説明

(ポリ)アルキレングリコールジエーテルの製造方法

【課題】SiO2/M23比が10〜1000のメタロシリケート触媒をエーテル交換反応の触媒として用いて、任意のオキシアルキレン基の付加モル数および任意の末端アルキル基を導入した、(ポリ)アルキレングリコールジエーテルの製造方法を提供する。
【解決手段】第1の(ポリ)アルキレングリコールモノエーテルと、第2の(ポリ)アルキレングリコールモノエーテルとを、SiO2/M23比(Mは、Al、Ga、Ge、B、Zn、P、Ge、Zr、Ti、Cr、Be、VおよびAsからなる群から選択される1つ以上である)が10〜1000のメタロシリケート触媒の存在下、エーテル交換反応により(ポリ)アルキレングリコールジエーテルを得る工程を含む、(ポリ)アルキレングリコールジエーテルの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メタロシリケート触媒を用いた、(ポリ)アルキレングリコールモノエーテルのエーテル交換反応による(ポリ)アルキレングリコールジエーテルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エチレングリコールジメチルエーテルに代表される(ポリ)アルキレングリコールジエーテルは、極性が小さいにもかかわらず、多くの極性および非極性有機溶媒に対して高い溶解性をもち、かつ、低毒性であるという特性を有している。このため、(ポリ)アルキレングリコールジエーテルは、反応溶媒、塗料およびインキ溶剤、分解防止および安定剤、電解液、並びに樹脂の溶剤等で幅広い用途があり、商業的にも需要が高い。
【0003】
(ポリ)アルキレングリコールジエーテルの製造方法としては、従来から(ポリ)アルキレングリコールモノエーテルと、金属ナトリウムまたは水酸化ナトリウム等とを反応させて生成するアルコキシドを、塩化メチル等のハロゲン化アルキルに反応させる方法が用いられてきた(例えば、特許文献1を参照)。しかし、前記方法を工業的に利用する場合、原料となるハロゲン化アルキルが可燃性、爆発性等の危険性、および発がん性等の毒性を有する点、並びに多量に副生する塩化ナトリウム等の塩の分離、廃棄等にさらなる工程および設備を必要とする点が問題となっていた。
【0004】
前記製造方法に代わる方法として、特許文献2には、ゼオライトの存在下、脱水縮合反応により(ポリ)エチレングリコールジエーテルを1工程で製造する方法が開示されている。しかし、脱水縮合反応を利用する方法では、下記一般式で表されるように、ポリエチレングリコール鎖が偶数であり、末端アルキル基が同一のものしか製造することができない問題点がある。
【0005】
【化1】

【0006】
このため、製造可能な(ポリ)エチレングリコールジエーテルは限定される結果となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第3591641号明細書
【特許文献2】特開平10−17514号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで本発明は、メタロシリケート触媒を用いた、(ポリ)アルキレングリコールモノエーテルのエーテル交換反応により、任意の数のオキシアルキレン基および任意の末端アルキル基を導入することができる、(ポリ)アルキレングリコールジエーテルの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、鋭意研究を行った結果、SiO2/M23比が10〜1000のメタロシリケート触媒を用いると、驚くべきことに、(ポリ)アルキレングリコールモノエーテルのエーテル交換反応が生じることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、SiO2/M23比が10〜1000のメタロシリケート触媒をエーテル交換反応の触媒として用いる、(ポリ)アルキレングリコールジエーテルの製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、任意の数のポリアルキレングリコール鎖および任意の末端アルキル基を導入することが可能となり、様々な(ポリ)アルキレングリコールジエーテルが製造できる。また、本発明によれば、原料は安全性の高い(ポリ)アルキレングリコールモノエーテルであり、従来の危険性および毒性を有する原料は使用しないことから人体に対する影響は少なくなる。さらに本発明によれば、工業的に(ポリ)アルキレングリコールジエーテルを製造する場合、1工程で目的の生成物を製造することができ、塩を生成しないことから、必要とする設備が減り、係る設備によって生じる廃水および廃液がなくなるため、環境に優しい。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に本発明の実施形態を説明する。
【0013】
本発明は、下記化学式(1):
【0014】
【化2】

