説明

1−[2−(2,4−ジメチル−フェニルスルファニル)−フェニル]ピペラジンの新規組成物

放出が胃において生じないように適合された、1−[2−(2,4−ジメチル−フェニルスルファニル)−フェニル]ピペラジン及びその薬学的に許容される酸付加塩の医薬組成物が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、1−[2−(2,4−ジメチル−フェニルスルファニル)−フェニル]ピペラジン及びその薬学的に許容される酸付加塩を含む医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
化合物1−[2−(2,4−ジメチル−フェニルスルファニル)−フェニル]ピペラジンは、WO03/029232として公開された国際特許出願に最初に開示された。続く出願WO2007/144005、WO2008/113359及びWO2009/062517は、追加的な使用、医薬組成物及び製造方法を開示する。今後、1−[2−(2,4−ジメチル−フェニルスルファニル)−フェニル]ピペラジン及びその薬学的に許容される酸付加塩は、「化合物I」又は化合物Iの特定のXX塩を指すのが望ましい場合は「化合物IXX」と呼ぶ。化合物Iは、5HTレセプターにおけるアンタゴニスト効果(K:4.5nM)、5HT1Aレセプターにおけるアゴニスト効果(EC50:200nM)、及びセロトニントランスポーターに対する阻害効果(IC50:5.4nM)を有する5HTエンハンサーである特有の薬理学的プロファイルを有することが示された。[Soc.Biol.Psych. 64th annual meeting, May 14-16, 2009 Vancouver, Canada, Poster #260]。加えて、化合物Iは、非臨床インビボ研究において、気分調節に関連する脳領域にアセチルコリン、ノルエピネフリン、ドーパミン及びセロトニンの有意な増加を生じさせることを示した。[World Federation of Societies of Biological Psychiatry, 9thWorld Congress of Biological Psychiatry, 28.June-2.July, 2009, Paris, France, Poster P-29-005]。薬理学的プロファイルに基づいて、化合物Iは、うつ病、不安などの気分障害の治療に有効であり、また、認知機能障害及び疼痛の治療に有用であると考えられる。この概念は、5及び10mgで投与された化合物Iが安全であり、耐性が十分であり、大うつ病性障害の治療において効果的であることを示す化合物Iについて報告された最初の臨床試験によって支持されると思われる[American Psychiatric Association, 162nd Annual Meeting, 16-21 May, 2009, San Fransisco, USA, Poster NR4-024]。
【0003】
選択的セロトニン再取り込みインヒビター(SSRI)又はセロトニン及びノルアドレナリン再取り込みインヒビター(SNRI)などの抗うつ薬によるうつ病患者の治療は、一般に嘔気、睡眠障害、性機能不全、体重増加、頭痛及び口内乾燥などの有害事象を伴う[Int.J.Psych.Clin.Pract., 10, 31-37, 2006]。抗うつ薬による治療に伴う有害事象の量又は重症度を低下させることは、患者の快適さを増加させ、服薬遵守を増加させ、したがって最終的に治療成果を改善するので明らかに望ましい。
【0004】
即時放出(IR)錠剤として投与された及び腸溶性被覆持続放出錠剤として投与されたSSRIパロキセチンによるうつ病の治療が比較された [J.Clin Psych., 63, 577-584, 2002]。腸溶性被覆錠剤による治療はあまり嘔気を伴わなかった。しかし下痢などの他の種類の胃腸(GI)関連の有害事象は増加すると思われ、事実、射精異常、女性生殖器障害及び眩暈の報告の数は増加した。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者たちは、1−[2−(2,4−ジメチル−フェニルスルファニル)−フェニル]ピペラジン及びその薬学的に許容される酸付加塩(化合物I)を化合物Iが胃において放出されないように投与することが、有害事象の量、特にGI管関連有害事象の量を低下させることを見出した。したがって、1つの実施形態において、本発明は1−[2−(2,4−ジメチル−フェニルスルファニル)−フェニル]ピペラジン及びその薬学的に許容される酸付加塩を活性化合物として含む経口投与用医薬組成物であって、前記活性化合物の放出が胃において生じないように適合されている組成物に関する。
【0006】
1つの実施形態において、本発明は疾患を治療する方法であって、本発明の医薬組成物を、それを必要とする患者に投与することを含む方法に関する。
【0007】
1つの実施形態において、本発明は、疾患の治療のための経口投与用医薬の製造における化合物1−[2−(2,4−ジメチル−フェニルスルファニル)−フェニル]ピペラジン及びその薬学的に許容される酸付加塩の使用であって、前記医薬が、前記化合物の放出が胃において生じないように適合されている使用に関する。
【0008】
