説明

1−トリフルオロメチル−4−キノロンカルボン酸誘導体

【課題】 安全で、強力な抗菌作用を有する新規な1位置換基を有するキノロンカルボン酸系化合物を提供する。
【解決手段】 新規な1位置換基としてトリフルオロメチル基を有する下記一般式(1)
【化1】


で示される1-トリフルオロメチル-4-キノロンカルボン酸誘導体及びその塩ならびに水和物(代表例:6−フルオロ−1−トリフルオロメチル−1,4−ジヒドロ−7−(4−メチルピペラジニル)−3−キノリンカルボン酸塩酸塩)を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な1位置換基を有しかつ強力な抗菌作用を示す1-トリフルオロメチル-4-キノロンカルボン酸誘導体及びその塩並びに水和物に関する。
【背景技術】
【0002】
ノルフロキサシンの開発以来、ニューキノロンと呼ばれるキノロンカルボン酸系抗菌剤の開発が全世界で行われ、現在感染症の治療薬として重要な位置を占めるまでに発展している。現在研究が行われているキノロンカルボン酸系抗菌剤の多くは、最も抗菌活性が強い置換基であるシクロプロピル基を1位置換基として有している。しかし、抗菌活性の増強に伴って遺伝毒性や細胞障害性も強くなり、副作用の原因の一つとなっている(非特許文献1、2、3)。
【非特許文献1】J. Antimicrob. Chemother., 1988, 22, 91-97.
【非特許文献2】J. Med. Chem., 1992, 35, 4745-4750.
【非特許文献3】J. Antimicrob. Chemother., 1994, 33, 685-706.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明が解決しようとしている課題は安全で強力な抗菌作用を有する新規な1位置換基を有するキノロンカルボン酸系化合物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らはこれらの問題を解決するために、シクロプロピル基に代わる新規な1位置換基を見出すべく研究を行った。その結果、新規な1位置換基であるトリフルオロメチル基を有する本発明化合物が代表的なキノロンカルボン酸系抗菌剤であるノルフロキサシンと同等の抗菌活性を示すことを見出し、本発明を完成した。
【0005】
即ち、本発明は一般式(1)
【0006】
【化4】

[式中、Rは水素原子、炭素数1から3の低級アルキル基、医薬的に許容される陽イオン又はプロドラッグのエステル基を、R1は水素原子、フッ素原子、低級アルキル基又はアミノ基を、R2は水素原子、ハロゲン原子、低級アルキル基、アルコキシ基又はシアノ基を、Xは水素原子又はハロゲン原子を、Zはハロゲン原子、
【0007】
【化5】

(ここで、R3は水素原子、低級アルキル基、アシル基、アルコキシカルボニル基あるいはアラルキル基を、R4及びR5はそれぞれ独立して水素原子、低級アルキル基、シクロアルキル基あるいはフェニル基を示す。)又は
【0008】
【化6】

(ここで、R6は水素原子、ハロゲン原子、低級アルキル基、ハロゲノメチル基、アルコキシ基あるいは水酸基を、R7は水素原子、低級アルキル基あるいはシクロアルキル基を、R8は水素原子、低級アルキル基、アシル基、アルコキシカルボニル基あるいはアラルキル基を示す。)を示す。]で表される1-トリフルオロメチルキノロンカルボン酸誘導体及びその塩並びに水和物に関するものである。さらには、一般式(1)で表される化合物及びその塩並びに水和物を有効成分として含有する抗菌剤に関するものである。
【0009】
一般式(I)において炭素数1から3の低級アルキル基とはメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基又はシクロプロピル基を示す。医薬的に許容される陽イオンとしてはナトリウムイオン、カリウムイオン、マグネシウムイオン、カルシウムイオンあるいはアンモニウムイオンを、プロドラッグのエステル基としてはピバロイルオキシメチル基、アセトキシメチル基、フタリジニル基、インダニル基、メトキシメチル基又は5-メチル-2-オキソ-1,3-ジオキソレン-4-イル基を示す。ハロゲン原子とはフッ素、塩素、臭素又はヨウ素を示す。
【発明の効果】
【0010】
本発明化合物は1位に新規な置換基であるトリフルオロメチル基を有するキノロンカルボン酸誘導体であり、グラム陰性菌及びグラム陽性菌に対してシプロフロキサシンに匹敵する優れた抗菌力を示すことから、新規な感染症治療薬として有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
次いで本発明化合物の製法について説明する。
【0012】
本発明化合物は、一般式(2)
【0013】
【化7】

