説明

1‐アミノシクロプロパンカルボン酸等を主成分とする脳卒中又は脳卒中後遺症の予防用又は治療用薬剤

【課題】新しい脳卒中又は脳卒中後遺症の予防用又は治療用薬剤を提供すること。
【解決手段】1‐アミノシクロプロパンカルボン酸及びそのプロドラッグ、ならびに薬学的に許容することのできるそれらの塩およびそれらの水和物から選ばれる化合物を主成分とする脳卒中又は脳卒中後遺症の予防用又は治療用薬剤を開発した。例えば、1‐アミノシクロプロパンカルボン酸塩酸塩一水和物は、急性毒性の100分の1以下の50ミリグラム/キログラム投与により、脳卒中発症を9割抑え、脳卒中発症の場合も、その後遺症は軽い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新しい脳卒中又は脳卒中後遺症の予防用又は治療用薬剤に関する。
【背景技術】
【0002】
平成13年度の厚生労働省の統計によれば、介護を要する65歳以上の高齢者94,750人に対し、介護が必要になった主な原因の1位は脳卒中等脳血管疾患24,749人、2位は骨折11,744人、3位は痴呆10,659人であり、脳卒中等脳血管疾患が飛びぬけて多い。脳卒中又は脳卒中後遺症の予防用又は治療用薬剤の開発が強く望まれる。
高齢者の高血圧症患者、糖尿病患者、高脂血症患者は脳卒中を起こしやすい。そこで、脳卒中又は脳卒中後遺症の予防として、脳卒中又は脳卒中後遺症の原因たる高血圧症を降圧剤で、糖尿病を抗糖尿病剤で、高脂血症を抗脂血剤で管理する方法が取られているが、脳卒中又は脳卒中後遺症の発生を十分には防いでいない。
そこで、種々のアプローチに脳卒中又は脳卒中後遺症の予防用又は治療用薬剤の開発研究が行われている。例えば、トロンボキサンA2合成阻害剤によるアテローム動脈硬化性脳卒中の血栓症状の治療(特許文献1)、血圧を低下させない用量で脳卒中の再発防止剤(特許文献2)、NR2Bサブタイプ選択的NMDA受容体アンタゴニストを種々の薬剤と組み合わせる脳卒中治療法(特許文献3)、ホスファチジルコリンを有効成分とする脳卒中予防剤(特許文献4)、アホエンを有効成分とする過酸化物を減少させることによる脳卒中予防剤(特許文献5)、キサンチンを有効成分とする脳卒中予防剤(特許文献6)、ジオキサンシクロ[3,3,0]オクタン誘導体を有効成分とする高血圧症状の改善による脳卒中予防剤(特許文献7)等が公表されている。しかし、未だ十分ではなく、新しい脳卒中又は脳卒中後遺症の予防用又は治療用薬剤の開発が望まれている。
【0003】
一方、1‐アミノシクロプロパンカルボン酸、別名アルファ‐アミノシクロプロパンカルボン酸(英語名:1−aminocyclopropanecarboxylic・acid。以下、略称ACCで表す。)は濃縮果物汁より抽出した天然物質(非特許文献1)で、無臭・水溶性の白色結晶体であり、植物成長調節剤の1種で、1個のアミノ基と1個のカルボン酸と1個の3員環を有する。ACCは、植物抽出法の他、合成法(特許文献8、非特許文献2−4)からも得られる。
ACCは、植物成長調節作用、エタノール消費作用(非特許文献5)の他、N‐メチル-D-アスパラギン酸(以下、NMDAと略称する。)受容体複合体のストリキニン非感受性グリシン受容体部位の部分アゴニストであり(非特許文献6)、かつ、グルタミン酸受容体部位のアンタゴニストである(非特許文献7)。ACCは、NMDAにより誘導される海馬神経の変性を抑え(非特許文献8)、NMDA毒性に対し脊髄神経を保護し(非特許文献9)、NMDA受容体を介して記憶を改良し(特許文献9)、病巣虚血、広範囲虚血及び脊髄虚血による神経障害を予防するが、ACCの長期投与によりNMDA受容体のメッセンジャーRNAの発現が減少し、薬効が減少する(非特許文献10)。従って、ACCはNMDA受容体に作用して神経を保護するが持続せず、脳卒中又は脳卒中後遺症を予防又は治療しないと思われた。
【0004】
以下に先行文献を特許文献と非特許文献に分けて表示する。
【特許文献1】特開2003−26660号公報
【特許文献2】特開2002−370981号公報
【特許文献3】特開2002−322095号公報
【特許文献4】特開2000−239168号公報
【特許文献5】特開平11−228396号公報
【特許文献6】特開平10−182469号公報
【特許文献7】特開平8−268887号公報
【特許文献8】特開平7−278077号公報
【特許文献9】特開平8−510990号公報
【非特許文献1】L.F.Burroughs、Nature,1957年179巻360頁
【非特許文献2】A.Connorsら、J.Chem.Soc.1960年2129頁
【非特許文献3】E.Bunuelら、Synlett.1992年7巻579頁
【非特許文献4】X.Zhuら、Synthetic Communication 1998年28巻17号3159頁
【非特許文献5】B.A.McMillenら、Brain・Res.Bull.2004年64巻3号279頁
【非特許文献6】R.Trullasら、Pharmacol.Biochem.Behav.1989年34巻2号313頁
【非特許文献7】R.Nahum‐Levyら、Molecular・Pharmacology、1989年56巻1207頁
【非特許文献8】A.Zapataら、Neuroreport.1996年7巻2号397頁
【非特許文献9】Y.Linら、Eur.J.Pharmacol.1996年318巻2-3号491頁
