説明

(メタ)アクリル酸系共重合体、およびその製造方法、およびその用途

【課題】十分な耐ゲル性を有する(メタ)アクリル酸系共重合体を提供する。
【解決手段】全単量体由来の構造100モル%に対して、5モル%以上25モル%以下の下記一般式(1)で表される単量体に由来する構造単位(a)、50モル%以上88モル%以下の(メタ)アクリル酸(塩)由来の構造単位(b)、7モル%以上25モル%以下のマレイン酸(塩)由来の構造単位(c)を必須構造単位として有する共重合体であって、重量平均分子量が1000〜30000である(メタ)アクリル酸系共重合体。


一般式(1)中、Rは、水素原子またはメチル基を表し、XおよびYは、それぞれ独立に水酸基またはスルホン酸(塩)基を表す(但し、X、Yのうち少なくとも一方はスルホン酸(塩)基を表す)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スケール防止剤等に好適に用いられる(メタ)アクリル酸系共重合体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、(メタ)アクリル酸系重合体等の水溶性重合体のうち、低分子量のものは、その優れたキレート能や分散能を利用して、スケール防止剤等に好適に用いられている。しかし、スケール防止剤においては、省資源・節水のために高濃縮した冷却水系で用いられたり、水質の低下等の理由から硬度の高い水系で用いられたり、あるいは海水のような高塩濃度の水系で用いられたりすることがあるが、このような場合には、重合体がゲル化して沈殿してしまい、スケール防止能が著しく低下するといった問題があった。
【0003】
特許文献1には、下記一般式(1)で示す(メタ)アクリル酸系単量体(A)由来の構成単位(a)および該(メタ)アクリル酸系単量体(A)と共重合可能なモノエチレン性不飽和単量体(B)由来の構成単位(b)を有する共重合体であり、かつ、主鎖末端の少なくとも一方にスルホン酸基(但し、該スルホン酸基は、アンモニウム塩、アルカリ金属塩、もしくは有機アミン基の塩になっていてもよい。)を有している、(メタ)アクリル酸系共重合体であって、前記構成単位(b)が、下記一般式(2)で示す(メタ)アリルエーテル系単量体(B1)由来の構成単位(b1)を少なくとも含み、かつ、前記構成単位(a)と前記構成単位(b1)の相互割合が、前記構成単位(a)70〜95モル%、前記構成単位(b1)5〜30モル%であり、カルシウムイオンを含む水系での耐ゲル化試験における耐ゲル化度が100〜1500である(メタ)アクリル酸系共重合体が開示されている。
【0004】
【化1】

【0005】

(式中、R1は、水素原子またはメチル基を表し、Xは、水素原子、金属原子、アンモニウム基または有機アミン基を表す。)
【0006】
【化2】

【0007】

(式中、R2は、水素原子またはメチル基を表し、YおよびZは、それぞれ独立に水酸基またはスルホン酸基(但し、1価金属塩、2価金属塩、アンモニウム塩、もしくは有機アミン基の塩になっていてもよい。)を表す。)
特許文献1には、上記共重合体が、前記(メタ)アリルエーテル系単量体由来の構成単位である側鎖のスルホン酸基と、主鎖末端に導入されたスルホン酸基との相乗効果により、耐ゲル性能が著しく向上することが開示されている。
【0008】
しかしながら、上記共重合体は、例えば水処理剤等としてより厳しい需要者の要求に対応する為、スケールの生成・成長を抑制する為に、炭酸カルシウムの分散性を改善する余地があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2002−3536号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
このように、従来、種々の重合体が報告されてはいるものの、水処理用途等の水系用途における要求に、十分に合致できていないのが現状である。具体的には、水処理用途では、高硬度では、ゲル化して沈殿することを抑制する性能(耐ゲル性)に加え、スケールの生成・成長を抑制するために炭酸カルシウムを分散させる性能(炭酸カルシウムの分散性)が強く要請されている。
そこで、本発明は、上記水系用途に用いられた場合に従来より一層改善された耐ゲル性を有し、かつ高い炭酸カルシウムの分散性を有する共重合体、およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記目的を達成するために様々な重合体/共重合体について鋭意検討を行なった結果、特定の(メタ)アクリル酸系共重合体が、優れた耐ゲル性と炭酸カルシウムの分散性を有することを知得した。上記知見に基づいて、本発明を完成した。
すなわち、本発明の共重合体は、全単量体由来の構造100モル%に対して、5モル%以上25モル%以下の下記一般式(1)で表される単量体に由来する構造単位(a)、50モル%以上88モル%以下の(メタ)アクリル酸(塩)由来の構造単位(b)、7モル%以上25モル%以下のマレイン酸(塩)由来の構造単位(c)を必須構造単位として有する共重合体であって、重量平均分子量が1000〜30000であることを特徴とする(メタ)アクリル酸系共重合体である。
【0012】
【化3】

【0013】

一般式(1)中、Rは、水素原子またはメチル基を表し、XおよびYは、それぞれ独立に水酸基またはスルホン酸(塩)基を表す(但し、X、Yのうち少なくとも一方はスルホン酸(塩)基を表す)。
【発明の効果】
【0014】
本発明の共重合体は、優れた耐ゲル性と炭酸カルシウムの分散性を示すことから、水処理剤(特にスケール防止剤)等に好適に使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0016】
〔(メタ)アクリル酸系共重合体(本発明の共重合体ともいう)〕
本発明の共重合体は、下記一般式(1)で表される単量体に由来する構造単位(a)を特定の割合で有することを必須としている。
【0017】
【化4】

【0018】

一般式(1)中、Rは、水素原子またはメチル基を表し、XおよびYは、それぞれ独立に水酸基またはスルホン酸(塩)基を表す(但し、X、Yのうち少なくとも一方はスルホン酸(塩)基を表す)。
スルホン酸(塩)とは、スルホン酸、スルホン酸塩をいう。
スルホン酸塩における塩とは、金属塩、アンモニウム塩、有機アミン塩である。具体的には、ナトリウム塩、リチウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩;マグネシウム塩、カルシウム塩等のアルカリ土類金属塩;鉄の塩等の遷移金属塩;モノエタノールアミン塩、ジエタノールアミン塩、トリエタノールアミン塩等のアルカノールアミン塩;モノエチルアミン塩、ジエチルアミン塩、トリエチルアミン塩等のアルキルアミン塩;エチレンジアミン塩、トリエチレンジアミン塩等のポリアミン等の有機アミンの塩;等が挙げられる。この中でもナトリウム塩、カリウム塩が特に好ましい。
【0019】
上記一般式(1)で表される単量体に由来する構造単位(a)は、具体的には下記一般式(2)で表される。
【0020】
【化5】

【0021】

一般式(2)中、Rは、水素原子またはメチル基を表し、XおよびYは、それぞれ独立に水酸基またはスルホン酸(塩)基を表す(但し、X、Yのうち少なくとも一方はスルホン酸(塩)基を表す)。
本発明の共重合体が「一般式(1)で表される単量体に由来する構造単位(a)」を有するとは、最終的に得られた重合体が、上記一般式(2)で表される構造単位を含むことを意味する。
本発明の共重合体が一般式(1)で表される単量体に由来する構造単位(a)を所定量有することにより、耐ゲル性が顕著に向上する。構造単位(a)はエステル基やアミド基を含まないため、重合体の製造工程や、重合体を含む諸製品の製造工程における条件下においても安定性が高いことから、効率よく耐ゲル性を向上することが可能である。
【0022】
本発明の共重合体は、一般式(1)で表される単量体に由来する構造単位(a)を全単量体由来の構造100モル%に対して、5モル%以上25モル%以下の割合で有する。本発明において、全単量体由来の構造とは、上記一般式(1)で表される単量体に由来する構造単位(a)、(メタ)アクリル酸(塩)に由来する構造(b)、マレイン酸(塩)由来の構造単位(c)、その他の単量体に由来する構造単位(e)をいう。上記一般式(1)で表される構造単位(a)が上記範囲内であれば、共重合体の耐ゲル性が優れたものとなる。上記一般式(1)で表される構造単位(a)が上記範囲より少なくなると、耐ゲル性が低下する傾向にある。上記一般式(1)で表される構造単位(a)が上記範囲より多くなると、炭酸カルシウムへの吸着力が低下すること等に起因して、スケール抑制能が低下する傾向にある。また、本発明の共重合体は、(メタ)アクリル酸(塩)に由来する構造単位(b)及びマレイン酸(塩)由来の構造単位(c)を上記の範囲で含むことにより、カルボキシル基を適正量含むこととなるため、良好な炭酸カルシウムの分散性も示すものとなる。全単量体由来の構造100モル%に対する構造単位(a)の割合は、好ましくは5モル%以上、20モル%以下であり、より好ましくは5モル%以上、15モル%以下であり、さらに好ましくは6モル%以上10モル%以下である。
【0023】
本発明の共重合体は、全単量体に由来する構造単位のモル分率Yを1としたときの、構造単位(b)のモル分率Ybと構造単位(c)のモル分率Ycとの関係が下記一般式で表されることが好ましい。
【0024】
【数1】

