説明

1−メチルカルバペネム類の新規製造法および新規中間体

【課題】1−メチルカルバペネム系抗菌剤を短工程で合成できる製造方法の提供。
【解決手段】1−メチルチエナマイシンまたはその類縁体をアシル化し、かつ酸化してスルフィドをスルホキシドへ変換して、下記式の化合物を得て、スルホキシド基に代えて、側鎖を導入し、カルバペネム系抗菌剤を得る方法である。この方法によれば、1位、5位、6位、8位の立体を保持したまま、かつ、短工程で1−メチルカルバペネム系抗菌剤を製造することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、1−メチルカルバペネム系抗菌剤の新規合成法および新規中間体に関する。具体的には1−メチルチエナマイシン、またはその類縁体を出発物質として、経口剤、注射剤の別を問わず、臨床上有用な1−メチルカルバペネム系抗菌剤を製造する新規合成法、そしてその方法に用いられる新規中間体に関する。
【背景技術】
【0002】
カルバペネム系抗菌剤は、強い抗菌力と高い安全性を併せ持ち、臨床上有用な注射用抗菌剤に分類される。注射用カルバペネムの一例であるビアペネム(BIPM)は、ブドウ球菌属、レンサ球菌属、肺炎球菌、腸球菌(Enterococcus faeciumを除く)、モラキセラ属、大腸菌、シトロバクター属、クレブシエラ属、エンテロバクター属、セラチア属、プロテウス属、緑膿菌、アシネトバクター属、ペプトストレプトコッカス属、バクテロイデス属、プレボテラ属、およびフソバクテリウム属の微生物の発育を阻止し、敗血症、慢性呼吸器疾患の二次感染、肺炎、肺化膿症、腎盂腎炎、複雑性膀胱炎、腹膜炎等に有効である。しかも、カルバペネム系抗菌剤は、我が国では主に経口投与で用いられているキノロン系抗菌剤と比較すると副作用が少なく、小児への適応が認められている。さらに我が国では、世界で初めての試みとして、耐性菌も含めた肺炎球菌属およびインフルエンザ菌に著効を示す経口カルバペネム、テビペネムピボキシル(ME1211ともいう)の臨床開発が小児先行型で進められている。
【0003】
しかしながら、市販されているカルバペネム系抗菌剤は、他のβ−ラクタム系抗生物質と異なり、主要な製造工程を化学合成に依存しているために、化学修飾により製造される抗生物質と比較して製造コストが高いことが課題である。これまでも国内外の製薬企業ならびに大学を含めた各種研究機関により、有用なカルバペネム系抗菌剤それ自身を、或いは、それらを製造するための重要な合成中間体の効率的製造法が種々検討されてきた。
【0004】
ここで、カルバペネム系抗菌剤の構造とその理化学的および生物学的性状について簡単に確認する。1976年Merck社によって世界で最初に天然から単離・構造決定されたカルバペネム系抗生物質チエナマイシン、早期に市場に導入されたカルバペネム系抗菌剤であるイミペネム、そしてパニペネム(日本のみ)の構造は、何れもカルバペネム骨格の1位が無置換である。一方、その後、市場に投入された注射用カルバペネム系抗菌剤である、メロペネム、ビアペネム、エルタペネム(米国および欧州のみ)、およびドリペネム(日本のみ)の1位は、何れもメチル基が紙面手前側に置換されている1β−メチル構造を有している。同一の2位側鎖構造を有する場合、1位が無置換の構造を有している化合物の方がin vitroの抗菌活性が強い場合はあるが、β−メチル構造を有している化合物の方が化学的および生物学的安定性が常に優れていると報告されている(Tetrahedron Lett., 26, 587-590, 1985(非特許文献1)、Heterocycles, 21, 29-40, 1984(非特許文献2)、J. Antibiot., 46, 1629-1632, 1993(非特許文献3))。また、1位のメチル基が紙面裏側から置換された1α−メチル構造を有する誘導体の方が、対応する1β−メチルよりも抗菌剤として優れた性質を示したとの報告はなされていない。従って、今日では一般的に1β−メチル構造を有するカルバペネム系抗菌剤が臨床上有用であるという評価が次第に定着しつつある。
【0005】
よって、合成化学的手法あるいは生化学的手法により臨床上有用なカルバペネム骨格を構築する上での重要な鍵の一つは、1位にメチル基を立体選択的に構築することである。1位メチル基の立体化学を制御し、1β−メチルカルバペネム系抗菌剤を合成する場合、重要な中間体が複数知られている。例えば、下記式で表されるアセトキシアゼチジノン(A)、β−メチルカルボン酸(B)、エノールフォスファート(C)が知られている。従来の製造方法は順次これらを経由しており、この方法は基本的には現在も用いられている(Heterocycles, 21, 29-40, 1984(非特許文献2)、Tetrahedron, 52, 331-375, 1996(非特許文献4))。
【化1】

