説明

(メタ)アクリル樹脂系エマルジョンおよびその製造方法

けん化度80〜95モル%、重合度400〜2000のビニルアルコール系重合体を分散剤とし、アクリル酸エステル系単量体単位およびメタクリル酸エステル系単量体単位から選ばれる少なくとも一種の単量体単位からなる重合体を分散質とするエマルジョンであって、エマルジョン粒子径分布幅を示す[尺度a]が0.3以上であり、かつエマルジョンを20℃において製膜して得た厚さ500μmの皮膜の引張り強度が100kg/cm以上である(メタ)アクリル樹脂系エマルジョンを提供することによって、皮膜強度、皮膜透明性および機械的安定性のいずれにも優れ、さらに耐アルカリ性に優れる(メタ)アクリル樹脂系エマルジョンを得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、ビニルアルコール系重合体を分散剤とし、(メタ)アクリル酸エステル系単量体を乳化(共)重合して得た(メタ)アクリル樹脂系エマルジョンおよびその製造方法に関する。さらに詳しくは、本発明は、皮膜強度、皮膜透明性および機械的安定性のいずれにも優れ、さらに耐アルカリ性にも優れる(メタ)アクリル樹脂系エマルジョン、および乳化(共)重合の安定性、重合の操作性に顕著に優れる該(メタ)アクリル樹脂系エマルジョンの製造方法に関する。
【背景技術】
従来、(メタ)アクリル酸エステル系単量体を乳化重合したエマルジョンは塗料、紙加工および繊維加工などの分野で広く用いられている。これらの単量体の乳化重合においては、乳化重合の安定性の観点から通常、アニオン系またはノニオン系界面活性剤が安定剤として用いられる。しかし、界面活性剤を安定剤として用いるエマルジョンは機械的安定性に乏しいという欠点があり、セメント、モルタル等の混和剤などの高い機械的安定性が必要とされる用途には使用し得なかった。
上記問題点を解決する目的で、重合度500以下、好ましくは300以下のポリビニルアルコール(PVA)を保護コロイドとする、あるいはPVAおよび連鎖移動剤の存在下に乳化重合するといった手法が提案(特許文献1、特許文献2)され、エマルジョンの機械的安定性の改善が試みられた。しかしながら、このようなPVAを使用したのでは、PVAを保護コロイドとする特長が十分に発現せず、機械的安定性を完全に満足できず、また、エマルジョン皮膜の強度にも劣るという欠点があった。また、メルカプト基を有するPVA系重合体を乳化分散安定剤に用いることが提案(特許文献3、特許文献4、特許文献5)されている。この場合、通常用いられる開始剤、例えば、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過酸化水素の単独あるいはこれら過酸化物と各種還元剤とを組合せたレドックス開始剤等では、該PVA系重合体へのグラフト効率が低く、十分実用的な安定性の確保が難しいという問題があり、また、該PVA系重合体のメルカプト基とのレドックス反応によってのみラジカルを発生する臭素酸カリウム等の開始剤では、重合安定性の向上は認められるが、PVA系重合体のメルカプト基が消費された時点で、いわゆるDead−Endとなり重合のコントロール及び完結が難しいという問題点があった。重合を開始して以降、熟成を開始するまでの間にポリビニルアルコールを添加してエマルジョンを製造する方法が開示(特許文献6)されているが、この方法では、乳化重合を開始させるときに乳化剤を使用しているために、各種用途に使用する場合に乳化剤がマイグレーションを起こし、物性に悪影響を及ぼすという問題があった。さらにまた、このようにして得られたエマルジョンは、後述する比較例16〜17から明らかなように、機械的安定性は良好であるが、本発明で規定する[尺度a]0.3以上の粒子径分布のシャープな粒子を有するエマルジョンは得られないし、またエマルジョンの皮膜強度、透明性も充分優れていない。
また、(メタ)アクリル酸エステル系単量体、ジエン系単量体等の単量体及び水溶性高分子の保護コロイドを連続的または断続的に添加して重合する方法が提案(特許文献7)され、機械的安定性等が改善されている。しかしながら該手法は、重合の操作性に劣るばかりでなく、不均一系である乳化重合においては、攪拌翼の形状、攪拌速度、重合スケール(重合槽の容量)など種々の因子に大きく影響され、再現性良くエマルジョンを得ることが難しいという欠点があった。
また、アクリル酸エステル系単量体をPVAの存在下に粒子径0.5μm以下に乳化分散し、重合させる方法が提案(特許文献8)され、重合安定性などが改善されている。しかし、該手法では、ホモミキサーなど強制乳化装置が必須となり、また重合中、水相の酸素濃度を0.3ppm以下に抑えるという厳しい条件下での重合が必要とされるなど、汎用的に用いることは困難である。さらにまた、このような方法により得られたエマルジョンは、後述する比較例14および15から明らかなように、機械的安定性は良好であるが、本発明で規定する[尺度a]0.3以上の粒子径分布のシャープな粒子を有するエマルジョンは得られないし、またエマルジョンの皮膜強度、透明性も充分優れていない。
また、特許文献9の実施例2では、アクリル酸エステル(少量)、過酸化物(少量)、PVA、鉄化合物を重合初期に仕込み、アクリル酸エステル(多量)、過酸化物および還元剤(ロンガリット)を逐次添加して乳化重合することが提案され、また特許文献9の実施例3では、アクリル酸エステル(全量)、過酸化物(全量)、PVA、鉄化合物を重合初期に仕込み、還元剤(ロンガリット)を逐次添加して乳化重合することが提案されている。さらに特許文献9で使用されているPVAは、分子量5000〜13000(重合度に換算すると約100〜300)の低重合度PVA、またはけん化度96.5モル%以上のPVAの高けん化度PVAである。しかしながら、特許文献9で提案されているような方法では、後述する比較例10〜12および比較例18〜19に示すとおり、得られるエマルジョンは皮膜強度に劣り、本発明で規定する[尺度a]0.3以上の粒子径分布のシャープな粒子を有するエマルジョンは得られないし、またエマルジョン皮膜の透明性も充分満足すべきものではない。)
以上の様に、これまで、PVA系重合体を保護コロイドとした(メタ)アクリル酸エステル系樹脂エマルジョンの提案が各種なされているが、乳化重合の安定性、重合の操作性を完全に満足し、さらに得られるエマルジョンの皮膜強度、皮膜透明性および機械的安定性のいずれにも優れ、さらに耐アルカリ性にも優れた、汎用的に使用可能なものは見られないのが現状であった。
【特許文献1】 特開平4−185606号公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】 特開平4−185607号公報(特許請求の範囲)
【特許文献3】 特開昭60−197229号公報(特許請求の範囲)
【特許文献4】 特開平6−128443号公報(特許請求の範囲)
【特許文献5】 特開平7−278212号公報(特許請求の範囲)
【特許文献6】 特開平8−245706号公報(特許請求の範囲、実施例1および実施例3)
【特許文献7】 特開平11−335490号公報(特許請求の範囲)
【特許文献8】 特開2000−256424号公報(特許請求の範囲、実施例1および実施例3)
【特許文献9】 特開平10−60055号公報(特許請求の範囲、実施例2および実施例3)
【発明の開示】
本発明は、このような事情のもとで、エマルジョンの皮膜強度、皮膜透明性および機械的安定性のいずれにも優れ、さらに耐アルカリ性にも優れる(メタ)アクリル系樹脂エマルジョン、さらには乳化(共)重合の安定性、重合の操作性に顕著に優れる該エマルジョンの製造方法を提供することを目的とするものである。
本発明者らは、上記目的は、けん化度80〜95モル%、重合度400〜2000のビニルアルコール系重合体を分散剤とし、アクリル酸エステル系単量体単位およびメタクリル酸エステル系単量体単位から選ばれる少なくとも一種の単量体単位からなる重合体を分散質とするエマルジョンであって、エマルジョン粒子径分布幅を示す[尺度a]が0.3以上であり、かつエマルジョンを20℃、65%RH下において製膜して得た厚さ500μmの皮膜の引張り強度が100kg/cm以上である(メタ)アクリル樹脂系エマルジョンを提供することによって、達成されることを見出した。
