説明

(メタ)アクリル酸エステル−スチレン系共重合体の製造法

【課題】成形時の熱による着色や異物発生のない優れた光学特性を有し、かつ離型性が良好で金型の腐食及び金型汚れの発生のない優れた成形性を有する光学部材用(メタ)アクリル酸エステル−スチレン系共重合体の製造方法を提供すること。
【解決手段】(メタ)アクリル酸エステル系単量体80〜20質量%、スチレン系単量体20〜80質量%、及びこれらの単量体と共重合可能なビニル系単量体0〜15質量%からなる単量体混合物を塊状重合または溶液重合するに際し、重合開始剤としてα−メチルスチレンダイマートラッピング法で測定した水素引抜き能が30%以下であるもののみを用いて、転化率90質量%以下まで重合を行い、単量体を含む揮発分を除去することを特徴とする(メタ)アクリル酸エステル−スチレン系共重合体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、(メタ)アクリル酸エステル−スチレン系共重合体の製造方法、該製造方法により得られる(メタ)アクリル酸エステル−スチレン系共重合体およびこれを用いた成形品に関し、さらに詳しくは特定の開始剤を用いて重合させる、耐熱安定性、成形性に優れた(メタ)アクリル酸エステル−スチレン系共重合体の製造法、更に該製造法により得られる(メタ)アクリル酸エステル−スチレン系共重合体を用いた光学部材に関する。
【背景技術】
【0002】
(メタ)アクリル酸エステル−スチレン系共重合体は透明性に優れることから光ディスクなど光学用途に用いられている。最近、表示装置の大画面化に伴い光学部材の大型化、薄肉化が求められ、高温成形やサイクル時間の延長により、光学部材の着色や熱分解などが生じ易くなっている。また、樹脂に含まれる低分子量体や熱分解により生成する低分子量体による金型汚染性、金型腐食性などの成形性に対する要求もますます厳しくなってきた。
スチレン系重合体においては、共重合体中の低分子量体含有量の低減化のため、スチレン系重合体から低分量体を除去する方法として、脱揮時に少量の水やメタノールを添加することによって、残存するモノマーを水やメタノールと共沸除去する方法(特許文献1または2参照)や流動パラフィンに抽出除去する方法(特許文献3参照)が提案されている。
また、低分子量体の生成を低減化するために重合工程から脱揮工程に入るまでにフェノール系熱劣化防止剤を加える方法(特許文献4参照)が提案されている。
しかるに、これらの技術においては、成形前の共重合体中のダイマー、トリマー等の低分子量体の含有率を低くするのみで、近年の過酷な成形条件における熱分解による低分子量体生成を抑えるものではないため、従来の(メタ)アクリル酸エステル−スチレン系共重合体では、ある程度の効果はあっても未だに十分と言えるものが無いのが現状である。
【特許文献1】米国特許3536787号明細書
【特許文献2】米国特許3987235号明細書
【特許文献3】特開2004−315711号公報(特許請求の範囲)
【特許文献4】特開平5−170825号公報(特許請求の範囲)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の目的は、(メタ)アクリル酸エステル−スチレン系共重合体の低分子量体含有量を低減化するだけでなく、成形時の熱による低分子量体生成や着色のない優れた耐熱安定性を示し、かつ金型やロールの腐食及び汚れの発生のない優れた成形性を有する(メタ)アクリル酸エステル−スチレン系共重合体の製造法、更に該製造法により得られる(メタ)アクリル酸エステル−スチレン系共重合体を用いた光学部材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは、上記の目的を達成するために鋭意検討した結果、(メタ)アクリル酸エステル系単量体80〜20質量%、スチレン系単量体20〜80質量%、及びこれらの単量体と共重合可能なビニル系単量体0〜15質量%からなる単量体混合物を重合するに際し水素引抜き能が30%以下の重合開始剤を用いることにより上記課題を解決できることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0005】
すなわち、本発明は、
(1)(メタ)アクリル酸エステル系単量体80〜20質量%、スチレン系単量体20〜80質量%、及びこれらの単量体と共重合可能なビニル系単量体0〜15質量%からなる単量体混合物を塊状重合または溶液重合するに際し、重合開始剤としてα−メチルスチレンダイマートラッピング法で測定した水素引抜き能が30%以下であるもののみを用いて、転化率90質量%以下まで重合を行い、単量体を含む揮発分を除去することを特徴とする(メタ)アクリル酸エステル−スチレン系共重合体の製造方法;
(2)完全混合型反応器を用いた第一重合帯域およびプラグフロー型反応器を用いた第二重合帯域を含む重合装置で連続塊状重合または連続溶液重合するに際し、
第一重合帯域では水素引抜き能20%以下の重合開始剤を用い90℃〜140℃の温度で転化率60質量%以下まで重合を行い、
第二重合帯域では水素引抜き能30%以下の重合開始剤を用い120℃〜160℃の温度で転化率90質量%以下まで重合を進行させることを特徴とする(1)に記載の(メタ)アクリル酸エステル−スチレン系共重合体の製造方法;
(3)(1)または(2)に記載の製造方法で製造される(メタ)アクリル酸エステル−スチレン系共重合体であって、窒素雰囲気下において熱天秤により270℃で共重合体を加熱した時、共重合体の減量割合が5質量%に達する時間が20分以上であることを特徴とする(メタ)アクリル酸エステル−スチレン系共重合体;
(4)GPCで測定した重量平均分子量が10〜25万、分子量が10万以下の低分子量体が200ppm以下であることを特徴とする(3)に記載の(メタ)アクリル酸エステル−スチレン系共重合体;
(5)(3)または(4)に記載の共重合体からなる成形体;
(6)光学部材である(5)に記載の成形体;
(7)導光体、拡散体、プリズム体、レンズ体、フィルター体およびこれらのうち少なくとも2種以上の機能を兼ね備えた複合体のいずれかである(6)に記載の光学部材;並びに、
(8)液晶表示装置、プラズマ表示装置、発光ダイオード表示装置、フィールドエミッション表示装置、有機エレクトロルミネセンス表示装置、フィールドエミッション表示装置、プロジェクション表示装置のいずれかに使用される(6)または(79に記載の光学部材;
に関する。
【発明の効果】
【0006】
