説明

1−置換アズレン誘導体の製造方法

【課題】アズレンの1−位に置換基を収率良く、且つ簡便な反応によって導入する方法を提供する。
【解決手段】1−ヨードアズレン誘導体と炭素数2〜6のアルキルリチウム又は炭素数6〜10のアリールリチウムを反応させ、得られた生成物と求電子剤を反応させることを特徴とする、式(II)


で表されるアズレン誘導体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アズレン又はアズレン誘導体に置換基を導入する方法に関する。詳しくはアズレン骨格の1−位に置換基を高収率で導入する方法である。
【背景技術】
【0002】
アズレンは、特異な電子状態を有し、この骨格をポルフィリンやフタロシアニンなどの有用なπ電子系化合物に導入すると物理化学特性が大きく変化することから、二光子吸収材料の改良など有機電子材料の改質手段として近年注目されている。また、アズレン誘導体、特にグアイアズレン類は結膜炎や口腔・咽喉疾患、ヘリコバクターピロリ菌による消化器系疾病などの治療薬としても知られている。
【0003】
しかし、アズレン骨格は、強いπ−π相互作用のため、特定のアリール基などが共役するような場合、溶解性が低い。しかも、反応サイトも限定されていた。すなわち、求核試薬によっては4−、6−、8−位に付加反応、また求電子試薬では、1−、3−位に置換反応を生ずる傾向にあり、所望の位置に置換基を有するアズレン誘導体を得るには、あらかじめそれらの位置に置換基を導入した後、アズレン環を形成させる方法が用いられていた。
【0004】
また、アズレンの1−、3−位は非常に電子豊富な環境にあるため、これらの部位を修飾するか、又はこれらの部位を介して他のπ電子系化合物と結合することによって、新規有機電子材料を創出し得る有用分子の合成が期待されている。
【0005】
アズレニル化によって種々の薬剤や電子材料の改良を行う際、アズレン骨格に反応活性点を導入する必要がある。例えばホウ酸又はホウ酸エステルを導入すれば、鈴木−宮浦カップリング等の修飾手段を用いることを可能にするアズレニル化剤を得ることができる。
【0006】
本発明者らは、イリジウム触媒を用い、配位子(リガンド)としてビピリジンやその誘導体を用いて、アズレン誘導体をホウ酸エステル化することに成功した(非特許文献1、特許文献1)。
しかし当該方法では、アズレンの2−位にホウ酸エステルを有する化合物が主生成物であり、1−位にホウ酸エステルを有する化合物の収率は10%と非常に低いものであった。
【0007】
また、1−位にホウ酸エステルを有するアズレン誘導体の合成例として、ジアゾケトン誘導体からのアズレン環形成反応を経由する例が報告されている(非特許文献2)。
しかし当該方法は多段階に及び、目的物であるアズレン誘導体の収率も低かった。
【0008】
さらに本発明者らによって、3−位及び6−位にtert−ブチル基を導入したアズレン誘導体を用い、1−位をハロゲン化し、続くハロゲン−金属交換、求電子反応によって1−位に置換基を導入する方法が報告されている(非特許文献3)。
当該方法は、3−位のtert−ブチル基によってアズレンの4−位への反応を起こりにくくし、さらに6−位をあらかじめt−ブチル基で置換することによって、1−位への置換基の導入を達成している。したがって当該方法では、用いられるアズレン誘導体の置換基、置換位置に制限があり、より広範なアズレン誘導体に応用しうる置換基の導入方法が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特願2010−212053
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】European Journal of Organic Chemistry,2003,3663−3665
【非特許文献2】The Journal of Organic Chemistry,2004,69,8652−8667
【非特許文献3】Tetrahedron Letters,2004,45,2891−2894
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、用いられるアズレンの置換基、置換位置を特に制限することなく、アズレンの1−位に置換基を収率良く、且つ簡便な反応によって導入することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題の解決のため鋭意研究の結果、1−位以外に置換基を有していてもよいアズレンの1−位にヨウ素原子を導入後、有機リチウムにより1−位をリチオ化後、ホウ素化合物などの求電子剤を反応させることにより、所望とする1−置換アズレン誘導体を高収率で製造することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち本発明は、
(1)式(I)
【0014】
【化1】

