説明

齧歯類コロナウイルスの検出方法

【課題】 感染初期においても優れた検出感度と操作性のもとに齧歯類コロナウイルスを検出できる方法を提供すること。
【解決手段】 本発明は、配列番号1〜5で示される5種類のプライマーからなるプライマーセットを用いたLAMP(Loop−mediated Isothermal Amplification)法による核酸増幅反応を行って齧歯類コロナウイルスを検出する方法である。F3プライマーは16種類の塩基配列を有するものからいずれかを選択して単独で用いてもよいし、複数種類を混合して用いてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、LAMP(Loop−mediated Isothermal Amplification)法による核酸増幅反応を行って齧歯類コロナウイルスを検出する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
マウスやラットなどの齧歯類に感染する病原体の1つとして、マウス肝炎ウイルス(MHV:Mouse hepatitis virus)に代表されるコロナウイルスが知られている。マウスやラットなどに対するコロナウイルスの感染は、時にこれらを実験動物として用いた研究活動に多大な障害を引き起こす。従って、こうした感染による研究障害の発生を未然に防止するために、コロナウイルスを検出する方法が研究の現場で望まれており、これまでにも酵素免疫測定(ELISA)法を用いたMHVの検出方法(例えば非特許文献1)や、逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT−PCR)法を用いたMHVの検出方法(例えば非特許文献2や非特許文献3)が提案されている。しかしながら、ELISA法による方法には、体内でウイルスに対する抗体が産生されていない感染初期にはウイルスを検出できないといった問題がある。また、RT−PCR法による方法は、感染初期においてもウイルスを検出できるといった点においては優れているものの、操作が煩雑であるといった点において必ずしも満足できるものではない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】James R.Fahey,2000.JAX Communication No.4
【非特許文献2】Yamada et al.,1993.Lab Anim Sci 43,285−290
【非特許文献3】Oyanagi et al.,2004.Exp Anim 53,37−41
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで本発明は、感染初期においても優れた検出感度と操作性のもとに齧歯類コロナウイルスを検出できる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は上記の点に鑑みて検討を重ねる過程において、PCR法に代わる核酸増幅法として栄研化学株式会社によって開発されたLAMP法に着目した。環状型等温増幅反応法とも呼ばれるLAMP法は、4種類のプライマー(FIPプライマー、BIPプライマー、F3プライマー、B3プライマー)からなるプライマーセットを用いて検出対象遺伝子の特定領域の核酸増幅反応を行う方法であり(場合によってループプライマーをさらに用いる)、技術的に種々の利点を有していることは当業者に周知の通りである(必要であれば例えばGoto et al.,2009.BioTechniques 46,167−172およびその参考文献を参照のこと)。具体的には、(1)1組のプライマーセットを用いて行うPCR法に比べて特異性が高いこと、(2)核酸増幅反応が等温反応であるために複雑な装置を要しないこと、(3)核酸増幅反応に長時間を要しないこと(1時間以内の完結が可能)、(4)増幅産物の有無を反応液の目視で判定できること、(5)検出感度はPCR法と同等またはそれ以上であること、といった利点が挙げられる。
【0006】
