説明

(メタ)アクリル酸および/またはそのエステルの蒸留方法

【課題】製品化塔での蒸留に際して、(メタ)アクリル酸および/またはそのエステルの純度及び品質を一定以上に保ちつつ、蒸留塔内での重合物の発生を抑止すると共に、蒸留によって得られた凝縮液が塔付帯設備で重合することを抑止できる技術を提供すること。
【解決手段】蒸留によって発生した蒸気を塔頂より留出させて凝縮し、該凝縮された凝縮液の一部を還流液として蒸留塔の上部から塔内に供給し、他の一部を循環液として凝縮器および/または蒸留塔と前記凝縮器をつなぐ導管に導入する蒸留方法において、該凝縮液および/または該循環液に添加する重合防止剤と、該還流液に添加する重合防止剤とが同種のものであり、その添加量が該凝縮液および/または該循環液中のアクリル酸に対して10〜200ppmであり、該還流液への添加量が蒸留塔内のアクリル酸に対して100〜5000ppmである(メタ)アクリル酸および/またはそのエステルの蒸留方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は(メタ)アクリル酸および/またはそのエステルを製造する際の重合防止方法に関し、詳細には(メタ)アクリル酸および/またはそのエステル含有液を蒸留する際に問題となる重合物の発生を効果的に防止する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から(メタ)アクリル酸、及びそのエステルは様々な方法によって製造されている。例えばアクリル酸は、プロピレンおよび/またはアクロレイン(以下、「プロピレン等」と略記することがある。)を分子状酸素含有ガスと接触気相酸化させて得られた反応生成物(反応ガス)を捕集液と接触させてアクリル酸水溶液として捕集し、該アクリル酸水溶液を蒸留してアクリル酸を製造している。工業製品として求められる高純度アクリル酸を製造するには、該アクリル酸水溶液に含まれているホルムアルデヒド,フルフラール,ベンズアルデヒド,プロピオン酸,蟻酸,酢酸,マレイン酸などの不純物を蒸留等によってできる限り除去することが望まれるが、アクリル酸と水、或いはアクリル酸と酢酸は比揮発度が小さいため、単純な蒸留方法では分離が難しいことから、各種蒸留方法を組合せて不純物の除去が行なわれている。例えばアクリル酸水溶液に共沸溶剤を加えて蒸留(共沸蒸留)し、水や低沸点物を除去して高沸点不純物及び重合防止剤を含有したアクリル酸含有液を得た後、該アクリル酸含有液から高沸点不純物及び重合防止剤を除去するための各種蒸留が行なわれている。また必要に応じて更に微量に含有する不純物を除去して高純度アクリル酸を得るために蒸留や晶析等が行なわれている。
【0003】
蒸留工程では、蒸留によって発生した蒸気を蒸留塔塔頂より留出させて凝縮し、該凝縮液の一部を還流液として蒸留塔の上部から塔内に循環しているが、凝縮器や凝縮液タンク等の塔付帯設備においても重合物が発生するため、安定操業を維持するには、これら塔付帯設備における重合物の発生を抑止しなければならない。また蒸留塔内での重合防止効果を維持するためには、塔内での重合防止剤濃度を一定以上に維持する必要があるが、蒸留塔に供給された重合防止剤は蒸留操作によって蒸留塔から随時抜出されているため、常に重合防止剤を添加しなくてはならない。
【0004】
この様な問題を解決する手段として、例えば被蒸留液(フィード液)中の重合防止剤濃度を高めたり、或いは蒸留塔に重合防止剤を直接供給する方法が採用されている(例えば特許文献1、特許文献2)。しかしながらこの様な方法では、蒸留塔内での重合を抑止できても、重合防止剤が塔底から抜出される場合には凝縮器での重合物の発生を十分に抑止できない。そこで凝縮液に重合防止剤を添加して凝縮液中の重合防止剤濃度を高めることによって、塔付帯設備での重合物の発生を抑止すると共に、該凝縮液を蒸留塔に還流して蒸留塔内の重合防止を図っている(例えば特許文献3)。
【0005】
しかしながら凝縮液に蒸留塔内での重合防止に必要な量の重合防止剤を添加すると、凝縮液中の重合防止剤濃度が必要以上に高くなってしまい、重合防止剤を除去するための蒸留工程を新たに設けなければならない等の負担が増大するという問題が生じていた。
【0006】
例えば高沸点物不純物分離塔の場合、蒸留温度が比較的高いため蒸留塔内での重合を防止するには重合防止剤濃度も比較的高くしなければならず、凝縮液中の重合防止剤濃度は高くしなければならなかった。しかしながら最終の精製目的物を得るまでに重合防止剤を除去しなくてはならないため、凝縮液中の重合防止剤濃度を高めた場合、新たに蒸留工程を設けたり、或いは重合防止剤を除去するために蒸留塔設備を大型にしなければならないなどの問題が生じていた。
【0007】
また最終蒸留工程である製品化塔の場合、蒸留して得られる凝縮液の純度を維持するため、凝縮液に少量でも高い重合防止効果を発揮するフェノチアジンやN−オキシル化合物を添加して、該凝縮液の一部を塔内に還流して蒸留塔内の重合防止を図ると共に、塔付帯設備や凝縮液の重合防止を行なうと、製品として要求される精製目的物の純度は維持できるものの、フェノチアジンやN−オキシル化合物は、有色性重合防止剤であるためアクリル酸に着色が生じて品質低下という問題が生じる。そこで着色による品質低下を防止するために、ハイドロキノンモノメチルエーテルなどの様に着色性の少ない重合防止剤の添加も試みられているが、重合防止剤自体の重合防止効果が低いため、塔内の重合を防止するには該重合防止剤を多量に供給しなければならず、精製目的物の純度が低下するという問題が生じていた。この様に最終の製品化塔では、精製目的物の純度及び品質を一定以上に保ちつつ、蒸留塔内の重合防止を十分に達成することができず、度々蒸留塔の操業を停止して蒸留塔内に生じた重合物の洗浄・除去作業が必要であった。
【特許文献1】特公平7−72204号
【特許文献2】特開平11−235352号