(式中、R、R1、R2、X及びZは前記と同じ。)で表される化合物を脱水素し、必要ならば加水分解することにより合成することができる。一般式(2)で表される化合物の脱水素は2,3-ジクロロ-5,6-ジシアノ-1,4-ベンゾキノンやテトラクロロ-1,4-ベンゾキノンなどのキノン類の存在下でベンゼン、クロロベンゼン、トルエン、キシレン、ジオキサン、テトラヒドロフラン等の溶媒中で実施される。反応温度は通常室温ないし200℃の温度範囲で実施でき、好ましくは25℃から150℃の範囲である。
【0014】
加水分解は適当な溶媒中で、通常、酸又は塩基の存在下で行われる。使用する酸としては、例えば、塩酸、硫酸、臭化水素酸、リン酸などの無機酸や酢酸、ギ酸、トリフルオロ酢酸、p-トルエンスルホン酸などの有機酸が挙げられ、塩基としては、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウムなどの無機塩基が挙げられる。反応温度は通常0〜150℃、好ましくは30〜120℃の範囲内から選択され、反応時間は通常10分〜48時間、好ましくは30分〜24時間の範囲内から選択される。また、この反応に使用できる溶媒としては、通常、水が用いられるが、反応に影響を及ぼさないものであれば有機溶媒も使用することができ、例えばメタノール、エタノール、プロパノールなどのアルコール類やテトラヒドロフラン、ジオキサンなどのエーテル類あるいはアセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類が挙げられる。これらの溶媒は単独であるいは混合して用いられる。
【0015】
一般式(2)で表される化合物は、一般式(3)
【0016】
【化8】

(式中、R1、R2及びXは一般式(1)と同じ、Rは低級アルキル基を、Yはハロゲン原子を示す。)で表される化合物と一般式(4)
【0017】
【化9】

[式中、Z1は
【0018】
【化10】

(ここで、R3は水素原子、低級アルキル基、アシル基、アルコキシカルボニル基あるいはアラルキル基を、R4及びR5はそれぞれ独立して水素原子、低級アルキル基、シクロアルキル基あるいはフェニル基を示す。)又は
【0019】
【化11】

(ここで、R6は水素原子、ハロゲン原子、低級アルキル基、ハロゲノメチル基、アルコキシ基あるいは水酸基を、R7は水素原子、低級アルキル基あるいはシクロアルキル基を、R8は水素原子、低級アルキル基、アシル基、アルコキシカルボニル基あるいはアラルキル基を示す。)を示す。]で表されるアミン類又はその酸付加塩とを反応することにより製造することができる。
【0020】
一般式(3)と一般式(4)で表される化合物との反応は無溶媒またはアルコール類、アセトニトリル、ジメチルスルホキシド、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ベンゼン又はトルエン等の溶媒中、脱酸剤の存在下で実施される。脱酸剤としてはアルカリ金属もしくはアルカリ土類金属炭酸塩または炭酸水素塩あるいはトリエチルアミン、ジアザビシクロ-7-ウンデセン、ピリジンなどの有機塩基性物質等を使用することができる。
【0021】
反応温度は通常室温ないし200℃の温度範囲で実施でき、好ましくは25℃から150℃の範囲である。反応時間は30分から48時間で、通常30分から15時間で完結する。
【0022】
一般式(3)で表される化合物は、一般式(5)
【0023】
【化12】

で表される化合物(式中、R1、R2、X及びYは一般式(3)と同じ。)をアルコキシカルボニル化することで合成することができる。
【0024】
一般式(5)で表される化合物のアルコキシカルボニル化は塩基の存在下に、炭酸ジエステル、クロロギ酸エステル、シアノギ酸エステルあるいはホスホノギ酸エステルを適当な溶媒中で実施される。塩基としては水素化ナトリウム、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウムtert-ブトキシド、リチウムジイソプロピルアミド、リチウムビストリメチルシリルアミド、カリウムビストリメチルシリルアミド、ナトリウムビストリメチルシリルアミド等を使用できる。
【0025】
溶媒としてはベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類あるいはメタノール、エタノール等のアルコール類を使用することができる。
【0026】
反応温度は通常−78℃ないし200℃の温度範囲で実施でき、好ましくは25℃から150℃の範囲である。反応時間は30分から48時間で、通常30分から15時間で完結する。
【0027】
一般式(5)で表される化合物は、一般式(6)
【0028】
【化13】