齧歯類コロナウイルスを検出するためのLAMP法に用いるプライマーセットを設計する際には、コロナウイルスはRNAウイルスであるため遺伝子変異を起こしやすく、従って変異株が多いということに留意する必要がある。例えばヌクレオキャプシド蛋白質をコードする遺伝子領域であるORF7は、変異が比較的少ないことから検出領域として適していると考えられており、上記の非特許文献2や非特許文献3で提案されているRT−PCR法を用いてMHVを検出するための1組のプライマーセットもORF7の塩基配列をもとに設計されている。しかしながら、少なくとも4種類のプライマーからなるプライマーセットを用いて行うLAMP法においては、遺伝子変異が比較的少ないとされるORF7を検出領域としても、多数の変異株を検出できるプライマーセットであるためには、各プライマーの塩基配列に複数の変異を含む必要がある可能性がある。そのため、全ての変異を網羅するためには、各プライマーに対して複数の塩基配列を有するプライマーが必要となり、このことは、ウイルスの検出感度を低下させる原因となることが懸念される。また、プライマーの塩基配列に変異を含む場合、当該箇所においてウイルスの遺伝子の新たな変異が生じる可能性を否定できない。
【0007】
そこで本発明者はさらに検討を行った結果、MHV−2(GenBank:AF201929)のリーダー配列(71−350nt)が、MHVの変異株のみならず、ラットコロナウイルス(RCV:Rat coronavirus)においても高度(97.5%)に保存されていること、この領域をLAMP法によって核酸増幅するためのプライマーセットを設計して核酸増幅反応を行うと、多数のMHVの変異株とともにRCVやラット唾液腺涙腺炎ウイルス(SDAV:Sialodacryoadenitis virus)を優れた検出感度のもとに検出できることを見出した。
【0008】
上記の知見に基づいてなされた本発明は、請求項1記載の通り、以下の5種類のプライマーからなるプライマーセットを用いたLAMP法による核酸増幅反応を行って齧歯類コロナウイルスを検出する方法である。
(1)FIPプライマー:5’−CCGAGACCGTATTTGCCCATCTCTCTGCCAGTGACGTGTC−3’(配列番号1)
(2)BIPプライマー:5’−TGGGCCCCAGAATTTCCATGGCCTCCTCTGACCTCTCAGG−3’(配列番号2)
(3)F3プライマー:5’−TGCTKAYATTTGTRRTTCCT−3’(配列番号3)
(4)B3プライマー:5’−CAGAGGGGCAAAACCCAT−3’(配列番号4)
(5)ループプライマー:5’−ATGCTTCCGAACGCATCGG−3’(配列番号5)
また、請求項2記載の方法は、請求項1記載の方法において、F3プライマーとして以下の4種類の塩基配列を有するものから選択される少なくとも1種類を用いる。
(3−1)5’−TGCTGACATTTGTGGTTCCT−3’(配列番号6)
(3−2)5’−TGCTGACATTTGTAGTTCCT−3’(配列番号7)
(3−3)5’−TGCTTACATTTGTGATTCCT−3’(配列番号8)
(3−4)5’−TGCTGATATTTGTGATTCCT−3’(配列番号9)
また、請求項3記載の方法は、請求項1記載の方法において、齧歯類コロナウイルスがマウス肝炎ウイルスである。
また、本発明は、請求項4記載の通り、LAMP法による核酸増幅反応を行って齧歯類コロナウイルスを検出するための以下の5種類のプライマーからなるプライマーセットである。
(1)FIPプライマー:5’−CCGAGACCGTATTTGCCCATCTCTCTGCCAGTGACGTGTC−3’(配列番号1)
(2)BIPプライマー:5’−TGGGCCCCAGAATTTCCATGGCCTCCTCTGACCTCTCAGG−3’(配列番号2)
(3)F3プライマー:5’−TGCTKAYATTTGTRRTTCCT−3’(配列番号3)
(4)B3プライマー:5’−CAGAGGGGCAAAACCCAT−3’(配列番号4)
(5)ループプライマー:5’−ATGCTTCCGAACGCATCGG−3’(配列番号5)
また、本発明は、請求項5記載の通り、請求項4記載のプライマーセットを含んでなるLAMP法による核酸増幅反応を行って齧歯類コロナウイルスを検出するためのキットである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、感染初期においても優れた検出感度と操作性のもとに齧歯類コロナウイルスを検出できる方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】各種の齧歯類コロナウイルスのリーダー配列と本発明のLAMP法に用いる各プライマーの塩基配列の関係を示す図である。
【図2】実施例1におけるMHV3株に対する遺伝子増幅結果を示す表である。
【図3】実施例2におけるコロナウイルス30株に対する遺伝子増幅結果を示す表である。