[式中、TBSは、t−ブチルジメチルシリル基を、PNBは、p−ニトロベンジル基を、Phは、フェニル基を表す。]
上記のように、1β−メチル基のみならず、多数の立体不斉を有している1β−メチルカルバペネム系抗菌剤は、現在のところその大部分を化学合成に頼らざるを得ないために、他のβ−ラクタム系抗生物質と比較して製造コストが高く、立体の保持、および、工程数が非常に多いことが課題となっている。
【0006】
なお、カルバペネム系抗菌剤の製造にあたり、2位側鎖の構築をカルバペネム合成の後半に行い、具体的にはスルホキシドを経由し側鎖の置換導入する例としては、J. Antibiot., 36, 407-415, 1983(非特許文献5)およびJ. Antibiot., 42, 1520-1522, 1989(非特許文献6)が知られているが、これらの例は何れも、1β−メチル基がないカルバペネム系化合物を基質として用いた例であり、しかも、前者の文献に記載の例も8位の立体化学が臨床上有用なカルバペネムの立体と反対であり、また、後者の文献記載の例においては、8位にはフッ素原子が結合しており、8位の置換基は水酸基ではない。
【0007】
また、エノールフォスファート(C)を合成中間体としたN−アセチル−1β−メチルチエナマイシン、およびそのパラニトロベンジルエステルの合成に関しては、特公平7-59581号公報(特許文献1)に開示がある。
【0008】
また、チエナマイシンを始めとする天然から単離されるカルバペネム類としてはCRC Crit. Rev. Biotechnol.,4(1),111-131,(1986)(非特許文献7)に開示があるが、カルバペネム環の1位にメチル基を有する化合物群の開示はない。
【非特許文献1】Tetrahedron Lett., 26, 587-590, 1985
【非特許文献2】Heterocycles, 21, 29-40, 1984
【非特許文献3】J. Antibiot., 46, 1629-1632, 1993
【非特許文献4】Tetrahedron, 52, 331-375, 1996
【非特許文献5】J. Antibiot., 36, 407-415, 1983
【非特許文献6】J. Antibiot., 42, 1520-1522, 1989
【非特許文献7】CRC Crit. Rev. Biotechnol.,4(1),111-131,(1986)
【特許文献1】特公平7-59581号公報
【発明の概要】
【0009】
本発明者らは、今般、1−メチルチエナマイシンまたはその類縁体から、注射剤、経口剤に限定されることなく種々の臨床上有用な1−メチルカルバペネム系抗菌剤を、立体を保持したまま、短工程で合成する効率的な方法を確立した。また、その方法において有用な新規な合成中間体を見いだした。本発明はこれら知見に基づくものである。
【0010】
従って、本発明は、1−メチルカルバペネム系抗菌剤を短工程でかつ、立体を保持したまま合成する効率的な方法の提供をその一つの目的としている。
【0011】
さらに本発明は、上記本発明による方法において有用な新規合成中間体の提供をその一つの目的としている。
【0012】
そして、本発明による製造方法は、下記一般式(I)の化合物の製造方法であって、
【化2】

[式中、Rは水素原子、生体内で加水分解されうる基、カルボキシル基の保護基、またはカルボキシレートアニオンを表し、R3は有機基を表す。]
(i)下記一般式(II)の化合物:
【化3】

[式中、R1aは水素原子またはアシル基を表し、R2aは水素原子、生体内で加水分解されうる基、またはカルボキシル基の保護基を表し、点線は単結合または二重結合を表す。]
を酸化反応に付し、かつR1aが水素原子である場合は、アシル化を行い、下記一般式(III):
【化4】

[式中、R1bはアシル基を表し、R2aは上で定義したものと同義であり、点線は単結合または二重結合を表す。]
の化合物を得て、
(ii)該一般式(III)の化合物と、式(IV)の化合物:RSH(ここで、Rは上で定義したものと同義である)とを反応させ、一般式(I)を得ることを含んでなるものである。
【0013】
また、本発明による新規中間体化合物は、下記一般式(V)で表される化合物またはその塩もしくは溶媒和物である。
【化5】

[式中、R1cはアセチル基またはホルミル基を表し、R2aは水素原子、生体内で加水分解されうる基、またはカルボキシル基の保護基を表し、nは0または1を表し、点線は単結合または二重結合を表すが、但し、R1cがアセチル基を表し、R2aが水素原子またはパラニトロベンジル基を表し、nが0で、点線が単結合の化合物は除く。]
【0014】
発明の効果
本発明による方法によれば、1−メチルチエナマイシンあるいはその類縁体を合成中間体として用いて、複数の不斉炭素の立体を保持したまま、余分な保護基の脱着を要せず、短工程で、注射剤、経口剤を限ることなく1−メチルカルバペネム系抗菌剤を合成できる。
【0015】
とりわけ、本発明は、1β−メチルチエナマイシンあるいはその類縁体を出発物質として用いることで、1位、5位、6位、8位の立体を保持したまま、かつ、前記中間体(A)〜(C)を出発物質および中間体とした既知の製造方法で生じる8位水酸基の保護基、場合によってはPNB基などカルボキシル基の保護基の脱着が不要であるとの利点が得られ、その結果、短工程で1β−メチルカルバペネム系抗菌剤を製造することができる点で極めて有利な方法である。
【発明の具体的説明】
【0016】
式(I)の化合物の製造法
本発明による方法を、その任意の工程も含めて表示すれば、以下の工程図1のとおりである。
【化6】

【0017】
(a)製造目的物:式(I)の化合物
本発明による方法において製造目的物となるは、上記した一般式(I)の化合物である。
【0018】
この一般式(I)で表される化合物は、1−メチル(好ましくは、1β−メチル)カルバペネム系抗菌剤である。また、本発明の好ましい態様によれば、本発明による方法は、そのようなカルバペネム系抗菌剤のプロドラック、その合成中間体等の製造方法と位置づけられてもよい。
【0019】
従って、一般式(I)において、Rは現在臨床上有用なカルバペネム系抗菌剤、および今後臨床上有用と見いだされたカルバペネム系抗菌剤の、カルバペネム環の2位の硫黄原子を介して結合した側鎖を表す。また、Rは、現在臨床上有用なカルバペネム系抗菌剤、および今後臨床上有用と見いだされたカルバペネム系抗菌剤のプロドラック、その合成中間体の、カルバペネム環の2位の硫黄原子を介して結合した側鎖を表す。本明細書にあっては、Rが表す「有機基」とは上記意味に理解すべきものとする。
【0020】
本発明の好ましい態様によれば、現在臨床上有用なカルバペネム系抗菌剤として、例えば、メロペネム、ビアペネム、ドリペネム、エルタペネム、テビペネムビボキシル、CS-023((-)-(4R,5S,6S)-3-[[(3S,5S)-5-[(S)-3-(2-グアニジノアセチルアミノ)ピロリジン-1-イルカルボニル]-1-メチルピロリジン-3-イル]チオ]-6-[(R)-1-ヒドロキシエチル]-4-メチル-7-オキソ-アザビシクロ[3.2.0]ヘプト-2-エン-2-カルボン酸)、SMP-601(またはSM-216601)、(1R, 5S, 6S)-6-((1R)-1-ヒドロキシエチル)-2-[[(Z)-2-(4-ヒドロキシメチルチアゾール-5-イル)エテン-1-イル]チオ]-1-メチル-1-カルバペン-2-エム-3-カルボン酸等が挙げられる。好ましくは、ビアペネム(a)、エルタペネム(b)、メロペネム(c)、ドリペネム(d)、テビペネムビボキシル(e)、 (1R, 5S, 6S)-6-((1R)-1-ヒドロキシエチル)-2-[[(Z)-2-(4-ヒドロキシメチルチアゾール-5-イル)エテン-1-イル]チオ]-1-メチル-1-カルバペン-2-エム-3-カルボン酸(f)、CS-023(g)が挙げられ、それらの「側鎖」すなわちRの具体的構造は、下記の(a)〜(g)のとおりである。
【化7】

