説明

(2R)−2−プロピルオクタン酸の製造方法、その中間体

(2R)−2−ヘキシルオキシランを2炭素増炭開環反応に付し、次いで水酸基を保護反応に付し式(I)


(式中、Xは保護されていてもよい水酸基を表す。)で示される化合物へと変換し、さらに1炭素増炭反応に付して(2R)−2−プロピルオクタンアミドへと変換した後再結晶を行ない、これを加水分解する(2R)−2−プロピルオクタン酸の製造方法に関する。本発明の方法によれば、従来法よりも少ない工程数で、危険反応を伴わずに効率的に(2R)−2−プロピルオクタン酸を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、アストロサイトの機能異常による神経変性疾患の予防および治療剤として有用な(2R)−2−プロピルオクタン酸の製造方法、その製造中間体およびその精製方法に関する。
【背景技術】
ラセミ体の2−プロピルオクタン酸は、アストロサイトの機能異常による神経変性疾患の予防および治療剤として知られている(例えば、WO99/58513号参照)。その後の研究の結果、R体の2−プロピルオクタン酸が特に強い活性を示すことが明らかになり、そのためR体を効率よく得る方法について種々検討が行われている。
(2R)−2−プロピルオクタン酸の製造方法としては、例えば、(1)不斉補助基としてカンファースルタムを用いる方法、(2)不斉補助基としてL−プロリノールを用いる方法、(3)ラセミ体の2−(2−プロピニル)オクタン酸を光学分割後、還元する方法が知られている(欧州特許出願公開第1078921号明細書、特開平8−295648号公報、特開平8−291106号公報参照)。
また、(2R)−2−プロピルオクタン酸の製造に用いられる中間体の一つである光学活性な4−アルカノール類の合成方法として光学活性なアルキルオキシランとハロゲン化エチルマグネシウムとを反応させる方法が開示されている(特開平1−275541号公報参照)。
【発明の開示】
(2R)−2−プロピルオクタン酸の製造中間体の従来の製造方法は、工程数が多く、また危険反応を伴うことから、最終目的物の医薬品を工業的に生産する上で効率的な方法であるとは言い難い。
したがって、本発明の課題は、従来よりも少ない工程数で、危険反応を伴わずに、効率的に(2R)−2−プロピルオクタン酸を得ることのできる工業生産に適した製造方法を提供することにある。
本発明者らは、鋭意研究を行った結果、(2R)−2−ヘキシルオキシランから、3工程で、結晶性がよく精製性に優れた(2R)−2−プロピルオクタンアミドを経由することにより、高い光学純度(99%ee以上)の(2R)−2−プロピルオクタン酸を得ることに成功し、本発明を完成した。
また、本発明の(2R)−2−プロピルオクタン酸の製造方法に有用な中間体化合物である(2R)−2−プロピルオクタンアミド、(1S)−1−プロピルヘプチル p−トルエンスルホナートおよび(1S)−1−プロピルヘプチル 4−メタンスルホナートは新規化合物である。
すなわち、本発明は、
1.(2R)−2−ヘキシルオキシランを2炭素増炭開環反応に付し、次いで水酸基を保護反応に付すことにより式(I)

(式中、Xは保護されていてもよい水酸基を表す。)で示される化合物へと変換し、さらにこれを1炭素増炭反応に付して(2R)−2−プロピルオクタンアミドへと変換後、再結晶を行ない、さらにこれを加水分解することを特徴とする(2R)−2−プロピルオクタン酸の製造方法、
2.(2R)−2−プロピルオクタンアミドを加水分解することを特徴とする(2R)−2−プロピルオクタン酸の製造方法、
3.式(I)

(式中、Xは前記1と同じ意味を表す。)で示される化合物を1炭素増炭反応に付すことを特徴とする(2R)−2−プロピルオクタンアミドの製造方法、
4.(2R)−2−プロピルオクタンアミド、
5.実質的に純粋な(2R)−2−プロピルオクタンアミド、
6.式(I)

