説明

(±)2−(ジメチルアミノ)−1−{〔O−(m−メトキシフェネチル)フェノキシ〕メチル}エチル水素サクシナート塩酸塩の結晶

【課題】(±)2−(ジメチルアミノ)−1−{〔O−(m−メトキシフェネチル)フェノキシ〕メチル}エチル水素サクシナート塩酸塩の新規な結晶を提供する。
【解決手段】粉末X線回折スペクトルにおける特定の回折ピーク、示差走査熱量測定における特定の吸熱ピーク、固体13C−NMRスペクトルにおける特定のピーク及び赤外吸収スペクトルにおける特定のピークから選ばれる少なくとも1種の物理化学的性質により特徴付けられる、(±)2−(ジメチルアミノ)−1−{〔O−(m−メトキシフェネチル)フェノキシ〕メチル}エチル水素サクシナート塩酸塩のII形結晶及びI形結晶。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は(±)2−(ジメチルアミノ)−1−{〔O−(m−メトキシフェネチル)フェノキシ〕メチル} エチル 水素サクシナート塩酸塩の新規結晶及びそれを有効成分とする医薬組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
(±)2−(ジメチルアミノ)−1−{〔O−(m−メトキシフェネチル)フェノキシ〕メチル} エチル 水素サクシナート塩酸塩は、特許文献1の実施例2の記載に基づき製造することができる公知化合物である。また特許文献1には上記化合物が血小板凝集阻害作用を有することが記載され、さらに特許文献2には上記化合物がセロトニン拮抗作用を有することが記載されている。しかし、これらの文献には、上記化合物に複数の結晶多形が存在するとの記載も示唆もない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭58−32847号公報
【特許文献2】特開平2−304022号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、(±)2−(ジメチルアミノ)−1−{〔O−(m−メトキシフェネチル)フェノキシ〕メチル} エチル 水素サクシナート塩酸塩の新規な結晶(以下、本明細書において、2種の結晶形態のうちの一方をI形結晶といい、他方をII形結晶という)を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題に鑑み鋭意検討した結果、(±)2−(ジメチルアミノ)−1−{〔O−(m−メトキシフェネチル)フェノキシ〕メチル} エチル 水素サクシナート塩酸塩の結晶にはII形結晶及びI形結晶が存在することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち、本発明の要旨は、以下の通りである。
1. 下記(1)〜(4)から選ばれる少なくとも1種の物理化学的性質により特徴付けられる(±)2−(ジメチルアミノ)−1−{〔O−(m−メトキシフェネチル)フェノキシ〕メチル} エチル 水素サクシナート塩酸塩の結晶。
(1)粉末X線回折スペクトルにおいて、ブラッグ角(2θ)9.5±0.1°、11.0±0.1°及び19.15±0.1°から選ばれる少なくとも1つに回折ピークを有する。
(2)示差走査熱量測定において、約157℃付近に吸熱ピークを有する。
(3)固体13C−NMRスペクトルにおいて、146.4±0.5、131.0±0.5及び110.4±0.5ppmから選ばれる少なくとも1つにピークを有する。
(4)赤外吸収スペクトルにおいて、1593±2.0、1163±2.0、1040±2.0及び792±2.0cm−1から選ばれる少なくとも1つに吸収ピークを有する。
2. 上記(1)〜(4)から選ばれる少なくとも2種の物理化学的性質により特徴付けられる、上記1記載の結晶。
3. 上記(1)及び(2)の物理化学的性質により特徴付けられる、上記1又は2記載の結晶。
【0007】
4. 粉末X線回折スペクトルにおいて、ブラッグ角(2θ)9.5±0.1°、11.0±0.1°及び19.15±0.1°に回折ピークを有する、上記1〜3のいずれかに記載の結晶。
5. 粉末X線回折パターンにおいて、さらに、ブラッグ角(2θ)16.2±0.1°、19.7±0.1°、22.8±0.1°又は23.8±0.1°に回折ピークを有する、上記4記載の結晶。
6. 粉末X線回折パターンにおいて、さらに、ブラッグ角(2θ)16.2±0.1°、19.7±0.1°、22.8±0.1°及び23.8±0.1°に回折ピークを有する、上記4記載の結晶。
7. 粉末X線回折パターンにおいて、ブラッグ角(2θ)9.3±0.1°、10.7±0.1°及び16.5±0.1°のいずれにも回折ピークを有しない、上記1〜6のいずれかに記載の結晶。
8. 固体13C−NMRスペクトルにおいて、146.4±0.5、131.0±0.5及び110.4±0.5ppmにピークを有する、上記1又は2記載の結晶。
9. 固体13C−NMRスペクトルにおいて、さらに、128.5±0.5、58.3±0.5又は37.3±0.5ppmにピークを有する、上記8記載の結晶。
10. 固体13C−NMRスペクトルにおいて、さらに、128.5±0.5、58.3±0.5及び37.3±0.5ppmにピークを有する、上記8記載の結晶。
11. 赤外吸収スペクトルにおいて、1593±2.0、1163±2.0、1040±2.0及び792±2.0cm−1に吸収ピークを有する、上記1又は2記載の結晶。
12. 赤外吸収スペクトルにおいて、さらに、1725±2.0、1076±2.0又は1048±2.0cm−1に吸収ピークを有する、上記11記載の結晶。
13. 赤外吸収スペクトルにおいて、さらに、1725±2.0、1076±2.0及び1048±2.0cm−1に吸収ピークを有する、上記11記載の結晶。
14. 粉末X線回折パターンにおいて、ブラッグ角(2θ)9.5±0.2°、11.0±0.2°及び19.15±0.2°から選ばれる少なくとも1つに回折ピークを有しており、赤外吸収スペクトルにおいて、1593±2.0、1163±2.0、1040±2.0及び792±2.0cm−1から選ばれる少なくとも1つに吸収ピークを有する、(±)2−(ジメチルアミノ)−1−{〔O−(m−メトキシフェネチル)フェノキシ〕メチル} エチル 水素サクシナート塩酸塩の結晶。
15. 粉末X線回折パターンにおいて、ブラッグ角(2θ)9.5±0.2°、11.0±0.2°及び19.15±0.2°に回折ピークを有し、さらに、16.2±0.2°、19.7±0.2°、22.8±0.2°又は23.8±0.2°に回折ピークを有する、上記14記載の結晶。
16. 粉末X線回折パターンにおいて、ブラッグ角(2θ)9.5±0.2°、11.0±0.2°及び19.15±0.2°に回折ピークを有し、さらに、16.2±0.2°、19.7±0.2°、22.8±0.2°及び23.8±0.2°に回折ピークを有する、上記14記載の結晶。
【0008】
17. 下記(5)〜(8)から選ばれる少なくとも1種の物理化学的性質により特徴付けられる(±)2−(ジメチルアミノ)−1−{〔O−(m−メトキシフェネチル)フェノキシ〕メチル} エチル 水素サクシナート塩酸塩の結晶。
(5)粉末X線回折スペクトルにおいて、ブラッグ角(2θ)9.3±0.1°、10.7±0.1°及び16.5±0.1°から選ばれる少なくとも1つに回折ピークを有する。
(6)示差走査熱量測定において、約152℃付近に吸熱ピークを有する。
(7)固体13C−NMRスペクトルにおいて、117.3±0.5及び106.3±0.5ppmから選ばれる少なくとも1つにピークを有する。
(8)赤外吸収スペクトルにおいて、1612±2.0、1585±2.0、1434±2.0、1054±2.0、932±1.0、918±2.0及び780±2.0cm−1から選ばれる少なくとも1つに吸収ピークを有する。
18. 上記(5)〜(8)のうちの少なくとも2種の物理化学的性質により特徴付けられる、上記17記載の結晶。
19. 上記(5)及び(6)の物理化学的性質により特徴付けられる、上記17又は18記載の結晶。
【0009】
20. 粉末X線回折パターンにおいて、ブラッグ角(2θ)10.7±0.1°及び16.5±0.1°に回折ピークを有する、上記17〜19のいずれかに記載の結晶。
21. 粉末X線回折スペクトルにおいて、さらに、ブラッグ角(2θ)9.3±0.1°、12.8±0.1°、13.0±0.1°、18.1±0.1°又は24.1±0.1°に回折ピークを有する、上記20記載の結晶。
22. 粉末X線回折スペクトルにおいて、さらに、ブラッグ角(2θ)9.3±0.1°、12.8±0.1°、13.0±0.1°、18.1±0.1°及び24.1±0.1°に回折ピークを有する、上記20記載の結晶。
