説明

(超)高分子量ポリエチレンの生産方法

本発明は、超高分子量ポリエチレン((U)HMWPE)の物品の生産方法に関するもので、この方法は、
−(U)HMWPE−P中のポリエンの分岐数が平均で炭素原子1000個当たり0.01から15個になるようなポリエンの含量を用いて、エチレンを、炭素原子3から100個を有する線状、分岐、または環状ポリエンと共重合させ、エチレンとポリエンのコポリマー((U)HMWPE−P)を生み出すステップ、および
−この(U)HMWPE−Pの成形の間または後に(U)HMWPE−Pを架橋させるステップ
を含む。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、(超)高分子量ポリエチレン((U)HMWPE)の物品の生産方法に関する。本発明はさらに、前記方法によって得られる物品、および医療用途に前記(U)HMWPEを使用することに関する。
【0002】
耐摩耗性、耐疲労性、および耐破砕性の点ですぐれた特性は、(U)HMWPEを、整形外科における、特に、高い耐摩耗性を必要とする関節形成用の関節コンポーネントの製作における最上の材料にした。股関節全置換術における寛骨臼カップまたはライナー、および膝関節全置換術における脛骨インサートが、(U)HMWPEの重要な用途である。
【0003】
HMWPEは、本明細書中では3×10g/mol以上の重量平均分子量、2〜18の間にある分子量分布(M/M)、および1.5〜8dl/gの固有粘度(IV)を有する実質的に線状のエチレンホモポリマーまたはコポリマーとして定義される。好ましくはHMWPEのIVは3〜8dl/g、より好ましくは5〜8dl/gである。IVは、ISO 1628−3に従って定義される。UHMWPEは、本明細書中では10g/mol以上の重量平均分子量、2〜18の間にある分子量分布(M/M)、および8dl/g以上のIVを有する実質的に線状のエチレンホモポリマーまたはコポリマーとして定義される。好ましくはUHMWPEのIVは、8〜60dl/gの間にある。
【0004】
(U)HMWPEは、例えば「The UHMWPE Handbook」(Elsevier Academic Press,2004,p.14〜22)中のSteven M.Kurtzの記述のような(U)HMWPEの生産のための任意の既知の方法によって得ることができる。(U)HMWPEは、一般には下記に述べるような成形および切削加工によってさらに加工することができる粉末として得られる。
【0005】
検討の結果、γ線または電子線による(U)HMWPEの架橋が摩耗にきわめて有効であることが示されており、それは平滑な対向面、例えば一般に補綴結合と関係するものに関して最もはっきり実証された。
【0006】
しかしながら、関節全置換手術における(架橋された)(U)HMWPEの使用の際立った成功にもかかわらず、J.H.Dumbletonらの論文、J.Arthroplasty 2002,17(5):649〜661およびT.W.Bauerらの論文、Skeletal Radiol 1999,28(9):483〜497に示されているように、例えば移植の数年後にコンポーネントの無菌性の弛みまたは機械的破損から起こる故障がいまだに頻繁に起こる。これら故障の大部分は(U)HMWPEコンポーネントの摩耗によって生じることが実証されている。摩耗はデブリの形成につながり、そして今度はそれが炎症反応を誘発し、インプラントの弛みを引き起こすので摩耗は主要な問題である。
【0007】
(U)HMWPEの酸化安定度に起因するこのコンポーネントの破損は、架橋および/または滅菌の際の照射の副次的作用に少なくとも部分的に起因することが分かっている。照射は、(U)HMWPEの磨耗特性にプラスの効果を及ぼす架橋に加えて、ポリエチレンの酸化崩壊を引き起こすことが分かっている。酸化崩壊は、(U)HMWPEの機械的性質にマイナスの効果を及ぼす。
【0008】
前記酸化崩壊の程度は照射線量に強く左右され、したがって線量はできるだけ低く保たれるべきである。これにより、形成される遊離基の量がより少ないという結果をもたらすことになり、したがってアニーリングおよび/または安定剤の必要性が減る。これは今の装置メーカーの関心の的である。一方で、十分な架橋密度を可能にするためには線量は十分に高いことが必要である。
【0009】