【0021】
この一般式(I)において、Rは水素原子、生体内で加水分解されうる基、またはカルボキシル基の保護基、またはカルボキシレートアニオンを表す。
【0022】
ここで、生体内で加水分解されうる基とは、好ましくはエステル残基であり、その具体例としては、低級アルキル基、低級アルケニル基、低級アルキルカルボニルオキシ低級アルキル基、低級シクロアルキルカルボニルオキシ低級アルキル基、低級シクロアルキルメチルカルボニルオキシ低級アルキル基、低級アルケニルカルボニルオキシ低級アルキル基、アリールカルボニルオキシ低級アルキル基、テトラヒドロフラニルカルボニルオキシメチル基、低級アルコキシ低級アルキル基、低級アルコキシ低級アルコキシ低級アルキル基、アリールメチルオキシ低級アルキル基、アリールメチルオキシ低級アルコキシ低級アルキル基、低級アルコキシカルボニルオキシ低級アルキル基、低級アルコキシカルボニルオキシ低級アルコキシ基、低級シクロアルコキシカルボニルオキシ低級アルキル基、低級シクロアルキルメトキシカルボニルオキシ低級アルキル基、アリールオキシカルボニルオキシ低級アルキル基、芳香環上に置換基を有してもよい3−フタリジル基、芳香環上に置換基を有してもよい2−(3−フタリジリデン)エチル基、2−オキソテトラヒドロフラン−5−イル基、モノ低級アルキルアミノカルボニルオキシメチル基、ジ低級アルキルアミノカルボニルオキシメチル基、2−オキソ−5−低級アルキル−1,3−ジオキソレン−4−イルメチル基、置換基を有してもよいピペリジニルカルボニルオキシ低級アルキル基、低級アルキル低級シクロアルキルアミノカルボニルオキシ低級アルキル基、等の常用のものが挙げられる。
【0023】
さらに好ましい態様によれば、生体内で加水分解されうる基としては、好ましくは、メチル基、エチル基、1-(シクロヘキシルオキシカルボニルオキシ)エチル基、アセトキシメチル基、1-(イソプロピルオキシカルボニルオキシ)エチル基、1-(エトキシカルボニルオキシ)エチル基、ピバロイルオキシメチル基、シクロヘキシルオキシカルボニルオキシメチル基、1-(イソブチルオキシカルボニルオキシ)エチル基、1-(シクロヘキシルオキシカルボニルオキシ)-2-メチルプロパン-1-イル基、イソブチルオキシカルボニルオキシメチル基、イソプロピルオキシカルボニルオキシメチル基、イソブチリルオキシメチル基、(ペンタン-1-イル)オキシカルボニルオキシメチル基、(ブタン-1-イル)オキシカルボニルオキシメチル基、(1-エチルプロパン-1-イル)オキシカルボニルオキシメチル基、イソペンチルオキシカルボニルオキシメチル基、(プロパン-1-イル)オキシメチル基、エトキシカルボニルオキシメチル基、ネオペンチルオキシカルボニルオキシメチル基、メトキシカルボニルオキシメチル基、シクロペンチルオキシカルボニルオキシメチル基、t-ブトキシカルボニルオキシメチル基、フタリジル基、1-(メトキシカルボニルオキシ)エチル基、1-(シクロペンチルオキシカルボニルオキシ)エチル基、(テトラヒドロピラン-4-イル)オキシカルボニルオキシメチル基、1-(ネオペンチルオキシカルボニルオキシ)エチル基、(ピペリジン-1-イル)カルボニルオキシメチル基、アリル基、1-(t-ブトキシカルボニルオキシ)エチル基、(N,N-ジ-n-プロピルアミノ)カルボニルオキシメチル基、フェニルオキシカルボニルオキシメチル基、(5-メチル-2-オキソ-1,3-ジオキソレン-4-イル)メチル基、 (cis-2,6-ジメチルピペリジン-1-イル)カルボニルオキシメチル基、N,N-ジ-(ブタン-1-イル)アミノカルボニルオキシメチル基、ヘキサン-1-イル基、N-(ヘキサン-1-イル)-N-メチルアミノカルボニルオキシメチル基、N,N-ジイソブチルアミノカルボニルオキシメチル基、N,N-ジイソプロピルアミノカルボニルオキシメチル基、N-シクロヘキシル-N-メチルアミノカルボニルオキシメチル基、N-ペンタン-1-イルアミノカルボニルオキシメチル基、N-シクロヘキシル-N-エチルアミノカルボニルオキシメチル基、N-イソブチル-N-イソプロピルアミノカルボニルオキシメチル基、N-t-ブチル-N-エチルアミノカルボニルオキシメチル基、1-[(cis-2,6-ジメチルピペリジン-1-イル)カルボニルオキシ]エチル基、1-(N,N-ジイソプロピルアミノカルボニルオキシ)エチル基、N-エチル-N-イソアミルアミノカルボニルオキシメチル基が挙げられる。
【0024】
また、カルボキシル基の保護基とは、Protective Groups in Organic Synthesis (T. W. Greene et al., Wiley, New York (1999) )等を参照することができ、当業者においては周知のものをその例として挙げることができる。例えば、低級アルキル基、置換されても良いベンジル基、シリル系の保護基、アリル基、トリフェニルメチル基、ジフェニルメチル基などが挙げられ、例えば、メチル基、エチル基、t−ブチル基、アリル基、ベンズヒドリル基、2−ナフチルメチル基、ベンジル基、t−ブチルジメチルシリル(TBDMSと略す)基、フェナシル基、p−メトキシベンジル基、o−ニトロベンジル基、p−メトキシフェニル基、p−ニトロベンジル基、4−ピリジルメチル基、トリフェニルメチル基、ジフェニルメチル基等が挙げられ、好ましくはメチル基、t-ブチル基、ベンジル基、4-メトキシベンジル基、4-ニトロベンジル基、アリル基、トリフェニルメチル基、ジフェニルメチル基などである。
【0025】
上記において、基または基の一部としての「アシル基」の具体例としては、ホルミル基、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、ピバロイル基、イソブチリル基、バレリル基、ベンゾイル基、フタロイル基、アリールカルボニル基、複素環カルボニル基、パントテニル基の如くアミノ酸やオリゴペプチドのC末端が結合する場合等が挙げられる。
【0026】
また、上記において、「ハロゲン原子」とは、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素を意味する。
【0027】
また、上記において、基または基の一部としてのアルキル基または、アルコキシ基とは、基が直鎖または分岐、環状の炭素数1−6、好ましくは1−4のアルキル基またはアルコキシ基を意味する。ここで、基または基の一部としての「アルキル基」の例としては、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、i−ブチル、s−ブチル、t−ブチル、n−ペンチル、ネオペンチル、i−ペンチル、t−ペンチル、n−ヘキシル、i−ヘキシル、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル等が挙げられる。また、基または基の一部としての「アルコキシ基」の例としては、メトキシ、エトキシ、n−プロポキシ、i−プロポキシ、n−ブトキシ、s−ブトキシ、t−ブトキシ、n−ペンチルオキシ、ネオペンチルオキシ、i−ペンチルオキシ、t−ペンチルオキシ、n−ヘキシルオキシ、i−ヘキシルオキシ、シクロプロピルオキシ、シクロブチルオキシ、シクロペンチルオキシ、シクロヘキシルオキシ等が挙げられる。
【0028】
また、上記において、基または基の一部としての「アリール基」は、フェニル基またはナフチル基などを意味する。
【0029】
本発明の好ましい態様によれば、一般式(I)において、1位のメチル基がβ位を表し、8位の配置がRである化合物が好ましい。この立体配置は原則として以下の製造方法において、出発物質である一般式(II)の化合物および一般式(VI)の化合物の立体配置が保存されて得られるものである。この立体配置の保存は、本発明による方法における利点の一つである。
