説明

(複合)金属酸化物多孔体の製造方法及びこれにより得られる(複合)金属酸化物多孔体

【課題】従来法において製造が困難であった規則性の高い多孔構造を有する(複合)金属酸化物多孔体を提供する。
【解決手段】1種又は2種以上の金属硝酸塩、ポリオール及びアルコールを含む原料溶液を調製する工程と、該原料溶液を有機高分子のコロイド結晶を含むテンプレートに含浸させる工程と、該原料溶液を含浸させたテンプレートを加熱して該金属硝酸塩由来の硝酸により該ポリオールを硝酸酸化し金属カルボン酸塩を含むテンプレートを合成する加熱工程と、該金属カルボン酸塩を含むテンプレートを焼成して該テンプレートを除去し(複合)金属酸化物多孔体を合成する焼成工程とを含む(複合)金属酸化物多孔体の製造方法であって、該有機高分子が該加熱工程における硝酸酸化温度よりも高いガラス転移温度を有するメタクリル酸エステル系ポリマーである(複合)金属酸化物多孔体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、(複合)金属酸化物多孔体の製造方法及びこれにより得られる(複合)金属酸化物多孔体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
(複合)金属酸化物(金属酸化物又は複合金属酸化物を示す、以下同様)は、触媒材料、半導体材料、光学材料、磁性材料、電子材料などに幅広く利用される物質である。また、(複合)金属酸化物への多孔性の付与は、表面積増大、規則性空間形成、階層構造構築などによる物性制御、形態制御及び新機能付与の観点から、活発に研究されている。その製造方法としては、例えば、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、ポリスチレン(PS)及びシリカ(SiO2)の単分散球を規則的に配列したコロイド結晶をテンプレートとして用いた方法が多く報告されている(特許文献1、2、非特許文献1〜5)。
【0003】
これらの製造方法のうち、特許文献2及び非特許文献4、5においては、まず各種金属硝酸塩のポリオール及びアルコール溶液を原料溶液として用い、該溶液をPMMAコロイド結晶テンプレート内の空隙部分に含浸させる。その後、100℃程度に加熱して、引き続くさらなる昇温(焼成)により(複合)金属酸化物を生成させるとともにPMMAを分解除去することにより、三次元規則的マクロ多孔性(複合)金属酸化物を製造する方法が報告されている。これらの方法は、簡便に三次元規則的マクロ多孔性(複合)金属酸化物を製造するための方法として有効である。
【0004】
しかしながら、本発明者等の検討によれば、特許文献2及び非特許文献4、5に記載の方法においても、以下の述べるような課題が判明した。該製造方法においては、PMMAホモポリマーの単分散球をコロイド結晶としたものをテンプレートとして用いるが、PMMAのガラス転移温度は105℃付近である。該製造方法では、金属硝酸塩由来の硝酸によるエチレングリコールの硝酸酸化により、金属成分をシュウ酸塩としてコロイド結晶内の空隙部分で固化させる。この際、前記硝酸酸化の生じる温度がポリマーのガラス転移温度よりも高い金属硝酸塩とエチレングリコールの組み合わせの場合、ポリマーの軟質ガラス化により金属溶液の固化以前にコロイド結晶の規則性が乱れてしまうため、(複合)金属酸化物の構造中に導入される多孔構造の割合が低下する、あるいは(複合)金属酸化物多孔体がほとんど得られないという課題が判明した。したがって、このような課題を克服した規則性の高い多孔構造を有する(複合)金属酸化物を製造することのできる方法の開発が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第6680013号明細書
【特許文献2】特開2006−256947号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】A. Stein著、マイクロポーラス アンド メソポーラス マテリアルス(Micropor. Mesopor. Mater.)、44−45巻、227−239頁、2001年
【非特許文献2】A. Stein、 R. C. Schroden著、カレント オピニオン イン ソリッド ステイト アンド マテリアルス サイエンス(Current Opinionin In Solid State and Materials Science)、5巻、553−564頁、2001年
【非特許文献3】M. Sadakane、 T. Asanuma、 J.Kubo、 W. Ueda著、ケミストリー オブ マテリアルス(Chem. Mater.)、17巻、3456−3551頁、2005年
