説明

(1S,2R)−2−クロロ−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸の製造方法

【課題】(1S,2R)−2−クロロ−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸を収率および選択性よく製造することができる方法を提供する。
【解決手段】バークホルデリア・セパシア(Burkholderia cepacia)由来のエステラーゼを用いて(1S)−2−クロロ−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸エステルを加水分解する(1S,2R)−2−クロロ−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、(1S,2R)−2−クロロ−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸の製造方法及び(1S,2S)−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
(1S,2R)−2−クロロ−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸の製造方法としては、例えば、エステラーゼを用いて2−クロロ−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸の4つの異性体混合物を不斉加水分解する方法(例えば、特許文献1参照)が知られている。しかしながら、特許文献1に記載された方法では、収率が低く、かつ、4つの異性体混合物を不斉加水分解するため選択性の点で問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−80298号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような状況のもと、本発明者らは、(1S,2R)−2−クロロ−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸の工業的に有利な製造方法について鋭意検討したところ、上記特許文献1に記載の(1R,2S)−2−クロロ−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸エステルを選択的に加水分解する能力を有する酵素を用いて、(1S)−2−クロロ−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸エステルを加水分解すれば、意外なことに、(1S,2R)−2−クロロ−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸エステルを選択的に加水分解することができ、収率および選択性よく(1S,2R)−2−クロロ−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸が得られることを見出し、本発明に至った。また、かくして得られる(1S,2R)−2−クロロ−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸を還元すれば(1S,2S)−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸が得られるが、この還元を、ニッケル−アルミニウム合金を用いる展開還元により行うことにより、より収率よく還元が進行することも見出した。
【課題を解決するための手段】
【0005】
すなわち本発明は、下記項1〜項9を提供するものである。
項1.バークホルデリア・セパシア(Burkholderia cepacia)由来のエステラーゼを用いて(1S)−2−クロロ−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸エステルを加水分解する(1S,2R)−2−クロロ−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸の製造方法。
項2.不斉錯体の存在下、1−クロロ−1−フルオロエチレンとジアゾ酢酸エステルとを反応させて(1S)−2−クロロ−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸エステルを得、次いで、バークホルデリア・セパシア(Burkholderia cepacia)由来のエステラーゼを用いて該(1S)−2−クロロ−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸エステルを加水分解する上記項1に記載の製造方法。
項3.不斉錯体が、銅化合物と光学活性な配位子とを接触させてなる不斉銅錯体である上記項2に記載の製造方法。
項4.光学活性な配位子が、一般式(1):
【0006】
【化1】

【0007】
(式中、Rは炭素数1〜4のアルキル基、置換されていてもよいフェニル基、置換されていてもよいアラルキル基、1−ナフチル基または2−ナフチル基を表わし、RおよびRはそれぞれ同一または相異なって、水素原子または炭素数1〜3のアルキル基を表わす。)
で示される光学活性なビスオキサゾリン化合物である上記項3に記載の製造方法。
項5.光学活性な配位子が、2,2−ビス[2−[(4S)−tert−ブチルオキサゾリン]]プロパンである上記項3に記載の製造方法。
項6.バークホルデリア・セパシア(Burkholderia cepacia)由来のエステラーゼが、配列番号1または2で示されるアミノ酸配列を有するエステラーゼである上記項1〜5のいずれかに記載の製造方法。
項7.バークホルデリア・セパシア(Burkholderia cepacia)由来のエステラーゼが、配列番号1で示されるアミノ酸配列を有するエステラーゼである上記項1〜5のいずれかに記載の製造方法。
項8.上記項1〜7のいずれかに記載の製造方法により(1S,2R)−2−クロロ−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸を得、次いで、該(1S,2R)−2−クロロ−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸を還元する(1S,2S)−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸の製造方法。
項9.還元が、(1S,2R)−2−クロロ−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸存在下、ニッケル−アルミニウム合金に塩基を作用させて行われる上記項8に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、(1S,2R)−2−クロロ−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸を収率および選択性よく製造することができる。また、これを還元することで、(1S,2S)−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸を収率よく得られるため、本発明は工業的に有利である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0010】
1. (1S,2R)−2−クロロ−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸の製造方法1.1 (1S)−2−クロロ−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸エステル
まず、本発明に用いる(1S)−2−クロロ−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸エステルの製造方法について説明する。
【0011】
(1S)−2−クロロ−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸エステルは、例えば、特開2004−217608号公報や特開平9−124556号公報等に記載の方法により製造することができる。好ましくは、特開平9−124556号公報に記載の方法、すなわち、不斉錯体の存在下、1−クロロ−1−フルオロエチレンとジアゾ酢酸エステルとを反応させることにより得られる。不斉錯体としては、銅化合物と光学活性な配位子とを接触させてなる不斉銅錯体を用いることが好ましい。
【0012】
銅化合物としては、一価または二価の銅化合物が用いられ、例えば、酢酸銅(I)、酢酸銅(II)、トリフルオロ酢酸銅(I)、トリフルオロ酢酸銅(II)、ナフテン酸銅(I)、ナフテン酸銅(II)、オクチル酸銅(I)、オクチル酸銅(II)等の炭素数2〜15のカルボン酸銅;塩化銅(I)、塩化銅(II)、臭化銅(I)、臭化銅(II)等のハロゲン化銅;硝酸銅(I)、硝酸銅(II);メタンスルホン酸銅(I)、メタンスルホン酸銅(II)、トリフルオロメタンスルホン酸銅(I)、トリフルオロメタンスルホン酸銅(II)等のスルホン酸銅等が挙げられる。かかる銅化合物は、それぞれ単独で用いてもよいし、混合して用いてもよい。また、これら銅化合物は無水物であってもよいし、水和物であってもよい。より好ましくはトリフルオロメタンスルホン酸銅(II)、トリフルオロメタンスルホン酸銅(I)が挙げられる。トリフルオロメタンスルホン酸銅(I)は、例えば、酢酸銅(II)・1水和物、トリフルオロメタンスルホン酸、フェニルヒドラジンから反応系中で調製してもよい。
【0013】
光学活性な配位子としては、下記一般式(1):
【0014】
【化2】

【0015】
(式中、Rは炭素数1〜4のアルキル基、置換されていてもよいフェニル基、置換されていてもよいアラルキル基、1−ナフチル基または2−ナフチル基を表わし、RおよびRはそれぞれ同一または相異なって、水素原子または炭素数1〜3のアルキル基を表わす。)
で示される光学活性なビスオキサゾリン化合物(以下、光学活性ビスオキサゾリン(1)と略記する)や下記一般式(2):
【0016】
【化3】

【0017】
(式中、Rは水素原子またはニトロ基を表わし、Rはメチル基またはベンジル基を表わす)
で示されるサルドイミン化合物(以下、光学活性サルドイミン(2)と略記する)等が挙げられ、これらの中でも光学活性ビスオキサゾリン(1)が好ましい。
【0018】
一般式(1)中のRで示される炭素数1〜4のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基が挙げられる。
【0019】
で示されるフェニル基上に置換されていてもよい基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、シクロヘキシル基等の炭素数1〜6のアルキル基;メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、イソブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基、n−ペンチルオキシ基、n−ヘキシルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基等の炭素数1〜6のアルコキシ基等が挙げられる。かかる基で置換されたフェニル基としては、例えば、3−メチルフェニル基、4−メチルフェニル基、2−メトキシフェニル基、3−メトキシフェニル基、4−メトキシフェニル基等が挙げられる。
【0020】
で示される置換されていてもよいアラルキル基としては、例えば、前記置換されていてもよいフェニル基、1−ナフチル基または2−ナフチル基と、前記炭素数1〜6のアルキル基とから構成されるもの、例えば、ベンジル基、2−メチルベンジル基、3−メチルベンジル基、4−メチルベンジル基、2−メトキシベンジル基、3−メトキシベンジル基、4−メトキシベンジル基、1−ナフチルメチル基、2−ナフチルメチル基等が挙げられる。
【0021】
としては、メチル基、イソプロピル基、tert−ブチル基、フェニル基、ベンジル基が好ましく、tert−ブチル基がより好ましい。
【0022】
およびRで示される炭素数1〜3のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基が挙げられる。RおよびRは、ともに水素原子であるか、ともにメチル基であるか、ともにエチル基であることが好ましく、ともにメチル基であることがより好ましい。
【0023】
かかる光学活性ビスオキサゾリン(1)としては、例えば、ビス[2−[(4S)−イソプロピルオキサゾリン]]メタン、ビス[2−[(4S)−tert−ブチルオキサゾリン]]メタン、ビス[2−[(4S)−フェニルオキサゾリン]]メタン、ビス[2−[(4S)−ベンジルオキサゾリン]]メタン、ビス[2−[(4S)−(2−メトキシフェニル)オキサゾリン]]メタン、ビス[2−[(4S)−(4−メトキシフェニル)オキサゾリン]]メタン、ビス[2−[(4S)−(4−トリフルオロメチルフェニル)オキサゾリン]]メタン、ビス[2−[(4S)−(ナフタレン−1−イル)オキサゾリン]]メタン、ビス[2−[(4S)−(ナフタレン−2−イル)オキサゾリン]]メタン、2,2−ビス[2−[(4S)−イソプロピルオキサゾリン]]プロパン、2,2−ビス[2−[(4S)−tert−ブチルオキサゾリン]]プロパン、2,2−ビス[2−[(4S)−フェニルオキサゾリン]]プロパン、2,2−ビス[2−[(4S)−ベンジルオキサゾリン]]プロパン、2,2−ビス[2−[(4S)−(2−メトキシフェニル)オキサゾリン]]プロパン、2,2−ビス[2−[(4S)−(4−メトキシフェニル)オキサゾリン]]プロパン、2,2−ビス[2−[(4S)−(4−トリフルオロメチルフェニル)オキサゾリン]]プロパン、2,2−ビス[2−[(4S)−(ナフタレン−1−イル)オキサゾリン]]プロパン、2,2−ビス[2−[(4S)−(ナフタレン−2−イル)オキサゾリン]]プロパン等が挙げられる。なかでも、2,2−ビス[2−[(4S)−tert−ブチルオキサゾリン]]プロパンが好ましい。
【0024】
光学活性なビスオキサゾリン化合物(1)は、市販品であっても任意の公知の方法(例えば、特開2006−45194号公報等参照)により製造されたものであってもよい。
【0025】
一般式(2)において、Rは水素原子またはニトロ基を表わすが、ニトロ基が好ましい。
【0026】
