説明

黒酢由来成分を有効成分とする脳機能改善用組成物

【課題】黒酢由来の成分について脳機能改善作用があるかどうかをつきとめ、黒酢由来成分を有効成分とする脳機能改善用組成物を提供することを課題とする。
【解決手段】本発明は、黒酢由来成分を有効成分とする脳機能改善用組成物を提供する。さらに詳しくは、黒酢から酢酸を除去した黒酢特有の成分または黒酢もろみ末を有効成分とする脳機能改善用組成物を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、黒酢由来成分を有効成分とする脳機能改善用組成物に関する。さらに詳しくは、黒酢から酢酸を除去した黒酢特有の成分または黒酢もろみ末を有効成分とする脳機能改善用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
2010年における認知症発症者の推計は、200万人とも言われている。iPS細胞の研究が進み、再生医療による治療方法が期待されているが、ガン化などのリスクがあるため、ヒトへの臨床応用の道筋は不透明である。そのため、認知症発症の一次予防、もしくは発症後もその進行を緩やかにする二次予防が重要である。
ここで、認知症を発症した脳では正常な脳に比べて高い酸化状態にあることが指摘されている。ブドウ果皮に含まれるレスベラトロールは、抗酸化作用を有し、認知障害を改善することが報告されている(非特許文献1)。本報告ではレスベラトロールの認知機能改善作用は抗酸化作用だけではなく、インスリン様増殖因子-1(IGF-1)の発現誘導を介した認知機能改善作用であると示唆されている。
一方、黒酢も高い抗酸化作用を有することが知られている。黒酢は、鹿児島県の福山町を発祥の地とし、JAS法により規定される米黒酢であり、陶器の壺に、蒸し米、麹、水を入れ、糖化、アルコール発酵、酢酸発酵までが1つの壺で進行し、さらに熟成させることで得られる独特の深い味わいを有する酢である。また、黒酢の発酵過程では副産物として黒酢もろみ末が産生されるが、この黒酢もろみ末は、水不溶性物質であり、食物繊維、β―グルカンおよびペプチドを含有しており、近年は健康素材としても注目されている。
黒酢は、昔はもっぱら調味料として用いられていたが、近年は黒酢の血圧を下げる効果や血液をサラサラにする効果が明らかとなり、さらに、脂質代謝改善作用、血糖低下作用などのエビデンスが得られ、実際に様々な生体機能調節機能を持つことが明らかにされつつある。しかし、黒酢または黒酢もろみ末等の黒酢由来成分が脳機能を改善するかどうかについてはこれまでに全く報告がない。
ここで黒酢の主成分である酢酸由来の物質については、一定の脳機能改善作用を有するという技術がある(例えば特許文献1)。本文献には、酢酸由来のN−アシルスフィンガニン等を有効成分とする脳機能改善用組成物について記載されている。
以上のとおり、酢酸由来の成分についての報告はあるものの、酢酸以外の黒酢の特有成分または黒酢もろみ末の脳機能改善作用については全く不明であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−70342号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Harada N, Zhao J, Kurihara H, Nakagata N, Okajima K. Resveratrol im proves cognitive function in mice by increasing production of insulin-like growth fa ctor-I in the hippocampus. J Nutr Biochem. 2011 in press.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、食品としての安全性が確認されている黒酢由来成分であって黒酢特有の成分を有効成分とする脳機能改善用組成物の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、黒酢由来成分に脳機能の改善作用があるか否かについて老化促進マウス(SAM P8)を用い、水迷路試験で評価したところ、驚くべきことに黒酢から酢酸を除した成分および黒酢もろみ末に認知機能の低下抑制作用を有することを初めて見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は以下の構成を有する。
(1)黒酢由来成分を有効成分とする脳機能改善用組成物。
(2)黒酢由成分が、黒酢から酢酸を除いた成分または黒酢もろみ末である前記(1)に記載の脳機能改善用組成物。
(3)脳機能改善がアルツハイマー症の改善である前記(1)または(2)に記載の脳機能改善用組成物。
(4)前記(1)から(3)のいずれかに記載の脳機能改善用組成物を含有する飲食品(ただし、黒酢および黒酢もろみ末を除く)。
【発明の効果】
【0007】
本発明の黒酢由来成分を有効成分とする脳機能改善用組成物により、認知症の発症を予防し、また、発症後の進行を遅らせることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】実施例1の動物実験スケジュールを示す図である。
【図2】実施例1および2のモリス水迷路試験に用いるプールの模式図を示す図である。プールは部屋の角に設置した。外部が視野に入らないように二面、実験者の後方に衝立てを立てた。プラットホームは透明のアクリル樹脂で出来ており、水面下に投入すると水面上から認知できない。左は上方からの図、右は側面から図。左図で示す点線は領域をわかりやすくするために示しており、実際にはプール底面に印はない。
【図3】実施例2の動物実験スケジュールを示す図である。