Braccoらの論文、Polymer 46(2005)10648〜10657(「Bracco」)においては、より低い照射線量を用いて十分な架橋密度を得る目的で、(U)HMWPEに、(U)HMWPEの架橋に対する感度を高めるように添加剤が加えられた。1,7−オクタジエン、メチルアセチレン、およびエチレン中にそれぞれ浸漬した(U)HMWPEの試験片に異なる線量の電子ビーム放射線を単回または複数回の通過によって照射し、それらをフーリエ変換赤外(FTIR)分光法を用いて検討した。機械的性質の変化の記録をとるためにすべての試料について引張試験が行われた。ゲル分率の測定の結果、架橋はすべての照射試料において起こることが分かったが、この目的にとっては1,7−オクタジエンが最も効果のある添加剤であり、架橋の増強に関してすぐれた効率を示すことが分かった。
【0010】
上記手順の欠点は、別のステップにおいて拡散によって添加剤を(U)HMWPE中に取り込む必要がある点である。この拡散過程は非常に緩慢であり、この工程は(U)HMWPEの薄膜を使用する場合でさえ、Bracco中の実験の2.3節に示されるように7日間を要する。人工関節が使われる場合、この工程はさらに長時間を要することは明らかである。
【0011】
これもまたポリマー、例えば(U)HMWPE中への添加剤の拡散および後続の架橋を必要とする米国特許第5,594,041号明細書中に開示されている手順には、同様の欠点がある。実際には、3,I.49〜67欄に記載されているように緩慢な拡散速度のために添加剤は限られた深さまでしか拡散しない。Braccoにおいて、また米国特許第5,594,041号明細書において使用されている方法の別の問題は、非転化ポリエンが最終物品中にいくらか残留することになり、その使い方によっては規制上の問題を引き起こす恐れがあることである。
【0012】
したがって本発明の主要な目的は、架橋された(U)HMWPEを生産するための少なくとも代替の方法を提供することである。具体的には、従来技術において開示されている方法よりも効率的な架橋済み(U)HMWPEの生産方法を提供することが、本発明の目的である。
【0013】
意外なことに、本発明のこの目的は、下記の(超)高分子量ポリエチレン((U)HMWPE−P)の物品の生産方法、すなわち
−エチレンとポリエンのコポリマー((U)HMWPE−P)中のポリエンの分岐数が平均で炭素原子1000個当たり0.01から15個になるようなポリエンの含量を用いて、エチレンを、炭素原子3から100個を有する線状、分岐、または環状ポリエンと共重合させ、(U)HMWPE−Pを生み出すステップ、および
−この(U)HMWPE−Pの成形の間または後に(U)HMWPE−Pを架橋させるステップ
を含む方法によって達成することができることを見出した。
【0014】
本発明の第一の実施形態では、(超)高分子量ポリエチレン((U)HMWPE)物品の生産方法は、
a)エチレンとポリエンのコポリマー(以後、(U)HMWPE−Pと呼ぶ)中のポリエンの分岐数が平均で炭素原子1000個当たり0.01から15個になるようなポリエンの含量を用いて、エチレンを、炭素原子3から100個を有する線状、分岐、または環状ポリエンと共重合させ、(U)HMWPE−Pを生み出すステップ、
b)この(U)HMWPE−Pを成形して、(U)HMWPE−Pを含む在庫形状または物品にするステップ、
c)この在庫形状または物品をγ線または電子ビームの放射により架橋して、架橋(U)HMWPE−P((U)HMWPE−P−X)を含む在庫形状または物品を生み出すステップ、および
d)任意選択で、この在庫形状を切削加工して物品にするステップ
(ただし、ステップc)およびステップd)はどちらを先に行ってもよい)を含むことができる。
【0015】
本発明の第二の実施形態では、(超)高分子量ポリエチレン((U)HMWPE)物品の生産方法は、
a)(U)HMWPE−P中のポリエンの分岐数が平均で炭素原子1000個当たり0.01から15個になるようなポリエンの含量を用いて、エチレンを、炭素原子3から100個を有する線状、分岐、または環状ポリエンと共重合させ、エチレンとポリエンのコポリマー(以後、(U)HMWPE−Pと呼ぶ)を生み出すステップ、
b)開始剤、好ましくは過酸化物と、任意選択で架橋助剤とを加えるステップ、
c)この(U)HMWPE−Pを成形して、架橋(U)HMWPE−P((U)HMWPE−P−X)を含む在庫形状または物品にするステップ、
d)任意選択で、γ線または電子ビームの放射によって更に架橋を施す場合、γ線または電子ビームの放射を用いて(U)HMWPE−P−Xを含むその在庫形状または物品を架橋して、更に進んで架橋させた(U)HMWPE−P−Xを含むその在庫形状または物品を生み出すステップ、および