【図4】実施例3における本発明のRT−LAMP法と従来例としてのRT−PCR法との検出感度の比較結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の齧歯類コロナウイルスを検出する方法は、以下の5種類のプライマーからなるプライマーセットを用いたLAMP法による核酸増幅反応を行うことによるものである。本発明における検出対象である齧歯類コロナウイルスとしては、MHVの他、RCVやSDAVなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
(1)FIPプライマー:5’−CCGAGACCGTATTTGCCCATCTCTCTGCCAGTGACGTGTC−3’(配列番号1)
(2)BIPプライマー:5’−TGGGCCCCAGAATTTCCATGGCCTCCTCTGACCTCTCAGG−3’(配列番号2)
(3)F3プライマー:5’−TGCTKAYATTTGTRRTTCCT−3’(配列番号3)
(4)B3プライマー:5’−CAGAGGGGCAAAACCCAT−3’(配列番号4)
(5)ループプライマー:5’−ATGCTTCCGAACGCATCGG−3’(配列番号5)
【0012】
LAMP法に用いるプライマーセットを設計する方法は自体公知である(必要であれば例えばGoto et al.,2009.BioTechniques 46,167−172およびその参考文献を参照のこと)。検出対象遺伝子の核酸増幅領域から3’側に向かってF1c,F2c,F3c、5’側に向かってB1,B2,B3の6つの領域を規定し、FIPプライマーは3’側にF2c領域と相補的なF2領域の塩基配列を有するとともに、5’側にF1c領域と同じ塩基配列を有するものとする。BIPプライマーは3’側にB2領域と同じ塩基配列を有するとともに、5’側にB1領域と相補的なB1c領域の塩基配列を有するものとする。F3プライマーはF3c領域と相補的なF3領域の塩基配列を有するものとする。B3プライマーはB3領域と同じ塩基配列を有するものとする。ループプライマーは、LAMP法における核酸増幅産物のダンベル構造の5’末端側のループ構造の1本鎖部分の塩基配列に相補的な塩基配列を有するものであり、反応時間の短縮や検出感度の上昇に寄与する。
【0013】
本発明において用いるFIPプライマーは配列番号1で示される5’−CCGAGACCGTATTTGCCCATCTCTCTGCCAGTGACGTGTC−3’であり、これはMHV−2のリーダー配列の238−217ntと157−174ntを連結させたものに相当する。BIPプライマーは配列番号2で示される5’−TGGGCCCCAGAATTTCCATGGCCTCCTCTGACCTCTCAGG−3’であり、これはMHV−2のリーダー配列の246−266ntと300−318ntを連結させたものに相当する。F3プライマーは配列番号3で示される5’−TGCTKAYATTTGTRRTTCCT−3’であるが、具体的にはMHV−2のリーダー配列の126−145ntに相当する配列番号6で示される5’−TGCTGACATTTGTGGTTCCT−3’に加え、配列番号7で示される5’−TGCTGACATTTGTAGTTCCT−3’や配列番号8で示される5’−TGCTTACATTTGTGATTCCT−3’や配列番号9で示される5’−TGCTGATATTTGTGATTCCT−3’が挙げられる。F3プライマーは16種類の塩基配列を有するものからいずれかを選択して単独で用いてもよいし、複数種類を混合して用いてもよい。B3プライマーは配列番号4で示される5’−CAGAGGGGCAAAACCCAT−3’であり、これはMHV−2のリーダー配列の336−319ntに相当する。ループプライマー(LBプライマー)は配列番号5で示される5’−ATGCTTCCGAACGCATCGG−3’であり、これはMHV−2のリーダー配列の267−285ntに相当する。各種の齧歯類コロナウイルスのリーダー配列と各プライマーの塩基配列の関係を図1に示す。なお、各プライマーは、天然から単離精製したものであってもよいし、化学合成したものであってもよい。
【0014】