【図面の簡単な説明】
第1図は、 エマルジョンの粒子径および散乱強度を動的光散乱法により測定した結果を示すグラフである。棒線グラフは、横軸はエマルジョンの粒子径を示し、縦軸はエマルジョンの散乱強度を示す。また、直線グラフは、横軸はエマルジョンの粒子径を示し、縦軸はエマルジョンの散乱強度の積算値を示す。
【発明を実施するための最良の形態】
本発明の(メタ)アクリル樹脂系エマルジョンは、エマルジョン粒子径分布幅を示す[尺度a]が0.3以上であることが必須である。さらに好適には0.5以上、最適には0.6以上である。該[尺度a]が0.3未満の場合、エマルジョンの粒子径分布幅が広くなり、エマルジョンの皮膜強度、および皮膜透明性が低下するのみならず、エマルジョンの機械的安定性も低下する。ここでエマルジョンの機械的安定性とはエマルジョンの剪断安定性を意味し、剪断下、とくに高剪断下においてエマルジョン粒子が析出することがないか、またはエマルジョン粒子の析出が少ないことを意味する。
[尺度a]は、動的光散乱法によりエマルジョンの粒子径分布を測定したときの、粒子径および散乱強度から算出される。具体的には、X軸にエマルジョン粒子径を、Y軸に散乱強度の積算値をプロットし、最小二乗法によりXとYの一次式を求め、得られた一次式の傾きを示す係数を[尺度a]とする。得られた一次式の傾きが大きいほど、粒子径分布幅が小さいことを示す。
本発明の(メタ)アクリル樹脂系エマルジョンの平均粒子径は特に制限されないが、通常、動的光散乱法による測定値が2μm以下であることが、皮膜透明性、皮膜強度の点から好ましく、より好ましくは1.5μm以下、さらに好ましくは1μm以下である。動的光散乱法による平均粒子径の測定は、例えば、大塚電子(株)製のレーザーゼータ電位計ELS−8000等により行うことができる。
本発明の(メタ)アクリル樹脂系エマルジョンは次の様な方法により好適に得られる。
まず分散剤としてけん化度80〜95モル%、重合度400〜2000のビニルアルコール系重合体(以下、PVAと略記することがある)を使用することは、本発明の目的とする、エマルジョンの皮膜強度、皮膜透明性、機械的安定性が優れ、さらには耐アルカリ性にも優れた(メタ)アクリル樹脂系エマルジョンを得る上で重要であり、また重合操作性および重合安定性に優れた(メタ)アクリル樹脂系エマルジョンの製造方法を提供する上でも重要である。ビニルアルコール系重合体の製造方法としては特に制限はなく、公知の方法によりビニルエステルを重合し、けん化することにより得ることができる。ここで、ビニルエステルとしては、蟻酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ピバリン酸ビニルなどが挙げられるが、酢酸ビニルが好ましく用いられる。
本発明において、PVA系重合体として、分子内に炭素数4以下のα−オレフィン単位を1〜20モル%含有するビニルアルコール系重合体(α−オレフィン変性PVAと略記することがある)を用いることは好ましい態様のひとつである。該PVAを用いることで(メタ)アクリル樹脂系エマルジョンの耐アルカリ性が向上する。α−オレフィン変性PVAは、ビニルエステルと炭素数4以下のα−オレフィンとの共重合体をけん化することにより得ることができる。ここで炭素数4以下のα−オレフィン単位としては、エチレン、プロピレン、ブチレン、イソブチレン単位が挙げられるが、エチレン単位が好ましく用いられる。
エチレン単位を代表とするα−オレフィン単位の含有量は、1〜20モル%であることが好適であり、より好ましくは1.5モル%以上、さらに好ましくは2モル%以上であり、また好ましくは15モル%以下、さらに好ましくは12モル%以下である。エチレン単位を代表とするα−オレフィン単位がこの範囲にある時、耐アルカリ性により優れる(メタ)アクリル樹脂系エマルジョンが得られる。
また、α−オレフィン単位を1〜20モル%含有するビニルアルコール系重合体としては、α−オレフィン単位をXモル%とするとき、1,2−グリコール結合を(1.7−X/40)モル%以上有するビニルアルコール系重合体も本発明の好ましい態様の一つであり、この重合体を使用することにより、乳化重合時の安定性がより向上する。
この重合体の製法としては、例えば、1,2−グリコール結合量が上記の範囲内の値になるように、ビニレンカーボネートをビニルエステルおよびエチレンと共重合した後、けん化する方法、エチレンとビニルエステル系単量体を共重合する際に、重合温度を通常の条件より高い温度、例えば75〜200℃として加圧下に重合した後、けん化する方法などが挙げられる。後者の方法において、重合温度は特に制限されないが、通常95〜190℃、好ましくは100〜160℃である。
この場合、1,2−グリコール結合の含有量は、(1.7−X/40)モル%以上であることが好ましく、より好ましくは(1.75−X/40)モル%以上、さらに好ましくは(1.8−X/40)モル%以上であり、最適には(1.9−x/40)モル%以上である。また、1,2−グリコール結合の含有量は4モル%以下であることが好ましく、さらに好ましくは3.5モル%以下、最適には3.2モル%以下である。ここで1,2−グリコール結合の含有量はNMRスペクトルの解析から求められる。
さらに、本発明においては、PVA系重合体として、1,2−グリコール結合を1.9モル%以上有するビニルアルコール系重合体(高1,2−グリコール結合含有PVAと略記することがある)を用いることも好ましい態様のひとつである。該PVAを用いることで乳化重合時の安定性が向上する。
高1,2−グリコール結合含有PVAの製造方法としては特に制限はなく、公知の方法が使用可能である。一例として、1,2−グリコール結合量が上記の範囲内の値になるようにビニレンカーボネートをビニルエステルと共重合する方法、ビニルエステルの重合温度を通常の条件より高い温度、例えば75〜200℃として加圧下に重合する方法などが挙げられる。後者の方法においては、重合温度は95〜190℃であることが好ましく、100〜180℃であることが特に好ましい。また加圧条件としては、重合系が沸点以下になるように選択することが重要であり、好適には0.2MPa以上、さらに好適には0.3MPa以上である。また上限は5MPa以下が好適であり、さらに3MPa以下がより好適である。上記の重合はラジカル重合開始剤の存在下、塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法などいずれの方法でも行うことができるが、溶液重合、とくにメタノールを溶媒とする溶液重合法が好適である。このようにして得られたビニルエステル重合体を通常の方法によりけん化することにより高1,2−グリコール結合含有ビニルアルコール系重合体が得られる。ビニルアルコール系重合体の1,2−グリコール結合の含有量は1.9モル%以上であることが好適であり、より好ましくは1.95モル%以上、さらに好ましくは2.0モル%以上、最適には2.1モル%以上である。また、1,2−グリコール結合の含有量は4モル%以下であることが好ましく、さらに好ましくは3.5モル%以下、最適には3.2モル%以下である。ここで、1,2−グリコール結合の含有量はNMRスペクトルの解析から求められる。