【0030】
(b)出発物質:一般式(II)の化合物
本発明による方法において、一般式(II)で表される化合物が出発物質であり、この化合物が用意されなければならない。
【0031】
この式(II)の化合物は、好ましくは上記工程図1に記載のとおり、一般式(VI)で表される化合物から次のように用意される。
【0032】
一般式(VI)で表される化合物は、1−メチル(好ましくは1β−メチル)チエナマイシン(点線が単結合の化合物)、または1−メチル(好ましくは1β−メチル)−デヒドロチエナマイシン(点線が二重結合の化合物)であり、いずれも公知の方法で調製可能である。例えば、1β−メチルチエナマイシンは、Tetrahedron Lett., 26, 587-590, 1985(非特許文献1)に記載の方法で調製できる。また、特願2006−84348号明細書に記載の培養による方法によっても、エノールフォスファートを経由せずに調製することができる。
【0033】
次に、一般式(VI)中の遊離のアミノ基をアシル化して、式(II)で表される化合物のうち、R2aが水素原子である化合物を得ることが出来る。ここで、導入されるアシル基としては、ホルミル基、アルキルカルボニル基(好ましくはC1−6アルキルカルボニル基)、アリールカルボニル基(ここでアリール部分は、好ましくはフェニルまたはナフチルを表す)、パントテニル基のようなアミノ酸やオリゴペプチドのC末端が結合するものが挙げあれ、その具体例としては、ホルミル基、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、ピバロイル基、イソブチリル基、バレリル基、ベンゾイル基、フタロイル基等が挙げられ、好ましくはホルミル基、アセチル基、プロピオニル基、ベンゾイル基、パントテニル基である。
【0034】
アシル化の方法は、導入するアシル基に応じて適宜決定されてよいが、例えば、ホルミル化の場合、ホルミル化試薬としては、酢酸ギ酸無水物、またはギ酸とジシクロヘキシルカルボジイミドなどの縮合剤などが挙げられる。反応は溶媒の存在下行われることが一般的であり、反応溶媒しては有機溶媒が好ましく、例えば1,4−ジオキサン、テトラヒドロフラン、塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素の利用が好ましく、より好ましくはテトラヒドロフランである。また、アセチル化の場合、アセチル化試薬としては、無水酢酸、および塩化アセチルなどのハロゲン化アセチルが利用可能であり、好ましくは無水酢酸である。反応を促進するために塩基を用いることも可能であり、塩基としてはトリエチルアミンのような有機塩基、炭酸水素ナトリウムのような無機塩基のいずれか、あるいはそれらを混合して用いてもよい。塩基として炭酸水素ナトリウムを用いるか、塩基を用いない方法が好ましい。反応は反応溶媒しての有機溶媒を単独で、または水と混合して用いてもよく、有機溶媒としては1,4−ジオキサン、テトラヒドロフラン、メタノール、エタノール、ピリジンが利用可能であり、好ましくはテトラヒドロフランと水の混合溶媒か、メタノールの単独溶媒である。また、塩基として炭酸水素ナトリウムを用いて、無水酢酸により含水テトラヒドロフラン中でアセチル化することも可能である。この場合、カルボキシル基がナトリウム塩として単離される。
【0035】
また、アシル化の手段として、例えばアセチル転移酵素であるアセチルトランスフェレース等を用いることにより、当該アミノ基をアセチル化等アシル化してもよい。従って、微生物変換や酵素変換等、化学合成によらない方法で当該アミノ基のアシル化を実施する方法も本発明に包含される。
【0036】
次に、式(II)において、R2aが水素原子である化合物を、必要に応じて、R2aが水素原子以外の基で表される化合物に変換する。R2aとしてカルボキシル基の保護基を導入する場合、上述した慣用された保護基を、慣用された方法により導入することが出来る。本発明の好ましい態様によれば、ここで、R2aとしてカルボキシル基の好ましい例としては、パラニトロベンジル基、パラメトキシベンジル基、ベンジル基、アリル基等が挙げられる。
【0037】
2aが生体内で加水分解されうる基である場合、その導入は、R2aが水素原子である式(II)の化合物と、生体内で加水分解されうる基のハライド化合物とを反応させることにより行うことが出来る。具体的には、R2aが水素原子である式(II)の化合物に対して、必要に応じて触媒量もしくは過剰量の塩基存在下、生体内で加水分解されうる基のハライド化合物を、単独または混合の不活性溶媒中、−70℃〜50℃(好ましくは、−30℃〜30℃)において10分から24時間反応させることにより得ることができる。
【0038】
ここで、生体内で加水分解されうる基のハライド化合物の具体例としては、ヨウ化メチル、ヨウ化エチル、1-(シクロヘキシルオキシカルボニルオキシ)エチルヨーダイド、酢酸ブロモメチル1-(イソプロピルオキシカルボニルオキシ)エチルヨーダイド、1-(エトキシカルボニルオキシ)エチルヨーダイド、ヨードメチルピバレート、シクロヘキシルオキシカルボニルオキシメチルヨーダイド、1-(イソブチルオキシカルボニルオキシ)エチルヨーダイド、1-(シクロヘキシルオキシカルボニルオキシ)-2-メチルプロパン-1-イルヨーダイド、イソブチルオキシカルボニルオキシメチルヨーダイド、イソプロピルオキシカルボニルオキシメチルヨーダイド、イソブチリルオキシメチルヨーダイド、(ペンタン-1-イル)オキシカルボニルオキシメチルヨーダイド、(ブタン-1-イル)オキシカルボニルオキシメチルヨーダイド、(1-エチルプロパン-1-イル)オキシカルボニルオキシメチルヨーダイド、イソペンチルオキシカルボニルオキシメチルヨーダイド、(プロパン-1-イル)オキシメチルヨーダイド、エトキシカルボニルオキシメチルヨーダイド、ネオペンチルオキシカルボニルオキシメチルヨーダイド、メトキシカルボニルオキシメチルヨーダイド、シクロペンチルオキシカルボニルオキシメチルヨーダイド、t-ブトキシカルボニルオキシメチルヨーダイド、3-ブロモフタライド、1-(メトキシカルボニルオキシ)エチルヨーダイド、1-(シクロペンチルオキシカルボニルオキシ)エチルヨーダイド、(テトラヒドロピラン-4-イル)オキシカルボニルオキシメチルヨーダイド、1-(ネオペンチルオキシカルボニルオキシ)エチルヨーダイド、(ピペリジン-1-イル)カルボニルオキシメチルヨーダイド、アリルヨーダイド、1-(t-ブトキシカルボニルオキシ)エチルヨーダイド、N,N-ジ(プロパン-1-イル)アミノカルボニルオキシメチルヨーダイド、フェニルオキシカルボニルオキシメチルヨーダイド、(5-メチル-2-オキソ-1,3-ジオキソレン-4-イル)メチルブロマイド、(Z)-2-(3-フタリジリデン)エチルブロマイド、(cis-2,6-ジメチルピペリジン-1-イル)カルボニルオキシメチルクロライド、N,N-ジ-n−ブチルカルバミン酸クロロメチル、1−ヨードヘキサン、N-n-ヘキシル-N-メチルカルバミン酸クロロメチル、N,N-ジイソブチルカルバミン酸クロロメチル、N,N-ジイソプロピルカルバミン酸クロロメチル、N-シクロヘキシル-N-メチルカルバミン酸クロロメチル、N-ペンタン-1-イルカルバミン酸クロロメチル、N-シクロヘキシル-N-エチルカルバミン酸クロロメチル、N-イソブチル-N-イソプロピルカルバミン酸クロロメチル、N-t-ブチル-N-エチルカルバミン酸クロロメチル、N,N-ジイソプロピルカルバミン酸-1-クロロエチル、1-[(cis-2,6-ジメチルピペリジン-1-イル)カルボニルオキシ]エチルクロライド、N-エチル-N-イソアミルカルバミン酸クロロメチル等が挙げられる。
