説明

(メタ)アクリル酸系重合体の製造方法

【課題】電解液への溶出成分が少ない(メタ)アクリル酸系重合体の製造方法を提供することと重合体を単離する工程おいて、得られる(メタ)アクリル酸系重合体の密着、凝集を防ぎ、さらに、ろ過効率の低下を防止すること。
【解決手段】(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジニル)(メタ)アクリレートを不活性炭化水素系溶媒に溶解した後、高分子分散剤及び重合開始剤の存在下、水中で懸濁重合する重合工程、及び、前記重合工程後に蒸留により不活性炭化水素系溶媒を除去する蒸留工程を有する(メタ)アクリル酸系重合体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、(メタ)アクリル酸系重合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ノート型パソコンや携帯電話等の携帯電子機器、電気自動車等に用いられる二次電池は、エネルギー密度が高いこと、小型であること、大きな電流を流せること、サイクル特性に優れること等の特性が要求されている。これらの特性を満足させる二次電池用電極の活物質として、ポリ(2,2,6,6−テトラメチルピペリジノキシメタクリレート)(PTMA)に代表されるラジカル材料が提案されている(特許文献1参照)。
【0003】
前記PTMA等のラジカル材料の製造方法としては、(メタ)アクリル酸化合物を架橋剤の存在下で重合した後、触媒存在下でニトロキシド化を行い(メタ)アクリル酸系重合体を得る方法;(メタ)アクリル酸化合物を触媒存在下でニトロキシド化した後、架橋剤の存在下で重合して(メタ)アクリル酸系重合体を得る方法(何れも特許文献2参照)等が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−304996号公報
【特許文献2】国際公開WO2005/116092号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献2に記載の方法で製造した(メタ)アクリル酸系重合体は、例えば、二次電池用電極等に使用した際、電極に含まれる成分がジエチルカーボネート等の電解液へ溶出して、溶出成分がセパレータの閉塞を引き起こし、充放電を繰り返す毎に電池性能が劣化し、電池としての機能が損なわれる場合がある。
【0006】
本発明の目的は、電解液への溶出成分が少ない(メタ)アクリル酸系重合体の製造方法を提供することにある。
また、本発明の他の目的は、(メタ)アクリル酸系重合体を単離する工程おいて、得られる(メタ)アクリル酸系重合体の密着、凝集を防ぎ、さらに、ろ過効率の低下を防ぐことにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、
項1.下記式(1)で表される(メタ)アクリル酸系化合物を不活性炭化水素系溶媒に溶解した後、高分子分散剤及び重合開始剤の存在下、水中で懸濁重合する重合工程、及び、前記重合工程後に蒸留により不活性炭化水素系溶媒を除去する蒸留工程
を有する(メタ)アクリル酸系重合体の製造方法、
【0008】
【化1】

【0009】
式中、Rは水素原子またはメチル基を示し、Zは水素原子または不対電子1つを有する酸素原子を示す、
項2.不活性炭化水素系溶媒を除去する蒸留工程を、界面活性剤の存在下で行う項1に記載の(メタ)アクリル酸系重合体の製造方法、
に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、電解液への溶出成分が少ない(メタ)アクリル酸系重合体を得ることができる。また、(メタ)アクリル酸系重合体を単離する工程おいて、得られる(メタ)アクリル酸系重合体の密着、凝集を防ぎ、さらに、ろ過効率の低下を防止することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の(メタ)アクリル酸系重合体の製造方法では、下記式(1)で表される(メタ)アクリル酸系化合物を不活性炭化水素系溶媒に溶解した後、高分子分散剤及び重合開始剤の存在下、水中で懸濁重合する重合工程を行う。
【0012】
【化2】

【0013】
式中、Rは水素原子またはメチル基を示し、Zは水素原子または不対電子1つを有する酸素原子を示す。
【0014】
