説明

(+)−シス−セルトラリンの選択的な製造方法

【課題】セルトラリン塩酸塩の製造において中間体として用いられる下記式1で示される(+)−シス−セルトラリンの選択的な製造方法を提供すること。
【解決手段】本発明は、(±)−シス/トランス−セルトラリン又は(±)−シス−セルトラリンを(S)−(−)−2−ピロリドン−5−カルボン酸と反応させて(+)−シス−セルトラリン(S)−(−)−2−ピロリドン−5−カルボン酸塩を製造して光学分割する工程を含む、式1で示される(+)−シス−セルトラリンの製造方法を提供する。
[式1]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、(+)−シス−セルトラリンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
(+)−シス−セルトラリン[(1S,4S)−シス−4−(3,4−ジクロロフェニル)−1,2,3,4−テトラヒドロ−N−メチル−ナフタレン−1−アミン]は、選択的なセロトニン再取り込み阻害剤であって、うつ病、強迫神経症及びパニック障害の治療薬であり、(+)−シス−セルトラリン塩酸塩の形でファイザーによって「Zoloft」の商品名で販売されており、その構造式は次のとおりである。
【0003】
【化1】

【0004】
特許文献1には、下記式Aで示されるセルトラリン−1−イミン(ケチミン化合物)から10%パラジウム−活性炭触媒を用いて大気圧で水素化反応を行うことによりシス−ラセメートセルトラリン(cis-racemate sertraline)を70%の純度で製造する方法が開示されている。
また、下記式Aで示されるケチミン化合物から水素化ホウ素ナトリウムを用いて、シス−ラセメートセルトラリンとトランス−ラセメートセルトラリン(「(+)−トランス−セルトラリンと(−)−トランス−セルトラリンが1:1の比で存在」)が1:1で存在する化合物を製造する方法が開示されている。
このように製造された化合物において、(+)−シス−セルトラリンのみを選択的に分離するためには多数回の精製過程を経なければならない。特に、目的化合物と類似の物理的特性を有する脱塩素化セルトラリン副産物の除去が非常に難しい。
[式A]
【0005】
【化2】

【0006】
また、特許文献2には、D−(−)−マンデル酸、L−(−)−マンデル酸、(+)−10−カンファースルホン酸、または(−)−10−カンファースルホン酸を用いて(+)−シス−セルトラリンを分離する方法が開示されている。ところが、これらの有機酸を光学分割剤として用いる場合、(+)−シス−セルトラリンのみを選択的に光学分割するために多数回の精製過程を経なければならないという不便さがある。この場合、低い収率と反復精製過程による工程の複雑さが存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第4,536,518号明細書
【特許文献2】韓国特許第10−0704590号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、(+)−シス−セルトラリンのみを選択的に分離し、精製して、残留副産物、特に脱塩素化されたセルトラリン副産物を含まない高純度の(+)−シス−セルトラリンを高収率で製造することができる、改善された製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、下記式2で示される(±)−シス/トランス−セルトラリン又は(±)−シス−セルトラリンを光学分割する際に、(S)−(−)−2−ピロリドン−5−カルボン酸を用いることにより、高純度及び高収率の式1で示される(+)−シス−セルトラリンを製造できる方法を見出し、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明は、
