説明

黒色複合酸化物粒子、その製造方法、黒色ペースト及びブラックマトリックス

【課題】黒色度及び耐熱性が高く、また塗料化時の分散性、塗料を塗膜化した際の塗膜の表面平滑性に優れた黒色複合酸化物粒子を提供すること。
【解決手段】本発明の複合酸化物粒子は黒色であり、35〜70重量%のコバルト及び5〜40重量%のマンガンを含む。コバルトとマンガンのモル比Co/Mnが0.5〜14である。一次粒子の平均粒径が0.05〜0.3μmであり、八面体形状である。この粒子は好ましくは湿式酸化により製造される。焼成工程は行われない。この粒子はコバルト及びマンガン以外の金属元素を実質的に含んでいない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は黒色複合酸化物粒子、その製造方法に関する。また本発明は、該黒色複合酸化物粒子を含む黒色ペーストに関する。更に本発明は、該黒色ペーストにより形成されたブラックマトリックスに関する。
【背景技術】
【0002】
塗料用、インキ用、トナー用、ゴム・プラスチック用等に用いられる黒色顔料は、黒色度、色相、着色力、隠ぺい力等の特性に優れ、かつ安価であることが求められている。そのような黒色顔料としては、カーボンブラック、マグネタイトを始めとする酸化鉄系顔料やその他複合酸化物顔料などの金属酸化物顔料が用途に応じて利用されている。
【0003】
昨今、上記いずれの分野においても高性能化及び高品質化が求められている。例えば、金属酸化物を主成分とする黒色顔料においては、単に黒色度に優れているのみならず、フラットパネルディスプレイに用いられるブラックマトリックスの形成の際の焼成時に要求される耐酸化性、樹脂や溶媒等を用いて塗料化する際に要求されるビヒクル中での分散性、塗料を塗膜化した際の塗膜の表面平滑性等に優れたものが求められている。金属酸化物を主成分とする黒色顔料の代表例としては、酸化コバルト、酸化マンガン、酸化銅といった単独組成の金属酸化物粒子や、Cu−Cr系、Cu−Mn系、Cu−Cr−Mn系、Cu−Fe−Mn系、Co−Mn−Fe系、Co−Fe−Cr系等の複合酸化物粒子が挙げられる(特許文献1ないし3参照)。
【0004】
【特許文献1】特開平9−237570号公報
【特許文献2】特開平10−231441号公報
【特許文献3】特開平9−124972号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
単独組成の金属酸化物粒子においては、粒子径が大きいものは黒色度が高いものの、サブミクロンレベルの粒子となると褐色を呈したり、あるいは、そのようなレベルの粒子の製造が困難である。
【0006】
また、複合酸化物粒子においても、黒色顔料に求められる性能上、一長一短がある。例えばCu−Cr系複合酸化物粒子やCu−Cr−Mn系複合酸化物粒子のように、クロムを含む複合酸化物粒子の場合、クロムの毒性上の問題がある。またサブミクロンレベルの粒子の製造が困難である。
【0007】
特許文献1に開示されているようなCu−Mn系複合酸化物粒子は、粒子の微粒化は容易だが、形状が不定形化し易い。また粒子の凝集が生じ易く、塗料化した際の分散性や塗膜の平滑性に劣る。更に、焼成工程を経なければ粒子を黒色とすることができない。焼成は、粒子間の焼結を引き起こしてしまう。
【0008】
同じく特許文献1に開示されているようなCu−Fe−Mn系複合酸化物粒子は、黒色度が高く、形状が均整で分散性に優れており、特許文献2に開示されているようなCo−Mn−Fe系複合酸化物粒子は、形状が均整で分散性に優れている。しかし、いずれも鉄を含有していることに起因して、耐候性に劣っており、耐酸性にも劣るといわれている。この理由は、経時劣化し易いFe2+に黒色度を依存しているためである。
【0009】