【0015】
(式中、R1は、C1−C8のアルキル基、C3−C8のシクロアルキル基、C2−C8のアルケニル基、またはC6−C8のアリール基であり、Aは、C2−C8のアルキレン基であり、nはオキシアルキレン基の付加モル数を表し、1〜5の整数である。)
で表される第1の(ポリ)アルキレングリコールモノエーテルと、
下記化学式(2):
【0016】
【化3】

【0017】
(式中、R2は、C1−C8のアルキル基、C3−C8のシクロアルキル基、C2−C8のアルケニル基、またはC6−C8のアリール基であり、Aは、C2−C8のアルキレン基であり、nはオキシアルキレン基の付加モル数を表し、1〜5の整数である。)
で表される第2の(ポリ)アルキレングリコールモノエーテルとを、
SiO2/M23比(Mは、Al、Ga、Ge、B、Zn、P、Ge、Zr、Ti、Cr、Be、VおよびAsからなる群から選択される1つ以上である)が10〜1000のメタロシリケート触媒の存在下でエーテル交換反応させて、下記化学式(3):
【0018】
【化4】

【0019】
(式中、R1、R2、Aおよびnは、上記と同様の定義である。)
で表される(ポリ)アルキレングリコールジエーテルを得る工程を含む、(ポリ)アルキレングリコールジエーテルの製造方法である。
【0020】
本発明の一実施形態によると、前記第1および第2の(ポリ)アルキレングリコールモノエーテルは、製造しようとする前記式(3)の(ポリ)アルキレングリコールジエーテルによって適宜選択されうる。前記第1および第2の(ポリ)アルキレングリコールモノエーテルは同一のものであってもよい。
【0021】
また、本発明の一実施形態によると、製造しようとする前記式(3)の(ポリ)アルキレングリコールジエーテルのうち、R1およびR2が異なる(ポリ)アルキレングリコールジエーテルを製造することができる。
【0022】
さらに、本発明の一実施形態によると、製造しようとする前記式(3)の(ポリ)アルキレングリコールジエーテルのうち、nが偶数のものだけでなく、奇数、特にnが1のものを製造することができる。
【0023】
(第1および第2の(ポリ)アルキレングリコールモノエーテル)
本発明の一実施形態によると、本発明に用いられる第1および第2の(ポリ)アルキレングリコールモノエーテルは、それぞれ前記化学式(1)および化学式(2)で表される。前記化学式(1)および化学式(2)において、R1およびR2は、それぞれ独立して、C1−C8のアルキル基、C3−C8のシクロアルキル基、C2−C8のアルケニル基、またはC6−C8のアリール基である。R1およびR2の具体例としては、特に限定されないが、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基等のアルキル基;シクロプロピル基、シクロブチル基、メチルシクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロオクチル基等のシクロアルキル基;ビニル基、アリル基、ブテニル基、オクテニル基等のアルケニル基;フェニル基、ベンジル基、トリル基、キシリル基、クロロフェニル基等のアリール基が挙げられる。これらのうち、メチル基、エチル基、またはブチル基が好ましく、メチル基またはエチル基がさらに好ましい。また、前記化学式(1)および化学式(2)において、AはC2−C8のアルキレン基である。Aの具体例としては、特に限定されないが、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、へキシレン基、オクチレン基等が挙げられる。これらのうち、エチレン基が好ましい。さらに、前記化学式(1)および化学式(2)において、nはオキシアルキレン基の付加モル数を表し、1〜5の整数である。
【0024】
