説明

1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロピンの製造方法

【課題】本発明は、冷媒、エッチング剤、エアゾール等の機能材料又は生理活性物質、機能性材料の中間体、高分子化合物のモノマーとなりうる、1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロピンの製造方法を提供する。
【解決手段】本発明によれば、穏和な条件下、1−クロロ−1,2−ジハロゲノ−3,3,3−トリフルオロプロパンに液相中、塩基を反応させることで、高収率で1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロピンを得ることが可能である。また、相間移動触媒を用いた場合でも、反応後に2層分離するため、精製及び廃棄物処理も負荷がかからず、工業的な製造方法として優位性が高い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロピンの工業的な製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロピン等、1位の炭素原子に塩素原子等のハロゲン原子が結合した3,3,3−トリフルオロプロピン類は、特異な性質を有するため単体の用途ならびにその誘導体が数多く研究されてきた。
【化1】

【0003】
本願発明の対象となる1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロピンの製造方法としては、非特許文献1に1,2−ジクロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンを固体の水酸化ナトリウムを充填し、加熱した気相反応器にガスで流通させる方法が開示されている。
【0004】
また、特許文献1では1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロパンを塩素化後、イナートガスと共に溶融アルカリ中、バブリングさせる方法が開示されている。
【0005】
また、非特許文献2では、1−ヨード−3,3,3−トリフルオロアセチレンの製造方法について、3,3,3−トリフルオロアセチレンに、塩化水銀及びヨウ化カリウムを含む水溶液と水酸化カリウム水溶液とを混合させた溶液を反応させ、対応する水銀アセチリド(水銀3,3,3−トリフルオロメチルアセチリド)を調製し、続いて理論量のヨウ素(I)を反応させて対応する1−ヨード−3,3,3−トリフルオロアセチレンを得る方法を開示している。
【0006】
また、非特許文献3では、相間移動触媒存在下、1,2−ジハライド化合物もしくはクロロアルケン化合物に水酸化カリウムを反応させてアセチレン化合物を製造する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】ロシア特許第169522号明細書
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Zhurnal Vsesoyuznogo Khimicheskogo Obshchestva im. D. I. Mendeleeva (1962), 7 580-2.
【非特許文献2】Haszeldine,R.N.,J.Chem.Soc.,1951,p.588−591
【非特許文献3】Dehmlow,E.V.;Lissel,M.Tetrahederon,1981,37,p.1653−1658
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
非特許文献1の方法は、極めて収率が低く(19%)、ガス状態の1,2−ジクロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンと固体の塩基の反応が固体表面のみに限定されてしまうことからも、工業的な製造という点で、必ずしも効率的とは言い難いものであった。
【0010】
また、特許文献1では、溶融アルカリを用いるため、反応に際し、高温が必要であり、特に工業規模の反応では、反応の始動に多大な熱量を必要とし、反応終了後の後処理が困難である。また溶融アルカリによる反応器の腐食が問題となる。
【0011】
また、非特許文献3の方法は、対応するアセチレン化合物は非常に低収率であり(38%〜56%)、工業的スケールでの製造として採用するにはいくぶん難がある。
【0012】
更に、非特許文献2の方法は、精製が大変難しい旨の記載がなされていること、更に水銀化合物を用いることから、仮にこの方法を本願発明で対象とする1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンに置き換えたとしても、工業的に採用することは極めて難しい。
【0013】