23. 粉末X線回折パターンにおいて、ブラッグ角(2θ)9.3±0.1°、10.7±0.1°及び16.5±0.1°に回折ピークを有する、上記17〜19のいずれかに記載の結晶。
24. 粉末X線回折パターンにおいて、さらに、ブラッグ角(2θ)12.8±0.1°又は13.0±0.1°に回折ピークを有する、上記23記載の結晶。
25. 粉末X線回折パターンにおいて、さらに、ブラッグ角(2θ)12.8±0.1°及び13.0±0.1°に回折ピークを有する、上記23記載の結晶。
26. 粉末X線回折パターンにおいて、ブラッグ角(2θ)11.0±0.1°及び19.15±0.1°のいずれにも回折ピークを有しない、上記17〜25のいずれかに記載の結晶。
27. 固体13C−NMRスペクトルにおいて、117.3±0.5及び106.3±0.5ppmにピークを有する、上記17又は18記載の結晶。
28. 固体13C−NMRスペクトルにおいて、さらに、145.0±0.5又は129.7±0.5ppmにピークを有する、上記27記載の結晶。
29. 固体13C−NMRスペクトルにおいて、さらに、145.0±0.5及び129.7±0.5ppmにピークを有する、上記27記載の結晶。
30. 赤外吸収スペクトルにおいて、1612±2.0、1585±2.0、1434±2.0、1054±2.0、932±1.0、918±2.0及び780±2.0cm−1に吸収ピークを有する、上記17又は18記載の結晶。
31. 赤外吸収スペクトルにおいて、さらに、3021±2.0、1729±2.0、1195±2.0、1152±2.0又は918±2.0cm−1に吸収ピークを有する、上記30記載の結晶。
32. 赤外吸収スペクトルにおいて、さらに、3021±2.0、1729±2.0、1195±2.0、1152±2.0及び918±2.0cm−1に吸収ピークを有する、上記30記載の結晶。
【0010】
33. 粉末X線回折パターンにおいて、ブラッグ角(2θ)9.3±0.2°、10.7±0.2°及び16.5±0.2°から選ばれる少なくとも1つに回折ピークを有しており、赤外吸収スペクトルにおいて、1612±2.0、1585±2.0、1434±2.0、1054±2.0、932±1.0、918±2.0及び780±2.0cm−1から選ばれる少なくとも1つに吸収ピークを有する、(±)2−(ジメチルアミノ)−1−{〔O−(m−メトキシフェネチル)フェノキシ〕メチル} エチル 水素サクシナート塩酸塩の結晶。
34. 粉末X線回折パターンにおいて、ブラッグ角(2θ)10.7±0.2°及び16.5±0.2°に回折ピークを有し、さらに9.3±0.2°、12.8±0.2°又は13.0±0.2°に回折ピークを有する、上記33記載の結晶。
35. 粉末X線回折パターンにおいて、ブラッグ角(2θ)10.7±0.2°及び16.5±0.2°に回折ピークを有し、さらに9.3±0.2°、12.8±0.2°、13.0±0.2°、18.1±0.2°及び24.1±0.2°に回折ピークを有する、上記33記載の結晶。
【0011】
36. 上記1〜16のいずれかに記載の結晶を有効成分とする医薬組成物。
37. 上記1〜16のいずれかに記載の結晶を有効成分として含有する慢性動脈閉塞症の予防及び/又は治療剤。
38. 上記1〜16のいずれかに記載の結晶を有効成分として含有する慢性動脈閉塞症に伴う潰瘍、疼痛及び冷感の虚血性症状の改善剤。
39. 上記1〜16のいずれかに記載の結晶を有効成分として含有する間歇性跛行の改善剤。
40. 上記1〜16のいずれかに記載の結晶を有効成分として含有する虚血性脳血管障害における血栓・塞栓形成の抑制剤。
41. 虚血性脳血管障害が一過性脳虚血発作及び/又は脳梗塞である、上記40記載の血栓・塞栓形成の抑制剤。
42. 上記1〜16のいずれかに記載の結晶を有効成分として含有する帯状疱疹後神経痛に伴う疼痛の軽減剤。
【0012】
43. 上記1〜16のいずれかに記載の結晶を種晶として使用する、(±)2−(ジメチルアミノ)−1−{〔O−(m−メトキシフェネチル)フェノキシ〕メチル} エチル 水素サクシナート塩酸塩のII形結晶の製造方法。
44. (±)2−(ジメチルアミノ)−1−{〔O−(m−メトキシフェネチル)フェノキシ〕メチル} エチル 水素サクシナート塩酸塩の結晶を使用する、(±)2−(ジメチルアミノ)−1−{〔O−(m−メトキシフェネチル)フェノキシ〕メチル} エチル 水素サクシナート塩酸塩のII形結晶の製造方法。
45. (±)2−(ジメチルアミノ)−1−{〔O−(m−メトキシフェネチル)フェノキシ〕メチル} エチル 水素サクシナート塩酸塩の結晶を結晶転移温度から160℃までのいずれかの温度で撹拌する工程を含む、上記44記載の製造方法。
46. (±)2−(ジメチルアミノ)−1−{〔O−(m−メトキシフェネチル)フェノキシ〕メチル} エチル 水素サクシナート塩酸塩の結晶を溶媒存在下、結晶転移温度から溶媒の沸点までのいずれかの温度で撹拌する工程を含む、上記44記載の製造方法。
47. (±)2−(ジメチルアミノ)−1−{〔O−(m−メトキシフェネチル)フェノキシ〕メチル} エチル 水素サクシナート塩酸塩の結晶を結晶転移温度から160℃までのいずれかの温度で晶析させる工程を含む、上記44記載の製造方法。
48. (±)2−(ジメチルアミノ)−1−{〔O−(m−メトキシフェネチル)フェノキシ〕メチル} エチル 水素サクシナート塩酸塩の結晶を溶媒存在下、結晶転移温度から溶媒の沸点までのいずれかの温度で晶析させる工程を含む、上記44記載の製造方法。
49. 結晶転移温度が20℃から40℃である、上記45〜48のいずれかに記載の製造方法。
50. II形結晶が上記1〜16のいずれかに記載の結晶である、上記43〜49のいずれかに記載の製造方法。
【0013】
51. 上記17〜35のいずれかに記載の結晶を種晶として使用する、(±)2−(ジメチルアミノ)−1−{〔O−(m−メトキシフェネチル)フェノキシ〕メチル} エチル 水素サクシナート塩酸塩のI形結晶の製造方法。
52. (±)2−(ジメチルアミノ)−1−{〔O−(m−メトキシフェネチル)フェノキシ〕メチル} エチル 水素サクシナート塩酸塩の結晶を使用する、(±)2−(ジメチルアミノ)−1−{〔O−(m−メトキシフェネチル)フェノキシ〕メチル} エチル 水素サクシナート塩酸塩のI形結晶の製造方法。
53. (±)2−(ジメチルアミノ)−1−{〔O−(m−メトキシフェネチル)フェノキシ〕メチル} エチル 水素サクシナート塩酸塩の結晶を−10℃から結晶転移温度までのいずれかの温度で晶析させる工程を含む、上記52記載の製造方法。
54. (±)2−(ジメチルアミノ)−1−{〔O−(m−メトキシフェネチル)フェノキシ〕メチル} エチル 水素サクシナート塩酸塩の結晶を溶媒存在下、該溶媒の凝固点から結晶転移温度までのいずれかの温度で晶析させる工程を含む、上記52記載の製造方法。
55. 溶媒が水である、上記54記載の製造方法。
56. 結晶転移温度が20℃から40℃である、上記53〜55のいずれかに記載の製造方法。
57. (±)2−(ジメチルアミノ)−1−{〔O−(m−メトキシフェネチル)フェノキシ〕メチル} エチル 水素サクシナートの溶液に塩化水素を吹き込む工程を含む、
(±)2−(ジメチルアミノ)−1−{〔O−(m−メトキシフェネチル)フェノキシ〕メチル} エチル 水素サクシナート塩酸塩のI形結晶の製造方法。
58. I形結晶が上記17〜35のいずれかに記載の結晶である、上記51〜57のいずれかに記載の製造方法。
【0014】
59. 上記1〜16のいずれかに記載の結晶と、上記17〜35のいずれかに記載の結晶を有効成分として含有する医薬組成物。
60. 上記1〜16のいずれかに記載の結晶と、上記17〜35のいずれかに記載の結晶を有効成分として含有する慢性動脈閉塞症の予防及び/又は治療剤。
61. 上記1〜16のいずれかに記載の結晶と、上記17〜35のいずれかに記載の結晶を有効成分として含有する慢性動脈閉塞症に伴う潰瘍、疼痛及び冷感の虚血性症状の改善剤。
62. 上記1〜16のいずれかに記載の結晶と、上記17〜35のいずれかに記載の結晶を有効成分として含有する間歇性跛行の改善剤。
63. 上記1〜16のいずれかに記載の結晶と、上記17〜35のいずれかに記載の結晶を有効成分として含有する虚血性脳血管障害における血栓・塞栓形成の抑制剤。
64. 虚血性脳血管障害が一過性脳虚血発作及び/又は脳梗塞である、上記63記載の血栓・塞栓形成の抑制剤。