【非特許文献4】M. Sadakane、 T. Horiuchi、 N. Kato、 C. Takahashi、 W. Ueda著、ケミストリー オブ マテリアルス(Chem. Mater.)、19巻、5779−5785頁、2007年
【非特許文献5】M. Sadakane、 C. Takahashi、 N. Kato、 H. Ogihara、 Y. Nodasaka、 Y. Doi、 Y. Hinatsu、 W. Ueda著、ブリティン オブ ザ ケミカル ソサエティー オブ ジャパン(Bull. Chem. Soc. Jpn.)、80巻、677−685頁、2007年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、規則性の高い多孔構造を有する(複合)金属酸化物多孔体を製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る(複合)金属酸化物多孔体の製造方法は、1種又は2種以上の金属の硝酸塩、ポリオール及びアルコールを含む原料溶液を調製する工程と、前記原料溶液を有機高分子のコロイド結晶を含むテンプレートに含浸させる工程と、前記原料溶液を含浸させたテンプレートを加熱することで前記金属の硝酸塩由来の硝酸により前記ポリオールを硝酸酸化し、金属カルボン酸塩を含むテンプレートを合成する加熱工程と、前記金属カルボン酸塩を含むテンプレートを焼成することで該テンプレートを除去し、(複合)金属酸化物多孔体を合成する焼成工程と、を含む(複合)金属酸化物多孔体の製造方法であって、前記有機高分子が、前記加熱工程における硝酸酸化温度よりも高いガラス転移温度を有するメタクリル酸エステル系ポリマーであることを特徴とする。
【0009】
また、前記有機高分子が、ポリメタクリル酸メチルホモポリマーのガラス転移温度よりも高いガラス転移温度を有するメタクリル酸エステル系ポリマーであることを特徴とする。
【0010】
また、前記金属の硝酸塩が、鉄、アルミニウム、セリウム、コバルト、亜鉛、ニッケル、ランタン及びマグネシウムの硝酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種の硝酸塩であることを特徴とする。
【0011】
また、前記(複合)金属酸化物が、酸化鉄(Fe23)、酸化アルミニウム(Al23)、酸化セリウム(Ce23)、酸化コバルト(Co23)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化ニッケル(NiO)、酸化ランタン(La23)及び酸化マグネシウム(MgO)からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属酸化物又は複合金属酸化物であることを特徴とする。
【0012】
本発明に係る(複合)金属化合物多孔体は、前記方法により製造された(複合)金属化合物多孔体である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、従来の製造方法では製造困難であった規則性の高い多孔構造を有する(複合)金属酸化物多孔体を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明に係る(複合)金属酸化物多孔体の製造方法は、1種又は2種以上の金属の硝酸塩、ポリオール及びアルコールを含む原料溶液を調製する工程と、前記原料溶液を有機高分子のコロイド結晶を含むテンプレートに含浸させる工程と、前記原料溶液を含浸させたテンプレートを加熱することで前記金属の硝酸塩由来の硝酸により前記ポリオールを硝酸酸化し、金属カルボン酸塩を含むテンプレートを合成する加熱工程と、前記金属カルボン酸塩を含むテンプレートを焼成することで該テンプレートを除去し、(複合)金属酸化物多孔体を合成する焼成工程と、を含む(複合)金属酸化物多孔体の製造方法であって、前記有機高分子が、前記加熱工程における硝酸酸化温度よりも高いガラス転移温度を有するメタクリル酸エステル系ポリマーであることを特徴とする。
【0015】
(原料溶液調製工程)
本発明においては、まず、1種又は2種以上の金属の硝酸塩、ポリオール及びアルコールを含む原料溶液を調製する。
【0016】
前記金属の硝酸塩としては、所望の(複合)金属酸化物多孔体に含まれる金属元素の硝酸塩を適宜選定する。このような硝酸塩としては、例えば、鉄、アルミニウム、セリウム、コバルト、亜鉛、ニッケル、ランタン及びマグネシウムの硝酸塩が挙げられる。複合金属酸化物を製造する場合は、当然ながら2種以上の硝酸塩が使用される。