【特許文献3】特開2001−348360号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述した状況の下、本発明が解決すべき課題は、(メタ)アクリル酸および/または(メタ)アクリル酸エステルの蒸留工程における蒸留塔内、及び蒸留によって得られた凝縮液が凝縮器内や凝縮液タンク内などの塔付帯設備での重合物の発生を抑止できる技術を提供することである。
【0009】
特に本発明は最終の製品化塔での蒸留に際して、(メタ)アクリル酸および/またはそのエステルの純度及び品質を一定以上に保ちつつ、蒸留塔内での重合物の発生を抑止すると共に、蒸留によって得られた凝縮液が塔付帯設備で重合することを抑止できる技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決し得た本発明とは、蒸留塔における蒸留によって発生した蒸気を塔頂より留出させて凝縮し、該凝縮された凝縮液の一部を還流液として蒸留塔の上部から塔内に供給し、該凝縮液の他の一部を循環液として凝縮器および/または蒸留塔と前記凝縮器をつなぐ導管に導入する(メタ)アクリル酸および/またはそのエステルの蒸留方法において、該凝縮液および/または該循環液に添加する重合防止剤と、該還流液に添加する重合防止剤とが同種のものであり、該凝縮液および/または該循環液への重合防止剤の添加量が該凝縮液および/または該循環液中の(メタ)アクリル酸またはそのエステルに対して10〜200ppmであり、該還流液への重合防止剤の添加量が蒸留塔内の(メタ)アクリル酸またはそのエステルに対して100〜5000ppmであることに要旨を有する(メタ)アクリル酸および/またはそのエステルの蒸留方法である。
【0011】
本発明の蒸留方法において、前記凝縮液および/または前記循環液への重合防止剤の添加量は、好ましくは、前記還流液への重合防止剤の添加量より少ない。
【0012】
また本発明の蒸留方法において、前記重合防止剤は、好ましくは、フェノール系重合防止剤である。
【0013】
更に本発明の蒸留方法においては、前記蒸留塔は、好ましくは、最終精製物を得るための製品化塔である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、(メタ)アクリル酸および/またはそのエステルの純度及び品質を一定以上に保ちつつ、製品化塔内での重合物発生を抑止すると共に、蒸留によって得られた凝縮液が凝縮器内や凝縮液タンク内など付帯設備で重合することを抑止できる。
【0015】
また本発明は中間(最終の製品化塔以外)の蒸留塔内での重合防止を図りながら重合防止剤の使用量を低減し得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明者らは上記課題を解決すべく、鋭意研究を重ねた結果、後記する如く蒸留塔内での重合物発生を抑止しつつ、蒸留によって得られた凝縮液が凝縮器などの塔付帯設備での重合を抑止できる効果的な方法を見出した。特に本発明者らは製品化塔において凝縮して得られた(メタ)アクリル酸および/またはそのエステルの純度及び品質を一定以上に保ちつつ、蒸留塔内及び塔付帯設備での重合を抑止できる効果的な重合防止方法が見出し、本発明に至った。
【0017】
本発明ではアクリル酸の製造方法を代表例として説明するが、本発明の方法はアクリル酸の製造方法に限らず、メタクリル酸、及び(メタ)アクリル酸メチル,(メタ)アクリル酸エチル,(メタ)アクリル酸n−ブチル,(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル,(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル,(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロピル,(メタ)アクリル酸シクロヘキシル,(メタ)アクリル酸t−ブチル,(メタ)アクリル酸i−ノニル,(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル,(メタ)アクリル酸i−オクチルなどの(メタ)アクリル酸エステルの製造方法にも適用できる。
【0018】
これら(メタ)アクリル酸や(メタ)アクリル酸エステル等の製造に際しては捕集塔や被蒸留液を移送する際にも重合物が発生し易いので、必要に応じて下記重合防止剤を添加してもよい。重合防止剤は被蒸留液に添加したり、或いは捕集塔や移送ラインに直接添加してもよい。
【0019】
重合防止剤としては特に限定されず、例えば2,2,6,6−テトラメチルピペリジノオキシル,4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジノオキシル,4,4',4''−トリス−(2,2,6,6−テトラメチルピペリジノオキシル)フォスファイトなどのN−オキシル化合物;ハイドロキノン,ハイドロキノンモノメチルエーテル,ピロガロール,カテコール,レゾルシン、2,4ジメチル−6−t−ブチルフェノールなどのフェノール化合物;フェノチアジン,ビス−(α−メチルベンジル)フェノチアジン,3,7−ジオクチルフェノチアジン,ビス−(α−ジメチルベンジル)フェノチアジンなどのフェノチアジン化合物,ジメチルジチオカルバミン酸銅,ジブチルジチオカルバミン酸銅など公知の重合防止剤が挙げられ、重合防止剤は単独、或いは2以上を組合せて用いてもよい。
【0020】
共沸蒸留塔、軽沸点不純物分離塔、高沸点不純物分離塔などの製品化塔以外の蒸留塔(中間の蒸留塔ということがある)においては、使用する重合防止剤の種類は特に限定されず、後述する本発明の方法に基づいて重合防止剤を添加することが望ましい。また最終の製品化塔においては精製目的物の品質、純度を維持するために後述する本発明の方法に基づいて重合防止剤の選定すると共に、本発明の方法に基づいて重合防止剤を添加することが推奨される。
【0021】
