説明

(チオフェン/フェニレン)コオリゴマーおよびそれらを含む発光材料

【課題】比較的容易に電子を注入・輸送することができる化合物およびそれらを用いた発光材料の提供。
【解決手段】一般式(1):


(nは1〜4、pは1〜6)で表される(チオフェン/フェニレン)コオリゴマー、およびこれを含む発光材料。また、一般式(2):


(nは1〜4、XおよびXはハロゲン原子)で表される芳香族亜鉛化合物と、一般式(3):


(pは1〜6、Xはハロゲン原子)で表される化合物とを、金属触媒の存在下で反応させて得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な化合物である(チオフェン/フェニレン)コオリゴマー、該(チオフェン/フェニレン)コオリゴマーを含む発光材料および該(チオフェン/フェニレン)コオリゴマーの製造方法に関する。これらの(チオフェン/フェニレン)コオリゴマーは、化学工業および電子工業の分野で有用であり、特に、有機半導体レーザー、有機LED、有機EL発光体、有機トランジスタ、有機発光トランジスタ、有機センサー、有機光導電体、有機薄膜太陽電池、コンデンサー、二次電池等に利用し得る機能性分子化合物として有用である。
【背景技術】
【0002】
従来、機能性有機材料を用いた有機発光デバイスが提案され、特に電流注入によるレーザー発振を目的とした発光材料やデバイスが開発されて今日に至っている(非特許文献1参照)。
【0003】
しかしながら、これまでに開発された材料を用いた有機発光デバイスの性能は、実用に供するには未だ不十分である。この主要な理由として、電子やホールを注入・輸送する機能に優れた有機発光材料が乏しいことが挙げられる。
【0004】
そこで、本発明者らはこのような従来の問題点を解決すべく研究した結果、特定の(チオフェン/フェニレン)コオリゴマーが比較的容易に電子を注入・輸送する機能を有することを見出した(特許文献1参照)。
【0005】
【非特許文献1】J.H.Schoen, Ch.Kloc, A.Dodabalapur, and B.Batlogg, Science 289, 599(2000)
【特許文献1】特開2005−306824号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
有機発光材料の用途は、今日、多様化しており、それに対応するには多種多様な機能性分子化合物である(チオフェン/フェニレン)コオリゴマーが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、今回、特許文献1における(チオフェン/フェニレン)コオリゴマーの主要骨格および末端置換基についてさらに検討を加え、比較的容易に電子を注入・輸送することができる化合物およびそれらを用いた発光材料を見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
本発明は、一般式(1):
【0009】
【化1】

【0010】
(式中、nは1〜4の整数を、pは1〜6の整数を示す)で表される(チオフェン/フェニレン)コオリゴマーを含む発光材料、および、一般式(2):
【0011】
【化2】

【0012】
(式中、nは1〜4の整数を、XおよびXはそれぞれ独立して、ハロゲン原子を示す)で表される芳香族亜鉛化合物と、一般式(3):
【0013】
【化3】

【0014】
(式中、pは1〜6の整数を、Xはハロゲン原子を示す)で表される化合物とを金属触媒の存在下で反応させることを特徴とする一般式(1)で表される(チオフェン/フェニレン)コオリゴマーの製造方法に関する。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る(チオフェン/フェニレン)コオリゴマーおよびそれらを用いた発光材料は、高い電子注入・輸送機能を持つ。これらの(チオフェン/フェニレン)コオリゴマーは、いずれもチオフェン環とベンゼン環とが直接に結合した分子骨格に対して電子受容性に優れたパーフルオロアルキル基を末端基として付与したことを特徴とし、電子注入・輸送性を飛躍的に高めることを可能とする。
【0016】
このことは、分子軌道計算によって算出した化合物の電子準位をまとめた表1からも理解できる。即ち、PAC3−CFおよびPAC5−CFの最低空軌道の電子準位は、それらの基準となるPAC3およびPAC5の電子準位よりそれぞれ0.73eVおよび0.48eVだけ低く、本発明の化合物はPAC3およびPAC5よりも優れた電子注入特性を有することを裏付ける。なお、表1において、PAC3−CFは前記一般式(1)におけるnが1である(チオフェン/フェニレン)コオリゴマーを表し、PAC5−CFは前記一般式(1)におけるnが2である(チオフェン/フェニレン)コオリゴマーを表す。また、PAC3およびPAC5は、一般式(4):
【0017】
【化4】