光学活性サルドイミン(2)としては、例えば[(S)−N−サリチリデン−2−アミノ−1,1−ジ(5−tert−ブチル−2−n−ブトキシフェニル)−1−プロパノール]、[(S)−N−サリチリデン−2−アミノ−1,1−ジ(5−tert−ブチル−2−n−ブトキシフェニル)−3−フェニル−1−プロパノール]、[(S)−N−(5−ニトロサリチリデン)−2−アミノ−1,1−ジ(5−tert−ブチル−2−n−ブトキシフェニル)−1−プロパノール]、[(S)−N−(5−ニトロサリチリデン)−2−アミノ−1,1−ジ(5−tert−ブチル−2−n−ブトキシフェニル)−3−フェニル−1−プロパノール]が挙げられる。
【0027】
光学活性サルドイミン(2)は、任意の公知の方法(例えば、特開2001−2789853号公報等参照)により製造することができる。
【0028】
1−クロロ−1−フルオロエチレンは、市販のものを用いてもよいし、任意の公知の方法により製造して用いてもよい。
【0029】
ジアゾ酢酸エステルは、例えば、ジアゾ酢酸メチル、ジアゾ酢酸エチル、ジアゾ酢酸n−プロピル、ジアゾ酢酸イソプロピル、ジアゾ酢酸n−ブチル、ジアゾ酢酸イソブチル、ジアゾ酢酸sec−ブチル、ジアゾ酢酸tert−ブチル、ジアゾ酢酸n−ペンチル、ジアゾ酢酸n−ヘキシル、ジアゾ酢酸シクロヘキシル等の炭素数1〜6のアルキルエステルが挙げられる。これらの中でも、ジアゾ酢酸メチル、ジアゾ酢酸エチルまたはジアゾ酢酸n−プロピルが好ましく、ジアゾ酢酸エチルがより好ましい。
【0030】
ジアゾ酢酸エステルの製法は特に限定されず、例えば、Organic Synthesis Collective Volume 3, P.392等の公知の方法により製造したものを用いることができる。
【0031】
1−クロロ−1−フルオロエチレンの使用量は、ジアゾ酢酸エステルに対して、通常0.5〜50モル倍、好ましくは1〜10モル倍、より好ましくは1.5〜5モル倍の範囲である。
【0032】
銅化合物の使用量は、ジアゾ酢酸エステルに対して、通常0.0001〜1モル倍、好ましくは0.0005〜0.1モル倍、より好ましくは0.001〜0.02モル倍の範囲である。
【0033】
光学活性な配位子の使用量は、銅化合物に対して、通常0.5〜5モル倍、好ましくは0.5〜3モル倍、より好ましくは0.7〜1.5モル倍の範囲である。
【0034】
1−クロロ−1−フルオロエチレンとジアゾ酢酸エステルとの反応は、通常、反応溶媒の存在下に実施される。かかる反応溶媒としては、例えば、ジクロロメタン、ジクロロエタン、クロロホルム、n−ブチルクロライド、四塩化炭素、オルト−ジクロロベンゼン、トリフルオロトルエン等のハロゲン化炭化水素溶媒;n−ヘキサン、n−ヘプタン、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素溶媒;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素溶媒;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸n−プロピル、酢酸n−ブチル、酢酸n−ペンチル等のエステル溶媒;tert−ブチルメチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル溶媒等が挙げられる。これらの中でも、ハロゲン化炭化水素溶媒および脂肪族炭化水素溶媒が好ましく、オルト−ジクロロベンゼン、トリフルオロトルエン、n−ヘプタンがより好ましい。反応溶媒は、単独で用いてもよく、2種以上を同時に用いてもよい。
【0035】
反応溶媒の使用量は、特に限定されるものではないが、ジアゾ酢酸エステルに対して、通常100重量倍以下、好ましくは0.1〜10重量倍、より好ましくは0.5〜3重量倍の範囲である。
【0036】
反応温度は、通常−78〜50℃、好ましくは−30〜30℃、より好ましくは−10〜20℃の範囲である。
【0037】
本反応は、通常、銅化合物と光学活性な配位子とを混合し、そこに1−クロロ−1−フルオロエチレンを加えて混合し、得られた混合物中にジアゾ酢酸エステルを加えていくことにより実施される。このとき、ジアゾ酢酸エステルは、通常1〜50時間、好ましくは2〜30時間かけて加えていく。
【0038】
反応は大気圧下で行ってもよいが、オートクレーブ等の耐圧容器を用いて加圧下で行うことが好ましい。反応の進行は、薄層クロマトグラフィー、ガスクロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー等の通常の分析手段により確認することができる。
【0039】
反応終了後の反応混合物には、(1S)−2−クロロ−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸エステルが含まれており、かかる反応混合物をそのまま本発明の酵素加水分解に供することもできるが、通常、洗浄処理や濃縮処理等の通常の後処理を施すことにより、(1S)−2−クロロ−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸エステルを単離してから本発明の酵素加水分解に供する。また、単離された(1S)−2−クロロ−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸エステルを、例えば、蒸留処理、カラムクロマトグラフィー処理等の通常の精製処理により、さらに精製してから本発明の酵素加水分解に供してもよい。
【0040】
かくして得られる(1S)−2−クロロ−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸エステルとしては、例えば、(1S)−2−クロロ−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸メチル、(1S)−2−クロロ−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸エチル、(1S)−2−クロロ−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸n−プロピル、(1S)−2−クロロ−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸イソプロピル、(1S)−2−クロロ−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸n−ブチル、(1S)−2−クロロ−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸イソブチル、(1S)−2−クロロ−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸sec−ブチル、(1S)−2−クロロ−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸tert−ブチル、(1S)−2−クロロ−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸n−ペンチル、(1S)−2−クロロ−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸n−ヘキシル、(1S)−2−クロロ−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸シクロヘキシル等が挙げられる。これらの中でも、(1S)−2−クロロ−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸メチル、(1S)−2−クロロ−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸エチルまたは(1S)−2−クロロ−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸n−プロピルが好ましく、(1S)−2−クロロ−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸エチルがより好ましい。
【0041】
1.2 (1S)−2−クロロ−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸エステルの加水分解
次に、バークホルデリア・セパシア(Burkholderia cepacia)由来のエステラーゼを用いて(1S)−2−クロロ−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸エステルを加水分解する(1S,2R)−2−クロロ−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸の製造方法(本明細書において、「本発明の酵素加水分解」と記載することもある)について説明する。
【0042】
バークホルデリア・セパシア(Burkholderia cepacia)由来のエステラーゼ(以下、本酵素と略記する)は、市販のものを用いてもよいし、任意の公知の方法により製造して用いてもよい。本酵素としては、配列番号1または2で示されるアミノ酸配列を有するエステラーゼが好ましく、配列番号1で示されるアミノ酸配列を有するエステラーゼがより好ましい。
【0043】
配列番号1で示されるアミノ酸配列を有するエステラーゼは、特許第3410128号公報に記載の方法により得ることができ、該公報に記載のシュードモナス・セパシア(Pseudomonas cepacia)A−0727(FERM−P No.13272)由来のリパーゼが、これに該当する。配列番号2で示されるアミノ酸配列を有するエステラーゼは、特許第3079276号公報に記載の方法により得ることができる。該公報に記載のシュードモナス・セパシア(Pseudomonas cepacia)M−12−33(FERM−P No.9871)由来のリパーゼが、これに該当する。なお、これらの公報に記載のシュードモナス・セパシアは、バークホルデリア・セパシアの旧名である。また、配列番号1で示されるアミノ酸配列を有するエステラーゼは、商品名「リパーゼAH」として、配列番号2で示されるアミノ酸配列を有するエステラーゼは、商品名「リパーゼPS」として、いずれも天野エンザイム株式会社から市販されている。
【0044】
上記本酵素は、(1R,2S)−2−クロロ−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸エステルを選択的に加水分解する能力を有することが知られているが、このような本酵素を用いて(1S)−2−クロロ−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸エステルを加水分解すれば、(1S,2R)−2−クロロ−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸エステルを選択的に加水分解することができ、収率および選択性よく(1S,2R)−2−クロロ−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸が得られるものである。
【0045】
また、本酵素は、精製酵素、粗酵素、微生物培養物、菌体、およびそれらの処理物など、種々の形態で用いることができる。ここで処理物とは、例えば、凍結乾燥菌体、アセトン乾燥菌体、菌体摩砕物、菌体の自己消化物、菌体の超音波処理物、菌体抽出物、または菌体のアルカリ処理物等をいう。さらに、上記のような種々の純度あるいは形態の酵素を、例えば、シリカゲルやセラミックス等の無機担体、セルロース、イオン交換樹脂等への吸着法、ポリアクリルアミド法、含硫多糖ゲル法(例えばカラギーナンゲル法)、アルギン酸ゲル法、寒天ゲル法等の公知方法により固定化して用いてもよい。
【0046】
本酵素の使用量は反応時間の遅延や選択性の低下が起こらないように適宜選択される。例えば、精製酵素、粗酵素を用いる場合、その使用量は(1S)−2−クロロ−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸エステルに対して、通常0.001〜2重量倍、好ましくは0.002〜0.5重量倍であり、より好ましくは0.005〜0.2重量倍であり、さらに好ましくは0.005〜0.1重量倍であり、微生物培養物、菌体、およびそれらの処理物を用いる場合、その使用量は(1S)−2−クロロ−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸エステルに対して、通常0.01〜200重量倍、好ましくは0.1〜50重量倍である。本酵素を前記範囲で使用することにより、反応時間の遅延することなく、かつ、選択性よく(1S,2R)−2−クロロ−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸が得られるため、好ましい。
【0047】
反応は、水の存在下で実施される。水は、例えば、リン酸ナトリウム水溶液、リン酸カリウム水溶液、炭酸水素ナトリウム水溶液等の無機塩類の緩衝溶液や、酢酸ナトリウム水溶液、クエン酸ナトリウム水溶液等の有機酸塩類の緩衝溶液として利用される。無機塩類の緩衝溶液として用いることが好ましく、リン酸ナトリウム水溶液または炭酸水素ナトリウム水溶液として用いることがより好ましい。緩衝溶液の濃度は特に制限されないが、通常5モル/L以下、好ましくは0.01〜2モル/Lの範囲である。水の使用量は、特に限定されるものではないが、(1S)−2−クロロ−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸エステルに対して、通常1〜100重量倍、好ましくは1〜50重量倍、より好ましくは3〜30重量倍の範囲である。
【0048】
本発明の酵素加水分解は、疎水性有機溶媒、親水性有機溶媒等の有機溶媒の存在下に行われてもよい。疎水性有機溶媒としては、例えば、tert−ブチルメチルエーテル、イソプロピルエーテル等のエーテル溶媒;トルエン、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン等の炭化水素溶媒等が挙げられる。また、親水性有機溶媒としては、例えば、tert−ブタノール、メタノール、エタノール、イソプロパノール、イソブタノール、n−ブタノール等のアルコール溶媒;テトラヒドロフラン等のエーテル溶媒;ジメチルスルホキサイド等のスルホキサイド溶媒;アセトン等のケトン溶媒;アセトニトリル等のニトリル溶媒;N,N−ジメチルホルムアミド等のアミド溶媒等が挙げられる。これらの疎水性有機溶媒や親水性有機溶媒は、それぞれ単独または2種以上を組み合わせて用いられてもよい。
【0049】