【図4】プローブテスト結果を示す図である(実施例1)。左図は、各摂食群の滞在時間を示し、右図は、通過回数を示す。(平均値+SD(n=5)。異なる文字間に有意差が有ることを示す(p<0.05))
【図5】水迷路訓練期間(15日間)における、マウスを水面に放してからゴールとなるプラットホームまでの退避時間測定結果を示す図である(実施例2)。(R1のみn=16、その他n=9。各日の群間において異なる文字は有意差有り(p<0.05)。)
【図6】プローブテスト結果を示す図である(実施例2)。左図は、各摂食群の滞在時間を示し、右図は、通過回数を示す。(平均値+SD(n=5)。異なる文字間に有意差が有ることを示す。滞在時間:p<0.01、通過回数:P8-もろみ間p<0.05;P8-R1間、P8‐黒酢間p<0.01)
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明で用いられる黒酢とは、先に述べたように、JAS法により規定される米黒酢であり、本発明ではこのように定義される黒酢であればどのようなものでも用いることができ、好ましくは陶器の壺に蒸し米、麹、水を入れ、糖化、アルコール発酵、酢酸発酵までが1つの壺で進行し、さらに熟成させることで得られる独特の深い味わいを有する酢である。
本発明に用いられる黒酢もろみ末とは、壺を用いて黒酢をつくる際に生じる副産物である。水溶性画分は黒酢となり、不水溶性画分は圧搾、乾燥、粉末化され、黒酢もろみ末となる。その成分として食物繊維、β―グルカンおよびペプチドを含有している。
本発明の黒酢由来成分としては、黒酢を由来とし、本発明の作用効果を奏するものであればいずれでもよく、黒酢そのもののほかに、黒酢から酢酸成分を除いた成分、黒酢もろみ末が挙げられる。
なお、後述する試験において、黒酢から酢酸を除した成分について各試験を行ったのは、黒酢の主成分である酢酸成分による作用との違いを明確にするべく行ったものであり、その結果、黒酢から酢酸を除いた成分、および黒酢もろみ末に脳機能改善作用があることが判明したことから、脳機能改善作用は、黒酢を由来とする成分のうちでも酢酸以外の成分にあるといえる。
【0010】
本発明でいう脳機能改善作用とは、脳機能の低下を予防・抑制する作用をいい、認知症によるもののほか、加齢によるものも含む。
【0011】
本発明の脳機能改善用組成物は、黒酢そのものでもよいし、黒酢から酢酸成分を除去した残りの成分そのものでもよいし、黒酢もろみ末そのもののほか、これらを本発明の作用に影響を与えない他の成分と混合したものであってもよい。
また、形態としては液体でもよいし、乾燥させた固体であってもよい。固体は、固形物であってもよいし、粉末状であってもよい。固体の場合は、適当な液体に溶解するかもしくは分散させ、または、適当な粉末担体と混合するかもしくはこれに吸着させ、場合によっては、さらにこれらに乳化剤、分散剤、懸濁剤、展着剤、浸透剤、湿潤剤、安定剤等を添加し、乳剤、油剤、水和剤、散剤、錠剤、カプセル剤、液剤等の製剤として使用することができる。製剤として使用する場合における、抽出物の使用量は製剤の形態によっても異なり、安全性に問題がないので特に上限は規定しない。
【0012】
本発明の脳機能改善用組成物の投与対象はヒト、ヒト以外の動物が挙げられ、ヒト以外の動物としてはイヌ、ネコをはじめとするペット、ネズミ、ウサギなどの小動物、ゾウ、キリンなどの大型動物のいずれをも対象とすることができる。
【0013】
本発明の脳機能改善用組成物を脳機能改善のためにヒトまたはヒト以外の動物に投与する方法は、経口投与が望ましく、製剤化したものでもよいし、飲食物・飼料として摂取することも可能である。
経口投与する場合の摂取量としては、脳機能改善効果がみられる量であればよく、たとえば、黒酢もろみ末としては、1日5〜100mg/kg体重、黒酢エキスとしては(黒酢10倍濃縮液として)8.3〜83mg/kg体重が好ましい。
【0014】
飲食物としては、チューインガム,キャンディ,錠菓,グミゼリー,チョコレート,ビスケットまたはスナック等の菓子、アイスクリーム,シャーベットまたは氷菓等の冷菓、飲料、プリン、ジャム、乳製品、調味料等が挙げられ、本発明組成物を添加したこれらの飲食物を日常的に摂取することで脳機能改善効果が得られる。飲食物における本発明組成物の含有量は当該飲食物の嗜好品としての味・風味等を損なわない範囲内で含まれていればよく、飲食品の種類および形態によってそれぞれ異なる。また、飼料としては通常与える飼料に混合して投与することができる。なお、本発明の黒酢は、薬物相互作用を調べた結果、薬物代謝に関連する遺伝子・タンパク質の発現に影響を及ぼさないことが判明したため、他の薬を併用した場合であっても副作用がなく、安全に摂取することが可能である。
【実施例】
【0015】
〔試験例1〕飼料の製造
(1)黒酢および黒酢もろみ末の調製
(i)黒酢もろみ末
黒酢もろみ末は、壺造り米黒酢の発酵残渣(黒酢もろみ)をろ過圧搾機で圧搾し、搾り液と搾り粕に分離後、その搾り粕を真空乾燥機にて110℃、6.5時間乾燥させ、さらに148℃、0.2MPa、4〜5秒殺菌して得られた。
(ii)黒酢10倍濃縮液(黒酢エキス)
黒酢(坂元醸造株式会社製、坂元のくろず(製品名))1000mlを凍結乾燥し粉末化する。これに蒸留水を加え、再び凍結乾燥を行う。この作業を4回繰り返し、黒酢中の酢酸を完全に除去する。得られた粉末を蒸留水100mlに溶解したものを黒酢10倍濃縮液とする。
(2)飼料の調製
(i)CE2食
基本飼料として、日本クレア社製CREA Rodent Diet CE-2(日本クレアHP参照 http://www.clea-japan.com/Feed/ce2.html)をCE2食とした。飼料は、蒸気打ちによりペレット化した後、100℃で乾燥し、放射線滅菌(30kGy)したものを与えた。
以下、(ii)、(iii)においても同様の処理を行った。CE-2の栄養成分およびカロリー(飼料100g中の含有量)を以下に示す。

