説明

(S)−4−〔(4−クロロフェニル)(2−ピリジル)メトキシ〕ピペリジンのジアステレオマー塩の製造方法

【課題】高収率で操作性良く光学分割し、(S)−4−〔(4−クロロフェニル)(2−ピリジル)メトキシ〕ピペリジンを簡便に製造できる方法を提供することにある。
【解決手段】 炭素数1〜4のアルコール類と、アミド類、及びエステル類から選ばれる溶媒との混合溶媒中、ラセミ型4−〔(4−クロロフェニル)(2−ピリジル)メトキシ〕ピペリジンに、ジ−p−トルオイル−D−酒石酸、ジ−p−アニソイル−D−酒石酸、及び(1R,2R)−シクロヘキサンジカルボン酸から選ばれる光学活性ジカルボン酸を作用させ、得られた(S)−4−〔(4−クロロフェニル)(2−ピリジル)メトキシ〕ピペリジンのジアステレオマー塩を該混合溶媒中で晶析させた後、該ジアステレオマー塩を分別することにより該ジアステレオマー塩を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、(S)−4−〔(4−クロロフェニル)(2−ピリジル)メトキシ〕ピペリジンのジアステレオマー塩の新規な製造方法に関する。詳しくは、抗ヒスタミン活性及び抗アレルギー活性を有する(S)−4−〔(4−クロロフェニル)(2−ピリジル)メトキシ〕ピペリジノブタン酸ベンゼンスルホン酸塩の中間体である、(S)−4−〔(4−クロロフェニル)(2−ピリジル)メトキシ〕ピペリジンのジアステレオマー塩の新規な製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
下記式(2)
【0003】
【化1】

【0004】
で示される4−〔(4−クロロフェニル)(2−ピリジル)メトキシ〕ピペリジノブタン酸ベンゼンスルホン酸塩(一般名称:ベポタスチンベンゼンスルホン酸塩、以下単にベポタスチンとする場合もある)は、抗ヒスタミン活性及び抗アレルギー活性を有する治療薬として有用である。
【0005】
このような治療薬として有用なベポタスチンは、光学異性体を有するが、特に有用であるのは(S)型異性体であると言われている(特許文献1)。このベポタスチンの(S)型異性体((S)−4−〔(4−クロロフェニル)(2−ピリジル)メトキシ〕ピペリジノブタン酸)を効率よく製造するためには、下記式(1)
【0006】
【化2】

【0007】
で示されるラセミ型4−〔(4−クロロフェニル)(2−ピリジル)メトキシ〕ピペリジンを光学分割し、得られた(S)−4−〔(4−クロロフェニル)(2−ピリジル)メトキシ〕ピペリジンを原料として使用することが好ましい。
【0008】
従来、ラセミ型4−〔(4−クロロフェニル)(2−ピリジル)メトキシ〕ピペリジンの効率的な光学分割の方法としては、酢酸メチル中、(+)−ジベンゾイル−D−酒石酸一水和物とジアステレオマー塩を形成し、(R)型異性体をろ別し、ろ液をエタノールに溶媒交換した後、L−(+)−酒石酸を作用し、得られた白色結晶を数回エタノールで繰り返し、(S)−4−〔(4−クロロフェニル)(2−ピリジル)メトキシ〕ピペリジンのL−酒石酸塩として分割する方法(特許文献2)が知られている。また、エタノールと水の混合溶媒中、(2R,3R)−2−ヒドロキシ−3−(4−メトキシフェニル)−3−(2−ニトロ−5−クロロフェニルチオ)プロピオン酸のような光学活性プロピオン酸とジアステレオマー塩を形成させて、該塩を分割する方法(特許文献3)、さらに、種々の溶媒中、N−アセチル−L−フェニルアラニンのようなN−アシル−光学活性アミノ酸とジアステレオマー塩を形成させて、該塩を分割する方法(特許文献4)が挙げられる。
【0009】
これら方法は、効率的に光学分割ができるため、有用ではあるが、次のような点で改善の余地があった。
【0010】
即ち、L−酒石酸を使用する特許文献2に記載の方法は、収率が13%程度と低く、また、光学分割剤を2種類使用し、操作も煩雑であった。さらに、一方の光学分割剤であるL−酒石酸の使用量が、ラセミ型4−〔(4−クロロフェニル)(2−ピリジル)メトキシ〕ピペリジンに対して1.0当量であり、高価な光学分割剤を回収する必要があった。
【0011】
光学活性プロピオン酸を使用する特許文献3に記載の方法は、収率、操作性が改善されるが、光学活性プロピオン酸が一般的な光学分割剤ではなく、入手が困難であり、経済的に不利であった。また、光学分割剤の使用量が、ラセミ型4−〔(4−クロロフェニル)(2−ピリジル)メトキシ〕ピペリジンに対して1.0当量であり、この場合も、高価な光学分割剤を回収する必要があった。
【0012】
N−アシル−光学活性アミノ酸を使用する特許文献4に記載の方法は、収率が良く、光学分割剤の入手も比較的容易であるため、特に優れた方法である。しかしながら、本発明者らがこの方法を検討した結果、以下の点で改善の余地があることが分かった。つまり、4−〔(4−クロロフェニル)(2−ピリジル)メトキシ〕ピペリジンとN−アシル−光学活性アミノ酸とのジアステレオマー塩の結晶形態が影響しているものと考えられるが、ジアステレオマー塩を晶析させた際、スラリー粘度が高くなり、特にろ過性が低下するため、この方法においても、操作性という点で改善の余地があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開平10−237070号公報
【特許文献2】特開平10−182635号公報
【特許文献3】特許3157117号公報
【特許文献4】特許3157118号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
したがって、本発明の目的は、操作性がよく、高純度、高収率でラセミ型4−〔(4−クロロフェニル)(2−ピリジル)メトキシ〕ピペリジンから(S)−4−〔(4−クロロフェニル)(2−ピリジル)メトキシ〕ピペリジンを製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者は、前記課題を解決するため、鋭意研究を行った。その結果、特定の有機溶媒からなる混合溶媒中、ラセミ型4−〔(4−クロロフェニル)(2−ピリジル)メトキシ〕ピペリジンを、特定の光学活性ジカルボン酸を使用して光学分割することにより、前記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0016】
すなわち、本発明は、炭素数1〜4のアルコール類と、アミド類、及びエステル類から選ばれる溶媒との混合溶媒(炭素数1〜4のアルコール類とアミド類との混合溶媒、又は炭素数1〜4のアルコール類とエステル類との混合溶媒)中、下記式(1)
【0017】
【化3】

【0018】
で示されるラセミ型4−〔(4−クロロフェニル)(2−ピリジル)メトキシ〕ピペリジンに、ジ−p−トルオイル−D−酒石酸、ジ−p−アニソイル−D−酒石酸、及び(1R,2R)−シクロヘキサンジカルボン酸から選ばれる光学活性ジカルボン酸を作用させ、得られた(S)−4−〔(4−クロロフェニル)(2−ピリジル)メトキシ〕ピペリジンのジアステレオマー塩を該混合溶媒中で晶析させた後、該ジアステレオマー塩を分別することを特徴とする(S)−4−〔(4−クロロフェニル)(2−ピリジル)メトキシ〕ピペリジンのジアステレオマー塩の製造方法である。
【0019】
本発明においては、前記混合溶媒が、炭素数1〜4のアルコール類100容量部に対して、アミド類、及びエステル類から選ばれる溶媒を2.5容量部以上6000容量部以下含むことが好ましい。中でも、前記混合溶媒が、炭素数2〜4のアルコール類とN,N’−ジメチルホルムアミド、及びN,N’−ジメチルアセトアミドから選ばれるアミド類を含み、炭素数2〜4のアルコール類100容量部に対して、該アミド類を2.5容量部以上30容量部以下含むことが好ましい。または、前記混合溶媒が、メタノールとエステル類を含み、メタノール100容量部に対して、該エステル類を500容量部以上1500容量部以下含むことが好ましい。
