(−)−ニルバジピンエナンチオマーによってアミロイド沈着、アミロイド神経毒性、およびミクログリオーシスを減少させる方法
本発明は、アルツハイマー病(AD)などの脳アミロイド形成疾患に苦しむ動物またはヒトにおいて、ジヒドロピリジン化合物であるニルバジピンの(R)−エナンチオマー、別名(−)−ニルバジピンの治療上の有効量を該動物または該ヒトに投与することによって、Aβ沈着、Aβ神経毒性およびミクログリオーシスを減少させる方法を提供する。さらに、外傷性脳損傷に苦しむ動物またはヒトにおいて、外傷性脳損傷後に(−)−ニルバジピンを投与し、その後所定の期間にわたって治療を継続することによって、Aβ沈着、Aβ神経毒性およびミクログリオーシスのリスクを減少させる方法を提供する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2007年10月5日に出願された米国仮特許出願第60/977,953号、および2008年4月18日に出願された米国仮特許出願第61/046,109号に対する優先権を主張するものであって、各出願の全内容は参照することにより援用される。
【0002】
発明の分野
本発明は、アルツハイマー病などの脳アミロイド形成疾患の病態生理学的効果を治療する方法に関する。より具体的には、該方法は、アルツハイマー病などの脳アミロイドーシスと関連する疾患に苦しむ動物またはヒトの脳内の病態生理学的効果に対抗するために、ニルバジピンのラセミ混合物と比較して降圧副作用が減少したニルバジピンの(−)エナンチオマーを投与することを含む。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
関連技術の説明
アルツハイマー病(AD)は、最も一般的な老化の神経変性障害であり、65歳を超える人口のおよそ1%を苦しめている。該疾患の特性は、脳内の細胞内神経原線維変化、細胞外実質にある老人斑、および脳血管沈着の進行性の蓄積を含む。老人斑および脳血管沈着の主成分は、39〜43個のアミノ酸からなるβ−アミロイドペプチド(Aβ)であり、膜貫通糖タンパク質であるアミロイド前駆体タンパク質(APP)のタンパク質分解に由来する。
【0004】
APPは1回膜貫通タンパク質であり、590〜680個のアミノ酸からなる細胞外アミノ末端ドメイン、および約55個のアミノ酸からなる細胞質側末端からなる。染色体21上のAPP遺伝子のメッセンジャーRNAは、選択的スプライシングを経て、8つの可能なアイソフォームを生じ、その3つ(695、751および770個のアミノ酸からなるアイソフォーム)が脳内で優勢的である。APPは、α−、β−およびγ−セクレターゼと呼ばれる3つの酵素活性によるタンパク質分解プロセシングを経る。α−セクレターゼは、Aβドメインのアミノ酸17でAPPを切断し、大型の可溶性アミノ末端断片α−APPを分泌用に放出する。α−セクレターゼはAβドメイン内でAPPを切断するため、この切断はAβ形成を妨げる。あるいは、APPはβ−セクレターゼによって切断され得、Aβのアミノ末端を定義し、可溶性アミノ末端断片β−APPを生じる。続くAPPの細胞内カルボキシ末端ドメインのγ−セクレターゼによる切断は、複数のペプチドの発生をもたらし、最も一般的な2つは、40個のアミノ酸からなるAβ(Aβ40)および42個のアミノ酸からなるAβ(Aβ42)である。Aβ40は分泌されたAβの90〜95%を含み、脳脊髄液から回収される優勢的な種である(Seubert et al., Nature, 359:325-7, 1992)。対照的に、分泌されたAβの10%未満がAβ42となる。Aβ42産生の相対的な不足にもかかわらず、Aβ42は斑内で見られる優勢的な種であり、初期に沈着するが、これはおそらく、Aβ40よりも急速に不溶性アミロイド凝集を形成するその能力によるものであろう(Jarrett et al., Biochemistry, 32:4693-7, 1993)。脳内におけるAβの異常な蓄積は、APPの過剰発現またはプロセシングの変化のいずれかによるものであると考えられている。
【0005】
ADの家族型と関連する全ての突然変異はAPPから生じるこれらのペプチドのプロセシングの変化をもたらすため、AβペプチドはADの病理生物学において重要な役割を果たすと考えられている。実際に、不溶性の、または凝集したAβの原線維の脳内における沈着は、対象の遺伝的素因にかかわらず、全ての型のADの顕著な神経病理学的特徴である。
【0006】
Aβ沈着に伴い、Aβ沈着およびその周囲における炎症誘発性サイトカインおよび急性期反応物の産生を含む、AD脳内の炎症経路の強い活性化がある(McGeer et al., J Leukocyte Biol., 65:409-15, 1999)。脳に常在する自然免疫細胞であるミクログリアの活性化は、この炎症カスケードに本質的に関連すると考えられる。反応性ミクログリアは、炎症性タンパク質などの炎症誘発性サイトカイン、ならびにα−1−抗キモトリプシン、形質転換成長因子β、アポリポタンパク質Eおよび補体因子などの急性期反応物を産生し、その全てがAβ斑に局在化してAβ斑「濃縮」または成熟を促進し(Nilsson et al., J. Neurosci. 21:1444-5, 2001)、高レベルに神経変性を促進することが実証されている。疫学的研究によると、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDS)を使用している患者はADのリスクが50%も減少することが分かっており(Rogers et al., Neurobiol. Aging 17:681-6, 1996)、NSAID治療を経験したAD患者の死後評価によると、リスク減少は活性化ミクログリアの数の減少と関連することが実証されている(Mackenzie et al., Neurology 50:986-90, 1998)。さらに、アルツハイマー病用のマウスモデルであるTgAPPswマウスにNSAID(イブプロフェン)を与えると、これらの動物は、ミクログリア活性化の減少と関連するAβ沈着、星状細胞増加症、およびジストロフィー性神経炎(dystrophic neuritis)の減少を示す(Lim et al., J. Neurosci. 20:5709-14, 2000)。
【0007】
それゆえ、AD脳内の炎症過程の産物は、AD病状を悪化させうる。さらに、AD脳内の活性化ミクログリアは、Aβを除去する代わりにAβ原線維形成を促進し、結果、老人斑として沈着を生じることによって病原となるという証拠がある(Wegiel et al., Acta Neuropathol. (Berl.) 100:356-64, 2000)。
【0008】
AD発病はAβの神経毒性によることも示唆されている。Aβの細胞毒性は、げっ歯類脳由来の初代細胞培養において最初に確立され、ヒト細胞培養においても確立されている。マットソンら(Mattson et al.)の研究(J. Neurosci., 12:376-389, 1992)は、興奮性神経伝達物質のグルタミン酸塩の存在下、Aβが細胞内カルシウムの即時的な病理学的増加をもたらすことを示しているが、カルシウムは二次メッセンジャー活性が大きく増加することによって強力な細胞毒性をもたらすと考えられている。
【0009】
米国特許出願第2005/0009885号(2005年1月13日)(Mullan et al.)は、ニルバジピンを用いてAβ沈着を減少させる方法、さらにはニルバジピンを用いて脳アミロイド形成疾患を診断する方法を開示している。しかしながら、米国特許第4,338,322号は、ニルバジピンの降圧効果について記載している。ニルバジピン(NIVADIL(登録商標))は、アイルランドにおいて、8mg/日、または8mg/日で適切な降圧効果が達成されない場合には16mg/日の用量で高血圧症の治療用の規制認可を受けている。ニルバジピンの(+)−エナンチオマーの降圧効果を開示している米国特許第5,508,413号も参照のこと。ニルバジピンのラセミ体およびその被験者の局所脳血流に対する効果は、羽生ら(Hanyu et al.)(Nuclear Medicine Communications, vol. 28, no. 4, pages 281-287, April 2007)において報告されている。
【0010】
上記の報告にもかかわらず、ADの特徴である脳変性の避けられない進行の予防法であり、AD患者に見られるAβ沈着、Aβ神経毒性、ミクログリア活性化炎症、およびAPPの発現の変化または過剰発現に対処する予防法であり、治療上有効な処置を提供し、血圧の所望でないまたは過剰な減少などの副作用が最小限である予防法が必要である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
この必要性を満たすために、本発明は、アルツハイマー病(AD)などの脳アミロイド形成疾患に苦しむ動物またはヒトにおいて、エナンチオマー濃縮された(−)−ニルバジピンの治療上の有効量を該動物または該ヒトに投与することによって、Aβ沈着、Aβ神経毒性およびミクログリオーシスを減少させる方法を提供する。特に、本発明は、同量のニルバジピンのラセミ体と比較して低血圧効果が減少したエナンチオマー濃縮された(−)−ニルバジピンの投与を提供する。さらに、エナンチオマー濃縮された(−)−ニルバジピンの投与は、低血圧効果の減少のために、ニルバジピンのラセミ体または(+)−ニルバジピンの投与と比較して、投与量の増加を可能にする。例えば、本明細書で示すデータは、FPL64176で誘発した場合の(−)−エナンチオマーのベースライン大動脈収縮を実証するが、これは血管作用性(すなわち、誘導血管収縮の拮抗作用)を示すラセミ混合物または(+)−エナンチオマーと比較して、(−)−エナンチオマーの血管作用性が減少していることと相関する。好ましい実施態様では、(−)−エナンチオマーは投与される組成物中に過剰に存在し、エナンチオマー過剰率は好ましくは90%以上、95%以上、およびより好ましくは純度の検出限界である100%を含む98%以上である。
【0012】
本発明は、外傷性脳損傷に苦しむ動物またはヒトにおいて、エナンチオマー濃縮された(−)−ニルバジピンの治療上の有効量を頭部損傷後に該動物または該ヒトに投与し、その後所定の期間、エナンチオマー濃縮された(−)−ニルバジピン治療を継続することによって、Aβ沈着、Aβ神経毒性およびミクログリオーシスのリスクを減少させる方法をさらに提供する。特に、本発明は、同量のニルバジピンのラセミ体と比較して低血圧効果が減少したエナンチオマー濃縮された(−)−ニルバジピンの投与を提供する。さらに、エナンチオマー濃縮された(−)−ニルバジピンの投与は、低血圧効果の減少のために、ニルバジピンのラセミ体の投与と比較して投与量の増加を可能にする。好ましい実施態様では、(−)−エナンチオマーは投与される組成物中に過剰に存在し、エナンチオマー過剰率は好ましくは90%以上、95%以上、およびより好ましくは純度の検出限界である100%を含む98%以上である。
【0013】
本発明は、脳アミロイド形成疾患または状態を発症するリスクがあると診断された動物およびヒトにおいて、エナンチオマー濃縮された(−)−ニルバジピンの治療上の有効量を該動物または該ヒトに投与することを含む方法であって、該エナンチオマー濃縮された(−)−ニルバジピン投与を脳アミロイド形成疾患または状態を発症するリスクの診断後に開始し、脳アミロイド形成疾患または状態を発症するリスクを減少させ、その発症もしくは進行を遅延させ、またはその症状を安定させる方法も提供する。特に、本発明は、同量のニルバジピンのラセミ体と比較して低血圧効果が減少したエナンチオマー濃縮された(−)−ニルバジピンの投与を提供する。さらに、低血圧効果の減少のために、ニルバジピンのラセミ体の投与と比較して、エナンチオマー濃縮された(−)−ニルバジピンの投与は投与量の増加を可能にする。好ましい実施態様では、(−)−エナンチオマーは投与される組成物中に過剰に存在し、エナンチオマー過剰率は好ましくは90%以上、95%以上、およびより好ましくは純度の検出限界である100%を含む98%以上である。
【0014】
本発明は、脳アミロイド形成疾患と関連する1つ以上または全ての認知および行動特性を含む脳アミロイド形成疾患の臨床特性の治療を提供する。例えば、ADに関しては、該特性は重度の記憶喪失、やり慣れた作業の実施困難、言語障害、見当識障害、判断力の低下、抽象的思考の障害、性格の変化、一連の認知テストにおける気分、もしくは行動、および/または特性スコアなどの症状の非限定的リストを含みうる。該認知テストは、ウェクスラー記憶検査改訂版(WMS−R)、臨床的認知症尺度(CDR)、ミニメンタルステート検査(MMSE)および/またはアルツハイマー病評価尺度−認知機能下位尺度(ADAS)を含む。
【0015】
本発明は、特異的な臨床転帰をもたらしうるエナンチオマー濃縮された(−)−ニルバジピンによる治療を提供する。治療についての1つのエンドポイントは、脳アミロイド形成疾患にかかった患者における1つ以上の症状の測定可能な改善である。該改善は、患者を無症状にし得、または治療前の1つ以上の症状と比較して能力の改善を示しうる。あるいは、治療についての1つのエンドポイントは、ベースライン症状レベルを維持することでありうる。言い換えれば、このエンドポイントは、疾患または疾患の1つ以上の症状が永久に、または一定期間にわたって安定化したことを表す。さらに、治療についての1つのエンドポイントは、未治療のコントロールと比較した疾患の進行速度の減少でありうる。さらに、治療は、脳アミロイド形成疾患の発症のリスクがあると考えられるが、1つ以上の症状の臨床所見が現れる前の個人の前治療を含んでよい。疾患の治療への言及は、1つ以上の症状の治療も含むが、該治療は治療的というよりむしろ対症的である。
【0016】
本発明は、ADなどの脳アミロイド形成疾患に苦しむ動物またはヒトの中枢神経系における幹細胞の移植前に、エナンチオマー濃縮された(−)−ニルバジピンの一定量を神経幹細胞に投与することを含む、移植可能な神経幹細胞を治療する方法も提供する。投与される量は、所望の細胞保護効果を達成する量である。好ましい実施態様では、(−)−エナンチオマーは投与される組成物中に過剰に存在し、エナンチオマー過剰率は好ましくは90%以上、95%以上、およびより好ましくは純度の検出限界である100%を含む98%以上である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は、4G8免疫染色技術を用いて、TgAPPswマウスの脳の異なる領域におけるAβ沈着(Aβ負荷)に対するニルバジピンの慢性投与の効果を説明する棒グラフである。
【図2】図2は、CD45+ミクログリアの数を決定するCD45免疫染色技術を用いて、TgAPPswマウスの脳の3つの領域におけるミクログリア活性化に対するニルバジピンの慢性投与の効果を説明する棒グラフである。
【図3】図3は、リポ多糖(LPS)で24時間インビトロ活性化したN9マウスミクログリア細胞における、ミクログリア活性化に対するニルバジピンの効果を説明する棒グラフである。ミクログリア活性化は、ELISAによって測定したTNF−α産生量(pg/ml)によって決定した。
【図4】図4は、30μMの予め凝集したAβ1−40(AgAβ)によって3日間処理したHPNC細胞を用いて、Aβ神経毒性に対するニルバジピン投与の効果を説明する棒グラフである。神経毒性は、細胞から放出された乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)の量を測定することによって評価した。
【図5】図5Aおよび5Bは、APPSWをトランスフェクトされたヒト神経膠芽腫細胞を用いて、APPプロセシングに対するニルバジピンの効果を説明する棒グラフである。細胞を50nMおよび250nMのニルバジピンで24時間(図5A)および48時間(図5B)治療した。培地中のAβ1−40の産生量は、ELISAによって測定した。
【図6】図6は、24時間治療後の、7W WT APP751チャイニーズハムスター卵巣細胞によるAβ1−40産生に対する、ニルバジピンの純粋エナンチオマー型(ニルバジピン1およびニルバジピン2)、ならびに2つのエナンチオマーを等しい割合にて混ぜた混合物(N1+N2)の効果を示す用量反応曲線である。両エナンチオマーは、同じ様式で、用量依存的にAβ1−40産生を阻害しているように見える。
【図7】図7は、24時間治療後の、7W WT APP751チャイニーズハムスター卵巣細胞によるAβ1−42産生に対する、ニルバジピンの純粋エナンチオマー型(ニルバジピン1およびニルバジピン2)、ならびに2つのエナンチオマーを等しい割合にて混ぜた混合物(N1+N2)の効果を示す用量反応曲線である。注目すべきは、純粋エナンチオマーのニルバジピン2、およびニルバジピンのラセミ混合物(N1+N2)は低用量でAβ1−42をわずかに刺激するが、一方でエナンチオマーニルバジピン1は該効果がないということである。
