説明

黒色表面処理鉄系金属材料及びその製造方法

【課題】耐食性及び摺動性に優れ且つクロムを含有しない黒色皮膜を形成した黒色表面処理鉄系金属材料を提供すること。
【解決手段】鉄系金属材料の表面に、化成処理により形成したマグネタイト層と、該マグネタイト層上に形成され、亜鉛、錫、鉄、マンガン及びカルシウムから選ばれる少なくとも1種の元素を含むリン酸塩、チタニウム、ジルコニウム、ハフニウム、インジウム、錫、ビスマス、バナジウム、ニッケル、セリウム、モリブデン及びタングステンから選ばれる少なくとも1種の元素を含む酸化物並びにチタニウム、ジルコニウム、ハフニウム、インジウム、錫、ビスマス、バナジウム、ニッケル、セリウム、モリブデン及びタングステンから選ばれる少なくとも1種の元素を含むフッ化物から選ばれる少なくとも1種を含有する化成処理層と、該化成処理層上に形成された固体潤滑層とが設けられたことを特徴とする黒色表面処理鉄系金属材料である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄系金属材料の表面に、耐食性及び摺動性に優れ且つクロムを含有しない黒色皮膜を形成した黒色表面処理鉄系金属材料及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
光学機械部品、測定機部品、銃器、電気通信部品、自動2輪用機械部品、自動4輪用機械部品、装飾品や、半導体製造装置、食品製造機器に代表される機器装置類の直動装置等には、鉄系金属材料が使用されている。これらの鉄系金属材料には、耐食性及び摺動性の向上を目的として種々の表面処理が施されているが、光の低反射率化や意匠性も求められる用途においてはその表面を黒色化することが必要とされる。
【0003】
このような鉄系金属材料の表面の黒色化技術としては、例えば、無水クロム酸と、水酸化ナトリウムと、ケイフッ酸又はケイフッ化物と、硝酸又は硝酸塩とを特定の割合で含有するクロムめっき液を用いて、電解により黒色クロムめっきを施す方法(例えば、特許文献1参照)、塩化クロムと、亜硫酸ナトリウム及び/又は亜硫酸カリウムと、ヨウ化カリウムとを含有するクロムめっき液を用いて、電解によって黒色クロムめっきを施す方法(例えば、特許文献2参照)、亜鉛−ニッケルめっき後に、陽極電解、陰極処理、交番電解法あるいは陽極酸化により黒色化し、その後、水分散性有機樹脂を塗布し、黒色鋼板を得る方法(例えば、特許文献3参照)、金属材料の表面に、リン酸塩化成皮膜を形成し、その後、チオモリブデン酸イオン及びチオタングステン酸イオンの少なくとも1種を含有し5〜14pHを有する溶液中でリン酸塩化成皮膜をアノード電解処理することにより黒色の析出物皮膜を形成する方法(例えば、特許文献4参照)等が提案されている。更に、レイデント(登録商標)処理という低温電解クロムめっき処理方法も知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭58−11792号公報
【特許文献2】特開2007−119826号公報
【特許文献3】特開2002−127302号公報
【特許文献4】特開平11−256357号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の方法では、消化器や肺などの炎症を引き起こしたり、発癌性、催奇性、毒性等を有する6価クロムを使用しており、作業安全上、環境上の問題が懸念される。更に、特許文献1の方法で得られたクロムめっき製品は、摺動性について満足な性能を有しているとは言えない。
特許文献2の方法は、6価クロムを使用しないものの、形成される皮膜中に3価クロムが含有されていることから、完全なクロムフリーとは言えず、作業安全上、環境上の問題が依然として懸念される。更に、特許文献2の方法で得られたクロムめっき製品は、摺動性について満足な性能を有しているとは言えない。
特許文献3の方法は、亜鉛−ニッケルめっき後に電解を行うための大掛かりな設備が必要となることから、コスト高による経済上の問題が生じる。
特許文献4の方法は、特許文献3と同様に、電解を行うための大掛かりな設備が必要となる上に、得られる製品は、耐食性について十分な性能を有しているとは言えない。
また、レイデント(登録商標)処理は、形成される皮膜中にクロムが含有されていることから、完全なクロムフリーとは言えず、作業安全上、環境上の問題が依然として懸念される。また、レイデント(登録商標)処理は、通常10℃以下の極低温にて電解を行うため、電力コスト、廃液処理コスト等による経済上の問題もある。
【0006】
従って、本発明は、上記のような課題に鑑みてなされたものであり、耐食性及び摺動性に優れ且つクロムを含有しない黒色皮膜を形成した黒色表面処理鉄系金属材料を提供することを目的とする。また、本発明は、電解のための電源設備等を使用せずに、比較的簡単な工程で、低コストでそのような黒色表面処理鉄系金属材料を製造する方法を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を行った結果、鉄系金属材料の表面に、化成処理により形成したマグネタイト層と、リン酸亜鉛等からなる化成処理層と、フッ素樹脂等からなる固体潤滑層とをこの順に設けることが有効であることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
即ち、本発明の黒色表面処理鉄系金属材料は、鉄系金属材料の表面に、化成処理により形成したマグネタイト層と、該マグネタイト層上に形成され、亜鉛、錫、鉄、マンガン及びカルシウムから選ばれる少なくとも1種の元素を含むリン酸塩、チタニウム、ジルコニウム、ハフニウム、インジウム、錫、ビスマス、バナジウム、ニッケル、セリウム、モリブデン及びタングステンから選ばれる少なくとも1種の元素を含む酸化物並びにチタニウム、ジルコニウム、ハフニウム、インジウム、錫、ビスマス、バナジウム、ニッケル、セリウム、モリブデン及びタングステンから選ばれる少なくとも1種の元素を含むフッ化物から選ばれる少なくとも1種を含有する化成処理層と、該化成処理層上に形成された固体潤滑層とが設けられたことを特徴とする。
上記マグネタイト層は、リチウム含有鉄酸化物を更に含有することが好ましい。
上記化成処理層は、リン酸亜鉛、リン酸亜鉛鉄、リン酸マンガン、リン酸マンガン鉄及びリン酸亜鉛カルシウムから選ばれる少なくとも1種の結晶性リン酸塩を含有することが好ましい。また、上記化成処理層は、酸化ジルコニウム、酸化チタニウム、フッ化ジルコニウム、フッ化チタニウム及びリン酸鉄から選ばれる少なくとも1種の非晶質化合物を含有することも好ましい。
上記マグネタイト層の厚さは0.1μm〜5μmであることが好ましい。
上記化成処理層に含有される結晶性リン酸塩の結晶サイズは5μm以下であることが好ましい。また、非晶質化合物を含有する上記化成処理層の厚さは0.01μm〜3μmであることが好ましい。
【0009】
また、本発明の黒色表面処理鉄系金属材料の製造方法は、鉄系金属材料の表面を、水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムから選ばれる少なくとも1種と酸化剤とを含有する水溶液と接触させ、該鉄系金属材料の表面にマグネタイト層を形成する工程と、該鉄系金属材料のマグネタイト層を、亜鉛、鉄、マンガン、カルシウム、チタニウム、ジルコニウム、ハフニウム、インジウム、錫、ビスマス、バナジウム、ニッケル、セリウム、モリブデン及びタングステンから選ばれる少なくとも1種の元素を含む化成処理液と接触させ、該マグネタイト層上に化成処理層を形成する工程と、該鉄系金属材料の化成処理層上に固体潤滑剤を塗布し、固体潤滑層を形成する工程とを有することを特徴とする。
本発明の黒色表面処理鉄系金属材料の製造方法において、上記マグネタイト層の形成に用いる水溶液は、水酸化リチウムを更に含有することが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、耐食性及び摺動性に優れ且つクロムを含有しない黒色皮膜を形成した黒色表面処理鉄系金属材料及びその黒色表面処理鉄系金属材料を電解のための電源設備等を使用せずに、比較的簡単な工程で、低コストで製造する方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の黒色表面処理鉄系金属材料及びその製造方法について詳細に説明する。
本発明の黒色表面処理鉄系金属材料は、鉄系金属材料の表面に、化成処理により形成したマグネタイト層と、該マグネタイト層上に形成され、亜鉛、錫、鉄、マンガン及びカルシウムから選ばれる少なくとも1種の元素を含むリン酸塩、チタニウム、ジルコニウム、ハフニウム、インジウム、錫、ビスマス、バナジウム、ニッケル、セリウム、モリブデン及びタングステンから選ばれる少なくとも1種の元素を含む酸化物並びにチタニウム、ジルコニウム、ハフニウム、インジウム、錫、ビスマス、バナジウム、ニッケル、セリウム、モリブデン及びタングステンから選ばれる少なくとも1種の元素を含むフッ化物から選ばれる少なくとも1種を含有する化成処理層と、該化成処理層上に形成された固体潤滑層とが設けられている。
本発明の黒色表面処理鉄系金属材料は、このような層構造を採用することにより、マグネタイトの黒色が阻害されずに良好な黒色外観を呈し、また、耐食性及び摺動性に優れるため、摺動試験後の摺動痕部分においても良好な黒色外観を維持することができる。
【0012】
本発明において、黒色皮膜を形成する対象となる鉄系金属材料としては、特に限定されないが、例えば、冷延鋼板、熱間圧延鋼板等の鋼材;棒鋼、形鋼、鋼帯、鋼管、線材、鋳鍛造品、軸受け鋼のような特殊用途鋼が挙げられる。黒色表面処理に先立って、これらの鉄系金属材料に、必要に応じて脱脂処理を施し表面を清浄化してもよい。脱脂処理は、特に限定されないが、溶剤系脱脂剤、水系脱脂剤、エマルジョン系脱脂剤等を用いる公知の方法を採用することができる。また、脱脂処理後の鉄系金属材料に、必要に応じて公知の酸洗処理を施してもよい。