本発明におけるLAMP法による核酸増幅反応を行うための試料は、コロナウイルスに感染しているか、感染している疑いのある個体の血液、尿、糞便、組織などが挙げられる。これらの試料に対しては抽出や精製などの自体公知の前処理を行ってもよい。核酸増幅反応は、例えば、試料、本発明のプライマーセット、逆転写酵素(齧歯類コロナウイルスはRNAウイルスであるため本発明のLAMP法はRNAを鋳型として核酸増幅反応を行うRT−LAMP法である)、DNA合成酵素(Bst DNAポリメラーゼなど)、核酸合成基質となる4種類のdNTP、酵素反応に好適な条件を与える緩衝液などを反応チューブ内で混合し、60〜65℃付近の一定温度で保温することで行うことができる。試料中にコロナウイルスに由来するRNAが存在した場合、コロナウイルスに由来するRNAを鋳型として逆転写酵素によってDNAが合成され、合成されたDNAを鋳型として本発明のプライマーセットに基づく核酸増幅が起こる。増幅産物の有無の判定は、例えば反応液に硫酸マグネシウムなどのマグネシウム塩を含ませておいた場合、核酸合成の基質が消費されることで副産物として生成するピロリン酸と反応し、ピロリン酸マグネシウムとなって反応液が白濁するので、この白濁をリアルタイムで目視することや光学的に測定することで行うことができる。
【0015】
なお、本発明のプライマーセットは、逆転写酵素、DNA合成酵素、核酸合成基質、緩衝液、マグネシウム塩などとともにキットとして実用に供することができる。
【実施例】
【0016】
以下、本発明を実施例によって詳細に説明するが、本発明は、以下の記載に何ら限定して解釈されるものではない。
【0017】
実施例1:本発明のプライマーセットを用いたRT−LAMP法による齧歯類コロナウイルスの検出(F3プライマーの評価)
1.試料
MHV−2(GenBank:AF201929)、MHV−3(GenBank:FJ647224)、MHV−A59(GenBank:AY700211)の3株について、それぞれの培養上清200μLよりHigh Pure Viral RNA Kit(Roche)を用いてゲノムRNAを抽出し、RNAグレード精製水により10倍希釈列を作製した。
【0018】
2.RT−LAMP法に用いる反応液の組成
RT−LAMP法による核酸増幅反応を行うため、最終反応液量20μL中の各成分濃度が下記のようになるように3種類の反応液(Mixture1〜3)を調製した。なお、各プライマーは化学合成した。
(Mixture1)
・20mM Tris−HCl(pH8.8)
・10mM KCl
・8mM MgSO
・1.4mM dNTPs
・10mM (NHSO
・0.8M Betaine(Sigma)
・0.1% Tween20
・0.12mM Hydroxy Naphthol Blue(Dojindo)
・1.6μM FIPプライマー(配列番号1)
・1.6μM BIPプライマー(配列番号2)
・0.2μM F3−1プライマー(配列番号6)
・0.2μM B3プライマー(配列番号4)
・0.8μM LBプライマー(配列番号5)
・0.5U AMV Reverse Transcriptase(Invitrogen)
・6.4U Bst DNA polymerase Large Fragment(New England Biolabs)
・2μL ゲノムRNAの10倍希釈列
(Mixture2)
・20mM Tris−HCl(pH8.8)
・10mM KCl
・8mM MgSO
・1.4mM dNTPs
・10mM (NHSO
・0.8M Betaine(Sigma)
・0.1% Tween20
・0.12mM Hydroxy Naphthol Blue(Dojindo)
・1.6μM FIPプライマー(配列番号1)
・1.6μM BIPプライマー(配列番号2)
・0.2μM F3プライマー(配列番号3:16種類の塩基配列を有するものの混合物)
・0.2μM B3プライマー(配列番号4)
・0.8μM LBプライマー(配列番号5)
・0.5U AMV Reverse Transcriptase(Invitrogen)
・6.4U Bst DNA polymerase Large Fragment(New England Biolabs)
・2μL ゲノムRNAの10倍希釈列
(Mixture3)
・20mM Tris−HCl(pH8.8)
・10mM KCl
・8mM MgSO
・1.4mM dNTPs
・10mM (NHSO
・0.8M Betaine(Sigma)
・0.1% Tween20
・0.12mM Hydroxy Naphthol Blue(Dojindo)
・1.6μM FIPプライマー(配列番号1)
・1.6μM BIPプライマー(配列番号2)
・0.2μM F3−1プライマー(配列番号6)
・0.2μM F3−2プライマー(配列番号7)
・0.2μM F3−3プライマー(配列番号8)
・0.2μM F3−4プライマー(配列番号9)
・0.2μM B3プライマー(配列番号4)
・0.8μM LBプライマー(配列番号5)
・0.5U AMV Reverse Transcriptase(Invitrogen)