で表される化合物(式中、R1、R2、X、Y及びRは一般式(3)と同じ、Wは酸素原子又はびエチレンジオキシ基を示す。)をジチオカルバモイル化して、一般式(7)
【0029】
【化14】

で表される化合物(式中、R1、R2、W、X及びYは一般式(6)と同じ、Rは低級アルキル基を示す。)とし、次いでこれを酸化的脱硫フッ素化により、トリフルオロメチル化し、必要に応じて脱保護することにより合成することができる。
【0030】
ジチオカルバモイル化はジクロロメタン、1,2−ジクロロエタン、クロロホルム、ベンゼン、トルエン、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジメチルスルホキシド、N,N-ジメチルホルムアミド又はN,N-ジメチルアセトアミド等の溶媒中、塩基として水素化ナトリウム、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウムtert-ブトキシド、リチウムジイソプロピルアミド、リチウムビストリメチルシリルアミド、カリウムビストリメチルシリルアミド又はナトリウムビストリメチルシリルアミド等の存在下で二硫化炭素、次いでヨウ化メチル、ヨウ化エチル等のハロゲン化アルキルを反応させることにより実施することができる。反応温度は通常−78℃ないし200℃の温度範囲で実施でき、好ましくは25℃から150℃の範囲である。反応時間は30分から48時間で、通常30分から15時間で完結する
【0031】
酸化的脱硫フッ素化は、ジクロロメタン、1,2−ジクロロエタン、クロロホルム、ベンゼン、トルエン、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン又はジオキサン等の溶媒中、N-クロロこはく酸イミド、N-ブロモこはく酸イミド、N-ヨードこはく酸イミド又は1,3−ジブロモ−5,5−ジメチルヒダントイン等の酸化剤の存在下で、フッ化水素―ピリジン錯体、フッ化水素−トリエチルアミン錯体又は三フッ化二水素テトラブチルアンモニウム等を反応させることにより実施することができる。
【0032】
反応温度は通常−78℃ないし200℃の温度範囲で実施でき、好ましくは25℃から150℃の範囲である。反応時間は30分から48時間で、通常30分から15時間で完結する
【0033】
脱保護は適当な溶媒中で、通常、酸の存在下で行われる。使用する酸としては、例えば、塩酸、硫酸、臭化水素酸、リン酸などの無機酸や酢酸、ギ酸、トリフルオロ酢酸、p-トルエンスルホン酸などの有機酸が挙げられる。溶媒としては、水やメタノール、エタノール、プロパノールなどのアルコール類あるいはテトラヒドロフラン、ジオキサンなどのエーテル類並びにアセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類が挙げられる。これらの溶媒は単独であるいは混合して用いられる。
【0034】
反応温度は通常0〜150℃、好ましくは30〜120℃の範囲内から選択され、反応時間は通常10分〜48時間、好ましくは30分〜24時間の範囲内から選択される。
【0035】
一般式(1)で表される化合物は所望ならば、常法に従ってその塩に変換することができる。塩としては例えば塩酸、硫酸、リン酸等の無機酸との塩、メタンスルホン酸、乳酸、蓚酸、酢酸等の有機酸との塩、あるいはナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、アルミニウム、セリウム、クロム、コバルト、銅、鉄、亜鉛、白金、銀等の塩があげられる。
【0036】
さらに本発明化合物がヒトまたは動物へ投与される時は、従来、薬学的に良く知られた形態および経路が適用される。例えば散剤、錠剤、カプセル剤、軟膏、注射剤、シロップ剤、水剤、点眼剤、座薬等により経口または非経口的に使用される。
【0037】
実施例
次に本発明化合物およびその製造方法を、実施例をもって詳細に説明する。
【0038】
<参考例1>
4,4−エチレンジオキソ−6,7−ジフルオロ−1,2,3,4−テトラヒドロキノリンの合成
第一工程:
1−ベンジル−6,7−ジフルオロ−1,4−ジヒドロ−4−オキソ−3−キノリンカルボン酸エチル(5.97g)、濃硫酸(6mL)、酢酸(35mL)及び水(50mL)を混合し、30分加熱還流した。冷後、析出した結晶を濾取し、水洗後、乾燥して白色結晶の1−ベンジル−6,7−ジフルオロ−1,4−ジヒドロ−4−オキソ−3−キノリンカルボン酸(5.30g)を得た。
H NMR(DMSO−d6):δ5.85(s、2H)、7.28−7.39(m、5H)、8.08(dd、J=15.0Hz、11.1Hz)、8.29(dd、J=10.3Hz、8.8Hz、1H).