【0013】
第一層としてのマグネタイト(Fe34)層は、水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムの少なくとも1種と酸化剤とを主体とする水溶液(以下、黒染め剤と呼ぶことがある)を用いる黒染め処理と称される方法により形成することができ、具体的には、鉄系金属材料の表面を、黒染め剤と接触させればよい。このような黒染め剤としては、市販されているものをそのまま使用することができ、例えば、日本パーカライジング株式会社製の「パルブラックA」及び「パルブラック3901」、「パルブラック3903」、「パルブラックCA」、アイソレート科学研究所製の「ステンブラック919−gt」、メルテック株式会社製の「エボノールss−52」等が挙げられる。
【0014】
鉄系金属材料の表面を黒染め剤と接触させる方法は、特に限定されず、例えば、黒染め剤を鉄系金属材料の表面に噴霧するスプレー処理、鉄系金属材料を黒染め剤中に浸漬させる浸漬処理、蒸気を利用するスチーム処理、黒染め剤を鉄系金属材料の表面に流しかける流しかけ処理等が挙げられる。
【0015】
マグネタイト層の形成温度としては、好ましくは70℃〜170℃であり、より好ましくは80℃〜160℃であり、最も好ましくは90℃〜150℃である。形成温度が70℃未満であると、均一な組成、黒色外観及び厚さを有するマグネタイト(Fe34)層が得られない場合があり、一方、170℃を超えると、マグネタイト(Fe34)がヘマタイト(Fe23)に変質する可能性があり、黒色皮膜が得られない場合がある。
【0016】
マグネタイト層の厚さは、好ましくは0.1μm〜5μmであり、より好ましくは0.2μm〜3μmであり、最も好ましくは0.3μm〜2μmである。マグネタイト層の厚さが0.1μm未満であると、均一な黒色外観が得られない場合があり、一方、5μmを超えると、その効果が飽和して経済上不利になることがある。
【0017】
また、黒染め剤に水酸化リチウムや炭酸リチウムを添加することにより、カチオンとしてリチウムを導入してもよい。カチオンとしてリチウムが導入された黒染め剤を用いると、マグネタイト(Fe34)だけでなく、リチウム含有鉄酸化物(Li5Fe58、Li2Fe34、Li2Fe35、LiFe58、LiFeO2)が生成する。このリチウム含有鉄酸化物をマグネタイト層に含有させることで、耐食性を更に向上させることができる。
黒染め剤におけるリチウム濃度は、リチウム純分として、例えば、0.01質量%〜1質量%であり、好ましくは0.05質量%〜0.7質量%であり、より好ましくは0.1質量%〜0.4質量%である。リチウム濃度が0.01質量%未満であると、リチウム添加による耐食性向上の効果が現れない場合があり、一方、1質量%を超えると、その効果が飽和して経済上不利になることがあり、また、皮膜の黒色化を阻害する場合がある。
【0018】
このように、鉄系金属材料の表面を黒染め剤と接触させることにより、鉄系金属材料中の鉄を酸化させ、マグネタイトからなる層又はマグネタイトとリチウム含有鉄酸化物とからなる層を鉄系金属材料の表面に形成することができる。このマグネタイトからなる層又はマグネタイトとリチウム含有鉄酸化物とからなる層は、黒色を呈し、鉄系金属材料との密着性に優れ、耐食性を向上させる効果を有するだけでなく、後述する第2層としての化成処理層を形成する際の化学反応性を制御する役割を果たす。なお、本発明におけるマグネタイト層は、化成処理により形成された均一な組成、黒色外観及び厚さを有する層であり、鋼材製造時に形成される黒皮と称される酸化皮膜とは異なる。
【0019】
第二層としての化成処理層は、亜鉛、鉄、マンガン、カルシウム、チタニウム、ジルコニウム、ハフニウム、インジウム、錫、ビスマス、バナジウム、ニッケル、セリウム、モリブデン及びタングステンから選ばれる少なくとも1種の元素を含む化成処理液を第一層としてのマグネタイト層と接触させ、上記した元素を含む化合物を化学的な反応で析出させる方法により形成することができる。化成処理層を構成する皮膜の形態は、結晶性であってもよいし、非晶質(非結晶性)であってもよい。一般に、黒染め処理で形成されたマグネタイト皮膜のみでは耐食性が乏しいため、従来、黒染め処理後の鉄系金属材料には防錆油を塗油する必要があった。しかし、本発明では、マグネタイト層上に化成処理皮膜が形成されているために一時的な防錆効果が得られるので、防錆油の塗油が不要となる。
【0020】
化成処理層としての結晶性皮膜を形成する具体的な方法としては、リン酸イオンをアニオンとして含有し且つ亜鉛、カルシウム及びマンガンから選ばれる少なくとも1種をカチオンとして含有する酸性水溶液を用いるリン酸塩処理が挙げられる。反応率を高める目的で、酸性水溶液には、ニッケル、コバルト等の遷移金属イオン、硝酸、亜硝酸等の酸化剤、フッ素イオン、錯フッ素イオン等のエッチング成分が更に添加されていることが好ましい。上記したアニオン及びカチオンの種類及び含有量を適当に組み合わせたリン酸塩処理用酸性水溶液としては、市販されているものをそのまま使用することができ、例えば、日本パーカライジング株式会社製の「パルボンド860」、「パルボンドL3020」、「パルフォスM1A」、「パルフォスM5」、「パルボンド880」、「パルボンドSX35」、「パルボンドL47」、「フェリコート7」等が挙げられる。
【0021】
通常、このように形成された結晶性皮膜には、下記に示すような化合物の少なくとも1種が含まれる。
・リン酸亜鉛(ホパイト:Zn3(PO42・4H2O)
・リン酸亜鉛鉄(フォスフォフィライト:Zn2Fe(PO42・4H2O)
・リン酸マンガン(ヒューリオライト:Mn5(PO3(OH))2(PO42・4H2O)
・リン酸マンガン鉄((Mn1-xFex52(PO44・4H2O、式中、xは鉄系金属材料が化成処理の際にエッチングされ、その鉄成分が皮膜中に含有されることを表す。0<x<1である。)
・リン酸亜鉛カルシウム(ショルツァイト:CaZn2(PO42・2H2O)
これらの中でも、特に、摺動性を向上させる性質を有するという点からリン酸マンガン鉄を含有する結晶性皮膜が好ましい。
【0022】
リン酸塩処理用酸性水溶液を第一層としてのマグネタイト層と接触させる方法は、特に限定されず、例えば、リン酸塩処理用酸性水溶液をマグネタイト層表面に噴霧するスプレー処理、マグネタイト層が形成された鉄系金属材料をリン酸塩処理用酸性水溶液中に浸漬させる浸漬処理、蒸気を利用するスチーム処理、リン酸塩処理用酸性水溶液をマグネタイト層表面に流しかける流しかけ処理等が挙げられる。
【0023】
化成処理層としての結晶性皮膜の形成温度は、好ましくは30℃〜120℃であり、より好ましくは35℃〜110℃であり、最も好ましくは40℃〜100℃である。形成温度が30℃未満であると、皮膜の生成が不十分となる可能性があり、一方、120℃を超えると、その効果が飽和して経済上不利になることがあり、また、化成反応時におけるエッチングが過多となり、密着性が劣る場合がある。
【0024】
化成処理層としての結晶性皮膜は、結晶による凹凸を有しているため、厚さを論じることは適切ではなく、結晶サイズに着目することが重要である。結晶性リン酸塩の結晶サイズは、好ましくは5μm以下であり、より好ましくは4μm以下であり、最も好ましくは3μm以下である。結晶サイズが5μmを超えると、良好な耐食性及び摺動性が得られない場合がある。
【0025】
このように、リン酸イオンをアニオンとして含有し且つ亜鉛、カルシウム及びマンガンから選ばれる少なくとも1種をカチオンとして含有する酸性水溶液をマグネタイト層と接触させることにより、リン酸亜鉛、リン酸亜鉛鉄、リン酸マンガン、リン酸マンガン鉄及びリン酸亜鉛カルシウムから選ばれる少なくとも1種の結晶性リン酸塩からなる化成処理層を、化成処理により形成されたマグネタイト層上に形成すると、結晶性リン酸塩の結晶サイズが微細化され、耐食性及び摺動性を飛躍的に向上させることが可能となる。更に、本発明では、リン酸塩処理時に生成するスラッジが著しく少ないことも分かった。これは、皮膜生成における化学反応性がマグネタイト層により制御されているためであると考えられる。そのため、本発明は、煩雑なスラッジ除去作業の回数や産業廃棄物として排出されるスラッジ量を低減することができるといった利点を有する。
【0026】
化成処理層としての非晶質皮膜を形成する具体的な方法としては、リン酸イオンをアニオンとして含有し且つ鉄、錫、ジルコニウム、チタニウム及びハフニウムから選ばれる少なくとも1種をカチオンとして含有する酸性水溶液を用いるリン酸塩処理が挙げられる。反応率を高める目的で、酸性水溶液には、ニッケル、コバルト等の遷移金属イオン、硝酸、亜硝酸等の酸化剤、フッ素イオン、錯フッ素イオン等のエッチング成分が更に添加されていることが好ましい。上記したアニオン及びカチオンの種類及び含有量を適当に組み合わせたリン酸塩処理用酸性水溶液としては、市販されているものをそのまま使用することができ、例えば、日本パーカライジング株式会社製の「パルフォス1077」、「パルフォス525T」、「パルフォスK5100」等が挙げられる。
【0027】
通常、このように形成された非晶質皮膜には、下記に示すような化合物の少なくとも1種が含まれる。
・リン酸鉄
・リン酸錫
・リン酸ジルコニウム
・リン酸チタニウム
・リン酸ハフニウム
【0028】
また、化成処理層としての非晶質皮膜を形成する他の方法としては、硝酸イオン、硫酸イオン、フッ素イオン、錯フッ素イオン及び炭酸イオンから選ばれる少なくとも1種をアニオンとして含有し且つ鉄、チタニウム、ジルコニウム、ハフニウム、インジウム、錫、ビスマス、バナジウム、ニッケル、セリウム、モリブデン及びタングステンから選ばれる少なくとも1種をカチオンとして含有する酸性水溶液を用いる方法が挙げられる。このような酸性水溶液は、上記したアニオン及びカチオンに対応する化合物の種類や含有量を適宜組み合わせて調製することもできるし、また、市販されているものをそのまま使用することもできる。