本発明は、(メタ)アクリル酸系化合物を重合する方法として、懸濁重合を用いる。
前記懸濁重合の具体例としては、例えば、攪拌機、温度計、窒素ガス導入管および冷却管を備えた反応器を用いて、高分子分散剤を水に混合した水層に、(メタ)アクリル酸系化合物、ならびに、必要により架橋剤および/または(メタ)アクリル酸アルキルエステルを不活性炭化水素系溶媒に混合した有機層を、攪拌下で添加、混合して懸濁液とした後、窒素ガスにより脱酸素し、重合開始剤を添加して、加熱する方法が挙げられる。
【0015】
式(1)で表される(メタ)アクリル酸系化合物の具体例としては、(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジニル)アクリレート、(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジニル)メタクリレート等の(メタ)アクリル酸イミノ化合物;(2,2,6,6−テトラメチル−ピペリジン−N−オキシル−4−イル)アクリレート、(2,2,6,6−テトラメチル−ピペリジン−N−オキシル−4−イル)メタクリレート等の(メタ)アクリル酸ニトロキシド化合物が挙げられる。なお、本明細書において、「(メタ)アクリル酸」とは「アクリル酸」および「メタクリル酸」を、「(メタ)アクリレート」とは「アクリレート」および「メタクリレート」を意味する。
【0016】
前記(メタ)アクリル酸イミノ化合物は、市販品を用いることができる。また、前記(メタ)アクリル酸ニトロキシド化合物は、例えば、(メタ)アクリル酸イミノ化合物を酸化することにより製造することができる(特許文献2参照)。
【0017】
前記高分子分散剤としては、懸濁液中における重合前の(メタ)アクリル酸系化合物の分散安定性、および重合後に生成する(メタ)アクリル酸系重合体の分散安定性を向上させるものであれば特に限定されず、各種公知の高分子分散剤を用いることができる。
また、高分子形態についても、特に限定されず、ブロック共重合体、グラフト共重合体、ランダム共重合体等が挙げられる。これらの中でも、ブロック共重合体およびグラフト共重合体は、(メタ)アクリル酸系重合体の分散安定性を向上させるだけでなく、高分子分散剤の分子量および親水性モノマーと疎水性モノマーの共重合比によって、得られる(メタ)アクリル酸系重合体の粒子径を制御できるため好ましい。
【0018】
前記高分子分散剤の具体例としては、ゼラチン、ガゼイン、アルブミン等のタンパク質類;アラビアゴム、トラガントゴム、キサンタンガム等の天然ゴム類;サポニン等のグルコシド類;アルギン酸およびアルギン酸プロピレングリコールエステル、アルギン酸トリエタノールアミン、アルギン酸アンモニウム等のアルギン酸誘導体;メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等のセルロース誘導体;ポリビニルアルコール類;ポリビニルピロリドン類;ポリアクリル酸、アクリル酸−アクリルニトリル共重合体、アクリル酸カリウム−アクリルニトリル共重合体、酢酸ビニル−アクリル酸エステル共重合体、アクリル酸−アクリル酸エステル共重合体等のアクリル系樹脂;スチレン−アクリル酸共重合体、スチレン−メタクリル酸共重合体、スチレン−メタクリル酸−アクリル酸エステル共重合体、スチレン−α−メチルスチレン−アクリル酸共重合体、スチレン−α−メチルスチレン−アクリル酸−アクリル酸エステル共重合体等のスチレン−アクリル系共重合体樹脂;スチレン−マレイン酸共重合体、スチレン−無水マレイン酸共重合体等のスチレン−マレイン酸系共重合体;ビニルナフタレン−アクリル酸共重合体、ビニルナフタレン−マレイン酸共重合体等のビニルナフタレン系共重合体;酢酸ビニル−エチレン共重合体、酢酸ビニル−脂肪酸ビニルエチレン共重合体、酢酸ビニル−マレイン酸エステル共重合体、酢酸ビニル−クロトン酸共重合体、酢酸ビニル−アクリル酸共重合体等の酢酸ビニル系共重合体;およびこれらの塩等が挙げられる。これらの高分子分散剤の中でも、懸濁液中における重合前の(メタ)アクリル酸系化合物の分散安定性、および重合後に生成する(メタ)アクリル酸系重合体の分散安定性を向上させる観点から、ポリビニルアルコール、ヒドロキシプロピルセルロースが好適に用いられる。なお、これらの高分子分散剤は、それぞれ単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0019】
