説明

(±)−フェニル[4−[4−[[[4’−(トリフルオロメチル)−2−ビフェニリル]カルボニル]アミノ]フェニル]−1−ピペリジニル]酢酸メチルの分割

本発明は、MTP(ミクロソームトリグリセリド転移タンパク質)阻害剤である(2S)−フェニル[4−[4−[[[4’−(トリフルオロメチル)−2−ビフェニリル]カルボニル]アミノ]フェニル]−1−ピペリジニル]酢酸メチルを単離するための、(±)−フェニル[4−[4−[[[4’−(トリフルオロメチル)−2−ビフェニリル]カルボニル]アミノ]フェニル]−1−ピペリジニル]酢酸メチルの分割方法ならびに(2R)−フェニル[4−[4−[[[4’−(トリフルオロメチル)−2−ビフェニリル]カルボニル]アミノ]フェニル]−1−ピペリジニル]酢酸メチルをラセミ化するためのエピマー化方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、MTP(ミクロソームトリグリセリド転移タンパク質)阻害剤である(2S)−フェニル[4−[4−[[[4’−(トリフルオロメチル)−2−ビフェニリル]カルボニル]アミノ]フェニル]−1−ピペリジニル]酢酸メチルを単離するための、(±)−フェニル[4−[4−[[[4’−(トリフルオロメチル)−2−ビフェニリル]カルボニル]アミノ]フェニル]−1−ピペリジニル]酢酸メチルの分割方法ならびに(2R)−フェニル[4−[4−[[[4’−(トリフルオロメチル)−2−ビフェニリル]カルボニル]アミノ]フェニル]−1−ピペリジニル]酢酸メチルをラセミ化するためのエピマー化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
MTP阻害剤である(2S)−フェニル[4−[4−[[[4’−(トリフルオロメチル)−2−ビフェニリル]カルボニル]アミノ]フェニル]−1−ピペリジニル]酢酸メチルは、小分子のエンテロサイトを標的とするミクロソームトリグリセリド転移タンパク質(MTP)阻害剤である。この化合物は血漿中で急速に代謝されて非常に低い全身的血漿濃度を与え、主に腸MTPを阻害して食後のトリグリセリド吸収を妨げるように設計されているが、肝臓には限られた効果を有する。それは特許文献1において、肥満、高脂血症、高コレステロール血症、高トリグリセリド血症、2型糖尿病、アテローム性動脈硬化症のような障害の処置における使用ならびに食後血清トリグリセリド血漿レベルの低下のために開示されている。
【0003】
MTP阻害剤である(2S)−フェニル[4−[4−[[[4’−(トリフルオロメチル)−2−ビフェニリル]カルボニル]アミノ]フェニル]−1−ピペリジニル]酢酸メチルは以下の構造を有し、それを「(S)−化合物A」と称する。この化合物は、国際出願である特許文献1において、[α]20=+27.69°(c=5mlのCHOH中の24.95mg)の比旋光度を有する化合物(230)として開示されている。従って、この化合物は、(+)−フェニル−(4−{4−[(4’−(トリフルオロメチル−ビフェニル−2−カルボニル)−アミノ]−フェニル)−ピペリジン−1−イル}−酢酸メチルエステルとも命名されている。
【0004】
【化1】

【0005】
「(S)−化合物A」の鏡像は(2R)−フェニル[4−[4−[[[4’−(トリフルオロメチル)−2−ビフェニリル]カルボニル]アミノ]フェニル]−1−ピペリジニル]酢酸メチルであり、特許文献1において−28.86°(c=5mlのCHOH中の24.95mg)の比旋光度[α]20を有する化合物(229)として開示されている。この化合物を「(R)−化合物A」と呼ぶ。
【0006】
【化2】