【0018】
(式中、yは1〜4の整数を示す)で表される化合物のうち、yが1および2であるものをそれぞれ表す。
【0019】
【表1】

【0020】
さらに、チオフェン環とベンゼン環とが直接に結合した分子骨格は優れたキャリア輸送特性の源となる。この理由については未だ十分に明らかにされていないものの、チオフェン環とベンゼン環の局所的な電子状態の異なることがキャリア輸送特性の向上に関して特異な効果を発揮するものとして理解できる。
【0021】
また、本発明に係る(チオフェン/フェニレン)コオリゴマーは輝度が極めて高い光を発することができることに加え、チオフェン環の個数を変えることによって容易に発光色を制御し得るという優れた特性も兼ね備える。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明の(チオフェン/フェニレン)コオリゴマーは、下記一般式(1)で表される化合物である。一般式(1)中、nは1〜4の整数を、pは1〜6の整数を表す。
【0023】
【化5】

【0024】
本発明の(チオフェン/フェニレン)コオリゴマーの具体例としては、例えば、
2,5−ビス(4−トリフルオロメチルフェニル)チオフェン、1,4−ビス[5−(4−トリフルオロメチルフェニル)チオフェン−2−イル]ベンゼン、2,5−ビス{4−[5−(4−トリフルオロメチルフェニル)チオフェン−2−イル]−1−フェニル}チオフェン、1,4−ビス{5−{4−[5−(4−トリフルオロメチルフェニル)チオフェン−2−イル]−1−フェニル}チオフェン−2−イル}ベンゼン、
2,5−ビス(4−ペンタフルオロエチルフェニル)チオフェン、1,4−ビス[5−(4−ペンタフルオロエチルフェニル)チオフェン−2−イル]ベンゼン、2,5−ビス{4−[5−(4−ペンタフルオロエチルフェニル)チオフェン−2−イル]−1−フェニル}チオフェン、1,4−ビス{5−{4−[5−(4−ペンタフルオロエチルフェニル)チオフェン−2−イル]−1−フェニル}チオフェン−2−イル}ベンゼン、
2,5−ビス(4−ヘプタフルオロプロピルフェニル)チオフェン、1,4−ビス[5−(4−ヘプタフルオロプロピルフェニル)チオフェン−2−イル]ベンゼン、2,5−ビス{4−[5−(4−ヘプタフルオロプロピルフェニル)チオフェン−2−イル]−1−フェニル}チオフェン、1,4−ビス{5−{4−[5−(4−ヘプタフルオロプロピルフェニル)チオフェン−2−イル]−1−フェニル}チオフェン−2−イル}ベンゼン、
2,5−ビス(4−ノナフルオロブチルフェニル)チオフェン、1,4−ビス[5−(4−ノナフルオロブチルフェニル)チオフェン−2−イル]ベンゼン、2,5−ビス{4−[5−(4−ノナフルオロブチルフェニル)チオフェン−2−イル]−1−フェニル}チオフェン、1,4−ビス{5−{4−[5−(4−ノナフルオロブチルフェニル)チオフェン−2−イル]−1−フェニル}チオフェン−2−イル}ベンゼン、
2,5−ビス(4−ペルフルオロペンチルフェニル)チオフェン、1,4−ビス[5−(4−ペルフルオロペンチルフェニル)チオフェン−2−イル]ベンゼン、2,5−ビス{4−[5−(4−ペルフルオロペンチルフェニル)チオフェン−2−イル]−1−フェニル}チオフェン、1,4−ビス{5−{4−[5−(4−ペルフルオロペンチルフェニル)チオフェン−2−イル]−1−フェニル}チオフェン−2−イル}ベンゼン、
2,5−ビス(4−ペルフルオロヘキシルフェニル)チオフェン、1,4−ビス[5−(4−ペルフルオロヘキシルフェニル)チオフェン−2−イル]ベンゼン、2,5−ビス{4−[5−(4−ペルフルオロヘキシルフェニル)チオフェン−2−イル]−1−フェニル}チオフェン、1,4−ビス{5−{4−[5−(4−ペルフルオロヘキシルフェニル)チオフェン−2−イル]−1−フェニル}チオフェン−2−イル}ベンゼン等が挙げられる。
【0025】
本発明の(チオフェン/フェニレン)コオリゴマーは、前記一般式(1)中のnおよびpの数に応じて様々に色調が変化し、且つ輝度が極めて高い光を発することができるため、種々の有機発光デバイスに用いられる発光材料として有用である。
【0026】
本発明において、前記(チオフェン/フェニレン)コオリゴマーはそれぞれ単独で、あるいは2種以上を任意に組み合わせて、様々な色調の光を高輝度で発生させることができる発光材料として用いることができる。
【0027】
また、本発明による(チオフェン/フェニレン)コオリゴマーは、発光層を構成する材料として用いることができる。さらに、他の公知の発光材料と組み合わせて使用することにより、白色等のより多様な発光色を得ることが可能となる。
【0028】
本発明の(チオフェン/フェニレン)コオリゴマーは、下記一般式(2)で表される芳香族亜鉛化合物と、下記一般式(3)で表される化合物とを、金属触媒の存在下で反応させることにより製造することができる。
【0029】
【化6】