【0029】
このように形成された非晶質皮膜に含まれる化合物は、酸化物、硫化物及び/又はフッ化物であり、その代表的なものを下記に例示する。
・酸化チタニウム
・酸化ジルコニウム
・酸化ハフニウム
・酸化インジウム
・酸化錫
・酸化ビスマス
・酸化バナジウム
・酸化ニッケル
・酸化セリウム
・酸化モリブデン
・酸化タングステン
・硫化鉄
・フッ化ジルコニウム
・フッ化チタニウム
・フッ化ハフニウム
・フッ化インジウム
【0030】
上述した化合物の中でも、特に耐食性を向上させる性質を有するという点から水酸化ジルコニウム、及び水酸化チタニウム、フッ化ジルコニウム、フッ化チタニウム、酸化ジルコニウム、酸化チタニウムのいずれか一つを含有する非晶質皮膜が好ましい。また、上記非晶質皮膜中には、皮膜の特性に悪影響を与えない範囲で、チタニウム、ジルコニウム、ハフニウム、インジウム、錫、ビスマス、バナジウム、ニッケル、セリウム、モリブデン及びタングステンから選ばれる少なくとも1種の元素を含む水酸化物、例えば、水酸化ジルコニウム、水酸化チタニウム、水酸化ハフニウム、水酸化インジウム等が一部含まれていてもよい。
【0031】
上記した酸性水溶液を第一層としてのマグネタイト層と接触させる方法は、特に限定されず、例えば、酸性水溶液をマグネタイト層表面に噴霧するスプレー処理、マグネタイト層が形成された鉄系金属材料を酸性水溶液中に浸漬させる浸漬処理、蒸気を利用するスチーム処理、酸性水溶液をマグネタイト層表面に流しかける流しかけ処理等が挙げられる。
【0032】
化成処理層としての非晶質皮膜の形成温度は、通常、10℃〜100℃であり、好ましくは15℃〜80℃であり、より好ましくは20℃〜60℃である。形成温度が10℃未満であると、皮膜の生成が不十分である可能性がある場合があり、一方、100℃を超えると、その効果が飽和して経済上不利になることがあり、また、化成反応時におけるエッチングが過多となり、密着性が劣る場合がある。
【0033】
化成処理層としての非晶質皮膜の厚さは、好ましくは0.01μm〜3μmであり、より好ましくは0.03μm〜2μmであり、最も好ましくは0.05μm〜1μmである。非晶質皮膜の厚さが0.01μm未満であると、良好な耐食性及び摺動性が得られない場合があり、一方、3μmを超えると、その効果が飽和して経済上不利になることがあり、また、黒色外観が損なわれる場合がある。
【0034】
このように、リン酸イオンをアニオンとして含有し且つ亜鉛、カルシウム及びマンガンから選ばれる少なくとも1種をカチオンとして含有する酸性水溶液、又は硝酸イオン、硫酸イオン、フッ素イオン、錯フッ素イオン及び炭酸イオンから選ばれる少なくとも1種をアニオンとして含有し且つ鉄、チタニウム、ジルコニウム、ハフニウム、インジウム、錫、ビスマス、バナジウム、ニッケル、セリウム、モリブデン及びタングステンから選ばれる少なくとも1種をカチオンとして含有する酸性水溶液を、マグネタイト層と接触させることにより、非晶質皮膜からなる化成処理層をマグネタイト層上に形成することができる。この非晶質皮膜からなる化成処理層は、結晶性リン酸塩からなる化成処理層と同様に、耐食性及び摺動性を向上さることができる上に、第一層としてのマグネタイト層及び第三層としての固体潤滑層との密着性にも優れる。また、この非晶質皮膜からなる化成処理層は、極薄膜であっても耐食性及び摺動性の向上効果を発現するため、皮膜形成に伴う寸法変化を著しく小さくすることができるという利点も有する。更に、この非晶質皮膜の形成においては、結晶性リン酸塩からなる化成処理層を形成する際に問題となる皮膜へのスラッジ付着を大幅に軽減できる上に、化成処理に伴う素材のエッチング反応が極微量のため、表面を粗らすことなく皮膜形成が可能となることが分かった。
【0035】
第三層としての固体潤滑層は、公知の固体潤滑剤を塗布、必要に応じて焼付けを行うことにより形成することができる。固体潤滑剤は、一般に、バインダー樹脂を溶剤に溶かしたバインダー溶液中に固体潤滑微粒子を多量に分散させたものである。固体潤滑微粒子としては、例えば、二硫化モリブデン、二硫化タングステン、炭化ケイ素、窒化ホウ素、窒化ケイ素、酸化亜鉛、酸化鉛、酸化錫、フッ化黒鉛、フッ化カルシウム、グラファイト、雲母(天然ケイ酸塩鉱物)、フラーレン(ナノカーボン)、銅粉末、ニッケル粉末、鉛粉末、錫粉末、銀粉末、金粉末、亜鉛粉末、インジウム粉末、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、メラミンアヌレート(MCA:メラミンとイソシアヌル酸のほぼ1:1の有機付加体)、ポリイミド粉末、ナイロン、高密度ポリエチレン粉末、有機モリブデン化合物、脂肪、石鹸、ワックス類(牛脂、ステアリン酸リチウム、蜜ろう等)、脂肪酸、フタロシアニン等が挙げられ、これらの中でも、良好な摺動性が安定して得られるという点から二硫化モリブデン、グラファイト及びPTFEが好ましい。また、バインダー樹脂としては、例えば、ポリアミドイミド、ポリイミド、エポキシ、フラン、メラミン、アクリル、ウレタン等が挙げられる。溶剤としては、例えば、キシレン、トルエン、ブタノール、イソブチルアルコール、イソプロピルアルコール、ジオキサン、メチルエチルケトン、n−メチル−2−ピロリドン等が挙げられる。このような固体潤滑剤としては、市販されているものをそのまま使用することができ、例えば、二硫化モリブデンを含むものとして株式会社川邑研究所製の「HMB−2」、グラファイトを含むものとして株式会社川邑研究所製の「HMB−18」、二硫化モリブデン及びグラファイトを含むものとして株式会社川邑研究所製の「HMB−34」、PTFE及びグラファイトを含むものとしてダイキン工業株式会社製の「TC−7109BK」等が挙げられる。
【0036】
固体潤滑剤の塗布方法は、公知の方法を採用することができ、例えば、スプレー、刷毛塗り、タンブリング、第一層としてのマグネタイト層及び第二層としての化成処理層が形成された鉄系金属材料を固体潤滑剤中に浸漬させる方法等が挙げられる。固体潤滑剤の塗布後、必要に応じて、適当な温度・時間で焼き付けを行うことにより、固体潤滑層を形成することができる。
【0037】
固体潤滑層の厚さは、好ましくは0.2μm〜50μmであり、より好ましくは0.5μm〜30μmであり、最も好ましくは0.7μm〜15μmである。固体潤滑層の厚さが0.2μm未満であると、良好な摺動性が得られない場合があり、一方、50μmを超えると、その効果が飽和して経済上不利になることがあり、また、多量の摩耗粉が発生することにより、摺動性に悪影響を与える可能性もある。
【0038】
また、固体潤滑剤には、本発明の効果を損なわない範囲で、分散剤、消泡剤、安定剤、難燃剤、硬化促進剤、顔料等の公知の添加剤を適宜添加してもよい。ただし、本発明の黒色表面処理鉄系金属材料は、良好な黒色を呈することを特長とするので、これらの添加剤は固体潤滑剤が黒色若しくは無色透明となるものに限定される。
【0039】
このように、化成処理層上に固体潤滑剤を塗布し、必要に応じて焼付けを行うことにより、固体潤滑層を形成することができる。この固体潤滑層は、優れた摺動性を鉄系金属材料に付与することができる。
【0040】
本発明の第一層〜第三層を形成する工程間では、必要に応じて、水洗、乾燥、防錆油塗油、脱脂等を行ってもよい。本発明における好ましい製造工程は、鉄系金属材料の脱脂→水洗→第一層形成→水洗→第二層形成→水洗→乾燥→第三層形成である。
更に、第一層及び/又は第二層の形成に先立って、皮膜形成促進等を目的として、表面調整を行ってもよい。特に、第二層として結晶性リン酸塩を形成する場合、第二層の形成に先立って、一般に使用されている表面調整剤を用いて表面調整を行うことで、皮膜形成促進及び結晶サイズの微細化といった効果が得られる。表面調整剤としては、例えば、日本パーカライジング株式会社製の「プレパレンX」、「プレパレン55」、「プレパレンZ」、「プレパレンVM」、「プレパレンXG」、「プレパレン35」等が挙げられる。
【0041】
また、耐食性、摺動性等を向上させるために、上述した第二層と第三層との間に中間塗布層を設けてもよい。中間塗布層は、例えば、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸リチウム、ケイ酸カリウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム等のケイ酸金属塩、一酸化ケイ素、コロイダルシリカ(二酸化ケイ素)等のケイ素酸化物、クロロトリC1-2アルコキシシラン、グリシジルオキシアルキル−トリC1-2アルコキシシラン、ジ(グリシジルオキシアルキル)ジC1-2アルコキシシラン、3−アミノプロピルジエトキシメチルシラン、アミノアルキル−トリC1-2アルコキシシラン、ジ(アミノアルキル)ジC1-2アルコキシシラン、ビニルトリC1-2アルコキシシラン、ビニルトリC1-2アルコキシシラン、メチルトリメトキシシラン、(メタ)アクリロイルオキシアルキル−トリC1-2アルコキシシラン、テトラエチルシリケート、ジ((メタ)アクリロイルオキシアルキル)−ジC1-2アルコキシシラン等のシランカップリング剤、エチルポリシリケート、プロピルポリシリケート、ブチルポリシリケート等のシリケート化合物、シリコーン樹脂、イソプロピルトリオクタノイルチタネート、イソプロピルトリス(ジオクチルピロホスフェート)チタネート、チタニウム−i−プロポキシオクチレングリコレート、イソプロピル(N−アミノエチルアミノエチル)チタネート、テトラオクチルビス(ジトリデシルホスフェート)チタネート、テトラ(2,2−ジアリルオキシメチル−1−ブチル)ビス(ジトリデシル)ホスフェートチタネート、ビス(ジオクチルピロホスフェート)オキシアセテートチタネート、ビス(ジオクチルピロホスフェート)エチレンチタネート、イソプロピルジメタアクリルイソステアロイルチタネート、イソプロピルイソステアロイルジアクリルチタネート、イソプロピルトリ(ジオクチルホスフェート)チタネート、イソプロピルトリクミルフェニルチタネート、テトライソプロピルビス(ジオクチルホスフェート)チタネート、チタニウムテトラ(モノエチルエトキシド)、チタニウムテトラ(モノブチルエトキシド)、チタニウムテトラキス(アセチルアセトネート)、テトラノルマルブチルチタネート等のチタネートカップリング剤及び有機チタニウム化合物、バナジルアセチルアセトネート等の有機バナジウム化合物、ニッケルアセチルアセトネート等の有機ニッケル化合物、セリウムアセチルアセトネート等の有機セリウム化合物から選ばれる少なくとも1種を含有する水溶液、分散液或いは溶剤系(以下、塗布型処理液と呼ぶことがある)を、第二層としての化成処理層上に塗布し、必要に応じて乾燥する方法により形成することができる。また、中間塗布層は、2層以上形成してもよい。