【0039】
また、存在させる塩基は有機塩基であっても、無機塩基であってもよく、有機塩基としては、ジイソプロピルエチルアミン、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセン、2,6−ルチジン等が挙げられ、無機塩基としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸セシウム等が挙げられる。
【0040】
好ましい不活性溶媒としては、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジエチルホルムアミド、N,N-ジエチルアセトアミド、N-メチルピロリジノン、N,N-ジメチルイミダゾリジノン、ジメチルスルホキシド、スルホラン、アセトニトリル、アセトン、酢酸エチル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、ジエチルエーテル、アニソール、ジクロロメタン、1,2−ジクロロエタン、クロロホルム、トルエン、ベンゼン、ヘキサメチルホスホリックトリアミド、メタノール、エタノール等が挙げられる。
【0041】
本発明の一態様において、生体内で加水分解されうる基としてピバロイルオキシメチル基を導入する場合、反応試薬としては、塩化ピバロイルオキシメチルやヨウ化ピバロイルオキシメチルのようなハロゲン化ピバロイルオキシメチルを用いることが好ましく、より好ましくは塩化ピバロイルオキシメチルである。反応を促進するために用いる塩基は、トリエチルアミンのような有機塩基でも炭酸水素ナトリウムの如く無機塩基でもよく、それらを混合して用いてもよく、好ましくは炭酸水素ナトリウムを用いる。反応溶媒しては有機溶媒を単独で、または他の有機溶媒と混合して用いてもよく、有機溶媒としては、1,4−ジオキサン、テトラヒドロフラン、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルアセタミド、ピリジンが挙げられる、好ましくは、N,N−ジメチルホルムアミドである。
【0042】
なお、上記において一般式(VI)の化合物の2位側鎖のアミノ基のアシル化と、カルボキシル基への水素原子以外の基の導入の順序は、互いの反応を妨げない限り、特に限定されるものではない。
【0043】
(c)工程(i)
以上のように用意された一般式(II)で表される化合物を、位置選択的に酸化して、式(III)で表される化合物を得る。本工程においては、R1aならびにR2aは原則として変化しない。
【0044】
この工程は、スルフィドをスルホキシドへ変換する工程であり、この酸化反応が進行する方法であれば、酸化試薬および反応条件等は適宜選択および設定されてよい。
【0045】
本発明の好ましい態様によれば、反応の一例として、過酸化物による酸化反応が挙げられる。酸化剤としては、過酸化水素、有機過酸化物を用いることが出来、また有機過酸化物としては、過酢酸、過プロピオン酸、過安息香酸、3−クロロ過安息香酸、モノパーオキシフタル酸マグネシウム六水和物等を用いることが出来る。好ましくは、3−クロロ過安息香酸の利用が挙げられる。
【0046】
有機過酸化物を用いて酸化反応を実施する場合、反応溶媒としては特に限定されないが、クロロホルムや塩化メチレンが好ましい。
【0047】
また、過酸化物以外の酸化試薬の利用も可能であり、そのような酸化試薬の例としては、二酸化マンガン、クロム酸、四酢酸鉛、四酸化ルテニウム、過ヨウ素酸塩(例えばメタ過ヨウ素酸ナトリウムなど)、過マンガン酸塩(例えば過マンガン酸カリウムなど)、OXONE(登録商標)(デュポン社製)、N-ハロカルボン酸アミド、次亜ハロゲン酸エステル、ヨードシル化合物、酸素、硝酸、四酸化二窒素、ジメチルスルホキシド、アゾジカルボン酸エチル、クロロ(II)酸、陽極酸化等が挙げられる。
【0048】
スルフィドを酸化してスルホキシドに変換する場合、分子の立体構造によりスルホキシドの立体異性体の生成状況は場合により異なる。通常、スルホキシドの立体化学はほぼ1:1の混合になるが、これを混合物のまま次工程に使用してもよく、単離して用いてもよい。効率の観点からは混合物のまま用いることが好ましい場合が多いであろう。酸化反応条件を適宜設定して、スルホキシドを立体選択的に合成し、単一の立体化学を用いて当該酸化反応を行うことも可能であり、この態様も本発明に包含される。
【0049】
この工程、すなわちスルフィドを酸化してスルホキシドに変換する反応は、後述する工程(ii)に付す化合物が、R1aがアシル基である化合物とされる限りにおいて、上述のR1aが水素原子である一般式(II)で表される化合物のアシル化の前に行われてもよく、またその後に行われてもよい。
【0050】
(d)工程(ii)
この工程では、一般式(III)で表される化合物の2位に、式(IV):RSH(ここで、Rは「有機基」を表す)を導入し、式(I)で表される化合物を得る。この反応は、一般式(III)の化合物のスルホキシド基が脱離基として働き、上述した「有機基」を含む2位側鎖(−SR基)がカルバペネム骨格の2位に導入される。
【0051】
反応条件は、「有機基」の構造に準じて適宜決定されてよいが、例えば反応を促進するために塩基の存在下、反応を実施することが好ましい。塩基はトリエチルアミンのような有機塩基、炭酸水素ナトリウムのような無機塩基のいずれも利用可能であり、さらにそれら混合して用いてもよい。好ましい塩基としては、ジイソプロピルエチルアミンが挙げられる。反応溶媒しては有機溶媒を単独で、あるいは他の有機溶媒と混合して用いてもよく、有機溶媒としては、1,4−ジオキサン、テトラヒドロフラン、N,N-ジメチルホルムアミド、ジメチルアセタミド、アセトニトリルが挙げられ、好ましくはアセトニトリルである。また、この反応は、水分を除去した条件でよく進行する。反応温度は−20℃から50℃が一般的であり、好ましくは0℃から30℃でり、反応時間は10分から10時間が一般的であり、好ましくは1時間から3時間である。
【0052】
新規中間体:一般式(V)の化合物
本発明によれば、一般式(I)の化合物の合成に有用な新規合成中間体が提供される。その新規合成中間体は、上述の一般式(V)で表される化合物である。一般式(V)において、R1cはアシル基を表し、R2aは水素原子、生体内で加水分解されうる基、またはカルボキシル基の保護基を表し、nは0または1を表し、点線は単結合または二重結合を表すが、但し、R1cがアセチル基を表し、R2aが水素原子またはパラニトロベンジル基を表し、nが0であり、点線が単結合を表す化合物は除かれる。
【0053】
本発明の好ましい態様によれば、式(V)の化合物の好ましい化合物群として、R1cがアセチル基またはホルミル基を表し、R2aが水素原子、生体内で加水分解されうる基、またはカルボキシル基の保護基を表し、nは0または1を表し、点線が単結合または二重結合を表す化合物群が挙げられる。
【0054】
一般式(V)の化合物は、その塩とされていてもよく、好ましくは製薬学的に許容される塩である。その具体例としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウムのような無機塩、またはアンモニウム塩、トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミンのような有機塩基との塩、または、塩酸、硫酸、リン酸、硝酸のような鉱酸との塩、または、酢酸、炭酸、クエン酸、リンゴ酸、シュウ酸、メタンスルホン酸のような有機酸との塩があげられ、ナトリウム塩、カリウム塩、または塩酸塩が好ましい。
