説明

(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子の製造方法

【課題】残存単量体量および臭いを低減でき、かつ、生産性の向上および製造コストを図ることができる(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子の製造方法を提供する。
【解決手段】水性媒体中での(メタ)アクリル酸エステル系の単量体の重合によって得られた、未反応の単量体を含む(メタ)アクリル酸エステル系の樹脂粒子と水性媒体とを含む粗生成物を、pHが12以上のアルカリ性水性媒体中で、樹脂粒子のガラス転移温度よりも20℃高い温度以下の温度にてアルカリ処理し、アルカリ処理後の粗生成物を濾過器内に保持し、濾過器によって粗生成物から水性媒体を除去することにより樹脂粒子を得た後、得られた樹脂粒子を濾過器内に保持したままで、加熱した水性媒体によって樹脂粒子を洗浄すると共に、洗浄後の水性媒体を濾過器によって除去する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性媒体中での(メタ)アクリル酸エステル系単量体の重合によって得られた、未反応の(メタ)アクリル酸エステル系単量体を含む(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子と水性媒体とを含む粗生成物から、(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子を製造する方法に関するものである。より詳細には、本発明は、前記粗生成物から、(メタ)アクリル酸エステル系単量体およびこの分解物である(メタ)アクリル酸の残存量が少なく、臭気の少ない(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子を製造するための製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
(メタ)アクリル酸エステル系の樹脂粒子は、化粧品(ファンデーション等)の添加剤、光学材料の添加剤(光分散剤等)等として使用されている。
【0003】
(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子は、(メタ)アクリル酸エステル系単量体を懸濁重合、乳化重合、分散重合法等の公知の重合方法による重合によって得ることができる。重合によって生成する(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子中には、通常、0.1重量%以上1重量%以下程度の未反応の(メタ)アクリル酸エステル系単量体が残存している。この程度の量の未反応の(メタ)アクリル酸エステル系単量体が(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子に残存していると、(メタ)アクリル酸エステル系単量体が人間の肌に悪影響を及ぼしたり、(メタ)アクリル酸エステル系単量体およびその加水分解物((メタ)アクリル酸)が臭いを発したりする。そのため、特に(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子を化粧品等の用途に用いる場合には、(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子に残存する未反応の(メタ)アクリル酸エステル系単量体の量を非常に低いレベル、例えば検出下限界未満まで低減すると共に、(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子に残存する臭いを極力抑えることが求められる。
【0004】
この(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子に残存する(メタ)アクリル酸エステル系単量体の量を減少させる方法として、従来、(メタ)アクリル酸エステル系樹脂を水性スラリーの水蒸気蒸留に付す方法が用いられている。
【0005】
また、特許文献1には、(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子に残存する(メタ)アクリル酸エステル系単量体の量を減少させる方法として、(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子を水性媒体中で水溶性重合開始剤で処理する方法が開示されている。
【0006】
また、特許文献2には、(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子に残存する(メタ)アクリル酸エステル系単量体の量を減少させる方法として、(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子を50℃以上で且つ上記(メタ)アクリル酸エステル系樹脂の熱分解開始温度未満の条件下にてアルカリ性水性媒体で処理した後、上記(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子を50〜120℃の水性媒体で洗浄する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平11−217408号公報
【特許文献2】特開2010−222406号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、水蒸気蒸留を用いる方法や特許文献1の方法には、(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子に残存する(メタ)アクリル酸エステル系単量体の量が数百PPM程度までしか低減できないという問題、この問題のために(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子が着色するという問題、生産工程に長い時間を要するという問題等があった。
【0009】
また、特許文献2の製造方法では、アルカリ性水性媒体で処理した後の懸濁液を濾過してポリメタクリル酸メチル粒子を分離した後、分離されたポリメタクリル酸メチル粒子を水性媒体と共に攪拌機および温度計を備えた反応器に供給して、50〜120℃の温度で1〜8時間にわたって攪拌して懸濁させることで洗浄した後、懸濁液からポリメタクリル酸メチル粒子を濾過し分離している(段落[0026],[0027],[0044]〜[0046])。そのため、従来の製造方法は、1回目の濾過を開始してから、2回目の濾過が終了するまでに、ポリメタクリル酸メチル粒子を濾過器から反応器に移動させる操作、懸濁液を反応器から濾過器に移動させる操作等が必要である。したがって、従来の製造方法は、脱水および洗浄に長い時間および煩雑な操作が必要であり、生産性が悪く、製造コストも高い。
【0010】
本発明は、上記従来の課題に鑑みなされたものであり、その目的は、(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子に残存する未反応の(メタ)アクリル酸エステル系単量体の量を非常に低いレベル、例えば検出下限界未満まで低減でき、(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子の臭いを低減でき、生産性を向上でき、かつ、製造コストを削減できる(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子の製造方法は、上記課題を解決するために、水性媒体中での(メタ)アクリル酸エステル系単量体の重合によって得られた、未反応の(メタ)アクリル酸エステル系単量体を含む(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子と水性媒体とを含む粗生成物から、(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子を製造する方法であって、前記粗生成物を、pHが12以上のアルカリ性水性媒体中で、(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子のガラス転移温度よりも20℃高い温度以下の温度にてアルカリ処理するアルカリ処理工程と、アルカリ処理後の前記粗生成物を濾過器内に保持し、濾過器によって前記粗生成物から水性媒体を除去することにより(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子を得る媒体除去工程と、得られた(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子を前記濾過器内に保持したままで、加熱した水性媒体によって前記(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子を洗浄すると共に、洗浄後の水性媒体を濾過器によって除去する洗浄工程とを含むことを特徴としている。
【0012】