有機溶媒を用いる場合、その使用量は(1S)−2−クロロ−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸エステルに対して、通常100重量倍以下、好ましくは0.1〜50重量倍の範囲である。
【0050】
本発明の酵素加水分解は、通常、水または緩衝溶液と、(1S)−2−クロロ−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸エステルと本酵素とを混合することにより実施され、それらの混合順序は特に限定されない。
【0051】
反応温度は、通常0〜100℃、好ましくは10〜60℃、より好ましくは30〜50℃の範囲である。反応時間は反応温度等により異なるが、通常、1時間〜7日間、好ましくは2時間〜72時間の範囲である。反応の進行は、薄層クロマトグラフィー、ガスクロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー等の通常の分析手段により確認することができる。
【0052】
反応中の混合物のpHは、通常4〜10、好ましくは5〜9、より好ましくは6〜8の範囲である。反応中、塩基を加えることによりpHを適宜選択された範囲内に調整してもよい。かかる塩基としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物;炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等のアルカリ金属炭酸塩;炭酸カルシウム等のアルカリ土類金属炭酸塩;炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム等のアルカリ金属重炭酸塩;リン酸2水素ナトリウム、リン酸水素2ナトリウム、リン酸2水素カリウム、リン酸水素2カリウム等のアルカリ金属リン酸塩;トリエチルアミン、ピリジン等の有機塩基;アンモニア等が使用される。かかる塩基は単独もしくは2種類以上を組み合わせて用いてもよい。かかる塩基は通常水溶液として用いられるが、固体もしくは溶液に懸濁させた状態で用いてもよい。
【0053】
反応終了後の反応混合物には(1S,2R)−2−クロロ−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸が含まれており、通常、反応で使用した酵素や緩衝剤あるいは未反応の(1S)−2−クロロ−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸エステル等と分離するためにさらに後処理操作を行う。
【0054】
かかる後処理としては、例えば、反応混合物を必要により濃縮処理した後、シリカゲルクロマトグラフィーを用いて分離精製する方法や、同様に濃縮処理した後、蒸留により分離精製する方法や、分液操作により分離精製する方法等が挙げられる。
【0055】
分液操作により分離精製する際に、反応時に水と疎水性有機溶媒のいずれにも溶解する有機溶媒を用いた場合は、該有機溶媒を留去してから分液操作を行えばよい。また、反応混合物に不溶酵素や固定化担体等が存在する場合は、これらをろ過により除去してから分液操作を行えばよい。
【0056】
分液操作により目的成分である(1S,2R)−2−クロロ−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸と未反応の(1S)−2−クロロ−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸エステルとを分離するためには、疎水性有機溶媒と水とを用い、水層のpHを塩基性側に調整することにより、(1S,2R)−2−クロロ−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸を塩として水層に抽出し、有機層と分離すればよい。
【0057】
疎水性有機溶媒としては、例えば、tert−ブチルメチルエーテル、イソプロピルエーテル等のエーテル溶媒;トルエン等の芳香族炭化水素溶媒;ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素溶媒;ジクロロメタン、ジクロロエタン、クロロホルム、クロロベンゼン、オルトジクロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素溶媒;酢酸エチル、酢酸メチル、酢酸ブチル等のエステル溶媒;メチルイソブチルケトン等のケトン溶媒等が挙げられる。反応時にこれらの疎水性有機溶媒を使用した場合は、そのまま分液操作を行うこともできる。
【0058】
かかる目的で行われる抽出時の水層のpHは、通常8以上、好ましくは10〜14の範囲である。pHを調整するために、塩基を使用することができる。かかる塩基としては、反応時のpH調整に用いたと同様の塩基が使用可能である。
【0059】
また、分液操作により、(1S,2R)−2−クロロ−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸と、反応で使用した酵素や緩衝剤等の水溶性成分とを分離するためには、疎水性有機溶媒と水とを用い、水層のpHを酸性側に調整することにより、(1S,2R)−2−クロロ−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸を有機層に抽出し、水層と分離すればよい。
【0060】
かかる目的で行われる抽出時の水層のpHは、通常7以下、好ましくは0.1〜3の範囲である。pHを調整するために、酸を使用することができる。酸としては、例えば、塩化水素、臭化水素、硫酸、リン酸等の無機酸や、酢酸、クエン酸、メタンスルホン酸等の有機酸およびそれらの塩等が挙げられる。
【0061】
かくして得られる(1S,2R)−2−クロロ−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸を含む水溶液または有機溶媒溶液を濃縮処理したり、晶析処理したりすれば、(1S,2R)−2−クロロ−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸を単離することができる。単離された(1S,2R)−2−クロロ−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸は、再結晶処理、蒸留処理、カラムクロマトグラフィー処理等の通常の精製処理により、さらに精製されてもよい。
【0062】
(1S,2R)−2−クロロ−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸を晶析処理したり、再結晶処理する場合に用いられる溶媒としては、例えば、n−ヘキサン、n−ペンタン等の脂肪族炭化水素溶媒;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素溶媒;メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール等のアルコール溶媒;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジメトキシエタン等のエーテル溶媒;クロロホルム、ジクロロメタン、ジクロロエタン等のハロゲン化炭化水素溶媒;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド溶媒;アセトニトリル等のニトリル溶媒;酢酸エチル等のエステル溶媒;水等が挙げられる。これらの溶媒は、単独で用いてもよいし、2種以上を同時に用いてもよい。溶媒の使用量は、通常、使用した(1S,2R)−2−クロロ−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸の固形分全量に対して、2〜100倍の範囲である。
【0063】
また、(1S,2R)−2−クロロ−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸を、後述する還元に供する場合は、上記後処理前の反応混合物として還元に供してもよいが、通常、反応混合物を後処理した後で還元に供する。後処理後は、(1S,2R)−2−クロロ−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸を含む水溶液または有機溶媒溶液として還元に供してもよいし、単離された(1S,2R)−2−クロロ−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸として還元に供してもよいし、精製された(1S,2R)−2−クロロ−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸として還元に供してもよい。
【0064】
2. (1S,2S)−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸の製造方法
最後に、(1S,2R)−2−クロロ−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸を還元する、(1S,2S)−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸の製造方法について説明する。
【0065】
かかる還元としては、例えば、亜鉛を用いて行う還元、トリアルキルスズヒドリド化合物を用いて行う還元、非プロトン性極性溶媒の存在下で金属水素化ホウ素化合物およびルイス酸を用いて行う還元、ニッケル−アルミニウム合金を用いて行う還元、パラジウム/炭素を用いて行う水素添加、スポンジニッケルを用いて行う水素添加等が挙げられる。ニッケル−アルミニウム合金を用いて行う還元またはスポンジニッケルを用いて行う水素添加が好ましく、ニッケル−アルミニウム合金を用いて行う還元がより好ましい。
【0066】
以下、ニッケル−アルミニウム合金を用いて行う還元(以下、展開還元と記載する)とスポンジニッケルを用いて行う水素添加(以下、水素添加と記載する)について説明する。
【0067】
2.1 展開還元
展開還元は、(1S,2R)−2−クロロ−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸の存在下、ニッケル−アルミニウム合金に塩基を作用させて行われる。
【0068】
展開還元は、通常、さらに溶媒の存在下で行われる。溶媒としては、通常、水が使用される。また、水と同時に、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、n−ブチルアルコール、tert−ブタノール等のアルコール溶媒;アセトン等のケトン溶媒;tert−ブチルメチルエーテル等のエーテル溶媒等の有機溶媒を用いることもできる。水を単独で用いることが好ましい。溶媒の使用量は、特に限定されるものではないが、(1S,2R)−2−クロロ−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸に対して、通常100重量倍以下であり、好ましくは1〜50重量倍、より好ましくは1〜5重量倍の範囲である。
【0069】
ニッケル−アルミニウム合金は、市販のものが使用できる。ニッケル含量は、通常30〜60重量%、好ましくは40〜50重量%のものが使用される。その使用量は、(1S,2R)−2−クロロ−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸に対して、通常5重量倍以下、好ましくは0.1〜1重量倍、より好ましくは0.2〜0.5重量倍の範囲である。
【0070】
塩基としては、有機塩基を用いてもよいが、通常、無機塩基を用いる。
【0071】
無機塩基としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物等が挙げられる。無機塩基は、通常、水溶液として用いられる。かかる水溶液の濃度は適宜選択すればよいが、通常10〜50重量%、好ましくは15〜35重量%、より好ましくは20〜30重量%である。無機塩基の使用量は、(1S,2R)−2−クロロ−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸に対して、通常15モル倍以下、好ましくは0.1〜5モル倍、より好ましくは1〜3モル倍の範囲である。
【0072】
また、無機塩基と同時に、アンモニア、ヒドラジンおよび有機塩基からなる群から選ばれる少なくとも1種の塩基を用いてもよい。有機塩基としては、例えば、メチルアミン、エチルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン等のアルキルアミン;エタノールアミン、イソプロパノールアミン等のアミノアルコール;エチレンジアミン等のアルキレンジアミン等が挙げられる。アンモニア、ヒドラジンおよび有機塩基からなる群から選ばれる少なくとも1種の塩基としては、アンモニア、メチルアミン、エタノールアミン、エチレンジアミンが好ましく、アンモニアおよびエチレンジアミンがより好ましい。
【0073】
アンモニア、ヒドラジンおよび有機塩基からなる群から選ばれる少なくとも1種の塩基の使用量は、(1S,2R)−2−クロロ−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸に対して、通常15モル倍以下、好ましくは0.5〜5モル倍、より好ましくは1〜2モル倍である。
【0074】
展開還元の反応温度は、通常0〜100℃、好ましくは20〜80℃、より好ましくは30〜60℃の範囲である。反応時間は反応温度等により異なるが、通常、1分間〜48時間の範囲である。反応の進行は、薄層クロマトグラフィー、ガスクロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー等の通常の分析手段により確認することができる。
【0075】
(1S,2R)−2−クロロ−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸とニッケル−アルミニウム合金と塩基の混合順序は特に限定されないが、(1S,2R)−2−クロロ−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸とニッケル−アルミニウム合金を混合し、得られた混合物に塩基を加える態様が好ましい。このとき、塩基を徐々に加えていくことが、より好ましい。反応は大気圧下で行ってもよいし、加圧条件下で行ってもよい。
【0076】
2.2 水素添加
水素添加は、通常、溶媒の存在下、(1S,2R)−2−クロロ−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸とスポンジニッケルとを混合し、得られた混合物を水素雰囲気下で攪拌することにより行われる。また、塩基を適宜使用することもできる。
