説明

(メタ)アクリル塗料およびこれを用いた制振材料

【課題】優れた制振性および耐ブロッキング性を有する制振材料を提供する。
【解決手段】 (A)ガラス転移温度が40℃以上である非晶性ポリエステル10〜50質量部、および(B)下記一般式(1)で表されるモノマーが全(メタ)アクリル系モノマー中5〜80モル%である(メタ)アクリル系モノマー90〜50質量部を含む塗料、および該塗料を塗装した制振材料。


式(1)においてRは水素原子またはメチル基を表す。 は、(CHCHO)であり、nは1〜4である。Rは炭素数が1〜4のアルキル基である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れた制振性を発現する塗料および当該塗料が塗装された制振材料に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車、鉄道、航空機などの交通機関、事務機器、情報機器、電気機器などの各種機器、建物の床、屋根、壁など建造物からの振動や騒音が問題となっている。このような問題を解決するための手段として制振材料が提案されている。制振材料とは固体の振動エネルギーを熱エネルギーに変換し、固体の振動を低減させる材料をいう。
【0003】
制振材料は振動体の上に粘弾性を有する材料(粘弾性材料ともいう)を積層してなる非拘束型制振材料、前記粘弾性材料の上にさらに拘束材を積層してなる拘束型制振材料が知られている。前記振動体が鋼板である制振材料を制振鋼板ともいう。
【0004】
特許文献1には、ビニル芳香族化合物と共役ジエン化合物とのブロック共重合体等であって、ガラス転移温度が−20℃以上の樹脂層Aの両面に、不飽和カルボン酸をグラフトさせて変性したオレフィン系樹脂層Bが配置された三層からなる制振性フィルムを二枚の鋼板の間に配置してなる拘束型制振鋼板が開示されている。しかしこのような拘束型制振鋼板は、制振性フィルムを成形した後に鋼板と重ね合わせプレス成形して得られるため、その製造工程が煩雑である。
【0005】
一方、非拘束型制振材料は拘束層を有さないため、前記拘束型制振材料に比べて容易に製造できる。また、拘束層を有さないため所望の形状に加工しやすいという利点を有することから注目されている。例えば特許文献2には、特定のガラス転移点および分子量を有するアクリル系重合体を特定の架橋剤により架橋して得た感圧接着剤層を用いた非拘束型制振材料が開示されている。このような非拘束型制振材料は、制振性を発現しうる粘弾性材料を、振動体に塗布し、その塗布膜を固化させて塗膜とする(塗装するともいう)ことにより得られる。つまりいわゆるプレコート鋼板と同様に製造できるので生産性に優れる。
【0006】
しかしながら非拘束型制振材料は、優れた制振性能を有するために粘弾性材料の厚みをある程度厚く(100μm以上)する必要がある。そのため制振性を発現する塗料を複数回重ね塗りする必要があり、このことによる生産性の低下が問題となっていた。また、重ね塗りせずに一回塗りで厚い塗膜を形成しようとすると、塗料中に含まれる溶剤が蒸発できずに塗膜が発泡するいわゆる「ワキ」といわれる不良現象が発生する。
さらに非拘束型制振材料は、粘弾性材料が塗装された振動体を巻いて保存する場合または重ねて保存する際に、粘弾性材料同士または粘弾性材料と振動体が粘着する(ブロッキングする)という問題があった。
【特許文献1】特開2000−238193号公報
【特許文献2】特開平6−210800号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
非拘束型制振材料における「粘弾性材料の厚みを厚くする」方法として、塩ビゾル塗料を振動体に塗装する方法が考えられる。塩ビゾル塗料とは粒子径が小さい塩化ビニル樹脂粒子を可塑剤、安定剤、顔料等と混練して得られる塗料である。塩ビゾル塗料は溶剤を含まないため前述のワキの問題が生じない。そのため一回塗りで振動体の上に100μm以上の厚みの塗膜を形成できる。しかしながら時間の経過に伴い、塗膜から可塑剤がブリードアウトしてしまうため制振特性が不安定であるという問題がある。さらに塩ビゾル塗膜はガラス転移温度が−34℃であり耐熱性が低く、かつ前述の耐ブロッキング性が低いという問題がある。
【0008】
制振材料において、一般に粘弾性材料のガラス転移温度が室温付近に存在すると制振性に優れることが知られている。しかしながら粘弾性材料のガラス転移温度が室温近くであると、前述のとおりブロッキングの問題が顕著になる。
以上から本発明は、制振性に優れ、かつブロッキングしにくい(耐ブロッキング性に優れた)制振材料、特に非拘束型の制振材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
発明者は鋭意検討した結果、特定の非晶性ポリエステル、特定の(メタ)アクリル系モノマーを含むアクリル塗料を用いることにより上記問題が解決できることを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
すなわち上記課題は以下の本発明のアクリル塗料により解決される。
[1](A)ガラス転移温度が40℃以上である非晶性ポリエステル10〜50質量部、および
(B)(メタ)アクリル系モノマー90〜50質量部
を含む(メタ)アクリル塗料であって、
前記(B)の(メタ)アクリル系モノマーが、下記一般式(1)で表される化合物を含み、当該化合物が全(メタ)アクリル系モノマー中5〜80モル%である(メタ)アクリル塗料。
【化1】

式(1)においてRは水素原子またはメチル基を表す。
は、(CHCHO)であり、nは1〜4である。Rは炭素数が1〜4のアルキル基である。
[2]前記一般式(1)で表される化合物の含有量が、前記(A)の非晶性ポリエステル100質量部に対して、10〜300質量部である[1]に記載の(メタ)アクリル塗料。
[3](B)(メタ)アクリル系モノマーが下記一般式(2)、(3)または(4)の化合物を含む[1]または[2]に記載の(メタ)アクリル塗料。
【化2】