1つの実施形態において、本発明は、疾患の治療に使用される化合物1−[2−(2,4−ジメチル−フェニルスルファニル)−フェニル]ピペラジン及びその薬学的に許容される酸付加塩であって、前記化合物が、前記化合物の放出が胃において生じないように適合されている経口投与用医薬組成物の中にある化合物及びその薬学的に許容される酸付加塩に関する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】化合物I HBrの投与によって得られた血漿濃度時間プロファイルを示す図である。B:20mgの化合物I HBr IR;C:9mgの化合物I HBr iv;D:近位腸(bowl)において放出された20mgの化合物I HBr;E:遠位腸(bowl)において放出された20mgの化合物I HBrである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
1つの実施形態において、本発明は1−[2−(2,4−ジメチル−フェニルスルファニル)−フェニル]ピペラジン及びその薬学的に許容される酸付加塩を活性化合物として含む経口投与用医薬組成物であって、前記活性化合物が胃において放出されないように適合されている組成物に関する。特に、化合物Iは、腸、特に小腸において放出される。
【0011】
本発明の文脈において、「胃において放出されない」は、対象に投与されたときの化合物Iが胃において溶解形態で実質的に存在しないことを示すことが意図される。
【0012】
化合物Iが胃において溶解形態で存在することは、原則的に、X線評価、NMR画像化、ガンマシンチグラフィー又は実際、胃からの直接試料採取などの技術を使用してインビボにおいて決定することができる。しかし、これらの試験はヒトにおいて実施することが困難である。胃における化合物Iの存在を決定するためのより都合の良い試験は、医薬組成物を胃の環境を模倣する低pHに曝露する第1相、続いて小腸の環境を模倣するより高いpHに曝露する第2段階を組み込んでいる2段階インビトロ溶解試験である。アッセイ基準は、下記において考察されるように、GI管の多様な部分におけるpH及び例えば錠剤又はカプセル剤が胃を通過し腸に入るまでの時間により導かれる。
【0013】
有用な2段階インビトロ溶解試験は以下のようなものである。装置:標準USP回転パドル装置;パドル速度75rpm;37℃。第1段階:単位用量を600mlの0.1M HClに2時間曝露する。第2段階:単位用量を900mlのTRIS緩衝剤(0.6M)、pH=6.8に移す。単位用量は、典型的には、10、20又は30mgの化合物Iなどの1〜50mgの化合物Iを含む。この適用の全体を通して、特定の量の化合物I(例えば、1〜50mg)への言及は、前記特定の量の遊離塩基に相当する化合物Iの量を言及することを理解するべきである。
【0014】
1つの実施形態において、化合物Iを含む経口投与用医薬組成物は、化合物Iの10%未満など、20%未満などの30%未満が上記に定義された段階1において放出される場合、化合物Iが胃において放出されないように適合されていると言われる。更なる実施形態において、経口投与用医薬組成物は、上記の基準に加えて、化合物Iが3時間後に上記に定義された段階2において少なくとも50%など、少なくとも30%などの少なくとも20%を放出する場合、化合物Iが胃において放出されないように適合されていると言われる。更なる実施形態において、化合物Iを含む経口投与用医薬組成物は、上記の基準に加えて、化合物Iが5時間後に上記に定義された段階2において化合物Iの少なくとも80%など、少なくとも70%などの少なくとも60%を放出する場合、化合物Iが胃において放出されないように適合されていると言われる。更なる実施形態において、化合物Iを含む経口投与用医薬組成物は、上記の基準に加えて、化合物Iが8時間後に上記に定義された段階2において化合物Iの少なくとも95%など、少なくとも90%などの少なくとも80%を放出する場合、化合物Iが胃において放出されないように適合されていると言われる。
【0015】
特定の実施形態において、化合物Iを含む経口投与用医薬組成物は、化合物Iの30%未満が上記に定義された第1段階で放出され、3時間後に上記に定義された第2段階で少なくとも20%が放出され、化合物Iの少なくとも60%が5時間後に上記に定義された第2段階で放出され、化合物Iの少なくとも80%が8時間後に上記に定義された第2段階で放出される場合、化合物Iが胃において放出されないように適合されていると言われる。
【0016】
特定の実施形態において、化合物Iを含む経口投与用医薬組成物は、化合物Iの10%未満が上記に定義された第1段階で放出され、1時間後に上記に定義された第2段階で少なくとも60%が放出され、化合物Iの少なくとも80%が2時間後に上記に定義された第2段階で放出され、化合物Iの少なくとも95%が3時間後に上記に定義された第2段階で放出される場合、化合物Iが胃において放出されないように適合されていると言われる。段階1における溶解時間及び放出量は、上記のアッセイ基準では第2段階の溶解時間及び放出量に含まれる。
【0017】
これらの例は、化合物Iを分析するアッセイを提供する。
【0018】
ヒトにおいて、GI管は、とりわけ胃、小腸及び大腸を含む。胃は咽頭を介して咽喉に連結しており、胃では、食物は小腸に移動する前に撹拌される。胃は1〜1.5リットルの食物を保持することができる。本発明の文脈において重要なことには、胃のpHは低く、すなわちおよそ1〜2である。小腸は、3つの区画、すなわち十二指腸、空腸及び回腸を含み、合わせて7メートルまでの長さ及び2.5〜3cmの直径がある。食物の化学的消化の主な部分は、小腸において生じる。プロテアーゼ、リパーゼ及びアミラーゼなどの消化酵素は、食物を加水分解してアミノ酸、脂肪酸及びグリセロール、並びに単糖類(例えば、グルコース)にする。次にこれらの栄養素は小腸の壁を通過して、血液の中に入る。食物の栄養素の主な部分は、小腸により吸収される。小腸のpHは、胃よりも著しく高く、すなわちおよそ5.5以上である。大腸は約1.5メールの長さであり、ここでは水が食物から吸収され、糞便は、肛門から排泄される前に直腸において圧縮され、保存される。大腸に存在する細菌は、ビタミン、例えばビタミンB及びKを作り出し、これらも吸収される。大腸のpHは、およそ5.5から7に増加する。
