説明

(S)−1−フェニル−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリンの製造法

【課題】医薬中間体として有用な光学純度の高い(S)−1−フェニル−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリンを、安価かつ効率的に製造する。
【解決手段】 入手容易な光学純度の低い(S)−1−フェニル−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリンと酢酸やp−トルエンスルホン酸などの安価な酸から塩を形成させて晶析することにより、光学純度の高い(S)−1−フェニル−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリンを製造することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬中間体として有用な(S)−1−フェニル−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリンの製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
1−フェニル−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリンの光学純度を向上させる方法としては、以下が知られている。
1) エタノール中、51%e.e.の(S)−1−フェニル−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリンと(S)−2−(4−クロロフェニル)−3−メチルブチル酸から塩を形成させて晶析することにより、100%e.e.の(S)−1−フェニル−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリン/(S)−2−(4−クロロフェニル)−3−メチルブチル酸塩を製造する方法(特許文献1)。
2) エタノールと水の混合溶媒中、ラセミの1−フェニル−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリンとD−酒石酸から塩を形成させて晶析することにより、100%e.e.の(S)−1−フェニル−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリン/D−酒石酸塩を製造する方法(非特許文献1)。
【特許文献1】特開2001−288171
【非特許文献1】Journal of Medicinal Chemistry, 2005,48, 6597−6606.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、特許文献1や非特許文献1に記載の(S)−2−(4−クロロフェニル)−3−メチルブチル酸やD−酒石酸は非常に高価な酸であり、必ずしも工業的実施に有利な方法とはいえない。
【0004】
本発明の目的は、光学純度の高い(S)−1−フェニル−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリンを安価かつ効率的に製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは鋭意研究の結果、光学純度の低い(S)−1−フェニル−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリンを、安価で入手容易な非光学活性な酸と塩を形成させて晶析することにより、光学純度を向上させることに成功し、本発明を完成するに至った。
【0006】
即ち、本願発明は、(R)−1−フェニル−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリンを不純物として含む下記式(1):
【0007】
【化6】

で表される(S)−1−フェニル−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリンを、と、所定の非光学活性な酸から塩を形成させて、晶析することにより、下記式(2):
【0008】
【化7】

(式中、Aは非光学活性なカルボキシレートアニオン、非光学活性なスルホネートアニオン、非光学活性なホスホネートアニオン、クロロアニオン、ブロモアニオン、ナイトレートアニオン、ハイドロジェンサルフェートアニオン、又はパークロレートアニオンを表す。)で表される(S)−1−フェニル−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリンの塩結晶を製造し、続いて該塩結晶を塩基で処理することを特徴とする、光学純度の向上した前記式(1)で表される(S)−1−フェニル−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリンの製造法に関する。
【0009】
また、本願発明は、下記式(3);
【0010】
【化8】

で表されるラセミの1−フェニル−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリンとL−酒石酸から塩を形成させ、(R)−1−フェニル−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリン/L−酒石酸塩を結晶として析出させて分離した後、得られた母液を塩基で処理することを特徴とする、下記式(1):
【0011】
【化9】

で表される(S)−1−フェニル−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリンの製造法に関する。
【0012】
更に、本願発明は、下記式(2’):
【0013】
【化10】

(式中、A’は非光学活性なカルボキシレートアニオン、又は非光学活性なスルホネートアニオンを表す。)で表される(S)−1−フェニル−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリン塩にも関する。
【発明の効果】
【0014】
本発明にかかる方法によれば、入手容易な光学純度の低い(S)−1−フェニル−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリンと安価な酸から塩を形成させて晶析することにより、医薬中間体として利用可能な光学純度の高い(S)−1−フェニル−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリンを製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下に、本発明を詳細に説明する。
【0016】
まず、本発明の出発原料である(R)−1−フェニル−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリンを不純物として含む(S)−1−フェニル−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリンについて説明する。
【0017】
(S)−1−フェニル−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリンは、下記式(1):
【0018】
【化11】

で表される(以下、「化合物(1)」とする場合がある)。
【0019】
ここで、出発原料である(R)−1−フェニル−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリンを不純物として含む(S)−1−フェニル−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリンの製造法としては、例えば、特開2005−281144に記載の、1−フェニル−3,4−ジヒドロイソキノリンを光学活性なルテニウム触媒の存在下に水素化する方法が挙げられる。本法によれば、約60〜90%e.e.の(S)−1−フェニル−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリンが取得できる。
【0020】
そのほかの方法として、下記式(3):
【0021】
【化12】