また、該PVA系重合体は本発明の効果を損なわない範囲で共重合可能なエチレン性不飽和単量体を共重合したものでも良い。このようなエチレン性不飽和単量体としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、フマル酸、(無水)マレイン酸、イタコン酸、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、アクリルアミド、メタクリルアミド、トリメチル−(3−アクリルアミド−3−ジメチルプロピル)−アンモニウムクロリド、アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸およびそのナトリウム塩、エチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル、塩化ビニル、臭化ビニル、フッ化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニリデン、テトラフルオロエチレン、ビニルスルホン酸ナトリウム、アリルスルホン酸ナトリウム、N−ビニルピロリドン、N−ビニルホルムアミド、N−ビニルアセトアミド等のN−ビニルアミド類が挙げられる。
また、チオール酢酸、メルカプトプロピオン酸などのチオール化合物の存在下で、酢酸ビニルなどのビニルエステル系単量体を重合し、それをけん化することによって得られる末端変性物を用いることもできる。
本発明において分散剤として用いられるPVA系重合体の重合度(粘度平均重合度)は、400〜2000であることが重要であり、より好ましくは400〜1300である。また、PVA系重合体のけん化度は、80〜95モル%であることが重要であり、より好ましくは83〜93モル%である。前記の重合度およびけん化度を満足するPVA系重合体を使用することより、後述する実施例および比較例から明らかなように、エマルジョンの皮膜強度、皮膜透明性および機械的安定性に優れ、さらに耐アルカリ性にも優れた(メタ)アクリル樹脂系エマルジョンが得られ、さらに重合操作性、重合安定性に優れた(メタ)アクリル樹脂系エマルジョンの製造方法を提供することができる。
また、分散剤として用いられる該PVA系重合体の使用量は特に制限されないが、用いる単量体100重量部に対して、1〜20重量部、好ましくは2〜15重量部、より好ましくは2.5〜10重量部である。該PVA系重合体の使用量が1重量部未満であると、重合安定性が低下する恐れがあり、一方、20重量部を越える場合には得られる水性エマルジョンの粘度が高くなり、高濃度のエマルジョンを得にくい場合がある。
本発明において、(メタ)アクリル樹脂系エマルジョンの分散質を構成する重合体は、アクリル酸エステル系単量体およびメタクリル酸エステル系単量体から選ばれる少なくとも1種の単量体を(共)重合したものである。該単量体としてはアクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸i−プロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸i−ブチル、アクリル酸t−ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸ドデシル、アクリル酸オクタデシル等のアクリル酸エステル類、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−プロピル、メタクリル酸i−プロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸i−ブチル、メタクリル酸t−ブチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸ドデシル、メタクリル酸オクタデシル等のメタクリル酸エステル類などが挙げられる。
また、上記分散質を構成する重合体は、上記(メタ)アクリル酸エステルの(共)重合体であることが好適であるが、本発明の効果を損なわない範囲で共重合可能な他の単量体を共重合したものでも構わない。これら他の単量体の使用量は全単量体に対し30重量%以下が好ましく、さらには20重量%以下が好ましい。
本発明のエマルジョン粒子径分布幅を示す[尺度a]が0.3以上であり、かつエマルジョンを20℃、65%RH下において製膜して得た厚さ500μmの皮膜の引張り強度が100kg/cm以上である(メタ)アクリル樹脂系エマルジョンは、好適には次の方法により得られる。
すなわち、本発明のエマルジョンは、けん化度80〜95モル%、重合度400〜2000のビニルアルコール系重合体を分散剤とし、過酸化物と還元剤からなるレドックス系重合開始剤を用い、アクリル酸エステル系単量体およびメタクリル酸エステル系単量体から選ばれる少なくとも一種の単量体を乳化(共)重合する際に、(1)鉄化合物、(2)前記単量体および、(3)前記ビニルアルコール系重合体、を初期に仕込み、前記過酸化物を重合系中に連続的または断続的に添加して乳化(共)重合することにより得られる。
本発明の製造方法では、重合初期に、鉄化合物を、特にその全量を添加することが、乳化重合操作性、重合安定性をより優れたものにし、さらに、本発明の[尺度a]が0.3以上で、かつ皮膜の引っ張り強度100kg/cm以上の水性エマルジョンを得る上で好適である。鉄化合物としては特に制限されないが、塩化第一鉄、硫酸第一鉄、塩化第二鉄、硝酸第二鉄および硫酸第二鉄から選ばれる少なくとも1種の鉄化合物が好ましく用いられ、中でも塩化第一鉄および硫酸第一鉄が特に好ましく用いられる。
鉄化合物の使用量は特に制限されないが、通常使用する全単量体に対して1〜50ppm、より好ましくは5〜30ppmである。鉄化合物の使用量がこの範囲内にあるとき、重合の操作性が良好である。
本発明の製造方法では、過酸化物と還元剤からなるレドックス系重合開始剤を用いる。過酸化物としては特に制限されないが、過酸化水素、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウムおよびt−ブチルヒドロパーオキシドなどが用いられ、特に過酸化水素が好ましく用いられる。過酸化物は、連続的または断続的に添加することが必要である。連続的または断続的に添加することにより、重合操作性、重合安定性が良好となり、また本発明の目的とする優れた特性を有するエマルジョンが得られる。
過酸化物として過酸化水素が用いられる場合、過酸化水素の0.1〜5重量%水溶液、好ましくは0.2〜3重量%水溶液、さらに好ましくは0.25〜2重量%水溶液を用いることにより、重合の操作性が向上する。また、単量体100重量部に対して、過酸化水素を純分で0.01〜1重量部用いた場合、重合操作性、重合安定性が良好となり、また本発明の目的とする優れた特性を有するエマルジョンが得られる。
また、過酸化物として過酸化水素が用いられる場合、還元剤としては、酒石酸、L−アスコルビン酸、ロンガリットまたはこれらの金属塩が好適に用いられる。また、過酸化物として過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウムが用いられる場合、還元剤としては、亜硫酸水素ナトリウム、炭酸水素ナトリウムが好適に用いられる。還元剤の添加方法は特に制限されず、逐次添加、あるいは重合初期添加のいずれでもよいが、重合初期に全還元剤の70重量以上、好適には80重量%以上、さらには90重量%以上、最適には実質的に100重量%を添加する方法が、重合操作性の観点から好適である。
還元剤の使用量は特に限定されないが、通常、重合開始剤(過酸化物)に対して、0.05〜3当量、好ましくは0.1〜2当量、より好ましくは0.3〜1.5当量である。
上記還元剤のうち、酒石酸系が好ましく用いられ、詳しくは酒石酸および/またはその金属塩である。酒石酸としては右旋性のL(+)酒石酸、左旋性のD(−)酒石酸、これら対掌体のラセミ化合物であるDL酒石酸があり、特に制限されないが、これらの中でもL(+)酒石酸を用いた場合、重合操作性が顕著に良好であり、好ましく用いられる。また、酒石酸の金属塩を用いることも可能であり、金属の種類は特に制限されないが、酒石酸ナトリウムが好適に用いられる。中でもL(+)酒石酸ナトリウムが好ましく用いられる。L(+)酒石酸ナトリウムを用いた場合、重合操作性が最適となる。