[1] 下記式2で示される(±)−シス/トランス−セルトラリン又は(±)−シス−セルトラリンを(S)−(−)−2−ピロリドン−5−カルボン酸と反応させて(+)−シス−セルトラリン(S)−(−)−2−ピロリドン−5−カルボン酸塩を製造して光学分割する工程を含む、式1で示される(+)−シス−セルトラリンの製造方法;
[式1]:
【0010】
【化3】

【0011】
[式2]:
【0012】
【化4】

【0013】
[2] (S)−(−)−2−ピロリドン−5−カルボン酸を(±)−シス/トランス−セルトラリン又は(±)−シス−セルトラリンに対して0.25〜1.0モル当量で使用することを特徴とする、上記[1]に記載の(+)−シス−セルトラリンの製造方法;
[3] 反応溶媒がトルエン、酢酸エチル、アセトン及びエタノールから選ばれることを特徴とする、上記[1]に記載の(+)−シス−セルトラリンの製造方法;
[4] 反応溶媒がエタノールであることを特徴とする、上記[3]に記載の(+)−シス−セルトラリンの製造方法;
[5] 反応溶媒のエタノール使用量が(±)−シス/トランス−セルトラリン又は(±)−シス−セルトラリンの重量に対して3〜10倍の体積比であることを特徴とする、上記[4]に記載の(+)−シス−セルトラリンの製造方法;
[6] 反応溶媒のエタノール使用量が(±)−シス/トランス−セルトラリン又は(±)−シス−セルトラリンの重量に対して5〜10倍の体積比であることを特徴とする、上記[5]に記載の(+)−シス−セルトラリンの製造方法;
[7] 反応物質の溶解が40〜60℃で行われることを特徴とする、上記[3]〜[6]のいずれかに記載の(+)−シス−セルトラリンの製造方法;
[8] 反応物質溶解後の反応が15〜25℃で行われることを特徴とする、上記[3]〜[6]のいずれかに記載の(+)−シス−セルトラリンの製造方法;
[9] 反応時間が5〜30時間であることを特徴とする、上記[3]〜[6]のいずれかに記載の(+)−シス−セルトラリンの製造方法;
[10] (+)−シス−セルトラリン(S)−(−)−2−ピロリドン−5−カルボン酸塩を、エタノール及び水を用いて再結晶する精製工程をさらに含むことを特徴とする、上記[1]に記載の(+)−シス−セルトラリンの製造方法;
[11] (+)−シス−セルトラリン(S)−(−)−2−ピロリドン−5−カルボン酸塩に対してエタノール7〜13倍(v/wt)及び水0.7〜1.2倍(v/wt)を用いて(+)−シス−セルトラリン(S)−(−)−2−ピロリドン−5−カルボン酸塩を再結晶する精製工程をさらに含むことを特徴とする、上記[1]に記載の(+)−シス−セルトラリンの製造方法;
[12] (+)−シス−セルトラリン(S)−(−)−2−ピロリドン−5−カルボン酸塩に対してエタノール10倍(v/wt)及び水0.8〜1.0倍(v/wt)を用いて(+)−シス−セルトラリン(S)−(−)−2−ピロリドン−5−カルボン酸塩を再結晶する精製工程をさらに含むことを特徴とする、上記[1]に記載の(+)−シス−セルトラリンの製造方法;
に関する。
【発明の効果】
【0014】
本発明の(±)−シス/トランス−セルトラリン又は(±)−シス−セルトラリンの異性体を光学分割するための(S)−(−)−2−ピロリドン−5−カルボン酸の使用は、既存の光学分割剤の中で最も効果的であると知られている(D)−(−)−マンデル酸より著しく向上した光学純度を有する目的化合物を提供し、1回の再結晶でも光学純度100%の(+)−シス−セルトラリンを製造できるという効果がある。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明において、(±)−シス/トランス−セルトラリン又は(±)−シス−セルトラリンは、市販されるものを使用するか、或いは公知の方法であるUS4536518の実施例7に従って前記式Aで示される化合物(セルトラリン−1−イミン)を水素化ホウ素ナトリウムと反応させて製造して使用することができる[例えば、韓国特許公告第1984−0002001の実施例7の工程F)を参照]。このように製造された化合物は、パラジウム触媒と水素ガスを用いて製造された化合物に比べて脱塩素化合物が発生しないため、高純度の化合物を得ることができるという利点がある。