【0042】
上記した塗布型処理液を化成処理層上に塗布する方法は、特に限定されず、例えば、バーコーティング、カーテンコーティング、エクストルージョンコーティング、ロールコーティング、ディップコーティング、スプレーコーティング、スピンコーティング、グラビアコーティング、ダイコーティング等の公知の方法が挙げられる。
【0043】
中間塗布層の厚さは、乾燥皮膜として、好ましくは0.05μm〜10μmであり、より好ましくは0.1μm〜5μmであり、最も好ましくは0.3μm〜3μmである。中間層の厚さが0.05μm未満であると、耐食性、摺動性等の向上効果が十分に得られない場合があり、一方、10μmを超えると、その効果が飽和して経済上不利になることがある。
【0044】
また、処理液には、任意成分として、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂等を添加してもよい。各樹脂のイオン性は、特に限定されるものではなく、アニオン性、カチオン性及びノニオン性のいずれであってもよい。
【0045】
なお、化成処理層の代わりに上記した中間塗布層を形成した場合、即ち、鉄系金属材料の表面に、化成処理により形成したマグネタイト層と、中間塗布層と、固体潤滑層とをこの順に設けた場合、本発明の黒色表面処理鉄系金属材料ほどの耐食性及び摺動性は得られないものの、良好な黒色外観を呈し、耐食性及び摺動性も実用に耐え得る黒色表面処理鉄系金属材料とすることができる。
【0046】
本発明の黒色表面処理鉄系金属材料は、極めて良好な黒色外観を呈し、耐食性及び摺動性に優れ且つクロムを含有しない皮膜を形成したものであるので、光の低反射率化、意匠性付与、耐食性向上、摺動性向上及び転動性向上が要求される光学機械部品、測定機部品、銃器、電気通信部品、自動2輪用機械部品、自動4輪用機械部品、装飾品や、半導体製造装置、食品製造機器に代表される機器装置類の直動装置等を構成する部材に極めて有用である。
また、本発明は、上記した優れた性能を有する黒色多層皮膜を、電解のための電源設備等を使用せずに、比較的簡単な工程で、低コストで形成することができるので、広範な用途に適用することができる。
【実施例】
【0047】
以下に、実施例を比較例とともに挙げ、本発明の黒色表面処理鉄系金属材料の効果を具体的に説明する。なお、実施例で使用した鉄系金属材料、脱脂剤、皮膜形成に用いた黒染め剤、化成処理液及び固体潤滑塗料は、市販されている材料や試薬の中から任意に選定したものであり、本発明を何ら限定するものではない。
【0048】
<製造工程の概要>
実施例1〜10および17〜20、比較例6〜7は、以下の工程で実施した。
アルカリ脱脂→水洗→第一層形成→水洗→第二層形成→水洗→乾燥→第三層形成→焼き付け
実施例11〜16は、以下の工程で実施した。
アルカリ脱脂→水洗→第一層形成→水洗→第二層形成→水洗→乾燥→中間塗布層形成→乾燥・焼き付け→第三層形成→焼き付け
参考例1〜4は、以下の工程で実施した。
アルカリ脱脂→水洗→第一層形成→水洗→乾燥→中間塗布層形成→乾燥・焼き付け→第三層形成→焼き付け
比較例1〜5は、以下の工程で実施した。
アルカリ脱脂→水洗→皮膜形成→水洗→乾燥→固体潤滑塗膜(第三層)形成→焼き付け
比較例8については、アルカリ脱脂後、水洗及び乾燥工程を経て、固体潤滑塗膜(第三層)形成とした。
【0049】
実施例及び比較例で得られた各材料について、外観の黒色度評価、耐食性及び摺動性を次の方法で評価した。なお、層の厚さは、第三層まで形成した後、金属顕微鏡を用いて、皮膜断面を観察することにより、各層の厚さを測定した。また、第二層に結晶性の皮膜を形成した実施例及び比較例については、第二層形成後、走査型電子顕微鏡を用いて、結晶サイズを測定した。
【0050】
<外観(黒色度)評価>
鉄系金属材料には、冷延鋼板(略号SPC:JIS G 3141、70×150×0.8tmm)を用い、皮膜形成に先立ち、アルカリ脱脂を行った。アルカリ脱脂は、日本パーカライジング株式会社製のファインクリーナー(登録商標)4360を水道水で2%に希釈した水溶液を60℃に加温し、この溶液中に冷延鋼板を10分間浸漬した後、水洗することにより行った。
実施例1〜20、比較例1〜7及び参考例1〜4で各冷延鋼板上に形成された層を目視にて外観(黒色度)評価を行った。なお、実施例については、第一層〜第三層のそれぞれについて評価を行い、比較例1〜5については、固体潤滑層を形成した後のみ評価を行い、比較例6及び7については、第二層及び第三層についての評価を行った。
外観(黒色度)は、下記基準に従って評価した。
(評価基準)
○:均一な黒色
△:ムラ、スケが生じた黒色
×:黒色ではない
【0051】
<耐食性評価>
鉄系金属材料には、冷延鋼板(略号SPC:JIS G 3141、70×150×0.8tmm)を用い、皮膜形成に先立ち、アルカリ脱脂を行った。アルカリ脱脂は、日本パーカライジング株式会社製のファインクリーナー(登録商標)4360を水道水で2%に希釈した水溶液を60℃に加温し、この溶液中に冷延鋼板を10分間浸漬した後、水洗することにより行った。
実施例及び比較例で得られた各冷延鋼板の表面に鋭利なカッターでクロスカットを入れた後、5質量%濃度塩水を240時間噴霧した。噴霧終了後に、クロスカット部及びクロスカットを入れていない一般面について、下記基準に従って評価した。
(評価基準)
◎:一般面に赤錆の発生が全く無く、クロスカット部に膨れ、ハガレ等が無い
○:一般面に赤錆の発生が全く無く、クロスカット部に膨れ、ハガレ等が僅かに発生
△:一般面に点状の赤錆が発生し、クロスカット部に膨れ、ハガレ等が発生
×:一般面及びクロスカット部とも、全面に赤錆が発生
【0052】
<摺動性評価>
鉄系金属材料には、機械構造用炭素鋼鋼材(略号S45C:JIS G 4051、φ22×8mm、バフ研磨を行いRa10nm、Ry50nm仕上げ)を用い、皮膜形成に先立ち、アルカリ脱脂を行った。アルカリ脱脂は、日本パーカライジング株式会社製のファインクリーナー(登録商標)4360を水道水で2%に希釈した水溶液を60℃に加温し、この溶液中に機械構造用炭素鋼鋼材を10分間浸漬した後、水洗することにより行った。
実施例及び比較例で得られた各機械構造用炭素鋼鋼材について、Optimol Instruments社製SRV試験機を用いて摺動性を評価した。評価は潤滑油等を使用しない無潤滑評価とした。下記に示す摺動試験条件にて摺動試験を行い、摩擦係数、相手材攻撃性及び摺動試験後の摺動痕外観を評価した。
(摺動試験条件)
相手材:SUJ2鋼球(10mmφ)
荷重:15N(ヘルツ面圧:116Kg/mm
ストローク:2mm
スピード:5Hz
試験時間:15分
試験温度:室温(大気中)
【0053】
摩擦係数は、実測した摩擦係数の平均値を算出(測定上限値:0.64)したものである。相手材攻撃性は、摺動試験後の相手材摺動痕面積を算出したものである。また、摺動試験後の摺動痕外観の観察は、下記基準に従って評価した。
(評価基準)
◎:均一な濃い黒色
○:均一な薄い黒色
△:黒色だが、部分的に金属光沢
×:金属光沢(素材露出)
【0054】
(実施例1)
アルカリ脱脂処理後の鉄系金属材料の表面に、日本パーカライジング株式会社製の「パルブラックA」を水道水で80.5質量%濃度に希釈したものを黒染め剤として用い、148℃に加温後、60分間浸漬し、マグネタイトを主成分とする第一層を形成した。
チタニウムフッ化水素酸試薬、硝酸試薬及びフッ化水素酸試薬を用いて、チタニウム濃度が2000mg/Lであり、硝酸濃度が10000mg/Lであり、フッ素濃度が遊離フッ素として7mg/Lである酸性の化成処理液を調製した。次に、化成処理液を50℃に加温し、アンモニア水試薬でpH3.0に調整した化成処理液中に、第一層形成後の鉄系金属材料を300秒間浸漬し、酸化チタニウムを主成分とする第二層を形成した。
塗装ガン(旭サナック株式会社製の低圧スプレーガン「MGB40」)を用いて、鉄系金属材料の第二層上に固体潤滑塗料(株式会社川邑研究所製の「HMB−18」)を塗装した後、130℃で1時間焼き付けを行い、第三層を形成した。各層の主成分及び層厚さを表1に示し、評価結果を表2に示す。
【0055】
(実施例2)
アルカリ脱脂処理後の鉄系金属材料の表面に、日本パーカライジング株式会社製の「パルブラックA」を水道水で80.5質量%濃度に希釈したものを黒染め剤として用い、145℃に加温後、50分間浸漬し、マグネタイトを主成分とする第一層を形成した。
ジルコンフッ化水素酸試薬、硝酸試薬及びフッ化水素酸試薬を用いて、ジルコニウム濃度が300mg/Lであり、硝酸濃度が7000mg/Lであり、フッ素濃度が遊離フッ素として10mg/Lである酸性の化成処理液を調製した。次に、化成処理液を40℃に加温し、アンモニア水試薬でpH4.2に調整した化成処理液中に、第一層形成後の鉄系金属材料を180秒間浸漬し、酸化ジルコニウムを主成分とする第二層を形成した。
塗装ガン(旭サナック株式会社製の低圧スプレーガン「MGB40」)を用いて、鉄系金属材料の第二層上に固体潤滑塗料(ダイキン工業株式会社製の「TC−7109BK」)を塗装した後、100℃で15分間保持し、更に280℃で1時間焼き付けを行い、第三層を形成した。各層の主成分及び層厚さを表1に示し、評価結果を表2に示す。
