説明

鼻血に対抗するための組成物

本発明は、a)カルボキシポリメチレンポリマーと、b)グリシンと、c)カルシウムイオン源と、d)水とを含有するゲル組成物に関する。本発明はまた、前記成分a)、b)およびc)を含有する乾燥組成物にまで拡張する。本発明のゲル組成物は、鼻血の予防及び処置に有用である。前記ゲル組成物は、鼻腔に容易に投与することができ、使用後に取り除く必要がない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鼻血(鼻出血)の処置に有用な新規組成物に関する。特に、本発明は鼻腔に容易に投与でき、使用後に除去する必要のない、鼻血の予防及び治療のためのゲル組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
鼻血(鼻出血)は実に誰もが知っている。ほとんどの場合、症状は一時的で非再発性であるが、再発し、重篤な症状を経験する患者もいる。重症鼻血を処置する最も一般的な方法は、出血している血管を焼灼することによる。出血部位が見えない場合、綿タンポンまたはインフレータブルゴムバルーンを使用した鼻内詰め物が使用されるが、そのような方法は患者に不自由を強いるうえ、不快感を与える。前記綿タンポンは典型的には幅2cm、長さ40〜100cmである。それらは鼻の中に押し込まれ、鼻粘膜に圧力をかけることにより出血を止め、1〜4日間その場所におかれ得る。インフレータブルゴムバルーンはまた、鼻粘膜に圧力をかけることで作用し、その場所に1〜2日間残り得る。タンポンまたはバルーンのどちらが使用されようと、両者ともに挿入されるときに痛みがあり、通常の呼吸を妨げ、それは局所感染につながり得る。そのような不利益のない処置が必要とされている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
WO01/00218は、約0.5〜5g/Lの濃度の無菌水溶液として死海の塩を含み、緩衝液を含み、実質的に有害有機不純物を含まない鼻腔用スプレー製剤を記載している。前記製剤は鼻炎、副鼻腔炎、鼻血および手術後過敏の処置に用いられる、と言っているが、鼻血に関する試験は何ら報告されていない。
【0004】
異なる鼻腔用ゲルの適用法および血管収縮薬が実験的に研究されている、BendeらActa Otolaryngol (Stockh)88, 459-461 (1979)、BendeらActa Otolaryngol (Stockh)102, 488-493 (1986)およびBendeらActa Otolaryngol (Stockh)110, 124-127 (1990)を参照。初期の臨床研究により、再発性鼻血に線溶が関与していることが示された、PetrusonらActa Otolaryngol (Stockh)suppl. 317 (1974)を参照。TibbelinらORL (Basel)57, 207-209 (1995)は、ランダム化二重盲検多施設臨床試験で、トラネキサム酸ゲルおよびプラセボゲルの局所投与の止血効果を調査した。両ゲルが有効な効果を有することが分かり、そして驚くべきことに、プラセボゲルの方がトラネキサム酸(線溶系の抑制剤)を含むものよりわずかに(有意ではないが)優れていることがわかった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は驚くべきことに、鼻腔用ゲルとして用いられる改良されたゲルを発見した。その組成物は上記の公知プラセボゲルのすべての有益な特性を有し、一方で鼻血の処置においてより有効である。
【0006】
本発明によれば、(a)カルボキシポリメチレンポリマーと、(b)グリシンと、(c)カルシウムイオン源と、(d)水とを含むゲル組成物が提供される。
以下でより詳細に議論されるように、そのような組成物を製剤化する技術における通常の追加的材料が使用可能である。
【0007】
また本発明は、水を、上記(a),(b)および(c)の乾燥成分と、任意の順序で混合することを含む、新規ゲル組成物の製造方法を提供する。
別の観点からは本発明は、ヒトまたは非ヒト動物の鼻腔に、有効量の本発明のゲル組成物を挿入することを含む、予防または治療による鼻血の処置方法を提供する。
【0008】
さらなる観点からは、本発明は、治療、特に鼻血の処置に用いられる本発明のゲル組成物を提供する。
なおさらなる観点からは、本発明は予防または治療による鼻血の処置における本発明のゲル組成物の使用を提供する。
【0009】
