説明

1−ピペリジンプロピオン酸からなる、抗シワ剤、マトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)抑制剤、及び/又はラミニン5産生促進剤

【課題】新規且つ有効な抗シワ剤を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明は、1−ピペリジンプロピオン酸及び/又はその塩からなる、マトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)抑制剤、及び/又はラミニン5産生促進剤、並びに抗シワ剤に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、1−ピペリジンプロピオン酸及び/又はその塩からなる、抗シワ剤、より具体的には、マトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)抑制剤及び/又はラミニン5産生促進剤に関する。
【背景技術】
【0002】
人類を始めとする様々な動物の身体全体を覆う皮膚は、日光、乾燥、酸化、環境によるストレスなどの外的因子及び加齢によるシワの形成、硬化、しみ、くすみ、弾力性の低下等の変化に曝されている。ここで、皮膚は大きく分けて、表皮と真皮の二つの層から構成されている。表皮と真皮の間には基底膜と呼ばれる薄くて繊細な膜が存在する。表皮の代謝は、この基底膜を通して真皮の細胞が産生する因子や血液供給に依存している。皮膚における表皮の増殖と分化は、基底膜と真皮の影響を受けている。したがって、基底膜を介しての表皮・真皮間のコミュニケーションは、皮膚表皮の機能調節にとって重要な役割を担っている。
【0003】
皮膚基底膜にはアンカリング複合体と呼ばれる特殊な構造があり、表皮と真皮という2つの組織の接着やコミュニケーションを安定させる役割を果たしている。アンカリング複合体のタンパク質は、ケラチノサイトの細胞骨格であるケラチンと真皮乳頭層の結合組織タンパク質の双方にリンクしている。アンカリング複合体の重要な構成要素の一つがラミニン5である(Rousselle et al., J Cell Biol. 1991 Aug;114(3):567-76)。
【0004】
ラミニン5は、α3、β3及びγ2鎖からなるタンパク質であり、真皮乳頭層に接続しているアンカリング線維を形成するVII型コラーゲンと直接結合するだけでなく、更に他のラミニン6や7と複合体を形成し、この複合体がナイドジェンを介して基底膜の骨格であるIV型コラーゲンと結合することが報告されている。
【0005】
上記複合体を構成するIV型コラーゲンの発現レベルは、加齢と共に低下することが観察されており(Vazquez F et al., Maturitas 1996, 25: 209-215)、ラミニン5が結合するVII型コラーゲンに関しても、高齢者由来の皮膚線維芽細胞では若い人由来の皮膚線維芽細胞に比べて、蛋白質レベルおよびmRNAレベルで産生能が低下するとの報告(Chen et al., J. Invest. Dermatol., 1994, 102: 205-209)がある。また、VII型コラーゲンにより構成されるアンカリング線維は、正常皮膚において生理的老化および光老化に伴い減少するとの報告(辻卓夫、日皮会誌,1995,105:963−975,Tidman et al., J. Invest Dermatol., 1984, 83: 448-453)もある。これらの個々の構成成分の特徴に加え、基底膜自体も皮膚老化に伴い多重化、断裂などの構造以上を示すことが知られており(Lavker et al., J. Invest. Dermatol. 1979 73: 59-66)、この構造変化の結果、シワ、たるみなどの老徴の発現、老化に伴う皮膚機能低下が生じるものと思われる。したがって、基底膜骨格を構成するコラーゲンと共に、ラミニン5の産生を促進することは、基底膜の構造を良好な状態に保ち、シワ形成などの皮膚老化を防ぐ上で極めて重要であると考えられる。
【0006】
皮膚老化の防止の中でも抗シワは主要な問題の1つである。ここで、シワは大別すると溝の浅い「表皮ジワ」(小ジワ)と溝の深い「真皮ジワ」(大ジワ)に分類されるが、特に真皮ジワは基底膜の変化によるとともに、真皮層が変性・陥没して生じるため、この理由からも基底膜の維持は重要であると考えられる。