【0077】
溶媒としては、通常、水が使用される。また、水と同時に、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、n−ブチルアルコール、tert−ブタノール等のアルコール溶媒;ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、1,4−ジオキサン、テトラハイドロフラン、tert−ブチルメチルエーテル等のエーテル溶媒;トルエン等の芳香族炭化水素溶媒;ヘキサンまたはシクロヘキサン等の脂肪族炭化水素溶媒等の有機溶媒を用いることもできる。水を単独で用いることが好ましい。溶媒の使用量は、特に限定されるものではないが、(1S,2R)−2−クロロ−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸に対して、通常100重量倍以下であり、好ましくは1〜50重量倍、より好ましくは1〜5重量倍の範囲である。溶媒の使用量は、特に限定されるものではないが、(1S,2R)−2−クロロ−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸に対して、通常100重量倍以下であり、好ましくは1〜50重量倍、より好ましくは1〜10重量倍の範囲である。
【0078】
スポンジニッケルは、通常、市販のものを用いることができるが、任意の公知の方法にて製造して用いてもよい。その使用量は、(1S,2R)−2−クロロ−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸に対し、ニッケル純分として、通常、10重量倍以下、好ましくは0.1〜5重量倍、より好ましくは0.2〜2重量倍の範囲である。
【0079】
塩基としては、通常、アルカリ金属水素化物およびアルカリ金属炭酸塩からなる群から選ばれる少なくとも1つの塩基を用いるが、それらと同時に、アンモニアおよび有機塩基からなる群から選ばれる少なくとも1つの塩基を併用してもよい。
【0080】
アルカリ金属水酸化物としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム等が、アルカリ金属炭酸塩としては、例えば、炭酸カリウム等が、それぞれ挙げられる。これらの塩基は、通常、水溶液として用いられる。かかる水溶液の濃度は適宜選択すればよいが、通常10〜50重量%、好ましくは15〜35重量%、より好ましくは20〜30重量%である。
【0081】
有機塩基としては、例えば、メチルアミン、エチルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン等のアルキルアミン;エタノールアミン、イソプロパノールアミン等のアミノアルコール;エチレンジアミン等のアルキレンジアミン;ピリジン、ピペリジン等の飽和もしくは芳香族の複素環アミン等が挙げられる。メチルアミン、エタノールアミンまたはエチレンジアミンが好ましく、エチレンジアミンがより好ましい。
【0082】
塩基の使用量は、(1S,2R)−2−クロロ−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸に対して、通常20モル倍以下、好ましくは0.1〜5モル倍、より好ましくは0.5〜2モル倍である。
【0083】
水素添加の反応温度は、通常0〜100℃、好ましくは20〜80℃、より好ましくは30〜60℃の範囲である。反応時間は反応温度等により異なるが、通常、1分間〜48時間の範囲である。反応の進行は、薄層クロマトグラフィー、ガスクロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー等の通常の分析手段により確認することができる。
【0084】
水素としては、通常、市販の水素ガスを用いる。水素圧は、通常、0.1〜10MPa、好ましくは0.1〜1MPaの範囲である。
【0085】
還元終了後の反応混合物には、(1S,2S)−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸が含まれており、通常、還元に使用した触媒や塩基等を除去するために、該反応混合物を後処理する。
【0086】
かかる後処理としては、例えば、濾過処理等の固液分離処理や分液処理等が挙げられる。分液処理は、上述した本発明の酵素加水分解の後処理に準じて行えばよい。
【0087】
反応混合物に後処理を施して得られる混合物に、例えば、濃縮処理や晶析処理等の通常の単離処理を施せば、(1S,2S)−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸を単離することができる。単離された(1S,2S)−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸は、例えば、再結晶処理、蒸留処理、カラムクロマトグラフィー処理等の通常の精製処理により、さらに精製されてもよい。ここで、晶析処理や再結晶処理は、上述した(1S,2R)−2−クロロ−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸の晶析処理や再結晶処理に準じて行えばよい。
【実施例】
【0088】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれら実施例によって限定されるものではない。
【0089】
なお、下記の製造例及び各実施例において、各生成物の収率、anti体/syn体比、シス体/トランス体比、光学純度および化学純度は、それぞれ以下の方法により分析して求めた。
【0090】
<ジアゾ酢酸エチル>
収率:ガスクロマトグラフ分析
カラム:DB−WAX
0.53mm×30m、膜厚1.0μm
(アジレント・テクノロジー株式会社製)
【0091】
<(1S)−2−クロロ−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸エチル>
収率およびanti体/syn体比:ガスクロマトグラフ分析
カラム:DB−WAX
0.25mm×30m、膜厚0.25μm
(アジレント・テクノロジー株式会社製)
光学純度:ガスクロマトグラフ分析
カラム:InertCap(登録商標) CHIRAMIX
0.25mm×30m、膜厚0.25μm
(ジーエルサイエンス株式会社製)
または、
CP−Cyclodextrin−β−2,3,6−M−19
0.25mm×50m、膜厚0.25μm
(ジーエルサイエンス株式会社製)
【0092】
<(1S,2R)−2−クロロ−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸>
収率およびanti体/syn体比:高速液体クロマトグラフ分析
カラム:L−column2(登録商標)
4.6mm×250mm、5μm
(財団法人化学物質評価研究機構製)
展開液:KHPO水溶液(5mmol/L)にリン酸を加えて
pH2.5に調整した水溶液およびアセトニトリル
光学純度:ガスクロマトグラフ分析
カラム:InertCap(登録商標) CHIRAMIX
0.25mm×30m、膜厚0.25μm
(ジーエルサイエンス株式会社製)
方法:(1S,2R)−2−クロロ−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸を
トリメチルシリルジアゾメタンでメチルエステルに誘導体化してから分析。
【0093】
<(1S,2S)−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸>
収率およびシス体/トランス体比:高速液体クロマトグラフ分析
カラム:L−column2(登録商標)
4.6mm×250mm、5μm
(財団法人化学物質評価研究機構製)
展開液:KHPO水溶液(5mmol/L)にリン酸を加えて
pH2.5に調整した水溶液およびアセトニトリル
光学純度:ガスクロマトグラフ分析
カラム:InertCap(登録商標) CHIRAMIX
0.25mm×30m、膜厚0.25μm
(ジーエルサイエンス株式会社製)
方法:(1S,2S)−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸を
トリメチルシリルジアゾメタンでメチルエステルに誘導体化してから分析。
化学純度およびシス体/トランス体比:ガスクロマトグラフ分析
カラム:HR−20M
0.53mm×30m、膜厚1.0μm
(信和化工株式会社製)
【0094】
以下の各例において、(1S)−2−クロロ−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸またはそのエステルがanti体であるとは、シクロプロパン平面に対して塩素原子とカルボキシル基またはアルコキシカルボニル基とが互いに反対側にあることを示し、syn体であるとは、シクロプロパン平面に対して塩素原子とカルボキシル基またはアルコキシカルボニル基とが互いに同じ側にあることを示す。例えば、(1S,2R)−2−クロロ−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸はanti体である。また、(1S)−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸がシス体であるとは、シクロプロパン平面に対してフッ素原子とカルボキシル基とが互いに同じ側にあることを示し、トランス体であるとは、シクロプロパン平面に対してフッ素原子とカルボキシル基とが互いに反対側にあることを示す。例えば、(1S,2S)−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸はシス体である。
【0095】
製造例1:ジアゾ酢酸エチル
窒素雰囲気下、水318g、グリシンエチルエステル塩酸塩188g(1.35mol)、n−ヘプタン188gを順次仕込んだ後、得られた混合物を10℃に冷却した。そこに、28重量%水酸化ナトリウム水溶液1.74gを加えてpHを4.7に調整し、内温10±2℃に保ちながら、40重量%亜硝酸ナトリウム水溶液279g(純分112g、1.62mol)とクエン酸・1水和物4.54g(0.0216mol)および水65.8gからなるクエン酸水溶液とを同時並行的に3時間かけて滴下した。得られた混合物を10℃で6時間保温した後、そこに、炭酸ナトリウム6.58g(0.0621mol)および水87.5gからなる炭酸ナトリウム水溶液を滴下した。得られた混合物を内温10±5℃に保ちながら分液し、得られた有機層をモレキュラーシーブス4A6.2gで乾燥させた後、ろ過することにより、ジアゾ酢酸エチルのn−ヘプタン溶液341g(含量:38.0重量%、純分:129g、収率:84.1%)を得た。
【0096】
製造例2:ジアゾ酢酸エチル
窒素雰囲気下、水212g、グリシンエチルエステル塩酸塩126g(0.900mol)、n−ヘキサン126gを順次仕込んだ後、得られた混合物を10℃に冷却した。そこに、28重量%水酸化ナトリウム水溶液1.99gを加えてpHを4.9に調整し、内温10±2℃に保ちながら、40重量%亜硝酸ナトリウム水溶液186g(純分74.5g、1.08mol)とクエン酸・1水和物3.03g(0.0144mol)および水43.9gからなるクエン酸水溶液とを同時並行的に2時間かけて滴下した。得られた混合物を10℃で7時間保温した後、そこに、炭酸ナトリウム4.39g(0.0414mol)および水58.3gからなる炭酸ナトリウム水溶液を滴下した。得られた混合物を内温10±5℃に保ちながら分液し、ジアゾ酢酸エチルのn−ヘキサン溶液213g(含量:41.0重量%、純分:87.2g、収率:84.9%)を得た。
【0097】
製造例3:ジアゾ酢酸エチルの蒸留
製造例2で得たジアゾ酢酸エチルのn−ヘキサン溶液213g(含量:41.0重量%、純分:87.2g)を温度38〜42℃、減圧度200〜370hPaで濃縮し、得られた残渣を温度52〜60℃、減圧度12.0〜31hPaで蒸留することにより、黄色の油状物として、ジアゾ酢酸エチル70.1g(含量:96.5重量%、純分:67.7g)を得た。
【0098】
製造例4:ジアゾ酢酸エチル
窒素雰囲気下、水637g、グリシンエチルエステル塩酸塩377g(2.70mol)、n−ヘプタン377gを順次仕込んだ後、得られた混合物を10℃に冷却した。そこに、26重量%水酸化ナトリウム水溶液3.14gを加えてpHを4.7に調整し、内温10±2℃に保ちながら、40重量%亜硝酸ナトリウム水溶液559g(純分224g、3.24mol)とクエン酸・1水和物17.0g(0.0810mol)および水247gからなるクエン酸水溶液とを同時並行的に15時間かけて滴下した。得られた混合物を10℃で4時間保温した後、そこに、炭酸ナトリウム24.0g(0.227mol)および水277gからなる炭酸ナトリウム水溶液を滴下した。得られた混合物を内温10±5℃に保ちながら分液し、得られた有機層をモレキュラーシーブス4A12.4gで乾燥させた後、ろ過することにより、ジアゾ酢酸エチルのn−ヘプタン溶液672g(含量:38.0重量%、純分:255g、収率:82.9%)を得た。
【0099】
実施例1:(1S)−2−クロロ−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸エチル
窒素雰囲気下、常温で、1300mLオートクレーブに2,2−ビス[2−[(4S)−tert−ブチルオキサゾリン]]プロパン1.79g(6.06mmol)、トリフルオロメタンスルホン酸銅(II)1.98g(5.50mmol)およびn−ヘプタン35.5gを仕込み、得られた混合物を攪拌しながら、反応容器を0℃に冷却した。反応容器を密閉し、そこに、1−クロロ−1−フルオロエチレン177g(2.19mol)を圧入し、内温を5±2℃とした。内温を5±2℃に保ちながら、そこに、製造例1で得たジアゾ酢酸エチルのn−ヘプタン溶液327g(含量:38.0重量%、純分:124g、1.09mol)を5時間かけて滴下した後、得られた混合物を同温度で1時間攪拌した。なお、滴下および保温中、内圧が1MPaを越えた際、パージ操作を行い、圧力を0.9〜1MPaの範囲に保持した。復圧後、昇温し、窒素置換を行った。得られた反応混合物を0.5モル/Lエチレンジアミン四酢酸水27gで洗浄、分液することにより、(1S)−2−クロロ−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸エチルを含む混合物453g(含量:27.5重量%、純分:125g、収率:68.6%(対 ジアゾ酢酸エチル)、anti体/syn体比=62.5/37.5、anti体光学純度=98.2%ee、syn体光学純度=97.4%ee)を得た。反応に用いたオートクレーブなど使用器具の付着分をアセトニトリルに溶解し含量分析を行ったところ、(1S)−2−クロロ−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸エチルの合計量は、収率換算で1.3%であった。したがって、反応収率は69.9%であった。