さらに具体的には、第1および/または第2の(ポリ)アルキレングリコールモノエーテルの例としては、特に限定されないが、モノエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、テトラエチレングリコールモノメチルエーテル、ペンタエチレングリコールモノメチルエーテル、モノエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、テトラエチレングリコールモノエチルエーテル、ペンタエチレングリコールモノエチルエーテル、モノエチレングリコールモノイソプロピルエーテル、モノエチレングリコールモノブチルエーテル、モノエチレングリコールモノヘキシルエーテル、モノエチレングリコールモノシクロヘキシルエーテル、モノエチレングリコールモノブテニルエーテル、モノエチレングリコールモノフェニルエーテル、モノプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、テトラプロピレングリコールモノメチルエーテル、ペンタプロピレングリコールモノメチルエーテル、モノプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、トリプロピレングリコールモノエチルエーテル、テトラプロピレングリコールモノエチルエーテル、ペンタプロピレングリコールモノエチルエーテル、モノプロピレングリコールモノイソプロピルエーテル、モノプロピレングリコールモノブチルエーテル、モノプロピレングリコールモノヘキシルエーテル、モノプロピレングリコールモノシクロヘキシルエーテル、モノプロピレングリコールモノブテニルエーテル、モノプロピレングリコールモノフェニルエーテル、モノへキシレングリコールモノメチルエーテル、ジへキシレングリコールモノメチルエーテル、トリへキシレングリコールモノメチルエーテル、テトラへキシレングリコールモノメチルエーテル、ペンタへキシレングリコールモノメチルエーテル、モノへキシレングリコールモノエチルエーテル、モノへキシレングリコールモノイソプロピルエーテル、モノへキシレングリコールモノブチルエーテル、モノへキシレングリコールモノヘキシルエーテル、モノへキシレングリコールモノシクロヘキシルエーテル、モノへキシレングリコールモノブテニルエーテル、モノへキシレングリコールモノフェニルエーテル、モノオクチレングリコールモノメチルエーテル、ジオクチレングリコールモノメチルエーテル、モノオクチレングリコールモノエチルエーテル、モノオクチレングリコールモノイソプロピルエーテル、モノオクチレングリコールモノブチルエーテル、モノオクチレングリコールモノヘキシルエーテル、モノオクチレングリコールモノシクロヘキシルエーテル、モノオクチレングリコールモノブテニルエーテル、モノオクチレングリコールモノフェニルエーテルが挙げられる。これらのうち、モノエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、モノエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、モノエチレングリコールモノブチルエーテル、またはジエチレングリコールモノブチルエーテルが好ましく、モノエチレングリコールモノメチルエーテル、モノエチレングリコールモノエチルエーテル、またはジエチレングリコールモノエチルエーテルがさらに好ましい。
【0025】
(メタロシリケート触媒)
メタロシリケート触媒は、SiO2/M23で表される結晶型固体触媒である。メタロシリケートは、SiおよびMを中心として、4つの酸素原子が四面体構造をとる、(SiO44-および(MO45-で表される構造を基本単位とする。この基本単位における4つの酸素原子が他の基本単位の酸素原子と共有して、3次元の網目状に結合した結晶を形成する。この結合様式によって、メタロシリケートは細孔(ミクロポア)構造を有する。前記細孔の直径は、一般的に3〜10Åであり、この細孔径によって細孔内に入ることができる分子の大きさが限定される。すなわち、メタロシリケート触媒は、分子ふるい効果を有する。この効果によって、メタロシリケート触媒は、形状選択性という特異な性質を有することが知られている。前記形状選択性は、一般的に、反応物の識別性および生成物の選択性をいう。すなわち、その分子ふるい効果により、反応物は細孔径に応じたサイズのもののみがメタロシリケート触媒に取り込まれ(反応物の識別性)、細孔よりも大きな生成物は生成しない(生成物の選択性)。したがって、メタロシリケート触媒を用いる場合、その細孔径は反応に大きな影響を及ぼす要因となりうる。
【0026】