【0015】
(式中、Rは、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のアルコキシ基、炭素数2〜10のアルケニル基、炭素数2〜10のアルキニル基、炭素数3〜10のシクロアルキル基、炭素数6〜10のアリール基又はヘテロアリール基を表し、nは0〜7いずれかの整数を表す。nが2以上の場合は、各Rは、同じであっても異なっていてもよい。
ただし、炭素数2以上のアルキルリチウムと反応させる場合は、Rはフッ素原子、塩素原子、臭素原子、炭素数1〜3のアルキル基又は炭素数1〜3のアルコキシ基に限る)で表される1−ヨードアズレン誘導体と、炭素数2〜6のアルキルリチウム又は炭素数6〜10のアリールリチウムを反応させ、得られた生成物と求電子剤を反応させることを特徴とする、式(II)
【0016】
【化2】

【0017】
(式中、R及びnは前記式(I)と同じ定義であり、Xは求電子剤により誘導される置換基を表す)で表されるアズレン誘導体の製造方法、
(2)式(I)で表される1−ヨードアズレン誘導体が、式(I’)
【0018】
【化3】

【0019】
(式中、R及びnは前記式(I)と同じ定義である)で表される1−位以外に置換基を有していてもよいアズレンとヨウ素化剤とを反応させることにより得られることを特徴とする上記(1)に記載のアズレン誘導体の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、1−位以外に置換基を有していてもよいアズレンの1−位に置換基を簡便に、且つ効率よく導入することができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
(用語の定義)
本発明の式(I’)、(I)及び(II)におけるRは、アリールリチウムを使用してリチオ化する場合は、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のアルコキシ基、炭素数2〜10のアルケニル基、炭素数2〜10のアルキニル基、炭素数3〜10のシクロアルキル基、炭素数6〜10のアリール基又はヘテロアリール基である。
【0022】
一方、炭素数2以上のアルキルリチウムを使用してリチオ化する場合は、式(I’)、(I)及び(II)におけるRは、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、炭素数1〜3のアルキル基又は炭素数1〜3のアルコキシ基に限られる。
本発明においては、1−位以外は無置換のアズレンが好ましく使用される。
以下に、置換基のそれぞれについて説明する。
【0023】
アルキル基は、置換されていてもよい炭素数1〜10の直鎖状または分岐状のアルキル基である。例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、イソアミル基、tert−ペンチル基、ネオペンチル基、n−へキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、n−ノニル基、n−デシル基等が挙げられる。好ましくは、炭素数1〜6のアルキル基である。
【0024】
アルコキシ基は、置換されていてもよい炭素数1〜10の直鎖状または分岐状のアルコキシ基である。例えば、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、イソブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基、n−ペンチルオキシ基、イソペンチルオキシ基、ネオペンチルオキシ基、n−へキシルオキシ基、n−ヘプチルオキシ基、n−オクチルオキシ基、n−ノニルオキシ基、n−デシルオキシ基等が挙げられる。好ましくは、炭素数1〜6のアルコキシ基である。
【0025】
アルケニル基は、置換されていてもよい炭素数2〜10の直鎖状または分岐状のアルケニル基である。例えば、ビニル基、1−プロペニル基、2−プロペニル基、1−ブテニル基、2−ブテニル基、3−ブテニル基、1,3−ブテニル基、1−ペンテニル基、1−ヘキセニル基、1−ヘプテニル基、1−オクテニル基、1−ノネニル基、1−デセニル基等が挙げられる。好ましくは、炭素数2〜6のアルケニル基である。
【0026】
アルキニル基は、置換されていてもよい炭素数2〜10の直鎖状または分岐状のアルキニル基である。例えば、エチニル基、1−プロペニル基、1−ブチニル基、1−ペンチニル基、1−ヘキサニル基、1−ヘプチニル基、1−オクチニル基、1−ノニル基等が挙げられる。好ましくは、炭素数2〜6のアルキニル基である。
【0027】
シクロアルキル基は、置換されていてもよい炭素数3〜10のシクロアルキル基である。例えば、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロへキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、シクロノニル基、シクロデシル基等が挙げられる。好ましくは、炭素数3〜6のシクロアルキル基である。
【0028】
アリール基は、置換されていてもよい炭素数6〜10のアリール基である。その具体的な例としては、フェニル基、ペンタレニル基、インデニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基、テトラヒドロナフチル基、アズレニル基等が挙げられる。
【0029】
ヘテロアリール基は、窒素原子、酸素原子、および硫黄原子からなる群より選択される少なくとも1個のヘテロ原子を含む単環複素環または縮合複素環を有する置換されていてもよい基である。その具体的な例としては、ピロリル基、イミダゾリル基、イミダゾリジニル基、ベンゾイミダゾリル基、ピラゾリル基、チアゾリル基、イソチアゾリル基、オキサゾリル基、イソオキサゾリル基、フラザニル基、ピリジニル基、ピラジニル基、ピリミジニル基、ピリダジニル基、フラニル基、ピラニル基、チエニル基、ベンゾチオフェニル基、チオピラニル基、イソチオクロメニル基、チオクロメニル基、チオキサントレニル基、チアントレニル基、フェノキサチイニル基、ピロリジニル基、1H−1−ピリンジニル基、インドニジニル基、イソインドリル基、インドリル基、インダゾリル基、プリニル基、キノリジニル基、イソキノリニル基、キノリニル基、ナフチリジニル基、フタラジニル基、キノキサニリル基、キナゾリニル基、シンノリニル基、プテリジニル基、カルバゾリル基、β−カルボリニル基、フェナントリジニル基、アクリジニル基、ペリミジニル基、フェナントロリニル基、フェナジニル基、フェノチアジニル基、フェノキサジニル基、アンチジニル基、イソベンゾフラニル基、ベンゾフラニル基、イソクロメニル基、クロメニル基、キサンテニル基、パラチアジニル基、トリアゾリル基、またはテトラゾリル基等が挙げられる。
【0030】
その他、有機リチウムとの反応に不活性な置換基として、アルキルシリル基、アリールシリル基等が挙げられる。アルキルシリル基は、シリル基に上記したアルキル基のいずれかが1〜3個結合した基であり、アリールシリル基は、シリル基に上記したアリール基のいずれかが1〜3個結合した基である。
【0031】
また、「置換されていてもよい」とは、上述した置換基が、さらに同一又は異なる置換基を有していてもよいことを意味する。
【0032】
(製造方法)
1)1−ヨードアズレン誘導体の合成
式(I)で表される1−ヨードアズレン誘導体は、特に限定されないが、通常、式(I’)
【0033】
【化4】

