説明

1−(4−ヒドロキシフェニル)−1−シクロヘキセン類の製造方法

【課題】1−(4−ヒドロキシフェニル)−1−シクロヘキセン類を工業的に実施容易に高収率、高純度に製造する方法の提供。
【解決手段】1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン類と、1−(4−ヒドロキシフェニル)−1−(2−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン類を重量比90/10〜50/50で塩基性触媒の存在下に熱分解して式(3)のような1−(4−ヒドロキシフェニル)−1−シクロヘキセン類を製造する。


(式中、R1はアルキル基、アルコキシ基、アリール基、アリールオキシ基またはハロゲンを示し、R2は水素原子、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、アリールオキシ基またはハロゲンを示し、aは0又は1〜4の整数を表す。ただし、aが2以上の場合に、R1は同一でも異なっていてもよい。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、1−(4−ヒドロキシフェニル)−1−シクロヘキセン類の製造方法に関する。詳しくは、液晶ポリエステル、ポリカーボネート、ポリウレタン等の合成樹脂の原料として、また表示素子、半導体等のフォトレジストの原料等の用途に有用である1−(4−ヒドロキシフェニル)−1−シクロヘキセン類を容易に、高純度、高収率で得ることのできる製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、1−(4−ヒドロキシフェニル)−1−シクロヘキセン類の製造方法としては、例えば、4−(4−ヒドロキシフェニル)−1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン類を熱分解して、1,4−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−シクロヘキセン類を得る方法が知られている(特許文献1、2)。
熱分解の出発原料である1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン類は、対応するフェノール類とシクロヘキサノン類とを反応させて得られるが、従来、この縮合反応においては選択的に得られるp,p体[1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)置換化合物]にのみ注目し、このp,p体を熱分解することにより1−(4−ヒドロキシフェニル)−1−シクロヘキセン類を得ていた。
【0003】
しかしながら、工業的に実施する場合には、縮合反応でのp,p体の収率が低い等の問題があり、そのためp,p体の収率を上げるために反応時間をのばしたり、酸触媒を多く使用したり、また、助触媒を使用する等の方法により、p,p体の収率を上げる必要があった。しかしながら、酸触媒を多く使用する場合は反応終了後の中和に必要なアルカリ溶液を多く使用することで、例えば容積効率が悪くなり、また、助触媒を用いる場合は、通常、例えば、効果の高い硫黄原子含有系の化合物を用いるため、得られる目的物の1−(4−ヒドロキシフェニル)−1−シクロヘキセン類に好ましくない硫黄不純物が混入するなどの問題点があった。
【0004】
そこで、本発明者らは、1,1−ビス(ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン類の熱分解により、目的物である1−(4−ヒドロキシフェニル)−1−シクロヘキセン類を得る反応を鋭意検討した結果、1−(4−ヒドロキシフェニル)−1−シクロヘキセン類は 従来知られているp,p体の1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン類の熱分解からのみ得られるのではなく、p,p体と、o,p体[1−(2−ヒドロキシフェニル)−1−(4−ヒドロキシフェニル)置換化合物]である1−(4−ヒドロキシフェニル)−1−(2−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン類の混合物を熱分解することでも、1−(4−ヒドロキシフェニル)−1−シクロヘキセン類が収率良く得られることを見出した。換言するとo,p体の熱分解によっても1−(4−ヒドロキシフェニル)−1−シクロヘキセン類が得られることを見出した。
【0005】
そして、このようなp,p体と、o,p体の混合物は、従来知られているフェノール類とシクロヘキサノン類から p,p体を選択的に得るための反応条件よりも工業的に実施容易な反応条件で得られるために、1−(4−ヒドロキシフェニル)−1−シクロヘキセン類をより効率的に製造する方法であることを見出した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−308809号公報
【特許文献2】特開2002−234856号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、1−(4−ヒドロキシフェニル)−1−シクロヘキセン類の製造方法に於ける上述した問題点に鑑みてなされたものであって、1−(4−ヒドロキシフェニル)−1−シクロヘキセン類を工業的に実施容易に高収率、高純度に製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、一般式(1)

