説明

(Pb,B)系銅酸化物高温超伝導体及びその作製方法

【課題】 Bを含むブロッキングユニットからなる、新規なPb系銅酸化物超伝導体とその製造方法を提供する。
【解決手段】 (Pb,M)ブロッキングユニット2のMサイトの全てが、B(3+)、BO3 3-、又はその両方で占有された(Pb,B)(1201)構造を有しており、組成比がPb0.5 0.5 となるようにPb原料の一部をB原料で置き換えて混合し、焼成することで(Pb,B)系銅酸化物高温超伝導体を作製する。(Pb,B)系銅酸化物高温超伝導体は、組成式:(Pb0.5 0.5 )(Sr0.5 La0.5 2 CuOz ,z=5+δ(但し、δは1未満の微少量)、又は組成式:(Pb0.5 0.5 )(Sr1-x Bax 2 (Y1-y Cay )Cu2 z ,0<x<1,0<y<1,z=7+δ(但し、δは1未満の微少量)、
で表される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、Pb(鉛)系銅酸化物高温超伝導体において、そのブロッキングユニットにB(ボロン)を含む、新規な(Pb,B)系銅酸化物高温超伝導体及びその作製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
これまでに多くの銅酸化物高温超伝導体が発見されてきたが、銅酸化物高温超伝導体の構造は、ブロッキング型ユニット、ペロブスカイト型ユニット及び岩塩型又はフルオロライト型ユニットが積層されてなるという共通性があり、銅酸化物高温超伝導体の超伝導特性の違いは、これらのユニットを構成する元素や構造の違いによってもたらされている。従来よりもさらに優れた超伝導特性を有する銅酸化物高温超伝導体を創製するためには、新たなブロッキング型ユニットを発見することも一つの方法である。新たなブロッキング型ユニットが発見されれば、新たなブロッキング型ユニットの新たな特性に基づいてペロブスカイト型ユニット及び/又は岩塩型又はフルオロライト型ユニットを最適化することによって、高い超伝導特性を実現できる可能性が生まれる。
Pb系銅酸化物超伝導体は、組成式(Pb,M)(Sr,Ba)2 (Y,Ca)n-1 Cun z 、但し、n=1,2及び3、Mは金属、で表され、ブロッキングユニット(Pb,M)の金属Mとしては、Cu、Cd及びZnが従来知られている(非特許文献1〜4参照)。
【非特許文献1】S.Adachi et al.,“Superconductivity in “1201”Lead Cuprate” Jpn.J.Appl.Phys,Vol.29,No.6(1990)L690−L692
【非特許文献2】H.Sasakura et al.,“Preparation of Superconducting 1201 Phase in the(Pb1-y Cuy )Sr2-x Lax CuOz System” Jpn.J.Appl.Phys,Vol.29,No.9(1990)L1628−L1631
【非特許文献3】T.P.Beals et al.,“Synthesis and properties of a series of layered copperoxide superconductors with a (Pb0.5 Cd0.5 )rock−salt dopant layer” Physica C 205(1993)383−396
【非特許文献4】S.Adach et al.,“Study on annealing treatment and Sr/Ca ratio for Pb−Sr−Y−Ca−O ceramics with 1212 Structure” Jpn.J.Appl.Phys,Vol.30,No.4B(1991)L690−L693
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記に説明したように、従来よりもさらに優れた超伝導特性を有する銅酸化物高温超伝導体を創製するためには、まず、新たなブロッキング型ユニットを有する銅酸化物系超伝導体を発見することが課題である。
上記課題を解決するために本発明者は、B(ボロン)を含むブロッキングユニットからなる、新規のPb系銅酸化物超伝導体を発見し、本発明に至った。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記目的を達成するため、本発明の(Pb,B)系銅酸化物高温超伝導体は、Pb系銅酸化物高温超伝導体において、ブロッキングユニットがB(ボロン)を含むことを特徴とする。この構成によれば、B、ホウ酸基(BO3 3-)、又は、Bとホウ酸基(BO3 3-)の両方がブロッキングユニットのMサイトに安定に存在しブロッキングユニットを構成する。