【0039】
第二工程
1−ベンジル−6,7−ジフルオロ−1,4−ジヒドロ−4−オキソ−3−キノリンカルボン酸(3.63g)を無水メタノール(173mL)に懸濁し、水素化ホウ素ナトリウム(1.93g)次いでp−トルエンスルホン酸・1水和物(231mg)を加えた後、65℃で1時間撹拌した。反応混合物を減圧濃縮し、残渣を酢酸エチル溶解し、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液次いで水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥後、減圧濃縮した。残渣をシリカゲルカラム(溶出溶媒:ヘキサン:酢酸エチル=5:1)で精製し、黄色油状の1−ベンジル−6,7−ジフルオロ−1,2,3,4−テトラヒドロ−4−オキソキノリン(2.30g)を得た。
MS(EI)m/z:273(M).
元素分析値(%):C1613NOとして
計算値:C,70.32;H,4.79;N,5.13
実測値:C,70.70;H,4.78;N,5.16.
【0040】
第三工程:
1−ベンジル−6,7−ジフルオロ−1,2,3,4−テトラヒドロ−4−オキソキノリン(468mg)、エチレングリコール(3mL)及びp−トルエンスルホン酸・1水和物(31mg)をトルエン(16mL)に溶解し、共沸脱水しながら48時間撹拌した。反応混合物を飽和炭酸水素ナトリウム水溶液次いで水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥後、減圧濃縮した。残渣をシリカゲルカラム(溶出溶媒:ヘキサン:酢酸エチル=4:1)で精製し、黄色粉末の1−ベンジル−4,4−エチレンジオキソ−6,7−ジフルオロ−1,2,3,4−テトラヒドロキノリン(306mg)を得た。
MS(EI)m/z:317(M).
元素分析値(%):C1817NOとして
計算値:C,68.13;H,5.40;N,4.41
実測値:C,68.42;H,5.50;N,4.45.
【0041】
第四工程:
1−ベンジル−4,4−エチレンジオキソ−6,7−ジフルオロ−1,2,3,4−テトラヒドロキノリン(1.78g)を無水メタノール(39mL)に溶解し、ギ酸アンモニウム(1.86g)及び10%パラジウム炭素(178mg)を加え、3時間加熱還流した。反応混合物中の触媒を濾去し、濾液を減圧濃縮した。残渣をシリカゲルカラム(溶出溶媒:ヘキサン:酢酸エチル=4:1)で精製し、淡黄色粉末の4,4−エチレンジオキソ−6,7−ジフルオロ−1,2,3,4−テトラヒドロキノリン(1.02g)を得た。
MS(EI)m/z:227(M).
元素分析値(%):C1111NOとして
計算値:C,58.15;H,4.88;N,6.16
実測値:C,58.48;H,4.82;N,6.18.
【実施例1】
【0042】
(6,7−ジフルオロ−1,2,3,4−テトラヒドロ−4−オキソキノリン−1−イル)ジチオカルバミン酸メチルの合成
4,4−エチレンジオキソ−6,7−ジフルオロ−1,2,3,4−テトラヒドロキノリン(1.00g)を無水テトラヒドロフラン(22mL)に溶解し、−78℃でリチウムビス(トリメチルシリルアミド)(1mol/Lテトラヒドロフラン溶液、6.60mL)を滴下した後、10分撹拌した。反応混合物に二硫化炭素(0.29mL)を滴下し、30分撹拌した後、ヨードメタン(0.42mL)を加え、さらに30分撹拌した。反応混合物に飽和塩化アンモニウム水溶液(5mL)を加えた後、室温に戻し、酢酸エチルで抽出した。酢酸エチル抽出液を水洗し無水硫酸ナトリウムで乾燥後、減圧濃縮した。残渣をテトラヒドロフラン(10mL)に溶解し、3mol/L塩酸(5mL)を加え、室温で一夜放置した。反応混合物を減圧濃縮し、残渣に水を加えた後、酢酸エチルで抽出した。酢酸エチル抽出液を飽和炭酸水素ナトリウム水溶液次いで水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥後、減圧濃縮した。残渣をシリカゲルカラム(溶出溶媒:ヘキサン:酢酸エチル=6:1)で精製し、黄色粉末の(6,7−ジフルオロ−1,2,3,4−テトラヒドロ−4−オキソキノリン−1−イル)ジチオカルバミン酸メチル(1.15g)を得た。
MS(EI)m/z:273(M).
元素分析値(%):C11NOSとして
計算値:C,48.34;H,3.32;N,5.12
実測値:C,48.52;H,3.24;N,5.14.
【実施例2】
【0043】
6,7−ジフルオロ−1−トリフルオロメチル−1,2,3,4−テトラヒドロ−4−キノリノンの合成