【0007】
エナンチオマー「(S)−化合物A」及び「(R)−化合物A」の1:1混合物はラセミ体「(±)−化合物A」と表わされるか、又は化学名(±)−フェニル[4−[4−[[[4’−(トリフルオロメチル)−2−ビフェニリル]カルボニル]アミノ]フェニル]−1−ピペリジニル]酢酸メチルを用いて表わされ、それは特許文献1において以下の構造:
【0008】
【化3】

【0009】
を有する化合物(41)として開示されている。
【0010】
臨床的開発及び販売のための「(S)−化合物A」の十分な供給を保証するために、大きな商業的規模で行われ得る有効な方法が必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】国際公開第02/20501号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、高度に有効であり(すなわち、1つの単一段階における高収率及び高いエナンチオマー的純度)、且つ大きな商業的規模における運転に適している(2S)−フェニル[4−[4−[[[4’−(トリフルオロメチル)−2−ビフェニリル]カルボニル]アミノ]フェニル]−1−ピペリジニル]酢酸メチル(すなわち、「(S)−化合物A」)の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、分割剤(S)−N−[(4−メトキシフェニル)スルホニル]グルタミン酸とのジアステレオ異性体塩の形成を介して「(±)−化合物A」を分割することにより、「(S)−化合物A」を単離するための方法に関する。
【0014】
「(±)−化合物A」の分割のための光学分割剤としていくつかのキラル酸を調べ、予
期に反して、(S)−N−[(4−メトキシフェニル)スルホニル]グルタミン酸が所望のエナンチオマー「(S)−化合物A」の最高収率を最高のエナンチオマー的純度と一緒に与えることが見出された。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、「(R)−化合物A」を「(±)−化合物A」にラセミ化するための方法にも関し、それを次いでやはり本発明に従って分割することができる。このラセミ化又はエピマー化方法は本発明のさらなる目的であり、一般的に出発「(±)−化合物A」をほとんど定量的に所望のエナンチオマー「(S)−化合物A」に転換することを可能にする。
【0016】
「エナンチオマー」という用語は、重ね合わせることができない互いの鏡像である立体異性体分子を指す。エナンチオマーは典型的に、Cahn−Ingold−Prelog順位則に従って絶対配置を記述するための立体記述字(R)及び(S)を用いて指示される。右への旋光を示す(+)又は右旋性あるいは左への旋光を示す(−)又は左旋性を用いて、偏光が旋回する方向により、立体異性を示すこともできる。
【0017】
エナンチオマー過剰率(e.e.)という用語は、立体化学の熟練者に周知である。F(+)及びF(−)[ここでF(+)+F(−)=1]のモル又は重量分率として与えられる組成を有する(+)及び(−)エナンチオマーの混合物に関し、F()に関するエナンチオマー過剰率はF(+)−F(−)と定義され、パーセントエナンチオマー過剰率は100[F(+)−F(−)]と定義される。エナンチオマー比は、混合物中の一方のエナンチオマーのパーセンテージ対他方のエナンチオマーのパーセンテージの比、例えば80:20として定義される。
【0018】
特に、本発明は、