【0019】
空腹状態では、消化されない非崩壊性固体は、ヒトにおいておよそ2時間毎に生じる消化間欠期伝播性筋放電群(Interdigestive Migrating Myoelectric Complex)(IMMC)の第III相の際に胃から出される。空腹状態での投与時のIMMCの段階に応じて、錠剤又はカプセル剤は、投与のほぼ直後又は投与の2時間後に胃から出ることができる。摂食状態では、小型の錠剤又はカプセル剤は、食事の内容物と共に胃からゆっくりと出される。大型の錠剤又はカプセル剤は、食事の消化時間にわたって胃に保持され、食事が全て消化され、胃から出た後、IMMCの第III相の際に十二指腸へ出て行く。
【0020】
化合物Iの構造を下記に示す
【化1】

【0021】
1つの実施形態において、前記薬学的に許容される酸付加塩は非毒性である酸の塩である。前記塩には、マレイン酸、フマル酸、安息香酸、アスコルビン酸、コハク酸、シュウ酸、ビス−メチレンサリチル酸、メタンスルホン酸、エタンジスルホン酸、酢酸、プロピオン酸、酒石酸、サリチル酸、クエン酸、グルコン酸、乳酸、リンゴ酸、マンデル酸、ケイ皮酸、シトラコン酸、アスパラギン酸、ステアリン酸、パルミチン酸、イタコン酸、グリコール酸、p−アミノ安息香酸、グルタミン酸、ベンゼンスルホン酸、テオフェリン酢酸、並びに8−ハロテオフェリン、例えば8−ブロモテオフェリンなどの有機酸から作製される塩が含まれる。前記塩は、塩酸、臭化水素酸、硫酸、スルファミン酸、リン酸及び硝酸などの無機塩から作製することもできる。特に記述されるものは、メタンスルホン酸、マレイン酸、フマル酸、メソ−酒石酸、(+)−酒石酸、(−)−酒石酸、塩酸、臭化水素酸、硫酸、リン酸及び硝酸から作製される塩である。明確に記述されるものは、臭化水素酸塩である。
【0022】
化合物Iの製造方法は、当技術分野において知られている。例えば、WO03/032292及びWO2007/144005は、有用な合成経路を開示する。化合物Iを含む医薬組成物は当技術分野において知られている。WO2007/144005(第16頁)は、化合物Iを錠剤の形態で経口的に投与できること又は注射用液剤の形態で非経口的に投与できることを開示する。しかし、投与形態と有害事情プロファイルとの関係については何も開示されていない。
【0023】
1つの実施形態において、本発明の医薬組成物は、持続放出組成物である。本発明の文脈において、「持続放出」は、化合物Iが前記組成物からゆっくりと放出されることを示すことが意図される。
【0024】
1つの実施形態において、本発明の医薬組成物は、遅延放出組成物である。本発明の文脈において、「遅延放出」は、化合物Iが所定時間にわたって前記組成物からほとんど又は全く放出されず、この所定時間後に化合物Iが素早く(即時放出、IR)又は持続様式のいずれかで放出されることを示すことが意図される。
【0025】
持続放出組成物は当技術分野において知られており、以下に化合物Iを含む持続放出組成物をどのように提供するかについての例を提示する。特定の例は、実施例部分においても提示される。
【0026】
1つの実施形態において、持続放出組成物は、化合物Iが、水性媒体、例えばGI管の液への化合物Iの放出を遅らせるマトリックスに埋め込まれている又は分散されているマトリックス組成物により達成される。化合物Iは、マトリックスを通って拡散された後、前記マトリックスの表面から主に放出される。或いは、マトリックスはゆっくりと浸食されて、新たな表面を露出し、そこから化合物Iが放出される。いくつかのマトリックスにおいて、両方の機構が同時に働く。マトリックスからの放出速度は、とりわけマトリックスの粒径によって左右される。小さい粒子は化合物Iの速い放出を生じさせ、一方、大きな粒子は化合物Iの遅い放出を生じさせる。放出速度は、マトリックス材料、すなわち前記マトリックス材料における化合物Iの拡散係数によっても左右される。一般に、酢酸セルロースなどのポリマーは、低い拡散係数を有するが、ヒドロゲルは高い拡散係数を有する。したがって、マトリックス材料を選択すること及びマトリックスの粒径を制御することによって、化合物Iの放出速度を制御することが可能である。加えて、可塑剤、孔及び孔誘導性添加剤を使用して、放出速度を操作することができる。
【0027】
1つの実施形態において、本発明の医薬組成物は、多粒子状(multiparticulate)マトリックス組成物、すなわち、化合物Iを含む複数の粒子を、化合物Iの放出を遅らせるマトリックスに含む組成物である。多粒子状組成物における粒子は、典型的には50μm〜3mmの範囲の直径を有する。この実施形態に有用なマトリックス材料には、ヒドロキシプロピルメチルセルロースなどの結合剤が添加された微結晶セルロース等級を含むAvicelなどの微結晶セルロース、パラフィン、変性植物油、カルナウバロウ、水素化ヒマシ油、ミツロウなどのロウ、ポリ塩化ビニル、ポリ酢酸ビニル、酢酸ビニルとエチレンとのコポリマー及びポリスチレンなどが含まれる。場合によりマトリックスに配合することができる水溶性結合剤又は放出改質剤には、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、メチルセルロース、PVP、ポリ(エチレンオキシド)(PEO)、PVA、キサンタンガム、カラギーナンなどの水溶性ポリマーが含まれる。加えて、放出改質剤として機能する材料には、糖又は塩などの水溶性材料が含まれる。
【0028】