本発明により、(メタ)アクリル酸エステル−スチレン系共重合体の低分子量体含有量を低減化するだけでなく、成形時の熱分解による低分子量体生成や着色のない優れた耐熱安定性を示し、かつ金型やロールの腐食及び汚れの発生のない優れた成形性を有する(メタ)アクリル酸エステル−スチレン系共重合体が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下に、本発明の好ましい実施の形態を説明するが、本発明は以下の説明に限定されるものではない。
【0008】
本発明により製造される(メタ)アクリル酸エステル−スチレン系共重合体は、(メタ)アクリル酸エステル系単量体80〜20質量%、スチレン系単量体20〜80質量%、及びこれらの単量体と共重合可能なビニル系単量体0〜15質量%によって構成される。上記各共重合体の単量体単位組成は、いずれも、(メタ)アクリル酸エステル系単量体70〜30質量%、スチレン系単量体30〜70質量%、及びこれと共重合可能な単量体0〜10質量%であるのが好ましく、(メタ)アクリル酸エステル系単量体60〜40質量%、スチレン系単量体40〜60質量%、及びこれと共重合可能な単量体0〜5質量%であるのがより好ましい。(メタ)アクリル酸エステル−スチレン系共重合体における(メタ)アクリル酸エステル系単量体が20質量%未満では、(メタ)アクリル系樹脂の特徴である優れた光学特性および耐光性が損なわれるため好ましくない。
【0009】
本発明で用いられる(メタ)アクリル酸エステル系単量体としては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ヘキシル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸フェニル、アクリル酸ベンジル等のアクリル酸エステル単量体;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸ヘキシル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸フェニル、メタクリル酸ベンジル等のメタクリル酸エステル単量体;などが挙げられ、単独または2種以上を用いることができる。中でも、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、アクリル酸ブチルが好ましく、メタクリル酸メチルが特に好ましい。
【0010】
本発明で用いられるスチレン系単量体としては、スチレン、p−メチルスチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、α−メチルスチレン、エチルスチレン、ビニルナフタレンなどが挙げられ、単独または2種以上を用いることができる。中でも、スチレン、α−メチルスチレンが好ましく、スチレンが特に好ましい。
【0011】
更に、必要に応じてこれら単量体と共重合可能な単量体としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のニトリル類;アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸等のα,β−不飽和カルボン酸;酢酸ビニル;N−エチルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド等のマレイミド化合物;などが挙げられ、単独または2種以上を用いることができる。
【0012】
本発明に用いる重合開始剤は、水素引抜き能が30%以下であるもののみであることが必要であり、20%以下であるのがより好ましい。重合開始剤の水素引抜き能が30%を超えると、(メタ)アクリル酸エステル−スチレン系共重合体に含まれる低分子量体が増えて金型汚れなどが発生しやすくなったり、耐熱安定性が低下し易くなるため好ましくない。
【0013】
水素引抜き能は、重合開始剤製造業者の技術資料等[例えば日本油脂株式会社技術資料「有機化酸化物の水素引抜き能と開始剤効率」(2003年4月作成)]により公知であり、α―メチルスチレンダイマーを使用したラジカルトラッピング法、即ちα−メチルスチレンダイマートラッピング法によって測定をすることができる。当該測定方法は、一般に、ラジカルトラッピング剤としてのα−メチルスチレンダイマーの共存下で重合開始剤を開裂させて、生成したラジカル断片が水素供与物質としてのシクロヘキサンから水素原子を引抜くかまたは直接ラジカルトラッピング剤に捕捉されるかの内、前者の割合(モル分率)を、残存シクロヘキサンまたはシクロヘキサンから水素が引抜かれて生成したシクロヘキシルラジカルのα−メチルスチレンダイマーによるトラッピング生成物を定量することにより行なわれ、本発明において、具体的には後述の実施例に記す方法によるものとする。
【0014】
本発明に用いる水素引抜き能が30%以下の重合開始剤としては、括弧内の商品名および実際の水素引抜き能と共に次に例示される。そのような重合開始剤としては、ジ−t−ヘキシルパーオキサイド(ハ゜ーヘキシルD:19%)、t−ヘキシルパーオキシイソプロピルモノカーボネート(ハ゜ーヘキシルI:18%)、t−ヘキシルハイドロパーオキサイド(ハ゜ーヘキシルZ:27%)、t−ブチルパーオキシ2−エチルヘキサノエート(ハ゜ーフ゛チルO:22%)、t−ヘキシルパーオキシ2−エチルヘキサノエート(ハ゜ーヘキシルO:11%)、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシ2−エチルヘキサノエート(ハ゜ーオクタO:4%)、t−ブチルパーオキシピバレート(ハ゜ーフ゛チルPV:12%)、t−ヘキシルパーオキシピバレート(ハ゜ーヘキシルPV:8%)、t−ブチルパーオキシネオデカノエ−ト(ハ゜ーフ゛チルND:12%)、t−ヘキシルパーオキシネオデカノエ−ト(ハ゜ーヘキシルND:7%)、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシネオデカノエート(ハ゜ーオクタND:2%)、1,1−ビス(t−ヘキシルパーオキシ)シクロヘキサン(ハ゜ーヘキサHC:10%)、ベンゾイルパーオキシド(ナイハ゜ーBW:15%)、3,5,5−トリメチルヘキサノイルパーオキサイド(ハ゜ーロイル355:2%)、ラウロイルパーオキサイド(ハ゜ーロイルL:1%)等の有機過酸化物;2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオニトリル)(AIBN:1%)、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)(AMBN:1%)、ジメチル2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)(V601:1%);等のアゾ化合物等を挙げることができ、単独または2種以上を用いることができる。中でも水素引抜き能が20%以下のジ−t−ヘキシルパーオキサイド(ハ゜ーヘキシルD:19%)、t−ヘキシルパーオキシイソプロピルモノカーボネート(ハ゜ーヘキシルI:19%)、t−ヘキシルパーオキシ2−エチルヘキサノエート(ハ゜ーヘキシルO:11%)、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシ2−エチルヘキサノエート(ハ゜ーオクタO:4%) 、t−ブチルパーオキシピバレート(ハ゜ーフ゛チルPV:12%)、t−ヘキシルパーオキシピバレート(ハ゜ーヘキシルPV:8%),t−ブチルパーオキシネオ