上記方法によれば、前記粗生成物を、pHが12以上のアルカリ性水性媒体中で、(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子のガラス転移温度よりも20℃高い温度以下の温度にてアルカリ処理するので、(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子に残存する未反応の(メタ)アクリル酸エステル系単量体が、アルカリ加水分解されて(メタ)アクリル酸およびアルコールとなり、水性媒体中に溶出する。この結果、(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子に残存する未反応の(メタ)アクリル酸エステル系単量体の量を低減できると共に、(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子の臭いを低減できる。また、上記方法によれば、(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子のガラス転移温度よりも20℃高い温度以下の温度にてアルカリ処理するので、(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子が凝集して融着することを防止でき、また、(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子の分解によって(メタ)アクリル酸エステル系単量体が生成することを防止できる。
【0013】
また、上記方法によれば、アルカリ処理の後に、加熱した水性媒体によって前記(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子を洗浄するので、アルカリ処理後の(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子中に(メタ)アクリル酸エステル系単量体の加水分解物((メタ)アクリル酸およびアルコール)が残存していても、これらが加熱した水性媒体中に溶出する。この結果、(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子に含まれる臭いの強い不純物である(メタ)アクリル酸の量を低減でき、(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子の臭いをさらに低減できる。
【0014】
また、上記方法によれば、加熱した水性媒体によって前記(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子を洗浄することによって、(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子に残存する未反応の(メタ)アクリル酸エステル系単量体の一部は、加熱した水性媒体中へ出て行く。この結果、(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子に残存する未反応の(メタ)アクリル酸エステル系単量体の量がさらに低減される。これにより、(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子に残存する未反応の(メタ)アクリル酸エステル系単量体の量を非常に低いレベル、例えば検出下限界未満まで低減できる。
【0015】
また、上記方法によれば、アルカリ処理後の粗生成物を濾過器内に保持した状態で、濾過器によって粗生成物から水性媒体を除去する処理と、加熱した水性媒体によって(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子を洗浄する処理と、洗浄後の水性媒体を濾過器によって除去する処理とを行うので、(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子を移動させる操作等が不要であり、脱水および洗浄を短い時間で簡便な操作で行うことができる。したがって、上記方法は、生産性を向上でき、また、製造コストを削減できる。
【0016】
なお、本明細書において、「(メタ)アクリル」とは、アクリルまたはメタクリルを意味するものとする。
【発明の効果】
【0017】
以上のように、本発明の(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子の製造方法によれば、(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子に残存する未反応の(メタ)アクリル酸エステル系単量体の量を非常に低いレベル、例えば検出下限界未満まで低減でき、(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子の臭いを低減でき、生産性を向上でき、かつ、製造コストを削減できる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明について、詳細に説明する。
【0019】
本発明の(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子の製造方法は、水性媒体中での(メタ)アクリル酸エステル系単量体の重合によって得られた、未反応の(メタ)アクリル酸エステル系単量体を含む(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子と水性媒体とを含む粗生成物から、(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子を製造する方法であって、前記粗生成物を、pHが12以上のアルカリ性水性媒体中で、(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子のガラス転移温度よりも20℃高い温度以下の温度にてアルカリ処理するアルカリ処理工程と、アルカリ処理後の前記粗生成物を濾過器内に保持し、濾過器によって前記粗生成物から水性媒体を除去することにより(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子を得る媒体除去工程と、得られた(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子を前記濾過器内に保持したままで、加熱した水性媒体によって前記(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子を洗浄すると共に、洗浄後の水性媒体を濾過器によって除去する洗浄工程とを含んでいる。
【0020】
本発明の製造方法に用いる、未反応の(メタ)アクリル酸エステル系単量体を含む(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子と水性媒体とを含む粗生成物は、水性媒体中で(メタ)アクリル酸エステル系単量体を含む単量体組成物を重合することによって得られる。
【0021】
(メタ)アクリル酸エステル系単量体の重合には、汎用の重合方法を用いることができる。(メタ)アクリル酸エステル系単量体の重合の方法としては、特に限定されず、例えば、(メタ)アクリル酸エステル系単量体および重合開始剤を含む単量体組成物を水性媒体中に分散させて攪拌しながら懸濁重合させる懸濁重合法が挙げられる。(メタ)アクリル酸エステル系単量体の重合の方法としては、懸濁重合法の他に、(メタ)アクリル酸エステル系単量体および重合開始剤を含む単量体組成物を水性媒体中に乳化させて攪拌しながら重合させる乳化重合法;重合体粒子を種粒子として用い、(メタ)アクリル酸エステル系単量体および重合開始剤を含む単量体組成物を種粒子に吸収させて重合を行うシード重合法等の重合方法を用いることもできる。
【0022】
(メタ)アクリル酸エステル系単量体の重合に用いる水性媒体(粗生成物に含まれる水性媒体)としては、例えば、水;メチルアルコール、エチルアルコール等の低級アルコール(炭素数5以下のアルコール);水と低級アルコールとの混合物等が挙げられるが、水が好ましい。
【0023】
前記(メタ)アクリル酸エステル系単量体としては、特に限定されず、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル等のアクリル酸エステル;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチル等のメタクリル酸エステル等が挙げられる。(メタ)アクリル酸エステル系単量体は、単独で用いられても、二種以上が併用されもよい。
【0024】
また、前記単量体組成物は、(メタ)アクリル酸エステル系単量体以外に、(メタ)アクリル酸エステル系単量体と共重合可能な他の単量体を含んでいてもよい。このような他の単量体としては、1個のアルキレン基(広義のビニル基)を有する単量体、例えば、スチレン、p−メチルスチレン、α−メチルスチレン、酢酸ビニル、アクリロニトリル等が挙げられる。他の単量体は、単独で用いられても、二種以上が併用されもよい。
【0025】