式(2)において、Rは水素原子またはメチル基を表す。
は炭素数が1〜15の炭化水素基を表す。
【化3】

式(3)において、Rは水素原子またはメチル基を示す。
は炭素数が1〜12のアルキレン基を示す。
【化4】

式(4)において、Rは水素原子またはメチル基を示す。
は炭素数が1〜10のアルキレン基を示す。
[4]前記(A)と(B)の合計100質量部に対し0.1〜20質量部のポリイソシアネートをさらに含む[1]〜[3]いずれかに記載の(メタ)アクリル塗料。
【0011】
また、上記課題は以下の本発明のアクリル塗料を重合してなる塗膜を有する制振材料および当該制振材料の製造方法により解決される。
[5]前記[1]〜[4]のいずれかに記載の(メタ)アクリル塗料に含まれる前記(B)(メタ)アクリル系モノマーを重合してなる塗膜を、振動体表面に有する制振材料。
[6]前記塗膜は、前記(A)ポリエステル樹脂を主成分とする層aと前記(B)(メタ)アクリル系モノマーの重合体を主成分とする層bを有し、層aと層bの界面が塗膜表層から1〜50%の厚みに存在し、かつ層bは振動体と接している[5]に記載の制振材料。
[7]前記[1]〜[4]のいずれかに記載の(メタ)アクリル塗料を振動体に塗布する工程、当該塗布膜に含まれる(B)(メタ)アクリル系モノマーを重合させる工程を含む制振材料の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、制振性に優れ、かつ耐ブロッキング性に優れた非拘束型制振材料が提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
1.本発明の(メタ)アクリル塗料
本発明の(メタ)アクリル塗料は、
(A)特定の非晶性ポリエステル10〜50質量部、
(B)特定の化合物を含む(メタ)アクリル系モノマー90〜50質量部を含むことを特徴とする。
本発明において、「(メタ)アクリル」とは「アクリルまたはメタアクリル」の意味である。すなわち「(メタ)アクリル塗料」とはアクリレート系モノマー、メタアクリレート系モノマーを含む塗料である。本発明において「(メタ)アクリル」を単に「アクリル」と表記することがある。
【0014】
(A) 非晶性ポリエステル
ポリエステルとは、主鎖にエステル結合を有するポリマーの総称である。本発明に用いられるポリエステルは高分子鎖が結晶を形成しない非晶性ポリエステルである。前記非晶性ポリエステルは、後述するアクリル系モノマーの重合体とともに本発明の塗料のマトリックス(ビヒクル)となる。従って、非晶性ポリエステルはアクリル系モノマーに溶解することが好ましい。一般にポリマーは結晶性よりも非晶性の方が他の化合物との相溶性に優れる。そのため、本発明ではポリエステルとして非晶性ポリエステルを採用する。
【0015】
ポリエステルは多塩基酸と多価アルコールを重縮合反応させて得られる。原料とする多塩基酸と多価アルコールを選択することで、ポリエステルを非晶性とすることができる。対称性の低い化合物を原料とするポリエステルは非晶性になりやすい。
【0016】
非晶性ポリエステルの分子量は特に限定されないが、数平均分子量が1000〜40000であることが好ましい。本発明において「〜」はその両端の数値を含む。数平均分子量はゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)法によって、標準ポリスチレン検量線より測定される。分子量が高すぎるとアクリル系モノマーへの溶解性が低下し、分子量が低すぎると塗膜性能が低下する。非晶性ポリエステルの数平均分子量が前記範囲にあると両者のバランスに優れる。
非晶性ポリエステルの分子量は原料とする多塩基酸と多価アルコールの仕込み比や反応時間等により調整できる。
【0017】
本発明の非晶性ポリエステルのガラス転移温度(Tg)は40℃以上である。本発明のアクリル塗料は振動体に塗布され、当該塗布膜中のアクリル系モノマーが重合して塗膜を形成する。当該塗膜が振動エネルギーを熱エネルギーに変換する粘弾性材料となる。このようにして得た塗膜は後述するように塗膜表層部(空気界面側)に非晶性ポリエステル樹脂を主成分とする層(「ポリエステルリッチ層」ともいう)が存在する。従ってポリエステルリッチ層のTgが40℃以上であると、当該塗膜を有する制振材料がブロッキングしにくくなるため好ましい。
ただし、非晶性ポリエステルのTgが高すぎると、(メタ)アクリル系モノマーとの相溶性が低下する。このため非晶性ポリエステルのTgは40〜85℃であることが好ましい。Tgは示差走査熱量計(DSC)により測定される。
Tgは原料とする多塩基酸と多価アルコールを選択することで調整できる。一般に芳香族化合物を用いるとTgは向上する。
【0018】
非晶性ポリエステルは30℃における比重が1.3以下であることが好ましい。非晶性ポリエステルの比重が低くなると高分子鎖のパッキングが緩くなるため、アクリル系モノマーが非晶性ポリエステルの高分子鎖間に侵入しやすくなり、アクリル系モノマーとの相溶性が向上するからである。
比重は原料とする多塩基酸と多価アルコールを選択することで調整できる。側鎖を有する多価アルコールを原料とすると立体障害が大きくなるので非晶性ポリエステルの比重が低下する。
【0019】
非晶性ポリエステルの水酸基価は2〜200mgKOH/gであることが好ましく、4〜80mgKOH/gであることがより好ましい。非晶性ポリエステルの酸価は2〜40mgKOH/gであることが好ましく、5〜50mgKOH/gであることがより好ましい。
水酸基価が200mgKOH/g、または酸価が80mgKOH/gよりも大きくなると、塗膜の耐水性が劣る。一方、水酸基価が2mgKOH/g未満になると、後述するとおり塗膜形成の際に架橋剤を用いた場合に、架橋剤との反応部位が少なくなるため塗膜強度が低下する。また酸価が2mgKOH/g未満になると塗膜と振動体との密着性が低下するため、制振材料に曲げる等の加工を施した際に、塗膜が振動体から剥離するおそれがある。
【0020】
本発明の非晶性ポリエステルに用いられる多塩基酸の例には、2価カルボン酸、3価以上の多価カルボン酸が含まれる。2価カルボン酸の例には、テレフタル酸、イソフタル酸、オルソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、スルホイソフタル酸ナトリウム等の芳香族カルボン酸;コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、1,10−デカンジカルボン酸、ダイマー酸等の脂肪族カルボン酸が含まれる。多価カルボン酸の例には、トリメリット酸、ピロメリット酸等の芳香族カルボン酸;ε−カプロラクトン、ラクチド等のヒドロキシカルボン酸が含まれる。
【0021】
本発明の非晶性ポリエステルに用いられる多価アルコールの例には、2価のアルコール、1分子中に3個以上の水酸基を有する多価アルコールが含まれる。
2価のアルコールの例には、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリチレングリコール、トリメチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、1,2−ブタンジオール、3−メチル−1,2−ブタンジオール、1,2−ペンタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,4−ペンタンジオール、2,4−ペンタンジオール、2,3−ジメチルトリエチレングリコール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、3−メチル−4,5−ペンタンジオール、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,5−ヘキサンジオール、1,4−ヘキサンジオール、2,5−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール等のグリコール類;これらのグリコール類にε−カプロラクトンなどのラクトン類を付加したポリラクトンジオール;ビス(ヒドロキシエチル)テレフタレート等のポリエステルジオール類;1,4−シクロヘキサンジメタノール、水添ビスフェノールA、スピログリコール、ジヒドロキシメチルトリシクロデカン等の脂環式2価アルコールが含まれる。
【0022】
多価アルコールの例には、グリセリン、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、ジグリセリン、トリグリセリン、1,2、6−ヘキサントリオール、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、ソルビトール、マンニトールが含まれる。
【0023】
非晶性ポリエステルは単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。2種類以上のポリエステルを用いる場合、ポリエステルの多価アルコール成分が共通していることが好ましい。
本発明に用いられる非晶性ポリエステルの好ましい例には、東洋紡株式会社製、バイロンGK810、バイロンGK640が含まれる。
【0024】
(B) (メタ)アクリル系モノマー
(メタ)アクリル系モノマーとは分子内にアクロイル基、メタクロイル基を有する重合性化合物である。前述のとおり(メタ)アクリル系モノマーは「アクリル系モノマー」とも呼ばれる。本発明のアクリル系モノマーは下記一般式(1)で表される化合物を含み、当該化合物が全アクリル系モノマー中5〜80モル%である。
【0025】
【化5】