【図8】図8は、ニルバジピンのエナンチオマーの分離を示すキラルクロマトグラフである。Nilva_Peak_1は(−)−ニルバジピン(ニルバジピン1)に相当する;Nilva_Peak_2は(+)−ニルバジピン(ニルバジピン2)に相当する。Nilva_10は、本来のニルバジピンのラセミ混合物を指すが、例示を目的として示している。
【図9】図9は、ラット大動脈におけるFPL64176誘導血管収縮に対する(−)−ニルバジピン(ニルバジピン1)および(+)−ニルバジピン(ニルバジピン2)の効果を示す。データは、(+)−ニルバジピンはFPL64176誘導血管収縮に完全に拮抗するが、一方で(−)−ニルバジピンはL型カルシウムチャネルアゴニストの血管作用性効果に影響しないことを示すが、これは(+)−ニルバジピンはL型カルシウムチャネルブロッカーであるが、一方で(−)−ニルバジピンは該効果がないことを示すものである。
【図10】図10は、生後93週間のTgAPPswマウスにおける脳Aβ1−40およびAβ1−42レベルに対する(−)−ニルバジピンの効果を説明する棒グラフである。(−)−ニルバジピン(10mg/kg体重)の腹腔内投与によって、動物を4日間毎日治療した。
【図11】図11は、生後70週間のTgAPPswマウスにおける脳Aβ1−42レベルに対する(−)−ニルバジピンの持続放出の効果を説明する棒グラフである。皮下に埋め込まれた生分解性ペレットを用いて、動物を26日間治療した。
【図12】図12は、ヒト脳微小血管内皮細胞(HBMEC)の層を含む24ウェル、半透明の、0.4μm膜挿入を用いて、血液脳関門のインビトロモデルを説明する。フルオレセイン−β−アミロイド1−42の頂端部分への遊走を様々な時点で評価した。
【図13】図13は、血液脳関門を通過する脳Aβのクリアランスに対する(−)−ニルバジピンのインビトロ効果を示す棒グラフである。A=頂端部、B=側底部。
【図14】図14は、血液脳関門を通過する脳Aβのクリアランスに対する(−)−ニルバジピン対ニルバジピンラセミ混合物のインビトロ効果を示す棒グラフである。A=頂端部、B=側底部。
【図15】図15は、マウスにおける血漿Aβレベルによって評価した、血液脳関門を通過する脳Aβのクリアランスに対する(−)−ニルバジピンのインビボ効果を示す棒グラフである。
【図16】図16は、血液脳関門を通過する脳Aβのクリアランスに対する生分解性(−)−ニルバジピンペレットのインビボ効果を示す棒グラフである。
【図17】図17Aおよび17Bは、広範な薬物投与量にわたる(+)−ニルバジピン対(−)−ニルバジピンの血管作用性を示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
好ましい実施態様の記載
本発明は、動物およびヒトにおいて、エナンチオマー濃縮された(−)−ニルバジピン(イソプロピル−3−メチル−2−シアノ−1,4−ジヒドロ−6−メチル−4−(m−ニトロフェニル)−3,5−ピリジン−ジカルボキシレート;MW385.4)を投与することによる、アルツハイマー病(AD)などの特定の脳アミロイド形成疾患の特徴である脳変性の避けられない進行に対処するための予防方法および治療方法を提供する。症状の治療、予防、および改善は、本発明の方法に含まれる。
【0019】
特に示さない限り、本明細書で用いられている用語「ニルバジピン」は、ラセミ混合物を指す。本明細書で用いられている用語「エナンチオマー濃縮された」は、(−)−エナンチオマーが過剰に存在し、好ましくは90%以上、95%以上、およびより好ましくは純度の検出限界である100%を含む98%以上の範囲で存在するエナンチオマーの混合物である化合物を指す。例えば、純度はキラルHPLC法による検出によって決定されうる。1つの実施態様では、エナンチオマー過剰率は、主成分から微量成分を引き算することによって計算される。例えば、98%(−)−エナンチオマーおよび2%(+)−エナンチオマーを有するエナンチオマーの混合物は、(−)−エナンチオマーの96%エナンチオマー過剰率として計算されうる。
【0020】
特に、本発明の1つの実施態様は、脳アミロイド形成疾患または状態に苦しむ動物またはヒトにおいて、エナンチオマー濃縮された(−)−ニルバジピンの治療上の有効量を該動物または該ヒトに投与することによって、Aβ沈着、Aβ神経毒性およびミクログリオーシスを減少させる方法を提供する。ADなどのほとんどの脳アミロイド形成疾患は、慢性、進行性、難治性の脳認知症であるため、エナンチオマー濃縮された(−)−ニルバジピン治療の持続期間は、動物またはヒトの一生涯にわたるであろうことが意図される。脳アミロイド形成疾患または状態は、アルツハイマー病、外傷性脳損傷、および脳アミロイド血管症を含み、これらに限定されない。
【0021】
別の実施態様では、本発明は、伝染性海綿状脳症、スクレイピー、またはゲルストマン・ストロイスラー・シャインカー症候群を治療する方法を提供する。
【0022】
本発明の別の実施態様では、外傷性脳損傷(TBI)に苦しむ動物またはヒトにおいて、エナンチオマー濃縮された(−)−ニルバジピンの治療上の有効量をTBI後に該動物または該ヒトに投与し、その後所定の期間、エナンチオマー濃縮された(−)−ニルバジピン治療を継続することによって、Aβ沈着、Aβ神経毒性およびミクログリオーシスのリスクを減少させる方法が提供される。TBIに苦しむ動物またはヒト用に意図されるエナンチオマー濃縮された(−)−ニルバジピン治療の持続期間は、約1時間〜5年間、好ましくは約2週間〜3年間、および最も好ましくは約6ヶ月間〜12ヶ月間にわたりうる。
【0023】
別の実施態様では、脳アミロイド形成疾患と関連する1つ以上または全ての認知および行動特性を含む脳アミロイド形成疾患の臨床特性の治療方法が提供される。例えば、ADに関しては、該特性は、重度の記憶喪失、やり慣れた作業の実施困難、言語障害、見当識障害、判断力の低下、抽象的思考の障害、性格の変化、一連の認知テストにおける気分、もしくは行動、および/または特性スコアなどの症状の非限定的リストを含みうる。該認知テストは、ウェクスラー記憶検査改訂版(WMS−R)、臨床的認知症尺度(CDR)、ミニメンタルステート検査(MMSE)および/またはアルツハイマー病評価尺度−認知機能下位尺度(ADAS)を含む。
【0024】
1つ以上の実施態様において、エナンチオマー濃縮された(−)−ニルバジピンによる治療は、特異的な臨床転帰をもたらしうる。治療についての1つのエンドポイントは、脳アミロイド形成疾患にかかった患者における1つ以上の症状の測定可能な改善である。該改善は、患者を無症状にし得、または治療前の1つ以上の症状と比較して能力の改善を示しうる。あるいは、治療についての1つのエンドポイントは、ベースライン症状レベルを維持することでありうる。言い換えれば、このエンドポイントは、疾患または疾患の1つ以上の症状が永久に、または一定期間にわたって安定化したことを表す。さらに、治療についての1つのエンドポイントは、未治療のコントロールと比較した疾患の進行速度の減少でありうる。さらに、治療は、脳アミロイド形成疾患の発症のリスクがあると考えられるが、1つ以上の症状の臨床所見が現れる前の個人の前治療を含んでよい。疾患の治療への言及は、1つ以上の症状の治療も含むが、該治療は治療的というよりむしろ対症的である。
【0025】
脳アミロイド形成疾患に苦しみ、または外傷性脳損傷に苦しむ動物またはヒトに、本発明の方法に従って任意に単位用量形態にて投与され、さらには該動物または該ヒトにおいて、脳アミロイド形成疾患を発症するリスクの決定および/またはその診断の目的で本発明の方法に従って投与されるエナンチオマー濃縮された(−)−ニルバジピンの治療上の有効量は、約0.05mg〜20mg/日、好ましくは約2mg〜15mg/日、より好ましくは約4mg〜12mg/日、および最も好ましくは約8mg/日の範囲であってよい。1日の投与量は、1日当たり1回の単位用量にて、または2、3もしくは4つに分割した単位用量にて投与してよい。別の実施態様では、エナンチオマー濃縮された(−)−ニルバジピンの治療上の有効量は、最大耐量の限度である16mg/日を越える量である。例えば、エナンチオマー濃縮された(−)−ニルバジピンの治療上の有効量は、16mg/日〜約20mg/日の範囲であってよい。あるいは、エナンチオマー濃縮された(−)−ニルバジピンの治療上の有効量は、約20mg/日、約30mg/日、約40mg/日、約50mg/日、約75mg/日、約100mg/日、約125mg/日、約150mg/日、約175mg/日、約200mg/日、約225mg/日、約250mg/日、約275mg/日、約300mg/日、約325mg/日、約350mg/日、約375mg/日、約400mg/日、約425mg/日、約450mg/日、約475mg/日、約500mg/日、または1日当たりの最大耐量、および、前記の量の間の整数または非整数のいずれかの量であってよい。範囲は変動してよい。例えば、非限定的範囲は、20、40、60、80、または100mg/日の低エンドポイント、ならびに50、100、150、200、250、300、および500mg/日の高エンドポイント、ならびにエンドポイントとして役立ちうる上記の量の範囲内の整数または非整数のいずれかの量を含む。
【0026】
理論によって束縛されることを望むものではないが、降圧効果はニルバジピンのラセミ体の最大耐量を制限しうると考えられている。本発明の1つの実施態様では、エナンチオマー濃縮された(−)−ニルバジピンの治療上の有効量は、エナンチオマー濃縮された(−)−ニルバジピンの投与後に、治療前血圧の約30%未満、約20%未満、約10%未満、約5%未満、および約1%未満からなる群から選択される量の血圧を減少させる。血圧は、様々な方法で測定されうる。例えば、血圧は収縮期圧または拡張期圧として、ミリメーター水銀にて測定されうる。
【0027】
あるいは、血圧は2/3拡張期圧の読み+1/3収縮期圧の読みの式に従って計算されうる。1つの実施態様では、血圧を連続的にモニターし、時間に関して積分し、曲線下面積(AUC)の単一の値を得る。血圧の変化は正常集団と比較したものでもよく、または治療された個人の治療前血圧と比較したものでもよい。1つの実施態様では、治療後血圧は、定常状態の血圧の変化が確立された治療期間後に測定される。例えば、治療後血圧は、約1週間の治療後、約4週間の治療後、約12週間の治療後、約6ヶ月間の治療後などに測定してよい。1つの実施態様では、エナンチオマー濃縮された(−)−ニルバジピンは、正常血圧、または低血圧のヒトまたは動物に投与される。1つの実施態様では、エナンチオマー濃縮された(−)−ニルバジピンは、高血圧のヒトまたは動物に投与される。ヒトにおいては、正常血圧は約90/50mmHg〜約135/90mmHgであると考えられている。ヒトにおいて、正常範囲以下の血圧は低血圧とみなされる。
【0028】
別の実施態様では、本発明の治療薬は、高血圧の患者に投与され、または彼らの血圧レベルにかかわらず患者に投与される。高血圧患者は、降圧薬と同時に治療されてよい。ヒトにおいて、正常範囲以上の血圧は高血圧であるとみなされる。
【0029】
様々な動物についての正常範囲は、標準的な獣医学ハンドブックで見つけることができる。1つの実施態様では、血圧は自然に、または付加的な降圧薬の投与などの医療介入によって正常範囲内にある。
【0030】
さらに別の実施態様では、本発明は、ADなどの脳アミロイド形成疾患に苦しみうる動物またはヒトの中枢神経系における細胞の移植前に、エナンチオマー濃縮された(−)−ニルバジピンの治療上の有効量を神経幹細胞に投与することによって、移植可能なヒトまたは異種神経幹細胞を前治療する方法を提供する。おそらく、神経幹細胞自体は、有意なAβの沈着を有さないであろう。しかしながら、神経移植がAβ負荷環境を対象とする場合、神経幹細胞の前治療は、Aβ濃度およびその中のAβ毒性を減少させることによって、移植神経細胞が新たな環境内で生存する能力を増強するはずである。神経幹細胞を前治療するために投与されるエナンチオマー濃縮された(−)−ニルバジピンの治療上の有効量は、約1nM〜3μM、好ましくは約10nM〜2μM、および最も好ましくは約100nM〜1μMの範囲であってよい。幹細胞は、神経細胞などの特異的な細胞型への分化を目的とする場合、アルツハイマー病、パーキンソン病または脊髄損傷などの疾患および状態を治療するための代替細胞および組織の再生可能な供給源の可能性を提供することが知られている。該細胞が患者に移植され/埋め込まれる場合、エナンチオマー濃縮された(−)−ニルバジピンによって細胞を前治療するだけではなく、移植後も同様にエナンチオマー濃縮された(−)−ニルバジピンによる患者の治療的処置を開始するのがよい。
【0031】
ヒトの中枢神経系のアミロイド沈着、神経毒性およびミクログリオーシスと関連する状態の治療、予防および/または阻害における有効性をテストする前に、本発明の方法はPDAPPおよびTgAPPswマウスモデルなどのADについての周知の遺伝子導入動物モデルについてテストしてよいことを意図している。ADについての該遺伝子導入動物モデルは当該技術分野で周知の標準的な方法を用いて作成され、例えば、米国特許第5,487,992号;第5,464,764号;第5,387,742号;第5,360,735号;第5,347,075号;第5,298,422号;第5,288,846号;第5,221,778号;第5,175,385号;第5,175,384号;第5,175,383号;および第4,736,866号に記載されている。
【0032】
エナンチオマー濃縮された(−)−ニルバジピンは、非経口、経口または腹腔内を含む様々な経路を経由して患者に投与されうる。非経口投与は、下記の経路を含む:静脈内;筋肉内;間質内;動脈内;皮下;眼内;頭蓋内;くも膜下腔内;脳室内;滑膜内;経皮、肺吸入、点眼、舌下およびバッカルを含む経上皮;点眼、皮膚、眼球、直腸、またはガス注入もしくは噴霧経由の経鼻吸入を含む局所。
【0033】
経口的に投与されるエナンチオマー濃縮された(−)−ニルバジピンは、ハードまたはソフトシェルゼラチンカプセル剤に封入され得、または錠剤に圧縮されうる。エナンチオマー濃縮された(−)−ニルバジピンは、賦形剤とも組み合わせられ得、摂取可能な錠剤、バッカル錠剤、トローチ剤、カプセル剤、小袋、ロゼンジ剤、エリキシル剤、懸濁剤、シロップ剤、ウエハーなどの形態にて用いられる。さらに、エナンチオマー濃縮された(−)−ニルバジピンは、散剤もしくは顆粒剤、水性液体もしくは非水性液体中の溶剤もしくは懸濁剤、または水中油型または油中水型乳剤の形態にあってよい。
【0034】
錠剤、トローチ剤、丸剤、カプセル剤などは、例えば、トラガカントゴム、アカシア、トウモロコシデンプンなどの結合剤;リン酸水素カルシウムなどのゲル賦形剤;トウモロコシデンプン、バレイショデンプン、アルギン酸などの崩壊剤;ステアリン酸マグネシウムなどの滑沢剤;スクロース、ラクトースもしくはサッカリンなどの甘味料;または香料も含んでよい。活性成分は、単位用量形態または非単位用量形態にて製剤化され、または投与されてよい。単位剤形がカプセル剤である場合、上記の物質に加えて、液体担体も含んでよい。様々な他の物質がコーティングとして、または単位用量の物理的形態を修飾するために存在してよい。例えば、錠剤、丸剤、またはカプセル剤は、シェラック、糖またはその両方でコーティングされてよい。シロップ剤またはエリキシル剤は、ニルバジピン、甘味料としてスクロース、防腐剤としてメチルパラベンおよびプロピルパラベン、染料ならびに香味剤も含んでよい。さらに、エナンチオマー濃縮された(−)−ニルバジピンは、持続放出製剤(preparations and formulations)に組み込まれてよい。
【0035】
エナンチオマー濃縮された(−)−ニルバジピンは、CNSに非経口または腹腔内投与されうる。遊離塩基または医薬的に許容される塩としてのニルバジピンの溶液は、ヒドロキシプロピルセルロースなどの適当な界面活性剤と混合した水中で製造されうる。分散液は、グリセロール中、液体ポリエチレングリコール中、およびその混合物中、ならびに油中においても製造されうる。保存および使用の通常の条件下、これらの製剤は、微生物の増殖または化学変性を防ぐための防腐剤および/または抗酸化剤も含んでよい。
【0036】
所望の(−)−ニルバジピンエナンチオマーは、そのキラル中心で(R)立体配置を有するものである。本明細書で提供される化合物は、エナンチオマー的に純粋であってよく、または若干の(+)(S)−ニルバジピンを含む立体異性混合物であってよい。本明細書のエナンチオマー濃縮された(−)−ニルバジピンの開示は、いずれかの光学活性型、多型、もしくは立体異性型、またはその混合物を含み、好ましくは本明細書に記載した有用な性質を有し、光学活性型の製造方法および活性を決定する方法は当該技術分野で周知であり、本明細書に記載した標準的なテストを用いて、または当該技術分野で周知である他の類似のテストを用いてなされることは、理解できるであろう。本明細書で用いられている用語「エナンチオマー濃縮された」は、(−)−エナンチオマーが過剰に存在する、好ましくは90%以上、95%以上、およびより好ましくは純度の検出限界である100%を含む98%以上の範囲で存在するエナンチオマーの混合物である化合物を指す。例えば、純度はキラルHPLC法による検出によって決定しうる。
