説明

(メタ)アクリル酸エステルの製造方法

【課題】触媒の追加投入量を削減できる(メタ)アクリル酸エステルの製造方法を提供する。
【解決手段】(A)アルコール、(B)(メタ)アクリル酸アルキル、(C)重合禁止剤及び(D)エステル交換触媒の混合物を、加熱することによってエステル交換反応を開始し、前記(B)(メタ)アクリル酸アルキルのアルキルが前記(A)アルコールに含まれる基と交換された(メタ)アクリル酸エステルを製造する方法であって、前記(A)アルコールと(B)(メタ)アクリル酸アルキルの混合物の水分含量が1200ppm以下で、かつ、前記(C)重合禁止剤の配合量が前記(A)アルコールに対して5〜10重量%であることを特徴とする(メタ)アクリル酸エステルの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、(メタ)アクリル酸アルキル(アルキル(メタ)アクリレート)及びアルコールからエステル交換により(メタ)アクリル酸エステル((メタ)アクリレート)を製造する方法に関する。さらに詳細には、エステル交換触媒を用いて(メタ)アクリル酸エステルを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
(メタ)アクリル酸エステルは、(メタ)アクリル酸アルキルと特定のアルコールをエステル交換触媒の存在下でエステル交換させ、続いて低沸点副生成物アルコールを(メタ)アクリル酸アルキルとの共沸混合物として除去して製造することができる。反応混合物の予備脱水は、エステル交換触媒が水の存在下で不活化を受けやすい場合に有利である。
【0003】
典型的なエステル交換方法は、リアクター中に反応物質の全てを供給し、反応混合物を脱水することを含む。残存水量が許容範囲になったら、好適なエステル交換触媒を反応混合物に添加し、混合物を加熱してエステル交換反応を開始する。反応生成物は、所望の(メタ)アクリル酸エステル及び低沸点副生成物アルコールを通常含む。
共沸蒸留は、アルコール副生成物を、出発(メタ)アクリル酸アルキルの一部とともに分離し、除去するために行う。反応混合物の温度は、アルコール副生成物を除去するにつれて上昇する。エステル交換方法は可逆的なので、反応速度は、副生成物アルコールの除去速度により主に決まる。
【0004】
特許文献1では、蒸留による脱水方法、エステル交換触媒の複数回の独立投入が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−206590号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の方法では、脱水後の反応期間中に酸素混合ガスを反応系内に供給しているため、酸素含有ガス内に存在する微量の水分が反応系内に入り込むという問題があった。また、反応途中で触媒を追加投入することは、反応混合物の突沸を招き、安全性に問題があった。
そこで本発明においては、触媒の追加投入量を削減できる(メタ)アクリル酸エステルの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意検討の結果、原料として用いる(A)アルコールと(B)(メタ)アクリル酸アルキルの混合物の水分含量を低減させるとともに、特定量の重合禁止剤を用いることによって、上記課題を解決できることを見出した。本発明によれば、以下の(メタ)アクリル酸エステルの製造方法が提供される。
1.(A)アルコール、(B)(メタ)アクリル酸アルキル、(C)重合禁止剤及び(D)エステル交換触媒の混合物を、加熱することによってエステル交換反応を開始し、前記(B)(メタ)アクリル酸アルキルのアルキルが前記(A)アルコールに含まれる基と交換された(メタ)アクリル酸エステルを製造する方法であって、
前記(A)アルコールと(B)(メタ)アクリル酸アルキルの混合物の水分含量が1200ppm以下で、かつ、
前記(C)重合禁止剤の配合量が前記(A)アルコールに対して5〜10重量%であることを特徴とする(メタ)アクリル酸エステルの製造方法。
2.前記反応中に、前記(A)アルコールの副生成物を共沸蒸留することを特徴とする1に記載の(メタ)アクリル酸エステルの製造方法。
3.前記(B)(メタ)アクリル酸アルキルの配合量が、前記(A)アルコールに対してモル比で2〜4であることを特徴とする1又は2に記載の(メタ)アクリル酸エステルの製造方法。
4.前記(C)重合禁止剤が、ジエチルヒドロキシアミン、p−メトキシフェノール、ヒドロキノン、フェノチアジン、2,6−ジ−t−ブチルパラ−クレゾール、3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシアニソール、2,5−ジ−t−ブチルヒドロキシアニソール、4−ヒドロキシ2,2,6,6−テトラメチルピペリジニルフリーラジカル、4−メタクリロイルオキシ−2,6,6−テトラメチルピペリジニルフリーラジカル、及び4−ヒドロキシ−2,6,6−テトラメチルN−ヒドロキシピペリジンから選択される1種以上であることを特徴とする1〜3のいずれかに記載の(メタ)アクリル酸エステルの製造方法。