【0005】
(Pb,B)系銅酸化物高温超伝導体の好ましい一例は、組成式が、(Pb0.5 0.5 )(Sr0.5 La0.5 2 CuOz 、但し、z=5+δ(但し、δは1未満の微少量)、で表される(Pb,B)系銅酸化物高温超伝導体である。
また、(Pb,B)系銅酸化物高温超伝導体の好ましい他の一例は、組成式が、(Pb0.5 0.5 )(Sr1-x Bax 2 (Y1-y Cay )Cu2 z 、但し、0<x<1,0<y<1,z=7+δ(但し、δは1未満の微少量)、で表される(Pb,B)系銅酸化物高温超伝導体である。
【0006】
本発明の(Pb,B)系銅酸化物高温超伝導体の作製方法は、組成式が表すモル比で原料を混合し焼成するPb系銅酸化物高温超伝導体の作製方法において、組成比がPb0.5 0.5 となるようにPb原料の一部をB原料で置き換えて混合し、焼成して作製することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明の(Pb,B)系銅酸化物高温超伝導体は、従来のPb系銅酸化物高温超伝導体と同等か又はそれ以上の超伝導転移温度を有する。また、製造方法が極めて容易であるので、低コストで製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明を実施するための最良の形態を実施例に基づいて詳細に説明する。
下記の説明において、銅酸化物系高温超電導体の構造を表す構造式として、ブロッキングユニットを構成する主要元素A、ブロッキングユニットのユニット数n1 、SrやBa等のアルカリ土類金属ユニットのユニット数n2 、CaやY等の酸素欠損ユニットのユニット数n3 及びCuO2 ユニットのユニット数n4 である場合に、A(n1 2 3 4 )なる記号を用いて銅酸化物系高温超電導体の構造を表す。
【実施例1】
【0009】
この実施例は、組成式(Pb0.5 0.5 )(Sr0.5 La0.5 2 CuOz 、但し、z=5+δ(但し、δは1未満の微少量)、で表される本発明の(Pb,B)系銅酸化物高温超伝導体、即ち、(Pb,B)(1201)銅酸化物高温超伝導体の例である。
初めに試料の作製方法を説明する。
粉末原料のPbO、Sr2 CuO3 、La2 3 、CuO、B2 3 を、(Pb1-w w )(Sr1-x Lax 2 Cu2 z の組成になるように秤量して混合し、混合後、円盤状(14φ、厚さ約1.5mm)にプレスし、プレス後、空気中800℃、約17時間の1次焼成を行い、1次焼成後、粉砕、混合、円盤状にプレスし、プレス後、酸素中890〜910℃、約17時間の2次焼成を行い、2次焼成後、空気中で2.5 ℃/minで徐冷して作製した。w、xの異なる試料を作製し、X線回折法により、1201相の単相になる組成を決定した。
【0010】
図1は組成式(Pb0.5 0.5 )(Sr0.5 La0.5 2 CuOz で表される本発明の(Pb,B)系銅酸化物高温超伝導体の粉末X線回折測定結果を示すグラフである。図のピークに付した数字は回折角2θに対応する(Pb,M)(1201)構造の面指数である。図に示すように、これらの回折ピークはほとんど全て、(Pb,M)(1201)構造に基づく回折ピークであるので、作製した試料はほぼ(Pb,M)ブロッキングユニットのMサイトの全てが、B(3+)、BO3 3-、又はBとBO3 3-の両方で占有された(Pb,B)(1201)単相から成っていることがわかる。Bの組成比w=0.5、Laの組成比x=0.5の場合に単相構造が実現できた。
【0011】
図2は、図1のX線回折測定結果から推定される組成式(Pb0.5 0.5 )(Sr0.5 La0.5 2 CuOz で表される本発明の(Pb,B)系銅酸化物高温超伝導体の構造を示す図である。図に示すように、本発明の(Pb,B)系銅酸化物高温超伝導体1は、(Pb,M)ブロッキングユニット2のMサイトが全てが、B(3+)、BO3 3-、又はBとBO3 3-の両方で占有された(Pb,B)(1201)構造を有している。
【0012】
