説明

(1−ベンゾチオフェン−5−イル)酢酸またはその塩の製造法

【構成】優れた(1−ベンゾチオフェン−5−イル)酢酸またはその塩の製造法を提供すること。
【効果】塩基としてナトリウムtert−ブトキシドを用いる製造法は、(1)パラジウム触媒の使用量が0.01倍モル以下である、(2)生成率が高い、(3)副生成物の生成量が少ない、などの特徴を有し、(1−ベンゾチオフェン−5−イル)酢酸またはその塩の製造法として有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬品の製造中間体として重要な(1−ベンゾチオフェン−5−イル)酢酸またはその塩の新規製造法ならびにその製造中間体の製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
(1−ベンゾチオフェン−5−イル)酢酸またはその塩は、医薬品の製造中間体として重要な化合物である。たとえば、神経変性疾患治療薬として開発されている1−(3−(2−(1−ベンゾチオフェン−5−イル)エトキシ)プロピル)−3−アゼチジノール=マレイン酸塩は、(1−ベンゾチオフェン−5−イル)酢酸から製造される(特許文献1)。
(1−ベンゾチオフェン−5−イル)酢酸の工業的な製造法として、5−ブロモベンゾチオフェンをカリウムtert−ブトキシドおよびパラジウム触媒の存在下、シアノ酢酸エステルとカップリング反応した後、加水分解する方法が報告されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2006/104088号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
さらに優れた(1−ベンゾチオフェン−5−イル)酢酸またはその塩の工業的な製造法が、強く望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
このような状況下において、本発明者らは鋭意検討を行った結果、次の一般式[1]
【化1】

「式中、Xは、ハロゲン原子を示す。」で表されるハロゲノベンゾチオフェンを、ナトリウムtert−ブトキシドおよびパラジウム触媒の存在下、一般式[2]
【化2】

「式中、Rは、置換されていてもよいアルキル、シクロアルキルまたはアルアルキル基を示す。」で表される化合物またはその塩とカップリング反応に付すことにより、一般式[3]
【化3】

「式中、Rは、前記と同様の意味を有する。」で表される化合物またはその塩を高収率で製造できることを見出した。特にカリウムtert−ブトキシドに代えてナトリウムtert−ブトキシドを用いることにより、(1)パラジウム触媒の使用量が0.01倍モル以下であっても、一般式[3]で表される化合物またはその塩が高収率で製造できること、(2)原料として5−クロロベンゾチオフェン(X=Cl)を用いても、一般式[3]で表される化合物またはその塩が高収率で製造できること、を見出した。さらに、一般式[3]で表される化合物またはその塩を酸または塩基と反応させ、必要に応じて脱炭酸反応に付すことで、(1−ベンゾチオフェン−5−イル)酢酸が簡便に製造できることを見出し、本発明を完成させた。
【発明の効果】
【0006】
本発明の製造法は、(1)パラジウム触媒の使用量が0.01倍モル以下である、(2)生成率が高い、(3)副生成物の生成量が少ない、(4)原料として5−クロロベンゾチオフェン(X=Cl)を用いることにより、生態毒性を有する臭化物の生成を防ぐことができる、などの特徴を有している。すなわち、本発明の製造法は、人体に対して安全で、環境負荷が少ない製造法として有用である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本発明を詳細に説明する。
本明細書において、特にことわらない限り、各用語は、次の意味を有する。
ハロゲン原子とは、塩素原子、臭素原子およびヨウ素原子を意味する。
アルキル基とは、たとえば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、sec−ブチル、イソブチルおよびtert−ブチルなどのC1−6アルキル基を意味する。
シクロアルキル基とは、たとえば、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチルおよびシクロヘキシルなどのC3−8シクロアルキル基を意味する。
アルアルキル基とは、たとえば、ベンジル、ジフェニルメチル、トリチル、フェネチルおよびナフチルメチルなどのアルC1−6アルキル基を意味する。
アルコキシ基とは、たとえば、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、イソプロポキシ、ブトキシ、イソブトキシ、sec−ブトキシ、tert−ブトキシ、ペンチルオキシおよびイソペンチルオキシなどのC1−6アルキルオキシ基を意味する。
アリール基とは、たとえば、フェニルおよびナフチル基などの基を意味する。
【0008】
のアルキル、シクロアルキルおよびアルアルキル基は、ハロゲン原子、アルキル基、シクロアルキル基、アルコキシ基およびアリール基などから選ばれる1つ以上の基で置換されていてもよい。
【0009】
本発明において、好ましい製造法としては、以下の方法が挙げられる。
【0010】
が、アルキル基である化合物を用いる方法が好ましく、メチル基、エチル基またはtert−ブチル基である化合物を用いる方法がより好ましい。
Xが、塩素原子または臭素原子である化合物を用いる方法が好ましい。
パラジウム触媒の使用量が、ハロゲノベンゾチオフェンに対して0.00001〜0.01倍モルである方法が好ましく、0.0001〜0.01倍モルである方法がより好ましい。
【0011】
次に、本発明の製造法について説明する。
【0012】
[第一工程]