以上の通り、金属酸化物を主成分とする黒色顔料として、黒色度、耐酸化性、塗料化時の分散性、塗料を塗膜化した際の塗膜の表面平滑性に関して満足のゆく材料が未だ見出されていないのが実情である。本発明の目的は、これらの要求に応え得る材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は、黒色を呈する各種金属酸化物を鋭意検討した結果、特定のCo−Mn系複合酸化物粒子が前記目的を達成し得ることを見出し、本発明を完成させた。
【0011】
即ち、本発明は35〜70重量%のコバルト及び5〜40重量%のマンガンを含み、コバルトとマンガンのモル比Co/Mnが0.5〜14であり、走査型電子顕微鏡観察に基づく一次粒子の個数基準平均粒径が0.05〜0.3μmであり、八面体形状であることを特徴とする黒色複合酸化物粒子を提供することにより前記目的を達成したものである。また、該黒色複合酸化物粒子を含有する黒色ペースト及び該黒色ペーストにより形成されたブラックマトリックスを提供するものである。
【0012】
また本発明は、前記黒色複合酸化物粒子の好ましい製造方法として、コバルト及びマンガンの水溶性塩が溶解した金属塩混合水溶液とアルカリとを中和混合し、得られた金属水酸化物スラリーを60〜95℃、pH10〜13に維持した条件下に酸化性ガスで酸化することを特徴とする黒色複合酸化物粒子の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る黒色複合酸化物粒子は、黒色度及び耐熱性が高く、また、その八面体形状に起因して、該粒子を含む塗膜から該粒子が脱離しにくい。従って該黒色複合酸化物粒子は、塗料用、インキ用、トナー用、ゴム・プラスチック用の黒色顔料として好適である。特に、フラットパネルディスプレイのブラックマトリックス形成用の着色組成物や、プラズマディスプレイ、プラズマアドレス液晶等の前面板の黒色電極、遮光層の形成に好適である。また、このような黒色複合酸化物粒子を用いた黒色ペーストにより形成されたブラックマトリックスやプラズマディスプレイ、プラズマアドレス液晶は、黒色度、耐熱性、焼成被膜の均一性や光沢性に優れるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明をその好ましい実施形態に基づき説明する。本発明の黒色複合酸化物粒子は黒色であり、コバルト及びマンガンを含むものである。本発明の黒色複合酸化物粒子は、後述する製造方法から明らかなように、焼成工程を経ずに製造されたものであるにもかかわらず黒色度が高く、また耐熱性が高いことによって特徴付けられる。更に、八面体形状であることによっても特徴付けられる。
【0015】
黒色度及び耐熱性が高い複合酸化物粒子とするために、本発明の黒色複合酸化物粒子は八面体形状となっている。本発明者らの検討の結果、コバルト及びマンガンを含む複合酸化物粒子が八面体形状である場合、粒子の結晶性が高くなり、黒色度及び耐熱性が高くなることが判明した。更に、八面体形状であることに起因して、粒子を含むペーストから塗膜を形成した場合、該塗膜から該粒子が脱離しにくくなることも判明した。八面体形状の複合酸化物粒子は、後述する製造方法に従い好適に製造できる。
【0016】
粒子の形状と関連するが、本発明の黒色複合酸化物粒子は微粒であることが重要である。具体的には走査型電子顕微鏡(以下、SEMという)観察に基づく一次粒子の個数基準平均粒径が0.05〜0.3μmであり、好ましくは0.10〜0.2μmである。このように微細な黒色複合酸化物粒子を含む塗料から形成された塗膜は、その表面平滑性が良好であり、また該塗膜の光沢度が高くなる。後述するように、本発明の黒色複合酸化物粒子は、焼成工程を経ずに製造されるものなので、粒子どうしの凝集の程度が低く、微細な粒子が得られやすい。
【0017】