【0034】
(式中、R及びnは前記と同じ定義である)で表される1−位以外に置換基を有していてもよいアズレンとヨウ素化剤とを反応させることにより得られるが、ヨウ素化剤としては、ヨウ素、ヨウ化モノクロリド、N−ヨードスクシンイミド(NIS)、ベンジルトリメチルアンモニウムジクロロヨーデート、テトラエチルアンモニウムヨーダイド、テトラノルマルブチルアンモニウムヨーダイド、ヨウ化リチウム、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化カリウム、1−クロロ−2−ヨードエタン、ヨウ素フッ化銀、tert−ブチルハイポヨージド、1,3−ジヨード−5,5−ジメチルハイダントイン、ヨウ素−モルフォリン錯体、トリフルオロアセチルハイポヨージド、ヨウ素−過ヨウ素酸、1−ヨ−ドヘプタフルオロプロパン、トリフェニルホスフェート−メチルヨージド、ヨウ素−タリウム(I)アセテート、1−クロロ−2−ヨードエタン、ヨウ素−銅(II)アセテート等が挙げられ、N−ヨードスクシンイミドが好適に用いられる。
【0035】
アズレン誘導体の1−位にヨウ素原子を導入する際に用いられる反応溶媒としては、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、1,2−ジクロロエタン等のハロゲン化炭化水素系溶媒;1,4−ジオキサン、ジエチルエーテル、1,2−ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン等のエーテル系溶媒等が例示でき、ジクロロメタンが好ましい。
【0036】
アズレン誘導体の1−位にヨウ素原子を導入する際に用いられる反応は、上記した溶媒中、窒素又はアルゴン等の不活性雰囲気下、0℃〜30℃の温度範囲で行うのが好ましい。ヨウ素化剤の量は、アズレン誘導体に対して過度に多い場合には、5−位や7−位がヨウ素化されるので、高い収率かつ高い選択率で1−ヨードアズレン誘導体を得るためには、好ましくはアズレン誘導体に対し1モル当量用いられる。
【0037】
2)アリールリチウムもしくはアルキルリチウムとの反応
本発明のリチオ化は、1−位にヨウ素原子を有するアズレン誘導体と、アリールリチウムもしくは炭素数2以上のアルキルリチウム(以下、単に「有機リチウム試薬」と呼ぶことがある)との反応によって、アズレン誘導体の1−位をリチオ化することを特徴とする。
【0038】
アリールリチウムとしては、フェニルリチウム、メシチルリチウム、p−tert−ブチルフェニルリチウム、p−メトキシフェニルリチウム、p−フルオロフェニルリチウム等の炭素数6〜10のアリールリチウムが挙げられ、フェニルリチウムが好ましい。アルキルリチウムとしては、n−ブチルリチウム、sec−ブチルリチウム、tert−ブチルリチウム、ヘキシルリチウム等の炭素数2〜6のアルキルリチウムが挙げられ、n−ブチルリチウムが好ましい。
【0039】
有機リチウム試薬との反応に用いられる溶媒は、ジエチルエーテル、1,2−ジメトキシエタン、テトラヒドロフランおよびジオキサンなどのエーテル類;ならびにn−ヘキサンおよびシクロヘキサンなどの脂肪族炭化水素類が挙げられ、それらは混合して使用してもよい。エーテル類が好ましく、テトラヒドロフランがより好ましい。
【0040】
有機リチウム試薬との反応は、窒素又はアルゴン等の不活性雰囲気下、−100℃〜−50℃の温度範囲で行うのが好ましい。アリールリチウムもしくはアルキルリチウムの量は、アズレン誘導体に対し1〜5モル当量用いられ、好ましくは1〜2モル当量用いられる。反応時間は特に制限されないが、10分〜10時間が好ましい。