【非特許文献10】S.Bovettoら、Am.Soc.for・Pharmacol.Exp.Therap.1997年293巻3号1503頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、新しい脳卒中又は脳卒中後遺症の予防用又は治療用薬剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そこで、今回、発明者等はACCを用いて脳卒中易発症ラットSHRSPにおける血圧の降圧作用、脳卒中発症率、脳卒中後遺症の重傷度、主要臓器及び寿命への影響を対照ラットと比較検討し、ACCが脳卒中易発症ラットSHRSPの脳卒中又は脳卒中後遺症の予防又は治療に著しい効果があることを確認し、この結果を基に更に種々研究した結果、本発明を完成した。
【0007】
すなわち、本発明は、「新しい脳卒中又は脳卒中後遺症の予防用又は治療用薬剤を提供する」という課題に対し、「ACC及びそのプロドラッグ、ならびに薬学的に許容することのできるそれらの塩およびそれらの水和物から選ばれる化合物を主成分とする脳卒中又は脳卒中後遺症の予防用又は治療用薬剤」を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の薬剤は、脳卒中又は脳卒中後遺症の予防用又は治療用薬剤として有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明は新しい脳卒中又は脳卒中後遺症の予防用又は治療用薬剤の発明である。本発明の薬剤の主成分はACC及びそのプロドラッグ、ならびに薬学的に許容することのできるそれらの塩およびそれらの水和物から選ばれる化合物である。
【0010】
ACCは、天然物質も合成品も使用可能である。天然のACCは洋ナシやリンゴジュース等に含まれており、前述の非特許文献1に記載の方法により濃縮した洋ナシやリンゴジュースより抽出して得られるが、ACCは他の種々の果物に含まれているので、他の果物から抽出したものも使用可能である。合成のACCは前述の非特許文献2−4に記載の方法により得られるが、他の方法で合成したものも使用可能である。種々の合成法の中、非特許文献4に記載されている方法は、容易に得られる材料を用い、温和な反応条件で高収率でACCを合成可能であるため、大量合成の場合に特に望ましい。例えば、ジエチルマロン酸と1,2‐ジブロモエタンよりシクロプロパン‐1,1‐ジカルボン酸(以下、化合物1と略称する。)を得る。化合物1に無水酢酸、濃硫酸とアセトンを加えてスピロ‐[2,5]‐5,7‐ジオキサ‐6,6‐ジメチルオクタン‐4,8ジオン(以下、化合物2と略称する。)を得る。化合物2をヒドラジン分解して1‐ヒドラジノカルボニルシクロプロパン‐1‐カルボン酸(以下、化合物3と略称する。)を得る。化合物3を塩酸処理後硝酸ナトリウム処理して生じた1‐アジドカルボニルシクロプロパン‐1‐カルボン酸(以下、化合物4と略称する。)のクルチウス転位によりACCを得る。ACCは多くの会社が市販している。市販しているACCも使用可能である。ACCは実施例に示す様に急性毒性LD50が6.81グラム/キログラム、体重、食物利用率、血液像、生化学、臓器等亜急性毒性は特になく、骨髄小核率、奇形率、変異原、生殖等に影響を与える特殊毒性もなく、ヒトへの投与を躊躇する毒性は認められない。
【0011】
ACCのプロドラッグは加水分解等分解を受けてACCに成るものであれば、薬学的に許容することのできる限り、どのようなものでもよい。当該プロドラッグの一つとしてACC分子中のカルボキシル基でのメチルエステル誘導体又はエチルエステル誘導体やACC分子中のアミノ基でのアセチル誘導体等が挙げられるが、それらに限らない。将来合成されるものでも差し支えない。
【0012】
ACCの塩及びACCのプロドラッグの塩は薬学的に許容することのできる塩に限られる。薬学的に許容することのできる塩としては、例えば、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属塩、マグネシウム、カルシウム等のアルカリ土類金属塩、アンモニウム、テトラメチルアンモニウム等のアンモニウム塩、トリエチルアミン、リジン、アルギニン等の有機アミンの塩、塩酸、臭化水素酸、硫酸等鉱酸との酸付加塩等が挙げられるが、それらに限らない。薬学的に許容することのできる塩であればよく、薬学的に許容することのできる限り、将来合成される有機化合物との塩でも差し支えない。
【0013】
ACC及びそのプロドラッグの水和物、薬学的に許容することのできるACCの塩及びそのプロドラッグの塩の水和物も本発明の主成分として用いることができる。ACCの水和物としてはACC(H2O)、ACC(H2O)2、ACC(H2O)3、ACC(H2O)4、ACC(H2O)5、ACC(H2O)6、ACC(H2O)7、ACC(H2O)8が挙げられる。ACCの塩の水和物としてはACC・HCl(H2O)等が挙げられる。
【0014】
本発明の脳卒中又は脳卒中後遺症の予防用又は治療用薬剤は、主成分が非高分子であることから、経口投与又は非経口投与(坐薬、筋肉内、皮下、静脈内、脳内など)のいずれでも投与できる。主成分がACCのプロドラッグの場合も、体内で当該プロドラッグが活性化するので、当該プロドラッグを予め活性化しておく必要はない。
【0015】
経口用製剤を調製する場合、賦形剤、さらに必要に応じて、抗酸化剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、着色剤、矯味矯臭剤などを加えた後、常法により、錠剤、被服錠剤、顆粒剤、カプセル剤、溶液剤、シロップ剤、エリキシル剤、油性又は水性の懸濁液剤などとする。賦形剤としては、例えば、乳糖、コーンスターチ、白糖、ブドウ糖、ソルビット、結晶セルーロスなどが挙げられる。結合剤としては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルエーテル、エチルセルロース、メチルセルロース、アラビアゴム、トラガント、ゼラチン、シェラック、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルスターチ、ポリビニルピロリドンなどが挙げられる。