デカノエ−ト(ハ゜ーフ゛チルND:12%)、t−ヘキシルパーオキシネオデカノエ−ト(ハ゜ーヘキシルND:7%)、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシネオデカノエート(ハ゜ーオクタND:2%)、1,1−ビス(t−ヘキシルパーオキシ)シクロヘキサン(ハ゜ーヘキサHC:10%)、ベンゾイルパーオキシド(ナイハ゜ーBW:15%) 、3,5,5−トリメチルヘキサノイルパーオキサイド(ハ゜ーロイル355:2%)、ラウロイルパーオキサイド(ハ゜ーロイルL:1%)、2,2‘−アゾビス(2−メチルプロピオニトリル)(AIBN:1%)、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)(AMBN:1%)、ジメチル2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)(V601:1%)が好ましく、t−ヘキシルパーオキシ2−エチルヘキサノエート(ハ゜ーヘキシルO:11%)、1,1−ビス(t−ヘキシルパーオキシ)シクロヘキサン(ハ゜ーヘキサHC:10%)、ジメチル2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)(V601:1%)がより好ましい。
【0015】
本発明に用いられる水素引抜き能が30%以下の重合開始剤の1時間半減期温度は、60℃〜140℃が好ましく、80〜120℃がより好ましい。
【0016】
本発明に用いられる水素引抜き能が30%以下の重合開始剤の添加量は、(メタ)アクリル酸エステル系単量体、スチレン系単量体、及び必要に応じて用いるこれらの単量体と共重合可能なビニル系単量体からなる単量体混合物100質量部に対し、0.01〜1.0質量部、さらに好ましくは0.03〜0.4質量部である。0.01質量部未満であると反応速度が遅く生産性が低下する場合があり好ましくなく、1.0質量部を越えて使用すると、重合速度が速くなりすぎて制御が困難となる場合があり好ましくない。
【0017】
(メタ)アクリル酸エステル−スチレン系共重合体は塊状重合、溶液重合、懸濁重合、セルキャスト重合など公知の方法で製造することが出来るが、成形材料の場合、特に回分式もしくは連続式の塊状重合または溶液重合が好ましく、溶液重合が工程通過性の面でより好ましい。
【0018】
本発明を溶液重合で行う場合、不活性溶媒としては、メタノール、エタノール等アルコール類;トルエン、エチルベンゼン、キシレン等の芳香族;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類等が挙げられ、トルエン、エチルベンゼン、キシレンがより好ましく、トルエン、エチルベンゼンがさらに好ましい。これらの不活性溶媒は単独または2種以上を用いることができる。
【0019】
本発明を溶液重合で行う場合の不活性溶媒の使用量は、5〜25質量%が好ましく、10〜20質量%がより好ましい。5質量%未満では工程通過性が低下し好ましくなく、25質量%を超えると生産性が低下し好ましくない。
【0020】
本発明において、重合反応は、単量体を重合体への転化率が90質量%以下の状態まで重合させるものである。90質量%を超えて重合させると重合の追込みに要する時間や開始剤量が増大して生産性や経済性が低下するばかりでなく、ダイマー、トリマー等の低分子量体の副生量が増大する。
本発明において好ましい重合反応は、完全混合型反応器を用いた第一重合帯域およびプラグフロー型反応器を用いた第二重合帯域を含む重合装置で連続重合するに際し、第一重合帯域では水素引抜き能20%以下の重合開始剤を用い90℃〜140℃の温度で転化率60質量%以下まで重合を行い、第二重合帯域では水素引抜き能30%以下の重合開始剤を用い120℃〜160℃の温度で転化率90質量%以下まで重合を進行させる工程を含むものである。
【0021】
初期重合のための第一重合帯域では、完全混合型反応器で水素引抜き能20%以下の重合開始剤を用い90℃〜140℃の温度で転化率60質量%以下まで重合を行う。温度が90℃未満であると、粘度上昇のため混合に非常に大きな動力が必要となり好ましくない。温度が140℃を超えると、重合速度が速くなりすぎて制御が困難となる場合があり好ましくない。また、転化率が60質量%を超えると、粘度上昇のため非常に大きな攪拌動力が必要となり好ましくない。平均滞留時間は1〜4時間が好ましく、1.5時間〜3時間がより好ましい。1時間より短いと、重合開始剤の使用量を増やす必要があり、重合開始剤の増加により重合反応の制御が困難となるとともに、共重合体の分子量調整が困難となり好ましくない。一方、平均滞留時間が4時間を超えると生産性が低下するとともに低分子量体の生成が多くなるため好ましくない。
【0022】
第二重合帯域ではプラグフロー型反応器で120℃〜160℃の温度で転化率90質量%以下まで水素引抜き能30%以下の重合開始剤を用い重合を行う。
第二重合帯域に使用されるプラグフロー型反応器としては塔型あるいは管型などのプラグフロー型反応器が適当である。例えば、塔型反応器としては、内部に多段の攪拌翼と各段の間に除熱用の伝熱管を有した塔高/塔径(L/D)比が3以上の反応器などを用いることができる。また、管型反応器としては、内部に除熱と混合を目的とした伝熱管を内蔵したL/Dが5以上の反応器、例えば住友重機工業社製のSMR型反応器、ノリタケカンパニー社製のスタティックミキサー内蔵型反応器、東レ社製のハイミキサー内臓型反応器を用いることができる。中でも、スタティックミキサー内蔵型管型反応器が好ましい。
【0023】
温度が120℃未満であると、粘度上昇のため工程通過性が低下し好ましくない。160℃を超えると低分子量体生成が多くなるととに耐熱安定性が低下し好ましくない。また、転化率が90質量%を超えると、生成が多くなるととに耐熱安定性が低下し好ましくない。
【0024】