【0055】
また、一般式(V)の化合物は、溶媒和物とされていてもよい。溶媒としては、水、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、アセトン、酢酸エチル、クロロホルム等が挙げられる。好ましい溶媒和物の例としては、水和物が挙げられる。
【0056】
本発明の好ましい態様によれば、一般式(V)において、1位のメチル基がβ位を表し、8位の配置がRである化合物が好ましい。
【実施例】
【0057】
以下の実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0058】
実施例1
1aがアセチル基であり、Rが水素原子であり、点線が単結合である式(II)の化合物(N−アセチル−1β−メチルチエナマイシン)の製造
1β−メチルチエナマイシン217 mg(0.758 mmol)をメタノール10 mlに溶解し、0℃にて無水酢酸0.11 mlを加えた。室温にて1時間反応させて、反応溶液を減圧濃縮し乾固した。得られた残渣をMCI(登録商標)GEL CHP20P(三菱化学製)(20 g、H2O → 9% aq. THF)で精製した。次いでこれを凍結乾燥し、無色シロップの標題化合物117 mg(47%)を得た。
【0059】
なお、標題化合物は特公平7-59581号公報(特許文献1)に開示されており、当該文献に記載のとおりエノールフォスファートから得ることもできる。
【0060】
実施例2
1aがアセチル基であり、Rがピバロイルオキシメチル基であり、点線が単結合である式(II)の化合物(N−アセチル−1β−メチルチエナマイシン ピバロイルオキシメチルエステル)の製造
実施例1で得られた化合物(N−アセチル−1β−メチルチエナマイシン)122 mg(0.372 mmol)をN,N-ジメチルホルムアミド5.0 mlに溶解し、室温で塩化ピバロイルオキシメチル0.20 ml(1.38 mmol)および炭酸水素ナトリウム300 mg(3.57 mmol)を順次加え、室温で25時間攪拌した。飽和食塩水50 mlを加えて反応を停止し、酢酸エチル50 mlで3回抽出した。有機層を合わせ、無水硫酸ナトリウムで乾燥しこれを濾過した。濾液を減圧濃縮して得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(20 g、クロロホルム:アセトン(2:1) → アセトン)で精製して、無色シロップの標題化合物103 mg(63%)を得た。
【0061】
比旋光度:[α]D24 +121° (c 3.3, CHCl3)
質量分析:HR FAB MS: found: 443.1854, calcd: 443.1852 as C20H31O7N2S
1H NMR (270 MHz, CDCl3): δ 1.22 (s, 9H), 1.23 (d, 3H, J = 6.2 Hz), 1.32 (d, 3H, J = 6.2 Hz), 1.99 (s, 3H), 2.84 (m, 1H), 3.10 (m, 1H), 3.23-3.34 (m, 3H), 3.51-3.62 (m, 2H), 4.19-4.26 (m, 2H), 5.83 (d, 1H, J = 5.5 Hz), 5.95 (d, 1H, J = 5.5 Hz), 6.49 (br, 1H)
13C NMR (68 MHz, CDCl3): δ 16.8, 21.6, 23.0, 26.8 x 3C, 30.8, 38.7, 39.9, 43.0, 56.0, 59.9, 65.7, 79.6, 124.3, 152.4, 159.5, 171.0, 172.9, 177.2
実施例3
1bがアセチル基であり、Rがピバロイルオキシメチル基であり、点線が単結合である式(III)の化合物(N−アセチル−1β−メチルチエナマイシン ピバロイルオキシメチルエステル S−オキシド)の製造
実施例2で得られた化合物(N−アセチル−1β−メチルチエナマイシン ピバロイルオキシメチルエステル)66.2 mg(0.150 mmol)を塩化メチレン2.0 mlに溶解し、−18℃にて3−クロロ過安息香酸43.8 mg(0.165 mmol)を加え、−18℃にて20分間反応させた。反応溶液に塩化メチレン5.0 mlを加えて希釈し、飽和亜硫酸水素ナトリウム水溶液5.0 mlで一回、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液で一回、有機層を順次洗浄した。次いで、有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥しこれを濾過した。濾液を減圧濃縮して得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(2 g、クロロホルム:アセトン(1:5) → 同(1:10))で精製して、無色シロップの標題化合物35.0 mg(51%)を得た。なお、当該化合物のスルホキシドの立体化学は、ほぼ1:1の混合であった。
【0062】
比旋光度:[α]D24 −19° (c 1.8, CHCl3)
質量分析:HR FAB MS: found: 459.1801, calcd: 459.1801 as C20H31O8N2S
1H NMR (270 MHz, CDCl3): δ 1.23 (s, 9H x 0.5), 1.23 (s, 9H x 0.5), 1.24 (d, 3H x 0.5, J = 7.3 Hz), 1.32 (d, 3H x 0.5, J = 6.2 Hz), 1.37 (d, 3H x 0.5, J = 7.3 Hz), 1.41 (d, 3H x 0.5, J = 7.7 Hz), 2.01 (s, 3H x 0.5), 2.03 (s, 3H x 0.5), 3.14-3.47 (m, 3H), 3.66-3.90 (m, 3H), 4.23-4.48 (m, 2H), 5.81 (d, 1H x 0.5, J = 5.5 Hz), 5.85 (d, 1H x 0.5, J = 5.5 Hz), 5.90 (d, 1H x 0.5, J = 5.5 Hz), 5.94 (d, 1H x 0.5, J = 5.5 Hz), 6.66 (br s, 1H x 0.5), 6.75 (br s, 1H x 0.5)
13C NMR (68 MHz, CDCl3): δ 16.5 x 0.5C, 17.4 x 0.5C, 21.48 x 0.5C, 21.5 x 0.5C, 23.0, 26.8 x 3C, 34.5 x 0.5C, 35.1 x 0.5C, 38.8 x 0.5C, 39.3 x 0.5C, 40.2, 54.3 x 0.5C, 55.2 x 0.5C, 56.5 x 0.5C, 56.9 x 0.5C, 59.6 x 0.5C, 61.0 x 0.5C, 65.0 x 0.5C, 65.1 x 0.5C, 79.8 x 0.5C, 80.1 x 0.5C, 129.6 x 0.5C, 129.9 x 0.5C, 154.4 x 0.5C, 155.2 x 0.5C, 158.2 x 0.5C, 158.3 x 0.5C, 170.8 x 0.5C, 171.3 x 0.5C, 173.6 x 0.5C, 177.2 x 0.5C
実施例4
がピバロイルオキシメチル基であり、Rが次の式(e)
【化8】