また、本発明の製造方法では、鉄化合物のみならず、単量体、PVA系重合体を重合初期に仕込むことが重要である。特にこれらのそれぞれの70重量%以上、好適には80重量%以上、さらには90重量%、最適には実質的に100重量%を重合初期に仕込むことが好適である。該手法をとることにより、重合の操作性が向上するのみならず、乳化重合の安定性が顕著に向上し、かつ、本発明の目的とする優れた特性を有する(メタ)アクリル樹脂系エマルジョンが得られる。なお、ここで重合初期とは、重合開始直前または直後をいう。
本発明の製造方法においては、連鎖移動剤を実質的に使用しないで重合することが、得られるエマルジョン中のグラフトポリマー(分散剤および分散質が化学的に結合したもの;測定法は後述)の割合を50重量%以上とすることができ、耐溶剤性を向上させることから好適である。グラフトポリマーの割合は好適には55重量%、さらに好適には60重量%以上、最適には65重量%以上である。
また、本発明においては、重合安定性をより向上させるためには、必要に応じ、連鎖移動剤を重合初期にすることもできる。ここで、連鎖移動剤としては、乳化重合時に連鎖移動をおこす化合物であれば特に制限されないが、例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、i−プロパノール、n−ブタノール、i−ブタノールなどのアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、アセトフェノン等のケトン類、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、n−ブチルアルデヒド、フルフラール、ベンズアルデヒド等のアルデヒド類、2−メルカプトエタノール、3−メルカプトプロピオン酸、n−ドデシルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタン、ラウリルメルカプタン、n−ブチルメルカプタン、t−ブチルメルカプタン、2−エチルヘキシルチオグリコレート、チオグリコール酸オクチル等のメルカプタン類などが挙げられる。このうちメルカプタン系の連鎖移動剤が好適である。連鎖移動剤の添加量は特に制限されないが、全単量体100重量部に対して、0.01〜50重量部、好ましくは0.1〜30重量部である。
また、本発明においては、従来使用されてきたノニオンまたはアニオン界面活性剤を使用しないで重合することが、重合安定性をより向上させ、またグラフトポリマーの割合を増加させることができ、耐溶剤性を向上させることから好適である。
本発明では、エマルジョンの固形分濃度は特に制限されないが、通常、20〜70重量%、好ましくは30〜65重量%、さらに好ましくは40〜60重量%である。固形分濃度が20重量%未満の場合、エマルジョンの放置安定性が低下し、2相に分離する恐れがあり、70重量%を越える場合、重合時の安定性が低下する懸念が生じる。
このようにして得られた本発明の(メタ)アクリル樹脂系エマルジョンを、20℃、65%RH下において製膜して得た厚さ500μmの皮膜の引っ張り強度(測定方法は後述)は、100kg/cm以上であることが重要であり、好適には110kg/cm以上、最適には120kg/cm以上である。上限についてはとくに制限はないが、300kg/cm以下、さらには200kg/cm以下である。引っ張り強度がこの範囲にある時、(メタ)アクリル樹脂系エマルジョンの特性(皮膜の強度、エマルジョンの接着強度、粘着強度など)が優れたものとなる。
本発明の(メタ)アクリル樹脂系エマルジョンは、マロン式機械的安定性測定装置により20℃(雰囲気及び初期エマルジョンの温度)、荷重0.5kg/cm、1500rpmの条件で10分間試験を行った後、60メッシュ(ASTM式標準フルイ)ステンレス製金網でろ過したときのろ過残渣がエマルジョンの固形分に対して0.5重量%以下であることが好適である。好ましくは0.3重量%以下であり、さらに好ましくは0.2重量%以下であり、最も好ましくは0.1重量%以下である。ろ過残渣が前記範囲にある時、エマルジョンは機械的安定性が良好であると言える。このようなエマルジョンは上記したとおりの方法により、好適に得られる。
また、本発明で得られる(メタ)アクリル樹脂系エマルジョンは、該エマルジョンを20℃、65%RH下において、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム上に製膜して得た厚さ500μmの皮膜を、1Nの水酸化ナトリウム水溶液に20℃で24時間浸漬したときの該皮膜の溶出率が10%以下であることが好適であり、より好ましくは8%以下であり、さらに好ましくは7%以下である。また、該皮膜の膨潤率は30%以下であることが好適であり、より好ましくは25%以下であり、さらに好ましくは20%以下である。皮膜の溶出率および膨潤率が前記範囲にあるとき、耐アルカリ性に優れた皮膜を形成するエマルジョンであると言える。溶出率、膨潤率の測定法は後述する。
上記の方法で得られるエマルジョンはそのままで用いることができるが、必要があれば、本発明の効果を損なわない範囲で、従来公知の各種エマルジョンを添加して用いることができる。また、本発明により得られるエマルジョンには、通常使用される添加剤を添加することができる。この添加剤の例としては、有機溶剤類(トルエン、キシレン等の芳香族類、アルコール類、ケトン類、エステル類、含ハロゲン系溶剤類等)、可塑剤、沈殿防止剤、増粘剤、流動性改良剤、防腐剤、防錆剤、消泡剤、充填剤、湿潤剤、着色剤等が挙げられる。
本発明の製造方法により得られるエマルジョンは、皮膜強度、皮膜透明性、機械的安定性に優れ、さらには耐アルカリ性に優れるため、塗料、水硬性物質の混和剤、打継ぎ材、各種接着剤、含浸紙用、不織製品用のバインダー、塗料、紙加工および繊維加工、コーティング剤などの分野で好適に用いられる。
また、本発明で得られた水性エマルジョンを乾燥、とくに噴霧乾燥することにより、粉末同士がブロッキングしない、また水への再分散性しない合成樹脂粉末が得られる。またこの粉末を水に再分散した水性エマルジョンは、最初の水性エマルジョンと同様、皮膜強度、耐アルカリ性、および皮膜透明性に優れている。噴霧乾燥には、流体を噴霧して乾燥する通常の噴霧乾燥が使用できる。噴霧の形式により、ディスク式、ノズル式、衝撃波式などがあるが、いずれの方法を採用しても良い。また、熱源として、熱風や加熱水蒸気等が用いられる。乾燥条件は、噴霧乾燥機の大きさや種類、合成樹脂エマルジョンの濃度、粘度、流量等によって適宜選択すればよい。乾燥温度は、100℃〜150℃が適当であり、この乾燥温度の範囲内で、十分に乾燥した粉末が得られるように、他の乾燥条件を設定することが望ましい。
また、合成樹脂エマルジョン粉末の貯蔵安定性、水への再分散性を向上させる目的で、無機粉末(ブロッキング防止剤)を使用することが望ましい。無機粉末は、噴霧乾燥後のエマルジョン粉末に添加して均一に混合しても良いが、噴霧乾燥する際に合成樹脂エマルジョンを無機粉末の存在下に噴霧すると(同時噴霧)、均一な混合を行うことができ好適である。無機粉末は平均粒径0.1〜100μmの微粒子であることが好適である。無機粉末としては、微粒子の無機粉末が好ましく、炭酸カルシウム、クレー、無水珪酸、珪酸アルミニウム、ホワイトカーボン、タルク、アルミナホワイト等が使用される。これらの無機粉末のうち、無水珪酸が好適である。無機粉末の使用量は、無機粉末を多量に添加し過ぎると合成樹脂エマルジョンの性能が低下することがあるので、エマルジョン粉末に対して好ましくは20重量%以下、さらに好ましくは10重量%以下である。無機粉末の使用量の下限値は好ましくは0.1重量%以上、さらに好ましくは0.2重量%以上である。また、有機系のフィラーも使用できる。
合成樹脂エマルジョン粉末の水への再分散性をより向上させるために、各種の水溶性の添加剤を加えることもできる。噴霧乾燥前に水溶性の添加物を合成樹脂エマルジョンに添加して噴霧乾燥することが、合成樹脂エマルジョンと水溶性の添加剤を均一に混合できるため好ましい。水溶性の添加剤の使用量は特に制限はなく、エマルジョンの耐水性等の物性に悪影響を与えない程度に適宜コントロールされる。このような添加剤としては、ポリビニルアルコール、ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロース、でんぷん誘導体、ポリビニルピロリドン、ポリエチレンオキサイド等の他、水溶性アルキッド樹脂、水溶性フェノール樹脂、水溶性尿素樹脂、水溶性メラミン樹脂、水溶性ナフタレンスルホン酸樹脂、水溶性アミノ樹脂、水溶性ポリアミド樹脂、水溶性アクリル樹脂、水溶性ポリカルボン酸樹脂、水溶性ポリエステル樹脂、水溶性ポリウレタン樹脂、水溶性ポリオール樹脂、水溶性エポキシ樹脂等が挙げられる。