(式中、Xは保護されていてもよい水酸基を表す。)で示される化合物、
7.Xがp−トルエンスルホニルオキシ基またはメタンスルホニルオキシ基である前記6記載の化合物、
8.(2S)−2−プロピルオクタンアミドを加水分解することを特徴とする(2S)−2−プロピルオクタン酸の製造方法、
9.式(II)

(式中、Xは保護されていてもよい水酸基を表す)で示される化合物を1炭素増炭反応に付すことを特徴とする(2S)−2−プロピルオクタンアミドの製造方法、
10.(2S)−2−ヘキシルオキシランを2炭素増炭開環反応に付し、次いで水酸基を保護反応に付すことにより式(II)で示される化合物へと変換し、さらにこれを1炭素増炭反応に付して(2S)−2−プロピルオクタンアミドへと変換後、再結晶を行ない、さらにこれを加水分解することを特徴とする(2S)−2−プロピルオクタン酸の製造方法、
11.(2S)−2−プロピルオクタンアミド、
12.実質的に純粋な(2S)−2−プロピルオクタンアミド、
13.式(II)

(式中、Xは保護されていてもよい水酸基を表す)で示される化合物、
14.Xがp−トルエンスルホニルオキシ基またはメタンスルホニルオキシ基である前記13記載の化合物、および
15.それらの製造方法等に関する。
本明細書中、「高純度」とは化学的純度と光学純度が共に高いことを表わす。
本明細書中、「実質的に純粋な」とは、化学的純度が95%以上で、かつ光学純度が95%ee以上であることを表わす。
本発明の製造方法で使用する式(I)の化合物中、Xで示される「保護されていてもよい水酸基」とは、「脱離能を有する保護基で保護された水酸基」を意味する。「脱離能を有する保護基で保護された水酸基」としては、例えば、メタンスルホニルオキシ基、p−トルエンスルホニルオキシ基、クロロメタンスルホニルオキシ基、トリクロロメタンスルホニルオキシ基、トリフルオロメタンスルホニルオキシ基、ジフェニルホスホノキシ基、ジエチルホスホノキシ基、トリフルオロメチルオキシ基、ベンゼンスルホニルオキシ基、ナフタレンスルホニルオキシ基、p−ブロモベンゼンスルホニルオキシ基、p−ニトロベンゼンスルホニルオキシ基、m−ニトロベンゼンスルホニルオキシ基、o−ニトロベンゼンスルホニルオキシ基等が挙げられ、好ましくは、メタンスルホニルオキシ基、p−トルエンスルホニルオキシ基、クロロメタンスルホニルオキシ基、トリクロロメタンスルホニルオキシ基、トリフルオロメタンスルホニルオキシ基、ベンゼンスルホニルオキシ基であり、より好ましくは、メタンスルホニルオキシ基またはp−トルエンスルホニルオキシ基である。
本発明の方法は、下記の反応工程式(A)〜(C)に従って行われる。工程(A)は(2R)−2−ヘキシルオキシランを2炭素増炭開環反応に付し、次いで水酸基を保護反応に付すことによる式(I)で示される化合物への変換反応であり、工程(B)は、式(I)で示される化合物を1炭素増炭反応に付し、次いでこれを加水分解することによる(2R)−2−プロピルオクタンアミドへの変換反応であり、工程(C)は、(2R)−2−プロピルオクタンアミドを加水分解し、(2R)−2−プロピルオクタン酸を得る反応である。