で表されるラセミの1−フェニル−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリン(以下、「化合物(3)」とする場合がある)とL−酒石酸から塩を形成させ、(R)−1−フェニル−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリン/L−酒石酸塩を結晶として析出させて分離した後、得られた母液を塩基で処理することにより製造する方法が挙げられ、本方法が好ましく用いられる。
【0022】
具体的には例えば、化合物(3)に対して好ましくは1〜50倍重量、更に好ましくは5〜20倍重量のメタノール、エタノール、水、又はこれらの混合溶媒中に、化合物(3)に対して好ましくは0.5〜1.5倍モル量、更に好ましくは0.8〜1.2倍モル量のL−酒石酸を溶解させる。ここに、化合物(3)を添加すると結晶が析出する。これを、好ましくは−10〜30℃で、好ましくは1時間以上攪拌した後、(R)−1−フェニル−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリン/L−酒石酸塩の結晶を分離する。
【0023】
このとき得られた母液に、化合物(3)に対して好ましくは0.5〜10倍モル量の水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、又は炭酸カリウムを添加すると、前記式(1)で表される(S)−1−フェニル−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリンが遊離する。析出した固体をそのまま濾別してもよく、又はトルエン、酢酸エチル、メチルtert−ブチルエーテル等の有機溶剤を加えて抽出回収してもよい。
【0024】
このようにして得られた(S)−1−フェニル−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリンの光学純度は、約70〜90%e.e.である。
【0025】
次に、生成物である(S)−1−フェニル−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリン塩について説明する。
【0026】
(S)−1−フェニル−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリン塩は下記式(2):
【0027】
【化13】

で表される(以下、「化合物(2)」とする場合がある)。ここで、式中、Aは非光学活性なカルボキシレートアニオン、非光学活性なスルホネートアニオン、非光学活性なホスホネートアニオン、クロロアニオン、ブロモアニオン、ナイトレートアニオン、ハイドロジェンサルフェートアニオン、又はパークロレートアニオンを表す。非光学活性なカルボキシレートアニオンとしては、具体的には例えば、ホルメートアニオン、アセテートアニオン、シアノアセテートアニオン、ジクロロアセテートアニオン、トリフルオロアセテートアニオン、プロピオネートアニオン、ブタノエートアニオン、イソブタノエートアニオン、ピバレートアニオン、フェニルアセテートアニオン、ベンゾエートアニオン、アクリレートアニオン、シンナメートアニオン、オキサレートアニオン、マロネートアニオン等が挙げられる。非光学活性なスルホネートアニオンとしては、具体的には、メタンスルホネートアニオン、トリフルオロメタンスルホネートアニオン、エタンスルホネートアニオン、ベンゼンスルホネートアニオン、p−トルエンスルホネートアニオン、p−クロロベンゼンスルホネートアニオン、p−ニトロベンゼンスルホネートアニオン等が挙げられる。好ましくはアセテートアニオン、p−トルエンスルホネートアニオンであり、更に好ましくはアセテートアニオンである。なお、Aが非光学活性なカルボキシレートアニオン、または、非光学活性なスルホネートアニオンである式(2’):
【0028】
【化14】