【0030】
【化7】

【0031】
一般式(2)中、nは1〜4の整数を、XおよびXはそれぞれ独立してハロゲン原子を表す。
【0032】
およびXで表されるハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子およびヨウ素原子等が挙げられる。
【0033】
本発明において、前記一般式(2)で表される芳香族亜鉛化合物のうち、XおよびXが共に塩素原子である芳香族亜鉛化合物が好適に用いられる。
【0034】
前記一般式(2)で表される芳香族亜鉛化合物の製造方法は、特に限定されないが、例えば、一般式(5):
【0035】
【化8】

【0036】
(式中、nは前記一般式(2)におけるnと同じ整数を示す)で表される芳香族化合物をリチウム化剤と反応させた後、ハロゲン化亜鉛と反応させる方法により製造することができる。
【0037】
前記一般式(5)で表される芳香族化合物の具体例としては、例えば、チオフェン、1,4−ジ(2−チエニル)ベンゼン、2,5−ビス[4−(2−チエニル)−1−フェニル]チオフェン、1,4−ビス{5−[4−(2−チエニル)−1−フェニル]−2−チエニル}ベンゼン等が挙げられる。
【0038】
前記反応に用いられるリチウム化剤としては、特に限定されないが、例えば、メチルリチウム、n−ブチルリチウム、sec−ブチルリチウム、tert−ブチルリチウム、n−ヘキシルリチウム等が挙げられる。中でも適度な反応性の観点から、n−ブチルリチウムが好適に用いられる。
【0039】
前記リチウム化剤の使用量は、特に限定されないが、前記芳香族化合物1モルに対して、1〜4モルが好ましく、より好ましくは1.5〜3モルであることが望ましい。リチウム化剤の使用量が1モル未満の場合、反応が完結しにくくなるおそれがある。また、リチウム化剤の使用量が4モルを超える場合、使用量に見合う効果がなく経済的でない。
【0040】
前記反応に用いられるハロゲン化亜鉛としては、特に限定されないが、例えば、塩化亜鉛、臭化亜鉛、ヨウ化亜鉛等が挙げられる。中でも反応性が高い観点から、塩化亜鉛が好適に用いられる。
【0041】
前記ハロゲン化亜鉛の使用量は、特に限定されないが、前記芳香族化合物1モルに対して、1〜4モルが好ましく、より好ましくは1.5〜3モルであることが望ましい。ハロゲン化亜鉛の使用量が1モル未満の場合、反応が完結しにくくなるおそれがある。また、ハロゲン化亜鉛の使用量が4モルを超える場合、使用量に見合う効果がなく経済的でない。
【0042】
前記反応に用いられる溶媒としては、特に限定されないが、例えば、ペンタン、n−ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、オクタン等の炭化水素系溶媒;ベンゼン、トルエン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼン等の芳香族炭化水素系溶媒;酢酸エチル等のエステル系溶媒;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ヘキサメチルホスホルアミド等のアミド系溶媒;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジメトキシエタン等のエーテル系溶媒;ジクロロメタン、クロロホルム等のハロゲン系溶媒;アセトン等のケトン系溶媒;アセトニトリル、プロピオニトリル、ブチロニトリル等のニトリル系溶媒等が挙げられる。
【0043】
前記溶媒の使用量は、特に限定されないが、前記芳香族化合物100重量部に対して、100〜20000重量部が好ましく、より好ましくは500〜5000重量部であることが望ましい。溶媒の使用量が100重量部未満の場合、生成物が析出して攪拌が困難となるおそれがある。また、溶媒の使用量が20000重量部を超える場合、使用量に見合う効果がなく容積効率が悪化し経済的でない。
【0044】
反応温度は、通常、−70〜100℃、好ましくは−50〜100℃、より好ましくは−30〜60℃である。反応温度が−70℃未満の場合、反応に長時間を要するおそれがある。また、反応温度が100℃を超える場合、副生成物が増加するおそれがある。また、反応時間は、反応温度により異なるが、通常1〜30時間である。
【0045】
かくして得られる前記芳香族亜鉛化合物は、単離することなく本発明の原料として用いて、前記一般式(3)で表される化合物と金属触媒の存在下で反応させることにより、本発明の(チオフェン/フェニレン)コオリゴマーを製造することができる。
【0046】
本発明に用いられる前記一般式(3)で表される化合物において、pは1〜6の整数を、Xはハロゲン原子を表す。
【0047】
で表されるハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子およびヨウ素原子等が挙げられ、前記一般式(2)におけるXまたはXと同じものであってもよいし、異なるものであってもよい。
【0048】