5.前記(A)アルコールに対する前記(C)重合禁止剤の配合量が、モル比で0.04〜0.06であることを特徴とする1〜4のいずれかに記載の(メタ)アクリル酸エステルの製造方法。
6.前記(D)エステル交換反応触媒が塩基性触媒であり、前記塩基性触媒は、前記(B)(メタ)アクリル酸アルキル又は前記(メタ)アクリル酸エステルと直接反応しないものであることを特徴とする1〜5のいずれかに記載の(メタ)アクリル酸エステルの製造方法。
7.前記塩基性触媒が、アルカリ金属水酸化物又はアルカリ金属アルコキシドであることを特徴とする6に記載の(メタ)アクリル酸エステルの製造方法。
8.前記塩基性触媒が、水酸化リチウム、リチウムメトキシド、リチウムエトキシド、リチウムイソプロポキシド、水酸化ナトリウム、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、ナトリウムプロポキシド、水酸化カリウム、カリウムメトキシド、カリウムエトキシド、カリウムプロポキシド、カリウム−t−ブトキシド、水酸化セシウム、セシウムメトキシド、セシウムエトキシド及びセシウムプロポキシドから選択される1種以上であることを特徴とする6に記載の(メタ)アクリル酸エステルの製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、触媒の追加投入量を削減できる(メタ)アクリル酸エステルの製造方法が提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明では、(A)アルコール、(B)(メタ)アクリル酸アルキル及び(C)重合禁止剤の混合物に、(D)エステル交換触媒を添加し、加熱することによって反応を開始し、(メタ)アクリル酸エステルを製造する。この(メタ)アクリル酸エステルは、(B)(メタ)アクリル酸アルキルのアルキルが(A)アルコールに含まれる基と交換されたものである。
本発明では、(D)エステル交換触媒は、分けて投与してもよいが、一度に一回だけ添加するだけでもよい。また、成分(A)と成分(B)の混合物の水分含量は、1200ppm以下であり、成分(C)の配合量は、成分(A)に対して5〜10重量%である。
【0010】
(A)アルコールとしては、例えば、脂肪族直鎖又は分岐鎖モノアルコール、脂環式アルコール、芳香族アルコール、官能性アルコール、不飽和アルコール、非脂肪族ポリオール、エチレン尿素のエチレンオキシド付加物のアルコール等が挙げられ、これらの1種又は2種以上の混合物を用いることができる。
好ましくは、アルキルアミノアルカノールである。アルキルアミノアルカノールにはモノアルキルアミノアルカノール、ジアルキルアミノアルカノールが含まれ、好ましくは炭素数1〜6のアルキルで置換された炭素数1〜6のアミノアルカノールである。具体的には、ジメチルアミノプロパノール等が挙げられる。
【0011】
(B)(メタ)アクリル酸アルキルは、好ましくは式(I)で表わされる。
【化1】

式中、RはH又はCHであり、R’は炭素数1〜8(好ましくは炭素数1〜4)の直鎖又は分岐鎖アルキルである。具体的には、メチルメタクリレート等が挙げられる。
【0012】
成分(B)の配合量は、成分(A)に対して、好ましくはモル比で2〜4であり、より好ましくは2〜3である。
【0013】
(C)重合禁止剤としては、ジエチルヒドロキシアミン、p−メトキシフェノール、ヒドロキノン、フェノチアジン、2,6−ジ−t−ブチルパラ−クレゾール、3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシアニソール、2,5−ジ−t−ブチルヒドロキシアニソール、4−ヒドロキシ2,2,6,6−テトラメチルピペリジニルフリーラジカル(4−ヒドロキシ−TEMPO)、4−メタクリロイルオキシ−2,6,6−テトラメチルピペリジニルフリーラジカル、及び4−ヒドロキシ−2,6,6−テトラメチルN−ヒドロキシピペリジン等が挙げられ、これらの1種又は2種以上の混合物を用いることができる。
【0014】
混合物に添加される(C)重合禁止剤の配合量は、(B)(メタ)アクリル酸アルキル又は生成する(メタ)アクリル酸エステルの重合防止の観点から、成分(A)と成分(B)の混合物に対して0.001〜2.5重量%であることが好ましく、1.3〜2.4重量%であることがより好ましい。さらに、成分(A)に対して5〜10重量%であることが好ましく、成分(A)に対するモル比で好ましくは、0.04〜0.06である。