【0037】
化合物の光学異性体を得るために用いられうる方法の例は、下記を含む:
【0038】
i) 結晶の物理的分離−個々のエナンチオマーの巨視的結晶を手動で分離する技術。この技術は、別々のエナンチオマーの結晶が存在する、すなわち、物質が集合体であり、結晶が視覚的に明確である場合に用いられうる;
【0039】
ii) 同時結晶化−個々のエナンチオマーがラセミ化合物の溶液から別々に結晶化される技術であり、後者が固体状態にある集合体である場合にのみ可能である;
【0040】
iii) 酵素的分割−各エナンチオマーと酵素の反応速度が異なることに基づく、ラセミ化合物の部分的または完全分離の技術
【0041】
iv) 酵素的不斉合成−少なくとも1つの合成ステップにて酵素反応を用い、エナンチオマー的に純粋または濃縮された所望のエナンチオマーの合成前駆体を得る合成技術;
【0042】
v) 化学的不斉合成−生成物に不斉(すなわち、キラリティー)を生じる条件下、所望のエナンチオマーがアキラル前駆体から合成される合成技術であり、キラル触媒またはキラル補助基を用いて達成されうる;
【0043】
vi) ジアステレオマー分離−ラセミ化合物、前駆体、または半合成中間体を、個々のエナンチオマーをジアステレオマーに変換するエナンチオマー的に純粋な試薬(キラル補助基)と反応させる技術。次いで、得られたジアステレオマーを、それらのより明確となった構造的相違に基づいてクロマトグラフィーまたは結晶化によって分離し、後でキラル補助基を除去し、所望のエナンチオマーを得る(例えば、Fujisawa Pharmaceutical Co., Ltdに譲渡された米国特許第5,508,413号を参照のこと);
【0044】
vii) 一次および二次不斉転換−ラセミ化合物からのジアステレオマーが平衡化し、所望のエナンチオマーからのジアステレオマーの溶液中での優勢をもたらす技術、または所望のエナンチオマーからのジアステレオマーの優先的な結晶化が平衡を乱し、最終的に原則として全ての物質が結晶性の所望のエナンチオマーからのジアステレオマーに変換する技術。次いで、所望のエナンチオマーはジアステレオマーから放出される;
【0045】
viii) 速度論的分割−この技術は、速度論的条件下、キラルで、非ラセミの試薬または触媒を用いた、各エナンチオマーの不等反応速度に基づくラセミ化合物の部分的または完全分割の(もしくは部分的に分割された化合物のさらなる分割の)達成を指す;
【0046】
ix) 非ラセミ前駆体からのエナンチオ特異的合成−所望のエナンチオマーを非キラル出発物質から得、立体化学的完全性が合成の間に損なわれない、またはごくわずかしか損なわれない合成技術;
【0047】
x) キラル液体クロマトグラフィー−ラセミ化合物の各エナンチオマーを、固定相とそれらの異なる相互作用に基づいて、液体移動相中で分離する技術。固定相はキラル物質で作られていてよく、または移動相は異なる相互作用を誘発する付加的なキラル物質も含んでよい;
【0048】
xi) キラルガスクロマトグラフィー−ラセミ化合物を揮発させ、固定された非ラセミキラル吸着相を含むカラムと気体移動相中の各エナンチオマーの異なる相互作用に基づいてエナンチオマーを分離する技術;
【0049】
xii) キラル溶媒による抽出−1つのエナンチオマーの特定のキラル溶媒への優先的な溶解に基づいて、エナンチオマーを分離する技術;
【0050】
xiii) キラル膜を通過する輸送−ラセミ化合物を薄膜障壁と接触させる技術。障壁は、典型的には2つの混和流体を分離し、1つはラセミ化合物を含み、濃度または圧力差などの駆動力が、膜障壁を通過する優先的な輸送をもたらす。分離は膜の非ラセミキラル性の結果として生じ、ラセミ化合物の1つのエナンチオマーのみが通過することを可能にする。
【0051】
xiv) 液体クロマトグラフィー−キラル固定相に関する各エナンチオマーの分配係数の相違に基づいて、各エナンチオマーを順相溶媒系で分離する技術。この技術は、本明細書に記載した(−)−ニルバジピンおよび(+)−ニルバジピンの光学活性製剤を作成するために利用した(図8を参照のこと)。
【0052】
ニルバジピンのエナンチオマーを下記のように分離した:
【化1】
【化2】
【0053】
ニルバジピンのエナンチオマーの旋光度の文献値は、「Satoh, Y.; Okumura, K.; Shiokawa, Y. Chem. Pharm. Bull. 42(4) 950-952 (1994)」に報告されている。分離した化合物のエナンチオマー純度に関するデータについては、図5を参照のこと。
【0054】
用語「約」は、記載された量の±10%の範囲内、または測定技術の実験誤差の範囲内であることを意味する。語句「から本質的になる組成物」は、示された活性医薬成分を含む組成物を含むことを意味する。1つの実施態様では、語句「から本質的になる」は、記載されていない活性医薬成分を除外するが、医薬的に許容されるビヒクル、担体、もしくは希釈剤、または活性医薬成分が製剤化される様式を除外しない。1つの実施態様では、例えば治療方法において、語句「から本質的になる」は、特定の効能のための唯一の治療薬として1つ以上の活性医薬成分の投与を含んでよいが、一方で、他の理由または効能のために投与される治療薬を除外しない。
【実施例】
【0055】
ADなどのアミロイドーシスと関連する疾患に苦しむ動物またはヒトにおいて、Aβの病理学的効果を減少させる本発明の方法は、下記の非限定的実施例にてより詳細に記載されるであろう。実施例1〜5は、比較の目的でニルバジピンのラセミ体についてのデータを提供する。
【0056】
ニルバジピンエナンチオマーのクロマトグラフィー精製
両ニルバジピンのエナンチオマーのクロマトグラフィー精製は、変性セルロース(Chiral Technologies, West Chester, PA)の固定相を用いた高速液体クロマトグラフィー(HPLC)によって実施した。クロマトグラフィー条件は、下記の通りである:カラム内径、10mm;カラム長さ、250mm;移動相、体積比95:5のヘキサン:エタノール;流速、2.5ml/分;カラム温度、7℃。シグナルベースのフラクションコレクションを用いたニルバジピンのラセミ体の反復注入によって、本明細書に記載した実施例のための精製されたエナンチオマーが得られた。図8を参照のこと。
【実施例1】
【0057】
Aβ沈着(アミロイド負荷)に対するニルバジピンの慢性投与
TgAPPswマウスの脳の異なる領域におけるAβ沈着(アミロイド負荷)に対するニルバジピンの慢性投与の効果を、4G8抗Aβモノクローナル抗体免疫染色技術を用いて調べた。その強いシグナルおよびAβ沈着の定量分析についての最善の結果のために、Aβ負荷の決定に4G8免疫染色技術を選択した。簡潔に説明すると、以前に記載されたように、パラフィン切片に免疫組織化学的検査を実施した(Nakagawa, Y et al., Exp. Neurol., 163:244-252, 2000)。切片をキシレン中で脱パラフィン化し、エタノールおよび脱イオン水中で続けて水和し、Aβの免疫組織化学的検査前に、切片を88%ギ酸中に60分間浸すことによって抗原回復ステップを行った。切片を水中で洗浄し、メタノール(150ml)と過酸化水素(33%、30ml)の新たに製造した混合液を用いて内在性のペルオキシダーゼをクエンチした。アビジン−ビオチン複合法を、製造元(Vector Laboratories, Burlingame, Calif.)の説明書に従って用いた。Aβについてポジティブ染色された脳領域のパーセンテージを決定することによって、アミロイド負荷を評価した。一次抗体の代わりに免疫前血清を適用したことを除いて、ネガティブコントロールは切片に対する同一の免疫組織化学的検査プロトコールの適用を含んだ。TgAPPswマウスを、ニルバジピンの有効量を摂取した実験群(n=7)、およびビヒクルを摂取したコントロール群(n=5)に分けた。
【0058】
図1に示すように、ニルバジピンによる治療は、Aβ負荷を、視覚皮質においてコントロールと比較して約62%、頭頂葉皮質においてコントロールと比較して約65%、運動皮質においてコントロールと比較して約58%、梨状皮質においてコントロールと比較して約58%、海馬のCA1領域においてコントロールと比較して約52%、および海馬のCA2−CA3領域においてコントロールと比較して約50%減少させた。
【実施例2】
【0059】
ミクログリア活性化に対するニルバジピンの慢性投与
CD45+ミクログリアの数を決定するCD45免疫染色技術を用いて、TgAPPswマウスにおけるミクログリア活性化に対するニルバジピンの慢性投与の効果をマウス脳の3つの領域において調べた。
【0060】
簡潔に説明すると、ミクログリアの特異的マーカーであるCD45の免疫組織化学的検査をクライオスタット脳切片について実施した。CD45ポジティブのミクログリア細胞は、CD45に対するマウスモノクローナル抗体(Chemicon International)と4℃で一晩インキュベーションし、次いでビオチン化ウサギ抗マウス二次抗体を30分間適用することによって免疫局在化した。CD45の検出は、CD45ポジティブのミクログリア細胞に対して褐色の細胞表面染色を生じるジアミノベンジジン発色基質を用いて行った。
【0061】
図2に示すように、有効な投与量にて投与されたニルバジピン治療薬は、コントロールと比較して、ミクログリア活性化を海馬において約33%、頭頂葉皮質において約43%、および運動皮質において約27%減少させた。
【実施例3】
【0062】
ミクログリア活性化に対するニルバジピン投与の効果
リポ多糖(LPS)で24時間インビトロ活性化したN9マウスミクログリア細胞における、ミクログリア活性化に対するニルバジピンの効果を調べた。N9マウスミクログリア細胞は、マウス胎児脳に由来する、特徴がはっきりしたスカベンジャーマウスミクログリアクローンである。ミクログリア活性化の程度は、ELISAによって測定したTNF−α産生量(pg/ml)により決定した。図3に示すように、LPSで活性化しなかったミクログリア細胞(コントロール細胞)は、約40pg/mlのTNF−αを産生した。50nMニルバジピンの存在下のミクログリア細胞は、約40pg/mlのTNF−αを産生した。ニルバジピン投与量を10倍増加(500nM)しても、TNF−α産生量は変化しなかった。1μg/m1のLPSの存在下のミクログリア細胞は、約820pg/mlのTNF−αを産生したが、これはコントロール細胞およびニルバジピン投与細胞から約95%の増加である。1μg/m1のLPSと50nMニルバジピンの両方の存在下のミクログリア細胞は、約670pg/mlのTNF−αを産生した。LPSと500nMニルバジピンを投与すると、TNF−α産生量が約610pg/mlまで減少した。それゆえ、ニルバジピンは、LPS誘導ミクログリア活性化を約20〜25%阻害したことになる。
【実施例4】
【0063】
Aβ神経毒性に対するニルバジピン投与の効果
Aβ神経毒性に対するニルバジピン投与(10nMおよび100nM)の効果を、30μMの予め凝集したAβ1−40(AgAβ)によって3日間処理したヒト神経前駆細胞(HNPC)を用いて調べた。HNPC細胞は、サイクリックAMPで処理すると、容易に神経細胞に分化する。サイクリックAMP(1mM)(Sigma)を培地に加え、HNPC細胞を無血清条件下、37℃で48時間以上インキュベートした。ほとんどの細胞が微小管結合タンパク質であるMAP−2に対する抗体で染色されたことによって確認されたように、この培地は、前駆細胞が神経細胞系の細胞へ分化することを可能にした。細胞から放出された乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH;全ての細胞に見られる細胞内酵素)の量を測定することによって神経毒性を評価した。
【0064】
図4に示すように、AgAβによる細胞の処理は、ニルバジピンによる細胞の処理と比較して、LDH放出の約44%の増加を生じた。AgAβと共に10nMニルバジピンを加えた場合、LDH放出の変化はなかった。しかしながら、ニルバジピンの投与量を10倍増加させて100nMとした場合、LDH放出の量は約44%減少した。
【実施例5】
【0065】
APPプロセシングに対するニルバジピン投与の効果
APPプロセシングに対するニルバジピンの効果を、APPswをトランスフェクトされたヒト神経膠芽腫細胞を用いて調べた。細胞を50nMおよび250nMニルバジピンによって24および48時間治療し、培地中のAβ1−40の産生量を、市販のヒトAβ1−40ELISA(Biosource, CA)を用いることによって測定した。
【0066】
図5Aに示すように、24時間の治療後、50nMのニルバジピンはAβ1−40の産生量を約9%減少させ、250nMのニルバジピンはAβ1−40産生量を約15%減少させた。48時間の治療後(図5B)、50nMのニルバジピンはAβ1−40の産生量を約18%減少させ、250nMのニルバジピンはAβ1−40産生量を約5%減少させた。
【実施例6】
【0067】
Aβレベルに対する様々な用量のニルバジピンのラセミ体および分離したエナンチオマーの効果
Aβ1−40およびAβ1−42産生に対するニルバジピンの純粋エナンチオマー型、(−)−ニルバジピン(ニルバジピン1)および(+)−ニルバジピン(ニルバジピン2)(図8)、ならびに2つのエナンチオマーの混合物(等しい割合にて)の効果を、24時間治療後の7W WT APP751チャイニーズハムスター卵巣細胞を用いて調べた。培地中のAβ1−40およびAβ1−42の産生量は、それぞれ市販のヒトAβ1−40ELISA(Biosource, CA)および市販のヒトAβ1−42ELISA(Biosource, CA)を用いることによって測定した。
【0068】
図6に示すように、両エナンチオマーは、同じ様式で用量依存的にAβ1−40産生を阻害しているように見える。しかしながら、(+)−ニルバジピン(ニルバジピン2)およびニルバジピンのラセミ混合物(N1+N2)が低用量でAβ1−42をわずかに刺激する一方で、(−)−ニルバジピン(ニルバジピン1)はこの効果を示していない(図7)。
【実施例7】
【0069】
ラット大動脈における血管収縮に対する分離したニルバジピンのエナンチオマーの効果
ラット大動脈におけるFPL64176誘導血管収縮に対するニルバジピンの純粋エナンチオマー型、(−)−ニルバジピン(ニルバジピン1)および(+)−ニルバジピン(ニルバジピン2)(図8)の効果を調べた。正常なオスのスプラーグドーリーラット(生後7〜8ヶ月)を人道的に安楽死させ、新たに解剖したラット大動脈を3mmの輪に分割し、血管浴装置(vessel bath apparatus)内で留め金に掛けてクレブス緩衝液に懸濁した。これらの留め金を、MacLab systemと連結したアイソメトリックトランスデューサー(isometric transducer)と接続した。大動脈輪を組織浴システム(tissue bath system)内で2時間平衡化し、クレブス緩衝液を30分毎に交換した。2gのベースライン張力を各大動脈輪に適用した。L型カルシウムチャネルの強力な選択的アゴニストである1μMのFPL64176(2,5−ジメチル−4[2−(フェニルメチル)ベンゾイル]−1H−ピロール−3−カルボン酸メチルエステル)を加える2分前に、大動脈輪を100nMの(−)−ニルバジピン(ニルバジピン1)もしくは100nMの(+)−ニルバジピン(ニルバジピン2)で前治療し、または治療しなかった。大動脈輪をFPL64176で30分間収縮させた。ベースラインと比較した収縮量(gにて)を決定し、該値の全ての平均値および標準偏差を計算した。
【0070】
図9に示すように、(+)−ニルバジピンはFPL64176誘導血管収縮に完全に拮抗するが、一方で(−)−ニルバジピンはL型カルシウムチャネルアゴニストの血管作用性効果を生じないが、これは(+)−ニルバジピンはL型カルシウムチャネルブロッカーであるが、一方で(−)−ニルバジピンは該効果がないことを示す。本明細書で示すデータは、FPL64176で誘発した場合の(−)−エナンチオマーのベースライン大動脈収縮を実証するが、これは血管作用性(すなわち、誘導血管収縮の拮抗作用)を示すラセミ混合物または(+)−エナンチオマーと比較して、(−)−エナンチオマーの血管作用性が減少したことと相関する。
【実施例8】
【0071】
脳Aβレベルに対する(−)−ニルバジピンの効果