(式中、Rはアルキル基、アルコキシ基、アリール基、アリールオキシ基またはハロゲンを示し、Rは水素原子、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、アリールオキシ基またはハロゲンを示し、aは0又は1〜4の整数を表す。ただし、aが2以上の場合に、Rは同一でも異なっていてもよい。)
で表される1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン(以下、「化合物1」という)と、一般式(2)

(式中、R1、2、aは一般式(1)のそれと同じである。)
で表される1−(4−ヒドロキシフェニル)−1−(2−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン(以下、「化合物2」という)を化合物1/化合物2の重量比で90/10〜50/50で含む混合物を塩基性触媒の存在下に熱分解することを特徴とする、一般式(3)

(式中、R1、2、aは一般式(1)のそれと同じである。)
で表される1−(4−ヒドロキシフェニル)−1−シクロヘキセン類の製造方法が提供される。
【0009】
前記、化合物1/化合物2の混合物が、一般式(4)

(式中、Rは一般式(1)のそれと同じである。)
で表されるフェノール類と、一般式(5)

(式中、R、aは一般式(1)のそれと同じである。)
で表されるシクロヘキサノン類を、シクロヘキサノン類に対し1〜90モル%の酸触媒存在下に助触媒を用いずに脱水縮合させて得られたものであることを特徴とする1−(4−ヒドロキシフェニル)−1−シクロヘキセン類の製造方法は、本発明の好ましい態様である。
また、前記フェノール類とシクロヘキサノン類から前記化合物1/化合物2の重量比で90/10〜50/50で含む混合物を得、次いで、得られた混合物を塩基性触媒の存在下に熱分解することを特徴とする1−(4−ヒドロキシフェニル)−1−シクロヘキセン類の製造方法は、本発明の好ましい態様である。
【0010】
また前記、一般式(1)〜(3)において、Rの少なくとも一つがアリール基である場合の前記一般式(1)が、一般式(6)

(式中、R、Rは一般式(1)のそれと同じであり、cは0又は1〜3の整数を表し、ただし、cが2以上の場合、Rは同一でも異なっていてもよく、Rは独立してRと同じであり、bは0又は1〜4の整数を表し、bが2以上の場合に、Rは同一でも異なっていてもよい。)
で表され、前記一般式(2)が、一般式(7)

(式中、R、R2、、b及びcは一般式(6)のそれと同じである。)
で表され、前記一般式(3)が、一般式(8)

(式中、R、R2、、b及びcは一般式(6)のそれと同じである。)
で表される1−(4−ヒドロキシフェニル)−1−シクロヘキセン類の製造方法は、本発明の好ましい態様である。
【0011】
また、前記一般式(5)で表されるシクロヘキサノン類において、Rの少なくとも一つがアリール基である場合の前記一般式(5)が、一般式(9)

(式中、R、R、b及びcは一般式(6)のそれと同じである。)
で表される1−(4−ヒドロキシフェニル)−1−シクロヘキセン類の製造方法は、本発明の好ましい態様である。
【発明の効果】
【0012】
本発明の1−(4−ヒドロキシフェニル)−1−シクロヘキセン類の製造方法によれば、熱分解に付す直接原料である、フェノール類とシクロヘキサノン類から得られる従来のp,p-体の1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン類を熱分解する製造方法に比べて、直接原料としてp,p-体とo,p-体の混合物を用いることで、このような混合物はフェノール類とシクロヘキサノン類との反応をより穏和で簡便な条件、例えばより少ない触媒量やチオール類等の助触媒を使用しないなどの反応条件で得られるので、例えば、中和に必要なアルカリの量が大きく減少して容積効率が向上し、工業的な実施に有利である。
【0013】
また、助触媒を用いる必要がないので、得られる1−(4−ヒドロキシフェニル)−1−シクロヘキセン類中の微量な有機硫黄化合物の不純物をなくすことができるようになり、有機硫黄成分が好ましくない用途に用いるのに有利である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の1−(4−ヒドロキシフェニル)−1−シクロヘキセン類の製造方法によれば、熱分解反応に付す直接原料として、一般式(1)

(式中、Rはアルキル基、アルコキシ基、アリール基、アリールオキシ基またはハロゲンを示し、Rは水素原子、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、アリールオキシ基またはハロゲンを示し、aは0又は1〜4の整数を表す。ただし、aが2以上の場合に、Rは同一でも異なっていてもよい。)
で表される1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン(化合物1)と、一般式(2)