前記一般式(3)で表される化合物の具体例としては、例えば、1−フルオロ−4−トリフルオロメチルベンゼン、1−クロロ−4−トリフルオロメチルベンゼン、1−ブロモ−4−トリフルオロメチルベンゼン、1−ヨード−4−トリフルオロメチルベンゼン、1−ブロモ−4−ペンタフルオロエチルベンゼン、1−ヨード−4−ペンタフルオロエチルベンゼン、1−ブロモ−4−ヘプチルフルオロプロピルベンゼン、1−ヨード−4−ヘプチルフルオロプロピルベンゼン、1−ブロモ−4−ノナフルオロブチルベンゼン、1−ヨード−4−ノナフルオロブチルベンゼン、1−ブロモ−4−ペルフルオロペンチルベンゼン、1−ヨード−4−ペルフルオロペンチルベンゼン、1−ブロモ−4−ペルフルオロヘキシルベンゼン、1−ヨード−4−ペルフルオロヘキシルベンゼン等が挙げられる。
【0049】
本発明において、前記一般式(3)で表される化合物は、一般市販品を用いることができる。
【0050】
本発明において、前記一般式(3)で表される化合物の使用量は特に限定されないが、前記芳香族亜鉛化合物1モルに対して、1〜5モルが好ましく、より好ましくは1.8〜3.5モルであることが望ましい。前記一般式(3)で表される化合物の使用量が1モル未満の場合、収率が低下するおそれがある。また、前記一般式(3)で表される化合物の使用量が5モルを超える場合、使用量に見合う効果がなく経済的でない。
【0051】
本発明に用いられる金属触媒としては、特に限定されず、例えば、パラジウム触媒やニッケル触媒等が挙げられる。パラジウム触媒としては、例えば、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)、トリス(ジベンジリデンアセトン)二パラジウム(0)、ビス(トリシクロヘキシルホスフィン)パラジウム(0)、ビス(トリブチルホスフィン)パラジウム(0)、ジクロロビス(アセトニトリル)パラジウム(II)、パラジウム(0)カーボン、ジクロロビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(II)、ジブロモビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(II)、ジクロロ[1,4−ビス(ジフェニルホスフィノ)ブタン]パラジウム(II)、ジクロロ[1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン]パラジウム(II)、ジクロロ[1,1’−ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン]パラジウム(II)、酢酸パラジウム(II)、ジアセトビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(II)、ジアセト[1,4−ビス(ジフェニルホスフィノ)ブタン]パラジウム(II)、ジアセト[1,3−ビス(ジフェニルホスフィノ)プロパン]パラジウム(II)、ジアセト[1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン]パラジウム(II)、ジアセト[1,1’−(ジフェニルホスフィノ)フェロセン]パラジウム(II)等が挙げられる。
【0052】
またニッケル触媒としては、例えば、ジクロロ[1,1’−(ジフェニルホスフィノ)フェロセン]ニッケル(II)、ジクロロ[1,4−ビス(ジフェニルホスフィノ)ブタン]ニッケル(II)、ジクロロ[1,3−ビス(ジフェニルホスフィノ)プロパン]ニッケル(II)、ジクロロ[1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン]ニッケル(II)、ジクロロビス(トリフェニルホスフィン)ニッケル(II)、ジブロモ[1,1’−(ジフェニルホスフィノ)フェロセン]ニッケル(II)、ジブロモ[1,4−ビス(ジフェニルホスフィノ)ブタン]ニッケル(II)、ジブロモ[1,3−ビス(ジフェニルホスフィノ)プロパン]ニッケル(II)、ジブロモ[1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン]ニッケル(II)、ジブロモビス(トリフェニルホスフィン)ニッケル(II)等が挙げられる。
【0053】
これらの金属触媒の中でも、反応性が高い観点から、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)が好適に用いられる。
【0054】
前記金属触媒の使用量は、特に限定されないが、前記芳香族亜鉛化合物1モルに対して、0.001〜0.2モルが好ましく、より好ましくは0.01〜0.15モルであることが望ましい。金属触媒の使用量が0.001モル未満の場合、反応が完結しにくくなるおそれがある。また、金属触媒の使用量が0.2モルを超える場合、使用量に見合う効果がなく経済的でない。
【0055】
