説明

黒色複合めっき皮膜の形成方法

【課題】被めっき物の表面に対し、微粒子を分散含有する黒色複合めっき皮膜を良好に形成する。
【解決手段】ニッケル塩、次亜リン酸またはその浴可溶性の塩、硫黄含有化合物およびPTFE微粒子を含む無電解ニッケルめっき浴を用いてPTFE複合めっき皮膜10を焼き網2の表面に形成した後、そのPTFE複合めっき皮膜10の表層部を、塩化第二鉄および塩酸を含む黒化処理剤により黒化処理して均一な黒色複合めっき皮膜が得られる。また、本実施形態では、複合めっき皮膜10全体に黒化処理を施すのではなく、複合めっき皮膜10の表層部のみを黒化処理しているため、スス状剥がれを防止しながら均一な黒色を有する黒色PTFE複合めっき皮膜が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、黒色の複合めっき皮膜を形成する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
無電解めっき皮膜は、比較的複雑な表面形状を有する物品の表面に対しても、良好に形成でき、例えばニッケル−リン合金をマトリックスとするものは、耐摩耗性を付与することから、その用途が広がっている。また、不溶性、非電導性の微粒子をめっき液中に分散させ、皮膜に微粒子を取り込んでさまざまな機能を持つ複合めっき皮膜を形成することができる(非特許文献1)。例えば還元剤として次亜りん酸塩を用い、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)微粒子等のフッ素樹脂微粒子を分散した無電解複合ニッケル−リン合金めっき液を使用し、金属素地や非金属素地上にPTFEを分散含有する複合めっき皮膜を形成すると、当該めっき皮膜に対して撥水性や非粘着性などの特性を付与することができる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】土井 正著「最新めっきの基本と仕組み」株式会社秀和システム発行、2008年7月1日、p.134−135
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記した複合めっき皮膜の表面色は、PTFE微粒子の分散量や分散状態などに応じて明度が多少異なるものの、基本的に灰色となっているが、次のような目的のために、複合めっき皮膜の表面を黒色化したいという要望が従来よりあった。例えば後の実施形態で詳述するように加熱調理器で使用する「焼き網」では汚れを目立ち難くするとともに高級感を高める目的で黒色化することが望まれている。しかしながら、現在のところ、PTFEを共析させた無電解ニッケルめっき皮膜(以下、「PTFE複合めっき皮膜」という)を均一に黒色化する技術が十分に確立されていない。
【0005】
そこで、本発明では、被めっき物の表面に対し、微粒子を分散含有する黒色複合めっき皮膜を良好に形成する方法、つまり黒色複合めっき皮膜の形成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明は、微粒子を分散含有する黒色複合めっき皮膜を被めっき物の表面に形成する黒色複合めっき皮膜の形成方法であって、上記目的を達成するため、ニッケル塩、次亜リン酸またはその浴可溶性の塩、硫黄含有化合物および微粒子を含む無電解ニッケルめっき浴に被めっき物を浸漬して被めっき物の表面に微粒子を分散含有する複合ニッケルめっき皮膜を形成する無電解めっき工程と、複合ニッケルめっき皮膜が形成された被めっき物を、塩化第二鉄および塩酸を含む黒化処理剤に浸漬して複合ニッケルめっき皮膜に黒化処理層を形成する黒化工程とを備えることを特徴としている。
【0007】
このように構成された発明では、被めっき物が上記した組成の無電解ニッケルめっき浴に浸漬されて被めっき物の表面に対して微粒子を分散含有する複合ニッケルめっき皮膜が形成される。そして、その複合ニッケルめっき皮膜を有する被めっき物が塩化第二鉄および塩酸を含む黒化処理剤に浸漬され、複合ニッケルめっき皮膜に含まれるニッケルが硫化されて黒色の硫化ニッケル層が形成される。
