説明

(メタ)アクリル酸ニトロキシド重合体の製造方法

【課題】過酸化水素の使用量を低減することができ、安全かつ安価に(メタ)アクリル酸イミン重合体を酸化し、高いニトロキシド化率の(メタ)アクリル酸ニトロキシド重合体を製造することができる方法を提供する。
【解決手段】(メタ)アクリル酸イミン重合体を酸化することにより、(メタ)アクリル酸ニトロキシド重合体を製造する方法であって、アミド溶媒中、タングステン酸触媒及びホスホン酸類の存在下にて、過酸化水素により式(1)(式(1)中、Rは水素又はメチル基を示す)で表される繰り返し単位を有する(メタ)アクリル酸イミン重合体を酸化する工程を有する(メタ)アクリル酸ニトロキシド重合体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、過酸化水素の使用量を低減することができ、安全かつ安価に(メタ)アクリル酸イミン重合体を酸化し、高いニトロキシド化率の(メタ)アクリル酸ニトロキシド重合体を製造することができる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ノート型パソコンや携帯電話等の携帯電子機器、電気自動車等に用いられる二次電池は、エネルギー密度が高いこと、小型であること、大きな電流を流せること、サイクル特性に優れること等の特性が要求されている。これらの特性を満足させる二次電池用電極の活物質として、例えば、特許文献1には、ポリ(2,2,6,6−テトラメチルピペリジノキシメタクリレート)(以下、PTMAともいう)に代表されるラジカル材料が開示されている。
【0003】
PTMA等のラジカル材料の製造方法として、例えば、特許文献2には、(メタ)アクリル酸イミン化合物を重合した後、触媒存在下にて酸化剤と反応させてニトロキシド化を行い(メタ)アクリル酸ニトロキシド重合体を得る方法が開示されている。しかしながら、過酸化水素等の酸化剤の使用量が比較的多く、安全かつ安価に製造する方法が望まれていた。これに対して、特許文献3には、ピペリジン−N−オキシルと触媒を用い、水又は水溶性有機溶媒にて製造することにより、過酸化水素の使用量を抑制する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−304996号公報
【特許文献2】国際公開第05/116092号パンフレット
【特許文献3】特開2009−001725号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献2及び3に記載された方法では、酸化剤として過酸化水素を使用しているが、その場合、90%以上の高いニトロキシド化率を達成するには、(メタ)アクリル酸イミン重合体1モルに対し、理論量の数倍以上もの過酸化水素を用いる必要がある。その際、過酸化水素は下記式
→ HO + 1/2O + 23.4kcal/mol
に示される自己分解により発熱とともに酸素を発生させるため、爆発や燃焼のおそれがあることから安全対策上、N2、CO等の不活性ガスを反応槽に通気する等のための設備が必要となる。
また、過酸化水素自体の酸化速度が遅いため、第VI族金属酸化物をはじめとした種々の触媒等を用いても、実質、長時間にわたり反応するのが望ましく生産性に課題があった。一方、特許文献3に記載の製造方法では、酸化助剤としてピペリジン−N−オキシルを添加することにより、過酸化水素の使用量を比較的少量に抑制することができたが、更なる過酸化水素の使用量の低減が望まれている。
本発明は、過酸化水素の使用量を低減することができ、安全かつ安価に(メタ)アクリル酸イミン重合体を酸化し、高いニトロキシド化率の(メタ)アクリル酸ニトロキシド重合体を製造することができる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、
項1.式(1)で表される繰り返し単位を有する(メタ)アクリル酸イミン重合体を酸化することにより、式(2)で表される繰り返し単位を有する(メタ)アクリル酸ニトロキシド重合体を製造する方法であって、アミド溶媒中、タングステン酸触媒及びホスホン酸類の存在下にて、過酸化水素により式(1)で表される繰り返し単位を有する(メタ)アクリル酸イミン重合体を酸化する工程を有する(メタ)アクリル酸ニトロキシド重合体の製造方法、
項2.アミド溶媒は、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、及び、1−メチル−2−ピロリドンからなる群より選ばれる少なくとも一種であることを特徴とする項1記載の(メタ)アクリル酸ニトロキシド重合体の製造方法、
項3.ホスホン酸類は、ホスホン酸、有機ホスホン酸、ホスホン酸塩、及び、有機ホスホン酸塩からなる群より選ばれる少なくとも一種であることを特徴とする項1又は2記載の(メタ)アクリル酸ニトロキシド重合体の製造方法、