【0025】

YbとYcが上記式を満たすことにより、共重合体のカルボン酸(塩)基の含有量が適切なものとなることに起因して、共重合体のスケール抑制能が向上する傾向にある。
【0026】
<(メタ)アクリル酸(塩)由来の構造単位>
本発明の共重合体は、(メタ)アクリル酸(塩)(単量体(B)ともいう)に由来する構造単位(b)を特定の割合で有することを必須としている。
(メタ)アクリル酸(塩)とは、アクリル酸、アクリル酸塩、メタクリル酸、メタクリル酸塩をいう。(メタ)アクリル酸塩における塩とは、上記スルホン酸塩における塩と同様である。同様に、(メタ)アクリル酸塩としては、(メタ)アクリル酸のナトリウム塩、カリウム塩が特に好ましい。
【0027】
(メタ)アクリル酸(塩)に由来する構造単位(b)とは、(メタ)アクリル酸(塩)の重合性の不飽和二重結合が単結合になった構造であり、例えば(メタ)アクリル酸(塩)がアクリル酸ナトリウムの場合、構造単位(b)は、−CH−CH(COONa)−、で表すことができる。本発明の共重合体が「(メタ)アクリル酸(塩)に由来する構造単位(b)」を有するとは、最終的に得られた重合体が、(メタ)アクリル酸(塩)の重合性の不飽和二重結合を単結合に置き換えた構造単位を含むことを意味する。
【0028】
本発明の共重合体は、(メタ)アクリル酸(塩)に由来する構造単位(b)を全単量体由来の構造100モル%に対して、50モル%以上88モル%以下の割合で有する。本発明において、全単量体由来の構造とは、上記の通り、上記一般式(1)で表される単量体に由来する構造単位(a)、(メタ)アクリル酸(塩)に由来する構造単位(b)、マレイン酸(塩)由来の構造単位(c)、その他の単量体に由来する構造単位(e)をいう。
(メタ)アクリル酸(塩)に由来する構造単位(b)が上記範囲内であることにより、共重合体の耐ゲル性やキレート能、炭酸カルシウムの分散性が優れたものとなる傾向にある。全単量体由来の構造100モル%に対する構造単位(b)の割合は、好ましくは60モル%以上88モル%以下であり、より好ましくは70モル%以上88モル%以下であり、さらに好ましくは78モル%以上86モル%以下である。
【0029】
<マレイン酸(塩)由来の構造単位>
本発明の共重合体は、マレイン酸(塩)(単量体(C)ともいう)に由来する構造単位(c)を特定の割合で有することを必須としている。
マレイン酸(塩)とは、マレイン酸、マレイン酸塩(マレイン酸の一塩、マレイン酸の二塩)をいう。マレイン酸塩における塩とは、上記スルホン酸塩における塩と同様である。同様に、マレイン酸塩としては、マレイン酸塩のナトリウム塩、カリウム塩が特に好ましい。
【0030】
マレイン酸(塩)に由来する構造単位(c)とは、マレイン酸(塩)の重合性の不飽和二重結合が単結合になった構造であり、例えばマレイン酸(塩)がマレイン酸1ナトリウムの場合、構造単位(c)は、−CH(COOH)−CH(COONa)−、で表すことができる。本発明の共重合体が「マレイン酸(塩)に由来する構造単位(c)」を有するとは、最終的に得られた重合体が、マレイン酸(塩)の重合性の不飽和二重結合を単結合に置き換えた構造単位を含むことを意味する。
【0031】
本発明の共重合体は、マレイン酸(塩)に由来する構造単位(c)を全単量体由来の構造100モル%に対して、7モル%以上25モル%以下の割合で有する。本発明において、全単量体由来の構造とは、上記の通り、上記一般式(1)で表される単量体に由来する構造単位(a)、(メタ)アクリル酸(塩)に由来する構造単位(b)、マレイン酸(塩)由来の構造単位(c)、その他の単量体に由来する構造単位(e)をいう。
マレイン酸(塩)由来の構造単位(c)が上記範囲内であれば、共重合体の耐ゲル性やキレート能、炭酸カルシウムの分散性が優れたものとなる。全単量体由来の構造100モル%に対する構造単位(c)の割合は、好ましくは7モル%以上20モル%以下であり、より好ましくは7モル%以上15モル%以下であり、さらに好ましくは8モル%以上12モル%以下である。マレイン酸(塩)由来の構造単位(c)が上記範囲より低いと、共重合体の炭酸カルシウム等への吸着力が低下すること等に起因して、スケール抑制能が低下する傾向にある。マレイン酸(塩)由来の構造単位(c)が上記範囲より高いと、共重合体の耐ゲル性が低下すること等に起因して、スケール抑制能が低下する傾向にある。
【0032】
<その他の単量体由来の構造単位>
本発明の共重合体は、上記一般式(1)で表される構造単位(a)、(メタ)アクリル酸(塩)に由来する構造単位(b)、マレイン酸(塩)由来の構造単位(c)に加え、その他の単量体(単量体(E)ともいう)に由来する構造単位(e)を有していても良い。
その他の単量体は、単量体(A)〜(C)のいずれかと共重合可能な単量体であることが好ましい。
その他の単量体は塩であっても良く、その場合の塩は、上記スルホン酸塩における塩と同様である。同様に、塩である場合には、ナトリウム塩、カリウム塩が特に好ましい。
【0033】
その他の単量体由来の構造単位(e)とは、その他の単量体の重合性の不飽和二重結合が単結合になった構造であり、例えば単量体(E)がアクリル酸メチルの場合、その他の単量体に由来する構造単位(e)は、−CH−CH(COOCH)−、で表すことができる。
本発明の共重合体が「その他の単量体に由来する構造単位(e)」を有するとは、最終的に得られた重合体が、その他の単量体の不飽和二重結合を単結合に置き換えた構造単位を含むことを意味する。
【0034】
本発明の共重合体は、その他の単量体に由来する構造単位(e)を全単量体由来の構造100モル%に対して、0モル%以上8モル%以下の割合で有していても良い。本発明において、全単量体由来の構造とは上記の通りである。その他の単量体に由来する構造単位(e)が上記範囲内を超えた場合、耐ゲル性とキレート能を両立できなくなったり、炭酸カルシウムのスケール防止能が低下する傾向にある為、好ましくない。全単量体由来の構造100モル%に対する構造単位(e)の割合は、好ましくは0モル%以上8モル%以下であり、さらに好ましくは0モル%以上5モル%以下であり、特に好ましくは0モル%以上3モル%以下である。
【0035】
その他の単量体(E)としては、特に限定されるものではなく、所望の効果によって適宜選択される。具体的には、クロトン酸、α−ヒドロキシアクリル酸、α−ヒドロキシメチルアクリル酸及びその誘導体等の、上記単量体(B)以外の不飽和モノカルボン酸及びこれらの塩等;イタコン酸、フマル酸、2−メチレングルタル酸等の上記単量体(C)以外の不飽和ジカルボン酸及びこれらの塩;ビニルスルホン酸、1−アクリルアミド−1−プロパンスルホン酸、2−アクリルアミド−2−プロパンスルホン酸、2−(メタ)アクリルアミド−2−メチル−1−プロパンスルホン酸、(メタ)アリルオキシベンゼンスルホン酸、スチレンスルホン酸、スルホエチル(メタ)アクリレート、スルホプロピル(メタ)アクリレート、(メタ)アリルスルホン酸、イソプレンスルホン酸、およびこれらの塩等の単量体(A)以外のスルホン酸基含有単量体;(メタ)アリルアルコール、イソプレノールにアルキレンオキサイドを付加した単量体、アルコキシアルキレングリコールの(メタ)アクリル酸エステル等のポリアルキレングリコール鎖含有単量体;N−ビニルピロリドン、N−ビニルホルムアミド、N−ビニルアセトアミド、N−ビニル−N−メチルホルムアミド、N−ビニル−N−メチルアセトアミド、N−ビニルオキサゾリドン等のN−ビニル単量体;(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミド等のアミド系単量体;(メタ)アリルアルコール等のアリルエーテル系単量体;イソプレノール、等のイソプレン系単量体;ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸アルキルエステル系単量体;ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、α−ヒドロキシメチルエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシペンチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシネオペンチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキル系単量体;スチレン、インデン、ビニルアニリン等のビニルアリール単量体、イソブチレン、酢酸ビニル;ビニルピリジン、ビニルイミダゾール等の複素環式芳香族炭化水素基とアミノ基を有するビニル芳香族系アミノ基含有単量体およびこれらの4級化物や塩;ジメチルアミノエチルアクリレート、ジメチルアミノエチルメタクリレート、ジメチルアミノプロピルアクリレート、アミノエチルメタクリレート等のアミノアルキル(メタ)アクリレート類およびこれらの4級化物や塩;ジアリルアミン、ジアリルジメチルアミン等のアリルアミン類およびこれらの4級化物や塩;(i)(メタ)アリルグリシジルエーテル、イソプレニルグリシジルエーテル、ビニルグリシジルエーテルのエポキシ環に、(ii)ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジイソプロピルアミン、ジn−ブチルアミン等のジアルキルアミン、ジエタノールアミン、ジイソプロパノールアミン等のアルカノールアミン、イミノジ酢酸、グリシン等のアミノカルボン酸、モルホリン、ピロール等の環状アミン類等のアミンを反応させることにより得られる単量体およびこれらの4級化物や塩等、が挙げられる。