「式中、R1およびXは、前記と同様の意味を有する。」
【0013】
一般式[1]の化合物として、5−ブロモ−1−ベンゾチオフェンおよび5−クロロ−1−ベンゾチオフェンなどが市販されている。
【0014】
一般式[2]の化合物として、メチル=シアノアセタート、エチル=シアノアセタート、イソプロピル=シアノアセタート、tert−ブチル=シアノアセタートおよびイソブチル=シアノアセタートなどが市販されている。
【0015】
一般式[3]の化合物またはその塩は、ナトリウムtert−ブトキシドおよびパラジウム触媒の存在下、配位子の存在下または不存在下、還元剤の存在下または不存在下、一般式[1]の化合物を一般式[2]の化合物またはその塩とカップリング反応に付すことにより製造することができる。
この反応は、通常、溶媒の存在下に実施され、使用される溶媒としては、反応に影響を及ぼさないものであれば特に限定されないが、たとえば、ヘキサンおよびシクロヘキサンなどの脂肪族炭化水素類;塩化メチレン、クロロホルムおよびジクロロエタンなどのハロゲン化炭化水素類;テトラヒドロフラン、1,2−ジメトキシエタン、ビス(2−メトキシエチル)エーテル、シクロペンチルメチルエーテルおよびジオキサンなどのエーテル類;ベンゼン、トルエンおよびキシレンなどの芳香族炭化水素類;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミドおよび1−メチル−2−ピロリドンなどのアミド類;ジメチルスルホキシドなどのスルホキシド類;酢酸エチルおよび酢酸ブチルなどのエステル類;アセトンおよび2−ブタノンなどのケトン類;メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、2−プロパノールおよび2−メチル−2−プロパノールなどのアルコール類;ならびにアセトニトリルなどのニトリル類などが挙げられ、これらは混合して使用してもよい。
好ましい溶媒としては、エーテル類、芳香族炭化水素類およびアルコール類が挙げられ、テトラヒドロフラン、1,2−ジメトキシエタン、トルエンおよび2−メチル−2−プロパノールがより好ましい。
溶媒の使用量は、特に限定されないが、好ましくは、一般式[1]の化合物に対して1〜20倍量(v/w)、より好ましくは、1〜10倍量(v/w)である。
ナトリウムtert−ブトキシドの使用量は、一般式[1]の化合物に対して1倍モル以上あればよく、好ましくは、2〜10倍モル、より好ましくは、2〜3倍モルである。
【0016】
この反応に使用されるパラジウム触媒としては、たとえば、パラジウム−炭素およびパラジウム黒などの金属パラジウム;塩化パラジウムなどの無機パラジウム塩;酢酸パラジウムなどの有機パラジウム塩;テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)、ジクロロビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(II)、ジクロロビス(トリシクロヘキシルホスフィン)パラジウム(II)、1,1’−ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセンパラジウム(II)クロリド、1,1’−ビス(ジ−tert−ブチルホスフィノ)フェロセンパラジウム(II)クロリドおよびトリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(0)などの有機パラジウム錯体;ならびにポリマー担持ビス(アセタート)トリフェニルホスフィンパラジウム(II)およびポリマー担持ジ(アセタート)ジシクロヘキシルホスフィンパラジウム(II)などのポリマー固定化有機パラジウム錯体などが挙げられる。
好ましいパラジウム触媒としては、有機パラジウム塩、有機パラジウム錯体およびポリマー固定化有機パラジウム錯体が挙げられ、酢酸パラジウム、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)、ジクロロビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(II)およびジクロロビス(トリシクロヘキシルホスフィン)パラジウム(II)がより好ましい。
パラジウム触媒の使用量は、一般式[1]の化合物に対して0.01倍モル以下でよく、好ましくは0.00001〜0.01倍モル、より好ましくは、0.0001〜0.01倍モルである。
【0017】
この反応に所望により使用される配位子としては、たとえば、トリメチルホスフィンおよびトリ(tert−ブチル)ホスフィンなどのトリアルキルホスフィン類;トリシクロヘキシルホスフィンおよびトリシクロヘキシルホスホニウムテトラフルオロほう酸塩などのトリシクロアルキルホスフィン類;トリフェニルホスフィンおよびトリトリルホスフィンなどのトリアリールホスフィン類;トリメチルホスファイト、トリエチルホスファイトおよびトリブチルホスファイトなどのトリアルキルホスファイト類;トリシクロヘキシルホスファイトなどのトリシクロアルキルホスファイト類;トリフェニルホスファイトなどのトリアリールホスファイト類;1,3−ビス(2,4,6−トリメチルフェニル)イミダゾリウムクロリドなどのイミダゾリウム塩;アセチルアセトンおよびオクタフルオロアセチルアセトンなどのジケトン類;トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミンおよびトリイソプロピルアミンなどのアミン類;1,1’−ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセンおよび1,2,3,4,5−ペンタフェニル−1’−(ジ−tert−ブチルホスフィノ)フェロセンなどのフェロセン類;2,2’−ビス(ジフェニルホスフィノ)−1,1’−ビナフチル;ならびに2−(ジシクロヘキシルホスフィノ)ビフェニルおよび2−(ジ−tert−ブチルホスフィノ)ビフェニルなどのビフェニル類などが挙げられる。
配位子の使用量は、特に限定されないが、好ましくは、一般式[1]の化合物に対して0.00001〜0.05倍モル、より好ましくは、0.0001〜0.05倍モルである。
【0018】
この反応は、還元剤の存在下に実施してもよい。所望により使用される還元剤としては、たとえば、水素化ホウ素リチウム、水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素カルシウム、トリアセトキシ水素化ホウ素ナトリウムおよびシアノ水素化ホウ素ナトリウムなどの水素化ホウ素錯化合物が挙げられる。
還元剤の使用量は、特に限定されないが、好ましくは、一般式[1]の化合物に対して0.0001〜1倍モル、より好ましくは、0.01〜0.1倍モルである。
【0019】
一般式[2]の化合物またはその塩の使用量は、一般式[1]の化合物に対して1〜5倍モル、好ましくは、1〜2倍モルである。
この反応は、0〜200℃、好ましくは、50〜150℃で1分間〜24時間実施すればよい。
【0020】
得られた一般式[3]の化合物またはその塩は、単離せずにそのまま次の反応に用いてもよい。
【0021】
[第二工程]