65. 上記1〜16のいずれかに記載の結晶と、上記17〜35のいずれかに記載の結晶を有効成分として含有する帯状疱疹後神経痛に伴う疼痛の軽減剤。
【0015】
71. 粉末X線回折スペクトルが図1に示すパターンを有する、(±)2−(ジメチルアミノ)−1−{〔O−(m−メトキシフェネチル)フェノキシ〕メチル} エチル 水素サクシナート塩酸塩のII形結晶。
72. 粉末X線回折スペクトルが図1に示すパターンを有し、ブラッグ角(2θ)9.3±0.1°、10.7±0.1°及び16.5±0.1°のいずれにも回折ピークを有しない、(±)2−(ジメチルアミノ)−1−{〔O−(m−メトキシフェネチル)フェノキシ〕メチル} エチル 水素サクシナート塩酸塩のII形結晶。
73. 粉末X線回折スペクトルが図2に示すパターンを有する、(±)2−(ジメチルアミノ)−1−{〔O−(m−メトキシフェネチル)フェノキシ〕メチル} エチル 水素サクシナート塩酸塩のI形結晶。
74. 粉末X線回折スペクトルが図1に示すパターンを有し、ブラッグ角(2θ)11.0±0.1°及び19.15±0.1°のいずれにも回折ピークを有しない、(±)2−(ジメチルアミノ)−1−{〔O−(m−メトキシフェネチル)フェノキシ〕メチル} エチル 水素サクシナート塩酸塩のI形結晶。
【0016】
101. (±)2−(ジメチルアミノ)−1−{〔O−(m−メトキシフェネチル)フェノキシ〕メチル} エチル 水素サクシナート塩酸塩の結晶。
102. 下記の物理化学的性質のいずれかで特徴付けられる上記101に記載の結晶。
(1)粉末X線回折パターンにおいて、9.5±0.1°、11.0±0.1°又は19.2±0.1°に回折ピーク(2θ)を有する;
(2)示差走査熱量測定において、約157℃付近に吸熱ピークを有する;
(3)固体13C−NMRスペクトルにおいて、146.4±0.5、131.0±0.5又は110.4±0.5ppmのケミカルシフトのピークを有する;及び/又は、
(4)赤外吸収スペクトルにおいて、1593±2.0、1163±2.0、1040±2.0又は792±2.0cm−1に吸収ピークを有する。
【0017】
103. 粉末X線回折パターンにおいて、9.5±0.2°、11.0±0.2°又は19.2±0.2°に回折ピーク(2θ)を有し、赤外吸収スペクトルにおいて、1593±2.0、1163±2.0、1040±2.0又は792±2.0cm−1に吸収ピークを有する上記102に記載の結晶。
104. 粉末X線回折パターンにおいて、9.5±0.1°、11.0±0.1°及び19.2±0.1°に回折ピーク(2θ)を有する上記102に記載の結晶。
105. 粉末X線回折パターンにおいて、9.3±0.1°、10.7±0.1°及び16.5±0.1°のいずれにも回折ピーク(2θ)を認めない上記102に記載の結晶。
106. 粉末X線回折パターンにおいて、9.5±0.1°、11.0±0.1°及び19.2±0.1°に回折ピーク(2θ)を有し、さらに、16.2±0.1°、19.7±0.1°、22.8±0.1°又は23.8±0.1°のいずれかに回折ピーク(2θ)を有する上記102に記載の結晶。
107. 粉末X線回折パターンにおいて、9.5±0.2°、11.0±0.2°及び19.2±0.2°に回折ピーク(2θ)を有し、さらに、16.2±0.2°、19.7±0.2°、22.8±0.2°又は23.8±0.2°のいずれかに回折ピーク(2θ)を有し、赤外吸収スペクトルにおいて、1593±2.0、1163±2.0、1040±2.0又は792±2.0cm−1に吸収ピークを有する上記102に記載の結晶。
【0018】
108. 図1に示す粉末X線回折パターンにおけるピークを有する上記102に記載の結晶。
109. 図4に示す示差走査熱量測定における特徴的熱分析パターンを有する上記102に記載の結晶。
110. 固体13C−NMRスペクトルにおいて、146.4±0.5、131.0±0.5及び110.4±0.5ppmのケミカルシフトのピークを有する上記102に記載の結晶。
111. 固体13C−NMRスペクトルにおいて、146.4±0.5、131.0±0.5及び110.4±0.5ppmのケミカルシフトのピークを有し、さらに128.5±0.5、58.3±0.5又は37.3±0.5ppmのいずれかにケミカルシフトのピークを有する上記102に記載の結晶。
112. 図7に示す固体13C−NMRスペクトルにおけるケミカルシフトの特徴的ピークを有する上記102に記載の結晶。
113. 赤外吸収スペクトルにおいて、1593±2.0、1163±2.0、1040±2.0及び792±2.0cm−1に吸収ピークを有する上記102に記載の結晶。114. 赤外吸収スペクトルにおいて、1593±2.0、1163±2.0、1040±2.0及び792±2.0cm−1に吸収ピークを有し、さらに1725±2.0、1076±2.0又は1048±2.0cm−1のいずれかに吸収ピークを有する上記102に記載の結晶。
115. 図10に示す赤外吸収スペクトルにおける特徴的ピークを示す上記102に記載の結晶。
【0019】
116. 下記の物理化学的性質のいずれかで特徴付けられる上記101に記載の結晶。
(1)粉末X線回折パターンにおいて、9.3±0.1°、10.7±0.1°又は16.5±0.1°に回折ピーク(2θ)を有する;
(2)示差走査熱量測定において、約152℃付近に吸熱ピークを有する;
(3)固体13C−NMRスペクトルにおいて、117.3±0.5又は106.3±0.5ppmのケミカルシフトのピークを有する;及び/又は、
(4)赤外吸収スペクトルにおいて、1612±2.0、1585±2.0、1434±2.0、1054±2.0、932±1.0、918±2.0又は780±2.0cm−1に吸収ピークを有する。
【0020】
117. 粉末X線回折パターンにおいて、9.3±0.2°、10.7±0.2°又は16.5±0.2°に回折ピーク(2θ)を有し、赤外吸収スペクトルにおいて、1612±2.0、1585±2.0、1434±2.0、1054±2.0、932±1.0、918±2.0又は780±2.0cm−1に吸収ピークを有する上記116に記載の結晶。
118. 粉末X線回折パターンにおいて、10.7±0.1°及び16.5±0.1°に回折ピーク(2θ)を有する上記116に記載の結晶。
119. 粉末X線回折パターンにおいて、10.7±0.2°及び16.5±0.2°に回折ピーク(2θ)を有し、さらに9.3±0.2°、12.8±0.2°又は13.0±0.2°のいずれかに回折ピーク(2θ)を有し、赤外吸収スペクトルにおいて、1612±2.0、1585±2.0、1434±2.0、1054±2.0、932±1.0、918±2.0又は780±2.0cm−1に吸収ピークを有する上記116に記載の結晶。
120. 粉末X線回折パターンにおいて、10.7±0.1°及び16.5±0.1°に回折ピーク(2θ)を有し、さらに9.3±0.1°、12.8±0.1°、13.0±0.1°、18.1±0.1°又は24.1±0.1°のいずれかに回折ピーク(2θ)を有する上記116に記載の結晶。
121. 粉末X線回折パターンにおいて、10.7±0.2°及び16.5±0.2°に回折ピーク(2θ)を有し、さらに9.3±0.2°、12.8±0.2°、13.0±0.2°、18.1±0.2°又は24.1±0.2°のいずれかに回折ピーク(2θ)を有し、赤外吸収スペクトルにおいて、1612±2.0、1585±2.0、1434±2.0、1054±2.0、932±1.0、918±2.0又は780±2.0cm−1に吸収ピークを有する上記116に記載の結晶。
122. 粉末X線回折パターンにおいて、9.3±0.1°、10.7±0.1°及び16.5±0.1°に回折ピーク(2θ)を有する上記116に記載の結晶。
123. 粉末X線回折パターンにおいて、9.3±0.1°、10.7±0.1°、12.8±0.1°及び16.5±0.1°に回折ピーク(2θ)を有する上記116に記載の結晶。
124. 粉末X線回折パターンにおいて、9.3±0.1°、10.7±0.1°、13.0±0.1°及び16.5±0.1°に回折ピーク(2θ)を有する上記116に記載の結晶。
125. 粉末X線回折パターンにおいて、9.3±0.1°、10.7±0.1°、12.8±0.1°、13.0±0.1°及び16.5±0.1°に回折ピーク(2θ)を有する上記116に記載の結晶。
126. 粉末X線回折パターンにおいて、9.5±0.1°、11.0±0.1°及び19.2±0.1°のいずれにも回折ピーク(2θ)を認めない上記116に記載の結晶。
【0021】
127. 図2に示す粉末X線回折パターンにおけるピークを有する上記116に記載の結晶。