また、上記他の単量体(E)は、1種を単独で使用してもあるいは2種以上の混合物の形態で使用されてもよい。
【0036】
<その他の構造単位>
本発明の共重合体は、重合体分子の少なくとも一つの主鎖末端にスルホン酸(塩)基を有することが好ましい。少なくとも一つの主鎖末端にスルホン酸(塩)基を有するとは、1または2以上の主鎖末端にスルホン酸(塩)基を有することをいい、例えば直鎖状の重合体分子であれば2の主鎖末端にスルホン酸(塩)基を有していてもよく、分岐状の重合体分子であれば、3以上の主鎖末端にスルホン酸(塩)基を有していても良い。少なくとも一つの主鎖末端にスルホン酸(塩)基を有することにより耐ゲル性がより向上する傾向にある。共重合体の全質量100質量%に対する、重合体分子の主鎖末端のスルホン酸基の割合(質量%)が、0.01質量%以上、5質量%以下であることがより好ましい。なお、共重合体の全質量に対する、分子末端のスルホン酸基の質量%を計算する場合も、酸換算で計算するものとし、該当する場合にはアミン換算で計算するものとする。
【0037】
共重合体の分子末端にスルホン酸基を含む構造単位を形成する方法としては、単量体(A)、(B)、(C)等を含む単量体を、重亜硫酸(塩)類(亜硫酸、重亜硫酸、亜二チオン酸、メタ重亜硫酸、及びその塩等をいう)の存在下で重合する方法が好ましく用いられる。上記の場合、重亜硫酸(塩)類が連鎖移動剤等として作用することにより、スルホン酸基が重合体分子内に取り込まれることとなる。
共重合体の分子末端のスルホン酸基は例えばHNMR等により測定することができる。
【0038】
<(メタ)アクリル酸系共重合体の分子量>
本発明に係る(メタ)アクリル酸系重合体の重量平均分子量Mwは、1000〜30000、好ましくは5000〜25000、より好ましくは10000〜20000である。重量平均分子量がこの範囲内であれば、上記(メタ)アクリル酸系重合体は、キレート能が向上する傾向にある。そのため、スケール防止剤などの用途に、より一層好適に用いることができる。(メタ)アクリル酸系重合体の重量平均分子量が1000未満の場合には、炭酸カルシウムへの吸着力が低下することに伴い、スケール抑制能が低下する傾向にある。また,(メタ)アクリル酸系重合体の重量平均分子量が30000を超える場合には、炭酸カルシウムに対する凝集作用が働くようになり、スケール抑制能が低下する傾向にある。
【0039】
また、本発明に係る(メタ)アクリル酸系重合体の分散度(Mw/Mn)は、1.5〜10.0、好ましくは1.8〜8.0、より好ましくは2.0〜6.0である。分散度が1.5未満の場合には合成が繁雑となる。一方、分散度が10.0を超える場合には、性能上有効な成分が減少するので性能の低下をまねく恐れがある。
【0040】
なお、上記重量平均分子量(Mw)および数平均分子量(Mn)は、後述の実施例に記載した方法で測定する。
【0041】
<共重合体の耐ゲル性>
本発明における前記耐ゲル性試験とは、500mLのコニカルビーカーに、純水とほう酸−ほう酸ナトリウムpH緩衝液と共重合体水溶液と塩化カルシウム溶液とを順に加え、共重合体を固形分濃度で100mg/L含み、カルシウム濃度が200mgCaCO/L、pH8.5の試験液を各々調製し、ポリ塩化ビニリデンフィルムでシールして90℃の恒温槽に1時間静置し、沈殿の発生有無により耐ゲル性を評価するものである。沈殿が生じた場合、耐ゲル性は著しく低いと言える。また、沈殿が生じなかった場合については、撹拌してから、光路長5cmの石英セルに入れ、UV波長380nmでの吸光度(a)を測定した。ブランクとして、上記の試験液から塩化カルシウム溶液を除いた試験液を用意し、同様の操作を行って吸光度(b)を測定し、下記の式よりゲル化度を求めた。
ゲル化度=(a)−(b)
ゲル化度の数値が小さいほど耐ゲル性が高いと言える。
本発明の共重合体は、ゲル化度が0.100未満であることが好ましい。上記範囲であることにより、水処理剤等の添加剤として好ましく使用することができる。より好ましくは0.050未満である。
【0042】
<共重合体のカルシウム捕捉能>
本発明の(メタ)アクリル酸系共重合体は、良好なカルシウム捕捉能を発現するものであることが好ましい。
カルシウムイオン捕捉能(mgCaCO/g)とは、水溶性重合体1gが捕捉するカルシウムイオンを炭酸カルシウムの量で換算したmg数として定義され、水溶性重合体が水中のカルシウムイオンをどれだけ多く捕捉するかを示す指標である。カルシウムイオン捕捉能が高い水溶性重合体を用いると、水処理剤に添加したときに、水中のカルシウムイオンを捕捉したり,スケールの元となる結晶核に吸着することによりスケールの生成や成長を抑制することが可能となる。
本発明において、カルシウムイオン捕捉能は、後述する実施例において記載した方法および条件で測定される値である。
本発明の共重合体は、カルシウムイオン捕捉能は、200mgCaCO/g以上であることが好ましい。上記範囲であることにより、水処理剤等の添加剤として好ましく使用することができる。より好ましくは220mgCaCO/g以上、さらに好ましくは240mgCaCO/g以上である。カルシウムイオン捕捉能の上限に特に制限はないが、例えば500mgCaCO/g以下である。
【0043】
<共重合体の炭酸カルシウムの分散性>
本発明の(メタ)アクリル酸系共重合体は、良好な炭酸カルシウムの分散性を発現するものであることが好ましい。良好な炭酸カルシウムの分散性を発現することにより、炭酸カルシウムスケールの生成や成長を抑制することが可能となる。
本発明において、炭酸カルシウムの分散性は、後述する実施例において記載した方法および条件で測定される値である。
【0044】
[(メタ)アクリル酸系共重合体の製造方法]
<単量体組成>
本発明の共重合体の製造方法は、全単量体(単量体(A)、(B)、(C)、(E)の合計)使用量100モル%に対して、5モル%以上25モル%以下の一般式(1)で表される単量体(単量体(A))、全単量体の使用量100モル%に対して、50モル%以上88モル%以下の(メタ)アクリル酸(塩)(単量体(B))、7モル%以上25モル%以下のマレイン酸(塩)(単量体(C))、とを必須として共重合することが好ましい。
本発明の共重合体の製造方法においては、上記単量体(A)、単量体(B)、単量体(C)は、それぞれ1種を用いても、2種以上を用いても構わない。本発明の共重合体の製造方法においては、上記単量体(A)、単量体(B)、単量体(C)以外に、必要に応じ、上記その他の単量体(E)を更に共重合させてもよい。
本発明の共重合体の製造方法における単量体(E)の使用割合は、全単量体(単量体(A)、(B)、(C)、(E)の合計)100モル%に対して、0モル%以上、8モル%以下とすることが好ましい。上記任意成分である単量体(E)を使用する場合も、1種を使用しても2種を使用しても良い。
本発明の共重合体の製造方法は、得られる共重合体がより好ましい耐ゲル性や炭酸カルシウムのスケール防止能を発現すると言う観点から、上記共重合体を製造する際に用いる各単量体の組成比は、全単量体100モル%に対して、上記単量体(A)が5モル%以上20モル%以下、上記単量体(B)が60モル%以上88モル%以下、上記単量体(C)が7モル%以上20モル%以下、上記単量体(E)を、0〜8モル%とすることがより好ましい。さらに好ましくは、上記単量体(A)が5モル%以上15モル%以下、上記単量体(B)が70モル%以上88モル%以下、上記単量体(C)が7モル%以上15モル%以下、上記単量体(E)が0〜5モル%であり、特に好ましくは、上記単量体(A)が6モル%以上10モル%以下、上記単量体(B)が78モル%以上86モル%以下、上記単量体(C)が8モル%以上12モル%以下、上記単量体(E)が0〜3モル%である。なお、上記単量体(A)、(B)、(C)及び(E)の合計量は100モル%としている。
【0045】
<開始剤>
本発明の共重合体の製造方法は、上記単量体(A)、(B)、(C)、(E)(単量体組成物ということがある。)を重合開始剤の存在下で重合することが好ましい。
上記開始剤としては、公知のものを使用することができ、例えば、過酸化水素;過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩;ジメチル2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)、2,2’−アゾビス(イソブチロニトリル)、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(イソ酪酸)ジメチル、4,4’−アゾビス(4−シアノ吉草酸)、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)二塩酸塩、2,2’−アゾビス[N−(2−カルボキシエチル)−2−メチルプロピオンアミジン]n水和物、2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]二塩酸塩、2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]二硫酸塩二水和物、1,1’−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)等のアゾ系化合物;過酸化ベンゾイル、過酸化ラウロイル、過酢酸、ジ−t−ブチルパーオキサイド、クメンヒドロパーオキサイド等の有機過酸化物等が好適である。これらの重合開始剤のうち、得られる重合体の耐ゲル性が向上する傾向にあることから、後述する通り、過硫酸塩を使用することが好ましい。