多粒子状マトリックス組成物は、化合物Iを結合剤により湿潤塊にし、多孔板に通して押し出し、最後に回転ディスクに設置して、回転ディスクによって押出物を丸みのある球体(rounded sphere)に分解する押出/球形化により調製することができる。或いは、前記組成物はロウ顆粒体である。ロウ顆粒体は、化合物Iを液体ロウに溶解し、それが冷却(及び凝固)すると、スクリーンに通過させて顆粒を形成することによって調製することができる。適切なロウには、水素化ヒマシ油、カルナウバロウ及びステアリルアルコールが含まれる。ロウの融点が高すぎる場合、ロウ及び化合物Iを有機溶媒と混合してペーストを形成することができ、これをスクリーンに通過させて顆粒を形成する。いったん形成されると、多粒子状マトリックス組成物の粒子を、例えばラクトース、微結晶セルロース又はリン酸二カルシウムと混合し、圧縮して錠剤にすることができる。崩壊剤を適用することもできる。そのような錠剤を投与すると、GI管などにおける水性媒体に曝露されたとき錠剤は崩壊して、化合物Iを含む多粒子状マトリックス組成物を露出させ、次に化合物がゆっくりと放出される。或いは、多粒子状マトリックス組成物の粒子を、カプセル剤で、サシェ剤で又は散剤として投与することができる。
【0029】
1つの実施形態において、前記マトリックス組成物は、化合物I及び親水性ポリマーを含む。この実施形態には多粒子状マトリックス組成物も含まれる。適切なポリマーには、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、ポリ(エチレンオキシド)、PVA、キサンタンガム、カルボマー、カラギーナン及びズーグラン(zooglan)が含まれる。投与すると、親水性ポリマーは膨潤、例えばGI管における水性媒体によって膨潤しこれにおいて最終的に溶解する。化合物Iは、マトリックスからの拡散及びマトリックスの浸食の両方によって放出される。化合物Iの放出速度は、用いられる親水性ポリマーの量及び分子量によって制御することができる。一般に、多く量の親水性ポリマーを使用するほど、溶解速度が減少し、高い分子量のポリマーを使用しても同じことである。低い分子量のポリマーを使用するほど、溶解速度が増加する。溶解速度は、糖、塩又は可溶性ポリマーなどの水溶性添加剤の使用により制御することもできる。これらの添加剤の例は、ラクトース、スクロース又はマンニトールなどの糖、NaCl、KCl、NaHCOなどの塩、及びPNVP若しくはPVP、低分子量HPC若しくはHMPC又はメチルセルロースなどの水溶性ポリマーである。
【0030】
1つの実施形態において、マトリックス組成物は、ヒドロゲルに分散された化合物Iを含む。ヒドロゲルは水膨潤性網状ポリマーである。上記において考察されたように、ヒドロゲルは相対的に高い拡散係数により特徴付けられ、このことは比較的大型の剤形、例えば多粒子状マトリックスよりはむしろ錠剤の調製を可能にする。ヒドロゲル錠剤は、膨潤(swoolen)ゲルとして調製及び販売されてもよく、或いは乾燥非膨潤形態で調製及び販売されてもよい。
【0031】
1つの実施形態において、そしてマトリックス組成物の代替案として、本発明は、化合物Iのレザバーが膜により被覆されており、その膜が化合物Iの放出の遅れを実施する、膜緩和(membrane-moderated)組成物である持続放出組成物を提供する。そのような組成物形態は、大型、例えば膜被覆錠剤でありうる或いは小型、例えばカプセル剤で、散剤として、若しくはサシェ剤で提示される又は錠剤に圧縮される、例えば膜被覆粒子でありうる。持続放出被覆には、エチルセルロース、酢酸セルロース及び酢酸酪酸セルロースなどのポリマー被覆が含まれる。ポリマーを、有機溶媒中の溶液として又は水性分散体若しくはラテックスとして適用することができる。被覆操作は、流動床コーター、ウルスターコーター又は回転床コーターなどの標準的な装置により実施することができる。
【0032】
1つの実施形態において、本発明の組成物は、化合物Iを含むカプセル剤であり、前記カプセル剤は、膜を含むシェルを有し、その膜は化合物Iの放出の遅れを実施する。
【0033】
1つの実施形態において、本発明の多粒子状組成物は、化合物Iを粉末被覆などの薬剤積層技術により不活性コア上に適用すること又は化合物I及び適切な結合剤の溶液を、例えば流動床コーター若しくは回転混合機によりコア上に噴霧することによって調製される。或いは、化合物Iを含むコアを、上記に記載された押出/球形化プロセスによって又は例えば流動床による顆粒化によって調製することができる。錠剤(又はコア)の調製についての更なる詳細を下記に提示する。得られた粒子を、続いて、化合物Iの放出を遅らせる適切な膜で被覆する。
【0034】
本発明の持続放出組成物は、浸透送達系を使用して達成することもできる。そのような系は、浸透有効組成物と、半透過性膜で(完全に又は部分的)囲まれている化合物Iとを含有するコアを含む。水は半透過性膜を通過することができるが、水に溶解している溶質は通過することができない。水性環境(例えば、GI管)に置かれた場合、コアは水を吸収し、このことは送達系内部における圧力の増加を生じさせる。この増加した圧力は、化合物Iを、例えば予め作製された開口部を通して送達系から外に出す。或いは、送達系は、圧力が特定のレベルに達すると破裂しうる。適切な浸透有効化合物には、塩、糖及び水膨潤性ポリマーが含まれる。半透過性膜に有用な材料には、ポリアミド、ポリエステル、並びに酢酸セルロース、酢酸酪酸セルロース及びエチルセルロースなどのセルロース誘導体が含まれる。
【0035】
上記に記述されたように、本発明の医薬組成物は、遅延放出組成物によって達成することもできる。以下は、どのように遅延放出組成物を調製できるかについての例を提示する。特定の例は、実施例部分において提示される。
【0036】