項4.式(1)で表される繰り返し単位を有する(メタ)アクリル酸イミン重合体は、架橋剤により架橋されたものであることを特徴とする項1、2又は3記載の(メタ)アクリル酸ニトロキシド重合体の製造方法、
項5.架橋剤は、(メタ)アクリル酸多官能化合物であることを特徴とする項4記載の(メタ)アクリル酸ニトロキシド重合体の製造方法、
である。
【0007】
【化1】

【0008】
式(1)中、Rは水素又はメチル基を示す。
【0009】
【化2】

【0010】
式(2)中、Rは水素又はメチル基を示す。
以下に本発明を詳述する。
【0011】
本発明者らは、アミド溶媒中、タングステン酸触媒及びホスホン酸類の存在下にて(メタ)アクリル酸イミン重合体を酸化させることにより、過酸化水素の使用量を低減することができ、安全かつ安価に(メタ)アクリル酸イミン重合体を酸化し、高いニトロキシド化率の(メタ)アクリル酸ニトロキシド重合体を製造することができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0012】
本発明の(メタ)アクリル酸ニトロキシド重合体の製造方法は、式(1)で表される繰り返し単位を有する(メタ)アクリル酸イミン重合体(以下、単に(メタ)アクリル酸イミン重合体ともいう)を酸化することにより、式(2)で表される繰り返し単位を有する(メタ)アクリル酸ニトロキシド重合体(以下、単に(メタ)アクリル酸ニトロキシド重合体ともいう)を製造する方法である。
なお、本明細書において、「(メタ)アクリル酸」とは、「アクリル酸」又は「メタクリル酸」を意味し、「(メタ)アクリレート」とは、「アクリレート」又は「メタクリレート」を意味する。
【0013】
前記(メタ)アクリル酸イミン重合体を製造する方法としては、例えば、(メタ)アクリル酸ピペリジン化合物である2,2,6,6−テトラメチルピペリジンメタクリレートを、α,α’−アゾビスイソブチロニトリル、過酸化ベンゾイル等の重合開始剤を用いて、ヘキサン、トルエン、アセトニトリル、テトラヒドロフラン等の有機溶媒に溶解して重合させる溶液重合や、ヘキサン、ヘプタン、トルエン、クロロホルム、ジエチルエーテル等の非極性溶媒に2,2,6,6−テトラメチルピペリジンメタクリレートを溶解したモノマー溶液を、分散安定剤とともに水中にて分散して重合させる懸濁重合や、該非極性溶媒に2,2,6,6−テトラメチルピペリジンメタクリレートを溶解したモノマー溶液を、乳化剤とともに水中にて分散して重合させる乳化重合等の方法が挙げられる。
【0014】
前記(メタ)アクリル酸イミン重合体は、架橋剤によって架橋されたものであってもよい。
前記架橋剤としては、分子内に複数個の重合性不飽和基を有する化合物であれば特に限定されず、例えば、(メタ)アクリル酸多官能化合物、アリルエーテル多官能化合物、ビニル多官能化合物等が挙げられる。
前記(メタ)アクリル酸多官能化合物としては、例えば、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ペンタエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ヘキサエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ヘプタエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、オクタエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ノナエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、デカエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ドデカエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラデカエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ヘキサデカエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、オクタデカエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3−プロパンジオールジ(メタ)アクリレート、1,3−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,5−ペンタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,7−ヘプタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,8−オクタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、1,10−デカンジオールジ(メタ)アクリレート、グリセリンジ(メタ)アクリレート及び2−ヒドロキシ−3−(メタ)アクリロイロキシプロピル(メタ)アクリレート等のジ(メタ)アクリル酸化合物類や、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート等のトリ(メタ)アクリル酸化合物類等が挙げられる。