【0017】
前記ポリオールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−ブタンジオール及び1,4−ブタンジオールからなる群より選ばれる少なくとも1つの化合物であることが金属硝酸塩の溶解性及び後述する硝酸酸化温度の観点から好ましい。前記ポリオールとしてはより好ましくはエチレングリコール及びプロピレングリコールである。これらは1種のみを用いてもよく、2種以上を併用しても良い。
【0018】
また、前記アルコールとしては、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、n−ブタノール、2−ブタノール、iso−ブタノール、tert−ブタノール、1−ペンタノール(n−アミルアルコール)、3−メチル−1−ブタノール(イソアミルアルコール)及び1−ヘキサノールからなる群より選ばれる少なくとも1つの化合物であることが金属硝酸塩の溶解性及びポリオールの流動性向上の観点から好ましい。前記アルコールとしては、メタノール、エタノール、1−プロパノール及び2−プロパノールがより好ましい。これらは1種のみを用いてもよく、2種以上を併用しても良い。
【0019】
また、後述する加熱工程においてアルコールが気化した後に有機高分子が柔らかくなることが好ましいことから、前記アルコールは後述する有機高分子のガラス転移温度より沸点の低いものが好ましい。そのため、ガラス転移温度の高い有機高分子を使用すると好ましいアルコールの選択肢は増える。なお、上に挙げたアルコールの沸点は次の通りである。メタノール(64.7℃)、エタノール(78.4℃)、1−プロパノール(97.5℃)、2−プロパノール(82.4℃)、n−ブタノール(117℃)、2−ブタノール(94℃)、iso−ブタノール(108℃)、tert−ブタノール(82.4℃)、1−ペンタノール(137.5℃)、3−メチル−1−ブタノール(130.5℃)、1−ヘキサノール(157℃)。
【0020】
前記原料溶液に含まれる、金属の硝酸塩とポリオールの配合割合としては、効率的な(複合)金属酸化物製造の観点から、その下限は、全金属元素1molに対して、0.1mol以上が好ましく、0.3mol以上がより好ましく、0.5mol以上がさらに好ましい。また、該金属の硝酸塩とポリオールの配合割合の上限は、全金属元素1molに対して、50mol以下であることが好ましく、30mol以下であることがより好ましく、15mol以下であることがさらに好ましい。前記原料溶液に含まれるアルコールの配合割合としては、含浸工程においてコロイド結晶の空隙部分にしみこんでいた溶液が、焼成工程においてコロイド結晶の外に出る量を減少させる観点から、その下限は、前記原料溶液100容量部に対して、5容量部以上が好ましく、10容量部以上がさらに好ましく、15容量部以上がより好ましい。また、前記原料溶液に含まれるアルコールの配合割合の上限は、90容量部以下が好ましく、80容量部以下がより好ましく、70容量部以下がさらに好ましい。
【0021】
また、前記原料溶液には金属の硝酸塩、ポリオール及びアルコール以外にも、水等を含んでも良い。
【0022】
(含浸工程)
次に、前記原料溶液を有機高分子のコロイド結晶を含むテンプレートに含浸させる。
【0023】
本発明においては、有機高分子に後述する加熱工程における硝酸酸化温度よりも高いガラス転移温度を有するメタクリル酸エステル系ポリマーを用いる。これにより、後述する硝酸酸化においてもテンプレートであるコロイド結晶を形成する有機高分子が軟化せず、コロイド結晶の規則性が乱れないため、(複合)金属酸化物の構造中に導入される多孔構造の割合を向上させることができる。前記ガラス転移温度は、前記硝酸酸化温度よりも5℃以上高いことが好ましい。
【0024】
なお、本発明においてガラス転移温度とは日本工業標準調査会(JISC)制定の日本工業規格「プラスチックの転移温度測定方法(JIS K 7121)」に準拠し、示差走査熱量測定装置を用いて測定したガラス転移温度を示す。また、硝酸酸化温度とは金属濃度として2Mとなるように金属の硝酸塩をポリオールに溶解した溶液を、示差熱熱重量同時分析装置を用いて測定し、重量減少挙動と発熱挙動から求めた温度を示す。なお、複合金属酸化物多孔体を製造する場合のように2種以上の金属硝酸塩を使用するときの硝酸酸化温度は、各々の金属硝酸塩の硝酸酸化温度のうち、最も高い温度とする。
【0025】
メタクリル酸エステル系ポリマーとしては、具体的にはメタクリル酸メチル(MMA)、メタクリル酸ブチル等のメタクリル酸エステルのモノマーの単独重合体であってもよく、共重合体であってもよい。また、前記モノマーにメタクリル酸エステル以外のアクリル酸ブチル(BA)、アクリル酸メチル等のモノマーを混合して重合した共重合体であってもよい。
