二の生物学的試料中のMIAの第二の濃度の減少が黒色腫阻害性薬剤での処置に対する陽性応答を指示する、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
処置開始後一週間以内に測定される第二の生物学的試料中のMIAの第二の濃度の減少が黒色腫阻害性薬剤での処置に対する陽性応答を指示する、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
第一の生物学的試料の中におけるMIAの第一の濃度と比較して第二の生物学的試料中でMIAの第二の濃度の少なくとも20%の減少が哺乳動物の対象の中で腫瘍増殖の阻害と相関する、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
MIAの第二の濃度の減少が黒色腫阻害性薬剤での処置に対する哺乳動物の対象の応答を評価するための有効性エンドポイントとして使用される、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
生物学的試料が血液試料である、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
生物学的試料中のMIAの濃度がMIAに特異的に結合する抗体を用いて測定される、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
黒色腫を有する哺乳動物の対象において黒色腫を処置するための黒色腫阻害性薬剤の有効性を評価する方法であって、
(a)黒色腫阻害性薬剤での処置の開始前に採取した第一の生物学的試料中の黒色腫阻害性活性タンパク質(MIA)の第一の濃度を測定し;
(b)黒色腫阻害性薬剤での処置の開始後に採取した哺乳動物の対象からの第二の生物学的試料中のMIAの第二の濃度を測定し;
(c)MIAの第一と第二の濃度を比較することを含み:ここで、第一の生物学的試料中で測定されるMIAの第一の濃度と比較して第二の生物学的試料中で測定されるMIAの第二の濃度の減少が黒色腫を処置するための阻害性薬剤の有効性を指示する、方法。
【請求項10】
阻害性薬剤での処置の開始前に;および阻害性薬剤の開始後に少なくとも一回哺乳動物の対象において少なくとも一つの黒色腫腫瘍の体積を測定し、処置開始前におよび処置後に取った腫瘍体積の測定を比較して、腫瘍体積が減少しているかどうかを決定すること:をさらに含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
哺乳動物の対象が前臨床試験中である、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
第二の生物学的試料が阻害性薬剤での処置の開始後3ヶ月以内に取られる、請求項9に記載の方法。
【請求項13】
第二の生物学的試料が阻害性薬剤での処置開始後一週間以内に取られる、請求項9に記載の方法。
【請求項14】
腫瘍体積の測定可能な減少の検出前に測定されるMIAの第二の濃度の減少が黒色腫の処置のための阻害性薬剤の有効性を指示す、請求項9に記載の方法。
【請求項15】
黒色腫阻害性薬剤がCHIR-265、ソラフェニブおよびCHIR-258からなる群より選択される小分子である、請求項9に記載の方法。
【請求項16】
患者が黒色腫阻害性薬剤での処置を受けることを継続すべきかどうかを決定する方法であって、
(a)黒色腫阻害性薬剤での処置の開始前に採取した第一の生物学的試料中の黒色腫阻害性活性タンパク質(MIA)の第一の濃度を測定し;
(b)黒色腫阻害性薬剤での処置の開始後に採取した哺乳動物の対象からの第二の生物学的試料中のMIAの第二の濃度を測定し;
(c)MIAの当該第一と第二の濃度を比較し、そして
(d)第二のMIA濃度がMIAの第一の濃度と比較して少なくとも20%低減していれば、該患者は黒色腫阻害性薬剤での処置を継続すべきであると決定すること
を含む、方法。
【請求項17】
黒色腫阻害性薬剤がCHIR-265、ソラフェニブおよびCHIR-258からなる群より選択される小分子である、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
黒色腫の処置における有用性を有する薬剤を確認する方法であって、
(a)培養された黒色腫の細胞株に薬剤投与前に培養された黒色腫の細胞株から採取した第一の試料中の黒色腫阻害性活性タンパク質(MIA)の第一の濃度を測定し;
(b)培養された黒色腫の細胞株に薬剤投与後に黒色腫の細胞株から採取した第二の試料中のMIAの第二の濃度を測定し;
(c)MIAの第一と第二の濃度を比較し、そして
(d)MIAの第二の濃度がMIAの第一の濃度と比較して少なくとも20%低減していれば、該薬剤が黒色腫の処置に有用性を有すると決定すること
を含む、方法。
【請求項19】
黒色腫の細胞株がG361、SKMEL-28、A375MおよびCHL-1からなる群より選択されるヒト黒色腫の細胞株である、請求項18に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−83665(P2013−83665A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2013−198(P2013−198)
【出願日】平成25年1月4日(2013.1.4)
【分割の表示】特願2009−521842(P2009−521842)の分割
【原出願日】平成19年7月26日(2007.7.26)
【出願人】(504389991)ノバルティス アーゲー (806)
【Fターム(参考)】