【0007】
真皮は結合組織からなり、細胞外空間は、主に細胞外マトリックス(ECM:extracellular matrix)と呼ばれる巨大分子の網目構造により満たされている。ECMは、繊維性タンパク質(コラーゲン、エラスチン等)や、細胞接着性タンパク質(グリコサミノグリカン、プロテオグリカン、フィブロネクチン、ラミニン等)からなり、これらの構造により、真皮は皮膚の弾力、張りなどに大きく影響している。
【0008】
上述の皮膚の変化を生じさせる因子として、マトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)の関与が報告されている。MMPは、細胞外マトリックスタンパク質を主な基質とする一群のプロテアーゼの総称である。MMPには、多くの種類が知られており、構造的、機能的特徴に共通点を有してはいるが、それぞれの基質タンパク質が異なる(宮崎香、1996,生化学68巻12号:1791−1807)。
【0009】
例えば、MMP1は、EMCの構成成分であるI型及びIII型コラーゲンを分解し、ゼラチナーゼ群に属するMMP2及びMMP9は、基底膜成分であるラミニンやIV型コラーゲン、EMC成分であるエラスチン等を分解し、そしてストロメライシン群に属するMMP3及びMMP10は、プロテオグリカンやIV型コラーゲン、ラミニン等を分解する酵素として知られている。皮膚の繊維芽細胞に中波領域の紫外線(UVB)を照射すると、このMMPのmRNA発現、酵素活性、タンパク質分解レベルが上昇することが報告されており(Fisher G. J. et al., Nature, 1996, 379, 335-339)、紫外線によるEMCの減少変性の原因の一つと考えられている。
【0010】
したがって、MMPを阻害することで、真皮及び基底膜の構成成分を維持し、ひいてはシワ形成を抑制することができると考えられる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Rousselle et al., J Cell Biol. 1991 Aug;114(3):567-76
【非特許文献2】Vazquez F et al., Maturitas 1996, 25: 209-215
【非特許文献3】Chen et al., J. Invest. Dermatol., 1994, 102: 205-209
【非特許文献4】辻卓夫、日皮会誌,1995,105:963−975
【非特許文献5】Tidman et al., J. Invest Dermatol., 1984, 83: 448-453
【非特許文献6】Lavker et al., J. Invest. Dermatol. 1979, 73: 59-66
【非特許文献7】宮崎香、1996,生化学68巻12号:1791−1807
【非特許文献8】Fisher G. J. et al., Nature, 1996, 379, 335-339
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、皮膚、特に基底膜と真皮のシワ形成メカニズムにおけるMMP及びラミニン5の機能に着目し、新規且つ有効な抗シワ剤、より具体的にはMMP抑制剤及び/又はラミニン5産生促進剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、上記課題を解決するために、表皮、真皮、及び基底膜における様々な因子とそれが引き起こす作用について検討を重ねた結果、表皮のダメージに関与することが知られていた扁平上皮細胞癌関連抗原(SCCA1:Squamous Cell Carcinoma Antigen 1)の産生を抑制することにより、真皮及び基底膜においてシワ形成に影響を及ぼす因子であるMMPの抑制、及び/又はラミニン5の産生促進が可能であることを初めて見出した。
【0014】
したがって、SCCA1の産生を抑制する1−ピペリジンプロピオン酸が、MMP抑制活性及び/又はラミニン5産生促進活性を有すると考え、本発明を完成するに至った。
【0015】
すなわち、本発明は以下の発明を包含する。
【0016】
[1]一般式(I)の1−ピペリジンプロピオン酸
【化1】