【0026】
式(1)においてRは水素原子またはメチル基を表す。
は、(CHCHO)であり、nは1〜4である。*はRの向きを示す。すなわちRの炭素原子はアクリル酸の酸素原子と結合している。
式(1)の化合物は、(ポリ)エチレングリコール(メタ)アクリレートとも呼ばれる。また式(1)の化合物を「エーテル系アクリレート」と呼ぶことがある。本発明においては、nは2であることが好ましい。
は炭素数が1〜4のアルキル基であり、分岐アルキル基であってもよい。本発明においてはエチル基であることが好ましい。
【0027】
式(1)で表されるエーテル系アクリレートの例には、メトキシエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシトリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシテトラエチレングリコール(メタ)アクリレート、エトキシエチレングリコール(メタ)アクリレート、エトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、エトキシトリエチレングリコール(メタ)アクリレート、エトキシテトラエチレングリコール(メタ)アクリレートが含まれる。
【0028】
本発明のアクリル塗料はアクリル系モノマーを重合させることにより塗膜を形成できる。前記エーテル系アクリレートが特定量存在すると、塗料中に含まれる(A)非晶性ポリエステルが塗膜表層部(空気界面側)へ集中して存在するようになる。この現象は以下のように推察される。前記非晶性ポリエステル、アクリル系モノマーを含む塗料において、アクリル系モノマーの重合が進行すると、前記非晶性ポリエステルとの相溶性が低下し、非晶性ポリエステルが表層側へ押し出される。一方、エーテル系アクリレートとポリエステルは相溶性が非常に高いため、エーテル系アクリレートの含有量が多すぎると前記ポリエステルとの相分離が生じにくくなる。ただしメカニズムは上記に限定されない。
【0029】
一方、前記エーテル系アクリレートの添加量が少なすぎると、非晶性ポリエステルをアクリル系モノマーに溶解させにくくなり、均一な塗料となりにくい。エーテル系アクリレートの添加量を少なくしても、非晶性ポリエステルの添加量を少なくすれば均一な塗料を得られるものの、非晶性ポリエステルの量が少なくなると、制振材料としたときの加工性が損なわれる。
以上から、前記エーテル系アクリレートは全アクリル系モノマー中5〜80モル%であることが好ましい。さらに前記エーテル系アクリレートは非晶性ポリエステル100質量部に対して10〜300質量部であることが好ましい。
【0030】
本発明のアクリル系モノマーは、下記一般式(2)の化合物を含むことが好ましい。
【化6】

【0031】
式(2)において、Rは水素原子またはメチル基を表す。
は炭素数が1〜15の炭化水素基である。Rはアルキル基、分岐アルキル基、アリール基であってもよい。中でもRは10〜15のアルキル基であることが好ましい。式(2)の化合物を「モノアクリレート」と呼ぶことがある。
【0032】
式(2)で表されるモノアクリレートの例には、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸アルキルエステル;シクロヘキシル(メタ)アクリレートなどの脂環式アルコールの(メタ)アクリル酸エステル;フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート等のアクリル酸アリールエステルが含まれる。
【0033】
本発明のアクリル系モノマーは、下記一般式(3)の化合物を含むことが好ましい。
【化7】