以下、各工程について詳述する。
工程(A):
(2R)−2−ヘキシルオキシランから式(I)で示される化合物への変換反応は、(2R)−2−ヘキシルオキシランを2炭素増炭開環反応に付し、次いで水酸基を保護反応に付すことにより行われる。
この2炭素増炭開環反応は公知であり、例えば、有機溶媒(例えば、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、ジエチルエーテル、シクロペンチルメチルエーテル、2−メトキシエチルエーテル、ベンゼン、トルエン、ジメトキシエタン、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン、ジクロロメタン、クロロホルム、ジクロロエタン、ヘキサメチルホスホラミド、ジメチルイミダゾリジノン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、ジメチルスルホキシド、1,3−ジメチル−3,4,5,6−テトラヒドロ−2−ピリミジノン、またはこれらの2種以上の任意の比率の混合溶媒等)中、金属触媒(例えば、シアン化銅、塩化銅、ヨウ化銅、臭化銅、塩化リチウム、三フッ化ホウ素・ジエチルエーテル錯体、塩化チタン等)の存在下または非存在下にエチル基を有する有機金属試薬(例えば、塩化エチルマグネシウム、臭化エチルマグネシウム、ジエチルマグネシウム、エチルリチウム、二塩化エチルアルミニウム、塩化ジエチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、エチルトリメチルシラン、トリエチルマンガンリチウム、塩化エチル亜鉛、ジエチル亜鉛、テトラエチルスズ、塩化トリエチルスズ、臭化トリエチルスズ、二塩化ジエチルスズ、二臭化ジエチルスズ、三塩化エチルスズ、トリエチルボラン、またはこれらと上記の金属触媒を任意の割合で混合した試薬等)を−78〜20℃で反応させることにより行われる。
水酸基の保護反応は公知であり、例えば、有機溶媒(例えば、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、ジエチルエーテル、シクロペンチルメチルエーテル、2−メトキシエチルエーテル、ベンゼン、トルエン、ジメトキシエタン、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン、ジクロロメタン、クロロホルム、ジクロロエタン、ヘキサメチルホスホラミド、ジメチルイミダゾリジノン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、ジメチルスルホキシド、1,3−ジメチル−3,4,5,6−テトラヒドロ−2−ピリミジノン、またはこれらの任意の比率の混合溶媒等)を用いるかもしくは無溶媒中で、塩基[アルキルアミン(例えば、トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、トリブチルアミン等)、芳香族アミン(例えば、N,N−ジメチルアニリン、ピリジン、4−ジメチルアミノピリジン、ルチジン、コリジン等)、またはこれらのアミンの混合物等、またはアルカリ金属の水素化物(例えば、水素化ナトリウム、水素化カリウム等)]の存在下もしくは非存在下、スルホニルクロリド(例えば、メタンスルホニルクロリド、p−トルエンスルホニルクロリド、クロロメタンスルホニルクロリド、トリクロロメタンスルホニルクロリド、トリフルオロメタンスルホニルクロリド、ベンゼンスルホニルクロリド、ナフタレンスルホニルクロリド、p−ブロモベンゼンスルホニルクロリド、p−ニトロベンゼンスルホニルクロリド、m−ニトロベンゼンスルホニルクロリド、o−ニトロベンゼンスルホニルクロリド等)、ホスホリルクロリド(例えば、ジフェニルホスホリルクロリド、ジエチルホスホリルクロリド等)または、酸無水物(例えば、トリフルオロ酢酸無水物等)を加え、−78〜50℃で反応させることにより行われる。
工程(A)の(2R)−2−ヘキシルオキシランを2炭素増炭開環反応に付し、次いで水酸基を保護反応に付す式(I)で示される化合物への変換反応は、中間体として生成する(4S)−デカン−4−オールを単離せずに反応系内で水酸基を保護反応に付す1段階(ワンポット)で行ってもよいし、中間体を単離し水酸基を保護反応に付す2段階で行ってもよいが、1段階(ワンポット)で行うことが好ましい。
工程(A)をワンポットで行う方法は、(2R)−2−ヘキシルオキシランを2炭素増炭開環反応に付した後、生成する(4S)−デカン−4−オールを単離せずに水酸基の保護反応に付すことにより行われる。すなわち、(2R)−2−ヘキシルオキシランに有機溶媒中、金属触媒の存在下または非存在下にエチル基を有する有機金属試薬を−78〜20℃で反応させ、続いてこの反応系内で水酸基の保護反応を行う。水酸基の保護反応は反応混合物に塩基の存在下もしくは非存在下、スルホニルクロリド、ホスホリルクロリドまたは酸無水物を加え、−78〜50℃で反応させることにより行われる。
工程(A)の(2R)−2−ヘキシルオキシランを2炭素増炭開環反応による(4S)−デカン−4−オールへの変換反応では、有機溶媒としてテトラヒドロフランを用いることが好ましい。また、金属触媒である塩化銅と共に有機金属試薬として塩化エチルマグネシウムを用いることが好ましい。
式(I)で示される化合物としては、(1S)−1−プロピルヘプチル p−トルエンスルホナートおよび(1S)−1−プロピルヘプチル メタンスルホナートが好ましい。
工程(A)で、(4S)−デカン−4−オールから式(I)中のXがp−トルエンスルホニルオキシ基を表す(1S)−1−プロピルヘプチル p−トルエンスルホナートへの変換反応では、有機溶媒を用いずに(無溶媒で)、スルホニルクロリドとしてp−トルエンスルホニルクロリドを用い、塩基としてピリジンを用いることが好ましい。
工程(A)で、(4S)−デカン−4−オールから式(I)中のXがメタンスルホニルオキシ基を表す(1S)−1−プロピルヘプチル メタンスルホナートへの変換反応では、有機溶媒としてテトラヒドロフラン、スルホニルクロリドとしてメタンスルホニルクロリドを用い、塩基としてトリエチルアミンと4−ジメチルアミノピリジンを併用することが好ましい。
工程(B):