合成樹脂エマルジョン粉末(平均粒径1〜1000μm、好適には2〜500μm)は、そのまま各種用途に用いることができるが、必要に応じ、本発明の効果を損なわない範囲で、従来公知の各種エマルジョン、エマルジョン粉末を添加して用いることもできる。
合成樹脂エマルジョン粉末は、とくに水硬性物質用混和材または水硬性物質用打継ぎ材として有用である。ここで、水硬性物質としては、例えばポルトランドセメント、アルミナセメント、スラグセメント、フライアッシュセメントなどの水硬セメント、あるいは石膏、プラスターなどのセメント以外の水硬性材料が挙げられる。
上記の水硬性物質用混和材を、例えば、セメント、骨材および水からなるセメントモルタルに配合して使用する場合、水硬性物質用混和材の配合量は、セメントに対し5〜20重量%が好適である。ここで、骨材としては、川砂、砕砂、色砂、けい砂などの細骨材、川砂利、砕石などの粗骨材が挙げられる。
また、本発明の合成樹脂エマルジョン粉末を、水硬性物質用打継ぎ材として使用する場合は、上記合成樹脂エマルジョン粉末を水で適宜再乳化し、打継ぎ材(プライマー処理材)としてコンクリートなどの水硬性物質基板に塗り付け、その後で、セメントモルタルなどの水硬性物質を塗り付けることにより施工が行われる。このような打継ぎ材を使用することにより、優れた接着性および耐久性、さらには優れた機械的強度などを付与することができる。
水硬性物質用混和材および打継ぎ材の分散性をより向上させるために、各種の添加剤を加えることもできる。噴霧乾燥前に水溶性の添加物を合成樹脂エマルジョンに添加して噴霧乾燥することが、合成樹脂エマルジョンと水溶性の添加剤を均一に混合できるため好ましい。水溶性の添加剤の使用量は特に制限はなく、このような添加剤としては、前記した水溶性の添加剤等が挙げられる。
合成樹脂エマルジョン粉末を水硬性物質用混和材および打継ぎ材に使用する場合、AE剤、減水剤、流動化剤、保水剤、増粘剤、防水剤、消泡剤等が適宜併用される。
合成樹脂エマルジョン粉末は、接着剤、塗料、紙加工剤などの用途に使用することもできる。これらの用途では、粘性改良剤、保水剤、粘着付与剤、増粘剤、顔料分散剤、安定剤等が適宜併用される。
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらによって何等限定されるものではない。なお、実施例中、「部」および「%」はいずれも重量基準を意味する。
【実施例1】
還流冷却器、温度計、窒素吹込口、イカリ型攪拌翼を備えた2リットルガラス製重合容器に、イオン交換水750g、PVA−1{重合度500、けん化度88モル%、(株)クラレ製PVA−205}40gを仕込み、95℃で完全に溶解した。60℃に冷却後、メタクリル酸メチル(MMA)266g、アクリル酸ブチル(アクリル酸n−ブチル)(BA)266gを仕込み、120rpmで攪拌しながら窒素置換を行った。その後、塩化第一鉄0.0058g、L(+)酒石酸ナトリウム(TAS)の10%水溶液25gを添加した。次に、過酸化水素(HPO)の0.5%水溶液100gを3時間かけて添加し、乳化重合を行った。過酸化水素の添加開始から5分後に発熱が見られ、乳化重合の開始を確認した。その後、外温を50〜55℃に保って重合を進めたところ、重合温度は58〜62℃で推移し、操作性良く重合が進行した。過酸化水素水溶液の添加終了後、1時間熟成し、重合反応を完結したのち冷却した。その結果、固形分濃度39.8%のエマルジョンを得た。
得られたエマルジョンのグラフトポリマー割合(下記の測定法による)は、74.3重量%であり、耐溶剤性(下記測定法による溶出率)は、20%(トルエン)、23%(アセトン)、18%(酢酸エチル)であった。
その他のエマルジョンの評価を以下の方法により実施した。その結果を表1に示す。
(エマルジョンの評価)
(1)重合操作性
重合開始からの重合温度の推移を測定し、重合熱による温度上昇の程度を観察し、重合のコントロールが容易か否かで判断した。重合推移温度の幅が小さいほど重合のコントロールが容易であることを示す。
(2)重合安定性
得られたエマルジョンを、60メッシュ(ASTM式標準フルイ)のステンレス製金網を用いろ過した。ろ過後、金網上の残渣を採取し、重量を測定した。エマルジョン(固形分)1kgあたりの残渣量を表1に示す。
(3)皮膜強度
得られたエマルジョンを20℃、65%RH下で、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム上に流延し、7日間乾燥させて厚さ500μmの皮膜を得た。得られた皮膜を20℃、60%RH下で1週間調湿したのち、皮膜の引張り強度(引張り速度5cm/min、チャック間隔50mm)を測定した。
(4)耐アルカリ性
得られたエマルジョンを20℃、65%RH下で、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム上に流延し、7日間乾燥させて厚さ500μmの乾燥皮膜を得た。この皮膜を直径2.5cmに打ち抜き、それを試料として1N水酸化ナトリウム水溶液中に20℃で24時間浸漬した場合の、皮膜の溶出率および膨潤率を求めた。
溶出率(%):{1−(浸漬後の皮膜絶乾重量/浸漬前の皮膜絶乾重量)}×100
膨潤率(%):{(浸漬後の皮膜吸水重量/浸漬前の皮膜絶乾重量)−1}×100
*浸漬前の皮膜絶乾重量;浸漬前の皮膜重量(含水)−{浸漬前の皮膜重量(含水)×皮膜含水率(%)/100}
*皮膜含水率;皮膜(20℃で1N水酸化ナトリウム水溶液に浸漬するサンプルとは別のサンプル)を、105℃、4時間で絶乾し、皮膜の含水率をあらかじめ求める。
*浸漬後の皮膜絶乾重量;浸漬後の皮膜を105℃、4時間で絶乾した重量。
*浸漬後の皮膜吸水重量;浸漬後の皮膜を1N水酸化ナトリウム水溶液中から引き上げた後、皮膜についた水分をガーゼで拭き取り秤量した。
(5)機械的安定性
得られたエマルジョンを、マロン式機械的安定性測定機を用い、20℃、荷重0.5kg/cm、1500rpmの条件で10分間試験を行った後、60メッシュ(ASTM式標準フルイ)ステンレス製金網を用いてろ過し、水性エマルジョンの固形分重量に対するろ過残渣重量の割合(%)を測定した。ろ過残渣重量の割合が少ないほど機械的安定性が優れていることを示す。
0040
なお、固形分濃度およびろ過残渣重量の測定は次のとおりである。
固形分濃度測定法
得られたエマルジョン約3gをアルミ皿にとり、精秤後、105℃の乾燥機で24時間乾燥し、水分を揮発させた。その後の乾燥物の重量を測定し、重量比から固形分濃度を算出した。
ろ過残渣重量の測定法
ろ過残渣を105℃の乾燥機で24時間乾燥し、水分を揮発させ、乾燥物の重量をろ過残渣重量とした。
(6)皮膜透明性
エマルジョンを20℃でキャスト製膜して得た厚さ500μmの皮膜を観察し、その透明性を評価した。評価結果を、○ほぼ透明、△やや白濁、×完全に白濁、で示す。
(7)エマルジョンの粒子径分布(尺度a)
得られたエマルジョンを0.05%の濃度に希釈し、動的光散乱法により、平均粒子径および散乱強度の測定を行った{大塚電子(株)製;レーザーゼータ電位計ELS−8000}。得られた散乱強度を用い、本文中に記載の方法により、粒子径分布幅を示す尺度aを求めた。
(8)グラフトポリマー割合(重量%)
得られたエマルジョンを20℃、65%RH下で、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム上に流延し、7日間乾燥させて厚さ500μmの乾燥皮膜を得た。この皮膜を直径2.5cmに打ち抜き、それを試料として、アセトンにて24時間ソックスレー抽出し、さらに煮沸水中で24時間抽出を行い、抽出後の皮膜の不溶分(グラフトポリマー分)を求めた。