・6.4U Bst DNA polymerase Large Fragment(New England Biolabs)
・2μL ゲノムRNAの10倍希釈列
【0019】
3.遺伝子増幅
上記の最終反応液量20μLの反応液を0.2mLの専用チューブ内で63℃で45分間加温を行い、室温に冷却して反応終了とした。遺伝子増幅の有無は、目視によるHydroxy Naphthol Blueの色の変化、即ち、遺伝子増幅無しは青紫色、遺伝子増幅有りは水色により判定した(Goto et al.,2009.BioTechniques 46,167−172を参照)。
【0020】
4.3種類の反応液(Mixture1〜3)による検出感度の比較
MHV−2、MHV−3、MHV−A59のそれぞれに対する遺伝子増幅の結果を図2に示す(+は増幅有りで−は増幅無し)。図2から明らかなように、いずれの反応液においてもすべてのマウスコロナウイルスに対して低濃度の試料であっても遺伝子増幅が認められ、これらのマウスコロナウイルスを優れた検出感度のもとに検出できることがわかった。なお、F3−1プライマー(配列番号6)の塩基配列はMHV−2のリーダー配列の塩基配列と完全一致しているが、MHV−2の検出感度はF3−1プライマーのみを含むMixture1よりもF3プライマーとして4種類の塩基配列を有するもの(F3−1プライマー(配列番号6)、F3−2プライマー(配列番号7)、F3−3プライマー(配列番号8)、F3−4プライマー(配列番号9))を含むMixture3の方が優れていたことから、F3プライマーはMixture3の4種類の塩基配列を有するものの混合物が最も好適であると判断された。
【0021】
実施例2.齧歯類コロナウイルスの検出における本発明のRT−LAMP法の特異性の評価
1.試料
齧歯類コロナウイルスとして、MHV17株、RCV1株、SDAV5株、非齧歯類コロナウイルスとして、ブタ血球凝集性脳脊髄炎ウイルス(PHEV:Porcine hemagglutinating encephalomyelitis virus)3株、ブタ伝染性胃腸炎ウイルス(TGEV:Transmissible gastroenteritis virus)1株、ブタ流行性下痢ウイルス(PEDV:Porcine epidemic diarrhea virus)1株、牛コロナウイルス(BCV:Bovine coronavirus)2株、合計30株のコロナウイルスそれぞれについて、培養上清200μLよりHigh Pure Viral RNA Kit(Roche)を用いてゲノムRNAを抽出した。
【0022】
2.RT−LAMP法の反応条件
それぞれのウイルスに対する遺伝子増幅の有無を確認するため、2μLの各ウイルスのゲノムRNAを含む最終反応液量20μLの実施例1に記載のMixture3と同じ組成の反応液を0.2mLの専用チューブ内で63℃で45分間加温を行い、室温に冷却して反応終了とし、遺伝子増幅の有無を実施例1と同様にして目視により判定した。
【0023】
3.結果
図3に示す(+は増幅有りで−は増幅無し)。図3から明らかなように、すべての齧歯類コロナウイルス23株に対して遺伝子増幅が認められた一方で、すべての非齧歯類コロナウイルス7株に対して遺伝子増幅が認められなかったことから、本発明のRT−LAMP法は、齧歯類コロナウイルスを特異的に検出できるものであることがわかった。
【0024】
実施例3.本発明のRT−LAMP法と従来例としてのRT−PCR法との検出感度の比較
1.試料
マウスコロナウイルスMHV−3の培養上清200μLよりHigh Pure Viral RNA Kit(Roche)を用いてゲノムRNAを抽出し、RNAグレード精製水により10倍希釈列を作成した。
【0025】
2.RT−LAMP法の反応条件
2μLのゲノムRNAの10倍希釈列を含む最終反応液量20μLの実施例1に記載のMixture3と同じ組成の反応液を0.2mLの専用チューブ内で63℃で60分間加温を行い、室温に冷却して反応終了とし、遺伝子増幅の有無を実施例1と同様にして目視により判定した。
【0026】
3.RT−PCR法の反応条件
RT−PCR法は、Homberger et al.,1991.J Clin Microbiol 29,2789−2793に記載された方法に従い、PrimeScript One Step RT−PCR Kit Ver.2(Takara)の使用説明書に従って一部を改変して行った。最終反応液量25μL中の各成分濃度は以下の通りとした。