及び/又はその塩を含有するSCCA1産生抑制剤からなる、マトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)抑制剤及び/又はラミニン5産生促進剤。
[2]前記MMPがMMP2及び/又はMMP9である、[1]に記載のマトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)抑制剤及び/又はラミニン5産生促進剤。
[3]1−ピペリジンプロピオン酸及び/又はその塩からなる、抗シワ剤。
【発明の効果】
【0017】
本発明により、新規且つ有効なマトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)抑制剤及び/又はラミニン5産生促進剤、さらには抗シワ剤を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は、女性のライフステージとSCCA1発現の関係を示すグラフを示す。
【図2】図2はSCCA1高発現細胞の確立手段を示す。
【図3】図3はSCCA1低発現細胞の確立手段を示す。
【図4】図4は、実施例1の実験方法を模式的に示す。
【図5】図5は、SCCA1がMMP2及びMMP9に及ぼす影響を示す。
【図6】図6は、SCCA1がコラーゲン産生に及ぼす影響を示す。
【図7】図7は、SCCA1がラミニン5産生に及ぼす影響を示す。
【図8】図8は、ヒト線維芽細胞へのrSCCA1添加によるMMP発現の変動を示す。
【図9】図9は、細胞系における、1−ピペリジンプロピオン酸添加の有無によるラミニン5の遺伝子発現量の比較を示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
SCCA1とは、もともと、扁平上皮癌細胞で発見された抗原であり、子宮頸部、胚、食道、皮膚の扁平上皮細胞癌で高い血中濃度を示し、扁平上皮細胞癌の診断に利用されている(H. Kato et al., Cancer, 1997, 40; 1621-1628、N. Mno et al., Cancer, 1998, 62; 730-734)。
【0020】
これまで本発明者等は、表皮におけるSCCA1の作用について研究を行ってきた。本発明者等により、乾癬表皮の上層においてSCCA1発現の亢進が認められること(Takeda A. et al、J. Invest. Dermatol., 2002, 118(1), 147-154)、SCCA1は細胞のアポトーシス抑制作用を有する抗アポトーシス因子であること(特開2005−281140)、SCCA1の発現を指標とする肌の感受性評価を目的とする研究を行ったところ、コントロールと比較して、アトピー性乾燥皮膚では16倍、露光部皮膚では90倍、花粉症アレルギー性皮膚では232倍、乾癬皮膚では466倍もSCCA1の発現が亢進していることが報告されている(特開2007−279024)。
【0021】
さらに本発明者等は、SCCA高発現マウスにおいて細胞増殖の活性化、表皮肥厚が見られること、SCCA1高発現細胞株において、細胞増殖とSCCA1発現量に相関性があること、及びSCCAノックダウン細胞株において細胞増殖活性が低下することを見出した。そして、本発明者は、多種多様な薬物スクリーニングにより、1−ピペリジンプロピオン酸及び/又はその塩が、SCCA1産生を有意に抑制すること、さらに、表皮肥厚を予防、改善できること報告している(特開2009−242345)。
【0022】
また本発明者等は、女性のライフステージにおいてSCCA1発現量が変化することも見出している。この研究では、女性の年代を、以下の5つのステージ:幼年期(2〜9歳)、思春期(10〜19歳:初潮を迎えた人)、成人期(20〜44歳:規則正しい性周期であり、且つ妊娠・授乳中でない人)、更年期(45〜59歳:更年期症状を有し、且つ妊娠・授乳中でない人)、及び閉経後(60〜90歳:閉経した人)に分けてSCCA1の発現量を測定したところ、更年期以降、顕著にSCCA1発現量が増加することがわかった(図1)。
【0023】
SCCA1とMMPとの関係については、K. Sueoka等が、子宮頸癌細胞を用いた研究を報告している。この研究によると、SCCA1を子宮頸癌細胞に直接作用させた結果、MMP9の発現量は増加したが、MMP2の発現量については影響がなかったことが記載されている(K. Sueoka et al., International Jornal of Oncology,2005, 27: 1345-1353)。これは、表皮細胞においてSCCA1発現を亢進させた場合に、真皮におけるMMP2の発現が亢進したという本発明者等の実験結果とは一致しない。また、本発明者等は、線維芽細胞にrSCCA1を直接作用させたところ、MMP2、MMP9及びMMP10の発現が亢進することを初めて確認した(実施例2を参照されたい)。
【0024】
すなわち、本発明の1−ピペリジンプロピオン酸及び/又はその塩を含有するSCCA1産生抑制剤からなる、MMP抑制剤及び/又はラミニン5産生促進剤は、MPPの存在に起因するシワ及び/又はラミニン5欠如によるシワを予防及び/又は改善することのできる抗シワ剤として利用することができる。
【0025】
本発明に係る1−ピペリジンプロピオン酸は以下の一般式(I)の化合物である。
【0026】
【化2】