グラフトポリマー分(%)=(抽出後の皮膜絶乾重量/抽出前の皮膜絶乾重量)×100
抽出前の皮膜絶乾重量=抽出前の皮膜重量(含水)−{抽出前の皮膜重量(含水)×皮膜含水率(%)/100}
*皮膜含水率:皮膜(アセトンおよび煮沸水で抽出する試料とは別の試料)を、105℃、4時間で絶乾し、皮膜の含水率をあらかじめ求める。
*抽出後の皮膜絶乾重量:抽出後の皮膜を105℃、4時間で絶乾した重量。
(9)耐溶剤性(溶出率)
得られたエマルジョンを20℃、65%RH下で、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム上に流延し、7日間乾燥させて厚さ500μmの乾燥皮膜を得た。この皮膜を直径2.5cmに打ち抜き、それを試料として3種類の溶剤(トルエン、アセトン、酢酸エチル)にそれぞれ20℃、24時間浸漬した場合の、皮膜の溶出率を求めた。
溶出率(%):{1−(浸漬後の皮膜絶乾重量/浸漬前の皮膜絶乾重量)}×100
*浸漬前の皮膜絶乾重量;浸漬前の皮膜重量(含水)−{浸漬前の皮膜重量(含水)×皮膜含水率(%)/100}
*皮膜含水率;皮膜(20℃で溶剤に浸漬するサンプルとは別のサンプル)を、105℃、4時間で絶乾し、皮膜の含水率をあらかじめ求める。
*浸漬後の皮膜絶乾重量;浸漬後の皮膜を105℃、4時間で絶乾した重量。
比較例1
還流冷却器、滴下ロート、温度計、窒素吹込口、イカリ型攪拌翼を備えた2リットルガラス製重合容器に、イオン交換水を750g、PVA−1を40g仕込み、95℃で完全に溶解した。次に窒素置換を行い、120rpmで撹拌しながら、60℃に調整した後、塩化第一鉄0.0058g、L(+)酒石酸ナトリウムの10%水溶液25gを添加した。その後、メタクリル酸メチル266gとアクリル酸ブチル266gの混合液を滴下ロートから2時間目標で連続的に添加し、併せて0.5%過酸化水素水溶液100gを3時間目標で連続的に添加を開始した。外温を55℃に保って重合を行っていたところ、1時間後、重合系がゲル化したため、試験を中止した。
比較例2
実施例1において塩化第一鉄を用いなかった他は、実施例1と同様の仕込みで過酸化水素水溶液の添加を開始した。過酸化水素の添加開始から15分後に発熱、乳化重合が開始したため、外温を50℃に調整し、過酸化水素の添加を続けたところ、重合温度が65℃に達したため、過酸化水素の添加を中断した。しかし、発熱は止まらず、重合温度が70℃に達したため、重合のコントロールが出来ないと判断し、試験を中止した。
【実施例2】
実施例1において、さらにn−ドデシルメルカプタンを2.6g重合初期に仕込んだ他は、実施例1と同様に乳化重合を行った。得られた水性エマルジョンの評価を併せて表1に示す。
比較例3
比較例1において、さらにn−ドデシルメルカプタンを2.6g重合初期に仕込んだ他は、比較例1と同様に乳化重合を試みた。しかし、重合開始1時間30分後に重合系がゲル化し、試験を中止した。
比較例4
比較例2において、さらにn−ドデシルメルカプタンを2.6g重合初期に仕込んだ他は、比較例2と同様に乳化重合を試みた。しかし、比較例2と同様、発熱をコントロールすることが不可能であり、試験を中止した。
【実施例3】
実施例2においてPVA−1の代わりに、PVA−2{重合度1000、けん化度88モル%、(株)クラレ製PVA−210}を用いた他は、実施例2と同様に乳化重合を行った。得られた水性エマルジョンの評価を併せて表1に示す。
比較例5
比較例3においてPVA−1の代わりに、PVA−2を用いた他は、比較例3と同様に乳化重合を試みた。しかし、重合開始1時間40分後に重合系がゲル化し、試験を中止した。
【実施例4】
実施例2においてPVA−1の代わりに、PVA−3(重合度500、けん化度80モル%)を用いた他は、実施例2と同様に乳化重合を行った。得られた水性エマルジョンの評価を併せて表1に示す。
【実施例5】
実施例2においてPVA−1の代わりに、PVA−4(重合度500、けん化度93モル%)を用いた他は、実施例2と同様に乳化重合を行った。得られた水性エマルジョンの評価を併せて表1に示す。
【実施例6】
還流冷却器、温度計、窒素吹込口、イカリ型攪拌翼を備えた2リットルガラス製重合容器に、イオン交換水を750g、PVA−1を40g仕込み、95℃で完全に溶解した。60℃に冷却後、メタクリル酸メチル266g、アクリル酸ブチル266gを仕込み、120rpmで攪拌しながら窒素置換を行った。その後、塩化第一鉄0.0058g、亜硫酸水素ナトリウム(SHS)溶液10gを添加した。次に、過硫酸カリウム(KPS)水溶液50gを3時間かけて添加し、乳化重合を行った。過硫酸カリウムの添加開始から10分後に発熱が見られ、乳化重合の開始を確認した。その後、外温を50〜55℃に保って重合を進めたところ、重合温度は56〜65℃で推移した。過硫酸カリウム水溶液の添加終了後、1時間熟成し、重合反応を完結したのち冷却した。その結果、固形分濃度39.7%のエマルジョンを得た。得られたエマルジョンのグラフトポリマー割合は、65重量%であり、耐溶剤性は、27%(トルエン)、28%(アセトン)、24%(酢酸エチル)であった。
得られた水性エマルジョンの評価を併せて表1に示す。
【実施例7】
還流冷却器、温度計、窒素吹込口、イカリ型攪拌翼を備えた2リットルガラス製重合容器に、イオン交換水を750g、PVA−1を40g仕込み、95℃で完全に溶解した。60℃に冷却後、メタクリル酸メチル399g、アクリル酸ブチル133g、n−ドデシルメルカプタン2.6gを仕込み、120rpmで攪拌しながら窒素置換を行った。その後、塩化第一鉄0.0058g、L(+)酒石酸ナトリウムの10%水溶液25gを添加した。次に、過酸化水素の0.5%水溶液100gを3時間かけて添加し、乳化重合を行った。過酸化水素の添加開始から5分後に発熱が見られ、乳化重合の開始を確認した。その後、外温を50〜55℃に保って重合を進めたところ、重合温度は58〜62℃で推移し、操作性良く重合が進行した。過酸化水素水溶液の添加終了後、1時間熟成し、重合反応を完結したのち冷却した。その結果、固形分濃度39.8%のエマルジョンを得た。水性エマルジョンの評価を併せて表1に示す。
比較例6
還流冷却器、滴下ロート、温度計、窒素吹込口、イカリ型攪拌翼を備えた2リットルガラス製重合容器に、イオン交換水を750g、PVA−5(重合度500、けん化度88モル%、末端にメルカプト基1.5×10−5当量/gを含有)を40g、n−ドデシルメルカプタンを2.6g仕込み、95℃で完全に溶解した。次に窒素置換を行い、120rpmで撹拌しながら、60℃に調整した後、塩化第一鉄0.0058g、L(+)酒石酸ナトリウムの10%水溶液25gを添加した。その後、メタクリル酸メチル399gとアクリル酸ブチル133gの混合液を滴下ロートから2時間で連続的に添加、併せて0.5%過酸化水素水溶液100gを3時間で連続的に添加を行った。添加後、1時間熟成を行った後、系を冷却していたところ、系がゲル化したため、試験を中止した。
【実施例8】
還流冷却器、温度計、窒素吹込口、イカリ型攪拌翼を備えた2リットルガラス製重合容器に、イオン交換水を750g、PVA−1を40g仕込み、95℃で完全に溶解した。60℃に冷却後、メタクリル酸メチル133g、アクリル酸ブチル399g、n−ドデシルメルカプタン2.6gを仕込み、120rpmで攪拌しながら窒素置換を行った。その後、塩化第一鉄0.0058g、L(+)酒石酸ナトリウムの10%水溶液25gを添加した。次に、過酸化水素の0.5%水溶液100gを3時間かけて添加し、乳化重合を行った。過酸化水素の添加開始から5分後に発熱が見られ、乳化重合の開始を確認した。その後、外温を50〜55℃に保って重合を進めたところ、重合温度は58〜62℃で推移し、操作性良く重合が進行した。過酸化水素水溶液の添加終了後、1時間熟成し、重合反応を完結したのち冷却した。その結果、固形分濃度39.7%のエマルジョンを得た。得られたエマルジョンの評価を併せて表1に示す。