前記高分子分散剤の使用量は、懸濁液中における重合前の(メタ)アクリル酸系化合物の分散安定性、および重合後に生成する(メタ)アクリル酸系重合体の分散安定性を向上させる観点から、(メタ)アクリル酸系化合物100質量部に対して、0.1〜40質量部の割合であることが好ましく、0.5〜20質量部の割合であることがより好ましい。
前記高分子分散剤を分散させるための水の使用量は、特に限定されないが、高分子分散剤100質量部に対して、300〜100000質量部であることが好ましく、300〜30000質量部であることがより好ましい。水の使用量が300質量部未満の場合、懸濁液の粘度が増大するため、分散安定性が悪くなるおそれがある。また、水の使用量が100000質量部を超える場合、使用量に見合う効果が得られず経済的でなくなるおそれがある。
【0020】
また、前記水層には、水と相溶する溶媒が含まれていてもよい。さらに、水層には、重合用界面活性剤を加えてもよい。このような重合用界面活性剤としては、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、両性界面活性剤等が挙げられる。これらの重合用界面活性剤の中でも、工業的に入手が容易で、安価であり、得られる化合物の品質が安定する観点から、アニオン性界面活性剤のドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、ジメチルスルホコハク酸ナトリウム、オレイン酸カリウム等が好適に用いられる。
【0021】
さらに、前記水層には、不定形粒子・微小粒子の生成を抑制する観点から、水溶性無機化合物を添加してもよい。前記水溶性無機化合物としては、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、硫酸カリウム、硫酸ナトリウム等が挙げられる。
【0022】
本発明では、必要に応じて、前記有機層に架橋剤および/または(メタ)アクリル酸アルキルエステルを添加してもよい。
【0023】
前記架橋剤としては、分子内に複数個の重合性不飽和基を有する化合物であれば特に限定されず、例えば、(メタ)アクリル酸系多官能化合物、アリルエーテル系多官能化合物およびビニル系多官能化合物等が挙げられる。(メタ)アクリル酸系多官能化合物としては、例えば、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3−プロパンジオールジ(メタ)アクリレート、1,3−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,5−ペンタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,7−ヘプタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,8−オクタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、1,10−デカンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、グリセリンジ(メタ)アクリレートおよび2−ヒドロキシ−3−(メタ)アクリロイロキシプロピル(メタ)アクリレート等が挙げられる。アリルエーテル系多官能化合物としては、例えば、ジエチレングリコールジアリルエーテルおよびジブチレングリコールジアリルエーテル等が挙げられる。ビニル系多官能化合物としては、例えば、ジビニルベンゼン等が挙げられる。これらの架橋剤の中でも、高い重合反応性を有する観点から、(メタ)アクリル酸系多官能化合物が好適に用いられ、特に、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,8−オクタンジオールジ(メタ)アクリレートおよび1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレートが好適に用いられる。なお、これらの架橋剤は、それぞれ単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0024】