「式中、R1は、前記と同様の意味を有する。」
【0022】
式[4]の化合物またはその塩は、水の存在下または不存在下、アルコールの存在下または不存在下、一般式[3]の化合物またはその塩を酸または塩基と反応させ、必要に応じて脱炭酸反応に付すことにより製造することができる。
この反応は、通常、溶媒の存在下に実施され、使用される溶媒としては、反応に影響を及ぼさないものであれば特に限定されないが、たとえば、ヘキサンおよびシクロヘキサンなどの脂肪族炭化水素類;塩化メチレン、クロロホルムおよびジクロロエタンなどのハロゲン化炭化水素類;テトラヒドロフラン、1,2−ジメトキシエタン、ビス(2−メトキシエチル)エーテル、シクロペンチルメチルエーテルおよびジオキサンなどのエーテル類;ベンゼン、トルエンおよびキシレンなどの芳香族炭化水素類;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミドおよび1−メチル−2−ピロリドンなどのアミド類;ジメチルスルホキシドなどのスルホキシド類;酢酸エチルおよび酢酸ブチルなどのエステル類;アセトンおよび2−ブタノンなどのケトン類;メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、2−プロパノールおよび2−メチル−2−プロパノールなどのアルコール類;エチレングリコール、プロピレングリコールおよびジエチレングリコールなどのグリコール類;アセトニトリルなどのニトリル類;ならびに水などが挙げられ、これらは混合して使用してもよい。
好ましい溶媒としては、エーテル類、アルコール類、グリコール類および水が挙げられ、1,2−ジメトキシエタン、エチレングリコールおよびプロピレングリコールから選ばれる1種以上の溶媒ならびに水の混合溶媒がより好ましい。
溶媒の使用量は、特に限定されないが、好ましくは、一般式[3]の化合物またはその塩に対して1〜50倍量(v/w)、より好ましくは、1〜15倍量(v/w)である。
【0023】
この反応に使用される酸としては、たとえば、塩酸、硫酸、リン酸、塩化水素および臭化水素などの無機酸;酢酸、トリクロロ酢酸およびトリフルオロ酢酸などの有機カルボン酸;ならびにメタンスルホン酸およびp−トルエンスルホン酸などの有機スルホン酸などが挙げられる。
酸の使用量は、一般式[3]の化合物またはその塩に対して0.001倍モル以上でよく、好ましくは、0.01〜5倍モルである。また、酸を溶媒として用いてもよい。
【0024】
この反応に使用される塩基としては、たとえば、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウムtert−ブトキシドおよびナトリウムtert−ブトキシドなどの金属アルコキシド;水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化バリウム、炭酸ナトリウムおよび炭酸カリウムなどの無機塩基;ならびにトリエチルアミン、N,N−ジイソプロピルエチルアミンおよびピリジンなどの有機塩基などが挙げられ、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムおよび水酸化バリウムなどの無機塩基が好ましい。
塩基の使用量は、一般式[3]の化合物またはその塩に対して2〜10倍モル、好ましくは、2〜5倍モルである。
【0025】
この反応に所望により使用される水の量は、特に限定されないが、好ましくは、溶媒としての機能をもたせるため、一般式[3]の化合物またはその塩に対して0.5〜5倍量(v/w)である。
この反応に所望により使用されるアルコールとしては、たとえば、メタノール、エタノール、プロパノールおよびブタノールなどのアルコール類;ならびにエチレングリコール、プロピレングリコールおよびジエチレングリコールなどのグリコール類などが挙げられ、エチレングリコールおよびプロピレングリコールなどのグリコール類が好ましい。