e)任意選択で、ステップc)またはd)が在庫形状を生み出す場合、その在庫形状を切削加工して物品にするステップ
(ただし、ステップd)およびステップe)はどちらを先に行ってもよい)を含むことができる。
【0016】
上記方法は、従来技術により使用される添加剤を、今や重合工程の間にコモノマーとして取り込む結果、添加剤に関係する余分の拡散のステップは必要でないので、従来の技術において述べた方法よりも効率的である。ポリエンをエチレンと共重合させることができるという事実は、Bracco中の10650頁左欄の解説、「ペンダント二重結合の量を(U)HMWPE合成の間に増すことはできない」から考えるとさらに一層意外なことである。さらに本発明の方法では非転化ポリエンのかなりの量は、ステップa)において、例えば下記で述べるスラリー工程において分散剤を除去するときにおそらく除去されるであろう。物品中の非転化ポリエンがより少量であることは、規制上の問題を考慮すると利点である。(U)HMWPE−P−Xの酸化安定度は、架橋(U)HMWPEホモポリマーよりもかなり高い。さらに(U)HMWPE−P−Xは、架橋(U)HMWPEホモポリマーと比べて改良された機械的性質を有する。
【0017】
本明細書においては、(U)HMWPE−Pは、炭素原子3〜100個を有する線状、分岐、または環状ポリエンとエチレンのコポリマーと定義され、また(U)HMWPE−P−Xは、炭素原子3〜100個を有する線状、分岐、または環状ポリエンとエチレンの架橋コポリマーと定義される。
【0018】
(U)HMWPE−Pは、(U)HMWPEの生産のための任意の既知の方法(ステップa))によって、例えばエチレンと、有機懸濁剤中に懸濁させたコモノマーとしての線状、分岐、または環状ポリエン(以後、ポリエンと呼ぶ)を、周期律表のIVb、Vb、VIb、またはVIII族の遷移金属か、周期律表のI、II、またはIII族の金属のハロゲン化物か、あるいは有機金属化合物を含む触媒の存在下において、ポリエンの分岐数が平均で炭素原子1000個当たり0.01から15個であるようなポリエンの含量を用いてスラリー共重合(slurry−copolymerizing)させることによって得ることができる。具体的には、塩化チタン(任意選択で担体、例えばMgClまたはSiO/MgCl上に坦持された)と、有機アルミニウム化合物、例えば塩化トリエチル−アルミニウムまたはジエチルアルミニウムとから作られるチーグラー−ナッタ触媒が使用される。別法では、例えば欧州特許出願公開第1605000A1号明細書に記載されているようにメタロセン触媒を使用することもできる。これらの化学薬品は空気および水分の影響を非常に受けやすいので、合成のすべてのステップは不活性ガス環境中で行われる。重合は、一般には55〜90℃の間にある温度において1〜40バールの間にある圧力下で行われる。この(U)HMWPE−Pの分子量は、エチレンガスにきわめて少量の水素を加えることによって、あるいは重合温度、圧力、または有機アルミニウム化合物の量を変えることによって制御することができる。重合の後、ポリマー粒子を懸濁剤から分離し、乾燥する。具体的には懸濁剤の大部分を遠心分離により分離し、また残った懸濁剤を乾燥によって、例えば撹拌床乾燥機または流動床乾燥機中で分離する。懸濁剤媒体としては沸騰させた脂肪族溶媒、例えばヘキサンまたはヘプタンを使用することができる。前記懸濁剤の沸点は反応温度よりも高いことが好ましいが、懸濁剤を除去する場合の問題を避けるために非常に高くはない。
【0019】
本発明において使用されるポリエンは、炭素原子3〜100個を有する、好ましくは炭素原子3〜50個を有する、より好ましくは炭素原子3〜20個を有する線状、分岐、または環状ポリエンである。本発明において使用されるポリエンは、分子中に少なくとも2個の不飽和結合、好ましくは二重結合を有する炭化水素化合物である。