前記アリルエーテル多官能化合物としては、例えば、ジエチレングリコールジアリルエーテル、ジブチレングリコールジアリルエーテル等が挙げられる。
前記ビニル多官能化合物としては、例えば、ジビニルベンゼン等が挙げられる。
これらの中でも、高い重合反応性を有する観点から、(メタ)アクリル酸多官能化合物が好適に用いられ、なかでも、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ヘキサエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ノナエチレングリコール(メタ)アクリレートが好適に用いられる。これらの架橋剤は、単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0015】
前記(メタ)アクリル酸イミン重合体は、後述のニトロキシド化反応を行う際に、反応を均一に行いやすいという観点から、中位粒子径が1mm以下の粉粒体であることが好ましく、中位粒子径が0.5mm以下の粉粒体であることがより好ましい。粉粒体の(メタ)アクリル酸イミン重合体を得る方法としては、例えば、一般に使用されるミキサーやブレンダー等を用いて粉砕する方法等が挙げられる。
なお、本明細書において「中位粒子径」とは、一定粒度区間内に全体の何%の粒子が存在するかを表す度数分布を、粒子径の小さい方又は大きい方より積分して求めた累積分布が50%を示すときの粒子径の値を意味する。具体的には、レーザー回折式粒度分布測定装置(島津製作所社製、「SALD−2000」)等により測定することができる。
【0016】
本発明の(メタ)アクリル酸ニトロキシド重合体の製造方法では、タングステン酸触媒の存在下での過酸化水素による(メタ)アクリル酸イミン重合体の酸化に用いる溶媒として、アミド溶媒を用いることにより過酸化水素の使用量を低減することができる。アミド溶媒を用いることで過酸化水素の使用量を低減することができる理由としては、以下のことが考えられる。
過酸化水素を用いて(メタ)アクリル酸イミン重合体を酸化させる場合、従来は、主にアルコール溶媒が用いられていた。アルコール溶媒は(メタ)アクリル酸イミン重合体との親和性が高いため、アルコール溶媒中において(メタ)アクリル酸イミン重合体はポリマー鎖が伸びた状態に近くなり、側鎖官能基(NH基)と過酸化水素との接触がよくなり、ニトロキシド化反応が促進される。しかしながら、生成されたニトロキシド基(NO・基基)による過酸化水素の分解も進み易くなるため、反応を進行させるために多量の過酸化水素が必要となるものと思われる。一方、アミド溶媒を用いた場合は、(メタ)アクリル酸イミン重合体との親和性をある程度保持しつつ、(メタ)アクリル酸イミン重合体のポリマー鎖の広がりがアルコール溶媒を用いた場合より小さくなるため、生成されたNO・基による過酸化水素の分解が抑制されていると思われる。
また、過酸化水素を用いて(メタ)アクリル酸イミン重合体を酸化させる場合の触媒としては、通常、タングステン酸触媒が用いられるが、プロトン性で親水性が高いアルコール溶媒をタングステン酸触媒とともに用いた場合、タングステン酸と過酸化水素から生成する活性種の活性が高くなるため、ニトロキシド化反応が促進されるとともに、生成されたNO・基による過酸化水素の分解、及び、溶媒由来のプロトンによる分解も進み易くなっていると思われる。一方、非プロトン性で親水性が高いアミド溶媒を用いた場合は、タングステン酸と過酸化水素から生成する活性種の活性が高められることはなく、また、生成されたNO・基による過酸化水素の分解、及び、溶媒由来のプロトンによる分解も抑制しつつ、ニトロキシド化反応を進行させていると思われる。
【0017】