以下、本発明の方法をアクリル酸の製造プロセスの一例を示す図1及び該プロセスにおける製品化工程18の概略説明図である図2及び図3を参照にしながら説明するが、後記する様に本発明の方法は凝縮液、および還流液に重合防止剤を添加する点、また本発明の方法は凝縮液、および/または循環液に重合防止剤を添加すると共に、蒸留塔の上部から供給する還流液に重合防止剤を添加する点に特徴を有している。したがって本発明の方法は下記の製造プロセスに限定される趣旨ではなく、本発明の効果を阻害しない範囲で製造プロセスに適宜変更を加えることができる。
【0022】
プロピレンおよび/またはアクロレインを用いて得られる生成物をライン1から捕集塔2へ導入する。生成物としては通常、プロピレン等を分子状酸素含有ガス等と任意の条件で接触気相酸化させて生成した反応ガスである。捕集塔2には捕集液(例えば水)をライン1aから導入し、該捕集塔2内で生成物と捕集液を接触させて該生成物に含まれているアクリル酸を捕集して、アクリル酸水溶液が得られる。このアクリル酸水溶液には、アクリル酸の他、未反応状態で残存するアクロレイン,ホルムアルデヒド,フルフラール,ベンズアルデヒド,プロピオン酸,蟻酸,酢酸,マレイン酸などの副生物(不純物)が含まれている。アクリル酸水溶液は必要に応じてアクロレインなどの軽沸物(アクリル酸よりも沸点の低い不純物)を除去するために蒸留塔(図示せず)へ供給した後、ライン3を通して共沸蒸留塔4へ送液される。該共沸蒸留塔4ではトルエン,キシレン,ヘキサン,ヘプタン,シクロヘキサン,メチルイソブチルケトン,酢酸ブチルなどの公知の共沸溶剤(任意の1種以上)を用いて共沸蒸留を行なって、供給したアクリル酸水溶液から水や酢酸などの軽沸物の除去を行なう。軽沸物や共沸溶剤は蒸留塔上部からライン6を通して抜き出される。またアクリル酸の他、マレイン酸,アクリル酸ダイマーなどの高沸点不純物(アクリル酸よりも沸点の高い不純物)や重合防止剤は塔底からアクリル酸含有液としてライン3aを通して抜き出される。塔頂から抜出された軽沸物や共沸溶剤等の蒸気は凝縮器10で凝縮された後、溶剤分離装置12aに供給される。共沸溶剤は溶剤分離装置12aで水を主成分とする相(水相)から分離されて、ライン6aを通して共沸蒸留塔4へ循環供給されると共に、残存する水相はライン6cを通して任意の工程に供給されるが、少なくとも1部をライン1aから導入するアクリル酸の捕集液として再利用することが好ましい。また塔底から抜出されたアクリル酸含有液はライン3aを通して必要に応じて更に軽沸点物を除去するため軽沸点物分離塔など(図示せず)へ供給して所望の不純物を除去した後、高沸点不純物分離塔4aへ導入される。
【0023】
高沸点不純物分離塔4aでは、蒸留によって塔底から高沸点不純物や重合防止剤を塔底液として除去するとともに、塔頂(または塔側面)から粗製アクリル酸を抜出す。該粗製アクリル酸にはアクリル酸以外にも、該蒸留によって除去されなかった重合防止剤(また蒸留後に重合防止剤を添加したのであれば、該重合防止剤も含まれる)や蒸留によって完全に除去されずに残存した微量の不純物等が含まれている。塔頂から抜出された粗製アクリル酸(蒸気)を凝縮器10で凝縮し、凝縮液タンク12から凝縮液の一部を蒸留塔内に循環させてもよい。高沸点不純物分離塔4aから抜出された粗製アクリル酸はライン3bを通して製品化塔8に導入される。
【0024】
尚、粗製アクリル酸に不純物として軽沸物が含まれていると、製品化塔での蒸留時にアクリル酸と共に塔頂から留出してしまい、アクリル酸の純度が低下することがあるので、粗製アクリル酸に軽沸物が多く含まれている場合は、再度、蒸留等を行なって軽沸物含有量を所望値まで低下させてから、製品化塔8に導入することが望ましい。
【0025】
また製品化塔8においてアクリル酸中のアルデヒド類を低減するために、ヒドラジンやフェニルヒドラジンなどのアルデヒド処理剤を予め供給液に添加しておいたり、或いは該処理剤を塔内に直接供給してもよい。
【0026】
本発明において製品化塔8とは、高純度のアクリル酸を得るための最終の蒸留塔をいう。高純度のアクリル酸は上述した如くアクリル酸などの精製目的物を含むフィード液を数回蒸留して不純物を除去することによって得られる。本発明において高純度のアクリル酸とは、工業製品として要求される純度を有するものをいい、好ましくは99.5%以上の純度を有するアクリル酸をいう。
【0027】
本発明に用いられる共沸蒸留塔4,高沸点不純物分離塔4aや製品化塔8などのアクリル酸製造工程に用いられる蒸留塔の具体的構成は、用途に応じて適宜選択すればよく、特に限定されないが、泡鐘トレー,多孔板トレー,バルブトレイなど任意の棚段を内設した棚段塔,ラシヒリング,レッシングリング,ボールリングなど任意の充填物を充填した充填塔が例示される。本発明では、工業的規模での蒸留に優れた多孔板トレーを備えた棚段塔が好適に用いられる。また棚段塔を用いる場合、気液の接触方式については特に限定されず、十字流型,向流型,並流型など任意の方式を採用すればよい。塔内に設置する棚段数についても塔径,処理量,精製純度など所望の条件に適合する様に適宜選択すればよい。また蒸留塔に外設する設備については特に限定されず、例えばリボイラー,ヒーター,加熱ジャケットなどの加熱手段を必要に応じて適宜設置すればよい。更にフィード液の供給量や蒸留塔内の温度,圧力その他操業条件等については特に限定されず、用途に応じた条件を選定すればよく、適宜圧力調節弁や供給量調節弁を設ければよい。
【0028】
本発明において塔付帯設備とは凝縮器10,凝縮液タンク12(或いは共沸溶剤分離装置12a)、及び該凝縮器10と該凝縮液タンク12を接続するライン11、ライン14、移送のためのライン13などの蒸留塔に付設されている設備をいう。
【0029】
製品化塔8に導入した粗製アクリル酸中のアクリル酸は蒸留によって蒸気となり、該蒸気は塔頂より留出した後、ライン9を通して凝縮器10に導入され、該凝縮器10で凝縮されて凝縮液となる。また重合防止剤等の不純物は塔底から塔底液としてライン15から抜出される。塔底液の一部はリボイラー16に供給して製品化塔8を加熱する熱源の一部として循環させると共に、該塔底液の他の部分は任意の工程に送給される。