【0020】
さらに、本発明においては、前記方法により(S)−4−〔(4−クロロフェニル)(2−ピリジル)メトキシ〕ピペリジンのジアステレオマー塩を製造した後、得られたジアステレオマー塩を炭素数1〜4のアルコール類中で晶析させることにより、高純度の(S)−4−〔(4−クロロフェニル)(2−ピリジル)メトキシ〕ピペリジンのジアステレオマー塩を得ることができる
また、本発明は、前記方法で得られたジアステレオマー塩を分解し、それを原料として(S)−4−〔(4−クロロフェニル)(2−ピリジル)メトキシ〕ピペリジノブタン酸ベンゼンスルホン酸塩を製造する方法である。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、ラセミ型4−〔(4−クロロフェニル)(2−ピリジル)メトキシ〕ピペリジンから(S)−4−〔(4−クロロフェニル)(2−ピリジル)メトキシ〕ピペリジンを、操作性よく、高純度、高収率で得ることができる。そのため、得られた(S)−4−〔(4−クロロフェニル)(2−ピリジル)メトキシ〕ピペリジンを原料とすることにより、効率よく、高純度の(S)−4−〔(4−クロロフェニル)(2−ピリジル)メトキシ〕ピペリジノブタン酸ベンゼンスルホン酸塩を製造できる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の方法は、ラセミ型4−〔(4−クロロフェニル)(2−ピリジル)メトキシ〕ピペリジンを、特定の溶媒中、特定の光学分割剤を使用して光学分割するものである。以下、順を追って説明する。先ず、光学分割の対象となるラセミ型4−〔(4−クロロフェニル)(2−ピリジル)メトキシ〕ピペリジンについて説明する。
【0023】
(ラセミ型4−〔(4−クロロフェニル)(2−ピリジル)メトキシ〕ピペリジン)
本発明で使用するラセミ型4−〔(4−クロロフェニル)(2−ピリジル)メトキシ〕ピペリジンは、特に制限されるものではなく、公知の方法、例えば、特開平02−25465号公報に記載の方法により製造することができる。このラセミ型4−〔(4−クロロフェニル)(2−ピリジル)メトキシ〕ピペリジンは、通常は(S)型異性体、及び(R)型異性体の等モル混合物のことを指すが、分析誤差などを考慮すると(S)型異性体が45モル%以上55モル%以下の割合のものを対象とする。なお、このモル%は、液体クロマトグラフィーにより測定した(S)型異性体のピーク面積%と同等の値である。
【0024】
さらに、ラセミ型4−〔(4−クロロフェニル)(2−ピリジル)メトキシ〕ピペリジンは、特開平06−336480号公報に記載されているように、カルボン酸類と塩を形成させ、該塩を再結晶により精製し、次いで、その塩をアルカリにより分解して得られるものであってもよい。この方法により一旦カルボン酸と塩を形成させ、該塩を再結晶により精製したものは、純度の高いラセミ型4−〔(4−クロロフェニル)(2−ピリジル)メトキシ〕ピペリジンとなっているため、好適に使用できる。
【0025】
前記の通り、本発明で使用するラセミ型4−〔(4−クロロフェニル)(2−ピリジル)メトキシ〕ピペリジンは、公知の方法で製造することができる。次に、この4−〔(4−クロロフェニル)(2−ピリジル)メトキシ〕ピペリジンを光学分割するために使用する光学分割剤について説明する。
【0026】
(光学分割剤:光学活性ジカルボン酸)
本発明で使用する光学分割剤は、ジ−p−トルオイル−D−酒石酸、ジ−p−アニソイル−D−酒石酸、又は(1R,2R)−シクロヘキサンジカルボン酸である。このような光学活性ジカルボン酸の光学分割剤を使用することにより、操作性よく、高収率で高純度の(S)−4−〔(4−クロロフェニル)(2−ピリジル)メトキシ〕ピペリジ(又は、(S)体のジアステレオマー塩)を得ることができる。特に、下記に詳述する混合溶媒中で前記光学活性ジカルボン酸を使用することにより、ろ過性を含む操作性がよく、高収率で高純度(S)−4−〔(4−クロロフェニル)(2−ピリジル)メトキシ〕ピペリジ((S)体のジアステレオマー塩)を製造できる。このことは、前記光学活性ジカルボン酸により形成される(S)体のジアステレオマー塩の混合溶媒中における形態によるものと考えられる。
【0027】
本発明において、ジ−p−トルオイル−D−酒石酸、ジ−p−アニソイル−D−酒石酸、又は(1R,2R)−シクロヘキサンジカルボン酸は、市販のものを使用することができる。これらの中でも、入手のし易さと効果を考慮すると、ジ−p−トルオイル−D−酒石酸が好適に使用できる。
【0028】
本発明において、ジ−p−トルオイル−D−酒石酸、ジ−p−アニソイル−D−酒石酸、又は(1R,2R)−シクロヘキサンジカルボン酸の使用量は、特に制限されるものではないが、形成される(S)体のジアステレオマー塩をろ過性のよりよい結晶とするためには、ラセミ型4−〔(4−クロロフェニル)(2−ピリジル)メトキシ〕ピペリジン 1モルに対して、0.20モル以上0.45モル以下とすることが好ましく、さらに0.25モル以上0.40モル以下とすることが好ましい。本発明で使用するジ−p−トルオイル−D−酒石酸、ジ−p−アニソイル−D−酒石酸、又は(1R,2R)−シクロヘキサンジカルボン酸は、前記範囲の使用量でも十分に効果を発揮するため、他の光学分割剤を使用するよりも経済的である。
【0029】
本発明においては、前記光学分割剤を使用して、特定の混合溶媒中で(S)−4−〔(4−クロロフェニル)(2−ピリジル)メトキシ〕ピペリジンのジアステレオマー塩(以下、単に、(S)体のジアステレオマー塩とする場合もある)を形成する。次に、混合溶媒について説明する。
【0030】
(混合溶媒)
本発明においては、炭素数1〜4アルコール類とアミド類との混合溶媒、又は炭素数1〜4のアルコール類とエステル類との混合溶媒中でラセミ型4−〔(4−クロロフェニル)(2−ピリジル)メトキシ〕ピペリジンに前記光学活性ジカルボン酸を作用させて、(S)−4−〔(4−クロロフェニル)(2−ピリジル)メトキシ〕ピペリジンのジアステレオマー塩を形成させ、該ジアステレオマー塩の結晶を該混合溶媒中で晶析させることが重要である。この混合溶媒は、炭素数1〜4のアルコール類を含むものである。アルコール類のみを使用した場合には、収率が低下したり、条件によっては該ジアステレオマー塩を結晶として分取できない場合があり、また、(S)体のジアステレオマー塩の光学純度((S)体のピーク面積%)を高めることができない場合があるため好ましくない。アミド類のみを使用した場合には、収率が低下したり、条件によっては該ジアステレオマー塩を結晶として分取できない場合があり好ましくない。エステル類のみを使用した場合には、得られる(S)体のジアステレオマー塩が取り扱いにくく、また、該塩の光学純度((S)体のピーク面積%)を高めることができない場合があり好ましくない。さらに、炭素数1〜4アルコール類とアミド類、及び炭素数1〜4のアルコール類とエステル類以外の組み合わせの混合溶媒になると、(S)体のジアステレオマー塩の光学純度((S)体のピーク面積%)を高めることができなかったり、条件によっては該ジアステレオマー塩を結晶として分取できなくなる場合があるため好ましくない。
【0031】
本発明において、炭素数1〜4のアルコール類とアミド類との混合溶媒、又は炭素数1〜4のアルコール類とエステル類との混合溶媒を使用することにより優れた効果が発揮される理由は明らかではないが、形成される(S)体のジアステレオマー塩が、前記混合溶媒中で結晶性のよいものとなり、さらにろ過性のよい形態になっていることが要因であると考えられる。
【0032】