アルコールの使用量は、特に限定されないが、好ましくは、溶媒としての機能をもたせるため、一般式[3]の化合物またはその塩に対して0.5〜5倍量(v/w)である。
この反応は、0〜200℃、好ましくは、20〜150℃で1分間〜24時間実施すればよい。
【0026】
必要に応じて実施される脱炭酸反応は、酸の存在下または不存在下、加熱することにより実施される。
この脱炭酸反応に所望により使用される酸としては、たとえば、塩酸、硫酸、リン酸、塩化水素および臭化水素などの無機酸;酢酸、トリクロロ酢酸およびトリフルオロ酢酸などの有機カルボン酸;ならびにメタンスルホン酸およびp−トルエンスルホン酸などの有機スルホン酸などが挙げられる。
酸の使用量は、一般式[3]の化合物またはその塩に対して0.001倍モル以上用いればよく、好ましくは、0.01〜5倍モルである。また、酸を溶媒として用いてもよい。
【0027】
この脱炭酸反応は、必要に応じて溶媒の共存下に実施してもよい。使用される溶媒としては、反応に影響を及ぼさないものであれば特に限定されないが、たとえば、ヘキサンおよびシクロヘキサンなどの脂肪族炭化水素類;塩化メチレン、クロロホルムおよびジクロロエタンなどのハロゲン化炭化水素類;テトラヒドロフラン、1,2−ジメトキシエタン、ビス(2−メトキシエチル)エーテル、シクロペンチルメチルエーテルおよびジオキサンなどのエーテル類;ベンゼン、トルエンおよびキシレンなどの芳香族炭化水素類;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミドおよび1−メチル−2−ピロリドンなどのアミド類;ジメチルスルホキシドなどのスルホキシド類;酢酸エチルおよび酢酸ブチルなどのエステル類;アセトンおよび2−ブタノンなどのケトン類;メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、2−プロパノールおよび2−メチル−2−プロパノールなどのアルコール類;エチレングリコール、プロピレングリコールおよびジエチレングリコールなどのグリコール類;アセトニトリルなどのニトリル類;ならびに水などが挙げられ、これらは混合して使用してもよい。
この脱炭酸反応は、50〜200℃、好ましくは、50〜150℃で1分間〜24時間実施すればよい。
【0028】
上記で述べた製造法により得られた、一般式[3]の化合物および式[4]の化合物は、抽出、晶出、蒸留および/またはカラムクロマトグラフィーなどの通常の方法により、単離精製することができる。また、塩として単離することもでき、その塩としては、たとえば、ナトリウム、カリウムおよびセシウムなどのアルカリ金属との塩;カルシウムおよびマグネシウムなどのアルカリ土類金属との塩;アンモニウム塩;ならびにトリメチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン、N,N−ジイソプロピルエチルアミン、ピリジン、N−メチルピペリジン、N−メチルモルホリン、ジエチルアミンおよびジシクロヘキシルアミンなどの含窒素有機塩基との塩などが挙げられる。
また、上記で述べた製造法における一般式[3]の化合物において、異性体(たとえば、光学異性体、幾何異性体および互変異性体など)が存在する場合、これらすべての異性体を使用することができる。また、一般式[3]の化合物および式[4]の化合物の金属塩、水和物、溶媒和物およびすべての結晶形を使用することができる。
【0029】
次に、本発明の有用性を説明する。
試験例および実施例で用いられる各略号は、次の意味を有する。
Ac:アセチル、Bu:ブチル、Bu:tert−ブチル、Et:エチル、Me:メチル、c−C11:シクロヘキシル
HPLC:高速液体クロマトグラフィー
【0030】
試験例1 第一工程の比較(1)