さらに、前記単量体組成物は、(メタ)アクリル酸エステル系単量体以外に、アルキレン基(広義のビニル基)を複数個有する架橋性単量体を含んでいてもよい。このような架橋性単量体としては、例えば、トリアクリル酸トリメチロールプロパン、ジメタクリル酸エチレングリコール、ジメタクリル酸ジエチレングリコール、ジメタクリル酸トリエチレングリコール、ジメタクリル酸デカエチレングリコール、ジメタクリル酸ペンタデカエチレングリコール、ジメタクリル酸ペンタコンタヘクタエチレングリコール、ジメタクリル酸1,3−ブチレングリコール、メタクリル酸アリル、トリメタクリル酸トリメチロールプロパン、テトラメタクリル酸ペンタエリストール、ジメタクリル酸フタル酸ジエチレングリコール等の(メタ)アクリル酸系単量体;ジビニルベンゼン、ジビニルナフタレンおよびこれらの誘導体である芳香族ジビニル化合物等が挙げられる。架橋性単量体は、単独で用いられても、二種以上が併用されもよい。前記単量体組成物が、架橋性単量体を含む場合、(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子として、架橋(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子が得られる。
【0026】
前記重合開始剤としては、例えば、過酸化ベンゾイル、過酸化ラウロイル、過酸化オクタノイル、オルソクロロ過酸化ベンゾイル、メチルエチルケトンパーオキサイド、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、クメンハイドロパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド等の過酸化物系重合開始剤;2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)等のアゾ系重合開始剤等が挙げられる。
【0027】
(メタ)アクリル酸エステル系単量体の重合は、分散安定剤を含む水性媒体の存在下で行うことが好ましい。これにより、(メタ)アクリル酸エステル系単量体の分散安定性を向上させ、粒子径の小さい(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子を容易に得ることができる。分散安定剤としては、例えば、酸可溶性の難水溶性無機化合物、界面活性剤、水溶性高分子等を用いることができる。
【0028】
前記の酸可溶性の難水溶性無機化合物としては、ピロリン酸マグネシウム、ピロリン酸カルシウム、リン酸カルシウム、リン酸マグネシウム、第三リン酸カルシウム、第三リン酸マグネシウム等が挙げられる。
【0029】
前記界面活性剤としては、オレイン酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、アルキルナフタレンスルホン酸塩、アルキルリン酸エステル塩等のアニオン性界面活性剤;ラウリルアミンアセテート、ステアリルアミンアセテート等のアルキルアミン塩、ラウリルトリメチルアンモニウムクロライドのような第四級アンモニウム塩等のカチオン界面活性剤;ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、グリセリン脂肪酸エステル等のノニオン界面活性剤;ラウリルジメチルアミンオキサイド等の両性界面活性剤等が挙げられる。前記水溶性高分子としては、ポリビニルアルコール、メチルセルロース、ポリビニルピロリドン等が挙げられる。分散安定剤は、単独で用いられても二種以上が併用されもよい。
【0030】
(メタ)アクリル酸エステル系単量体の重合は、酸可溶性の難水溶性無機化合物からなる分散安定剤を含む水性媒体の存在下で行うことがより好ましく、酸可溶性の難水溶性無機化合物からなる分散安定剤と界面活性剤からなる分散安定剤とを含む水性媒体の存在下で行うことがさらに好ましい。分散安定剤として酸可溶性の難水溶性無機化合物を用いることにより、(メタ)アクリル酸エステル系単量体の分散安定性をさらに向上させ、粒子径の小さい(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子をさらに容易に得ることができる。
【0031】
本発明の製造方法で用いる粗生成物中に含まれる(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子は、未反応の(メタ)アクリル酸エステル系単量体の含有量が5重量%以下であることが好ましい。これにより、(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子に残存する未反応の(メタ)アクリル酸エステル系単量体の量を容易に非常に低いレベル、例えば検出下限界未満まで低減できる。
【0032】
本発明の製造方法では、まず、アルカリ処理工程において、前記の重合によって得られた粗生成物を、pHが12以上、好ましくは12〜14のアルカリ性水性媒体中で、(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子のガラス転移温度よりも20℃高い温度以下の温度にてアルカリ処理する。これにより、(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子に残存している(メタ)アクリル酸エステル系単量体の量を低減することができる。アルカリ性水性媒体のpHが12未満である場合は、(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子に残存している(メタ)アクリル酸エステル系単量体の加水分解が十分に進行せず、(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子に残存している(メタ)アクリル酸エステル系単量体の量を十分に低減できないので、好ましくない。また、アルカリ処理の温度が(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子のガラス転移温度よりも20℃高い温度を超える場合は、(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子が凝集して融着すること、および、(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子が分解することによって、かえって(メタ)アクリル酸エステル系単量体の量が増加することから、好ましくない。
【0033】
(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子をアルカリ性水性媒体で処理する要領としては、(1)上述の重合方法で得られた分散液の状態の粗生成物に水溶性アルカリ化合物を加えてアルカリ性水性媒体とし、このアルカリ性水性媒体中で(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子をアルカリ処理する方法、(2)上述の重合方法で得られた粗生成物から水性媒体を除去した後、水性媒体が除去された粗生成物を水性媒体中に分散させると共に水性媒体中に水溶性アルカリ化合物を加えてアルカリ性水性媒体とし、このアルカリ性水性媒体中で粗生成物をアルカリ処理する方法等が挙げられるが、生産性の点で(1)の方法が好ましい。(2)の方法に用いる水性媒体としては、例えば、水;メチルアルコール、エチルアルコール等の低級アルコール(炭素数5以下のアルコール);水と低級アルコールとの混合物等が挙げられるが、水が好ましい。
【0034】
前記水溶性アルカリ化合物としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム等のアルカリ金属水酸化物;水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウム等のアルカリ土類金属水酸化物;ピロリン酸ナトリウム、リン酸1水素ナトリウム等のアルカリ性化合物;ナトリウムメトキシド、ナトリウムブチルメトキシド等のアルカリ金属アルコキシド等が挙げられるが、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムが好ましい。
【0035】
(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子をアルカリ性水性媒体で処理する際の水性媒体の温度は、(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子に残存している(メタ)アクリル酸エステル系単量体の量をより一層低減することができることから、50℃以上であることが好ましい。
【0036】
アルカリ処理の時間は、1.0〜5時間の範囲内であることが好ましい。アルカリ処理の時間が1.0時間以上の場合、(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子に残存している(メタ)アクリル酸エステル系単量体の量をより一層低減することができる。アルカリ処理の時間が5時間以下の場合、生産効率を向上できる。
【0037】
前記粗生成物は、酸可溶性の難水溶性無機化合物からなる分散安定剤を含む水性媒体中での(メタ)アクリル酸エステル系単量体の重合によって得られたものである場合、前記難水溶性無機化合物をさらに含んでいる。