【0056】
(実施例3)
アルカリ脱脂処理後の鉄系金属材料の表面に、日本パーカライジング株式会社製の「パルブラックA」を水道水で80.5質量%濃度に希釈したものを黒染め剤として用い、150℃に加温後、60分間浸漬し、マグネタイトを主成分とする第一層を形成した。
酸化ハフニウム試薬、硝酸試薬及びフッ化水素酸試薬を用いて、ハフニウム濃度が1500mg/Lであり、硝酸濃度が6000mg/Lであり、フッ素濃度が遊離フッ素として15mg/Lである酸性の化成処理液を調製した。次に、化成処理液を45℃に加温し、アンモニア水試薬でpH4.5に調整した化成処理液中に、第一層形成後の鉄系金属材料を600秒間浸漬し、酸化ハフニウムを主成分とする第二層を形成した。
塗装ガン(旭サナック株式会社製の低圧スプレーガン「MGB40」)を用いて、鉄系金属材料の第二層上に固体潤滑塗料(株式会社川邑研究所製の「HMB−2」)を塗装した後、200℃で1時間焼き付けを行い、第三層を形成した。各層の主成分及び層厚さを表1に示し、評価結果を表2に示す。
【0057】
(実施例4)
アルカリ脱脂処理後の鉄系金属材料の表面に、日本パーカライジング株式会社製の「パルブラックA」を水道水で80.5質量%濃度に希釈したものを黒染め剤として用い、147℃に加温後、30分間浸漬し、マグネタイトを主成分とする第一層を形成した。
酸化インジウム試薬、硝酸試薬及びフッ化水素酸を用いて、インジウム濃度が50mg/Lであり、硝酸濃度が8000mg/Lであり、フッ素濃度が遊離フッ素として20mg/Lである酸性の化成処理液を調製した。次に、化成処理液を45℃に加温し、アンモニア水試薬でpH3.5に調整した化成処理液中に、第一層を形成した鉄系金属材料を300秒間浸漬し、酸化インジウムを主成分とする第二層を形成した。
塗装ガン(旭サナック株式会社製の低圧スプレーガン「MGB40」)を用いて、鉄系金属材料の第二層上に固体潤滑塗料(株式会社川邑研究所製の「HMB−18」)を塗装した後、130℃で1時間焼き付けを行い、第三層を形成した。各層の主成分及び層厚さを表1に示し、評価結果を表2に示す。
【0058】
(実施例5)
アルカリ脱脂処理後の鉄系金属材料の表面に、日本パーカライジング株式会社製の「パルブラックA」を水道水で80.5質量%濃度に希釈したものを黒染め剤として用い、135℃に加温後、20分間浸漬し、マグネタイトを主成分とする第一層を形成した。
リン酸カルシウム系化成処理液(日本パーカライジング株式会社製の「パルボンド860」)を水道水で6質量%濃度に希釈し、全酸度を21ポイントに調整し、更に70℃に加温した化成処理液中に、第一層形成後の鉄系金属材料を300秒間浸漬し、リン酸亜鉛カルシウム(ショルツァイト)及びリン酸亜鉛(ホパイト)を主成分とする第二層を形成した。
塗装ガン(旭サナック株式会社製の低圧スプレーガン「MGB40」)を用いて、鉄系金属材料の第二層上に固体潤滑塗料(ダイキン工業株式会社製の「TC−7109BK」)を塗装した後、100℃で15分間保持し、更に280℃で1時間焼き付けを行い、第三層を形成した。各層の主成分及び層厚さを表1に示し、評価結果を表2に示す。
【0059】
(実施例6)
アルカリ脱脂処理後の鉄系金属材料の表面に、日本パーカライジング株式会社製の「パルブラックA」を水道水で80.5質量%濃度に希釈したものを黒染め剤として用い、135℃に加温後、3分間浸漬し、マグネタイトを主成分とする第一層を形成した。
リン酸亜鉛処理用表面調整剤(日本パーカライジング株式会社製の「プレパレンX」)を水道水で0.3質量%濃度に希釈した表面調整剤中に、第一層形成後の鉄系金属材料を30秒間浸漬させた。次に、リン酸亜鉛系化成処理液(日本パーカライジング株式会社製の「パルボンドL3020」)を水道水で4.8質量%濃度に希釈し、日本パーカライジング株式会社製の添加剤4813を0.5質量%および日本パーカライジング株式会社製の添加剤4856を1.7質量%それぞれ添加後、全酸度を23ポイント、遊離酸度を0.9ポイントに調整し、更に45℃に加温した化成処理液中に日本パーカライジング株式会社製の促進剤131を0.042質量%添加し、表面調整を行った鉄系金属材料を90秒間浸漬し、リン酸亜鉛(ホパイト)及びリン酸亜鉛鉄(フォスフォフィライト)を主成分とする第二層を形成した。
塗装ガン(旭サナック株式会社製の低圧スプレーガン「MGB40」)を用いて、鉄系金属材料の第二層上に固体潤滑塗料(株式会社川邑研究所製の「HMB−2」)を塗装した後、200℃で1時間焼き付けを行い、第三層を形成した。各層の主成分及び層厚さを表1に示し、評価結果を表2に示す。
【0060】
(実施例7)
アルカリ脱脂処理後の鉄系金属材料の表面に、日本パーカライジング株式会社製の「パルブラックA」を水道水で80.5質量%濃度に希釈したものを黒染め剤として用い、147℃に加温後、90分間浸漬し、マグネタイトを主成分とする第一層を形成した。
リン酸鉄系化成処理液(日本パーカライジング株式会社製の「パルフォス1077」)を水道水で5質量%濃度に希釈し、全酸度を10ポイント、酸消費ポイントを0.4ポイントに調整し、更に50℃に加温した化成処理液中に、第一層形成後の鉄系金属材料を90秒間浸漬し、リン酸鉄を主成分とする第二層を形成した。
塗装ガン(旭サナック株式会社製の低圧スプレーガン「MGB40」)を用いて、鉄系金属材料の第二層上に固体潤滑塗料(株式会社川邑研究所製の「HMB−18」)を塗装した後、130℃で1時間焼き付けを行い、第三層を形成した。各層の主成分及び層厚さを表1に示し、評価結果を表2に示す。
【0061】
(実施例8)
アルカリ脱脂処理後の鉄系金属材料の表面に、日本パーカライジング株式会社製の「パルブラックA」を水道水で80.5質量%濃度に希釈したものを黒染め剤として用い、145℃に加温後、30分間浸漬し、マグネタイトを主成分とする第一層を形成した。
リン酸マンガン処理用表面調整剤(日本パーカライジング株式会社製の「プレパレン55」)を水道水で0.3質量%濃度に希釈した表面調整剤中に、第一層形成後の鉄系金属材料を30秒間浸漬させた。次に、リン酸マンガン系表面処理薬剤(日本パーカライジング株式会社製の「パルフォスM1A」)を水道水で14質量%濃度に希釈し、全酸度を50ポイント、遊離酸度を8.6ポイント、酸比(全酸度/遊離酸度)を5.8、鉄分濃度を1.5g/Lに調整し、更に97℃に加温した化成処理液中に、表面調整を行った鉄系金属材料を900秒間浸漬し、リン酸マンガン(ヒューリオライト)及びリン酸マンガン鉄を主成分とする第二層を形成した。
塗装ガン(旭サナック株式会社製の低圧スプレーガン「MGB40」)を用いて、鉄系金属材料の第二層上に固体潤滑塗料(ダイキン工業株式会社製の「TC−7109BK」)を塗装した後、100℃で15分間保持し、更に280℃で1時間焼き付けを行い、第三層を形成した。各層の主成分及び層厚さを表1に示し、評価結果を表2に示す。
【0062】
(実施例9)
アルカリ脱脂処理後の鉄系金属材料の表面に、日本パーカライジング株式会社製の「パルブラックA」を水道水で80.5質量%濃度に希釈したものを黒染め剤として用い、142℃に加温後、40分間浸漬し、マグネタイトを主成分とする第一層を形成した。
塩化錫試薬及び塩酸試薬を用いて、錫濃度が300mg/Lであり、塩素濃度が1000mg/Lである酸性の化成処理液を調製した。次に、化成処理液を40℃に加温し、アンモニア水試薬でpH4.2に調整した化成処理液中に、第一層形成後の鉄系金属材料を300秒間浸漬し、酸化錫を主成分とする第二層を形成した。
塗装ガン(旭サナック株式会社製の低圧スプレーガン「MGB40」)を用いて、鉄系金属材料の第二層上に固体潤滑塗料(株式会社川邑研究所製の「HMB−18」)を塗装した後、130℃で1時間焼き付けを行い、第三層を形成した。各層の主成分及び層厚さを表1に示し、評価結果を表2に示す。
【0063】
(実施例10)
アルカリ脱脂処理後の鉄系金属材料の表面に、日本パーカライジング株式会社製の「パルブラックA」を水道水で80.5質量%濃度に希釈したものを黒染め剤として用い、148℃に加温後、60分間浸漬し、マグネタイトを主成分とする第一層を形成した。
硝酸ビスマス試薬及び硝酸試薬を用いて、ビスマス濃度が300mg/Lであり、硝酸濃度が6000mg/Lである酸性の化成処理液を調製した。次に、化成処理液を50℃に加温し、アンモニア水試薬でpH4.8に調整した化成処理液中に、第一層形成後の鉄系金属材料を180秒間浸漬し、酸化ビスマスを主成分とする第二層を形成した。
塗装ガン(旭サナック株式会社製の低圧スプレーガン「MGB40」)を用いて、鉄系金属材料の第二層上に固体潤滑塗料(ダイキン工業株式会社製の「TC−7109BK」)を塗装した後、100℃で15分間保持し、更に280℃で1時間焼き付けを行い、第三層を形成した。各層の主成分及び層厚さを表1に示し、評価結果を表2に示す。
【0064】
(実施例11)
アルカリ脱脂処理後の鉄系金属材料の表面に、日本パーカライジング株式会社製の「パルブラックA」を水道水で80.5質量%濃度に希釈したものを黒染め剤として用い、132℃に加温後、30分間浸漬し、マグネタイトを主成分とする第一層を形成した。
ジルコンフッ化水素酸試薬、硝酸試薬及びフッ化水素酸試薬を用いて、ジルコニウム濃度が150mg/Lであり、硝酸濃度が9000mg/Lであり、フッ素濃度が遊離フッ素として6mg/Lである酸性の化成処理液を調製した。次に、化成処理液を45℃に加温し、アンモニア水試薬でpH3.5に調整した化成処理液中に、第一層形成後の鉄系金属材料を90秒間浸漬し、酸化ジルコニウムを主成分とする第二層を形成した。
3−アミノプロピルジエトキシメチルシラン(東京化成工業株式会社製の「D1980」)を用いて、酸化ケイ素換算濃度が2質量%である塗布型処理液を調製した。次に、塗布型処理液を常温のまま鉄系金属材料の第二層上に塗布した後、150℃で30分間保持し、中間塗布層を形成した。