次に本発明の黒色複合酸化物粒子の組成について説明すると、黒色複合酸化物粒子におけるコバルト含有量は35〜70重量%であり、好ましくは40〜70重量%である。コバルトの含有量が35重量%未満であると、耐熱性、電気抵抗が低下したものになってしまう。コバルトの含有量が70重量%超であると、黒色度が低下したものとなってしまう。
【0018】
一方、本発明の黒色複合酸化物粒子におけるマンガンの含有量は、5〜40重量%であり、好ましくは10〜35重量%である。マンガンの含有量が5重量%未満であると、黒色度が低下したものとなってしまう。マンガンの含有量が40重量%超であると、色味が悪くなり、耐熱性、電気抵抗が低下したものになってしまう。
【0019】
本発明の黒色複合酸化物粒子においては、必須の金属成分であるコバルトとマンガンとの比率も重要である。コバルト/マンガンのモル比Co/Mnが0.5〜14、好ましくは1〜6であると、八面体形状の黒色複合酸化物粒子を首尾良く得ることができ、黒色度、電気抵抗のバランスが取れるという有利な効果が奏される。具体的には、コバルト/マンガンのモル比が0.5未満である場合には、黒色度が低下することがあり、モル比が14超である場合には、色味が悪くなり、耐熱性、電気抵抗が低下したものになってしまうことがある。
【0020】
本発明の黒色複合酸化物粒子は、SEM観察に基づく一次粒子の個数基準粒度分布がシャープなものであることが好ましい。一般に粒体の粒度分布の幅は、変動係数により表わされる。変動係数(%)は(標準偏差/SEM観察に基づく一次粒子の個数基準平均粒径)×100で算出される。変動係数が大きいことは粒度分布に幅があることを示し、逆に変動係数が小さいことは粒度分布がシャープであることを示す。本発明においては、SEM観察に基づく一次粒子の個数基準粒度分布における一次粒子径の変動係数(CV値)が好ましくは40%以下、更に好ましくは30%以下という小さい数値になっている。変動係数は、SEM観察による特定個数(例えば、後述する実施例では200個)の一次粒子の個数基準平均粒径及び標準偏差から算出される。
【0021】
また本発明の黒色複合酸化物粒子は、その一次粒子の平均粒径が、先に述べた範囲内であることに加えて、個数基準に基づく凝集粒子の最大粒径Dmaxが小さいことが好ましい。それによって、塗膜からの粒子の脱離を一層効果的に防止できる。この観点から、個数基準に基づく凝集粒子の最大粒径Dmaxは4μm以下、特に3μm以下であることが好ましい。最大粒径Dmaxの下限値に特に制限はなく、小さいほど好ましいが、その値が0.2μm程度であれば、塗膜からの粒子の脱離を効果的に防止できる。凝集粒子の最大粒径Dmaxは、レーザー回折散乱法を用いた粒度分布測定装置によって測定される。
【0022】
また本発明の黒色複合酸化物粒子は、前記の個数基準粒度分布における凝集粒子のD50値が0.1〜1.5μmであることが好ましい。D50値を0.1μm未満とすることは、一次粒子の粒度からみて困難である。一方、D50値が1.5μmを超える場合には凝集が強すぎて、各種用途の何れにおいても分散性が不良となる。凝集粒子のD50値は、レーザー回折散乱法を用いた粒度分布測定装置によって測定される。
【0023】
粒子の形状及び粒径と関連するが、本発明の黒色複合酸化物粒子は、粒子の分散性が高いものである。分散性の尺度として鏡面反射率を採用した場合、本発明の黒色複合酸化物粒子はその値が70以上、特に85以上という高い値になる。
【0024】
鏡面反射率と関連するが、本発明の黒色複合酸化物粒子は吸油量が好ましくは10〜40ml/100g、更に好ましくは15〜30ml/100gという低い値になる。吸油量の低い本発明の黒色複合酸化物粒子は、凝集粒子の存在が少なく、その結果、塗料化したときの分散性が良好になる。
【0025】