【0038】
そのため、本発明の製造方法では、溶解工程において、前記難水溶性無機化合物を含む粗生成物に対して、前記水性媒体のpHが4以下となるように、塩酸、硝酸、および硫酸からなる群より選ばれる少なくとも1種の無機酸を添加して、前記難水溶性無機化合物を溶解させることが好ましく、溶解工程はアルカリ処理工程の後であることがより好ましい。これにより、(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子中に難水溶性無機化合物が残存することによる悪影響を防止できる。
【0039】
本発明の製造方法では、次に、媒体除去工程において、アルカリ処理後(アルカリ処理の後に難水溶性無機化合物の溶解を行う場合には、難水溶性無機化合物の溶解後)の前記粗生成物を濾過器内に保持し、濾過器によって前記粗生成物から水性媒体を除去することにより(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子を得る。媒体除去工程の詳細については、洗浄工程の詳細とともに後段で説明する。
【0040】
本発明の製造方法では、次に、洗浄工程において、媒体除去工程で得られた(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子を前記濾過器内に保持したままで、加熱した水性媒体によって前記(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子を洗浄すると共に、洗浄後の水性媒体を濾過器によって除去する。これにより、アルカリ処理後の(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子に含有されている(メタ)アクリル酸を水性媒体中に溶出させることによって(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子に含まれている(メタ)アクリル酸を除去し、臭いを低減することができる。
【0041】
洗浄に用いる水性媒体としては、例えば、水;メチルアルコール、エチルアルコール等の低級アルコール(炭素数5以下のアルコール);水と低級アルコールとの混合物等が挙げられるが、水が好ましい。
【0042】
洗浄に用いる水性媒体の重量は、洗浄前の(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子の重量の2〜5倍の範囲内であることが好ましい。洗浄に用いる水性媒体の量が洗浄前の(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子の重量の2倍未満である場合、(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子に含まれている(メタ)アクリル酸の除去が不十分となり、(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子に臭いが残ることがある。洗浄に用いる水性媒体の量が洗浄前の(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子の重量の5倍を超える場合、(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子の処理効率が低下することがある。
【0043】
洗浄に用いる水性媒体の温度は、50℃以上であることが好ましい。洗浄に用いる水性媒体の温度が50℃未満である場合、(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子に含まれている(メタ)アクリル酸の除去が不十分となり、(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子に臭いが残ることがある。洗浄に用いる水性媒体の温度は、50℃以上であることが好ましい。
【0044】
洗浄に用いる水性媒体の温度は、(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子のガラス転移温度よりも20℃低い温度以下であることが好ましく、50℃以上であり、かつ、(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子のガラス転移温度よりも20℃低い温度以下であることがより好ましい。洗浄に用いる水性媒体の温度が(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子のガラス転移温度よりも20℃低い温度より高い場合、(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子および(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子表面の重合残渣(単量体組成物などの不純物)が融着して、ポリメタクリル酸メチル粒子中に含まれる(メタ)アクリル酸の除去が不充分となることがある。
【0045】
洗浄に用いる水性媒体のpHは、5〜9の範囲内であることが好ましく、6〜8の範囲内であることがより好ましい。水性媒体のpHが5より低い場合、(メタ)アクリル酸の溶出、除去の効果が充分に得られないことがある。また、洗浄に用いる水性媒体のpHが5より低い場合、(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子への酸の残存が懸念される。洗浄に用いる水性媒体のpHが9より高い場合、(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子へのアルカリの残存が懸念される。
【0046】
本発明の製造方法において、前記の難水溶性無機化合物を溶解させる溶解工程を含む場合、前記溶解工程において前記水性媒体のpHが4以下となってから前記媒体除去工程が終了するまでの時間が、20時間以下であることが好ましい。前記溶解工程において前記水性媒体のpHが4以下となってから前記媒体除去工程が終了するまでの時間が、20時間を超えると、20時間未満の場合と比較して(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子に臭いが強くなることがある。この原因は、定かではないが、(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子がアルカリ処理後の水性媒体に曝されている状態で長い時間が経過することによって、アルカリ処理後の水性媒体中に溶出した(メタ)アクリル酸が(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子に吸着されるためであるものと推測される。
【0047】
前記媒体除去工程および前記洗浄工程は、濾過器の濾材上にアルカリ処理後の粗生成物または(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子(水性媒体が除去された粗生成物)を保持した状態で、濾材の両面間に圧力差を与えることによって、水性媒体が濾材を通過して濾液として除去される濾過法を用いて行うことが好ましい。これにより、粗生成物または(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子から水性媒体を効率良く除去することができる。このような濾過法としては、遠心濾過法、加圧濾過法、吸引濾過法(減圧濾過法)、および、加圧濾過法と吸引濾過法とを併用した方法がある。また、これら濾過法のうち、濾過速度を高めて水性媒体をより効率良く除去することができ、また、大スケールの処理に適していることから、遠心濾過法および加圧濾過法が好ましい。さらに、これら濾過法のうち、濾過速度を最も高くすることができ、それゆえ水性媒体を最も効率良く除去することができることから、遠心濾過法が最も好ましい。
【0048】
次に、各濾過法を用いた媒体除去工程および洗浄工程について、詳細に説明する。
【0049】
まず、遠心濾過法を用いた媒体除去工程および洗浄工程について説明する。この媒体除去工程および洗浄工程に用いる濾過器としては、遠心分離型濾過装置を用いることができる。遠心分離型濾過装置は、一方の端が閉じられた円筒形状の回転体と、この回転体を回転させるモータと、前記回転体を取り囲むように配設された壁とを備え、前記回転体は、壁の内面に近接して配設されている。前記回転体は、少なくとも下端部、好ましくは大部分が、濾材となっている。前記回転体は、例えば、一方の端が閉じられた円筒形状のバスケットに濾布が貼り付けられた構造となっている。
【0050】