Moisture (%) 9.3
Crude protein (%) 25.1
Crude fat (%) 4.8
Crude fiber (%) 4.2
Crude ash (%) 6.7
NFE (%) 50.0
Energy (kcal) 343.1
硬度(kg/cm2) 27.1

(ii)黒酢エキス添加CE2食
基本飼料であるCE2食99.75%に黒酢10倍濃縮液を0.25%添加したものを黒酢エキス添加CE2食とした。
(iii)もろみ添加CE2食
基本飼料であるCE2食99.5%に黒酢もろみ末を0.5%添加したものをもろみ添加CE2食とした。
【0016】
〔実施例1〕SAM P8マウスの認知機能に対する米黒酢もろみ末の効果
1.試験方法
(1)動物飼育
5週齢雄の老化促進マウスSAM P8(10匹)およびSAMP8と同系統の老化抵抗マウスSAM R1(5匹)を日本SLCから購入した。一週間の予備飼育後に群分けを行なうための予備水迷路試験を5日間行った。泳ぎに異常が認められる個体が集中しないように2つの群(各群5匹)に分けた。1群(R1群)にはCE2食、2群(P8群)にはCE2食、3群(P8もろみ群)には0.5%(w/w)もろみ末添加CE2食を与えた。CE2食およびもろみ末添加CE2食の作製は日本クレア(株)に委託した。
摂食開始から14週間後(21週齢)、10日間の水迷路試験を開始し、11日目にプローブテストを行った。水迷路試験を行っている期間も各実験食を与えた。スケジュールを図1に示した。
マウスは24週齢時にエーテル麻酔下で心採血により全血を採取し安楽死させた。採血後、脳、肝臓、腎臓、肺、下行大動脈、睾丸、脾臓、心臓、腎臓周辺脂肪、睾丸周辺脂肪を摘出し重量を測定した後、液体窒素で凍結した。採取した血液から血漿を分離した。血漿中過酸化脂質(TBARS)測定(和光純薬)は採血量が充分であった各群3匹で行った。脳、肝臓および腎臓から組織ホモジネートを作製し、TBARS濃度および蛋白質濃度を測定した。動物の飼育は気温20℃、12時間光照射 (8:00-20:00、白熱蛍光灯) の環境下で行った。
なお、本実験は鹿児島大学動物実験委員会で承認された後(A10029号)、動物の愛護及び管理に関する法律(動物愛護法)(平成17年6月22日公布, 平成18年6月1日施行、環境省)を遵守して行った(実施例2においても同様)。
【0017】
(2)モリス水迷路試験
本試験に用いるプールの模式を図2に示す。円形のプールの直径は1.2mであり、部屋の角に設置し、衝立てを立ててプールの四方を覆った。ゴールとなる足場(プラットホーム)はプールを4分割した右上の領域に水面からは認知できないように沈めた。プラットホームの反対側の左下プール脇に目印となるダンボールを置き、実験者はプール右下に座った。水温は25℃に温めた。プラットホームを沈めていない領域にマウスを投入し、プラットホームにたどり着く時間を測定した。一日に左上、左下、右下からのゴールまでの到着時間を3回測定した。
本試験では、摂食開始から14週間後(21週齢)から水迷路試験を開始した。10日間を訓練期間とし、11日目にプローブテストを実施した。すなわち、プラットホームを撤去した条件でマウスを70秒間泳がせた場合にプラットホーム沈めていた場所を通過する回数およびそのエリアの滞在時間を数値化して認知能力を判定した。
【0018】
(3)統計解析
統計解析はSPSSバージョン17ソフトウェアを利用した。多重比較はDunnett法で行なった。
【0019】
2.試験結果
(1)もろみ末摂取後の体重、組織重量