【0008】
ここで、モリブデンを含む安定剤を無電解ニッケルめっき浴に添加することで液分解を抑制して無電解ニッケルめっき浴の長寿命化を図ることができ、好適である。
【0009】
なお、後で詳述するように複合めっき皮膜に対する黒化処理層の割合に応じて複合めっき皮膜の耐剥離性が変化する。これは、本願発明者が種々の実験などから得た知見であり、長期間にわたって均一な黒色表面を得るためには、上記割合を制御することが非常に重要となる。例えば厚み方向において複合めっき皮膜全体に対して黒化処理を施すのではなく、表層部のみに黒化処理を施して複合めっき皮膜よりも薄い黒化処理層を形成することで、複合めっき皮膜の耐剥離性を確保することができる。より具体的には、黒化処理層の厚みをTaとし、黒化処理後の複合めっき皮膜の厚みをT0としたとき、Ta/T0≦0.5が満足されるように構成するのが望ましい。
【0010】
また、本発明では複合めっき皮膜内に微粒子が分散して存在している。このため、複合めっき皮膜の表面に微粒子の一部が露出しており、被めっき物の表面に応力が作用する、例えば被めっき物の表面を洗浄すると、これらの微粒子が黒化処理層から剥がれ落ちることがある。したがって、微粒子の粒径に比べて黒化処理層が薄い場合には、微粒子の剥落によって黒化処理されていない複合めっき皮膜層が露出し、色ムラの原因となることがある。この点を考慮すれば、黒化処理層の厚みTaが、微粒子の平均粒径を超えるように構成するのが望ましい。
【0011】
さらに、複合めっき皮膜を形成する前(無電解めっき工程前)に電気ニッケルめっき工程を実行して被めっき物の表面に光沢ニッケル層を形成してもよい。これにより被めっき物に対する複合めっき皮膜の密着性をさらに高めて耐剥離性を向上させるとともに、被めっき物に光沢性を与えて製品の高級感を高めることができる。
【発明の効果】
【0012】
以上のように、本発明では、ニッケル塩、次亜リン酸またはその浴可溶性の塩、硫黄含有化合物および微粒子を含む無電解ニッケルめっき浴を用いた無電解めっき工程と、塩化第二鉄および塩酸を含む黒化処理剤を用いた黒化工程とを組み合わせているので、被めっき物の表面に対し、微粒子を含む黒色複合めっき皮膜を良好に形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明にかかる黒色複合めっき皮膜の製造方法の一実施形態を示すフローチャートである。
【図2】図1の製造方法により黒色複合めっき皮膜が形成された焼き網の一例を示す斜視図である。
【図3】図2の焼き網の部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1は本発明にかかる黒色複合めっき皮膜の製造方法の一実施形態を示すフローチャートである。また、図2は図1の製造方法により黒色複合めっき皮膜が形成された焼き網の一例を示す斜視図である。さらに、図3は図2の焼き網の部分断面図であり、同図(a)は黒化処理前を示す一方、同図(b)は黒化処理後を示している。この焼き網2は、電磁誘導加熱式調理器において魚や茄子などを調理する際に用いられるものであり、受け皿に載置された状態で調理器の調理室内に対して収納され、また受け皿とともに調理室からスライドして引き出し可能となっている。
【0015】
この焼き網2では、複数のステンレスワイヤーなどの金属ワイヤーを加工し、また溶接して網状に形成された網素材4に対して電気ニッケルめっき層6が形成されて本体部8が構成されている。本実施形態では、焼き網2に対して光沢性を付与するために、電気ニッケルめっき層6は、半光沢ニッケルめっき、ウッドニッケルめっきおよび光沢ニッケルめっきの三層構造となっており、8[μm]以上の厚みで形成されている。このように電気ニッケルめっき層6を形成する工程が、本発明の「電気ニッケルめっき工程」に相当する。
【0016】