1つの実施形態において、遅延は、pH感受性被覆によって達成される。特に、前記被覆は実質的に無傷のままであり、例えば胃において見出されるpHで溶解又は崩壊せず、それによって化合物Iの放出を実質的に防止する。更に、前記被覆は、小腸などの腸において見出されるより高いpHで崩壊又は溶解(又は類似のこと)し、化合物Iの放出を可能にする。
【0037】
1つの実施形態において、本発明の組成物は、化合物Iが小腸において放出されることだけを実質的に可能にするpH感受性被覆で被覆される。そのような組成物は、多くの場合に腸溶性組成物と呼ばれ、同様に被覆は腸溶性被覆と呼ばれる。
【0038】
pH感受性被覆には、ポリアクリルアミドなどのpH感受性ポリマー、炭水化物の酸フタレート、アミロースアセテートフタレート、セルロースアセテートフタレート、他のセルロースエステルフタレート、セルロースエーテルフタレート、ヒドロキシプロピルセルロースフタレート、ヒドロキシプロピルエチルセルロースフタレート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、メチルセルロースフタレート、ポリビニルアセテートフタレート、ポリビニルアセテート水素フタレート、ナトリウムセルロースアセテートフタレート、デンプン酸フタレート、スチレン−マレイン酸ジブチルフタレートコポリマー、スチレン−マレイン酸ポリビニルアセテートフタレートコポリマー、スチレンとマレイン酸とのコポリマーなどのフタレート誘導体、アクリル酸とアクリル酸エステルとのコポリマー、ポリメタクリル酸及びそのエステル、ポリアクリル酸メタクリル酸コポリマー、セラック及び酢酸ビニルとクロトン酸とのコポリマーなどのポリアクリル酸誘導体が含まれる。
【0039】
メタクリル酸とメチルメタクリレートとのアニオン性アクリル酸コポリマーは、特に有用なpH依存性被覆材料である。この種類の腸溶性被覆は、商標名Eudragitでdegussaから入手可能である。特に有用なものは、メタクリル酸−エチルアクリレートコポリマー(1:1)を含むEudragit L及びメタクリル酸−エチルアクリレートコポリマー(1:2)を含むEudragit Sの製品である。Eudragit Lは、およそpH5.5で溶解し、Eudragit Sは、およそ7のpHで溶解する。したがって、いずれかのEudragitポリマーを純粋な形態又はその混合物で適用することによって、腸のどこで放出が生じるかを制御することが可能である。
【0040】
1つの実施形態において、本発明は、各粒子が腸溶性被覆などのpH感受性被覆で被覆されている多粒子状組成物を提供する。これらの粒子は、化合物Iを粉末被覆などの薬剤積層技術により不活性コア上に適用すること又は化合物I及び適切な結合剤の溶液を、例えば流動床コーター若しくは回転混合機によりコア上に噴霧することによって調製することができる。或いは、化合物Iが分散されている粒子を、上記に記載されたように調製することができる。得られた粒子は、続いて適切なpH感受性被覆、例えば腸溶性被覆で被覆される。これらの粒子は、上記に記載されたように圧縮されて錠剤になる又はカプセル剤で、散剤として若しくはサシェ剤で提示することができる。
【0041】
1つの実施形態において、本発明は、pH感受性被覆、例えば腸溶性被覆で被覆された錠剤を提供する。錠剤は、当業者に利用可能ないくつかの方法で調製することができる。錠剤は、化合物Iを通常のアジュバント及び/又は希釈剤と混合し、続いて従来の打錠機で混合物を圧縮することにより調製できる。アジュバント又は希釈剤の例には、PVP、PVP−VAコポリマー、微結晶セルロース、デンプングリコール酸ナトリウム、トウモロコシデンプン、マンニトール、バレイショデンプン、タルク、ステアリン酸マグネシウム、ゼラチン、ラクトース、ガムなどが含まれる。着色剤、香味剤、保存剤などの目的に通常使用される他の任意のアジュバント又は添加剤を、これらが活性成分と適合性がある限り使用することができる。
【0042】
或いは、化合物Iを含む錠剤は、湿式顆粒化により都合良く調製することができる。この方法を使用して、乾燥固体(活性成分、充填剤、結合剤など)をブレンドし、水又は別の湿潤剤(例えば、アルコール)で加湿し、凝集塊又は顆粒を加湿固体から作り出す。湿潤塊化(Wet massing)を、所望の均一粒径が達成されるまで続け、そこで顆粒化生成物を乾燥する。化合物Iを、典型的にはラクトース一水和物、トウモロコシデンプン及びコポビドン(copovidone)と高剪断混合機において水と一緒に混合する。顆粒体を形成した後、これらの顆粒体を適切な篩サイズの篩で篩にかけ、乾燥することができる。次に得られた乾燥顆粒体を、例えば微結晶セルロース、クロスカルメロースナトリウム及びステアリン酸マグネシウムと混合し、その後に錠剤が圧縮される。或いは、錠剤は、化合物Iを、マンニトール、微結晶セルロース、デンプングリコール酸ナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース及びステアリン酸マグネシウムなどの適切な賦形剤と一緒に流動床において混合及び顆粒化することにより作製できる。次に得られた顆粒体を圧縮して錠剤にする。
【0043】
得られた錠剤は、続いて、例えば被覆材料を含む溶液を錠剤上に噴霧することにより、適切なpH感受性被覆、例えば腸溶性被覆で被覆される。
【0044】
1つの実施形態において、本発明は、化合物I、マンニトール、微結晶セルロース、デンプングリコール酸ナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース及びステアリン酸マグネシウムを含む遅延放出組成物を錠剤で提供し、ここで錠剤は、例えばMがおよそ250,000のメタクリル酸エチルアクリレート(1:1)ポリマーで被覆されている。
【0045】