遠心濾過法を用いた媒体除去工程では、回転体における濾材部分の内面(例えば濾布面)上に、アルカリ処理後の粗生成物を供給して、濾材部分の内面上に保持する。粗生成物は、例えば樹脂スラリーの状態で供給することができる。粗生成物の供給は、回転体を停止させた状態で行ってもよいが、処理効率を高めるために、モータによって回転体を回転させた状態で行うことが好ましい。回転体内に粗生成物が供給されると、モータによって回転体を回転させることによって回転体上の粗生成物に遠心力を付与する。遠心力は、遠心効果が500〜1500Gの範囲内となるように付与することが好ましい。回転体の回転を所定時間にわたって持続させることによって所定時間にわたって遠心効果を持続させる。これにより、粗生成物が回転体の濾材部分で濾過されて、粗生成物中の水性媒体が回転体の濾材部分を通過して粗生成物から濾液(廃液)として除去され、(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子(水性媒体が除去された粗生成物)のケーキ層が形成される。
【0051】
遠心濾過法を用いた洗浄工程では、前記ケーキ層を回転体の濾材部分の内面上に保持したままで、加熱した水性媒体を前記ケーキ層にかけることによってケーキ層を水性媒体で洗浄すると共に、モータによって回転体を回転させることによって回転体上のケーキ層に遠心力を付与する。これにより、水性媒体は、ケーキ層を通過することによって前記ケーキ層を洗浄した後、回転体の濾材部分を通過して濾液(廃液)として除去される。遠心力は、遠心効果が500〜1500Gの範囲内となるように付与することが好ましい。加熱した水性媒体をケーキ層にかける処理は、処理効率を高めるために、回転体を回転させた状態で行うことが好ましく、媒体除去工程から洗浄工程に移行する時に回転体を停止させることなく回転体の回転を継続した状態で行うことがより好ましい。加熱した水性媒体をケーキ層にかける処理は、回転体がその回転軸の方向が鉛直方向となるように配置されている場合には、加熱した水性媒体がケーキ層の上下面にムラ無くかけられるように行うことが好ましい。洗浄は、回転体の外側に排出された濾液(廃液)の導電率が、洗浄に用いた水性媒体(回転体の内側に供給される前の水性媒体)の導電率と同等になるまで実施することが好ましい。
【0052】
次に、加圧濾過法を用いた媒体除去工程および洗浄工程について説明する。加圧濾過法を用いた媒体除去工程および洗浄工程では、耐圧容器と、この耐圧容器内に配置された濾過板等の濾材と、圧縮気体(窒素等の不活性ガス、空気等)を耐圧容器内に供給する圧縮気体供給機とを備える加圧濾過器を濾過器として用いる。
【0053】
加圧濾過法を用いた媒体除去工程では、アルカリ処理後の粗生成物をスラリー溶液の形態で耐圧容器内の濾材上に充填し、圧縮気体供給機によって耐圧容器内における濾材の上側空間に圧縮気体を供給することによって濾材の上側空間を加圧する。これにより、粗生成物が加圧濾過・脱水され、粗生成物から水性媒体が濾液として除去され、濾材上に(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子のケーキが残る。
【0054】
加圧濾過法を用いた洗浄工程では、前記ケーキを濾材上に保持したままで、洗浄用の水性媒体を耐圧容器内の濾材上に供給することによって前記ケーキを洗浄すると共に、圧縮気体供給機によって耐圧容器内の空間に圧縮気体を供給することにより濾材の上側空間を加圧する。これにより、加圧濾過・脱水が行われ、洗浄後の水性媒体が濾液として除去される。なお、洗浄用の水性媒体を供給した後、加圧を行う前に、攪拌機を用いて耐圧容器内に供給した水性媒体を前記ケーキと混合することでスラリー化してもよい。また、洗浄用の水性媒体を供給する前に、攪拌機を用いて、ケーキのクラックを修復してもよい。これにより、洗浄用の水性媒体のショートパスがなくなり、効率的な洗浄が行える。また、加熱した水性媒体で洗浄を行う方法として、加熱した水性媒体を耐圧容器内に供給する方法を用いてもよく、水性媒体を耐圧容器内に供給した後、耐圧容器の周囲に配設したヒータジャケットによって加熱する方法を用いてもよい。
【0055】
次に、吸引濾過法を用いた媒体除去工程および洗浄工程について説明する。吸引濾過法を用いた媒体除去工程および洗浄工程では、濾紙等の濾材と、濾材の下側空間を減圧するためのアスピレーター(水流ポンプ)等の減圧器とを備える減圧濾過器を濾過器として用いる。吸引濾過法を用いた媒体除去工程では、アルカリ処理後の粗生成物を濾材上に保持し、濾材の下側空間を減圧器によって減圧することによって粗生成物から水性媒体を濾液として除去する。これにより、(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子が得られる。吸引濾過法を用いた洗浄工程では、(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子(水性媒体が除去された粗生成物)を濾材上に保持したままで、加熱した水性媒体を濾材上面に供給することによって前記(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子を洗浄すると共に、濾材の下側空間を減圧器によって減圧することによって洗浄後の水性媒体を濾液として除去する。
【0056】
吸引濾過法を用いた媒体除去工程および洗浄工程の一例について、以下に詳細に説明する。まず、三方コックを介してアスピレーターと濾過鐘とをゴム管でつなぐ。次に、ゴムアダプターを差し込んだブフナー漏斗を濾過鐘にセットし、濾過鐘の中に受器を置く。漏斗上に濾紙を置き、濾紙上に水性媒体を少量垂らして濾紙を潤す。次に、アスピレーターに水を流し、三方コックを開いて、濾過鐘内の空間をアスピレーターによって吸引し、濾紙をブフナー漏斗に密着させる。
【0057】
そして、アスピレーターによる吸引を続けながら、粗生成物を漏斗に注ぎ込み、吸引濾過を行うことにより粗生成物から水性媒体を濾液として除去する。三方コックを回して、濾過鐘内の減圧を解く。
【0058】
次に、加熱した水性媒体を濾紙上に残った残渣((メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子)に加え、残渣が十分に水性媒体で潤った後、濾過鐘内の空間をアスピレーターによって吸引して吸引濾過を行う。これによって、水性媒体が残渣を通過して残渣を洗浄すると共に、残渣を通過した洗浄後の水性媒体が濾液として除去される。必要に応じて、この洗浄操作を繰り返す。洗浄終了後、三方コックを回して、濾過鐘内の減圧を解く。続いて、三方コックを回してアスピレーターを大気圧に開放してから、アスピレーターへの水流を止める。
【0059】
なお、上記の例では、漏斗としてブフナー漏斗を用いていたが、ブフナー漏斗に代えて桐山漏斗等を用いてもよい。また、上記の例では、濾過鐘および受器を用いていたが、濾過鐘および受器に代えて濾過瓶を用いてもよい。
【0060】
なお、前述した遠心濾過法、加圧濾過法、および吸引濾過法に用いる濾材としては、特に限定されず、例えば、天然繊維、合成繊維等からなる、織布、不織布等の濾布;焼結金属からなる金網;焼結金属からなる不織布;天然繊維、ガラス繊維等からなる濾過板(多孔板);合成樹脂からなる網:濾紙;ガラス繊維フィルター等が挙げられる。
【0061】
洗浄工程において得られた(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子は、真空乾燥機で乾燥することによって水性媒体をほぼ完全に除去し、必要に応じて分級することによって、製品として利用可能な(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子とすることができる。
【0062】
このようにして本発明の製造方法によって得られた(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子は、残存する(メタ)アクリル酸エステル系単量体の含有量が、非常に低いレベル、例えば検出下限界未満まで低減されていると共に、アルカリ処理等によって生じる(メタ)アクリル酸の含有量も少なく、残存する(メタ)アクリル酸エステル系単量体や(メタ)アクリル酸に起因した臭いも低減されている。
【0063】
したがって、本発明の製造方法によって得られた(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子は、特に、残存する微量の(メタ)アクリル酸エステル系単量体が問題となり、また、臭いが嫌われる用途、例えば、化粧品等の用途に好適に用いることができる。さらに、本発明の製造方法によって得られた(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子は、(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子の他の一般的な用途においても好適に用いることができる。例えば、本発明の製造方法によって得られた(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子は、光学材料の添加剤として用いる場合、(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子を他の材料と混合する作業を行う際に、(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子に残存する(メタ)アクリル酸エステル系単量体や臭いが作業者に与える悪影響を低減できる。