また、(S)−(−)−2−ピロリドン−5−カルボン酸は、市販されるもの(例えば、Aldrich、TCI社から購入可能)を使用することができる。
本発明において、(S)−(−)−2−ピロリドン−5−カルボン酸の使用量は、(±)−シス/トランス−セルトラリン又は(±)−シス−セルトラリンに対して0.25〜1.0モル当量であることが試薬の経済性及び副産物の生成を最小限にするために好ましく、さらに好ましくは0.5モル当量である。
本発明において、反応溶媒は、トルエン、酢酸エチル、アセトン、エタノールなどを使用することができるが、好ましくはトルエン又はエタノールであり、さらに好ましくはエタノールである。反応溶媒の使用量は(±)−シス/トランス−セルトラリン又は(±)−シス−セルトラリンの重量に対して3〜10倍の体積比であることが好ましく、さらに好ましくは5〜10倍の体積比である。
本発明において、(±)−シス/トランス−セルトラリン又は(±)−シス−セルトラリンと(S)−(−)−2−ピロリドン−5−カルボン酸の反応容器への添加順序は反応収率及び純度などに大きく影響しないが、(±)−シス/トランス−セルトラリン又は(±)−シス−セルトラリンを先に入れて攪拌した後、(S)−(−)−2−ピロリドン−5−カルボン酸を添加することが好ましい。
本発明において、(±)−シス/トランス−セルトラリン又は(±)−シス−セルトラリンと(S)−(−)−2−ピロリドン−カルボン酸を溶解するための温度は、反応溶媒の種類によって異なるが、通常、20℃〜反応溶媒の還流温度であり、反応溶媒がエタノールの場合には40〜60℃であることが好ましく、さら好ましくは50℃である。
本発明において、(±)−シス/トランス−セルトラリン又は(±)−シス−セルトラリン及び(S)−(−)−2−ピロリドン−5−カルボン酸の溶解後、反応のための温度は、反応溶媒によって異なるが、一般に0〜30℃であることが好ましく、さらに好ましくは15〜25℃(常温範囲)である。
本発明において、反応時間は、反応溶媒の種類及び反応温度によって異なるが、好ましくは5〜30時間である。
本発明において、(+)−シス−セルトラリン(S)−(−)−2−ピロリドン−5−カルボン酸塩に対してエタノール及び水を結晶化溶媒として用いる再結晶精製工程をさらに含むことができる。好ましくは、(+)−シス−セルトラリン(S)−(−)−2−ピロリドン−5−カルボン酸塩に対してエタノール7〜13倍(v/wt)及び水0.7〜1.2倍(v/wt)を用いる再結晶方法で精製する工程をさらに含むことができる。さらに好ましくは、(+)−シス−セルトラリン(S)−(−)−2−ピロリドン−5−カルボン酸塩に対してエタノール10倍(v/wt)及び水0.8〜1.0倍(v/wt)を用いる再結晶方法で精製する工程をさらに含むことができる。
【実施例】
【0016】
以下、本発明の理解を助けるために好適な製造例、実施例及び比較例を提示する。しかしながら、下記の製造例、実施例及び比較例は、本発明をより容易に理解するために提供されるものに過ぎず、本発明の内容を限定するものではない。
また、下記に言及された試薬及び溶媒は、別途言及がない限り、Aldrich社、TCI、Wako又はJunsei社から購入したものであり、(+)−シス−セルトラリンの光学純度はHPLC(高速液体クロマトグラフィー)及びGC(ガスクロマトグラフィー)を用いて測定した。これらの測定方法及び測定条件は次のとおりである。
(1)HPLC測定方法及び測定条件
1)試料溶液の調製
実施例及び比較例で製造された(+)−シス−セルトラリン塩60.0mgを希釈溶液(ジエチルアミン:ヘキサン:2−プロパノール=1:40:60(v:v:v))10mLに溶かし、これを試料溶液とする。