128. 図5に示す示差走査熱量測定における特徴的熱分析パターンを有する上記116に記載の結晶。
129. 固体13C−NMRスペクトルにおいて、117.3±0.5及び106.3±0.5ppmのケミカルシフトのピークを有する上記116に記載の結晶。
130. 固体13C−NMRスペクトルにおいて、117.3±0.5及び106.3±0.5ppmのケミカルシフトのピークを有し、さらに145.0±0.5又は129.7±0.5ppmのいずれかにケミカルシフトのピークを有する上記116に記載の結晶。
131. 図8に示す固体13C−NMRスペクトルにおけるケミカルシフトの特徴的ピークを有する上記116に記載の結晶。
132. 赤外吸収スペクトルにおいて、1612±2.0、1585±2.0、1434±2.0、1054±2.0、932±1.0、918±2.0及び780±2.0cm−1に吸収ピークを有する上記116に記載の結晶。
133. 赤外吸収スペクトルにおいて、1612±2.0、1585±2.0、1434±2.0、1054±2.0、932±1.0、918±2.0及び780±2.0cm−1に吸収ピークを有し、さらに3021±2.0、1729±2.0、1195±2.0、1152±2.0又は918±2.0cm−1に吸収ピークを有する上記116に記載の結晶。
134. 図11に示す赤外吸収スペクトルにおける特徴的ピークを示す上記116に記載の結晶。
【0022】
135. 上記102から115のいずれかに記載の結晶を有効成分とする医薬組成物。136. 上記102から115のいずれかに記載の結晶を有効成分として含有する慢性動脈閉塞症の予防及び/又は治療剤。
137. 上記102から115のいずれかに記載の結晶を有効成分として含有する慢性動脈閉塞症に伴う潰瘍、疼痛及び冷感の虚血性症状の改善剤。
138. 上記102から115のいずれかに記載の結晶を有効成分として含有する間歇性跛行の改善剤。
139. 上記102から115のいずれかに記載の結晶を有効成分として含有する虚血性脳血管障害における血栓・塞栓形成の抑制剤。
140. 虚血性脳血管障害が、一過性脳虚血発作及び/又は脳梗塞である上記139に記載の血栓・塞栓形成の抑制剤。
141. 上記102から115のいずれかに記載の結晶を有効成分として含有する帯状疱疹後神経痛に伴う疼痛の軽減剤。
【0023】
142. 上記102から115のいずれかに記載の結晶の製造方法。
143. 上記102から115のいずれかに記載の結晶を種晶として使用する上記142に記載の結晶の製造方法。
144. (±)2−(ジメチルアミノ)−1−{〔O−(m−メトキシフェネチル)フェノキシ〕メチル} エチル 水素サクシナート塩酸塩の結晶を結晶転移温度から160℃のいずれかの温度で撹拌する工程を含む上記142に記載の結晶の製造方法。
145. (±)2−(ジメチルアミノ)−1−{〔O−(m−メトキシフェネチル)フェノキシ〕メチル} エチル 水素サクシナート塩酸塩の結晶を結晶転移温度から溶媒の沸点までのいずれかの温度で撹拌する工程を含む上記142に記載の結晶の製造方法。
146. (±)2−(ジメチルアミノ)−1−{〔O−(m−メトキシフェネチル)フェノキシ〕メチル} エチル 水素サクシナート塩酸塩の結晶を溶解し、結晶転移温度から160℃のいずれかの温度で晶析させる工程を含む上記142に記載の結晶の製造方法。
147. (±)2−(ジメチルアミノ)−1−{〔O−(m−メトキシフェネチル)フェノキシ〕メチル} エチル 水素サクシナート塩酸塩の結晶を溶解し、結晶転移温度から溶媒の沸点までの温度のいずれかの温度で晶析させる工程を含む上記142に記載の結晶の製造方法。
148. 結晶転移温度が20℃から40℃である上記144から147のいずれかに記載の結晶の製造方法。
149. 上記116から134のいずれかに記載の結晶の製造方法。
150. 上記116から134のいずれかに記載の結晶を種晶として使用する上記149に記載の結晶の製造方法。
151. (±)2−(ジメチルアミノ)−1−{〔O−(m−メトキシフェネチル)フェノキシ〕メチル} エチル 水素サクシナート塩酸塩の結晶を溶解し、−10℃から結晶転移温度までのいずれかの温度で晶析させる工程を含む上記149に記載の結晶の製造方法。
152. (±)2−(ジメチルアミノ)−1−{〔O−(m−メトキシフェネチル)フェノキシ〕メチル} エチル 水素サクシナート塩酸塩の結晶を溶解し、溶媒の凝固点から結晶転移温度までのいずれかの温度で晶析させる工程を含む上記149に記載の結晶の製造方法。
153. 結晶転移温度が20℃から40℃である上記151から154までのいずれかに記載の結晶の製造方法。
154. 溶媒が水である上記151又は152に記載の結晶の製造方法。
155. (±)2−(ジメチルアミノ)−1−{〔O−(m−メトキシフェネチル)フェノキシ〕メチル} エチル 水素サクシナート溶液に塩化水素を吹き込む工程を含む上記151又は152に記載の結晶の製造方法。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、(±)2−(ジメチルアミノ)−1−{〔O−(m−メトキシフェネチル)フェノキシ〕メチル} エチル 水素サクシナート塩酸塩の新規な結晶多形であるII形結晶及びI形結晶を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】II形結晶の粉末X線回折パターンを示す図である。
【図2】I形結晶の粉末X線回折パターンを示す図である。
【図3】SPGの粉末X線回折パターンを示す図である。
【図4】II形結晶の示差走査熱分析曲線を示す図である。
【図5】I形結晶の示差走査熱分析曲線を示す図である。
【図6】SPGの示差走査熱分析曲線を示す図である。
【図7】II形結晶の固体13C−NMRスペクトルを示す図である。
【図8】I形結晶の固体13C−NMRスペクトルを示す図である。
【図9】SPGの固体13C−NMRスペクトルを示す図である。
【図10】II形結晶の赤外吸収スペクトルを示す図である。
【図11】I形結晶の赤外吸収スペクトルを示す図である。
【図12】SPGの赤外吸収スペクトルを示す図である。
【図13】II形結晶とSPGの化学的安定性を比較した図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明を詳細に説明する。
先ず、本発明に係るII形結晶及びI形結晶について説明する。
本発明のII形結晶及びI形結晶は、下記式で表される(±)2−(ジメチルアミノ)−1−{〔O−(m−メトキシフェネチル)フェノキシ〕メチル} エチル 水素サクシナート塩酸塩の結晶多形であり、両者は異なる物理化学的特徴を有する。ここで、結晶多形とは、同一化合物の複数の異なる結晶形態のうちの一つの結晶形態を意味する。
【0027】
【化1】

【0028】
本発明におけるII形結晶は、I形結晶には存在しない、II形結晶に特有の以下の物理化学的特徴を有する。
(1)粉末X線回折スペクトルにおいて、ブラッグ角(2θ)9.5±0.1°、11.0±0.1°及び19.15±0.1°から選ばれる少なくとも1つに回折ピークを有する。
(2)示差走査熱量測定において、約157℃付近に吸熱ピークを有する。
(3)固体13C−NMRスペクトルにおいて、146.4±0.5、131.0±0.5及び110.4±0.5ppmから選ばれる少なくとも1つにピークを有する。
(4)赤外吸収スペクトルにおいて、1593±2.0、1163±2.0、1040±2.0及び792±2.0cm−1から選ばれる少なくとも1つに吸収ピークを有する。
II形結晶としては、少なくとも1種の上記物理化学的特徴を具備していればよく、好ましくは少なくとも上記(1)〜(4)のうちの2種以上、より好ましくは(1)及び(2)の物理化学的性質を具備しているものである。
【0029】
II形結晶としては、以下の物理化学的特徴のうちの少なくとも1種(好ましくは2種以上)を有する結晶が特に好ましく、この特徴により、純度約95%超、好ましくは約98%以上の実質的に純粋なII形結晶であることを確認することができる。
(11)粉末X線回折スペクトルにおいて、ブラッグ角(2θ)9.5±0.1°、11.0±0.1°及び19.15±0.1°に回折ピークを有する。
(12)示差走査熱量測定において、約157℃付近にのみ吸熱ピークを有する。
(13)固体13C−NMRスペクトルにおいて、146.4±0.5、131.0±0.5及び110.4±0.5ppmにピークを有する。
(14)赤外吸収スペクトルにおいて、1593±2.0、1163±2.0、1040±2.0及び792±2.0cm−1に吸収ピークを有する。