【実施例】
【0064】
以下、本発明を実施例および比較例によりさらに具体的に説明するが、これらの実施例および比較例は本発明を何ら限定するものではない。なお、実施例および比較例における(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子の平均粒子径の測定方法、および(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子に残存する未反応単量体量の測定方法は、次のとおりである。
【0065】
〔(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子の平均粒子径の測定方法〕
(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子(この項では、以下「樹脂粒子」と略記する)の平均粒子径を電気抵抗法によって測定した。具体的には、アパチャー(細孔)の両側に電極が配設されたアパチャー・チューブを、測定対象となる樹脂粒子が電解液中に懸濁されてなる懸濁液中に浸漬した状態とした。
【0066】
アパチャー・チューブの電極間に上記懸濁液を介して電流を流し、電極間の電気抵抗を測定する。懸濁液中の樹脂粒子が吸引されてアパチャーを通過する時に樹脂粒子の体積に相当する電解液が置換されて、電極間の電気抵抗に変化が生じる。この電気抵抗の変化量は粒子の大きさに比例することから、上記電気抵抗の変化量を電圧パルスに変換して増幅、検出することによって粒子体積を算出することができ、この算出された粒子体積に相当する真球の直径を樹脂粒子の粒径とした。
【0067】
そして、樹脂粒子の平均粒子径は、上記の如くして測定された各樹脂粒子の粒径の相加平均をとることにより算出した。
【0068】
具体的には、ガラス製の試験管に樹脂粒子0.1gと0.1重量%非イオン系界面活性
剤溶液10ミリリットルを投入してタッチミキサー(ヤマト科学株式会社製、商品名「タッチミキサー TOUCH MIXER MT-31」)を用いて2秒間に亘って攪拌、混合した。
【0069】
そして、この予備分散させた試験管内の溶液を、測定装置(ベックマン・コールター株式会社製、商品名「コールターマルチサイザーII」)に付属の測定用電解液(ベックマン・コールター株式会社製、商品名「ISOTON2」)を満たしたビーカー中に緩く攪拌しながらスポイトで滴下して、測定装置の画面の濃度計の示度を10%前後に合わせた。
【0070】
次に、測定装置にアパチャーサイズ、Current 、GainおよびPolarityを、ベックマン・コールター株式会社発行の「REFERENCE MANUAL FOR THE COULTER MULTISIZER」(1987)に従って入力し、manualモードで測定を行った。なお、測定中はビーカー内を気泡が入らない程度に緩く攪拌しておき、樹脂粒子を10万個測定した時点で測定を終了した。
【0071】
〔(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子に残存する未反応単量体量の測定方法〕
まず、二硫化炭素25ミリリットルおよび内部標準物質1ミリリットルからなる混合液に、測定対象となる(メタ)アクリル酸エステル系単量体0.01gを溶解させて溶液を得た。この溶液から1.8マイクロリットルを採取し、ガスクロマトグラフに下記条件にて注入して検量線(1重量%に相当する)を作成した。なお、内部標準物質は、二硫化炭素75ミリリットルにトルエン0.1ミリリットルを加えたものとした。
【0072】
次に、(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子1gに、二硫化炭素25ミリリットルおよび内部標準物質1ミリリットルを加えて24時間放置した後、1.8マイクロリットルを採取してガスクロマトグラフ装置(株式会社島津製作所製、商品名「GC−14A」)に下記条件にて注入し、検量線に対応するピークの面積を測定した。なお、内部標準物質は、二硫化炭素75ミリリットルにトルエン0.1ミリリットルを加えたものとした。このピークの面積と検量線のピークの面積との比に基づいて、(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子に残存する未反応の単量体の量を算出した。
【0073】
カラム充填剤:液相 PEG−20M
担体 Chromosorb W
検出器:FID
キャリアーガス:窒素
カラム温度:105℃
注入口温度:110℃
〔製造例1〕
(メタ)アクリル酸エステル系単量体としてのメタクリル酸メチル100重量部および重合開始剤としての過酸化ベンゾイル0.4重量部からなる単量体組成物と、水性媒体としての脱イオン水200重量部と、酸可溶性の難水溶性無機化合物からなる分散安定剤としての複分解ピロリン酸マグネシウム6重量部と、界面活性剤としてのラウリル硫酸ナトリウム1重量部とを、混合機(特殊機化工業株式会社(現・プライミクス株式会社)製、商品名「TKホモミキサー」)に供給して、混合した。これにより、単量体組成物が脱イオン水中に均一に分散した単量体溶液を得た。上記単量体溶液を重合器に供給し、攪拌しながら70℃にて3時間にわたって懸濁重合した。これにより、(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子としての未精製のポリメタクリル酸メチル粒子が水中に分散した懸濁液が、粗生成物として得られた。
【0074】
得られた懸濁液の一部をサンプリングして乾燥することにより、未精製のポリメタクリル酸メチル粒子を得た。得られたポリメタクリル酸メチル粒子の平均粒子径は、前記の測定方法によって測定したところ、8.2μmであった。また、得られた未精製のポリメタクリル酸メチル粒子に残存する未反応のメタクリル酸メチルの量は、前記の測定方法によって測定したところ、未精製のポリメタクリル酸メチル粒子の量(未反応のメタクリル酸メチルとポリメタクリル酸メチル粒子との合計量)に対して1.0重量%であった。また、得られたポリメタクリル酸メチル粒子のガラス転移温度は、105℃であった。
【0075】
〔製造例2〕
(メタ)アクリル酸エステル系単量体としてのメタクリル酸メチル90重量部およびジメタクリル酸エチレングリコール10重量部並びに重合開始剤としての過酸化ベンゾイル0.4重量部からなる単量体組成物と、水性媒体としての脱イオン水200重量部と、酸可溶性の難水溶性無機化合物からなる分散安定剤としての複分解ピロリン酸マグネシウム6重量部と、界面活性剤としてのラウリル硫酸ナトリウム1重量部とを、混合機(特殊機化工業株式会社製、商品名「TKホモミキサー」)に供給して、混合した。これにより、単量体組成物が脱イオン水中に均一に分散した単量体溶液を得た。上記単量体溶液を重合器に供給し、攪拌しながら70℃にて3時間にわたって懸濁重合した。これにより、(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子としての未精製の架橋ポリメタクリル酸メチル粒子が水中に分散した懸濁液が、粗生成物として得られた。
【0076】
得られた懸濁液の一部をサンプリングして乾燥することにより、未精製の架橋ポリメタクリル酸メチル粒子を得た。得られた架橋ポリメタクリル酸メチル粒子の平均粒子径は、前記の測定方法によって測定したところ、6.9μmであった。また、得られた未精製の架橋ポリメタクリル酸メチル粒子に残存する未反応の(メタ)アクリル酸エステル系単量体の量は、前記の測定方法によって測定したところ、未精製の架橋ポリメタクリル酸メチル粒子の量(未反応の(メタ)アクリル酸エステル系単量体と架橋ポリメタクリル酸メチル粒子との合計量)に対して0.8重量%であった。また、得られた架橋ポリメタクリル酸メチル粒子のガラス転移温度は、130℃であった。
【0077】
〔実施例1〕
製造例1で得られた重合後の懸濁液(粗生成物)に、この懸濁液100重量部に対して2重量部の割合にて水酸化ナトリウムを加えた後、懸濁液を100℃にて3時間にわたって攪拌することによって、アルカリ性水性媒体(水酸化ナトリウム水溶液)中でのアルカリ処理を行った。アルカリ処理の終了後、懸濁液を冷却した。アルカリ処理前のアルカリ性水性媒体のpHおよびアルカリ処理後のアルカリ性水性媒体のpHは、12以上であった。
【0078】
その後、懸濁液に対して、塩酸を添加して、複分解ピロリン酸マグネシウムを水性媒体中に溶解させた。塩酸の添加により、水性媒体のpHは2以下となった。
【0079】
塩酸を添加してから19時間40分後に、塩酸添加後の懸濁液を遠心分離型濾過機(脱水機)を用いて脱水した。遠心分離型濾過装置は、一方の端が閉じられた円筒形状のバスケットに濾布が貼り付けられた構造の回転体と、この回転体を鉛直方向の回転軸を中心として回転させるモータと、前記回転体を取り囲むように配設された壁とを備え、前記回転体は、壁の内面に近接して配設されている。ここでは、遠心効果が500〜1500Gの範囲内となるように回転体を回転させた状態で、回転体における濾布面上に対して、塩酸添加後の懸濁液を樹脂スラリーの状態で供給し、回転体の回転を所定時間にわたって持続させることによって、濾布によって懸濁液を濾過した。これにより、粗生成物から水が濾液として除去され、(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子としてのポリメタクリル酸メチル粒子(水性媒体が除去された粗生成物)のケーキ層が形成された。この水を除去する工程(媒体除去工程)の所要時間は、20分間であった。したがって、水性媒体のpHが4以下となった時点(塩酸を添加した時点)から水の除去(媒体除去)が終了するまでの時間は、20時間であった。