前記アミド溶媒としては、水溶性の非プロトン性溶媒であることが好ましく、例えば、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド等の鎖状アミド化合物類や、1−メチル−2−ピロリドン、1−アセチル2−ピロリドン等の環状アミド化合物類等が挙げられる。なかでも、容易に入手できること、及び、前記(メタ)アクリル酸イミン重合体との親和性の観点から、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、及び、1−メチル−2−ピロリドンからなる群より選ばれる少なくとも一種であることが好ましい。これらのアミド溶媒は、単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0018】
前記アミド溶媒の使用量としては、反応を円滑に進行させる観点から、(メタ)アクリル酸イミン重合体100質量部に対して、好ましい下限が500質量部、好ましい上限が1万質量部、より好ましい上限が5000質量部である。
【0019】
本発明の(メタ)アクリル酸ニトロキシド重合体の製造方法では、アミド溶媒中におけるタングステン酸触媒の存在下での過酸化水素による(メタ)アクリル酸イミン重合体の酸化おいて、反応助剤としてホスホン酸類を用いることにより過酸化水素の使用量を更に低減することができる。ホスホン酸類を用いることで過酸化水素の使用量を低減することができる理由としては、以下のことが考えられる。
従来技術であるピペリジン−N−オキシル等の添加剤は、それ自身が酸化触媒としての働きも有し、タングステン酸、モリブデン酸等の無機酸化触媒と並行して作用することで、反応の安定化に対し補助的な役目を担っていると推測される。つまり、ピペリジン−N−オキシル等による過酸化水素の分解は僅かながらも進行していると考えられる。しかし、ホスホン酸はタングステン酸に作用することで、タングステン酸と過酸化水素からなる活性種の活性を電子的に向上させる役目を持ち、それ自身が過酸化水素に作用し直接分解することはない。つまり、過酸化水素の自己分解を抑制するホスホン酸を用いることで、酸化触媒の効果を維持又は向上させ、かつ、過酸化水素の使用量を低減することが達せられていると考えられる。
【0020】
本発明の(メタ)アクリル酸ニトロキシド重合体の製造方法において、「ホスホン酸類」とは、ホスホン酸基を有する酸の他、該酸の塩も含むものとし、例えば、ホスホン酸、有機ホスホン酸、ジホスホン酸、ホスホン酸塩、有機ホスホン酸塩等が挙げられる。
前記有機ホスホン酸としては、例えば、メチルホスホン酸、t−ブチルホスホン酸、シクロヘキシルホスホン酸、n−オクチルホスホン酸、n−デシルホスホン酸、n−オクタデシルホスホン酸、フェニルホスホン酸、4−メトキシフェニルホスホン酸、ビニルホスホン酸、アミノメチルホスホン酸、1―アミノエチルホスホン酸等が挙げられる。
前記ジホスホン酸としては、例えば、メチレンジホスホン酸、エチレンジホスホン酸、1−ヒドロキシエタン−1,1−ジホスホン酸等が挙げられる。
前記ホスホン酸塩としては、例えば、ホスホン酸ジナトリウム、ホスホン酸ジカリウム等が挙げられる。
前記有機ホスホン酸塩としては、例えば、メチルホスホン酸ジナトリウム、t−ブチルホスホン酸ジナトリウム、シクロヘキシルホスホン酸ジナトリウム、n−オクチルホスホン酸ジナトリウム等が挙げられる。
なかでも、ホスホン酸、有機ホスホン酸、ホスホン酸塩、及び、有機ホスホン酸塩からなる群より選ばれる少なくとも一種であることが好ましく、入手が容易であること及びタングステン酸触媒との親和性の観点から、ホスホン酸、有機ホスホン酸がより好ましく、フェニルホスホン酸、n−オクチルホスホン酸、2−アミノエチルホスホン酸、t−ブチルホスホン酸が更に好ましい。これらのホスホン酸類は、単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0021】
前記ホスホン酸類の使用量は、(メタ)アクリル酸イミン重合体100質量部に対して、好ましい下限が0.001質量部、好ましい上限が5質量部である。ホスホン酸類の使用量が0.001質量部未満であると、(メタ)アクリル酸イミン重合体の酸化反応が充分に進行しないことがある。ホスホン酸類の使用量が5質量部を超えても使用量に見合う効果が得られず経済的でなくなることがある。ホスホン酸類の使用量のより好ましい下限は0.01質量部、より好ましい上限は1質量部である。
【0022】
前記タングステン酸触媒としては、例えば、タングステン酸、リンタングステン酸、ケイタングステン酸、パラタングステン酸、及び、これらのアルカリ塩(ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩等)等のタングステン化合物類が挙げられる。なかでも、タングステン酸、タングステン酸ナトリウムが好適に用いられる。これらのタングステン化合物類は単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0023】