開始剤の使用量は、単量体(A)、(B)、(C)ならびに必要であれば他の単量体(E)の共重合を開始できる量であれば特に制限されないが、以下に特に記載する場合を除き、単量体(A)、(B)、(C)ならびに必要であれば他の単量体(E)からなる全単量体成分1モルに対して、15g以下、より好ましくは1〜12gであることが好ましい。
【0046】
<連鎖移動剤>
本発明の共重合体の製造方法は、必要に応じ、重合に悪影響を及ぼさない範囲内で、重合体の分子量調整剤として連鎖移動剤を用いても良い。連鎖移動剤としては、具体的には、メルカプトエタノール、チオグリセロール、チオグリコール酸、2−メルカプトプロピオン際、3−メルカプトプロピオン際、チオリンゴ酸、チオグリコール酸オクチル、3−メルカプトプロピオン酸オクチル、2−メルカプトエタンスルホン酸、n−ドデシルメルカプタン、オクチルメルカプタン、ブチルチオグリコレート等の、チオール系連鎖移動剤;四塩化炭素、塩化メチレン、ブロモホルム、ブロモトリクロロエタン等の、ハロゲン化物;イソプロパノール、グリセリン等の、第2級アルコール;亜リン酸、次亜リン酸、及びその塩(次亜リン酸ナトリウム、次亜リン酸カリウム等)や、亜硫酸、重亜硫酸、亜二チオン酸、メタ重亜硫酸、及びその塩(重亜硫酸ナトリウム、重亜硫酸カリウム、亜二チオン酸ナトリウム、亜二チオン酸カリウム、メタ重亜硫酸ナトリウム、メタ重亜硫酸カリウム等)等の、低級酸化物およびその塩などが挙げられる。上記連鎖移動剤は、単独で使用されてもあるいは2種以上の混合物の形態で使用されてもよい。
連鎖移動剤を使用すると、製造される共重合体が必要以上に高分子量化することを抑制し、低分子量の共重合体を効率よく製造することができるという利点がある。これらのうち、本発明に係る共重合反応においては、前記のとおり、重亜硫酸塩類を用いることが好適である。これにより、得られる共重合体の主鎖末端に定量的にスルホン酸基を導入することができるととなり、耐ゲル性を向上することが可能となる。また、連鎖移動剤として、重亜硫酸塩類を用いることにより、共重合体(組成物)の色調を改善することができるので好ましい。
本発明の製造方法において、連鎖移動剤の添加量は、単量体(A)、(B)、(C)ならびに必要であれば他の単量体(E)が良好に重合する量であれば制限されないが、以下に特に記載する場合を除き、好ましくは単量体(A)、(B)、(C)ならびに必要であれば他の単量体(E)からなる全単量体成分1モルに対して、1〜20g、より好ましくは2〜15gである。
【0047】
<好ましい開始剤と連鎖移動剤の組み合わせ(開始剤系ともいう)>
本発明の共重合体の製造方法は、開始剤系として、過硫酸塩および重亜硫酸塩類をそれぞれ1種類以上組み合わせて用いることが好ましい。これにより、末端や側鎖にスルホン酸基を導入し、分散能やキレート能に加えて耐ゲル性にも優れた低分子量の水溶性重合体を得、本発明の作用効果を有効に発現させることができる。過硫酸塩に加えて、重亜硫酸塩類を開始剤系に加えることで、得られる重合体が必要以上に高分子量化することが抑制され、低分子量の重合体を効率よく製造することができる。
【0048】
上記過硫酸塩としては、具体的には、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウムおよび過硫酸アンモニウムなどを挙げることができる。
また、本発明において重亜硫酸塩類とは、上記の通りであるが、具体的には、重亜硫酸ナトリウム、重亜硫酸カリウム、重亜硫酸アンモニウムなどを挙げることができる。
上記過硫酸塩および重亜硫酸塩類を併用する場合の添加比率は、過硫酸塩1質量部に対して、重亜硫酸塩類は0.1〜5質量部、好ましくは0.2〜3質量部、より好ましくは0.2〜2質量部の範囲内である。過硫酸塩1質量部に対して重亜硫酸塩類が0.1質量部未満であると、重亜硫酸塩による効果が少なくなる傾向にある。そのため、重合体の末端のスルホン酸基を導入量が低下し、共重合体の耐ゲル性の向上効果が少なくなる傾向にある。また、(メタ)アクリル酸系共重合体の重量平均分子量も高くなる傾向にある。一方、過硫酸塩1質量部に対して重亜硫酸塩類が5質量部を超えると、重亜硫酸塩類による効果が添加比率に伴うほど得られない状態で、重合反応系において重亜硫酸塩類が過剰に供給され(無駄に消費され)る傾向にある。このため、過剰な重亜硫酸塩類が重合反応系で分解され、亜硫酸ガスが多量に発生する。そのほか、(メタ)アクリル酸系共重合体中の不純物が多く生成し、得られる(メタ)アクリル系共重合体の性能が低下する傾向にある。また、低温保持時の不純物が析出しやすくなる傾向にある。
【0049】
上記過硫酸塩および重亜硫酸塩類を使用する場合の添加量は、単量体1モルに対して、過硫酸塩および重亜硫酸塩類の合計量が2〜20g、好ましくは2〜15g、より好ましくは3〜10g、さらに好ましくは4〜8gである。上記過硫酸塩および重亜硫酸塩類の添加量が2g未満の場合には、得られる重合体の分子量が増加する傾向にある。そのほか、得られる(メタ)アクリル酸系共重合体の末端に導入されるスルホン酸基が低下する傾向にある。一方、添加量が20gを超える場合には、過硫酸塩および重亜硫酸塩類の効果が添加量に伴うほど得られなくなり、逆に、得られる(メタ)アクリル酸系共重合体の純度が低下する傾向にある。
【0050】
上記過硫酸塩は、後述する溶媒、好ましくは水に溶解して過硫酸塩の溶液(好ましくは水溶液)の形態で添加されてもよい。該過硫酸塩溶液(好ましくは水溶液)として用いる場合の濃度としては、1〜35質量%、好ましくは5〜35質量%、より好ましくは10〜30質量%である。ここで、過硫酸塩溶液の濃度が1質量%未満の場合には、製品の濃度が低下してしまい、輸送および保管が繁雑となる。一方、過硫酸塩溶液の濃度が35質量%を超える場合には、取り扱いが難しくなる。
【0051】
上記重亜硫酸塩類は、後述する溶媒、好ましくは水に溶解して重亜硫酸塩類の溶液(好ましくは水溶液)の形態で添加されてもよい。該重亜硫酸塩類溶液(好ましくは水溶液)として用いる場合の濃度としては、10〜42質量%、好ましくは20〜42質量%、より好ましくは32〜42質量%である。ここで、重亜硫酸塩類溶液の濃度が10質量%未満の場合には、製品の濃度が低下してしまい、輸送および保管が繁雑となる。一方、重亜硫酸塩類溶液の濃度が42質量%を超える場合には、取り扱いが難しくなる。
【0052】
<その他の添加剤>
本発明の共重合体の製造方法において、上記単量体を水溶液中で重合する際に重合反応系に用いることのできる開始剤や連鎖移動剤以外の他の添加剤としては、本発明の作用効果に影響を与えない範囲で適当な添加剤を適量加えることができる。例えば、重金属濃度調整剤、pH調整剤などが用いられる。
上記重金属濃度調整剤は、特に制限されるべきものではなく、多価金属化合物または単体が利用できる。具体的には、オキシ三塩化バナジウム、三塩化バナジウム、シュウ酸バナジル、硫酸バナジル、無水バナジン酸、メタバナジン酸アンモニウム、硫酸アンモニウムハイポバナダス[(NH)2SO・VSO・6HO]、硫酸アンモニウムバナダス[(NH)V(SO・12HO]、酢酸銅(II)、銅(II)、臭化銅(II)、銅(II)アセチルアセテート、塩化第二銅アンモニウム、塩化銅アンモニウム、炭酸銅、塩化銅(II)、クエン酸銅(II)、ギ酸銅(II)、水酸化銅(II)、硝酸銅、ナフテン酸銅、オレイン酸銅(II)、マレイン酸銅、リン酸銅、硫酸銅(II)、塩化第一銅、シアン化銅(I)、ヨウ化銅、酸化銅(I)、チオシアン酸銅、鉄アセチルアセナート、クエン酸鉄アンモニウム、シュウ酸第二鉄アンモニウム、硫酸鉄アンモニウム、硫酸第二鉄アンモニウム、クエン酸鉄、フマル酸鉄、マレイン酸鉄、乳酸第一鉄、硝酸第二鉄、鉄ペンタカルボニル、リン酸第二鉄、ピロリン酸第二鉄等の水溶性多価金属塩;五酸化バナジウム、酸化銅(II)、酸化第一鉄、酸化第二鉄等の多価金属酸化物;硫化鉄(III)、硫化鉄(II)、硫化銅等の多価金属硫化物;銅粉末、鉄粉末を挙げることができる。
本発明の共重合体の製造方法において、上記重金属濃度調整剤を使用する場合には、例えば得られる(メタ)アクリル酸系共重合体組成物の重金属イオン濃度が0.05〜10ppmになるように使用しても良い。
【0053】
<重合溶媒>
本発明の共重合体の製造方法は、通常は上記単量体を溶媒中で重合することになるが、その際に重合反応系に用いられる溶媒は、水、アルコール、グリコール、グリセリン、ポリエチレングリコール類などの水性の溶媒であることが好ましく、特に好ましくは水である。これらは1種単独で用いてもよいし2種以上を併用してもよい。また、上記単量体の溶媒への溶解性を向上させるために、各単量体の重合に悪影響を及ぼさない範囲で有機溶媒を適宜加えてもよい。
上記有機溶媒は、具体的には、メタノール、エタノールなどの低級アルコール;ジメチルホルムアルデヒドなどのアミド類;ジエチルエーテル、ジオキサンなどのエーテル類;などから、1種類または2種類以上を適宜選択して用いられうる。