上述の様に、本発明の目的物である1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロピンを大量生産に採用される工業的製造法としては必ずしも満足できる方法ではなく、該目的物を工業的規模で実施容易である製造方法の確立が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、1−クロロ−1,2−ジハロゲノ−3,3,3−トリフルオロプロパンを、液相中で塩基と反応させることにより、アルケン化合物で反応が止まることなく、高選択率かつ高収率で1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロピンを得る知見を得た。
また、本発明者らは、添加剤として相間移動触媒を反応系内に加えることでも、反応が更に進行する知見を得た。
【0015】
すなわち、本発明は、以下の[発明1]〜[発明6]に記載する、1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロピンの製造方法を提供する。
【0016】
[発明1]
式[1]:
【化2】

【0017】
(式中、X,Yはそれぞれ独立にフッ素、塩素、又は臭素を表す。)
で表される1−クロロ−1,2−ジハロゲノ−3,3,3−トリフルオロプロパンに、液相中、塩基を反応させることを特徴とする、1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロピンの製造方法。
【0018】
[発明2]
塩基が、アルカリ金属アルコキシド、アルカリ金属の炭酸塩、アルカリ土類金属の炭酸塩、アルカリ金属の水酸化物、及びアルカリ土類金属の水酸化物からなる群より選ばれる少なくとも1種の無機塩基である、発明1に記載の方法。
【0019】
[発明3]
アルカリ金属が、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、又はセシウムであり、アルカリ土類金属が、マグネシウム、カルシウム、又はストロンチウムである、発明2に記載の方法。
【0020】
[発明4]
1−クロロ−1,2−ジハロゲノ−3,3,3−トリフルオロプロパンが1,1,2−トリクロロ−3,3,3−トリフルオロプロパンであり、塩基が水酸化ナトリウム又は水酸化カリウムである、発明1に記載の方法。
【0021】
[発明5]
1−クロロ−1,2−ジハロゲノ−3,3,3−トリフルオロプロパンに、液相中、塩基を反応させる際、系内に相間移動触媒を添加することを特徴とする、発明1乃至4の何れかに記載の方法。
【0022】
[発明6]
相間移動触媒が、クラウンエーテル、クリプタンド、又はオニウム塩である、発明5に記載の方法。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、穏和な条件下、1−クロロ−1,2−ジハロゲノ−3,3,3−トリフルオロプロパンに塩基を反応させることで、高収率で1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロピンを得ることが可能である。また、たとえば、本発明の好ましい態様は、相間移動触媒を用いた場合に、精製及び廃棄物処理も負荷がかからず、高い生産性を目的とする1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロピンの工業的な製造方法として用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明につき、さらに詳細に説明する。本発明は式[1]で表される1−クロロ−1,2−ジハロゲノ−3,3,3−トリフルオロプロパンに、液相中、塩基を反応させることを特徴とする、1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロピンの製造方法である。
【0025】
なお、本発明の範囲は、これらの説明に拘束されることはなく、以下の例示以外についても、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更し実施することができる。また、本明細書において引用された全ての刊行物、例えば先行技術文献、および公開公報、特許公報その他の特許文献は、参照として本明細書に組み込まれる。
【0026】
本発明の出発原料である、1−クロロ−1,2−ジハロゲノ−3,3,3−トリフルオロプロパンにおける式[1]中のXとYは、具体的にはフッ素、塩素、臭素が挙げられる。1−クロロ−1,2−ジハロゲノ−3,3,3−トリフルオロプロパンの具体的な化合物としては、1−クロロ−1,2,3,3,3−ペンタフルオロプロパン、1−クロロ−1,2−ジブロモ−3,3,3−トリフルオロプロパン、1,1,2−トリクロロ−3,3,3−トリフルオロプロパンが挙げられる。これらの中でも、入手の容易さや、得られる化合物の有用性などから、1,1,2−トリクロロ−3,3,3−トリフルオロプロパンが好ましく用いられる。
【0027】