図3は、組成式(Pb0.5 0.5 )(Sr0.5 La0.5 2 CuOz で表される本発明の(Pb,B)系銅酸化物高温超伝導体の超伝導特性を示すもので、(a)は比抵抗の温度依存性を、(b)は磁化率の温度依存性を示す。なお、図3(a)に於ける挿入図は、超伝導転移温度を見やすくするため温度軸を拡大して表示したものである。図3(a)、(b)から、この超伝導体の超伝導転移温度Tcは約33Kであり、従来の組成式(Pb0.5 Cu0.5 )(Sr0.5 La0.5 2 CuOz で表されるPb系銅酸化物超伝導体の超伝導転移温度と同等であることがわかる。なお、比抵抗のたち下がり温度を超伝導転移温度とした。
【実施例2】
【0013】
次に、組成式(Pb0.5 0.5 )(Sr1-x Bax 2 (Y1-y Cay )Cu2 z で表される(Pb,B)系銅酸化物高温超伝導体、即ち、(Pb,B)(1212)銅酸化物高温超伝導体の実施例を説明する。
初めに試料の作製方法を説明する。
粉末原料のPbO、Sr2 CuO3 、BaO、Y2 3 、CaO、CuO及びB2 3 を、(Pb1-w w )(Sr1-x Bax 2 (Y1-x Cax )Cu2 z の組成になるように秤量して混合し、混合後、円盤状(14φ、厚さ約1.5mm)にプレスし、プレス後、空気中880℃、約17時間の1次焼成を行い、1次焼成後、粉砕、混合、円盤状にプレスし、プレス後、酸素中950℃、約17時間の2次焼成を行い、2次焼成後、酸素中400℃で5時間アニールし、アニール後、空気中で0.5℃/minで徐冷して作製した。Bの組成比wが異なる試料を作製し、X線回折法により、1212相の単相になる組成を決定した。
【0014】
図4は、組成式(Pb0.5 0.5 )(Sr1-x Bax 2 (Y1-y Cay )Cu2 z で表される本発明の(Pb,B)系銅酸化物高温超伝導体の2θ/θ粉末X線回折測定結果を示すグラフである。図のピークに付した数字は回折角2θに対応する(Pb,M)(1212)構造の面指数である。
図に示すように、これらの回折ピークは全て、Pb(1212)構造に基づく回折ピークであるので、作製した試料は(Pb,M)ブロッキングユニットのMサイトの全てが、B(3+)、BO3 3-又はBとBO3 3-の両方で占有された(Pb,B)(1212)のほぼ単相から成っていることがわかる。Bの組成比w=0.5の場合に試料がほぼ単相となることがわかった。
【0015】
図5は、図4のX線回折測定結果から推定される組成式(Pb0.5 0.5 )(Sr1-x Bax 2 (Y1-y Cay )Cu2 z で表される本発明の(Pb,B)系銅酸化物高温超伝導体の構造を示す図である。図に示すように、本発明の(Pb,B)系銅酸化物高温超伝導体10は、(Pb,M)ブロッキングユニット11のMサイトが全て、B(3+)、BO3 3-、又はBとBO3 3-の両方で占有された(Pb,B)(1212)構造を有している。
【0016】
図6は組成式(Pb0.5 0.5 )(Sr1.5 Ba0.5 )(Y0.4 Ca0.6 )Cu2 z で表される本発明の(Pb,B)系銅酸化物高温超伝導体の超伝導特性を示す図である。図に於ける挿入図は、超伝導転移温度を見やすくするため温度軸を拡大して表示したものである。図6から、この超伝導体の超伝導転移温度Tcは約50Kであり、組成式(Pb0.5 Cu0.5 )(Sr,Ba)2 (Y,Ca)Cu2 z で表される従来のM=CuのPb系銅酸化物超伝導体の超伝導転移温度と同等であることがわかる。
【0017】
図7は組成式(Pb0.5 0.5 )(Sr1.7 Ba0.3 )(Y0.3 Ca0.7 )Cu2 z で表される本発明の(Pb,B)系銅酸化物高温超伝導体の超伝導特性を示す図であり、(a)は比抵抗の温度依存性、(b)は磁化率の温度依存性を示す。なお、図7(a)に於ける挿入図は、超伝導転移温度を見やすくするため温度軸を拡大して表示したものである。
図7(b)から、この超伝導体の超伝導転移温度Tcは約60Kであることがわかり、組成式(Pb0.5 Cu0.5 )(Sr,Ba)2 (Y,Ca)Cu2 z で表される従来のM=Cuの超伝導転移温度Tcとほぼ同等である。なお、60K以下の温度領域において磁化率の温度依存性が2段構造を示しているが、これは、超伝導転移温度Tc=60Kの相と超伝導転移温度Tc<60Kの相とが混在しているためであり、組成比及び作製条件を最適化することにより、超伝導転移温度Tc=60Kで急峻な超伝導転移特性をもった単相試料が実現できるだけでなく、さらに高い超伝導転移温度Tcをもった試料の実現が期待できる。