【0041】
また本発明の方法は、1−位にハロゲン原子を有するアズレン誘導体の濃度が0.10mmol/ml〜0.50mmol/mlの範囲で行うことを特徴とする。
【0042】
3)求電子剤との反応
有機リチウム試薬との反応後、種々の求電子剤と反応させることによって、アズレンの1−位に置換基を導入することが可能である。
求電子剤として、例えばギ酸エチル、シアノギ酸エチル又は酢酸エチル等のエステル類;塩化アセチル又はクロロギ酸メチル等の酸ハライド類;N,N−ジメチルホルムアミド等のアミド類;パラホルムアルデヒド等のアルデヒド類;ヨードメタン、ベンジルブロマイド等のハロゲン化物;メタンスルホニルクロライド、p−トルエンスルホニルクロライド等のスルホン酸塩化物;ジメチル硫酸、ジエチル硫酸等の硫酸エステル;二酸化炭素等を用いることで、それぞれの求電子剤に応じた置換基をアズレン誘導体へ導入できる。
【0043】
また、求電子剤として塩化トリメチルスズ、塩化トリブチルスズ、トリブチルスズヒドリド、ヘキサメチルジスタナン、ヘキサブチルジスタナン等のスズ化合物;又はホウ酸トリメチル、ホウ酸トリイソプロピル、(2,3−ジメチルブタン−2,3−ジオキシ)ボラン、(2,3−ジメチルブタン−2,3−ジオキシ)メトキシボラン、(2,3−ジメチルブタン−2,3−ジオキシ)イソプロポキシボラン、エチレンジオキシボラン、1,3−プロパンジオキシボラン、ビス(2,3−ジメチルブタン−2,3−ジオキシ)ジボラン、1,2−フェニレンジオキシボラン等のホウ素化合物を用い、アズレン誘導体へスズやホウ酸部位を導入することによって、さらにアズレン誘導体をStilleクロスカップリングや鈴木−宮浦クロスカップリングへ供することができる。
【0044】
アズレン誘導体の1−位にホウ酸を有する化合物は、当該部位が非常に電子豊富な環境にあるため、ホウ酸の脱離反応が起こりやすい。ホウ酸の脱離反応を防ぐために、アズレン誘導体のホウ酸エステル体として単離することが好ましい。
ホウ酸エステルとしては、ホウ酸ジメチルエステル、ホウ酸ジエチルエステル、ホウ酸ジn−プロピルエステル、ホウ酸ジイソプロピルエステル、ホウ酸ジn−ブチルエステル、ホウ酸ジn−ヘキシルエステル、ホウ酸ジn−オクチルエステル、ホウ酸ジn−デシルエステル、ホウ酸ジn−ヘキサデシルエステルあるいはホウ酸ジn−オクタデシルエステル等の鎖状アルキルホウ酸エステル;ホウ酸ピナコールエステル、ホウ酸1,3−プロパンジオールエステル、ホウ酸ネオペンチルグリコールエステル等の環状アルキルホウ酸エステル;ホウ酸ジフェニルエステル、ホウ酸ジ(p−クロロフェニル)エステル、ホウ酸ジ(o−トリル)エステル等のアリールホウ酸エステル;ホウ酸カテコールエステル及びその誘導体を含む環状アリールホウ酸エステル等が挙げられ、環状アルキルホウ酸エステル及び環状アリールホウ酸エステルが特に好ましい。
【0045】
求電子剤との反応は、通常、上述した有機リチウム試薬との反応後の混合物へ求電子剤を添加することにより行う。求電子剤の添加は、窒素又はアルゴン等の不活性雰囲気下、−100℃〜−50℃の温度範囲で行うのが好ましい。求電子剤の量は、アズレン誘導体に対して1〜10モル当量用いられ、好ましくは1〜5モル当量用いられる。反応時間は特に制限されないが、1分〜1時間が好ましい。
【実施例】
【0046】
以下、実施例として本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0047】
[実施例1]
(アズレン骨格へのハロゲン原子の導入)
【0048】
【化5】