(式中、R1、2、aは一般式(1)のそれと同じである。)
で表される1−(4−ヒドロキシフェニル)−1−(2−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン(化合物2)を化合物1/化合物2の重量比で90/10〜50/50で含む混合物が用いられる。
【0015】
一般式(1)乃至一般式(2)において、式中、Rはアルキル基、アルコキシ基、アリール基、アリールオキシ基またはハロゲンを示し、Rは水素原子、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、アリールオキシ基またはハロゲンを示す。
乃至Rにおいて示されるアルキル基としては、炭素原子数1〜12のアルキル基であり、直鎖状、分岐鎖状又は環状であってもよく、例えば、メチル基、エチル基、イソプロピル基、t−ブチル基等の直鎖又は分岐状アルキル基、シクロヘキシル基、シクロペンチル基、4−メチルシクロヘキシル基等の環状アルキル基が挙げられる。このようなアルキル基には、フェニル基等のアリール基、メトキシ基等のアルコキシ基が置換してもよく、又、ハロゲン基が置換したハロゲン化アルキルでもよい。
【0016】
アルコキシ基としては、炭素原子数1〜12のアルコキシ基であり、例えば、メトキシ基、エトキシ基、ブトキシ基等の直鎖又は分岐状アルコキシ基、シクロヘキシロキシ基、シクロペンチルオキシ基等の環状アルコキシ基が挙げられる。このようなアルコキシ基には、フェニル基等のアリール基やメトキシ基等のアルコキシ基が置換していてもよく、また、塩素等が置換したハロゲン化アルコキシ基でもよい。
【0017】
アリール基としては、例えば、フェニル基、4−ヒドロキシフェニル基、4−メチルフェニル基の置換又は無置換のフェニル基などが挙げられる。
【0018】
アリールオキシ基としては、例えば、フェノキシ基、4−メチルフェノキシ基等の置換又は無置換のフェニルオキシ基などが挙げられる。
【0019】
好ましいRとしては、アルキル基、アルコキシ基又はフェニル基であり、より好ましくは炭素原子数1〜8の直鎖又は分岐状のアルキル基、アルコキシ基、炭素原子数5〜8のシクロアルキル基、シクロアルコキシ基、置換または無置換のフェニル基であり、更に好ましいRは4−ヒドロキシフェニル基である。
また、Rの好ましい置換位置は、1,1−(ヒドロキシフェニル)基の置換位置に対して3−位、4−位又は5−位である。
【0020】
好ましいRとしては、アルキル基、アルコキシ基又はフェニル基であり、より好ましくは炭素原子数1〜8の直鎖又は分岐状のアルキル基、アルコキシ基、炭素原子数5〜8のシクロアルキル基、シクロアルコキシ基、置換または無置換のフェニル基であり、更に好ましいRは炭素原子数1〜4の直鎖又は分岐状のアルキル基、炭素原子数5〜8のシクロアルキル基である。
【0021】
また、式中、aは0又は1〜4の整数を表し、好ましくは0又は1〜3であり、より好ましくは1である。aが2以上の場合、Rはそれぞれ同一でも違っていてもよく、同じ炭素原子に置換していても異なる炭素原子に置換していてもよいが、異なる炭素原子に置換している方が好ましい。
【0022】
従って、一般式(1)において表される1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン(化合物1)乃至一般式(2)において表される1−(4−ヒドロキシフェニル)−1−(2−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン(化合物2)のより好ましいものとしては、下記一般式(6)乃至一般式(7)で表される。
一般式(6)

(式中、R、Rは一般式(1)のそれと同じであり、cは0又は1〜3の整数を表し、ただし、cが2以上の場合、Rは同一でも異なっていてもよく、Rは独立してRと同じであり、bは0又は1〜4の整数を表し、bが2以上の場合に、Rは同一でも異なっていてもよい。)
一般式(7)

