説明

齲蝕原性細菌に特異的なモノクローナル抗体

放線菌属(Actinomyces)または乳酸桿菌属(Lactobacillus)齲蝕原性細菌に特異的に結合する抗体、ならびにその結合断片および模倣体を提供する。本結合剤、例えば抗体、その断片および模倣体等は、標的細菌に対して高感度でありかつ非常に特異的であることを特徴とする。齲蝕原性細菌の存在に関して試料をスクリーニングするための方法および装置もまた提供する。さらに、治療の処置手順および組成物も提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
導入
発明の分野
本発明の分野は齲蝕である。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
齲蝕は、ミクロフローラ、環境要因(食事等)、および宿主の複雑な相互作用に起因する慢性感染症である。近年の疫学的研究から、齲蝕リスクが一般集団に均等に分布していないことが示される。学齢児童の四分の一が齲蝕の四分の三を有すると推定されている。疾患の分布のこの偏りから、最もリスクの高い人たちを同定する方法が求められている。食事、唾液の分泌、およびフッ化物レベル等の多くの要因が齲蝕の原因となるが、この疾患は2、3の齲蝕原性細菌群(例えば、ミュータンス連鎖球菌、乳酸桿菌、放線菌)の存在に完全に依存している。これらの細菌は歯の表面または歯根に定着し、歯のミネラルを溶解する酸を産生する。疾患が進行するにつれ、これらの細菌が軟化した歯を侵し、破壊過程が続く。疫学的研究から、唾液または歯垢中の齲蝕原性細菌のレベルおよび比率と齲蝕の発生率との間に関連性があり得ることが示される。この関連性から、適切な細菌検出法を用いて、歯垢、より簡便には唾液中の齲蝕関連細菌のレベルおよび比率を判定することにより、齲蝕リスクの高い人を診断し得ることが示唆される。
【0003】
文献
興味深いのは、U.S.特許第6,231,857号ならびにWO第00/11037号およびWO第02/15931号である。Thunheer et al. (1997) FEMS Microbiol. Lett. 150:255-262;Firtel and Fillery (1988) J. Dent. Res. 67:15-20;Happonen et al. (1987) Scand. J. Dent Res. 95:136-143;Ellen (1976) Infect. Immun. 14:1119-1124;
【発明の開示】
【0004】
発明の概要
放線菌属(Actinomyces)または乳酸桿菌属(Lactobacillus)齲蝕原性細菌に特異的に結合する抗体、ならびにその結合断片および模倣体を提供する。本結合剤、例えば抗体、その断片および模倣体等は、標的細菌に対して高感度でありかつ非常に特異的であることを特徴とする。齲蝕原性細菌の存在に関して試料をスクリーニングするための方法および装置もまた提供する。さらに、治療の処置手順および組成物も提供する。
【0005】
特定の態様の説明
放線菌属または乳酸桿菌属齲蝕原性細菌に特異的に結合する抗体、ならびにその結合断片および模倣体を提供する。本結合剤、例えば抗体、その断片および模倣体等は、標的細菌に対して高感度でありかつ非常に特異的であることを特徴とする。齲蝕原性細菌の存在に関して試料をスクリーニングするための方法および装置もまた提供する。さらに、治療の処置手順および組成物も提供する。
【0006】
本発明をさらに説明する前に、本発明は記載する特定の態様に限定されず、当然のことながらそれ自体変わり得ることが理解されるべきである。本発明の範囲は添付の特許請求の範囲によってのみ限定されるため、本明細書で使用する専門用語は特定の態様を説明する目的のためのみであって、限定する意図はないこともまた理解されるべきである。
【0007】
値の範囲が提供される場合、特記されない限り下限値の単位の10分の1まで、その範囲の上限値と下限値の間の各仲介値、およびその規定範囲中の任意の他の規定値または仲介値も、本発明内に包含されることが理解される。具体的に除外される任意の限定値が規定範囲内にある限り、これらの小さな範囲の上限値および下限値は独立的にその範囲に含まれてよく、やはり本発明に包含される。規定範囲が限界値の一方または両方を含む場合、それら含まれた限界値のどちらか一方または両方を除外する範囲もまた、本発明に含まれる。
【0008】
特記されない限り、本明細書で使用する専門用語および科学用語はすべて、本発明が属する当技術分野の当業者によって共通に理解されるものと同じ意味をもつ。本発明の実施または試験において、本明細書に記載したものと類似したまたは同等の任意の方法および材料を使用することもできるが、本明細書に記載した方法および材料が好ましい。本明細書で言及したすべての出版物は、その出版物の引用に関連する方法および/または材料を開示および説明するために、参照として本明細書に組み入れられる。
【0009】
本明細書および添付の特許請求の範囲で使用する単数形「1つの」、「ある」、および「その」とは、特記する場合を除き、その対象物の複数形も含むことに留意されたい。
【0010】
本明細書で考察する出版物は、単に本出願の出願日以前にそれらが開示されているというだけの理由で提供されたものである。本明細書に記載されたいかなるものも、本発明が先行発明のせいでそのような出版物を先行できないことを認めると解釈されるべきではない。さらに、提供する出版物の日付は実際の発行年月日と異なる可能性があり、独立して確認する必要があるかもしれない。
【0011】
本発明は、A. ネスランディ(naeslundii)およびL. カセイ(casei)それぞれの細胞表面上の種特異的エピトープを認識する、SWLA4およびSWLA5と称する2つの種特異的モノクローナルIgG抗体について記載する。より具体的には、SWLA4はA. ネスランディ遺伝種1を特異的に認識し(かつA. ネスランディ遺伝種2を認識せず)、したがってA. ネスランディ遺伝種1の検出を可能にする。本発明は、例えば、プレート、ビーズ等といった不溶性支持体に固定化した本抗体を提供する。本発明はさらに、各抗体が齲蝕原性細菌に特異的であり、SWLA4および/またはSWLA5;ならびに齲蝕原性細菌に特異的な少なくとも1つのさらなる抗体を含む、固定化抗体の一群を提供する。本発明は、齲蝕の発症および重症度をモニターするために標的細菌の量および存在を検出する、モノクローナル抗体および類似の薬剤の使用法を含む。
【0012】
抗体
本抗体は、齲蝕原性細菌に特異的に結合する。多くの態様において、本抗体は実質的に単離されている。「実質的に単離された」または「単離された」抗体とは、天然で付随している高分子を実質的に含まない抗体である。実質的に含まないとは、天然で付随している物質を少なくとも50%、好ましくは少なくとも70%、より好ましくは少なくとも80%、さらにより好ましくは少なくとも90%含まないことを意味する。
【0013】
抗体結合との関連において「特異的に結合する」という用語は、特定の齲蝕原性細菌、例えば齲蝕原性細菌上のエピトープに対する抗体の高結合活性および/または高親和性を指す。特定の齲蝕原性細菌上のエピトープに対する抗体結合は、任意の他のエピトープ、詳細には関心対象の特定の齲蝕原性細菌と同じ試料に関連するまたは同じ試料中の分子に存在し得るエピトープに対する同じ抗体の結合よりも強いことが好ましく、例えば異なる齲蝕原性細菌上のエピトープよりも特定の齲蝕原性細菌上のエピトープにより強力に結合するか、または例えば齲蝕原性細菌の異なる遺伝種上のエピトープよりも齲蝕原性細菌の特定の遺伝種上のエピトープにより強力に結合し、その結果結合条件を調整することにより、抗体はもっぱら特定の齲蝕原性細菌上の特定のエピトープにのみ結合し、任意の他の齲蝕原性細菌には結合しない。所与の齲蝕原性細菌に特異的に結合する抗体は、弱いが検出可能なレベルで(例えば、関心対象の齲蝕原性細菌に対して示す結合の10%またはそれ以下)、他の齲蝕原性細菌に結合し得る可能性がある。そのような弱い結合またはバックグラウンドの結合は、例えば適切な対照を用いることにより、特定の齲蝕原性細菌に対する特異的な抗体結合から容易に識別することができる。一般に、本発明の抗体は、10-7 Mまたはそれ以上、好ましくは10-8 Mまたはそれ以上(例えば、10-9 M、10-10 M、10-11 M等)の結合親和性で特定の齲蝕原性細菌に結合する。一般に、10-6 Mまたはそれ以下の結合親和性を有する抗体は、現在用いられている従来法により検出可能なレベルで抗原に結合しないため、有用ではない。
【0014】