・2μL PrimeScript 1 step Enzyme Mix
・12.5μL 2× 1 step buffer
・0.4μM sense primer
・0.4μM antisense primer
・2μL ゲノムRNAの10倍希釈列
この反応液を、0.2mLの専用チューブ内で、逆転写酵素反応を50℃×30分間、続いて最初のDNA変性を94℃×2分間、PCR反応を94℃×15秒間→56℃×15秒間→72℃×30秒間を1サイクルとして30サイクル、DNA合成反応を72℃×3分間行った後、4℃に冷却して反応終了とした。遺伝子増幅の有無の確認は1.2%アガロースゲルによる電気泳動とエチジウムブロマイド染色により行った。
【0027】
4.所要時間おび検出感度の比較
本発明のRT−LAMP法における遺伝子増幅から判定までの所要時間は約60分であった一方で、従来例としてのRT−PCR法においては遺伝子増幅から判定まで約120分を要した。遺伝子増幅の結果を図4に示す。図4から明らかなように、本発明のRT−LAMP法においては1E−5希釈まで遺伝子増幅が認められた一方で、従来例としてのRT−PCR法においては1E−4希釈までしか遺伝子増幅が認められなかった。よって、本発明のRT−LAMP法は所要時間と検出感度の点において従来例としてのRT−PCR法よりも優れていることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明は、感染初期においても優れた検出感度と操作性のもとに齧歯類コロナウイルスを検出できる方法を提供することができる点において産業上の利用可能性を有する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の5種類のプライマーからなるプライマーセットを用いたLAMP(Loop−mediated Isothermal Amplification)法による核酸増幅反応を行って齧歯類コロナウイルスを検出する方法。
(1)FIPプライマー:5’−CCGAGACCGTATTTGCCCATCTCTCTGCCAGTGACGTGTC−3’(配列番号1)
(2)BIPプライマー:5’−TGGGCCCCAGAATTTCCATGGCCTCCTCTGACCTCTCAGG−3’(配列番号2)
(3)F3プライマー:5’−TGCTKAYATTTGTRRTTCCT−3’(配列番号3)
(4)B3プライマー:5’−CAGAGGGGCAAAACCCAT−3’(配列番号4)
(5)ループプライマー:5’−ATGCTTCCGAACGCATCGG−3’(配列番号5)
【請求項2】
F3プライマーとして以下の4種類の塩基配列を有するものから選択される少なくとも1種類を用いる請求項1記載の方法。
(3−1)5’−TGCTGACATTTGTGGTTCCT−3’(配列番号6)
(3−2)5’−TGCTGACATTTGTAGTTCCT−3’(配列番号7)
(3−3)5’−TGCTTACATTTGTGATTCCT−3’(配列番号8)
(3−4)5’−TGCTGATATTTGTGATTCCT−3’(配列番号9)
【請求項3】
齧歯類コロナウイルスがマウス肝炎ウイルスである請求項1記載の方法。
【請求項4】
LAMP法による核酸増幅反応を行って齧歯類コロナウイルスを検出するための以下の5種類のプライマーからなるプライマーセット。
(1)FIPプライマー:5’−CCGAGACCGTATTTGCCCATCTCTCTGCCAGTGACGTGTC−3’(配列番号1)
(2)BIPプライマー:5’−TGGGCCCCAGAATTTCCATGGCCTCCTCTGACCTCTCAGG−3’(配列番号2)
(3)F3プライマー:5’−TGCTKAYATTTGTRRTTCCT−3’(配列番号3)
(4)B3プライマー:5’−CAGAGGGGCAAAACCCAT−3’(配列番号4)
(5)ループプライマー:5’−ATGCTTCCGAACGCATCGG−3’(配列番号5)
【請求項5】
請求項4記載のプライマーセットを含んでなるLAMP法による核酸増幅反応を行って齧歯類コロナウイルスを検出するためのキット。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2013−42732(P2013−42732A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−184596(P2011−184596)
【出願日】平成23年8月26日(2011.8.26)
【出願人】(507148456)学校法人 岩手医科大学 (19)
【Fターム(参考)】