で表わされる化合物は文献未記載の新規化合物である。
【0029】
続いて、本発明の製造法について説明する。
【0030】
まずは、光学純度の低い、(R)−1−フェニル−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリンを不純物として含む前記式(1)で表される(S)−1−フェニル−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリンと非光学活性な酸から塩を形成させて、晶析することにより、前記式(2)で表される(S)−1−フェニル−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリンの塩結晶を製造する工程について説明する。
【0031】
前記非光学活性な酸としては、非光学活性なカルボキシレートアニオン、非光学活性なスルホネートアニオン、非光学活性なホスホネートアニオン、クロロアニオン、ブロモアニオン、ナイトレートアニオン、ハイドロジェンサルフェートアニオン、又はパークロレートアニオンを生じさせるものであれば特に限定するものではない。このような酸としては、例えば、塩化水素、臭化水素、硫酸、硝酸、過塩素酸、リン酸等の無機酸;蟻酸、酢酸、シアノ酢酸、ジクロロ酢酸、トリフルオロ酢酸、プロピオン酸、酪酸、イソ酪酸、ピバル酸、フェニル酢酸、安息香酸、アクリル酸、桂皮酸、シュウ酸、マロン酸等のカルボン酸;メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、エタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、p−クロロベンゼンスルホン酸、p−ニトロベンゼンスルホン酸等のスルホン酸が挙げられる。高い光学純度の化合物を得るという点から、好ましくは酢酸、又はp−トルエンスルホン酸であり、更に好ましくは酢酸である。
【0032】
前記非光学活性な酸の使用量としては、前記化合物(1)に対して好ましくは0.5〜10倍モル量であり、更に好ましくは1〜5倍モル量である。
【0033】
上記酸と前記化合物(1)を混合する際は、通常溶媒を用いて実施する。溶媒としては、水;メタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコール系溶媒;テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、エチレングリコールジメチルエーテル、メチルtert−ブチルエーテル等のエーテル系溶媒;酢酸エチル、酢酸イソプロピル等のエステル系溶媒;ベンゼン、トルエン、キシレン、ヘキサン等の炭化水素系溶媒;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン系溶媒;アセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル系溶媒;塩化メチレン、クロロホルム、クロロベンゼン等のハロゲン系溶媒;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等のアミド系溶媒;ジメチルスルホキシド等のスルホキシド系溶媒が挙げられ、これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。2種以上の溶媒を併用する際の混合比率は特に制限されない。好ましくは、メチルtert−ブチルエーテル、酢酸エチル、トルエン、ヘキサンが挙げられる。
【0034】
前記溶媒の使用量に特に制限はないが、多すぎるとコストや後処理の点で好ましくないため、前記化合物(1)に対して好ましくは50倍重量以下であり、更に好ましくは20倍重量以下である。
【0035】
本工程の晶析方法としては特に限定されないが、例えば以下のような方法が挙げられる。
(a)前記化合物(1)を溶媒中で、非光学活性な酸と混合することにより結晶化させる方法。
(b)前記化合物(1)と非光学活性な酸を溶媒中で混合後、冷却して結晶化させる方法。
(c)前記化合物(1)と非光学活性な酸を溶媒中で混合後、例えばヘキサン等の貧溶媒を添加することにより結晶化させる方法。
(d)前記化合物(1)と非光学活性な酸を溶媒中で混合後、減圧濃縮することにより結晶化させる方法。
(e)前記化合物(1)と非光学活性な酸を溶媒中で混合後、例えばヘキサン等の貧溶媒に濃縮置換することにより結晶化させる方法。
【0036】
また、これら(a)〜(e)の方法を適宜組み合わせて結晶化させることもできる。結晶化の際には種晶を加えてもよい。更に1回の晶析で目標の品質に到達しなかった場合は、前記化合物(1)の塩を溶媒に加熱溶解させて冷却晶析するなどの再結晶を行うことにより、光学純度を高めることができる。
【0037】
前記(a)〜(e)の結晶化方法における実施温度は、特に限定されないが、塩の種類と使用する溶媒の種類により適宜選択すればよく、好ましくは使用する溶媒種又は混合溶媒種に、前記化合物(1)の塩が溶解する温度未満で、目標とする析出量と結晶の品質に応じて設定するのがよい。
【0038】
前記(a)〜(e)の結晶化方法により析出した前記化合物(1)の塩は、減圧濾過、加圧濾過、又は遠心分離等の方法により分離、取得することができる。また、取得結晶中に母液が残存して結晶の純度が低下する場合は必要に応じて、更に溶媒で洗浄することにより、品質を高めることもできる。
【0039】
上記のようにして得られた結晶は、通常乾燥を行う。結晶の乾燥方法としては特に制限はないが、熱分解や溶融を避けて約60℃以下で、減圧乾燥(真空乾燥)するのが望ましい。
【0040】
このようにして得られた前記化合物(1)の塩、即ち前記化合物(2)の光学純度は通常95%e.e.以上であり、晶析条件を最適化することにより99%e.e.以上で取得することも可能である。
【0041】
次に、前記式(2)で表される(S)−1−フェニル−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリンの塩結晶を塩基で処理することにより、光学純度の向上した前記式(1)で表される(S)−1−フェニル−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリンを製造する工程について説明する。
【0042】
本工程では、まず、前記化合物(2)を水に溶解し、その後、前記塩基を添加する。
【0043】
前記水の使用量は、前記化合物(2)が溶解する量あればよく、好ましくは50倍重量以下であり、更に好ましくは5〜20倍重量である。
【0044】