【0016】
崩壊剤としては、例えば、デンプン、寒天、ゼラチン未、結晶セルロース、炭酸カルシウム、炭酸水素ナトリウム、クエン酸カルシウム、デキストラン、ペクチンなどが挙げられる。滑沢剤としては、例えば、ステアリン酸マグネシウム、タルク、ポリエチレングリコール、シリカ、硬化植物油などが挙げられる。着色剤としては、医薬品に添加することが許可されているものが使用できる。矯味矯臭剤としては、ココア末、ハッカ脳、芳香酸、ハッカ油、竜脳、桂皮末などが使用できる。これらの錠剤は、顆粒剤には、糖衣、ゼラチン衣、その他必要により適宜コーティングしてもよい。
【0017】
注射剤を調製する場合、必要により、グルコースや生理的食塩水等の等調液、pH調整剤、緩衝剤、抗酸化剤及びその他の安定化剤、保存剤などを添加し、常法により、皮下、筋肉内、静脈内、脳内注射剤とする。注射剤は、溶液を容器に収納後、凍結乾燥などによって、固形製剤として、用事調製の製剤としてもよい。また、一投与量を容器に収納してもよく、また、多投与量を同一の容器に収納してもよい。溶液の場合、酸素や湿気を遮断する方がよい。そのため、場合によってはアンプル型の容器に入れ、空気を抜くか、窒素ガス等で空気を置換しておく方がよい。公知の方法でよい。
【0018】
本発明の脳卒中又は脳卒中後遺症の予防用又は治療用薬剤の投与量は、経口剤、坐薬、皮下注射剤、筋肉内注射剤、静脈内注射剤、脳内注射剤等剤型によって異なるが、ヒトの場合、成人1日当たり通常0.01〜1000ミリグラム、好ましくは、0.1〜100ミリグラムの範囲で、1日量を1日1回、あるいは2〜4回に分けて投与する。なお、年齢、症状により適宜増減する。
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、ACCの毒性試験、薬効試験に関し、急性毒性試験、亜急性毒性試験、催奇性毒性試験、変異原性試験、繁殖性試験中の白血球、リンパ、好中数、ヘモグロビン、GOT、血清総蛋白、アルブミン、トリグリセリド、コレステロール、グルコース、尿素、小核率、精子奇形率、復帰変異菌、死胎率、胎児体重・身長・尾長、胸骨欠失率、等の分析は株式会社日本実権医学研究等毒性試験受託会社がルーチンに受託分析し、尿中NO2/NO3、クレアチニン、Na、K、Ca、Cl、Mg、血中アルブミン、グロブリン、GOT、GTP、ガンマ‐グルタミルトランスペプチダーゼ、尿素窒素、クレアチニン、Na、K、Ca、Cl、Mg、アンギオテンシン1転換酵素、アンギオテンシン2等分析はシオノギ・バイオメディカル・ラボラトリーズ等臨床検査受託会社がルーチンに受託分析している。
【実施例1】
【0019】
摂氏0度で氷塩の浴槽中で24ミリリットルの無水酢酸に26グラムの化合物1を加え、攪拌により懸濁しつつ、98%の濃硫酸0.8ミリリットルと20ミリリットルのアセトンを1滴ずつ加えた。不溶物が溶け、透明な溶液になった。この溶液を氷塩浴槽中で更に1時間攪拌した後に、冷蔵庫に入れ、1晩放置した。翌日にこの溶液を300ミリリットルの氷水で希釈した。生じた結晶をろ過で分離し、300ミリリットルの氷水で2回洗浄し、第1番目の結晶を得た。ろ液と洗浄液を合わせ、飽和炭酸水素ナトリウムでPH5にまで中和し、生じた結晶をろ過で分離し、少量の氷水で2回洗浄し、第2番目の結晶を得た。ろ液を50ミリリットルのエーテルで3回抽出し、エーテル層を分離し、蒸発させ、第3番目の結晶を得た。第1番目から第3番目までの結晶を集め、乾燥し、29グラムの結晶を得た。融点(摂氏61−63度)とシクロヘキサンとアセトン(3:1容量比)で展開した薄層クロマトグラフのアールエフ値(0.34)より、この結晶が化合物2であることを確認した。
【実施例2】
【0020】
実施例1で得られた化合物2の17グラムを室温(摂氏21−25度)で無水エタノール100ミリリットルに懸濁し、その懸濁液に10グラムの85%ヒドラジン水和物と無水エタノール10ミリリットルの混合溶液を1滴ずつ加えた。不溶物が溶け、透明な溶液になった。この透明溶液を室温で4晩放置した。溶液中の化合物2が消失したことを実施例1に記載の薄層クロマトグラフで確認した。溶液を蒸発させ、生じた白い針状結晶を吸引ポンプでろ過し、結晶を少量の無水エタノールで洗浄し、乾燥した。14.4グラムの乾燥結晶を得た。融点(摂氏150−152度)とエタノールで展開した薄層クロマトグラフのアールエフ値(0.5)より、この結晶が化合物3であることを確認した。
【実施例3】
【0021】
実施例2で得られた化合物3の5グラムを室温で水10ミリリットルに溶解し、その溶液に36−38%の濃塩酸5ミリリットルを加え、15グラムの砕いた氷とエーテル20ミリリットルの中に注ぎ、攪拌して不溶物を懸濁した。氷塩の浴槽中で懸濁液を攪拌しつつ、34.5%の亜硝酸ナトリウム水溶液5.7ミリリットルを1滴ずつゆっくりと添加した。不溶物が溶け、透明な溶液になった。この透明溶液を更に20分間攪拌した。操作中混合液の温度は摂氏0度からマイナス5度の間で維持した。エーテル層を分離した。水層を冷却したエーテル10ミリリットルで2回抽出した。得られた3つのエーテル溶液を合わせ、無水塩化カルシウム上で15分間乾燥させた。乾燥させたエーテルを摂氏40度の浴槽中のフラスコに入ったベンゼン30ミリリットル中に1時間かけて移した。ベンゼン溶液中のエーテルと窒素を室温で蒸発させた。エーテルと窒素を蒸発させたベンゼン溶液に36−38%の濃塩酸12ミリリットルを振動させながら1滴ずつ加えた。ベンゼンと炭酸ガスを減圧で除いた。残った溶液を水で希釈し、濃塩酸でPHを1に調節し、エタノールと水で再結晶させ、室温で減圧で乾燥させた。2.5グラムの乾燥結晶を得た。融点(摂氏215−220度)とnブタノールと酢酸と水(6:2:2容量比)で展開した薄層クロマトグラフのアールエフ値(0.42)、赤外線スペクトルIR(KBr)(3050、3050−2800、2640−2440、2100、1650−1540、1410、1635cm−1)、プロトン核磁気共鳴スペクトル1H‐NMR(CF3COOD、79.542MHz)(1.83(s,2H)、1.95(s,2H)ppm)、質量スペクトルMS(m/z,EI)101(M+)、83、56、55、54、38、36、28、元素分析(C31.06、H6.48、N8.97、Cl22.79)より、この結晶がACCの塩酸塩1水和物C4H10ClNO3であることを確認した。