第二重合帯域ではプラグフロー型反応器における反応液の滞留時間は10分〜3時間の範囲で行うことが好ましい。この平均滞留時間が10分より短いと重合開始剤の使用量を増やす必要があり、重合開始剤の増加により重合反応の制御が困難となるとともに、共重合体の分子量調整が困難となり好ましくない。一方、この平均滞留時間が3時間より長いと低分子量体の生成が多くなり、生産性も低下するため好ましくない。
【0025】
第二重合帯域でのプラグフロー型反応器の内壁温度を、反応液導入側から順次高温になるように二つ以上の温度領域に分割して設定することが好ましい。
【0026】
第二重合帯域でのプラグフロー型反応器において使用する開始剤の添加方法は、このプラグフロー型反応器入口において、別に直列配置されたスタティックミキサーで開始剤を予備混合し、このプラグフロー型反応器に通す方法が好ましい。この際、添加する開始剤は不活性溶媒に1〜50質量%に溶解させることが好ましい。不活性溶媒としては、メタノール、エタノール等アルコール類;トルエン、エチルベンゼン、キシレン等の芳香族;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類等が挙げられ、トルエン、エチルベンゼン、キシレンがより好ましく、トルエン、エチルベンゼンがさらに好ましい。単独または2種以上を用いることができる。
【0027】
さらに、反応液の上昇に併せて、このプラグフロー型反応器の反応器入口直前部と、反応器内部の一箇所以上に開始剤を添加することが好ましい。これにより更に効果的に重合を進めることが可能となる。
【0028】
本発明の製造方法は、上記のような重合工程の後に、未反応単量体および溶液重合の場合に加えた不活性溶媒を主成分とする揮発分を分離除去する工程を有している。連続的に送られてくる所定の転化率を有する反応混合物を、減圧下に180〜270℃に加熱してモノマーを主体とする揮発分の大部分を連続的に分離除去することが好ましい。一般に公知のフラッシュドラム、二軸脱揮器、薄膜蒸発器、押出機などが用いられる。残存揮発分は0.5質量%以下が好ましく、0.4質量%以下がより好ましく、0.3質量%以下が更に好ましい。残存揮発分が0.5質量%を超えると熱変形温度などが低下し好ましくない。
【0029】
本発明により得られる(メタ)アクリル酸エステル−スチレン系共重合体は、窒素雰囲気下において熱天秤により270℃で共重合体を加熱した時、共重合体の減量割合が5質量%に達する時間が20分以上であることが好ましい。
共重合体の減量割合が5質量%に達する時間が20分未満では、成形時の金型汚れ、金型腐食、ロール汚れが生じ易くなり好ましくない。
共重合体の減量割合が2.5質量%に達する時間は10分以上であることがよりに好ましい。
共重合体の減量割合が10質量%に達する時間は30分以上であることがさらに好ましい。
【0030】
本発明により得られる(メタ)アクリル酸エステル−スチレン系共重合体は、GPCで測定した重量平均分子量が10〜25万かつ分子量が10万以下の低分子量体が200ppm以下であることが好ましい。
【0031】
(メタ)アクリル酸エステル−スチレン系共重合体の分子量は、加熱溶融して成形する成形材料の場合、GPCで測定した重量平均分子量で10万〜25万であるのが好ましく、15万〜20万であるのがより好ましい。(メタ)アクリル酸エステル−スチレン系共重合体の重量平均分子量が10万以上では強度や耐久性が向上し、一方重量平均分子量が25万以下では流動性や成形性が向上する。(メタ)アクリル酸エステル−スチレン系共重合体の分子量調整には、公知の連鎖移動剤を用いることができ、例えば、n−オクチルメルカプタン、ラウリルメルメルカプタン等のアルキルメルカプタン類やα−メチルスチレンダイマーやテルピノレン等を挙げることができる。これらは、単独または2種以上を用いることができる。
【0032】
(メタ)アクリル酸エステル−スチレン系共重合体において分子量が10万以下の低分子量体は200ppm以下であることが好ましい。分子量が10万以下の低分子量が200ppmを超えるとであると、金型汚れなどが発生しやすくなるため好ましくない。
【0033】
本発明により得られる(メタ)アクリル酸エステル−スチレン系共重合体は、射出成形法や圧縮成形法により樹脂を溶融し直接賦形する方法、押出成形により一旦シート状やフィルム状に加工した後切削加工する方法、またはキャスト重合や連続塊状重合により直接板状に得られた成形品を切削加工する方法により光学部材として好適に供される。
【0034】
本発明により得られる(メタ)アクリル酸エステル−スチレン系共重合体を成形してなる光学部材としては、例えば、導光体、拡散体、プリズム体、レンズ体、フィルター体およびこれらの少なくとも2種以上の機能を兼ね備えた複合体が挙げられる。これら光学部材は、その使用形態によりフィルム状、シート状もしくは板状およびそれ以外の立体形状などさまざまな形態を含むものであり、その表面に無機もしくは有機化合物によるハードコート処理、帯電防止処理、反射防止処理または電磁遮蔽処理などを行うことができる。これらの処理は、光学部材の表面に蒸着、スパッタリング、ディッピングまたは熱転写等の処理を行うことにより当該性能を付与することができる。
【0035】
本発明における導光体とは、光源より発せられた光線を目的とする方向に導く機能を有する光学部材である。導光体において光線を導く方向としては、光源に対し直進方向、垂直方向あるいは目的とする特定の方向などが挙げられるが特に制限はない。また、導光体の製造方法としては、例えば、様々な微細形状のパターンの印刷による方法、微細形状のパターンを切削もしくは種々の成形方法によって賦形する方法および成形品そのものを曲げ加工する方法などが挙げられる。
【0036】
本発明における拡散体とは、光源より発せられた光線を拡散して発光面積を拡大する機能を有する光学部材であり、例えば、無機系もしくは有機系の拡散剤を本発明により得られる(メタ)アクリル酸エステル−スチレン系共重合体に含有させたもの、または表面に様々な形状を賦形したものなどが挙げられる。
【0037】
本発明におけるプリズム体とは、光源より発せられた光線を波長により異なる屈折率を利用し分光する機能を有する部材であり、その形状としては、例えば、多角形断面を有した連続体もしくは多角形体などが挙げられる。
【0038】
本発明におけるレンズ体とは、光源より発せられた光線を目的とする位置に集中もしくは拡大する機能を有する光学部材であり、例えば、球面、非球面形状を有する立体またはこれらを分割して二次元的に配列させた形状などが挙げられる。
【0039】