なお、本発明で用いられる1−クロロ−1,2−ジハロゲノ−3,3,3−トリフルオロプロパンのうち、1,1,2−トリクロロ−3,3,3−トリフルオロプロパンについては、工業的に入手可能な1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンを熱もしくは光により塩素付加させることで得られる。
【0028】
本発明の方法において使用する塩基としては、アルキルアミン類、ピリジン類、アニリン類、グアニジン類、ピリジン類、ルチジン類、モルホリン類、ピペリジン類、ピロリジン類、ピリミジン類、ピリダジン類などの有機塩基や、アンモニア、アルカリ金属アルコキシド、アルカリ金属の炭酸塩、アルカリ土類金属の炭酸塩、アルカリ金属のカルボン酸塩、アルカリ土類金属のカルボン酸塩、アルカリ金属の水酸化物、アルカリ土類金属の水酸化物などの無機塩基を用いることができる。
【0029】
有機塩基の具体例として、トリエチルアミン、ジエチルアミン、ジエチルアミノピリジン、N,N−ジメチルアニリン、ジメチルベンジルアミン、グアニジン、N,N−ジエチルアニリン、1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]ウンデセン−7、1,4−ジアザビシクロ[2,2,2]オクタン、ピリジン、2,4,6−トリメチルピリジン、ジメチルアミノピリジン、2,6−ルチジン、2−メチルピリジン、N−メチルモルホリン、ピペリジン、ピロリジン、ピリミジン、ピリダジン、モルホリンが挙げられる。
【0030】
有機塩基のうち、高い塩基性度を持つ塩基、例えばグアニジン、1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]ウンデセン−7等を用いることは、反応時間が短縮されることからも、好ましく用いられる。なお、ここで言う「高い塩基性度」とは、塩基としてはpHが8以上であるが、主としてpHが10以上を持つものを言う。
【0031】
なお、中程度の強度を有する塩基である、トリエチルアミン、ジエチルアミン、ジメチルアミノピリジン、N,N−ジメチルアニリン、ジメチルベンジルアミン、N,N−ジエチルアニリン、ピリジン、2,4,6−トリメチルピリジン、ジメチルアミノピリジン、2,6−ルチジン、2−メチルピリジン、2,6−ルチジン、N−メチルモルホリン、ピペリジン、ピロリジン、ピリミジン、ピリダジン、モルホリン等でも反応は進行するが、高い塩基性度を持つ塩基と比べて更に反応時間を要することから、用いるメリットは少ない。
【0032】
前述した無機塩基のうち、経済性及び取り扱いが容易であることから、アルカリ金属の水酸化物又はアルカリ土類金属の水酸化物が好ましい。なお、ここでアルカリ金属とは、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、又はセシウムであり、アルカリ土類金属とは、マグネシウム、カルシウム、又はストロンチウムのことを言う。
【0033】
アルカリ金属の水酸化物又はアルカリ土類金属の水酸化物の、具体的な化合物としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化ストロンチウムなどが挙げられる。これらのうち、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウムが好ましく、さらに安価で工業的に大量に入手できることから、水酸化カリウム、水酸化ナトリウムが特に好ましい。また、アルカリ金属アルコキシドの具体的な化合物としては、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシドなどが挙げられる。
【0034】
なお、中程度の塩基度を持つ無機塩基として、アルカリ金属またはアルカリ土類金属の炭酸塩(炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸リチウム、炭酸カルシウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素リチウムなど)、カルボン酸塩(酢酸ナトリウム、酢酸カリウムなど)を用いて反応を行うこともできるが、前述した高い塩基性度を持つ塩基と比べて更に反応時間を要することから、特に用いるメリットは少ない。
【0035】
なお、本発明で用いる塩基は、1種類又は2種類以上を併用して使用することもできる。
【0036】
本発明で用いる塩基の量は、1−クロロ−1,2−ジハロゲノ−3,3,3−トリフルオロプロパン1モルに対し、少なくとも1モルを必要とし、該プロパン1モル当たり、通常1〜10モルの範囲を適宜選択できるが、好ましくは1〜4モルであり、更に好ましくは1〜2モルである。また、10モルより多く塩基を使用することも可能であるが、大量に使用するメリットはない。
【0037】
なお、本発明において、1−クロロ−1,2−ジハロゲノ−3,3,3−トリフルオロプロパン1モルに対して、1モルより少ない塩基を用いた場合、反応の変換率が低下することがある。その際、反応後の精製操作の際に未反応の1−クロロ−1,2−ジハロゲノ−3,3,3−トリフルオロプロパンを回収し、次の反応にリサイクルすることも可能である。