前記組成物はゲルの形態で治療に用いられるが、乾燥した上記成分(a)、(b)および(c)の組成物を調製し、そしてその後に、使用前にゲル組成物を調製することも可能である。したがって、なおさらなる観点からは、本発明はa)カルボキシポリメチレンポリマーと、b)グリシンと、c)カルシウムイオン源とを含有する乾燥組成物を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の組成物の必須成分の性質および役割を、より詳細に説明する。
a)カルボキシポリメチレンポリマー
カルボキシポリメチレンポリマー(カルボマーとしても知られている)は、ポリアルケニルエーテルまたはジビニルグリコールと架橋したアクリル酸のポリマーである。カルボマーは基本的な構造単位[-CH2CH(COOH)-]nを有している。それらは様々なグレードで、Noveon、クリーブランド、オハイオ、USAから、カルボポールのブランド名で入手可能である。前記グレードは架橋の度合いおよび製造条件によって異なる。未加工のカルボマーポリマーは白色粉末であるが、非常に吸湿性が高く、水中でそれらの元の容積から1000倍まで膨張してゲルを形成することが可能である。カルボマーは、実質的に生物学的に不活性であり、様々な種類の局所製剤において長い間安全に使用されてきた経緯がある。それらは、上皮表面に接着した粘膜層から水を引き寄せるので、粘膜表面に接着することが知られている。
【0011】
鼻腔に導入された時は、カルボマーは粘膜および出血している血管に対して圧力をかける作用を有する。このようにしてそれはタンポンのように作用する、タンポンもまた、粘膜に対して圧力をかけ鼻血の処置として使用されている(上記背景技術を参照)。しかしながら、粘膜毛様体系により鼻を通して咽頭の後方へ輸送され、そして投与後1または2時間のうちに嚥下されるので、ゲルはタンポンに対して、通常取り除く必要がないという利点を有する。
【0012】
本発明において使用される好ましいカルボキシポリメチレンポリマーは、Noveonから入手可能な、カルボポールの商標名で販売されているものである。カルボポール974P NFおよびカルボポール971P NFが特に好ましいポリマーである。
【0013】
カルボキシポリメチレンポリマーの使用量はポリマーの種類によって変化するだろう。カルボキシポリメチレンポリマーは典型的には、乾燥成分の合計の5〜50重量%、好ましくは10〜35重量%、より好ましくは15〜30重量%、最も好ましくは約20重量%を構成する。
【0014】
本発明のゲル組成物は、乾燥重量で、典型的にはゲル1リットルあたり10〜100g、好ましくは20〜50g/L、より好ましくは30〜40g/L、最も好ましくは約35g/Lの濃度のカルボキシポリメチレンポリマーを使用して形成可能である。
【0015】
b)グリシン
前記ゲルにおける二番目の成分はアミノ酸であるグリシン(アミノ酢酸)である。それはいわゆる「必須アミノ酸」ではなく、人体そのものが合成可能であり、20の全てのアミノ酸のうち、最も単純なものである。グリシンは非常に様々な代謝反応に関与しており、人体においてタンパク質の形成に関与している。
【0016】
我々は、グリシンがゲルに高浸透圧活性を付与することを見出した。水は鼻粘膜から引きつけられる、それは粘膜のうっ血が取り除かれ収縮し、血管への血流が減少し、出血が止められ得ることを意味する。グリシンは、ヒトの細胞の基本単位なので、鼻粘膜および血管壁の回復にも関与するかもしれない。
【0017】
グリシンは広く商業的に入手可能な材料である。
本発明の乾燥組成物において、グリシンは典型的には、成分の合計の30〜90重量%、好ましくは50〜80重量%、より好ましくは約70重量%を構成する。
【0018】
本発明のゲル組成物において、グリシンの濃度は、乾燥重量で、典型的にはゲル1リットルあたり50〜200gであり、好ましくは80〜150g/Lであり、より好ましくは110〜120g/Lであり、最も好ましくは約117g/Lである。
【0019】
c)カルシウムイオン源
三番目の必須成分はカルシウムイオン(Ca2+)源である。カルシウムイオンは生物学的凝固プロセスに関係している。血液凝固の最後の段階で、トロンビンは蛋白質フィブリノーゲン(分子量340000)を可溶性のフィブリンに変える。最終的に、前記可溶性のフィブリンは不溶性のフィブリンに変換されることができる、それははるかに有効に機械的力に耐えることができ、その結果、再出血が予防され得る。何ら理論に拘束されることは望まないが、フィブリンの不溶形態への変換はカルシウムイオンの存在下においてより早く進行し、その吸収は、鼻粘膜が非常に細いことの結果として強められ得ると信じられている。