いくつかの態様において、本抗体は検出可能な標識を含む。適切な標識には、これらに限定されないが、放射性同位元素または放射性核種(例えば、3H、14C、15N、35S、90Y、99Tc、111In、125I、131I);蛍光標識、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)、ローダミン、ランタニド蛍光体、テキサスレッド、フィコエリトリン、アロフィコシアニン、および蛍光タンパク質;磁気粒子;酵素標識(例えば、西洋ワサビペルオキシダーゼ、β-ガラクトシダーゼ、ルシフェラーゼ、アルカリホスファターゼ);化学発光標識;ビオチン基;二次レポーターによって認識される所定のポリペプチドエピトープ(たとえば、ロイシンジッパー対配列;二次抗体の結合部位;金属結合ドメイン;赤血球凝集素、FLAG等を含むがこれらに限定されないエピトープタグ);特異的結合分子等が含まれる。特異的結合分子には、ビオチンおよびストレプトアビジン、ジゴキシンおよび抗ジゴキシン等の対が含まれる。適切な蛍光タンパク質には、Matz et al. ((1999) Nature Biotechnology 17:969-973))に記載されているもの、任意の種に由来する緑色蛍光タンパク質およびその誘導体;例を挙げれば、例えばWO第99/49019号およびPeele et al. (2001) J. Protein Chem. 20:507-519に記載されているようなRenilla reniformis(ウミシイタケ)、Renilla mulleri、またはPtilosarcus guernyi等の別の種に由来するGFP;「ヒト化」組換えGFP(hrGFP)(Stratagene);例えばU.S.特許第6,066,476号;第6,020,192号;第5,985,577号;第5,976,796号;第5,968,750号;第5,968,738号;第5,958,713号;第5;919;445号;第5,874,304号に記載されているようなAequoria victoria(オワンクラゲ)由来のGFPまたはその蛍光変異体が含まれる。いくつかの態様では、立体障害の可能性を低減するために様々な長さのスペーサーアームによって標識を結合する。
【0015】
いくつかの態様では、本抗体を不溶性支持体上に固定化する。適切な支持体には、プラスチックプレート(例えば、96ウェルプレート、マイクロタイタープレート等);ビーズ、例えばポリスチレンビーズ、磁気ビーズ等;膜、例えばポリビニルピロリドン膜、ニトロセルロース膜等;テストストリップ;ディップスティック;シリコンチップ等が含まれる。診断目的のために担体上に固定化する抗体については、当技術分野において記載されている。例えば、Holt et al. (2000) Nucl Acids Res. 28:E72;およびde Wildt et al. (2000) Nat. Biotechnol. 18:989-994を参照されたい。したがって、本発明は、その上に本抗体を固定化した不溶性支持体を提供する。いくつかの態様において、本不溶性支持体は、それぞれが異なる齲蝕原性細菌に対する特異性を有する2つまたはそれ以上の抗体を含む。いくつかの態様において、本不溶性支持体は支持体上に固定化したSWLA4を含む。他の態様において、本不溶性支持体は支持体上に固定化したSWLA5を含む。他の態様において、本不溶性支持体はSWLA4およびSWLA5を含む。これらの態様のいずれかにおいては、本不溶性支持体は、L. カセイまたはA. ネスランディ遺伝種1以外の齲蝕原性細菌に特異的な少なくとも1つのさらなる抗体をさらに含むことになる。例えば、本不溶性支持体は、S. ミュータンス(mutans)に特異的な抗体をさらに含み得る。
【0016】
本発明のモノクローナル抗体は、少量の試料中の少数の標的細菌を検出できるため、標的細菌のスクリーニングに用いることができる。また、これらのモノクローナル抗体により、歯科医院でまたは患者の自宅で齲蝕リスクの評価に用いることができる簡便かつ安価な齲蝕検出法の開発が可能になる。
【0017】
最も好ましい抗体は、標的細菌に選択的に結合し、非標的細菌には結合しない(または弱く結合する)ことになる。特に意図する抗体には、モノクローナル抗体、および標的細菌抗原結合ドメインを含むモノクローナル抗体の断片が含まれる。本発明はまた、標的細菌を特異的に認識する抗体断片も包含する。本明細書で用いる抗体断片は、その標的、すなわち標的細菌上の抗原結合領域に結合する免疫グロブリン分子の少なくとも一部分と定義する。これには、適切な特異性を有するFv、Fab、Fab'、およびF(ab)'2断片が含まれる。
【0018】
本発明は、標的細菌の表面上に認められる抗原に特異的に結合するモノクローナル抗体をさらに含む。その抗体が結合する抗原は、ハイブリドーマにより産生されるSWLA4と命名したモノクローナル抗体、またはハイブリドーマにより産生されるSWLA5と命名したモノクローナル抗体の少なくとも1つが結合する抗原の1つである。
【0019】
ヒトモノクローナル抗体を調製する方法は当技術分野において周知であり、これには、ファージディスプレイ法、および標的細菌に対する抗体を産生する患者に由来するBリンパ球を用いたヒトハイブリドーマの単離、ならびにインビトロ免疫法が含まれる。そのような技法は当技術分野において周知であり、例えば参照として本明細書に組み入れられるC. A. K. Borrebaeck, ed., "Antibody Engineering"(2d ed., Oxford University Press, New York, 1995) に記載されている。
【0020】
本発明はヒト化抗体を含むキメラ抗体をさらに含む。これには、以下のうちの1つの相補性決定領域と同一である相補性決定領域を有するキメラ抗体が含まれる:
(a) SWLA4と命名した、ハイブリドーマにより産生されるモノクローナル抗体;または
(b) SWLA5と命名した、ハイブリドーマにより産生される、モノクローナル抗体。
【0021】
標的細菌の表面上の抗原と結合する抗体の相補性決定領域と同一である相補性決定領域を有し、かつ標的細菌の表面上の抗原に対する結合においてSWLA4またはSWLA5の少なくとも1つとモル基準で少なくとも約80%程度の効率で競合し得るキメラ抗体もまた、本発明の範囲内に含まれる。
【0022】
これらのキメラ抗体は標的細菌の表面上の抗原と特異的に結合し、かつ相補性決定領域の由来する種とは異なる種に由来する重鎖または軽鎖のアミノ酸配列の少なくとも一部分を有する。1つの変法においては、キメラ抗体がヒト化抗体となるよう、重鎖または軽鎖のアミノ酸配列の少なくとも一部分はヒトに由来する。この変法の変形においては、相補性決定領域の外側の重鎖または軽鎖の実質的にすべてのアミノ酸配列がヒトに由来する。
【0023】
示したように、本発明に基づくキメラ抗体は、非ヒト抗原結合部位およびヒト化エフェクター結合領域を有し得る。非ヒト抗原結合部位には、これらに限定されないが、マウス、イヌ、ネコ、もしくは他の家畜モデル、または他の哺乳動物の抗原結合部位が含まれる。
【0024】
ヒト化抗体を含むキメラ抗体を産生する方法は、当技術分野において周知であり、例えば参照として本明細書に組み入れられるC. A. K. Borrebaeck, ed., "Antibody Engineering"(2d ed., Oxford University Press, New York, 1995) に記載されている。
【0025】
本発明は、上記のように標的細菌の細胞表面上の抗原に対して適切な特異性を有する、一般にsFvとして知られている一本鎖結合断片をさらに含む。そのようなsFvを調製する方法は当技術分野において一般に周知であり、例えば参照として本明細書に組み入れられるC. A. K. Borrebaeck, ed., "Antibody Engineering"(2d ed., Oxford University Press, New York, 1995) に記載されている。
【0026】
抗体の調製
ハイブリドーマ融合法により、またはEBV不死化技術を利用した技法により、モノクローナル抗体SWLA4およびSWLA5を調製することができる。ハイブリドーマ融合法は、KohlerおよびMilsteinによって初めて導入された(Kohler and Milstein, (1975);Brown et al., (1981);Brown et al.,(1980);Yeh et al., (1976);およびYeh et al., (1982)を参照のこと) 。
【0027】
これらの技法は、動物において所望の免疫応答(すなわち抗体の産生)を誘発するための、動物(例えばマウス)への免疫原(例えば、精製抗原、または抗原を有する細胞もしくは細胞抽出物)の注射を含む。例えば、全細胞形態の標的細菌を免疫原として使用することができる。本明細書における例示的な実施例では、全細胞標的細菌を免疫原として使用した。例えばマウス等に細胞を繰り返し注射し、十分な期間が経過した後にマウスを屠殺し、体細胞性抗体産生細胞を得る。例えばラット、ウサギ等の他の哺乳動物モデル;および例えばカエルの体細胞といった非哺乳動物モデルを用いることも可能である。通常、ポリエチレングリコール(PEG)等の融合剤の存在下において、ミエローマ細胞と融合することにより、所望の免疫グロブリンをコードする細胞染色体を不死化する。標準的な技法に従って、多くのミエローマ細胞株のいずれかを融合相手として用いることができる;例えば、P3-NSI/1-Ag4-1、P3-x63-Ag8.653、またはSp2/0−Ag14ミエローマ細胞株である。これらのミエローマ株は、メリーランド州、ロックビルのAmerican Type Culture Collection (ATCC)から入手することができる。