前記アルコール類、アミド類、およびエステル類は、特に制限されるものではなく、通常の試薬、或いは工業原料が使用できる。混合溶媒には、アルコール類を使用することが重要である。炭素数1〜4のアルコールとしては、具体的には、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−プロパノール、n−ブタノール、sec−ブタノール、tert−ブタノールを挙げることができる。また、アルコール類と混合するアミド類としては、N,N’−ジメチルホルムアミド、又はN,N’−ジメチルアセトアミドが挙げられる。さらに、アルコール類と混合するエステル類としては、酢酸メチル、酢酸エチル、又は酢酸イソプロピル、酢酸ブチルなどが挙げられる。
【0033】
前記混合溶媒において、炭素数1〜4のアルコール類と、アミド類、及びエステル類から選ばれる溶媒との混合割合は、特に制限されるものではない。中でも、操作性がよりよく、より高収率で純度の高い(S)−4−〔(4−クロロフェニル)(2−ピリジル)メトキシ〕ピペリジ(又は(S)体のジアステレオマー塩)を得るためには、以下の割合とすることが好ましい。具体的には、アルコール類100容量部に対して、アミド類、及びエステル類から選ばれる溶媒を2.5容量部以上1500容量部以下とすることが好ましく、さらには3容量部以上1000容量部以下とすることが好ましい。なお、本発明において、混合溶媒の割合は、23℃における容量(体積)の比率である。
【0034】
前記のような混合割合の中でも、最も高い効果を発揮するのは、溶媒の種類に応じて以下の混合割合とする場合である。すなわち、
(I)炭素数2〜4のアルコール類とN,N’−ジメチルホルムアミド、及びN,N’−ジメチルアセトアミドから選ばれるアミド類を含み、炭素数2〜4のアルコール類100容量部に対して、該アミド類を2.5容量部以上30容量部以下含む混合溶媒を使用する場合、
(II)メタノールとエステル類を含み、メタノール100容量部に対して、該エステル類を500容量部以上1500容量部以下含む混合溶媒
を使用する場合である。
【0035】
このように使用するアルコール類の種類に応じて、最適な配合割合、溶媒の種類が異なるのは、(S)体のジアステレオマー塩に対する溶解度の違いによるものと考えられる。前記(I)混合溶媒、(II)混合溶媒について説明する。
【0036】
(I)混合溶媒
本発明においては、炭素数2〜4のアルコール類とN,N’−ジメチルホルムアミド、及びN,N’−ジメチルアセトアミドから選ばれるアミド類を含み、炭素数2〜4のアルコール類100容量部に対して、該アミド類を2.5容量部以上30容量部以下含む混合溶媒を使用する場合、特に優れた効果を発揮する。
【0037】
炭素数2〜4のアルコール類としては、エタノール、イソプロパノール、n−プロパノール、n−ブタノール、sec−ブタノール、tert−ブタノールが挙げられ、その中でも、収率、純度を考慮すると、イソプロピルアルコールを使用することが好ましい。また、アミド類は、N,N’−ジメチルホルムアミド、又はN,N’−ジメチルアセトアミドを使用することができる。
【0038】
この(I)混合溶媒においては、混合割合を炭素数2〜4のアルコール類100容量部に対して、該アミド類を4容量部以上25容量部以下とすることが好ましく、さらに5容量部以上15容量部以下とすることが好ましい。このような混合割合を満足することにより、特にろ過性がよく、高収率で純度の高い(S)体のジアステレオマー塩を得ることができる。
【0039】
(II)混合溶媒
本発明においては、メタノールとエステル類を含み、メタノール100容量部に対して、該エステル類を500容量部以上1500容量部以下含む混合溶媒を使用する場合、特に優れた効果を発揮する。
【0040】
エステル類としては、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチルが挙げられ、収率、純度を考慮すると、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸イソプロピルを使用することが好ましい。
【0041】
この(II)混合溶媒においては、混合割合をメタノール100容量部に対して、該エステル類を600容量部以上1200容量部以下とすることが好ましく、さらに700以容量部以上1000容量部以下とすることが好ましい。このような混合割合を満足することにより、特にろ過性がよく、高収率で純度の高い(S)体のジアステレオマー塩を得ることができる。
【0042】
(混合溶媒の使用量)
本発明においては、炭素数1〜4のアルコール類を含む溶媒、具体的には、該アルコール類とアミド類、又はアルコール類とエステル類とを含む混合溶媒を使用することにより、優れた効果を発揮する。混合溶媒の使用量は、(S)体のジアステレオマー塩を結晶として析出させる際の温度、使用する溶媒の種類、使用する装置の形態等に応じて適宜決定すればよい。中でも、ろ過性を含む操作性がより向上し、高収率で純度の高い(S)体のジアステレオマー塩を得るためには、ラセミ型4−〔(4−クロロフェニル)(2−ピリジル)メトキシ〕ピペリジン 1gに対して、混合溶媒を10ml以上75ml以下とすることが好ましく、さらに、15ml以上60ml以下とすることが好ましい。前記(I)混合溶媒、および(II)混合溶媒を使用した場合にも、上記使用量を満足することが好ましい。なお、前記混合溶媒の使用量は、炭素数1〜4のアルコール類とアミド類合計量、又は炭素数1〜4のアルコール類とエステル類との合計量である。
【0043】
本発明においては、前記混合溶媒中、ラセミ型4−〔(4−クロロフェニル)(2−ピリジル)メトキシ〕ピペリジンに、前記光学活性ジカルボン酸を作用させ、得られた(S)体のジアステレオマー塩を該混合溶媒中で晶析させることが重要である。次に、(S)体のジアステレオマー塩を形成する方法、および該塩を晶析させる方法に説明する。
【0044】
(ジアステレオマー塩の形成方法、および該塩の晶析方法)
ラセミ型4−〔(4−クロロフェニル)(2−ピリジル)メトキシ〕ピペリジンと前記光学活性ジカルボン酸とを作用させ、これらからなるジアステレオマー塩((S)体のジアステレオマー塩)を形成する方法は、特に制限されるものではなく、混合溶媒中、ラセミ型4−〔(4−クロロフェニル)(2−ピリジル)メトキシ〕ピペリジンと光学活性ジカルボン酸とを混合することにより実施できる。両者の混合には、通常の方法、例えば、攪拌等の操作を行えばよい。中でも、完全に塩を形成させるためには、ラセミ型4−〔(4−クロロフェニル)(2−ピリジル)メトキシ〕ピペリジンと前記光学活性ジカルボン酸の両者が有機溶媒中で完全に溶解して混合された状態を形成することが好ましい。そして、その後、前記混合溶媒中で(S)体のジアステレオマー塩を晶析させることが好ましい。
【0045】
具体的な方法を例示すると、ラセミ型4−〔(4−クロロフェニル)(2−ピリジル)メトキシ〕ピペリジンと光学活性ジカルボン酸とを混合溶媒中で溶解し、両者を作用させた後、形成した(S)体のジアステレオマー塩を該混合溶媒中で晶析させる方法が挙げられる。また、ラセミ型4−〔(4−クロロフェニル)(2−ピリジル)メトキシ〕ピペリジンを混合溶媒の一方の溶媒に溶解させた溶液と、光学活性ジカルボン酸を他の溶媒に溶解させた溶液とを混合して両者を作用させ、次いで、形成した(S)体のジアステレオマー塩を該混合溶媒中で晶析させる方法が挙げられる。溶液と溶液とを混合する場合には、添加する順序は、特に制限されるものではなく、容器中に両方を同時に添加し混合することもできるし、一方の溶液に他方の溶液を加えてもよい。これらの方法により(S)体のジアステレオマー塩を形成する際、混合溶媒を加熱し、その後、冷却して(S)体のジアステレオマー塩を晶析することもできる。混合溶媒を加熱する場合には、その加熱温度は、40℃以上還流温度以下とすることが好ましい。また、冷却して該塩の結晶を析出する場合には、その冷却到達温度は、混合溶媒の融点より高く、30℃以下とすることが好ましい。冷却速度は1〜60℃/hrとすることが好ましい。
【0046】