前記タングステン酸触媒の使用量としては、(メタ)アクリル酸イミン重合体100質量部に対して、好ましい下限が0.001質量部、好ましい上限は5質量部である。タングステン酸触媒の使用量が0.001質量部未満であると、(メタ)アクリル酸イミン重合体の酸化反応を充分に進行させることができないことがある。タングステン酸触媒の使用量が5質量部を超えて使用しても、使用量に見合う効果が得られず経済的でなくなることがある。タングステン酸触媒の使用量のより好ましい下限は0.01質量部、より好ましい上限は1質量部である。
【0024】
本発明の(メタ)アクリル酸ニトロキシド重合体の製造方法では、タングステン酸触媒と酸化助剤としてのホスホン酸類とを組み合わせて使用する。タングステン酸触媒とホスホン酸類との使用量の割合として、タングステン酸触媒1モルに対するホスホン酸類の使用量の好ましい下限は0.01モル、好ましい上限は2.0モルである。タングステン酸触媒1モルに対するホスホン酸類の使用量が0.01モル未満であると、(メタ)アクリル酸イミン重合体の酸化反応を充分に進行させることができないことがある。タングステン酸触媒1モルに対するホスホン酸類の使用量が2.0モルを超えると、使用量に見合う効果が得られず経済的でなくなることがある。タングステン酸触媒1モルに対するホスホン酸類の使用量のより好ましい下限は0.1モル、より好ましい上限は1.0モルである。
【0025】
前記過酸化水素は、水溶液又は有機溶媒溶液として用いることができるが、取り扱いやすさの観点から、水溶液である過酸化水素水を用いることが好ましい。
水溶液又は有機溶媒溶液として用いる場合の過酸化水素濃度は特に限定されないが、好ましい下限は1質量%、好ましい上限は60質量%である。過酸化水素濃度が1質量%未満であると、(メタ)アクリル酸イミン重合体の酸化反応を充分に進行させるために大量の水又は有機溶媒が必要となることがある。過酸化水素濃度が60質量%を超えると、副反応が発生したり、余剰な過酸化水素による酸素発生に伴う不活性ガス処理が必要となる等、経済的に有利でなくなったりすることがある。過酸化水素濃度のより好ましい上限は40質量%である。
【0026】
前記過酸化水素水は、市販のものを使用でき、必要に応じて希釈等の濃度調整を行なったものも用いることができる。
また、過酸化水素の有機溶媒溶液を用いる場合は、例えば、過酸化水素水を有機溶媒で抽出処理する等により調製したものを用いることができる。
【0027】
前記過酸化水素の使用量としては、(メタ)アクリル酸イミン重合体に含まれるイミン基1モルに対して、好ましい下限が1モル、好ましい上限が5モルである。過酸化水素の使用量が(メタ)アクリル酸イミン重合体に含まれるイミン基1モルに対して1モル未満であると、酸化反応を充分に進行させることができないことがある。過酸化水素の使用量が(メタ)アクリル酸イミン重合体に含まれるイミン基1モルに対して5モルを超えると、使用量に見合う効果が得られない上に、副反応が発生したり、余剰な過酸化水素による酸素発生に伴う不活性ガス処理が必要となる等、経済的に有利でなくなったりすることがある。(メタ)アクリル酸イミン重合体に含まれるイミン基1モルに対する過酸化水素の使用量のより好ましい上限は3モル、更に好ましい上限は2モルである。
【0028】
前記(メタ)アクリル酸イミン重合体をニトロキシド化する具体的方法としては、容易に収率よく反応できることから、まず、(メタ)アクリル酸イミン重合体とタングステン酸触媒とホスホン酸類とを混合した後、過酸化水素水又は過酸化水素の有機溶媒溶液を添加しながら反応させることが好ましい。
【0029】
ニトロキシド化の反応温度としては、反応を制御する観点から、好ましい下限は0℃、好ましい上限は150℃、より好ましい下限は30℃、より好ましい上限は100℃である。本発明の(メタ)アクリル酸ニトロキシド重合体の製造方法では、アミド溶媒を使用することによって過酸化水素の分解が抑制されていることから、この範囲において反応温度を上げても、高いニトロキシド化率を維持できる。
【0030】
過酸化水素を反応させる時間は特に限定されないが、好ましい下限は1時間、好ましい上限は24時間、より好ましい上限は12時間である。また、過酸化水素の添加終了後、上述したニトロキシド化の反応温度で1〜10時間保持して反応を完結させることが好ましい。
【0031】
反応終了後は、ろ過や乾燥等の単位操作を組み合わせて、反応液から(メタ)アクリル酸ニトロキシド重合体を単離することができる。
なお、得られた(メタ)アクリル酸ニトロキシド重合体のニトロキシド化率は、NMR法等を用いて反応生成物に残留するイミン基を定量する方法や、ESR法を用いて反応生成物中のスピン濃度を定量する方法等により算出することができる。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、過酸化水素の使用量を低減することができ、安全かつ安価に(メタ)アクリル酸イミン重合体を酸化し、高いニトロキシド化率の(メタ)アクリル酸ニトロキシド重合体を製造することができる方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されない。