脳Aβ1−40およびAβ1−42レベルに対する分離した(−)−ニルバジピンの効果を調べた。生後93週間のオスの遺伝子導入APPswマウス(TgAPPsw系統2576)に、DMSOに溶解した10mg/Kg体重の(−)−ニルバジピン(n=4)、または同容量のビヒクル(100μL)(n=4)を毎日、腹腔内注入した。4日間の治療後、最後の注入の1時間後に動物を人道的に安楽死させ、それらの脳を収集し、液体窒素中で急速凍結した。1Xプロテアーゼ阻害剤カクテルIV(Calbiochem, CA)を含む蒸留水中、4℃で脳をホモジナイズし、4℃で30分間、14,000rpmで遠心分離した。ペレットをTris HCl緩衝液(pH=8)に溶解した等量の5Mグアニジンと再懸濁し、室温で1時間インキュベートした。タンパク質濃度は、グアニジン処理したサンプル中でBCA法(Biorad, CA)によって決定した。Aβ1−40およびAβ1−42レベルをELISA(Biosource, CA)によって評価し、結果はAβ1−40またはAβ1−42のpg/mgタンパク質にて報告した。
【0072】
図10に示すように、(−)−ニルバジピンをTgAPPswマウスに用量10mg/kg体重で4日間毎日投与すると、コントロール動物と比較して、Aβ1−42(pg/ml)の脳内レベルが26%減少し、Aβ1−40の脳内レベルが43%減少した。
【実施例9】
【0073】
脳Aβレベルに対する持続放出(−)−ニルバジピンの効果
脳Aβ1−42レベルに対する(−)−ニルバジピンの持続放出の効果を調べた。生後66週間のTgAPPsw(TgAPPsw系統2576)の皮下に、30mg/Kg体重/日の(−)−ニルバジピンの継続的な持続放出を保証する(−)−ニルバジピンの生分解性ペレット(n=5)、56mg/Kg/日の放出を保証する(−)−ニルバジピンの生分解性ペレット(n=6)、または30日間プラセボを放出するペレット(n=6)を埋め込んだ。ペレット埋め込みの26日後に動物を人道的に安楽死させ、それらの脳を収集し、液体窒素中で急速凍結した。1Xプロテアーゼ阻害剤カクテルIV(Calbiochem、CA)を含む蒸留水中、4℃で脳をホモジナイズし、4℃で30分間、14,000rpmで遠心分離した。上清をTris HCl緩衝液(pH=8)に溶解した等量の5Mグアニジンと再懸濁し、室温で1時間インキュベートした。タンパク質濃度は、グアニジン処理したサンプル中でBCA法(Biorad, CA)によって決定した。Aβ1−42レベルをELISA(Biosource, CA)によって評価し、結果はAβ1−42のpg/mgタンパク質にて報告した。
【0074】
図11に示すように、TgAPPswマウスに持続放出(−)−ニルバジピンを投与すると、プラセボペレットを埋め込まれたマウスと比較して、30mg/Kg/日の(−)−ニルバジピンの持続放出ペレットを投与されたマウスについては脳Aβ1−42のレベルが2倍減少し、一方で56mg/Kg/日の持続放出ペレットで治療した動物ではAβ1−42の2.5倍の減少が観察された。
【実施例10】
【0075】
血液脳関門を通過する脳Aβレベルのクリアランスに対する(−)−ニルバジピンの効果
インビトロモデル
インビトロおよびインビボモデルの両方を用いて、血液脳関門(BBB)を通過する脳Aβのクリアランスレベルに対する(−)−ニルバジピンの効果を調べた。インビトロモデルを図12に示す。2μMフルオレセイン−β−アミロイド(1−42)を含む内皮細胞培養培地(ECM, ScienCell Research Laboratories)(3)を側底(供与)部分に置いた。膜の頂端(受容)側を、ECM中の様々なジヒドロピリジン(DHP)化合物(1、5、および10μM)にさらした(2)。各群におけるフルオレセイン−β−アミロイド(1−42)の初濃度を確定するために、時間0で供与部分をサンプリングした。蛍光アミロイドを含むウェルに挿入をさらした後、90分間の様々な時点で頂端部分からサンプルを収集し(1)、ヒト脳微小血管内皮細胞(HBMEC)単層(4)を(側底から頂端へ)通過するフルオレセイン−β−アミロイド(1−42)の移動を評価した。BioTek Synergy HTマルチ検出マイクロプレートリーダー(Winooski, VT)を用いて、フルオレセイン−β−アミロイド(1−42)についてサンプルを分析した(λex=485nmおよびλem=516nm)。フルオレセイン−β−アミロイド(1−42)の見かけの透過率(Papp)は、式Papp=1/AC0*(dQ/dt)を用いて決定したが、ここでAは膜の表面積を表し、C0は側底供与部分におけるフルオレセイン−β−アミロイド(1−42)の初濃度であり、dQ/dtは一定時間内(polli)に頂端受容部分に現れるフルオレセイン−β−アミロイド(1−42)の量である。(−)−ニルバジピン存在下のフルオレセイン−β−アミロイド(1−42)のPappをコントロールウェルと比較し、パーセンテージとして表している。
【0076】
図13に示すように、血液脳関門のインビトロモデルにおいて、(−)−ニルバジピンは、脳側(B)から末梢側(A)へのAβの輸送を用量依存的に刺激する。
【0077】
BBBを通過する脳Aβのクリアランスに対する(−)−ニルバジピン対ニルバジピンラセミ混合物のインビトロ効果を調べるために、インビトロモデルも用いた。これらの実験において、上記のプロトコールと類似するプロトコールを用いたが、主な相違は比較のためのラセミ混合物の追加である。図14に示すように、(−)−ニルバジピンおよびニルバジピンラセミ混合物の両方は、インビトロモデルにおいて、脳(B)から末梢(A)への血液脳関門を通過するAβの輸送を用量依存的に刺激する。
【0078】
インビボモデル
インビボモデルを用いて、BBBを通過する脳Aβのクリアランスレベルに対する(−)−ニルバジピンの効果を調べた。野生型のメスのB6/SJLマウスを、3%イソフルラン/酸素混合物を用いた吸入によって麻酔した。麻酔中、マウスにビヒクル(DMSO)または(−)−ニルバジピンを腹腔内(i.p.)注入した。腹腔内注入から5分後、マウスに3μlのヒトβ−アミロイド(1−42)(1mMのDMSO溶液)を、脳の脳室内領域(十字縫合に対して3mm後部、1.0mm側部、脳の表面下4mm)に定位的に注入した。ヒトβ−アミロイド(1−42)の注入から10分後、マウスを安楽死させた。血漿サンプルを収集し、ヒトβ−アミロイド(1−42)用のサンドイッチELISAを用いて、ヒトβ−アミロイド(1−42)について分析した。(−)−ニルバジピンで治療したマウスから収集した血漿サンプル中のβ−アミロイド(1−42)のレベルを、ビヒクルのみを摂取させたマウスと比較した。さらに、類似の実験を、(−)−ニルバジピンの生分解性ペレットまたはプラセボを皮下に埋め込まれた動物を用い、ペレット埋め込みから13日後にAβ1−42を脳内注入して実施した。動物を用いた全ての実験は、所内の動物管理使用委員会(Institutional Animal Care and Use Committee)によって承認されたプロトコールに従って実施した。
【0079】
図15に示すように、ニルバジピンラセミ混合物および(−)−ニルバジピンの両方は、血液脳関門を通過するAβの輸送をインビボで増加させる。(−)−ニルバジピンは2mg/Kg体重で脳から血液へのAβのクリアランスを2倍刺激し、投与量5mg/Kg体重で4倍刺激するが、一方でニルバジピンラセミ混合物はAβのクリアランスを、投与量2mg/Kg体重で4倍増加させる。
【0080】
図16は、(−)−ニルバジピンの生分解性ペレットまたはプラセボを皮下に埋め込まれ、ペレット埋め込みから13日後にAβ1−42を脳内注入された動物を用いて、BBBを通過する脳Aβレベルのクリアランスに対する(−)−ニルバジピンの効果を説明する棒グラフである。図16に示すように、生分解性ペレットによって保証される投与量30mg/Kg体重/日の(−)−ニルバジピンの持続放出は、プラセボペレットを埋め込まれたコントロールマウスと比較して、脳内Aβのクリアランスを3倍増加させる。
【0081】
血液脳関門(BBB)を通過する脳Aβのクリアランスレベルに対する(−)−ニルバジピンの効果についてのこれらのインビトロおよびインビボ研究は、潜在的に治療と関連する結果を明らかにするものである。データは、クリアランスに対する(−)−ニルバジピンの効果は、BBBを通過する脳Aβの遊走を増加させることであることを示唆する。これは、(−)−ニルバジピンの投与後に観測された血清Aβレベルの増加に基づくものである。
【0082】
図17AおよびBに示すように、血管収縮のFPL64176ラット大動脈モデルにおいて、(−)−ニルバジピンは、(+)−ニルバジピンと比較して、血管作用性を示す前にはるかに高用量が投与されうる。
【0083】
一般的結論
ニルバジピンの異なるエナンチオマーの効果に関して、(+)−ニルバジピンおよびニルバジピンのラセミ体は低用量でわずかにAβ1−42を刺激するが、両エナンチオマーはAβ1−40産生を同じ様式で用量依存的に阻害するように見える。Aβ1−42に対する(−)−ニルバジピンの効果はより低く、統計的に有意ではない。例えば、図6および7を参照のこと。驚くべきことに、(+)−ニルバジピンはFPL64176誘導血管収縮に完全に拮抗するが、一方で(−)−ニルバジピンはL型カルシウムチャネルアゴニストのFPL64176誘導血管収縮に拮抗しないことも発見された。本明細書で示すデータは、FPL64176で誘発された場合の(−)−エナンチオマーについてのベースライン大動脈収縮を実証するが、これは、血管作用性(すなわち、誘導血管収縮の拮抗作用)を示すラセミ混合物または(+)−エナンチオマーと比較して、(−)−エナンチオマーの血管作用性が減少したことと相関する。脳Aβレベルに対する(−)−ニルバジピンの影響の評価は、TgAPPswマウスにおいて、(−)−ニルバジピン(10mg/kg体重/日)の投与が、わずか4日間の治療後に、Aβ1−42(pg/ml)の脳内レベルの26%減少、およびAβ1−40の脳内レベルの43%減少をもたらすことを示す。図11に示すように、持続放出(−)−ニルバジピンのTgAPPswマウスへの26日間にわたる投与は、プラセボペレットを埋め込まれたマウスと比較して、30mg/Kg/日の(−)−ニルバジピンの持続放出ペレットを投与されたマウスについて脳Aβ1−42のレベルの2倍減少をもたらし、一方で56mg/Kg/日の持続放出ペレットで治療された動物においてAβ1−42の2.5倍減少が観察された。
【0084】
血液脳関門(BBB)を通過する脳Aβのクリアランスレベルに対する(−)−ニルバジピンの効果のインビトロおよびインビボ研究は、予想外の有望な結果も生じる。データは、このクリアランスに対する(−)−ニルバジピンの効果は、BBBを通過する脳Aβの遊走を増加させることであることを示唆する。これは、(−)−ニルバジピンの投与後に観察された血清Aβレベルの増加に基づくものである。
【0085】
上記データを考慮すると、ADなどの脳アミロイド形成疾患に苦しむ動物またはヒトに対するエナンチオマー濃縮された(−)−ニルバジピン投与は、血圧または他の可能性のある副作用に不必要に影響することなく、Aβ沈着の量を、該病理学的な沈着が多量に存在することが特徴的に示されている脳の危険域において有意に減少させ得、さらに、既に脳内に沈着したAβの量を減少させることが推定されうる。さらに、エナンチオマー濃縮された(−)−ニルバジピン投与は、ADに見られる広範で壊滅的な神経破壊の原因であると考えられているAβの神経毒性効果に対抗し得、AD患者の脳内に見られる特徴的な炎症反応をもたらすミクログリア活性化を減少させ、副作用も減少させる。最後に、エナンチオマー濃縮された(−)−ニルバジピン治療は、所望でない副作用をもたらすことなく、ADなどの脳アミロイド形成疾患に苦しむ動物またはヒトの脳内に既に沈着したAβの濃度を減少させうる。
【0086】
本発明の精神または範囲から逸脱することなく、様々な修飾および変更が本発明の方法になされてよいことは当業者には明らかであろう。それゆえ、本発明は添付の特許請求の範囲およびそれらの均等物の範囲内にある修飾および変更を含むことを意図する。本明細書で引用された全ての参考文献は、参照することにより援用される。
【技術分野】
【0001】
本出願は、2007年10月5日に出願された米国仮特許出願第60/977,953号、および2008年4月18日に出願された米国仮特許出願第61/046,109号に対する優先権を主張するものであって、各出願の全内容は参照することにより援用される。
【0002】
発明の分野
本発明は、アルツハイマー病などの脳アミロイド形成疾患の病態生理学的効果を治療する方法に関する。より具体的には、該方法は、アルツハイマー病などの脳アミロイドーシスと関連する疾患に苦しむ動物またはヒトの脳内の病態生理学的効果に対抗するために、ニルバジピンのラセミ混合物と比較して降圧副作用が減少したニルバジピンの(−)エナンチオマーを投与することを含む。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
関連技術の説明
アルツハイマー病(AD)は、最も一般的な老化の神経変性障害であり、65歳を超える人口のおよそ1%を苦しめている。該疾患の特性は、脳内の細胞内神経原線維変化、細胞外実質にある老人斑、および脳血管沈着の進行性の蓄積を含む。老人斑および脳血管沈着の主成分は、39〜43個のアミノ酸からなるβ−アミロイドペプチド(Aβ)であり、膜貫通糖タンパク質であるアミロイド前駆体タンパク質(APP)のタンパク質分解に由来する。
【0004】
APPは1回膜貫通タンパク質であり、590〜680個のアミノ酸からなる細胞外アミノ末端ドメイン、および約55個のアミノ酸からなる細胞質側末端からなる。染色体21上のAPP遺伝子のメッセンジャーRNAは、選択的スプライシングを経て、8つの可能なアイソフォームを生じ、その3つ(695、751および770個のアミノ酸からなるアイソフォーム)が脳内で優勢的である。APPは、α−、β−およびγ−セクレターゼと呼ばれる3つの酵素活性によるタンパク質分解プロセシングを経る。α−セクレターゼは、Aβドメインのアミノ酸17でAPPを切断し、大型の可溶性アミノ末端断片α−APPを分泌用に放出する。α−セクレターゼはAβドメイン内でAPPを切断するため、この切断はAβ形成を妨げる。あるいは、APPはβ−セクレターゼによって切断され得、Aβのアミノ末端を定義し、可溶性アミノ末端断片β−APPを生じる。続くAPPの細胞内カルボキシ末端ドメインのγ−セクレターゼによる切断は、複数のペプチドの発生をもたらし、最も一般的な2つは、40個のアミノ酸からなるAβ(Aβ40)および42個のアミノ酸からなるAβ(Aβ42)である。Aβ40は分泌されたAβの90〜95%を含み、脳脊髄液から回収される優勢的な種である(Seubert et al., Nature, 359:325-7, 1992)。対照的に、分泌されたAβの10%未満がAβ42となる。Aβ42産生の相対的な不足にもかかわらず、Aβ42は斑内で見られる優勢的な種であり、初期に沈着するが、これはおそらく、Aβ40よりも急速に不溶性アミロイド凝集を形成するその能力によるものであろう(Jarrett et al., Biochemistry, 32:4693-7, 1993)。脳内におけるAβの異常な蓄積は、APPの過剰発現またはプロセシングの変化のいずれかによるものであると考えられている。
【0005】
ADの家族型と関連する全ての突然変異はAPPから生じるこれらのペプチドのプロセシングの変化をもたらすため、AβペプチドはADの病理生物学において重要な役割を果たすと考えられている。実際に、不溶性の、または凝集したAβの原線維の脳内における沈着は、対象の遺伝的素因にかかわらず、全ての型のADの顕著な神経病理学的特徴である。
【0006】
Aβ沈着に伴い、Aβ沈着およびその周囲における炎症誘発性サイトカインおよび急性期反応物の産生を含む、AD脳内の炎症経路の強い活性化がある(McGeer et al., J Leukocyte Biol., 65:409-15, 1999)。脳に常在する自然免疫細胞であるミクログリアの活性化は、この炎症カスケードに本質的に関連すると考えられる。反応性ミクログリアは、炎症性タンパク質などの炎症誘発性サイトカイン、ならびにα−1−抗キモトリプシン、形質転換成長因子β、アポリポタンパク質Eおよび補体因子などの急性期反応物を産生し、その全てがAβ斑に局在化してAβ斑「濃縮」または成熟を促進し(Nilsson et al., J. Neurosci. 21:1444-5, 2001)、高レベルに神経変性を促進することが実証されている。疫学的研究によると、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDS)を使用している患者はADのリスクが50%も減少することが分かっており(Rogers et al., Neurobiol. Aging 17:681-6, 1996)、NSAID治療を経験したAD患者の死後評価によると、リスク減少は活性化ミクログリアの数の減少と関連することが実証されている(Mackenzie et al., Neurology 50:986-90, 1998)。さらに、アルツハイマー病用のマウスモデルであるTgAPPswマウスにNSAID(イブプロフェン)を与えると、これらの動物は、ミクログリア活性化の減少と関連するAβ沈着、星状細胞増加症、およびジストロフィー性神経炎(dystrophic neuritis)の減少を示す(Lim et al., J. Neurosci. 20:5709-14, 2000)。