【0100】
実施例2:(1S)−2−クロロ−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸エチル
窒素雰囲気下、常温で、1300mLオートクレーブに2,2−ビス[2−[(4S)−tert−ブチルオキサゾリン]]プロパン811mg(2.75mmol)、トリフルオロメタンスルホン酸銅(II)903mg(2.50mmol)およびn−ヘプタン16.3gを仕込み、得られた混合物を攪拌しながら、反応容器を0℃に冷却した。反応容器を密閉し、そこに、1−クロロ−1−フルオロエチレン203g(2.52mol)を圧入し、内温を5±2℃とした。内温を5±2℃に保ちながら、そこに、製造例1に準じて得たジアゾ酢酸エチルのn−ヘプタン溶液149g(含量:38.3重量%、純分:57.0g、0.500mol)を5時間かけて滴下した後、得られた混合物を同温度で1時間攪拌した。滴下に従い内圧が上昇し、最終的に1.3MPaに達した。復圧後、昇温し、窒素置換を行った。得られた反応混合物を0.5モル/Lエチレンジアミン四酢酸水13gで洗浄、分液することにより、(1S)−2−クロロ−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸エチルを含む混合物206g(含量:32.5重量%、純分:66.9g、収率:80.2%(対 ジアゾ酢酸エチル)、anti体/syn体比=62.4/37.6、anti体光学純度=98.3%ee、syn体光学純度=97.5%ee)を得た。反応に用いたオートクレーブなど使用器具の付着分をアセトニトリルに溶解し含量分析を行ったところ、(1S)−2−クロロ−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸エチルの合計量は、収率換算で1.5%であった。したがって、反応収率は81.7%であった。
【0101】
実施例3:(1S)−2−クロロ−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸エチル
窒素雰囲気下、常温で、1300mLオートクレーブに2,2−ビス[2−[(4S)−tert−ブチルオキサゾリン]]プロパン1.03g(3.48mmol)、トリフルオロメタンスルホン酸銅(II)1.14g(3.16mmol)およびn−ヘプタン20.5gを仕込み、得られた混合物を攪拌しながら、反応容器を0℃に冷却した。反応容器を密閉し、そこに、1−クロロ−1−フルオロエチレン154g(1.91mol)を圧入し、内温を5±2℃とした。内温を5±2℃に保ちながら、そこに、製造例1に準じて得たジアゾ酢酸エチルのn−ヘプタン溶液189g(含量:38.1重量%、純分:71.9g、0.630mol)を5時間かけて滴下した後、得られた混合物を同温度で1時間攪拌した。滴下に従い内圧が上昇し、最終的に1.5MPaに達した。復圧後、昇温し、窒素置換を行った。得られた反応混合物を0.5モル/Lエチレンジアミン四酢酸水15.8gで洗浄、分液することにより、(1S)−2−クロロ−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸エチルを含む混合物269g(含量:27.1重量%、純分:73.0g、収率:69.5%(対 ジアゾ酢酸エチル)、anti体/syn体比=62.6/37.4、anti体光学純度=98.2%ee、syn体光学純度=97.5%ee)を得た。反応に用いたオートクレーブなど使用器具の付着分をアセトニトリルに溶解し含量分析を行ったところ、(1S)−2−クロロ−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸エチルの合計量は、収率換算で0.9%であった。したがって、反応収率は70.4%であった。
【0102】
実施例4:(1S)−2−クロロ−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸エチル
窒素雰囲気下、常温で、1300mLオートクレーブに2,2−ビス[2−[(4S)−tert−ブチルオキサゾリン]]プロパン0.809g(2.75mmol)、トリフルオロメタンスルホン酸銅(II)0.903g(2.50mmol)およびn−ヘプタン16.3gを仕込み、得られた混合物を攪拌しながら、反応容器を0℃に冷却した。反応容器を密閉し、そこに、1−クロロ−1−フルオロエチレン202g(2.51mol)を圧入し、内温を5±2℃とした。内温を5±2℃に保ちながら、そこに、製造例1に準じて得たジアゾ酢酸エチルのn−ヘプタン溶液146g(含量:39.2重量%、純分:57.0g、0.500mol)を5時間かけて滴下した後、得られた混合物を同温度で1時間攪拌した。滴下に従い内圧が上昇し、最終的に1.2MPaに達した。復圧後、昇温し、窒素置換を行った。得られた反応混合物を0.5モル/Lエチレンジアミン四酢酸水12.5gで洗浄、分液することにより、(1S)−2−クロロ−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸エチルを含む混合物201g(含量:30.8重量%、純分:62.0g、収率:74.4%(対 ジアゾ酢酸エチル)、anti体/syn体比=62.2/37.8、anti体光学純度=98.2%ee、syn体光学純度=97.5%ee)を得た。反応に用いたオートクレーブなど使用器具の付着分をアセトニトリルに溶解し含量分析を行ったところ、(1S)−2−クロロ−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸エチルの合計量は、収率換算で6.5%であった。したがって、反応収率は80.9%であった。
【0103】
実施例5:(1S)−2−クロロ−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸エチル
窒素雰囲気下、常温で、260mLオートクレーブに2,2−ビス[2−[(4S)−tert−ブチルオキサゾリン]]プロパン0.520g(1.77mmol)、トリフルオロメタンスルホン酸銅(II)0.579g(1.61mmol)およびトリフルオロトルエン42.0gを仕込み、得られた混合物を攪拌しながら、反応容器を0℃に冷却した。反応容器を密閉し、そこに、1−クロロ−1−フルオロエチレン13.0g(0.162mol)を圧入し、内温を5±2℃とした。内温を5±2℃に保ちながら、そこに、製造例3で得たジアゾ酢酸エチル9.49g(含量:96.5重量%、純分:9.16g、0.0802mol)およびトリフルオロトルエン42.0gからなる溶液を5時間かけて滴下した後、得られた混合物を同温度で1時間攪拌した。滴下に従い内圧が上昇し、最終的に1.0MPaに達した。復圧後、昇温し、窒素置換を行った。得られた反応混合物を0.5モル/Lエチレンジアミン四酢酸水8.0gで洗浄、分液することにより、(1S)−2−クロロ−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸エチルを含む混合物107g(含量:3.96重量%、純分:4.22g、収率:31.6%(対 ジアゾ酢酸エチル)、anti体/syn体比=60.0/40.0、anti体光学純度=97.9%ee、syn体光学純度=97.1%ee)を得た。
【0104】
実施例6:(1S)−2−クロロ−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸エチル
窒素雰囲気下、常温で、50mLオートクレーブに2,2−ビス[2−[(4S)−tert−ブチルオキサゾリン]]プロパン0.025g(0.085mmol)、トリフルオロメタンスルホン酸銅(II)0.027g(0.075mmol)およびトリフルオロトルエン7.9gを仕込み、得られた混合物を攪拌しながら、反応容器を0℃に冷却した。反応容器を密閉し、そこに、1−クロロ−1−フルオロエチレン2.43g(0.0302mol)を圧入し、内温を5±2℃とした。内温を5±2℃に保ちながら、そこに、製造例3で得たジアゾ酢酸エチル1.77g(含量:96.5重量%、純分:1.71g、0.0150mol)およびトリフルオロトルエン7.9gからなる溶液を5時間かけて滴下した後、得られた混合物を同温度で1時間攪拌した。滴下に従い内圧が上昇し、最終的に1.0MPaに達した。復圧後、昇温し、窒素置換を行った。得られた反応混合物を0.5モル/Lエチレンジアミン四酢酸水0.38gで洗浄、分液することにより、(1S)−2−クロロ−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸エチルを含む混合物19.7g(含量:5.14重量%、純分:1.01g、収率:40.5%(対 ジアゾ酢酸エチル)、anti体/syn体比=60.4/39.6、anti体光学純度=96.5%ee、syn体光学純度=95.8%ee)を得た。
【0105】
実施例7:(1S)−2−クロロ−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸エチル
窒素雰囲気下、常温で、50mLオートクレーブに2,2−ビス[2−[(4S)−tert−ブチルオキサゾリン]]プロパン0.025g(0.085mmol)、トリフルオロメタンスルホン酸銅(II)0.027g(0.075mmol)およびトリフルオロトルエン7.9gを仕込み、得られた混合物を攪拌した。反応容器を密閉し、そこに、製造例3で得たジアゾ酢酸エチル1.77g(含量:96.5重量%、純分:1.71g、0.0150mol)およびトリフルオロトルエン7.9gからなる溶液のうち、10%相当を30分間かけて滴下し、5分間攪拌した後、反応容器を0℃に冷却した。そこに、1−クロロ−1−フルオロエチレン2.46g(0.0306mol)を圧入し、内温を5±2℃とした。内温を5±2℃に保ちながら、そこに、先に調整したジアゾ酢酸エチル溶液の残りの90%を4.5時間かけて滴下した後、得られた混合物を同温度で1時間攪拌した。滴下に従い内圧が上昇し、最終的に0.9MPaに達した。復圧後、昇温し、窒素置換を行った。得られた反応混合物を0.5モル/Lエチレンジアミン四酢酸水0.38gで洗浄、分液することにより、(1S)−2−クロロ−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸エチルを含む混合物19.7g(含量:4.47重量%、純分:0.88g、収率:35.4%(対 ジアゾ酢酸エチル)、anti体/syn体比=60.3/39.7、anti体光学純度=94.6%ee、syn体光学純度=93.6%ee)を得た。
【0106】
実施例7−1:(1S)−2−クロロ−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸エチル
窒素雰囲気下、常温で、1300mLオートクレーブに2,2−ビス[2−[(4S)−tert−ブチルオキサゾリン]]プロパン1.40g(4.75mmol)、トリフルオロメタンスルホン酸銅(II)1.56g(4.32mmol)およびn−ヘプタン35.7gを仕込み、得られた混合物を攪拌しながら、反応容器を0℃に冷却した。反応容器を密閉し、そこに、1−クロロ−1−フルオロエチレン173g(2.15mol)を圧入し、内温を7±2℃とした。内温を7±2℃に保ちながら、そこに、製造例4に準じて得たジアゾ酢酸エチルのn−ヘプタン溶液315g(含量:39.1重量%、純分123g、1.08mol)を24時間かけて滴下した後、得られた混合物を同温度で1時間撹拌した。なお、滴下および保温中、内圧が1MPaを越えた際、パージ操作を行い、圧力を0.9〜1MPaの範囲に保持した。復圧後、昇温し、窒素置換を行い、(1S)−2−クロロ−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸エチルを含む混合物396g(含量:26.7重量%、純分:106g、収率:58.8%(対 ジアゾ酢酸エチル)、anti体/syn体比=61.5/38.5、anti体光学純度=97.8%ee、syn体光学純度=96.9%ee)を得た。反応に用いたオートクレーブなど使用器具の付着分をtert−ブチルメチルエーテルに溶解し含量分析を行ったところ、(1S)−2−クロロ−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸エチルの合計量は、収率換算で10.6%であった。したがって、反応収率は69.4%であった。
【0107】
実施例8:(1S)−2−クロロ−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸エチルの蒸留
実施例1とほぼ同様の条件で繰り返し反応を行い、得られた(1S)−2−クロロ−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸エチルを含む混合物を合一し、(1S)−2−クロロ−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸エチル混合物1278g(含量:25.4重量%、純分:325g、anti体/syn体比=62.6/37.4、anti体光学純度=98.2%ee)を得た。この溶液を温度40〜42℃、減圧度19〜106hPaで濃縮し、得られた残渣を温度70〜88℃、減圧度5.3〜14hPaで蒸留することにより、無色の油状物として、(1S)−2−クロロ−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸エチル294g(含量:98.1重量%、純分:289g、anti体/syn体比=61.1/38.9、anti体光学純度=98.2%ee)を得た。
【0108】
実施例9:(1S)−2−クロロ−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸エチルの蒸留
実施例2で得た(1S)−2−クロロ−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸エチルを含む混合物206g(含量:32.5重量%、純分:66.9g、anti体/syn体比=62.4/37.6、anti体光学純度=98.3%ee)を温度40〜42℃、減圧度40〜133hPaで濃縮し、得られた残渣を温度67〜88℃、減圧度6.7〜13hPaで蒸留することにより、無色の油状物として、(1S)−2−クロロ−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸エチル59.4g(含量:98.4重量%、純分:58.4g、anti体/syn体比=62.5/37.5、anti体光学純度=98.3%ee)を得た。
【0109】
実施例10:(1S)−2−クロロ−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸エチルの蒸留
実施例3で得た(1S)−2−クロロ−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸エチルを含む混合物269g(含量:27.1重量%、純分:72.8g、anti体/syn体比=62.6/37.4、anti体光学純度=98.2%ee)を温度40〜42℃、減圧度40〜133hPaで濃縮し、得られた残渣を温度67〜88℃、減圧度6.7〜13hPaで蒸留することにより、無色の油状物として、(1S)−2−クロロ−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸エチル66.6g(含量:97.4重量%、純分:64.9g、anti体/syn体比=62.4/37.6、anti体光学純度=98.2%ee)を得た。
【0110】
実施例11:(1S)−2−クロロ−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸エチルの蒸留
実施例4で得た(1S)−2−クロロ−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸エチルを含む混合物201g(含量:30.8重量%、純分:62.0g、anti体/syn体比=62.2/37.8、anti体光学純度=98.2%ee)を温度40〜41℃、減圧度27〜101hPaで濃縮し、得られた残渣を温度70〜85℃、減圧度8.0〜27hPaで蒸留することにより、無色の油状物として、(1S)−2−クロロ−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸エチル57.7g(含量:100重量%、純分:57.7g、anti体/syn体比=61.7/38.3、anti体光学純度=98.2%ee)を得た。
【0111】
実施例12:(1S)−2−クロロ−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸エチルの蒸留
実施例5〜7で得た(1S)−2−クロロ−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸エチルを含む混合物を合一し、(1S)−2−クロロ−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸エチル混合物121g(含量:4.1重量%、純分:5.0g、anti体/syn体比=60.4/39.6、anti体光学純度=96.5%ee)を得た。この溶液を温度35〜40℃、減圧度20〜133hPaで濃縮し、得られた残渣を温度82〜91℃、減圧度8.0〜20hPaで蒸留することにより、無色の油状物として、(1S)−2−クロロ−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸エチル3.8g(含量:86.2重量%、純分:3.3g、anti体/syn体比=58.4/41.6、anti体光学純度=96.3%ee)を得た。
【0112】
実施例12−1:(1S)−2−クロロ−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸エチルの蒸留
実施例7−1とほぼ同様の条件で繰り返し反応を行い、得られた(1S)−2−クロロ−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸エチルを含む混合物を合一し、(1S)−2−クロロ−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸エチル混合物2331g(含量:22.7重量%、純分:528g、anti体/syn体比=62.8/37.2、anti体光学純度=98.2%ee)を得た。この混合物に、モレキュラーシーブス4A30.9gを加え、温度39〜42℃、減圧度47〜373hPaで775g(含量:64.2%、純分:498g)まで濃縮した。このうち、385gを温度73〜107℃、減圧度5.3〜13hPaで蒸留することにより、無色の油状物として、(1S)−2−クロロ−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸エチル247g(含量:97.4重量%、純分:241g、anti体/syn体比=62.0/38.0、anti体光学純度=98.2%ee)を得た。
【0113】
実施例13:(1S,2R)−2−クロロ−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸
室温下、3000mL丸底セパラブルフラスコに、リン酸2水素ナトリウム52.3gおよび水1760gからなる0.2mol/Lリン酸緩衝液1812gを仕込み、そこに、10重量%水酸化ナトリウム水を加えてpHを6.5に調整した。そこに、実施例8で得た(1S)−2−クロロ−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸エチル224g(含量:98.1重量%、純分:220g、1.32mol、anti体/syn体比=61.1/38.9、anti体光学純度=98.2%ee)、さらに、配列番号1で示されるアミノ酸配列からなる加水分解酵素(商品名:リパーゼAH(天野エンザイム株式会社製、Lot.LAHG0150707R))11.0gを順に仕込んだ後、得られた混合物を35℃で50時間攪拌した。攪拌中、10重量%水酸化ナトリウム水を用いて、混合物のpHを6.5に調整した。反応終了後、反応混合物にtert−ブチルメチルエーテル1100gおよび35重量%塩酸を加えて、そのpHを2.0とした後、有機層と水層を分離した。次いで、tert−ブチルメチルエーテル440gを用いて該水層を抽出処理し、得られた有機層を先に得られた有機層と合一した。得られた有機層にラヂオライト(登録商標、昭和化学工業株式会社製)を11g添加し、室温で攪拌した後、ガラスフィルターを用いて固形物をろ別した。ろ液中のわずかに生じた水層を分離した後、(1S,2R)−2−クロロ−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸を含む有機層1806g(含量:5.79重量%、純分:104.5g、収率:57.1%、anti体/syn体比=98.6/1.4、anti体光学純度=98.1%ee)を得た。この有機層を5℃に冷却した。温度を5〜15℃に保ちながら、そこに、27重量%水酸化ナトリウム水溶液を117g(0.787mol)滴下することによりpHを13に調整した後、内温を20℃にし、(1S,2R)−2−クロロ−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸をナトリウム塩として水層側に抽出することにより、(1S,2R)−2−クロロ−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸ナトリウムを含む水層285g((1S,2R)−2−クロロ−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸ナトリウムとして、含量:41.4重量%、純分:118g、収率:55.7%、anti体/syn体比=98.1/1.9、anti体光学純度=98.1%ee)を得た。
【0114】
実施例14:(1S,2R)−2−クロロ−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸
室温下、2000mL丸底セパラブルフラスコに、リン酸2水素ナトリウム14.3gおよび水600gからなる0.2mol/Lリン酸緩衝液614.3gを仕込み、そこに、10重量%水酸化ナトリウム水を加えてpHを6.5に調整した。そこに、実施例10で得た(1S)−2−クロロ−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸エチル61.2g(含量:97.4重量%、純分60.0g、0.360mol、anti体/syn体比=62.4/37.6、anti体光学純度=98.2%ee)、さらに、配列番号1で示されるアミノ酸配列からなる加水分解酵素(商品名:リパーゼAH(天野エンザイム株式会社製、Lot.LAHG0150707R))3.0gを順に仕込んだ後、得られた混合物を35℃で47時間攪拌した。攪拌中、10重量%水酸化ナトリウム水を用いて、混合物のpHを6.5に調整した。反応終了後、反応混合物にtert−ブチルメチルエーテル300gおよび35重量%塩酸を加えて、そのpHを2.3とした後、有機層と水層を分離した。次いで、tert−ブチルメチルエーテル120gを2回用いて該水層を抽出処理し、得られた有機層を先に得られた有機層と合一した。得られた有機層にラヂオライト(登録商標、昭和化学工業株式会社製)を6g添加し、室温で攪拌した後、ラヂオライト(登録商標、昭和化学工業株式会社製)をろ過剤とし、グラスフィルターを用いて固形物をろ別した。ろ液中にわずかに生じた水層を分離した後、(1S,2R)−2−クロロ−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸を含む有機層539g((1S,2R)−2−クロロ−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸として、含量:9.20重量%、純分:29.9g、収率:61.2%、anti体/syn体比=98.6/1.4、anti体光学純度=98.1%ee)を得た。
【0115】
実施例15:(1S,2R)−2−クロロ−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸
室温下、500mL丸底セパラブルフラスコに、リン酸2水素ナトリウム9.6gおよび水390.4gからなる0.2mol/Lリン酸緩衝液300gを仕込み、そこに、28重量%水酸化ナトリウム水を加えてpHを6.9に調整した。そこに、実施例11で得た(1S)−2−クロロ−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸エチル30.0g(含量:100重量%、純分30.0g、0.180mol、anti体/syn体比=61.7/38.3、anti体光学純度=98.2%ee)、配列番号2で示されるアミノ酸配列からなる加水分解酵素(商品名:リパーゼPS(天野エンザイム株式会社製、Lot.LPSAP11522))6.0gを仕込んだ後、得られた混合物を35℃で48時間攪拌した。攪拌中、4重量%水酸化ナトリウム水を用いて、混合物のpHを6.9に調整した。反応終了後、反応混合物にtert−ブチルメチルエーテル150gおよび10重量%塩酸を加えて、そのpHを2.0とした後、有機層と水層を分離した。次いで、tert−ブチルメチルエーテル150gを2回用いて該水層を抽出処理し、得られた有機層を先に得られた有機層と合一した。得られた有機層にラヂオライト(登録商標、昭和化学工業株式会社製)を9g添加し、室温で攪拌した後、ラヂオライト(登録商標、昭和化学工業株式会社製)をろ過剤とし、グラスフィルターを用いて固形物をろ別した。ろ液中にわずかに生じた水層を分離し、(1S,2R)−2−クロロ−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸を含む有機層480g((1S,2R)−2−クロロ−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸として、含量:3.13重量%、純分:15.0g、収率:60.1%、anti体/syn体比=95.5/4.5、anti体光学純度=98.0%ee)を得た。
【0116】
実施例16:(1S,2R)−2−クロロ−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸
室温下、100mL反応容器に、リン酸2水素ナトリウム2.4gおよび水100gからなる0.2mol/Lリン酸緩衝液30gを仕込み、そこに、28重量%水酸化ナトリウム水を加えて、混合物のpHを6.5に調整した。そこに、実施例9で得た(1S)−2−クロロ−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸エチル1.02g(含量:98.4重量%、純分1.00g、6.00mmol、anti体/syn体比=62.5/37.5、anti体光学純度=98.3%ee)、さらに、配列番号1で示されるアミノ酸配列からなる加水分解酵素(商品名:リパーゼAH(天野エンザイム株式会社製、Lot.LAHG0150707R))50mgを順に仕込んだ後、得られた混合物を30℃で48時間攪拌した。攪拌中、4重量%水酸化ナトリウム水を用いて、混合物のpHを6.5〜7.0に調整した。反応終了後、反応混合物にtert−ブチルメチルエーテル20gおよび5重量%塩酸を加えて、そのpHを2.0とした後、有機層と水層を分離した。次いで、tert−ブチルメチルエーテル20gを用いて該水層を抽出処理し、得られた有機層を先に得られた有機層と合一した。得られた有機層にラヂオライト(登録商標、昭和化学工業株式会社製)を少量添加し、室温で攪拌した後、ラヂオライト(登録商標、昭和化学工業株式会社製)をろ過剤とし、グラスフィルターを用いて固形物をろ別した。ろ液中のわずかに生じた水層を分離し、(1S,2R)−2−クロロ−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸を含む有機層49.2g((1S,2R)−2−クロロ−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸として、含量:0.87重量%、純分:0.428g、収率:51.5%、anti体/syn体比=99.7/0.3、anti体光学純度=98.0%ee)を得た。
【0117】