【0049】
アズレン(2mmol,0.256g)のジクロロメタン溶液(200ml)に対し、N−ヨードスクシンイミド(NIS)(2mmol,0.45g)を0℃で加え、室温で30分間撹拌した。反応溶液に飽和炭酸水素ナトリウム水(100ml)を加え、ジクロロメタン(50ml×2)で抽出した後、無水硫酸ナトリウムで乾燥し、濃縮した。特に生成は行わず、次の反応に用いた。
【0050】
(有機リチウム試薬との反応、及びホウ酸エステル基の導入)
【0051】
【化6】

【0052】
1−ヨードアズレン(2mmol,0.51g)を二口フラスコに入れ、アルゴン雰囲気下、THF(10ml)に溶かし、−78℃でn−ブチルリチウム(2mmol)を加え30分間撹拌した。反応混合物にホウ酸トリメチル(2mmol,0.21g)を加え、さらに−78℃で20分間撹拌した。さらに、水0.2ml、ピナコール(2mmol,0.236g)を加え、室温で1時間撹拌した。
反応溶液をヘキサン(10ml×2)で抽出した後、無水硫酸ナトリウムで乾燥し、濃縮した残渣をシリカゲルカラム(90g,ヘキサン:酢酸エチル=20:1)で分離精製することでアズレニル−1−ホウ酸エステルを収率51%で得た。この際、ホウ酸部位が脱離したアズレンが収率27%で回収された。
【0053】
[実施例2]
n−ブチルリチウムの代わりにフェニルリチウムを用いる以外は、実施例1と同様に反応を行った。アズレニル−1−ホウ酸エステルが収率59%で得られ、アズレンが収率21%で回収された。
【0054】
[比較例1]
n−ブチルリチウムの代わりにメチルリチウムを用いる以外は、実施例1と同様に反応を行った。アズレニル−1−ホウ酸エステルは得られず、アズレンが収率16%で回収された。さらに、副反応の生成物として、1−メチルアズレンが72%の収率で得られた。
【0055】
[実施例3]
1−ヨードアズレンの濃度が0.10mmol/mlになるようにTHFの量を変更した以外は、実施例2と同様に反応を行った。アズレニル−1−ホウ酸エステルが収率35%で得られ、アズレンが収率55%で回収された。
【0056】
[実施例4]
1−ヨードアズレンの濃度が0.33mmol/mlになるようにTHFの量を変更した以外は、実施例2と同様に反応を行った。アズレニル−1−ホウ酸エステルが収率77%で得られ、1−ヨードアズレンがわずかに回収された。
【0057】
実施例、及び比較例の結果を表1に示す。
【0058】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)
【化1】

(式中、Rは、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のアルコキシ基、炭素数2〜10のアルケニル基、炭素数2〜10のアルキニル基、炭素数3〜10のシクロアルキル基、炭素数6〜10のアリール基又はヘテロアリール基を表し、nは0〜7いずれかの整数を表す。nが2以上の場合は、各Rは、同じであっても異なっていてもよい。
ただし、炭素数2以上のアルキルリチウムと反応させる場合は、Rはフッ素原子、塩素原子、臭素原子、炭素数1〜3のアルキル基又は炭素数1〜3のアルコキシ基に限る)で表される1−ヨードアズレン誘導体と、炭素数2〜6のアルキルリチウム又は炭素数6〜10のアリールリチウムを反応させ、得られた生成物と求電子剤を反応させることを特徴とする、式(II)
【化2】

(式中、R及びnは前記式(I)と同じ定義であり、Xは求電子剤により誘導される置換基を表す)で表されるアズレン誘導体の製造方法。
【請求項2】
式(I)で表される1−ヨードアズレン誘導体が、式(I’)
【化3】

(式中、R及びnは前記式(I)と同じ定義である)で表される1−位以外に置換基を有していてもよいアズレンとヨウ素化剤とを反応させることにより得られることを特徴とする請求項1に記載のアズレン誘導体の製造方法。

【公開番号】特開2012−144505(P2012−144505A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−6300(P2011−6300)
【出願日】平成23年1月14日(2011.1.14)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22年度、独立行政法人科学技術振興機構、「研究成果最適展開支援事業フィージビリティスタディステージ探索タイプ」委託研究、産業技術力強化法、第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(304020177)国立大学法人山口大学 (579)
【Fターム(参考)】