(6,7−ジフルオロ−1,2,3,4−テトラヒドロ−4−オキソキノリン−1−イル)ジチオカルバミン酸メチル(547mg)を無水ジクロロメタン(12mL)に溶解し、−78℃でフッ化水素−ピリジン錯体(2.86mL)次いでN−ブロモこはく酸イミド(1.42g)を加え、同温度で1時間、さらに室温で1時間撹拌した。反応混合物を飽和亜硫酸水素ナトリウム水溶液(60mL)と飽和炭酸水素ナトリウム水溶液(60mL)の混液中にあけ、室温で15分撹拌後、ジクロロメタン層を分取した。ジクロロメタン層を1mol/L塩酸次いで水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥後、減圧濃縮した。残渣をシリカゲルカラム(溶出溶媒:ヘキサン:酢酸エチル=4:1)で精製し、無色粉末の6,7−ジフルオロ−1−トリフルオロメチル−1,2,3,4−テトラヒドロ−4−キノリノン(483mg)を得た。
MS(EI)m/z:251(M).
HRMS(EI):C10NOとして
計算値:251.0370
実測値:251.0402.
【実施例3】
【0044】
6,7−ジフルオロ−1−トリフルオロメチル−1,2,3,4−テトラヒドロ−4−オキソ−3−キノリンカルボン酸エチルの合成
水素化ナトリウム(60%油性、115mg)を無水テトラヒドロフラン(4.3mL)に懸濁し、−78℃で6,7−ジフルオロ−1−トリフルオロメチル−1,2,3,4−テトラヒドロ−4−キノリノン(314mg)の無水テトラヒドロフラン(2mL)溶液、次いでエトキシカルボニルホスホン酸ジエチル(0.30mL)を加えた後、30分加熱還流した。反応混合物に氷水冷下で酢酸(0.4mL)を加え、酢酸エチルで希釈し、飽和食塩水次いで水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥後、減圧濃縮した。残渣をシリカゲルカラム(溶出溶媒:ヘキサン:酢酸エチル=20:1)で精製し、無色粉末の6,7−ジフルオロ−1−トリフルオロメチル−1,2,3,4−テトラヒドロ−4−オキソ−3−キノリンカルボン酸エチル(316mg)を得た。
MS(EI)m/z:323(M).
元素分析値(%):C1310NOとして
計算値:C,48.31;H,3.12;N,4.33
実測値:C,48.24;H,3.01;N,4.27.
【実施例4】
【0045】
6,7−ジフルオロ−1−トリフルオロメチル−1,4−ジヒドロ−4−オキソ−3−キノリンカルボン酸エチルの合成
6,7−ジフルオロ−1−トリフルオロメチル−1,2,3,4−テトラヒドロ−4−キノリノン(330mg)と2,3−ジクロロ−5,6−ジシアノ−1,4−ベンゾキノン(244mg)を無水ジオキサン(10mL)に溶解し、30分加熱還流した。反応混合物を減圧濃縮し、残渣を酢酸エチルに溶解した。酢酸エチル溶液を5%炭酸カリウム水溶液次いで水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥後、減圧濃縮した。残渣をシリカゲルカラム(溶出溶媒:ヘキサン:酢酸エチル=20:1)で精製し、無色粉末の6,7−ジフルオロ−1−トリフルオロメチル−1,4−ジヒドロ−4−オキソ−3−キノリンカルボン酸エチル(322mg)を得た。
MS(EI)m/z:321(M).
元素分析値(%):C13NOとして
計算値:C,48.61;H,2.51;N,4.36
実測値:C,48.48;H,2.34;N,4.38.
【実施例5】
【0046】
6,7−ジフルオロ−1−トリフルオロメチル−1,4−ジヒドロ−4−オキソ−3−キノリンカルボン酸の合成
6,7−ジフルオロ−1−トリフルオロメチル−1,4−ジヒドロ−4−オキソ−3−キノリンカルボン酸エチル(32.0mg)、酢酸(0.2mL)、硫酸(32μL)及び水(0.23mL)の混合物を30分加熱還流した。反応混合物を水で希釈した後、酢酸エチルで抽出した。酢酸エチル抽出液を水洗し、無水硫酸ナトリウムで乾燥後、減圧濃縮した。残渣をジエチルエーテルで懸濁して濾取し、無色粉末の6,7−ジフルオロ−1−トリフルオロメチル−1,4−ジヒドロ−4−オキソ−3−キノリンカルボン酸(28mg)を得た。
MS(EI)m/z:293(M).
元素分析値(%):C11NOとして
計算値:C,45.07;H,1.38;N,4.78
実測値:C,44.98;H,1.20;N,4.81.
【実施例6】
【0047】
6−フルオロ−1−トリフルオロメチル−1,2,3,4−テトラヒドロ−7−(4−メチル−1−ピペラジニル)−4−オキソ−3−キノリンカルボン酸エチルの合成