a)(±)−フェニル[4−[4−[[[4’−(トリフルオロメチル)−2−ビフェニリル]カルボニル]アミノ]フェニル]−1−ピペリジニル]酢酸メチル又はその酸付加塩を適した量の(S)−N−[(4−メトキシフェニル)スルホニル]グルタミン酸又はそのアルカリ金属もしくはアルカリ土類金属塩と、高められた温度において適した溶媒中で混合し;
b)段階a)の混合物を冷却し、沈殿する(2S)−フェニル[4−[4−[[[4’−(トリフルオロメチル)−2−ビフェニリル]カルボニル]アミノ]フェニル]−1−ピペリジニル]酢酸メチル・(S)−N−[(4−メトキシフェニル)スルホニル]グルタミン酸塩を集め;そして
c)該沈殿した塩から(2S)−フェニル[4−[4−[[[4’−(トリフルオロメチル)−2−ビフェニリル]カルボニル]アミノ]フェニル]−1−ピペリジニル]酢酸メチルを遊離させ;
そして場合により(2S)−フェニル[4−[4−[[[4’−(トリフルオロメチル)−2−ビフェニリル]カルボニル]アミノ]フェニル]−1−ピペリジニル]酢酸メチルを製薬学的に許容され得る塩に転換する
連続的段階により、(±)−フェニル[4−[4−[[[4’−(トリフルオロメチル)−2−ビフェニリル]カルボニル]アミノ]フェニル]−1−ピペリジニル]酢酸メチル又はその酸付加塩から(2S)−フェニル[4−[4−[[[4’−(トリフルオロメチル)−2−ビフェニリル]カルボニル]アミノ]フェニル]−1−ピペリジニル]酢酸メチル又はその製薬学的に許容され得る塩を単離するための方法に関する。
【0019】
本明細書の上記で言及した「(S)−化合物A」の製薬学的に許容され得る付加塩は、「(S)−化合物A」が形成することができる治療的に活性な無毒性の酸付加塩の形態を含むものとし、該化合物を適した酸で処理することによりそれを簡単に得ることができる。そのような適した酸の例には、例えば、無機酸、例えばハロゲン化水素酸、例えば塩酸
又は臭化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸など;あるいは有機酸、例えば酢酸、プロパン酸、ヒドロキシ酢酸、2−ヒドロキシプロパン酸、2−オキソプロパン酸、乳酸、ピルビン酸、シュウ酸(すなわちエタン二酸)、マロン酸、コハク酸(すなわちブタン二酸)、マレイン酸、フマル酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、シクロヘキサンスルファミン酸、サリチル酸(すなわち2−ヒドロキシ−安息香酸)、p−アミノサリチル酸、パモ酸などが含まれる。
【0020】
本明細書の上記で言及した「(±)−化合物A」の酸付加塩は、該化合物を適した酸で処理することにより簡単に得ることができる。そのような適した酸の例には、例えば、無機酸、例えばハロゲン化水素酸、例えば塩酸又は臭化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸など;あるいは有機酸、例えば酢酸、プロパン酸、ヒドロキシ酢酸、2−ヒドロキシプロパン酸、2−オキソプロパン酸、乳酸、ピルビン酸、シュウ酸(すなわちエタン二酸)、マロン酸、コハク酸(すなわちブタン二酸)、マレイン酸、フマル酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、シクロヘキサンスルファミン酸、サリチル酸(すなわち2−ヒドロキシ−安息香酸)、p−アミノサリチル酸、パモ酸などが含まれる。
【0021】
分割剤(S)−N−[(4−メトキシフェニル)スルホニル]グルタミン酸対「(±)−化合物A」の量のモル比は0.5〜1.1の範囲であり、実際には典型的に1モルの「(±)−化合物A」を分割するために1.05モルの量の(S)−N−[(4−メトキシフェニル)スルホニル]グルタミン酸が用いられる。