工程(A)で得られた式(I)で示される化合物から(2R)−2−プロピルオクタンアミドへの変換反応は、式(I)で示される化合物を1炭素増炭反応に付し、次いでこれを加水分解することにより行われる。
1炭素増炭反応としては、例えばシアン化反応が挙げられる。シアン化反応は公知であり、例えば、有機溶媒(例えば、テトラヒドロフラン、2−メトキシエチルエーテル、ジメトキシエタン、アセトニトリル、1,4−ジオキサン、アセトン、ヘキサメチルホスホラミド、ジメチルイミダゾリジノン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、ジメチルスルホキシド、1,3−ジメチル−3,4,5,6−テトラヒドロ−2−ピリミジノン、またはそれらの任意の比率の混合溶媒等)中、シアン化試薬(例えば、シアン化カリウム、シアン化ナトリウム、シアン化リチウム、シアン化カルシウム、シアン化トリメチルシリル、シアン化ジエチルアルミニウム、t−ブチルシアニド、アセトンシアノヒドリン等)と20〜80℃にて反応させることにより行われる。
加水分解反応も公知であり、例えば、有機溶媒(例えば、テトラヒドロフラン、2−メトキシエチルエーテル、ジメトキシエタン、アセトニトリル、1,4−ジオキサン、アセトン、ヘキサメチルホスホラミド、ジメチルイミダゾリジノン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、ジメチルスルホキシド、1,3−ジメチル−3,4,5,6−テトラヒドロ−2−ピリミジノン、またはそれらの任意の比率の混合溶媒等)中または無溶媒で、過酸(例えば、過酸化水素、t−ブチルヒドロペルオキシド、過安息香酸、m−クロロ過安息香酸等またはそれらの水溶液等)を、0〜50℃で反応させることにより行われる。
工程(B)で示される式(I)の化合物を1炭素増炭反応に付し(2R)−2−プロピルオクタンニトリルとし、さらにこれを加水分解して(2R)−2−プロピルヘプタンアミドへ変換する反応は、中間体として生成する(2R)−2−プロピルオクタンニトリルを単離せずに反応系内で加水分解反応に付す1段階(ワンポット)で行ってもよいし、中間体を単離し加水分解反応に付す2段階で行ってもよいが、1段階(ワンポット)法が好ましい。
上記の工程(B)をワンポットで行う方法は、式(I)で示される化合物をシアン化反応に付した後、生成する(2R)−2−プロピルオクタンニトリルを単離せずに加水分解反応に付すことにより行われる。すなわち、式(I)で示される化合物を有機溶媒中、シアン化試薬と20〜80℃にて反応させ、続いて反応系内に過酸を加えて、0〜50℃の温度で加水分解反応を行う。
工程(B)において、(1S)−1−プロピルヘプチル p−トルエンスルホナートを1炭素増炭反応に付し(2R)−2−プロピルオクタンニトリルへと変換するシアン化反応では、有機溶媒としてジメチルスルホキシド、シアン化試薬としてシアン化ナトリウムを用いることが好ましい。
工程(B)において、(1S)−1−プロピルヘプチル メタンスルホナートを1炭素増炭反応に付し(2R)−2−プロピルオクタンニトリルへと変換するシアン化反応では、有機溶媒としてジメチルスルホキシド、シアン化試薬としてシアン化リチウムを用いることが好ましい。
工程(B)において、(2R)−2−プロピルオクタンニトリルを加水分解し、(2R)−2−プロピルオクタンアミドへと変換する反応では、有機溶媒としてジメチルスルホキシド、過酸として35%過酸化水素水を用いることが好ましい。
工程(B)の変換反応の際、高純度の(2R)−2−プロピルオクタンアミドを得るために必要であれば、再結晶を行ない精製することができる。再結晶溶媒としては、例えば、水、エタノール、メタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、アセトニトリル、アセトン、ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、トルエン、n−ヘプタン、炭酸ジエチル、t−ブチルメチルエーテル、酢酸またはこれらの2種以上の任意の比率の混合溶媒等が挙げられるが、好ましくは、水−アセトニトリルの混合溶媒である。
工程(C):
(2R)−2−プロピルオクタンアミドから(2R)−2−プロピルオクタン酸への変換反応は、(2R)−2−プロピルオクタンアミドを加水分解反応に付すことにより行われる。この加水分解反応は公知であり、例えば、酸[鉱酸(例えば、塩酸、硫酸、臭化水素酸、硝酸、リン酸、またはこれらの混合物等)、有機酸(例えば、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、トリフルオロ酢酸、トリクロロ酢酸、メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、カンファースルホン酸、シュウ酸、クエン酸またはこれらの混合物等)、またはこれらの混合物等、またはこれらの水溶液等]を用いて20〜160℃にて反応させて得られる。
工程(C)の(2R)−2−プロピルオクタンアミドを加水分解し、(2R)−2−プロピルオクタン酸への変換反応では、酸として6mol/L塩酸と酢酸の混合物を用いることが好ましい。
その他、上記の反応工程式において、例えば、工程(A)中、有機金属試薬として不飽和有機金属試薬(例えば、塩化ビニルマグネシウム、臭化ビニルマグネシウム、塩化エチニルマグネシウム、臭化エチニルマグネシウム等)を用いて2炭素増炭反応に付し、生成した(4R)−1−デセン−4−オールまたは(4R)−1−デシン−4−オールを工程(B)および工程(C)の反応に付し、得られた(2R)−(2−プロペニル)オクタン酸または(2R)−(2−プロピニル)オクタン酸をWO99/58513号またはWO00/48982号に記載の方法により還元し、高純度の(2R)−2−プロピルオクタン酸を得ることもできる。
また、当業者にとって明らかなように、本発明において、(2R)−2−ヘキシルオキシランの代わりに(2S)−2−ヘキシルオキシランを出発原料として用いることにより、高純度の(2S)−2−プロピルオクタン酸を製造することもできる。
本発明で得られる中間体および生成物は、公知の単離精製手段、例えば濃縮、減圧濃縮、蒸留、減圧蒸留、溶媒抽出、晶出、再結晶、転溶、クロマトグラフィーなどにより、単離精製することができる。
本発明においては、特に断わらない限り、当業者にとって明らかなように、