【0028】
次いで、融合しなかった親ミエローマ細胞またはリンパ球細胞が最終的に死滅するHAT培地等の選択培地において、所望のハイブリドーマを含む得られた細胞を培養する。ハイブリドーマ細胞のみが生存し、限界希釈条件下において増殖し得り、単離されたクローンが得られる。例えば、免疫に使用した抗原を用いた免疫測定法により、所望の特異性を有する抗体の存在についてハイブリドーマの上清をスクリーニングする。次に、限界希釈条件下において陽性クローンをサブクローニングし、産生されたモノクローナル抗体を単離することができる。モノクローナル抗体が他のタンパク質および他の混入物を含まないようにするための、モノクローナル抗体を単離および精製するための種々の従来法が存在する。モノクローナル抗体を精製するために通常用いられる方法には、硫安沈殿、イオン交換クロマトグラフィー、およびアフィニティークロマトグラフィーが含まれる(Zola et al. (1982))。これらの方法に従って作製したハイブリドーマは、当技術分野において周知の方法を用いて(一般的に、Fink et al., 前記、1984を参照のこと)、インビトロまたはインビボにおいて(腹水中で)増殖させることができる。
【0029】
一般に、例えば実験培養容器中で個々の細胞株をインビトロでで増殖させることができ、デカンテーション、濾過、または遠心分離により、高濃度の単一の特定モノクローナル抗体を含む培養液を回収することができる。または、最初の融合のために体細胞およびミエローマ細胞を提供するのに用いた種類の組織適合動物にハイブリドーマ試料を注射することにより、モノクローナル抗体の収率を上げることができる。注射した動物において、融合した細胞雑種によって産生される特定のモノクローナル抗体を分泌する腫瘍が生じる。腹水または血清等の動物の体液は、モノクローナル抗体を高濃度で提供する。ヒトハイブリドーマまたはEBVハイブリドーマを用いる場合、マウス等の動物に注射した異種移植片の拒絶を回避する必要がある。免疫不全マウスもしくはヌードマウスを用いることができ、または、まず照射ヌードマウスに固形の皮下腫瘍としてハイブリドーマを継代し、それをインビトロで培養し、次にプリスタンで初回刺激した照射ヌードマウスの腹腔内に注射し、大量の特定ヒトモノクローナル抗体を分泌する腹水腫瘍を生じさせることができる。
【0030】
マウス抗体で治療した患者はヒト抗マウス抗体を産生するため(Shawler et al., (1985))、特定の治療用途のためには、マウス抗体よりもキメラモノクローナル抗体(マウス-ヒト)またはヒトモノクローナル抗体の方が好ましい場合がある。例えば、キメラ抗体の作製のために開発された技法により(Oi et al., (1986);Liu et al., (1987))、標的細菌と反応するキメラマウス-ヒトモノクローナル抗体を作製することができる。したがって、SWLA4またはSWLA5抗体分子の定常領域をコードする遺伝子を、適切な生物活性(本発明の標的細菌に選択的に結合する能力等)を有したまま、抗体の定常領域をコードするヒト遺伝子と置換する。
【0031】
SWLA4またはSWLA5抗体に類似し、かつ適切な生物学的機能を有する、マウスまたはヒト由来の新規な抗体を作製することもできる。これらの抗体は、SWLA4またはSWLA5のうちの1つと同一の相補性決定領域(CDR)を有し得る。または、これらの抗体は、本発明の標的細菌の表面上の抗原と結合し得り、かつ標的細菌の表面上の抗原に対する結合においてSWLA4またはSWLA5の少なくとも1つとモル基準で少なくとも約80%程度の効率で競合し得る。これらの抗体は、以下の表1に記載する非標的細菌株のいずれとも実質的に反応性がない。モノクローナル抗体は、モル基準で少なくとも約90%程度の効率で競合することが好ましい。
【0032】
Borrebaeck et al.(1988)により記載されているように、例えば本発明の抗体SWLA4またはSWLA5と結合する標的細菌の細胞表面の一部分といった抗原を用いて、インビトロで抗原に対してヒト細胞を感作し、続いて抗原感作細胞をEBV形質転換するか、または抗原感作細胞をマウスもしくはヒト細胞とハイブリッド形成させることにより、ヒトモノクローナル抗体を作製することができる。
【0033】
方法
標的細菌抗原に対するSWLA4およびSWLA5抗体の特異性によって、これらの抗体は、齲蝕管理におけるスクリーニング、診断、予防、および経過観察アッセイ、画像法、ならびに治療法のための優れたマーカーとなる。
【0034】
多くの態様において、本方法は、細菌試料を本抗体と接触させる段階;および本抗体と生物試料中の分子との特異的結合を検出する段階を含む。「生物試料」は個体から採取される様々な試料の種類(例えば、生体液、生物組織)を包含し、診断アッセイまたはモニタリングアッセイにこれを用いることができる。多くの態様において、生物試料は唾液、または他の口腔もしくは歯の組織もしくは分泌物である。この定義には、採取した後に、試薬による処理、可溶化、または特定の細菌等の特定の成分の濃縮のような任意の方法で操作した試料も含まれる。
【0035】
本発明は、標的細菌の検出、および齲蝕またはそのリスクの診断に有用である様々な免疫測定法を提供する。これには、様々な種類の放射免疫測定法、酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)、酵素結合免疫蛍光測定法(FLIFA)等を含むがこれらに限定されない、当技術分野において周知の様々な免疫測定型式が含まれる。さらに、本発明は、コロイド金に基づく比色測定法、ならびに放射標識したSWLA4およびSWLA5抗体を用いた放射線シンチグラフィー画像法を含むがこれらに限定されない、齲蝕の検出が可能な免疫画像法を提供する(例えば、1990年4月24日に公表されたU.S.特許第4,920,059号;1992年1月7日に公表されたU.S.特許第5,079,172号を参照のこと)。さらには、本発明の抗体を他の色素または蛍光マーカーと結合させ、齲蝕を画像化するために歯に直接用いることもできる。そのようなアッセイ法は、齲蝕の検出およびモニタリングにおいて、臨床的に有用であると考えられる。そのような測定法は、一般に、本発明のSWLA4およびSWLA5抗体の1つまたは複数を用いる段階を含み、いくつかの態様においては、参照として本明細書に組み入れられるU.S.特許第6,231,857号において開示したSWLA1、SWLA2、およびSWLA3抗体と併用して用いる段階を含む。
【0036】
免疫測定法および画像法に加えて、本発明はまた、例えば齲蝕治療のための治療薬、診断薬、または細胞毒性薬に結合した、SWLA4もしくはSWLA5抗体の抗原結合領域を含む分子または抗原結合領域を含むその断片を含む免疫複合体を含む。細胞毒性薬の例には、これらに限定されないが、クロルヘキシジン、フッ化物、リシン、ドキソルビシン、ダウノルビシン、タキソール、臭化エチジウム、マイトマイシン、エトポシド、テノポシド、ビンクリスチン、ビンブラスチン、コルヒチン、ジヒドロキシアントラセンジオン、アクチノマイシンD、ジフテリア毒素、シュードモナス外毒素(PE)A、PE40、アブリン、グルココルチコイド、および放射性同位元素が含まれる。
【0037】
本発明のSWLA4およびSWLA5モノクローナル抗体は、インビトロおよびインビボの両方において、齲蝕の検出のための診断用途に有用である。インビトロ診断法は当技術分野において周知であり(例えば、Roth, 前記、 1986、およびKupchik, 前記、1988を参照のこと)、これには齲蝕の免疫組織学的検出または標的細菌(例えば、唾液試料または他の生体液中の)の血清学的検出が含まれる。
【0038】
免疫組織学的技法は、唾液、歯石、歯垢試料等の生体試料を本発明の抗体と接触させる段階、および次の試料における抗原と複合体を形成した抗体の存在を検出する段階を含む。試料によるそのような抗体-抗原複合体の形成により、抗原、標的細菌の存在が示される。試料中の抗体の検出は、免疫ペルオキシダーゼ染色法、アビジン-ビオチン(ABC)法、または免疫蛍光法等の当技術分野において周知の技法を用いて行うことができる(Ciocca et al., (1986);Helistrom et al., (1986);およびKimball (ed.,), (1986))。
【0039】
血清学的診断法は、齲蝕を有する患者の唾液または他の生体液中に分泌されたまたは「放出された」標的細菌抗原の検出および定量化を含む。「放出された」抗原と反応する抗体を用いて液体試料中の抗原の存在を検出する放射免疫測定法(RIA)または酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)等の当技術分野において周知の技法を用いて、唾液においてそのような抗原を検出することができる(例えば、Uotila et al., (1981)、およびAllum et al., 1986を参照のこと)。したがって、本明細書に開示した抗体を用いるこれらの測定法を、生体液中の標的細菌の検出に用いることができる。よって、抗原-抗体反応を含むほとんどの測定法において、本発明の抗体を用いることができることは、前記から明白である。これらの測定法には、これらに限定されないが、液相および固相両方の標準的なRIA法、ならびにELISA測定法、免疫蛍光法、および他の免疫細胞化学測定法が含まれる(例えば、Sikora et al. (1984)を参照のこと)。