【0034】
式(3)において、Rは水素原子またはメチル基である。
は炭素数が1〜12のアルキレン基であり、分岐アルキレン基であってもよい。中でも、炭素数が5〜7のアルキレン基であることが好ましい。式(3)の化合物は二官能性アクリレートであり、アクリル系モノマーの重合体(アクリル系ポリマーともいう)に架橋構造を導入することができる。アクリル系ポリマーが架橋構造を有すると塗膜の強度、耐熱性が向上する。式(3)の化合物を「ジアクリレート」と呼ぶことがある。
【0035】
式(3)で表されるジアクリレートの例には、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,5−ペンタンジオールジ(メタ)アクリレート、3−メチル−1,5−ペンタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,5−ペンタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,8−オクタンジオールジ(メタ)アクリレート等が含まれる。
【0036】
本発明のアクリル系モノマーは、下記一般式(4)の化合物を含むことが好ましい。
【化8】

【0037】
式(4)において、Rは水素原子またはメチル基である。
は炭素数が1〜10のアルキレン基であり、分岐アルキレン基であってもよい。Rは2〜6のアルキレン基であることが好ましく、中でもブチレン基であることがより好ましい。式(4)の化合物は水酸基を有するので「ヒドロキシアクリレート」と呼ばれることがある。水酸基は種々の化合物と反応するため、アクリル系ポリマーに種々の性能を付与することができる。
【0038】
式(4)で表されるヒドロキシアクリレートの例には、2−ヒドロキシメチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、1,4−シクロヘキサンジメタノールモノ(メタ)アクリレートが含まれる。
【0039】
上記のモノマーの組成比は、式(1)のエーテル系アクリレートがモノマー全体の5〜80モル%であれば限定されない。しかし塗装の際の重合性や得られる塗膜のTgを所望の値に調整するべく、エーテル系アクリレート5〜80モル%、モノアクリレート0〜40モル%、ジアクリレート15〜55モル%、ヒドロキシアクリレート3〜20モル%の範囲で、合計が100モル%となるように選択されることが好ましい。
【0040】
本発明の塗料は(A)成分である非晶性ポリエステルと(B)成分であるアクリル系モノマーの組成比が、10〜50質量部:90〜50質量部である。中でも塗膜の性能に優れること等から、(A):(B)=「20〜50質量部」:「80〜50質量部」であることが好ましい。
【0041】
(C)その他の添加剤
本発明の塗料は熱ラジカル重合開始剤(熱重合開始剤ともいう)を含んでいてもよい。熱ラジカル重合開始剤の例には過酸化物系開始剤、アゾ系開始剤が含まれる。中でも過酸化物系熱重合開始剤が好ましい。熱重合開始剤は単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。さらにナフテン酸コバルト、ジメチルアニリン等の分解促進剤を併用してもよい。
熱重合開始剤の添加量は(A)非晶性ポリエステルと(B)アクリル系モノマーの合計量100質量部に対し、0.1〜5質量部であることが好ましく、0.3〜3質量部であることがより好ましい。熱重合開始剤の配合量が少ないと重合に時間がかかり、さらには塗装時にモノマーの揮発分が多くなるので塗装性が低下する。一方、熱重合開始剤の配合量が過剰であると、反応時に多量の気泡が発生し、ワキ、肌荒れ等の塗膜欠陥が生じやすい。以上から熱重合開始剤の添加量は上記範囲であることが好ましい。
【0042】
過酸化物系熱重合開始剤の例には、イソブチルパーオキサイド、クミルパーオキシネオデカネート、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ2−エチルヘキシルパーオキシジカーボネート、t−ブチルパーオキシネオデカネート、3,5,5−トリメチルヘキサノールパーオキサイド、ラウリルパーオキサイド、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシ−2−エチルヘキサネート、t−へキシルパーオキシ−2−エチルヘキサネート、ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシマレイン酸、t−ブチルパーオキシベンゾエートが含まれる。中でも1分間半減期温度が100〜170℃の熱重合開始剤が好ましい。1分間半減期温度とは、熱重合開始剤を不活性ガス下、一定の温度で1分間熱分解反応を行った際に、熱重合開始剤濃度が元の半分になるときの温度である。
【0043】
本発明の塗料はアクリル系モノマーを架橋させるための架橋剤を含んでいてもよい。架橋剤の例には、ポリイソシアネート系架橋剤、エポキシ系架橋剤、アジリジン系架橋剤、金属キレート系架橋剤、メラミン樹脂系架橋剤、シランカップリング剤が含まれる。これらは単独あるいは2種類以上を組み合わせて用いられる。
架橋剤の添加量は、(A)と(B)の合計100質量部に対し、0.1〜20質量部であることが好ましく、0.5〜10質量部であることがより好ましい。架橋剤を添加することにより塗膜の強度、耐熱性が向上する。
【0044】
ポリイソシアネート系架橋剤はイソシアネート基がアクリル系モノマーに含まれる水酸基と反応し架橋構造を形成する。
ポリイソシアネート系架橋剤の例には、トリレンジイソシアネート、クロルフェニレンジイソシアナート、ヘキサメチレンジイソシアナート、テトラメチレンジイソシアナート、イソホロンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、水添されたジフェニルメタンジイソシアネート等のイソシアネート;これらイソシアネートをトリメチロールプロパン等と付加反応させたイソシアネート化合物;イソシアヌレート化物;ビュレット型化合物;イソシアネートと、ポリエーテルポリオールポリエステルポリオール、アクリルポリオール、ポリブタジエンポリオール、ポリイソプレンポリオール等を付加反応させたウレタンプレポリマー型のイソシアネートが含まれる。
【0045】
中でも、常温では水酸基と反応しないブロック型イソシアネート架橋剤が好ましい。塗料の貯蔵安定性に優れるからである。ブロック型イソシアネートは、オキシム型、活性メチレン型があるが、中でも活性メチレン型が好ましい。
【0046】