例えば1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、1,4−ペンタジエン、1,4−ヘキサジエン、2,4−ヘキサジエン、1,5−ヘキサジエン、1,6−ヘプタジエン、1,7−オクタジエン、1,2−プロパジエン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、2−メチル−1,3−ブタジエン、2−メチル−2,4−ペンタジエン、3−メチル−2,4−ヘキサジエン、2,5−ジメチル−1,5−ヘキサジエン、4−メチル−1,4−ヘキサジエン、5−メチル−1,4−ヘキサジエン、4−エチル−1,4−ヘキサジエン、4,5−ジメチル−1,4−ヘキサジエン、シクロヘキサジエン、4−メチル−1,4−ヘプタジエン、4−エチル−1,4−ヘプタジエン、5−メチル−1,4−ヘプタジエン、4−エチル−1,4−オクタジエン、5−メチル−1,4−オクタジエン、および4−n−プロピル−1,4−デカジエンなどの非共役ジエン型炭化水素化合物と、1,3,5−ヘキサトリエン、1,3,5,7−オクタテトラエン、および2−ビニル−1,3−ブタジエンなどの共役ポリオレフィン型炭化水素化合物と、スクアレン、ジビニルベンゼン、ビニルノルボルネン、エチレンノルボルネン、およびジシクロペンタジエンなどの非共役ポリオレフィン型炭化水素化合物とを挙げることができる。これらのなかではエチレンとの特にすぐれた共重合性を有する非共役ジエン型化水素化合物が好ましい。
【0020】
ポリエン含量の測定は、赤外分光光度計を用いて行うことができる。エチレン鎖中に含まれるポリエン構造中の二重結合を示す880、910、および965cm−1における吸光度を測定し、その測定値を、13C核磁気共鳴分光法によりモデル化合物を用いてあらかじめ準備した検量線を使用することによって、炭素原子1000個当たりの不飽和部分の数に変換する。ピークの変換値(導入されたポリエンの構造に応じて異なる)の和は、総ポリエン含量を表す。別法では不飽和部分の含量を求めるためにHおよび/または13C−NMRを利用することもできる。
【0021】
ポリエンコモノマーは、ポリマー鎖中の炭素原子1000個当たりのポリエン含量が上記範囲内にあるような量で使用すべきである。炭素原子1000個当たりのポリエン分岐が0.01個よりも少ないポリエン含量の場合、耐摩耗性の改善にとって有効な構造を形成することができない。一方、炭素原子1000個当たりのポリエン分岐が15個を超すポリエン含量の場合、結晶化度が劇的に低下し、高弾性率を得ることができない。好ましくはポリエンコモノマーは、ポリマー鎖中の炭素原子1000個当たりのポリエン含量が、炭素原子1000個当たり0.01〜10個の間のポリエン分岐、より好ましくは0.01〜5個の間のポリエン分岐、具体的には0.01〜3個の間のポリエン分岐であるような量で使用されるべきである。
【0022】
(U)HMWPE−Pを成形して、また必要ならば切削加工して単品にするには、例えば参照により本明細書に援用される「The UHMWPE Handbook」(Elsevier Academic Press,2004,p.22〜31)(以後、「The UHMWPE Handbook」)中でSteven M.Kurtzが述べているような数種類の加工法を使用することができる。
【0023】
第一の方法は圧縮成形であり、(U)HMWPE−Pを満たした金型を一定の時間のあいだ高温と高圧の併用の下におく。続いてこの系を、製品の収縮および変形をできるだけ少なくし、かつ結晶化度および機械的性質を最適化するようにゆっくりと一定の速度で冷却する。次いで製品は、最終のコンポーネント、例えば関節コンポーネントに切削加工することが可能な、より小型のブロックまたは円筒棒に切削加工される。
【0024】
第二の方法のラム押出は、直径が25mmから150mmの範囲にある円筒棒材を生産する。この方法では、(U)HMWPE−P装入材料をチャネル中に供給し、次いで熱を加える。次に、ラムがその可塑化した装入材料を圧縮し、加熱された円筒バレル中へ押出し、そこで材料が固まり円筒棒材になる。ラムが後退し、前進するにつれて、チャンバ中の粉末素材が補充される。最終のコンポーネント、例えば関節コンポーネントをこの棒材から切削加工することができる。
【0025】
第三の方法の直接圧縮成形では、予め形状を与えた金型を用いて(U)HMWPE−P樹脂装入材料を固めて最終または半最終単品にする。この方法を適用する場合、必ずしも常に切削加工が必要なわけではない。この方法はスピードが遅くかつ費用がかかるが、この方法を用いて作られる整形外科用の関節コンポーネントは、きわめて平滑な表面の仕上がりを有し、寸法のばらつきやむらがきわめて少ない。
【0026】
HMWPE粉末はまた、射出成形または押出により溶融加工してシートまたは棒にすることもできる。この方法では最終製品を直接得ることができるが、その製品を切削加工して最終製品を得ることもまた可能である。
【0027】