【0040】
本発明の抗体は、齲蝕を検出するインビボ診断用途にも有用である。1つのそのようなアプローチには、標的細菌に結合した場合に検出可能なシグナルを生じる適切なイメージング試薬で標識した抗体を用いた画像法による、インビボでの齲蝕の検出を含む。イメージング試薬およびそのような試薬を用いた抗体の標識手順は周知である(例えば、Wensel and Meares, (1983);Colcher et al., (1986)を参照のこと)。標識抗体は、放射性核種スキャニング等の技法により検出してもよい(例えば、Bradwell et al. (1985)を参照のこと)。
【0041】
免疫複合体において使用する抗体断片には、Fv、Fab、Fab'、またはF(ab)'2断片が含まれ得る。これらの断片は一般に完全な免疫グロブリンよりも免疫原性が低いため、特に治療状況においては、Fv、Fab、Fab'、またはF(ab)'2断片等の免疫反応性断片を用いることが好ましい場合が多い。これらの抗体は、複合体を形成していない抗体と同様、自然に標的細菌細胞を標的して細胞を死滅させ、ひいては標的細菌の蓄積に起因する齲蝕を予防およびまたは治療する有用な治療薬となり得る。治療薬を抗体に結合させる技法は周知である(例えば、Arnon et al., 1985;Hellstrom et al., 1987;Thorpe, (1985);およびThorpe et al.,(1982)を参照のこと)。
【0042】
SWLA4およびSELA5抗体はまた、標的細菌タンパク質およびペプチドを精製する方法、ならびに相同的な分子および関連分子を単離する方法において用いることもできる。捕獲試薬として抗体を用いるタンパク質およびペプチドの精製法は、当技術分野において周知である。例えば、1つの態様において、標的細菌タンパク質の精製法は、SWLA4またはSELA5抗体が標的細菌タンパク質またはペプチドに結合し得る条件下において、固相基質に結合させたSWLA4またはSELA5抗体を、標的細菌タンパク質またはペプチドを含む溶解液または他の溶液と共にインキュベートする段階;固相基質を洗浄して不純物を除去する段階;および結合させた抗体から標的細菌タンパク質またはペプチドを溶出する段階を含む。
【0043】
本発明は、対象の歯における、または対象の唾液、歯垢、もしくは歯石試料中の対象細菌の存在を検出する方法を含み、この方法は、少なくとも1つの歯または試料をSWLA4またはSELA5抗体と接触させる段階、および歯におけるまたは試料中の標的細菌と抗体との結合を検出する段階を含む。歯磨き粉、うがい薬、トローチ剤、ゲル、粉末、スプレー、液体、錠剤、またはチューインガム中に含めることにより、歯の表面に抗体を局所的に投与することができる。歯およびまたは試料を標識抗体と接触させた結果として、モノクローナル抗体と標的細菌細胞との間で形成された複合体の存在を判定することにより、複合体が試料中の標的細菌の存在を示唆するため、標的細菌の存在を検出することができる。直接的または間接的に検出可能なシグナルを生じるように、本発明の抗体を標識することができる。標識は、例えば以下の化合物:放射標識、酵素、発色団、化学発光成分、生物発光成分、または蛍光剤から選択することができる。蛍光剤を用いる場合、蛍光は、蛍光顕微鏡、蛍光光度計、またはフローサイトメトリーにより検出できる。また、コロイド金比色分析系も標的細菌の存在の検出に用いることができる。コロイド金系は当技術分野において周知である(J. A. K. Hasan, et al. (1994);およびE. Harlow, D. Lane. (1988))。
【0044】
本発明はまた、対象における齲蝕の初期兆候を診断する方法を含む。この方法は、本発明の抗体を用いて、対象の少なくとも1つの歯において、または対象の唾液、歯垢、もしくは歯石試料において、存在する標的細菌の数を定量的に測定し、そのようにして測定した標的細菌細胞の数を正常対照、すなわち齲蝕のない対象の試料における数と比較することによって達成し得る。標的細菌の正常範囲は、上記の検出法(すなわち標的細菌に対する標識抗体を検出する)のいずれかを用いて、正常対象または齲蝕のない対象における標的細菌の量を定量化することによって決定し得る。例えば、正常範囲は、1 x 105細胞/mlまたは1 x 105細胞/〜1 x 106細胞/mlであってよい。他の範囲も可能である。対象に正常範囲を超えるある程度多量の標的細菌が存在する場合、その対象において齲蝕の初期兆候が示唆されることになる。
【0045】
本発明はまた、対象において齲蝕の経過をモニターする方法を含む。本発明の抗体を用いて、異なる時点において、歯、または対象の唾液、歯垢、もしくは歯石試料を試験し、存在する標的細菌のレベルに変化があるかどうかを判定することができる。その個体における前回の測定値を越える増加は、齲蝕活動性の増加を示唆することになる。例えば、対象の唾液試料の最初の試験が1 x 105標的細菌細胞/mlよりも少ない結果であったが、その後に採取した試料が1 x 105標的細菌細胞/mlを超える結果をもたらした場合、対象において齲蝕リスクが増加したことが示唆されることになる。
【0046】
本発明はさらに、SWLA4もしくはSWLA5抗体、あるいは標的細菌抗原結合活性を含むその断片を対象の歯に対して局所的に投与することにより、齲蝕から歯を予防する方法を含む。例えば、標準的方法を用いて製剤化した歯磨き粉、うがい薬、トローチ剤、ゲル、粉末、スプレー、液体、錠剤、またはチューインガムを用いて、抗体を歯の表面に局所的に投与することができる。細菌を死滅させる毒剤に抗体を結合し、例えば上記の方法のいずれかにより歯の表面に投与することができる。当業者に周知の方法を用いて、本発明のモノクローナル抗体の適正量を容易に決定することができる(一般的に、Goodman, et al. (ed.), 1993を参照のこと)。
【0047】
キット
診断キットを用いて、標的細菌を検出する本明細書に記載した方法を実施してもよい(例えば、1992年8月25日に公表されたU.S.特許第5,141,850号;1993年4月13日に公表されたU.S.特許第5,202,267号;1996年11月5日に公表されたU.S.特許第5,571,726号;1997年2月11日に公表されたU.S.特許第5,602,040号)。そのようなキットは、本発明の少なくとも1つのモノクローナル抗体、および歯、または対象から採取した例えば唾液のような試料中に存在する標的細菌に対するモノクローナル抗体の結合を検出するための試薬を含む。試薬は、例えば、蛍光によって検出し得る薬剤、および緩衝剤等の補助剤を含む。キットはまた、本発明の方法を実施するための、および/または処理のために試料を診断用研究室に運ぶための器具または容器、ならびに本発明の方法を実施するための適切な取扱い説明書を含み得る。
【0048】
発明の利点
本発明のモノクローナル抗体を用いると、歯垢形成過程における、他の細菌種と比較した標的細菌細胞の詳細なトポロジーおよび比率、ならびに対象における齲蝕病変の開始および進行過程をモニターすることが可能である(例えば、蛍光顕微鏡を用いて)。換言すれば、このことは齲蝕治療の改善の開発につながり得る。例えば、本発明の抗体を通常の色素または蛍光色素と結合することができる。そのような抗体を含む溶液は、患者の口をすすぐために用いることができる。色素結合抗体は、齲蝕の位置に結合し得る。ビデオまたはデジタルマイクロカメラにより、TVスクリーン上に齲蝕の画像が示され得る。
【0049】
蛍光色素結合モノクローナル抗体およびビデオ画像法を用いて、感染部位における細菌を標識することが可能であり、したがって、これは初期段階における齲蝕病変の検出、および病変が活動的であるか否かの判定に役立つ。これにより診断、治療が促進され、さらに歯科衛生の管理が改善される。
【0050】
モノクローナル抗体に基づく本発明の検出方法により、現行法と比較して顕著な利点を有する、対象における標的細菌を定量的に測定するための、迅速、正確、かつ経済的な方法が可能になる。有効かつ正確な齲蝕リスク評価系の開発への第1段階として、標的細菌を検出および計数するための、モノクローナル抗体と蛍光定量法を併用した方法を本研究において記載した。これらの方法、特にフローサイトメトリーは、高い特異性で細菌を迅速に検出し、高い精度で細菌を計数し得る。これらの方法により、短期間の間に低コストで多数の唾液試料を処理することが可能になる。これにより、唾液中の標的細菌の数と齲蝕の存在および進行速度との間の相関性を再評価するための、低コストで正確な測定法が可能になると考えられる。そのような測定法は、テストストリップ上のコロイド金比色分析系に連結させたモノクローナル抗体から構成され得る。本発明は、新鮮な唾液中に単に浸した場合の色の変化による、標的細菌の迅速かつ簡便な測定法のための試験系の使用を含む。そのような方法は、歯科医院でおよび患者の自宅で、齲蝕リスクを評価するために使用するのに適している。これらの技術のいずれかまたは類似の技術を用いた、齲蝕リスク状態および/または齲蝕活動性状態の正確かつ客観的評価により、対象を絞った予防および治療処置が可能となり、したがってヒトの歯科衛生が顕著に改善されると考えられる。