エポキシ系架橋剤の例には、エチレングリコールグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、グリセリンジグリシジルエーテル、グリセリントリグリシジルエーテル、1,3−ビス(N,N−ジグリシジルアミノメチル)シクロヘキサン、N,N,N',N'−テトラグリジル−m−キシリレンジアミン、N,N,N',N'−テトラグリジルアミノフェニルメタン、トリグリシジルイソシアヌレート、m−N,N−ジグリシジルアミノフェニルグリシジルエーテル、N,N−ジグリシジルトルイジン、N,N−ジグリシジルアニリンが含まれる。
【0047】
アジリジン系架橋剤の例には、トリメチロールプロパントリ−β−アジリジニルプロピオネート、トリメチロールプロパントリ−β−(2−メチルアジリジン)プロピオネート、テトラメチロールメタントリ−β−アジリジニルプロピオネートが含まれる。
【0048】
金属キレート系架橋剤の例には、アルミニウムイソプロピレートジイソプロポキシビスアセチルアセトンチタネート、アルミニウムトリエチルアセトアセテートが含まれる。
【0049】
メラミン樹脂系架橋剤の例には、メチル化メラミン樹脂、ブチル化メラミン樹脂、ベンゾグアナミン樹脂等が含まれる。
【0050】
シランカップリング剤系架橋剤の例には、グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、アミノプロピルトリメトキシシラン、クロロプロピルトリメトキシシランが含まれる。
【0051】
本発明の塗料は可塑剤を含んでいてもよい。可塑剤とは塗膜の柔軟性を向上させるために用いる添加剤である。本発明に用いられる可塑剤は1分子中に3個以上のエステル結合をもつエステル化合物が好ましい。このような可塑剤の例には、トリメリット酸誘導体、ペンタエリスリトール脂肪酸エステル等の脂肪酸誘導体、リン酸誘導体、ポリエステル系可塑剤が含まれる。可塑剤は単独で用いてもよく2種以上を組み合わせて用いてもよい。可塑剤の配合量は、(A)と(B)の合計量100質量部に対し、20質量部以下であることが好ましい。塗膜にべタつき等を発生させることなく、可塑剤の効果を発現できるからである。
【0052】
本発明の塗料は顔料を含んでいてもよい。顔料の例には、体質顔料、無機・有機の着色顔料、防錆顔料が含まれる。体質顔料の例には、炭酸カルシウム、クレー、タルク、硫酸バリウムが含まれる。無機着色顔料の例には、酸化チタン、硫化亜鉛、鉛白、黄色酸化鉄、酸化クロム、亜鉛華、カーボンブラック、モリブデン赤、パーマネントレッド、ベンガラ、黄土、クロムグリーン、紺青、群青、アルミ粉末、銅合金粉末が含まれる。有機着色顔料の例には、ハンザエロー、フタロシアニングリーン、フタロシアニンブルー、フラバンスロンイエロー、インダンスレンブルー等が含まれる。上記顔料は所望の性能を発現するように選択される。顔料は単独で用いてもよく2種以上を組み合わせて用いてよい。
顔料の配合量は、(A)と(B)の合計量100質量部に対し、0.1〜100質量部とすることが好ましい。
【0053】
本発明の塗料は上記以外に、充填材、酸化防止剤、難燃剤、紫外線吸収剤等を含んでいてもよい。
【0054】
(D)本発明の塗料の製造方法
本発明の塗料は公知の方法で製造されうる。例えば(B)アクリル系モノマーに(A)非晶性ポリエステルを溶解させて樹脂組成物を得る工程、当該樹脂組成物と必要に応じて(C)各種添加剤を混合する工程、により得られる。混合する手段は特に限定されないが、三本ロール等を用いることが好ましい。
このようにして製造された塗料は、粘度が0.1〜40Pa・sであることが好ましく、0.5〜10Pa・sであることがより好ましい。
【0055】
2.本発明の塗料を用いた制振材料
本発明の塗料を振動体に塗布し、塗料中に含まれるモノマーを重合することにより当該塗料が塗装された制振材料が得られる。振動体とは塗料が塗布される材料であり振動体ともいう。振動体の例には金属材料、セラミック材料、高分子材料が含まれる。中でも金属材料が好ましく、鋼板がより好ましい。振動体の形状は特に限定されないが、「板」や「箔」であることが好ましい。本発明の塗膜は振動体表面に形成されるが、振動体に下塗り塗装等が施されている場合は、本発明の塗膜は当該下塗り塗装された表面に設けられていてもよい。
本発明では塗料を振動体に塗布して得られる重合前の膜を「塗布膜」、当該膜中のモノマーを重合させて得た膜を「塗膜」と呼ぶ。
【0056】
本発明の制振材料における塗膜は、非晶性ポリエステル樹脂を主成分とする層a(ポリエステルリッチ層aともいう)とアクリル系モノマー重合体(アクリル系ポリマー)を主成分とする層b(アクリルリッチ層bともいう)の2つの層を含み、これらの層が隣接している。前記層aと層bの界面は塗膜表層から1〜50%の厚みに存在し、かつ層bは振動体と接している。前記層aと層bの界面は塗膜表層から5〜30%の厚みに存在することが好ましい。「層bが振動体と接する」とは、振動体に下塗り塗装等が施されている場合は、層bが当該下塗り塗装等と接していることを含む。これらの層は、塗膜断面を顕微鏡等で観察することにより容易に認識することができる。
【0057】
ポリエステルリッチ層aとは、(A)非晶性ポリエステルが主成分である層であり、好ましくは(A)非晶性ポリエステルの含有量が80質量%以上である層をいう。(A)非晶性ポリエステルの含有量が80質量%以下になると、ポリエステルリッチ層aに含まれる粘弾性層の役割をするTgの低いアクリル系ポリマーの含有量が増加し、耐ブロッキング性に劣ることがある。ポリエステルリッチ層a中の(A)非晶性ポリエステルの含有量は、熱分解ガスクロマトグラフ質量分析計(GC−MS)により求められる。具体的には次のようにして求められる。まず標準試料として、非晶性ポリエステルおよびアクリル系ポリマーを種々の配合比で混合したものをGC−MSにより分析し検量線を作成しておく。次に、塗膜から採取したポリエステルリッチ層aをGC−MSにより分析し、得られた主要ピークを検量線に基づき解析し、非晶性ポリエステル/アクリル系ポリマー比を求める。
【0058】
アクリルリッチ層bとは、(B)アクリル系モノマーの重合体が主成分である層であり、好ましくはアクリル系ポリマーの含有量が80質量%以上である層である。アクリル系ポリマーの含有量が80質量%以下になると、アクリルリッチ層bにTgの高い非晶性ポリエステルが存在してしまい、制振性に劣ることがある。アクリル系ポリマーの含有量は前記の分析方法により求められる。
【0059】
本発明におけるアクリル系ポリマーのガラス転移温度(Tg)は−40〜30℃であることが好ましい。後述するとおりアクリル系ポリマーのTgがこの範囲にあると制振材料の制振性に優れるからである。
当該重合体のTgは、以下のフォックス(Fox)の式を用いて計算により求められる。フォックスの式は、x質量部のモノマーMとy質量部のモノマーNからなる共重合体のTgを算出する方法である。Mの単独重合体のTgをX(K)、Nの単独重合体のTgをY(K)としたとき、当該共重合体のTgは以下の式で表される。
【0060】
【数1】