本発明の黒色複合酸化物粒子は、低磁性であることによっても特徴付けられる。低磁性であることは、粒子どうしの凝集が起こりにくく、分散性が良好になることを意味する。この観点から、黒色複合酸化物粒子は、796kA/m条件下での飽和磁化が3Am2/kg以下、特に2Am2/kg以下であることが好ましい。飽和磁化の下限値に特に制限はなく、小さいほど好ましいが、その値が0.1Am2/kg程度であれば、粒子どうしの凝集を効果的に防止できる。
【0026】
本発明の黒色複合酸化物粒子は、金属成分として、前述したコバルト及びマンガンのみを含有し、それら以外の環境負荷等の大きい重金属元素を実質的に含まないことが好ましい。金属元素を含有させる場合には原子番号20以下の軽金属元素を含有させることが好ましい。黒色複合酸化物粒子が、コバルト及びマンガン以外の前記軽金属元素を含有する場合、その含有量は0.05〜5重量%、特に0.1〜3重量%であることが好ましい。
【0027】
本発明の黒色複合酸化物粒子は、BETによる比表面積が小さいことによっても特徴付けられる。比表面積が小さくなる理由については明確ではないが、後述する製造方法に従い黒色複合酸化物粒子を製造することで、得られるBET比表面積を小さくできることが判明した。黒色複合酸化物粒子のBET比表面積は、好ましくは5〜30m2/gという低いレベルであり、更に好ましくは10〜25m2/gである。比表面積が低いことは、周囲の環境の影響を受けにくいという点で有利である。特に湿度の影響を受けにくくなる。つまり本発明の黒色複合酸化物粒子は吸湿性が低いものである。
【0028】
吸湿性が低いことと関連して、本発明の黒色複合酸化物粒子は、その体積電気抵抗値が高いものである。具体的には25℃、55%RHの条件下で測定された体積電気抵抗値が好ましくは1×104Ω・cm以上であり、更に好ましくは1×104〜1×108Ω・cm、一層好ましくは1×105〜1×108Ω・cmである。体積電気抵抗値が高いことは、黒色複合酸化物粒子をブラックマトリックスの用途に用いた場合に、電極間を確実に絶縁できるという有利な効果を奏する。
【0029】
本発明の黒色複合酸化物粒子は、黒色度が高いことによっても特徴付けられる。特筆すべきは、焼成工程を経ずとも黒色度が高い粒子が得られることである。一般に、鉄を含まない複合酸化物粒子は、焼成工程を経ることによって黒色度が高められるが、本発明においては、後述する製造方法を採用することによって、焼成工程を経ずとも満足すべき黒色度を有する粒子を得ることができる。粒子の黒色度は、JIS K5101−1991に準拠して測定される。色差計を用いて測定された粒子のL値は20以下という低い値になる。またa値は0.1以下、b値は0.1以下という低い値になる。
【0030】
黒色度が高いことに加えて、本発明の黒色複合酸化物粒子は耐熱性が高いことによっても特徴付けられる。ここでいう耐熱性とは、熱の作用を受けても黒色度が低下しないことをいう。耐熱性の尺度として、本発明においては以下の式で定義されるΔEの値を採用している。
ΔE=(ΔL2+Δa2+Δb21/2
式中、ΔL、Δa及びΔbはそれぞれ、空気中で600℃、1時間加熱した前後におけるL値、a値、b値の差を表す。
【0031】
本発明の黒色複合酸化物粒子は、前記のΔEの値が0.5以下、特に0.3以下という小さいものになる。後述する比較例1の結果から明らかなように、先に述べた特許文献2に記載のCo−Mn−Fe系の複合酸化物粒子は、焼成工程を経て製造されたにもかかわらず、ΔEの値が4.01という大きな値になる。つまり耐熱性に劣るものとなる。本発明の黒色複合酸化物粒子の耐熱性が高い理由は明らかでないが、コバルト及びマンガンという二成分系の材料を用い、且つ該黒色複合酸化物粒子の製造方法として後述する湿式酸化法を用いることによるものではないかと推測している。
【0032】
次に、本発明の黒色複合酸化物粒子の好ましい製造方法について説明する。本製造方法は、(イ)金属水酸化物スラリーの調製工程、及び(ロ)湿式酸化工程の2つに大別される。また、湿式酸化後に焼成を行わないことを特徴とする。以下それぞれの工程について説明する。