【0034】
以下の実施例及び比較例で得られた(メタ)アクリル酸ニトロキシド重合体のニトロキシド化率は、以下の方法で算出した。
JES−FR30EXフリーラジカルモニタ(日本電子社製)を用い、マイクロ波出力4mW、変調周波数100kHz、変調幅79μTの条件下、335.9mT±10mTの範囲で測定して得た一次微分型のESRスペクトルを2回積分して求めた吸収面積強度を、同一条件で測定した既知試料(4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジノオキシフリーラジカル)の吸収面積強度と比較することによりニトロキシド化率を算出した。
【0035】
((メタ)アクリル酸イミン重合体の製造)
攪拌機、窒素ガス導入管、温度計、還流冷却管を備えた500mL容の4つ口フラスコに、ポリビニルアルコール(クラレ社製、「ポバールPVA420」、重合度2000、ケン化度78〜81モル%)5.0g、水200gを仕込み、90℃で4時間攪拌してポリビニルアルコールを溶解した後、25℃まで冷却し、ポリビニルアルコール溶解液を得た。
一方、200mL容のマイヤーフラスコに、2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジニルメタクリレート13.75g(61.0ミリモル)、エチレングリコールジメタクリレート0.25g(1.2ミリモル)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)0.21g(0.8ミリモル)、及び、n−ヘプタン28.7g(42mL)を仕込み、均一溶液を得た。この均一溶液を前記ポリビニルアルコール溶解液に加え、25℃に保ちながら、窒素ガスを通じて反応系内の酸素を除去した後、60℃にて6時間攪拌して重合反応を行った。
反応終了後、懸濁液を室温まで冷却した後、モノフィラメントメッシュ(日本特殊織物社製、「PE18」、オープニング1242μm)を用いて、凝集物等をろ別して粗メタクリル酸イミン重合体を得た。得られた粗メタクリル酸イミン重合体を、水500gで洗浄した後、n−ヘキサン338.5g(500mL)で洗浄し、減圧乾燥して中位粒子径122μmの白色粉体のメタクリル酸イミン重合体13.1g(57.6ミリモル)を得た。なお、2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジニルメタクリレートに対する得られたメタクリル酸イミン重合体の収率は94%であった。
【0036】
(実施例1)
撹拌機、窒素ガス導入管、温度計、還流冷却管及び滴下ロートを備えた500mL容の4つ口フラスコに、「(メタ)アクリル酸イミン重合体の製造」で得られたメタクリル酸イミン重合体10g、タングステン酸(関東化学社製)0.06g(0.2ミリモル)、フェニルホスホン酸0.02g(0.1ミリモル)、及び、N,N−ジメチルアセトアミド(関東化学社製、以下、DMACともいう)100gを加えて分散させた。これを70℃に保持しながら35%過酸化水素水溶液(東京化成工業社製)8.55g(メタクリル酸イミン重合体のイミン基1モルに対して過酸化水素2モル)を5時間かけて滴下により添加し、更に撹拌下、同温度にて5時間保持した。反応終了後、反応液をろ過し、水500mLで3回洗浄した後、減圧乾燥して赤褐色粉体のメタクリル酸ニトロキシド重合体10.2gを得た。得られたメタクリル酸ニトロキシド重合体のニトロキシド化率を測定したところ91%であった。
【0037】
(実施例2)
フェニルホスホン酸0.02gに代えて、t−ブチルホスホン酸(ACROSS ORGANICS社製)0.02g(0.1ミリモル)を使用したこと以外は実施例1と同様にして、赤褐色粉体のメタクリル酸ニトロキシド重合体10.2gを得た。得られたメタクリル酸ニトロキシド重合体のニトロキシド化率を測定したところ91%であった。
【0038】
(実施例3)
DMAC100gに代えて、N,N−ジメチルホルムアミド(和光純薬工業社製、以下、DMFともいう)100gを使用したこと以外は実施例1と同様にして、赤褐色粉体のメタクリル酸ニトロキシド重合体10.0gを得た。得られたメタクリル酸ニトロキシド重合体のニトロキシド化率を測定したところ87%であった。
【0039】
(実施例4)
過酸化水素の滴下温度(反応温度)を70℃に代えて90℃としたこと以外は実施例1と同様にして、赤褐色粉体のメタクリル酸ニトロキシド重合体10.2gを得た。得られたメタクリル酸ニトロキシド重合体のニトロキシド化率を測定したところ95%であった。