また、上記の2相構造のために、図7(a)に示す超伝導転移温度Tcはブロードになっているが、ほぼ60Kであることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0018】
上記説明から理解されるように、本発明の(Pb,B)系銅酸化物高温超伝導体は、新規のブロッキングユニットを有し、従来のPb系銅酸化物高温超伝導体と同等か又はそれ以上の超伝導転移温度を有し、また、製造方法が容易であるので、超伝導電子デバイスや超伝導電線に使用すれば、極めて有用である。
また、将来の高性能な銅酸化物高温超伝導体の母体となることが期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】組成式(Pb0.5 0.5 )(Sr0.5 La0.5 2 CuOz で表される本発明の(Pb,B)系銅酸化物高温超伝導体の粉末X線回折測定結果を示す図である。
【図2】図1のX線回折測定結果から推定される組成式(Pb0.5 0.5 )(Sr0.5 La0.5 2 CuOz で表される本発明の(Pb,B)系銅酸化物高温超伝導体の構造を示す図である。
【図3】組成式(Pb0.5 0.5 )(Sr0.5 La0.5 2 CuOz で表される本発明の(Pb,B)系銅酸化物高温超伝導体の超伝導特性を示し、(a)は比抵抗の温度依存性を、(b)は磁化率の温度依存性を示す。
【図4】組成式(Pb0.5 0.5 )(Sr1-x Bax 2 (Y1-y Cay )Cu2 z で表される本発明の(Pb,B)系銅酸化物高温超伝導体の2θ/θ粉末X線回折測定結果を示す図である。
【図5】図4のX線回折測定結果から推定される組成式(Pb0.5 0.5 )(Sr1-x Bax 2 (Y1-y Cay )Cu2 z で表される本発明の(Pb,B)系銅酸化物高温超伝導体の構造を示す図である。
【図6】組成式(Pb0.5 0.5 )(Sr1.5 Ba0.5 )(Y0.4 Ca0.6 )Cu2 z で表される本発明の(Pb,B)系銅酸化物高温超伝導体の超伝導特性を示す図である。
【図7】組成式(Pb0.5 0.5 )(Sr1.7 Ba0.3 )(Y0.3 Ca0.7 )Cu2 z で表される本発明の(Pb,B)系銅酸化物高温超伝導体の超伝導特性を示す図である。
【符号の説明】
【0020】
1 組成式(Pb0.5 0.5 )(Sr0.5 La0.5 2 CuOz で表される(Pb,B)系銅酸化物高温超伝導体
2 (Pb,B)ブロッキングユニット
10 組成式(Pb0.5 0.5 )(Sr1-x Bax 2 (Y1-y Cay )Cu2 z で表される(Pb,B)系銅酸化物高温超伝導体
11 (Pb,B)ブロッキングユニット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Pb系銅酸化物高温超伝導体において、ブロッキングユニットがBを含むことを特徴とする、(Pb,B)系銅酸化物高温超伝導体。
【請求項2】
前記(Pb,B)系銅酸化物高温超伝導体は、
組成式:(Pb0.5 0.5 )(Sr0.5 La0.5 2 CuOz ,z=5+δ(但し、δは1未満の微少量)、
で表されることを特徴とする、請求項1記載の(Pb,B)系銅酸化物高温超伝導体。
【請求項3】
前記(Pb,B)系銅酸化物高温超伝導体は、
組成式:(Pb0.5 0.5 )(Sr1-x Bax 2 (Y1-y Cay )Cu2 z ,0<x<1,0<y<1,z=7+δ(但し、δは1未満の微少量)、
で表されることを特徴とする、請求項1記載の(Pb,B)系銅酸化物高温超伝導体。
【請求項4】
組成式が表すモル比で原料を混合し焼成するPb系銅酸化物高温超伝導体の作製方法において、
組成比がPb0.5 0.5 となるようにPb原料の一部をB原料で置き換えて混合し、焼成することを特徴とする、(Pb,B)系銅酸化物高温超伝導体の作製方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−73447(P2007−73447A)
【公開日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−261408(P2005−261408)
【出願日】平成17年9月8日(2005.9.8)
【出願人】(504300181)国立大学法人浜松医科大学 (96)
【Fターム(参考)】