表す。
【発明の効果】
本発明は、アストロサイトの機能異常による神経変性疾患の予防および/または治療用医薬品として有用な、光学純度の高い(2R)−2−プロピルオクタン酸を、(2R)−2−ヘキシルオキシランから、結晶性の(2R)−2−プロピルオクタンアミドを経由し、加水分解することにより得る方法を提供したものである。本発明の方法は、従来法に比べて少ない工程数で、危険反応を伴わずに、効率的に(2R)−2−プロピルオクタン酸を得ることのできる工業的生産に適した方法である。
【発明を実施するための最良の形態】
以下に実施例を挙げて本発明を詳述するが、本発明はこれらに限定されるものではない。以下に示す実施例においてNMRの測定溶媒は、すべて重クロロホルムである。
クロマトグラフィーによる分離の箇所およびTLCに示されるカッコ内の溶媒は、使用した溶出溶媒または展開溶媒を示し、割合は体積比を表す。
実施例1:(1S)−1−プロピルヘプチル p−トルエンスルホナートの製造

アルゴン雰囲気下、塩化銅(15.8mg)のテトラヒドロフラン(2.21mL)溶液に、−20℃で(2R)−2−ヘキシルオキシラン(1.22mL,100%ee)を滴下した後、2.11mol/L塩化エチルマグネシウムのテトラヒドロフラン溶液(4.55mL)を滴下した。反応混合物を−20℃で1.5時間撹拌後、p−トルエンスルホニルクロリド(1.83g)のテトラヒドロフラン溶液を滴下し、さらに1.5時間撹拌した。その後、0℃まで昇温し3.5時間撹拌した。反応混合物に水およびピリジンを加え0℃で40分撹拌後、酢酸エチルを加え、10%硫酸(×2回)、水および飽和食塩水で順次洗浄し、濃縮することにより、下記の物性値を有する標題化合物(2.27g)を得た。
TLC:Rf 0.30(ヘキサン:酢酸エチル=10:1);
NMR:δ 0.82−0.87(m,6H),1.10−1.35(m,10H),1.49−1.64(m,4H),2.44(s,3H),4.57(m,1H),7.32(d,2H,J=8.4Hz),7.79(d,2H,J=8.4Hz)。
実施例2:(2R)−2−プロピルオクタンアミドの製造