【実施例4】
【0022】
実施例1から3と同様な操作でACC塩酸塩1水和物を450グラム合成した。これを用いて「食品安全性毒理学評価程序和方法」に準拠して、急性毒性試験、亜急性毒性試験、小核試験、変異原性試験、生殖に及ぼす影響試験等を行った。
【実施例5】
【0023】
体重19−22グラムの健康なマウス雌雄20匹ずつを1群5匹、雌雄各4群に分け、実施例4で得られたACC塩酸塩1水和物を1.00、2.15、4.64、10.0(グラム/キログラム体重)ずつゾンデで経口より強制投与(順に1.00群、2.15群、4.64群、10.0群とする。)し、7日間観察し、急性毒性を調べた。1.00群、2.15群、4.64群は雌雄いずれの群も死ななかった。10.0群は強制経口投与後30分以内に5匹中5匹が死亡した。計算によりLD50は雌雄とも6.81グラム/キログラムになった。
【実施例6】
【0024】
体重90−120グラムの健康なSDラット雌雄40匹ずつを1群10匹、雌雄各4群に分け、実施例4で得られたACC塩酸塩1水和物を毎日0.0、0.125、0.25、0.50(グラム/キログラム体重)ずつ30日間ゾンデで経口より強制投与(各群を順に0.0群、0.125群、0.25群、0.50群とする。)し、30日間観察し、亜急性毒性を調べた。4週目の0.0群、0.125群、0.25群、0.50群の体重は、雌がそれぞれ194.0±15.44、188.0±19.24、191.4±12.89、199.5±16.78(グラム)、雄がそれぞれ257.0±18.31、254.4±37.52、265.0±19.75、260.6±24.12(グラム)、食物利用率(体重増量/摂取量)は、雌がそれぞれ21.99±4.28、20.98±3.28、21.43±3.26、21.00±2.23(%)、雄がそれぞれ28.61±2.41、28.90±7.12、30.58±2.52、31.05±5.11(%)、ヘモグロビン量は、雌がそれぞれ14.29±0.76、14.93±0.91、14.76±0.68、14.06±0.67(グラム/デシリットル)、雄がそれぞれ14.67±1.43、14.13±1.42、14.17±0.85、14.66±0.66(グラム/デシリットル)、白血球数は、雌がそれぞれ15.87±3.35、16.31±4.27、14.83±3.76、17.17±4.00(10の9乗個/リットル)、雄がそれぞれ18.38±3.69、18.39±3.24、18.94±4.01、16.54±1.67(10の9乗個/リットル)、リンパ球は、雌がそれぞれ83.4、83.7、81.4、84.2(%)、雄がそれぞれ87.3、88.6、86.5、86.3(%)、好中球は、雌がそれぞれ15.7、15.8、18.0、15.2(%)、雄がそれぞれ12.5、11.0、13.3、13.4(%)、その他の白血球は、雌がそれぞれ0.9、0.5、0.6、0.6(%)、雄がそれぞれ0.2、0.4、0.2、0.3(%)、GPTは、雌がそれぞれ54.1±5.69、64.5±11.33、51.1±6.23、45.2±4.87(国際単位/リットル)、雄がそれぞれ58.4±5.17、58.7±0.33、52.8±5.07、60.4±4.43(国際単位/リットル)、血清総蛋白量は、雌がそれぞれ82.5±3.50、90.9±5.53、80.9±2.33、83.5±4.40(グラム/リットル)、雄がそれぞれ74.1±3.84、72.3±3.13、73.0±4.14、73.1±3.90(グラム/リットル)、アルブミンは、雌がそれぞれ39.1±0.88、39.2±1.03、39.0±0.67、39.1±1.29(グラム/リットル)、雄がそれぞれ36.6±1.58、35.8±0.92、36.1±0.99、36.0±1.05(グラム/リットル)、トリグリセリドは、雌がそれぞれ0.87±0.22、0.95±0.15、0.65±0.08、0.89±0.25(ミリモル/リットル)、雄がそれぞれ1.16±0.49、1.41±0.50、1.00±0.21、1.62±0.54(ミリモル/リットル)、コレステロールは、雌がそれぞれ2.52±0.34、2.43±0.34、2.86±0.35、1.97±0.29(ミリモル/リットル)、雄がそれぞれ2.24±0.32、1.98±0.18、1.96±0.16、2.08±0.32(ミリモル/リットル)、グルコースは、雌がそれぞれ4.76±0.50、4.89±0.87、4.53±0.39、5.19±1.06(ミリモル/リットル)、雄がそれぞれ4.48±0.58、4.29±0.63、4.50±0.57、4.62±0.42(ミリモル/リットル)、尿素は、雌がそれぞれ7.02±1.12、6.90±0.81、6.99±0.65、7.96±1.13(ミリモル/リットル)、雄がそれぞれ5.80±0.51、5.75±0.51、4.87±0.43、5.25±0.61(ミリモル/リットル)、肝体比は、雌がそれぞれ4.20±0.37、4.34±0.15、4.21±0.34、3.82±0.54(%)、雄がそれぞれ3.99±0.34、3.97±0.37、3.98±0.16、4.00±0.15(%)、腎体比は、雌がそれぞれ0.79±0.08、0.80±0.03、0.81±0.05、0.83±0.06(%)、雄がそれぞれ0.83±0.09、0.80±0.04、0.82±0.04、0.85±0.05(%)であった。即ち、薬剤を投与しない対照群に比較し、どの薬剤投与群も体重、食物利用率、ヘモグロビン、白血球数、白血球中のリンパ球と好中球とその他の白血球の割合、GPT、血清総蛋白質、血清アルブミン、トリグリセリド、コレステロール、グルコース、尿素、肝体比、腎体比のいずれについても統計的有意差はなかった。