【0007】
それゆえ、AD脳内の炎症過程の産物は、AD病状を悪化させうる。さらに、AD脳内の活性化ミクログリアは、Aβを除去する代わりにAβ原線維形成を促進し、結果、老人斑として沈着を生じることによって病原となるという証拠がある(Wegiel et al., Acta Neuropathol. (Berl.) 100:356-64, 2000)。
【0008】
AD発病はAβの神経毒性によることも示唆されている。Aβの細胞毒性は、げっ歯類脳由来の初代細胞培養において最初に確立され、ヒト細胞培養においても確立されている。マットソンら(Mattson et al.)の研究(J. Neurosci., 12:376-389, 1992)は、興奮性神経伝達物質のグルタミン酸塩の存在下、Aβが細胞内カルシウムの即時的な病理学的増加をもたらすことを示しているが、カルシウムは二次メッセンジャー活性が大きく増加することによって強力な細胞毒性をもたらすと考えられている。
【0009】
米国特許出願第2005/0009885号(2005年1月13日)(Mullan et al.)は、ニルバジピンを用いてAβ沈着を減少させる方法、さらにはニルバジピンを用いて脳アミロイド形成疾患を診断する方法を開示している。しかしながら、米国特許第4,338,322号は、ニルバジピンの降圧効果について記載している。ニルバジピン(NIVADIL(登録商標))は、アイルランドにおいて、8mg/日、または8mg/日で適切な降圧効果が達成されない場合には16mg/日の用量で高血圧症の治療用の規制認可を受けている。ニルバジピンの(+)−エナンチオマーの降圧効果を開示している米国特許第5,508,413号も参照のこと。ニルバジピンのラセミ体およびその被験者の局所脳血流に対する効果は、羽生ら(Hanyu et al.)(Nuclear Medicine Communications, vol. 28, no. 4, pages 281-287, April 2007)において報告されている。
【0010】
上記の報告にもかかわらず、ADの特徴である脳変性の避けられない進行の予防法であり、AD患者に見られるAβ沈着、Aβ神経毒性、ミクログリア活性化炎症、およびAPPの発現の変化または過剰発現に対処する予防法であり、治療上有効な処置を提供し、血圧の所望でないまたは過剰な減少などの副作用が最小限である予防法が必要である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
この必要性を満たすために、本発明は、アルツハイマー病(AD)などの脳アミロイド形成疾患に苦しむ動物またはヒトにおいて、エナンチオマー濃縮された(−)−ニルバジピンの治療上の有効量を該動物または該ヒトに投与することによって、Aβ沈着、Aβ神経毒性およびミクログリオーシスを減少させる方法を提供する。特に、本発明は、同量のニルバジピンのラセミ体と比較して低血圧効果が減少したエナンチオマー濃縮された(−)−ニルバジピンの投与を提供する。さらに、エナンチオマー濃縮された(−)−ニルバジピンの投与は、低血圧効果の減少のために、ニルバジピンのラセミ体または(+)−ニルバジピンの投与と比較して、投与量の増加を可能にする。例えば、本明細書で示すデータは、FPL64176で誘発した場合の(−)−エナンチオマーのベースライン大動脈収縮を実証するが、これは血管作用性(すなわち、誘導血管収縮の拮抗作用)を示すラセミ混合物または(+)−エナンチオマーと比較して、(−)−エナンチオマーの血管作用性が減少していることと相関する。好ましい実施態様では、(−)−エナンチオマーは投与される組成物中に過剰に存在し、エナンチオマー過剰率は好ましくは90%以上、95%以上、およびより好ましくは純度の検出限界である100%を含む98%以上である。
【0012】
本発明は、外傷性脳損傷に苦しむ動物またはヒトにおいて、エナンチオマー濃縮された(−)−ニルバジピンの治療上の有効量を頭部損傷後に該動物または該ヒトに投与し、その後所定の期間、エナンチオマー濃縮された(−)−ニルバジピン治療を継続することによって、Aβ沈着、Aβ神経毒性およびミクログリオーシスのリスクを減少させる方法をさらに提供する。特に、本発明は、同量のニルバジピンのラセミ体と比較して低血圧効果が減少したエナンチオマー濃縮された(−)−ニルバジピンの投与を提供する。さらに、エナンチオマー濃縮された(−)−ニルバジピンの投与は、低血圧効果の減少のために、ニルバジピンのラセミ体の投与と比較して投与量の増加を可能にする。好ましい実施態様では、(−)−エナンチオマーは投与される組成物中に過剰に存在し、エナンチオマー過剰率は好ましくは90%以上、95%以上、およびより好ましくは純度の検出限界である100%を含む98%以上である。
【0013】
本発明は、脳アミロイド形成疾患または状態を発症するリスクがあると診断された動物およびヒトにおいて、エナンチオマー濃縮された(−)−ニルバジピンの治療上の有効量を該動物または該ヒトに投与することを含む方法であって、該エナンチオマー濃縮された(−)−ニルバジピン投与を脳アミロイド形成疾患または状態を発症するリスクの診断後に開始し、脳アミロイド形成疾患または状態を発症するリスクを減少させ、その発症もしくは進行を遅延させ、またはその症状を安定させる方法も提供する。特に、本発明は、同量のニルバジピンのラセミ体と比較して低血圧効果が減少したエナンチオマー濃縮された(−)−ニルバジピンの投与を提供する。さらに、低血圧効果の減少のために、ニルバジピンのラセミ体の投与と比較して、エナンチオマー濃縮された(−)−ニルバジピンの投与は投与量の増加を可能にする。好ましい実施態様では、(−)−エナンチオマーは投与される組成物中に過剰に存在し、エナンチオマー過剰率は好ましくは90%以上、95%以上、およびより好ましくは純度の検出限界である100%を含む98%以上である。
【0014】
本発明は、脳アミロイド形成疾患と関連する1つ以上または全ての認知および行動特性を含む脳アミロイド形成疾患の臨床特性の治療を提供する。例えば、ADに関しては、該特性は重度の記憶喪失、やり慣れた作業の実施困難、言語障害、見当識障害、判断力の低下、抽象的思考の障害、性格の変化、一連の認知テストにおける気分、もしくは行動、および/または特性スコアなどの症状の非限定的リストを含みうる。該認知テストは、ウェクスラー記憶検査改訂版(WMS−R)、臨床的認知症尺度(CDR)、ミニメンタルステート検査(MMSE)および/またはアルツハイマー病評価尺度−認知機能下位尺度(ADAS)を含む。
【0015】
本発明は、特異的な臨床転帰をもたらしうるエナンチオマー濃縮された(−)−ニルバジピンによる治療を提供する。治療についての1つのエンドポイントは、脳アミロイド形成疾患にかかった患者における1つ以上の症状の測定可能な改善である。該改善は、患者を無症状にし得、または治療前の1つ以上の症状と比較して能力の改善を示しうる。あるいは、治療についての1つのエンドポイントは、ベースライン症状レベルを維持することでありうる。言い換えれば、このエンドポイントは、疾患または疾患の1つ以上の症状が永久に、または一定期間にわたって安定化したことを表す。さらに、治療についての1つのエンドポイントは、未治療のコントロールと比較した疾患の進行速度の減少でありうる。さらに、治療は、脳アミロイド形成疾患の発症のリスクがあると考えられるが、1つ以上の症状の臨床所見が現れる前の個人の前治療を含んでよい。疾患の治療への言及は、1つ以上の症状の治療も含むが、該治療は治療的というよりむしろ対症的である。
【0016】
本発明は、ADなどの脳アミロイド形成疾患に苦しむ動物またはヒトの中枢神経系における幹細胞の移植前に、エナンチオマー濃縮された(−)−ニルバジピンの一定量を神経幹細胞に投与することを含む、移植可能な神経幹細胞を治療する方法も提供する。投与される量は、所望の細胞保護効果を達成する量である。好ましい実施態様では、(−)−エナンチオマーは投与される組成物中に過剰に存在し、エナンチオマー過剰率は好ましくは90%以上、95%以上、およびより好ましくは純度の検出限界である100%を含む98%以上である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は、4G8免疫染色技術を用いて、TgAPPswマウスの脳の異なる領域におけるAβ沈着(Aβ負荷)に対するニルバジピンの慢性投与の効果を説明する棒グラフである。
【図2】図2は、CD45+ミクログリアの数を決定するCD45免疫染色技術を用いて、TgAPPswマウスの脳の3つの領域におけるミクログリア活性化に対するニルバジピンの慢性投与の効果を説明する棒グラフである。
【図3】図3は、リポ多糖(LPS)で24時間インビトロ活性化したN9マウスミクログリア細胞における、ミクログリア活性化に対するニルバジピンの効果を説明する棒グラフである。ミクログリア活性化は、ELISAによって測定したTNF−α産生量(pg/ml)によって決定した。
【図4】図4は、30μMの予め凝集したAβ1−40(AgAβ)によって3日間処理したHPNC細胞を用いて、Aβ神経毒性に対するニルバジピン投与の効果を説明する棒グラフである。神経毒性は、細胞から放出された乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)の量を測定することによって評価した。
【図5】図5Aおよび5Bは、APPSWをトランスフェクトされたヒト神経膠芽腫細胞を用いて、APPプロセシングに対するニルバジピンの効果を説明する棒グラフである。細胞を50nMおよび250nMのニルバジピンで24時間(図5A)および48時間(図5B)治療した。培地中のAβ1−40の産生量は、ELISAによって測定した。
【図6】図6は、24時間治療後の、7W WT APP751チャイニーズハムスター卵巣細胞によるAβ1−40産生に対する、ニルバジピンの純粋エナンチオマー型(ニルバジピン1およびニルバジピン2)、ならびに2つのエナンチオマーを等しい割合にて混ぜた混合物(N1+N2)の効果を示す用量反応曲線である。両エナンチオマーは、同じ様式で、用量依存的にAβ1−40産生を阻害しているように見える。
【図7】図7は、24時間治療後の、7W WT APP751チャイニーズハムスター卵巣細胞によるAβ1−42産生に対する、ニルバジピンの純粋エナンチオマー型(ニルバジピン1およびニルバジピン2)、ならびに2つのエナンチオマーを等しい割合にて混ぜた混合物(N1+N2)の効果を示す用量反応曲線である。注目すべきは、純粋エナンチオマーのニルバジピン2、およびニルバジピンのラセミ混合物(N1+N2)は低用量でAβ1−42をわずかに刺激するが、一方でエナンチオマーニルバジピン1は該効果がないということである。
【図8】図8は、ニルバジピンのエナンチオマーの分離を示すキラルクロマトグラフである。Nilva_Peak_1は(−)−ニルバジピン(ニルバジピン1)に相当する;Nilva_Peak_2は(+)−ニルバジピン(ニルバジピン2)に相当する。Nilva_10は、本来のニルバジピンのラセミ混合物を指すが、例示を目的として示している。
【図9】図9は、ラット大動脈におけるFPL64176誘導血管収縮に対する(−)−ニルバジピン(ニルバジピン1)および(+)−ニルバジピン(ニルバジピン2)の効果を示す。データは、(+)−ニルバジピンはFPL64176誘導血管収縮に完全に拮抗するが、一方で(−)−ニルバジピンはL型カルシウムチャネルアゴニストの血管作用性効果に影響しないことを示すが、これは(+)−ニルバジピンはL型カルシウムチャネルブロッカーであるが、一方で(−)−ニルバジピンは該効果がないことを示すものである。
【図10】図10は、生後93週間のTgAPPswマウスにおける脳Aβ1−40およびAβ1−42レベルに対する(−)−ニルバジピンの効果を説明する棒グラフである。(−)−ニルバジピン(10mg/kg体重)の腹腔内投与によって、動物を4日間毎日治療した。
【図11】図11は、生後70週間のTgAPPswマウスにおける脳Aβ1−42レベルに対する(−)−ニルバジピンの持続放出の効果を説明する棒グラフである。皮下に埋め込まれた生分解性ペレットを用いて、動物を26日間治療した。
【図12】図12は、ヒト脳微小血管内皮細胞(HBMEC)の層を含む24ウェル、半透明の、0.4μm膜挿入を用いて、血液脳関門のインビトロモデルを説明する。フルオレセイン−β−アミロイド1−42の頂端部分への遊走を様々な時点で評価した。
【図13】図13は、血液脳関門を通過する脳Aβのクリアランスに対する(−)−ニルバジピンのインビトロ効果を示す棒グラフである。A=頂端部、B=側底部。
【図14】図14は、血液脳関門を通過する脳Aβのクリアランスに対する(−)−ニルバジピン対ニルバジピンラセミ混合物のインビトロ効果を示す棒グラフである。A=頂端部、B=側底部。
【図15】図15は、マウスにおける血漿Aβレベルによって評価した、血液脳関門を通過する脳Aβのクリアランスに対する(−)−ニルバジピンのインビボ効果を示す棒グラフである。
【図16】図16は、血液脳関門を通過する脳Aβのクリアランスに対する生分解性(−)−ニルバジピンペレットのインビボ効果を示す棒グラフである。
【図17】図17Aおよび17Bは、広範な薬物投与量にわたる(+)−ニルバジピン対(−)−ニルバジピンの血管作用性を示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
好ましい実施態様の記載
本発明は、動物およびヒトにおいて、エナンチオマー濃縮された(−)−ニルバジピン(イソプロピル−3−メチル−2−シアノ−1,4−ジヒドロ−6−メチル−4−(m−ニトロフェニル)−3,5−ピリジン−ジカルボキシレート;MW385.4)を投与することによる、アルツハイマー病(AD)などの特定の脳アミロイド形成疾患の特徴である脳変性の避けられない進行に対処するための予防方法および治療方法を提供する。症状の治療、予防、および改善は、本発明の方法に含まれる。
【0019】
特に示さない限り、本明細書で用いられている用語「ニルバジピン」は、ラセミ混合物を指す。本明細書で用いられている用語「エナンチオマー濃縮された」は、(−)−エナンチオマーが過剰に存在し、好ましくは90%以上、95%以上、およびより好ましくは純度の検出限界である100%を含む98%以上の範囲で存在するエナンチオマーの混合物である化合物を指す。例えば、純度はキラルHPLC法による検出によって決定されうる。1つの実施態様では、エナンチオマー過剰率は、主成分から微量成分を引き算することによって計算される。例えば、98%(−)−エナンチオマーおよび2%(+)−エナンチオマーを有するエナンチオマーの混合物は、(−)−エナンチオマーの96%エナンチオマー過剰率として計算されうる。
【0020】
特に、本発明の1つの実施態様は、脳アミロイド形成疾患または状態に苦しむ動物またはヒトにおいて、エナンチオマー濃縮された(−)−ニルバジピンの治療上の有効量を該動物または該ヒトに投与することによって、Aβ沈着、Aβ神経毒性およびミクログリオーシスを減少させる方法を提供する。ADなどのほとんどの脳アミロイド形成疾患は、慢性、進行性、難治性の脳認知症であるため、エナンチオマー濃縮された(−)−ニルバジピン治療の持続期間は、動物またはヒトの一生涯にわたるであろうことが意図される。脳アミロイド形成疾患または状態は、アルツハイマー病、外傷性脳損傷、および脳アミロイド血管症を含み、これらに限定されない。
【0021】
別の実施態様では、本発明は、伝染性海綿状脳症、スクレイピー、またはゲルストマン・ストロイスラー・シャインカー症候群を治療する方法を提供する。
【0022】
本発明の別の実施態様では、外傷性脳損傷(TBI)に苦しむ動物またはヒトにおいて、エナンチオマー濃縮された(−)−ニルバジピンの治療上の有効量をTBI後に該動物または該ヒトに投与し、その後所定の期間、エナンチオマー濃縮された(−)−ニルバジピン治療を継続することによって、Aβ沈着、Aβ神経毒性およびミクログリオーシスのリスクを減少させる方法が提供される。TBIに苦しむ動物またはヒト用に意図されるエナンチオマー濃縮された(−)−ニルバジピン治療の持続期間は、約1時間〜5年間、好ましくは約2週間〜3年間、および最も好ましくは約6ヶ月間〜12ヶ月間にわたりうる。
【0023】