【0020】
カルシウムイオンはいずれの好都合な(convenient)形態でも存在し得るが、好ましくは可溶塩、たとえば塩化物または他の塩、たとえば酢酸塩、リン酸塩、炭酸塩またはグルコン酸塩の形態である。塩化カルシウムが最も好ましい。
【0021】
カルシウムイオンの合計量は、乾燥成分の合計重量を基準として、Ca2+イオンのみの重量で表わして、乾燥成分の合計のうち、典型的には0.005〜0.1重量%、好ましくは0.01〜0.05重量%、より好ましくは0.025〜0.040重量%、最も好ましくは約0.035重量%である。
【0022】
本発明のゲル組成物において、カルシウムイオンの濃度は、ゲル1リットルあたり、典型的には10〜200mg、好ましくは20〜100mg/L、より好ましくは40〜70mg/L、最も好ましくは約58mg/Lである。
【0023】
他の成分
組成物をゲルの形態に製剤化するとき、たとえば患者への投与前に、水が使用される。水の使用量は、他の成分と混合したときに適切な粘度のゲルを形成するのに必要とされる量である。これは使用されるカルボキシポリメチレンポリマーの種類によって変わるであろう。典型的には、水はゲル1kg当たり750〜950g、好ましくは800〜900g/kg、より好ましくは約850g/kg含まれる。
【0024】
上記で議論した三つの必須成分に加えて、そのような組成物を製剤化する技術においてよく知られた、他の追加の材料、たとえばpH調整剤(酸、アルカリ、緩衝液)、保存剤(たとえばメターゲン(methargen)、プロパギン(propagin))、抗酸化剤、顔料および染料、芳香材料、賦形剤、担体などもまた使用し得る。
【0025】
プロセス条件
本発明の組成物を臨床使用のためのゲルとして製剤化するために、以下の工程が行われる。
【0026】
カルシウムイオン源、たとえば塩化カルシウムを水に溶解させる。カルシウムイオン源と混合する前又はした後に、適量の酸、アルカリまたは緩衝材料を、目的のゲルが適切なpH、たとえば6.5〜7.5の範囲になることを保証するために添加し得る。その後グリシンを、溶解が完了するまで攪拌しながら添加する。そして撹拌しながら、カルボキシポリメチレンポリマーをゆっくりとかつ注意しながら(たとえば水性液体に粉末を徐々にまくことによって)添加する。撹拌は、すべてのポリマーが溶解するまで続ける。ゲルのpHを、求められる6.5〜7.5の範囲になることを保証するためにチェックしてもよい。
【0027】
ゲルの成分を組み合わせる順番は前の段落に記載されたものから変わり得る。たとえば、乾燥成分を最初に一緒に混合し、そしてそのあと水を、適切な粘度のゲルを形成するのに適した量添加する。どのような乾燥成分の組み合わせであっても、当業者は、たとえば試行錯誤により、適切な粘度のゲルを形成するのに適した水の量を決定することができる。
【0028】
ゲルの調製は、いずれの適切な温度でも実施し得る。しかしながら、室温での調製が最も簡便である。
前述のプロセスの条件は、当業者によく知られた方法によって変更され、また最適化されることができる。
【0029】
投与方法
上記組成物はゲルの形態で使用される。使用前に、患者に鼻をかむよう頼むべきである。それから好ましくは、ゲルと鼻粘膜との間の接触を最大にするため、鼻の内部表面をやさしく洗浄するべきである。次に、出血している鼻孔に、たとえばプレフィルドシリンジを使用して、前記ゲルを挿入すべきである。好ましくは、鼻腔全体が充填されるべきである。(これは、患者が、ゲルが咽頭へと向けて鼻腔の後ろを伝わり始めたということを示したときに、ゲルの投与を中断することによって行うことができる。)しかしながら、充填が完了する前に出血が明らかに止まったときには、鼻腔全体を充填することは必要でないこともある。そして綿の小片または他の適切な栓を患者の鼻孔に入れてもよい。患者は、ゲルが効力を発揮するために十分な時間、たとえば30分間鼻をかむのを控えるべきである。
【実施例】
【0030】
以下の本発明の製造および使用の実施例は、本発明を説明するためにのみ示され、その範囲を制限するものとしては解釈されない。
504gの純水および352ml(366g)の1M水酸化ナトリウム溶液をともにガラス容器に入れた。185mgの塩化カルシウム(CaCl2・2H2O)を添加し、混合液を塩化カルシウムが溶解するまで攪拌した。それから100gのグリシンを、溶解が完了するまで攪拌しながら添加した。15gのカルボポールPNF 974および15gのカルボポールPNF 971を撹拌しながら添加した。撹拌速度は、得られるゲルが今まで以上に(ever more)粘性のあるものとなったので、継続的に上げられた。撹拌は、すべてのカルボマーが溶解するまで続けられた。以上のすべての工程は、室温で実施された。ゲルをチェックし、そのpHが求められる6.5〜7.5の範囲にあることを保証した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)カルボキシポリメチレンポリマーと、