(式中、R、R2、、b及びcは一般式(6)のそれと同じである。)
【0023】
一般式(6)乃至一般式(7)において、式中、R、Rは一般式(1)のそれと同じであり、Rは独立してRと同じであり、従ってRはアルキル基、アルコキシ基、アリール基、アリールオキシ基またはハロゲンを示す。好ましいRはアルキル基、アルコキシ基であり、より好ましくは炭素原子数1〜8の直鎖又は分岐状のアルキル基乃至アルコキシ基、炭素原子数5〜8のシクロアルキル基乃至シクロアルコキシ基である。
【0024】
また、式中、cは0又は1〜3の整数を表し、好ましくは0又は1〜2であり、ただし、cが2以上の場合、Rは同一でも異なっていてもよく、bは0又は1〜4の整数を表し、好ましくは0又は1〜3であり、bが2以上の場合に、Rは同一でも異なっていてもよい。
【0025】
従って、一般式(1)又は一般式(6)において表される、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン(化合物1)乃至一般式(2)又は一般式(7)において表される1−(4−ヒドロキシフェニル)−1−(2−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン(化合物2)としては、具体的には例えば、
一般式(1)又は一般式(6)としては、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−4−(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)−4−(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(3−イソプロピル−4−ヒドロキシフェニル)−4−(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサンなどが挙げられ、
一般式(2)又は一般式(7)として、
1−(4−ヒドロキシフェニル)−1−(2−ヒドロキシフェニル)−4−(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1−(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)−1−(3−メチル−2−ヒドロキシフェニル)−4−(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1−(3−イソプロピル−4−ヒドロキシフェニル)−1−(3−イソプロピル−2−ヒドロキシフェニル)−4−(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1−(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)−1−(3−メチル−2−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサンなどが挙げられる。
【0026】
本発明の製造方法においては、このような化合物1と化合物2を重量比で90/10〜50/50、好ましくは70/30〜85/15、より好ましくは75/25〜80/20を含む混合物を直接原料として、これを塩基性触媒の存在下に熱分解することにより目的物である1−(4−ヒドロキシフェニル)−1−シクロヘキセン類を得る。
本発明の製造方法においては、化合物1と化合物2をこのような重量比範囲で含む混合物を原料とすることにより、従来の製造方法において用いられるp,p体を原料とするよりも、原料化合物が工業的に容易に効率よく得ることができ、しかも、好ましくは、従来のp,p体を原料とする熱分解反応において得られるのと同等乃至それ以上に、高収率、高純度で1−(4−ヒドロキシフェニル)−1−シクロヘキセン類を得ることができる。
【0027】
熱分解の方法としては、例えば、特開2002−308809公報に記載されているのと同様の方法により行うことが出来る。
具体的には、例えば、化合物1と化合物2を含む混合物の熱分解は、塩基性触媒の存在下に行われる。この塩基性触媒としては、特に、限定されるものではないが、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム等のアルカリ金属水酸化物、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等のアルカリ金属炭酸塩、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム等のアルカリ金属炭酸水素塩、ナトリウムフェノキシド、カリウムフェノキシド等のアルカリ金属フェノキシド、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウム等のアルカリ土類金属水酸化物等を挙げることができる。これらのなかでは、特に、水酸化ナトリウム又は水酸化カリウムが好ましく用いられる。
【0028】
本発明の製造方法において、塩基性触媒は、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン(化合物1)と1−(4−ヒドロキシフェニル)−1−(2−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン(化合物2)の混合物に対して、通常、0.5〜20モル%、好ましくは、0.8〜4.0モル%の範囲で用いられる。触媒の使用形態は、特に制限はないが、仕込み操作が容易である点から、好ましくは、10〜50重量%の水溶液として用いられる。
【0029】
本発明によれば、上記化合物1と化合物2の混合物の熱分解は、原料である化合物1と化合物2の混合物及び/又はその熱分解による反応生成物の融点が高いので、上記化合物1と化合物2の混合物の熱分解温度において、その液状性の改善を図るため、更には、その熱分解による反応生成物の熱重合を防止するために、好ましくは、反応溶媒の存在下に行われる。
上記反応溶媒としては、熱分解温度において不活性であり、しかも、反応混合物から留出しない溶媒であれば、特に限定されるものではないが、例えば、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ペンタエチレングリコール等のポリエチレングリコール類、トリプロピレングリコール、テトラプロピレングリコール等のポリプロピレングリコール類、グリセリン等の多価アルコール類が用いられる。また、市販の有機熱媒体である「サームエス」(新日鉄化学(株)製)や「SK−OIL」(綜研化学(株)製)等も用いられる。
【0030】
本発明によれば、このような溶媒は、用いる化合物1と化合物2の混合物100重量部に対して、通常、10〜150重量部、好ましくは、30〜100重量部の範囲で用いられる。
本発明によれば、化合物1と化合物2の混合物の熱分解は、通常、150〜300℃の範囲、好ましくは、180〜250℃の範囲の温度で行われる。熱分解温度が低すぎるときは、反応速度が遅すぎ、他方、熱分解温度が高すぎるときは、望ましくない副反応が多くなるからである。また、熱分解の反応圧力は、特に、限定されるものではないが、通常、常圧乃至減圧下の範囲であり、分解生成するフェノール類が留出する程度の減圧下で行うことが好ましく、例えば、0.1〜101.3kPa(絶対圧力)の範囲、好ましくは、2.6〜6.7kPa(絶対圧力)の範囲である。
【0031】
このような反応条件において、化合物1と化合物2の混合物の熱分解は、通常、1〜6時間程度で終了する。熱分解反応は、例えば、分解反応によって生成するフェノール類の留出がなくなった時点をその終点とすることができる。
好ましい態様によれば、化合物1と化合物2の混合物の熱分解反応は、例えば、反応容器に化合物1と化合物2の混合物と塩基性触媒とテトラエチレングリコール等の溶媒を仕込み、温度190〜220℃、圧力2.6〜6.7kPa(絶対圧力)で3〜6時間程度、分解反応によって生成したフェノール類を留去しながら、撹拌することによって行われる。
【0032】
本発明によれば、このような化合物1と化合物2の混合物の熱分解反応の終了後、得られた反応混合物に酸水溶液を加えて塩基性触媒を中和することによって、含水油状の反応混合物を得ることができる。本発明によれば、このような含水油状の反応混合物から、必要に応じて、反応生成物を常法に従い、分離、精製して、目的物の1−(4−ヒドロキシフェニル)−1−シクロヘキセン類を高純度品として得ることができる。
分離、精製方法は例えば、上記含水油状の反応混合物にメチルイソブチルケトン等の有機溶媒と水を加え、上記中和によって生成した塩と熱分解反応に用いた溶媒(例えば、テトラエチレングリコール)とを水層として分離し、得られた油層から上記有機溶媒(例えば、メチルイソブチルケトン)を蒸留等にて留去し、この後、このようにして得られた蒸留残渣に晶析溶媒を加えて、晶析させ、精製することによって、熱分解反応による反応生成物を精製品として得ることができる。
【0033】
本発明の製造方法においては、このようにして化合物1と化合物2の混合物の熱分解反応から得られた目的物である1−(4−ヒドロキシフェニル)−1−シクロヘキセン類は、原料の化合物1及び化合物2に対応して、一般式(3)