上記溶媒の使用量は、単量体全量に対して40〜200質量%、好ましくは45〜180質量%、より好ましくは50〜150質量%の範囲である。該溶媒の使用量が10質量%未満の場合には、分子量が高くなってしまう。一方、該溶媒の使用量が200質量%を超える場合には、製造された(メタ)アクリル酸系共重合体の濃度が低くなり、場合によっては溶媒除去が必要となる。なお、該溶媒の多くまたは全量は、重合初期に反応容器内に仕込んでおけばよいが、例えば溶媒の一部を、単独で重合中に反応系内に適当に添加(滴下)されてもよく、単量体成分や開始剤成分やその他の添加剤を予め溶媒に溶解させた形で、これらの成分と共に重合中に反応系内に適当に添加(滴下)されてもよい。
【0054】
<重合温度>
上記単量体の重合における重合温度は、特に限定はされない。効率よく重合体を製造できることから、重合温度は50℃以上であることが好ましく、70℃以上であることがより好ましい。また重合温度は99℃以下であることが好ましく、95℃以下であることがより好ましい。重合温度が25℃未満の場合には、分子量の上昇、不純物が増加する。そのほか、重合時間が長くかかりすぎるため、生産性が低下する。一方、重合温度を99℃以下にする場合には、開始剤系として重亜硫酸塩を使用する場合に重亜硫酸塩が分解して亜硫酸ガスが多量に発生することを抑制できることから好ましい。ここでの重合温度とは、反応系内の反応溶液温度をいう。
【0055】
特に、室温から重合を開始する方法(室温開始法)の場合には、例えば、1バッチ当たり180分で重合を行なう場合(180分処方)であれば、70分以内に、好ましくは0〜50分間、より好ましくは0〜30分間で設定温度(上記に規定する重合温度の範囲内であればよいが、好ましくは70〜90℃、より好ましくは80〜90℃程度)に達するようにする。その後、重合終了までかかる設定温度を維持することが望ましい。昇温時間が上記範囲を外れる場合には、得られる(メタ)アクリル酸系共重合体が高分子量化する恐れがある。なお、重合時間が180分の例を示したが、重合時間の処方が異なる場合には当該例を参照に、重合時間に対する昇温時間の割合が同様になるように昇温時間を設定するのが望ましい。
【0056】
<反応系の圧力、反応雰囲気>
上記単量体の重合に際して、反応系内の圧力は、特に限定されない。常圧(大気圧)下、減圧下、加圧下の何れの圧力下であってもよい。好ましくは、開始剤系として重亜硫酸塩を使用する場合に、重合中、亜硫酸ガスの放出を防ぎ、低分子量化を可能にするため、常圧または、反応系内を密閉し、加圧下で行うのがよい。また、常圧(大気圧)下で重合を行うと、加圧装置や減圧装置を併設する必要がなく、また耐圧製の反応容器や配管を用いる必要がない。このため、製造コストの観点からは、常圧(大気圧)が好ましい。すなわち、得られる(メタ)アクリル酸系共重合体の使用目的によって、適宜最適な圧力条件を設定すればよい。
反応系内の雰囲気は、空気雰囲気のままで行ってもよいが、不活性雰囲気とするのがよい。例えば、重合開始前に系内を窒素などの不活性ガスで置換することが望ましい。これにより、反応系内の雰囲気ガス(例えば、酸素ガスなど)が液相内に溶解し、重合禁止剤として作用する。その結果、開始剤(過硫酸塩等)が失活して低減するのが防止され、より低分子量化が可能となる。
【0057】
<重合中の中和度>
本発明の製造方法では、上記単量体の重合反応は、酸性条件下で行うのが望ましい。酸性条件下で行うことによって、重合反応系の水溶液の粘度の上昇を抑制し、低分子量の(メタ)アクリル酸系共重合体を良好に製造することができる。しかも、従来よりも高濃度の条件下で重合反応を進行させることができるため、製造効率を大幅に上昇させることができる。特に、重合中の中和度を0〜25mol%と低くすることで、上記開始剤量低減による効果を相乗的に高めることができ、不純物の低減効果を格段に向上させることができる。さらに重合中の反応溶液の25℃でのpHが1〜6となるように調整するのが望ましい。このような酸性条件下で重合反応を行うことにより、高濃度かつ一段で重合を行うことができる。そのため、従来の製造方法では場合によっては必要であった濃縮工程を省略することも可能である。それゆえ、(メタ)アクリル酸系共重合体の生産性が大幅に向上し、製造コストの上昇も抑制しうる。
【0058】
上記酸性条件のうち、重合中の反応溶液の25℃でのpHは1〜6、好ましくは1〜5、より好ましくは1〜4である。該pHが1未満の場合には、例えば開始剤系として重亜硫酸塩を使用する場合に、亜硫酸ガスの発生、装置の腐食が生じるおそれがある。一方、pHが6を超える場合には、開始剤系として重亜硫酸塩類を使用する場合に、重亜硫酸塩類の効率が低下し、分子量が増大する。
【0059】
上記重合中の反応溶液のpHに調整するためのpH調整剤としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム等のアルカリ土類金属の水酸化物、アンモニア、モノエタノールアミン、トリエタノールアミン等の有機アミン塩等が挙げられる。これらは1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中で、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物が好ましく、水酸化ナトリウムが特に好ましい。本発明では、これらのものを単に「pH調整剤」あるいは「中和剤」と言う場合がある。
【0060】
重合中の中和度は0〜25mol%が好ましいが、より好ましくは1〜15mol%、さらに好ましくは2〜10mol%の範囲内である。重合中の中和度がかかる範囲内であれば、最も良好に共重合することが可能であり、不純物を低減し、耐ゲル性の良好な重合体を製造することが可能になる。また、重合反応系の水溶液の粘度が上昇することがなく、低分子量の重合体を良好に製造することができる。しかも、従来よりも高濃度の条件下で重合反応を進行させることができるため、製造効率を大幅に上昇させることができる。一方、重合中の中和度が25mol%を超える場合には、重亜硫酸塩類の連鎖移動効率が低下し、分子量が上昇する場合がある。そのほか、重合が進行するに伴い重合反応系の水溶液の粘度の上昇が顕著となる。その結果、得られる重合体の分子量が必要以上に増大して低分子量の重合体が得られなくなる。さらに、上記中和度低減による効果を十分に発揮できず、不純物を大幅に低減するのが困難になる場合がある。
【0061】
ここでの中和の方法は、特に制限されない。例えば、(メタ)アクリル酸ナトリウムなどの(メタ)アクリル酸の塩を原料の一部として使用しても良いし、中和剤として、水酸化ナトリウムなどのアルカリ金属の水酸化物等を用いて重合中に中和しても良いし、これらを併用してもよい。また、中和の際の中和剤の添加形態は、固体であってもよいし、適当な溶媒、好ましくは水に溶解した水溶液であってもよい。水溶液を用いる場合の水溶液の濃度は、10〜60質量%、好ましくは20〜55質量%、より好ましくは30〜50質量%である。該水溶液の濃度が10質量%未満の場合には、製品の濃度が低下してしまい、輸送および保管が繁雑となる。一方、60質量%を超える場合には、析出のおそれがあり、粘度も高くなるので送液が繁雑となる。
【0062】
<原料の添加条件>
重合に際しては、上記単量体(A)、(B)、(E)、開始剤、連鎖移動剤その他の添加剤は、これらを予め適当な溶媒(好ましくは被滴下液用の溶媒と同種の溶媒)に溶解し、単量体溶液、開始剤溶液および連鎖移動剤溶液その他の添加剤溶液として、それぞれを反応容器内に仕込んだ(水性の)溶媒(必要があれば所定の温度に調節したもの)に対して、所定の滴下時間に渡って連続的に滴下しながら重合することが好ましい。
上記単量体(C)については、残存単量体が減少し、得られる重合体のキレート能が向上することから、一部または全部を重合開始前に反応系に添加しておくこと(初期仕込み)が好ましい。
さらに水性の溶媒の一部については、反応系内の容器に予め仕込んでなる初期仕込みの溶媒とは別に、後から滴下してもよい。ただし、本発明の製造方法は、これらに制限されない。例えば、滴下方法に関しては、連続的に滴下しても、断続的に何度かに小分けして滴下してもよい。単量体の1種または2種以上を、一部または全量を初期仕込みしてもよい(すなわち、重合開始時に一時に全量ないしその一部を滴下したものと見なすこともできる)。また、単量体の1種または2種以上の滴下速度(滴下量)も、滴下の開始から終了まで常に一定(一定量)として滴下してもよいし、あるいは重合温度等に応じて経時的に滴下速度(滴下量)を変化させてもよい。また、すべての滴下成分を同じように滴下せずとも、滴下成分ごとに開始時や終了時をずらせたり、滴下時間を短縮させたり延長させてもよい。このように、本発明の製造方法は、本発明の作用効果を損なわない範囲で適当に変更可能である。また、溶液の形態で各成分を滴下する場合には、反応系内の重合温度と同程度まで滴下溶液を加温しておいてもよい。こうしておくと、重合温度を一定に保持する場合に、温度変動が少なく温度調整が容易である。
【0063】
開始剤系として重亜硫酸塩類を使用する場合に、重亜硫酸塩類は、重合初期の分子量が最終分子量に大きく影響する。このため、初期分子量を低下させるために、重合開始より60分以内、好ましくは30分以内、より好ましくは10分以内に重亜硫酸塩類ないしその溶液を5〜20質量%添加(滴下)するのが望ましい。特に、後述するように、室温から重合を開始する場合には有効である。
【0064】