上記方法に加えて、The UHMWPE Handbook(p.27)に記載されているように熱間等方圧加圧法(HIPing)を利用することもできる。
【0028】
(U)HMWPE−Pの切削加工は、最初の粗仕上げおよび仕上げの両ステップのフライス削りおよび外丸削り操作からなる。切削加工に関するより詳細については、The UHMWPE Handbook(p.31〜32)中で得られる。
【0029】
(U)HMWPE物品を架橋させるために使用される、また(U)HMWPE−Pを含む物品に適用することもまたできるこれら3方法は、Biomaterials 2001,22:371〜401中のG.Lewisの記述のようにγ線照射、電子ビーム照射、および化学的に誘起される架橋である。
【0030】
高度に架橋された(U)HMWPE物品を得るために使用されるγ照射線量は、30〜250kGray(kGy)の間で、好ましくは30〜170kGyの間で、より好ましくは40〜130kGyの間で選択される。より低架橋の(U)HMWPE物品を得るためには、または開始剤の使用による化学的架橋と組み合わせて照射を使用する場合には、例えば25から50kGyまでのより低い照射線量を使用することができる。
【0031】
本発明による(U)HMWPE物品の滅菌の場合、10〜40kGyの間の、好ましくは20〜35kGyの間の照射線量を使用することができる。在庫形状または物品のいずれか、あるいはそれら両方は、電子ビームまたはγ線を当てることによって照射架橋を施すことができる。本発明の第二の実施形態によれば(U)HMWPEは、その(U)HMWPEに開始剤、例えば過酸化物と、任意選択で架橋助剤とを加えることによって架橋される。過酸化物架橋効率を高めるために、任意選択で架橋助剤、すなわち2個以上の不飽和部分を有する化合物が使用される。好適な過酸化物の例には、tert−ブチルクミルペルオキシド、tert−ブチルペルオキシベンゾアート、ジ−tert−ブチルペルオキシド、3,3,5,7,7−ペンタメチル−1,2,4−トリオキセパン、1,1−ジ(tert−ブチルペルオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、ブチル4,4−ジ(tert−ブチルペルオキシ)バレラート、2,5−ジメチル−2,5−ジ(tert−ブチルペルオキシ)ヘキシン−3、2,5−ジメチル−2,5−ジ(tert−ブチルペルオキシ)ヘキサン、ジ(4−メチルベンゾイル)ペルオキシド、ジベンゾイルペルオキシド、ジ(2,4−ジクロロベンゾイル)ペルオキシド、ジクミルペルオキシド、3,3,5,7,7−ペンタメチル−1,2,4−トリオキセパン、1−(2−tert−ブチルペルオキシイソプロピル)−3−イソプロペニルベンゼン、2,4−ジアリルオキシ−6−tert−ブチルペルオキシ−1,3,5−トリアジン、ジ(tert−ブチルペルオキシイソプロピル)ベンゼン、ジイソプロピルベンゼンモノヒドロペルオキシド、クミルヒドロペルオキシド、およびtert−ブチルヒドロペルオキシドが挙げられる。好適な架橋助剤の例には、ジビニルベンゼン、フタル酸ジアリル、シアヌル酸トリアリル、イソシアヌル酸トリアリル、トリメリト酸トリアリル、メタ−フェニレンビスマレイミド、エチレングリコールジメタクリラート、エチレングリコールジアクリラート、トリメチロールプロパントリメタクリラート、トリメチロールプロパン、トリメタクリラート、ペンタエリトリトールテトラメタクリラート、ジアクリル酸亜鉛、ジメタクリル酸亜鉛、およびポリブタジエンが挙げられる。これらの過酸化物および架橋助剤は、液体または粉末のいずれかとして(U)HMWPE−P粉末と混ぜ合わせ、次いで成形によって固めることができる。照射を使用する場合は架橋が(U)HMWPE−Pの固体状態で起こるのに対し、過酸化物架橋はその溶融物中で起こる。
【0032】
エチレンに加えて、また(U)HMWPE−Pおよび(U)HMWPE−P−Xに関しては、ポリエン、(U)HMWPE、(U)HMWPE−P、および(U)HMWPE−P−Xは、改良された加工特性を得るために、またはポリマーの物理的および機械的性質を変えるために1種類または複数種類のα−オレフィンコモノマー、例えばプロピレン、ブテン、ペンテン、ヘキセン、4−メチルペンテン、オクテンなどを含むことができる。さらにこのポリマーは、添加剤、溶媒、および充填剤などの非ポリマー材料を含有することができる。具体的には、架橋、滅菌、または使用の間の過度の酸化を避けるためにビタミンEおよびヒンダードアミン光安定剤(HALS)などの酸化防止剤を加えることができる。