【0026】
また、本発明においては有機高分子に、ポリメタクリル酸メチルホモポリマー(PMMAホモポリマー)のガラス転移温度よりも高いガラス転移温度を有するメタクリル酸エステル系ポリマーを用いることが、本製造方法の適用可能範囲拡大および効率的な(複合)金属酸化物多孔体製造の観点から好ましい。なお、PMMAホモポリマーのガラス転移温度は、105℃付近である。ガラス転移温度をPMMAホモポリマーよりも高くする手法としては、例えばMMAとMMAよりも高いガラス転移温度を有するポリマーになりうるモノマーとを共重合させる手法がある。一例として、ホモポリマーのガラス転移温度が155℃であるメタクリル酸イソボルニル(IBXMA)をMMAと共重合させる方法が挙げられる。
【0027】
重合方法としては乳化重合が好ましく、シード乳化重合やソープフリー乳化重合を用いることができる。乳化剤を使用し種粒子重合と引き続くモノマー滴下重合からなるシード乳化重合では小粒径(数10nm〜500nm)の単分散性粒子が製造可能である。一方、乳化剤を使用せず界面活性能を有する開始剤を使用するソープフリー乳化重合では、大粒径(およそ500nm〜1μm)の単分散性粒子が製造可能である。この際、重合性、熱安定性及び成形性を高めるため、アクリル酸ブチル(BA)などのアクリル酸エステルをモノマーとして添加してもよい。
【0028】
本発明において、コロイド結晶とは粒径のよく揃った粒子(単分散性粒子)が自己組織的な秩序化作用で規則的に配列したものである。コロイド結晶の製造方法には制限はなく、自然沈降法や遠心分離法の他、引き上げ法、毛管法、電気泳動法、溶液流動法などにより製造することができる。必要に応じて、コロイド結晶を基板上に形成させることも可能である。単分散性粒子を何層にも積層させたコロイド結晶を用いれば、規則性細孔が3次元に発達した多孔体の製造が可能である。
【0029】
コロイド結晶に用いる単分散性粒子の粒径は、30nm以上が好ましく、50nm以上がより好ましい。また、該粒径は、10μm以下が好ましく、1μm以下がより好ましい。本発明においては、前記単分散性粒子からなるコロイド結晶の空隙に前記原料溶液を含浸させる。前記原料溶液のコロイド結晶内の空隙への含浸方法には特に制限はなく、コロイド結晶に原料溶液を浸漬して余剰溶液を吸引ろ過することで除去する方法、コロイド結晶に原料溶液を少量ずつ添加し必要に応じて吸引ろ過する方法、などを用いることができる。
【0030】
また、前記テンプレートにはコロイド結晶以外に水、重合開始剤由来の残存物、酸素ガス、窒素ガス、二酸化炭素等が含まれてもよい。
【0031】
(加熱工程)
次に、前記原料溶液を含浸させたテンプレートを加熱することで前記金属の硝酸塩由来の硝酸により前記ポリオールを硝酸酸化し、金属カルボン酸塩を含むテンプレートを合成する。
【0032】
前記含浸工程においてコロイド結晶内の空隙に含浸保持された原料溶液は、加熱により、含有される硝酸塩由来の硝酸によりポリオールが酸化され(硝酸酸化)、金属カルボン酸塩へと変化し固化(不溶化)される。この硝酸酸化に必要な温度(硝酸酸化温度)は用いる硝酸塩、ポリオールにより異なり、ポリオールとしてエチレングリコールを用いた場合には、硝酸セリウムで110℃、硝酸コバルトで113℃、硝酸亜鉛で115℃、硝酸ニッケルで119℃、硝酸ランタンで130℃、硝酸マグネシウムで140℃である。この場合、硝酸酸化により金属シュウ酸塩が形成され、固化する。本発明においてこれらの(複合)金属酸化物多孔体を効率よく得るためには、ガラス転移温度が該硝酸酸化温度よりも高いメタクリル酸エステル系ポリマーの単分散性粒子を用いることが必要である。
【0033】
(焼成工程)
次に、前記金属カルボン酸を含むテンプレートを焼成することで該テンプレートを除去し、(複合)金属酸化物多孔体を合成する。
【0034】
前記加熱工程において硝酸酸化によりコロイド結晶内の空隙で不溶化された金属原料は、さらなる加熱により焼成される。この焼成により、テンプレートであるコロイド結晶は分解除去され、空隙で不溶化された金属原料は(複合)金属酸化物へと変化するため、空隙の配列が転写された規則性多孔構造を有する(複合)金属酸化物多孔体が生成する。
【0035】