6,7−ジフルオロ−1−トリフルオロメチル−1,2,3,4−テトラヒドロ−4−オキソ−3−キノリンカルボン酸エチル(129mg)を無水アセトニトリル(4mL)に溶解し、トリエチルアミン(0.11mL)及びN−メチルピペラジン(49μL)を加え、50℃で18時間撹拌した。反応混合物を減圧濃縮し、残渣をシリカゲルカラム(溶出溶媒:ジクロロメタン:アセトン=5:1)で精製し、淡黄色粉末の6−フルオロ−1−トリフルオロメチル−1,2,3,4−テトラヒドロ−7−(4−メチル−1−ピペラジニル)−4−オキソ−3−キノリンカルボン酸エチル(146mg)を得た。
MS(EI)m/z:403(M).
元素分析値(%):C1821として
計算値:C,53.60;H,5.25;N,10.42
実測値:C,53.30;H,5.16;N,10.38.
【実施例7】
【0048】
7−(4−tert−ブトキシカルボニル−1−ピペラジニル)−6−フルオロ−1−トリフルオロメチル−1,2,3,4−テトラヒドロ−4−オキソ−3−キノリンカルボン酸エチルの合成
6,7−ジフルオロ−1−トリフルオロメチル−1,2,3,4−テトラヒドロ−4−オキソ−3−キノリンカルボン酸エチル(39.8mg)及びN−tert−ブトキシカルボニルピペラジン(32.0mg)を用い、実施例6と同様に反応を行い、黄色油状の7−(4−tert−ブトキシカルボニル−1−ピペラジニル)−6−フルオロ−1−トリフルオロメチル−1,2,3,4−テトラヒドロ−4−オキソ−3−キノリンカルボン酸エチル(43mg)を得た。
MS(EI)m/z:489(M).
HRMS(EI):C2227として
計算値:489.1887
実測値:489.1918.
【実施例8】
【0049】
7−(3−tert−ブトキシカルボニルアミノ−1−ピロリジニル)−6−フルオロ−1−トリフルオロメチル−1,2,3,4−テトラヒドロ−4−オキソ−3−キノリンカルボン酸エチルの合成
6,7−ジフルオロ−1−トリフルオロメチル−1,2,3,4−テトラヒドロ−4−オキソ−3−キノリンカルボン酸エチル(129mg)及び3−tert−ブトキシカルボニルアミノピロリジン(82.0mg)を用い、実施例6と同様に反応を行い、黄色粉末の7−(3−tert−ブトキシカルボニルアミノ−1−ピロリジニル)−6−フルオロ−1−トリフルオロメチル−1,2,3,4−テトラヒドロ−4−オキソ−3−キノリンカルボン酸エチル(165mg)を得た。
MS(FAB)m/z:490(M+H).
元素分析値(%):C2227として
計算値:C,53.99;H,5.56;N,8.58
実測値:C,53.98;H,5.44;N,8.49.
【実施例9】
【0050】
6−フルオロ−1−トリフルオロメチル−1,4−ジヒドロ−7−(4−メチル−1−ピペラジニル)−4−オキソ−3−キノリンカルボン酸エチルの合成
6−フルオロ−1−トリフルオロメチル−1,2,3,4−テトラヒドロ−7−(4−メチル−1−ピペラジニル)−4−オキソ−3−キノリンカルボン酸エチル(121mg)を無水ジオキサン(3mL)に溶解し、2,3−ジクロロ−5,6−ジシアノ−1,4−ベンゾキノン(71.7mg)を加え、1.5時間加熱還流した。反応混合物を減圧濃縮し、残渣をシリカゲルカラム(溶出溶媒:ジクロロメタン:メタノール=20:1)で精製し、淡黄色粉末の6−フルオロ−1−トリフルオロメチル−1,4−ジヒドロ−7−(4−メチル−1−ピペラジニル)−4−オキソ−3−キノリンカルボン酸エチル(111mg)を得た。
MS(EI)m/z:401(M).
元素分析値(%):C1819として
計算値:C,53.87;H,4.77;N,10.47
実測値:C,53.77;H,4.66;N,10.46.
【実施例10】
【0051】
7−(4−tert−ブトキシカルボニル−1−ピペラジニル)−6−フルオロ−1−トリフルオロメチル−1,4−ジヒドロ−4−オキソ−3−キノリンカルボン酸エチルの合成
7−(4−tert−ブトキシカルボニル−1−ピペラジニル)−6−フルオロ−1−トリフルオロメチル−1,2,3,4−テトラヒドロ−4−オキソ−3−キノリンカルボン酸エチル(93.0mg)を用い、実施例9と同様に反応を行い、淡黄色粉末の7−(4−tert−ブトキシカルボニル−1−ピペラジニル)−6−フルオロ−1−トリフルオロメチル−1,4−ジヒドロ−4−オキソ−3−キノリンカルボン酸エチル(84mg)を得た。
MS(EI)m/z:487(M).
元素分析値(%):C2225として
計算値:C,54.21;H,5.17;N,8.62
実測値:C,54.01;H,5.09;N,8.37.
【実施例11】
【0052】