b)グリシンと、
c)カルシウムイオン源と、
d)水と
を含有するゲル組成物。
【請求項2】
前記カルボキシポリメチレンポリマーが、カルボポール974P NFおよび/またはカルボポール971P NFであることを特徴とする請求項1に記載のゲル組成物。
【請求項3】
カルボキシポリメチレンポリマーの濃度が、乾燥重量で、ゲル1リットルあたり10〜100gであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のゲル組成物。
【請求項4】
カルボキシポリメチレンポリマーの濃度が、乾燥重量で、ゲル1リットルあたり20〜50gであることを特徴とする請求項3に記載のゲル組成物。
【請求項5】
カルボキシポリメチレンポリマーの濃度が、乾燥重量で、ゲル1リットルあたり30〜40gであることを特徴とする請求項4に記載のゲル組成物。
【請求項6】
カルボキシポリメチレンポリマーの濃度が、乾燥重量で、ゲル1リットルあたり約35gであることを特徴とする請求項5に記載のゲル組成物。
【請求項7】
グリシンの濃度が、乾燥重量で、ゲル1リットルあたり50〜200gであることを特徴とする先行するいずれかの請求項に記載のゲル組成物。
【請求項8】
グリシンの濃度が、乾燥重量で、ゲル1リットルあたり80〜150gであることを特徴とする請求項7に記載のゲル組成物。
【請求項9】
グリシンの濃度が、乾燥重量で、ゲル1リットルあたり110〜120gであることを特徴とする請求項8に記載のゲル組成物。
【請求項10】
グリシンの濃度が、乾燥重量で、ゲル1リットルあたり約117gであることを特徴とする請求項9に記載のゲル組成物。
【請求項11】
カルシウムイオンの濃度が、ゲル1リットルあたり10〜200mgであることを特徴とする先行するいずれかの請求項に記載のゲル組成物。
【請求項12】
カルシウムイオンの濃度が、ゲル1リットルあたり20〜100mgであることを特徴とする請求項11に記載のゲル組成物。
【請求項13】
カルシウムイオンの濃度が、ゲル1リットルあたり40〜70mgであることを特徴とする請求項12に記載のゲル組成物。
【請求項14】
カルシウムイオンの濃度が、ゲル1リットルあたり約58mgであることを特徴とする請求項13に記載のゲル組成物。
【請求項15】
水を、前記(a),(b)および(c)の乾燥成分と、任意の順序で混合することを含む、請求項1〜14のいずれかに記載の組成物の製造方法。
【請求項16】
ヒトまたは非ヒト動物の鼻腔に、有効量の請求項1〜14のいずれかに記載のゲル組成物を挿入することを含む、予防または治療による鼻血の処置方法。
【請求項17】
治療に用いられることを特徴とする請求項1〜14のいずれかに記載のゲル組成物。
【請求項18】
予防または治療による鼻血の処置に用いられることを特徴とする請求項1〜14のいずれかに記載のゲル組成物。
【請求項19】
a)カルボキシポリメチレンポリマーと、
b)グリシンと、
c)カルシウムイオン源と
を含有する乾燥組成物。
【請求項20】
予防または治療による鼻血の処置のための医薬の製造のための、請求項1〜19のいずれかに記載の組成物の使用。
【請求項21】
実施例をもとに(with reference to the Example)、本明細書に実質的に記載されたゲル組成物。
【請求項22】
実施例をもとに(with reference to the Example)、本明細書に実質的に記載されたゲル組成物の調製方法。

【公表番号】特表2010−519285(P2010−519285A)
【公表日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−550758(P2009−550758)
【出願日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際出願番号】PCT/GB2008/000608
【国際公開番号】WO2008/102150
【国際公開日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【出願人】(509237044)ファーマキュア ヘルス ケア エービー (1)
【Fターム(参考)】