【実施例7】
【0025】
体重25−30グラムの健康なマウス雌雄25匹ずつを1群5匹、雌雄各5群に分け、実施例4で得られたACC塩酸塩1水和物を0.0、1.25、2.50、5.00(グラム/キログラム)、メタンスルホン酸エチルを0.08(グラム/キログラム)ずつ24時間間隔で2回強制経口投与(各群を順に0.0群、1.25群、2.50群、5.00群、MSE0.08群とする。)し、その6時間後に胸骨の骨髄を取り出し、染色して小核率を調べた。0.0群、1.25群、2.50群、5.00群、MSE0.08群の小核率は、雌がそれぞれ2.2、1.4、1.4、1.8、34.2(千分率)、雄がそれぞれ1.6、1.8、1.8、1.6、33.2(千分率)であった。薬剤を投与しない対照群に比較し、どのACC塩酸塩1水和物投与群も骨髄小核率に統計的有意差はなかった。メタンスルホン酸エチルを投与する陽性対照群は雌雄共にP<0.01の範囲で統計的有意差があった。
【実施例8】
【0026】
体重20−25グラムの健康な雄マウス50匹を1群10匹、5群に分け、実施例4で得られたACC塩酸塩1水和物を0、1.25、2.50、5.00(グラム/キログラム体重)、マイトマイシンC
を0.002(グラム/キログラム体重)ずつ5日間強制経口投与(各群を順に0.0群、1.25群、2.50群、5.00群、MMC0.002群とする。)し、その35日後に両側の睾丸から精子を採取し、精子奇形率を調べた。0.0群、1.25群、2.50群、5.00群、MMC0.002群の精子奇形率は、それぞれ1.58、1.40、1.36、1.48、6.10(%)であった。薬剤を投与しない対照群に比較し、どのACC塩酸塩1水和物投与群も精子奇形率に統計的有意差はなかった。マイトマイシンCを投与する陽性対照群はP<0.01の範囲で統計的有意差があった。
【実施例9】
【0027】
Ames試験をするために、実施例4で得られたACC塩酸塩1水和物をシャーレ当たり5000、1000、200、40、8、0マイクログラムずつ添加し培地にサルモネラ菌4株TA97a、TA98、TA100、TA102を別々に接種し、摂氏37度で48時間培養し、変異菌のコロニーの出現数を数えた。陽性対照群として変異原剤マイトマイシンCを5マイクログラム、NaN3を1.5マイクログラム添加した培地を用いた。薬剤を投与しない対照群に比較し、どのACC塩酸塩1水和物投与群も変異菌のコロニーの出現数に統計的有意差はなかった。マイトマイシンC又はNaN3を投与する陽性対照群はP<0.01の範囲で統計的有意差があった。
【実施例10】
【0028】
体重200−250グラムの健康な未交配の雌のSDラット60匹を1群12匹、5群に分け、受精させた。受精後7日目から16日目の間、毎日実施例4で得られたACC塩酸塩1水和物を0.0、0.125、0.25、0.50(グラム/キログラム体重)ずつ投与(各群を順に0.0群、0.125群、0.25群、0.50群とする。)し、受精後20日目に受胎率を調べた。0.0群、0.125群、0.25群、0.50群の受胎率は順に75.00、75.00、91.67、83.33(%)であった。受精日及び受精20日後の体重を測定した。体重増は順に100.4±28.59、90.2±20.74、84.9±24.57、95.3±14.31(グラム)であった。死胎率は順に0.00、0.93、0.89、0.00(%)であった。胎児の発育程度を反映する胸骨欠失率は順に49.02、45.28、47.92、39.62(%)であった。薬剤を投与しない対照群に比較し、どのACC塩酸塩1水和物投与群の受胎率、受精後の体重増、死胎率、胸骨欠失率にも統計的有意差はなかった。胎児の体重、身長、尾長に関しても対照群に比較し、統計的有意差はなかった。
【実施例11】
【0029】
4週齢雄SHR‐SP/Izmラットを京都にあるSHR等疾患モデル動物利用研究会より入手後、室温を摂氏22±1度、湿度を60±10%、照明時間を6時から18時まで12時間に設定した飼育室で1週間予備飼育した。体重増加が順調で、一般状態に異常の認められなかったラット40匹の血圧及び体重を測定し、このラット40匹を10匹ずつ4群に群間で血圧、体重の差のないように分けた。以下、毎日1回、週5回、2.5%のACC塩酸塩1水和物溶液を50ミリグラム/キログラム体重の割合でラットの腹腔内に注射で投与する群をACC群、同じ投与条件でラットの脳血流量等を測定する群をB‐ACC群、同量の蒸留水をラットの腹腔内に注射で投与する群を対照群、同じ投与条件でラットの脳血流量等を測定する群をB‐対照群とした。実験期間は固体SP飼料と水道水を自由に摂取させて飼育した。動物実験の取扱いに関しては、日本生理学会の定める「生理学領域における動物実験に関する基本指針」に従った。
【実施例12】
【0030】
実施例11において、毎週1回、前述の温度・湿度の部屋で午前11時から午後5時までで、薬剤投与前後にラットを摂氏38度の加温器中で10分間加温させ、順応した後、無麻酔下でテイル‐カット(tail‐cuff)法によりソフトロン(Softron)非観血式自動血圧測定装置(BP‐98A)(株式会社ソフトロン製)を用いて、収縮期血圧、拡張期血圧と心拍数を3回測定し、平均値と標準偏差を計算し、平均値±標準誤差で表した。有意差の有無をt‐検定により調べた。