前記加熱工程及び焼成工程は、空気、酸素、窒素など種々の雰囲気下で、流通式あるいは静置式の焼成炉を用いて行なうことができる。焼成工程における焼成の際には、加熱工程後の原料溶液を含浸させたコロイド結晶を、石英砂や炭化ケイ素などの熱伝導率の良好な希釈剤により希釈して焼成を行なってもよい。焼成温度は200℃以上が好ましく、300℃以上がより好ましく、325℃以上がさらに好ましい。また焼成温度は、1000℃以下が好ましく、800℃以下がより好ましく、600℃以下がさらに好ましい。焼成温度が前記温度範囲よりも低いとコロイド結晶の除去と(複合)金属酸化物の形成が十分ではなく、一方焼成温度が前記温度範囲よりも高いと金属酸化物の過度の焼結や多孔構造の崩壊を招く場合がある。なお、加熱工程と焼成工程は明確に区別して行う必要はなく連続して行ってもよい。例えば所定の焼成温度まで昇温中に加熱工程が行われ、その後引き続き焼成工程が行われてもよい。
【0036】
前記焼成工程においては、コロイド結晶を形成する有機高分子の分解に伴う発熱が(複合)金属酸化物多孔体形成に与える影響を考慮する必要がある。ビニル系ポリマーのうちMMAのようなα−メチルビニルモノマーからなるポリマーは、解重合反応といわれる主鎖分解を伴う熱分解反応により、ほとんど定量的にモノマーへと戻ることが知られている。解重合反応は、重合反応の逆反応で、ラジカル的連鎖機構で起こる吸熱反応である。一方、スチレンからなるPSは、同様に単分散性粒子として利用されるものの、解重合効率はPMMAと比較して低い。したがって、PSのように解重合効率の低いポリマーでは、解重合以外の発熱を伴うような分解反応の進行も無視できない。このような場合には、(複合)金属酸化物多孔体はポリマー分解による発熱により熱劣化を受ける場合が多い。本発明においては、メタクリル酸エステル系ポリマーをテンプレートとするため、ポリマー分解に伴う(複合)金属酸化物多孔体の熱劣化を抑制でき、(複合)金属酸化物に導入される多孔構造の割合を高めることが可能である。
【0037】
(複合)金属酸化物多孔体の多孔構造の割合や細孔構造の規則性の評価は、走査型電子顕微鏡(SEM)や透過型電子顕微鏡(TEM)による観察や、窒素吸着などのガス吸着などの手法により行なうことができる。
【実施例】
【0038】
以下、本発明において、実施例及び比較例を挙げてさらに具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。実施例及び比較例における「部」は「質量部」を表わす。
【0039】
(ガラス転移温度の測定)
日本工業標準調査会(JISC)制定の日本工業規格「プラスチックの転移温度測定方法(JIS K 7121)」に準拠し、示差走査熱量測定装置(DSC、型式:「DSC6220C」、セイコーインスツル株式会社製)を用いて行なった。
【0040】
(硝酸酸化温度の測定)
金属濃度として2Mとなるように金属硝酸塩をエチレングリコールに溶解した原料を、示差熱熱重量同時分析装置(TG−DTA、型式:「TG−8120」、株式会社リガク製)を用いて分析した。得られた重量減少挙動と発熱挙動により、硝酸酸化温度を求めた。
【0041】
((複合)金属酸化物に導入された多孔構造の割合評価)
(複合)金属酸化物多孔体を、走査型電子顕微鏡(SEM、型式:「JSM−7400F」、日本電子株式会社製)を用いて加速電圧1.5kVで分析し、視野内に存在する規則性多孔構造の割合を目視により、(A)80%以上、(B)60%以上80%未満、(C)40%以上60%未満及び(D)40%未満、(E)ほぼ0%で評価した。
【0042】
((複合)金属酸化物の構造解析)
粉末X線回折装置(XRD、型式:「RINT−Ultima+」、株式会社リガク製)を用いて、焼成後の(複合)金属酸化物多孔体の結晶相と結晶子径を算出した。(複合)金属酸化物多孔体をメノウ乳鉢で十分に粉砕した後に、XRD測定を行なった。結晶子径は、得られたXRDパターンにおける最強回折線の半価幅をもとに、シェラーの式を用いて算出した。
【0043】
(重合体分散液及びコロイド結晶の調製)
重合体分散液(A)及びコロイド結晶(A) ST−040処方(Tg147、300nm)
原料(0):純水580部に、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム(商品名:「ペレックスSS−H」、花王株式会社製)0.2部を溶解した。
【0044】
原料(1):純水10部に、硫酸鉄(II)・7水和物0.0002部、エチレンジアミン4酢酸2ナトリウム・2水和物0.0006部、ヒドロキシメタンスルフィン酸ナトリウム・2水和物(ソディウムホルムアルデヒドスルホキシレート)0.6部を溶解した。
【0045】
原料(2):アクリル酸n−ブチル(BA)8.0部、メタクリル酸メチル(MMA)2.0部、クメンヒドロペルオキシド0.03部を混合した。
【0046】