(式中、R1、2、aは一般式(1)のそれと同じである。)
で表される。
【0034】
上記式において、式中、R1、2、aは一般式(1)のそれと同じである。
従って、好ましいRとしては、アルキル基、アルコキシ基又はフェニル基であり、より好ましくは炭素原子数1〜8の直鎖又は分岐状のアルキル基、アルコキシ基、炭素原子数5〜8のシクロアルキル基、シクロアルコキシ基、置換または無置換のフェニル基であり、更に好ましいRは4−ヒドロキシフェニル基である。
また、Rの好ましい置換位置は、1,1−(ヒドロキシフェニル)基の置換位置に対して、3−位、4−位又は5−位である。
好ましいRとしては、アルキル基、アルコキシ基又はフェニル基であり、より好ましくは炭素原子数1〜8の直鎖又は分岐状のアルキル基、アルコキシ基、炭素原子数5〜8のシクロアルキル基、シクロアルコキシ基、置換または無置換のフェニル基であり、更に好ましいRは炭素原子数1〜4の直鎖又は分岐状のアルキル基、炭素原子数5〜8のシクロアルキル基である。
また、式中、aは、好ましくは0又は1〜3であり、より好ましくは1である。aが2以上の場合、Rはそれぞれ同一でも違っていてもよく、同じ炭素原子に置換していても異なる炭素原子に置換していてもよいが、異なる炭素原子に置換している方が好ましい。
【0035】
同様に、このような一般式(3)で表される1−(4−ヒドロキシフェニル)−1−シクロヘキセン類において、好ましいものとしては、一般式(8)