実施例4で得られたACC塩酸塩1水和物の投与開始直前、投与開始1週間後、2週間後、3週間後、4週間後の収縮期血圧は、対照群がそれぞれ150.69±11.2、175.38±10.5、199.58±18.2、207.50±17.5、213.61±11.3(ミリメートルHg)であり、ACC群がそれぞれ144.77±11.1、153.33±11.7(*3)、175.58±15.2(*3)、194.41±14.4(*)、198.52±16.7(*2)(ミリメートルHg)であり、弛緩期血圧は、対照群がそれぞれ107.19±11.7、124.27±10.2、140.77±17.0、147.72±8.69、149.61±13.68(ミリメートルHg)であり、ACC群がそれぞれ104.22±13.1、111.33±11.7(*)、124.05±9.6(*2)、146.22±10.3、150.11±10.5(ミリメートルHg)であり、心拍数は、対照群がそれぞれ359.83±32.5、384.05±40.8、349.80±25.8、359.66±19.0、349.58±22.6(回数/分)であり、ACC群がそれぞれ371.30±27.0、356.22±29.3、348.88±29.8、359.36±22.6、354.61±28.3(回数/分)であった。なお、対照群と比較してP<0.05、P<0.01、P<0.001の範囲で有意差があったACC群の値はそれぞれ(*)、(*2)、(*3)印で示した。
収縮期血圧はACC群と対照群ともに投与4週目まで上昇したが、ACC群では、対照群と比較して投与開始後1、2、3、4週目において血圧は有意な低値を示し、血圧上昇抑制効果を示した(それぞれP<0.001、0.001、0.05、0.01)。拡張期血圧について投与開始後1、2週目においてACC群は対照群に比べ有意に低値を示したが(それぞれP<0.05、P<0.005)、3と4週目においては有意な差が認められなかった。心拍数については、各週目においてACC群と対照群の間に有意な差が認められなかった。
【実施例13】
【0031】
実施例12において、ACC塩酸塩1水和物投与開始4週間後の血圧と心拍数測定後に、ラットを代謝ケ―ジに入れ、24時間採尿を行った。対照群とACC群の24時間排泄量に関し、NO2/NO3をGriess法により、クレアチニンをアルカリピクリン法により、NaとKとClをイオン電極法により、Mgをキシリジル‐ブルー法により、CaをOCPC法により測定した。対照群とACC群のNO2/NO3は順に8.68±3.26と4.92±2.07(*)(マイクロモル)、クレアチニンは順に38.75±7.92と35.87±8.22(ミリグラム/デシリットル)、Naは順に0.267±0.086と0.396±0.06(*2)(ミリ等量)、Kは順に0.590±0.17と0.669±0.13(ミリ等量)、Clは順に0.222±0.07と0.319±0.08(*)(ミリ等量)、Mgは順に1.61±0.80と1.74±0.63(ミリ等量)、Caは順に0.20±0.08と0.29±0.11(ミリ等量)の値を得た。ACC群は対照群に比べ、尿中のNO2/NO3がP<0.05(*)の範囲ないで、有意に低値を示し、尿中NaとClはそれぞれP<0.005(*2)とP<0.05(*)の範囲内で有意に高値を示した。ACC群のクレアチンとK、Mg、Caは、対照群に比べ有意な差は無かった。NOの代謝産物であるNO2/NO3はNOの排泄量を反映している。NO、特にeNOS由来のNOは強力な血管拡張物質である。一方、NO、特にnNOS、iNOS由来のNOは神経細胞の障害物質として働いている。三種NOSの阻害剤が脳卒中の脳組織障害程度を軽減させる。ACC群のNO2/NO3低値はNOを減少させることによりSHR-SPラットの脳卒中発症予防や脳障害軽減、寿命を延長させたと思われる。しがし、ACC塩酸塩1水和物の降血圧作用はNOとの関係が薄く、その他の血圧調節物質と関与すると思われる。Na、Clの排泄量はACC群が対照群より有意に高いことは、両群とも同じ餌で飼育したので、NaClの排泄を促進、Na水貯留を防ぐことにより降血圧作用を発揮した可能性があると考えられる。
【実施例14】
【0032】
実施例13において24時間採尿後、24時間絶食させ、エーテル麻酔し、腹動脈より採血を行った。血中アルブミンはBCG法により、アルブミン/グロビン比は計算により、GOTとGPTはUV法により、ガンマ‐グルタミルトランスペプチダーゼは比色法により、尿素窒素はUV法により、クレアチニンはアルカリピクリン法により、NaとKはイオン電極法により、CaはOCPC法により、Clはイオン電極法により、Mgはキシリジル‐ブルー法により、アンジオテンシン1転移酵素は笠原法により、アンジオテンシン2はRIA・DCC法により測定した。対照群とACC群の血中アルブミンは順に2.31±0.18と2.33±0.15(グラム/デシリットル)、アルブミン/グロビン比は順に0.61±0.02と0.61±0.03(計算値)、GOTは順に476.9±178.1と532.2±175.7(単位/リットル)、GPTは順に115.6±43.9と126.5±68.2(単位/リットル)、ガンマ‐グルタミルトランスペプチダーゼは順に1.86±0.90と3.17±0.75(*2)(単位/リットル)、尿素窒素は順に20.43±2.82と19.50±4.32(ミリグラム/デシリットル)、クレアチニンは順に0.37±0.08と0.35±0.06(ミリグラム/デシリットル)、Naは順に148.0±7.02と153.5±10.8(ミリ等量/リットル)、Kは順に6.36±1.37と6.75±0.67(ミリ等量/リットル)、Caは順に10.95±1.00と10.17±2.69(ミリグラム/デシリットル)、Clは順に104.0±5.90と107.3±8.82(ミリ等量/リットル)、Mgは順に3.34±0.45と2.85±0.51(ミリグラム/デシリットル)、アンジオテンシン1転移酵素は順に28.47±10.3と25.53±2.5(単位/リットル)、アンジオテンシン2は順位207.2±210.4と150.2±81.32(ピコグラム/ミリリットル)の値を得た。