原料(3):純水10部に、硫酸鉄(II)・7水和物0.0002部、エチレンジアミン4酢酸2ナトリウム・2水和物0.0006部、ヒドロキシメタンスルフィン酸ナトリウム・2水和物(ソディウムホルムアルデヒドスルホキシレート)0.6部を溶解した。
【0047】
原料(4):純水200部とメタクリル酸イソボルニル(IBXMA)190部、n−オクチルメルカプタン0.19部、クメンヒドロペルオキシド0.57部、ジアルキルスルホコハク酸ナトリウム(商品名:「ペレックス OT―P」、花王株式会社製)1.0部を混合した後、ホモジナイザーによる処理を10000rpmで3分間行ない乳化液とした。該溶液に窒素ガスを30分間バブリングして、溶存酸素を除去した。
【0048】
温度計、不活性ガス導入管、攪拌棒、滴下漏斗、冷却管を装備した4つ口セパラブルフラスコに原料(0)を入れ、200rpmで攪拌しながら、100ml/minで30分間アルゴンガスをバブリングにより導入し、溶液中の溶存酸素を除去した。この後、攪拌は継続し、アルゴンガスはフラスコ内に25ml/minで導入し続けた。1時間かけて70℃まで昇温し、原料(0)の温度が70℃に到達したら原料(1)を添加し、15分経過後原料(2)を添加し、さらに1時間経過後、原料(3)を添加した。15分経過後、原料(4)を滴下漏斗から3時間かけて滴下した。滴下終了後、70℃で1時間保持した後、加熱を止め室温まで冷却し、白色の重合体分散液(A)を得た。
【0049】
前記重合体分散液(A)を、内容積50mlの遠沈管を用いて、2500rpmで2時間遠心分離することにより、単分散性粒子を沈降させ、上澄みを除去後、室温のデシケーター中で12時間乾燥することにより、コロイド結晶(A)を得た。コロイド結晶(A)は、粉砕され、ふるいを用いて0.425−2.000mmに製粒された。
【0050】
重合体分散液(B)及びコロイド結晶(B)IBXMA−MMA 北大 (Tg115、330nm)
原料(0):純水50部に、ジアルキルスルホコハク酸ナトリウム(商品名:「ペレックス OT―P」、花王株式会社製)0.034部を溶解した。
【0051】
原料(1):MMA5.1部とIBXMA4.9部とを混合した。
【0052】
原料(2):純水10部に、過硫酸カリウム(KPS)0.05部を混合した。
【0053】
原料(3):純水140部とMMA45.9部、IBXMA44.1部、ジアルキルスルホコハク酸ナトリウム(商品名:「ペレックス OT―P」、花王株式会社製)1.0部とを混合したこと以外は、コロイド結晶(A)の原料(4)と同様にして調製を行なった。
【0054】
重合温度を80℃とし、80℃にて原料(1)を添加し、15分後に原料(2)を添加し、さらに1時間後原料(3)を2時間かけて滴下し、1時間保持したこと以外は、重合体分散液(A)及びコロイド結晶(A)の調製と同様にして、重合体分散液(B)及びコロイド結晶(B)を得た。
【0055】
重合体分散液(C)及びコロイド結晶(C)PMMA(Tg105、370nm)
原料(0):純水50部に、ジアルキルスルホコハク酸ナトリウム(商品名:「ペレックス OT―P」、花王株式会社製)0.017部を溶解した。
【0056】
原料(1):MMA10部を秤量した。
【0057】
原料(2):KPS0.05部を秤量した。
【0058】
原料(3):純水150部に、MMA90部、ジアルキルスルホコハク酸ナトリウム(商品名:「ペレックス OT―P」、花王株式会社製)1.0部を混合したこと以外は、コロイド結晶(A)の原料(4)と同様にして調製を行なった。
【0059】
前記原料(1)〜(3)を用いたこと以外は、重合体分散液(B)及びコロイド結晶(B)と同様の方法で、重合体分散液(C)及びコロイド結晶(C)を得た。
【0060】
(重合体分散液及びコロイド結晶の分析)
得られた重合体分散液及びコロイド結晶(A)〜(C)のポリマー組成、ガラス転移温度、レーザー回折・散乱式粒度分布計(型式:「LA−910」、株式会社堀場製作所製)により求めた平均粒子径(メジアン径)を表1に示した。表1において、粒子の単分散性は、レーザー回折法により求めた体積基準平均粒子径(Dv)と個数基準平均粒子径(Dn)との比(Dv/Dn)で表わすことができ、この値が1.0に近いほど単分散性が高い。
【0061】
[実施例1]