【0022】
分割剤(S)−N−[(4−メトキシフェニル)スルホニル]グルタミン酸をそのモノ−もしくはジアルカリ金属もしくはアルカリ土類金属塩、特にモノ−及びジナトリウムもしくはカリウム塩の形態で用いることもできる。
【0023】
「(±)−化合物A」又はその適した酸付加塩の選択ならびに分割剤(S)−N−[(4−メトキシフェニル)スルホニル]グルタミン酸又はそのモノ−もしくはジアルカリ金属もしくはアルカリ土類金属塩の選択は、結晶化段階に用いられる溶媒又は溶媒混合物の性質により決定される。
【0024】
結晶化段階に用いられる溶媒又は溶媒混合物は、その中でジアステレオマー塩「(S)−化合物A」.(S)−N−[(4−メトキシフェニル)スルホニル]グルタミン酸が比較的低温で低い溶解度を有するいずれの有機溶媒又は混合物であることもできる。溶媒又は溶媒混合物は、10%まで水を含有することができるが、好ましくは溶媒又は溶媒混合物は無水である。以下の溶媒は高いエナンチオマー的純度で所望のエナンチオマー「(S)−化合物A」を与えることが示された:2−ブタノン(メチルエチルケトン又はMEKとしても既知)、4−メチル−2−ペンタノン(メチルイソブチルケトン又はMIKとしても既知)、酢酸エチル及び1−プロパノール。これらの溶媒の混合物を用いることもできる。
【0025】
「(S)−化合物A」は塩基性を有するので、ジアステレオマー塩を適した塩基、例えば、アルカリ金属もしくはアルカリ土類金属炭酸塩又は水酸化物、例えば炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、水酸化ナトリウムなどあるいは有機塩基、例えばトリエチルアミン、N,N−ジエチルエタナミン、ピリジンなどで処理することにより、ジアステレオマー塩からそれを容易に遊離させることができる。
【0026】
ジアステレオマー塩「(S)−化合物A」.(S)−N−[(4−メトキシフェニル)スルホニル]グルタミン酸塩から「(S)−化合物A」を遊離させるための適した方法は
、例えば、場合により高められた温度で、均一な溶液が得られるまで該ジアステレオマー塩を有機溶媒中に溶解し、続いて無機塩基、例えば水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム又は水酸化アンモニウムを含有する水溶液を加え、得られる反応混合物を冷却し、それにより所望の「(S)−化合物A」を沈殿させることである。
【0027】
ジアステレオマー塩「(S)−化合物A」・(S)−N−[(4−メトキシフェニル)スルホニル]グルタミン酸塩から「(S)−化合物A」を遊離させるための他の適した方法は、例えば水−非混和性有機溶媒及び適したアルカリ性水性媒体、例えば水酸化ナトリウム水溶液又は炭酸ナトリウム水溶液より成る溶媒−系中にジアステレオマー塩を可溶化し、該水−非混和性有機溶媒を用いて水相を抽出することによる。有機溶媒層中に存在する「(S)−化合物A」を当該技術分野において既知の方法に従って単離することができる。
【0028】
本明細書上記で言及した水相中に存在する(S)−N−[(4−メトキシフェニル)スルホニル]グルタミン酸を、続く分割−サイクルにおいて用いるために回収することができる。意図されている分割方法及びそこで用いられる溶媒の特色に依存して、(S)−N−[(4−メトキシフェニル)スルホニル]グルタミン酸をそのまま用いるか、あるいは適した塩の形態に転換することができる。
【0029】
本発明の分割方法の概要スキーム(schematic overview)を下記に示す:
【0030】
【化4】