本実施形態では、このように構成された電気ニッケルめっき層6上に、図1に示す手順で黒色複合めっき皮膜が形成される。以下、図1および図3を参照しつつ黒色複合めっき皮膜の製造方法について詳述する。まず、電気ニッケルめっき層6が形成された焼き網2を、3%の塩酸水溶液に浸漬させて電気ニッケルめっき層6の表面を活性化する(ステップS1)。そして、塩酸水溶液から焼き網2を引き上げた後、市水により水洗処理して塩酸活性化工程を停止させる(ステップS2)。
【0017】
次に、塩化パラジウム50ppm、塩酸5%を含む水溶液中に、塩酸活性化工程を受けた焼き網2を浸漬させる(ステップS3、パラジウム活性化工程)。これは無電解ニッケルの初期析出を促進させるために行う工程であり、上記水溶液に所定時間だけ浸漬させた後、同水溶液から焼き網2を引き上げ、さらに市水により水洗処理してパラジウム活性化工程を停止させる(ステップS4)。
【0018】
そして、パラジウム活性化工程を受けた焼き網2を、ニッケル塩、次亜リン酸またはその浴可溶性の塩、硫黄含有化合物およびPTFE微粒子を含む無電解ニッケルめっき浴に浸漬して焼き網2の表面全体にPTFE複合めっき皮膜10を形成する(ステップS5、PTFE複合めっき工程)。このPTFE複合めっき工程で重要な点は、後述する黒化処理との組み合わせを考慮し、硫黄含有化合物を必須的に含むことである。また、液分解を抑制する観点から、無電解ニッケルめっき浴にモリブデンが含まれることが望ましい。なお、これらの具体例については、後の実施例で詳述する。
【0019】
このように組成された無電解ニッケルめっき浴の温度、焼き網2の浸漬時間などを調整することでPTFE複合めっき工程により焼き網2の表面に形成される複合めっき皮膜10の厚みを制御することができる。なお、この実施形態では、焼き網2の表面に3[μm]以上の厚みを有する複合めっき皮膜10を形成した後、焼き網2を無電解ニッケルめっき浴から引き上げ、さらに市水により水洗処理を施して複合めっき皮膜10の形成を停止させるとともに、焼き網2の表面から無電解ニッケルめっき液を除去する(ステップS6)。
【0020】
次に、所望厚さの複合めっき皮膜10が形成された、焼き網2を塩化第二鉄および塩酸を含む黒化処理剤に浸漬し、図3(b)に示すように、PTFE複合めっき皮膜10の表層部に対して黒化処理(化成処理)を施して厚みTaの黒色の黒化処理層10Aを形成する一方、残部については非処理層10Bとして残している(ステップS7、黒化工程)。すなわち、本実施形態では、
(黒化処理層10Aの厚みTa)<(黒化処理後の複合めっき皮膜10の厚みT0)
が満足されるように、非処理層10Bを残しつつ黒化処理層10Aを複合めっき皮膜10の表層部に形成している。すなわち、この黒化工程では、上記黒化処理剤を用いてPTFE複合めっき皮膜10の表層部に含まれるニッケルを硫化して黒色の黒化処理層(硫化ニッケル層)10Aを形成している。もちろん、黒化処理層10AにはPTFE微粒子がそのまま分散して存在しており、撥水性などの特性は失われず、そのまま維持されている。
【0021】
また、黒化処理層10Aの厚みTaについては、後の実施例で示すように、黒化処理剤に浸漬させる時間により制御することができる。そして、所望の黒化処理層10Aが形成されると、焼き網2を黒化処理剤から引き上げ、市水による水洗処理により黒化工程を停止させるとともに、焼き網2の表面から黒化処理剤を除去する(ステップS8)。
【0022】
それに続いて、3%の水酸化ナトリウム溶液に焼き網2を浸漬させて中和防錆処理を施して焼き網2の表面が変色するのを防止する(ステップS9、安定化工程)。その後、水酸化ナトリウム溶液から焼き網2を引き上げ、さらに市水による水洗処理により安定化工程を停止させるとともに、焼き網2の表面から水酸化ナトリウム溶液を除去する(ステップS10)。最後に例えば350゜C、20分間の熱処理を焼き網2に与えて黒色PTFE複合めっき皮膜10(=10A+10B)を硬化させる(ステップS11)。
【0023】