【0030】
また、II形結晶は、粉末X線回折スペクトルにおいて、さらに、ブラッグ角(2θ)16.2±0.1°、19.7±0.1°、22.8±0.1°及び23.8±0.1°から選らばれる少なくとも一つに回折ピークを有していてもよく、より確実に高純度のII形結晶とするには、ブラッグ角(2θ)9.3±0.1°、10.7±0.1°及び16.5±0.1°のいずれにも回折ピークを有しないものが望ましい。またさらに、固体13C−NMRスペクトルにおいて、さらに、128.5±0.5、58.3±0.5及び37.3±0.5ppmから選ばれる少なくとも一つにピークを有していてもよく、赤外吸収スペクトルにおいても、さらに、1725±2.0、1076±2.0及び1048±2.0cm−1から選ばれる少なくとも1つに吸収ピークを有していてもよい。
【0031】
さらに、II形結晶は、粉末X線回折パターンにおいて、ブラッグ角(2θ)9.5±0.2°、11.0±0.2°及び19.15±0.2°から選ばれる少なくとも1つに回折ピークを有しており、赤外吸収スペクトルにおいて、1593±2.0、1163±2.0、1040±2.0及び792±2.0cm−1から選ばれる少なくとも1つに吸収ピークを有するものであってもよい。その場合、粉末X線回折パターンにおいて、ブラッグ角(2θ)9.5±0.2°、11.0±0.2°及び19.15±0.2°に回折ピークを有し、さらに16.2±0.2°、19.7±0.2°、22.8±0.2°又は23.8±0.2°に回折ピークを有するもの、あるいは粉末X線回折パターンにおいて、ブラッグ角(2θ)9.5±0.2°、11.0±0.2°及び19.15±0.2°に回折ピークを有し、さらに、16.2±0.2°、19.7±0.2°、22.8±0.2°及び23.8±0.2°に回折ピークを有するものが好適である。
【0032】
本発明におけるII形結晶は、以下の実施例に示すとおり、特開昭58−32847号公報の実施例2記載の方法に従って得られる(±)2−(ジメチルアミノ)−1−{〔O−(m−メトキシフェネチル)フェノキシ〕メチル} エチル 水素サクシナート塩酸塩の混晶と比較して、加水分解物の生成率が低いという利点があり、医薬品として用いるには非常に好都合である。II形結晶が有する当該作用は、特開昭58−32847号公報の実施例2記載の方法に従って得られる(±)2−(ジメチルアミノ)−1−{〔O−(m−メトキシフェネチル)フェノキシ〕メチル} エチル 水素サクシナート塩酸塩の混晶からは予想もつかないことである。
【0033】
また、本発明におけるI形結晶は、II形結晶には存在しない、I形結晶に特有の以下の物理化学的特徴を有する。
(5)粉末X線回折スペクトルにおいて、ブラッグ角(2θ)9.3±0.1°、10.7±0.1°及び16.5±0.1°から選ばれる少なくとも1つに回折ピークを有する。
(6)示差走査熱量測定において、約152℃付近に吸熱ピークを有する。
(7)固体13C−NMRスペクトルにおいて、117.3±0.5及び106.3±0.5ppmから選ばれる少なくとも1つにピークを有する。
(8)赤外吸収スペクトルにおいて、1612±2.0、1585±2.0、1434±2.0、1054±2.0、932±1.0、918±2.0及び780±2.0cm−1から選ばれる少なくとも1つに吸収ピークを有する。
I形結晶としては、少なくとも1種の上記物理化学的特徴を具備していればよく、好ましくは少なくとも上記(5)〜(8)のうちの2種以上、より好ましくは(5)及び(6)の物理化学的性質を具備しているものである。
【0034】
I形結晶としては、以下の物理化学的特徴のうちの少なくとも1種(好ましくは2種以上)を有する結晶がより好ましく、この特徴により、純度約95%超、好ましくは約98%以上の実質的に純粋なI形結晶であることを確認することができる。
(15)粉末X線回折スペクトルにおいて、ブラッグ角(2θ)9.3±0.1°、10.7±0.1°及び16.5±0.1°に回折ピークを有する。
(16)示差走査熱量測定において、約152℃付近にのみ吸熱ピークを有する。
(17)固体13C−NMRスペクトルにおいて、117.3±0.5及び106.3±0.5ppmにピークを有する。
(18)赤外吸収スペクトルにおいて、1612±2.0、1585±2.0、1434±2.0、1054±2.0、932±1.0、918±2.0及び780±2.0cm−1に吸収ピークを有する。
【0035】
また、I形結晶は、粉末X線回折スペクトルにおいて、ブラッグ角(2θ)10.7±0.1°及び16.5±0.1°に回折ピークを有するものが好ましく、その場合、さらに、ブラッグ角(2θ)9.3±0.1°、12.8±0.1°、13.0±0.1°、18.1±0.1°及び24.1±0.1°から選ばれる少なくとも1つに回折ピークを有していてもよく、より確実に高純度のI形結晶とするには、ブラッグ角(2θ)11.0±0.1°及び19.15±0.1°のいずれにも回折ピークを有しないものが望ましい。またさらに、固体13C−NMRスペクトルにおいて、さらに、145.0±0.5及び129.7±0.5ppmから選ばれる少なくとも1つにピークを有していてもよく、赤外吸収スペクトルにおいても、さらに、3021±2.0、1729±2.0、1195±2.0、1152±2.0及び918±2.0cm−1から選ばれる少なくとも1つに吸収ピークを有していてもよい。
【0036】
さらに、I形結晶は、粉末X線回折パターンにおいて、ブラッグ角(2θ)9.3±0.2°、10.7±0.2°及び16.5±0.2°から選ばれる少なくとも1つに回折ピークを有しており、赤外吸収スペクトルにおいて、1612±2.0、1585±2.0、1434±2.0、1054±2.0、932±1.0、918±2.0及び780±2.0cm−1から選ばれる少なくとも1つに吸収ピークを有するものであってもよい。その場合、粉末X線回折パターンにおいて、ブラッグ角(2θ)10.7±0.2°及び16.5±0.2°に回折ピークを有し、さらに9.3±0.2°、12.8±0.2°又は13.0±0.2°に回折ピークを有するもの、あるいは粉末X線回折パターンにおいて、ブラッグ角(2θ)10.7±0.2°及び16.5±0.2°に回折ピーク(2θ)を有し、さらに9.3±0.2°、12.8±0.2°、13.0±0.2°、18.1±0.2°及び24.1±0.2°に回折ピークを有するものが好適である。
【0037】
本発明におけるI形結晶は、特開昭58−32847号公報の実施例2記載の方法に従って得られる(±)2−(ジメチルアミノ)−1−{〔O−(m−メトキシフェネチル)フェノキシ〕メチル} エチル 水素サクシナート塩酸塩の混晶と比較して、結晶転移温度より高い温度においては高い溶解度を示すという利点がある。
【0038】
本発明に係る(±)2−(ジメチルアミノ)−1−{〔O−(m−メトキシフェネチル)フェノキシ〕メチル} エチル 水素サクシナート塩酸塩の結晶は、本明細書に記載の物理化学的性質によって特定されるものであるが、各スペクトルデータはその性質上多少変わりうるものであるから、厳密に解されるべきではない。
【0039】
本発明において、粉末X線回折スペクトルとは、RINT2500型粉末X線回折装置(理学電機社)を用いて以下の条件で測定されるスペクトルをいう。
X線源:Cu
フィルター:Ni
管電圧:40kV
管電流:300mA
発散スリット:1/2°
散乱スリット:1/2°
受光スリット:0.15mm
走査範囲:3〜40° 2θ
ステップ幅:0.02°
サンプリング時間:1.00秒
サンプル回転速度:60rpm
スキャンスピード:0.02°/sec
【0040】
また、示差走査熱量測定(以下、「DSC」ということもある)における吸熱ピークとは、DSC6200(セイコーインスツルメンツ社)を用いて以下の条件で測定される吸熱ピークをいう。
昇温速度:20℃/分
雰囲気:窒素 40mL/分
測定温度範囲:30〜200℃
【0041】
さらに、固体13C−NMRスペクトルは、インフィニティ(Infinity)CMX−400(Chemagnetics社)を用いて以下の条件で測定されるスペクトルをいう。
プローブ:7.5mmφ CP/MAS用プローブ
13C観測周波数:100MHz
MAS回転数:5.0〜5.8kHz
Hデカップリング周波数:50kHz
H90°パルス幅:5.0マイクロ秒
コンタクトタイム:3ミリ秒
繰り返し時間:20秒
積算回数:1000〜100000回
【0042】
また、赤外線吸収(以下、「IR」ということもある)スペクトルとは、スペクトラム ワン(Spectrum One)(パーキンエルマー社)を用いて以下の条件で測定されるスペクトルをいう。