また、中でも、混合溶媒の使用量を低減し、効率よく(S)体のジアステレオマー塩の形成、晶析を行うには、以下の方法を採用することが好ましい。具体的には、先ず、(S)体のジアステレオマー塩に対して良溶媒となる溶媒に、ラセミ型4−〔(4−クロロフェニル)(2−ピリジル)メトキシ〕ピペリジンと光学活性ジカルボンとを溶解させて混合し、両者が溶解した溶液を準備する。この際、ラセミ型4−〔(4−クロロフェニル)(2−ピリジル)メトキシ〕ピペリジンと光学活性ジカルボンとを混合する時間は、特に制限されるものではないが、通常、1分以上3時間以下であればよい。次いで、得られた溶液と、(S)体のジアステレオマー塩に対して貧溶媒となる溶媒とを混合して(S)体のジアステレオマー塩を混合溶媒中で晶析させる方法である。このような方法を採用することにより、少ない溶媒使用量で効率よく、特に、ろ過性の優れた(S)体のジアステレオマー塩を製造することができる。
【0047】
この方法において、前記良溶媒としては、メタノール、アミド類が挙げられ、前記貧溶媒としては、炭素数2〜4のアルコール類、エステル類が挙げられる。なお、溶液と貧溶媒とを混合する場合には、添加する順序は、特に制限されるものではなく、容器中に両方同時に添加し混合することもできるし、貧溶媒に溶液、又は溶液に貧溶媒を加えてもよい。(S)体のジアステレオマー塩の結晶を晶析させる前には、良溶媒中にラセミ型4−〔(4−クロロフェニル)(2−ピリジル)メトキシ〕ピペリジンと光学活性ジカルボンとが溶解した溶液、および混合溶媒は、加熱することもできる。また、加熱した混合溶媒は、冷却して(S)体のジアステレオマー塩の結晶を晶析させることもできる。加熱温度は、40℃以上還流温度以下であることが好ましい。また、冷却到達温度は、混合溶媒の融点より高く、30℃以下とすることが好ましく、さらには、0℃以上25℃以下とすることが好ましい。また、冷却速度は1〜60℃/hrとすることが好ましい。ただし、この方法を用い、前記の好ましい混合溶媒の混合割合、使用量とする場合には、良溶媒中におけるラセミ型4−〔(4−クロロフェニル)(2−ピリジル)メトキシ〕ピペリジンと光学活性ジカルボンの溶解((S)体のジアステレオマー塩の形成)、および混合溶媒中における(S)体のジアステレオマー塩の晶析は、20℃以上30℃以下の温度範囲で実施することも可能となる。
【0048】
前記何れの方法においても、(S)体のジアステレオマー塩を混合溶媒中で晶析させる際は、種晶を使用することもできる。混合溶媒中に(S)体のジアステレオマー塩が晶析した後は、結晶が溶解しない温度で数時間放置(熟成)してもよい。前記方法により混合溶媒中でジアステレオマー塩(結晶)を晶析させた後、分別するには、公知の方法を採用すればよい。具体的には、得られた(S)体のジアステレオマー塩の結晶は、ろ過や遠心分離などにより固液分離し、自然乾燥、送風乾燥、真空乾燥などにより乾燥して単離してやればよい。
【0049】
なお、(S)体のジアステレオマー塩の結晶を固液分離した際のろ液は、アルカリによる塩の分解を行った後、(R)型異性体を回収し、ラセミ化反応などを行い、ラセミ型4−〔(4−クロロフェニル)(2−ピリジル)メトキシ〕ピペリジン回収することも可能である。
【0050】
前記のように(S)体のジアステレオマー塩を形成し、混合溶媒中で晶析させることにより、(S)体のピーク面積が70%以上95%以下、より条件を最適化すれば75%以上95%以下となるジアステレオマー塩を得ることができる。そのため、この(S)体のジアステレオマー塩は、そのまま次の反応にも使用できる。ただし、より高純度の(S)−4−〔(4−クロロフェニル)(2−ピリジル)メトキシ〕ピペリジン、延いては、より高純度の(S)−4−〔(4−クロロフェニル)(2−ピリジル)メトキシ〕ピペリジノブタン酸ベンゼンスルホン酸塩とするためには、得られた(S)体のジアステレオマー塩の光学純度((S)体のピーク面積%)をより高めておくことが好ましい。そのため、得られた(S)体のジアステレオマー塩を前記混合溶媒中で再結晶を繰り返し、純度をより高くすることが好ましい。さらには、より再結晶の回数を減らし、より純度の高い(S)体のジアステレオマー塩とするためには、(S)体のピーク面積が70%以上95%以下となるジアステレオマー塩を炭素数1〜4のアルコール類で再結晶することが好ましい。以下、この再結晶について説明する。なお、再結晶前の(S)体のピーク面積が70%以上95%以下となるジアステレオマー塩を、以下、単に、粗ジアステレオマー塩とする場合もある。
【0051】
(粗ジアステレオマー塩の再結晶)
単離した粗ジアステレオマー塩は、再結晶することにより、さらに純度を高めることができる。再結晶に使用する溶媒は、前記混合溶媒を使用することができる。再結晶溶媒として前記混合溶媒を使用する場合、好ましい溶媒組成としては、前記混合溶媒で例示した混合割合、種類の溶媒を使用することが好ましい。
【0052】
また、再結晶溶媒として炭素数1〜4のアルコール類を使用することもできる。つまり、他の溶媒、例えば、アミド類、エステル類等を含まない炭素数1〜4のアルコール類を再結晶溶媒として使用することができる。なお、この再結晶に使用するアルコール類は、アルコール以外の溶媒が含まれなければ、炭素数1〜4のアルコール類が混合されたものであってもよい。(S)体のジアステレオマー塩を形成する場合に、その溶媒としてアルコール類のみを使用すると収率、光学純度((S)体のピーク面積%)低下等の問題があり、その使用に適していなかった。しかしながら、粗ジアステレオマーの再結晶には、炭素数1〜4のアルコール類を使用することにより、再結晶の回数を減らし、より純度の高い(S)体のジアステレオマー塩を得ることができる。再結晶に使用するアルコール類は、前記混合溶媒で例示したアルコールを使用することができる。中でも、より高い効果を発揮するためには、エタノールを単独で使用することが好ましい。
【0053】
粗ジアステレオマーを再結晶する場合、前記混合溶媒を使用する場合には、特に制限されるものではないが、粗ジアステレオマー1gに対して、20ml以上60ml以下の混合溶媒を使用することが好ましい。また、再結晶時には加熱することもでき、加熱温度は40℃以上還流温度以下とすることが好ましい。また、冷却到達温度は、混合溶媒の融点より高く30℃以下であることが好ましい。冷却速度は1〜60℃/hrとすることが好ましい。混合溶媒による再結晶は、1回だけでなく、所望の光学純度((S)体のピーク面積%)となるまで複数回、繰り返して実施することもできる。また、再結晶時に種結晶を使用することもできる。
【0054】
なお、再結晶溶媒として前記混合溶媒を使用しても、精製ジアステレオマー塩のろ過性が低下することはない。これは、(S)体のジアステレオマー塩の形態が、混合溶媒中で変わらないことが理由であると考えられる。
【0055】
また、粗ジアステレオマーを再結晶する場合、炭素数1〜4のアルコール類単独で再結晶する場合には、粗ジアステレオマー1gに対して、20ml以上60ml以下の該アルコール類を使用することが好ましい。中でも、エタノールを使用することが好ましく、粗ジアステレオマー1gに対して、エタノールを20ml以上60ml以下使用することが好ましい。炭素数1〜4のアルコール類を使用した場合には、再結晶時には加熱することもでき、加熱温度は40℃以上還流温度以下とすることが好ましい。また、冷却到達温度は、混合溶媒の融点より高く30℃以下であることが好ましい。冷却速度は1〜60℃/hrとすることが好ましい。前記アルコール類を単独で使用した場合にも、種結晶を使用することができる。前記アルコール類を単独で使用することにより、再結晶の回数を少なくし、より光学純度((S)体のピーク面積%)の高い(S)体のジアステレオマー塩を製造できる。中でも、エタノールを単独使用することにより、その効果が顕著となる。
【0056】