【0061】
図1は本発明の制振材料の一例を示す断面図である。図1中、1はポリエステルリッチ層a、2はアクリルリッチ層b、3は振動体、4は層aと層bの界面であり、5は下塗り層である。前述のとおり4の界面は塗膜表層から1〜50%に存在することが好ましく、5〜30%の厚みに存在することがより好ましい。
【0062】
本発明の塗膜のアクリルリッチ層bは微量の非晶性ポリエステルを含んでいるものの、Tgはアクリル系ポリマーのTgとほぼ一致し、−40〜30℃である。従って与えられた振動のエネルギーを熱エネルギーに変換しやすく、優れた制振性を発現できる。
【0063】
制振性はJIS G0602:1993に基づき、鋼板に本発明の塗料を塗装したサンプル(制振材料)を用いて、片持ちはり法にて振動減衰特性試験を行うことが好ましい。当該試験で得られる減衰曲線から損失係数ηが求められる。本発明の制振材料の損失係数ηは100〜400Hzの振動に対して0.015以上であることが好ましく、0.020以上であることがより好ましい。
【0064】
本発明に用いる本発明の制振材料の最外層であるポリエステルリッチ層aは微量のアクリル系ポリマーを含むものの、Tgは非晶性ポリエステルのTgとほぼ一致し、40℃以上である。このため、本発明の制振材料は塗膜のべたつきがなく、耐ブロッキング性に優れる。
【0065】
本発明の制振材料における前記ポリエステルリッチ層aは微量のアクリル系ポリマーを含み、アクリルリッチ層bも同様に非晶性ポリエステルを含むため前記層aと層bの接着性は良好である。しかしながら、本発明の塗料が前記ポリイソシアネートを含むとさらに両者の接着性が高くなるので好ましい。ポリイソシアネートは、(A)非晶性ポリエステルの水酸基および(B)アクリル系モノマー中に含まれる水酸基と反応できるため層aと層bの密着性を高められると推察される。
【0066】
本発明の塗膜全体の厚みは、40〜400μmであることが好ましく、100〜300μmであることがより好ましい。塗膜厚みがこの範囲にあると、当該塗膜を有する制振材料の制振性に優れるとともに、塗装時に塗膜の重合収縮が起こらずに良好な塗膜が得られるので好ましい。
本発明の塗膜は、当該塗膜の上にさらに保護膜等を設けてもよい。
【0067】
3.本発明の制振材料の製造方法
本発明の制振材料は、発明の効果を損なわない程度で任意に製造されうるが、以下その好ましい製造方法を記載する。
本発明の制振材料は本発明の塗料を塗装することにより得られることが好ましい。具体的には、アクリル塗料を振動体に塗布して塗布膜を形成する工程(塗布工程)、当該塗布膜を加熱して重合させ、塗膜を得る工程(焼付工程)を経て製造されることが好ましい。
塗料を振動体に塗布する方法の例には、ロールコート、カーテンコート、ダイコート、ナイフコートが含まれる。塗料の塗布量は所望の膜厚となるように調整され、40μm以上であることが好ましい。得られる制振材料の制振特性に優れるからである。ただし、塗布膜を空気中で重合する場合は、膜厚が100μm以上であることが好ましい。100μm未満の膜厚では、ラジカルが空気中の酸素により失活しやすいからである。
【0068】
次に、塗料が塗布された振動体を加熱して塗布膜中のモノマーを重合する。この焼付工程において未重合(メタ)アクリル系モノマーのうち、2質量%以上、好ましくは5〜10質量%を揮散させると、表面の塗膜強度および擦過性に優れた塗膜が得られる。焼付温度は120〜250℃であることが好ましい。焼付時間は30〜600秒であることが好ましい。
【0069】
本発明の制振材料は塗布工程を1回行う「一度塗り」とし、焼付工程も1回行う、いわゆる「1コート1ベーク」であることが好ましい。生産性に優れるからである。本発明の塗料は前述のとおり、焼付工程で非晶性ポリエステル成分が塗膜表層部に移動し、ポリエステルリッチ層aを形成する。当該層はTgが40℃以上であるため本制振材料の耐ブロッキング性を向上させる。従って、本発明のアクリル塗料を用いると、1コートにより制振性および耐ブロッキング性に優れる制振材料を得ることができる。
【0070】
本発明の制振材料は、アクリル塗料を塗装する前に振動体に下塗り塗装をしてもよい。下塗り塗装は、例えばアクリル変性エポキシ樹脂塗料を化成処理した振動体に塗布・焼付けすることにより行える。こうして得た下塗り塗膜は本発明の塗料との密着性が良好であるため好ましい。下塗り塗料は防錆顔料を含んでいてもよい。防錆顔料は下塗り塗料の樹脂100質量部に対し10〜30質量部とすることが好ましい。
【実施例】
【0071】
非晶性ポリエステルには以下のものを用いた。
バイロンGK810(東洋紡株式会社製):DSCにより測定したTgは46℃、水酸基価は19mgKOH/g、30℃における比重は1.17、GPCにより測定した数平均分子量は6000であった。
バイロンGK640(東洋紡株式会社製):DSCにより測定したTgは79℃、水酸基価は5mgKOH/g、30℃における比重は1.28、GPCにより測定した数平均分子量は18000であった。
【0072】
アクリル系モノマーとして以下のものを用いた。
エトキシジエチレングリコールアクリレート(ECA):化学式(1)の化合物
ラウリルアクリレート(LA):化学式(2)の化合物
3−メチル−1,5ペンタンジオールジアクリレート(MPDA):化学式(3)の化合物
4−ヒドロキシブチルアクリレート(4HBA):化学式(4)の化合物
【0073】
[塗料1〜4の調製]
塗料1
バイロンGK810を50質量部、4HBAを10質量部、MPDAを20質量部、ECAを50質量部を混合し、アクリル系モノマーに非晶性ポリエステルが溶解した樹脂組成物を得た。当該樹脂組成物100質量部に対し、イソシアネート架橋剤(旭化成ケミカルズ株式会社製、K6000)14.9質量部、熱ラジカル重合開始剤として有機過酸化物(日本油脂株式会社社製、パーオクタO)2.5質量部を混合し、三本ロールを用いて混練し塗料1を調製した。
【0074】
塗料2
バイロンGK810を50質量部、LAを30質量部、4HBAを2質量部、MPDAを40質量部、ECAを8質量部を混合し、アクリル系モノマーに非晶性ポリエステルが溶解した樹脂組成物を得た。当該樹脂組成物100質量部に対し、イソシアネート架橋剤(旭化成ケミカルズ株式会社製、K6000)10.8質量部、熱ラジカル重合開始剤として有機過酸化物(日本油脂株式会社社製、パーオクタO)2.5質量部を混合し、三本ロールを用いて混練し塗料2を調製した。
【0075】
塗料3
非晶性ポリエステルとしてバイロンGK810の代わりに、バイロンGK640を20質量部、イソシアネート架橋剤(旭化成ケミカルズ株式会社製、K6000)9.1質量部添加した以外は塗料1と同様にして塗料3を調製した。
【0076】
塗料4
非晶性ポリエステルとしてバイロンGK810の代わりに、バイロンGK640を20質量部、イソシアネート架橋剤(旭化成ケミカルズ株式会社製、K6000)2.6質量部添加した以外は塗料2と同様にして塗料4を調製した。
【0077】
[比較用塗料の調製]
塗料5
バイロンGK810を50質量部、LAを30質量部、4HBAを7質量部、MPDAを40質量部、ECAを3質量部を混合し、アクリル系モノマーに非晶性ポリエステルが溶解した樹脂組成物を得た。当該樹脂組成物100質量部に対し、イソシアネート架橋剤(旭化成ケミカルズ株式会社製、K6000)13.4質量部、熱ラジカル重合開始剤として有機過酸化物(日本油脂株式会社社製、パーオクタO)2.5質量部を混合し、三本ロールを用いて混練し塗料5を調製した。
表1に各塗料の組成を示した。
【0078】
【表1】