本発明におけるフィルター体とは、光源より発せられた光線から特定の波長のみを透過させる機能を有する光学部材であり、例えば、染料等の有機または無機の色素を本発明により得られる(メタ)アクリル酸エステル−スチレン系共重合体に含有させて、所望の形状に賦形したもの等が挙げられる。
【0040】
本発明により得られる(メタ)アクリル酸エステル−スチレン系共重合体を成形してなる光学部材は、冷陰極管を用いたエッジライト方式もしくはバックライト方式の液晶表示装置、プラズマ発光を用いたプラズマ表示装置、発光ダイオードを用いた発光ダイオード表示装置、有機エレクトロルミネセンス表示装置、フィールドエミッション表示装置およびプロジェクション表示装置、さらには高速道路の自動料金システムの受光部材などに好適に使用される。
【0041】
本発明により得られる(メタ)アクリル酸エステル−スチレン系共重合体は、目的に応じ、紫外線吸収剤、酸化防止剤、滑剤、有機色素、染料、顔料、光拡散剤、耐衝撃性改質剤、蛍光体などを含有させることも出来る。
【0042】
本発明により得られる(メタ)アクリル酸エステル−スチレン系共重合体には、(メタ)アクリル酸エステル−スチレン系共重合体100質量部に対して、紫外線吸収剤を0.001〜0.2質量部含有させてもよい。
【0043】
本発明により得られる(メタ)アクリル酸エステル−スチレン系共重合体で用いられる紫外線吸収剤は、紫外線による樹脂劣化、特に着色による光学特性低下を抑制する機能を有するものであって、例えば、ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、トリアジン系、ベンゾエート系、サリシレート系、シアノアクリレート系、蓚酸アニリド系、マロン酸エステル系、ホルムアミジン系などの紫外線吸収剤が挙げられ、これらを単独または2種以上組み合わせて用いることができ、さらにヒンダートアミン類等の光安定化剤を併用してもよい。中でも波長380〜450nmにおけるモル吸光係数の最大値εmaxが1200dm・mol−1cm−1以下である紫外線吸収剤が好ましく、600dm・mol−1cm−1以下であるのがより好ましく、300dm・mol−1cm−1以下であるのがさらに好ましい。εmaxが1200dm・mol−1cm−1以下では得られる光学部材の黄色味が抑えられるので好ましい。紫外線吸収剤(c)のモル吸光係数の最大値εmaxの測定は、シクロヘキサン1Lに紫外線吸収剤〔分子量(Mw))10.00mgを充分溶解させ、未溶解物のないことを目視で確認した。この溶液を1cm×1cm×3cmの石英ガラスセルに注入し、日立製作所社製U−3410型分光光度計を用い380〜450nmでの吸光度を測定し、その最大値(Amax)からモル吸光係数の最大値εmaxを次式により算出した。
εmax=[Amax/(10×10−3)]×Mw
波長380〜450nmにおけるモル吸光係数の最大値εmaxが1200dm・mol−1cm−1以下である紫外線吸収剤としては、2−エチル−2’−エトキシ−オキサルアニリド(VSU)などが挙げられる。
【0044】
紫外線吸収剤を用いる場合、その含有量は(メタ)アクリル酸エステル−スチレン系共重合体100質量部に対して0.001〜0.2質量部であることが好ましいが、0.001〜0.1質量部がより好ましく、0.001〜0.05質量部がさらに好ましい。紫外線吸収剤の含有量が0.001質量部未満では紫外線による樹脂劣化を抑制する機能が十分に発揮されないので好ましくなく、0.2質量部を超えると成形物の射出成形の際に金型汚れによる歩留まりの低下や金型清掃などによる生産性の低下をもたらすと共に、シルバー発生による欠点発生の原因となったり、押出し成形時の目やにが生じやすくなるので好ましくない。
【0045】
さらに、本発明により得られる(メタ)アクリル酸エステル−スチレン系共重合体には、(メタ)アクリル酸エステル−スチレン系共重合体100質量部に対して、酸化防止剤を0.001〜0.1質量部含有させてもよい。
【0046】
本発明に用いられる酸化防止剤とは、それ単体で樹脂の熱劣化防止に効果を有するものであって、例えば、リン系、ヒンダードフェノール系、チオエーテル系等の酸化防止剤が挙げられ、これらを単独または2種以上組み合わせて用いることができるが、中でも着色による光学特性の劣化防止効果の点で、リン系酸化防止剤やヒンダードフェノール系が好適に用いられる。
【0047】
リン系酸化防止剤としては、例えば、2,2−メチレンビス(4,6−ジt−ブチルフェニル)オクチルホスファイト、ビス(2,6−ジt−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、トリス(2,4−ジt−ブチルフェニル)ホスファイト、テトラキス(2,4−ジt−ブチルフェニル)[1,1−ビフェニル]−4,4’−ジイルビスホスフォナイト、ビス[2,4−ビス(1,1−ジメチルエチル)−6−メチルフェニル]エチルエステル亜りん酸などが挙げられ、中でも2,2−メチレンビス(4,6−ジt−ブチルフェニル)オクチルホスファイト、トリス(2,4−ジt−ブチルフェニル)ホスファイトが好ましい。
【0048】
ヒンダードフェノール系熱安定剤としては、トリエチレングリコール−ビス〔3―(3―t―ブチル−5−メチル−4―ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、1,6―ヘキサンジオールービス〔3−(3,5―ジ−t―ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、2,4−ビス−(n―オクチル)―6−(4―ヒドロキシ−3,5―ジ−t―ブチルアニリノ)―1,3,5―トリアジン、ペンタエリスリチル−テトラキス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、2,2−チオ−ジエチレンビス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニルプロピオネート)、オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、N,N’−ヘキサメチレンビス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−ヒドロシンナマミド)、3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジルフォスフォネート−ジエチルエステル、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、トリス−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−イソシアヌレイト、オクチル化ジフェニルアミン、2,4−ビス[(オクチルチオ)メチル]−o−クレゾール、イソオクチル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネートなどが挙げられ、中でもペンタエリスリチル−テトラキス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕商品名IRGANOX1010やオクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、(Ciba;商品名IRGANOX1076)が好ましい。