【0031】
【表1】

塩基としてナトリウムtert−ブトキシドを用いることにより、生成率が飛躍的に向上した。
【0032】
試験例2 第一工程の比較(2)

【0033】
【表2】

原料が5−クロロベンゾチオフェンであっても、ナトリウムtert−ブトキシドを用いることにより、生成率が飛躍的に向上した。
【0034】
試験例3 第一工程および第二工程の比較(1)

【0035】
【表3】

ナトリウムtert−ブトキシドを用いることにより、収率を低下させることなく、触媒の使用量を大幅に低減させることができた。
【0036】
試験例4 第一工程および第二工程の比較(2)

【0037】
【表4】

ナトリウムtert−ブトキシドを用いることにより、収率を低下させることなく、安価な酢酸パラジウムの使用が可能になった。
【実施例】
【0038】
次に、本発明を実施例および比較例を挙げて説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
溶離液における混合比は、容量比である。特に記載のない場合、シリカゲルカラムクロマトグラフィーにおける担体は、関東化学株式会社、B.W.シリカゲル、Silica Gel60である。
【0039】
生成率は、以下の手順で求めた。
少量の反応混合物を移動相に加えて溶解した。その溶解液の一部をHPLCに付し、以下の計算式で目的物の生成率を求めた。
目的物の生成率(%)=(目的物のピーク面積)/(全ピーク面積)×100
HPLC条件
検出器:紫外吸光光度計
測定波長:230nm
カラム:CAPCELL PAK CN UG 120、5μm、内径4.6×長さ150mm(資生堂)
カラム温度:40℃
移動相:40%アセトニトリル緩衝溶液(0.05mol/Lリン酸緩衝液(pH3.0))
流量:2mL/分(実施例1、2、4、5および8、比較例1)、1mL/分(実施例3、6、7および9、比較例2)
【0040】
実施例1

5−ブロモベンゾチオフェン5.00gのトルエン25mL溶液にナトリウムtert−ブトキシド5.41g、tert−ブチル=シアノアセタート3.64g、ジクロロビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(II)1.7mg、トリフェニルホスフィン62mgおよびトルエン35mLを加え、6時間還流後、室温で一晩放置した。反応液をHPLC分析した結果、tert−ブチル=2−(1−ベンゾチオフェン−5−イル)−2−シアノアセタートの生成率は87%であった。
【0041】
実施例2