栄養状態を反映する血中アルブミン、アルブミン/ゴロブリン比及び、肝、腎機能を表すGOT、GPTや尿素窒素、クレアチニンは全て対照群とACC群の間に有意な差が無かったため、ACC塩酸塩1水和物の栄養状態、肝腎機能への影響が少ないと考えられる。ガンマGTP値についてACC群が対照群よりP<0.001(*2)の範囲内で有意に高値を示したが、正常範囲内であるので、ACC塩酸塩1水和物の副作用と考えにくい。また、血中Na、Cl、K、Ca、Mg値について、ACC群と対照群の間に有意な差が示されなかったことは、ACC塩酸塩1水和物が血中電解質のバランスに影響が無いことを示す。対照群に比べ、ACC群のアンジオテンシン1転移酵素、アンジオテンシン2値が低下の傾向が見られた。これはACC塩酸塩1水和物の降血圧の一因の可能性がある。
【実施例15】
【0033】
実施例12において、ACC塩酸塩1水和物投与後100日目の脳卒中の発症率と脳卒中後遺症の重傷度及び生存状況を観察し、分析した。死亡したラットを当日に解剖し、脳卒中病変の有無を病理検査した。実験データは平均値±標準誤差で表した。有意差の有無をt‐検定により調べた。
投与100日まで、行動神経症状(過敏性、痛覚過敏性、四肢の麻痺等)の観察から脳卒中症状を示していた個体数はそれぞれACC群2匹、対照群10匹であった。ACC塩酸塩1水和物投与により脳卒中発症を抑制することが示された。投与100日までの生存個体数に関しては、ACC群は79日目に1匹死亡した。これに対して対照群は70日目に3匹、75日目に2匹、80日目に1匹、82日目に3匹、85日目に1匹、計10匹の死亡が認められた。ACC塩酸塩1水和物投与による延命効果が確認できた(P<0.01)。死亡した個体についての解剖肉眼的所見は対照群の全例に大脳皮質下と大脳基底核に梗塞巣とその周囲の瀰漫性脳浮腫および出血巣を認めたのに対し、ACC群ではこの病理変化が軽かった。
【実施例16】
【0034】
実施例15において、ラットの行動神経症状により重症度の判定を行い、点数を付きて評価した。以下の評価基準を用いた。感覚(痛覚等)過敏を1点、片肢体マヒがあるが、自主的に歩け、ケージ蓋上の餌が自主的に食べられるを2点、片肢体マヒが存在し、自主的歩きが困難、ケージ内の餌しかを食べられないを3点、死亡を4点とした。対照群40点に対し、ACC群は4点であり、対照群に比較してACC群は有意に脳卒中後遺症を軽減した。
【実施例17】
【0035】
実施例11において、薬剤投与後の30日目に、B‐ACC群とB‐対照群の2群のラットにレーザー・ドップラ法を用いて脳血流量の連続的測定と2次元的測定を行なった。測定方法としては麻酔下においてラット頭皮を切開し、頭蓋骨を露出させ、リスカ社のレーザー・トップラー血流画像装置PIM2(リスカ社、スウェーデン)を用いてラットの脳血流量を測定した。有意差の有無をt‐検定により調べた。レーザードップラ法を用いて連続的測定と二次元的測定を行い、ACC群1.464±0.22、対照群1.144±0.30(P<0.05)の値を得た。この結果はACC群ラットの脳血流状況が対照群のラットより改善されたことを示している。
【実施例18】
【0036】
高血圧症、糖尿病、高脂血症、心疾患、一過性能虚血発作等脳卒中発症の危険因子の大きい患者で治験に参加を希望する人に対し、本治験により得られる可能性のある効果と危険性、及びいつでも治験参加を撤回でき、撤回により不利に扱わない旨が書かれた文書を渡して、かつ口頭でも説明した上で、それでも参加を希望する患者に対し、事前に治験倫理委員会の承認を得る治験プロトコールに従い、基礎治療の上にACC塩酸塩1水和物投与を行うACC群と基礎治療だけを行う対照群に2群する。患者の症状を毎日ジャパン・ストローク・スケール調査票に従い、点数を記入し、調査票に書かれた規則に従って計算された計算値で脳卒中の発症を診断し、対照群とACC群の脳卒中発症率の差から、ACC塩酸塩1水和物の脳卒中予防効果を測定できる。
ジャパン・ストローク・スケール調査票の内容は以下の通りである。
1.意識:a)またはb)
a)グラスゴウ・コマ・スケール:[開眼]自発的に開眼するを4点、呼びかけにより開眼するを3点、痛み刺激により開眼するを2点、全く開眼しないを1点、[言語]見当識良好を5点、混乱した会話を4点、不適切な言葉を3点、理解不能の応答を2点、反応なしを1点、[運動]命令に従うを6点、疼痛に適切に反応を5点、屈曲逃避を4点、異常屈曲反応を3点、伸展反応を2点、反応なしを1点とし、[開眼]と[言語]と[運動]の合計が15点をA、14−7点をB、6−3点をCと分類する。

b)ジャパン・コマ・スケール:[刺激しなくても覚醒している状態]全く正常を9点、大体意識清明だが、今一つはっきりしないを8点、時・人・場所がわからないを7点、自分の名前、生年月日が言えないを6点、[刺激すると覚醒している状態]普通の呼びかけで容易に開眼するを5点、大きな声または体を揺さぶることにより開眼するを4点、痛み・刺激を加えつつ呼びかけを繰り返すとかろうじて開眼するを3点、[刺激しても覚醒しない状態]痛み刺激に対しはらいのける様な動作をするを2点、痛み刺激で少し手足を動かしたり顔をしかめるを1点、痛み刺激に全く反応しないを0点とし、9点をA、8-3点をB、2-点をCと分類する。
分類の値(A=7.74、B=15.47、=23.21)を累計に用いる。
2.言語:口頭命令で拳をつくる、時計を見せて時計といえる、サクラを繰り返して言える、住所・家族の名前が上手に言える:4/4をA、3/4又は2/4をB、1/4又は0/4をCと分類し、分類の値(A=1.74、B=2.95、C=4.42)を累計に用いる。