(式中、R、R2、、b及びcは一般式(6)のそれと同じである。)
で表される。上記式において、式中、R、R2、、b及びcは一般式(6)のそれと同じである。
【0036】
従って、1−(4−ヒドロキシフェニル)−1−シクロヘキセン類としては、具体的には例えば、1,4−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−シクロヘキセン、1−(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)−4−(4−ヒドロキシフェニル)−1−シクロヘキセン、1−(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチル−1−シクロヘキセンなどが挙げられる。
【0037】
本発明の製造方法においては、このような1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン(化合物1)と1−(4−ヒドロキシフェニル)−1−(2−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン(化合物2)を重量比で90/10〜50/50を含む混合物を得る方法については、特に制限はないが、例えば、好ましくは下記のような製造方法が例示できる。即ち、一般式(4)

(式中、Rは一般式(1)のそれと同じである。)
で表されるフェノール類と、一般式(5)

(式中、R、aは一般式(1)のそれと同じである。)
で表されるシクロヘキサノン類を、シクロヘキサノン類に対し1〜90モル%の酸触媒存在下に脱水縮合させることにより、得ることができる。
【0038】
一般式(4)で表される原料のフェノールにおいて、式中、Rは一般式(1)のそれと同じであり、一般式(4)で表されるフェノール類としては、具体的には例えば、フェノール、o−クレゾール、o−t−ブチルフェノール、o−イソプロピルフェノール、o−n−プロピルフェノール、2−メトキシフェノール、2−フェニルフェノール、2−クロロフェノールなどを挙げることができる。
また、今ひとつの原料である一般式(5)で表されるシクロヘキサノン類において、式中、R、aは一般式(1)のそれと同じであり、従って、好ましいRとしてはアルキル基、アルコキシ基又はフェニル基であり、より好ましくは炭素原子数1〜8の直鎖又は分岐状のアルキル基、アルコキシ基、炭素原子数5〜8のシクロアルキル基、シクロアルコキシ基、置換または無置換のフェニル基であり、更に好ましいRは4−ヒドロキシフェニル基である。また、式中、aは、好ましくは0又は1〜3であり、より好ましくは1である。
【0039】
このような一般式(5)で表されるシクロヘキサノン類において好ましいものとしてはRの少なくとも一つがアリール基である場合の、一般式(9)