7−(3−tert−ブトキシカルボニルアミノ−1−ピロリジニル)−6−フルオロ−1−トリフルオロメチル−1,4−ジヒドロ−4−オキソ−3−キノリンカルボン酸エチルの合成
7−(3−tert−ブトキシカルボニルアミノ−1−ピロリジニル)−6−フルオロ−1−トリフルオロメチル−1,2,3,4−テトラヒドロ−4−オキソ−3−キノリンカルボン酸エチル(139mg)を用い、実施例9と同様に反応を行い、淡黄色粉末の7−(3−tert−ブトキシカルボニルアミノ−1−ピロリジニル)−6−フルオロ−1−トリフルオロメチル−1,4−ジヒドロ−4−オキソ−3−キノリンカルボン酸エチル(116mg)を得た。
MS(FAB)m/z:488(M+H).
元素分析値(%):C2225として
計算値:C,54.21;H,5.17;N,8.62
実測値:C,54.42;H,5.18;N,8.39.
【実施例12】
【0053】
6−フルオロ−1−トリフルオロメチル−1,4−ジヒドロ−7−(4−メチルピペラジニル)−3−キノリンカルボン酸塩酸塩の合成
6−フルオロ−1−トリフルオロメチル−1,4−ジヒドロ−7−(4−メチル−1−ピペラジニル)−4−オキソ−3−キノリンカルボン酸エチル(90.3mg)をジオキサン(3.5mL)に溶解し、1mol/L塩酸(2.5mL)を加え、3時間加熱還流した。反応混合物を減圧濃縮し、残渣をエタノールに懸濁して濾取した。濾取した結晶をエタノールで洗浄し、無色粉末の6−フルオロ−1−トリフルオロメチル−1,4−ジヒドロ−7−(4−メチルピペラジニル)−3−キノリンカルボン酸塩酸塩(80.0mg)を得た。
MS(FAB)m/z:374(M+H).
元素分析値(%):C1615・HClとして
計算値:C,46.90;H,3.94;N,10.25
実測値:C,46.88;H,3.81;N,10.32.
【実施例13】
【0054】
6−フルオロ−1−トリフルオロメチル−1,4−ジヒドロ−7−ピペラジニル−3−キノリンカルボン酸塩酸塩の合成
7−(4−tert−ブトキシカルボニル−1−ピペラジニル)−6−フルオロ−1−トリフルオロメチル−1,4−ジヒドロ−4−オキソ−3−キノリンカルボン酸エチル(63.4mg)を用い、実施例12と同様に反応を行い、無色粉末の6−フルオロ−1−トリフルオロメチル−1,4−ジヒドロ−7−ピペラジニル−3−キノリンカルボン酸塩酸塩(47mg)を得た。
MS(FAB)m/z:360(M+H).
元素分析値(%):C1513・HClとして
計算値:C,45.53;H,3.57;N,10.62
実測値:C,45.21;H,3.37;N,10.54.
【実施例14】
【0055】
7−(3−アミノ−1−ピルリジニル)−6−フルオロ−1−トリフルオロメチル−1,4−ジヒドロ−4−オキソ−3−キノリンカルボン酸の合成
7−(3−tert−ブトキシカルボニルアミノ−1−ピロリジニル)−6−フルオロ−1−トリフルオロメチル−1,4−ジヒドロ−4−オキソ−3−キノリンカルボン酸エチル(63.4mg)をジオキサン(2.5mL)に溶解し、1mol/L塩酸(2.5mL)を加え、4時間加熱還流した後、反応混合物を減圧濃縮した。残渣を少量の水に溶解し、0.01mol/L水酸化ナトリウム水溶液でpH7とし、析出した結晶を濾取した。濾取した結晶を水、ジクロロメタン次いでメタノールの順で洗浄し淡褐色粉末の7−(3−アミノ−1−ピルリジニル)−6−フルオロ−1−トリフルオロメチル−1,4−ジヒドロ−4−オキソ−3−キノリンカルボン酸(40mg)を得た。
MS(FAB)m/z:360(M+H).
元素分析値(%):C1513・HOとして
計算値:C,47.75;H,4.01;N,11.14
実測値:C,47.42;H,4.06;N,10.87
【0056】
<抗菌活性>
試験例1:インビトロ抗菌力
本発明化合物のインビトロ抗菌力(最小発育阻止濃度、MIC)を日本化学療法学会指定の標準法[Chemotherapy, 29(1),76
(1981)]に準じて Mueller-Hinton寒天培地を用いた寒天平板希釈法により測定した。ただし、肺炎球菌および腸球菌に対しては、馬脱繊維血を5 %含む Mueller-Hinton寒天培地を用いMICの測定を行った。その結果を表1に示す。
【0057】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0058】
上記の試験からも明らかなように本発明化合物はグラム陰性菌及びグラム陽性菌に対してノルフロキサシンに匹敵する優れた抗菌力を示すことから、感染症治療薬として有用である。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)