【0038】
本発明において、溶媒を別途加えることができる。溶媒としては反応に関与しないものであれば特に制限はなく、例えばn−ペンタン、n−ヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタン等のアルカン類、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類、ジクロロメタン、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類、アセトニトリル、プロピオニトリル、ブチルニトリル等のニトリル類、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAC)、ヘキサメチルホスホリックトリアミド(HMPA)等のアミド類、エチレングリコール、ジエチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノアセテート等のグリコール類、メタノール、エタノール、2−プロパノール等のアルコール類、そして水などが例示できる。また、これらの溶媒は1種または2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0039】
なお、本発明の方法は、液相中で反応を行う。反応系内に前述の溶媒を加えて反応を行うことが可能であるが、本願発明で用いる出発原料である1−クロロ−1,2−ジハロゲノ−3,3,3−トリフルオロプロパンは、常温・常圧下で液体であることから、別途溶媒を加えなくても、出発原料自体、溶媒として兼ねることも可能である。
【0040】
本発明に使用される塩基は、作業性の容易さから、塩基が常温・常圧で固体の場合、上述の溶媒を別途加えて溶液として添加することも可能である。また、その溶液の濃度は充分反応が進行する程度に、また、塩基が充分溶媒に溶解する程度に当業者が適宜調整することができる。塩基により異なるが、例えば水酸化カリウム水溶液の場合、通常は5〜85質量%とし、10〜60質量%が好ましく、15〜50質量%の範囲がより好ましい。
【0041】
本発明において、溶媒の他に、添加剤として相間移動触媒を用いることができる。相間移動触媒を用いる場合、塩基として、特にアルカリ金属の水酸化物を用いた場合に、反応が促進することからも、好ましく用いられる。
【0042】
相間移動触媒としては、クラウンエーテル、クリプタンド、又はオニウム塩を用いることができる。クラウンエーテルは金属カチオンを包摂して反応性を高めることができ、Kカチオンと18−クラウン−6、Naカチオンと15−クラウン−5、Liカチオンと12−クラウン−4の組み合わせ等が挙げられる。また、クラウンエーテルのジベンゾまたはジシクロヘキサノ誘導体等も有用である。
【0043】
クリプタンドは多環式大環状キレート化剤で、例えばKカチオン、Naカチオン、Csカチオン、Liカチオンと錯体(クリプテート)を形成し、反応を活性化することができ、4,7,13,18−テトラオキサ−1,10−ジアザビシクロ[8.5.5]イコサン(クリプタンド211)、4,7,13,16,21,24−ヘキサオキサ−1,10−ジアザビシクロ[8.8.8]ヘキサコサン(クリプタンド222)等が挙げられる。
【0044】
オニウム塩は、4級アンモニウム塩あるいは4級ホスホニウム塩があり、テトラメチルアンモニウムクロリド、テトラメチルアンモニウムブロミド、テトラn−ブチルアンモニウムクロリド、テトラn−ブチルアンモニウムブロミド、ベンジルトリエチルアンモニウムクロリド、メチルトリオクチルアンモニウムクロリド、テトラn−ブチルホスホニウムクロリド、テトラn−ブチルホスホニウムブロミド、メチルトリフェニルホスホニウムクロリドが挙げられる。
【0045】
なお、相間移動触媒を用いた場合、反応終了液が2層分離するため、容易に後処理操作を行うことが可能である。
【0046】
本発明において、反応圧力は特に限定はなく、常圧または加圧条件下で、0〜2MPa(絶対圧基準。以下同じ)、好ましくは0〜0.5MPaで操作できる。
【0047】
反応温度は特に限定されないが、反応圧力との関係で反応系として液相状態または気相状態を選択でき、通常0℃〜80℃、好ましくは常温付近の20℃〜40℃である。
【0048】
本発明の方法では、腐食性ガスの発生がないため、反応器の材質としては、常圧又は加圧下で反応を行う際、圧力に耐えるものであれば材質に特に制限はなく、一般的なステンレス、ガラス、フッ素樹脂からなるか、または、ガラスもしくはフッ素樹脂によりライニングされた材料の反応容器を使用することができる。
【0049】
なお、耐圧反応容器を用いることもできるが、液化状態の場合、反応系内の圧力がそれ程上がることなく反応が進行する為、常圧でも十分に実施できることから、特に耐圧反応容器を用いるメリットはそれ程大きくない。
【0050】