【0027】
本発明に係る一般式(I)で示される1−ピペリジンプロピオン酸は公知の物質であり、公知の方法により容易に合成することができ、または市販品を容易に購入することができる。
【0028】
また、本発明に係る一般式(I)で示される1−ピペリジンプロピオン酸は公知の方法により無機塩又は有機塩とすることができる。本発明において用いられる塩としては、特に限定されないが、例えば、無機塩としては、塩酸塩、硫酸塩、リン酸塩、臭化水素酸塩、ナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、アンモニウム塩等が挙げられる。有機塩としては、酢酸塩、乳酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、酒石酸塩、クエン酸塩、メタンスルホン酸塩、p−トルエンスルホン酸塩、トリエタノールアミン塩、ジエタノールアミン塩、アミノ酸塩等が挙げられる。
【0029】
本発明の抗シワ剤、MMP抑制剤、及び/又はラミニン5産生促進剤は、1−ピペリジンプロピオン酸及び/又はその塩を含んでなる。この抗シワ剤、MMP抑制剤、及び/又はラミニン5産生促進剤には、抗シワ活性、MMP抑制活性、及び/又はラミニン5産生促進活性を発揮するために有効な量の1−ピペリジンプロピオン酸及び/又はその塩が含有され、その含有量は、組成物中0.0001〜20質量%が好ましく、さらに好ましくは0.0005〜10質量%であり、特に好ましくは0.001〜5質量%である。0.0001質量%未満では効果が十分に発揮されず、一方、20質量%を超えて含有させてもさほど大きな効果の向上は認められず、また製剤化に困難をきたすことがある。
【0030】
本発明の抗シワ剤、MMP抑制剤、及び/又はラミニン5産生促進剤を、例えばシワ改善剤として使用する場合、1−ピペリジンプロピオン酸及び/又はその塩以外に、本発明の効果を損なわない範囲で、通常化粧品や外用剤等に用いられる成分、例えば、美白剤、保湿剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、界面活性剤、増粘剤、pH調整剤、希釈剤、各種皮膚栄養剤、色素、香料、アルコール類、水性成分、油性成分、水、粉末等を必要に応じて適宜配合することができる。
【0031】
さらに、エデト酸二ナトリウム、エデト酸三ナトリウム、クエン酸ナトリウム、ポリリン酸ナトリウム、メタリン酸ナトリウム、グルコン酸等の金属キレート剤、カフェイン、タンニン、ベラパミル、トラネキサム酸及びその誘導体、甘草抽出物、グラブリジン、カリンの果実の熱水抽出物、各種生薬、酢酸トコフェロール、グリチルリチン酸及びその誘導体、又はその塩等の薬剤、ビタミンC、アスコルビン酸リン酸マグネシウム、アスコルビン酸グルコシド、アルブチン、コウジ酸等の美白剤、グルコース、フルクトース、マンノース、ショ糖、トレハロース、キシリトール、ソルビトール、エリスリトール等の糖類、レチノイン酸、レチノール、レチノール酢酸、レチノールパルミチン酸等のビタミンA誘導体なども適宜配合できる。
【0032】
皮膚外用剤の剤型は特に限定されるものではない。例えば、溶液系、可溶化系、乳化系、粉末分散系、水−油二相系、水−油−粉末三相系、固形、軟膏、ゲル、エアロゾル、ムース、ミスト、スプレー、パッチ、貼付ゲル等、任意の剤型を適用できる。また、その使用態様も任意であり、例えば、ローション、乳液、クリーム、パック、美容液等の基礎化粧料や、ファンデーション等のメーキャップ化粧料、日焼け止め剤等の機能性化粧料、毛髪用化粧料、芳香化粧料、浴用剤等とすることができ、これらに限定されるものではない。