【0030】
凝縮器10では、シャワー接触型凝縮器の様に蒸気と凝縮用冷媒液とを直接接触させて蒸気の凝縮を行なってもよく、或いは多管式凝縮器の様に管側に蒸気を導入し、シェル側に冷媒液を導入して蒸気と冷媒液とを間接的に熱交換させて蒸気の凝縮を行なってもよい。他にもコイル式,スパイラル式の熱交換器など公知の凝縮器を採用できる。
【0031】
凝縮器10で凝縮して得られた凝縮液は、ライン11を通して凝縮液タンク12に貯蔵される。凝縮液タンク12内の凝縮液の一部は還流液として製品化塔8の上部から供給して塔内で発生する蒸気との気液接触に用いられる。また凝縮液タンク12内の凝縮液の他の一部を凝縮器10および/または製品化塔8と凝縮器10とをつなぐライン9に循環液として供給してもよい。尚、該凝縮液タンク12内の凝縮液はライン13を通して更に他の処理工程や製造工程に供給してもよく、或いは製品として出荷するための準備工程に付してもよい。
【0032】
ところで、製品化塔8で蒸留して得られた凝縮液には重合防止剤が殆ど含まれていないため、凝縮器10や凝縮液タンク12などの塔付帯設備において重合物が生じ易い。また凝縮液の一部を還流液として製品化塔8の上部に供給する場合、該還流液に重合防止剤が含まれていないと製品化塔8で重合物が生じ易い。
【0033】
そのため凝縮液に重合防止剤を添加して製品化塔8での重合防止に十分な重合防止剤濃度とし、該凝縮液の一部を製品化塔8に還流させてもよいが、この場合、凝縮液タンク12内及び製品化塔8での重合を抑止できるものの、ライン13を通して得られるアクリル酸の純度や品質が低下してしまう。即ち、N−オキシル系の重合防止剤やフェノチアジン,ジブチルジチオカルバミン酸銅などの様に少量の添加で高い重合防止効果が得られる重合防止剤を凝縮液に添加すれば、アクリル酸の純度を必要以上に低下させることなく製品化塔8での重合を抑止できるが、これらの重合防止剤を凝縮液に添加すると、ライン13を通して得られる凝縮液(アクリル酸)に着色が生じ、製品品質が劣化するので好ましくない。またハイドロキノンモノメチルエーテルなどの様にアクリル酸に着色を生じさせない重合防止剤を凝縮液に添加すれば、着色による品質低下を防止しつつ、重合防止が図れるが、N−オキシル化合物など前記した重合防止剤に比べて重合防止効果が低い。そのため、ハイドロキノンモノメチルエーテルを添加した凝縮液を製品化塔に還流させる場合、製品化塔8での該還流液の重合を抑止するにはN−オキシル化合物を添加した場合に比べて添加量を増加しなければならない。しかしながら凝縮液タンク12内に貯蔵されている凝縮液への重合防止剤の添加量を増加させると、ライン13を通して得られるアクリル酸の純度が低下するので好ましくない。
【0034】
したがって蒸留塔内で高い重合防止効果を図りつつ、アクリル酸の純度及び品質を一定以上に保持し、更には蒸留によって得られた凝縮液が、凝縮器10や凝縮液タンク12などの塔付帯設備で重合することを抑止するには、凝縮液に重合防止剤を添加するだけではなく、後記する様に還流液や循環液にも重合防止剤を添加することが推奨される。
【0035】
凝縮液と還流液に重合防止剤を添加する場合、凝縮液に添加する重合防止剤の添加量は、製品品質を維持しつつ凝縮液タンク12や凝縮器10などの付帯設備や凝縮液の重合防止に必要な濃度となる様に調整すると共に、該凝縮液の一部である還流液に添加する重合防止剤の添加量は、塔内での重合防止に必要な濃度となる様に調整することが望ましい。即ち、製品化塔8での重合防止に必要な濃度となる様に重合防止剤を還流液に添加することによって、凝縮液に添加する重合防止剤の濃度を低く抑えることができるのでアクリル酸の純度低下を抑制しながら、凝縮器10や凝縮液タンク12などの塔付帯設備での重合物の発生を抑止でき、しかも製品化塔8での重合物の発生も抑止できる。
【0036】
また凝縮液の一部である循環液に重合防止剤を添加する場合、循環液は凝縮液の一部となるため、循環液に添加する重合防止剤の添加量は、上記の様に製品品質を維持しつつ凝縮液や塔付帯設備での重合防止に必要な濃度となる様に調整することが望ましい。
【0037】
尚、ライン9を流通する留出蒸気が冷やされると、該蒸気がライン9内で凝縮し、重合物が生成し管内に付着することがあるため、ライン9内での凝縮による重合を抑止する観点から必要に応じてライン9に加熱ジャケットやヒーターなどの加熱手段を配設して該蒸気を過熱状態(露点以上の温度)に保持したり、或いは重合防止剤を添加した循環液をライン9の任意の位置から添加してもよい。
【0038】
ライン9に添加する重合防止剤量は、上記凝縮液に重合防止剤を添加する場合と同様、製品品質を維持しつつ循環液を含めた凝縮液の重合防止に必要な濃度となる様に添加すればよい。また凝縮液をライン13から他の処理工程、製造工程或いは製品として出荷するための準備工程に供給する際に、必要に応じて新たに重合防止剤を添加してもよい。
【0039】
尚、上記した様な凝縮液への重合防止剤の添加方法に係わらず、還流液には上記の如く製品化塔8での重合防止に必要な濃度となる様に重合防止剤を添加すればよい。
【0040】
凝縮液タンク12などの塔付帯設備は、製品化塔8内に比べて比較的低温であり、重合物の発生率は低いので凝縮液や塔付帯設備での重合防止目的に使用する重合防止剤は、製品化塔8での重合防止に使用する重合防止剤よりも重合防止効果が低いものを使用できる。また凝縮液や塔付帯設備等の重合は重合防止剤濃度が低くても十分に抑制できるため、ライン13を通して得られるアクリル酸純度及び品質を一定以上に保ちつつ、重合防止が図れる。
【0041】
したがって凝縮液や循環液に添加する重合防止剤としては例えばアクリル酸に着色を生じる恐れのないハイドロキノンモノメチルエーテル、ハイドロキノン、2,4ジメチル−6−t−ブチルフェノール等の様にフェノール系の重合防止剤を用いることが望ましい。