【0049】
本発明に酸化防止剤を用いる場合、その含有量は(メタ)アクリル酸エステル−スチレン系共重合体100質量部に対して0.001〜0.1質量部であることが好ましいが、0.005〜0.05質量部であるのがより好ましく、0.01〜0.03質量部であるのがさらに好ましい。酸化防止剤の含有量が0.001質量部未満では、成形物の高温での加熱着色を防止する効果が十分に発揮されない傾向がある。一方、酸化防止剤の含有量が0.1質量部を超えると、射出成形の際に金型汚れによる歩留まりの低下や金型清掃などによる生産性の低下をもたらすと共に、シルバー発生による成形物の欠点発生の原因となったり、成形物に焼けが発生して色相が逆に低下したり、成形物に異物が発生したりする傾向がある。
【0050】
さらに、成形物の離型性を向上させるために、本発明により得られる(メタ)アクリル酸エステル−スチレン系共重合体には、(メタ)アクリル酸エステル−スチレン系共重合体100質量部に対し、高級アルコールおよび/またはグリセリンモノエステルを合計で0.2質量部以下を含有させてもよい。
【0051】
本発明に用いられる高級アルコールとしては、例えば、セチルアルコール、ステアリルアルコールなどが挙げられる。
【0052】
本発明に用いられるグリセリンモノエステルとしては、例えば、ステアリン酸モノグリセライド、ステアリン酸ジグリセライド等の高級脂肪酸のグリセライドなどが挙げられる。
【0053】
高級アルコールおよび/またはグリセリンモノエステルを用いる場合、その含有量は(メタ)アクリル酸エステル−スチレン系共重合体100質量部に対し、合計で0.2質量部以下であるのが好ましく、0.1質量部以下であることがより好ましく、0.05質量部以下であることがさらに好ましい。高級アルコールおよび/またはグリセリンモノエステルの含有量が0.2質量部を超えると、射出成形の際に金型汚れによる歩留まりの低下や金型清掃などによる生産性の低下をもたらす傾向があると共に、シルバー発生による成形物の欠点発生の原因となったり、押出し成形時の目やにが生じやすくなる傾向がある。
【0054】
さらに、高級アルコールおよびグリセリンモノエステルを併用する場合、その割合は特に制限されないが、高級アルコールとグリセリンモノエステルとの質量比で、高級アルコール:グリセリンモノエステルが2.5〜3.5:1、より好ましくは2.8〜3.2:1である。
【0055】
有機色素の例としては、樹脂に対しては有害とされている紫外線を可視光線に変換する機能を有するターフェニルなどが挙げられる。
【0056】
光拡散剤の例としては、ガラス微粒子、ポリシロキサン系架橋微粒子、架橋ポリマー微粒子などが挙げられる。
【0057】
耐衝撃性改質剤の例としては、アクリル系ゴムもしくはジエン系ゴムをコア層成分として含むコアシェル型改質剤、ゴム粒子を複数包含した改質剤などが挙げられる。
【0058】
蛍光体の例としては、蛍光顔料、蛍光染料、蛍光白色染料、蛍光増白剤、蛍光漂白剤などが挙げられる。
【0059】
本発明により得られる(メタ)アクリル酸エステル−スチレン系共重合体に前記紫外線吸収剤や所望に応じて他の樹脂や物性改善剤等を含有させる方法は特に制限される事なく公知の方法を採用することができる。例えば、前記(メタ)アクリル酸エステル−スチレン系共重合体に、前記紫外線吸収剤や所望に応じて他の樹脂や物性改善剤等を添加、混合、および/または混練することにより製造することができる。この方法としては、重合反応の反応前、反応中、または反応後に、一括添加、分割添加、連続添加等公知の方法で含有させることができ、また、混合、混練する方法についても特に制限はなく、例えば、直接混練するか、混合してから混練する方法等が挙げられる。この際、混合機としてはタンブラー、ミキサー、ブレンダー等、混練機としてはスクリュー押出機等を用いることができる。
【実施例】
【0060】
以下に本発明を実施例及び比較例により具体的に説明するが、本発明はそれらにより何ら制限されるものではない。なお、実施例及び比較例における物性値の測定または評価は、以下の方法により行なった。
【0061】
(1)開始剤の水素引抜き能測定
α―メチルスチレンダイマー(1.0mol)、シクロヘキサン(6.9mol)及び開始剤(0.05mol)を、上記のモル比でガラスアンプルに入れ、窒素置換を行い実質上酸素のない状態とし封入した。下記温度まで昇温し、60時間放置後、反応液のシクロヘキサンのモル比(Hmol)をガスクロマトグラフにて測定し、下式にて水素引抜き能を求めた。
10時間半減期温度80℃超の開始剤:140℃
10時間半減期温度60℃〜80℃の開始剤:100℃
10時間半減期温度60℃未満の開始剤:80℃
水素引抜き能(%)=[(6.9−H)/(0.05×2)]×100
【0062】
(2)(メタ)アクリル酸エステル−スチレン系共重合体の熱安定性測定
島津製作所社製「TGAー50型」を用い、270℃、窒素雰囲気下、共重合体の減量割合が5質量%に達する時間を測定した。
【0063】
(3)(メタ)アクリル酸エステル−スチレン系共重合体の重量平均分子量の測定
高速液体クロマトグラフィー装置に、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)用カラムとして島津製作所社製「GPC−802」、「HSG−30」、「HSG−50」および昭和電工社製「Shodex A−806」を直列に繋ぎ、検出器として示差屈折率検出器、溶離液としてテトラヒドロフランをそれぞれ用い、溶離液流量1.5ml/分の条件下で、分子量既知の標準ポリスチレンとの較正から(メタ)アクリル酸エステル−スチレン系共重合体の重量平均分子量を測定した。なお、試料溶液は、(メタ)アクリル酸エステル−スチレン系共重合体0.12gを秤量し、これに20mlのテトラヒドロフランを加えて十分に溶解させた後、孔径0.5μmのメンブランフィルターで濾過したものを用いた。
【0064】
(4)(メタ)アクリル酸エステル−スチレン系共重合体の低分子量体の測定