【0033】
以下、具体例を挙げて本発明を説明する。なお、本発明はこれにより限定されるものではない。
【実施例1】
【0034】
SCCA1発現量の基底膜及び真皮に与える影響の検討:
SCCA1の高発現細胞と低発現細胞を用意し(特開2009−242345に記載の方法により作製、図2及び3も参照されたい)、DMEM−10%FBS培地で24時間培養し、その後、各々のヒト線維芽細胞(1×105細胞/ウェル)に培地を添加し、24時間培養した(図4)。その後、RNAを採取し、定量的PCRを用いてMMP2、MMP9、コラーゲン(I型コラーゲンα2鎖、III型コラーゲンα1鎖、IV型コラーゲンα1鎖、IV型コラーゲンα2鎖、VII型コラーゲンα1鎖)、ラミニン5(ラミニン5α3鎖)の遺伝子発現量を測定した(内部標準はGAPDH(グリセルアルデヒド3リン酸脱水酵素)を使用)。その結果を図5(MMP2及びMMP9)、図6(コラーゲン)及び図7(ラミニン5)に示す。
【0035】
結果:
1)表皮細胞においてSCCA1が高発現している系では、真皮のMMP2及びMMP9の産生が亢進され、逆にSCCA1発現をノックダウンした場合は(SCCA1低発現系)、真皮でMMP2及びMMP9の産生が抑制された。
2)表皮細胞においてSCCA1が高発現している系では、ラミニン5α3鎖の産生が抑制され、逆にSCAA−1発現をノックダウンした場合は、真皮でラミニン5α3鎖の産生が亢進された。
3)コラーゲンの産生について、SCCA1の発現量の影響は観察されなかった。
【実施例2】
【0036】
ヒト線維芽細胞へのrSCCA1添加によるMMPの発現:
1.細胞
細胞は、ヒト線維芽細胞(#HDF342 P5100709)を用いた。細胞は、6ウェルプレートに1ウェルあたり2.0×105個となるように播種し、ダルベッコ変法イーグル(DMEM)培地(日水製薬株式会社)に10%FBSを添加した培地を用いて、37℃、5%CO及び飽和水蒸気雰囲気下で24時間培養した。その後10%FBSを含まないDMEM培地へ置換、さらに24時間培養した。
【0037】
2.rSCCA1の添加
その後、細胞を、rSCCA1(2010/7/20作成)を0μM〜2.0μM添加した培地に置換し、24時間培養した。
【0038】
3.RNA抽出・cDNA合成
1ウェル当り2ml PBSで2回洗浄後、ISOGEN(ニッポンジーン)1mLを加えて回収した。マニュアルに従いRNAを抽出し、その濃度と260nm/280nm OD比をNanoDropで確認した。トータルRNA溶液をRNaseフリー水で150ng/μLに調整し、20μL(4μg)を50μM ランダムプライマー(TAKARA)と2mM dNTP Mixture(TOYOBO)、5×First strand buffer(Inbitrogen)、0.1M DTT(Invitrogen)、SuperScript II(Invitrogen)、RNase inhibitor(Invitrogen)により全反応量80μLとして逆転写反応した。
【0039】
4.定量PCR