また、メタロシリケート触媒は、固体酸としての機能も有することが知られている。上述のように、メタロシリケート触媒は、SiO2/M23で表され、その基本構造は(SiO44-および(MO45-で表される。したがって、Mが3価、例えばAlである場合には、電荷を中性に保つため、内部に陽イオンを取り込む。この陽イオンが、例えば水素イオン(H+)であれば、メタロシリケート触媒は固体酸として機能するのである。メタロシリケート触媒の固体酸としての機能によって、その反応性も異なる。前記固体酸としての機能は、メタロシリケート触媒内部の陽イオン、SiO2およびM23のモル比(以下、SiO2/M23比とも称する。)、並びにMの種類等に影響されうる。特にSiO2/M23比に関しては、前記比が大きい場合、陽イオンを取り込む(MO45-の数が減少することから、固体酸としての強さは相対的に弱くなり、前記比が小さい場合、陽イオンを取り込む(MO45-の数が増加することから、固体酸としての強さは相対的に強くなることが予想されうる。
【0027】
メタロシリケート触媒の有する形状選択性および固体酸としての機能を利用して、これまでに多くのメタロシリケート触媒が開発されてきた。特に、メタロシリケート触媒中に存在する陽イオンを様々な触媒機能を有する成分と交換することによって、前記触媒機能を有する成分が導入または担持された種々のメタロシリケート触媒が開発されており、炭化水素の接触分解反応、芳香族化反応、異性化反応、重合反応、メタノールからガソリンへの変換反応、NOXの分解反応等に用いられている。
【0028】
以上より、メタロシリケート触媒の形状選択性および固体酸としての機能が、適用される反応に重要な要因になると考えられる。つまり、エーテル交換反応はメタロシリケート触媒自体による要因が大きいと考えられることから、原料となる上述の第1および第2の(ポリ)アルキレングリコールモノエーテルは、前記メタロシリケート触媒の形状選択性を満たすものであれば、特に制限されないことが理解されうる。
【0029】
上述の特許文献2に記載の発明は、脱水縮合反応を利用して(ポリ)エチレングリコールジエーテルを合成するものである。したがって、特許文献2に記載の脱水縮合反応では末端アルキル基が異なるもの、およびオキシアルキレン基の付加モル数が奇数のものは合成できない。特に、前記オキシアルキレン基の付加モル数が1のものは、脱水縮合反応では製造できない。
【0030】
本発明の一実施形態によると、本発明に用いられるメタロシリケート触媒は、SiO2/M23で表され、Mは、Al、Ga、Ge、B、Zn、P、Ge、Zr、Ti、Cr、Be、VおよびAsからなる群から選択される1つ以上である。これらのうち、メタロシリケート触媒の固体酸としての機能を考慮すると、Al、Gaが好ましく、Alが特に好ましい。
【0031】
また、本発明の一実施形態によると、本発明に用いられるメタロシリケート触媒は、SiO2/M23比が10〜1000である。このうち、メタロシリケート触媒の固体酸としての機能を考慮すると、100を超えて1000以下であることが好ましく、250以上900以下であることがさらに好ましい。
【0032】
さらに、本発明の一実施形態によると、本発明に用いられるメタロシリケート触媒の構造としては、特に制限はないが、国際ゼオライト学会の構造コードで表すと、例えば、MFI、MEL、BEA、MOR、MTW、TON、FAUが挙げられる。これらのうち、メタロシリケート触媒の形状選択性を考慮すると、MFIがより好ましい。前記メタロシリケート触媒のMがAlであり、構造がMFIを有するメタロシリケートとしては、SiO2/Al23で表されるゼオライトが例として挙げられ、本発明において好適に用いられる。
【0033】
本発明の一実施形態によると、メタロシリケートの形態は、メタロシリケート触媒の固体酸としての機能を考慮すると、水素イオン形態、すなわち、H型であることが好ましい。本発明の技術分野における公知の方法で合成されるメタロシリケートは、通常その形態がアルカリ金属形態である。H型形態のメタロシリケートは、公知の方法、例えば、ナトリウムイオン形態のメタロシリケートのアンモニウムイオンとのイオン交換、続く熱処理により合成されうる。また、市販のNH4型形態のメタロシリケートを用いてもよく、この場合には熱処理のみで分解が生じて、H型形態のメタロシリケート触媒が合成される。さらに、市販のH型形態のメタロシリケートを用いてもよい。