【0080】
続いて、遠心分離型濾過機内のケーキ層を濾布上に保持した状態のままで、濾布上のケーキ層に対して60℃の水(加熱した水性媒体;pHは約7)をかけることで、ポリメタクリル酸メチル粒子を洗浄すると同時に、遠心効果が500〜1500Gの範囲内となるように回転体を回転させて洗浄後の水を除去した。洗浄は、濾液の導電率と洗浄前の水の導電率とが同等となるまで行った。洗浄に用いた水の重量は、洗浄前のポリメタクリル酸メチル粒子の重量の5倍であった。洗浄後のポリメタクリル酸メチル粒子を充分に水切りした。洗浄工程の所要時間は30分間であり、洗浄後の水切りの所要時間は10分間であった。したがって、濾過を開始した時点から、洗浄が終了し、かつ洗浄後の水の除去が終了した時点までの時間は、21時間であった。
【0081】
水切り後のポリメタクリル酸メチル粒子を、60℃にて真空乾燥し、ポリメタクリル酸メチル粒子を得た。
【0082】
ポリメタクリル酸メチル粒子に残存する未反応の(メタ)アクリル酸エステル系単量体の量を前記の測定方法によって測定したところ、検出下限界(20ppm)未満であった。また、ポリメタクリル酸メチル粒子の臭いを4人に嗅がせたところ、臭いを感じたというものはいなかった。
【0083】
〔実施例2〕
製造例2で得られた重合後の懸濁液(粗生成物)に、この懸濁液100重量部に対して2重量部の割合にて水酸化ナトリウムを加えた後、懸濁液を100℃にて3時間にわたって攪拌することによって、アルカリ性水性媒体(水酸化ナトリウム水溶液)中でのアルカリ処理を行った。アルカリ処理の終了後、懸濁液を冷却した。アルカリ処理前のアルカリ性水性媒体のpHおよびアルカリ処理後のアルカリ性水性媒体のpHは、12以上であった。
【0084】
その後、懸濁液に対して、塩酸を添加して、複分解ピロリン酸マグネシウムを水性媒体中に溶解させた。塩酸の添加により、水性媒体のpHは2以下となった。
【0085】
塩酸を添加してから20時間後に、遠心分離型濾過機を用いて実施例1と同様の操作により懸濁液の脱水を行った。これにより、(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子としての架橋ポリメタクリル酸メチル粒子(脱水された粗生成物)が分離された。
【0086】
続いて、脱水機内の濾材上に残った架橋ポリメタクリル酸メチル粒子を濾材上に保持した状態のままで、濾材上の架橋ポリメタクリル酸メチル粒子に対して、60℃の水(加熱した水性媒体;pHは約7)を通すことで架橋ポリメタクリル酸メチル粒子を洗浄した。洗浄は、濾液の導電率と洗浄前の水の導電率値とが同等となるまで行った。洗浄に用いた水の重量は、洗浄前の架橋ポリメタクリル酸メチル粒子の重量の5倍であった。水性媒体のpHが4以下となった時点(塩酸を添加した時点)から洗浄が終了するまでの時間は、20時間であった。
【0087】
洗浄後の架橋ポリメタクリル酸メチル粒子を、充分に水切りした後、60℃にて真空乾燥し、架橋ポリメタクリル酸メチル粒子を得た。
【0088】
架橋ポリメタクリル酸メチル粒子に残存する未反応の(メタ)アクリル酸エステル系単量体の量を前記の測定方法によって測定したところ、検出下限界(20ppm)未満であった。また、架橋ポリメタクリル酸メチル粒子の臭いを4人に嗅がせたところ、臭いを感じたというものはいなかった。
【0089】
〔実施例3〕
水性媒体のpHが4以下となった時点(塩酸を添加した時点)から洗浄前の媒体除去が終了するまでの時間を20時間から40時間に変更する以外は、実施例1と同様にして、ポリメタクリル酸メチル粒子を得た。
【0090】
架橋ポリメタクリル酸メチル粒子に残存する未反応の(メタ)アクリル酸エステル系単量体の量を前記の測定方法によって測定したところ、検出下限界(20ppm)未満であった。また、架橋ポリメタクリル酸メチル粒子の臭いを4人に嗅がせたところ、3人が臭いを感じたと判断した。
【0091】
〔実施例4〕
水性媒体のpHが4以下となった時点(塩酸を添加した時点)から洗浄前の媒体除去が終了するまでの時間を20時間から40時間に変更する以外は、実施例2と同様にして、ポリメタクリル酸メチル粒子を得た。
【0092】
架橋ポリメタクリル酸メチル粒子に残存する未反応の(メタ)アクリル酸エステル系単量体の量を前記の測定方法によって測定したところ、検出下限界(20ppm)未満であった。また、架橋ポリメタクリル酸メチル粒子の臭いを4人に嗅がせたところ、3人が臭いを感じたと判断した。
【0093】
実施例3および実施例4の結果は、水性媒体のpHが4以下となってから前記媒体除去工程が終了するまでの時間が40時間であり、20時間より長かったことによるものと考えられる。
【0094】
〔実施例5〕
水酸化ナトリウムを加えた後の懸濁液を100℃にて3時間にわたって攪拌する代わりに、水酸化ナトリウムを加えた後の懸濁液を125℃にて3時間にわたって攪拌する以外は実施例1と同様にしてポリメタクリル酸メチル粒子を得た。洗浄に用いる水の重量は、洗浄前のポリメタクリル酸メチル粒子の重量の5倍とした。
【0095】
ポリメタクリル酸メチル粒子に残存する未反応の(メタ)アクリル酸エステル系単量体の量を前記の測定方法によって測定したところ、検出下限界(20ppm)未満であった。また、ポリメタクリル酸メチル粒子の臭いを4人に嗅がせたところ、臭いを感じたというものはいなかった。
【0096】
〔実施例6〕
60℃の水に代えて84℃の水を用いてポリメタクリル酸メチル粒子を洗浄する以外は実施例1と同様にしてポリメタクリル酸メチル粒子を得た。洗浄に用いる水の重量は、洗浄前のポリメタクリル酸メチル粒子の重量の5倍とした。
【0097】
ポリメタクリル酸メチル粒子に残存する未反応の(メタ)アクリル酸エステル系単量体の量を前記の測定方法によって測定したところ、検出下限界(20ppm)未満であった。また、ポリメタクリル酸メチル粒子の臭いを4人に嗅がせたところ、臭いを感じたというものはいなかった。
【0098】
〔実施例7〕
洗浄に用いる水の重量を洗浄前のポリメタクリル酸メチル粒子の重量の2.1倍に変更する以外は実施例1と同様にして、ポリメタクリル酸メチル粒子を得た。この場合、洗浄は、濾液の導電率と洗浄前の水の導電率値とが同等となる前に終了した。
【0099】
ポリメタクリル酸メチル粒子に残存する未反応の(メタ)アクリル酸エステル系単量体の量を前記の測定方法によって測定したところ、検出下限界(20ppm)未満であった。また、ポリメタクリル酸メチル粒子の臭いを4人に嗅がせたところ、臭いを感じたというものは1人であった。
【0100】
〔実施例8〕
60℃の水に代えて40℃の水を用いてポリメタクリル酸メチル粒子を洗浄する以外は実施例1と同様にしてポリメタクリル酸メチル粒子を得た。洗浄に用いる水の重量は、洗浄前のポリメタクリル酸メチル粒子の重量の5倍とした。
【0101】
ポリメタクリル酸メチル粒子に残存する未反応の(メタ)アクリル酸エステル系単量体の量を前記の測定方法によって測定したところ、検出下限界(20ppm)未満であった。また、ポリメタクリル酸メチル粒子の臭いを4人に嗅がせたところ、臭いを感じたというものは2人であった。この結果は、洗浄に用いた水の温度が50℃未満であったために、ポリメタクリル酸メチル粒子中に含まれる(メタ)アクリル酸の除去が不充分であったことによるものと考えられる。
【0102】
〔実施例9〕
60℃の水に代えて95℃の水を用いてポリメタクリル酸メチル粒子を洗浄する以外は実施例1と同様にしてポリメタクリル酸メチル粒子を得た。洗浄に用いる水の重量は、洗浄前のポリメタクリル酸メチル粒子の重量の5倍とした。
【0103】
真空乾燥後にポリメタクリル酸メチル粒子を確認すると、一部が凝集して融着していることが確認された。ポリメタクリル酸メチル粒子に残存する未反応の(メタ)アクリル酸エステル系単量体の量を前記の測定方法によって測定したところ、検出下限界(20ppm)未満であった。また、ポリメタクリル酸メチル粒子の臭いを4人に嗅がせたところ、臭いを感じたというものは2人であった。これらの結果は、洗浄に用いた水の温度が、ポリメタクリル酸メチル粒子のガラス転移温度(105℃)よりも20℃低い温度(85℃)を超えており、高すぎたため、(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子および(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子表面の重合残渣が融着したことにより、ポリメタクリル酸メチル粒子中に含まれる(メタ)アクリル酸の除去が不充分であったことによるものと考えられる。
【0104】
〔実施例10〕