以上のように、本実施形態では、ニッケル塩、次亜リン酸またはその浴可溶性の塩、硫黄含有化合物およびPTFE微粒子を含む無電解ニッケルめっき浴を用いてPTFE複合めっき皮膜10を焼き網2の表面に形成した後、そのPTFE複合めっき皮膜10の表層部を、塩化第二鉄および塩酸を含む黒化処理剤により黒化処理して均一な黒色複合めっき皮膜を得ている。
【0024】
また、本実施形態では、複合めっき皮膜10全体に黒化処理を施すのではなく、複合めっき皮膜10の表層部のみを黒化処理しているため、スス状剥がれを防止しながら均一な黒色を有する黒色PTFE複合めっき皮膜が得られる。この点については後の実施例からも明らかである。
【0025】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて上述したものに対して種々の変更を加えることが可能である。例えば、上記実施形態では、黒色複合めっき皮膜を形成すべき「被めっき物」として焼き網2を提示しているが、焼き網以外の物品に対して本発明を適用してもよく、被めっき物の構成、材質、形状などについては任意である。
【0026】
また、上記実施形態では、PTFE微粒子を本発明の「微粒子」として用いているが、微粒子はこれに限定されるものではなく、例えばPTFE以外のフッ素化合物(例えば、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビフェニルエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体など)の微粒子を用いてもよい。
【実施例】
【0027】
次に本発明の実施例を示すが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に含まれる。
【0028】
<無電解ニッケルめっき浴と黒化処理剤の組み合わせ>
実施例1
無電解ニッケルめっき浴:脱イオン水や市水などの水(以下、単に「水」という)1[L]に対し、アトテック・ジャパン製の無電解ニッケルめっき溶液A、B(商品名「Black EN」)をそれぞれ60[mL]、150[mL]、1[μm]以下のPTFE微粒子(荏原ユージライト株式会社製の商品名「エコルティ ディスパージョン」)7[g]の割合で添加したもの、
黒化処理剤:水1[L]に対し、塩化第二鉄200[g]、塩酸20[mL]の割合で添加したもの。
【0029】
実施例2
無電解ニッケルめっき浴:水1[L]に対し、アトテック・ジャパン製の無電解ニッケルめっき溶液A、B(商品名「Black EN」)をそれぞれ60[mL]、150[mL]、1[μm]以下のPTFE微粒子(荏原ユージライト株式会社製の商品名「エコルティ ディスパージョン」)7[g]、モリブデンを含有する界面活性剤(荏原ユージライト株式会社製の商品名「エコルティ テフ SW」)0.5[mL]の割合で添加したもの、
黒化処理剤:水1[L]に対し、塩化第二鉄200[g]、塩酸20[mL]の割合で添加したもの。
【0030】
実施例3
無電解ニッケルめっき浴:水1[L]に対し、荏原ユージライト株式会社製の無電解ニッケルめっき溶液AM、BM(商品名「エコルティ テフ 」)をそれぞれ50[mL]、200[mL]、1[μm]以下のPTFE微粒子(荏原ユージライト株式会社製の商品名「エコルティ ディスパージョン」)10[g]、モリブデンを含有する界面活性剤(荏原ユージライト株式会社製の商品名「エコルティ テフ SW」)0.5[mL]の割合で添加したもの、
黒化処理剤:水1[L]に対し、塩化第二鉄200[g]、塩酸20[mL]の割合で添加したもの。
【0031】
比較例1
無電解ニッケルめっき浴:水1[L]に対し、アトテック・ジャパン製の無電解ニッケルめっき溶液A、B(商品名「ナイフロー」)をそれぞれ60[mL]、200[mL]、1[μm]以下のPTFE微粒子(荏原ユージライト株式会社製の商品名「エコルティ ディスパージョン」)7[g]の割合で添加したもの、
黒化処理剤:水1[L]に対し、塩化第二鉄200[g]、塩酸20[mL]の割合で添加したもの。
【0032】