別の実施態様では、脳アミロイド形成疾患と関連する1つ以上または全ての認知および行動特性を含む脳アミロイド形成疾患の臨床特性の治療方法が提供される。例えば、ADに関しては、該特性は、重度の記憶喪失、やり慣れた作業の実施困難、言語障害、見当識障害、判断力の低下、抽象的思考の障害、性格の変化、一連の認知テストにおける気分、もしくは行動、および/または特性スコアなどの症状の非限定的リストを含みうる。該認知テストは、ウェクスラー記憶検査改訂版(WMS−R)、臨床的認知症尺度(CDR)、ミニメンタルステート検査(MMSE)および/またはアルツハイマー病評価尺度−認知機能下位尺度(ADAS)を含む。
【0024】
1つ以上の実施態様において、エナンチオマー濃縮された(−)−ニルバジピンによる治療は、特異的な臨床転帰をもたらしうる。治療についての1つのエンドポイントは、脳アミロイド形成疾患にかかった患者における1つ以上の症状の測定可能な改善である。該改善は、患者を無症状にし得、または治療前の1つ以上の症状と比較して能力の改善を示しうる。あるいは、治療についての1つのエンドポイントは、ベースライン症状レベルを維持することでありうる。言い換えれば、このエンドポイントは、疾患または疾患の1つ以上の症状が永久に、または一定期間にわたって安定化したことを表す。さらに、治療についての1つのエンドポイントは、未治療のコントロールと比較した疾患の進行速度の減少でありうる。さらに、治療は、脳アミロイド形成疾患の発症のリスクがあると考えられるが、1つ以上の症状の臨床所見が現れる前の個人の前治療を含んでよい。疾患の治療への言及は、1つ以上の症状の治療も含むが、該治療は治療的というよりむしろ対症的である。
【0025】
脳アミロイド形成疾患に苦しみ、または外傷性脳損傷に苦しむ動物またはヒトに、本発明の方法に従って任意に単位用量形態にて投与され、さらには該動物または該ヒトにおいて、脳アミロイド形成疾患を発症するリスクの決定および/またはその診断の目的で本発明の方法に従って投与されるエナンチオマー濃縮された(−)−ニルバジピンの治療上の有効量は、約0.05mg〜20mg/日、好ましくは約2mg〜15mg/日、より好ましくは約4mg〜12mg/日、および最も好ましくは約8mg/日の範囲であってよい。1日の投与量は、1日当たり1回の単位用量にて、または2、3もしくは4つに分割した単位用量にて投与してよい。別の実施態様では、エナンチオマー濃縮された(−)−ニルバジピンの治療上の有効量は、最大耐量の限度である16mg/日を越える量である。例えば、エナンチオマー濃縮された(−)−ニルバジピンの治療上の有効量は、16mg/日〜約20mg/日の範囲であってよい。あるいは、エナンチオマー濃縮された(−)−ニルバジピンの治療上の有効量は、約20mg/日、約30mg/日、約40mg/日、約50mg/日、約75mg/日、約100mg/日、約125mg/日、約150mg/日、約175mg/日、約200mg/日、約225mg/日、約250mg/日、約275mg/日、約300mg/日、約325mg/日、約350mg/日、約375mg/日、約400mg/日、約425mg/日、約450mg/日、約475mg/日、約500mg/日、または1日当たりの最大耐量、および、前記の量の間の整数または非整数のいずれかの量であってよい。範囲は変動してよい。例えば、非限定的範囲は、20、40、60、80、または100mg/日の低エンドポイント、ならびに50、100、150、200、250、300、および500mg/日の高エンドポイント、ならびにエンドポイントとして役立ちうる上記の量の範囲内の整数または非整数のいずれかの量を含む。
【0026】
理論によって束縛されることを望むものではないが、降圧効果はニルバジピンのラセミ体の最大耐量を制限しうると考えられている。本発明の1つの実施態様では、エナンチオマー濃縮された(−)−ニルバジピンの治療上の有効量は、エナンチオマー濃縮された(−)−ニルバジピンの投与後に、治療前血圧の約30%未満、約20%未満、約10%未満、約5%未満、および約1%未満からなる群から選択される量の血圧を減少させる。血圧は、様々な方法で測定されうる。例えば、血圧は収縮期圧または拡張期圧として、ミリメーター水銀にて測定されうる。
【0027】
あるいは、血圧は2/3拡張期圧の読み+1/3収縮期圧の読みの式に従って計算されうる。1つの実施態様では、血圧を連続的にモニターし、時間に関して積分し、曲線下面積(AUC)の単一の値を得る。血圧の変化は正常集団と比較したものでもよく、または治療された個人の治療前血圧と比較したものでもよい。1つの実施態様では、治療後血圧は、定常状態の血圧の変化が確立された治療期間後に測定される。例えば、治療後血圧は、約1週間の治療後、約4週間の治療後、約12週間の治療後、約6ヶ月間の治療後などに測定してよい。1つの実施態様では、エナンチオマー濃縮された(−)−ニルバジピンは、正常血圧、または低血圧のヒトまたは動物に投与される。1つの実施態様では、エナンチオマー濃縮された(−)−ニルバジピンは、高血圧のヒトまたは動物に投与される。ヒトにおいては、正常血圧は約90/50mmHg〜約135/90mmHgであると考えられている。ヒトにおいて、正常範囲以下の血圧は低血圧とみなされる。
【0028】
別の実施態様では、本発明の治療薬は、高血圧の患者に投与され、または彼らの血圧レベルにかかわらず患者に投与される。高血圧患者は、降圧薬と同時に治療されてよい。ヒトにおいて、正常範囲以上の血圧は高血圧であるとみなされる。
【0029】
様々な動物についての正常範囲は、標準的な獣医学ハンドブックで見つけることができる。1つの実施態様では、血圧は自然に、または付加的な降圧薬の投与などの医療介入によって正常範囲内にある。
【0030】
さらに別の実施態様では、本発明は、ADなどの脳アミロイド形成疾患に苦しみうる動物またはヒトの中枢神経系における細胞の移植前に、エナンチオマー濃縮された(−)−ニルバジピンの治療上の有効量を神経幹細胞に投与することによって、移植可能なヒトまたは異種神経幹細胞を前治療する方法を提供する。おそらく、神経幹細胞自体は、有意なAβの沈着を有さないであろう。しかしながら、神経移植がAβ負荷環境を対象とする場合、神経幹細胞の前治療は、Aβ濃度およびその中のAβ毒性を減少させることによって、移植神経細胞が新たな環境内で生存する能力を増強するはずである。神経幹細胞を前治療するために投与されるエナンチオマー濃縮された(−)−ニルバジピンの治療上の有効量は、約1nM〜3μM、好ましくは約10nM〜2μM、および最も好ましくは約100nM〜1μMの範囲であってよい。幹細胞は、神経細胞などの特異的な細胞型への分化を目的とする場合、アルツハイマー病、パーキンソン病または脊髄損傷などの疾患および状態を治療するための代替細胞および組織の再生可能な供給源の可能性を提供することが知られている。該細胞が患者に移植され/埋め込まれる場合、エナンチオマー濃縮された(−)−ニルバジピンによって細胞を前治療するだけではなく、移植後も同様にエナンチオマー濃縮された(−)−ニルバジピンによる患者の治療的処置を開始するのがよい。
【0031】
ヒトの中枢神経系のアミロイド沈着、神経毒性およびミクログリオーシスと関連する状態の治療、予防および/または阻害における有効性をテストする前に、本発明の方法はPDAPPおよびTgAPPswマウスモデルなどのADについての周知の遺伝子導入動物モデルについてテストしてよいことを意図している。ADについての該遺伝子導入動物モデルは当該技術分野で周知の標準的な方法を用いて作成され、例えば、米国特許第5,487,992号;第5,464,764号;第5,387,742号;第5,360,735号;第5,347,075号;第5,298,422号;第5,288,846号;第5,221,778号;第5,175,385号;第5,175,384号;第5,175,383号;および第4,736,866号に記載されている。
【0032】
エナンチオマー濃縮された(−)−ニルバジピンは、非経口、経口または腹腔内を含む様々な経路を経由して患者に投与されうる。非経口投与は、下記の経路を含む:静脈内;筋肉内;間質内;動脈内;皮下;眼内;頭蓋内;くも膜下腔内;脳室内;滑膜内;経皮、肺吸入、点眼、舌下およびバッカルを含む経上皮;点眼、皮膚、眼球、直腸、またはガス注入もしくは噴霧経由の経鼻吸入を含む局所。
【0033】
経口的に投与されるエナンチオマー濃縮された(−)−ニルバジピンは、ハードまたはソフトシェルゼラチンカプセル剤に封入され得、または錠剤に圧縮されうる。エナンチオマー濃縮された(−)−ニルバジピンは、賦形剤とも組み合わせられ得、摂取可能な錠剤、バッカル錠剤、トローチ剤、カプセル剤、小袋、ロゼンジ剤、エリキシル剤、懸濁剤、シロップ剤、ウエハーなどの形態にて用いられる。さらに、エナンチオマー濃縮された(−)−ニルバジピンは、散剤もしくは顆粒剤、水性液体もしくは非水性液体中の溶剤もしくは懸濁剤、または水中油型または油中水型乳剤の形態にあってよい。
【0034】
錠剤、トローチ剤、丸剤、カプセル剤などは、例えば、トラガカントゴム、アカシア、トウモロコシデンプンなどの結合剤;リン酸水素カルシウムなどのゲル賦形剤;トウモロコシデンプン、バレイショデンプン、アルギン酸などの崩壊剤;ステアリン酸マグネシウムなどの滑沢剤;スクロース、ラクトースもしくはサッカリンなどの甘味料;または香料も含んでよい。活性成分は、単位用量形態または非単位用量形態にて製剤化され、または投与されてよい。単位剤形がカプセル剤である場合、上記の物質に加えて、液体担体も含んでよい。様々な他の物質がコーティングとして、または単位用量の物理的形態を修飾するために存在してよい。例えば、錠剤、丸剤、またはカプセル剤は、シェラック、糖またはその両方でコーティングされてよい。シロップ剤またはエリキシル剤は、ニルバジピン、甘味料としてスクロース、防腐剤としてメチルパラベンおよびプロピルパラベン、染料ならびに香味剤も含んでよい。さらに、エナンチオマー濃縮された(−)−ニルバジピンは、持続放出製剤(preparations and formulations)に組み込まれてよい。
【0035】
エナンチオマー濃縮された(−)−ニルバジピンは、CNSに非経口または腹腔内投与されうる。遊離塩基または医薬的に許容される塩としてのニルバジピンの溶液は、ヒドロキシプロピルセルロースなどの適当な界面活性剤と混合した水中で製造されうる。分散液は、グリセロール中、液体ポリエチレングリコール中、およびその混合物中、ならびに油中においても製造されうる。保存および使用の通常の条件下、これらの製剤は、微生物の増殖または化学変性を防ぐための防腐剤および/または抗酸化剤も含んでよい。
【0036】
所望の(−)−ニルバジピンエナンチオマーは、そのキラル中心で(R)立体配置を有するものである。本明細書で提供される化合物は、エナンチオマー的に純粋であってよく、または若干の(+)(S)−ニルバジピンを含む立体異性混合物であってよい。本明細書のエナンチオマー濃縮された(−)−ニルバジピンの開示は、いずれかの光学活性型、多型、もしくは立体異性型、またはその混合物を含み、好ましくは本明細書に記載した有用な性質を有し、光学活性型の製造方法および活性を決定する方法は当該技術分野で周知であり、本明細書に記載した標準的なテストを用いて、または当該技術分野で周知である他の類似のテストを用いてなされることは、理解できるであろう。本明細書で用いられている用語「エナンチオマー濃縮された」は、(−)−エナンチオマーが過剰に存在する、好ましくは90%以上、95%以上、およびより好ましくは純度の検出限界である100%を含む98%以上の範囲で存在するエナンチオマーの混合物である化合物を指す。例えば、純度はキラルHPLC法による検出によって決定しうる。
【0037】
化合物の光学異性体を得るために用いられうる方法の例は、下記を含む:
【0038】
i) 結晶の物理的分離−個々のエナンチオマーの巨視的結晶を手動で分離する技術。この技術は、別々のエナンチオマーの結晶が存在する、すなわち、物質が集合体であり、結晶が視覚的に明確である場合に用いられうる;
【0039】
ii) 同時結晶化−個々のエナンチオマーがラセミ化合物の溶液から別々に結晶化される技術であり、後者が固体状態にある集合体である場合にのみ可能である;
【0040】
iii) 酵素的分割−各エナンチオマーと酵素の反応速度が異なることに基づく、ラセミ化合物の部分的または完全分離の技術
【0041】
iv) 酵素的不斉合成−少なくとも1つの合成ステップにて酵素反応を用い、エナンチオマー的に純粋または濃縮された所望のエナンチオマーの合成前駆体を得る合成技術;
【0042】
v) 化学的不斉合成−生成物に不斉(すなわち、キラリティー)を生じる条件下、所望のエナンチオマーがアキラル前駆体から合成される合成技術であり、キラル触媒またはキラル補助基を用いて達成されうる;
【0043】
vi) ジアステレオマー分離−ラセミ化合物、前駆体、または半合成中間体を、個々のエナンチオマーをジアステレオマーに変換するエナンチオマー的に純粋な試薬(キラル補助基)と反応させる技術。次いで、得られたジアステレオマーを、それらのより明確となった構造的相違に基づいてクロマトグラフィーまたは結晶化によって分離し、後でキラル補助基を除去し、所望のエナンチオマーを得る(例えば、Fujisawa Pharmaceutical Co., Ltdに譲渡された米国特許第5,508,413号を参照のこと);
【0044】
vii) 一次および二次不斉転換−ラセミ化合物からのジアステレオマーが平衡化し、所望のエナンチオマーからのジアステレオマーの溶液中での優勢をもたらす技術、または所望のエナンチオマーからのジアステレオマーの優先的な結晶化が平衡を乱し、最終的に原則として全ての物質が結晶性の所望のエナンチオマーからのジアステレオマーに変換する技術。次いで、所望のエナンチオマーはジアステレオマーから放出される;
【0045】
viii) 速度論的分割−この技術は、速度論的条件下、キラルで、非ラセミの試薬または触媒を用いた、各エナンチオマーの不等反応速度に基づくラセミ化合物の部分的または完全分割の(もしくは部分的に分割された化合物のさらなる分割の)達成を指す;
【0046】
ix) 非ラセミ前駆体からのエナンチオ特異的合成−所望のエナンチオマーを非キラル出発物質から得、立体化学的完全性が合成の間に損なわれない、またはごくわずかしか損なわれない合成技術;
【0047】
x) キラル液体クロマトグラフィー−ラセミ化合物の各エナンチオマーを、固定相とそれらの異なる相互作用に基づいて、液体移動相中で分離する技術。固定相はキラル物質で作られていてよく、または移動相は異なる相互作用を誘発する付加的なキラル物質も含んでよい;
【0048】
xi) キラルガスクロマトグラフィー−ラセミ化合物を揮発させ、固定された非ラセミキラル吸着相を含むカラムと気体移動相中の各エナンチオマーの異なる相互作用に基づいてエナンチオマーを分離する技術;
【0049】
xii) キラル溶媒による抽出−1つのエナンチオマーの特定のキラル溶媒への優先的な溶解に基づいて、エナンチオマーを分離する技術;
【0050】
xiii) キラル膜を通過する輸送−ラセミ化合物を薄膜障壁と接触させる技術。障壁は、典型的には2つの混和流体を分離し、1つはラセミ化合物を含み、濃度または圧力差などの駆動力が、膜障壁を通過する優先的な輸送をもたらす。分離は膜の非ラセミキラル性の結果として生じ、ラセミ化合物の1つのエナンチオマーのみが通過することを可能にする。
【0051】
xiv) 液体クロマトグラフィー−キラル固定相に関する各エナンチオマーの分配係数の相違に基づいて、各エナンチオマーを順相溶媒系で分離する技術。この技術は、本明細書に記載した(−)−ニルバジピンおよび(+)−ニルバジピンの光学活性製剤を作成するために利用した(図8を参照のこと)。
【0052】
ニルバジピンのエナンチオマーを下記のように分離した:
【化1】
【化2】
【0053】
ニルバジピンのエナンチオマーの旋光度の文献値は、「Satoh, Y.; Okumura, K.; Shiokawa, Y. Chem. Pharm. Bull. 42(4) 950-952 (1994)」に報告されている。分離した化合物のエナンチオマー純度に関するデータについては、図5を参照のこと。
【0054】
用語「約」は、記載された量の±10%の範囲内、または測定技術の実験誤差の範囲内であることを意味する。語句「から本質的になる組成物」は、示された活性医薬成分を含む組成物を含むことを意味する。1つの実施態様では、語句「から本質的になる」は、記載されていない活性医薬成分を除外するが、医薬的に許容されるビヒクル、担体、もしくは希釈剤、または活性医薬成分が製剤化される様式を除外しない。1つの実施態様では、例えば治療方法において、語句「から本質的になる」は、特定の効能のための唯一の治療薬として1つ以上の活性医薬成分の投与を含んでよいが、一方で、他の理由または効能のために投与される治療薬を除外しない。
【実施例】
【0055】