表1に実験開始時から屠殺時までの体重の変化を示した。R1群に比べP8群は体重増加量、摂食効率が低かった。P8もろみ群はP8群に比べて摂食量が増え、体重増加量および摂食効率がR1群と同程度であった。表2に屠殺時の体重1gあたりの臓器重量(mg)を示した。P8群は体重が軽いため各組織重量値が大きくなっている。
【0020】
【表1】

【0021】
【表2】

【0022】
(2)過酸化脂質濃度
血清および各組織中酸化状態の検討は脂質の過酸化によって生じるチオバルビツール酸と反応するマロンジアルデヒド(MDA)等を指標とした(表3)。血漿、肝臓および腎臓においてTBARS値に顕著な差は認められなかったが、脳ではP8もろみ群で高い傾向にあった。
【0023】
【表3】

【0024】
(3)水迷路試験
(3−1)10日間の訓練期間においては、各群間でゴールへの到達時間に差は認められなかった。
(3−2)プローブテスト
11日目に行ったプローブテストの結果を図4に示す。左図はプラットホームを設置していた領域に滞在した時間(滞在時間)、右図はプラットホームを設置していた上を通過した回数(通過回数)をグラフ化した。
P8もろみ群はR1群と同程度の滞在時間および通過回数であった。P8群に比べ、P8もろみ群では滞在時間および通過回数が有意に増加した。水泳スピードに各群間で顕著な差はなかった。
【0025】
〔実施例2〕老化促進マウス認知障害に対するもろみ末および黒酢エキスの効果
1.試験方法
(1)動物飼育
10週齢雄の老化促進マウスSAM P8(27匹)と同系統で老化抵抗マウスSAM R1(16匹)を日本SLCから購入した。一週間の予備飼育後に群分けを行なうための予備水迷路試験を5日間行った。泳ぎに異常が認められる個体が集中しないように三つの群に分けた。R1CE2群はSAM R1(n=16)にCE2食を、P8 CE2群はSAM P8(n=9)にCE2食を、P8もろみ群はSAM P8(n=9)に0.5% (w/w)もろみ添加CE2食を、P8 黒酢群はSAM P8(n=9)に0.25% (w/w)黒酢エキス添加CE2食を与えた。23日間自由摂食自由飲水後に水迷路試験を行った。15日間を訓練期間とし、16日目にプローブテストを実施した。水迷路試験を行っている期間も各実験食を与えた。スケジュールを図3に示した。
実験終了後、心採血により全血を採取し安楽死させた。採血後、脳、肝臓、腎臓、肺、睾丸、脾臓、心臓、腎臓周辺脂肪、睾丸周辺脂肪を摘出し重量を測定した後、液体窒素で凍結した。採取した血液から血漿と血清を分離した。血漿は過酸化脂質(TBARS)測定(和光純薬)に用いた。凍結脳組織ホモジネートを作製して組織中の過酸化脂質(TBARS)を測定した。動物の飼育は気温20℃、12時間光照射 (8:00~20:00、白熱蛍光灯) の環境下で行った。
【0026】
(3)モリス水迷路試験
訓練期間を15日間とした以外は実施例1と同様に行った。
【0027】
(4)統計解析
実施例1と同様に行った。
【0028】
2.試験結果
(1)体重、組織重量
表4に実験開始時と屠殺時の体重を示した11週齢のSAM R1マウスとSAM P8マウスの体重を比べるとSAM P8マウスの体重が有意に軽かった。屠殺時17wkの体重もまた11wkと同様に有意な差が認められたが、P8群、P8もろみ群、P8黒酢群の間に有意な差は認められなかった。体重増加量にも有意差は認められなかったがP8もろみ群は他の群と比べて高値であった。
表5に屠殺時の体重1gあたりの臓器重量(mg)を示した。R1マウスに比べてP8マウスの体重が軽いため各組織の体重あたりの臓器重量はR1マウスに対してP8マウスの各群で値が大きくなっている。しかし、睾丸周辺および腎臓周辺脂肪重量値はR1マウスに比べてP8マウスで小さい。
【0029】
【表4】