【0033】
先ず(イ)の工程について説明すると、コバルト及びマンガンの水溶性塩が溶解した金属塩混合水溶液とアルカリとを中和混合して金属水酸化物スラリーを得る。詳細には、金属塩混合水溶液にアルカリを徐々に添加して金属水酸化物スラリーを得る。アルカリの添加時間に特に制限はないが60〜120分であることが均一な金属水酸化物核が得られる点から好ましい。アルカリの添加時間が短すぎると、不均一な組成の金属水酸化物が形成され、また不定形粒子が発生しやすい傾向にある。アルカリの添加時間が長すぎると、均一な組成の水酸化物が形成されるものの、核の成長も進行し、不定形状粒子が発生しやすい傾向にある。
【0034】
金属水酸化物スラリーの調製においては、温度の制御も重要である。調製時の温度が低すぎると、溶解度との関係で多量の金属水酸化物核が生成して、最終的に得られる複合酸化物粒子の粒度分布がブロードになってしまう。この観点から、金属塩混合水溶液とアルカリとの混合は60〜90℃、特に70〜90℃で行うことが好ましい。
【0035】
コバルト及びマンガンの水溶性金属塩としては、例えば硫酸塩、硝酸塩、炭酸塩、塩化物等が挙げられる。金属塩混合水溶液中の金属イオンの濃度は、生産性等を考慮して、総イオン濃度で0.5〜2.0mol/L程度に調製すれば良い。金属塩混合水溶液中でのコバルトイオンとマンガンイオンとのモル比は、得られる複合酸化物粒子の組成に影響する。コバルトイオン/マンガンイオンのモル比は0.5〜14、特に1〜6であることが好ましい。
【0036】
アルカリとしては水酸化ナトリウムや水酸化カリウム等の苛性アルカリを用いることが好ましい。水酸化アルカリの濃度は0.5〜2.0mol/L程度であることが好ましい。水酸化アルカリの添加量は、得られる金属水酸化物スラリーのpHが10〜13程度となるように調製されることが好ましい。
【0037】
次に(ロ)の工程について説明する。金属水酸化物スラリーが得られたら、当該スラリーに酸化性ガスを吹き込み、湿式酸化を行い、複合酸化物粒子を得る。酸化性ガスとしては典型的には空気が用いられるが、その他の酸素含有ガスを用いてもよい。湿式酸化においては液温を調整することが重要である。具体的には、金属水酸化物スラリーを60〜95℃、特に70〜95℃に維持した状態下に湿式酸化を行う。この範囲外の温度で湿式酸化を行うと、得られる複合酸化物粒子が微粒化する傾向にある。また不定形粒子が生成する傾向にある。
【0038】
湿式酸化においては液のpHを調整することも重要である。本製造方法においては液のpHを比較的高pH領域である10〜13、特にpH11〜13に維持した状態下に湿式酸化を行う。
【0039】
湿式酸化は、スラリー中の酸化還元電位が平衡に達するまで続ける。
【0040】
湿式酸化が完了した複合酸化物粒子を含むスラリーは、常法の濾過、洗浄、脱水処理が施される。次いで50〜120℃にて乾燥を行った後粉砕される。鉄を含まない複合酸化物粒子の製造においては、一般に、この後に焼成を行うことで粒子を黒色にする。これとは対照的に、本製造方法においては、焼成を行わず、湿式酸化のみで黒色粒子が得られる。この点に本製造方法の特徴がある。焼成を行わないことは、生産効率やエネルギーロスの点で有利である。また粒子間焼結が起こらない点でも有利である。
【0041】
このようにして得られた黒色複合酸化物粒子はその黒色度が高いことを利用して、塗料用、インキ用、トナー用、ゴム・プラスチック用の黒色顔料として好適に用いられる。例えば、黒色複合酸化物粒子は各種有機溶媒と混合され黒色スラリーとなされる。また、黒色複合酸化物粒子は、樹脂を含む公知の塗膜形成成分およびガラスフリット(ガラス粉末)と混合され黒色ペーストとなされる。そのような黒色ペーストは、フラットディスプレイパネルのブラックマトリックスの形成に好適に用いられる。また、そのような黒色ペーストは、プラズマディスプレイ、プラズマアドレス液晶等の前面板の黒色電極、遮光層の形成に好適に用いられる。