【0031】
上記の概要において、段階a)において用いられる分割剤は、(S)絶対立体化学を有
する(S)−N−[(4−メトキシフェニル)スルホニル]グルタミン酸である。「(±)−化合物A」を、高められた温度で、分割剤(S)−N−[(4−メトキシフェニル)スルホニル]グルタミン酸と一緒に適した有機溶媒中に溶解する。溶液中に2種のジアステレオマー塩が生成する:(R).(S)絶対立体化学を有する「(R)−化合物A」・(S)−N−[(4−メトキシフェニル)スルホニル]グルタミン酸塩及び(S).(S)絶対立体化学を有する塩「(S)−化合物A」・(S)−N−[(4−メトキシフェニル)スルホニル]グルタミン酸塩。
【0032】
(R).(S)ジアステレオマー塩「(R)−化合物A」・(S)−N−[(4−メトキシフェニル)スルホニル]グルタミン酸は、(S).(S)ジアステレオマー塩「(S)−化合物A」・(S)−N−[(4−メトキシフェニル)スルホニル]グルタミン酸塩より有機溶媒中でずっと高い溶解度を有し、それにより、段階b)において温度を低下させることによって、沈殿により後者を集めることができる。
【0033】
【化5】

【0034】
高められた温度において均一な溶液が得られるまで、(S).(S)ジアステレオマー塩「(S)−化合物A」・(S)−N−[(4−メトキシフェニル)スルホニル]グルタミン酸を有機溶媒、例えばプロピレングリコールモノメチルエーテル中に溶解し、続いて無機塩基、例えば水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム又は水酸化アンモニウムを含有する水溶液を加え、得られる反応混合物を冷却し、それにより所望の「(S)−化合物A」を沈殿させることにより、段階b)からの単離された(S).(S)ジアステレオマー塩「(S)−化合物A」・(S)−N−[(4−メトキシフェニル)スルホニル]グルタミン酸を、その遊離の塩基の形態「(S)−化合物A」に転換することができる。
【0035】
【化6】

【0036】
あるいはまた、水−非混和性有機溶媒と適したアルカリ性水溶液より成る溶媒−系中に該(S).(S)ジアステレオマー塩を溶解し、続いて2相を十分に混合し、該水−非混和性有機溶媒を用いて水相を抽出することにより、段階c)を行うことができる。有機溶媒層中の所望の「(S)−化合物A」を、当該技術分野において既知の方法に従って単離することができる。適した水−非混和性有機溶媒は、例えばジクロロメタン、酢酸エチル及び2−メチル−テトラヒドロフランである。
【0037】
本発明の分割方法のための温度条件は、溶媒に依存する。例えば溶媒が2−ブタノンである場合、以下の条件が適用される:
●段階a):温度は60℃〜65℃の範囲である、
●段階b):冷却は、特に15分かけて55℃に冷却し、4時間かけて17.5℃に冷
却し、1時間〜16時間かけて17℃に冷却する非−直線状冷却プロフィール(no
n−linear cooling profile)に従う。
【0038】
別の溶媒中で分割方法を行う場合、高度に有効な分割方法を達成するために(すなわち1段階における高収率及び高いエナンチオマー的純度)、段階a)に関する温度及び段階b)に関する冷却プロフィールを熟練者が決定することができる。
【0039】
場合により、所望のエナンチオマー「(S)−化合物A」の光学的対掌体、すなわち「(R)−化合物A」を「(±)−化合物A」にラセミ化し、それを次いで所望のエナンチオマー「(S)−化合物A」を得るための分割剤(S)−N−[(4−メトキシフェニル)スルホニル]グルタミン酸を用いる分割方法において再利用することができる。
【0040】
分割段階b)の母液中に存在するジアステレオマー塩「(R)−化合物A」・(S)−N−[(4−メトキシフェニル)スルホニル]グルタミン酸を高められた温度において長時間、場合により高められた圧力において加熱することにより、「(R)−化合物A」のラセミ化を行うことができる。これらの状況下で、ジアステレオマー塩「(R)−化合物A」・(S)−N−[(4−メトキシフェニル)スルホニル]グルタミン酸は(R).(S)及び(S).(S)ジアステレオマー塩の1:1混合物にエピマー化し、それから反応混合物の温度を低下させると(段階b)と類似して)、(S).(S)ジアステレオマー塩を沈殿により単離することができる。
【0041】
【化7】

【0042】
場合により、例えば水素化ナトリウム、ナトリウムメトキシド又はカリウムtert−ブトキシドのような強塩基の存在下に、例えばメタノール、エタノール、ジメチルホルムアミドのような適した溶媒中に「(R)−化合物A」を溶解することにより、「(R)−化合物A」を「(±)−化合物A」にラセミ化することもできる。
【0043】
【化8】