【0042】
上記の様に凝縮液に含まれる重合防止剤が、重合防止効果の低い重合防止剤であって、且つ重合防止剤の添加量も凝縮液等の重合防止に必要な添加量(アクリル酸の純度や品質を低下させない程度)である場合、該凝縮液の一部をそのまま還流液として用いても、製品化塔8での重合を十分に抑制することはできない。そこで、還流液に重合防止剤を添加して重合防止剤濃度を高めることが望ましい。
【0043】
尚、中間の蒸留塔における還流液に添加する重合防止剤としては上記フェノール系の重合防止剤や、或いは重合防止効果の高い重合防止剤を用いてもよい。重合防止効果の高い重合防止剤としては、例えば4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジノオキシルの様なN−オキシル系の重合防止剤;フェノチアジン,フェニレンジアミンなどのアミン系の重合防止剤;ジブチルジチオカルバミン酸銅、酢酸マンガン等の様な金属系の重合防止剤を用いることが望ましい。中間の蒸留塔においては、還流液に添加した重合防止剤は最終的には製品化塔8で除去されるため、添加する重合防止剤の種類や添加量については特に限定されない。
【0044】
一方、製品化塔8における還流液に添加する重合防止剤としては、凝縮液や循環液に添加した重合防止剤と同種の重合防止剤を用いることが好ましい。即ち、還流液を蒸留塔の最上部(例えば棚段塔の場合は最上部のトレーよりも上部)から供給すると、還流液に添加した重合防止剤が飛沫同伴によって塔頂から留出することがあるため、上記N−オキシル系の重合防止剤、アミン系の重合防止剤や金属系の重合防止剤を使用すると、アクリル酸に着色などの汚染が生じたり、アクリル酸の重合特性に影響することがある。尚、N−オキシル化合物等の着色性の重合防止剤を用いる場合や、還流液の重合防止剤濃度を高める場合も含めて、図3に示す様に還流液の一部を蒸留塔上部から供給すると共に、還流液の他の一部を蒸留塔の該上部供給位置より下側に供給する様にし、更に該下側から供給する還流液に重合防止剤を添加して重合防止剤濃度を高めることによって、重合防止剤の飛沫同伴によるアクリル酸の純度低下や品質低下を効果的に回避することができる。尚、具体的な供給位置は飛沫同伴量等を考慮して適宜決定すればよい。
【0045】
循環液および/または凝縮液に添加する重合防止剤の添加量は、凝縮液や塔付帯設備での重合物発生を十分抑制できる様に調整すればよいが、例えば循環液に添加する重合防止剤としてハイドロキノンモノメチルエーテルを添加する場合、凝縮液中のアクリル酸に対して重合防止剤が10〜200ppm程度の濃度となる様に添加すればよい。この程度の添加量であれば、凝縮液や塔付帯設備でのアクリル酸の純度を維持しつつ塔内の重合防止を図るという本発明の目的を達成できる。
【0046】
また上記アクリル酸の蒸留においてハイドロキノンモノメチルエーテルを還流液に添加する場合、該還流液に添加するハイドロキノンモノメチルエーテルの添加量は、塔内のアクリル酸に対して100〜5000ppm程度の濃度となる様に添加することが製品化塔8での重合を抑止するには望ましい。尚、飛沫同伴により凝縮液中のハイドロキノンモノメチルエーテル濃度が上昇する場合には、図3に示す様に還流液の一部を製品化塔8の上部から供給する還流液よりも下側から供給する様に構成し、該下側から供給する還流液に重合防止剤を供給して塔内のアクリル酸に対してハイドロキノンモノメチルエーテルが100〜5000ppm程度となる様に調整することが望ましい。
【0047】
以上の様に還流液、凝縮液、循環液に添加する重合防止剤の供給方法、及び添加量を夫々制御して重合防止剤濃度を調節することによって、ライン13を通して得られる精製アクリル酸の純度が必要以上に低下したり、品質が劣化することを抑止できると共に、製品化塔8や塔付帯設備での重合も抑止できる。
【0048】
図2及び図3は図1における製品化工程18の重合防止剤の添加方法を例示する該略図である。
【0049】
凝縮液へ重合防止剤を添加する場合、重合防止剤の添加位置については特に限定されず、例えば図2に示す様に凝縮器10に直接(ライン20)、および/または凝縮液タンク12に直接(ライン20a)、および/またはライン11の任意の位置(図示せず)、および/またはライン9の任意の位置(ライン14C)から添加してもよい。勿論、任意の複数箇所から凝縮液に重合防止剤を添加してもよい。特に製品化塔8と凝縮器10をつなぐライン9、凝縮器10内、及び凝縮器で生成した凝縮液がライン11や凝縮タンク12内で重合物を生じることがあるので、これらにおける重合を効率的に防止するために、重合防止剤が添加された循環液を、ライン14cを通してライン9の任意の位置から供給すると共に、ライン14bを通して凝縮器10に供給することが望ましい。尚、この際の重合防止剤の循環液への供給位置は特に限定されず、任意の位置から供給すればよく、図示するごとく、ライン14bの任意の位置にライン20bを設け、該ライン20bから重合防止剤を添加してもよい。
【0050】
図2及び図3では還流液及び循環液は凝縮液タンク12内の凝縮液を同一のライン11aを通して抜出し、循環液は該ライン14aからライン14b,14cを通して凝縮器10,ライン9に供給すると共に、還流液は該ライン14aからライン14を通して製品化塔8内へ供給しているが、還流液と循環液は夫々独立のラインを凝縮液タンク12に接続して適宜抜き出す様に構成してもよく、任意に変更できる。図示する如く同一のライン11aから抜き出す構成にすると、一個の送液ポンプで各ラインに送液することが可能となり、設備を簡易化できるので望ましい。
【0051】
ライン14を通して製品化塔8に供給される還流液には該ライン14上の任意の位置に重合防止剤添加用のライン19を設置し、該ライン19を通して重合防止剤を供給することが推奨される。勿論、還流液は凝縮液の一部であるので、該還流液には凝縮液に既に添加されている重合防止剤が含まれている。