【0030】
【表5】

【0031】
(2)過酸化脂質濃度
実験終了時の血漿及び脳中過酸化脂質濃度を表6に示した。血漿では、R1マウスに比べてP8マウスで有意に高値を示し、P8マウスに対して、P8黒酢群およびもろみ群は有意な低値を示した。脳においては、R1マウスに比べてP8マウスで有意に高値を示し、P8マウスに対して、P8黒酢は有意な低値を示した。
【0032】
【表6】

【0033】
(3)水迷路試験
(3−1)15日間の訓練期間において、マウスを水面に放してからゴールとなるプラットホームまでの退避時間を測定した。各マウス3回の試験を行い、群内での平均値をグラフ化し、図5に示した。P8群に比べてP8もろみ群およびP8黒酢群はゴール到着時間が早い傾向があり、トレーニング開始12日以降に有意な差が認められる場合があった。P8群とR1群の間に有意な差は認められなかったが、R1群で早い傾向が認められた。
(3−2)プローブテスト
16日目に行ったプローブテストの結果を図6に示した。滞在時間は、P8マウスに対してP8黒酢群で有意に増加した。通過回数に関しては、P8マウスに対して、P8もろみ群、P8黒酢群いずれも有意に増加した。
【0034】
〔考察〕
実施例1において、老化促進マウス(SAM P8)で認知機能の低下が認められたが、もろみ末添加食によって認知機能低下抑制効果が認められた。実施例2において、摂食期間を延長し、さらに週齢の高いマウスを用いて、もろみ末の効果の再現性および黒酢添加食の認知能力を検討したところ、もろみ末および黒酢ともに認知能力低下の抑制作用が認められた。以上より、壺造り米黒酢由来成分に脳機能改善作用があることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0035】
認知症の発症は患者の生活の質をさげるだけではなく、介護する家族にとっても大きなストレスとなる。高齢で発症しやすい本症は今後さらなる高齢化社会を迎える日本やその他先進国でも大きな問題である。根本的な治療方法が無い現在において、本発明の黒酢由来成分を有効成分とする脳機能改善用組成物により認知症の発症を抑制し、また発症した認知症の進行を緩やかにすることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
黒酢由来成分を有効成分とする脳機能改善用組成物。
【請求項2】
黒酢由来成分が、黒酢から酢酸成分を除いた成分または黒酢もろみ末である請求項1に記載の脳機能改善用組成物。
【請求項3】
脳機能改善がアルツハイマー症の改善である請求項1または2に記載の脳機能改善用組成物。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載の脳機能改善用組成物を含有する飲食品(ただし、黒酢および黒酢もろみ末を除く)。


【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−60380(P2013−60380A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−198950(P2011−198950)
【出願日】平成23年9月13日(2011.9.13)
【出願人】(504258527)国立大学法人 鹿児島大学 (284)
【出願人】(592022372)坂元醸造株式会社 (5)
【Fターム(参考)】