なお、再結晶溶媒として前記アルコール類を単独で使用しても、精製ジアステレオマー塩のろ過性が低下することはない。一旦、(S)体のジアステレオマー塩とすると、該アルコール類と前記混合溶媒中では、その結晶形態があまり変わらないものと推定される。
【0057】
得られた光学純度((S)体のピーク面積%)の高い結晶は、ろ過や遠心分離などにより固液分離し、自然乾燥、送風乾燥、真空乾燥などにより乾燥することにより単離してやればよい。再結晶して得られる光学純度((S)体のピーク面積%)のより高い(S)体のジアステレオマー塩(以下、単に「精製ジアステレオマー塩」とする場合もある)は、再結晶の条件にもよるが、(S)体のピーク面積が95%を超える純度、さらに好ましくは98.0%以上の純度、特に好ましくは99.0%以上の純度とすることもできる。なお、(S)体のピーク面積%の上限は、100%(検出限界)であることが好ましい。
【0058】
このようにして得られた精製ジアステレオマー塩は、アルカリにより分解することにより、光学純度((S)体のピーク面積%)の高い(S)−4−〔(4−クロロフェニル)(2−ピリジル)メトキシ〕ピペリジンとすることができる。そして、この(S)−4−〔(4−クロロフェニル)(2−ピリジル)メトキシ〕ピペリジンから(S)−4−〔(4−クロロフェニル)(2−ピリジル)メトキシ〕ピペリジノブタン酸エチルを得、その後、(S)−4−〔(4−クロロフェニル)(2−ピリジル)メトキシ〕ピペリジノブタン酸、(S)−4−〔(4−クロロフェニル)(2−ピリジル)メトキシ〕ピペリジノブタン酸ベンゼンスルホン酸塩を製造することができる。以下、これらの製造について説明する。
【0059】
(S)−4−〔(4−クロロフェニル)(2−ピリジル)メトキシ〕ピペリジンの製造方法
前記粗ジアステレオマー塩、および前記精製ジアステレオマー塩は、アルカリを使用した方法により分解して(S)−4−〔(4−クロロフェニル)(2−ピリジル)メトキシ〕ピペリジンとすることができる。
【0060】
使用するアルカリは、試薬或いは工業原料が何ら制限なく使用できる。これらを具体的に例示すると、アルカリ金属の水酸化物、例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどが挙げられる。この場合のアルカリ使用量は、光学活性ジカルボン酸 1モルに対して
、2モル以上3モル以下であればよい。アルカリは水溶液にして使用することが好ましい。この場合のアルカリ水溶液濃度は、0.01mol/L以上10mol/L以下の水溶液を使用することが好ましい。
【0061】
ジアステレオマー塩をアルカリにより分解するには、両者を接触させてやればよい。その接触方法は、特に制限はなく、アルカリ水溶液にジアステレオマー塩を直接加えてもよいし、ジアステレオマー塩にアルカリ水溶液を加えてもよい。または、水に難溶な有機溶媒にジアステレオマー塩を溶解させ、該溶液とアルカリ水溶液とを混合することもできる。アルカリとジアステレオマー塩とを接触させる際の温度は、発熱が起こるため低い方がよく、5℃以上30℃以下の範囲であることが好ましい。ジアステレオマー塩の分解に要する時間は、特に制限されるものではなく、ジアステレオマー塩がアルカリと反応すると、オイルになるか、有機溶媒が共存する場合は、澄明な二層となるので目視でも判別が可能である。
【0062】
アルカリによりジアステレオマー塩を分解した後、水層から有機溶媒で分解物を抽出することにより、(S)−4−〔(4−クロロフェニル)(2−ピリジル)メトキシ〕ピペリジンを取り出すことができる。抽出に使用する有機溶媒を具体的に例示すると、酢酸メチル、酢酸エチルなどのエステル類、ジクロロメタン、クロロホルムなどのハロゲン化炭化水素類、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテルなどのエーテル類、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類など挙げられる。該有機溶媒で抽出された(S)−4−〔(4−クロロフェニル)(2−ピリジル)メトキシ〕ピペリジンは、乾燥、濃縮などの工程を経て、取り出すことができる。
【0063】
次に、(S)−4−〔(4−クロロフェニル)(2−ピリジル)メトキシ〕ピペリジノブタン酸エチルの製造方法について説明する。
【0064】
(S)−4−〔(4−クロロフェニル)(2−ピリジル)メトキシ〕ピペリジノブタン酸エチルの製造方法
前記方法により得られた(S)−4−〔(4−クロロフェニル)(2−ピリジル)メトキシ〕ピペリジンから(S)−4−〔(4−クロロフェニル)(2−ピリジル)メトキシ〕ピペリジノブタン酸エチルを製造する方法は、公知の方法を採用することができる。例えば、特開平10−237070号公報に記載の方法を採用すればよい。
【0065】
具体的には、アルカリ存在下、4−フロオロブタン酸エチル、4−クロロブタン酸エチル、4−ブロモブタン酸エチルのような4−ハロゲノブタン酸エチルと(S)−4−〔(4−クロロフェニル)(2−ピリジル)メトキシ〕ピペリジンとを反応させればよい。使用する4−ハロゲノブタン酸エチルは、試薬或いは工業原料が何ら制限なく使用できる。反応性、入手しやすさなどを考慮すると、4−ブロモブタン酸エチルを使用することが好ましい。
【0066】
4−ハロゲノブタン酸エチルの使用量は、使用する(S)−4−〔(4−クロロフェニル)(2−ピリジル)メトキシ〕ピペリジン 1モルに対して、1モル以上3モル以下、好ましくは1モル以上2モル以下とすることが好ましい。
【0067】
この反応で使用するアルカリは、試薬或いは工業原料が何ら制限なく使用できる。これらを具体的に例示すると、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどが挙げられる。これらの中でも、炭酸ナトリウム、炭酸カリウムが好適に使用される。特に、体積平均粒度(d50)が100μm未満の細粒を用いると効果的である。アルカリの使用量は、あまり少ないと反応速度が低下し、あまり多くても不純物増加が考えられるため、(S)−4−〔(4−クロロフェニル)(2−ピリジル)メトキシ〕ピペリジン 1モルに対して、0.5モル以上5モル以下、好適には0.6モル以上3モル以下であることが好ましい。
【0068】
この反応においては、有機溶媒中で実施することが好ましい。使用される溶媒は、(S)−4−〔(4−クロロフェニル)(2−ピリジル)メトキシ〕ピペリジンと4−ハロゲノブタン酸エチルとの反応を阻害しない溶媒であれば特に制限されるものではい。具体的には、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類、N,N’−ジメチルホルムアミド、N,N’−ジメチルアセトアミドなどのアミド類、ジクロロメタン、クロロホルムなどのハロゲン化炭化水素類、1,2−ジオキサン、テトラヒドロフランなどのエーテル類などが挙げられる。これらの中でも、反応性を考慮すると、ケトン類、アミド類が好適に使用できる。
【0069】
反応温度は、あまり低いと反応速度が低下し、あまり高くても不純物が増加するおそれがあるため、20℃以上100℃以下、好ましくは30℃以上80℃以下の範囲内で行われる。反応後、必要に応じて、アルカリをろ過し、有機溶媒を留去することにより、(S)−4−〔(4−クロロフェニル)(2−ピリジル)メトキシ〕ピペリジノブタン酸エチルを得ることができる。
【0070】
得られた(S)−4−〔(4−クロロフェニル)(2−ピリジル)メトキシ〕ピペリジノブタン酸エチルは、加水分解することにより(S)−4−〔(4−クロロフェニル)(2−ピリジル)メトキシ〕ピペリジノブタン酸とすることができる。
【0071】
(S)−4−〔(4−クロロフェニル)(2−ピリジル)メトキシ〕ピペリジノブタン酸の製造方法