前記塩基として好ましくは、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化マグネシウム等の金属水酸化物;炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸マグネシウム等の金属炭酸塩;炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム等の金属炭酸水素塩;アンモニア、トリエチルアミン等のアミン類であり、経済的な観点から更に好ましくは水酸化ナトリウム、又は水酸化カリウムである。
【0045】
前記塩基の使用量としては、前記化合物(2)に対して好ましくは、0.5〜20倍モル量であり、更に好ましくは1〜5倍モル量である。若しくは水のpHに応じて使用量を設定してもよい。いずれの場合も、pHとして好ましくは7以上であり、更に好ましくは10〜13である。なお、前記塩基は水に溶解したものを用いてもよい。
【0046】
このようにして得られた前記化合物(1)の回収方法としては例えば、酢酸エチル、トルエン、メチルtert−ブチルエーテル等の有機溶媒を添加して抽出し、減圧加熱等の操作により溶媒を留去する方法が挙げられる。または、反応液から前記化合物(1)の結晶を析出させ、分離取得する方法がより好ましく挙げられる。
【0047】
結晶を析出させる方法としては、前記化合物(2)の水溶液に塩基をゆっくりと添加する方法が挙げられる。品質を高める目的で、メタノール、エタノール、イソプロパノール、アセトン、アセトニトリル等の水と相溶性のある有機溶媒を更に添加してもよい。
【0048】
結晶の分離方法としては、減圧濾過、加圧濾過、又は遠心分離等が挙げられる。また、取得結晶中に母液が残存して結晶の純度が低下する場合は必要に応じて、更に溶媒で洗浄することにより、品質を高めることもできる。
【0049】
上記のようにして得られた結晶は、通常乾燥を行う。結晶の乾燥方法としては特に制限はないが、熱分解や溶融を避けて約60℃以下で、減圧乾燥(真空乾燥)するのが望ましい。
【実施例】
【0050】
以下、実施例を示して本発明を更に詳細に説明するが、これら実施例は本発明を何ら限定するものではない。
【0051】
[光学純度分析法(イソクラテック法)]
1−フェニル−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリンの光学純度は以下の方法にて測定した。
【0052】
カラム ダイセル化学社製 {CHIRALCEL OD−H 250×4.6mm}、移動相:ヘキサン/イソプロピルアルコール=3/7(容量比)、流速:0.5ml/min、検出器:UV254nm、カラム温度:30℃
保持時間:(S)−1−フェニル−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリン=9.3分、(R)−1−フェニル−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリン=11.7分
【0053】
実施例1 (S)−1−フェニル−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリンの製造
L−酒石酸1726mg(1当量)、メタノール10mLからなる溶液に、ラセミの1−フェニル−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリン2750mg(87.4重量%、11.5mmol)のメタノール溶液(10mL)を滴下して5℃に冷却すると結晶が析出した。1時間攪拌後、析出している(R)−1−フェニル−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリン/L−酒石酸の塩結晶を減圧濾別した。得られた母液中の(S)−1−フェニル−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリンの光学純度を測定すると83%e.e.であった。ここに水20mLを加え、減圧下にメタノールを留去した。得られた溶液(19.65g)に30重量%水酸化ナトリウム水溶液をpH12になるまで添加すると結晶が析出した。5℃に冷却して30分攪拌後、結晶を減圧濾別し、水20mLで洗浄、真空乾燥することにより標題化合物を白色結晶として得た(1092mg、収率42%、光学純度82%e.e.)。
【0054】
実施例2 (S)−1−フェニル−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリン/酢酸塩の製造
実施例1にて製造した82%e.e.の(S)−1−フェニル−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリン780mg(3.7mmol)の酢酸エチル溶液(6mL)に、酢酸200mg(1当量)を加えて60℃に加温した。ヘキサン(8ml)を添加して25℃まで冷却すると結晶が析出した。結晶を減圧濾過し、真空乾燥することにより、標題化合物を白色結晶として得た(670mg、収率68%、光学純度99%e.e.)。
H−NMR(CDCl):δ(ppm)1.84(s,3H)、2.89−2.97(m,1H)、3.04−3.17(m,2H)、3.26−3.32(m,1H)、5.29(s,1H)、6.76(d,1H)、7.05−7.35(m,8H)、8.12(brs,2H)
【0055】
実施例3 (S)−1−フェニル−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリンの製造
実施例2にて製造した(S)−1−フェニル−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリン/酢酸塩640mgと水(8ml)を混合し、5℃に冷却した。30%水酸化ナトリウム水溶液640mg(2当量)を添加し、5℃から25℃に昇温しながら、4時間攪拌した。析出した結晶を減圧濾過し、真空乾燥することにより、標題化合物を白色結晶として得た(480mg、収率97%、光学純度99%e.e.)。
【0056】
実施例4 (S)−1−フェニル−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリン/酢酸塩の製造