(式中、R、R、b及びcは一般式(6)のそれと同じである。)
で表される4−(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン−1−オン類である。従って、一般式(5)又は一般式(9)で表されるシクロヘキサノン類としては、具体的には例えば、
3,3,5−トリメチルシクロヘキサノン、4−イソプロピルシクロヘキサノン、4−(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサノンなどが挙げられる。
【0040】
本発明の製造方法において、このようなフェノール類とシクロヘキサノン類を原料として、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン(化合物1)と1−(4−ヒドロキシフェニル)−1−(2−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン(化合物2)を重量比で90/10〜50/50を含む混合物を得る方法について具体的に述べると、
このようなフェノール類とシクロヘキサノン類との反応において、フェノール類/シクロヘキサノン類のモル比は、通常、2/1〜10/1の範囲、好ましくは4/1〜8/1の範囲、より好ましくは6/1〜4/1の範囲で用いられる。
【0041】
上記フェノール類とシクロヘキサノン類との反応において、反応溶剤は用いてもよく、また、用いなくてもよい。反応溶剤を用いる場合、例えば、脂肪族アルコール、芳香族炭化水素又はこれらの混合溶剤が用いられる。アルコールとしては、用いる反応原料、得られる生成物の溶解度、反応条件、反応の経済性等を考慮して、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、n−プロピルアルコール、t−ブチルアルコール、イソブチルアルコール、n−ブチルアルコール等を挙げることができる。また、芳香族炭化水素溶剤としては、例えば、トルエン、キシレン、クメン等を挙げることができる。 このような溶剤は、通常、用いるシクロヘキサノン100重量部に対して、100〜500重量部の範囲で用いられるが、これに限定されるものではない。
【0042】
本発明において、酸触媒は、シクロヘキサノン類に対し1〜90モル%の範囲、好ましくは5〜50%の範囲、より好ましくは10〜20モル%の範囲で用いる。酸触媒としては、例えば、塩酸、乾燥塩化水素ガス、硫酸、p−トルエンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、メタンスルホン酸や、塩化アルミニウム等のルイス酸等が用いられる。好ましくは塩酸又は塩化水素ガスである。従来、p,p体を選択的に生成するため、酸触媒濃度の高い領域において縮合反応が行われていたが、酸触媒濃度の低い領域において縮合反応を行うことにより、生成したo,p体がp,p体に転位することが抑制されp,p体とo,p体の混合物が収率よく得られるものと思われる。
更に、本発明によれば、反応を促進するために従来から用いられている、メルカプタン等(例えば、オクチルメルカプタン)の助触媒は用いない。
【0043】
反応は、通常、0〜100℃、好ましくは、40〜80℃の範囲、より好ましくは50〜70℃の範囲の温度にて、攪拌下、通常、5〜30時間、好ましくは10〜23時間程度行なえばよい。
反応終了後、得られた反応混合物にアルカリを加えて、酸触媒を中和した後、水層に適宜の晶析溶剤を加えるか、又は水層を分離除去し、必要に応じて、得られた有機層を常圧又は減圧下に蒸留した後、これに適宜の晶析溶剤を加えるかして、粗結晶を析出させ、次いで、この粗結晶を濾取し、これを更に適宜の晶析溶剤から晶析させることによって、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン(化合物1)と1−(4−ヒドロキシフェニル)−1−(2−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン(化合物2)の混合物の精製品を得ることができる。このようにして得られた化合物1と化合物2の混合物中の化合物1/化合物2のモル比は、通常、90/10〜50/50の範囲である。本発明の製造方法においては、上記したように、用いる酸触媒の量が少ないので、中和のために用いるアルカリの量も少なく容積効率に優れている。
【0044】
また、本発明によれば、上記粗結晶や精製品を次工程の熱分解の原料として用いることができるが、しかしながら、本発明によれば、反応工程を簡略化するために、反応終了後、得られた反応混合物にアルカリを加えて、酸触媒を中和した後、水層を分離除去し、かくして、得られた油状の反応混合物を次工程の熱分解の原料として用いるのが望ましい。
この化合物1と化合物2の混合物を含む油状の反応混合物を前述したようにして、塩基性触媒の存在下に、熱分解して目的とする前記一般式(3)で表される1−(4−ヒドロキシフェニル)−1−シクロヘキセン類を得ることができる。
【実施例】
【0045】
以下に本発明を実施例により詳細に説明する。
【0046】
実施例1;
1−(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)−4−(4−ヒドロキシフェニル)−1−シクロヘキセンの製造
o‐クレゾール270.0g(2.5モル)と35%塩酸8.2gとを1L容量四つ口フラスコに仕込み、フラスコ内を50℃まで昇温した。50℃を維持しつつ、この溶液に4−(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサノン95.0g(0.5モル)を1時間かけて添加した後、同じ温度で23時間反応させた。
反応終了後、得られた反応混合物に16%水酸化ナトリウム水溶液を加えて中和した後、メチルイソブチルケトン200gを加え、97℃まで昇温し、反応生成物を溶解させた。溶解させた液から水層を分離除去した後、油層に水を加えて水洗し、水層を分離除去した。得られた残留油層の組成は目的物のp,p体が70.1%、o,p体が20.3%であった(液体クロマトグラフィー分析による測定)。ここに16%水酸化ナトリウム水溶液3.1gを添加し、反応容器内を圧力3.0kPa[abs]の減圧とし、195℃で生成したo−クレゾールを留出させながら3時間熱分解反応を行った。留出物が留出しなくなった時点を反応の終点とした。得られた蒸留残液にo‐クレゾールとメチルイソブチルケトンを添加した後、酢酸水溶液を加えて、pH6程度に中和した。
中和終了後、水層を除去し、得られた油層に水を加えて水洗し、水層除去した。その後、得られた油層からメチルイソブチルケトンを減圧留去し、得られた濃縮残液にトルエンを加えて、晶析を行った。晶析した液を冷却し、濾過した後、得られた結晶を乾燥して純度98.1%(高速液体クロマトグラフィー分析による測定)の1−(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)−4−(4−ヒドロキシフェニル)−1−シクロヘキセン100.2gを白色粉体として得た。原料4−(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサノンに対する収率は71.5%であった。
【0047】
参考例1;
o‐クレゾール135g(1.25モル)、メタノール1.5g、35%塩酸4.07g(0.04モル)を500mL容量四つ口フラスコに仕込み、フラスコ内を40℃まで昇温した。40℃を維持しつつ、この溶液に4−(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサノン47.5g(0.25モル)を1時間かけて添加した後、50〜55℃で1時間反応させ、その後75℃まで約2時間かけて昇温した。その後更に74〜78℃で2.5時間反応させた。
反応終了後の反応液の組成は目的物のp,p体が77.4%、o,p体が12.7%(p,p体/o,p体=85.9/14.1)であった(液体クロマトグラフィー分析による測定)。
【0048】
参考例2;
o‐クレゾール10g(93ミリモル)、p−トルエンスルホン酸0.1g(0.5ミリモル)、4−(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサノン3.5g(18ミリモル)を反応容器に仕込み、撹拌しながら60℃で8時間反応させた。
反応終了時の反応液中の組成は目的物のp,p体が39.7%、o,p体が27%(p,p体/o,p体=59.5/40.5)であった(液体クロマトグラフィー分析による測定)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)