前記架橋剤の使用割合は、優れた対溶媒安定性を有する(メタ)アクリル酸系重合体が得られる観点および使用量に見合うだけの効果を得る観点から、(メタ)アクリル酸系化合物1モルに対して0.00001〜0.25モルの割合であることが好ましく、0.00005〜0.1モルの割合であることがより好ましく、0.0001〜0.05モルの割合であることがさらに好ましい。
【0025】
前記(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、特に限定されるものではないが、例えば、(メタ)アクリル酸アルキル類、(メタ)アクリル酸オキシエチレン類、(メタ)アクリル酸オキシプロピレン類等が挙げられる。(メタ)アクリル酸アルキル類としては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ステアリルおよび(メタ)アクリル酸ビヘニル等が挙げられる。(メタ)アクリル酸オキシエチレン類としては、例えば、(メタ)アクリル酸エチレングリコール、(メタ)アクリル酸ジエチレングリコール、(メタ)アクリル酸トリエチレングリコール、(メタ)アクリル酸テトラエチレングリコール、(メタ)アクリル酸ポリエチレングリコールなどが挙げられる。(メタ)アクリル酸オキシプロピレン類としては、例えば、(メタ)アクリル酸プロピレングリコール、(メタ)アクリル酸ジプロピレングリコール、(メタ)アクリル酸トリプロピレングリコール、(メタ)アクリル酸テトラプロピレングリコール、(メタ)アクリル酸ジポリプロピレングリコールなどが挙げられる。ポリアルキレングリコール部の大きさとしては、例えば、アルキレングリコール部の繰り返し数が1〜100であるものが挙げられる。これらの(メタ)アクリル酸アルキルエステルの中でも、得られる(メタ)アクリル酸系架橋共重合体を塗料化した際の塗工性が優れることから、(メタ)アクリル酸アルキルエステルが好適に用いられ、これらの中でも、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ステアリルおよび(メタ)アクリル酸ビヘニルが好適に用いられ、さらに(メタ)アクリル酸ステアリルが特に好適に用いられる。なお、これらの(メタ)アクリル酸エステルは、それぞれ1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0026】
前記(メタ)アクリル酸アルキルエステルの使用割合は、得られる(メタ)アクリル酸ニトロキシド重合体を用いて電極を調製した際に、電極表面のひび割れを防ぐ観点から、2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジニル(メタ)アクリレート1モルに対して0.00001〜0.25モルの割合であることが好ましく、0.00005〜0.1モルの割合であることがより好ましく、0.0001〜0.05モルの割合であることがさらに好ましい。
【0027】
前記不活性炭化水素系溶媒としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン等の芳香族炭化水素系溶媒;n−ヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタン、n−デカン、リグロイン等の非環式飽和炭化水素系溶媒;シクロペンタン、メチルシクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等の環式飽和炭化水素系溶媒;ジクロロメタン、クロロホルム、ジクロロエタン、四塩化炭素等のハロゲン化炭化水素系溶媒等が挙げられる。これらの不活性炭化水素系溶媒の中でも、後述の蒸留により不活性炭化水素系溶媒を反応系外へ除去する蒸留工程にて、沸点が低いおよび/または水と共沸可能であり、除去が容易である観点から、トルエン、キシレン、n−ヘキサン、n−ヘプタン、シクロヘキサン等が好適に用いられる。なお、これらの不活性炭化水素系溶媒は、それぞれ1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0028】
前記不活性炭化水素系溶媒の使用量は、反応を円滑に進行させる観点から、(メタ)アクリル酸系化合物100質量部に対して10〜2000質量部であることが好ましく、50〜1000質量部であることがより好ましい。
【0029】