また、重合の際の滴下成分のうち、開始剤系として重亜硫酸塩類を使用する場合における、重亜硫酸塩類ないしその溶液の滴下時間については、単量体の滴下終了よりも1〜30分、好ましくは1〜20分、より好ましくは1〜15分滴下終了を早めることが好ましい。これにより、重合終了後の重亜硫酸塩類量を低減でき、該重亜硫酸塩類による亜硫酸ガスの発生や不純物の形成を有効かつ効果的に抑制することができる。そのため重合終了後、気相部の亜硫酸ガスが液相に溶解してできる不純物を格段に低減することができる。重合終了後に重亜硫酸塩類が残存する場合には、不純物を生成し重合体の性能低下や低温保持時の不純物析出等を招くことにつながる。したがって、重合の終わりには重亜硫酸塩類を含む開始剤が消費され残存していないことが望ましい。
【0065】
ここで、重亜硫酸塩類(溶液)の滴下終了時間を、単量体の滴下終了時間よりも1分未満しか早めることができない場合には、重合終了後に重亜硫酸塩類が残存する場合がある。かような場合としては、重亜硫酸塩類ないしその溶液の滴下終了と単量体の滴下終了が同時である場合や、重亜硫酸塩類(溶液)の滴下終了の方が単量体の滴下終了よりも遅い場合が含まれる。こうした場合には亜硫酸ガスの発生や不純物の形成を有効かつ効果的に抑制しにくくなる傾向にあり、残存する開始剤が得られる重合体の熱的安定性に悪影響を及ぼす場合がある。一方、重亜硫酸塩類ないしその溶液の滴下終了時間が単量体の滴下終了時間よりも30分を超えて早い場合には、重合終了までに重亜硫酸塩類が消費されてしまっている。このため、分子量が増大する傾向にある。そのほか、重合中に重亜硫酸塩類の滴下速度が単量体の滴下速度に比して速く、短時間で多く滴下されるために、この滴下期間中に不純物や亜硫酸ガスが多く発生する傾向にある。
【0066】
また、重合の際の滴下成分のうち、開始剤系として重亜硫酸塩類を使用する場合における、過硫酸塩(溶液)の滴下終了時間は、単量体の滴下終了時間よりも1〜30分、好ましくは1〜25分、より好ましくは1〜20分遅らせることが好ましい。これにより、重合終了後に残存する単量体成分量を低減できるなど、残存モノマーに起因する不純物を格段に低減することができる。
【0067】
ここで、過硫酸塩(溶液)の滴下終了時間が単量体の滴下終了時間よりも1分未満しか遅くすることができない場合には、重合終了後に単量体成分が残存する場合がある。かような場合としては、過硫酸塩(溶液)の滴下終了と単量体の滴下終了が同時である場合や、過硫酸塩(溶液)の滴下終了の方が単量体の滴下終了よりも早い場合が含まれる。こうした場合には、不純物の形成を有効かつ効果的に抑制するのが困難となる傾向にある。一方、過硫酸塩(溶液)の滴下終了時間が単量体の滴下終了時間よりも30分を超えて遅い場合には、重合終了後に過硫酸塩またはその分解物が残存し、不純物を形成する恐れがある。
【0068】
<重合時間>
重合に際しては、重合温度を低くして開始剤系として重亜硫酸塩を使用する場合においても、亜硫酸ガスの発生を抑え、不純物の形成を防止することがより重要である。このため、重合の際の総滴下時間は、120〜600分、好ましくは150〜450分、より好ましくは180〜300分と長くすることが好ましい。総滴下時間が120分未満の場合には、開始剤系として添加する過硫酸塩溶液および重亜硫酸塩溶液による効果が低下する傾向にある。そのため、得られる(メタ)アクリル酸系共重合体に対して、末端や側鎖に導入されるスルホン酸基等の硫黄含有基の量が低下する傾向にある。その結果、該重合体の重量平均分子量が高くなる傾向にある。また、反応系内に短期間に滴下されることで過剰に重亜硫酸塩が存在することが起こり得る。このため、こうした過剰な重亜硫酸塩が分解して亜硫酸ガスが発生し、系外に放出されたり、不純物を形成したりすることがある。ただし、重合温度および開始剤量を低い特定の範囲で実施することにより改善する傾向にある。一方、総滴下時間が600分を越える場合には、亜硫酸ガスの発生が抑えられるため、得られる重合体の性能は良好である。しかし、(メタ)アクリル酸系共重合体の生産性が低下し、使用用途が制限される場合がある。ここでいう総滴下時間とは、最初の滴下成分(1成分とは限らない)の滴下開始時から最後の滴下成分(1成分とは限らない)を滴下完了するまでの時間をいう。
【0069】
<重合濃度>
上記各成分の滴下が終了し、重合反応系における重合反応が終了した時点での水溶液中の固形分濃度(すなわち単量体の重合固形分濃度)は、好ましくは35質量%以上、より好ましくは40〜70質量%、更に好ましくは45〜65質量%である。このように重合反応終了時の固形分濃度が35質量%以上であれば、高濃度かつ一段で重合を行うことができる。そのため、効率よく低分子量の(メタ)アクリル酸系共重合体を得ることができる。例えば、従来の製造方法では場合によっては必要であった濃縮工程を省略することができる。それゆえ、その製造効率を大幅に上昇させたものとすることができる。その結果、(メタ)アクリル酸系共重合体の生産性が大幅に向上し、製造コストの上昇も抑制することが可能となる。
【0070】
ここで、上記固形成濃度が35質量%未満の場合には、(メタ)アクリル酸系共重合体の生産性を大幅に向上することができない場合がある。例えば、濃縮工程を省略することが困難となる。
【0071】
重合反応系において固形分濃度を高くすると、重合反応の進行に伴う反応溶液の粘度の上昇が顕著となり、得られる重合体の重量平均分子量も大幅に高くなる傾向にある。しかしながら、重合反応を酸性側(25℃でのpHが1〜6であり、カルボン酸の中和度が0〜25mol%の範囲)で行うことにより、重合反応が進行に伴う反応溶液の粘度の上昇を抑制することができる。それゆえ、重合反応を高濃度の条件下で行っても低分子量の重合体を得ることができ、重合体の製造効率を大幅に上昇させることができる。
【0072】
ここで、重合反応が終了した時点とは、全ての滴下成分の滴下が終了した時点であってもよいが、好ましくはその後、所定の熟成時間を経過し(重合が完結し)た時点を言う。
【0073】
<熟成工程>
上記熟成時間は、通常1〜120分間、好ましくは5〜90分間、より好ましくは10〜60分間である。熟成時間が1分間未満の場合には、熟成不十分につき単量体成分が残ることがあり、残存モノマーに起因する不純物を形成し性能低下などを招くおそれがある。一方、熟成時間が120分間を超える場合には、重合体溶液の着色の恐れがある。そのほか、既に重合が完結しており、更なる重合温度を印加することは不経済である。
【0074】
また、熟成中は、上記重合反応期間内であり、重合中に含まれるため、上記重合温度が適用される。したがって、ここでの温度も一定温度(好ましくは滴下終了時点での温度)で保持してもよいし、熟成中に経時的に温度を変化させてもよい。したがって、重合時間は、上記総滴下時間+熟成時間をいい、最初の滴定開始時点から熟成終了時点までに要した時間をいう。
【0075】
<重合後の工程>
本発明に係る(メタ)アクリル酸系共重合体の製造方法では、重合は、上記の通り酸性条件下で行われることが好ましい。そのため、得られる(メタ)アクリル酸系共重合体のカルボン酸の中和度(カルボン酸最終中和度)は、重合が終了した後に、必要に応じて、後処理として適当なアルカリ成分を適宜添加することによって所定の範囲に設定されても良い。
【0076】
該最終中和度は、その使用用途によって異なるため特に制限されるべきものではない。酸性の重合体として使用する場合のカルボン酸最終中和度は、好ましくは0〜75mol%、より好ましくは0〜70mol%である。中性ないしアルカリ性の重合体として使用する場合のカルボン酸最終中和度は、好ましくは75〜100mol%、より好ましくは85〜99mol%である。また、中性ないしアルカリ性の重合体として使用する場合の最終中和度が99mol%を超える場合には重合体水溶液が着色する恐れがある。
【0077】
上記アルカリ成分としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属の水酸化物;水酸化カルシウム、水酸化マグネシウムなどのアルカリ土類金属の水酸化物;アンモニア、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミンなどの有機アミン類で代表されるようなものが挙げられる。上記アルカリ成分は1種類のみを用いても良いし、2種類以上の混合物を用いても良い。
【0078】
また、上述したように酸性のまま中和せずに使用するような場合には、反応系内が酸性のため、反応系内の雰囲気中に毒性のある亜硫酸ガス(SOガス)が残存している場合がある。こうした場合には、過酸化水素などの過酸化物を入れて分解するか、あるいは空気や窒素ガスを導入(ブロー)して追い出しておくのが望ましい。
【0079】
<その他の製造条件>
本発明の(メタ)アクリル酸系共重合体は、バッチ式で製造されてもよいし、連続式で製造されてもよい。
【0080】
[本発明の共重合体組成物]
本発明の共重合体組成物は、本発明の(メタ)アクリル酸系共重合体を必須として含有し、本発明の共重合体のみを含んでいても良いが、通常はその他に、重合開始剤残渣、残存単量体、重合時の副生成物、水分から選ばれる1以上を含有する。本発明の共重合体組成物は、本発明の共重合体組成物100質量%に対し、本発明の共重合体を1〜100質量%含有することが好ましい。好ましい共重合体組成物の形態の一つは、共重合体を40〜60質量%含有し、水を40〜60質量%含有する形態である。