【化1】

[式中、Rは水素原子、炭素数1から3の低級アルキル基、医薬的に許容される陽イオン又はプロドラッグのエステル基を、R1は水素原子、フッ素原子、低級アルキル基又はアミノ基を、R2は水素原子、ハロゲン原子、低級アルキル基、アルコキシ基又はシアノ基を、Xは水素原子又はハロゲン原子を、Zはハロゲン原子、
【化2】

(ここで、R3は水素原子、低級アルキル基、アシル基、アルコキシカルボニル基あるいはアラルキル基を、R4及びR5はそれぞれ独立して水素原子、低級アルキル基、シクロアルキル基あるいはフェニル基を示す。)又は
【化3】

(ここで、R6は水素原子、ハロゲン原子、低級アルキル基、ハロゲノメチル基、アルコキシ基あるいは水酸基を、R7は水素原子、低級アルキル基あるいはシクロアルキル基を、R8は水素原子、低級アルキル基、アシル基、アルコキシカルボニル基あるいはアラルキル基を示す。)を示す。]で表される1-トリフルオロメチルキノロンカルボン酸誘導体及びその塩ならびに水和物。
【請求項2】
請求項1に記載の化合物及びその塩並びに水和物を有効成分として含有する抗菌剤。

【公開番号】特開2006−117555(P2006−117555A)
【公開日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−305126(P2004−305126)
【出願日】平成16年10月20日(2004.10.20)
【出願人】(000001395)杏林製薬株式会社 (120)
【Fターム(参考)】