【実施例9】
実施例2においてイカリ型攪拌翼の代わりに、3段パドル型攪拌翼を用いた他は、実施例2と同様に乳化重合を行い、安定にエマルジョンを得た。得られたエマルジョンの評価を併せて表1に示す。
比較例7(特開平11−335490号公報に記載の方法に準ずる)
PVA−1の40gをイオン交換水400gに添加して、95℃に加熱、溶解した水溶液を20℃に冷却し、メタクリル酸メチル266gおよびアクリル酸ブチル266gからなる単量体混合物を混合、撹拌して、単量体乳化物を得た。別途、還流冷却器、滴下ロート、温度計、窒素吹込口、3段パドル型撹拌翼を備えた2リットルガラス製重合容器に、イオン交換水350gおよびエタノール10gを装入して温度を80℃に昇温し、80℃を維持した状態で、過硫酸アンモニウム0.5gをイオン交換水10gに溶解した開始剤溶液を添加した。2分後に重合容器に前記単量体乳化物の添加を開始し、4時間かけて添加を終了した。添加終了後、さらに2時間撹拌を継続し、熟成を行った後、冷却してエマルジョンを得た。得られたエマルジョンの評価を併せて表1に示す。
比較例8(特開平4−185606号公報に記載の方法に準ずる)
温度計、イカリ型攪拌翼、還流冷却器、窒素吹き込み口および滴下ロートを備えた内容量2リットルの重合容器中でPVA−6(重合度100、けん化度88モル%)80gをイオン交換水680gに添加して、95℃に加熱、攪拌して溶解し、その後70℃に冷却、窒素置換を行った。別の容器にメタクリル酸メチル200g、アクリル酸ブチル200g、アクリル酸6gを混合し、窒素置換を行った。0.5%過硫酸カリウム水溶液10gと混合単量体の40gを重合容器に添加して初期重合を行い、ついで残りの混合単量体を3時間にわたって滴下した。その間、0.5%過硫酸カリウム水溶液15gを同時に連続添加した。滴下終了後、さらに1時間熟成を行った後、冷却、10%アンモニア水でpH7.5に調整した。得られたエマルジョンの評価を併せて表1に示す。
【実施例10】
実施例2においてPVA−1の代わりに、PVA−7(エチレン単位含有量3モル%、重合度500、けん化度93モル%)を用いた他は、実施例2と同様に乳化重合を行った。得られた水性エマルジョンの評価を併せて表1に示す。
【実施例11】
実施例2においてPVA−1の代わりに、PVA−8(1,2−グリコール結合量2.5モル%、重合度500、けん化度88モル%)を用いた他は、実施例2と同様に乳化重合を行った。得られた水性エマルジョンの評価を併せて表1に示す。
【実施例12】
実施例2においてPVA−1の代わりに、PVA−9(エチレン単位含有量2モル%、1,2−グリコール結合量2.2モル%、重合度500、けん化度88モル%)を用いた他は、実施例2と同様に乳化重合を行った。得られたエマルジョンの評価を併せて表1に示す。
比較例9
還流冷却器、温度計、窒素吹込口、イカリ型攪拌翼を備えた2リットルガラス製重合容器に、イオン交換水を750g、PVA−1を40g仕込み、95℃で完全に溶解した。60℃に冷却後、酢酸ビニル532gを仕込み、120rpmで攪拌しながら窒素置換を行った。その後、塩化第一鉄0.0058g、L(+)酒石酸ナトリウムの10%水溶液25gを添加した。次に、過酸化水素の0.5%水溶液100gを3時間かけて添加し、乳化重合を行った。過酸化水素の添加開始から5分後に発熱が見られ、乳化重合の開始を確認した。その後、外温を50〜55℃に保って重合を進めたところ、重合温度は58〜62℃で推移した。過酸化水素水溶液の添加終了後、1時間熟成し、重合反応を完結したのち冷却した。得られたエマルジョンの評価を併せて表1に示す。
比較例10(特開平10−60055号公報の実施例2に準ずる)
還流冷却器、温度計、窒素吹込口、イカリ型攪拌翼を備えた2リットルガラス製重合容器に、イオン交換水を536g、PVA−10(重合度150、けん化度97.4モル%)を34g仕込み、95℃で完全に溶解した。70℃に冷却後、メタクリル酸メチル196g、アクリル酸ブチル161gを仕込み、120rpmで攪拌しながら窒素置換を行った。その後、硫酸アンモニウム第一鉄(1%水溶液)5g、tertブチルヒドロパーオキシド(70%水溶液)1g、酢酸3.9gを添加した。次に、ホルムアルデヒドスルホキシル酸ナトリウムの2%水溶液330gを2時間かけて添加し、乳化重合を開始した。重合による反応熱が確認された後、イオン交換水170g、tertブチルヒドロパーオキシド(70%水溶液)10.7g、メタクリル酸メチル467g、アクリル酸ブチル383g、n−ドデシルメルカプタン7gの混合物を2時間かけて添加した。添加後、90分間70℃を維持し、重合を完結した後冷却した。得られたエマルジョンの評価結果を表2に示す。
比較例11(特開平10−60055号公報の実施例3に準ずる)
還流冷却器、温度計、窒素吹込口、イカリ型攪拌翼を備えた2リットルガラス製重合容器に、イオン交換水を284g、PVA−11(重合度200、けん化度98モル%)を16g仕込み、95℃で完全に溶解した。40℃に冷却後、メタクリル酸メチル158g、アクリル酸ブチル141g、n−ドデシルメルカプタン0.9g、tertブチルヒドロパーオキシド(70%水溶液)2.3g、硫酸アンモニウム第一鉄(1%水溶液)5gを仕込み、120rpmで攪拌しながら窒素置換を行った。その後、ホルムアルデヒドスルホキシル酸ナトリウムの5%水溶液250gを2時間かけて添加し、乳化重合を開始し、添加後90分間40℃を維持し、重合を完結した後冷却した。得られたエマルジョンの評価結果を併せて表2に示す。
比較例12
比較例11においてPVA−11の代わりにPVA−12(重合度200、けん化度88モル%)を用いた他は、比較例11と同様にしてエマルジョンを調製した。得られたエマルジョンの評価結果を併せて表2に示す。
比較例13
比較例11においてPVA−11の代わりにPVA−13(重合度500、けん化度98モル%)を用いた他は比較例11と同様にしてエマルジョンを調製した。得られたエマルジョンの評価結果を併せて表2に示す。
比較例14(特開2000−256424公報の実施例1に準ずる)
攪拌装置、温度計、還流冷却器、滴下ロート、窒素吹込口を備えたフラスコにイオン交換水150gを仕込んだ。別のビーカーにアクリル酸2−エチルヘキシル360g、メタクリル酸10g、PVA−1 30gにイオン交換水440gを加えホモミキサーによって予備乳化を行い、さらに高圧ホモジナイザーを用いて、平均粒子径0.4μmの乳化物を調製した。乳化物及びフラスコに窒素ガスを100ml/分、約2時間バブリングを行った。その後乳化物を4時間かけて滴下し、10%ホルムアルデヒドナトリウムスルホキシレート水溶液25gを5時間かけて滴下した。この間、系の温度は60℃±2℃に保った。滴下終了後1時間同温度に保持し熟成後、冷却した。得られたエマルジョンの評価結果を併せて表2に示す。
比較例15(特開2000−256424公報の実施例3に準ずる)
攪拌装置、温度計、還流冷却器、滴下ロート、窒素吹込口を備えたフラスコにイオン交換水150g、第一硫化鉄0.002g、エチレンジアミン4酢酸ナトリウム0.01gを仕込んだ。別のビーカーにアクリル酸ブチル90g、アクリル酸エチル180g、アクリロニトリル100g、ダイアセトンアクリルアミド8g、イタコン酸5g、PVA−1 30g、イオン交換水440gを加えホモミキサーによって予備乳化を行い、さらに高圧ホモジナイザーを用いて、平均粒子径0.4μmの乳化物を調製した。乳化物及びフラスコに窒素ガスを100ml/分、約2時間バブリングを行った。その後乳化物を4時間かけて滴下し、0.4%クメンヒドロパーオキシド水溶液25g、0.4%ホルムアルデヒドナトリウムスルホキシレート水溶液25gを4時間かけて滴下した。この間、系の温度は32℃±2℃に保った。滴下終了後1時間同温度に保持し熟成後、冷却、25%アンモニア水を5g添加し中和した。得られたエマルジョンの評価結果を併せて表2に示す。