また、本発明の方法で得られた1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロピンは、常温・常圧で気体として存在する。反応後に得られた気体を、冷却したコンデンサーに流通させた後、該気体を捕集容器で捕集させて液化させた後、後処理をすることなく、さらに精密蒸留することで高純度の1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロピンを得ることができる。
【0051】
なお、本発明では連続的、又は半連続的もしくはバッチ式で行っても良く、当業者が適宜調整することができる。
【0052】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、これらの実施態様に限られない。ここで、組成分析値の「%」とは、反応混合物を直接ガスクロマトグラフィー(特に記述のない場合、検出器はFID)によって測定して得られた組成の「面積%」を表す。
【実施例1】
【0053】
5℃の冷媒を循環させたガラス製冷却器と、−78℃に調整したドライアイス−アセトン浴のガラス製トラップおよび熱電対投入用ガラス製保護管を取り付けた500mlガラス製三口丸底フラスコに、水酸化カリウム32.00g(0.57モル)、水96.01g、テトラブチルアンモニウムブロミド0.68gおよび1,1,2−トリクロロ−3,3,3−トリフルオロプロパン40.30g(0.20モル)を仕込み、冷却しながらマグネチックスターラーにて撹拌しながら溶解させた。溶解後、水浴にて内温を30℃まで加熱し、そのまま保持した。反応で発生した目的物である高濃度の1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロピンガスは、凝縮器出口に導かれた回収トラップ(アセトン+ドライアイスで冷却)に液化して捕集した。2時間加熱を続けてから反応器を冷却し、反応を終了した。
【0054】
反応終了後、回収トラップ側で捕集液30.84gを得た。
【0055】
得られた捕集液をガスクロマトグラフで分析したところ、1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロピンの純度は97.6%であり、1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロピン収率は74.0%であった。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明で対象とする1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロピンは、冷媒、エッチング剤、エアゾール等の機能材料又は生理活性物質、機能性材料の中間体、高分子化合物のモノマーとして利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式[1]:

(式中、X,Yはそれぞれ独立にフッ素、塩素、又は臭素を表す。)
で表される1−クロロ−1,2−ジハロゲノ−3,3,3−トリフルオロプロパンに、液相中、塩基を反応させることを特徴とする、1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロピンの製造方法。
【請求項2】
塩基が、アルカリ金属アルコキシド、アルカリ金属の炭酸塩、アルカリ土類金属の炭酸塩、アルカリ金属の水酸化物、及びアルカリ土類金属の水酸化物からなる群より選ばれる少なくとも1種の無機塩基である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
アルカリ金属が、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、又はセシウムであり、アルカリ土類金属が、マグネシウム、カルシウム、又はストロンチウムである、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
1−クロロ−1,2−ジハロゲノ−3,3,3−トリフルオロプロパンが1,1,2−トリクロロ−3,3,3−トリフルオロプロパンであり、塩基が水酸化ナトリウム又は水酸化カリウムである、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
1−クロロ−1,2−ジハロゲノ−3,3,3−トリフルオロプロパンに、液相中、塩基を反応させる際、系内に相間移動触媒を添加することを特徴とする、請求項1乃至4の何れかに記載の方法。
【請求項6】
相間移動触媒が、クラウンエーテル、クリプタンド、又はオニウム塩である、請求項5に記載の方法。

【公開番号】特開2013−18723(P2013−18723A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−151587(P2011−151587)
【出願日】平成23年7月8日(2011.7.8)
【出願人】(000002200)セントラル硝子株式会社 (1,198)
【Fターム(参考)】