低分子量体の濃度測定は、(メタ)アクリル酸エステル−スチレン系共重合体2gを精秤し、これを40mlのアセトンに溶解後、120mlのヘキサンに投じてポリマーを分離した液を、ロータリーエバポレーターにて50℃、−600〜−700mmHgで溶媒を飛ばした後の重量を測定し、低分子量体濃度とした。また、低分子量体の分子量分布測定は、高速液体クロマトグラフィー装置に、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)用カラムとして島津製作所社製「GPC−802」、「HSG−30」、「HSG−50」および昭和電工社製「Shodex A−806」を直列に繋ぎ、検出器として示差屈折率検出器、溶離液としてテトラヒドロフランをそれぞれ用い、溶離液流量1.5ml/分の条件下で、分子量既知の標準ポリスチレンとの較正から(メタ)アクリル酸エステル−スチレン系共重合体の重量平均分子量を測定した。なお、得られた低分子量体にテトロヒドロフランを加え、十分に溶解した後、孔径0.5μmのメンブランフィルターで濾過したものを用いた。
【0065】
(5)残存揮発分
(メタ)アクリル酸エステル−スチレン系共重合体2gを精秤し、これをクロロホルム10mlに溶解後、その溶液を30mlのヘキサン中に投じて、ポリマーを分離した液を、ガスクロマトグラフにて残存揮発分濃度を定量した。ガスクロマトグラフの分析条件は以下の通りである。
機器;島津製作所社製 GC−2014 C−R3A
カラム;DB−1071
キャリャーガス;He=50kPa、H=65kPa、Air、55kPa
サンプル量;2μl
【0066】
(6)成形時の金型腐食および金型汚れの評価
東芝機械社製「IS−60B」射出成形機を用い、平板金型(鋼材:NAK80、成形品寸法:40mm×200mm×2mm)で、シリンダー温度260℃、スクリュー回転数50rpm、金型温度60℃、背圧0.5MPa、冷却時間15秒、保圧無し(ショートショット)の条件下で700ショットの射出成形を行い、金型表面の腐食の程度および汚れ具合を調べ、その程度に応じて以下の記号で表記した。
【0067】
金型腐食の評価
○:腐食無し。
△:僅かに腐食が認められる。
×:かなり腐食が認められる。
【0068】
金型汚れの評価
○:金型汚れ無し。
△:僅かに金型汚れが認められる。
×:かなり金型汚れが認められる。
【0069】
(8)光学部材の長光路分光光度測定
名機製作所社製「M−100−DM」射出成形機で板状成形品(200mm×60mm×6mm)を成形し、(1)と同じ分光光度計を用い、光線を板状成形品内部の長さ方向に200mm透過した部分での一定波長(400、500、600nm)の透過率(%)とbの測定を行った。
【0070】
また、実施例および比較例中に用いた化合物名およびその略称[( )内]を下記に示す。
【0071】
メタクリル酸メチル(MMA)、アクリル酸ブチル(BA)スチレン(St)、α−メチルスチレン(α−MS)、エチルベンゼン(EB)、トルエン(TL)、2−エチル−2’−エトキシ−オキサルアニリド(EEOA)、2,2−メチレンビス(4,6−ジt−ブチルフェニル)オクチルホスファイト(MBPP)、オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート(OBHP)、ステアリルアルコール(StOH)、ステアリン酸モノグリセライド(StMG)。
【0072】
<実施例1>
精製されたMMA49.5質量%、St40.5質量%およびEB10質量%からなる単量体組成物に対して、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシ2−エチルヘキサノエート(ハ゜ーオクタO:4%)0.3質量%、ラウリルメルカプタン(連鎖移動剤)0.002質量%を加えた混合物を連続的に重合反応槽に仕込み、100℃で3時間滞留させて重合率が45%になるまで重合を行った。続いて、反応混合物を連続的に反応器から抜き出し、ノリタケエンジニアリング社製スタティックミキサーを内装した配管部で更に、t−ヘキシルハイドロパーオキサイド(ハ゜ーヘキシルZ27%)0.05質量%を添加し、ノリタケエンジニアリング社製スタティックミキサーを内装した管型反応器(プラグフロー型反応器)に供給した。管型反応器の内壁温度150℃とした。平均滞留時間は45分であった。また、内圧は0.7MPaとした。重合率は85%であった。次に反応混合物を210℃で、この管型反応器から連続的に2軸押出機へ供給して、240℃で未反応モノマーを主成分とする揮発分を分離除去し、MMA単位45質量%、St単位55質量%からなるペレット状(メタ)アクリル酸エステル−スチレン系共重合体が得られた。該共重合体について、上記の方法で平均重量分子量、低分子量体量、金型腐食、金型汚れ及び熱安定性を測定および評価した。更に該共重合体を所定の試験片形状に加工した成形物について、上記の方法で長光路分光光度を測定および評価した。これらの各評価項目に対する結果を表2に示す。
【0073】
<実施例2および比較例1〜2>
表1に示した開始剤種、開始剤量、重合温度および滞留時間を変更した以外は、実施例1と同様の操作を実施し、光学部材用(メタ)アクリル酸エステル−スチレン系共重合体およびその成形物を測定、評価した。結果を表2に示す。
【0074】
<実施例3>
精製された%MMA48質量%、St32質量%およびTL20質量%からなる単量体組成物に対してジメチル2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)(V601:1%)0.12質量%、α−MS(連鎖移動剤)0.1質量%を加えた混合物を連続的に重合反応槽に仕込み、110℃で2時間滞留させて重合率が50%になるまで重合を行った。続いて、反応混合物を連続的に反応器から抜き出し、ノリタケエンジニアリング社製スタティックミキサーを内装した配管部で更に、1,1−ビス(t−ヘキシルパーオキシ)シクロヘキサン(ハ゜ーヘキサHC:10%)0.1質量%を添加し、ノリタケエンジニアリング社製スタティックミキサーを内装した管型反応器(プラグフロー型反応器)に供給した。管型反応器の内壁温度130℃とした。平均滞留時間は60分であった。重合率は80%であった。次に反応混合物を230℃で、この管型反応器から連続的に脱揮押出機へ供給して、260℃で未反応モノマーを主成分とする揮発分を分離除去することにより、MMA単位60質量%、St単位40質量%からなるペレット状(メタ)アクリル酸エステル−スチレン系共重合体を得た。該共重合体について、上記の方法で平均重量分子量、低分子量体量、金型腐食、金型汚れ及び熱安定性を測定および評価した。更に該共重合体を所定の試験片形状に加工した成形物について、上記の方法で長光路分光光度を測定および評価した。これらの各評価項目に対する結果を表2に示す。