(S)−4−〔(4−クロロフェニル)(2−ピリジル)メトキシ〕ピペリジノブタン酸エチルを加水分解する方法は、特に制限されるものではなく、公知の方法を採用することができる。例えば、特開平10−237070号公報に記載の方法を採用することができる。具体的には、酸、又はアルカリのいずれかの条件下で実施することができる。中でも、副反応などを考慮すると、アルカリ条件下が好ましい。使用するアルカリは、試薬或いは工業原料が何ら制限なく使用できる。これらを具体的に例示すると、アルカリ金属の水酸化物、例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどが挙げられる。使用するアルカリは、水溶液として使用することが好ましく、0.01mol/L以上10mol/L以下の水溶液を使用することが好ましい。
【0072】
また、加水分解を行う際は、(S)−4−〔(4−クロロフェニル)(2−ピリジル)メトキシ〕ピペリジノブタン酸エチルを有機溶媒に溶解して行うことが好ましいが、使用する溶媒は、メタノール、エタノールなどのアルコール類、アセトニトリル、プロピオニトリルなどのニトリル類、ジクロロメタン、クロロホルムなどのハロゲン化炭化水素類などが挙げられる。これら有機溶媒に溶解した(S)−4−〔(4−クロロフェニル)(2−ピリジル)メトキシ〕ピペリジノブタン酸エチルとアルカリ水溶液とを混合することにより、加水分解反応を実施することができる。
【0073】
加水分解時の反応温度は、あまり低いと反応速度が低下し、あまり高くても不純物が増加する恐れがあるため、0℃以上60℃以下、好ましくは10℃以上50℃以下の範囲内で行われる。反応後、有機溶媒を留去し、中和処理、抽出、洗浄等の操作を行い、(S)−4−〔(4−クロロフェニル)(2−ピリジル)メトキシ〕ピペリジノブタン酸を得ることができる。
【0074】
得られた(S)−4−〔(4−クロロフェニル)(2−ピリジル)メトキシ〕ピペリジノブタン酸は、ベンゼンスルホン酸と反応させ、(S)−4−〔(4−クロロフェニル)(2−ピリジル)メトキシ〕ピペリジノブタン酸ベンゼンスルホン酸塩とすることができる。
【0075】
(S)−4−〔(4−クロロフェニル)(2−ピリジル)メトキシ〕ピペリジノブタン酸ベンゼンスルホン酸塩の製造方法
前記方法で得られた(S)−4−〔(4−クロロフェニル)(2−ピリジル)メトキシ〕ピペリジノブタン酸は、ベンゼンスルホン酸と反応させることにより、(S)−4−〔(4−クロロフェニル)(2−ピリジル)メトキシ〕ピペリジノブタン酸ベンゼンスルホン酸塩とすることができる。
【0076】
この反応も、特に制限されるものではなく、公知の方法、例えば、特開平10−237070号公報に記載の方法を採用することができる。
【0077】
この反応において使用するベンゼンスルホン酸は、試薬或いは工業原料が何ら制限なく使用でき、無水物、水和物が使用できる。これらの使用量は、(S)−4−〔(4−クロロフェニル)(2−ピリジル)メトキシ〕ピペリジノブタン酸 1モルに対して、0.7モル以上1.5モル以下、好ましくは0.8モル以上1.2モル以下である。
【0078】
この反応も有機溶媒中で実施することが好ましいが、使用する有機溶媒は、酢酸メチル、酢酸エチルなどのエステル類、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類、アセトニトリル、プロピオニトリルなどのニトリル類、ジクロロメタン、クロロホルムなどのハロゲン化炭化水素類、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類、ヘキサン、ヘプタンなどの脂肪族炭化水素類などが挙げられる。
【0079】
反応温度は、あまり低いと反応速度が低下し、あまり高くても不純物が増加する恐れがあるため、0℃以上100℃以下、好ましくは10℃以上90℃以下の範囲内で行われる。反応後、得られた結晶は、ろ過、乾燥を行い、(S)−4−〔(4−クロロフェニル)(2−ピリジル)メトキシ〕ピペリジノブタン酸ベンゼンスルホン酸塩を得ることができる。
【0080】
このようにして得られた(S)−4−〔(4−クロロフェニル)(2−ピリジル)メトキシ〕ピペリジノブタン酸ベンゼンスルホン酸塩は、純度の高い原料、すなわち、光学純度((S)体のピーク面積%)が非常に高い(S)体のジアステレオマー塩を原料にして製造されているため、光学純度((S)体のピーク面積%)が非常に高く、原薬として非常に有用なものとなる。
【実施例】
【0081】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって制限されるものではない。
【0082】
なお、実施例、比較例で得られた(S)型と(R)型の4−〔(4−クロロフェニル)(2−ピリジル)メトキシ〕ピペリジン含有量の測定は、以下の高性能液体クロマトグラフィーにより行った。
【0083】
<(S)型と(R)型の4−〔(4−クロロフェニル)(2−ピリジル)メトキシ〕ピペリジンの含有量の測定>
装置:WATERS社製 型式2695−2489−996。
検出器:紫外吸光光度計(測定波長:220nm)。
カラム:信和化工株式会社製 商品名 ULTORON−ES−OUM、内径4.6mm、長さ15cm(粒子径5μm)。
カラム温度:30℃ 一定温度。
サンプル温度:25℃ 一定温度。
移動相:アセトニトリル/20mMKHPO水溶液(pH5.5)=10/100。
流量:1.2ml/分。
【0084】
実施例1
(粗ジアステレオマー塩の製造)
500ml4つ口フラスコにラセミ型4−〔(4−クロロフェニル)(2−ピリジル)メトキシ〕ピペリジンを10g(33.0mmol、(S)型異性体のピーク面積50.5%)投入し、N,N’−ジメチルホルムアミド(DMF)50ml加え、25℃溶解させた。次いで、ジ−p−トルオイル−D−酒石酸3.83g(9.91mmol)加え、撹拌しながら溶解させた。次に、この溶液に25℃でイソプロパノール400ml投入したところ、結晶が析出し始めた。25℃で18時間熟成し、(S)−4−〔(4−クロロフェニル)(2−ピリジル)メトキシ〕ピペリジンとジ−p−トルオイル−D−酒石酸とのジアステレオマー塩(粗ジアステレオマー塩)を晶析させた。
【0085】
得られた粗ジアステレオマー塩の結晶を、90mmヌッチェにろ紙No.5Cを使用して、アスピレーターで真空0.02Mpaに引いてろ過したところ、約1分間で液切れが完了した。その後、イソプロパノール20mlで2回洗浄し、乾燥させた。得られた粗ジアステレオマー塩は、9.87g(粗結晶取得収率58.3%)であった。また、(S)体のピーク面積は85.6%であった。
【0086】
(再結晶:精製ジアステレオマー塩の製造)
前記粗ジアステレオマー塩の結晶9.87gにエタノール395mlを加え、撹拌下70℃で溶解させ、20℃/hrで冷却した。結晶が50℃付近で析出し始めた。5℃まで冷却し、5℃で1hr熟成後、90mmヌッチェにろ紙No.5Cを使用して、アスピレーターで真空0.02Mpaに引いてろ過したところ、約1分間で液切れが完了した。その後、エタノール10mlで2回洗浄し、乾燥させた。
【0087】
(S)−4−〔(4−クロロフェニル)(2−ピリジル)メトキシ〕ピペリジンとジ−p−トルオイル−D−酒石酸の塩(精製ジアステレオマー塩)の結晶4.94g(晶析収率50.1%、ラセミ型4−〔(4−クロロフェニル)(2−ピリジル)メトキシ〕ピペリジンからの収率30.2%)得られ、(S)体のピーク面積は99.8%であった。
【0088】
(精製ジアステレオマー塩のアルカリによる分解(フリー化))
前記精製ジアステレオマー塩の結晶4.94gを2mol/L水酸化ナトリウム水溶液10.5mlに分散させ、クロロホルム12mlで抽出した。クロロホルム層を水で洗浄後、留去し、(S)−4−〔(4−クロロフェニル)(2−ピリジル)メトキシ〕ピペリジン3.0g(フリー化収率100%)を得た。(S)体のピーク面積は99.8%であった。
【0089】
実施例2
(粗ジアステレオマー塩の製造)