である式(I)化合物(テビペネムピボキシル)の製造
実施例3で得られた化合物(N−アセチル−1β−メチルチエナマイシン ピバロイルオキシメチルエステル S−オキシド)35.0 mg(0.0765 mmol)を無水アセトニトリル5.0 mlに溶解し、0℃にてアルゴン雰囲気下に、次の式(h):
【化9】

で表される化合物20.5 mgとジイソプロピルエチルアミン21 μlを順次加え、0℃にて30分間攪拌し、さらに、室温で2時間反応させた。反応液に飽和食塩水25 mlを加え、水層を25 mlの酢酸エチルで3回抽出した。有機層を合わせ、無水硫酸ナトリウムで乾燥しこれを濾過した。濾液を減圧濃縮して得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(10 g、クロロホルム:アセトン(1:15) → アセトン)で精製して、無色固体の標題化合物23.5 mg(62%)を得た。
【0063】
得られた化合物は、1H NMRスペクトルを含む各種の物理化学的性状において、既知の方法により製造されたテビペネムピボキシルと完全に同定された。
【0064】
実施例5
1aがアセチル基であり、Rがピバロイルオキシメチル基であり、点線が単結合である式(II)の化合物(N−アセチル−1β−メチルチエナマイシン ピバロイルオキシメチルエステル)の製造
1β−メチルチエナマイシン163 mg(0.569 mmol)をメタノール10 mlに溶解し、0 ℃にて無水酢酸80 μl(0.85 mmol)を加えた。室温にて1.5時間反応させて、反応溶液を減圧濃縮し乾固した。得られた残渣をジメチルホルムアミド10 mlに溶解し、室温で塩化ピバロイルオキシメチル0.20 ml(1.38 mmol)および炭酸水素ナトリウム333 mg(3.96 mmol)を順次加え、室温で25時間撹拌した。飽和食塩水50 mlを加えて反応を停止し、酢酸エチル50 mlで4回抽出した。有機層を合わせ、無水硫酸ナトリウムで乾燥しこれを濾過した。濾液を減圧濃縮して得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(80 g、クロロホルム:アセトン(2:1) → アセトン)で精製して、無色シロップの標題化合物143 mg(57%)を得た。
【0065】
製造例1
1aがアセチル基であり、Rがナトリウムであり、点線が単結合である式(II)の化合物(N−アセチル−1β−メチルチエナマイシン ナトリウム塩)の製造
1β−メチルチエナマイシン22.0 mg(0.0768 mmol)を20%含水テトラヒドロフラン1.0 mlに溶解し、0℃にて無水酢酸11 μl(0.12 mmol)および炭酸水素ナトリウム64.5 mg(0.768 mmol)を加えた。室温にて30分間反応させて、反応溶液を直接凍結乾燥した。得られた残渣をCHP-20Pレジン(2 g、H2O)で精製し、無色固体の標題化合物7.7 mg(29%)を得た。
【0066】
質量分析:FAB MS: m/z 351 (M + Na)+ as C14H20O5N2S + Na+
1H NMR (400 MHz, D2O): δ 1.19 (d, 3H, J = 7.4 Hz), 1.27 (d, 3H, J = 6.4 Hz), 2.00 (s, 3H), 2.83 (dt, 1H), 3.07 (dt, 1H), 3.35-3.50 (m, 4H), 4.19 (dd, 1H), 4.25 (dt, 1H)
13C NMR (100 MHz, CDCl3): δ 18.8, 22.9, 24.7, 32.8, 42.4, 44.7, 58.7, 61.2, 68.1, 134.0, 144.7, 170.9, 177.2, 179.3