本発明の反応に用いられる溶媒としては、特に限定されないが、例えば、ペンタン、n−ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、オクタン等の炭化水素系溶媒;ベンゼン、トルエン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼン等の芳香族炭化水素系溶媒;酢酸エチル等のエステル系溶媒;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ヘキサメチルホスホルアミド等のアミド系溶媒;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジメトキシエタン等のエーテル系溶媒;ジクロロメタン、クロロホルム等のハロゲン系溶媒;アセトン等のケトン系溶媒;アセトニトリル、プロピオニトリル、ブチロニトリル等のニトリル系溶媒等が挙げられる。中でも、ヘキサンおよびテトラヒドロフランが好適に用いられる。
【0056】
前記溶媒の使用量は、特に限定されないが、前記一般式(3)で表される化合物100重量部に対して、100〜20000重量部が好ましく、より好ましくは100〜5000重量部であることが望ましい。溶媒の使用量が100重量部未満の場合、生成物が析出して攪拌が困難となるおそれがある。また、溶媒の使用量が20000重量部を超える場合、使用量に見合う効果がなく容積効率が悪化し経済的でない。
【0057】
反応温度は、通常、−20〜200℃、好ましくは20〜150℃、より好ましくは40〜120℃である。反応温度が−20℃未満の場合、反応に長時間を要するおそれがある。また、反応温度が200℃を超える場合、副生成物が増加するおそれがある。また、反応時間は、反応温度により異なるが、通常1〜30時間である。
【0058】
かくして得られる(チオフェン/フェニレン)コオリゴマーは、反応液を冷却して析出させた後、ろ過することにより容易に単離することができる。
【0059】
以下に、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0060】
実施例1
攪拌機、温度計および冷却器を備え付けた2L容の四つ口フラスコに、窒素雰囲気下で、1,4−ジ(2−チエニル)ベンゼン17.7g(73mmol)およびテトラヒドロフラン1.1Lを仕込み、−10℃でn−ブチルリチウム(2.6mol/l、ヘキサン溶液)73ml(190mmol)を30分かけて滴下した後、−10℃で30分維持した。次に、−10℃で塩化亜鉛25.9g(190mmol)を添加して、室温で1時間攪拌し、1,4−ジ(2−チエニル)ベンゼンの亜鉛化合物を含むテトラヒドロフラン溶液を得た。
【0061】
その後、窒素雰囲気下で、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)3.7g(3.2mmol)と1−ブロモ−4−トリフルオロメチルベンゼン53.5g(238mmol)を添加し、50℃で17時間反応させた。
【0062】
反応終了後、反応溶液を冷却し、析出した生成物をろ過し、結晶をテトラヒドロフランで洗浄し、減圧乾燥することにより、黄色結晶の1,4−ビス[5−(4−トリフルオロメチルフェニル)チオフェン−2−イル]ベンゼン15.1g(29mmol)を得た。1,4−ジ(2−チエニル)ベンゼンに対する収率は39%であった。
【0063】
得られた化合物は、前記一般式(1)におけるnが2であり、pが1である1,4−ビス[5−(4−トリフルオロメチルフェニル)チオフェン−2−イル]ベンゼンであって、下記の物性を有することから同定することができた。
【0064】
融点:277℃
IR(KBr,cm−1):1614,1498,1451,1413,1328,1282,1194,1179,1131,1113,1083,1068,841,798,778,740,701,601,477
【0065】
実施例2
実施例1において、1,4−ジ(2−チエニル)ベンゼン17.7g(73mmol)に代えて、チオフェン6.2g(73mmol)を用いた以外は実施例1と同様にして、前記一般式(1)におけるnが1であり、pが1である2,5−ビス(4−トリフルオロメチルフェニル)チオフェン16.4g(44mmol)を得た。チオフェンに対する収率は60%であった。
【0066】
比較例1〜4
表2に示した、S.Hotta and K.Waragai,J.Mater.Chem.1,835(1991)に記載のあるオリゴチオフェン化合物を用いた。
【0067】
評価
実施例1および2で得られた化合物について、発光材料としての有用性を評価した。評価方法としては、実施例1および2で得られた結晶物の数片を試料管に入れて密栓、試料管の外部から紫外ランプ(波長365nm)を照射して、当該結晶物から発せられる蛍光の色調および輝度を目視で観察した。また、比較例1〜4のオリゴチオフェン化合物についても上記と同様にして、蛍光の色調および輝度を目視で観察した。これらの結果を表2に示す。
【0068】
【表2】