アルゴン雰囲気下、実施例1で製造した化合物(1.5g)のジメチルスルホキシド(9.6mL)溶液にシアン化ナトリウム(470mg)を加え、40℃で10時間撹拌した。反応混合物を水浴で冷却した後に、35%過酸化水素水(0.42mL)を滴下し、次いで炭酸カリウム(78.8mg)を加えた後、40℃で撹拌した。40℃にて撹拌開始後、1.5時間後と6時間後にさらに35%過酸化水素水(0.42mL)を滴下し、40℃で撹拌した。続いて0℃で飽和亜硫酸ナトリウム水溶液および水を加え、結晶を析出させた。結晶をろ取し、水およびアセトニトリル:水=1:1の混合溶媒で順次洗浄し、下記の物性値を有する標題化合物を得た(352mg)。
TLC:Rf 0.24(ヘキサン:酢酸エチル=1:1);
NMR:δ 0.84−0.94(m,6H),1.26−1.64(m,14H),2.04−2.15(m,1H),5.42(bs,1H),5.59(bs,1H);
光学純度:99.5%ee(HPLCにより確認、(2R)−2−ヘキシルオキシランより)。
実施例3:(2R)−2−プロピルオクタンニトリルの製造

アルゴン雰囲気下、実施例1で製造した化合物(2.44g,100%eeの(4S)−デカン−4−オールより調製)のジメチルスルホキシド(14mL)溶液にシアン化ナトリウム(688mg)を加え、40℃で10時間撹拌した。反応液にヘプタン:酢酸エチル=1:9の混合溶媒を加え、水および飽和食塩水で順次洗浄し、濃縮し、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=50:1)で精製することにより、下記の物性値を有する標題化合物(815mg)を得た。
TLC:Rf 0.54(ヘキサン:酢酸エチル=10:1);
NMR:δ 0.89(t,3H,J=6.8Hz),0.96(t,3H,J=7.0Hz),1.12−1.70(m,14H),2.50(m,1H);
光学純度:98.5%ee(HPLCにより確認)。
実施例4:(2R)−2−プロピルオクタンアミドの製造

実施例3で製造した化合物(156mg,98.5%ee)のジメチルスルホキシド(1.95mL)溶液を水浴で冷却し、35%過酸化水素水(0.23mL)を滴下した後、炭酸カリウム(25.7mg)を加えた。反応混合物を40℃で3時間撹拌した後、0℃で飽和亜硫酸ナトリウム水溶液(1mL)および水(2mL)を加え結晶を析出させた。結晶をろ取し、ヘプタンおよび水で洗浄し、標題化合物(172mg)を得た。
光学純度:98.9%ee(HPLCにより確認)。
実施例5:(2R)−2−プロピルオクタンアミドの再結晶