ナトリウムtert−ブトキシド10.4gの1,2−ジメトキシエタン20mL懸濁液に酢酸パラジウム21mgおよびトリフェニルホスフィン123mgを加えた後、80〜88℃で5−ブロモベンゾチオフェン10.0gおよびメチル=シアノアセタート5.12gの1,2−ジメトキシエタン15mL溶液を30分間かけて滴下し、2.5時間還流した(反応液をHPLC分析した結果、メチル=2−(1−ベンゾチオフェン−5−イル)−2−シアノアセタートの生成率は94%、tert−ブチル=2−(1−ベンゾチオフェン−5−イル)−2−シアノアセタートの生成率は5%であった。)。次いで、この反応混合物に水30mLを加えた後、塩酸6mLを加えてpH2に調整し、酢酸エチル30mLを加えた。有機層を分取し、水洗後、無水硫酸マグネシウムで乾燥させ、減圧下で溶媒を留去した。得られた残留物にヘキサンを加え、固形物を濾取し、淡黄色固体のメチル=2−(1−ベンゾチオフェン−5−イル)−2−シアノアセタート10.3gを得た。
1H-NMR(CDCl3)δ値:3.81(3H,s),4.86(1H,s),7.37(1H,d,J=5.4Hz),7.41(1H,dd,J=8.4,1.8Hz),7.54(1H,d,J=5.4Hz),7.90-7.96(2H,m)
【0042】
実施例3

5−クロロベンゾチオフェン5.00gおよびナトリウムtert−ブトキシド6.84gのトルエン40mL懸濁液にジクロロビス(トリシクロヘキシルホスフィン)パラジウム(II)153mgを加えた後、100〜106℃でtert−ブチル=シアノアセタート5.02gを10分間かけて滴下し、6時間還流した。反応液をHPLC分析した結果、tert−ブチル=2−(1−ベンゾチオフェン−5−イル)−2−シアノアセタートの生成率は91%であった。
【0043】
実施例4

ナトリウムtert−ブトキシド6.82gのトルエン18mL懸濁液に酢酸パラジウム6.6mgおよび2−(ジシクロヘキシルホスフィノ)ビフェニル21mgを加えた後、90〜103℃で5−クロロベンゾチオフェン5.00gおよびエチル=シアノアセタート4.02gのトルエン7mL溶液を滴下し、5時間還流した。反応液をHPLC分析した結果、エチル=2−(1−ベンゾチオフェン−5−イル)−2−シアノアセタートの生成率は68%、tert−ブチル=2−(1−ベンゾチオフェン−5−イル)−2−シアノアセタートの生成率は6%であった。
【0044】
実施例5

5−クロロベンゾチオフェン5.00gのシクロペンチルメチルエーテル20mL溶液にナトリウムtert−ブトキシド6.82gおよびジクロロビス(トリシクロヘキシルホスフィン)パラジウム(II)44mgを加えた後、90〜105℃でエチル=シアノアセタート4.02gを滴下し、シクロペンチルメチルエーテル10mLを加え、6時間還流した。反応液をHPLC分析した結果、エチル=2−(1−ベンゾチオフェン−5−イル)−2−シアノアセタートの生成率は64%、tert−ブチル=2−(1−ベンゾチオフェン−5−イル)−2−シアノアセタートの生成率は8%であった。
【0045】
実施例6

5−クロロベンゾチオフェン5.00gのトルエン30mL溶液にナトリウムtert−ブトキシド6.82g、酢酸パラジウム20mgおよびトリシクロヘキシルホスホニウムテトラフルオロほう酸塩130mgを加えた後、90〜105℃でメチル=シアノアセタート3.52gを滴下し、トルエン5mLを加え、10時間還流した。反応液をHPLC分析した結果、メチル=2−(1−ベンゾチオフェン−5−イル)−2−シアノアセタートの生成率は77%、tert−ブチル=2−(1−ベンゾチオフェン−5−イル)−2−シアノアセタートの生成率は3%であった。
【0046】
実施例7