前記重合開始剤としては、例えば、過酸化ベンゾイル、過酸化ジ−t−ブチル、ラウロイルパーオキシド、ジイソプロピルペルオキシジカルボナート、ジシクロヘキシルペルオキシジカルボナート等の過酸化物系重合開始剤;α,α’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、ジメチル−2,2’−アゾビスイソブチレート等のアゾ系重合開始剤;過酸化ベンゾイル/ジメチルアニリン、過酸化ジ−t−ブチル/ジメチルアニリン、ラウロイルパーオキシド/ジメチルアニリン等のレドックス系重合開始剤等が挙げられる。これらの重合開始剤の中でも、安価であり取り扱いが簡便である観点から、α,α’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)等のアゾ系重合開始剤が好適に用いられる。
【0030】
前記重合開始剤の使用量は、使用する重合開始剤の種類や反応温度により異なるが、通常、(メタ)アクリル酸系化合物100質量部に対して0.005〜5質量部であることが好ましい。
【0031】
前記重合の反応温度としては、重合反応速度を制御する観点から、−20〜100℃であることが好ましく、−10〜80℃であることがより好ましい。また、反応時間は反応温度により異なるため一概には言えないが、通常、2〜20時間であることが好ましい。
また、前記懸濁重合において、必要に応じてイソプロピルアルコール、メタノール等の連鎖移動剤の添加剤等を適宜、加えてもよい。
重合反応終了後は、当該(メタ)アクリル酸系重合体を沈澱させた後、ろ過する等して単離することができる。
【0032】
本発明の(メタ)アクリル酸系重合体の製造方法では、前記重合工程後に蒸留により不活性炭化水素系溶媒を除去する蒸留工程を行う。
【0033】
本発明において、「蒸留」とは、常圧または減圧下において、気化し、再び凝縮することによって沸点の異なる成分を分離する操作を意味し、具体的には単蒸留、多段蒸留、共沸蒸留などを挙げることができる。
また、「蒸留により不活性炭化水素系溶媒を除去する」とは、実質的に不活性炭化水素系溶媒のみを蒸留によって除去することを意味する。本発明では、例えば、還流または分液により水を反応系内へ戻すことにより、不活性炭化水素系溶媒と水とを含む溶媒から不活性炭化水素系溶媒のみを除去する。
【0034】
前記蒸留により不活性炭化水素系溶媒を除去する方法としては、例えば、重合反応終了後の反応液を加熱して、不活性炭化水素系溶媒を系外に除去する方法;重合反応終了後の反応液を含む系中を減圧状態にして、不活性炭化水素系溶媒を系外に除去する方法等が挙げられる。これらの中でも、処理が簡便である観点から、重合反応終了後の反応液を加熱して、不活性炭化水素系溶媒を系外に除去する方法が好適に用いられる。さらには、高分子分散剤、無機塩、界面活性剤等の水溶性化合物が、ポリマー粒子へ付着または取り込まれることを防止し、反応槽内のスラリー性を保持する観点から、不活性炭化水素系溶媒と水との共沸組成物中、水のみを反応系内へ戻す還流を行う方法がより好適に用いられる。
【0035】
本発明においては、前記蒸留工程において、実質的に不活性炭化水素系溶媒のみを除去することにより、得られる(メタ)アクリル酸系重合体に含まれる不純物を大幅に低減させることが可能となった。
【0036】
前記蒸留工程は、反応液を含む系中の発泡を抑制する観点から、界面活性剤存在下で行うことが好ましい。
前記界面活性剤としては、特に限定されず、消泡効果、破泡効果を有する界面活性剤であることが好ましい。具体的には、フッ素含有高分子、ポリエチレングリコール、エチレンオキシド/プロピレンオキシド共重合体等の高分子界面活性剤;シリコンオイル類;ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル等のエステル型界面活性剤等が挙げられる。なお、これらの界面活性剤は、それぞれ1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
前記界面活性剤の使用量としては、発泡を効率よく抑制する観点から、(メタ)アクリル酸系化合物100質量部に対して、0.01〜10重量部であることが好ましく、0.05〜5重量部であることがより好ましい。
【0037】
前記蒸留工程において、蒸留により不活性炭化水素系溶媒を除去した後、ろ過等によりろ別し、必要により水、メタノール等で洗浄後、乾燥させることにより、(メタ)アクリル酸系重合体を得ることができる。