光学純度が96.0%eeである実施例4で製造した化合物(500mg)をアセトニトリル(4.5mL)および水(5.5mL)に加熱溶解させ、放冷し、析出した結晶を濾取した。水で結晶を洗浄し、標題化合物(430mg)を得た。
光学純度:99.5%ee(HPLCにより確認)。
実施例6:(2R)−2−プロピルオクタン酸の製造

実施例2または5で製造した化合物(70mg,99.5%ee)に酢酸(0.35mL)および6mol/L塩酸(0.35mL)を加えた後、130℃で10時間撹拌した。反応混合物を放冷し、ヘプタンを加え、飽和食塩水で洗浄し、濃縮した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=2:1)で精製することにより、下記の物性値を有する標題化合物(52.4mg)を得た。
TLC:Rf 0.54(ヘキサン:酢酸エチル=7:3);
NMR:δ 0.86−0.93(m,6H),1.25−1.50(m,12H),1.57−1.67(m,2H),2.36(m,1H);
光学純度:99.2%ee(フェナシルエステルへと誘導し、HPLCにより光学純度確認)。
実施例7:(2S)−2−プロピルオクタン酸の製造
(2R)−2−ヘキシルオキシランの代わりに(2S)−2−ヘキシルオキシランを用いて実施例1→実施例2→実施例6と同様の操作を行ない、以下の物性値を有する本発明化合物を得た。
TLC:Rf 0.54(ヘキサン:酢酸エチル=7:3);
NMR:δ 0.86−0.93(m,6H),1.25−1.50(m,12H),1.57−1.67(m,2H),2.36(m,1H);
旋光度:[α]+5.19(c=2.70,クロロホルム)。
【産業上の利用可能性】
本発明は、(2R)−2−ヘキシルオキシランから、結晶性の(2R)−2−プロピルオクタンアミドを経由し、加水分解することにより、アストロサイトの機能異常による神経変性疾患の予防および/または治療用医薬品として有用な(2R)−2−プロピルオクタン酸を高い光学純度で得る方法を提供したものである。本発明の製造方法は、従来法よりも少ない工程数で、危険反応を伴わずに効率的に(2R)−2−プロピルオクタン酸を得ることのできる工業生産に適した方法である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(2R)−2−ヘキシルオキシランを2炭素増炭開環反応に付し、次いで水酸基を保護反応に付すことにより式(I)

(式中、Xは保護されていてもよい水酸基を表す。)で示される化合物へと変換し、さらにこれを1炭素増炭反応に付して(2R)−2−プロピルオクタンアミドへと変換後、再結晶を行ない、さらにこれを加水分解することを特徴とする(2R)−2−プロピルオクタン酸の製造方法。
【請求項2】
(2R)−2−プロピルオクタンアミドを加水分解することを特徴とする(2R)−2−プロピルオクタン酸の製造方法。
【請求項3】
式(I)

(式中、Xは請求の範囲1と同じ意味を表す。)で示される化合物を1炭素増炭反応に付すことを特徴とする(2R)−2−プロピルオクタンアミドの製造方法。
【請求項4】
(2R)−2−プロピルオクタンアミド。
【請求項5】
実質的に純粋な(2R)−2−プロピルオクタンアミド。
【請求項6】
式(I)

(式中、Xは保護されていてもよい水酸基を表す。)で示される化合物。
【請求項7】
Xがp−トルエンスルホニルオキシ基またはメタンスルホニルオキシ基である請求の範囲6記載の化合物。

【国際公開番号】WO2004/110972
【国際公開日】平成16年12月23日(2004.12.23)
【発行日】平成18年7月20日(2006.7.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−506969(P2005−506969)
【国際出願番号】PCT/JP2004/008387
【国際出願日】平成16年6月9日(2004.6.9)
【出願人】(000185983)小野薬品工業株式会社 (180)
【Fターム(参考)】