【実施例】
【0042】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。しかしながら本発明の範囲はかかる実施例に制限されるものではない。
【0043】
〔実施例1〕
表1に示す量の硫酸コバルト七水塩及び硫酸マンガン五水塩を6リットルの水に投入、攪拌して溶解させた。この混合金属塩水溶液に、苛性ソーダ1mol/L水溶液10リットルを約90分かけて添加し、得られた水酸化物スラリーのpHが12になるように調製した。苛性ソーダ添加中、スラリーの温度を65℃に維持しておいた。このようにして金属水酸化物スラリーを得た。
【0044】
得られた金属水酸化物スラリーの液温を65℃に維持しつつ、空気を3L/分の割合で2時間吹き込んだ。その結果、黒色の複合酸化物粒子のスラリーが得られた。空気の吹き込みを停止させた後、反応液の攪拌を続け、約60分で85℃まで昇温させ、その後1時間保持し熟成させた。その後、生成した複合酸化物粒子スラリーを濾過、洗浄して、洗浄ケーキを80℃で10時間乾燥させ乾燥品を粉砕した。
【0045】
〔性能評価〕
得られた複合酸化物粒子について以下の評価を行った。その結果を表2及び表3に示す。
(1)Co及びMn含有率
試料を溶解し、ICPにて測定した。
(2)一次粒子の平均粒径、粒子形状及び変動係数、並びに凝集粒子の最大粒径Dmax及びD50
一次粒子の平均粒径及び粒子形状は、SEMで10万倍の写真を撮影し、200個の粒子をランダムに選び、観察、測定した。変動係数は、測定された一次粒子径から標準偏差を求め、(標準偏差/一次粒子の平均粒径)×100にて算出した。一方、凝集粒子の最大粒径Dmax及びD50はベックマンコールター社製のLS230(商品名)を用いて測定した。測定の前処理として、分散剤であるヘキサメタリン酸ソーダを添加した水溶液中に試料を入れ、5分間超音波を照射して懸濁液とし、これを測定試料とした。懸濁液中におけるヘキサメタリン酸ソーダの濃度は1重量%とした。
(3)BET比表面積
島津−マイクロメリティックス製2200型BET計にて測定した。
(4)吸油量
JIS K 5101に準拠して行った。
(5)体積電気抵抗
試料を環境室内にて、25℃・55%RHの環境下で24時間曝露した。次いで曝露後の試料10gをホルダーに入れ、600kg/cm2の圧力を加えて、25mmφの錠剤型に成形した。成形体に電極を取り付け、150kg/cm2の加圧状態で電気抵抗を測定した。測定に使用した試料の厚さ及び断面積と抵抗値から体積抵抗の値を求めた。
(6)黒色度、色相
JIS K−1991に準拠して行った。試料2.0gにヒマシ油1.4ccを加え、フーバー式マーラーで練りこんだ。この練りこんだサンプル2.0gにラッカー7.5gを加え、さらに練りこんだ後これをミラーコート紙上に4milのアプリケーターを用いて塗布した。乾燥後、色差計(東京電色社製、カラーアナライザーTC−1800型)にて、黒色度(L値)及び色相(a値、b値)を測定した。サンプルの熱処理(600℃、1時間)はアルミナ製の皿に入れたサンプルを、アドバンテック社製電気マッフル炉FUW230A(商品名)に入れ、大気雰囲気中で行った。
(7)耐熱性ΔE
次式からΔEを算出した。式中、ΔL、Δa、Δbはそれぞれ、大気雰囲気中で600℃、1時間熱処理した前後でのL値、a値、b値の差を表す。熱処理の方法は、前記の(6)と同様である。
ΔE=(ΔL2+Δa2+Δb21/2
(8)鏡面反射率
スチレンアクリル系樹脂(TB−1000F)を(樹脂:トルエン=1:2)にて溶解した液を60g、熱処理後の試料10g、直径1mmのガラスビーズ90gを内容積140mlのビンにいれ、蓋をした後、ペイントシェーカー(トウヨウセイキ社製)にて30分混合した。これをガラス板状に4milのアプリケーターを用いて塗布し、乾燥後、ムラカミ式GLOSS METER(GM−3M)にて、60度の反射率を測定した。