【0052】
本発明では重合防止剤を含む還流液をライン14から製品化塔8に供給している。還流液は全量を製品化塔8の最上部(棚段塔の場合、最上段のトレーよりも上)から供給してもよいが、還流液を複数分割し、図3に示す様に塔下部の任意の位置から供給してもよい。
【0053】
ライン14dの接続位置は、例えば棚段塔の場合、飛沫同伴を防止して塔内の重合防止を図るために最上部から1〜10段下、好ましくは1〜5段下にすることが望ましい。また複数の位置から重合防止剤や還流液を供給してもよい。この様に供給位置、重合防止剤の種類を制御することによって、重合防止剤が蒸気に混入して生じるアクリル酸の純度低下やアクリル酸の着色といった問題を防止しつつ、塔最上部及び塔内部での重合を効果的に抑止できるので望ましい。
【0054】
また図3に示す様に還流液を分割供給する場合(ライン14,14d)、還流液の供給比率はライン14よりもライン14dを通して供給される還流液量を少なくすることが蒸留分離効率を高く維持する観点から好ましく、具体的にはライン14:ライン14d=2:1〜500:1の範囲内とすることが推奨される。
【0055】
尚、重合防止剤を還流液に添加せずに直接製品化塔8に供給する場合、還流液には十分な重合防止剤が含まれていないため、還流液の導入ライン14(或いは更にライン14d)と製品化塔8の接続部分(例えば還流液の供給スプレー部分や供給口,導入ライン塔内延長部分などの還流液供給部分を含む)で重合が生じやすい。即ち、該接続部分は塔内雰囲気に曝されて高温状態となっているため、ライン内や供給口近傍で還流液が重合し易い。この様な問題を防ぐには、上記の様に還流液に重合防止剤を添加して還流液中の重合防止剤濃度を十分に高め、該接続部分における重合物の発生を抑止することが望ましい。
【0056】
また製品化塔8に直接重合防止剤を供給すると、新たに重合防止剤供給ラインや各種制御設備を設ける必要があるため好ましくない。したがって効率的に塔付帯設備や製品化塔内での重合を抑止しつつ、精製アクリル酸の品質を維持するためには、重合防止剤を上記の様に凝縮液や還流液に溶解させることが好ましい。
【0057】
中間の蒸留塔においても必要に応じて任意の位置から重合防止剤を該塔に直接的に供給してもよく、或いは精製アクリル酸や粗製アクリル酸などの溶媒に溶解させるなど間接的に供給してもよいが、重合防止剤の取扱い性や上記精製塔の場合と同様の理由から重合防止剤は還流液や凝縮液に溶解させて供給することが好ましい。
【0058】
この様な本発明の重合防止剤添加方法は、製品化塔に限らず、共沸蒸留塔や高沸点物分離塔などの中間の蒸留塔にも採用することができる。本発明の重合防止剤の添加方法を中間の蒸留塔に適用することによって、直接重合防止剤を蒸留塔に添加する場合に比べて効率的に塔内や塔付帯設備での重合を抑止でき、また重合防止剤の使用量も低減できる。
【0059】
例えば図1に示す共沸蒸留塔4においては、蒸留によって水,共沸溶剤,軽沸不純物(アクリル酸よりも低沸点)及び微量のアクリル酸を含む蒸気がライン6を通して塔頂より抜出され、該蒸気は凝縮器10にて凝縮された後、溶剤分離装置12aにて溶剤と水相とに分離される。溶剤分離装置12aにて分離された溶剤はライン6aを通して共沸蒸留塔4の塔頂から還流液として供給する。尚、この際、該蒸留塔内での重合を防止するために重合防止剤を添加する。更に溶剤の一部および/または分離された水相の一部は図示しないラインを通してライン6に循環液として循環し、上記の様に還流液と、凝縮液(および/または留出蒸気)および/または循環液に同種の重合防止剤を添加する。ただし凝縮液のアクリル酸含有量は微量であることから、新たに重合防止剤を凝縮液に添加しなくても還流液に添加した重合防止剤の飛沫同伴による混入量でも重合防止できる。上記の様に重合防止剤の添加方法を採用することによって、蒸留塔内と該蒸留塔の付帯設備での重合発生を効果的に抑制できる。勿論、上記の様に還流液,凝縮液への重合防止剤添加に加えて、共沸蒸留塔4の任意の箇所から重合防止剤を添加することも可能である。また飛沫同伴を防止する場合、製品化塔8と同様に還流液の一部を塔上部から供給し、残部を該上部より下側から供給する様にすればよい。
【0060】
以下、本発明の方法を実施例を用いて説明するが、本発明は以下の実施例に限定される趣旨ではない。
【実施例】
【0061】
実施例1
プロピレンを原料として接触気相酸化により生成したアクリル酸を含有する反応ガスを図1に示すライン1から捕集塔2に導入すると共に、ライン1aを通して水を該塔2に導入してアクリル酸を吸収した。この際、捕集塔でのアクリル酸の重合を防止するためにライン1aから供給する水に図示しないラインを通して重合防止剤(ハイドロキノン)を添加し、該重合防止剤がアクリル酸に対して100ppmとなる様に調整した。得られたアクリル酸水溶液はライン3を通して共沸蒸留塔4に導入し、ライン6aを通して供給される共沸溶剤(トルエン−メチルイソブチルケトン)と共に蒸留した。共沸蒸留によって共沸溶剤、水及び酢酸をライン6から留出させ、また塔底からライン3aを通してアクリル酸、高沸点不純物および重合防止剤を含有したアクリル酸含有液を得た。この際、共沸蒸留塔でのアクリル酸の重合を防止するためにライン6aを通して供給される共沸溶剤に図示しないラインを通して重合防止剤(ハイドロキノンとジブチルジチオカルバミン酸銅)を添加し、該重合防止剤がアクリル酸に対して夫々200ppm(ハイドロキノン)と50ppm(ジブチルジチオカルバミン酸銅)となる様に調整した。次いでこのアクリル酸含有液をライン3aを通して高沸点不純物分離塔4a(無堰多孔板トレー30段)に導入して蒸留(操作圧:40hpa、還流比:0.5、留出量/供給量=0.9)を行なった。高沸点不純物分離塔4aでの蒸留によって高沸点不純物や重合防止剤は塔底から抜出され、また塔頂からは高沸点不純物を含まない粗製アクリル酸の蒸気を留出させ、凝縮器10で凝縮して粗製アクリル酸を得た。この際、凝縮液中のアクリル酸の重合を防止するために該凝縮器に図示しないラインを通して重合防止剤としてハイドロキノンモノメチルエーテルを添加した。該重合防止剤の添加量はアクリル酸に対して200ppmとなる様に調整した。凝縮液の一部は還流液として蒸留塔内に循環させると共に、該還流液に重合防止剤(ハイドロキノンモノエチルエーテル)を添加し、蒸留塔内のアクリル酸に対して1000ppmとなる様に調整した。