金属濃度として2Mの硝酸セリウム(III)・6水和物(和光純薬工業株式会社製)のエチレングリコール−メタノール溶液(メタノール濃度:40体積%)5mlにコロイド結晶(A)0.5gを、室温で3時間浸漬して、前記溶液をコロイド結晶(A)に含浸した。余分な溶液を吸引ろ過により除去し、室温にて一晩乾燥した。これを、2.5gの石英砂(10−15メッシュ)と混合し、流通式管型焼成炉で、50ml/minの空気を流通させながら、1℃/minで400℃まで昇温し(加熱工程)、400℃で5時間保持した(焼成工程)。冷却し石英砂を除去した後、CeO2多孔体を得た。結晶相は、XRD測定により同定した。SEMによる形状観察を行ない、SEM観察で得られたCeO2中の多孔構造の割合と、得られたCeO2の結晶子径を表2に示した。
【0062】
[実施例2]
コロイド結晶(B)を用いること以外は実施例1と同様にしてCeO2多孔体を調製した。SEMによる形状観察を行ない、SEM観察で得られたCeO2中の多孔構造の割合を表2に示した。
【0063】
[比較例1]
コロイド結晶(C)を用いること以外は実施例1と同様にしてCeO2多孔体を調製した。SEMによる形状観察を行ない、SEM観察で得られたCeO2中の多孔構造の割合を表2に示した。
【0064】
[実施例3]
金属硝酸塩として、硝酸コバルト(II)・6水和物を用いたこと以外は、実施例1と同様にしてCo34多孔体を調製した。結晶相は、XRD測定により同定した。SEM観察で得られたCo34中の多孔構造の割合と得られたCo34の結晶子径を表2に示した。
【0065】
[実施例4]
コロイド結晶(B)を用いること以外は実施例3と同様にしてCo34多孔体を調製した。SEMによる形状観察を行ない、SEM観察で得られたCo34中の多孔構造の割合を表2に示した。
【0066】
[比較例2]
コロイド結晶(C)を用いること以外は実施例3と同様にしてCo34多孔体を調製した。SEMによる形状観察を行ない、SEM観察で得られたCo34中の多孔構造の割合を表2に示した。
【0067】
[実施例5]
金属硝酸塩として、硝酸亜鉛(II)・4水和物を用いたこと以外は、実施例1と同様にしてZnO多孔体を調製した。結晶相は、XRD測定により同定した。SEM観察で得られたZnO中の多孔構造との割合と得られたZnOの結晶子径を表2に示した。
【0068】
[比較例3]
コロイド結晶(B)を用いること以外は実施例5と同様にしてZnO多孔体を調製した。SEMによる形状観察を行ない、SEM観察で得られたZnO中の多孔構造の割合を表2に示した。
【0069】
[比較例4]
コロイド結晶(C)を用いること以外は実施例5と同様にしてZnO多孔体を調製した。SEMによる形状観察を行ない、SEM観察で得られたZnO中の多孔構造の割合を表2に示した。
【0070】
[実施例6]
金属硝酸塩として、硝酸ニッケル(II)・6水和物を用いたこと以外は、実施例1と同様にしてNiO多孔体を調製した。結晶相は、XRD測定により同定した。SEM観察で得られたNiO中の多孔構造の割合と得られたNiOの結晶子径を表2に示した。
【0071】
[比較例5]
コロイド結晶(B)を用いること以外は実施例6と同様にしてNiO多孔体を調製した。SEMによる形状観察を行ない、SEM観察で得られたNiO中の多孔構造の割合を表2に示した。
【0072】
[比較例6]
コロイド結晶(C)を用いること以外は実施例6と同様にしてNiO多孔体を調製した。SEMによる形状観察を行ない、SEM観察で得られたNiO中の多孔構造の割合を表2に示した。
【0073】
[実施例7]
金属硝酸塩として、硝酸ランタン(III)・6水和物を用いたこと以外は、実施例1と同様にしてLa23多孔体を調製した。結晶相は、XRD測定により同定した。SEM観察で得られたLa23中の多孔構造の割合と得られたLa23の結晶子径を表2に示した。
【0074】
[比較例7]
コロイド結晶(B)を用いること以外は実施例7と同様にしてLa23多孔体を調製した。SEMによる形状観察を行ない、SEM観察で得られたLa23中の多孔構造の割合を表2に示した。
【0075】
[比較例8]
コロイド結晶(C)を用いること以外は実施例7と同様にしてLa23多孔体を調製した。SEMによる形状観察を行ない、SEM観察で得られたLa23中の多孔構造の割合を表2に示した。
【0076】
[実施例8]
金属硝酸塩として、硝酸マグネシウム(II)・6水和物を用いたこと以外は、実施例1と同様にしてMgO多孔体を調製した。結晶相は、XRD測定により同定した。SEM観察で得られたMgO中の多孔構造の割合と得られたMgOの結晶子径を表2に示した。
【0077】
[比較例9]
コロイド結晶(B)を用いること以外は実施例8と同様にしてMgO多孔体を調製した。SEMによる形状観察を行ない、SEM観察で得られたMgO中の多孔構造の割合を表2に示した。
【0078】
[比較例10]