測定方法:KCl錠剤法
測定範囲:4000〜400cm−1
分解能:2.00cm−1
スキャン回数:4
【0043】
なお、これらの装置を用いて結晶を解析した場合に、それぞれのデータとパターンが全体的に類似するものは、本発明の結晶に含まれるものであり、例えば、通常の測定法では検出できない程度の量のI形結晶が混合したII形結晶も、本発明の「II形結晶」に含まれる。同様に、通常の測定法では検出できない程度の量のII形結晶が混合したI形結晶も、本発明の「I形結晶」に含まれる。
【0044】
また、粉末X線回折スペクトルデータの性質上、結晶の同一性の認定においては、ブラッグ角(2θ)や全体的なパターンが重要であり、相対強度は結晶成長の方向、粒子の大きさ、測定条件によって多少変わり得る。DSC、固体13C−NMRスペクトル及びIRスペクトルにおいても、結晶の同一性の認定においては、全体的なパターンが重要であり、測定条件によって多少変わり得る。
したがって、本発明の結晶の粉末X線回折スペクトル、DSC、固体13C−NMRスペクトル又はIRスペクトルのデータとパターンが全体的に類似するものは、本発明の結晶に含まれるものである。
特に、粉末X線回折スペクトルにおいては、同一の面間隔に回折ピークが認められるものは、本発明の結晶に含まれるものである。
【0045】
本発明におけるII形結晶の粉末X線回折スペクトルとしては、I形結晶に由来する回折角である9.3°、10.7°及び16.5°付近のいずれにも回折ピーク(2θ)を認めない結晶も本発明のII形結晶に含まれる。
本発明におけるI形結晶の粉末X線回折スペクトルとしては、II形結晶に由来する回折角である9.5°、11.0°及び19.2°付近のいずれにも回折ピーク(2θ)を認めない結晶も本発明のI形結晶に含まれる。
また、DSCにおいてI形結晶に由来する吸熱ピークが約152℃付近に検出されるが、本発明において「約152℃付近」とは測定試料により些少の変動があるものの、おおよそ152±2.0℃を意味する。なお、II形結晶においても同様に、「約157℃付近」とはおおよそ157±2.0℃を意味する。
【0046】
本発明の結晶の製造方法としては、特に限定されないが、例えば以下の実施例に示すように、特開昭58−32847号公報の実施例2に記載の方法で得られる物質を撹拌する工程を含むものや、当該物質を溶媒に溶解後、晶析させる工程、当該物質の溶液を濃縮し晶析させる工程、当該物質を融解状態から固化させる工程を含むものが挙げられる。好ましくは、溶媒中で撹拌する工程を含むものが挙げられる。また、上記で示したI形又はII形の結晶を種晶として使用する方法も挙げられる。これにより、純度約95%以上、好ましくは約98%以上の実質的に純粋な結晶多形を容易に得ることができる。
【0047】
本発明において結晶転移温度とは、約20℃から約40℃、好ましくは約25℃から約35℃をいう。
【0048】
本発明において溶媒とは、アセトニトリル、アセトン、酢酸エチル、ヘキサン、1-プロパノール、2-プロパノール、メタノール、エタノール、水、トルエン、テトラヒドロフラン、ジイソプロピルエーテル、クロロホルム、シクロヘキサン、ヘプタン、オクタン、キシレン、クロロベンゼンなどが挙げられるが、好ましくはアセトン、酢酸エチル、水、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、トルエン、テトラヒドロフラン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、キシレンが挙げられる。
II形結晶を得るためのより好ましい溶媒としては、アセトン、水、酢酸エチル、トルエン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、キシレンが挙げられ、中でもアセトン、酢酸エチル、キシレンが好ましい。またこれらの溶媒の組み合わせも好適である。
I形結晶を得るためのより好ましい溶媒としては、アセトン、水、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノールが挙げられ、中でも水、メタノール、2−プロパノールが好ましい。またこれらの溶媒の組み合わせも好適である。
なお、各溶媒の沸点及び凝固点については「新版 溶剤ポケットブック」(平成6年6月10日社団法人有機合成化学協会編 オーム社発行)に記載されているので、それらを参考に適宜決定することが可能である。
【0049】
本発明において撹拌とは、特開昭58−32847号公報に記載の(±)2−(ジメチルアミノ)−1−{〔O−(m−メトキシフェネチル)フェノキシ〕メチル} エチル 水素サクシナート塩酸塩を懸濁する工程、又は、特開昭58−32847号公報に記載の(±)2−(ジメチルアミノ)−1−{〔O−(m−メトキシフェネチル)フェノキシ〕メチル} エチル 水素サクシナート塩酸塩を溶媒に溶解し晶析させる工程を含むものとする。
【0050】
なお、特開昭58−32847号公報には、(±)2−(ジメチルアミノ)−1−{〔O−(m−メトキシフェネチル)フェノキシ〕メチル} エチル 水素サクシナート塩酸塩に関してII形結晶及びI形結晶が得られることについては一切記載がなく、本発明の結晶形態の異なるII形結晶及びI形結晶を作り分けるための十分な情報が開示されていない。これは、本発明においてその存在が初めて明らかになったII形結晶及びI形結晶の相互の結晶転移温度が約20℃から約40℃に存在するため、通常の条件下では作り分けることができなかったことに由来すると考えられる。
【0051】
II形結晶を製造する方法として、より好ましくは、
(±)2−(ジメチルアミノ)−1−{〔O−(m−メトキシフェネチル)フェノキシ〕メチル} エチル 水素サクシナート塩酸塩の結晶を溶媒に溶解し、結晶転移温度から溶媒の沸点までの温度のいずれかの温度で晶析させる工程を含むII形結晶の製造方法、
(±)2−(ジメチルアミノ)−1−{〔O−(m−メトキシフェネチル)フェノキシ〕メチル} エチル 水素サクシナート塩酸塩の結晶を溶媒に溶解し、結晶転移温度から溶媒の沸点までの温度のいずれかの温度で種晶を添加した後、冷却して晶析させる工程を含むII形結晶の製造方法、
(±)2−(ジメチルアミノ)−1−{〔O−(m−メトキシフェネチル)フェノキシ〕メチル} エチル 水素サクシナート塩酸塩の結晶を溶媒に溶解し、約45℃から約60℃で種晶を添加した後、冷却して晶析させる工程を含むII形結晶の製造方法、
(±)2−(ジメチルアミノ)−1−{〔O−(m−メトキシフェネチル)フェノキシ〕メチル} エチル 水素サクシナート塩酸塩の結晶を溶媒に溶解し、約50℃から約55℃で種晶を添加した後、冷却して晶析させる工程を含むII形結晶の製造方法、
(±)2−(ジメチルアミノ)−1−{〔O−(m−メトキシフェネチル)フェノキシ〕メチル} エチル 水素サクシナート塩酸塩の結晶を溶媒に溶解し、溶媒中約40℃から約65℃のいずれかの温度で懸濁させた種晶を、約45℃から約60℃で添加した後、冷却して晶析させる工程を含むII形結晶の製造方法、
(±)2−(ジメチルアミノ)−1−{〔O−(m−メトキシフェネチル)フェノキシ〕メチル} エチル 水素サクシナート塩酸塩の結晶を溶媒に溶解し、溶媒中約50℃から約65℃で懸濁させた種晶を、約45℃から約60℃で添加した後、冷却して晶析させる工程を含むII形結晶の製造方法、及び
(±)2−(ジメチルアミノ)−1−{〔O−(m−メトキシフェネチル)フェノキシ〕メチル} エチル 水素サクシナート塩酸塩の結晶を溶媒に溶解し、溶媒中約55℃から約65℃で懸濁させた種晶を、約50℃から約56℃で添加した後、冷却して晶析させる工程を含むII形結晶の製造方法が挙げられる。
【0052】
I形結晶を製造する方法として、より好ましくは、
(±)2−(ジメチルアミノ)−1−{〔O−(m−メトキシフェネチル)フェノキシ〕メチル} エチル 水素サクシナート塩酸塩の結晶を溶媒に溶解し、−10℃から結晶転移温度までのいずれかの温度に冷却して晶析させる工程を含むI形結晶の製造方法、
(±)2−(ジメチルアミノ)−1−{〔O−(m−メトキシフェネチル)フェノキシ〕メチル} エチル 水素サクシナート塩酸塩の結晶を溶媒に溶解し、該溶媒の凝固点から結晶転移温度までのいずれかの温度で晶析させる工程を含むI形結晶の製造方法、及び
(±)2−(ジメチルアミノ)−1−{〔O−(m−メトキシフェネチル)フェノキシ〕メチル} エチル 水素サクシナートの溶液に塩化水素を吹き込む工程を含むI形結晶
の製造方法が挙げられる。
【0053】