化合物Iを含むコアとpH感受性被覆、例えば腸溶性被覆との間に下がけ(sub-coat)を適用することが望ましい場合がある。そのような下がけは、例えば化合物IがpH感受性被覆の中の化合物と反応し、それによって医薬組成物の安定性を損なう場合に望ましいことがある。下がけ材料の例には、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ヒドロキシプロピルセルロース及びヒドロキシメチルセルロースが含まれる。
【0046】
pH感受性被覆の代替案として、上記に記載された浸透送達系を使用することができる。膜、系形状及び浸透活性化合物を選択することによって、系が胃を通過するまで浸透性破裂を遅延することが可能である。
【0047】
或いは、遅延放出組成物は、化合物I及びヒドロゲルなどの膨潤性材料を含むコアを使用して達成することができ、コアは半透過性膜で被覆されている。適切な膜及びヒドロゲルは上記において考察されている。水性媒体(例えば、GI管)へ投与されると、水が膜を通過し、ヒドロゲルを膨潤させる。膜材料、ヒドロゲル及び形状を適切に選択することによって、コアが胃を通過するまで破裂を遅延することが可能である。
【0048】
IR組成物による化合物Iの投与で得られる血漿濃度時間プロファイルは、相対的に後期のtmax及びtmaxあたりでの血漿濃度平坦域により特徴付けられる。そのようなプロファイルは、定常状態の多回用量の状況、すなわち患者が経験する状況では血漿濃度にあまり変動を生じさせないので有益であると考えられる。多くの有害事象は、Cmaxにより引き起こされ、特に、化合物Iによる臨床試験において観察される低レベルの睡眠及び性関連有害事象は(下記を参照すること)、このプロファイルに関連すると考えられる。化合物の治療効果も、それが生じさせる血漿濃度時間プロファイルに依存している。したがって、同じ血漿濃度時間プロファイルを生じさせる2つの投与形態は、同じ治療効果を有すると予測される。化合物Iが、小腸において放出されたとき、そして、まさに静脈内投与されたとき、IR組成物の有益な血漿濃度時間プロファイル特性を保持することは、予想外である。保持された血漿濃度時間プロファイルによって、本発明の医薬組成物の投与は、低レベルのGI関連有害事象を生じさせ、同時に低レベルの睡眠及び性関連有罪事象を維持し、有益な治療効果を維持すると考えられる。したがって、化合物Iの用量が(IR錠剤による投与と比較して)維持される場合、本発明の医薬組成物は、同じ治療上の利点ではあるが、著しく低いレベルの有害事象をもたらすことが予測される。その一方で用量を増加させることができ、それは改善された治療上の利点をもたらし、同時に許容されるレベルの有害事象を維持することが予測される。言い換えると、本発明の医薬組成物は化合物Iの治療範囲(すなわち、治療効果を与える量と許容されないレベルの有害事象を与える量との間の薬剤の用量)を増大させる。
【0049】
ほとんどの医薬開発は、都合良さ及び平易さのために初期試験及び実験おいてIR組成物を適用する。規制の観点から、IR組成物の血漿濃度時間プロファイルを維持することは、本発明の組成物の追加的な利点である。この生物学的等価性によって、IR組成物を使用する初期研究において得られたデータを、本発明の組成物の市販認可の申請を支持するために使用することが可能である。
【0050】
上記において考察されたように、化合物Iは、5HTエンハンサー、セロトニンレセプター3のインヒビター(5−HTアンタゴニスト)、セロトニンレセプター1のアゴニスト(5−HT1Aアゴニスト)及びセロトニン再取り込みのインヒビターである特有の薬理学的プロファイルを有することが示された。加えて、化合物Iは、ラットの脳においてセロトニン、ノルアドレナリン、ドーパミン及びアセチルコリンの細胞外レベルの増加を引き起こす。また国際出願WO2008/113359は、うつ病患者における化合物Iによる臨床試験の結果を開示し、驚くほど低いレベルの睡眠及び性関連有害事象を示す。
【0051】
この背景によって、化合物Iは、大うつ病性障害、全般性不安障害、パニック障害、外傷後ストレス障害及び不安を伴ううつ病、すなわちうつ病と不安との共存などの気分障害の治療に有用であることが予測される。細胞外アセチルコリンレベルへの影響は、認知に対する効果に転換することが期待される(アルツハイマー病の治療におけるアセチルコリンエステラーゼインヒビターの使用を参照すること)。したがって、化合物Iを、認知機能障害及びアルツハイマー病を伴ううつ病の治療に使用することもできる。
【0052】
大うつ病性障害の患者の一部は、例えば選択的セロトニン輸送インヒビターによる治療に、HAMD又はMADRSなどの臨床的に関連するスケールを改善するという意味において応答するが、認知及び/又は睡眠症状などの他の症状は同じままである。本発明の文脈において、これらの患者は、残存症状を有するうつ病に罹患していると呼ばれる。化合物Iは、そのような患者の治療に有用であることが予測される。
【0053】
例えばWO2008/113359により提示される前臨床データは、化合物Iが疼痛の治療に有用でありうるという概念を支持する。1つの実施形態において、疼痛は、幻肢痛、神経因性疼痛、糖尿病性神経障害、ヘルペス後神経痛(PHN)、手根管症候群(CTS)、HIV神経障害、複合性局所疼痛症候群(CPRS)、三叉神経神経痛(trigeminus neuralgia)、疼痛性チック、外科的介入(例えば、術後鎮痛薬)、糖尿病性血管症、毛細血管抵抗、膵島炎を伴う糖尿病症状、月経に関連する疼痛、癌に関連する疼痛、歯痛、頭痛、片頭痛、緊張型頭痛、三叉神経痛、顎関節症候群、筋膜疼痛、筋肉損傷、線維筋痛症候群、骨及び関節の疼痛(骨関節症)、リウマチ様関節炎、熱傷を伴う外傷によりもたらされるリウマチ様関節炎及び浮腫、骨関節症、骨粗鬆症、骨転移又は不明な理由に起因する挫傷又は骨折疼痛、痛風、結合組織炎、筋膜疼痛、胸郭出口症候群、背上部痛又は腰痛(背痛は系統性(systematic)、局所性又は原発性脊椎疾患からもたらされる(神経根症)、骨盤疼痛、心臓性胸痛、非心臓性胸痛、脊髄損傷(SCI)関連疼痛、中枢性卒中後痛、癌神経障害、AIDS疼痛、鎌状赤血球疼痛又は老人性疼痛を含む慢性疼痛である。1つの実施形態において、疼痛は過敏性腸(bowl)症候群(IBS)又は線維筋痛症である。