5−ブロモベンゾチオフェン10.0gおよびナトリウムtert−ブトキシド10.8gのトルエン80mL懸濁液にtert−ブチル=シアノアセタート7.29g、ジクロロビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(II)3.3mgおよびトリフェニルホスフィン123mgを加え、10時間還流した(反応液をHPLC分析した結果、tert−ブチル=2−(1−ベンゾチオフェン−5−イル)−2−シアノアセタートの生成率は75%であった。)。反応混合物を冷却後、エタノール30mL、水酸化ナトリウム4.69gおよび水20mLを加え、6.5時間還流した。次いで、プロピレングリコール15mLおよび水20mLを加え、常圧下に溶媒128mLを留去し、2時間還流した。冷却後、反応混合物にトルエン20mLおよび塩酸9mLを加えた。反応混合物を70℃まで加熱後、活性炭素0.5gを添加し、70〜75℃で30分間撹拌した。不溶物を濾去し、水20mLで洗浄した。濾液と洗液を合わせ、酢酸エチル30mLおよび塩酸9mLを加えた。有機層を分取し、酢酸エチル20mLを加え、常圧下に溶媒28mLを留去した。トルエン40mLを加え、常圧下に溶媒38mLを留去した。トルエン8mLを加え、60℃で種晶を加え、15℃まで冷却後、シクロヘキサン15mLを加えた。5〜15℃で30分間撹拌後、固形物を濾取し、淡褐色固体の(1−ベンゾチオフェン−5−イル)酢酸6.32gを得た。濾液を濃縮後、得られた残留物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離液;ヘキサン:酢酸エチル=3:1)で精製し、ヘキサンを加えて濾取して白色固体の(1−ベンゾチオフェン−5−イル)酢酸0.72gを得た。
1H-NMR(CDCl3)δ値:3.77(2H,s),7.24-7.32(1H,m),7.30(1H,d,J=5.5Hz),7.44(1H,d,J=5.5Hz),7.72-7.75(1H,m),7.84(1H,d,J=8.3Hz)
【0047】
実施例8

ナトリウムtert−ブトキシド31.1gの1,2−ジメトキシエタン53mL懸濁液に酢酸パラジウム32mgおよびトリフェニルホスフィン0.37gを加えた後、85〜91℃で5−ブロモベンゾチオフェン30.0gおよびメチル=シアノアセタート15.3gの1,2−ジメトキシエタン15mL溶液を2.5時間かけて滴下し、1,2−ジメトキシエタン8mLを加え、5時間還流した(反応液をHPLC分析した結果、メチル=2−(1−ベンゾチオフェン−5−イル)−2−シアノアセタートの生成率は89%、tert−ブチル=2−(1−ベンゾチオフェン−5−イル)−2−シアノアセタートの生成率は9%であった。)。次いでこの反応混合物にプロピレングリコール30mLを加え、20%(w/w)水酸化ナトリウム水溶液54mLを滴下し、水6mLを加えた。常圧下に溶媒106mLを留去し、103℃で2時間撹拌した。冷却後、反応混合物に水30mLおよび塩酸27mLを加え、活性炭素1.5gを添加し、70℃で10分間撹拌した。不溶物を濾去し、水30mLで洗浄した。濾液と洗液を合わせ、メタノール60mL、酢酸エチル24mLおよび水30mLを加えた。50℃まで加温し、塩酸17mLを加えた。4℃まで冷却後、固形物を濾取し、淡黄白色固体の(1−ベンゾチオフェン−5−イル)酢酸25.8gを得た。
CDCl3中における1H-NMRスペクトルのケミカルシフト値は、実施例7の値と一致した。
【0048】
実施例9

5−クロロベンゾチオフェン20.0gおよびナトリウムtert−ブトキシド31.9gのトルエン160mL懸濁液にジクロロビス(トリシクロヘキシルホスフィン)パラジウム(II)613mgを加えた後、100〜110℃でメチル=シアノアセタート16.5gを1時間かけて滴下し、6時間還流した(反応液をHPLC分析した結果、メチル=2−(1−ベンゾチオフェン−5−イル)−2−シアノアセタートの生成率は83%、tert−ブチル=2−(1−ベンゾチオフェン−5−イル)−2−シアノアセタートの生成率は10%であった。)。反応混合物を冷却後、エタノール100mLおよび20%(w/w)水酸化ナトリウム水溶液48mLを加え、5時間還流した。次いで、プロピレングリコール30mLを加え、常圧下に溶媒300mLを留去した後、30分間還流した。水40mLを加え、3.5時間還流した。冷却後、反応混合物にトルエン40mLおよび塩酸20mLを加えた。70℃まで加熱後、活性炭素1.0gを添加し、同温度で10分間撹拌した。不溶物を濾去し、水60mLで洗浄後、濾液と洗液を合わせた。水層を分取し、メタノール40mLおよび酢酸エチル16mLを加え、52℃まで加温し、塩酸23mLを加えた。5〜10℃まで冷却後、固形物を濾取し、淡黄色固体の(1−ベンゾチオフェン−5−イル)酢酸20.8gを得た。
CDCl3中における1H-NMRスペクトルのケミカルシフト値は、実施例7の値と一致した。
【0049】
比較例1