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)の化合物の製造方法であって、
【化1】

[式中、Rは水素原子、生体内で加水分解されうる基、カルボキシル基の保護基、またはカルボキシレートアニオンを表し、R3は有機基を表す。]
(i)下記一般式(II)の化合物:
【化2】

[式中、R1aは水素原子またはアシル基を表し、R2aは水素原子、生体内で加水分解されうる基、またはカルボキシル基の保護基を表し、点線は単結合または二重結合を表す。]
を酸化反応に付し、かつR1aが水素原子である場合は、アシル化を行い、下記一般式(III):
【化3】

[式中、R1bはアシル基を表し、R2aは上で定義したものと同義であり、点線は単結合または二重結合を表す。]
の化合物を得て、
(ii)該一般式(III)の化合物と、式(IV)の化合物:RSH(ここで、Rは上で定義したものと同義である)とを反応させ、一般式(I)を得ること
を含んでなる、方法。
【請求項2】
一般式(II)の化合物が、1−メチルチエナマイシンをアシル化することにより得られたものである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
1aまたはR1bがアセチル基またはホルミル基を表す、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
が下記(a)〜(g)のいずれかを表す、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【化4】

【請求項5】
一般式(I)、(II)および(III)において、1位のメチル基がβ位を表し、8位の配置がRである、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
下記一般式(V)で表される化合物またはその塩もしくは溶媒和物。
【化5】

[式中、R1cはアセチル基またはホルミル基を表し、R2aは水素原子、生体内で加水分解されうる基、またはカルボキシル基の保護基を表し、nは0または1を表し、点線は単結合または二重結合を表すが、但し、R1cがアセチル基を表し、R2aが水素原子またはパラニトロベンジル基を表し、nが0で、点線が単結合の化合物は除く。]
【請求項7】
1位のメチル基がβ位を表し、8位の配置がRである、請求項6に記載の化合物またはその塩もしくは溶媒和物。

【公開番号】特開2010−18521(P2010−18521A)
【公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−286734(P2006−286734)
【出願日】平成18年10月20日(2006.10.20)
【出願人】(505288491)
【出願人】(000006091)明治製菓株式会社 (180)
【Fターム(参考)】