【0054】
薬理学的プロファイルに基づいて、化合物Iは、肥満、気晴らし食い、食欲不振及び神経性過食症などの摂食障害、並びにアルコール、ニコチン及び薬物乱用などの物質乱用の治療に有用でありうることも予測される。
【0055】
したがって、1つの実施形態において、本発明は、気分障害;大うつ病性障害;全般性不安障害;パニック障害;外傷後ストレス障害:認知機能障害、アルツハイマー病又は不安を伴ううつ病;残存症状を有するうつ病;慢性疼痛;摂食障害又は乱用から選択される疾患を治療する方法であって、本発明の組成物の治療有効量を、それを必要とする患者に投与することを含む方法に関する。1つの実施形態において、前記組成物は、腸溶性被覆などのpH感受性被覆で被覆されている錠剤又は多粒子状組成物である。1つの実施形態において、前記組成物、特に前記錠剤又は多粒子状組成物は、化合物Iの放出が小腸において生じるように適合されている。
【0056】
化合物Iによる治療において観察される非常に低いレベルの睡眠、性及びGI関連有害事象のため、本発明の組成物は、選択的セロトニン再取り込みインヒビター(SSRI)、選択的ノルアドレナリン再取り込みインヒビター(NRI)、ノルアドレナリン/セロトニン再取り込みインヒビター(SNRI)又は三環系薬(TCA)など他の抗うつ薬などの他の薬剤を、睡眠、性及びGI関連有害事象のために使用することができない患者における第二次治療としても有用でありうる。この実施形態において、治療される患者は、別の薬物療法を受けたことがあり(又は依然として受けており)、この薬物療法は、睡眠、性及びGI関連有害事象のために停止若しくは低減された(又は停止若しくは低減する必要がある)。
【0057】
1つの実施形態において、治療される患者は、前記患者が治療されている疾患が診断されたことがある。
【0058】
典型的な経口投与量は、1日あたり約0.01〜約5mg/kg体重、好ましくは1日あたり約0.01〜約1mg/kg体重の範囲であり、1〜3回の投薬などの1回又は複数回の投薬により投与される。正確な投与量は、投与の頻度及び様式、治療される対象の性別、年齢、体重及び全身状態、治療される状態及び治療されるべきあらゆる随伴疾患の性質及び重症度、並びに当業者に明白な他の要因に応じて決まる。
【0059】
本発明の組成物を使用したときの低レベルのGI関連有害事象によって、患者は増量した化合物Iを受けることができ、それによって治療効果を増加させ、同時に有害事象のレベルを許容されるレベルに保持することができる。成人の典型的な経口投与量は、5〜40mg/日などの5〜50mg/日の化合物Iの範囲である。これは、典型的には、5、10、15、20、25、30又は40mgなど、10〜30mgなどの5〜50mgの化合物Iの1日あたり1回又は2回の投与によって達成することができる。小児科での治療の場合、用量を年齢及び/又は体重に応じて低減することができる。
【0060】
化合物の「治療有効量」は、本明細書で使用されるとき、前記化合物の投与を含む治療介入において所与の疾患及びその合併症の臨床症状を治癒する、緩和する又は部分的に阻止するのに十分な量を意味する。このことを達成するのに適切な量は、「治療有効量」と定義される。この用語は、前記化合物の投与を含む治療において所与の疾患及びその合併症の臨床症状を治癒する、緩和する又は部分的に阻止するのに十分な量も含む。それぞれの目的における有効な量は、疾患又は損傷の重症度、並びに対象の体重及び一般的状態によって決まる。適切な投与量を決定することは、価値のあるマトリックスを構築し、マトリックスの異なる点で試験することによる日常的な実験を使用して達成することができ、これは、訓練を受けた医師にとって全て通常の技能の範囲内であることが理解される。
【0061】
用語「治療」及び「治療する」は、本明細書で使用されるとき、疾患又は障害などの状態と戦う目的で患者を管理及び看護することを意味する。この用語は、症状若しくは合併症を緩和するために、疾患、障害若しくは状態の進行を遅延するために、症状若しくは合併症を緩和若しくは軽減するために及び/又は疾患、障害若しくは状態を治癒若しくは排除するために、並びに状態を防止するために活性化合物を投与することなどの、患者が罹患している所与の状態を治療する全ての範囲を含むことが意図され、ここで防止は、疾患、状態又は障害と戦う目的で患者を管理及び看護することであると理解されるべきであり、活性化合物を投与して症状又は合併症の発症を防止することを含む。それにもかかわらず、予防的(防止的)処置と治療的(治癒的)処置とは、本発明において2つの別々な態様である。治療される患者は、好ましくは哺乳動物、特にヒトである。
【0062】
1つの実施形態において、本発明は、気分障害;大うつ病性障害;全般性不安障害;パニック障害;外傷後ストレス障害:認知障害、アルツハイマー病又は不安を伴ううつ病;残存症状を有するうつ病;慢性疼痛;摂食障害又は乱用から選択される疾患の治療のための経口投与用組成物の製造における化合物Iの使用に関し、ここで前記組成物は、化合物Iが胃において放出されないように適合されている。1つの実施形態において、前記組成物は、腸溶性被覆などのpH感受性被覆で被覆されている錠剤又は多粒子状組成物である。1つの実施形態において、前記組成物、特に前記錠剤又は多粒子状組成物は、化合物Iの放出が小腸において生じるように適合されている。