洗浄に用いる水の重量を洗浄前のポリメタクリル酸メチル粒子の重量の1.5倍に変更する以外は実施例1と同様にして、ポリメタクリル酸メチル粒子を得た。この場合、洗浄は、濾液の導電率と洗浄前の水の導電率値とが同等となる前に終了した。
【0105】
ポリメタクリル酸メチル粒子に残存する未反応の(メタ)アクリル酸エステル系単量体の量を前記の測定方法によって測定したところ、検出下限界(20ppm)未満であった。また、ポリメタクリル酸メチル粒子の臭いを4人に嗅がせたところ、臭いを感じたというものは3人であった。この結果は、洗浄に用いた水の重量が、洗浄前のポリメタクリル酸メチル粒子の重量の2倍未満であり、少なすぎたため、ポリメタクリル酸メチル粒子中に含まれる(メタ)アクリル酸の除去が不充分であったことによるものと考えられる。
【0106】
〔比較例1〕
水酸化ナトリウムを加えた後の懸濁液を100℃にて3時間にわたって攪拌する代わりに、水酸化ナトリウムを加えた後の懸濁液を130℃にて3時間にわたって攪拌する以外は実施例1と同様にしてポリメタクリル酸メチル粒子を得た。洗浄に用いる水の重量は、洗浄前のポリメタクリル酸メチル粒子の重量の5倍とした。
【0107】
真空乾燥後にポリメタクリル酸メチル粒子を確認すると、一部が凝集して融着していることが確認された。ポリメタクリル酸メチル粒子に残存する未反応の(メタ)アクリル酸エステル系単量体の量を前記の測定方法によって測定したところ、1000ppm(0.1重量%)であった。ポリメタクリル酸メチル粒子の臭いを4人に嗅がせたところ、臭いを感じたというものは3人であった。これらの結果は、ポリメタクリル酸メチル粒子のガラス転移温度(105℃)よりも20℃高い温度(125℃)を超える高温で水酸化ナトリウム処理を行ったことにより、ポリメタクリル酸メチル粒子が一部分解したことによるものと考えられる。
【0108】
〔比較例2〕
製造例2で得られた重合後の懸濁液(粗生成物)に、この懸濁液100重量部に対して2重量部の割合にて水酸化ナトリウムを加えた後、懸濁液を100℃にて3時間にわたって攪拌することによって、アルカリ性水性媒体(水酸化ナトリウム水溶液)中でのアルカリ処理を行った。アルカリ処理の終了後、懸濁液を冷却した。その後、懸濁液に対して、塩酸を添加して、複分解ピロリン酸マグネシウムを水性媒体中に溶解させた。塩酸の添加により、水性媒体のpHは2以下となった。
【0109】
塩酸を添加してから20時間後に、遠心分離型濾過機を用いた濾過によって懸濁液からポリメタクリル酸メチル粒子を分離した後、25℃の水にて洗浄を行った。洗浄に用いる水の重量は、洗浄前のポリメタクリル酸メチル粒子の重量の5倍とした。
【0110】
得られたポリメタクリル酸メチル粒子100重量部、脱イオン水300重量部、分散安定剤としてのラウリル硫酸ナトリウム0.1重量部、pH調整剤としてのリン酸2水素カリウム0.4重量部、およびリン酸水素2ナトリウム1.2重量部を供給して100℃にて5時間にわたって攪拌して懸濁させた。次に、懸濁液を冷却後、遠心分離型濾過機を用いた濾過によって懸濁液からポリメタクリル酸メチル粒子を分離した後、25℃の水にて洗浄を行った。洗浄に用いる水の重量は、洗浄前のポリメタクリル酸メチル粒子の重量の5倍とした。洗浄後のポリメタクリル酸メチル粒子を、充分に水切りした後、60℃にて真空乾燥し、ポリメタクリル酸メチル粒子を得た。
【0111】
ポリメタクリル酸メチル粒子に残存する未反応の(メタ)アクリル酸エステル系単量体の量を前記の測定方法によって測定したところ、検出下限界(20ppm)未満であった。また、ポリメタクリル酸メチル粒子の臭いを4人に嗅がせたところ、臭いを感じたというものはいなかった。
【0112】
この比較例では、1回目の濾過を開始した時点から、洗浄が終了し、かつ洗浄後の水の除去(2回目の濾過およびその後の水切り)が終了した時点までの時間は、47時間であり、実施例と比較して生産性が悪かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水性媒体中での(メタ)アクリル酸エステル系単量体の重合によって得られた、未反応の(メタ)アクリル酸エステル系単量体を含む(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子と水性媒体とを含む粗生成物から、(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子を製造する方法であって、
前記粗生成物を、pHが12以上のアルカリ性水性媒体中で、(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子のガラス転移温度よりも20℃高い温度以下の温度にてアルカリ処理するアルカリ処理工程と、
アルカリ処理後の前記粗生成物を濾過器内に保持し、濾過器によって前記粗生成物から水性媒体を除去することにより(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子を得る媒体除去工程と、
得られた(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子を前記濾過器内に保持したままで、加熱した水性媒体によって前記(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子を洗浄すると共に、洗浄後の水性媒体を濾過器によって除去する洗浄工程とを含むことを特徴とする(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子の製造方法であって、
前記洗浄工程において洗浄に用いる水性媒体の重量が、洗浄前の(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子の重量の2〜5倍の範囲内であることを特徴とする(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子の製造方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子の製造方法であって、
前記洗浄工程において洗浄に用いる水性媒体の温度が、50℃以上であることを特徴とする(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3の何れか1項に記載の(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子の製造方法であって、
前記洗浄工程において洗浄に用いる水性媒体の温度が、(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子のガラス転移温度よりも20℃低い温度以下であることを特徴とする(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4の何れか1項に記載の(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子の製造方法であって、
前記粗生成物中に含まれる(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子は、未反応の(メタ)アクリル酸エステル系単量体の含有量が5重量%以下であることを特徴とする(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5の何れか1項に記載の(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子の製造方法であって、
前記粗生成物は、酸可溶性の難水溶性無機化合物からなる分散安定剤を含む水性媒体中での(メタ)アクリル酸エステル系単量体の重合によって得られた粗生成物であり、前記難水溶性無機化合物をさらに含んでいることを特徴とする(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子の製造方法。
【請求項7】
請求項6に記載の(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子の製造方法であって、
前記難水溶性無機化合物を含む粗生成物に対して、前記水性媒体のpHが4以下となるように、塩酸、硝酸、および硫酸からなる群より選ばれる少なくとも1種の無機酸を添加して、前記難水溶性無機化合物を溶解させる溶解工程をさらに含み、
前記溶解工程において前記水性媒体のpHが4以下となってから前記媒体除去工程が終了するまでの時間が、20時間以下であることを特徴とする(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子の製造方法。

【公開番号】特開2012−201844(P2012−201844A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−69451(P2011−69451)
【出願日】平成23年3月28日(2011.3.28)
【出願人】(000002440)積水化成品工業株式会社 (1,335)
【Fターム(参考)】