(式中、Rはアルキル基、アルコキシ基、アリール基、アリールオキシ基またはハロゲンを示し、Rは水素原子、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、アリールオキシ基またはハロゲンを示し、aは0又は1〜4の整数を表す。ただし、aが2以上の場合に、Rは同一でも異なっていてもよい。)
で表される1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン(化合物1)と、一般式(2)

(式中、R1、2、aは一般式(1)のそれと同じである。)
で表される1−(4−ヒドロキシフェニル)−1−(2−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン(化合物2)を化合物1/化合物2の重量比で90/10〜50/50で含む混合物を塩基性触媒の存在下に熱分解することを特徴とする一般式(3)

(式中、R1、2、aは一般式(1)のそれと同じである。)
で表される1−(4−ヒドロキシフェニル)−1−シクロヘキセン類の製造方法。
【請求項2】
前記化合物1及び前記化合物2の混合物が、一般式(4)

(式中、Rは一般式(1)のそれと同じである。)
で表されるフェノール類と、一般式(5)

(式中、R、aは一般式(1)のそれと同じである。)
で表されるシクロヘキサノン類を、シクロヘキサノン類に対し1〜90モル%の酸触媒存在下に、助触媒を用いることなく脱水縮合させて得られたものであることを特徴とする請求項1記載の1−(4−ヒドロキシフェニル)−1−シクロヘキセン類の製造方法。
【請求項3】
酸触媒が、塩酸及び/又は塩化水素であることを特徴とする請求項1又は2に記載の1−(4−ヒドロキシフェニル)−1−シクロヘキセン類の製造方法。
【請求項4】
前記脱水縮合の反応温度が50℃〜70℃であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の1−(4−ヒドロキシフェニル)−1−シクロヘキセン類の製造方法。
【請求項5】
前記一般式(1)〜(3)のいずれかにおいて、Rの少なくとも一つがアリール基である場合の前記一般式(1)が、一般式(6)

(式中、R、Rは一般式(1)のそれと同じであり、cは0又は1〜3の整数を表し、ただし、cが2以上の場合、Rは同一でも異なっていてもよく、Rは独立してRと同じであり、bは0又は1〜4の整数を表し、bが2以上の場合に、Rは同一でも異なっていてもよい。)
で表され、前記一般式(2)が、一般式(7)

(式中、R、R2、、b及びcは一般式(6)のそれと同じである。)
で表され、前記一般式(3)が、一般式(8)

(式中、R、R2、、b及びcは一般式(6)のそれと同じである。)
で表される請求項1〜4のいずれか一項に記載の1−(4−ヒドロキシフェニル)−1−シクロヘキセン類の製造方法。
【請求項6】
前記一般式(5)で表されるシクロヘキサノン類において、Rの少なくとも一つがアリール基である場合の前記一般式(5)が、一般式(9)

(式中、R、R、b及びcは一般式(6)のそれと同じである。)
で表される請求項1〜5のいずれか一項に記載の1−(4−ヒドロキシフェニル)−1−シクロヘキセン類の製造方法。

【公開番号】特開2011−213603(P2011−213603A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−80619(P2010−80619)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(000243272)本州化学工業株式会社 (44)
【Fターム(参考)】