LightCycler FastStart DNA MasterPlus SYBER Green1(Roche Cat.No.03 515 885 001)を用い、上記に従って調製したcDNA 4μL、フォワード側及びリバース側プライマー(下記参照)各0.8μM(終濃度)、Master Mix 5μLに水を加えて全量25μLとした反応液を調製し、LightCycler Software Ver.3.5(Roche Diagnostics)により定量PCRを行った。反応は95℃−15分、(95℃−15秒→65℃−20秒→72℃−20秒)×45サイクルを終了した後、95℃から62℃の融解曲線解析を行った。用いたプライマーは下記配列の通りである。プライマーは、MMP1、エラスチン、及びラミニン5α3は市販品を使用し、MMP2、MMP3、MMP9、及びMMP10は本発明者等が作製したものである。各cDNA検体の遺伝子のサイクル数を求め、rSCCA1(2.0μM)をスタンダードとした検量線を用いて値を算出した。また各cDNA検体の酸で得られたGAPDH値で補正したものを同一条件検体の平均±SEで表した。群間の有意差はスチューデントのt検定で検定した。
【0040】
調べた皮膚関連因子、MMP1、MMP2、MMP3、MMP9、及びMMP10のうち、MMP2及びMMP9については、ヒト線維芽細胞へのrSCCA1添加によって発現量が有意に増加した(図6)。
【0041】
GAPDH
フォワード(hGAP69F) 5’- GGTGAAGGTCGGAGTCAACGGATTTGGCG -3’(配列番号1)
リバース(hGAP206R) 5’- TATTGGAACATGTAAACCATGTAGTTGAGG -3’(配列番号2)
MMP1
フォワード 5’- GACTTCTACCCATTTGATGG -3’(配列番号3)
リバース 5’- TTAGGGTTGGGGTCTTCATC -3’(配列番号4)
MMP2
フォワード 5’- ACTCCTGAGATCTGCAAACAGGA -3’(配列番号5)
リバース 5’- ACACCTGCAAAGAACACAGCC -3’(配列番号6)
MMP3
フォワード 5’- GACTCGGTTCCGCCTGTCT -3’(配列番号7)
リバース 5’- CGCCTGAAGGAAGAGATGGC -3’(配列番号8)
MMP9
フォワード 5’- TGGGCAAGGGCGTCGTGGTTC -3’(配列番号9)
リバース 5’- TGGTGCAGGCGGAGTAGGATT -3’(配列番号10)
MMP10
フォワード 5’- CAGGATTGTGAATTATACACCAGATTTGCC -3’(配列番号11)
リバース 5’- GAATGCCATTCACATCATCTTGCGA -3’(配列番号12)
【実施例3】
【0042】
細胞系における1−ピペリジンプロピオン酸によるラミニン5発現への影響:
ヒト表皮細胞を播種し、1%の1−ピペリジンプロピオン酸の存在下又は不存在下で、24時間培養した。この上清を採取し、繊維芽細胞に当該上清を添加して培養を行った。ISOGENにて回収後、RNAを精製し、定量的PCRによりラミニン量を測定した。プライマーは実施例2において用いたものを用い、ラミニン5α3は以下のプライマーを用いた。GAPDHを内部標準とし、1−ピペリジンプロピオン酸の存在下又は不存在下でラミニン5α3鎖の遺伝子発現量を比較したところ、1−ピペリジンプロピオン酸の存在下でラミニン5α3鎖の発現が顕著に亢進することが認められた(図9)。
ラミニン5α3
フォワード 5’- CCCGGTCAAAGTCAACTGCA -3’(配列番号13)
リバース 5’- GGCGTTGCCATAGTAGCCCT -3’(配列番号14)
【実施例4】
【0043】
処方例1.クリーム
【0044】
【表1】