ADなどのアミロイドーシスと関連する疾患に苦しむ動物またはヒトにおいて、Aβの病理学的効果を減少させる本発明の方法は、下記の非限定的実施例にてより詳細に記載されるであろう。実施例1〜5は、比較の目的でニルバジピンのラセミ体についてのデータを提供する。
【0056】
ニルバジピンエナンチオマーのクロマトグラフィー精製
両ニルバジピンのエナンチオマーのクロマトグラフィー精製は、変性セルロース(Chiral Technologies, West Chester, PA)の固定相を用いた高速液体クロマトグラフィー(HPLC)によって実施した。クロマトグラフィー条件は、下記の通りである:カラム内径、10mm;カラム長さ、250mm;移動相、体積比95:5のヘキサン:エタノール;流速、2.5ml/分;カラム温度、7℃。シグナルベースのフラクションコレクションを用いたニルバジピンのラセミ体の反復注入によって、本明細書に記載した実施例のための精製されたエナンチオマーが得られた。図8を参照のこと。
【実施例1】
【0057】
Aβ沈着(アミロイド負荷)に対するニルバジピンの慢性投与
TgAPPswマウスの脳の異なる領域におけるAβ沈着(アミロイド負荷)に対するニルバジピンの慢性投与の効果を、4G8抗Aβモノクローナル抗体免疫染色技術を用いて調べた。その強いシグナルおよびAβ沈着の定量分析についての最善の結果のために、Aβ負荷の決定に4G8免疫染色技術を選択した。簡潔に説明すると、以前に記載されたように、パラフィン切片に免疫組織化学的検査を実施した(Nakagawa, Y et al., Exp. Neurol., 163:244-252, 2000)。切片をキシレン中で脱パラフィン化し、エタノールおよび脱イオン水中で続けて水和し、Aβの免疫組織化学的検査前に、切片を88%ギ酸中に60分間浸すことによって抗原回復ステップを行った。切片を水中で洗浄し、メタノール(150ml)と過酸化水素(33%、30ml)の新たに製造した混合液を用いて内在性のペルオキシダーゼをクエンチした。アビジン−ビオチン複合法を、製造元(Vector Laboratories, Burlingame, Calif.)の説明書に従って用いた。Aβについてポジティブ染色された脳領域のパーセンテージを決定することによって、アミロイド負荷を評価した。一次抗体の代わりに免疫前血清を適用したことを除いて、ネガティブコントロールは切片に対する同一の免疫組織化学的検査プロトコールの適用を含んだ。TgAPPswマウスを、ニルバジピンの有効量を摂取した実験群(n=7)、およびビヒクルを摂取したコントロール群(n=5)に分けた。
【0058】
図1に示すように、ニルバジピンによる治療は、Aβ負荷を、視覚皮質においてコントロールと比較して約62%、頭頂葉皮質においてコントロールと比較して約65%、運動皮質においてコントロールと比較して約58%、梨状皮質においてコントロールと比較して約58%、海馬のCA1領域においてコントロールと比較して約52%、および海馬のCA2−CA3領域においてコントロールと比較して約50%減少させた。
【実施例2】
【0059】
ミクログリア活性化に対するニルバジピンの慢性投与
CD45+ミクログリアの数を決定するCD45免疫染色技術を用いて、TgAPPswマウスにおけるミクログリア活性化に対するニルバジピンの慢性投与の効果をマウス脳の3つの領域において調べた。
【0060】
簡潔に説明すると、ミクログリアの特異的マーカーであるCD45の免疫組織化学的検査をクライオスタット脳切片について実施した。CD45ポジティブのミクログリア細胞は、CD45に対するマウスモノクローナル抗体(Chemicon International)と4℃で一晩インキュベーションし、次いでビオチン化ウサギ抗マウス二次抗体を30分間適用することによって免疫局在化した。CD45の検出は、CD45ポジティブのミクログリア細胞に対して褐色の細胞表面染色を生じるジアミノベンジジン発色基質を用いて行った。
【0061】
図2に示すように、有効な投与量にて投与されたニルバジピン治療薬は、コントロールと比較して、ミクログリア活性化を海馬において約33%、頭頂葉皮質において約43%、および運動皮質において約27%減少させた。
【実施例3】
【0062】
ミクログリア活性化に対するニルバジピン投与の効果
リポ多糖(LPS)で24時間インビトロ活性化したN9マウスミクログリア細胞における、ミクログリア活性化に対するニルバジピンの効果を調べた。N9マウスミクログリア細胞は、マウス胎児脳に由来する、特徴がはっきりしたスカベンジャーマウスミクログリアクローンである。ミクログリア活性化の程度は、ELISAによって測定したTNF−α産生量(pg/ml)により決定した。図3に示すように、LPSで活性化しなかったミクログリア細胞(コントロール細胞)は、約40pg/mlのTNF−αを産生した。50nMニルバジピンの存在下のミクログリア細胞は、約40pg/mlのTNF−αを産生した。ニルバジピン投与量を10倍増加(500nM)しても、TNF−α産生量は変化しなかった。1μg/m1のLPSの存在下のミクログリア細胞は、約820pg/mlのTNF−αを産生したが、これはコントロール細胞およびニルバジピン投与細胞から約95%の増加である。1μg/m1のLPSと50nMニルバジピンの両方の存在下のミクログリア細胞は、約670pg/mlのTNF−αを産生した。LPSと500nMニルバジピンを投与すると、TNF−α産生量が約610pg/mlまで減少した。それゆえ、ニルバジピンは、LPS誘導ミクログリア活性化を約20〜25%阻害したことになる。
【実施例4】
【0063】
Aβ神経毒性に対するニルバジピン投与の効果
Aβ神経毒性に対するニルバジピン投与(10nMおよび100nM)の効果を、30μMの予め凝集したAβ1−40(AgAβ)によって3日間処理したヒト神経前駆細胞(HNPC)を用いて調べた。HNPC細胞は、サイクリックAMPで処理すると、容易に神経細胞に分化する。サイクリックAMP(1mM)(Sigma)を培地に加え、HNPC細胞を無血清条件下、37℃で48時間以上インキュベートした。ほとんどの細胞が微小管結合タンパク質であるMAP−2に対する抗体で染色されたことによって確認されたように、この培地は、前駆細胞が神経細胞系の細胞へ分化することを可能にした。細胞から放出された乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH;全ての細胞に見られる細胞内酵素)の量を測定することによって神経毒性を評価した。
【0064】
図4に示すように、AgAβによる細胞の処理は、ニルバジピンによる細胞の処理と比較して、LDH放出の約44%の増加を生じた。AgAβと共に10nMニルバジピンを加えた場合、LDH放出の変化はなかった。しかしながら、ニルバジピンの投与量を10倍増加させて100nMとした場合、LDH放出の量は約44%減少した。
【実施例5】
【0065】
APPプロセシングに対するニルバジピン投与の効果
APPプロセシングに対するニルバジピンの効果を、APPswをトランスフェクトされたヒト神経膠芽腫細胞を用いて調べた。細胞を50nMおよび250nMニルバジピンによって24および48時間治療し、培地中のAβ1−40の産生量を、市販のヒトAβ1−40ELISA(Biosource, CA)を用いることによって測定した。
【0066】
図5Aに示すように、24時間の治療後、50nMのニルバジピンはAβ1−40の産生量を約9%減少させ、250nMのニルバジピンはAβ1−40産生量を約15%減少させた。48時間の治療後(図5B)、50nMのニルバジピンはAβ1−40の産生量を約18%減少させ、250nMのニルバジピンはAβ1−40産生量を約5%減少させた。
【実施例6】
【0067】
Aβレベルに対する様々な用量のニルバジピンのラセミ体および分離したエナンチオマーの効果
Aβ1−40およびAβ1−42産生に対するニルバジピンの純粋エナンチオマー型、(−)−ニルバジピン(ニルバジピン1)および(+)−ニルバジピン(ニルバジピン2)(図8)、ならびに2つのエナンチオマーの混合物(等しい割合にて)の効果を、24時間治療後の7W WT APP751チャイニーズハムスター卵巣細胞を用いて調べた。培地中のAβ1−40およびAβ1−42の産生量は、それぞれ市販のヒトAβ1−40ELISA(Biosource, CA)および市販のヒトAβ1−42ELISA(Biosource, CA)を用いることによって測定した。
【0068】
図6に示すように、両エナンチオマーは、同じ様式で用量依存的にAβ1−40産生を阻害しているように見える。しかしながら、(+)−ニルバジピン(ニルバジピン2)およびニルバジピンのラセミ混合物(N1+N2)が低用量でAβ1−42をわずかに刺激する一方で、(−)−ニルバジピン(ニルバジピン1)はこの効果を示していない(図7)。
【実施例7】
【0069】
ラット大動脈における血管収縮に対する分離したニルバジピンのエナンチオマーの効果
ラット大動脈におけるFPL64176誘導血管収縮に対するニルバジピンの純粋エナンチオマー型、(−)−ニルバジピン(ニルバジピン1)および(+)−ニルバジピン(ニルバジピン2)(図8)の効果を調べた。正常なオスのスプラーグドーリーラット(生後7〜8ヶ月)を人道的に安楽死させ、新たに解剖したラット大動脈を3mmの輪に分割し、血管浴装置(vessel bath apparatus)内で留め金に掛けてクレブス緩衝液に懸濁した。これらの留め金を、MacLab systemと連結したアイソメトリックトランスデューサー(isometric transducer)と接続した。大動脈輪を組織浴システム(tissue bath system)内で2時間平衡化し、クレブス緩衝液を30分毎に交換した。2gのベースライン張力を各大動脈輪に適用した。L型カルシウムチャネルの強力な選択的アゴニストである1μMのFPL64176(2,5−ジメチル−4[2−(フェニルメチル)ベンゾイル]−1H−ピロール−3−カルボン酸メチルエステル)を加える2分前に、大動脈輪を100nMの(−)−ニルバジピン(ニルバジピン1)もしくは100nMの(+)−ニルバジピン(ニルバジピン2)で前治療し、または治療しなかった。大動脈輪をFPL64176で30分間収縮させた。ベースラインと比較した収縮量(gにて)を決定し、該値の全ての平均値および標準偏差を計算した。
【0070】
図9に示すように、(+)−ニルバジピンはFPL64176誘導血管収縮に完全に拮抗するが、一方で(−)−ニルバジピンはL型カルシウムチャネルアゴニストの血管作用性効果を生じないが、これは(+)−ニルバジピンはL型カルシウムチャネルブロッカーであるが、一方で(−)−ニルバジピンは該効果がないことを示す。本明細書で示すデータは、FPL64176で誘発した場合の(−)−エナンチオマーのベースライン大動脈収縮を実証するが、これは血管作用性(すなわち、誘導血管収縮の拮抗作用)を示すラセミ混合物または(+)−エナンチオマーと比較して、(−)−エナンチオマーの血管作用性が減少したことと相関する。
【実施例8】
【0071】
脳Aβレベルに対する(−)−ニルバジピンの効果
脳Aβ1−40およびAβ1−42レベルに対する分離した(−)−ニルバジピンの効果を調べた。生後93週間のオスの遺伝子導入APPswマウス(TgAPPsw系統2576)に、DMSOに溶解した10mg/Kg体重の(−)−ニルバジピン(n=4)、または同容量のビヒクル(100μL)(n=4)を毎日、腹腔内注入した。4日間の治療後、最後の注入の1時間後に動物を人道的に安楽死させ、それらの脳を収集し、液体窒素中で急速凍結した。1Xプロテアーゼ阻害剤カクテルIV(Calbiochem, CA)を含む蒸留水中、4℃で脳をホモジナイズし、4℃で30分間、14,000rpmで遠心分離した。ペレットをTris HCl緩衝液(pH=8)に溶解した等量の5Mグアニジンと再懸濁し、室温で1時間インキュベートした。タンパク質濃度は、グアニジン処理したサンプル中でBCA法(Biorad, CA)によって決定した。Aβ1−40およびAβ1−42レベルをELISA(Biosource, CA)によって評価し、結果はAβ1−40またはAβ1−42のpg/mgタンパク質にて報告した。
【0072】
図10に示すように、(−)−ニルバジピンをTgAPPswマウスに用量10mg/kg体重で4日間毎日投与すると、コントロール動物と比較して、Aβ1−42(pg/ml)の脳内レベルが26%減少し、Aβ1−40の脳内レベルが43%減少した。
【実施例9】
【0073】
脳Aβレベルに対する持続放出(−)−ニルバジピンの効果
脳Aβ1−42レベルに対する(−)−ニルバジピンの持続放出の効果を調べた。生後66週間のTgAPPsw(TgAPPsw系統2576)の皮下に、30mg/Kg体重/日の(−)−ニルバジピンの継続的な持続放出を保証する(−)−ニルバジピンの生分解性ペレット(n=5)、56mg/Kg/日の放出を保証する(−)−ニルバジピンの生分解性ペレット(n=6)、または30日間プラセボを放出するペレット(n=6)を埋め込んだ。ペレット埋め込みの26日後に動物を人道的に安楽死させ、それらの脳を収集し、液体窒素中で急速凍結した。1Xプロテアーゼ阻害剤カクテルIV(Calbiochem、CA)を含む蒸留水中、4℃で脳をホモジナイズし、4℃で30分間、14,000rpmで遠心分離した。上清をTris HCl緩衝液(pH=8)に溶解した等量の5Mグアニジンと再懸濁し、室温で1時間インキュベートした。タンパク質濃度は、グアニジン処理したサンプル中でBCA法(Biorad, CA)によって決定した。Aβ1−42レベルをELISA(Biosource, CA)によって評価し、結果はAβ1−42のpg/mgタンパク質にて報告した。
【0074】
図11に示すように、TgAPPswマウスに持続放出(−)−ニルバジピンを投与すると、プラセボペレットを埋め込まれたマウスと比較して、30mg/Kg/日の(−)−ニルバジピンの持続放出ペレットを投与されたマウスについては脳Aβ1−42のレベルが2倍減少し、一方で56mg/Kg/日の持続放出ペレットで治療した動物ではAβ1−42の2.5倍の減少が観察された。
【実施例10】
【0075】
血液脳関門を通過する脳Aβレベルのクリアランスに対する(−)−ニルバジピンの効果
インビトロモデル
インビトロおよびインビボモデルの両方を用いて、血液脳関門(BBB)を通過する脳Aβのクリアランスレベルに対する(−)−ニルバジピンの効果を調べた。インビトロモデルを図12に示す。2μMフルオレセイン−β−アミロイド(1−42)を含む内皮細胞培養培地(ECM, ScienCell Research Laboratories)(3)を側底(供与)部分に置いた。膜の頂端(受容)側を、ECM中の様々なジヒドロピリジン(DHP)化合物(1、5、および10μM)にさらした(2)。各群におけるフルオレセイン−β−アミロイド(1−42)の初濃度を確定するために、時間0で供与部分をサンプリングした。蛍光アミロイドを含むウェルに挿入をさらした後、90分間の様々な時点で頂端部分からサンプルを収集し(1)、ヒト脳微小血管内皮細胞(HBMEC)単層(4)を(側底から頂端へ)通過するフルオレセイン−β−アミロイド(1−42)の移動を評価した。BioTek Synergy HTマルチ検出マイクロプレートリーダー(Winooski, VT)を用いて、フルオレセイン−β−アミロイド(1−42)についてサンプルを分析した(λex=485nmおよびλem=516nm)。フルオレセイン−β−アミロイド(1−42)の見かけの透過率(Papp)は、式Papp=1/AC0*(dQ/dt)を用いて決定したが、ここでAは膜の表面積を表し、C0は側底供与部分におけるフルオレセイン−β−アミロイド(1−42)の初濃度であり、dQ/dtは一定時間内(polli)に頂端受容部分に現れるフルオレセイン−β−アミロイド(1−42)の量である。(−)−ニルバジピン存在下のフルオレセイン−β−アミロイド(1−42)のPappをコントロールウェルと比較し、パーセンテージとして表している。
【0076】
図13に示すように、血液脳関門のインビトロモデルにおいて、(−)−ニルバジピンは、脳側(B)から末梢側(A)へのAβの輸送を用量依存的に刺激する。
【0077】
BBBを通過する脳Aβのクリアランスに対する(−)−ニルバジピン対ニルバジピンラセミ混合物のインビトロ効果を調べるために、インビトロモデルも用いた。これらの実験において、上記のプロトコールと類似するプロトコールを用いたが、主な相違は比較のためのラセミ混合物の追加である。図14に示すように、(−)−ニルバジピンおよびニルバジピンラセミ混合物の両方は、インビトロモデルにおいて、脳(B)から末梢(A)への血液脳関門を通過するAβの輸送を用量依存的に刺激する。
【0078】
インビボモデル