塗装ガン(旭サナック株式会社製の低圧スプレーガン「MGB40」)を用いて、鉄系金属材料の中間塗布層上に固体潤滑塗料(株式会社川邑研究所製の「HMB−2」)を塗装した後、200℃で1時間焼き付けを行い、第三層を形成した。各層の主成分及び層厚さを表1に示し、評価結果を表2に示す。
【0065】
(実施例12)
アルカリ脱脂処理後の鉄系金属材料の表面に、日本パーカライジング株式会社製の「パルブラックA」を水道水で80.5質量%濃度に希釈したものを黒染め剤として用い、145℃に加温後、75分間浸漬し、マグネタイトを主成分とする第一層を形成した。
リン酸カルシウム系化成処理液(日本パーカライジング株式会社製の「パルボンド860」)を水道水で6質量%濃度に希釈し、全酸度を21ポイントに調整し、更に70℃に加温した化成処理液中に、第一層形成後の鉄系金属材料を300秒間浸漬し、リン酸亜鉛カルシウム(ショルツァイト)及びリン酸亜鉛(ホパイト)を主成分とする第二層を形成した。
コロイダルシリカ(日産化学工業株式会社製の「スノーテックス(登録商標)N」)を希釈し、酸化ケイ素換算濃度が5質量%である塗布型処理液を調製した。次に、塗布型処理液を常温のまま鉄系金属材料の第二層上に塗布した後、120℃で20分間保持し、中間塗布層を形成した。
塗装ガン(旭サナック株式会社製の低圧スプレーガン「MGB40」)を用いて、鉄系金属材料の中間塗布層上に固体潤滑塗料(株式会社川邑研究所製の「HMB−18」)を塗装した後、130℃で1時間焼き付けを行い、第三層を形成した。各層の主成分及び層厚さを表1に示し、評価結果を表2に示す。
【0066】
(実施例13)
アルカリ脱脂処理後の鉄系金属材料の表面に、日本パーカライジング株式会社製の「パルブラックA」を水道水で80.5質量%濃度に希釈したものを黒染め剤として用い、140℃に加温後、40分間浸漬し、マグネタイトを主成分とする第一層を形成した。
リン酸マンガン処理用表面調整剤(日本パーカライジング株式会社製の「プレパレン55」)を水道水で0.3質量%濃度に希釈した表面調整剤中に、第一層形成後の鉄系金属材料を30秒間浸漬させた。次に、リン酸マンガン系化成処理液(日本パーカライジング株式会社製の「パルフォスM1A」)を水道水で14質量%濃度に希釈し、全酸度を50ポイント、遊離酸度を8.6ポイント、酸比(全酸度/遊離酸度)を5.8、鉄分濃度を1.5g/Lに調整し、更に98℃に加温した化成処理液中に、表面調整を行った鉄系金属材料を600秒間浸漬し、リン酸マンガン(ヒューリオライト)及びリン酸マンガン鉄を主成分とする第二層を形成した。
エチルポリシリケート、メチルトリメトキシシラン及びテトラエチルシリケート(多摩化学工業株式会社製の「SB−4611」を用いて、酸化ケイ素換算濃度が2質量%である塗布型処理液を調製した。次に、塗布型処理液を常温のまま鉄系金属材料の第二層上に塗布した後、110℃で15分間保持し、中間塗布層を形成した。
塗装ガン(旭サナック株式会社製の低圧スプレーガン「MGB40」)を用いて、鉄系金属材料の中間塗布層上に固体潤滑塗料(ダイキン工業株式会社製の「TC−7109BK」)を塗装した後、100℃で15分間保持し、更に280℃で1時間焼き付けを行い、第三層を形成した。各層の主成分及び層厚さを表1に示し、評価結果を表2に示す。
【0067】
(実施例14)
アルカリ脱脂処理後の鉄系金属材料の表面に、日本パーカライジング株式会社製の「パルブラックA」を水道水で80.5質量%濃度に希釈したものを黒染め剤として用い、147℃に加温後、30分間浸漬し、マグネタイトを主成分とする第一層を形成した。
リン酸鉄系化成処理液(日本パーカライジング株式会社製の「パルフォス1077」)を水道水で5質量%濃度に希釈し、全酸度を10ポイント、酸消費ポイントを0.4ポイントに調整し、更に55℃に加温した化成処理液中に、第一層形成後の鉄系金属材料を75秒間浸漬し、リン酸鉄を主成分とする第二層を形成した。
チタニウム−i−プロポキシオクチレングリコレート(日本曹達株式会社製の「TOG」)を用いて、酸化チタニウム換算濃度が2質量%である塗布型処理液を調製した。次に、塗布型処理液を常温のまま鉄系金属材料の第二層上に塗布した後、180℃で30分間保持し、中間塗布層を形成した。
塗装ガン(旭サナック株式会社製の低圧スプレーガン「MGB40」)を用いて、鉄系金属材料の中間塗布層上に固体潤滑塗料(株式会社川邑研究所製の「HMB−2」)を塗装した後、200℃で1時間焼き付けを行い、第三層を形成した。各層の主成分及び層厚さを表1に示し、評価結果を表2に示す。
【0068】
(実施例15)
アルカリ脱脂処理後の鉄系金属材料の表面に、日本パーカライジング株式会社製の「パルブラックA」を水道水で80.5質量%濃度に希釈したものを黒染め剤として用い、147℃に加温後、45分間浸漬し、マグネタイトを主成分とする第一層を形成した。
ジルコンフッ化水素酸試薬、硝酸試薬及びフッ化水素酸試薬を用いて、ジルコニウム濃度が200mg/Lであり、硝酸濃度が9000mg/Lであり、フッ素濃度が遊離フッ素として13mg/Lである酸性の化成処理液を調製した。次に、化成処理液を43℃に加温し、アンモニア水試薬でpH4.0に調整した化成処理液中に、第一層形成後の鉄系金属材料を120秒間浸漬し、酸化ジルコニウムを主成分とする第二層を形成した。
エチルポリシリケート、メチルトリメトキシシラン及びテトラエチルシリケート(多摩化学工業株式会社製の「SB−4611」)を用いて、酸化ケイ素換算濃度が3質量%である塗布型処理液を調製した。次に、塗布型処理液を常温のまま鉄系金属材料の第二層上に塗布した後、130℃で30分間保持し、中間塗布層を形成した。
塗装ガン(旭サナック株式会社製の低圧スプレーガン「MGB40」)を用いて、鉄系金属材料の中間塗布層上に固体潤滑塗料(ダイキン工業株式会社製の「TC−7109BK」)を塗装した後、100℃で15分間保持し、更に280℃で1時間焼き付けを行い、第三層を形成した。各層の主成分及び層厚さを表1に示し、評価結果を表2に示す。
【0069】
(実施例16)
アルカリ脱脂処理後の鉄系金属材料の表面に、日本パーカライジング株式会社製の「パルブラックA」を水道水で80.5質量%濃度に希釈したものを黒染め剤として用い、143℃に加温後、35分間浸漬し、マグネタイトを主成分とする第一層を形成した。
リン酸亜鉛処理用表面調整剤(日本パーカライジング株式会社製の「プレパレンZ」)を水道水で0.1質量%濃度に希釈した表面調整剤中に、第一層形成後の鉄系金属材料を30秒間浸漬させた。次に、リン酸亜鉛系化成処理液(日本パーカライジング株式会社製の「パルボンドL3020」)を水道水で4.8質量%濃度に希釈し、日本パーカライジング株式会社製の添加剤4813を0.5質量%および日本パーカライジング株式会社製の添加剤4856を1.7質量%それぞれ添加後、全酸度を23ポイント、遊離酸度を0.9ポイントに調整し、更に40℃に加温した化成処理液中に日本パーカライジング株式会社製の促進剤131を0.042質量%添加し、表面調整を行った鉄系金属材料を120秒間浸漬し、リン酸亜鉛(ホパイト)及びリン酸亜鉛鉄(フォスフォフィライト)を主成分とする第二層を形成した。
コロイダルシリカ(日産化学工業株式会社製の「スノーテックス(登録商標)N」)を希釈し、SiO2濃度として3質量%である塗布型処理液を調製した。次に、塗布型処理液を常温のまま鉄系金属材料の第二層上に塗布した後、120℃で20分間保持し、第一の中間塗布層を形成した。
3−アミノプロピルジエトキシメチルシラン(東京化成工業株式会社製の「D1980」)を用いて、酸化ケイ素換算濃度が1質量%である塗布型処理液を調製した。次に、塗布型処理液を常温のまま鉄系金属材料の第一の中間塗布層上に塗布した後、150℃で30分間保持し、第二の中間塗布層を形成した。
塗装ガン(旭サナック株式会社製の低圧スプレーガン「MGB40」)を用いて、鉄系金属材料の第二の中間塗布層上に固体潤滑塗料(株式会社川邑研究所製の「HMB−2」)を塗装した後、200℃で1時間焼き付けを行い、第三層を形成した。各層の主成分及び層厚さを表1に示し、評価結果を表2に示す。
【0070】
(実施例17)
アルカリ脱脂処理後の鉄系金属材料の表面に、日本パーカライジング株式会社製の「パルブラックA」を水道水で80.5質量%濃度に希釈したものに、水酸化リチウム・1水和物を15g/L添加し、十分に攪拌して溶解させたものを黒染め剤として用い、147℃に加温後、60分間浸漬し、マグネタイトを主成分とする第一層を形成した。
ジルコンフッ化水素酸試薬、硝酸試薬及びフッ化水素酸試薬を用いて、ジルコニウム濃度が120mg/Lであり、硝酸濃度が8000mg/Lであり、フッ素濃度が遊離フッ素として10mg/Lである酸性の化成処理液を調製した。次に、化成処理液を52℃に加温し、アンモニア水試薬でpH3.9に調整した化成処理液中に、第一層形成後の鉄系金属材料を900秒間浸漬し、酸化ジルコニウムを主成分とする第二層を形成した。
塗装ガン(旭サナック株式会社製の低圧スプレーガン「MGB40」)を用いて、鉄系金属材料の第二層上に固体潤滑塗料(株式会社川邑研究所製の「HMB−18」)を塗装した後、130℃で1時間焼き付けを行い、第三層を形成した。各層の主成分及び層厚さを表1に示し、評価結果を表2に示す。
【0071】
(実施例18)
アルカリ脱脂処理後の鉄系金属材料の表面に、日本パーカライジング株式会社製の「パルブラックA」を水道水で80.5質量%濃度に希釈したものに、水酸化リチウム・1水和物を12g/L添加し、十分に攪拌して溶解させたものを黒染め剤として用い、147℃に加温後、40分間浸漬し、マグネタイトを主成分とする第一層を形成した。