【0051】
以下の実施例は例証として提供するものであり、限定する目的で提供するものではない。
【0052】
実験
I. 材料および方法
A. 細菌株、培地、および培養条件
アクチノマイセス・ボビス(Actinomyces bovis)(ATCC 13683)、A. デンティコレンス(denticolens )(ATCC 43322)、A. ゲレンセリエ(gerencseriae) (ATCC 23860)、A. イスラエリ(israelii) (ATCC 12102)、A. メイエリ(meyeri) (ATCC 35568)、A. ネスランディ(ATCC 12104、ATCC 49340、ATCC 19246、ATCC 27044、ATCC 43146)、A. ビスコーシス(viscosis)(OMZ 716、OMZ 722、OMZ 723、OM 724、OMZ 740、Rudolf Gmur博士による分与)、A. オドントリティカス(odontolyticus)(ATCC 17929)、A. ビスコーサス(viscosus) (ATCC 15987)、フゾバクテリウム・ヌクレアタム(Fusobacterium nucleatum)(ATCC 10953)、ストレプトコッカス・ミュータンス(ATCC 25175、UA 159)、S. ゴルドニ(gordonii)(ATCC 10558)、S. サンギス(sanguis)(ATCC 10556)、およびS. ソブリヌス(sobrinus)(ATCC 6715、ATCC 33478)は、ブレインハートインフュージョン(BHI、DIFO 0037-17)培地で嫌気的に(37℃において80% N2、10% CO2、および10% H2)培養した。ラクトバチルス・アシドフィルス(Lactobacillus acidophilus)(ATCC 4356)、L. カセイ(ATCC 11578、ATCC 4646)、L. ラムノサス(rhamnosus)(ATCC 9595)、L. プランタラム(plantarum)(ATCC 14917)、L. サリバリウス(salivarius)(ATCC 11742)、およびL. オリス(oris)(ATCC 49062)は、LBブロス、ミラー(LMB、DIFCO 0446-17)培地で嫌気的に培養した。
【0053】
インビトロでの歯垢生成には、標準模擬口腔液(基本培地ムチン、BMMと命名、pH 7.0)を使用した。BMMは、2.5 g/l部分精製ブタ胃ムチン(タイプIII;Sigma Chemical Co.、ミズーリ州、セントルイス)、10.0 g/lペプトン(Oxoid, Unipath、英国、ベージングストーク)、5.0 g/lトリプチケースペプトン(BBL, Becton Diskinson、メリーランド州)、5.0 g/l酵母エキス(Difco Laboratories、ミシガン州、デトロイト)、2.5 g/l KCl、5 mg/lヘミン、1 mg/lメナジオン、1 mM尿素、1 mMアルギニン、および0.02%グルコースを含む。
【0054】
B. A. ネスランディおよびL. カセイに対するMAbの作製およびスクリーニング
A. ネスランディ(ARCC 12104)およびL. カセイ(ATCC 11578)は、それぞれBHI培地およびLMB培地で対数増殖期になるまで培養した。これら2つの細菌に対する抗体を産生するハイブリドーマは、以前に報告された手順と同じ手順を用いて作製した。Shi et al. (1998) Hybridoma 17:363-371。対応する細菌と反応する抗体を含む培養上清を検出するための最初のスクリーニングは、以前に記載されているように(Shi et al. (1998)、前記)酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)により実施した。次に、陽性反応を有する上清を免疫沈降法に供し(細菌100μlを上清100μlと混合)、強い陽性反応を有する上清をスクリーニングした。次いで、これらの上清を用いて、他の細菌(表1に記載)との交差反応性を試験した。
【0055】
C. 蛍光顕微鏡によるA. ネスランディおよびL. カセイの検出
A. ネスランディまたはL. カセイを培地または100 mMリン酸緩衝液(PBS)(pH 7.4)に懸濁した。細菌液10μlをMAbを含むハイブリドーマ培養上清10μlと混合し、室温で5分間インキュベートした。次いで、FITC結合ヤギ抗マウスIgG抗体1μlを混合液に添加した。さらに10分間インキュベートした後、位相差顕微鏡および蛍光顕微鏡により混合液を観察した。
【0056】
D. フローサイトメトリーによるA. ネスランディおよびL. カセイの検出
上記のように細菌をFITC分子で標識し、蛍光活性化セルソーター(FACS;Coulter EPICS eliteフローサイトメーター、フロリダ州、マイアミ)で解析した。フローサイトメトリーにより、蛍光強度に従って、FITC結合MAbで標識した細菌の定量的検出が可能になる。
【0057】
E. CellTracker(商標) Orange CMTMRを用いたA. ネスランディおよびL. カセイの標識
A. ネスランディまたはL. カセイを、最終濃度1μMのCellTracker(商標) Orange CMTMR(Molecular Probes, Inc.)と共に37℃で嫌気的に一晩培養し、これらの株を特異的に蛍光オレンジ色に標識した。その後、標識した細菌をPBSで3回洗浄してから試験に供した。
【0058】
無刺激および刺激ヒト唾液の採取
参加するヒト対象に使い捨てのプラスチックカップに唾液を吐き出すように依頼し、無刺激唾液を採取した。刺激唾液試料を採取する場合には、参加するヒト対象はパラフィンワックスを30秒間噛んでから、使い捨てのプラスチックカップに唾液を吐き出した。採取してからすぐに唾液試料を処理できない場合には、多くの場合1%ホルムアルデヒドを用いて唾液試料を固定した(9)。この手順により、採取してから数週間の期間、唾液細菌の正確な計数が可能になる。これらの実験のため、プラスチックピペットを用いて、採取した唾液試料0.45 mlを10%ホルムアルデヒド0.05 mlを含む1.5 mlエッペンドルフ試験チューブに移し、3秒間混合した。細菌を含まない唾液溶液は以下の通りに作製した:様々なヒト対象から採取した刺激および無刺激唾液を5000 x gで15分間遠心分離し、細菌および粒子の大部分を除去した。次いで、上清を0.2μmフィルターで濾過して滅菌した。
【0059】
F. インビトロでの歯垢の形成
インビトロヒト細菌プラーク培養モデル系に従って、人工歯垢を生成した。Wolinsky et al. (2000) J. Clin. Dent. 11:53-59。カバーガラスをプールした刺激ヒト唾液と共に、嫌気的に37℃で5時間インキュベートした。洗浄緩衝液(0.01 M K3PO4、1.0 mM CaCl2、0.1 mM MgCl2、pH 7.0)で3回洗浄した後、カバーガラスをBMM中で培養し、処理したカバーグラスに付着した細菌を増殖させた。Sissions et al. (1991) J. Dent. Res. 70:1409-1416。成熟した歯垢が形成されるまで、上記過程を繰り返した。
【0060】
G. 人工歯垢におけるA. ネスランディおよびL. カセイの検出
歯垢を1μM SYTO13緑色蛍光核酸染色液(Molecular Probes, Inc.)と共に室温(RT)で30分間インキュベートし、成熟人工歯垢中のすべての細菌を染色した。洗浄緩衝液で3回洗浄した後、それぞれの抗体を産生するハイブリドーマ細胞株の細胞上清50μlと共に歯垢を室温で30分間インキュベートした。次に歯垢を再度洗浄緩衝液で3回洗浄し、10μl Alexa Fluor(登録商標)568結合ヤギ抗マウスIgG(1μg/ml)と共に室温で30分間インキュベートした。過剰の抗体分子を除去するためにさらに3回洗浄した後、標識された歯垢を共焦点レーザー走査顕微鏡(CLSM)により観察した。
【0061】
II. 結果
A. A. ネスランディおよびL. カセイに対するMAbの作製および単離