【0034】
本発明に用いられるメタロシリケート触媒の具体例としては、例えば、H型ゼオライトPGS(結晶型MFI、SiO2/Ga23=450、日本化学工業株式会社製)、H型ゼオライトPHS(結晶型MFI、SiO2/Al23=450、日本化学工業株式会社製)、H型βゼオライト(グレード名:HSZ980HOA、SiO2/Al23=480、東ソー株式会社製)、H型ZSM−5(結晶型MFI、SiO2/Al23=200,250、THE PQ CORPORATION製)、またはH型βゼオライト(グレード名:CP811C−300、SiO2/Al23=300、Zeolyst製)が挙げられる。NH4型ZSM−5(結晶型MFI、グレード名:HSZ−870NHA、SiO2/Al23=190、東ソー株式会社製)、NH4型ZSM−5(結晶型MFI、グレード名:CBV−28014、SiO2/Al23=280、Zeolyst製)、またはNH4型ZSM−5(結晶型MFI、グレード名:CP−7123、SiO2/Al23=900、Zeolyst製)等を、乾燥空気気流下、300〜700℃、24時間以下で焼成することにより合成したH型ZSM−5であってもよい。本発明において、NH4型ZSM−5(結晶型MFI、グレード名:CBV−28014、SiO2/Al23=280、Zeolyst製)またはNH4型ZSM−5(結晶型MFI、グレード名:CP−7123、SiO2/Al23=900、Zeolyst製)を焼成することによって合成したH型ZSM−5が好適に用いられる。
【0035】
上述のメタロシリケート触媒を用いることにより、その形状選択性および固体酸としての機能が制御され、エーテル交換反応が起こりうる。
【0036】
本発明の一実施形態によると、本発明に係る製造方法において、メタロシリケート触媒は固定床または流動床として使用されうる。
【0037】
固定床として用いる場合、連続で反応を行うことが可能である。固定床には、触媒粉末を圧縮法、押出し成形法、撹拌造粒法等の公知の方法によって成形し、焼成した触媒が使用されうる。前記固定床は、さらに公知のバインダーを添加して成形してもよい。触媒の形状は、圧縮形成法ではペレット状であり、押出し成形法では柱状であり、撹拌造粒法では粒状または球状である。触媒の大きさは、成形法によっても異なるが、直径、厚さ、または長さのうち、最も長いものが0.1〜10mmであることが好ましい。
【0038】
固定床で行う反応は、メタロシリケート触媒を含む固定床に原料を通過させることによって行われうる。反応温度は100〜300℃であり、好ましくは120〜250℃であり、さらに好ましくは150〜250℃である。反応温度が100℃以上であると、十分な反応速度が得られることから好ましい。一方、反応温度が300℃以下であると、副生物の生成を抑制できることから好ましい。反応圧力は、安全性、取り扱い、装置等を考慮して適宜選択されうるが、0.1〜100気圧、好ましくは1〜50気圧で行われる。反応時間は、エーテル交換反応により得られる(ポリ)アルキレングリコールジエーテルの生成率が1〜40質量%、好ましくは10〜30質量%となるように適宜設定されうる。
【0039】
流動床として用いる場合、前記流動床はバッチ式でありうる。この場合、触媒はろ過、遠心分離、およびデカンタ等の工程で繰り返し使用することが可能となる。触媒の粒径は、好ましくは0.2〜100μm、より好ましくは2〜5μmである。
【0040】
流動床で行う反応は、オートクレーブ中に原料および触媒を加えて加熱することによって行われうる。触媒量は、特に制限はないが、第1および第2の(ポリ)アルキレングリコールモノエーテルに対して、0.1〜50質量%、好ましくは1〜10質量%である。反応温度は100〜300℃、好ましくは120〜250℃、さらに好ましくは150〜250℃である。固定床で行う反応と同様に、反応温度が100℃以上であると、十分な反応速度が得られることから好ましい。一方、300℃以下であると、副生物の生成が抑制できることから好ましい。反応圧力は、安全性、取り扱い、装置等を考慮して適宜選択されうる。反応時間は、エーテル交換反応により得られる(ポリ)アルキレングリコールジエーテルの生成率が1〜40質量%、好ましくは10〜30質量%となるように適宜設定され、通常は1〜24時間である。