2)条件
*検出器:紫外線吸光光度計(測定波長275nm)
*カラム:4.6mm×25cm、5μmのシリカゲルAD for chiral separation R
*カラム温度:25℃
*カラム選定:(+)−シス−セルトラリンと(+)−シス−セルトラリンの鏡像異性体の分離度が1.5以上でなければならない。
*移動相:1mLのジエチルアミンと25mLの2−プロパノールと975mLのヘキサンとを混合した溶液から70mLを正確に量り取り30mLのヘキサンと混合した溶液を移動相とする。
流量:0.4mL/min
測定時間:30min
注入量:20μL
(2)GC測定方法及び測定条件
1)試料溶液の調製
実施例及び比較例によって精製された(+)−シス−セルトラリン塩0.250gを15mLの遠心分離機の試験管に入れ、メタノール2.0mLと25%の炭酸カリウム水溶液0.2mLを添加した後、30秒間よく混合する。この混合溶液に塩化メチレン8.0mLを添加した後、60秒間よく混合する。この混合溶液に無水硫酸ナトリウム1gをさらに添加した後、遠心分離機で5分間作動させる。この混合物から固体を濾過した後、ろ液を試料溶液とする。
2)条件
*検出器:FID
*カラム:0.53mm×30m、膜厚1.0μm DB−17(part No.:125−1732、アジレント・テクノロジー株式会社)
*カラム温度:
【0017】
【表1】

【0018】
*キャリアガス:ヘリウム
*流量:9mL/min
*スプリット比(Split ratio):1:10
*注入量:1μL
【0019】
製造例1:(±)−シス/トランス−セルトラリンの製造
丸底フラスコにメタノール1500mLを入れ、セルトラリン−1−イミン(式Aで示される化合物)(300g)を添加した後、常温で攪拌した。反応混合物を5℃まで冷却した後、水素化ホウ素ナトリウム(41g)を4回に分けて添加した。反応混合物を常温で3時間攪拌した後、濾過して固体不純物を除去し、しかる後に、濾液を常温で減圧濃縮した。濃縮液を酢酸エチル1500mLに溶解し、水3000mLで洗浄した後、飽和食塩水(1500mL)で洗浄した。有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥した後、減圧濃縮した。収率は99%であり、標題化合物中の(+)−シス−セルトラリンのHPLC純度は25%であった。
【0020】
実施例1:(±)−シス/トランス−セルトラリンを用いた(+)−シス−セルトラリン(S)−(−)−2−ピロリドン−5−カルボン酸塩の製造
丸底フラスコにエタノール1500mLを入れ、製造例1の(±)−シス/トランス−セルトラリン(300g)を添加した後、50℃で加熱攪拌した。ここに(S)−(−)−2−ピロリドン−5−カルボン酸(63.24g)を添加し、攪拌して完全に溶解した。反応混合物を常温まで冷却し、20時間攪拌した。反応混合物を濾過し、エタノール(150mL)で洗浄した後、40℃で乾燥して(+)−シス−セルトラリン(S)−(−)−2−ピロリドン−5−カルボン酸塩(90g)を得た。収率は21%であり、標題化合物のHPLC純度は98.390%であった。
【0021】
実施例2:(+)−シス−セルトラリン(S)−(−)−2−ピロリドン−5−カルボン酸塩の精製
丸底フラスコにエタノール850mLを入れ、実施例1で製造した(+)−シス−セルトラリン(S)−(−)−2−ピロリドン−5−カルボン酸塩(85g)を添加した後、78℃で還流攪拌した。水(85mL)を添加して固体を完全に溶解した後、反応混合物を常温まで冷却し、20時間攪拌した。反応混合物を濾過し、エタノール(85mL)で洗浄した後、40℃で乾燥して(+)−シス−セルトラリン(S)−(−)−2−ピロリドン−5−カルボン酸塩(66g)を得た。収率は78%であり、標題化合物のHPLC純度は100%、GC純度は100%であった。