3匹のBALB/cマウスにホルマリン処理したA. ネスランディ(ARCC 12104)およびL. カセイ(ATCC 11578)をそれぞれ免疫し、MAbの作製に使用した。A. ネスランディについては978およびL. カセイについては742の十分に増殖したハイブリドーマが得られた。十分に増殖したハイブリドーマの上清すべてをELISAによりスクリーニングし、235の上清がA. ネスランディとの陽性反応性を有することが認められ、121の上清がL. カセイとの陽性反応性を有することが示された。さらに免疫沈降法により、A. ネスランディとの強い陽性反応性を示す13の上清およびL. カセイとの強い陽性反応性を示す7つの上清が同定された。これらの培養上清を用いて、表1に記載した様々な他の口腔細菌との交差反応性を試験した。A. ネスランディおよびL. カセイそれぞれと最も高い陽性反応性を有し、試験した他の細菌との有意な交差反応性をもたないそれぞれ1つの上清が同定された。これら2つの種に対する対応する抗体を、A. ネスランディについてはSWLA4およびおよびL. カセイについてはSWLA5と命名した。サブクラスアイソタイプ解析により、どちらのMAbもIgGであることが示された。
【0062】
B. FACSによるA. ネスランディおよびL. カセイの検出
蛍光活性化セルソーター(FACS)は、溶液中の粒子を検出し得り、粒子の蛍光強度に基づいてそれらを分離し得る。本研究では、FACSを用いて、A. ネスランディおよびL. カセイに対するMAbの特異性をさらに解析した。どちらの種も材料および方法に記載した通りにFITCで個々に標識し、FACにより効率的に検出された(図1a〜d)。同じ抗体を用いて同様の方法で処理した9つの他の口腔細菌からなる混合物は、検出可能なシグナルを生じなかった(図1e〜h)しかし、これらの細菌は計数の精度に影響するより大きな凝集体を形成する傾向があるため、FACSはA. ネスランディおよびL. カセイの定量解析には適していないと考えられる。
【0063】
図1a〜hは、口腔細菌のフローサイトメトリー解析を示す。X軸は細菌細胞と会合したFITC量であり、Y軸は細菌数である。細菌混合物は、A. イスラエリ (ATCC 12102)、A. メイエリ(ATCC 35568)、A. ビスコーサス (ATCC 15987)、ストレプトコッカス・ミュータンス(ATCC 25175)、S. ソブリヌス (ATCC 33478)、L. アシドフィルス (ATCC 4356)、L. サリバリウス (ATCC 11742)、L. プランタラム (ATCC 14917)、およびL. オリス(oris)(ATCC 49062)からなる。(a) FITC結合ヤギ抗マウスIgG抗体のみで処理したA. ネスランディ(ATCC 12104);(b) SWLA4およびFITC結合ヤギ抗マウスIgG抗体で処理したA. ネスランディ;(c) FITC結合ヤギ抗マウスIgG抗体のみで処理したL. カセイ(ATCC 11578);(d) SWLA5およびFITC結合ヤギ抗マウスIgG抗体で処理したL. カセイ;(e) FITC結合ヤギ抗マウスIgG抗体のみで処理した細菌混合物;(f) SWLA4およびFITC結合ヤギ抗マウスIgG抗体で処理した細菌混合物;(g) FITC結合ヤギ抗マウスIgG抗体のみで処理した細菌混合物;(h) SWLA5およびFITC結合ヤギ抗マウスIgG抗体で処理した細菌混合物。A. ネスランディに関しては株OMZ 716、OMZ 722、OMZ 723、OMZ 724、OMZ 740を用いても、L. カセイに関してはATCC4646を用いても、同様の結果が得られた。
【0064】
C. 蛍光顕微鏡によるA. ネスランディおよびL. カセイの検出
蛍光顕微鏡を用いて、SWLA4およびSWLA5の感度および特異性を試験した。材料および方法に記載した手順に従って、純粋なA. ネスランディまたはL. カセイ培養物をそれぞれSWLA4またはSWLA5を用いてFITC標識した。位相差像および蛍光像を得た。2つの像を重ね合わせた結果、実質的にすべての細菌が蛍光緑色に標識されることが実証され、これにより対応する細菌の検出において抗体が高感度であることが示された。
【0065】
次に、以下の実験を行い抗体の特異性を試験した:材料および方法に記載したように、A. ネスランディおよびL. カセイをオレンジ蛍光色素の存在下で培養した。次いで、標識した細菌(蛍光オレンジ色)を個々に、A. イスラエリ、A. メイエリ、A. ビスコーサス、S. ミュータンス、S. ソブリヌス、L. アシドフィルス、L. サリバリウス、L. プランタラム、およびL. オリスを含む他の非標識口腔細菌種と混合した。次に、混合物(蛍光オレンジ色のA. ネスランディまたは蛍光オレンジのL. カセイを含む)を、それぞれSWLA4またはSWLA5に結合させたFITC(蛍光緑色)で標識した。A. ネスランディおよびL. カセイのどちらについても、蛍光オレンジ色の細菌のみがFITC(蛍光緑色)でも標識され、またその逆も同様であり、このことから、種々の他の細菌の存在下でさえもMAbの特異性が約100%であることが実証された。このデータから、これらの抗体によってどちらの齲蝕原性細菌も高い感度および特異性で正確な計数ができることが示唆される。株OMZ 716、OMZ 722、OMZ 723、OMZ 724、OMZ 740を用いても、同様の結果が得られた。
【0066】
D. SWLA抗体は唾液中のA. ネスランディおよびL. カセイを効率的に検出する
本発明者らの以前の研究では、MAbに基づいた検出法により、唾液中のS. ミュータンスを十分に計数し得ることを示した。Gu et al. (2002) Hybridoma and Hybridomics 21: 225-232。本研究では、同じ戦略を用いて、SWLA4およびSWLA5モノクローナル抗体が唾液中のA. ネスランディおよびL. カセイを検出する能力を評価した。唾液溶液が唾液中の細菌の検出を妨げるかどうかを試験するため、刺激および無刺激唾液を採取し、フィルター滅菌した。既知数の細菌を、上記のように調製した細菌を含まないこれらの唾液溶液およびリン酸緩衝食塩水(PBS)に再懸濁した。SWLA抗体および蛍光顕微鏡を用いて、これらの唾液溶液中の細菌を検出および定量化した。表2に示すように、SWLA抗体はこれらの唾液溶液中のA. ネスランディおよびL. カセイを、PBS中と同じ感度で効率的に検出し得り、このことから、唾液溶液中に存在する成分がSWLA4およびSWLA5抗体とそれらの同属細菌細胞との特異的結合に影響を及ぼさないことが示された。
【0067】
唾液溶液を調製するために用いた遠心分離および濾過手順により、全唾液試料から細菌に加えて大きな粒子も除去される。これらの「粒子」は、細菌細胞に対する抗体の特異的結合を妨げる可能性がある。この問題に取り組むため、既知量のA. ネスランディまたはL. カセイそれぞれを様々な唾液試料に添加し、細菌の添加前後の相違を比較した。表3に示すように、全唾液に添加した細菌細胞は、S. ミュータンス特異的SWLA1〜3について以前にすでに実証されたように、蛍光顕微鏡を用いてSWLA抗体により正確に検出された。Gu et al. (2002), 前記。明らかに、全唾液中の成分もまた、SWLA4およびSWLA5抗体とA. ネスランディまたはL. カセイとの特異的結合に影響を及ぼさなかった。
【0068】
モノクローナル抗体は生菌のみならず原型を保った細胞外被を有する死菌も認識し得るため、SWLA抗体がホルムアルデヒドで固定した唾液中の細菌細胞も認識し得るかどうかの可能性について検討した。S. ミュータンスに対してSWLA1〜3で得られた結果と一致して(9)、SWLA4およびSWLA5もまた、生菌細胞と同じ感度で、唾液中の1%ホルムアルデヒドで固定したA. ネスランディおよびL. カセイ細胞を認識し得る(表3)。これにより、歯科医が歯科医院で唾液試料を固定し、後に処理するために実験室に運ぶことが可能になる。
【0069】
E. 児童集団における唾液A. ネスランディおよびL. カセイのプロファイル
SWLA抗体に基づく方法により、2〜16歳の児童から採取した100個の唾液試料を解析した。図2aおよび2bは、これらの児童における唾液A. ネスランディおよびL. カセイのプロファイルを示す。試験唾液試料中のA. ネスランディの数は0.5 x 104〜4.8 x 105細胞/mlであり(図2a)、L. カセイの数は1 x 104〜1.2 x 106細胞/mlである(図2b)。L. カセイの数の変動性は、1 x 104未満〜3.6 x 106細胞/mlというヒト唾液中のS. ミュータンスについて見られる変動性と類似しているが、対照的に、唾液A. ネスランディの数は変動性が低いようである。
【0070】
図2aおよび2bは、ヒト集団における唾液A. ネスランディ(遺伝種1)およびL. カセイの計数値の分布を示す。このデータは、2〜16歳の児童100人から採取した唾液試料に基づいた。無刺激唾液試料を採取し、歯科医院で固定し、処理のためにUCLAに送った(材料および方法に記載したように)。(a) 唾液A. ネスランディ(遺伝種1)計数値の分布;(b) 唾液L. カセイ計数値の分布。
【0071】
唾液中のS. ミュータンス、L. カセイ、およびA. ネスランディのレベルはいずれも齲蝕と関連があると考えられるため、これら3種の細菌の唾液計数値間に見られる相関関係の可能性についてさらに検討することにした。ピアソン相関分析により、これら100個の唾液試料中のA. ネスランディ、L. カセイ、およびS. ミュータンスの唾液計数値を調べた。結果から、L. カセイとS. ミュータンスの唾液計数値間には有意な正の相関関係があるが(p=0.5)、A. ネスランディとS. ミュータンスとの間には相関関係がない(p=0.05)ことが統計的に示される。A. ネスランディとL. カセイについては、ピアソン相関係数は約0.2であり(p=0.2)、比較的弱い正の相関関係がある。