実施例1において、ジ−p−トルオイル−D−酒石酸3.83g(9.91mmol)に代えて、ジ−p−アニソイル−D−酒石酸4.15g(9.91mmol)を使用した以外は、実施例1と同様の操作を行った。その結果、90mmヌッチェにろ紙No.5Cを使用して、アスピレーターで真空0.02Mpaに引いてろ過したところ、約1分間で液切れが完了し、乾燥後(S)−4−〔(4−クロロフェニル)(2−ピリジル)メトキシ〕ピペリジンとジ−p−アニソイル−D−酒石酸の塩の粗結晶(粗ジアステレオマー塩)8.99g(粗結晶取得収率53.2%)得た。(S)体のピーク面積は85.8%であった。
【0090】
(再結晶:精製ジアステレオマー塩の製造)
前記粗ジアステレオマー塩の結晶8.99gにエタノール360mlを加え、撹拌下70℃で溶解させ、20℃/hrで冷却した。結晶が45℃付近で析出し始めた。5℃まで冷却し、5℃で1hr熟成後、90mmヌッチェにろ紙No.5Cを使用して、アスピレーターで真空0.02Mpaに引いてろ過したところ、約1分間で液切れが完了した。その後、エタノール9mlで2回洗浄し、乾燥させた。
【0091】
(S)−4−〔(4−クロロフェニル)(2−ピリジル)メトキシ〕ピペリジンとジ−p−アニソイル−D−酒石酸の塩の結晶(精製ジアステレオマー塩)4.42g(晶析収率49.2%、ラセミ型4−〔(4−クロロフェニル)(2−ピリジル)メトキシ〕ピペリジンからの収率26.2%)得られ、(S)体のピーク面積は99.8%であった。
【0092】
(精製ジアステレオマー塩のアルカリによる分解(フリー化))
前記精製ジアステレオマー塩の結晶4.42gを2mol/L水酸化ナトリウム水溶液10.5mlに分散させ、クロロホルム12mlで抽出した。クロロホルム層を水で洗浄後、留去し、(S)−4−〔(4−クロロフェニル)(2−ピリジル)メトキシ〕ピペリジン2.6g(フリー化収率100%)を得た。(S)体のピーク面積は99.8%であった。
【0093】
実施例3
(粗ジアステレオマー塩の製造)
実施例1において、ジ−p−トルオイル−D−酒石酸3.83g(9.91mmol)に代えて、(1R、2R)−シクロヘキサンジカルボン酸1.71g(9.91mmol)を使用した以外は、実施例1と同様の操作を行った。その結果、90mmヌッチェにろ紙No.5Cを使用して、アスピレーターで真空0.02Mpaに引いてろ過したところ、約1分間で液切れが完了し、乾燥後(S)−4−〔(4−クロロフェニル)(2−ピリジル)メトキシ〕ピペリジンと(1R、2R)−シクロヘキサンジカルボン酸の塩の粗結晶(粗ジアステレオマー塩)6.29g(粗結晶取得収率40.1%)得た。(S)体のピーク面積は91.3%であった。
【0094】
(再結晶:精製ジアステレオマー塩の製造)
前記粗ジアステレオマー塩の結晶6.29gにエタノール250mlを加え、撹拌下70℃で溶解させ、20℃/hrで冷却した。結晶が45℃付近で析出し始めた。5℃まで冷却し、5℃で1hr熟成後、90mmヌッチェにろ紙No.5Cを使用して、アスピレーターで真空0.02Mpaに引いてろ過したところ、約1分間で液切れが完了した。その後、エタノール6.5mlで2回洗浄し、乾燥させた。
【0095】
(S)−4−〔(4−クロロフェニル)(2−ピリジル)メトキシ〕ピペリジンと(1R、2R)−シクロヘキサンジカルボン酸の塩の結晶(精製ジアステレオマー塩)3.34g(晶析収率53.1%、ラセミ型4−〔(4−クロロフェニル)(2−ピリジル)メトキシ〕ピペリジンからの収率21.3%)得られ、(S)体のピーク面積は99.8%であった。
【0096】
(精製ジアステレオマー塩のアルカリによる分解(フリー化))
前記精製ジアステレオマー塩の結晶3.34gを2mol/L水酸化ナトリウム水溶液10.5mlに分散させ、クロロホルム12mlで抽出した。クロロホルム層を水で洗浄後、留去し、(S)−4−〔(4−ハロゲノフェニル)(2−ピリジル)メトキシ〕ピペリジン2.1g(フリー化収率100%)を得た。(S)体のピーク面積は99.8%であった。
【0097】
実施例4〜10
実施例1の粗ジアステレオマー塩の製造において、イソプロパノール400mlとN,N’−ジメチルホルムアミド(DMF)50mlに代えて、表1の溶媒、およびその使用量とした以外は、実施例1と同様の操作を行った。その結果を表1に示した。
【0098】
実施例4、5、9、および10は、メタノールにラセミ型4−〔(4−クロロフェニル)(2−ピリジル)メトキシ〕ピペリジン、ジ−p−トルオイル−D−酒石酸を溶解させた後、酢酸エチル(実施例4)、酢酸ブチル(実施例5)、又は酢酸エチル(実施例9、10)を加えて粗ジアステレオマー塩を晶析させた。
【0099】
実施例6、7、および8は、N,N’−ジメチルアセトアミド(DMA:実施例6)、又はN,N’−ジメチルホルムアミド(DMF:実施例7、8)にラセミ型4−〔(4−クロロフェニル)(2−ピリジル)メトキシ〕ピペリジン、ジ−p−トルオイル−D−酒石酸を溶解させた後、イソプロノールを加えて粗ジアステレオマー塩を晶析させた。
【0100】
【表1】

【0101】
実施例11〜18
実施例2の粗ジアステレオマー塩の製造において、イソプロパノール400mlとN,N’−ジメチルホルムアミド(DMF)50mlに代えて、表2の溶媒、およびその使用量とした以外は、実施例2と同様の操作を行った。その結果を表2に示した。
【0102】
実施例11、17、および18は、メタノールにラセミ型4−〔(4−クロロフェニル)(2−ピリジル)メトキシ〕ピペリジン、ジ−p−トルオイル−D−酒石酸を溶解させた後、酢酸エチルを加えて粗ジアステレオマー塩を晶析させた。
【0103】
実施例12は、N,N’−ジメチルアセトアミド(DMA)にラセミ型4−〔(4−クロロフェニル)(2−ピリジル)メトキシ〕ピペリジン、ジ−p−トルオイル−D−酒石酸を溶解させた後、イソプロパノールを加えて粗ジアステレオマー塩を晶析させた。
【0104】
実施例13、14、15、および16は、N,N’−ジメチルホルムアミド(DMF)にラセミ型4−〔(4−クロロフェニル)(2−ピリジル)メトキシ〕ピペリジン、ジ−p−トルオイル−D−酒石酸を溶解させた後、n−プロパノール(実施例13)、tert−ブタノール(実施例14)、又はイソプロパノール(実施例15、16)を加えて粗ジアステレオマー塩を晶析させた。
【0105】
【表2】

【0106】
実施例19〜24
実施例3の粗ジアステレオマー塩の製造において、イソプロパノール400mlとN,N’−ジメチルホルムアミド(DMF)50mlに代えて、表3の溶媒、およびその使用量とした以外は、実施例3と同様の操作を行った。その結果を表3に示した。
【0107】
実施例19、23、および24は、メタノールにラセミ型4−〔(4−クロロフェニル)(2−ピリジル)メトキシ〕ピペリジン、ジ−p−トルオイル−D−酒石酸を溶解させた後、酢酸エチルを加えて粗ジアステレオマー塩を晶析させた。
【0108】
実施例20、21、および22は、N,N’−ジメチルアセトアミド(DMA:実施例20)、又はN,N’−ジメチルホルムアミド(DMF:実施例21、22)にラセミ型4−〔(4−クロロフェニル)(2−ピリジル)メトキシ〕ピペリジン、ジ−p−トルオイル−D−酒石酸を溶解させた後、イソプロパノールを加えて粗ジアステレオマー塩を晶析させた。
【0109】
【表3】

【0110】
実施例25〜28
実施例4で得られた粗ジアステレオマー塩1gを用いて、実施例1と同様の再結晶(実施例25)を行った。また、実施例4で得られた粗ジアステレオマー塩1gを用いて、実施例1の再結晶においてエタノールに代えて、表4の溶媒、およびその使用量として再結晶を行った以外は、実施例1と同様の操作を行った(実施例26〜28)。その結果を表4に示した。
【0111】
【表4】

【0112】
実施例29