インビボモデルを用いて、BBBを通過する脳Aβのクリアランスレベルに対する(−)−ニルバジピンの効果を調べた。野生型のメスのB6/SJLマウスを、3%イソフルラン/酸素混合物を用いた吸入によって麻酔した。麻酔中、マウスにビヒクル(DMSO)または(−)−ニルバジピンを腹腔内(i.p.)注入した。腹腔内注入から5分後、マウスに3μlのヒトβ−アミロイド(1−42)(1mMのDMSO溶液)を、脳の脳室内領域(十字縫合に対して3mm後部、1.0mm側部、脳の表面下4mm)に定位的に注入した。ヒトβ−アミロイド(1−42)の注入から10分後、マウスを安楽死させた。血漿サンプルを収集し、ヒトβ−アミロイド(1−42)用のサンドイッチELISAを用いて、ヒトβ−アミロイド(1−42)について分析した。(−)−ニルバジピンで治療したマウスから収集した血漿サンプル中のβ−アミロイド(1−42)のレベルを、ビヒクルのみを摂取させたマウスと比較した。さらに、類似の実験を、(−)−ニルバジピンの生分解性ペレットまたはプラセボを皮下に埋め込まれた動物を用い、ペレット埋め込みから13日後にAβ1−42を脳内注入して実施した。動物を用いた全ての実験は、所内の動物管理使用委員会(Institutional Animal Care and Use Committee)によって承認されたプロトコールに従って実施した。
【0079】
図15に示すように、ニルバジピンラセミ混合物および(−)−ニルバジピンの両方は、血液脳関門を通過するAβの輸送をインビボで増加させる。(−)−ニルバジピンは2mg/Kg体重で脳から血液へのAβのクリアランスを2倍刺激し、投与量5mg/Kg体重で4倍刺激するが、一方でニルバジピンラセミ混合物はAβのクリアランスを、投与量2mg/Kg体重で4倍増加させる。
【0080】
図16は、(−)−ニルバジピンの生分解性ペレットまたはプラセボを皮下に埋め込まれ、ペレット埋め込みから13日後にAβ1−42を脳内注入された動物を用いて、BBBを通過する脳Aβレベルのクリアランスに対する(−)−ニルバジピンの効果を説明する棒グラフである。図16に示すように、生分解性ペレットによって保証される投与量30mg/Kg体重/日の(−)−ニルバジピンの持続放出は、プラセボペレットを埋め込まれたコントロールマウスと比較して、脳内Aβのクリアランスを3倍増加させる。
【0081】
血液脳関門(BBB)を通過する脳Aβのクリアランスレベルに対する(−)−ニルバジピンの効果についてのこれらのインビトロおよびインビボ研究は、潜在的に治療と関連する結果を明らかにするものである。データは、クリアランスに対する(−)−ニルバジピンの効果は、BBBを通過する脳Aβの遊走を増加させることであることを示唆する。これは、(−)−ニルバジピンの投与後に観測された血清Aβレベルの増加に基づくものである。
【0082】
図17AおよびBに示すように、血管収縮のFPL64176ラット大動脈モデルにおいて、(−)−ニルバジピンは、(+)−ニルバジピンと比較して、血管作用性を示す前にはるかに高用量が投与されうる。
【0083】
一般的結論
ニルバジピンの異なるエナンチオマーの効果に関して、(+)−ニルバジピンおよびニルバジピンのラセミ体は低用量でわずかにAβ1−42を刺激するが、両エナンチオマーはAβ1−40産生を同じ様式で用量依存的に阻害するように見える。Aβ1−42に対する(−)−ニルバジピンの効果はより低く、統計的に有意ではない。例えば、図6および7を参照のこと。驚くべきことに、(+)−ニルバジピンはFPL64176誘導血管収縮に完全に拮抗するが、一方で(−)−ニルバジピンはL型カルシウムチャネルアゴニストのFPL64176誘導血管収縮に拮抗しないことも発見された。本明細書で示すデータは、FPL64176で誘発された場合の(−)−エナンチオマーについてのベースライン大動脈収縮を実証するが、これは、血管作用性(すなわち、誘導血管収縮の拮抗作用)を示すラセミ混合物または(+)−エナンチオマーと比較して、(−)−エナンチオマーの血管作用性が減少したことと相関する。脳Aβレベルに対する(−)−ニルバジピンの影響の評価は、TgAPPswマウスにおいて、(−)−ニルバジピン(10mg/kg体重/日)の投与が、わずか4日間の治療後に、Aβ1−42(pg/ml)の脳内レベルの26%減少、およびAβ1−40の脳内レベルの43%減少をもたらすことを示す。図11に示すように、持続放出(−)−ニルバジピンのTgAPPswマウスへの26日間にわたる投与は、プラセボペレットを埋め込まれたマウスと比較して、30mg/Kg/日の(−)−ニルバジピンの持続放出ペレットを投与されたマウスについて脳Aβ1−42のレベルの2倍減少をもたらし、一方で56mg/Kg/日の持続放出ペレットで治療された動物においてAβ1−42の2.5倍減少が観察された。
【0084】
血液脳関門(BBB)を通過する脳Aβのクリアランスレベルに対する(−)−ニルバジピンの効果のインビトロおよびインビボ研究は、予想外の有望な結果も生じる。データは、このクリアランスに対する(−)−ニルバジピンの効果は、BBBを通過する脳Aβの遊走を増加させることであることを示唆する。これは、(−)−ニルバジピンの投与後に観察された血清Aβレベルの増加に基づくものである。
【0085】
上記データを考慮すると、ADなどの脳アミロイド形成疾患に苦しむ動物またはヒトに対するエナンチオマー濃縮された(−)−ニルバジピン投与は、血圧または他の可能性のある副作用に不必要に影響することなく、Aβ沈着の量を、該病理学的な沈着が多量に存在することが特徴的に示されている脳の危険域において有意に減少させ得、さらに、既に脳内に沈着したAβの量を減少させることが推定されうる。さらに、エナンチオマー濃縮された(−)−ニルバジピン投与は、ADに見られる広範で壊滅的な神経破壊の原因であると考えられているAβの神経毒性効果に対抗し得、AD患者の脳内に見られる特徴的な炎症反応をもたらすミクログリア活性化を減少させ、副作用も減少させる。最後に、エナンチオマー濃縮された(−)−ニルバジピン治療は、所望でない副作用をもたらすことなく、ADなどの脳アミロイド形成疾患に苦しむ動物またはヒトの脳内に既に沈着したAβの濃度を減少させうる。
【0086】
本発明の精神または範囲から逸脱することなく、様々な修飾および変更が本発明の方法になされてよいことは当業者には明らかであろう。それゆえ、本発明は添付の特許請求の範囲およびそれらの均等物の範囲内にある修飾および変更を含むことを意図する。本明細書で引用された全ての参考文献は、参照することにより援用される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
脳アミロイド形成疾患または状態に苦しむ動物またはヒトにおいて、エナンチオマー濃縮された(−)−ニルバジピンの治療上の有効量を該動物または該ヒトに投与することを含む、Aβ沈着、Aβ神経毒性およびミクログリオーシスを減少させる方法。
【請求項2】
外傷性脳損傷に苦しむ動物またはヒトにおいて、エナンチオマー濃縮された(−)−ニルバジピンの治療上の有効量を該動物または該ヒトに投与することを含み、該エナンチオマー濃縮された(−)−ニルバジピン投与が急性頭部損傷後に開始される、Aβ沈着、Aβ神経毒性およびミクログリオーシスに起因する脳アミロイド形成疾患または状態のリスクを減少させる方法。
【請求項3】
脳アミロイド形成疾患または状態を発症するリスクがあると診断された動物またはヒトにおいて、エナンチオマー濃縮された(−)−ニルバジピンの治療上の有効量を該動物または該ヒトに投与することを含む、脳アミロイド形成疾患または状態を発症するリスクを減少させる方法。
【請求項4】
脳アミロイド形成疾患または状態がアルツハイマー病、外傷性脳損傷、および脳アミロイド血管症からなる群から選択される、請求項1〜3のいずれか1項の方法。
【請求項5】
エナンチオマー濃縮された(−)−ニルバジピンの治療上の有効量が、約0.05〜20mg/日、約2〜15mg/日、約4〜12mg/日、および約8mg/日からなる群から選択される、請求項1〜3のいずれか1項の方法。
【請求項6】
エナンチオマー濃縮された(−)−ニルバジピンの治療上の有効量が、16〜最大耐量、16〜50、約16、約20、約30、約40、約50、約100、約300、および約500mg/日からなる群から選択される、請求項1〜3のいずれか1項の方法。
【請求項7】
エナンチオマー濃縮された(−)−ニルバジピンの治療上の有効量が、エナンチオマー濃縮された(−)−ニルバジピンの投与後に治療前血圧の約20%未満、約10%未満、約5%未満、および約1%未満からなる群から選択される量の血圧を減少させ、血圧が、連続的モニタリングおよび曲線下面積を求めるための時間に関する積分によって計算され、治療後血圧が、定常状態の結果を達成するのに十分な治療期間後に決定される、請求項1〜3のいずれか1項の方法。
【請求項8】
エナンチオマー濃縮された(−)−ニルバジピンが、正常または低血圧範囲の血圧を有するヒトまたは動物に投与される、請求項1〜3のいずれか1項の方法。
【請求項9】
エナンチオマー濃縮された(−)−ニルバジピンが、高血圧範囲の血圧を有するヒトまたは動物に投与される、請求項1〜3のいずれか1項の方法。
【請求項10】
エナンチオマー濃縮が約95%を超える値、約98%を超える値、および検出限界である約100%からなる群から選択される、請求項1〜3のいずれか1項の方法。
【請求項11】
エナンチオマー濃縮された(−)−ニルバジピンの治療上の有効量による治療期間が、動物またはヒトの一生涯の間、1時間〜5年間、1日〜12ヶ月間、1週間〜6ヶ月間、2週間〜4週間、2週間〜3年間、および6ヶ月間〜12ヶ月間からなる群から選択される、請求項1〜3のいずれか1項の方法。
【請求項12】
エナンチオマー濃縮された(−)−ニルバジピンが、ハードまたはソフトシェルゼラチンカプセル剤、錠剤、トローチ剤、小袋、ロゼンジ剤、エリキシル剤、懸濁剤、シロップ剤、ウエハー、散剤、顆粒剤、溶剤および乳剤からなる群から選択される単位用量形態にて投与される、請求項1〜3のいずれか1項の方法。
【請求項13】
投与が非経口、経口、または腹腔内投与経由で行われ、任意に非経口投与経路が静脈内;筋肉内;間質内;動脈内;皮下;眼内;頭蓋内;くも膜下腔内;脳室内;滑膜内;経皮、肺吸入、点眼、舌下およびバッカルを含む経上皮;点眼、皮膚、眼球、直腸、ならびにエアロゾル、アトマイザー、およびネブライザーからなる群から任意に選択されるガス注入または噴霧経由の経鼻吸入を含む局所からなる群から選択される、請求項1〜3のいずれか1項の方法。
【請求項14】
脳アミロイド形成疾患または状態に苦しむ動物またはヒトにおいて、エナンチオマー濃縮された(−)−ニルバジピンの治療上の有効量、および医薬的に許容される担体から本質的になる組成物を該動物または該ヒトに投与することを含む、脳アミロイド形成疾患または状態を治療する方法。
【請求項1】
脳アミロイド形成疾患または状態に苦しむ動物またはヒトにおいて、エナンチオマー濃縮された(−)−ニルバジピンの治療上の有効量を該動物または該ヒトに投与することを含む、Aβ沈着、Aβ神経毒性およびミクログリオーシスを減少させる方法。
【請求項2】
外傷性脳損傷に苦しむ動物またはヒトにおいて、エナンチオマー濃縮された(−)−ニルバジピンの治療上の有効量を該動物または該ヒトに投与することを含み、該エナンチオマー濃縮された(−)−ニルバジピン投与が急性頭部損傷後に開始される、Aβ沈着、Aβ神経毒性およびミクログリオーシスに起因する脳アミロイド形成疾患または状態のリスクを減少させる方法。
【請求項3】
脳アミロイド形成疾患または状態を発症するリスクがあると診断された動物またはヒトにおいて、エナンチオマー濃縮された(−)−ニルバジピンの治療上の有効量を該動物または該ヒトに投与することを含む、脳アミロイド形成疾患または状態を発症するリスクを減少させる方法。
【請求項4】
脳アミロイド形成疾患または状態がアルツハイマー病、外傷性脳損傷、および脳アミロイド血管症からなる群から選択される、請求項1〜3のいずれか1項の方法。
【請求項5】
エナンチオマー濃縮された(−)−ニルバジピンの治療上の有効量が、約0.05〜20mg/日、約2〜15mg/日、約4〜12mg/日、および約8mg/日からなる群から選択される、請求項1〜3のいずれか1項の方法。
【請求項6】
エナンチオマー濃縮された(−)−ニルバジピンの治療上の有効量が、16〜最大耐量、16〜50、約16、約20、約30、約40、約50、約100、約300、および約500mg/日からなる群から選択される、請求項1〜3のいずれか1項の方法。
【請求項7】
エナンチオマー濃縮された(−)−ニルバジピンの治療上の有効量が、エナンチオマー濃縮された(−)−ニルバジピンの投与後に治療前血圧の約20%未満、約10%未満、約5%未満、および約1%未満からなる群から選択される量の血圧を減少させ、血圧が、連続的モニタリングおよび曲線下面積を求めるための時間に関する積分によって計算され、治療後血圧が、定常状態の結果を達成するのに十分な治療期間後に決定される、請求項1〜3のいずれか1項の方法。
【請求項8】
エナンチオマー濃縮された(−)−ニルバジピンが、正常または低血圧範囲の血圧を有するヒトまたは動物に投与される、請求項1〜3のいずれか1項の方法。
【請求項9】
エナンチオマー濃縮された(−)−ニルバジピンが、高血圧範囲の血圧を有するヒトまたは動物に投与される、請求項1〜3のいずれか1項の方法。
【請求項10】
エナンチオマー濃縮が約95%を超える値、約98%を超える値、および検出限界である約100%からなる群から選択される、請求項1〜3のいずれか1項の方法。
【請求項11】
エナンチオマー濃縮された(−)−ニルバジピンの治療上の有効量による治療期間が、動物またはヒトの一生涯の間、1時間〜5年間、1日〜12ヶ月間、1週間〜6ヶ月間、2週間〜4週間、2週間〜3年間、および6ヶ月間〜12ヶ月間からなる群から選択される、請求項1〜3のいずれか1項の方法。
【請求項12】
エナンチオマー濃縮された(−)−ニルバジピンが、ハードまたはソフトシェルゼラチンカプセル剤、錠剤、トローチ剤、小袋、ロゼンジ剤、エリキシル剤、懸濁剤、シロップ剤、ウエハー、散剤、顆粒剤、溶剤および乳剤からなる群から選択される単位用量形態にて投与される、請求項1〜3のいずれか1項の方法。
【請求項13】
投与が非経口、経口、または腹腔内投与経由で行われ、任意に非経口投与経路が静脈内;筋肉内;間質内;動脈内;皮下;眼内;頭蓋内;くも膜下腔内;脳室内;滑膜内;経皮、肺吸入、点眼、舌下およびバッカルを含む経上皮;点眼、皮膚、眼球、直腸、ならびにエアロゾル、アトマイザー、およびネブライザーからなる群から任意に選択されるガス注入または噴霧経由の経鼻吸入を含む局所からなる群から選択される、請求項1〜3のいずれか1項の方法。
【請求項14】
脳アミロイド形成疾患または状態に苦しむ動物またはヒトにおいて、エナンチオマー濃縮された(−)−ニルバジピンの治療上の有効量、および医薬的に許容される担体から本質的になる組成物を該動物または該ヒトに投与することを含む、脳アミロイド形成疾患または状態を治療する方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5A】
【図5B】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5A】
【図5B】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【公表番号】特表2010−540661(P2010−540661A)
【公表日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−528172(P2010−528172)
【出願日】平成20年10月3日(2008.10.3)
【国際出願番号】PCT/US2008/078786
【国際公開番号】WO2009/046323
【国際公開日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【出願人】(510253756)アルツハイマーズ・インスティテュート・オブ・アメリカ・インコーポレイテッド (1)
【氏名又は名称原語表記】ALZHEIMER’S INSTITUTE OF AMERICA, INC.
【Fターム(参考)】
【公表日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年10月3日(2008.10.3)
【国際出願番号】PCT/US2008/078786
【国際公開番号】WO2009/046323
【国際公開日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【出願人】(510253756)アルツハイマーズ・インスティテュート・オブ・アメリカ・インコーポレイテッド (1)
【氏名又は名称原語表記】ALZHEIMER’S INSTITUTE OF AMERICA, INC.
【Fターム(参考)】
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