本発明では、蒸留工程の後、ろ過等によるろ別を行うことで、高分子分散剤、無機塩、界面活性剤などの水溶性化合物が容易にポリマー粒子と分離されることで高純度な(メタ)アクリル酸系重合体が取得できる。一方、蒸留工程の後、ろ別を経ずに(メタ)アクリル酸系重合体を得た場合、前記水溶性化合物が残り、(メタ)アクリル酸系重合体の純度が低下することがある。
なお、蒸留により不活性炭化水素系溶媒を除去せずに、前記ろ過等によるろ別を行った場合は、例えば、ろ過効率を向上させるために吸引または加圧等による圧力変化をさせた際に、(メタ)アクリル酸系重合体が密着、凝集する恐れがある。また、不活性炭化水素系溶媒を含んだやわらかい(メタ)アクリル酸系重合体の粒子同士が密に重なることで、ろ過効率を悪化させ、前記水溶性化合物の分離を困難なものにさせ、(メタ)アクリル酸系重合体の純度が低下することがある。
また、前記ろ過効率を向上させる方法として、前記蒸留により不活性炭化水素系溶媒を除去する方法以外に、反応系内へ水を追加することで溶媒を希釈する方法が考えられるが、非水溶性ポリマーに取り込まれた不活性炭化水素系溶媒と水を置換するのは効率が悪く、希釈による手段では高純度な(メタ)アクリル酸系重合体を得にくく好ましくない。
【0038】
本発明により得られた(メタ)アクリル酸系重合体が(メタ)アクリル酸イミノ重合体である場合、これをニトロキシド化するニトロキシド化工程を経ることにより、(メタ)アクリル酸系ニトロキシドラジカル重合体とすることができる。ニトロキシド化の方法としては特に限定されず、例えば、立体障害を有する第2級アミンを、酸化剤を用いて酸化することにより、対応するニトロキシド遊離基を有する化合物を製造する公知の方法等を挙げることができる。具体的には、例えば、(メタ)アクリル酸系重合体と不活性溶媒とを混合した後、攪拌下、酸化剤を添加しながら反応させることにより、(メタ)アクリル酸系重合体をニトロキシド化することができる。
【0039】
以下に、実施例および比較例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0040】
[実施例1]
攪拌機、窒素ガス導入管、温度計、還流冷却管を備えた200mL容の4つ口フラスコに、ポリビニルアルコール(クラレ社製、商品名:ポバールPVA420、重合度2000、ケン化度78〜81mol%)1.4g、水654gを仕込み、攪拌下、90℃、4時間でポリビニルアルコールを溶解した後、25℃まで冷却し、ポリビニルアルコール溶解液を得た。
【0041】
一方、100mL容のマイヤーフラスコに、2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジニルメタクリレート(エボニックデグサジャパン社製、商品名:TAA−ol−メタクリラート)10g(44.4ミリモル)、エチレングリコールジメタクリレート(新中村化学工業社製、商品名:NKエステル1G)0.2g(1.0ミリモル)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)(和光純薬工業社製、商品名:V−65)0.12g(0.5ミリモル)およびn−ヘプタン10gを仕込み、均一溶液を得た。この均一溶液を前記ポリビニルアルコール溶解液に加え、25℃に保ちながら、窒素ガスを通じて反応系内の酸素を除去した後、攪拌下、60℃にて10時間、重合反応させた。
【0042】
反応終了後、前記4つ口フラスコと還流冷却管との間に分留管、および、4つ口フラスコへの返送管を設置した。その後、界面活性剤としてシリコンオイル(信越化学工業社製、商品名:KS506、20質量%水溶液)2.0gを滴下ロートより連続添加しながら、反応液を60〜105℃に加熱して、水とヘプタンを共沸させ、水を還流しながら、分留管を用いて8.6gのヘプタンを系外に除去した。
反応液を室温まで冷却した後、モノフィラメントメッシュ(日本特殊織物社製、商品名:PE18、オープニング1242μm)を用いてろ別し、減圧乾燥して、白色粉体のメタクリル酸系重合体9.6g(収率:94.1%)を得た。
なお、前記ろ別操作は短時間で行われ、得られたメタクリル酸系重合体は、凝集していなかった。
【0043】
[実施例2]