実施例1で得られた(S)−4−〔(4−クロロフェニル)(2−ピリジル)メトキシ〕ピペリジン1.33g(4.39mmol)をアセトン15mlに溶解し、4−ブロモブタン酸エチル1.03g(5.27mmol)と炭酸カリウム0.73g(5.27mmol)を加えて、7時間加熱還流した。不溶物をろ過し、ろ液を減圧下濃縮して、エタノール11ml加え、溶液中の(S)−4−〔(4−クロロフェニル)(2−ピリジル)メトキシ〕ピペリジノブタン酸エチルの定量及び(S)体の純度を測定したところ1.82g(収率99.5%、(S)体のピーク面積99.8%)で得られた。
【0113】
実施例30
実施例29で得られた(S)−4−〔(4−クロロフェニル)(2−ピリジル)メトキシ〕ピペリジノブタン酸エチルのエタノール溶液に、5mol/L水酸化ナトリウム1.74ml加えて、撹拌下、室温で一夜放置した。原料消失を確認した後、5mol/L塩酸1.75ml加えて中和した。析出塩をろ別後、ろ液を濃縮し、酢酸エチル45mlで2回抽出した。得られた溶液を定量及び(S)体の純度を測定したところ(S)−4−〔(4−クロロフェニル)(2−ピリジル)メトキシ〕ピペリジノブタン酸1.69g(収率99.6%、(S)体のピーク面積99.8%)で得られた。
【0114】
実施例31
実施例30で得られた(S)−4−〔(4−クロロフェニル)(2−ピリジル)メトキシ〕ピペリジノブタン酸の酢酸エチル溶液に、ベンゼンスルホン酸一水和物0.68g(3.84mmol)加えて溶かし、溶媒を濃縮した。残渣に酢酸エチル85ml加えて、撹拌下1週間程度放置した。結晶をろ別後、アセトニトリル17ml加え、再結晶を行い、(S)−4−〔(4−クロロフェニル)(2−ピリジル)メトキシ〕ピペリジノブタン酸ベンゼンスルホン酸塩を1.66g(収率70%)得た。(S)体の純度を測定したところ(S)体のピーク面積99.8%であった。
【0115】
参考例1
(光学分割)
500ml4つ口フラスコにラセミ型4−〔(4−クロロフェニル)(2−ピリジル)メトキシ〕ピペリジンを10g(33.0mmol、(S)型異性体((S)体のピーク面積50.5%)投入し、酢酸エチル390ml加え、25℃溶解させた。次いで、N−アセチル−L−フェニルアラニン4.1g(19.8mmol)加え、加熱撹拌し、溶解させた後、室温まで冷却して結晶化させた。この結晶を90mmヌッチェにろ紙No.5Cを使用して、アスピレーターで真空0.02Mpaに引いて、ろ過したところ、約20分間かかって液切れが完了した。その後、酢酸エチル20mlで2回洗浄し、乾燥させた。(S)−4−〔(4−クロロフェニル)(2−ピリジル)メトキシ〕ピペリジンとN−アセチル−L−フェニルアラニンの塩の結晶6.19g(ラセミ型4−〔(4−クロロフェニル)(2−ピリジル)メトキシ〕ピペリジンからの収率37.4%)得た。(S)体のピーク面積は94.9%であった。
【0116】
比較例1〜12(他の溶媒を使用したときの光学分割)
実施例1の粗ジアステレオマー塩の製造において、イソプロパノール400mlとN,N’−ジメチルホルムアミド50mlに代えて、表5の溶媒、およびその使用量とした以外は、実施例1と同様の操作を行った。その結果を表5に示した。
【0117】
比較例1〜8は、有機溶媒1にラセミ型4−〔(4−クロロフェニル)(2−ピリジル)メトキシ〕ピペリジン、ジ−p−トルオイル−D−酒石酸を溶解させた後、有機溶媒2を加えて粗ジアステレオマー塩を晶析させた例である。
【0118】
比較例9〜12は、表5に示した単独溶媒中で粗ジアステレオマー塩を形成、晶析させた例である。
【0119】
【表5】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素数1〜4のアルコール類と、アミド類、及びエステル類から選ばれる溶媒との混合溶媒中、下記式(1)
【化1】

で示されるラセミ型4−〔(4−クロロフェニル)(2−ピリジル)メトキシ〕ピペリジンに、ジ−p−トルオイル−D−酒石酸、ジ−p−アニソイル−D−酒石酸、及び(1R,2R)−シクロヘキサンジカルボン酸から選ばれる光学活性ジカルボン酸を作用させ、得られた(S)−4−〔(4−クロロフェニル)(2−ピリジル)メトキシ〕ピペリジンのジアステレオマー塩を該混合溶媒中で晶析させた後、該ジアステレオマー塩を分別することを特徴とする(S)−4−〔(4−クロロフェニル)(2−ピリジル)メトキシ〕ピペリジンのジアステレオマー塩の製造方法。
【請求項2】
前記混合溶媒が、炭素数1〜4のアルコール類100容量部に対して、アミド類、及びエステル類から選ばれる溶媒を2.5容量部以上1500容量部以下含むことを特徴とする請求項1に記載の(S)−4−〔(4−クロロフェニル)(2−ピリジル)メトキシ〕ピペリジンのジアステレオマー塩の製造方法。
【請求項3】
前記混合溶媒が、炭素数2〜4のアルコール類と、N,N’−ジメチルホルムアミド、及びN,N’−ジメチルアセトアミドから選ばれるアミド類とを含み、炭素数2〜4のアルコール類100容量部に対して、該アミド類を2.5容量部以上30容量部以下含むことを特徴とする請求項2に記載の(S)−4−〔(4−クロロフェニル)(2−ピリジル)メトキシ〕ピペリジンのジアステレオマー塩の製造方法。
【請求項4】
前記混合溶媒が、メタノールとエステル類とを含み、メタノール100容量部に対して、該エステル類を500容量部以上1500容量部以下含むことを特徴とする請求項2に記載の(S)−4−〔(4−クロロフェニル)(2−ピリジル)メトキシ〕ピペリジンのジアステレオマー塩の製造方法。
【請求項5】
請求項1に記載の方法により(S)−4−〔(4−クロロフェニル)(2−ピリジル)メトキシ〕ピペリジンのジアステレオマー塩を製造した後、得られたジアステレオマー塩を炭素数1〜4のアルコール類中で晶析させることを特徴とする(S)−4−〔(4−クロロフェニル)(2−ピリジル)メトキシ〕ピペリジンのジアステレオマー塩の製造方法。
【請求項6】
請求項1に記載の方法により(S)−4−〔(4−クロロフェニル)(2−ピリジル)メトキシ〕ピペリジンのジアステレオマー塩を製造した後、得られた該ジアステレオマー塩をアルカリにより分解することを特徴とする(S)−4−〔(4−クロロフェニル)(2−ピリジル)メトキシ〕ピペリジンの製造方法。
【請求項7】
請求項6に記載の方法により(S)−4−〔(4−クロロフェニル)(2−ピリジル)メトキシ〕ピペリジンを製造した後、得られた(S)−4−〔(4−クロロフェニル)(2−ピリジル)メトキシ〕ピペリジンと4−ハロゲノブタン酸エチルとを反応させることを特徴とする(S)−4−〔(4−クロロフェニル)(2−ピリジル)メトキシ〕ピペリジノブタン酸エチルの製造方法。
【請求項8】
請求項7に記載の方法により(S)−4−〔(4−クロロフェニル)(2−ピリジル)メトキシ〕ピペリジノブタン酸エチルを製造した後、得られた(S)−4−〔(4−クロロフェニル)(2−ピリジル)メトキシ〕ピペリジノブタン酸エチルを加水分解することを特徴とする(S)−4−〔(4−クロロフェニル)(2−ピリジル)メトキシ〕ピペリジノブタン酸の製造方法。
【請求項9】
請求項8に記載の方法により(S)−4−〔(4−クロロフェニル)(2−ピリジル)メトキシ〕ピペリジノブタン酸を製造した後、得られた(S)−4−〔(4−クロロフェニル)(2−ピリジル)メトキシ〕ピペリジノブタン酸とベンゼンスルホン酸とを反応させることを特徴とする(S)−4−〔(4−クロロフェニル)(2−ピリジル)メトキシ〕ピペリジノブタン酸ベンゼンスルホン酸塩の製造方法。

【公開番号】特開2012−25705(P2012−25705A)
【公開日】平成24年2月9日(2012.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−167053(P2010−167053)
【出願日】平成22年7月26日(2010.7.26)
【出願人】(000003182)株式会社トクヤマ (839)
【Fターム(参考)】