【0075】
<実施例4および比較例3〜4>
表1に示した開始剤種、開始剤量、重合温度および滞留時間を変更した以外は、実施例3と同様の操作を実施し、光学部材用(メタ)アクリル酸エステル−スチレン系共重合体およびその成形物を測定、評価した。結果を表2に示す。
【0076】
【表1】

【0077】
【表2】

【0078】
本発明を満足する実施例1〜4により得られた(メタ)アクリル酸エステル−スチレン系共重合体は、あらゆる評価測定項目において優れた結果を示した。これに対し、比較例1では第二重合帯域において水素引抜き能が30%を超える重合開始剤を用いたことにより実施例1に比べて劣ったものとなり、比較例2では第一重合帯域において水素引抜き能が大きい重合開始剤を用いたことにより劣ったものとなり、比較例3では重合体への転化率を90%を超えて追込んだことにより実施例3に比べて劣ったものとなり、比較例4では第一および第二重合帯域の重合開始剤並びに転化率のいずれもが本発明を外れるため、極めて劣った共重合体となった。
【0079】
<実施例5>
実施例1で得られた(メタ)アクリル酸エステル−スチレン系共重合体に紫外線吸収剤、酸化防止剤、高級アルコールおよびグリセリンモノエステルの混合物を表3に示す量添加してスクリュー押出機で混練することでMMA単位45質量%、St単位55質量%からなる(メタ)アクリル酸エステル−スチレン系共重合体とEEOA0.03phr(メタクリル系重合体100質量部に対する質量部)、MBPP0.02phr、StOH0.015phr、StMG0.005phrからなる(メタ)アクリル酸エステル−スチレン系共重合体組成物をペレット形状で得た。該共重合体組成物について、上記の方法で金型腐食、金型汚れ及び熱安定性を測定および評価した。更に該共重合体組成物を所定の試験片形状に加工した成形物について、上記の方法で長光路分光光度を測定および評価した。これらの各評価項目に対する結果を表4に示す。
【0080】
<実施例6>
実施例3で得られた(メタ)アクリル酸エステル−スチレン系共重合体に紫外線吸収剤、酸化防止剤、高級アルコールおよびグリセリンモノエステルの混合物を表3に示す添加してスクリュー押出機で混練することでMMA単位60質量%、St単位45質量%からなる(メタ)アクリル酸エステル−スチレン系共重合体とEEOA0.02phr(メタクリル系重合体100質量部に対する質量部)、MBPP0.01phr、OBHP0.02phr、StOH0.075phr、StMG0.025phrからなる(メタ)アクリル酸エステル−スチレン系共重合体組成物をペレット形状で得た。該共重合体組成物について、上記の方法で金型腐食、金型汚れ及び熱安定性を測定および評価した。更に該共重合体組成物を所定の試験片形状に加工した成形物について、上記の方法で長光路分光光度を測定および評価した。これらの各評価項目に対する結果を表4に示す。
【0081】
【表3】

【0082】
【表4】

【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明により、成形時の熱による着色や異物発生のない優れた光学特性を有し、かつ離型性が良好で金型の腐食及び金型汚れの発生のない優れた成形性を有する光学部材用(メタ)アクリル酸エステル−スチレン系共重合体が提供される。該組成物からなる光学部材は、液晶表示装置、プラズマ表示装置、発光ダイオード表示装置、有機エレクトロルミネセンス表示装置、フィールドエミッション表示装置、プロジェクション表示装置、および高速道路の自動料金システムの受光部材などに好適に使用される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(メタ)アクリル酸エステル系単量体80〜20質量%、スチレン系単量体20〜80質量%、及びこれらの単量体と共重合可能なビニル系単量体0〜15質量%からなる単量体混合物を塊状重合または溶液重合するに際し、重合開始剤としてα−メチルスチレンダイマートラッピング法で測定した水素引抜き能が30%以下であるもののみを用いて、転化率90質量%以下まで重合を行い、単量体を含む揮発分を除去することを特徴とする(メタ)アクリル酸エステル−スチレン系共重合体の製造方法。
【請求項2】
完全混合型反応器を用いた第一重合帯域およびプラグフロー型反応器を用いた第二重合帯域を含む重合装置で連続塊状重合または連続溶液重合するに際し、
第一重合帯域では水素引抜き能20%以下の重合開始剤を用い90℃〜140℃の温度で転化率60質量%以下まで重合を行い、
第二重合帯域では水素引抜き能30%以下の重合開始剤を用い120℃〜160℃の温度で転化率90質量%以下まで重合を進行させることを特徴とする請求項1に記載の(メタ)アクリル酸エステル−スチレン系共重合体の製造方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の製造方法で製造される(メタ)アクリル酸エステル−スチレン系共重合体であって、窒素雰囲気下において熱天秤により270℃で共重合体を加熱した時、共重合体の減量割合が5質量%に達する時間が20分以上であることを特徴とする(メタ)アクリル酸エステル−スチレン系共重合体。
【請求項4】
GPCで測定した重量平均分子量が10〜25万かつ分子量が10万以下の低分子量体が200ppm以下である請求項3に記載の(メタ)アクリル酸エステル−スチレン系共重合体。
【請求項5】
請求項3または4に記載の共重合体からなる成形体。
【請求項6】
光学部材である請求項5に記載の成形体。
【請求項7】
導光体、拡散体、プリズム体、レンズ体、フィルター体およびこれらのうち少なくとも2種以上の機能を兼ね備えた複合体のいずれかである請求項6に記載の光学部材。
【請求項8】
液晶表示装置、プラズマ表示装置、発光ダイオード表示装置、フィールドエミッション表示装置、有機エレクトロルミネセンス表示装置、フィールドエミッション表示装置、プロジェクション表示装置のいずれかに使用される請求項6または7に記載の光学部材。

【公開番号】特開2008−291250(P2008−291250A)
【公開日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−114953(P2008−114953)
【出願日】平成20年4月25日(2008.4.25)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【Fターム(参考)】