1H NMR (300 MHz, CD3OD): δ 7.48-7.31 (m, 5H), 7.19-7.17 (m, 1H), 6.90 (m, 1H), 4.43 (m, 1H), 4.16 (m, 1H), 4.03 (m, 1H), 2.79 (s, 3H), 2.40-2.16 (m, 7H), 2.03-2.00 (m, 2H)
【0022】
実施例3:(±)−シス−セルトラリンを用いた(+)−シス−セルトラリン(S)−(−)−2−ピロリドン−5−カルボン酸塩の製造
丸底フラスコに酢酸エチル500mLと水500mLを入れ、(±)−シス−セルトラリン塩酸塩(100g、Shanghai Haoyuan Chem.)を添加した後、常温で攪拌した。この溶液に10%水酸化ナトリウム水溶液(80mL)を加え、10分間攪拌した。水層を除去し、酢酸エチル層を飽和食塩水で洗浄した後、有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥した。得られた溶液を減圧濃縮した後、エタノール500mLを添加した。この溶液を50℃で加熱攪拌した後、(S)−(−)−2−ピロリドン−5−カルボン酸(29.51g)を添加し、攪拌して完全に溶解した。反応混合物を常温まで冷却し、20時間攪拌した。反応混合物を濾過し、エタノール(50mL)で洗浄した後、40℃で乾燥して(+)−シス−セルトラリン(S)−(−)−2−ピロリドン−5−カルボン酸塩(56g)を得た。収率は44%であり、標題化合物のHPLC純度は99.360%であった。
【0023】
実施例4:(+)−シス−セルトラリン(S)−(−)−2−ピロリドン−5−カルボン酸塩の精製
丸底フラスコにエタノール410mLを入れ、実施例3で製造した(+)−シス−セルトラリン(S)−(−)−2−ピロリドン−5−カルボン酸塩(41g)を添加した後、78℃で還流攪拌した。水(41mL)を添加して固体を完全に溶解した後、反応混合物を常温まで冷却し、20時間攪拌した。反応混合物を濾過し、エタノールで洗浄した後、40℃で乾燥して(+)−シス−セルトラリン(S)−(−)−2−ピロリドン−5−カルボン酸塩(32g)を得た。
収率は78%であり、標題化合物のHPLC純度は100%、GC純度は100%であった。
1H NMR (300 MHz, CD3OD): δ 7.50-7.32 (m, 5H), 7.20-7.17 (m, 1H), 6.91 (m, 1H), 4.43 (m, 1H), 4.17 (m, 1H), 4.05 (m, 1H), 2.79 (s, 3H), 2.38-2.15 (m, 7H), 2.04-2.01 (m, 2H)
【0024】
実施例5:(+)−シス−セルトラリン塩酸塩の製造
丸底フラスコに酢酸エチル300mLと水180mLを入れ、実施例4で製造した(+)−シス−セルトラリン(S)−(−)−2−ピロリドン−5−カルボン酸塩(30g)を添加した後、常温で攪拌した。この溶液に10%水酸化ナトリウム水溶液(69mL)を加え、10分間攪拌した。水層を除去し、酢酸エチル層を飽和食塩水で洗浄した後、無水硫酸ナトリウムで有機層を乾燥した。この溶液を1Lのフラスコで50℃まで加熱した後、35%塩酸(6mL)を滴下した。反応混合物を50℃に維持しながら20時間加熱攪拌し、反応混合物を25℃に冷却した後、濾過し、酢酸エチルで洗浄した後、40℃で乾燥して(+)−シス−セルトラリン塩酸塩(21g)を得た。収率は90%であり、標題化合物のHPLC純度は100%、GC純度も100%であった。
1H NMR (300 MHz, CDCl3): δ 9.95 (d, J=0.10 Hz, 2H), 7.78 (d, 1H), 7.40-7.17 (m, 5H), 6.88-6.86 (m, 1H), 4.29 (m, 1H), 4.02-3.98 (m, 1H), 2.58 (s, 3H), 2.37-2.25 (m, 2H), 2.16-2.07 (m, 2H)
【0025】