本発明においては、II形結晶及びI形結晶を任意の割合で含む混晶を得ることが可能であり、例えば、上記製造方法により得られた、純粋なII形結晶及びI形結晶を所望の割合になるように混合することで調製することができる。
【0054】
本発明の結晶を有効成分とする医薬組成物においては、II形結晶及びI形結晶の各含有割合は特に限定されるものではないが、例えば、本発明のII形結晶を約75%以上含有する原薬を用いて製造される医薬組成物が好ましい。また、約85%以上のII形結晶を含有する原薬を用いて製造される医薬組成物がより好ましく、約98%以上のII形結晶を含有する原薬を用いて製造される医薬組成物が最も好ましい。
本発明の結晶を医薬として用いる場合、それ自体を単独で投与してもよいが、薬学的に許容され得る製剤用添加物を用いて上記結晶を有効成分として含む医薬組成物を製造して投与するのが好適である。医薬組成物の組成は、結晶の溶解度、化学的特質、投与経路、投与計画等によって決定される。例えば、顆粒剤、細粒剤、散剤、錠剤、硬シロップ剤、軟カプセル剤、トローチ剤、シロップ剤、乳剤、軟ゼラチンカプセル剤、ゲル剤、ペースト剤、懸濁剤、リポソーム等の剤形にして経口的に投与するか、又は注射剤として静脈内投与、筋肉内投与、皮下投与することができる。また、注射用の粉末にして用時調製して使用することもできる。
【0055】
薬学的に許容され得る製剤用添加物としては、経口、経腸、非経口もしくは局所投与に適した有機又は無機の固体又は液体の担体を用いることができる。上記の医薬組成物は、上記担体以外に、補助剤、例えば湿潤剤、懸濁補助剤、甘味剤、芳香剤、着色剤、及び保存剤等を含むこともできる。また液体製剤は、ゼラチンのような吸収され得る物質のカプセル中に含ませて使用してもよい。非経口剤投与の製剤、即ち注射剤等の製造には溶剤又は懸濁化剤等が用いられる。なお、上記各製剤の調製は、常法に従って行うことができる。
【0056】
本発明の結晶は、医薬の有効成分として有用であり、具体的には、慢性動脈閉塞症の治療剤、慢性動脈閉塞症に伴う潰瘍、疼痛及び冷感の虚血性症状の改善剤、間歇性跛行の改善剤、虚血性脳血管障害における血栓・塞栓形成の抑制剤、帯状疱疹後神経痛に伴う疼痛の軽減剤の有効成分として有用である。
投与量は年齢、体重、一般的健康状態、性別、食事、投与時間、投与方法、排泄速度、薬物の組合せ、患者のその時に治療を行っている病状の程度に応じ、それらあるいはその他の要因を考慮して決められる。本発明の結晶、その光学異性体又はその医薬上許容しうる塩は、低毒性で安全に使用することができ、その1日の投与量は、患者の状態や体重、化合物の種類、投与経路などによって異なるが、たとえば非経口的には皮下、静脈内、筋肉内又は直腸内に、約0.01〜50mg/人/日、好ましくは0.01〜20mg/人/日投与され、また経口的には約0.01〜150mg/人/日、好ましくは0.1〜100mg/人/日投与されることが望ましい。
【実施例】
【0057】
以下、本発明を実施例及び実験例により具体的に説明するが、本発明は、これらの記載に限定されるものではない。
【0058】
実施例1
特開昭58−32847号公報の実施例2記載の方法に従って得られた、II形結晶とI形結晶とのモル比が約3:7である(±)2−(ジメチルアミノ)−1−{〔O−(m−メトキシフェネチル)フェノキシ〕メチル} エチル 水素サクシナート塩酸塩の混晶(以下「SPG」と記載することもある)1kg及びアセトン10Lの混合物を55℃の条件下で、12時間攪拌した。その後25℃に冷却し、結晶をろ取し、アセトン1.00Lにて洗浄した。その後、減圧乾燥してII型結晶を0.95kg得た。純度は98%以上であった。
【0059】
実施例2
SPG10g、キシレン200mlを約134℃まで攪拌昇温し、約3時間攪拌後、冷却し、結晶をろ取、アセトン洗浄した。減圧乾燥後II形結晶を8g得た。純度は98%以上であった。
【0060】
実施例3
SPG20g、キシレン200mlを約139℃まで攪拌昇温し、約2時間攪拌後、冷却し、結晶をろ取、アセトン洗浄した。減圧乾燥後II形結晶を8.8g得た。純度は98%以上であった。
【0061】
実施例4
SPG2g、アセトン750mlを攪拌昇温溶解し、常圧にて約180mlまで濃縮した。約55℃で約2時間攪拌後,室温まで冷却した。結晶をろ取し、アセトン8mlにて洗浄した。その後、減圧乾燥してII型結晶を1.74g得た。純度は98%以上であった。
【0062】
実施例5
SPG1kg、アセトン8.8L及び水0.55Lを混合し、その混合物を加温溶解した後、内温を50℃まで冷却した。この液にアセトン0.7Lと実施例1で得られたII型結晶0.05kgから調製した懸濁液を添加し、アセトン0.5Lを追加した。10℃以下まで冷却した後、結晶をろ取し、アセトン1Lにて洗浄後、減圧乾燥してII型結晶を0.9kg得た。純度は98%以上であった。
【0063】
実施例6
SPG1kg、アセトン8.8L及び水0.55Lを混合し、その混合物を加温溶解した後、内温を50℃まで冷却した。この液に実施例1で得られたII型結晶0.05kgを添加し、アセトン1.2L追加後10℃以下まで冷却した。結晶をろ取し、アセトン1Lにて洗浄後、減圧乾燥してII型結晶を0.9kg得た。純度は98%以上であった。
【0064】
実施例7
SPG1kg、アセトン8.8L及び水0.55Lを混合し、その混合物を加温溶解した後、内温を約50℃まで冷却した。この液にアセトン0.7LとII型結晶0.05kgから調製した懸濁液を約55℃にて加熱攪拌後、添加した。アセトン0.5Lを追加後10℃以下まで冷却し、結晶をろ取した。結晶をアセトン1Lにて洗浄後、減圧乾燥してII型結晶を0.9kg得た。純度は98%以上であった。
【0065】
実施例8
SPG70g及び水467mLの混合物を55℃に加温溶解した溶液を0℃の冷蔵庫に入れ静置した。約24時間後、結晶を濾過した。減圧乾燥後、I形結晶を65.96g取得した。純度は98%以上であった。
【0066】
実施例9
特開昭58−32847号公報の実施例1記載の方法に従って得られる(±)−1−〔O−〔2−(m−メトキシフェニル)エチル〕フェノキシ〕−3−(ジメチルアミノ)−2−プロパノール塩酸塩を水酸化ナトリウム水溶液にてフリー塩基としてトルエンにて抽出後濃縮して得られる(±)−1−〔O−〔2−(m−メトキシフェニル)エチル〕フェノキシ〕−3−(ジメチルアミノ)−2−プロパノール約1.0kgを含むトルエン溶液に、アセトン2.1L及び無水コハク酸約0.34kgを加え、35〜45℃で約2時間反応させた。20〜30℃まで冷却した後、アセトン8.5Lを加え、10℃付近まで冷却した。ここに種晶として少量のSPGを加え、約15℃以下で塩酸ガスを1.0〜1.2等量吹き込むことにより結晶を析出させた。約6℃以下に冷却後、2〜3時間熟成し、濾過洗浄(アセトン2L)した。減圧乾燥してI形結晶を約1.4kg取得した。純度は98%以上であった。
【0067】
実施例10
実施例9においてII形結晶が微量検出される場合は、以下の工程を追加する。
実施例9で得られた結晶50g及びイソプロパノール500mLの混合物を25℃にて30時間攪拌した。結晶をろ取した後、イソプロパノール200mLにて洗浄した。その後、減圧乾燥してI形結晶を48.9g得た。純度は98%以上であった。
【0068】
実施例11
SPG100g、アセトン880mL及び水55mLの混合物を加温溶解した溶液を内温を約50℃まで冷却し、実施例8〜9で得られたI形結晶5gを添加した後、アセトン120mLを添加した。その後10℃以下まで冷却した。結晶をろ取、アセトン100mLにて洗浄した後、減圧乾燥してI形結晶を90g得た。純度は98%以上であった。
【0069】
実験例1 粉末X線回折測定
II形結晶、I形結晶及びSPGの粉末X線回折を以下の条件で測定した。
(測定条件)
装置:RINT2500型粉末X線回折装置(理学電機)
X線源:Cu
フィルター:Ni
管電圧:40kV
管電流:300mA
発散スリット:1/2°
散乱スリット:1/2°
受光スリット:0.15mm
走査範囲:3〜40° 2θ
ステップ幅:0.02°
サンプリング時間:1.00秒
サンプル回転速度:60rpm
検出限界:2%
スキャンスピード:0.02°/sec
II形結晶、I形結晶及びSPGの粉末X線回折パターンをそれぞれ図1、図2及び図3に示す。II形結晶の粉末X線回折パターンの回折ピーク値(2θ)を表1に、I形結晶の粉末X線回折パターンの回折ピーク値(2θ)を表2に、SPGの粉末X線回折パターンの回折ピーク値(2θ)を表3に、それぞれ示す。
【0070】
【表1】

【0071】
【表2】

【0072】