比較例16(特開平8−245706号公報の実施例1に準ずる)
還流冷却器、滴下ロート、温度計、窒素吹込口を備えたガラス製重合容器にイオン交換水147g、アニオン性界面活性剤NEWCOL707SF{日本乳化剤(株)製}1.5g、重合開始剤として過硫酸アンモニウム0.5gを入れ、窒素雰囲気下で加熱して80℃に昇温した。次にアクリル酸ブチル100gを2時間かけて連続的に添加し、添加開始後20分の間に反応液が青白く変色し、内温が一旦上昇したことにより重合開始を確認した。重合が開始して1時間後に3gのPVA−14(重合度1000、けん化度96モル%)を10%水溶液として添加した。アクリル酸ブチルの連続添加終了後2時間、同温度を維持して熟成を行い、乳化重合を完結した。得られたエマルジョンの評価結果を併せて表2に示す。
比較例17(特開平8−245706号公報の実施例3に準ずる)
比較例16においてPVA−14の代わりにPVA−1を用いた他は、比較例16と同様にしてエマルジョンを調製した。得られたエマルジョンの評価結果を併せて表2に示す。
比較例18
比較例10において、PVA−10の代わりに、PVA−14(重合度200、けん化度97.4モル%)を用いた他は、比較例10と同様にして、エマルジョンを調製した。得られたエマルジョンの評価結果を併せて表2に示す。
比較例19
比較例10において、PVA−10の代わりに、PVA−15(重合度800、けん化度97.4モル%)を用いた他は、比較例10と同様にして、エマルジョンを調製した。得られたエマルジョンの評価結果を併せて表2に示す。
比較例20
実施例1において、PVA−1の代わりに、PVA−16(重合度100、けん化度88モル%)を用いた他は、実施例1と同様にして、エマルジョンを調製した。得られたエマルジョンの評価結果を併せて表2に示す。
比較例21
実施例1において、PVA−1の代わりに、PVA−13(重合度500、けん化度98モル%)を用いた他は、実施例1と同様にして、エマルジョンを調製した。得られたエマルジョンの評価結果を併せて表2に示す。
比較例22
実施例1において、PVA−1の代わりに、PVA−17(重合度2400、けん化度88モル%)を用いた他は、実施例1と同様にして、エマルジョンを調製した。得られたエマルジョンの評価結果を併せて表2に示す。
比較例23
還流冷却器、滴下ロート、温度計、窒素吹込口を備えた1リットルガラス製重合容器に、イオン交換水228g、エチレン変性PVA(PVA−18)(重合度1500、けん化度98モル%、エチレン変性量5.5モル%)6gを仕込み、95℃で完全に溶解した。次に、窒素置換を行い、200rpmで攪拌しながら、70℃に昇温した後、10%過硫酸アンモニウム水溶液3gを添加し、次にアクリル酸ブチル120gとメタクリル酸メチル80g、n−ドデシルメルカプタン1gを混合した溶液を約2時間にわたって添加した。前記単量体の添加と同時に別途準備したエチレン変性PVA−18の10%水溶液60gを2時間にわたって添加した。単量体およびエチレン変性PVA水溶液の添加終了後、10%過硫酸アンモニウム水溶液3gを添加し、内温を70〜75℃に2時間保って重合反応を完結した後冷却した。その結果、固形分濃度37.8%の水性エマルジョンを得た。得られた水性エマルジョンの評価結果を表2に示す。
【実施例13】
実施例1で得られた水性エマルジョンとエマルジョンの固形分に対して2%の無水珪酸微粉末(平均粒径2μm)とを別々に120℃の熱風中に同時噴霧して乾燥し、エマルジョン粉末を得た。
この粉末は、粉末同士のブロッキングが見られず、また水への再分散性も優れていた。また、この粉末を再分散して得た水性エマルジョン(固形分濃度50%)の皮膜強度、耐アルカリ性、皮膜透明性はいずれも、最初の水性エマルジョンと同様、優れていた。
【表1】

【表2】

【産業上の利用可能性】
本発明の(メタ)アクリル樹脂系エマルジョンは、皮膜強度、皮膜透明性および機械的安定性のいずれにも優れ、さらに耐アルカリ性に優れるため、建築用塗料、紙用の塗工剤、コーティング剤などとして広範に用いられる。
【図1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
けん化度80〜95モル%、重合度400〜2000のビニルアルコール系重合体を分散剤とし、アクリル酸エステル系単量体単位およびメタクリル酸エステル系単量体単位から選ばれる少なくとも一種の単量体単位からなる重合体を分散質とするエマルジョンであって、エマルジョン粒子径分布幅を示す[尺度a]が0.3以上であり、かつエマルジョンを20℃、65%RH下において製膜して得た厚さ500μmの皮膜の引張り強度が100kg/cm以上である(メタ)アクリル樹脂系エマルジョン。
【請求項2】
20℃、65%RH下において製膜して得た厚さ500μmの皮膜を、1Nの水酸化ナトリウム水溶液に20℃で24時間浸漬したときの該皮膜の溶出率が10%以下である請求項1記載の(メタ)アクリル樹脂系エマルジョン。
【請求項3】
ビニルアルコール系重合体が、分子内に炭素数4以下のα−オレフィン単位を1〜20モル%含有するビニルアルコール系重合体である請求項1記載の(メタ)アクリル樹脂系エマルジョン。
【請求項4】
ビニルアルコール系重合体が、1,2−グリコール結合を1.9モル%以上含有するビニルアルコール系重合体である請求項1記載の(メタ)アクリル樹脂系エマルジョン。
【請求項5】
ビニルアルコール系重合体が、分子内に炭素数4以下のα−オレフィン単位を1〜20モル%含有し、かつα−オレフィン単位の含有量をXモル%とするとき、1,2−グリコール結合を(1.7−X/40)〜4モル%含有するビニルアルコール系重合体である請求項1記載の(メタ)アクリル樹脂系エマルジョン。
【請求項6】
けん化度80〜95モル%、重合度400〜2000のビニルアルコール系重合体を分散剤とし、過酸化物と還元剤からなるレドックス系重合開始剤を用い、アクリル酸エステル系単量体およびメタクリル酸エステル系単量体から選ばれる少なくとも一種の単量体を乳化(共)重合する際に、(1)鉄化合物、(2)前記単量体および、(3)前記ビニルアルコール系重合体、を初期に仕込み、前記過酸化物を重合系中に連続的または断続的に添加して乳化(共)重合して、エマルジョン粒子径分布幅を示す[尺度a]が0.3以上であり、かつエマルジョンを20℃、65%RH下において製膜して得た厚さ500μmの皮膜の引張り強度が100kg/cm以上である(メタ)アクリル樹脂系エマルジョンを製造する方法。
【請求項7】
還元剤を重合初期に系中に仕込む請求項6記載の(メタ)アクリル樹脂系エマルジョンの製造方法。
【請求項8】
過酸化物の使用量が単量体100重量部に対して、純分で0.01〜1重量部である請求項6記載の(メタ)アクリル樹脂系エマルジョンの製造方法。
【請求項9】
還元剤が、L(+)酒石酸および/またはL(+)酒石酸ナトリウムである請求項6記載の(メタ)アクリル樹脂系エマルジョンの製造方法。
【請求項10】
鉄化合物の使用量が全単量体に対して1〜50ppmである請求項6記載の(メタ)アクリル樹脂系エマルジョンの製造方法。
【請求項11】
連鎖移動剤を実質的に用いない請求項6記載の(メタ)アクリル樹脂系エマルジョンの製造方法。
【請求項12】
界面活性剤を実質的に用いない請求項6記載の(メタ)アクリル樹脂系エマルジョンの製造方法。
【請求項13】
請求項1記載の(メタ)アクリル樹脂系エマルジョンを乾燥して得た合成樹脂粉末。

【国際公開番号】WO2004/089993
【国際公開日】平成16年10月21日(2004.10.21)
【発行日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−505217(P2005−505217)
【国際出願番号】PCT/JP2004/004600
【国際出願日】平成16年3月31日(2004.3.31)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【Fターム(参考)】