【0044】
実験の部
本明細書の下記に記載する方法において、以下の略語を用いた:
MEKはメチルエチルケトン(又は2−ブタノン)を意味する。
【実施例1】
【0045】
水酸化ナトリウムの水溶液(50%,52ml)を、水(437ml)中の(S)−グルタミン酸一ナトリウム一水和物(1モル)の溶液に加えた。反応混合物を撹拌し、温度を35℃〜40℃に上昇させた。4−メトキシベンゼンクロリド(1モル)を加え、pH及び温度を監視しながら反応混合物を撹拌した(発熱反応)。反応混合物の温度を50℃〜80℃に保ち、反応混合物のpHを8〜11に保つために、水酸化ナトリウムの水溶液(50%)を分けて加えた。1時間後、反応混合物を20℃〜25℃の温度に冷却し、MEK(1000ml)を加え、濃塩酸水溶液を用いてpHをpH=1に調整した。有機層を分離し、共沸蒸留によりMEKの沸点に達するまで水を除去した。残留物、すなわち(S)−N−[(4−メトキシフェニル)スルホニル]グルタミン酸をMEK(860ml)で希釈した。
【0046】
【化9】

【実施例2】
【0047】
「(±)−化合物A」(572g,1モル)、MEK(1820ml)及びジカライト(11g)の混合物を60℃〜65℃の温度に加熱し、15分間保持した。混合物を濾過した。濾液に、MEK(903ml)中の(S)−N−[(4−メトキシフェニル)スルホニル]グルタミン酸(1.05モル)の溶液を、反応混合物を撹拌しながら加えた。反応混合物を15〜20分間かけて58℃に冷却した。別の実験において調製されたある量
の「(S)−化合物A」.(S)−N−[(4−メトキシフェニル)スルホニル]グルタミン酸塩の種結晶(1.37g)を加え、反応混合物を以下の勾配に従って冷却した(非−直線状冷却プロフィール):
●15分かけて55℃に
●4時間かけて17.5℃に。
【0048】
次いで反応混合物を17℃の温度で1時間〜16時間、撹拌した。沈殿を濾過し、MEK(280ml)で洗浄した。生成物を真空中で乾燥し、423.8gの「(S)−化合物A」.(S)−N−[(4−メトキシフェニル)スルホニル]グルタミン酸塩を与えた。濾液を取っておいた。
【0049】
単離された「(S)−化合物A」.(S)−N−[(4−メトキシフェニル)スルホニル]グルタミン酸塩のHPLC分析は、少なくとも99.1対0.9かそれより高いジアステレオマー的純度を与えた。
【0050】
【化10】

【実施例3】
【0051】
「(S)−化合物A」.(S)−N−[(4−メトキシフェニル)スルホニル]グルタミン酸塩(1モル)をプロピレングリコールモノメチルエーテル(6000ml)中に溶解し、混合物を55℃〜60℃の温度に加熱する。次いで水(600ml)中のNaCO(1.05モル)の水溶液を、20分間かけてゆっくり加える。混合物をさらに15分撹拌し、水(1800ml)を50℃〜55℃の温度で30分間かけて加える。50℃で1時間撹拌した後、混合物を20℃に冷却し、12時間撹拌する。沈殿を濾過し、水(860ml)で洗浄した。生成物を真空中で乾燥し、540gの「(S)−化合物A」を与えた。
【0052】
単離された「(S)−化合物A」のHPLC分析は、少なくとも99.1対0.9かもしくはそれより高いエナンチオマー比を与えた。
【0053】
【化11】