比較例1:(±)−シス/トランス−セルトラリンを用いた(+)−シス−セルトラリン(D)−(−)−マンデル酸塩の製造
丸底フラスコにトルエン1000mLを入れ、製造例1の(±)−シス/トランス−セルトラリン(104g)を添加した後、50℃で加熱攪拌した。D−(−)−マンデル酸(12.87g)を添加し、攪拌して完全に溶解した。反応混合物を常温まで冷却し、20時間攪拌した。反応混合物を濾過し、トルエン(100mL)で洗浄した後、40℃で乾燥して(+)−シス−セルトラリン(D)−(−)−マンデル酸塩(29g)を得た。収率は19%であり、標題化合物のHPLC純度は90.201%であった。
【0026】
比較例2:(+)−シス−セルトラリン(D)−(−)−マンデル酸塩の精製
丸底フラスコにエタノール195mLを入れ、比較例1で製造した(+)−シス−セルトラリン(D)−(−)−マンデル酸塩(13g)を添加した後、78℃で還流攪拌した。水(8mL)を添加して固体を完全に溶解した後、反応混合物を常温まで冷却し、20時間攪拌した。反応混合物を濾過し、エタノールで洗浄した後、40℃で乾燥して(+)−シス−セルトラリン(D)−(−)−マンデル酸塩(9.62g)を得た。収率は74%であり、標題化合物のHPLC純度は97.594%であった。
【0027】
比較例3:(+)−シス−セルトラリン(D)−(−)−マンデル酸塩の精製
丸底フラスコにエタノール40mLを入れ、比較例2で製造した(+)−シス−セルトラリン(D)−(−)−マンデル酸塩(4g)を添加した後、78℃で還流攪拌した。水(5mL)を添加して固体を完全に溶解した後、反応混合物を常温まで冷却し、20時間攪拌した。反応混合物を濾過し、エタノールで洗浄した後、40℃で乾燥して(+)−シス−セルトラリン(D)−(−)−マンデル酸塩(3.2g)を得た。収率は80%であり、標題化合物のHPLC純度は99.763%であった。
【0028】
比較例4:(±)−シス−セルトラリンを用いた(+)−シス−セルトラリン(D)−(−)−マンデル酸塩の製造
丸底フラスコに酢酸エチル480mLと水160mLを入れ、(±)−シス−セルトラリン塩酸塩(80g)を添加した後、常温で攪拌した。この溶液に10%水酸化ナトリウム水溶液(64mL)を加え、10分間攪拌した。水層を除去し、酢酸エチル層を飽和食塩水で洗浄した後、無水硫酸ナトリウムで有機層を乾燥した。得られた溶液を減圧濃縮した後、トルエン715mLを添加した。この溶液を50℃で加熱攪拌した後、(D)−(−)−マンデル酸(19.53g)を添加し、攪拌して完全に溶解した。反応混合物を常温まで冷却し、20時間攪拌した。反応混合物を濾過し、トルエンで洗浄した後、40℃で乾燥して(+)−シス−セルトラリン(D)−(−)−マンデル酸塩(43g)を得た。収率は40%であり、標題化合物のHPLC純度は98.618%であった。
【0029】
比較例5:(+)−シス−セルトラリン(D)−(−)−マンデル酸塩の精製
丸底フラスコにエタノール400mLを入れ、比較例4で製造した(+)−シス−セルトラリン(D)−(−)−マンデル酸塩(40g)を添加した後、78℃で還流攪拌した。反応混合物を常温まで冷却し、20時間攪拌した。反応混合物を濾過し、エタノールで洗浄した後、40℃で乾燥して(+)−シス−セルトラリン(D)−(−)−マンデル酸塩(30g)を得た。収率は75%であり、標題化合物のHPLC純度は99.546%であった。
【0030】
比較例6:(+)−シス−セルトラリン(D)−(−)−マンデル酸塩の精製
丸底フラスコにエタノール300mLを入れ、比較例5で製造した(+)−シス−セルトラリン(D)−(−)−マンデル酸塩(30g)を添加した後、78℃で還流攪拌した。反応混合物を常温まで冷却し、20時間攪拌した。反応混合物を濾過し、エタノールで洗浄した後、40℃で乾燥して(+)−シス−セルトラリン(D)−(−)−マンデル酸塩(25g)を得た。収率は82%であり、標題化合物のHPLC純度は99.790%であった。