【0069】
表2から、実施例1および2で得られた化合物は、前記一般式(1)におけるnがそれぞれ2および1である化合物であって、前記一般式(1)におけるチオフェン環およびフェニレン環の数に応じて色調が変化することが分かる。
【0070】
また、表2から、実施例1および2で得られた化合物は、比較例1〜4のオリゴチオフェン化合物よりも輝度が極めて高い蛍光を発することが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明によれば、各種の有機発光デバイスに有用な、様々な色調の光を高輝度で発生する発光材料を提供することができる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1):
【化1】

(式中、nは1〜4の整数を、pは1〜6の整数を示す)で表される(チオフェン/フェニレン)コオリゴマー。
【請求項2】
一般式(1):
【化2】

(式中、nは1〜4の整数を、pは1〜6の整数を示す)で表される(チオフェン/フェニレン)コオリゴマーを含む発光材料。
【請求項3】
一般式(2):
【化3】

(式中、nは1〜4の整数を、XおよびXはそれぞれ独立して、ハロゲン原子を示す)で表される芳香族亜鉛化合物と、一般式(3):
【化4】

(式中、pは1〜6の整数を、Xはハロゲン原子を示す)で表される化合物とを、金属触媒の存在下で反応させることを特徴とする一般式(1):
【化5】

(式中、nは前記一般式(2)におけるnと同じ整数を、pは前記一般式(3)におけるpと同じ整数を示す)で表される(チオフェン/フェニレン)コオリゴマーの製造方法。
【請求項4】
前記金属触媒が、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)である請求項3に記載の(チオフェン/フェニレン)コオリゴマーの製造方法。
【請求項5】
前記芳香族亜鉛化合物が、一般式(2)におけるXおよびXが共に塩素原子である請求項3または4に記載の(チオフェン/フェニレン)コオリゴマーの製造方法。


【公開番号】特開2007−197359(P2007−197359A)
【公開日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−17403(P2006−17403)
【出願日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【出願人】(000195661)住友精化株式会社 (352)
【Fターム(参考)】