【0079】
[実施例1]制振材料の調製および評価
振動体として0.35mm厚みの5%Al−Znめっき鋼板を用意し、定法によりNi置換処理を行った。当該鋼板にさらに塗布型クロメート処理を施した。こうして得た化成処理振動体にアクリル変性エポキシ樹脂をロールコートし、220℃×100秒の条件で加熱し、乾燥膜厚5μmの下塗り塗膜を形成した。
【0080】
下塗り塗膜の上に、塗料1をナイフコートで塗布し、150℃で90秒間加熱し、膜厚200μmの塗膜が形成された制振材料を調製した。得られた制振材料の塗膜断面を光学顕微鏡で観察したところ、当該塗膜は二層構造であり、表層側に30μmのポリエステルリッチ層a、振動体側に170μmのアクリルリッチ層bが存在することを確認した。
【0081】
得られた制振材料は以下のとおりに評価した。結果を表2に示す。
1)損失係数η
制振材料を220mm×15mmの形状に切り出してサンプルを調製した。
振動減衰特性試験器(小野測器株式会社、グラデュオ DS−2000)を用い、JIS G0602:1993に基づき振動減衰曲線を測定した。得られた曲線から半値幅法によりηを求めた。
【0082】
2)80℃加熱後の制振特性
前記1)と同じ形状のサンプルを準備した。当該サンプルを80℃の温度に保った恒温器(東洋精機製作所:ギヤー式老化試験機)に入れ、100時間経過した後取り出し、室温まで冷却した。当該サンプルを用いて、前記1)と同様にして損失係数を求めた。得られた値から、以下の基準により、80℃加熱後の制振特性を評価した。
加熱前の値に比べてほとんど低下しなかったもの:○(良好)
加熱前の値に比べて低下したもの:×(不良)
【0083】
3)80℃加熱後の耐ブロッキング性
制振材料を50mm×50mmの形状に切り出し、前記2)と同様にして80℃で100時間加熱した。水平、平滑な定盤上に当該サンプルを塗膜面が上になるようにして10枚以上を積層し、常温で加重10kg/cmを加え、24時間放置した。続いて以下の基準により、耐ブロッキング性を評価した。
異常のなかったもの:○(良好)
サンプルの塗膜が上に積層されたサンプルの振動材に付着したもの:×(不良)
【0084】
4)アクリル系ポリマーのTg
前述した計算式に基づき算出した。
【0085】
[実施例2]
塗料2を用いて実施例1と同様にして膜厚200μmの塗膜を有する制振材料を得た。得られた塗膜断面を光学顕微鏡で観察したところ、当該塗膜は二層構造であり、表層側に50μmのポリエステルリッチ層a、振動体側に150μmのアクリルリッチ層bが存在することを確認した。得られた制振材料を実施例1と同様にして評価した。結果を表2に示す。
【0086】
[実施例3、4]
塗料3、4を用いて実施例1と同様にして膜厚200μmの塗膜を有する制振材料を得た。得られた塗膜断面を光学顕微鏡で観察したところ、当該塗膜は二層構造であり、塗料3を用いた実施例3の塗膜は、表層側に20μmのポリエステルリッチ層a、振動体側に180μmのアクリルリッチ層bが存在することを確認した。
また塗料4を用いた実施例4の塗膜も二層構造であって、表層側に40μmのポリエステルリッチ層a、振動体側に160μmのアクリルリッチ層bが存在することを確認した。
得られた制振材料を実施例1と同様にして評価した。結果を表2に示す。
【0087】
[実施例5、6]
塗料1、2を用いて実施例1と同様にして膜厚110μmの塗膜を有する制振材料を得た。得られた塗膜断面を光学顕微鏡で観察したところ、塗料1を用いた実施例5の塗膜は二層構造であり、表層側に20μmのポリエステルリッチ層a、振動体側に90μmのアクリルリッチ層bが存在することを確認した。
塗料2を用いた実施例6の塗膜も二層構造であって、表層側に30μmのポリエステルリッチ層a、振動体側に80μmのアクリルリッチ層bが存在することを確認した。
得られた制振材料を実施例1と同様にして評価した。結果を表2に示す。
【0088】
[比較例1]
厚さ0.35mmの鋼板の上に、厚さ20μmのポリエステル樹脂系塗料からなる塗膜を有するプレコート鋼板を準備し、実施例1の制振材料と同じ形状に加工した。次いで実施例1と同様にして、損失係数η、80℃加熱後の制振特性、80℃加熱後の耐ブロッキング性を評価した。結果を表3に示す。
【0089】
[比較例2]
厚さ0.35mmの鋼板の上に厚さ200μmの塩ビゾル系塗料からなる塗膜を有する鋼板を準備し、実施例1の制振材料と同じ形状に加工した。次いで実施例1と同様にして、損失係数η、80℃加熱後の制振特性、80℃加熱後の耐ブロッキング性を評価した。結果を表3に示す。
【0090】
[比較例3]
ポリエステル樹脂系塗料の代わりに塗料5を用いる以外は、実施例1と同様にして、制振材料を得ようとしたが、塗料5は均一な塗料にならなかったため、塗膜を形成することができなかった。
【0091】
【表2】