【0015】
(D)エステル交換触媒は、好ましくは成分(B)又は目的物質である(メタ)アクリル酸エステルと反応しない塩基性触媒であり、例えばアルカリ金属水酸化物又はアルカリ金属アルコキシドである。
成分(D)としては、水酸化リチウム、リチウムメトキシド、リチウムエトキシド、リチウムイソプロポキシド、水酸化ナトリウム、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、ナトリウムプロポキシド、水酸化カリウム、カリウムメトキシド、カリウムエトキシド、カリウムプロポキシド、カリウム−t−ブトキシド、水酸化セシウム、セシウムメトキシド、セシウムエトキシド、セシウムプロポキシド等が挙げられ、これらの1種又は2種以上の混合物を用いることができる。
【0016】
エステル交換触媒(D)の配合量は、副反応抑制の観点から、成分(A)と成分(B)の混合物に対して0.2〜2重量%が好ましく、0.5〜1.5重量%がより好ましい。
【0017】
成分(A)と成分(B)の混合物中の水分含量は、触媒活性の観点から成分(A)と成分(B)の混合物に対して1200ppm以下であることが必要であり、1000ppm以下であることが好ましく、500ppm以下であることがより好ましい。
【0018】
本発明の方法では、まず成分(A)〜(D)の反応混合物を作製する。このとき、混合順序は任意であり、好ましくは(A)、(B)を仕込んだ後に(C)、(D)の順で混合する。
成分(D)は最初の混合の際に全て添加し、反応開始後に追加して添加する必要はない。
【0019】
(A)と成分(B)の混合物の水分量を1200ppm以下にするため、必要に応じ水を除去する。成分(A)と成分(B)を混合した後、水を除去してもよいし、混合する前に、成分(A)及び/又は成分(B)の水を除去してもよい。使用する(D)エステル交換触媒が水の存在下で不活化されやすい場合、例えば、カリウム−t−ブトキシド触媒の場合、反応混合物に(D)触媒を添加する前に水を除去することが好ましい。
【0020】
反応混合物から水を除去する方法は、例えば、吸着、蒸留、膜分離等が挙げられるが、工程簡略化の観点から、成分(A)、(B)の混合物中にモレキュラーシーブを投入し、水分吸着することが好ましい。
【0021】
次に反応混合物を加熱する。例えば(D)エステル交換触媒の添加後、約10分以内に加熱を開始する。
反応温度(即ち、エステル交換反応の間の反応混合物の温度)は、約60℃〜140℃が好ましく、さらに70℃〜125℃が好ましい。反応圧は、760mmHg(大気圧)から減圧又は加圧してよく、例えば、400mmHg〜900mmHgとする。加熱時間は他の反応条件により変わり適宜設定できるが通常2〜10時間程度である。
【0022】
反応中に(A)アルコールから生成する副生成物を(メタ)アクリル酸アルキルと共沸混合物として共沸蒸留することが好ましい。
【0023】
本発明の方法では、反応系外からの水分混入防止の観点から、一般的に用いられている酸素含有ガスのバブリングは行わないことが好ましい。このようにすることで触媒の失活を抑制できる。
【実施例】
【0024】
実施例1
295.0グラム(2.86モル)のジメチルアミノプロパノール(DMAPAL)(成分(A))、608.4グラム(6.08モル)のメチルメタクリレート(MMA)(成分(B))、21.4グラム(0.17モル)のp−メトキシフェノール(成分(C))、及び5.0グラム(0.044モル)のカリウム−t−ブトキシド(成分(D))を、温度計/温度調節器、マグネティックスターラー、温度計/蒸留ヘッド、及び留出物受器5段スニーダー(カラム)を備えた1リットルの四つ口フラスコに投入した。DMAPALとMMAの混合物の水分含量をカール・フィシャ法により測定した結果、734ppmであった。
【0025】
触媒(成分(D))添加の5分以内に、熱を加え、温度を1.8℃/分の割合で上昇させた。反応の間、混合物を撹拌し、反応共沸混合物のMMA−メタノールを除去しながら大気圧で連続して還流加熱した。反応開始から5時間後、反応が完了したとみなした。この時点で目的生成物ジメチルアミノプロピルメタクリレートの収率は70%であった。バッチの反応の間、カラム頂部の温度は45〜99℃であり、ポットの温度は60〜120℃であった。
【0026】
実施例2
実施例1において、メチルメタクリレートを759.7グラム(7.60モル)とし、さらにモレキュラーシーブを用いて脱水を行った他は実施例1と同様に反応を行った。DMAPALとMMAの混合物の水分含量を315ppmまで低減した。反応完了時点で目的生成物の収率は97%であった。バッチの反応の間、カラム頂部の温度は45〜99℃であり、ポットの温度は60〜120℃であった。
【0027】
比較例1