攪拌機、窒素ガス導入管、温度計、還流冷却管を備えた200mL容の4つ口フラスコに、ポリビニルアルコール(クラレ社製、商品名:ポバールPVA420、重合度2000、ケン化度78〜81mol%)1.0g、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(信越化学工業社製、商品名:メトローズ65HS−400)0.4g、水654gを仕込み、攪拌下、90℃、4時間でポリビニルアルコールを溶解した後、25℃まで冷却し、ポリビニルアルコール溶解液を得た。
【0044】
一方、100mL容のマイヤーフラスコに、2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジニルメタクリレート(エボニックデグサジャパン社製、商品名:TAA−ol−メタクリラート)10g(44.4ミリモル)、エチレングリコールジメタクリレート(新中村化学工業社製、商品名:NKエステル1G)0.2g(1.0ミリモル)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)(和光純薬工業社製、商品名:V−65)0.12g(0.5ミリモル)およびn−ヘキサン10gを仕込み、均一溶液を得た。この均一溶液を前記ポリビニルアルコール溶解液に加え、25℃に保ちながら、窒素ガスを通じて反応系内の酸素を除去した後、攪拌下、60℃にて10時間、重合反応させた。
【0045】
反応終了後、前記4つ口フラスコと還流冷却管との間に分留管、および、4つ口フラスコへの返送管を設置した。その後、界面活性剤として高分子消泡剤(ビックケミー社製、商品名:BYK1790)0.5gを添加し、反応液を60〜105℃に加熱して、水とヘキサンを共沸することにより、水を還流しながら、分留管を用いて8.9gのヘキサンを系外に除去した。
反応液を室温まで冷却した後、モノフィラメントメッシュ(日本特殊織物社製、商品名:PE18、オープニング1242μm)を用いてろ別し、減圧乾燥して、白色粉体のメタクリル酸系重合体9.8g(収率:96.1%)を得た。
なお、前記ろ別操作は短時間で行われ、得られたメタクリル酸系重合体は、凝集していなかった。
【0046】
[比較例1]
攪拌機、窒素ガス導入管、温度計、還流冷却管を備えた200mL容の4つ口フラスコに、ポリビニルアルコール(クラレ社製、商品名:ポバールPVA420、重合度2000、ケン化度78〜81mol%)1.4g、水654gを仕込み、攪拌下、90℃、4時間でポリビニルアルコールを溶解した後、25℃まで冷却し、ポリビニルアルコール溶解液を得た。
【0047】
一方、100mL容のマイヤーフラスコに、2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジニルメタクリレート(エボニックデグサジャパン社製、商品名:TAA−ol−メタクリラート)10g(44.4ミリモル)、エチレングリコールジメタクリレート(新中村化学工業社製、商品名:NKエステル1G)0.2g(1.0ミリモル)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)(和光純薬工業社製、商品名:V−65)0.12g(0.5ミリモル)およびn−ヘプタン10gを仕込み、均一溶液を得た。この均一溶液を前記ポリビニルアルコール溶解液に加え、25℃に保ちながら、窒素ガスを通じて反応系内の酸素を除去した後、攪拌下、60℃にて10時間、重合反応させた。
反応終了後、反応液を室温まで冷却した後、モノフィラメントメッシュ(日本特殊織物社製、商品名:PE18、オープニング1242μm)を用いてろ別し、減圧乾燥して、白色のメタクリル酸系重合体10.0g(収率:98.0%)を得た。
なお、前記ろ別操作は時間がかかり、得られたメタクリル酸系重合体は、硬く小塊状に凝集していた。
【0048】
[比較例2]
攪拌機、窒素ガス導入管、温度計、還流冷却管を備えた200mL容の4つ口フラスコに、ポリビニルアルコール(クラレ社製、商品名:ポバールPVA420、重合度2000、ケン化度78〜81mol%)1.0g、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(信越化学工業社製、商品名:メトローズ65HS−400)0.4g、水654gを仕込み、攪拌下、90℃、4時間でポリビニルアルコールを溶解した後、25℃まで冷却し、ポリビニルアルコール溶解液を得た。