【0062】
80日の稼動後に高沸点不純物分離塔4aおよび凝縮器10の点検をおこなったが、高沸点不純物分離塔4aには重合物の発生は全く認められず、また凝縮器10には殆ど重合物の発生が認められなかった。尚、ライン3bを通して得られる粗製アクリル酸は無色であった。
【0063】
比較例1
高沸点不純物分離塔4aにおいて、還流液に重合防止剤を添加しなかった以外は実施例1と同様にして蒸留を行なった。
【0064】
30日の可動後に高沸点不純物分離塔4aの圧力損失の上昇が認められたため、操業を停止して高沸点不純物分離塔4a及び凝縮器10の点検を行なったところ、凝縮器10には重合物が認められなかったが、高沸点不純物分離塔4aのトレー上に多量の重合物が認められた。尚、留出した粗製アクリル酸は無色であった。
【0065】
実施例2
高沸点不純物分離塔4aにおいて、還流液に添加したハイドロキノンモノメチルエーテルに代えてジブチルジチオカルバミン酸銅を50ppm添加した以外は実施例1と同様にして蒸留を行なった。
【0066】
80日の可動後に高沸点不純物分離塔および凝縮器の点検をおこなったが、高沸点不純物分離塔4aには重合物は全く認められず、また凝縮器10には殆ど重合物が認められなかった。尚、留出した粗製アクリル酸にはジブチルジチオカルバミン酸銅が0.3ppm混入しており、わずかに黄色に着色していた。
【0067】
得られた粗製アクリル酸を更に蒸留して精製アクリル酸を製造した。粗製アクリル酸を図1のライン3bを通して製品化塔8(無堰多孔板トレー20段)に導入して蒸留(操作圧:50hpa、還流比:1.0、留出量/供給量=0.95)を行なった。該蒸留によって発生したアクリル酸の蒸気を塔頂より留出させてライン9を通して凝縮器10に導入して凝縮し、凝縮液を凝縮液タンク12に貯蔵した。尚、留出蒸気は高沸点不純物と重合防止剤が除去された高純度のアクリル酸(純度99.5%以上)であった。凝縮器10には図2に示す様に凝縮液タンク12内の凝縮液の一部を循環液としてライン14bから凝縮器10に噴霧供給して蒸気と直接気液させた。この際、循環液にはライン20bを通して重合防止剤(ハイドロキノンモノメチルエーテル)を添加し、循環液中のアクリル酸に対して50ppmとなる様に調整した。また凝縮液タンク12の一部を還流液としてライン14を通して製品化塔14の最上部から塔内に供給した。この際、還流液にはライン19を通して重合防止剤(ハイドロキノンモノメチルエーテル)を添加し、塔内のアクリル酸に対して500ppmとなる様に調整した。
【0068】
100日の稼動後に製品化塔8及び凝縮器10の点検を実施したが、重合物は全く認められなかった。また配管11,14a,14,14bおよび凝縮液タンク12においても重合物は全く認められなかった。ライン13を通して得られた精製アクリル酸は無色であり、高純度(純度99.5%以上)であった。
【0069】
比較例2
製品化塔8において還流液にライン19を通して重合防止剤(ハイドロキノンモノメチルエーテル)を添加しなかった以外は実施例2と同様にして精製アクリル酸を製造した。
【0070】
10日の稼動後、ライン13を通して得られた精製アクリル酸は無色で高純度(純度99.5%以上)であったが、蒸留塔の圧力損失が増大したため、蒸留を中断して内部点検を実施したところ、凝縮器10には重合物は認められなかったが、製品化塔8の内部には多量の重合物が認められた。
【0071】
比較例3
製品化塔8において還流液にライン19を通して添加していたハイドロキノンモノメチルエーテルに代えてフェノチアジンを塔内のアクリル酸に対して100ppmとなる様に添加した以外は実施例2と同様にして精製アクリル酸を製造した。
【0072】
100日の稼動後に製品化塔8及び凝縮器10の点検を実施したが、重合物は全く認められなかった。また配管11,14a,14,14bおよび凝縮液タンク12においても重合物は全く認められなかった。ライン13を通して得られた精製アクリル酸は無色であり、高純度(純度99.5%以上)であったが、フェノチアジンが1.3ppm混入していたため、精製アクリル酸としては不適であった。
【0073】
実施例3
アクリル酸と2−エチルヘキサノールを反応器(図示せず)に導入し、重合防止剤(フェノチアジン)の存在下、強酸性イオン交換樹脂を触媒として反応生成水を除去しながらエステル化反応を行なった。得られたエステル化反応混合物を軽沸点物分離塔(図示せず)に導入して未反応のアクリル酸、2−エチルヘキサノールおよび反応により生成した軽沸点不純物を塔頂より除去して、塔底より高沸点不純物、重合防止剤を含有した粗製アクリル酸−2−エチルヘキシルを得た。尚、塔頂より留出させた蒸気は凝縮器にて凝縮し、得られた凝縮液の一部を還流液として軽沸点物分離塔の塔頂から供給すると共に、凝縮液の残部は他工程(図示せず)に供給した。この際に軽沸点物分離塔における重合を防止するために、還流液に重合防止剤(フェノチアジン)を添加してから供給した。粗製アクリル酸−2−エチルヘキシルは図2に示す様な製品化塔8(無堰多孔板トレー30段)に導入して蒸留(操作圧:40hpa、還流比:0.8、留出量/供給量=0.95)した。該蒸留によって発生したアクリル酸−2−エチルヘキシルの蒸気はライン9を通して凝縮器10に導入して凝縮し、凝縮液を凝縮液タンク12に貯蔵した。尚、留出蒸気は高沸点不純物と重合防止剤が除去された高純度のアクリル酸−2−エチルヘキシル(純度99.7%以上)であった。凝縮液タンク12内の凝縮液には、ライン20aを通して重合防止剤(ハイドロキノンモノメチルエーテル)を添加し、アクリル酸−2−エチルヘキシルに対して重合防止剤が10ppmとなる様に調整した。凝縮液タンク12内の凝縮液の一部はライン14cを通してライン9にライン14bを通して凝縮器10に噴霧供給した。また凝縮液タンク12の凝縮液の他の一部は還流液としてライン14を通して製品化塔最上部から供給した。この際、重合防止剤(ハイドロキノンモノメチルエーテル)をライン19を通して還流液に供給し、塔内のアクリル酸−2−エチルヘキシルに対して重合防止剤が200ppmとなる様に調整した。