【0072】
F. 人工歯垢におけるA. ネスランディおよびL. カセイの検出
MAbに基づく検出法を用いると、唾液中のみならず歯垢においても対応する細菌の検出が可能であった。材料および方法に記載したように、核酸染色液SYTO13(蛍光緑色)を用いて歯垢中のすべての細菌集団を染色した。次いで、歯垢を、Alexa Fluor(登録商標)568(蛍光赤色)を結合した二次抗体と併用して、SWLA抗体で染色した。人工歯垢中のA. ネスランディの分布の側面図(XZ面);および同じ領域のXY側面図を作成した。この像から、A. ネスランディ細胞が人工歯垢内の全層にわたって点在していることが示される。人工歯垢中のL. カセイの分布のXZ側面図およびXY側面図も作成した。わずかなL. カセイ細胞のみが認められ、そのほとんどは人工歯垢の最上層に分散しており、L. カセイはこの種の歯垢の主要な細菌ではないことが示唆された。
【0073】
III. 考察
齲蝕は細菌依存性多因子疾患と見なされる。集団における齲蝕分布のプロファイルは非常に不均等であるため、リスクの高い人を同定することは非常に意義がある。疫学的研究から、唾液または歯垢中の齲蝕原性細菌のレベルおよび比率と齲蝕の発生率との間に関連性がある可能性が示される。この関連性から、適切な細菌検出法を用いて、齲蝕リスクの高い人を診断し得ることが示唆される。齲蝕の診断およびリスク評価に唾液における細菌の同定および計数が有用であることを検証するためには、適切な細菌検出法が必要である。1975年のモノクローナル抗体時代の開始以来、モノクローナル抗体技法は診断および治療分野に広く利用されている。ハイブリドーマ技法を用いると、細菌表面上の固有な成分に対して種特異的モノクローナル抗体を作製することができる。蛍光色素、比色分析または共凝集試薬等の種々の検出系にMAbを結合させることができ、これによって特異的検出結果の迅速な提示が可能となる。本発明者らの以前の研究では、S.ミュータンスに対するモノクローナル抗体を開発し、モノクローナル抗体(MAb)に基づく技法が高い特異性および感度を有することを示した。また、この以前の研究および本明細書で示したデータから、MAbに基づく技法が齲蝕原性細菌の簡便かつ確実な計数法を提示し、臨床診断およびリスク評価の有用なツールとなるであろうことも実証される。
【0074】
複数の細菌種が齲蝕に関与するため、齲蝕の診断およびリスク評価に唾液における細菌の同定および計数が有用であることを検証するためには、齲蝕原性細菌種の全プロファイルを理解することが特に有用であると考えられる。本研究により、3つの主要な齲蝕原性細菌群の代表として齲蝕病変において最も頻繁に検出される細菌を評価できるようになった:ミュータンス連鎖球菌についてはS. ミュータンス、乳酸桿菌群についてはA. ネスランディ、および放線菌についてはL. カセイ。
【0075】
本研究では、抗原としてA. ネスランディおよびL. カセイの細胞全体を使用し、産生された抗体が個々の細菌種の表面構造を認識し得ることを保証した。また、高度に種特異的な診断抗体の取得を可能にする大量のハイブリドーマを作製し、スクリーニングした。それぞれの種に対してモノクローナル抗体1つを同定した。これらのモノクローナル抗体(A. ネスランディに対するSWLA4およびL. カセイに対するSWLA5)は、ヒト唾液中のA. ネスランディおよびL. カセイの定量的同定において高い感度および特異性を有することが示された。これらの抗体は、唾液試料中の細菌プロファイルを一般的に評価するための多用途ツールとなる優れた可能性を有するはずである。
【0076】
本発明者らの研究により、ヒト集団における唾液L. カセイ計数値の大きな変動性が示された。試験した100人の唾液試料において、L. カセイは、唾液S. ミュータンスの範囲(1 x 104〜3.6 x 106細胞/ml)(9)と類似して、1 x 104〜1.2 x 106細胞/mlと変動することを見出した。A. ネスランディの唾液レベルは、一般にL. カセイまたはS. ミュータンスのレベルよりも低い。試験した100人の唾液試料において、A. ネスランディのレベルは0.5 x 104未満〜4.8 x 105細胞/mlであった。唾液中のS. ミュータンス、L. カセイ、およびA. ネスランディのレベルは齲蝕と関連すると考えられるため、唾液中のこれら3種の細菌種間の相関関係を得た。A. ネスランディ、L. カセイ、およびS. ミュータンス間の相関関係を、ピアソン相関分析により評価した。結果から、L. カセイとS. ミュータンスの唾液計数値間には有意な正の相関関係があるが(ピアソン相関係数p=0.5)、A. ネスランディとS. ミュータンスとの間には相関関係がない(p=0.05)ことが統計的に示される。A. ネスランディとL. カセイについては、ピアソン相関係数は約0.2であり(p=0.2)、極めて弱い正の相関関係がある。唾液中のL. カセイとS. ミュータンスとの正の相関関係は、どちらの細菌も非常に酸産生性でありかつ酸耐性であることに起因する可能性がある。一方、A. ネスランディはごく初期に定着するものであり、他の2種ほど酸耐性がなく、典型的にS. ミュータンスおよびA. カセイ等のより酸産生性かつ酸耐性である種によって取って代わられる。これにより、A. ネスランディとS. ミュータンスとの間に正の相関関係がなく、A. ネスランディとL. カセイとの間の相関関係が非常に弱いことが説明され得る。
【0077】
以前の研究から、進行した病変よりも初期病変においてA. ネスランディの比率が有意に高いことが見出された。A. ネスランディが単離された健全な露出根面からは、A. ネスランディが単離されなかった表面よりも有意に少ない数の乳酸桿菌が得られた。さらに、根面齲蝕も修復もない対象は、修復を有するかまたは有さず根面齲蝕を有する対象と比較して、健全な根面上の歯垢中のミュータンス連鎖球菌の罹患率および比率が低く、A. ネスランディの罹患率および比率が高いことを特徴とする。さらに、乳酸桿菌は齲蝕象牙質および進行した齲蝕病変とより関連性が高いことが周知であり、一方、S. ミュータンスは齲蝕の開始および進行に関与する主要な齲蝕原性細菌であると見なされる。これらの関係から、齲蝕の診断ツールとして、歯の表面のS. ミュータンス、A. ネスランディ、およびL. カセイの定量化を用い得ることが示される。本研究では、関心対象の3種に非常に特異的なMAbがインサイチューで歯垢内の対応する細菌に局在化し得ることを示したが、したがって歯の表面におけるこれら3種の齲蝕原性細菌の分布を調べることによる、齲蝕リスク評価および初期診断の別の潜在的方法が提供される。
【0078】
以前は、A. ビスコーサスおよびA. ネスランディは2つの別の種として分類されていた。しかし、最近になって、指標として共凝集および免疫ブロッティング特性を用いた口腔放線菌単離体の抗原性関連性に従って、これらはA. ネスランディの2つの遺伝種として再分類された。Putnins and Bowden (1993) J. Dent. Res. 72 :1374-1385。本研究においてA. ネスランディとして使用した株、ATCC 12104、OMZ 716、OMZ 722、OMZ 723、OM 724、OMZ 740は遺伝種1に属し;本研究においてA. ビスコーサスとして使用した株、ATCC 49340、ATCC 19246、ATCC 27044、ATCC 43146は遺伝種2に属する。本研究においてA. ネスランディに対して作製したSWLA4は遺伝種1を特異的に検出し、遺伝種2との交差反応性はない(表1)。したがって、SWLA4を用いて、A. ネスランディの遺伝種を分類し、遺伝種1の特徴を研究することができる。
【0079】
要約すると、本発明者らは、SWLA4およびSWLA5抗体を用いて唾液および歯垢中のA. ネスランディ(遺伝種1)およびL. カセイを効率的かつ正確に検出できることを実証した。以前に作製したS. ミュータンスに対するSWLA抗体と共に用いて、3つの主要な齲蝕原性群、ミュータンス連鎖球菌、放線菌、および乳酸桿菌の代表的な株を検出できるようになった。これにより、歯科研究者が、唾液中または歯の表面のA. ネスランディ、L. カセイ、およびS. ミュータンスレベルが齲蝕リスク状態および/または齲蝕活動性状態と関連があるかどうかを確認する新たな機会および新たな手段が提供される。
【0080】
[表1] 口腔細菌株およびそれらのモノクローナル抗体との反応性

免疫沈降法および蛍光顕微鏡を用いて、抗体SWLA4およびSWLA5の種々の細菌株との交差反応性をスクリーニングした。実験手順に関しては、材料および方法を参照されたい。
【0081】
[表2] SWLA抗体に基づく技法による、様々な溶液中のA. ネスランディおよびL. カセイの検出