【0041】
(エーテル交換反応)
本発明に係るメタロシリケート触媒により、第1および第2の(ポリ)アルキレングリコールモノエーテルがエーテル交換反応を引き起こし、(ポリ)アルキレングリコールジエーテルを生成する。なお、エーテル交換反応の原料および生成物の関係からも明らかであるが、本反応では所望の(ポリ)アルキレングリコールジエーテルとともに(ポリ)アルキレングリコールが副生する。また、エーテル交換反応が起こる理由については明らかではないが、上述のように、適切に選択されたメタロシリケート触媒の形状選択性および固体酸としての機能によるものであると考えられる。
【0042】
原料として2種の(ポリ)アルキレングリコールモノエーテルを用いる場合には、それぞれメタロシリケート触媒の形状選択性を満たすものであるから、所望のエーテル交換反応が生じるとともに、目的としないエーテル交換反応、例えば第1の(ポリ)アルキレングリコールモノエーテルどうしのエーテル交換反応も生じうる。したがって、使用する2種の第1および第2の(ポリ)アルキレングリコールモノエーテルのモル比は、所望の生成物が好適に得られるように適宜設定されうる。前記モル比は、特に制限されないが、10:1〜1:10が好ましく、1:1が特に好ましい。このようなモル比で原料を用いることで、目的とする生成物、すなわち、前記式(3)の(ポリ)アルキレングリコールジエーテルのうち、R1およびR2が異なり、任意の数のオキシアルキレン基を有するアルキレングリコールジエーテルが好適に得られるものと考えられる。一方、第1および第2の(ポリ)アルキレングリコールモノエーテルが同一のものである場合には、起こりうるエーテル交換反応は1種のみであり、結果として所望の(ポリ)アルキレングリコールジエーテルの収率が相対的に高いものとなりうる。
【0043】
(製造方法)
本発明によれば、触媒床に原料を通し、生成物を例えば、蒸留によって精製するのみで(ポリ)アルキレングリコールモノエーテルが製造できる。なお、前記蒸留による精製は、エーテル交換反応により得られる生成物と、副生物である(ポリ)アルキレングリコールとの沸点の差を利用したものである。したがって、1工程で目的の生成物を製造することができ、副生物として塩を生成しないことから、従来の製造方法と比較して必要とする設備が減り、係る設備によって生じる廃水および廃液がなくなる点で経済面および環境面から好ましい。さらに、金属ナトリウムまたは水酸化ナトリウム等の塩基を用いない点、および危険性および毒性を有するハロゲン化アルキルを原料としない点で工業的な製造方法として優れたものであり、製造コストが抑えられうる。
【実施例】
【0044】
以下に実施例および比較例により本発明の効果を詳細に説明するが、本発明を限定するものではない。なお、実施例において「部」または「%」の表示を用いるが、特に断りがない限り「質量部」または「質量%」を表す。
【0045】
生成物は、ガスクロマトグラフ装置:GC−14A(株式会社島津製作所製)、使用カラム:TC−WAX(0.53mm×30m、GLサイエンス株式会社製)を用いて分析した。メタロシリケート触媒としては、異なるSiO2/Al23比を有する2種のH型ZSM−5のゼオライトを用いた。一方は、NH4型ZSM−5(結晶型MFI、グレード名:CBV−28014、SiO2/Al23=280、Zeolyst製)を乾燥空気気流下、電気炉を用いて550℃で3時間焼成することにより合成したH型ZSM−5(SiO2/Al23=280)である。また、もう一方は、NH4型ZSM−5(結晶型MFI、グレード名:CP−7123、SiO2/Al23=900、Zeolyst製)を乾燥空気気流下、電気炉を用いて550℃で3時間焼成することにより合成したH型ZSM−5(SiO2/Al23=900)である。
【0046】
(実施例1)
5部のH型ZSM−5(SiO2/Al23=280)および100部のモノエチレングリコールモノエチルエーテルを反応容器に仕込み、撹拌下で180℃まで昇温して、3時間撹拌した。その後、室温まで冷却し、反応液をガスクロマトグラフィで分析して生成物の相対量を測定した。生成したモノエチレングリコールジエチルエーテルの組成は15.3%であった。
【0047】
【化5】