【0092】
【表3】

【0093】
表2に示されるとおり、本発明のアクリル塗料を塗装して得た制振材料は、優れた制振性および耐ブロッキング性を有している。
【産業上の利用可能性】
【0094】
本発明の塗料が塗装された制振材料は優れた制振性を有する。このため本発明の制振材料は自動車、電気製品などの制振性が必要とされる用途に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0095】
【図1】本発明の制振材料の一例を示す断面図
【符号の説明】
【0096】
1 ポリエステルリッチ層a
2 アクリルリッチ層b
3 振動体
4 層aと層bとの界面
5 下塗り層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ガラス転移温度が40℃以上である非晶性ポリエステル10〜50質量部、および
(B)(メタ)アクリル系モノマー90〜50質量部を含む(メタ)アクリル塗料であって、
前記(B)の(メタ)アクリル系モノマーが、下記一般式(1)で表される化合物を含み、当該化合物が全(メタ)アクリル系モノマー中5〜80モル%である(メタ)アクリル塗料。
【化1】

式(1)においてRは水素原子またはメチル基を表す。
は、(CHCHO)であり、nは1〜4である。Rは炭素数が1〜4のアルキル基である。
【請求項2】
前記一般式(1)で表される化合物の含有量が、前記(A)の非晶性ポリエステル100質量部に対して、10〜300質量部である請求項1に記載の(メタ)アクリル塗料。
【請求項3】
(B)(メタ)アクリル系モノマーが下記一般式(2)、(3)または(4)の化合物を含む請求項1に記載の(メタ)アクリル塗料。
【化2】

式(2)において、Rは水素原子またはメチル基を表す。
は炭素数が1〜15の炭化水素基を表す。
【化3】

式(3)において、Rは水素原子またはメチル基を示す。
は炭素数が1〜12のアルキレン基を示す。
【化4】

式(4)において、Rは水素原子またはメチル基を示す。
は炭素数が1〜10のアルキレン基を示す。
【請求項4】
前記(A)と(B)の合計100質量部に対し0.1〜20質量部のポリイソシアネートをさらに含む請求項1に記載の(メタ)アクリル塗料。
【請求項5】
請求項1に記載の(メタ)アクリル塗料に含まれる前記(B)(メタ)アクリル系モノマーを重合してなる塗膜を、振動体表面に有する制振材料。
【請求項6】
前記塗膜は、前記(A)ポリエステル樹脂を主成分とする層aと前記(B)(メタ)アクリル系モノマーの重合体を主成分とする層bを有し、層aと層bの界面が塗膜表層から1〜50%の厚みに存在し、かつ層bは振動体と接している請求項5に記載の制振材料。
【請求項7】
請求項1に記載の(メタ)アクリル塗料を振動体に塗布する工程、当該塗布膜に含まれる(B)(メタ)アクリル系モノマーを重合させる工程を含む制振材料の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2009−24104(P2009−24104A)
【公開日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−189885(P2007−189885)
【出願日】平成19年7月20日(2007.7.20)
【出願人】(000004581)日新製鋼株式会社 (1,178)
【Fターム(参考)】