共重合体組成物の炭酸カルシウムの分散性等の物性に影響することから、残存単量体はなるべく少ないことが好ましい。具体的には、残存マレイン酸(塩)が共重合体組成物の固形分に対して3000ppm以下であることが好ましい。ここで、マレイン酸(塩)は酸型換算(すなわち、マレイン酸塩の場合、酸型であるマレイン酸として質量%を計算する。)で残存マレイン酸量を計算するものとする。
【0081】
[本発明の共重合体、共重合体組成物の用途]
本発明の共重合体(または共重合体組成物)は、水処理剤、スケール防止剤(スケール抑制剤)、繊維処理剤、分散剤、金属イオン封止剤、増粘剤、各種バインダー、乳化剤、スキンケア剤、ヘアケア剤等として用いられうる。
【0082】
<水処理剤>
本発明の共重合体(または共重合体組成物)は、水処理剤に用いることができる。該水処理剤には、必要に応じて、他の配合剤として、重合リン酸塩、ホスホン酸塩、防食剤、スライムコントロール剤、キレート剤を用いても良い。
【0083】
上記水処理剤は、冷却水循環系、ボイラー水循環系、海水淡水化装置、逆浸透膜処理装置、パルプ蒸解釜、黒液濃縮釜等でのスケール防止に有用である。また、性能、効果に影響しない範囲で、任意の適切な水溶性重合体を含んでもよい。
【0084】
<繊維処理剤>
本発明の共重合体(または共重合体組成物)は、繊維処理剤に用いることができる。該繊維処理剤は、染色剤、過酸化物および界面活性剤からなる群より選ばれる少なくとも1つと、本発明の共重合体(または共重合体組成物)を含む。
【0085】
上記繊維処理剤における本発明の共重合体の含有量は、繊維処理剤全体に対して、好ましくは1〜100重量%であり、より好ましくは5〜100重量%である。また、性能、効果に影響しない範囲で、任意の適切な水溶性重合体を含んでいてもよい。
【0086】
以下に、より実施形態に近い、繊維処理剤の配合例を示す。この繊維処理剤は、繊維処理における精錬、染色、漂白、ソーピングの工程で使用することができる。染色剤、過酸化物および界面活性剤としては繊維処理剤に通常使用されるものが挙げられる。
【0087】
本発明の共重合体と、染色剤、過酸化物および界面活性剤からなる群より選ばれる少なくとも1つとの配合比率は、例えば、繊維の白色度、色むら、染色けんろう度の向上のためには、繊維処理剤純分換算で、本発明の共重合体1重量部に対して、染色剤、過酸化物および界面活性剤からなる群より選ばれる少なくとも1つを0.1〜100重量部の割合で配合された組成物を繊維処理剤として用いることが好ましい。
【0088】
上記繊維処理剤を使用できる繊維としては、任意の適切な繊維を採用し得る。例えば、木綿、麻等のセルロース系繊維、ナイロン、ポリエステル等の化学繊維、羊毛、絹糸等の動物性繊維、人絹等の半合成繊維およびこれらの織物および混紡品が挙げられる。
【0089】
上記繊維処理剤を精錬工程に適用する場合は、本発明の共重合体と、アルカリ剤および界面活性剤とを配合することが好ましい。漂白工程に適用する場合では、本発明の共重合体と、過酸化物と、アルカリ性漂白剤の分解抑制剤としての珪酸ナトリウム等の珪酸系薬剤とを配合することが好ましい。
【0090】
<無機顔料分散剤>
本発明の共重合体(または共重合体組成物)は、無機顔料分散剤に用いることができる。該無機顔料分散剤には、必要に応じて、他の配合剤として、縮合リン酸およびその塩、ホスホン酸およびその塩、ポリビニルアルコールを用いても良い。
【0091】
上記無機顔料分散剤中における、本発明の共重合体の含有量は、無機顔料分散剤全体に対して、好ましくは5〜100重量%である。また性能、効果に影響しない範囲で、任意の適切な水溶性重合体を含んでいてもよい。
【0092】
上記無機顔料分散剤は、紙コーティングに用いられる重質ないしは軽質炭酸カルシウム、クレイの無機顔料の分散剤として良好な性能を発揮し得る。例えば、無機顔料分散剤を無機顔料に少量添加して水中に分散することにより、低粘度でしかも高流動性を有し、かつ、それらの性能の経日安定性が良好な、高濃度炭酸カルシウムスラリーのような高濃度無機顔料スラリーを製造することができる。
【0093】
上記無機顔料分散剤を無機顔料の分散剤として用いる場合、該無機顔料分散剤の使用量は、無機顔料100重量部に対して、0.05〜2.0重量部が好ましい。該無機顔料分散剤の使用量が上記範囲内にあることによって、十分な分散効果を得ることが可能となり、添加量に見合った効果を得ることが可能となり、経済的にも有利となり得る。
【実施例】
【0094】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」は「質量部」を、「%」は「質量%」を意味するものとする。
また、単量体の定量、共重合体の重量平均分子量の測定及び評価は、下記方法に従って行なった。
【0095】
<単量体の定量方法>
単量体等の含有量の測定は、下記条件で、液体クロマトグラフィーを用いて行なった。
装置:株式会社日立製作所製 L−7000シリーズ
検出器:株式会社日立製作所製 UV検出器 L−7400
カラム:昭和電工株式会社製 Shodex RSpak DE−413L
流量:1.0ml/min
カラム温度:40℃
移動相:0.1%リン酸水溶液。
【0096】
<重量平均分子量の測定条件>
装置:東ソー株式会社製HLC−8320GPC
検出器:RI
カラム:昭和電工株式会社製 Shodex Asahipak GF−310−HQ, GF−710−HQ, GF−1G 7B
カラム温度:40℃
流速:0.5ml/min
検量線:創和科学株式会社製 POLYACRYLIC ACID STANDARD
溶離液:0.1N酢酸ナトリウム水溶液。
【0097】
<固形分の測定>
120℃に加熱したオーブンで本発明の共重合体(本発明の共重合体組成物1.0gに水1.0gを加えたもの)を2時間放置して乾燥処理した。乾燥前後の重量変化から、固形分(%)と、揮発成分(%)を算出した。
【0098】
<耐ゲル性の測定>
前述の耐ゲル性試験により、測定した。
【0099】
<キレート能(カルシウムイオン捕捉能)の測定>
容量100ccのビーカーに、0.001mol/Lの塩化カルシウム水溶液50gを採取し、共重合体を固形分換算で10mg添加した。次に、この水溶液のpHを希水酸化ナトリウムで9〜11に調整した。その後、撹拌下、カルシウムイオン電極安定剤として、4mol/Lの塩化カリウム水溶液1mlを添加した。
イオンアナライザー(EA920型,オリオン社製)及びカルシウムイオン電極(93−20型,オリオン社製)を用いて、遊離のカルシウムイオンを測定し、共重合体1g当たり、炭酸カルシウム換算で何mgのカルシウムイオンがキレートされたか(キレート能の1種であるカルシウムイオン捕捉能)を計算で求めた。カルシウムイオン捕捉能の単位は「mgCaCO/g」である。
【0100】
<共重合体の炭酸カルシウム分散性>
試験管(IWAKI GLASS製:直径18mm,高さ180mm)に炭酸カルシウム(和光純薬社製,和光1級)0.3gを入れた後、炭酸カルシウムを含めて合計30gとなるようにほう酸−ほう酸ナトリウムpH緩衝液と純水と共重合体水溶液とを順に加えて、共重合体を固形分濃度で50mg/L含む、pH8.5の分散性試験液を調製した。蓋をして密封した後、試験管を振って炭酸カルシウムを均一に分散させた。その後,試験管を室温(約20℃)で3時間静置した。3時間後の外観を観察して、炭酸カルシウムが十分に分散した状態を保って試験液上部まで白濁している場合は、炭酸カルシウムの分散性が高いと言える。
以下の基準で判断した。
○:試験液上部まで白濁している。
×:試験液上部まで白濁していない。
【0101】
<実施例1>
温度計、還流冷却器、攪拌機を備えた容量2.5LのSUS316製のセパラブルフラスコに、純水346.6gと、無水マレイン酸(以下、MAと称す)58.8g(0.6mol)と、モール塩0.0299g(総仕込み量に対する鉄(II)の質量(ここで、総仕込み量とは、重合完結後の中和工程を含む、全ての投入物重量をいう。以下同様とする。)に換算すると3ppm)を仕込み、攪拌下、87℃に昇温した(初期仕込み)。
次いで攪拌下、87℃一定状態の重合反応系中に80質量%アクリル酸水溶液(以下、80%AAと称す)432.4g(4.8mol)、40質量%3−アリルオキシ−2−ヒドロキシ−1−プロパンスルホン酸ナトリウム水溶液(以下、40%HAPSと称す)327.0g(0.6mol)、15質量%過硫酸ナトリウム水溶液(以下15%NaPSと称す)144.0g、35質量%重亜硫酸ナトリウム水溶液(以下、35%SBSと称す)92.6g、をそれぞれ別個の滴下ノズルより滴下した。それぞれの滴下時間は、80%AAを180分間、40%HAPSを120分間、35%SBSを170分間,15%NaPSを200分間とした。また、滴下開始時間に関しては各滴下液はすべて同時に滴下を開始した。15%NaPSは72.0gを0−130分に一定の滴下速度で連続的に滴下し、残り72.0gを130−200分に一定の滴下速度で連続的に滴下した。80%AAと40%HAPSと35%SBSはそれぞれの滴下時間の間、滴下速度は一定とし、連続的に滴下した。
滴下終了後、さらに30分間に渡って反応溶液を87℃に保持して熟成し重合を完結せしめた。このようにして、固形分濃度が42質量%の本発明の共重合体組成物(重合体組成物(1))を得た(含まれる本発明の共重合体を重合体(1)とする)。
【0102】
<実施例2〜4>
実施例1において、表1に記載した条件を変更した以外は実施例1と同様にして、重合体組成物(2)〜(4)を得た(含まれる共重合体をそれぞれ重合体(2)〜(4)とする)。
【0103】
【表1】