5−ブロモベンゾチオフェン5.00gのトルエン25mL溶液にカリウムtert−ブトキシド6.32g、tert−ブチル=シアノアセタート3.64g、ジクロロビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(II)1.7mg、トリフェニルホスフィン62mgおよびトルエン35mLを加え、5時間還流した。反応液をHPLC分析した結果、tert−ブチル=2−(1−ベンゾチオフェン−5−イル)−2−シアノアセタートの生成率は8%であった。
【0050】
比較例2

5−クロロベンゾチオフェン5.00gおよびカリウムtert−ブトキシド7.99gのトルエン40mL懸濁液にジクロロビス(トリシクロヘキシルホスフィン)パラジウム(II)153mgを加えた後、100〜104℃でtert−ブチル=シアノアセタート5.02gを10分間かけて滴下し、5時間還流した。反応液をHPLC分析した結果、tert−ブチル=2−(1−ベンゾチオフェン−5−イル)−2−シアノアセタートの生成率は8%であった。
【0051】
比較例3 (特許文献1、実施例2−6)

5−ブロモベンゾチオフェン250gの1,2−ジメトキシエタン1.00L溶液にカリウムtert−ブトキシド276gおよびtert−ブチル=シアノアセタート174gを加えた。ジクロロビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(II)8.23gおよびトリフェニルホスフィン6.15gを80〜85℃で加え、2時間還流した。次いで反応液にエチレングリコール500mL、水250mLおよび水酸化カリウム263gを加え、4時間還流した。反応混合物に水1.50Lおよび珪藻土(セルピュア、Advanced Minerals社)12.5gを加えた。不溶物を濾去後、トルエン250mLを加え、水層を分取した。水層にトルエン375mLおよび酢酸エチル375mLを加え、塩酸505mLを用いてpH1に調整し、有機層を分取した。有機層を活性炭素12.5gで処理し、減圧下に溶媒を濃縮後、トルエンを加え、析出物を濾取して、白色固体の(1−ベンゾチオフェン−5−イル)酢酸176gを得た。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式
【化1】

「式中、Xは、ハロゲン原子を示す。」で表されるハロゲノベンゾチオフェンをナトリウムtert−ブトキシドおよびパラジウム触媒の存在下、一般式
【化2】

「式中、Rは、置換されていてもよいアルキル、シクロアルキルまたはアルアルキル基を示す。」で表される化合物またはその塩とカップリング反応に付し、一般式
【化3】

「式中、Rは、前記と同様の意味を有する。」で表される化合物またはその塩とし、次いで、酸または塩基と反応させ、必要に応じて脱炭酸反応に付すことを特徴とする、(1−ベンゾチオフェン−5−イル)酢酸またはその塩の製造法。
【請求項2】
パラジウム触媒の使用量が、ハロゲノベンゾチオフェンに対して0.0001〜0.01倍モルである、請求項1に記載の製造法。
【請求項3】
Xが、塩素原子または臭素原子である請求項1または2のいずれか1項に記載の製造法。
【請求項4】
が、アルキル基である請求項1〜3のいずれか1項に記載の製造法。
【請求項5】
が、メチル基、エチル基またはtert−ブチル基である請求項1〜3のいずれか1項に記載の製造法。
【請求項6】
一般式
【化4】

「式中、Xは、ハロゲン原子を示す。」で表されるハロゲノベンゾチオフェンをナトリウムtert−ブトキシドおよびパラジウム触媒の存在下、一般式
【化5】

「式中、Rは、置換されていてもよいアルキル、シクロアルキルまたはアルアルキル基を示す。」で表される化合物またはその塩とカップリング反応に付すことを特徴とする、一般式
【化6】

「式中、Rは、前記と同様の意味を有する。」で表される化合物またはその塩の製造法。
【請求項7】
パラジウム触媒の使用量が、ハロゲノベンゾチオフェンに対して0.0001〜0.01倍モルである、請求項6に記載の製造法。
【請求項8】
Xが、塩素原子または臭素原子である請求項6または7のいずれか1項に記載の製造法。
【請求項9】
が、アルキル基である請求項6〜8のいずれか1項に記載の製造法。
【請求項10】
が、メチル基、エチル基またはtert−ブチル基である請求項6〜8のいずれか1項に記載の製造法。

【公開番号】特開2011−74072(P2011−74072A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−196364(P2010−196364)
【出願日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【出願人】(000003698)富山化学工業株式会社 (37)
【Fターム(参考)】