上記した実施例1〜3では、無電解ニッケルめっき浴により焼き網2の表面にPTFE複合めっき皮膜10を形成することができ、しかも黒化処理剤により黒色複合めっき皮膜10が得られた。これに対し、比較例1では、無電解ニッケルめっき浴により焼き網2の表面にPTFE複合めっき皮膜10を形成することができるもの、PTFE複合めっき皮膜10は黒色にならなかった。これは無電解ニッケルめっき浴中の硫黄化合物によるものと考察される。つまり、実施例1〜3の無電解ニッケルめっき浴では硫黄化合物が含有されており、黒化処理剤によりPTFE複合めっき皮膜10中のニッケルが硫化されて黒色の硫化ニッケル層(化成処理層)10Aが形成される。これに対し、比較例1の無電解ニッケルめっき浴には硫黄化合物が含有されていない、あるいは微量であるため、PTFE複合めっき皮膜10が黒化されなかったと考えられる。
【0033】
また、実施例1〜3で形成された黒化処理層(硫化ニッケル層)10Aの黒色度合いを比較すると、実施例1および2に比べて実施例3は低い。これは、荏原ユージライト株式会社製の無電解ニッケルめっき溶液AM、BM(商品名「エコルティ テフ 」)のリン濃度が、実施例1および2で用いたアトテック・ジャパン製の無電解ニッケルめっき溶液A、B(商品名「Black EN」)のリン濃度の2倍程度高いことに起因していると推測される。つまり、リン濃度が高い分だけ焼き網2の表面にリン化合物が形成されやすく、そのリン化合物の生成量が多い分だけ硫化ニッケルの形成が阻害されるためと考えられる。
【0034】
さらに、実施例1と2で使用した無電解ニッケルめっき浴の寿命を比較したところ、実施例1の無電解ニッケルめっき浴では比較的短時間で液分解が発生したのに対し、モリブデンを含有する界面活性剤を添加した実施例2の方が長寿命であった。これは、モリブデンが無電解ニッケルめっき浴の液分解を抑制したものと考えられる。したがって、液分解を抑制する観点から、無電解ニッケルめっき浴にモリブデンを含有させるのが望ましい。
【0035】
<黒化処理の割合>
上記した実施形態では、複合めっき皮膜10全体に黒化処理を施すのではなく、複合めっき皮膜10の表層部のみを黒化処理している。その理由について、以下に詳述する。
【0036】
本願発明者は、複合めっき皮膜10に対する黒化処理層の割合(=Ta/T0)に応じて複合めっき皮膜10の表面外観や皮膜の耐剥離性がどのように変化するのを検証するため、次の実験を行った。この実験では、焼き網2に対して電気ニッケルめっき処理により厚さ約25[μm]の電気ニッケルめっき層6並びに実施例2の複合めっき浴を使用して厚さ約3.3[μm]の複合めっき皮膜10が形成された、焼き網2を複数個準備し、温度35゜Cに温調した上記黒化処理剤に浸漬して黒化処理を施した。なお、ここでは各焼き網2の黒化処理剤への浸漬時間を互いに相違させて黒化処理層10Aの厚みTaおよび非処理層10Bの厚みTbを調整している。
【0037】
また、黒化処理後の焼き網2に対して水洗処理、アルカリ処理液による安定化処理、水洗処理、ならびに350゜C−10分の熱処理をこの順序で加えた後、黒化処理層10Aの厚みTa、非処理層10Bの厚みTbの計測、ならびに外観評価を行った。この結果を表1に示す。
【表1】

【0038】
なお、同表中の評価方法は以下の通りである。
<ムラ>
◎ : 黒色のある均一な外観
○ : 黒味の弱い均一な外観
△ : 黒味がなく白っぽい外観
× : 不均一で未黒化部分のある外観
<スス状剥がれ>
◎ : スス状の剥がれが全くない外観
○ : 2%未満のスス状剥がれがある外観
△ : 2%〜10%未満のスス状剥がれがある外観
× : 10%以上のスス状剥がれがある外観。
【0039】