【実施例4】
【0054】
取っておいた実施例2の濾液を、反応器中で還流するまで加熱し、MEK中の22〜27w/w%の「(R)−化合物A」.(S)−N−[(4−メトキシフェニル)スルホニル]グルタミン酸塩の濃度に達するまで、蒸発により溶媒を部分的に除去した。次いで反応器を閉め、100℃の温度に加熱し(内圧は3.5〜4バール(=350kPa〜400kPa)であった)、4時間加熱してからそれを58℃に冷却した。反応混合物の分析は、等モル量の「(R)−化合物A」.(S)−N−[(4−メトキシフェニル)スルホニル]グルタミン酸塩及び「(S)−化合物A」.(S)−N−[(4−メトキシフェニル)スルホニル]グルタミン酸塩の存在を示した。続いて、今得られた「(±)−化合物A」.(S)−N−[(4−メトキシフェニル)スルホニル]グルタミン酸塩を次いで、「(S)−化合物A」を得るために実施例2及び実施例3の方法に供した。
【実施例5】
【0055】
ジアステレオマー塩「(S)−化合物A」.(S)−N−[(4−メトキシフェニル)スルホニル]グルタミン酸の収率及び立体化学的純度(stereomeric purity)の決定のために、種々の有機溶媒を評価した。
【0056】
有機溶媒中の「(±)−化合物A」(1モル)及び(S)−N−[(4−メトキシフェニル)スルホニル]グルタミン酸(1モル)の混合物を、均一な溶液が得られるまで温めた。混合物を16時間かけて23℃に冷却した。沈殿を濾過し、有機溶媒で洗浄した。単離された種々の溶媒に関する「(S)−化合物A」.(S)−N−[(4−メトキシフェニル)スルホニル]グルタミン酸の収率及びジアステレオマー比を、以下の分析法を用いて下記の表1に挙げる。
【0057】
分析法
カラム: DAICEL Chiralpak AD−RH 150x4.6
mm ID,粒度 5μm+ガードカラム(guardcolum
n) 10x4.0mm ID
移動相: 溶媒A:20mM NHHCO+水中の0.1%(v/v)ジ
エチルアミン
溶媒B:エタノール
溶離モード: アイソクラチック

合計分析時間: 15分
流量(flow): 1.0ml/分
温度: 35℃
注入体積: 10μl
検出器:波長: 245nm
【0058】
【表1】

【0059】
収率(%): 結晶化法における単離された沈殿対出発材料の量(この場合1モル
の「(±)−化合物A」)の比
光学的収率(%): 方法における単離された「(S)−化合物A」.(S)−N−[(
4−メトキシフェニル)スルホニル]グルタミン酸対その出発量の

ジアステレオマー比:ジアステレオマー塩「(S)−化合物A」.(S)−N−[(4−
メトキシフェニル)スルホニル]グルタミン酸のパーセンテージ対
ジアステレオマー塩「(R)−化合物A」.(S)−N−[(4−
メトキシフェニル)スルホニル]グルタミン酸のパーセンテージの