【0074】
100日の稼動後に蒸留塔及び凝縮器の点検を実施したが、重合物は全く認められなかった。また配管11,14a,14c,14および凝縮液タンク12においても重合物の発生は全く認められなかった。尚、得られた精製アクリル酸−2−エチルヘキシルは無色であり、高純度(純度99.7%以上)であった。
【0075】
比較例4
製品化塔8において、還流液にライン19を通してハイドロキノンモノメチルエーテルの添加を行なわなかった以外は実施例3と同様にして蒸留を行なった。
【0076】
20日の稼動後に得られた精製アクリル酸−2−エチルヘキシルは無色で、高純度(純度99.7%)以上であったが蒸留塔の圧力損失が増大したため、蒸留を中断して内部点検を実施したところ、凝縮器10に重合物は認められなかったが、製品化塔8の内部には多量の重合物が認められた。
【0077】
比較例5
製品化塔8において、凝縮液タンク内の凝縮液にライン20aを通して重合防止剤(ハイドロキノンモノメチルエーテル)の添加を行なわなかった以外は実施例3と同様にして蒸留を行なった。
【0078】
30日の稼動後、得られた精製アクリル酸−2−エチルヘキシルは無色であったが、凝縮液中に重合物が認められたため、蒸留を中断して内部点検を実施したところ、製品化塔8に重合物は認められなかったが、凝縮器10や凝縮液タンク12には重合物の発生が認められた。
【0079】
比較例6
製品化塔8において、還流液にライン19を通して添加したハイドロキノンモノメチルエーテルに代えてジブチルジチオカルバミン酸銅を塔内のアクリル酸−2−エチルヘキシルに対して10ppmとなる様に添加した以外は、実施例3と同様にして蒸留を行なった。ライン13を通して得られた精製アクリル酸−2−エチルヘキシルは高純度(純度99.7%以上)であったが、ジブチルジチオカルバミン酸銅が0.5ppm混入していたため、淡黄色に着色しており、精製アクリル酸−2−エチルヘキシルとしては不適(品質不良)であった。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】アクリル酸の製造プロセスの一例を示す該略図である。
【図2】図1に示す精留工程18の一例を示す概略説明図である。
【図3】図1に示す精留工程18の一例を示す概略説明図である。
【符号の説明】
【0081】
1 生成物導入ライン
1a 捕集液導入ライン
2 捕集塔
3 アクリル酸水溶液フィードライン
3a アクリル酸含有液フィードライン
3b 粗製アクリル酸フィードライン
4 蒸留塔(共沸蒸留塔)
4a 蒸留塔(高沸点不純物分離塔)
6 軽沸物留出ライン
6a 還流液供給ライン
6b 循環液供給ライン
6c 液相排出ライン
7 捕集残ガスライン
8 蒸留塔(製品化塔)
9 留出ライン
10 凝縮器
11 凝縮液ライン
12 凝縮液タンク
12a 溶剤分離装置
13 精製アクリル酸ライン
14 還流液ライン
14a 還流液・循環液ライン
14b 循環液ライン
14c 循環液ライン
14d 還流液ライン
15 塔底液ライン
16 リボイラー
17 塔底液循環ライン
18 製品化工程
19、19a、20、20a、20b 重合防止剤導入ライン
21 流量調節バルブ
22 送液ポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
蒸留塔における蒸留によって発生した蒸気を塔頂より留出させて凝縮し、該凝縮された凝縮液の一部を還流液として蒸留塔の上部から塔内に供給し、該凝縮液の他の一部を循環液として凝縮器および/または蒸留塔と前記凝縮器をつなぐ導管に導入する(メタ)アクリル酸および/またはそのエステルの蒸留方法において、該凝縮液および/または該循環液に添加する重合防止剤と、該還流液に添加する重合防止剤とが同種のものであり、該凝縮液および/または該循環液への重合防止剤の添加量が該凝縮液および/または該循環液中の(メタ)アクリル酸またはそのエステルに対して10〜200ppmであり、該還流液への重合防止剤の添加量が蒸留塔内の(メタ)アクリル酸またはそのエステルに対して100〜5000ppmであることを特徴とする(メタ)アクリル酸および/またはそのエステルの蒸留方法。
【請求項2】
前記凝縮液および/または前記循環液への重合防止剤の添加量が前記還流液への重合防止剤の添加量より少ない請求項1に記載の蒸留方法。
【請求項3】
前記重合防止剤がフェノール系重合防止剤である請求項1または2に記載の蒸留方法。
【請求項4】
前記蒸留塔が最終精製物を得るための製品化塔である請求項1〜3のいずれか1項に記載の蒸留方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−316066(P2006−316066A)
【公開日】平成18年11月24日(2006.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−169149(P2006−169149)
【出願日】平成18年6月19日(2006.6.19)
【分割の表示】特願2003−131509(P2003−131509)の分割
【原出願日】平成15年5月9日(2003.5.9)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】