リン酸マンガン処理用表面調整剤(日本パーカライジング株式会社製の「プレパレンVM」)を水道水で0.5質量%濃度に希釈した表面調整剤中に、第一層形成後の鉄系金属材料を45秒間浸漬させた。次に、リン酸マンガン系化成処理液(日本パーカライジング株式会社製の「パルフォスM5」)を水道水で11質量%濃度に希釈し、全酸度を8ポイント、遊離酸度を1.3ポイント、酸比(全酸度/遊離酸度)を6.2、日本パーカライジング株式会社製の促進剤131を用いて促進剤濃度を2.5ポイントに調整し、更に85℃に加温した化成処理液中に、表面調整を行った鉄系金属材料を600秒間浸漬し、リン酸マンガン(ヒューリオライト)及びリン酸マンガン鉄を主成分とする第二層を形成した。
塗装ガン(旭サナック株式会社製の低圧スプレーガン「MGB40」)を用いて、鉄系金属材料の第二層上に固体潤滑塗料(ダイキン工業株式会社製の「TC−7109BK」)を塗装した後、100℃で15分間保持し、更に280℃で1時間焼き付けを行い、第三層を形成した。各層の主成分及び層厚さを表1に示し、評価結果を表2に示す。
【0072】
(実施例19)
アルカリ脱脂処理後の鉄系金属材料の表面に、日本パーカライジング株式会社製の「パルブラックA」を水道水で80.5質量%濃度に希釈したものを黒染め剤として用い、150℃に加温後、70分間浸漬し、マグネタイトを主成分とする第一層を形成した。
モリブデン酸ナトリウム試薬及び硫酸試薬を用いて、モリブデン濃度が8000mg/Lであり、硫酸濃度が10000mg/Lである酸性の化成処理液を調製した。次に、化成処理液を60℃に加温し、アンモニア水試薬でpH2.9に調整した化成処理液中に、第一層形成後の鉄系金属材料を180秒間浸漬し、酸化モリブデンを主成分とする第二層を形成した。
塗装ガン(旭サナック株式会社製の低圧スプレーガン「MGB40」)を用いて、鉄系金属材料の第二層上に固体潤滑塗料(株式会社川邑研究所製の「HMB−18」)を塗装した後、130℃で1時間焼き付けを行い、第三層を形成した。各層の主成分及び層厚さを表1に示し、評価結果を表2に示す。
【0073】
(実施例20)
アルカリ脱脂処理後の鉄系金属材料の表面に、日本パーカライジング株式会社製の「パルブラックA」を水道水で80.5質量%濃度に希釈したものを黒染め剤として用い、147℃に加温後、30分間浸漬し、マグネタイトを主成分とする第一層を形成した。
タングステン酸ナトリウム試薬、リン酸試薬及び硫酸試薬を用いて、タングステン濃度が15000mg/Lであり、リン酸濃度が10000mg/Lであり、硫酸濃度が1000mg/Lである酸性の化成処理液を調製した。次に、水酸化ナトリウム試薬でpH1.0に調整した常温の化成処理液中に、第一層形成後の鉄系金属材料を100秒間浸漬し、酸化タングステンを主成分とする第二層を形成した。
塗装ガン(旭サナック株式会社製の低圧スプレーガン「MGB40」)を用いて、鉄系金属材料の第二層上に固体潤滑塗料(ダイキン工業株式会社製の「TC−7109BK」)を塗装した後、100℃で15分間保持し、更に280℃で1時間焼き付けを行い、第三層を形成した。各層の主成分及び層厚さを表1に示し、評価結果を表2に示す。
【0074】
(参考例1)
アルカリ脱脂処理後の鉄系金属材料の表面に、日本パーカライジング株式会社製の「パルブラックA」を水道水で80.5質量%濃度に希釈したものを黒染め剤として用い、145℃に加温後、75分間浸漬し、マグネタイトを主成分とする第一層を形成した。
バナジルアセチルアセトネート試薬を用いて、バナジウム濃度を5000mg/Lとし、且つ、反応器内に脱イオン水300質量部とアニオン性反応性界面活性剤2質量部を加えてホモミキサーで攪拌しながら、脱イオン水50質量部と過硫酸カリウム1質量部の混合物と、脱イオン水287質量部、反応性乳化剤4質量部、メチルメタクリレート60質量部、スチレン158質量部、2−エチルヘキシルアクリレート18質量部、メタクリル酸4.5質量部、2−ヒドロキシエチルメタクリレート4.5質量部及びグリシジルメタクリレート45質量部の混合物を同時に少しずつ配合して得られた水分散性アクリル樹脂が2000mg/Lである塗布型処理液を調製した。次に、塗布型処理液を常温のまま鉄系金属材料の第一層上に塗布した後、100℃で15分間乾燥させ、中間塗布層を形成した。
塗装ガン(旭サナック株式会社製の低圧スプレーガン「MGB40」)を用いて、鉄系金属材料の中間塗布層上に固体潤滑塗料(株式会社川邑研究所製の「HMB−18」)を塗装した後、130℃で1時間焼き付けを行い、第三層を形成した。各層の主成分及び層厚さを表1に示し、評価結果を表2に示す。
【0075】
(参考例2)
アルカリ脱脂処理後の鉄系金属材料の表面に、日本パーカライジング株式会社製の「パルブラックA」を水道水で80.5質量%濃度に希釈したものを黒染め剤として用い、150℃に加温後、65分間浸漬し、マグネタイトを主成分とする第一層を形成した。
ニッケルアセチルアセトネート試薬を用いて、ニッケル濃度を7000mg/Lとし、且つ、反応器内に1,6−ヘキサンジオールとアジピン酸から得られた数平均分子量5000のポリエステルポリオール100質量部、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール5質量部、2,2−ジメチロールプロピオン酸20質量部、4,4−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート100質量部、N−メチル−2−ピロリドン100質量部を加えて反応させて、不揮発分に対する遊離のイソシアナト基含有量が5%であるウレタンプレポリマーを得た。次に、テトラメチレンジアミン16質量部及びトリエチルアミン10質量部を脱イオン水500質量部に加えてホモミキサーで攪拌しながら、上記ウレタンプレポリマーを加えて乳化分散し、最後に脱イオン水を加えて得た不揮発分25質量%の水分散性ウレタン樹脂が3000mg/Lである塗布型処理液を調製した。次に、塗布型処理液を常温のまま鉄系金属材料の第一層上に塗布した後、150℃で20分間乾燥させ、中間塗布層を形成した。
塗装ガン(旭サナック株式会社製の低圧スプレーガン「MGB40」)を用いて、鉄系金属材料の中間塗布層上に固体潤滑塗料(ダイキン工業株式会社製の「TC−7109BK」)を塗装した後、100℃で15分間保持し、更に280℃で1時間焼き付けを行い、第三層を形成した。各層の主成分及び層厚さを表1に示し、評価結果を表2に示す。
【0076】
(参考例3)
アルカリ脱脂処理後の鉄系金属材料の表面に、日本パーカライジング株式会社製の「パルブラックA」を水道水で80.5質量%濃度に希釈したものを黒染め剤として用い、145℃に加温後、70分間浸漬し、マグネタイトを主成分とする第一層を形成した。
セリウムアセチルアセトネート試薬を用いて、セリウム濃度を8500mg/Lとし、且つ、反応器内に脱イオン水300質量部とアニオン性反応性界面活性剤2質量部を加えてホモミキサーで攪拌しながら、脱イオン水50質量部と過硫酸カリウム1質量部の混合物と、脱イオン水287質量部、反応性乳化剤4質量部、メチルメタクリレート60質量部、スチレン158質量部、2−エチルヘキシルアクリレート18質量部、メタクリル酸4.5質量部、2−ヒドロキシエチルメタクリレート4.5質量部及びグリシジルメタクリレート45質量部の混合物を同時に少しずつ配合して得られた水分散性アクリル樹脂が3000mg/Lである塗布型処理液を調製した。次に、塗布型処理液を常温のまま鉄系金属材料の第一層上に塗布した後、130℃で30分間乾燥させ、中間塗布層を形成した。
塗装ガン(旭サナック株式会社製の低圧スプレーガン「MGB40」)を用いて、鉄系金属材料の中間塗布層上に固体潤滑塗料(株式会社川邑研究所製の「HMB−2」)を塗装した後、200℃で1時間焼き付けを行い、第三層を形成した。各層の主成分及び層厚さを表1に示し、評価結果を表2に示す。
【0077】
(参考例4)
アルカリ脱脂処理後の鉄系金属材料の表面に、日本パーカライジング株式会社製の「パルブラックA」を水道水で80.5質量%濃度に希釈したものを黒染め剤として用い、147℃に加温後、30分間浸漬し、マグネタイトを主成分とする第一層を形成した。
エチルポリシリケート、メチルトリメトキシシラン及びテトラエチルシリケート(多摩化学工業株式会社製の「SB−4611」を用いて、酸化ケイ素換算濃度が4質量%である塗布型処理液を調製した。次に、塗布型処理液を常温のまま鉄系金属材料の第一層上に塗布した後、110℃で15分間保持し、中間塗布層を形成した。
塗装ガン(旭サナック株式会社製の低圧スプレーガン「MGB40」)を用いて、鉄系金属材料の中間塗布層上に固体潤滑塗料(株式会社川邑研究所製の「HMB−18」)を塗装した後、130℃で1時間焼き付けを行い、第三層を形成した。各層の主成分及び層厚さを表1に示し、評価結果を表2に示す。
【0078】
(比較例1)
特許文献2(特開2007−119826号公報)の実施例に準じた方法より、アルカリ脱脂処理後の鉄系金属材料の表面に黒色クロムめっき皮膜を形成した。
塗装ガン(旭サナック株式会社製の低圧スプレーガン「MGB40」)を用いて、鉄系金属材料の黒色クロムめっき皮膜上に固体潤滑塗料(ダイキン工業株式会社製の「TC−7109BK」)を塗装した後、100℃で15分間保持し、更に280℃で1時間焼き付けを行い、固体潤滑層を形成した。各層の主成分及び層厚さを表3に示し、評価結果を表4に示す。
【0079】
(比較例2)
アルカリ脱脂処理後の鉄系金属材料にレイデント(登録商標)処理と呼ばれる低温電解クロムめっき処理を施し、表面に黒色クロム皮膜を形成した。
塗装ガン(旭サナック株式会社製の低圧スプレーガン「MGB40」)を用いて、鉄系金属材料の黒色クロム皮膜上に固体潤滑塗料(ダイキン工業株式会社製の「TC−7109BK」)を塗装した後、100℃で15分間保持し、更に280℃で1時間焼き付けを行い、固体潤滑層を形成した。各層の主成分及び層厚さを表3に示し、評価結果を表4に示す。
【0080】
(比較例3)
アルカリ脱脂処理後の鉄系金属材料の表面に、日本パーカライジング株式会社製の「パルブラックA」を水道水で80.5質量%濃度に希釈したものを黒染め剤として用い、147℃に加温後、25分間浸漬し、マグネタイトを主成分とする第一層を形成した。