(9)凝集度
HOSOKAWA MICRON製の「Powder Tester Type PT-R」(商品名)を用い、振動時間65秒にて測定した。
(10)飽和磁化
東英工業製振動試料型磁力計VSM−P7を用い、負荷磁場796kA/mで測定した。
【0046】
〔実施例2及び3並びに比較例1ないし4〕
各製造条件を表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様の方法で複合酸化物粒子を得た。得られた複合酸化物粒子について、実施例1と同様に諸特性を評価した。結果を表2及び表3に示す。なお比較例1は、先に述べた特許文献2における実施例に相当するものである。
【0047】
【表1】

【0048】
【表2】

【0049】
【表3】

【0050】
表2及び表3に示す結果から明らかなように、実施例の黒色複合酸化物粒子は、比較例の複合酸化物粒子に比較して、高い黒色度(L値が低い)と、高い耐熱性(ΔEが小さい)とがバランスされていることが判る。また比表面積が小さいことが判る。更に、体積電気抵抗値が高く、また分散性が良好(鏡面反射率が高く、吸油量が低く、飽和磁化が低い)であることが判る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
35〜70重量%のコバルト及び5〜40重量%のマンガンを含み、コバルトとマンガンのモル比Co/Mnが0.5〜14であり、走査型電子顕微鏡観察に基づく一次粒子の個数基準平均粒径が0.05〜0.3μmであり、八面体形状であることを特徴とする黒色複合酸化物粒子。
【請求項2】
走査型電子顕微鏡観察に基づく一次粒子の個数基準粒度分布における一次粒子径の変動係数が40%以下である請求項1記載の黒色複合酸化物粒子。
【請求項3】
レーザー回折散乱法を用いた個数基準に基づく粒度分布における凝集粒子の最大粒径Dmaxが4μm以下である請求項1又は2記載の黒色複合酸化物粒子。
【請求項4】
体積電気抵抗値が1×104Ω・cm以上である請求項1ないし3の何れかに記載の黒色複合酸化物粒子。
【請求項5】
焼成工程を経ずに製造されたものである請求項1ないし4の何れかに記載の黒色複合酸化物粒子。
【請求項6】
コバルト及びマンガン以外の金属元素を実質的に含んでいない請求項1ないし5の何れかに記載の黒色複合酸化物粒子。
【請求項7】
飽和磁化が3Am2/kg以下である請求項1ないし6の何れかに記載の黒色複合酸化物粒子。
【請求項8】
BETによる比表面積が5〜30m2/gである請求項1ないし7の何れかに記載の黒色複合酸化物粒子。
【請求項9】
請求項1記載の黒色複合酸化物粒子と有機溶媒とを含有する黒色スラリー。
【請求項10】
請求項1記載の黒色複合酸化物粒子と、樹脂を含む塗膜形成成分と、ガラスフリットとを含有する黒色ペースト。
【請求項11】
請求項10記載の黒色ペーストにより形成されたブラックマトリックス。
【請求項12】
請求項1記載の黒色複合酸化物粒子の製造方法であって、コバルト及びマンガンの水溶性塩が溶解した金属塩混合水溶液とアルカリとを中和混合し、得られた金属水酸化物スラリーを60〜95℃、pH10〜13に維持した条件下に酸化性ガスで酸化することを特徴とする黒色複合酸化物粒子の製造方法。

【公開番号】特開2006−306710(P2006−306710A)
【公開日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−84825(P2006−84825)
【出願日】平成18年3月27日(2006.3.27)
【出願人】(000006183)三井金属鉱業株式会社 (1,121)
【Fターム(参考)】