3.無視:線分ニ等分試験正常をA、線分ニ等分試験で半側空間無視をB、麻痺に気が付かないあるいは一側の空間を無視した行動をするをCと分類し、分類の値(A=0.42、B=0.85、C=1.27)を累計に用いる。
4.視野欠損または半盲:同名性の視野欠損または半盲なしをA、同名性の視野欠損または半盲ありをBと分類し、分類の値(A=0.45、B=0.91)を累計に用いる。
5.眼球運動障害:なしをA、側方視が自由にできないをB、眼球に偏位したままで反対側へ側方視できないをCと分類し、分類の値(A=0.84、B=1.68、C=2.53)を累計に用いる。
6.瞳孔異常:瞳孔異常なしをA、片側の瞳孔異常ありをB、両側の瞳孔異常ありをCと分類し、分類の値(A=1.03、B=2.06、C=3.09)を累計に用いる。
7.顔面麻痺:なしをA、片側の鼻唇が浅いをB、安静時に口角が下垂しているをCと分類し、分類の値(A=0.31、B=0.62、C=0.93)を累計に用いる。
8.足底反射:正常をA、いずれとも言えないをB、病的反射ありをCと分類し、分類の値(A=0.08、B=0.15、C=0.23)を累計に用いる。
9.感覚系:正常をA、何らかの軽い感覚障害があるをB,はっきりした感覚障害があるをCと分類し、分類の値(A=−0.15、B=−0.29、C=−0.44)を累計に用いる。
10.運動系:
10‐1.手:正常をA、親指と小指で輪をつくる、またはそばに置いたコップが持てるをB、指は動くが物がつかめない、または全く動かないをCと分類し、分類の値(A=0.33、B=0.66、C=0.99)を累計に用いる。
10‐2.腕:正常をA、肘を伸ばしたまま腕を挙上できる、または肘を屈曲すれば腕を挙上できるをB、腕はある程度動くが持ち上げられない、または全く動かないをCと分類し、分類の値(A=0.66、B=1.31、C=1.97)を累計に用いる。
10‐3.下肢手:正常をA、膝を伸ばしたまま下肢を挙上できる、または自力で膝立てが可能をB、下肢は動くが膝立てはできない、または全く動かないをCと分類し、分類の値(A=1.15、B=2.31、C=3.46)を累計に用いる。
上記各分類の値の累計から定数14.71を差引いた値がプラスの場合は脳卒中発症と判断する。対照群とACC群の脳卒中発症の頻度の差から、ACC塩酸塩1水和物の脳卒中予防または治療効果を測定できる。
【実施例19】
【0037】
脳卒中後遺症がある患者を脳卒中運動機能障害重傷度スケールに従い、診断し、重傷度別に群分けをする。一つの群をACC塩酸塩1水和物を投与するACC群と投与しない対照群に2群する。両群とも重傷度に合わせた同じリハビリを行い、定期的に脳卒中運動機能障害重傷度スケール採点を行う。対照群とACC群の脳卒中運動機能障害重傷度の差から、ACC塩酸塩1水和物の脳卒中後遺症予防または治療効果を測定する。
脳卒中運動機能障害重傷度スケールの内容は以下の通りである。
1.顔面麻痺:なしをA、ありをBと分類し、分類の値(A=−1.27、B=1.27)を累計に用いる。
2.嚥下障害:なしをA、時にむせることがあるをB、チューブ・フィーディングが必要をCと分類し、分類の値(A=−4.93、B=−0.89、C=5.82)を累計に用いる。
3.腕:肘を伸ばしたまま腕を挙上できるをA、肘を屈曲すれば腕を挙上できるをB、重力に抗して運動できないをCと分類し、分類の値(A=−0.97、B=−0.09、C=1.06)を累計に用いる。
4.手:正常をA、そばに置いたコップが持てるをB、物がつかめないをCと分類し、分類の値(A=−1.26、B=−0.16、C=1.42)を累計に用いる。
5.下肢近位筋:臥位で検査し正常をA、膝立て可能をB、膝立て不能をCと分類し、分類の値(A=−1.04、B=0.14、C=0.89)を累計に用いる。
6.足関節:座位で検査し、座位がとれない場合は臥位の筋力から推定し、爪先を上げられるをA、爪先を上げられないをBと分類し、分類の値(A=−0.52、B=0.52)を累計に用いる。
7.複合運動:ベッド上仰臥位からベッド脇で立位になるまでの一連の動作で、ベッド脇に立てるをA、ベッドに座れるをB、座れないをCと分類し、分類の値(A=−1.24、B=−0.39、C=1.63)を累計に用いる。
8.歩行:補助具なしに歩けるをA、補助具ないしは介護者があれば歩けるをB、自力では歩けないをCと分類し、分類の値(A=−3.63、B=−0.45、C=4.08)を累計に用いる。
上記各分類の値の累計に定数14.60を加え値がプラスの場合は脳卒中後遺症ありと判断する。対照群とACC群の脳卒中運動機能障害重傷度の差から、ACC塩酸塩1水和物の脳卒中後遺症予防または治療効果を測定できる。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明の薬剤は、脳卒中又は脳卒中後遺症の予防剤又は治療剤として、利用可能性がある。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1‐アミノシクロプロパンカルボン酸及びそのプロドラッグ、ならびに薬学的に許容することのできるそれらの塩およびそれらの水和物から選ばれる化合物を主成分とする脳卒中又は脳卒中後遺症の予防用又は治療用薬剤。
【請求項2】
請求項1に記載する脳卒中予防用又は治療用薬剤。

【公開番号】特開2006−213611(P2006−213611A)
【公開日】平成18年8月17日(2006.8.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−25806(P2005−25806)
【出願日】平成17年2月2日(2005.2.2)
【出願人】(300027510)学校法人鈴鹿医療科学大学 (6)
【出願人】(300007235)
【Fターム(参考)】