塗装ガン(旭サナック株式会社製の低圧スプレーガン「MGB40」)を用いて、鉄系金属材料の第一層上に固体潤滑塗料(ダイキン工業株式会社製の「TC−7109BK」)を塗装した後、100℃で15分間保持し、更に280℃で1時間焼き付けを行い、固体潤滑層を形成した。各層の主成分及び層厚さを表3に示し、評価結果を表4に示す。
【0081】
(比較例4)
ジルコンフッ化水素酸試薬、硝酸試薬及びフッ化水素酸試薬を用いて、ジルコニウム濃度が250mg/Lであり、硝酸濃度が5000mg/Lであり、フッ素濃度が遊離フッ素として7mg/Lである酸性の化成処理液を調製した。次に、化成処理液を40℃に加温し、アンモニア水試薬でpH4.3に調整した化成処理液中に、アルカリ脱脂処理後の鉄系金属材料を180秒間浸漬し、酸化ジルコニウムを主成分とする皮膜を形成した。
塗装ガン(旭サナック株式会社製の低圧スプレーガン「MGB40」)を用いて、鉄系金属材料の酸化ジルコニウムを主成分とする皮膜上に固体潤滑塗料(ダイキン工業株式会社製の「TC−7109BK」)を塗装した後、100℃で15分間保持し、更に280℃で1時間焼き付けを行い、固体潤滑層を形成した。各層の主成分及び層厚さを表3に示し、評価結果を表4に示す。
【0082】
(比較例5)
リン酸マンガン処理用表面調整剤(日本パーカライジング株式会社製の「プレパレンVM」)を水道水で0.3質量%濃度に希釈した表面調整剤中に、アルカリ脱脂処理後の鉄系金属材料を30秒間浸漬させた。次に、リン酸マンガン系化成処理液(日本パーカライジング株式会社製の「パルフォスM1A」)を水道水で14質量%濃度に希釈し、全酸度を50ポイント、遊離酸度を8.6ポイント、酸比(全酸度/遊離酸度)を5.8、鉄分濃度を1.5g/Lに調整し、更に98℃に加温した化成処理液中に、表面調整を行った鉄系金属材料を900秒間浸漬し、リン酸マンガン(ヒューリオライト)及びリン酸マンガン鉄を主成分とする皮膜を形成した。
塗装ガン(旭サナック株式会社製の低圧スプレーガン「MGB40」)を用いて、鉄系金属材料の酸化ジルコニウムを主成分とする皮膜上に固体潤滑塗料(ダイキン工業株式会社製の「TC−7109BK」)を塗装した後、100℃で15分間保持し、更に280℃で1時間焼き付けを行い、固体潤滑層を形成した。各層の主成分及び層厚さを表3に示し、評価結果を表4に示す。
【0083】
(比較例6)
特許文献2(特開2007−119826号公報)の実施例に準じた方法より、アルカリ脱脂処理後の鉄系金属材料の表面に黒色クロムめっき皮膜を形成した。
リン酸マンガン処理用表面調整剤(日本パーカライジング株式会社製の「プレパレン55」)を水道水で0.3質量%濃度に希釈した表面調整剤中に、黒色クロムめっき皮膜形成後の鉄系金属材料を30秒間浸漬させた。次に、リン酸マンガン系化成処理液(日本パーカライジング株式会社製の「パルフォスM1A」)を水道水で14質量%濃度に希釈し、全酸度を50ポイント、遊離酸度を8.6ポイント、酸比(全酸度/遊離酸度)を5.8、鉄分濃度を1.5g/Lに調整し、更に98℃に加温した化成処理液中に、表面調整を行った鉄系金属材料を900秒間浸漬し、リン酸マンガン(ヒューリオライト)及びリン酸マンガン鉄を主成分とする皮膜を形成した。
塗装ガン(旭サナック株式会社製の低圧スプレーガン「MGB40」)を用いて、鉄系金属材料のリン酸マンガン鉄を主成分とする皮膜上に固体潤滑塗料(ダイキン工業株式会社製の「TC−7109BK」)を塗装した後、100℃で15分間保持し、更に280℃で1時間焼き付けを行い、固体潤滑層を形成した。各層の主成分及び層厚さを表3に示し、評価結果を表4に示す。
【0084】
(比較例7)
アルカリ脱脂処理後の鉄系金属材料にレイデント(登録商標)処理と呼ばれる低温電解クロムめっき処理を施し、表面に黒色クロム皮膜を形成した。
リン酸マンガン処理用表面調整剤(日本パーカライジング株式会社製の「プレパレン55」)を水道水で0.3質量%濃度に希釈した表面調整剤中に、黒色クロム皮膜形成後の鉄系金属材料を30秒間浸漬させた。次に、リン酸マンガン系化成処理液(日本パーカライジング株式会社製の「パルフォスM1A」)を水道水で14質量%濃度に希釈し、全酸度を50ポイント、遊離酸度を8.6ポイント、酸比(全酸度/遊離酸度)を5.8、鉄分濃度を1.5g/Lに調整し、更に98℃に加温した化成処理液中に、表面調整を行った鉄系金属材料を900秒間浸漬し、リン酸マンガン(ヒューリオライト)及びリン酸マンガン鉄(ヒューリオライト)を主成分とする皮膜を形成した。
塗装ガン(旭サナック株式会社製の低圧スプレーガン「MGB40」)を用いて、鉄系金属材料のリン酸マンガン鉄を主成分とする皮膜上に固体潤滑塗料(ダイキン工業株式会社製の「TC−7109BK」)を塗装した後、100℃で15分間保持し、更に280℃で1時間焼き付けを行い、固体潤滑層を形成した。各層の主成分及び層厚さを表3に示し、評価結果を表4に示す。
【0085】
(比較例8)
塗装ガン(旭サナック株式会社製の低圧スプレーガン「MGB40」)を用いて、アルカリ脱脂処理後の鉄系金属材料の表面に固体潤滑塗料(ダイキン工業株式会社製の「TC−7109BK」)を塗装した後、100℃で15分間保持し、更に280℃で1時間焼き付けを行い、固体潤滑層を形成した。各層の主成分及び層厚さを表3に示し、評価結果を表4に示す。
【0086】
【表1】

【0087】
【表2】

【0088】
【表3】

【0089】
【表4】

【0090】
表3及び4から分かるように、実施例では、第一層形成後に良好な均一の黒色外観を有し、第二層形成後及び第三層形成後においても良好な均一の黒色外観を維持していた。一方、比較例1〜3は、良好な黒色皮膜を有していた。比較例4、5及び8は、黒色皮膜が得られなかった。比較例6及び7では、第一層で得られた黒色皮膜が、第二層の形成によって、一部剥離したような斑外観が見られた。
【0091】
表3及び4から分かるように、全ての実施例において良好な耐食性が得られた。一方、比較例1については良好な耐食性が得られたが、他の比較例については、実施例に比べ、明らかに劣っていた。
【0092】
表3及び4から分かるように、実施例では、摩擦係数、相手攻撃性及び摺動痕外観観察の全ての項目において良好な結果が得られた。摩擦係数については、試験開始から終了まで安定しており、上下に変動するようなことは無かった。相手攻撃性についても、相手材の摺動痕面積が大変小さく、良好な結果であった。摺動痕外観観察について、摺動試験後においても、摺動痕が均一な黒色を有していた。一方、比較例については、実施例に比べ、明らかに劣っていた。
【0093】
以上の結果から、本発明により得られる黒色表面処理鉄系金属材料は、従来技術と比較して優れた耐食性及び摺動性が得られることが明らかである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄系金属材料の表面に、化成処理により形成したマグネタイト層と、該マグネタイト層上に形成され、亜鉛、錫、鉄、マンガン及びカルシウムから選ばれる少なくとも1種の元素を含むリン酸塩、チタニウム、ジルコニウム、ハフニウム、インジウム、錫、ビスマス、バナジウム、ニッケル、セリウム、モリブデン及びタングステンから選ばれる少なくとも1種の元素を含む酸化物並びにチタニウム、ジルコニウム、ハフニウム、インジウム、錫、ビスマス、バナジウム、ニッケル、セリウム、モリブデン及びタングステンから選ばれる少なくとも1種の元素を含むフッ化物から選ばれる少なくとも1種を含有する化成処理層と、該化成処理層上に形成された固体潤滑層とが設けられたことを特徴とする黒色表面処理鉄系金属材料。
【請求項2】
前記マグネタイト層は、リチウム含有鉄酸化物を更に含有する請求項1に記載の黒色表面処理鉄系金属材料。
【請求項3】
前記化成処理層は、リン酸亜鉛、リン酸亜鉛鉄、リン酸マンガン、リン酸マンガン鉄及びリン酸亜鉛カルシウムから選ばれる少なくとも1種の結晶性リン酸塩を含有する請求項1又は2に記載の黒色表面処理鉄系金属材料。
【請求項4】
前記化成処理層は、酸化ジルコニウム、酸化チタニウム、フッ化ジルコニウム、フッ化チタニウム及びリン酸鉄から選ばれる少なくとも1種の非晶質化合物を含有する請求項1又は2に記載の黒色表面処理鉄系金属材料。
【請求項5】
前記マグネタイト層の厚さは0.1μm〜5μmである請求項1〜4のいずれか一項に記載の黒色表面処理鉄系金属材料。
【請求項6】
前記化成処理層に含有される結晶性リン酸塩の結晶サイズは5μm以下である請求項3に記載の黒色表面処理鉄系金属材料。
【請求項7】
前記化成処理層の厚さは0.01μm〜3μmである請求項4に記載の黒色表面処理鉄系金属材料。
【請求項8】
鉄系金属材料の表面を、水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムから選ばれる少なくとも1種と酸化剤とを含有する水溶液と接触させ、該鉄系金属材料の表面にマグネタイト層を形成する工程と、
該鉄系金属材料のマグネタイト層を、亜鉛、鉄、マンガン、カルシウム、チタニウム、ジルコニウム、ハフニウム、インジウム、錫、ビスマス、バナジウム、ニッケル、セリウム、モリブデン及びタングステンから選ばれる少なくとも1種の元素を含む化成処理液と接触させ、該マグネタイト層上に化成処理層を形成する工程と、
該鉄系金属材料の化成処理層上に固体潤滑剤を塗布し、固体潤滑層を形成する工程と
を有することを特徴とする黒色表面処理鉄系金属材料の製造方法。
【請求項9】
前記マグネタイト層の形成に用いる水溶液は、水酸化リチウムを更に含有する請求項8に記載の黒色表面処理鉄系金属材料の製造方法。

【公開番号】特開2011−58032(P2011−58032A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−206913(P2009−206913)
【出願日】平成21年9月8日(2009.9.8)
【出願人】(000229597)日本パーカライジング株式会社 (198)
【Fターム(参考)】