【0040】
(比較例1)
N,N−ジメチルアセトアミド100gに代えて、87%t−ブチルアルコール(以下、TBAともいう)水溶液(和光純薬工業社製)100gを使用し、フェニルホスホン酸0.02gに代えて、4−アセトアミド−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシル(東京化成工業社製、以下、AA−TEMPOともいう)0.19g(0.9ミリモル)を使用したこと以外は実施例1と同様にして、赤褐色粉体のメタクリル酸ニトロキシド重合体9.9gを得た。得られたメタクリル酸ニトロキシド重合体のニトロキシド化率を測定したところ51%であった。
【0041】
(比較例2)
N,N−ジメチルアセトアミド100gに代えて、87%TBA水溶液100gを使用したこと以外は実施例1と同様にして、赤褐色粉体のメタクリル酸ニトロキシド重合体9.9gを得た。得られたメタクリル酸ニトロキシド重合体のニトロキシド化率を測定したところ58%であった。
【0042】
(比較例3)
フェニルホスホン酸0.02gに代えて、AA−TEMPO0.03g(0.1ミリモル)を使用したこと以外は実施例1と同様にして、赤褐色粉体のメタクリル酸ニトロキシド重合体10.0gを得た。得られたメタクリル酸ニトロキシド重合体のニトロキシド化率を測定したところ76%であった。
【0043】
(比較例4)
比較例1において、過酸化水素の滴下温度(反応温度)を70℃に代えて80℃としたこと以外は比較例1と同様にして、薄赤褐色粉体のメタクリル酸ニトロキシド重合体10.0gを得た。得られたメタクリル酸ニトロキシド重合体のニトロキシド化率を測定したところ38%であった。
【0044】
実施例及び比較例で得られた結果を表1に示した。アミド溶媒及びホスホン酸類を用いた実施例1〜4では、メタクリル酸イミン重合体のイミン基に対して2倍モル量という少量の過酸化水素により80%以上の高いニトロキシド化率が得られている。これに対し、アミド溶媒及びホスホン酸類の少なくともいずれかが存在しない比較例では、充分なニトロキシド化率が得られていない。
【0045】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明によれば、過酸化水素の使用量を低減することができ、安全かつ安価に(メタ)アクリル酸イミン重合体を酸化し、高いニトロキシド化率の(メタ)アクリル酸ニトロキシド重合体を製造することができる方法を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)で表される繰り返し単位を有する(メタ)アクリル酸イミン重合体を酸化することにより、式(2)で表される繰り返し単位を有する(メタ)アクリル酸ニトロキシド重合体を製造する方法であって、
アミド溶媒中、タングステン酸触媒及びホスホン酸類の存在下にて、過酸化水素により式(1)で表される繰り返し単位を有する(メタ)アクリル酸イミン重合体を酸化する工程を有する
ことを特徴とする(メタ)アクリル酸ニトロキシド重合体の製造方法。
【化1】

式(1)中、Rは水素又はメチル基を示す。
【化2】

式(2)中、Rは水素又はメチル基を示す。
【請求項2】
アミド溶媒は、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、及び、1−メチル−2−ピロリドンからなる群より選ばれる少なくとも一種であることを特徴とする請求項1記載の(メタ)アクリル酸ニトロキシド重合体の製造方法。
【請求項3】
ホスホン酸類は、ホスホン酸、有機ホスホン酸、ホスホン酸塩、及び、有機ホスホン酸塩からなる群より選ばれる少なくとも一種であることを特徴とする請求項1又は2記載の(メタ)アクリル酸ニトロキシド重合体の製造方法。
【請求項4】
式(1)で表される繰り返し単位を有する(メタ)アクリル酸イミン重合体は、架橋剤により架橋されたものであることを特徴とする請求項1、2又は3記載の(メタ)アクリル酸ニトロキシド重合体の製造方法。
【請求項5】
架橋剤は、(メタ)アクリル酸多官能化合物であることを特徴とする請求項4記載の(メタ)アクリル酸ニトロキシド重合体の製造方法。

【公開番号】特開2013−87256(P2013−87256A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−231572(P2011−231572)
【出願日】平成23年10月21日(2011.10.21)
【出願人】(000195661)住友精化株式会社 (352)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】