既知数のA. ネスランディまたはL. カセイ細胞(細菌計算板で計数)をリン酸緩衝食塩水(PBS)または様々な唾液溶液に再懸濁し、FITC結合SWLA抗体で処理し、蛍光顕微鏡で調べた。示したデータは、異なる対象3人の唾液溶液における細菌計数結果に基づいて計算した平均値および標準偏差を表す(唾液溶液は、材料および方法に記載した通りに採取し調製した)。PBSでの細菌計数値は、同じ試料の3重計数値の平均値である。表に示したデータには、株ATCC 12104およびATCC 11578を使用した。A. ネスランディに関しては株OMZ 716、OMZ 722、OMZ 723、OMZ 724、およびOMZ 740を用いても、L. カセイに関してはATCC4646を用いても、同様の結果が得られた。
【0082】
[表3] SWLA抗体は、1%ホルムアルデヒドありまたはなしで、唾液中のA. ネスランディおよびL. カセイを特異的にかつ正確に検出する

*A. ネスランディまたはL. カセイ細胞1 x 106個を唾液試料に添加した後。
A. ネスランディまたはL. カセイ細胞1 x 106個(細菌計算板で計数)を、異なる対象3人から採取した1%ホルムアルデヒド固定ありまたはなしの非濾過唾液に再懸濁し、それぞれFITC結合SWLA4およびSWLA5抗体で処理し、蛍光顕微鏡で調べた(材料および方法に記載したように)。示したデータは、誤差10%未満の、同じ試料の3重計数値の平均値である。表に示したデータには、株ATCC 12104およびATCC 11578を使用した。A. ネスランディに関しては株OMZ 716、OMZ 722、OMZ 723、OMZ 724、およびOMZ 740を用いても、L. カセイに関してはATCC4646を用いても、同様の結果が得られた。
【0083】
IV. 特定の典型的な用途
A. SWLA4およびSWLA5抗体をコロイド金粒子と結合させる。得られた複合化抗体試薬を、椅子/ベッド脇での齲蝕原性細菌の即時検出キットにおいて使用する。
B. SWLA4およびSWLA5抗体を色付きラテックスビーズと結合させる。得られた複合化抗体試薬を、椅子/ベッド脇での齲蝕原性細菌の即時検出キットにおいて使用する。
C. SWLA4およびSWLA5抗体を蛍光色素と結合させる。得られた複合化抗体を、唾液および歯垢中の齲蝕原性細菌の検出に使用する。
D. SWLA4および/もしくはSWLA5抗体、ならびに/または先に記載したようなS. ミュータンス特異的抗体を、それぞれ別のかつ識別可能な蛍光色素に結合させる。得られた蛍光標識抗体は、単一試料中の2つまたはそれ以上の異なる齲蝕原性細菌を同時に検出するための多重検出用途に役立つ。
E. SWLA4および/またはSWLA5抗体をコードする遺伝子をクローニングし、ヒトでのこれらの齲蝕原性細菌に対する受動ワクチン接種において使用するための、これらの齲蝕原性細菌に対するヒト化抗体を作製するために使用する。同様のアプローチが、ペットおよび他の動物にも適用される。
【0084】
本明細書に引用した出版物および特許出願はすべて、個々の出版物または特許出願が詳細にかつ個別に参照として組み入れられることが示されるがごとく、参照として本明細書に組み入れられる。いずれの出版物の引用もそれが本出願日以前に開示されたためであり、本発明が先行発明のせいでそのような出版物を先行できないことを認めると解釈されるべきではない。
【0085】
明確に理解できるように説明と実施例の目的で先行発明をある程度詳細に記述したが、本発明の説明からして、添付の特許請求の範囲の精神または範囲から逸脱することなくいくらかの変更および修正を実行できることは、当業者によって容易に理解されよう。
【図面の簡単な説明】
【0086】
【図1】図1A〜Hは、口腔細菌のフローサイトメトリー解析を示す。
【図2】図2Aおよび2Bは、ヒト集団における唾液A. ネスランディ(遺伝種1)およびL. カセイの計数値の分布を示す。このデータは、2〜16歳の児童100人から採取した唾液試料に基づいた。無刺激唾液試料を採取し、歯科医院で固定し、処理のためにUCLAに送った(材料および方法に記載したように)。(a) 唾液A. ネスランディ(遺伝種1)計数値の分布;(b) 唾液L. カセイ計数値の分布。
【図1A】

【図1B】

【図1C】

【図1D】

【図1E】

【図1F】

【図1G】

【図1H】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
放線菌(actinomyces)および乳酸桿菌種(lactobacillus)から選択される標的齲蝕原性細菌の細胞表面抗原を認識する抗体であって、標的細菌に対して高い特異性および感度を有する抗体。
【請求項2】
標的細菌が放線菌種細菌である、請求項1記載の抗体。
【請求項3】
放線菌種がアクチノマイセス・ネスランディ(Actinomyces naeslundii)遺伝種1である、請求項2記載の抗体。
【請求項4】
抗体がアクチノマイセス・ネスランディ遺伝種2と交差反応しない、請求項3記載の抗体。
【請求項5】
標的細菌が乳酸桿菌種細菌である、請求項1記載の抗体。
【請求項6】
乳酸桿菌種がラクトバチルス・カセイ(Lactobacillus casei)である、請求項5記載の抗体。
【請求項7】
全細胞免疫原を用いて産生される、請求項1〜6のいずれか一項記載の抗体。
【請求項8】
モノクローナル抗体である、請求項1〜7のいずれか一項記載の抗体。
【請求項9】
SWLA4およびSWLA5から選択される、請求項8記載の抗体。
【請求項10】
SWLA4と少なくとも実質的に同じ感度および特異性でアクチノマイセス・ネスランディに結合する抗体。
【請求項11】
SWLA5と少なくとも実質的に同じ感度および特異性でラクトバチルス・カセイに結合する抗体。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか一項記載の抗体の結合断片または模倣体。
【請求項13】
以下の段階を含む、試料中の齲蝕原性細菌の存在を検出する方法:
(a) 該試料を請求項1〜11のいずれか一項記載の抗体またはその結合断片もしくは模倣体と接触させる段階;および
(b) 該齲蝕原性細菌と、該抗体、その結合断片または模倣体との間に生じた結合複合体の存在を検出して、該試料中の該齲蝕原性細菌の存在を検出する段階。
【請求項14】
試料が生理学的試料である、請求項13記載の方法。
【請求項15】
生理学的試料が唾液である、請求項14記載の方法。
【請求項16】
生理学的試料が歯垢である、請求項14記載の方法。
【請求項17】
抗体、その結合断片または模倣体が固相支持体に安定に結合している、請求項13記載の方法。
【請求項18】
以下を含む、試料中の齲蝕原性細菌の存在の判定において使用するための装置:
固相支持体の表面に安定に結合している、請求項1〜11のいずれか一項記載の抗体またはその結合断片もしくは模倣体。
【請求項19】
請求項1〜11のいずれか一項記載の抗体を分泌する細胞。
【請求項20】
ハイブリドーマ細胞である、請求項19記載の細胞。
【請求項21】
以下の段階を含む、齲蝕原性細菌の存在によって生じる状態を患う宿主を治療する方法:
該宿主に、請求項1〜11のいずれか一項記載の抗体またはその結合断片もしくは模倣体の有効量を投与する段階。
【請求項22】
抗体、その結合断片または模倣体が治療的活性薬剤と結合している、請求項21記載の方法。
【請求項23】
請求項1〜11のいずれか一項記載の抗体またはその結合断片もしくは模倣体を含む薬学的製剤。
【請求項24】
以下を含む、試料中の齲蝕原性細菌の存在の検出において使用するためのキット:
少なくとも1つの、請求項1〜11のいずれか一項記載の抗体、またはその結合断片もしくは模倣体;および
該齲蝕原性細菌の存在を検出するために該抗体を使用するための取扱説明書。
【請求項25】
少なくとも、放線菌に結合する第一の抗体および乳酸桿菌に結合する第二の抗体を含む、請求項24記載のキット。
【請求項26】
検出可能な標識に結合している、請求項1〜11のいずれか一項記載の抗体またはその結合断片もしくは模倣体。
【請求項27】
検出可能な標識がコロイド標識である、請求項26記載の抗体。
【請求項28】
検出可能な標識がラテックスビーズである、請求項26記載の抗体。
【請求項29】
検出可能な標識が蛍光標識である、請求項26記載の抗体。
【請求項30】
請求項1〜11のいずれか一項記載の抗体をコードする、その天然環境以外に存在する核酸。

【図2】
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【公表番号】特表2006−503089(P2006−503089A)
【公表日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−544904(P2004−544904)
【出願日】平成15年10月14日(2003.10.14)
【国際出願番号】PCT/US2003/032543
【国際公開番号】WO2004/034979
【国際公開日】平成16年4月29日(2004.4.29)
【出願人】(505006585)ザ レジェンツ オブ ザ ユニバーシティー オブ カリフォルニア (16)
【Fターム(参考)】