【表3】

【0073】
測定の結果、II形結晶、I形結晶及びSPGは互いに異なる粉末X線回折パターンを示すことが明らかとなった。
【0074】
実験例2 DSC測定
II形結晶、I形結晶及びSPGの各試料1mg量り、アルミオープンパンにのせ、以下の条件で測定した。
(測定条件)
装置:DSC6200(セイコーインスツルメンツ)
昇温速度:20℃/分
雰囲気:窒素 40mL/分
測定温度:30〜200℃
II形結晶、I形結晶及びSPGのDSC曲線を、それぞれ図4、図5及び図6に示す。II形は157.1℃に融解の吸熱ピークを示し、I形は152.2℃に融解の吸熱ピークを示した。
【0075】
実験例3 固体13C−NMRスペクトル測定
II形結晶、I形結晶及びSPGの固体13C−NMRスペクトルを測定した。
(測定条件)
装置:Infinity CMX−400(Chemagnetics)
プローブ:7.5mmφ CP/MAS用プローブ
13C観測周波数:100MHz
MAS回転数:5.0〜5.8kHz
Hデカップリング周波数:50kHz
H90°パルス幅:5.0マイクロ秒
コンタクトタイム:3ミリ秒
繰り返し時間:20秒
積算回数:1000〜100000回
II形結晶、I形結晶及びSPGの固体13C−NMRスペクトルを、それぞれ図7、図8及び図9に示す。II形結晶の固体13C−NMRスペクトルのケミカルシフト値を表4に、II形結晶の固体13C−NMRスペクトルのケミカルシフト値を表5に、SPGの固体13C−NMRスペクトルのケミカルシフト値を表6に、それぞれ示す。
【0076】
【表4】

【0077】
【表5】

【0078】
【表6】

【0079】
測定の結果、II形結晶、I形結晶及びSPGは互いに異なる固体13C−NMRスペクトルを示すことが明らかになった。
【0080】
実験例4 IRスペクトル測定
II形結晶、I形結晶及びSPGについて、KCl錠剤法によるIRスペクトルを以下の条件で測定した。
(測定条件)
装置:Spectrum One(Perkin Elmer)
測定範囲:4000〜400cm−1
分解能:2.00cm−1
スキャン回数:4
II形結晶、I形結晶及びSPGの赤外吸収スペクトルを、それぞれ図10、図11及び図12に示す。II形結晶、I形結晶及びSPGは互いに異なるスペクトルを示した。
【0081】
実験例5 化学的安定性
本発明によって製造したII形結晶と、SPGについて、両者の化学的安定性を比較した。化学的安定性は、SPGの主な分解生成物であるBP−984(特開昭58−32847号公報に記載の表−1 No.3化合物)の生成量を高速液体クロマトグラフィーによって評価した。なお、BP−984は特開昭58−32847号公報に記載のとおり、特開昭58−32847号公報に記載の実施例1に従い合成できる。
(安定性条件)
保存条件:40℃/75%RH
保存形態:ガラスシャーレ開放
保存期間:2週間、4週間、8週間
(高速液体クロマトグラフィー測定条件)
II形結晶及びSPG約20mgを移動相10mLに溶かし、試料溶液とした。試料溶液を2mL正確に量り、移動相を加えて正確に200mLとし、1%希釈標準溶液とした。試料溶液及び1%希釈標準溶液について、10μL注入し、それぞれのピーク面積を自動積分法により求めた。BP−984の量は以下の計算式によって求めた。
【0082】
BP−984の量(%)= 試料溶液から得たBP−984のピーク面積/標準溶液から得たSPGのピーク面積×0.78(BP−984の感度係数)
装置:10A−VPシステム(島津製作所)
検出器:紫外可視分光光度計(測定波長272nm)
移動相:水/アセトニトリル/トリフルオロ酢酸=65:35:0.05
カラム:Inertsil ODS−3V 4.6mmφ×150cm
流量:1.1mL/分
II形結晶及びSPGの安定性試験結果を図13に示す。II形結晶のBP−984生成量(−△−)は、SPGのBP−984生成量(−■−)の半分以下であった。
この結果より、本発明に係るII形結晶は、従来のSPGに比べて化学的安定性が高いという有利な性質を有することがわかった。
【0083】
実験例6 物理学的安定形
I形結晶及びII形結晶について、物理学的な安定形を調べた。I形結晶及びII形結晶の等量混合物を調製し、これを5℃、15℃、25℃、35℃及び40℃の各温度で、エタノール中で懸濁させ、攪拌した。これを吸引ろ過し、減圧乾燥したものについて粉末X線回折スペクトルを測定した。測定条件は実施例1と同様である。その結果、5℃、15℃及び25℃ではI形結晶のピーク強度が相対的に増加し、35℃及び40℃ではII形結晶のピーク強度が相対的に増加した。これにより、25℃より低い温度ではI形結晶が物理学的に安定形であり、35℃より高い温度ではII形結晶が物理化学的に安定形であることがわかった。
すなわち、I形結晶とII形結晶の物理化学的安定形が入れ替わる温度である結晶転移温度は、25℃から35℃の範囲にある。
この結晶転移温度より高い温度の溶媒中において混合結晶を懸濁し、攪拌することにより、I形結晶をII形結晶に転移させることができ、逆に結晶転移温度より低い温度の溶媒中において混合結晶を懸濁し、攪拌することにより、I形結晶をII形結晶に転移させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明によれば、(±)2−(ジメチルアミノ)−1−{〔O−(m−メトキシフェネチル)フェノキシ〕メチル} エチル 水素サクシナート塩酸塩のII形結晶及びI形結晶を提供することができる。
なお、本出願は、日本で2005年2月22日に出願された特願2005−044896号を基礎としており、その内容は本明細書に全て包含される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉末X線回折スペクトルが図2に示すパターンを有する、(±)2−(ジメチルアミノ)−1−{〔O−(m−メトキシフェネチル)フェノキシ〕メチル} エチル 水素サクシナート塩酸塩のI形結晶。
【請求項2】
粉末X線回折スペクトルが図2に示すパターンを有し、ブラッグ角(2θ)11.0±0.1°及び19.15±0.1°のいずれにも回折ピークを有しない、(±)2−(ジメチルアミノ)−1−{〔O−(m−メトキシフェネチル)フェノキシ〕メチル} エチル 水素サクシナート塩酸塩のI形結晶。
【請求項3】
請求項1または2記載の(±)2−(ジメチルアミノ)−1−{〔O−(m−メトキシフェネチル)フェノキシ〕メチル} エチル 水素サクシナート塩酸塩のI形結晶、および薬理学的に許容され得る製剤用添加物を含む、医薬組成物。
【請求項4】
顆粒剤、細粒剤、散剤、又は錠剤である、請求項3記載の医薬組成物。
【請求項5】
請求項1または2記載の(±)2−(ジメチルアミノ)−1−{〔O−(m−メトキシフェネチル)フェノキシ〕メチル} エチル 水素サクシナート塩酸塩のI形結晶、および
粉末X線回折スペクトルが図1に示すパターンを有する、(±)2−(ジメチルアミノ)−1−{〔O−(m−メトキシフェネチル)フェノキシ〕メチル} エチル 水素サクシナート塩酸塩のII形結晶
を混合することを特徴とする、該I形結晶および該II形結晶の混晶の製造方法。
【請求項6】
II形結晶が、ブラッグ角(2θ)9.3±0.1°、10.7±0.1°及び16.5±0.1°のいずれにも回折ピークを有しない、請求項5記載の混晶の製造方法。
【請求項7】
請求項5または6に記載の方法により製造される該I形結晶および該II形結晶の混晶、および薬理学的に許容され得る製剤用添加物を含む、医薬組成物。
【請求項8】
顆粒剤、細粒剤、散剤、又は錠剤である、請求項7記載の医薬組成物。
【請求項9】
請求項5または6に記載の方法により製造される該I形結晶および該II形結晶の混晶。
【請求項10】
請求項5または6に記載の方法により製造される該I形結晶および該II形結晶の混晶からなる標準試薬。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2010−77155(P2010−77155A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−275342(P2009−275342)
【出願日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【分割の表示】特願2006−46057(P2006−46057)の分割
【原出願日】平成18年2月22日(2006.2.22)
【出願人】(000002956)田辺三菱製薬株式会社 (225)
【Fターム(参考)】