【0045】
(製法)
イオン交換水にプロピレングリコールと苛性カリを加え溶解し、加熱して70℃に保つ(水相)。他の成分を混合し加熱融解して70℃に保つ(油相)。水相に油相を徐々に加え、全部加え終わってからしばらくその温度に保ち反応を起こさせる。その後、ホモミキサーで均一に乳化し、よくかきまぜながら30℃まで冷却する。
【0046】
処方例2.クリーム
【0047】
【表2】

【0048】
(製法)
イオン交換水にプロピレングリコールを加え、加熱して70℃に保つ(水相)。他の成分を混合し加熱融解して70℃に保つ(油相)。水相に油相を加え予備乳化を行い、ホモミキサーで均一に乳化した後、よくかきまぜながら30℃まで冷却する。
【0049】
処方例3.クリーム
【0050】
【表3】

【0051】
(製法)
イオン交換水に石けん粉末と硼砂を加え、加熱溶解して70℃に保つ(水相)。他の成分を混合し加熱融解して70℃に保つ(油相)。水相に油相をかきまぜながら徐々に加え反応を行う。反応終了後、ホモミキサーで均一に乳化し、乳化後よくかきまぜながら30℃まで冷却する。
【0052】
処方例4.乳液
【0053】
【表4】

【0054】
(製法)
少量のイオン交換水にカルボキシビニルポリマーを溶解する(A相)。残りのイオン交換水にポリエチレングリコール1500とトリエタノールアミンを加え、加熱溶解して70℃に保つ(水相)。他の成分を混合し加熱融解して70℃に保つ(油相)。水相に油相を加え予備乳化を行い、A相を加えホモミキサーで均一乳化し、乳化後よくかきまぜながら30℃まで冷却する。
【0055】
処方例5.乳液
【0056】
【表5】

【0057】
(製法)
イオン交換水にプロピレングリコールを加え、加熱して70℃に保つ(水相)。他の成分を混合し、加熱融解して70℃に保つ(油相)。油相をかきまぜながらこれに水相を徐々に加え、ホモミキサーで均一に乳化する。乳化後よくかきまぜながら30℃まで冷却する。
【0058】
処方例6.ゼリー
【0059】
【表6】

【0060】
(製法)
イオン交換水にカーボポール940を均一に溶解し、一方、95%エタノールに1−ピペリジンプロピオン酸、ポリオキシエチレン(50モル)オレイルアルコールエーテルを溶解し、水相に添加する。次いで、その他の成分を加えたのち苛性ソーダ、L−アルギニンで中和させ増粘し、ゼリーを得る。
【0061】
処方例7.美容液
【0062】
【表7】

【0063】
(製法)
A相、C相をそれぞれ均一に溶解し、C相にA相を加えて可溶化する。次いでB相を加えた後充填を行う。
【0064】
処方例8.パック
【0065】
【表8】

【0066】
(製法)
A相、B相、C相をそれぞれ均一に溶解し、A相にB相を加えて可溶化する。次いでこれをC相に加えたのち充填を行う。
【0067】
処方例9.固形ファンデーション
【0068】
【表9】

【0069】
(製法)
タルク〜黒色酸化鉄の粉末成分をブレンダーで十分混合し、これにスクワラン〜オクタン酸イソセチルの油性成分、1−ピペリジンプロピオン酸、防腐剤、香料を加え良く混練
した後、容器に充填、成型する。
【0070】
処方例10.乳化型ファンデーション(クリームタイプ)
【0071】
【表10】

【0072】
(製法)
水相を加熱撹拌後、十分に混合粉砕した粉体部を添加してホモミキサー処理する。更に加熱混合した油相を加えてホモミキサー処理した後、撹拌しながら香料を添加して室温まで冷却する。
【0073】
処方例11.クリーム
【0074】
【表11】

【0075】
(製法)
精製水に、グリセリン、ジプロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、エリスリトール、リン酸L−アスコルビルマグネシウム、カルボキシメチルセルロースナトリウムを加え、加熱して70℃に保つ(水相)。他の成分を混合し加熱融解して70℃に保つ(油相)。水相に油相を加え予備乳化を行い、ホモミキサーで均一に乳化した後、よくかきまぜながら30℃まで冷却する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(I)の1−ピペリジンプロピオン酸
【化1】

及び/又はその塩からなる、マトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)抑制剤及び/又はラミニン5産生促進剤。
【請求項2】
前記MMPがMMP2及び/又はMMP9である、請求項1に記載のマトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)抑制剤及び/又はラミニン5産生促進剤。
【請求項3】
1−ピペリジンプロピオン酸及び/又はその塩からなる、抗シワ剤。

【図1】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図9】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−240911(P2012−240911A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−108801(P2011−108801)
【出願日】平成23年5月13日(2011.5.13)
【出願人】(000001959)株式会社 資生堂 (1,748)
【Fターム(参考)】