L−酒石酸751mg(1当量)、水1mLからなる溶液に、ラセミの1−フェニル−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリン1197mg(87.4重量%、5mmol)のエタノール溶液(9mL)を滴下して5℃に冷却すると結晶が析出した。1時間攪拌後、析出している(R)−1−フェニル−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリン/L−酒石酸の塩結晶を減圧濾別し、エタノール3mLで洗浄した。得られた母液中の(S)−1−フェニル−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリンの光学純度を測定すると84%e.e.であった。ここに水10mLを加え、減圧下にエタノールを留去した。得られた溶液にトルエン10mLを加えて、更に30重量%水酸化ナトリウム水溶液をpH13になるまで添加した。水層を分離後、有機層を飽和食塩水5mLで洗浄し、減圧濃縮することにより無色油状物を得た。これをトルエン5mLに溶解し、続いて酢酸180mg(3mmol)を加えると結晶が析出した。更にヘキサン5mLを加えて5℃に冷却し、30分攪拌後、結晶を減圧濾別した。結晶をヘキサンで洗浄後、40℃で真空乾燥することにより標題化合物を白色結晶として得た(535mg、収率40%、光学純度93%e.e.)。
【0057】
実施例5 (S)−1−フェニル−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリン/酢酸塩の製造
L−酒石酸751mg(1当量)、水1mLからなる溶液に、ラセミの1−フェニル−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリン1197mg(87.4重量%、5mmol)のエタノール溶液(9mL)を滴下して5℃に冷却すると結晶が析出した。1時間攪拌後、析出している(R)−1−フェニル−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリン/L−酒石酸の塩結晶を減圧濾別し、エタノール3mLで洗浄した。得られた母液中の(S)−1−フェニル−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリンの光学純度を測定すると84%e.e.であった。ここに水10mLを加え、減圧下にエタノールを留去した。得られた溶液に酢酸エチル10mLを加えて、更に30重量%水酸化ナトリウム水溶液をpH13になるまで添加した。水層を分離後、有機層を飽和食塩水5mLで洗浄し、減圧濃縮することにより無色油状物を得た。これを酢酸エチル5mLに溶解し、続いて酢酸180mg(3mmol)を加えると結晶が析出した。更にヘキサン5mLを加えて5℃に冷却し、30分攪拌後、結晶を減圧濾別した。結晶をヘキサンで洗浄後、40℃で真空乾燥することにより標題化合物を白色結晶として得た(564mg、収率42%、光学純度98%e.e.)。
【0058】
実施例6 (S)−1−フェニル−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリン/p−トルエンスルホン酸塩の製造
67%e.e.の(S)−1−フェニル−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリン173mg(0.83mmol)の酢酸エチル溶液(5mL)にp−トルエンスルホン酸1水和物158mg(1当量)を加え、25℃で16時間攪拌すると結晶が析出した。結晶を減圧濾過し、真空乾燥することにより、標題化合物を白色結晶として得た(280mg、収率89%、光学純度76%e.e.)。
【0059】
この結晶250mgに酢酸エチル5mLを加えて60℃に加温した。30分攪拌後、25℃まで冷却し、30分攪拌した。結晶を減圧濾別し、真空乾燥することにより、標題化合物を白色結晶として得た(209mg、収率84%、光学純度85%e.e.)。
H−NMR(CDCl):δ(ppm)2.34(s,3H)、2.99(m,1H)、3.20(m,1H)、3.26(m,2H)、5.56(s,1H)、6.71(d,1H)、7.05(d,2H)、7.10(m,2H)、7.1−7.4(m,8H)、9.1−9.6(brs,2H)
【0060】
比較例1 (S)−1−フェニル−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリンの製造
73%e.e.の(S)−1−フェニル−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリン542mg(2.6mmol)にヘキサン10mLを加えて50℃で加熱溶解させた。25℃に冷却すると結晶が析出し、これを5℃に冷却して30分攪拌した。結晶を減圧濾別し、真空乾燥することにより、標題化合物を白色結晶として得た(362mg、収率65%、光学純度67%e.e.)。
【0061】
比較例2 (S)−1−フェニル−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリンの製造
73%e.e.の(S)−1−フェニル−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリン542mg(2.6mmol)に酢酸エチル3mLを加えて溶解させた。ここにヘキサン9mLを加えると結晶が析出し、これを5℃に冷却して30分攪拌した。結晶を減圧濾別し、真空乾燥することにより、標題化合物を白色結晶として得た(168mg、収率31%、光学純度30%e.e.)。
【0062】
実施例7
実施例2にて製造した(S)−1−フェニル−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリン/酢酸塩のX線結晶解析スペクトルを図1に示す。2θが約8.9゜、11.0゜、13.0゜、13.7゜、15.8゜、17.9゜、19.1゜、20.0゜、21.5゜、23.4゜、及び26.7゜において、XRD中に最も顕著なピークが見られる。
X線粉末結晶解析装置 :株式会社リガク製 MiniFlex−ll
測定条件: CuKα1
管電圧30kV
間電流15mA
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】実施例7で得られた(S)−1−フェニル−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリン/酢酸塩のX線粉末解析スペクトルである。縦軸はX線の強度(cps)を示し、横軸は回折角(2θ)を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(R)−1−フェニル−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリンを不純物として含む下記式(1):
【化1】