コロイド結晶(C)を用いること以外は実施例8と同様にしてMgO多孔体を調製した。SEMによる形状観察を行ない、SEM観察で得られたMgO中の多孔構造の割合を表2に示した。
【0079】
[実施例9]
金属硝酸塩として、硝酸アルミニウム(III)・9水和物を用いたこと以外は、実施例1と同様にしてAl23多孔体を調製した。結晶相は、XRD測定により同定した。SEM観察で得られたAl23中の多孔構造の割合と得られたAl23の結晶子径を表2に示した。
【0080】
[実施例10]
コロイド結晶(B)を用いること以外は実施例9と同様にしてAl23多孔体を調製した。SEMによる形状観察を行ない、SEM観察で得られたAl23中の多孔構造の割合を表2に示した。
【0081】
[実施例11]
コロイド結晶(C)を用いること以外は実施例9と同様にしてAl23多孔体を調製した。SEMによる形状観察を行ない、SEM観察で得られたAl23中の多孔構造の割合を表2に示した。
【0082】
[実施例12]
金属硝酸塩として、硝酸鉄(III)・9水和物を用いたこと以外は、実施例1と同様にしてFe23多孔体を調製した。結晶相は、XRD測定により同定した。SEM観察で得られたFe23中の多孔構造の割合と得られたFe23の結晶子径を表2に示した。
【0083】
[実施例13]
コロイド結晶(B)を用いること以外は実施例12と同様にしてFe23多孔体を調製した。SEMによる形状観察を行ない、SEM観察で得られたFe23中の多孔構造の割合を表2に示した。
【0084】
[実施例14]
コロイド結晶(C)を用いること以外は実施例12と同様にしてFe23多孔体を調製した。SEMによる形状観察を行ない、SEM観察で得られたFe23中の多孔構造の割合を表2に示した。
【0085】
【表1】

【0086】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
1種又は2種以上の金属の硝酸塩、ポリオール及びアルコールを含む原料溶液を調製する工程と、
前記原料溶液を有機高分子のコロイド結晶を含むテンプレートに含浸させる工程と、
前記原料溶液を含浸させたテンプレートを加熱することで前記金属の硝酸塩由来の硝酸により前記ポリオールを硝酸酸化し、金属カルボン酸塩を含むテンプレートを合成する加熱工程と、
前記金属カルボン酸塩を含むテンプレートを焼成することで該テンプレートを除去し、(複合)金属酸化物多孔体を合成する焼成工程と、を含む(複合)金属酸化物多孔体の製造方法であって、
前記有機高分子が、前記加熱工程における硝酸酸化温度よりも高いガラス転移温度を有するメタクリル酸エステル系ポリマーであることを特徴とする(複合)金属酸化物多孔体の製造方法。
【請求項2】
前記有機高分子が、ポリメタクリル酸メチルホモポリマーのガラス転移温度よりも高いガラス転移温度を有するメタクリル酸エステル系ポリマーであることを特徴とする請求項1に記載の(複合)金属酸化物多孔体の製造方法。
【請求項3】
前記金属の硝酸塩が、鉄、アルミニウム、セリウム、コバルト、亜鉛、ニッケル、ランタン及びマグネシウムの硝酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種の硝酸塩であることを特徴とする請求項1又は2に記載の(複合)金属酸化物多孔体の製造方法。
【請求項4】
前記(複合)金属酸化物が、酸化鉄(Fe23)、酸化アルミニウム(Al23)、酸化セリウム(Ce23)、酸化コバルト(Co23)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化ニッケル(NiO)、酸化ランタン(La23)及び酸化マグネシウム(MgO)からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属酸化物又は複合金属酸化物であることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の(複合)金属酸化物多孔体の製造方法。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載の方法により製造された(複合)金属酸化物多孔体。

【公開番号】特開2011−68514(P2011−68514A)
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−220954(P2009−220954)
【出願日】平成21年9月25日(2009.9.25)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【出願人】(504173471)国立大学法人北海道大学 (971)
【Fターム(参考)】