実施例17:(1S,2R)−2−クロロ−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸
室温下、300mL丸底セパラブルフラスコに、炭酸水素ナトリウム7.60gおよび水120gからなる0.75mol/L炭酸水素ナトリウム緩衝液127.6gを仕込み、そこに、実施例9で得た(1S)−2−クロロ−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸エチル15.2g(含量:98.4重量%、純分15.0g、90.0mmol、anti体/syn体比=62.5/37.5、anti体光学純度=98.3%ee)、さらに、配列番号1で示されるアミノ酸配列からなる加水分解酵素(商品名:リパーゼAH(天野エンザイム株式会社製、Lot.LAHG0150707R))750mgを順に仕込んだ後、得られた混合物を35℃で48時間攪拌した。反応終了後、反応混合物にtert−ブチルメチルエーテル30gおよび35重量%塩酸を加えて、そのpHを2.0とした後、有機層と水層を分離した。次いで、tert−ブチルメチルエーテル30gを用いて該水層を抽出処理し、得られた有機層を先に得られた有機層と合一した。得られた有機層にラヂオライト(登録商標、昭和化学工業株式会社製)を0.8g添加し、室温で攪拌した後、ガラスフィルターを用いて固形物をろ別した。ろ液中のわずかに生じた水層を分離した後、(1S,2R)−2−クロロ−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸を含む有機層59.4g((1S,2R)−2−クロロ−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸として、含量:12.7重量%、純分:7.56g、収率:60.6%、anti体/syn体比=98.2/1.8、anti体光学純度=98.2%ee)を得た。
【0118】
実施例17−1:(1S,2R)−2−クロロ−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸
室温下、1000mL丸底セパラブルフラスコに、炭酸水素ナトリウム42.4gおよび水480gからなる0.97mol/L炭酸水素ナトリウム緩衝液522.4gを仕込み、そこに、実施例12−1に準じて得た(1S)−2−クロロ−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸エチル123g(含量:97.3重量%、純分120g、0.720mol、anti体/syn体比=62.2/37.8、anti体光学純度=98.2%ee)、さらに、配列番号1で示されるアミノ酸配列からなる加水分解酵素(商品名:リパーゼAH(天野エンザイム株式会社製、Lot.LAHG0951102R))8.40gを順に仕込んだ後、得られた混合物を35℃で62時間攪拌した。反応終了後、反応混合物にtert−ブチルメチルエーテル240gおよび35重量%塩酸を加えて、そのpHを2.0とした後、有機層と水層を分離した。次いで、tert−ブチルメチルエーテル60gを用いて該水層を抽出処理し、得られた有機層を先に得られた有機層と合一した。得られた有機層にラヂオライト(登録商標、昭和化学工業株式会社製)を6.0g添加し、室温で攪拌した後、ガラスフィルターを用いて固形物をろ別した。ろ液中のわずかに生じた水層を分離した後、(1S,2R)−2−クロロ−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸を含む有機層400g((1S,2R)−2−クロロ−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸として、含量:15.1重量%、純分:60.4g、収率:60.4%、anti体/syn体比=98.8/1.2、anti体光学純度=98.1%ee)を得た。この有機層を5℃に冷却した。温度を5〜15℃に保ちながら、そこに、26重量%水酸化ナトリウム水溶液55.4g(0.360mol)、続けて10重量%水酸化ナトリウム水溶液35.4gを滴下してpHを13に調整した後、内温を20℃とし、(1S,2R)−2−クロロ−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸をナトリウム塩として水層側に抽出した。35%塩酸を加えてpHを7に調整し、(1S,2R)−2−クロロ−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸ナトリウムを含む水溶液185g((1S,2R)−2−クロロ−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸ナトリウムとして、含量:36.0重量%、純分:66.6g、収率:57.4%、anti体/syn体比=98.8/1.2、anti体光学純度=98.1%ee)を得た。
【0119】
実施例17−2:(1S,2R)−2−クロロ−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸
室温下、200mL丸底セパラブルフラスコに、炭酸水素ナトリウム8.83gおよび水100gからなる0.97mol/L炭酸水素ナトリウム緩衝液108.8gを仕込み、そこに、実施例12−1に準じて得た(1S)−2−クロロ−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸エチル25.7g(含量:97.3重量%、純分25.0g、0.150mol、anti体/syn体比=62.2/37.8、anti体光学純度=98.2%ee)、さらに、配列番号1で示されるアミノ酸配列からなる加水分解酵素(商品名:リパーゼAH(天野エンザイム株式会社製、Lot.LAHH0250804R))1.75gを順に仕込んだ後、得られた混合物を35℃で40時間攪拌した。反応終了後、反応混合物にtert−ブチルメチルエーテル50.0gおよび35重量%塩酸を加えて、そのpHを2.0とした後、有機層と水層を分離した。次いで、tert−ブチルメチルエーテル12.5gを用いて該水層を抽出処理し、得られた有機層を先に得られた有機層と合一した。得られた有機層にラヂオライト(登録商標、昭和化学工業株式会社製)を1.3g添加し、室温で攪拌した後、ガラスフィルターを用いて固形物をろ別した。ろ液中のわずかに生じた水層を分離した後、(1S,2R)−2−クロロ−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸を含む有機層82.6g((1S,2R)−2−クロロ−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸として、含量:14.6重量%、純分:12.1g、収率:57.9%、anti体/syn体比=98.9/1.1、anti体光学純度=98.1%ee)を得た。
【0120】
実施例18:(1S,2S)−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸
実施例13で得た(1S,2R)−2−クロロ−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸ナトリウム水溶液282g(含量:41.4重量%、純分:117g、0.728mol、anti体/syn体比=98.1/1.9、anti体光学純度=98.1%ee)を常温で撹拌しながら、そこに、ニッケル−アルミニウム合金30.7g(ニッケル含量:49.7重量%、アルミ含量:50.2重量%、アルミニウム純分:15.4g、0.571mol)を加え、混合物の内温を25〜30℃に保ちながら、そこに、エチレンジアミン2.19g(0.036mol)と27重量%水酸化ナトリウム水溶液5.40g(0.036mol)を30分かけて加えた。得られた混合物の内温を29〜42℃に保ちながら、そこに、エチレンジアミン43.8g(0.729mol)と27重量%水酸化ナトリウム水溶液113g(0.765mol)を3.5時間かけて加えた。次いで、得られた混合物の内温を1時間かけて50℃まで昇温し、同温度で3時間攪拌した後、そこに水73gを加え、得られた混合物を同温度で15分間攪拌した。攪拌後、65±5℃で保温されたろ過器を用いて、該混合物からニッケル−アルミニウム合金由来の触媒をろ別した。ろ過器上に残存した触媒を70℃の温水36gを用いて3回洗浄することにより、(1S,2S)−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸ナトリウムを含む溶液550g(含量:15.9重量%、純分:87.6g、収率:95.4%、シス体/トランス体比=98.1/1.9、シス体光学純度=98.0%ee)を得た。かかるシス体/トランス体比は高速液体クロマトグラフ分析にて求めた。
【0121】
該溶液に35重量%塩酸281gを加え、そのpHを2.0に調整した。tert−ブチルメチルエーテル110gを6回用いて、得られた混合物を抽出処理し、得られた各有機層を合一した。この抽出処理中、35重量%塩酸を用いて、水層のpHを2.0に調整した。得られた有機層の全量728gを減圧濃縮し、(1S,2S)−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸を含む混合物114g(含量:63.3重量%、純分:70.5g、シス体/トランス体比=98.0/2.0)を得た。該混合物にトルエンを102g加えた後、得られた混合物を減圧濃縮し、(1S,2S)−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸を含む混合物111gを得た。該混合物にトルエン102gを加え、その全量を213g(含量:34.0重量%、純分:72.2g、シス体/トランス体比=98.3/1.7)とした。かかるシス体/トランス体比は高速液体クロマトグラフ分析にて求めた。
【0122】
かくして得られた(1S,2S)−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸を含む混合物のうち、21.7g(純分:7.38g)を減圧濃縮して14.4gとし、そこにトルエンを加えて全量を18.1gとした。得られた混合物の内温を35℃に調整したところ、均一溶液であった。該溶液を攪拌しながら徐々に冷却し、26℃になったところで、(1S,2S)−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸の種晶を加えた。得られた混合物を攪拌しながら25℃で1時間保温した後、毎時5℃ずつ冷却した。冷却中、混合物中に徐々に結晶が析出していき、0℃になったところで15時間保温した。そこに、同温度で、n−ヘプタン7.8gを1時間かけて滴下し、2時間攪拌した後、さらにn−ヘプタン7.8gを1時間かけて滴下し、3.5時間攪拌した。その後、また、さらにn−ヘプタン17.5gを2時間かけて滴下し、14時間攪拌した後、さらに、n−ヘプタン17.5gを2時間かけて滴下し、45分攪拌した。さらにn−ヘプタン17.5gを2時間かけて滴下し、30分攪拌した後、析出した結晶をろ過し、得られた結晶に窒素を通気させることにより乾燥させ、白色結晶として、(1S,2S)−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸6.03g(含量:99.9重量%、晶析収率:81.7%、シス体/トランス体比=99.9/0.1、シス体光学純度=99.8%ee以上)を得た。かかるシス体/トランス体比はガスクロマトグラフ分析にて求めた。
【0123】
実施例18−1:(1S,2S)−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸(展開還元)
実施例17−1で得た(1S,2R)−2−クロロ−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸ナトリウム水溶液77.9g(含量:36.0重量%、純分:28.0g、0.174mol、anti体/syn体比=98.8/1.2、anti体光学純度=98.1%ee)を常温で撹拌しながら、そこに、ニッケル−アルミニウム合金7.35g(ニッケル含量:49.7重量%、アルミ含量:50.2重量%、アルミニウム純分:3.67g、0.136mol)を加え、混合物の内温を10〜20℃に保ちながら、そこに、エチレンジアミン1.05g(0.017mol)と26重量%水酸化ナトリウム水溶液2.68g(0.017mol)を2時間かけて加えた。同温度で1時間撹拌した後、得られた混合物の内温を35〜45℃に保ちながら、そこに、エチレンジアミン10.0g(0.166mol)と26重量%水酸化ナトリウム水溶液26.8g(0.174mol)を16時間かけて加えた。次いで、得られた混合物を、内温40℃で1時間撹拌した後、そこに水17gを加え65℃まで昇温し、得られた混合物を同温度で15分間撹拌した。攪拌後、65±5℃で保温されたろ過器を用いて、該混合物からニッケル−アルミニウム合金由来の触媒をろ別した。ろ過器上に残存した触媒を70℃の温水8.7gを用いて3回洗浄することにより、(1S,2S)−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸ナトリウムを含む溶液137g(含量:14.8重量%、純分:20.3g、収率:92.2%、シス体/トランス体比=97.2/2.8、シス体光学純度=97.8%ee)を得た。かかるシス体/トランス体比は高速液体クロマトグラフ分析にて求めた。
【0124】
実施例18−2:(1S,2S)−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸(晶析処理)
実施例18−1に準じて得た(1S,2S)−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸ナトリウムを含む溶液283g(含量:12.1重量%、純分:34.2g、シス体/トランス体比=97.3/2.7、シス体光学純度=98.0%ee)に、35重量%塩酸97gを加え、そのpHを1以下に調整した。tert−ブチルメチルエーテル102gを3回用いて、得られた混合物を抽出処理し、得られた各有機層を合一した。得られた有機層の全量304gを減圧濃縮し、(1S,2S)−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸を含む混合物67.2g(含量:42.1重量%、純分:28.3g、シス体/トランス体比=96.9/3.1)を得た。該混合物にトルエンを44g加えた後、得られた混合物を減圧濃縮した。さらに、トルエン44gを加えて、再度、減圧濃縮し(1S,2S)−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸を含む混合物45.4g(含量:58.6重量%、純分:26.6g)を得た。