【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)(±)−フェニル[4−[4−[[[4’−(トリフルオロメチル)−2−ビフェニリル]カルボニル]アミノ]フェニル]−1−ピペリジニル]酢酸メチル又はその酸付加塩を適した量の(S)−N−[(4−メトキシフェニル)スルホニル]グルタミン酸又はそのアルカリ金属もしくはアルカリ土類金属塩と、高められた温度において適した溶媒中で混合し;
b)段階a)の混合物を冷却し、沈殿する(2S)−フェニル[4−[4−[[[4’−(トリフルオロメチル)−2−ビフェニリル]カルボニル]アミノ]フェニル]−1−ピペリジニル]酢酸メチル・(S)−N−[(4−メトキシフェニル)スルホニル]グルタミン酸塩を集め、(2R)−フェニル[4−[4−[[[4’−(トリフルオロメチル)−2−ビフェニリル]カルボニル]アミノ]フェニル]−1−ピペリジニル]酢酸メチル・(S)−N−[(4−メトキシフェニル)スルホニル]グルタミン酸塩を含んでなる濾液を取っておき;そして
c)該沈殿した塩から(2S)−フェニル[4−[4−[[[4’−(トリフルオロメチル)−2−ビフェニリル]カルボニル]アミノ]フェニル]−1−ピペリジニル]酢酸メチルを遊離させ;
そして場合により(2S)−フェニル[4−[4−[[[4’−(トリフルオロメチル)−2−ビフェニリル]カルボニル]アミノ]フェニル]−1−ピペリジニル]酢酸メチルを製薬学的に許容され得る塩に転換する
連続的段階により、(±)−フェニル[4−[4−[[[4’−(トリフルオロメチル)−2−ビフェニリル]カルボニル]アミノ]フェニル]−1−ピペリジニル]酢酸メチル又はその酸付加塩から(2S)−フェニル[4−[4−[[[4’−(トリフルオロメチル)−2−ビフェニリル]カルボニル]アミノ]フェニル]−1−ピペリジニル]酢酸メチル又はその製薬学的に許容され得る塩を単離するための方法。
【請求項2】
段階a)における適した溶媒が2−ブタノン、4−メチル−2−ペンタノン、酢酸エチル及び1−プロパノール又はそれらの混合物から選ばれる請求項1に記載の方法。
【請求項3】
段階a)における適した溶媒が2−ブタノンである請求項2に記載の方法。
【請求項4】
段階a)を60〜65℃の範囲の温度で行う請求項3に記載の方法。
【請求項5】
段階b)における混合物を非−直線状冷却プロフィールに従って冷却する請求項4に記載の方法。
【請求項6】
冷却プロフィールが15分かけて55℃に冷却し、4時間かけて17.5℃に冷却し、1時間〜16時間かけて17℃に冷却することを含んでなる請求項5に記載の方法。
【請求項7】
(S)−N−[(4−メトキシフェニル)スルホニル]グルタミン酸の量対(±)−フェニル[4−[4−[[[4’−(トリフルオロメチル)−2−ビフェニリル]カルボニル]アミノ]フェニル]−1−ピペリジニル]酢酸メチルの量のモル比が0.5:1.1の範囲である請求項1に記載の方法。
【請求項8】
モル比が1.05である請求項7に記載の方法。
【請求項9】
(2S)−フェニル[4−[4−[[[4’−(トリフルオロメチル)−2−ビフェニリル]カルボニル]アミノ]フェニル]−1−ピペリジニル]酢酸メチルの(S)−N−[(4−メトキシフェニル)スルホニル]グルタミン酸塩を、段階c)において、高められた温度で有機溶媒中に該塩を溶解し、続いて無機もしくは有機塩基を含有する水溶液を
加え、得られる反応混合物を冷却し、沈殿する(2S)−フェニル[4−[4−[[[4’−(トリフルオロメチル)−2−ビフェニリル]カルボニル]アミノ]フェニル]−1−ピペリジニル]酢酸メチルを集めることにより、その遊離塩基の形態に転換する請求項1に記載の方法。
【請求項10】
有機溶媒がプロピレングリコールモノメチルエーテルである請求項9に記載の方法。
【請求項11】
段階b)で取っておいた濾液中に存在する(2R)−フェニル[4−[4−[[[4’−(トリフルオロメチル)−2−ビフェニリル]カルボニル]アミノ]フェニル]−1−ピペリジニル]酢酸メチル・(S)−N−[(4−メトキシフェニル)スルホニル]グルタミン酸塩を(±)−フェニル[4−[4−[[[4’−(トリフルオロメチル)−2−ビフェニリル]カルボニル]アミノ]フェニル]−1−ピペリジニル]酢酸メチル・(S)−N−[(4−メトキシフェニル)スルホニル]グルタミン酸塩にエピマー化する請求項1に記載の方法。
【請求項12】
濾液を高められた温度で長時間、場合により高められた圧力において加熱することによりエピマー化を行う請求項11に記載の方法。
【請求項13】
100℃の温度で、350kPa〜400kPaの圧力においてエピマー化を行う請求項12に記載の方法。

【公表番号】特表2012−528118(P2012−528118A)
【公表日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−512376(P2012−512376)
【出願日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【国際出願番号】PCT/EP2010/057319
【国際公開番号】WO2010/136526
【国際公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【出願人】(390033008)ジヤンセン・フアーマシユーチカ・ナームローゼ・フエンノートシヤツプ (616)
【氏名又は名称原語表記】JANSSEN PHARMACEUTICA NAAMLOZE VENNOOTSCHAP
【Fターム(参考)】