【0033】
ビタミンEの量と比べてはるかに少ない量のHALS安定剤を使用することができる。HALS安定剤は、(U)HMWPEの総重量を基準にして、好ましくは0.001〜5重量%の間にある、より好ましくは0.01〜2重量%の間にある、最も好ましくは0.02〜1重量%の間にある量が使用される。好ましくは、選択されるHALS安定剤は、置換ピペリジン化合物から誘導される化合物、具体的にはアルキル置換ピペリジル、ピペリジニル、またはピペラジノン化合物あるいは置換アルコキシピペリジニル化合物から誘導される任意の化合物である。
【0034】
また、ステアリン酸カルシウムまたはステアリン酸亜鉛などの無機ステアリン酸塩を、(U)HMWPE−Pにフロー剤として、または二次加工設備を腐食させる可能性を有する触媒残渣の影響をできるだけ少なくするために加えることもできる。さらに、ステアリン酸カルシウムは、ポリマーのラム押出を使用して部品を製作する場合に潤滑剤の役割を果たすことができ、また製品がその白色を維持するのに役立つこともある。
【0035】
本発明による(U)HMWPE−P−Xを含む物品は、上記で参照した「The UHMWPE Handbook」(p.37〜47)中に記載されているように、例えば、10〜40kGyの間にある放射線量を用いた空気中での、または好ましくは不活性雰囲気中でのγ線滅菌、あるいはガスプラズマ滅菌、あるいはエチレンオキシドガス滅菌を適用して滅菌することができる。
【0036】
本発明による(U)HMWPE−P−Xを含む物品は、種々様々な用途に、例えば人工関節における軸受材料として整形外科などの医療用途に利用することができる。(U)HMWPE−P−Xは、例えば人工股関節形成術、人工膝関節置換術、人工肩関節置換術、および脊髄用途、例えば人工椎間板全置換術において使用することができる。これらの用途は、上記で参照した「The UHMWPE Handbook」中で4〜6章(股部)、7〜8章(膝部)、9章(肩部)、および10章(脊髄用途)に詳細に記載されている。
【0037】
次に、本発明の範囲を決して限定することのない下記の実施例に関して本発明を詳細に述べることにする。
【0038】
[実施例]
[材料]
[触媒]
Ti含有チーグラー−ナッタ触媒AおよびB
トリエチルアルミナ(TEA)(Chemtura)
【0039】
[ジエン]
1,7−オクタジエン(Aldrich)99%
ビニルノルボルネン(VNB)(INEOS)>99%
【0040】
[実施例1〜8ならびに比較実験AおよびB]
[エチレン−1,7−オクタジエンとエチレン−ビニルノルボルネンのコポリマーの調製およびその特性]
【0041】
[重合条件]
重合は2L SSオートクレーブ中で行った。
重合温度:60℃、モノマーの圧力:0.5MPa
コモノマーの量:10mlおよび40ml
スカベンジャー:TEA 1.3mmol
【0042】
[重合手順]
メカニカルスターラを備えた2.0Lバッチ式オートクレーブ中でバッチ重合を行った。反応温度を60℃に設定し、サーモスタットにより制御した。供給流(溶媒およびエチレン)を種々の吸収媒体により精製して殺触媒不純物、例えば水、酸素、および当業者に知られているような極性化合物を除去した。重合の間、エチレンを連続的に反応器のガスキャップに供給した。反応器の圧力をバックプレッシャー弁によって0.5MPaで一定に保った。
【0043】
あらかじめ乾燥した反応器を不活性雰囲気中で800mLのヘプタンで満たした。その溶媒が所望の温度に達した後、第二モノマー(ジエン)と触媒とTEAを加えた。エチレンを最高圧力0.5MPaまで流量96nL/時で加えた。所望の重合時間の後、反応器の中身を収集し、濾過し、3Lのヘプタンで洗浄して未反応のジエンを除去した。50℃の真空下で一晩乾燥した後、そのポリマーを計量し、試料を分析用に調製した。
【0044】
ポリマー粉末を圧縮成形して、ISO−11542に準拠した試験試料にした。試験試料の照射は、内側にアルミニウム被膜を有する紙袋中に真空密閉された試料上にγ線照射(線量25kGy/時)することによって行った。膨潤試験および摩耗試験用の試験試料を準備するために、照射済みの、後で切削加工してそれら試験に必要な小さい試験試料にする棒材試料を調製した。
【0045】
[膨潤試験]
膨潤比の試験は、ASTM F2214−02規格に準拠して行った。寸法5mm×5mm×5mmのブロックを切削加工し、o−キシレン中での膨潤を受けさせた。
【0046】