【0048】
(実施例2)
5部のH型ZSM−5(SiO2/Al23=280)および100部のモノエチレングリコールモノメチルエーテルを反応容器に仕込み、撹拌下で180℃まで昇温して、11時間撹拌した。その後、室温まで冷却し、反応液をガスクロマトグラフィで分析して生成物の相対量を測定した。生成したモノエチレングリコールジメチルエーテルの組成は21.5%であった。
【0049】
【化6】

【0050】
(実施例3)
5部のH型ZSM−5(SiO2/Al23=280)および100部のジエチレングリコールモノエチルエーテルを反応容器に仕込み、撹拌下で180℃まで昇温して、11時間撹拌した。その後、室温まで冷却し、反応液をガスクロマトグラフィで分析して生成物の相対量を測定した。生成したジエチレングリコールジエチルエーテルの組成は20.0%であった。
【0051】
【化7】

【0052】
(実施例4)
5部のH型ZSM−5(SiO2/Al23=900)および100部のジエチレングリコールモノエチルエーテルを反応容器に仕込み、撹拌下で180℃まで昇温して、3時間撹拌した。その後、室温まで冷却し、反応液をガスクロマトグラフィで分析して生成物の相対量を測定した。生成したジエチレングリコールジエチルエーテルの組成は11.5%であった。
【0053】
【化8】