【0104】

<比較例1>
温度計、還流冷却器、攪拌機を備えた容量2.5LのSUS316製のセパラブルフラスコに、純水300.0gを仕込み、攪拌下、沸点まで昇温した(初期仕込み)。
次いで攪拌下、沸点還流状態の重合反応系中に80%AA720.0g(8.0mol)、15%NaPS106.7g、35%SBS182.9g、純水126.5gとを,それぞれ別個の滴下ノズルより、120分間かけて滴下した。また、滴下開始時間に関しては各滴下液はすべて同時に滴下を開始した。
滴下終了後、さらに30分間に渡って反応溶液を沸点還流状態に保持して熟成し重合を完結せしめた。その後、48%水酸化ナトリウム(以下、48%NaOHと称す)600gを得られた反応溶液中に撹拌しながら徐々に滴下して中和した。このようにして、固形分濃度が46質量%の比較重合体組成物(比較重合体組成物(1))を得た(含まれる比較重合体を比較重合体(1)とする)。
【0105】
<比較例2〜4>
比較重合体(2)として、構成単位(a):構成単位(b):構成単位(c)が10:45:45、Mwが11,000の重合体、比較重合体(3)として、構成単位(a):構成単位(b):構成単位(c)が10:55:55、Mwが27,000の重合体、比較重合体(4)として、構成単位(b):構成単位(c)が90:10、Mwが11,000の重合体を使用した。
【0106】
<実施例6>
得られた重合体(1)〜(4)、および比較重合体(1)〜(4)を用いて、上記に記載した方法で、それぞれの分子量の測定、炭酸カルシウム分散性の評価、耐ゲル化試験、残存マレイン酸量の測定を行なった。結果を下記表2に示す。
【0107】
【表2】

【0108】

上記評価結果から、本発明の共重合体は、従来の重合体と比較して良好な炭酸カルシウムの分散性、および耐ゲル性を有することが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0109】
本発明の共重合体は、高い耐ゲル性と炭酸カルシウムの分散性、キレート能を有する。したがって、水処理剤(特にスケール防止剤)、分散剤等の添加剤に用いた場合に特に優れた性能を発揮できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
全単量体由来の構造100モル%に対して、5モル%以上25モル%以下の下記一般式(1)で表される単量体に由来する構造単位(a)、50モル%以上88モル%以下の(メタ)アクリル酸(塩)由来の構造単位(b)、7モル%以上25モル%以下のマレイン酸(塩)由来の構造単位(c)を必須構造単位として有する共重合体であって、重量平均分子量が1000〜30000であることを特徴とする(メタ)アクリル酸系共重合体。
【化1】


一般式(1)中、Rは、水素原子またはメチル基を表し、XおよびYは、それぞれ独立に水酸基またはスルホン酸(塩)基を表す(但し、X、Yのうち少なくとも一方はスルホン酸(塩)基を表す)。
【請求項2】
請求項1に記載の(メタ)アクリル酸系共重合体を含む共重合体組成物であって、
マレイン酸の含有量が共重合体組成物の固形分に対し、0〜3000ppmである、
共重合体組成物。
【請求項3】
全単量体100モル%に対して、5モル%以上25モル%以下の下記一般式(1)で表される単量体、50モル%以上88モル%以下の(メタ)アクリル酸(塩)、7モル%以上25モル%以下のマレイン酸(塩)、
を必須として、共重合することを特徴とする請求項1または2に記載の(メタ)アクリル酸系共重合体の製造方法。
【化2】


一般式(1)中、Rは、水素原子またはメチル基を表し、XおよびYは、それぞれ独立に水酸基またはスルホン酸(塩)基を表す(但し、X、Yのうち少なくとも一方はスルホン酸(塩)基を表す)。
【請求項4】
請求項1に記載の(メタ)アクリル酸系共重合体を含む水処理剤。

【公開番号】特開2012−224680(P2012−224680A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−91433(P2011−91433)
【出願日】平成23年4月15日(2011.4.15)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】