[摩耗試験]
直径9mm、長さ12mmのピンを、照射済み棒材試料から切削加工した。
【0047】
摩耗試験は、Weartester SuperCTPOD TE87で行った。この摩耗試験機では100個のピンを同時に評価することができる。ピンは試験機中を円運動で動く。
【0048】
超純水で希釈(1:1)したHyClone Alpha Calf血清(Thermofischer Scientificから入手した)中で1Hzのサイクル周期数で総距離18kmの試験を行った。血清を潤滑用に使用し、ピンを摩耗試験機中で定格接触圧1.1MPaおよびすべり速度31.4mm/秒を用いて磨きCoCr円板に押し付けて移動させた。潤滑剤の有害な分解を遅らせるためにその温度を20±0.5℃に保った。6kmおきに試験を停止し、試験片およびそれらのホルダーを取り外し清掃した。ピンを真空乾燥し、室内雰囲気中に少なくとも2時間放置して安定化させ、次いで計量した後、系を再び組み立て、新鮮な潤滑剤で試験を継続した。すべての試料について浸漬対照(soak control)ピンを用いて、それら材料が流体吸収のせいで無視できない増量を示したかどうかを調べた。
【0049】
摩耗率(wear factor)を下記の式を用いて決定した。
【数1】



表1に示す値は、5個の試料の平均値である。
【0050】
[二重結合の量]
炭素原子1000個当たりの二重結合の量は、赤外分光光度計を用いて求めた。エチレン鎖中に含まれるポリエン構造中の二重結合を示す880、910、および965cm−1における吸光度を測定し、その測定値を、13C核磁気共鳴分光法によりモデル化合物を用いてあらかじめ準備した検量線を使用することによって、炭素原子1000個当たりの不飽和部分の数に変換した。ピークの変換値(導入されたポリエンの構造に応じて異なる)の和が、総ポリエン含量を表した。
【0051】
【表1】



【0052】
実施例1〜8の結果から、
−重合の間に加えられるジエンの量が多いほど、多量のジエンがコポリマー中に取り込まれ、
−コポリマー中に取り込まれるジエンの量が多いほど、架橋密度(膨潤比から計算される)は増し、
−コポリマー中に取り込まれるジエンの量が増すにつれて摩耗率は顕著に低下する(摩耗が少ない)
ことが明らかになった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(超)高分子量ポリエチレン((U)HMWPE)の物品の生産方法であって、
−エチレンとポリエンのコポリマー((U)HMWPE−P)中のポリエンの分岐数が平均で炭素原子1000個当たり0.01から15個になるようなポリエンの含量を用いて、エチレンを、炭素原子3から100個を有する線状、分岐、または環状ポリエンと共重合させ、(U)HMWPE−Pを生み出すステップ、および
−前記(U)HMWPE−Pの成形の間または後に前記(U)HMWPE−Pを架橋させるステップ
を含む、方法。
【請求項2】
a)エチレンとポリエンのコポリマー(以後、(U)HMWPE−Pと呼ぶ)中のポリエンの分岐数が平均で炭素原子1000個当たり0.01から15個になるようなポリエンの含量を用いて、エチレンを、炭素原子3から100個を有する線状、分岐、または環状ポリエンと共重合させ、(U)HMWPE−Pを生み出すステップ、
b)前記(U)HMWPE−Pを成形して、(U)HMWPE−Pを含む在庫形状または物品にするステップ、
c)前記在庫形状または前記物品をγ線または電子ビームの放射により架橋して、架橋(U)HMWPE−P((U)HMWPE−P−X)を含む在庫形状または物品を生み出すステップ、および
d)任意選択で、前記在庫形状を切削加工して物品にするステップ
(ただし、ステップc)およびステップd)はどちらを先に行ってもよい)を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
a)エチレンとポリエンのコポリマー(以後、(U)HMWPE−Pと呼ぶ)中のポリエンの分岐数が平均で炭素原子1000個当たり0.01から15個になるようなポリエンの含量を用いて、エチレンを、炭素原子3から100個を有する線状、分岐、または環状ポリエンと共重合させ、(U)HMWPE−Pを生み出すステップ、
b)開始剤、好ましくは過酸化物と、任意選択で架橋助剤とを加えるステップ、
c)前記(U)HMWPE−Pを成形して、架橋(U)HMWPE−P((U)HMWPE−P−X)を含む在庫形状または物品にするステップ、