【0031】
[実施例及び比較例に基づいた光学純度及び収率の比較1]
出発物質として(±)−シス/トランス−セルトラリンを使用した場合、光学分割剤による1次生成物である(+)−シス−セルトラリン塩のHPLCで測定した光学純度(%e.e.)及び収率(%)を比較すると、次のとおりである。[(±)−シス/トランス−セルトラリンは(+)−シス−セルトラリン、(−)−シス−セルトラリン、(+)−トランス−セルトラリンおよび(−)−トランス−セルトラリンが1:1:1:1の重量比で存在する。]
【0032】
【表2】

【0033】
表2より、(±)−シス/トランス−セルトラリンを用いて(+)−シス−セルトラリンを選択的に分離する方法において、最も効果的な既存の光学分割剤として知られている(D)−(−)−マンデル酸より(S)−(−)−2−ピロリドン−5−カルボン酸を使用する方が、最終生成物である(+)−シス−セルトラリン塩酸塩の光学純度に直接的な影響を及ぼす1次生成物(+)−シスセルトラリン塩の光学純度及び収率の点において顕著な効果があることを確認した。
具体的に、光学分割剤として(S)−(−)−2−ピロリドン−5−カルボン酸を使用した場合、1次生成物である(+)−シス−セルトラリン(S)−(−)−2−ピロリドン−5−カルボン酸塩は、追加の精製なしでも光学純度が98.4%e.e.であるが、光学分割剤として(D)−(−)−マンデル酸を使用した場合、1次生成物である(+)−シス−セルトラリン(D)−(−)−マンデル酸塩は、反応後1次精製の後にもその光学純度が本発明の精製前の1次生成物より低い97.6%e.e.にしかならなかった。
しかも、本発明では、1次精製後の生成物の光学純度が100%e.e.であったが、光学分割剤として(D)−(−)−マンデル酸を使用した場合、2次精製の後にも生成物の光学純度が99.76%e.e.を示し、表2には記載していないが、さらに行われた数回の精製過程後でも100%e.e.未満の光学純度を示すことを確認した。
また、(±)−シス/トランス(ラセメート)−セルトラリンからの1次生成物の光学純度が99.8%e.e.までの総収率は、光学分割剤として(D)−(−)−マンデル酸を使用する場合には、2次精製まで必要になるため19%×74%×80%=11.25%であるが、これに対し、(S)−(−)−2−ピロリドン−5−カルボン酸を使用する場合には、1次精製のみで21%×78%=16.38%と約5%以上収率の点において向上した効果があり、精製は1回のみでもよいという利点がある。
【0034】
[実施例及び比較例に基づいた光学純度及び収率の比較2]
出発物質として(±)−シス−セルトラリンを使用した場合、光学分割剤による1次生成物である(+)−シス−セルトラリン塩のHPLCによる光学純度(%e.e.)及び収率(%)を比較すると、次のとおりである。[(±)−シス−セルトラリンは(+)−シス−セルトラリンと(−)−シス−セルトラリンが1:1の重合比で存在する。]
【0035】
【表3】

【0036】
表3に示されるように、(±)−シス−セルトラリンを用いて(+)−シス−セルトラリンを選択的に分離する方法において、最も効果的な既存の光学分割剤として知られている(D)−(−)−マンデル酸より(S)−(−)−2−ピロリドン−5−カルボン酸を使用する方が、最終生成物である(+)−シス−セルトラリン塩酸塩の光学純度に直接的な影響を及ぼす1次生成物(+)−シス−セルトラリン有機酸塩をより高い光学純度及び高い収率で提供する。
具体的に、光学分割剤として(S)−(−)−2−ピロリドン−5−カルボン酸を使用した場合、1次生成物である(+)−シス−セルトラリン(S)−(−)−2−ピロリドン−5−カルボン酸塩は、追加の精製なしでも光学純度が99.36%e.e.であるが、これに対し、光学分割剤として(D)−(−)−マンデル酸を使用した場合、1次生成物である(+)−シス−セルトラリン(D)−(−)−マンデル酸塩は、反応後の1次精製の後に初めて本発明の精製前の1次生成物とほぼ同様の光学純度を示した。