【0054】
(実施例5)
5部のH型ZSM−5(SiO2/Al23=280)および100部のエチレングリコールモノアリルエーテルを反応容器に仕込み、撹拌下で180℃まで昇温して、3時間撹拌した。その後、室温まで冷却し、反応液をガスクロマトグラフィで分析して生成物の相対量を測定した。生成したエチレングリコールジアリルエーテルの組成は25.5%であった。
【0055】
【化9】

【0056】
(実施例6)
5部のH型ZSM−5(SiO2/Al23=280)および100部のエチレングリコールモノベンジルエーテルを反応容器に仕込み、撹拌下で180℃まで昇温して、3時間撹拌した。その後、室温まで冷却し、反応液をガスクロマトグラフィで分析して生成物の相対量を測定した。生成したエチレングリコールジベンジルエーテルの組成は22.0%であった。
【0057】
【化10】

【0058】
(実施例7)
5部のH型ZSM−5(SiO2/Al23=280)、50部のジエチレングリコールモノメチルエーテル、および50部のジエチレングリコールモノエチルエーテルを反応容器に仕込み、撹拌下で180℃まで昇温して、8時間撹拌した。その後、室温まで冷却し、反応液をガスクロマトグラフィで分析して生成物の相対量を測定した。生成したジエチレングリコールエチルメチルエーテルの組成は7.7%であった。また、得られた生成物中には、ジエチレングリコールジメチルエーテルおよびジエチレングリコールジエチルエーテルが、副生成物としてそれぞれ3.7%および5.2%の組成比で含まれていた。前記ジエチレングリコールジメチルエーテルは原料のジエチレングリコールモノメチルエーテルどうしのエーテル交換反応により、前記ジエチレングリコールジエチルエーテルは原料のジエチレングリコールモノエチルエーテルどうしのエーテル交換反応により、それぞれ得られたものであると考えられる。
【0059】
【化11】

【0060】
(比較例1)
35部のエチレングリコールモノメチルエーテルおよび25部の水酸化ナトリウムを反応容器に仕込み、90℃まで昇温した後、5時間かけて塩化メチル28部を添加して10時間撹拌した。その後、反応温度を25℃まで冷却し、イオン交換水25部を加えて1時間撹拌した。1時間静置して、分液操作を行った後、有機層をガスクロマトグラフィで分析して生成物の相対量を測定した。生成したモノエチレングリコールジメチルエーテルの組成は92.7%であった。なお、水層から25部の塩化ナトリウムが回収された。
【0061】
【化12】

【0062】
比較例からも分かるように、従来の方法では、反応には多量の水酸化ナトリウムを必要とし、多量の塩化ナトリウムを副生する。一方、実施例では、塩は発生せず、非常に有用な方法である。
【0063】
本明細書の発明の詳細な説明から、当業者であれば、添付の特許請求の範囲に記載される発明の範囲および思想に逸脱することなく、様々な修飾、付加、および変更が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明によれば、工業的に(ポリ)アルキレングリコールジエーテルを製造することが可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記化学式(1):
【化1】

(式中、R1は、C1−C8のアルキル基、C3−C8のシクロアルキル基、C2−C8のアルケニル基、またはC6−C8のアリール基であり、Aは、C2−C8のアルキレン基であり、nはオキシアルキレン基の付加モル数を表し、1〜5の整数である。)
で表される第1の(ポリ)アルキレングリコールモノエーテルと、
下記化学式(2):
【化2】

(式中、R2は、C1−C8のアルキル基、C3−C8のシクロアルキル基、C2−C8のアルケニル基、またはC6−C8のアリール基であり、Aは、C2−C8のアルキレン基であり、nはオキシアルキレン基の付加モル数を表し、1〜5の整数である。)
で表される第2の(ポリ)アルキレングリコールモノエーテルとを、
SiO2/M23比(Mは、Al、Ga、Ge、B、Zn、P、Ge、Zr、Ti、Cr、Be、VおよびAsからなる群から選択される1つ以上である)が10〜1000のメタロシリケート触媒の存在下でエーテル交換反応させて、下記化学式(3):
【化3】

(式中、R1、R2、Aおよびnは、上記と同様の定義である。)
で表される(ポリ)アルキレングリコールジエーテルを得る工程を含む、(ポリ)アルキレングリコールジエーテルの製造方法。
【請求項2】
前記SiO2/M23比が100を超えて1000以下である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記メタロシリケート触媒が水素イオン形態(H型)のメタロシリケート触媒である、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記メタロシリケート触媒がMFIの構造を有する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記MがAlである、請求項1〜4のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項6】
前記nが奇数である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項7】
前記第1の(ポリ)アルキレングリコールモノエーテルと、前記第2の(ポリ)アルキレングリコールモノエーテルとが相違する、請求項1〜6のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項8】
前記第1の(ポリ)アルキレングリコールモノエーテルと、前記第2の(ポリ)アルキレングリコールモノエーテルとが同一である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の製造方法。

【公開番号】特開2012−149033(P2012−149033A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−258033(P2011−258033)
【出願日】平成23年11月25日(2011.11.25)
【出願人】(390014856)日本乳化剤株式会社 (26)
【Fターム(参考)】