【0125】
かくして得られた(1S,2S)−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸を含む混合物のうち、43.1g(純分:25.3g)にトルエンを加えて全量を50.5gとした。撹拌下、得られた溶液に30℃で(1S,2S)−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸の種晶を加えた。得られた混合物を撹拌しながら28℃で1時間保温した後、毎時5℃ずつ冷却した。冷却中、混合物中に徐々に結晶が析出していき、−5℃になったところで5時間保温した。そこに、同温度で、n−ヘプタン152gを3時間かけて滴下し、1時間撹拌した後、析出した結晶をろ過し、n−ヘプタン38gおよびトルエン6gからなる−5℃の混合溶媒にて洗浄した。得られた結晶に窒素を通気させることにより乾燥させ、白色結晶として、(1S,2S)−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸22.8g(含量:100重量%、晶析収率:90.1%、シス体/トランス体比=100.0/0.0、シス体光学純度=99.4%ee)を得た。かかるシス体/トランス体比はガスクロマトグラフ分析にて求めた。
【0126】
実施例19:(1S,2S)−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸
(1S,2R)−2−クロロ−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸1.11g(含量:93.7重量%、純分:1.04g、7.5mmol、anti体/syn体比=96.1/3.9、anti体光学純度=97.7%ee)を0〜15℃で撹拌しながら、そこに、10重量%水酸化ナトリウム水溶液2.88g(7.2mmol)を加え、(1S,2R)−2−クロロ−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸ナトリウム水溶液を調製した。50mLオートクレーブの内部を0〜10℃にし、そこに、展開済スポンジニッケル(川研ファインケミカル株式会社製、NDHT−90)沈殿物1.2mL(ニッケル純分1.0g相当)、エチレンジアミン1.30g(0.0216mol)と水2.20gを攪拌しながら仕込んだ。得られた混合物の内温を10〜30℃に保ちながら、そこに、先に調製した(1S,2R)−2−クロロ−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸ナトリウム水溶液の全量を滴下した。オートクレーブを密閉し、水素を封入して0.8MPaとした。得られた混合物を35℃まで昇温し、6時間攪拌した。反応終了後、ラヂオライト(登録商標、昭和化学工業株式会社製)を用いて、反応混合物から展開済スポンジニッケル由来の触媒をろ別した。水10g、エタノール10gを順に用い、得られた濾過残渣を洗浄し、得られた洗液と先に得たろ液とを合一した。得られた溶液を減圧濃縮し、その全量を18gとした後、35重量%塩酸を用いて、そのpHを2.0に調整した。tert−ブチルメチルエーテル10gを2回用いて、該溶液を抽出処理し、(1S,2S)−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸を含む有機層20.7g(含量:2.29重量%、純分:0.47g、収率:60.5%、シス体/トランス体比=98.3/1.7、シス体光学純度=97.9%ee)を得た。かかるシス体/トランス体比は高速液体クロマトグラフ分析にて求めた。また、水層を分析したところ、水層中に含まれていた(1S,2S)−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸は、収率に換算して4.1%であった。よって、反応収率は64.6%であった。
【0127】
参考例1:(1R)−2−クロロ−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸エチル
窒素雰囲気下、常温で、260mLオートクレーブに[(R)−N−(5−ニトロサリチリデン)−2−アミノ−1,1−ジ(5−tert−ブチル−2−ブトキシフェニル)−1−プロパノール]銅錯体278mg(0.40mmol)およびジクロロメタン45.6gを仕込み、得られた混合物を攪拌しながら、反応容器を0℃に冷却した。反応容器を密閉し、そこに、1−クロロ−1−フルオロエチレン6.4g(0.080mol)を圧入し、内温を5±2℃とした。内温を5±2℃に保ちながら、そこに製造例3に準じて得たジアゾ酢酸エチル9.60g(含量:95.3重量%、純分:9.13g、0.080mol)をジクロロメタン45.6gに溶解した溶液を5時間かけて
滴下した後、得られた混合物を同温度で1時間攪拌した。復圧後、昇温し、窒素置換をおこなった。得られた反応混合物を0.5モル/Lエチレンジアミン四酢酸水2gで洗浄、分液することにより、(1R)−2−クロロ−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸エチルを含む混合物を得た。収率は8.5%(対 ジアゾ酢酸エチル)、anti体/syn体比=47/53、anti体光学純度=92.7%ee、syn体光学純度=94.7%eeであった。
【0128】
比較例1:(1S,2R)−2−クロロ−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸
リン酸2水素ナトリウム9.6gを水390.4gに溶解した後、28重量%水酸化ナトリウム水を加えてpHを7.0とし、0.2mol/Lリン酸緩衝液400gを調製した。室温下、20mLサンプル管にこのリン酸緩衝液2.5mL、実施例12で得た(1S)−2−クロロ−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸エチル25mg(含量:86.2重量%、純分21.6mg、0.129mmol、anti体/syn体比=58.4/41.6、anti体光学純度=96.3%ee)、加水分解酵素(商品名:プロテアーゼA「アマノ」(天野エンザイム株式会社製、Aspergillus oryzae属))5mgを仕込んだ後、得られた混合物を35℃で21時間攪拌した。反応終了後、反応混合物にtert−ブチルメチルエーテル3gおよび5重量%炭酸水素ナトリウム1.0mLを加え、攪拌後、GLクロマトディスク(ジーエルサイエンス株式会社製)を用いて固形物をろ別した。得られた有機層と水層を分離し、(1S,2R)−2−クロロ−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸エチルを含む有機層Aを得た。また、該水層をtert−ブチルメチルエーテル2gおよび5重量%塩酸0.8mLを用いて抽出処理した。得られた有機層と水層を分離し、(1S,2R)−2−クロロ−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸(収率53.6%、anti体/syn体比=56.5/43.5、anti体光学純度=85.8%ee)を含む有機層Bを得た。
【0129】
比較例2
加水分解酵素として、プロテアーゼP「アマノ」3(天野エンザイム株式会社製、Aspergillus melleus属))を用いた以外は比較例1と同様に実施し、(1S,2R)−2−クロロ−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸(収率12.8%、anti体/syn体比=50.9/49.1、anti体光学純度=81.0%ee)を含む有機層Bを得た。
【0130】
比較例3
加水分解酵素として、プロテアーゼS「アマノ」(天野エンザイム株式会社製、Bacillus stearothermophilus属))を用いた以外は比較例1と同様に実施し、(1S,2R)−2−クロロ−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸(収率58.8%、anti体/syn体比=56.3/43.7、anti体光学純度=56.8%ee以上(検出限界))を含む有機層Bを得た。
【0131】
比較例4
加水分解酵素として、パパインW−40(天野エンザイム株式会社製、Carica papaya属)を用いた以外は比較例1と同様に実施し、(1S,2R)−2−クロロ−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸(収率77.9%、anti体/syn体比=57.8/42.2、anti体光学純度=58.5%ee以上(検出限界))を含む有機層Bを得た。
【0132】
なお、上記比較例において、(1S,2R)−2−クロロ−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸の収率、anti体/syn体比、光学純度は、以下の方法により分析して求めた。
【0133】
<(1S,2R)−2−クロロ−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸>
anti体/syn体比:ガスクロマトグラフ分析
カラム:DB−WAX
0.53mm×30m、膜厚1.0μm
(アジレント・テクノロジー株式会社製)
方法:(1S,2R)−2−クロロ−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸を
トリメチルシリルジアゾメタンでメチルエステルに誘導体化してから分析。
光学純度:ガスクロマトグラフ分析
カラム:InertCap(登録商標) CHIRAMIX
0.25mm×30m、膜厚0.25μm
(ジーエルサイエンス株式会社製)
方法:(1S,2R)−2−クロロ−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸を
トリメチルシリルジアゾメタンでメチルエステルに誘導体化してから分析。
【産業上の利用可能性】
【0134】
(1S,2R)−2−クロロ−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸および(1S,2S)−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸は、医農薬中間体として有用(例えば、特開平2−231475号公報、特開2005−15468号公報参照)であり、本発明は、かかる化合物を工業的に製造する方法として利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バークホルデリア・セパシア(Burkholderia cepacia)由来のエステラーゼを用いて(1S)−2−クロロ−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸エステルを加水分解する(1S,2R)−2−クロロ−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸の製造方法。
【請求項2】
不斉錯体の存在下、1−クロロ−1−フルオロエチレンとジアゾ酢酸エステルとを反応させて(1S)−2−クロロ−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸エステルを得、次いで、バークホルデリア・セパシア(Burkholderia cepacia)由来のエステラーゼを用いて該(1S)−2−クロロ−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸エステルを加水分解する請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
不斉錯体が、銅化合物と光学活性な配位子とを接触させてなる不斉銅錯体である請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
光学活性な配位子が、一般式(1):
【化1】

(式中、Rは炭素数1〜4のアルキル基、置換されていてもよいフェニル基、置換されていてもよいアラルキル基、1−ナフチル基または2−ナフチル基を表わし、RおよびRはそれぞれ同一または相異なって、水素原子または炭素数1〜3のアルキル基を表わす。)
で示される光学活性なビスオキサゾリン化合物である請求項3に記載の製造方法。
【請求項5】
光学活性な配位子が、2,2−ビス[2−[(4S)−tert−ブチルオキサゾリン]]プロパンである請求項3に記載の製造方法。
【請求項6】
バークホルデリア・セパシア(Burkholderia cepacia)由来のエステラーゼが、配列番号1または2で示されるアミノ酸配列を有するエステラーゼである請求項1〜5のいずれかに記載の製造方法。
【請求項7】
バークホルデリア・セパシア(Burkholderia cepacia)由来のエステラーゼが、配列番号1で示されるアミノ酸配列を有するエステラーゼである請求項1〜5のいずれかに記載の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の製造方法により(1S,2R)−2−クロロ−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸を得、次いで、該(1S,2R)−2−クロロ−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸を還元する(1S,2S)−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸の製造方法。
【請求項9】
還元が、(1S,2R)−2−クロロ−2−フルオロシクロプロパンカルボン酸の存在下、ニッケル−アルミニウム合金に塩基を作用させて行われる請求項8に記載の製造方法。

【公開番号】特開2010−35554(P2010−35554A)
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−161114(P2009−161114)
【出願日】平成21年7月7日(2009.7.7)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【出願人】(307010166)第一三共株式会社 (196)
【Fターム(参考)】