表1に示す結果から複合めっき皮膜10よりも薄い黒化処理層10Aを形成するように黒化処理を実行することでスス状剥がれを防止しながら均一な黒色を有する焼き網2が得られることが確認された。また、スス状剥がれの発生率をより改善するためには、黒化処理後の複合めっき皮膜10に対する黒化処理層10Aの割合が0.5以下となるように黒化処理時間などの黒化処理条件を調整すればよい。また、上記割合が0.42以下となるように黒化処理条件を調整することで、スス状剥がれの発生をさらに抑制しながら均一な黒色を焼き網2が得られる。さらに、上記割合が0.32以下となるように黒化処理条件を調整することで、スス状剥がれの発生をほぼ完全に抑えながら均一な黒色を焼き網2が得られる。なお、同表から明らかなように、黒化処理により複合めっき層10の膜厚(T0=Ta+Tb)が減少するため、この点を考慮し、少なくとも厚さ1.5[μm]以上のPTFE複合めっき層10が残存するように黒化処理条件を設定するのが望ましい。
【0040】
また、複合めっき皮膜10内ではPTFE微粒子が分散して存在しているため、次の点を考慮して黒化処理層の厚みTaを設定するのがさらに望ましい。すなわち、黒化処理された表面では、PTFE微粒子の一部が露出しており、焼き網2を洗浄している際に剥がれ落ちることがある。したがって、PTFE微粒子の粒径に比べて黒化処理層10Aが薄い場合には、PTFE微粒子の剥落によって黒化処理されていない複合めっき皮膜層、つまり非処理層10Bが露出し、色ムラの原因となることがある。この点を考慮すれば、黒化処理層10Aの厚みTaが少なくともPTFE微粒子の平均粒径を超える程度に黒化処理を実行するのがより望ましい。なお、ここで「PTFE微粒子の平均粒径」とは、微粒子の粒径を計測するのに適した計測法、例えば光散乱法を用いて求めることができる。
【符号の説明】
【0041】
2…焼き網(被めっき物)
6…電気ニッケルめっき層
10…複合めっき皮膜
10A…黒化処理層
10B…非処理層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
微粒子を分散含有する黒色複合めっき皮膜を被めっき物の表面に形成する黒色複合めっき皮膜の形成方法であって、
ニッケル塩、次亜リン酸またはその浴可溶性の塩、硫黄含有化合物および前記微粒子を含む無電解ニッケルめっき浴に前記被めっき物を浸漬して前記被めっき物の表面に前記微粒子を分散含有する複合ニッケルめっき皮膜を形成する無電解めっき工程と、
前記複合ニッケルめっき皮膜が形成された前記被めっき物を、塩化第二鉄および塩酸を含む黒化処理剤に浸漬して前記複合ニッケルめっき皮膜に黒化処理層を形成する黒化工程と
を備えることを特徴とする黒色複合めっき皮膜の形成方法。
【請求項2】
前記無電解めっき工程では、モリブデンを含む安定剤がさらに添加された前記無電解ニッケルめっき浴が用いられる請求項1に記載の黒色複合めっき皮膜の形成方法。
【請求項3】
前記黒化工程では、前記複合めっき皮膜の表層部のみを黒化処理層に形成する請求項1または2に記載の黒色複合めっき皮膜の形成方法。
【請求項4】
前記黒化処理層の厚みをTaとし、前記黒化処理後の前記複合めっき皮膜の厚みをT0としたとき、
Ta/T0≦0.5
が満足された時点で前記被めっき物を前記黒化処理剤から取り出し、水洗する請求項3に記載の黒色複合めっき皮膜の形成方法。
【請求項5】
前記黒化工程では、前記黒化処理層の厚みTaが前記微粒子の平均粒径を超えるまで前記被めっき物を前記黒化処理剤に浸漬させる請求項4に記載の黒色複合めっき皮膜の形成方法。
【請求項6】
前記無電解めっき工程前に、前記被めっき物の表面に光沢ニッケル層を形成する電気ニッケルめっき工程をさらに備える請求項1ないし5のいずれか一項に記載の黒色複合めっき皮膜の形成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−57189(P2012−57189A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−198750(P2010−198750)
【出願日】平成22年9月6日(2010.9.6)
【出願人】(310016810)株式会社和生製作所 (2)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】