また、本発明の製造方法では1次精製のみで光学純度100%の1次生成物が得られるが、これに対し、従来の方法では、2次精製の後でも99.79%e.e.の光学純度を示し、さらに行われた数回の精製過程後でも100%e.e.未満の光学純度を示すことを確認した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式2で示される(±)−シス/トランス−セルトラリン又は(±)−シス−セルトラリンを(S)−(−)−2−ピロリドン−5−カルボン酸と反応させて(+)−シス−セルトラリン(S)−(−)−2−ピロリドン−5−カルボン酸塩を製造して光学分割する工程を含む、式1で示される(+)−シス−セルトラリンの製造方法。
[式1]:
【化1】

[式2]:
【化2】

【請求項2】
(S)−(−)−2−ピロリドン−5−カルボン酸を(±)−シス/トランス−セルトラリン又は(±)−シス−セルトラリンに対して0.25〜1.0モル当量で使用することを特徴とする、請求項1に記載の(+)−シス−セルトラリンの製造方法。
【請求項3】
反応溶媒がトルエン、酢酸エチル、アセトン及びエタノールから選ばれることを特徴とする、請求項1に記載の(+)−シス−セルトラリンの製造方法。
【請求項4】
反応溶媒がエタノールであることを特徴とする、請求項3に記載の(+)−シス−セルトラリンの製造方法。
【請求項5】
反応溶媒のエタノール使用量が(±)−シス/トランス−セルトラリン又は(±)−シス−セルトラリンの重量に対して3〜10倍の体積比であることを特徴とする、請求項4に記載の(+)−シス−セルトラリンの製造方法。
【請求項6】
反応溶媒のエタノール使用量が(±)−シス/トランス−セルトラリン又は(±)−シス−セルトラリンの重量に対して5〜10倍の体積比であることを特徴とする、請求項5に記載の(+)−シス−セルトラリンの製造方法。
【請求項7】
反応物質の溶解が40〜60℃で行われることを特徴とする、請求項3〜6のいずれか1項に記載の(+)−シス−セルトラリンの製造方法。
【請求項8】
反応物質溶解後の反応が15〜25℃で行われることを特徴とする、請求項3〜6のいずれか1項に記載の(+)−シス−セルトラリンの製造方法。
【請求項9】
反応時間が5〜30時間であることを特徴とする、請求項3〜6のいずれか1項に記載の(+)−シス−セルトラリンの製造方法。
【請求項10】
(+)−シス−セルトラリン(S)−(−)−2−ピロリドン−5−カルボン酸塩を、エタノール及び水を用いて再結晶する精製工程をさらに含むことを特徴とする、請求項1に記載の(+)−シス−セルトラリンの製造方法。
【請求項11】
(+)−シス−セルトラリン(S)−(−)−2−ピロリドン−5−カルボン酸塩に対してエタノール7〜13倍(v/wt)及び水0.7〜1.2倍(v/wt)を用いて(+)−シス−セルトラリン(S)−(−)−2−ピロリドン−5−カルボン酸塩を再結晶する精製工程をさらに含むことを特徴とする、請求項1に記載の(+)−シス−セルトラリンの製造方法。
【請求項12】
(+)−シス−セルトラリン(S)−(−)−2−ピロリドン−5−カルボン酸塩に対してエタノール10倍(v/wt)及び水0.8〜1.0倍(v/wt)を用いて(+)−シス−セルトラリン(S)−(−)−2−ピロリドン−5−カルボン酸塩を再結晶する精製工程をさらに含むことを特徴とする、請求項1に記載の(+)−シス−セルトラリンの製造方法。

【公開番号】特開2013−103935(P2013−103935A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−245642(P2012−245642)
【出願日】平成24年11月7日(2012.11.7)
【出願人】(512289337)ボリュン ファーマスーティカル カンパニー リミテッド (1)
【Fターム(参考)】