で表される(S)−1−フェニル−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリンと、所定の非光学活性な酸から塩を形成させて、晶析することにより、下記式(2):
【化2】

(式中、Aは非光学活性なカルボキシレートアニオン、非光学活性なスルホネートアニオン、非光学活性なホスホネートアニオン、クロロアニオン、ブロモアニオン、ナイトレートアニオン、ハイドロジェンサルフェートアニオン、又はパークロレートアニオンを表す。)で表される(S)−1−フェニル−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリンの塩結晶を製造し、続いて該塩結晶を塩基で処理することを特徴とする、光学純度の向上した(S)−1−フェニル−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリンの製造法。
【請求項2】
前記非光学活性な酸が酢酸、又はp−トルエンスルホン酸である、請求項1に記載の製造法。
【請求項3】
下記式(3):
【化3】

で表されるラセミの1−フェニル−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリンとL−酒石酸から塩を形成させ、(R)−1−フェニル−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリン/L−酒石酸塩を結晶として析出させて分離した後、得られた母液を塩基で処理することを特徴とする、下記式(1):
【化4】

で表される(S)−1−フェニル−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリンの製造法。
【請求項4】
請求項3で製造した(S)−1−フェニル−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリンを原料に用いることを特徴とする、請求項1に記載の製造法。
【請求項5】
下記式(2’):
【化5】

(式中、A’は非光学活性なカルボキシレートアニオン、または、非光学活性なスルホネートアニオンを表す。)で表される(S)−1−フェニル−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリン塩。
【請求項6】
前記A’がアセテートアニオン、又はp−トルエンスルホネートアニオンである、請求項5に記載の(S)−1−フェニル−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリン塩。
【請求項7】
前記A’がアセテートアニオンであり、2θ=8.9゜、11.0゜、13.0゜、13.7゜、15.8゜、17.9゜、19.1゜、20.0゜、21.5゜、23.4゜、及び26.7゜において特異的ピークを示すX線粉末解析パターンを有する、請求項5に記載の(S)−1−フェニル−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリン塩。


【図1】
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【公開番号】特開2012−36093(P2012−36093A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−318070(P2008−318070)
【出願日】平成20年12月15日(2008.12.15)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)