実施例1において、さらに0.3g(0.017モル)の純水を四つ口フラスコに投入した他は実施例1と同様に反応を行った。DMAPALとMMAの混合物の水分含量は3000ppm以上であった。反応完了時点で目的生成物の収率は40%であった。バッチの反応の間、カラム頂部の温度は45〜99℃であり、ポットの温度は常温〜120℃であった。
【0028】
実施例1,2、比較例1から、(A)成分と(B)成分の混合物の水分含量が少ないと触媒の添加が1回だけで追加投入なしでも高い収率が得られることが分かる。
【0029】
前述の本発明の具体例は単なる例示であり、当業者は本発明の精神及び範囲を逸脱することなく変更及び修正を加えることができる。このような変更及び修正は全て本発明の範囲内に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明の方法で得られる(メタ)アクリル酸エステルは各種工業原料として用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)アルコール、(B)(メタ)アクリル酸アルキル、(C)重合禁止剤及び(D)エステル交換触媒の混合物を、加熱することによってエステル交換反応を開始し、前記(B)(メタ)アクリル酸アルキルのアルキルが前記(A)アルコールに含まれる基と交換された(メタ)アクリル酸エステルを製造する方法であって、
前記(A)アルコールと(B)(メタ)アクリル酸アルキルの混合物の水分含量が1200ppm以下で、かつ、
前記(C)重合禁止剤の配合量が前記(A)アルコールに対して5〜10重量%であることを特徴とする(メタ)アクリル酸エステルの製造方法。
【請求項2】
前記反応中に、前記(A)アルコールの副生成物を共沸蒸留することを特徴とする請求項1に記載の(メタ)アクリル酸エステルの製造方法。
【請求項3】
前記(B)(メタ)アクリル酸アルキルの配合量が、前記(A)アルコールに対してモル比で2〜4であることを特徴とする請求項1又は2に記載の(メタ)アクリル酸エステルの製造方法。
【請求項4】
前記(C)重合禁止剤が、ジエチルヒドロキシアミン、p−メトキシフェノール、ヒドロキノン、フェノチアジン、2,6−ジ−t−ブチルパラ−クレゾール、3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシアニソール、2,5−ジ−t−ブチルヒドロキシアニソール、4−ヒドロキシ2,2,6,6−テトラメチルピペリジニルフリーラジカル、4−メタクリロイルオキシ−2,6,6−テトラメチルピペリジニルフリーラジカル、及び4−ヒドロキシ−2,6,6−テトラメチルN−ヒドロキシピペリジンから選択される1種以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の(メタ)アクリル酸エステルの製造方法。
【請求項5】
前記(A)アルコールに対する前記(C)重合禁止剤の配合量が、モル比で0.04〜0.06であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の(メタ)アクリル酸エステルの製造方法。
【請求項6】
前記(D)エステル交換反応触媒が塩基性触媒であり、前記塩基性触媒は、前記(B)(メタ)アクリル酸アルキル又は前記(メタ)アクリル酸エステルと直接反応しないものであることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の(メタ)アクリル酸エステルの製造方法。
【請求項7】
前記塩基性触媒が、アルカリ金属水酸化物又はアルカリ金属アルコキシドであることを特徴とする請求項6に記載の(メタ)アクリル酸エステルの製造方法。
【請求項8】
前記塩基性触媒が、水酸化リチウム、リチウムメトキシド、リチウムエトキシド、リチウムイソプロポキシド、水酸化ナトリウム、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、ナトリウムプロポキシド、水酸化カリウム、カリウムメトキシド、カリウムエトキシド、カリウムプロポキシド、カリウム−t−ブトキシド、水酸化セシウム、セシウムメトキシド、セシウムエトキシド及びセシウムプロポキシドから選択される1種以上であることを特徴とする請求項6に記載の(メタ)アクリル酸エステルの製造方法。

【公開番号】特開2011−207772(P2011−207772A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−74243(P2010−74243)
【出願日】平成22年3月29日(2010.3.29)
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)
【Fターム(参考)】