【0049】
一方、100mL容のマイヤーフラスコに、2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジニルメタクリレート(エボニックデグサジャパン社製、商品名:TAA−ol−メタクリラート)10g(44.4ミリモル)、エチレングリコールジメタクリレート(新中村化学工業社製、商品名:NKエステル1G)0.2g(1.0ミリモル)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)(和光純薬工業社製、商品名:V−65)0.12g(0.5ミリモル)およびn−ヘプタン10gを仕込み、均一溶液を得た。この均一溶液を前記ポリビニルアルコール溶解液に加え、25℃に保ちながら、窒素ガスを通じて反応系内の酸素を除去した後、攪拌下、60℃にて10時間、重合反応させた。
反応終了後、反応液を60〜110℃に加熱して、溶媒(n−ヘプタンおよび水)を全て系外に除去し、白色のメタクリル酸系重合体10.8g(収率:105.9%)を得た。
なお、得られたメタクリル酸系重合体は、凝集および塊状化していた。
【0050】
[比較例3]
100mL容のマイヤーフラスコに、比較例2と同様にして得られた凝集および塊状化したメタクリル酸系重合体10.8gおよび水20.0gを仕込み、5分間攪拌した。その後、モノフィラメントメッシュ(日本特殊織物社製、商品名:PE18、オープニング1242μm)を用いてろ別し、減圧乾燥して、白色のメタクリル酸系重合体10.2gを得た。
なお、前記ろ別操作は短時間で行われたが、得られたメタクリル酸系重合体は、凝集および塊状化していた。
【0051】
[評価]
実施例1、2および比較例1〜3で得られた(メタ)アクリル酸系重合体について、それぞれ溶出試験を行った。
【0052】
(1)溶出試験
(メタ)アクリル酸系重合体1gを、ジエチルカーボネート50gを入れた100mL容のサンプル瓶に添加し、室温にて20時間浸漬させた。
【0053】
その後、ろ紙(アドバンテック社製、商品名:No.3、保留粒子径5μm)を用いてろ過し、残渣とろ液に分離した。得られたろ液中のジエチルカーボネートを、60℃、−0.1MPaの条件下で6時間減圧留去し、次いで、100℃、常圧にて6時間乾燥することで溶出成分を取得した。得られた溶出成分の質量を測定し、以下の式により溶出度を算出した。評価結果を表1に示す。
【0054】
【数1】

【0055】
【表1】

【0056】
表1の結果から、実施例で得られた(メタ)アクリル酸系重合体は、ジエチルカーボネートに対する溶出度が低いことがわかる。
また、比較例2においては、蒸留工程の後、ろ別工程を経ていないので、得られる(メタ)アクリル酸系重合体に不純物が大量に含まれ、収量が100%を超えていることがわかる。
さらに、比較例3においては、水まで系外に除去して得られる乾燥物(比較例2)に、水を加えてろ過工程を経ても、得られる(メタ)アクリル酸系重合体に不純物が大量に含まれる(除去できない)ことがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明によれば、電解液への溶出成分が少ない(メタ)アクリル酸系重合体の製造方法を提供することができる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される(メタ)アクリル酸系化合物を不活性炭化水素系溶媒に溶解した後、高分子分散剤及び重合開始剤の存在下、水中で懸濁重合する重合工程、及び、
前記重合工程後に蒸留により不活性炭化水素系溶媒を除去する蒸留工程
を有する(メタ)アクリル酸系重合体の製造方法。
【化1】

式中、Rは水素原子またはメチル基を示し、Zは水素原子または不対電子1つを有する酸素原子を示す。
【請求項2】
不活性炭化水素系溶媒を除去する蒸留工程を、界面活性剤の存在下で行う請求項1に記載の(メタ)アクリル酸系重合体の製造方法。


【公開番号】特開2012−193272(P2012−193272A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−58087(P2011−58087)
【出願日】平成23年3月16日(2011.3.16)
【出願人】(000195661)住友精化株式会社 (352)
【Fターム(参考)】