d)任意選択で、γ線または電子ビームの放射によって更に架橋を施す場合、γ線または電子ビームの放射を用いて(U)HMWPE−P−Xを含む前記在庫形状または前記物品を架橋して、更に進んで架橋させた(U)HMWPE−P−Xを含む在庫形状または物品を生み出すステップ、および
e)任意選択で、ステップc)またはd)が在庫形状を生み出す場合、前記在庫形状を切削加工して物品にするステップ
(ただし、ステップd)およびステップe)はどちらを先に行ってもよい)を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記ポリエンが、非共役ジエン型炭化水素化合物である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記非共役ジエン型炭化水素化合物が、1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、1,4−ペンタジエン、2,4−ヘキサジエン、1,5−ヘキサジエン、1,6−ヘプタジエン、1,7−オクタジエン、1,2−プロパジエン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、2−メチル−1,3−ブタジエン、2−メチル−2,4−ペンタジエン、3−メチル−2,4−ヘキサジエン、2,5−ジメチル−1,5−ヘキサジエン、4−メチル−1,4−ヘキサジエン、5−メチル−1,4−ヘキサジエン、4−エチル−1,4−ヘキサジエン、4,5−ジメチル−1,4−ヘキサジエン、4−メチル−1,4−ヘプタジエン、4−エチル−1,4−ヘプタジエン、5−メチル−1,4−ヘプタジエン、4−エチル−1,4−オクタジエン、5−メチル−1,4−オクタジエン、4−n−プロピル−1,4−デカジエン、スクアレン、およびジビニルベンゼンと、ビニルノルボルネン、エチレンノルボルネン、およびジシクロペンタジエンとからなる群から選択される、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
(U)HMWPE−P中のポリエンの分岐数が、平均で炭素原子1000個当たり0.01から5個である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記(U)HMWPEが、8dl/g以上の固有粘度を有するUHMWPEである、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
(U)HMWPE−Pが、射出成形、押出、圧縮成形、ラム押出、直接圧縮成形、または熱間等方圧加圧法によって成形される、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
(U)HMWPE−Pを含む前記物品が、γ線を用いて架橋される、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか一項による方法によって得られる(U)HMWPE−P−Xを含む物品。
【請求項11】
前記物品が、人工医用インプラントである、請求項10に記載の物品。
【請求項12】
前記人工医用インプラントが、股関節形成術用、例えば人工股関節全置換術における寛骨臼カップまたはライナーとして、膝関節置換術用、例えば人工膝関節全置換術における脛骨インサートとして、肩関節置換術用、または人工椎間板全置換術などの脊髄用途用に使用される、請求項11に記載の物品。
【請求項13】
前記人工医用インプラントが、全置換用人工関節である、請求項11に記載の物品。
【請求項14】
医療用途に、具体的には人工医用インプラントに、より具体的には全置換用人工関節における請求項10〜13のいずれか一項に記載の物品の使用。

【公表番号】特表2011−503253(P2011−503253A)
【公表日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−531550(P2010−531550)
【出願日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際出願番号】PCT/EP2008/065090
【国際公開番号】WO2009/060044
【国際公開日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【出願人】(503220392)ディーエスエム アイピー アセッツ ビー.ブイ. (873)
【Fターム(参考)】