【0063】
1つの実施形態において、本発明は、気分障害;大うつ病性障害;全般性不安障害;パニック障害;外傷後ストレス障害:認知障害、アルツハイマー病又は不安を伴ううつ病;残存症状を有するうつ病;慢性疼痛;摂食障害又は乱用から選択される疾患の治療に使用される化合物Iに関し、ここで化合物Iは、化合物Iが胃において放出されないように適合されている経口投与用医薬組成物の中にある。1つの実施形態において、前記組成物、特に前記錠剤又は多粒状組成物は、腸溶性被覆などのpH感受性被覆で被覆されている錠剤又は多粒子状組成物である。1つの実施形態において、前記組成物、特に前記錠剤又は多粒子状組成物は、化合物Iの放出が小腸において生じるように適合されている。
【0064】
本明細書において引用された刊行物、特許出願及び特許を含む全ての参考文献は、その全体が参照によって、そして、それぞれの参考文献が、参照によって組み込まれるように個別及び特定的に示され、本明細書の他においてなされた特定の文書の任意の別個に提供された組み込みにかかわらず、その全体が(法律により認められる最大限度まで)本明細書において記載されるのと同じ程度で本明細書に組み込まれる。
【0065】
本発明を記載する文脈における用語「a」及び「an」及び「the」の使用は、本明細書において特に指示のない限り、そして文脈により明確に否定されない限り、単数形及び複数形の両方を網羅すると解釈されるべきである。例えば、語句「the compound」は、特に指示のない限り、本発明又は特定の記載された態様の多様な「compounds」を意味することが理解されるべきである。
【0066】
特に指示のない限り、本明細書に提示された全ての正確な値は、対応する近似値の代表である(例えば、特定の要因又は測定に対して提供された全ての正確な例示的値は、適切な場合、「約」により修飾された対応する近似測定も提供することが考慮できる)。
【0067】
1つ又は複数の要素に関連して「含む」、「有する」、「含まれる」又は「含有する」などの用語を使用する任意の態様又は本発明の態様の本明細書における記載は、特に記述のない限り又は文脈により明確に否定されない限り、その特定の1つ又は複数の要素「からなる」、「から実質的になる」又は「を実質的に含む」同様の態様又は本発明の態様に対する支持を提供することが意図される(例えば、特定の要素を含むと本明細書に記載された組成物は、特に記述のない限り又は文脈により明確に否定されない限り、その要素からなる組成物を記載することも理解されるべきである)。
【実施例1】
【0068】
投与形態、血漿濃度時間プロファイル及び有害事象
1−[2−(2,4−ジメチル−フェニルスルファニル)−フェニル]ピペラジン臭化水素酸塩(化合物I HBr)を、吸収プロファイル、並びに有害事象の種類及び重症度を調査する5元クロスオーバー研究において健康な志願者に投与した。23人の対象(男性12人及び女性11人)が試験に参加したが、脱落のため、23人の対象全てが5つの処置の全てを受けたわけではない(詳細については下記を参照すること)。
【0069】
【表1】

【0070】
近位小腸は空腸の最初のおよそ1メートルであり、遠位小腸は、回盲接合部までの回腸終末部を含む回腸の後半のおよそ1メートルである。
【0071】
Enterion(商標)カプセル剤は、GI管の任意の領域への活性物質の標的送達を可能にする。カプセル剤は、薬剤レザバー及び放射性トレーサー用別区画を含有する。レザバーの床は、ポリマーフィラメントによりバネに対して押さえつけられているピストンとして作用する。ガンマシンチグラフィー(画像化技術)により、GI管におけるカプセル剤の正確な位置を実時間で決定することができる。カプセル剤がGI管の所望の位置に達したとき、磁場が適用され、それはカプセル剤の中のアンテナを加熱し続ける。加熱されたアンテナはポリマーフィラメントと接触しており、ポリマーフィラメントは軟化し、最終的に破断して、これによってピストン(レザバーの床)を解放し、薬剤を素早く放出する。Enterion(商標)カプセル剤は、Partner Tech、UKから入手可能である。
【0072】
血液試料を、IR錠剤の投与後、注入の開始後及びEnterion(商標)カプセル剤の活性化後の240時間において一定間隔で得た。これらの試料を後に分析して、化合物I HBrの血漿濃度時間プロファイルを得た。加えて、有害事象を記録した。食物(スープ)を投与の4時間後に提供し、夕食を投与の10時間後に提供した。
【0073】
23人の対象は、全て、処置A及びBを受け、22人の対象は処置Cを受け;20人の対象は処置Dを受け;そして19人は処置Eを受けた。
【0074】
下記の表は、試験期間にわたって記録した有害事象をまとめる。
【0075】
【表2】

【0076】
上記のデータは、有害事象の数、特にGI管関連有害事象の数が、投与形態によって、より詳細には化合物Iがどこに放出されるかによって決まることを明確に示している。最も多くの有害事象が、レジメンBにおいて、すなわちIR錠剤による化合物Iの投与において生じる。著しく少ない数の有害事象が、レジメンC、D及びEにおいて、すなわち化合物Iが、静脈内注入により投与され、近位小腸(bowl)又は遠位小腸(bowl)それぞれにおいて放出されたときに生じる。これらのデータから、静脈内投与などの胃における放出を回避する化合物Iの投与又は小腸における化合物Iの放出(例えば、腸溶性被覆錠剤若しくは腸溶性被覆多粒子状組成物)が少ない有害事象に関連することをはっきりと結論付けることができる。
【0077】
血漿濃度時間プロファイルを図1に表す。これらのデータから、化合物Iの血漿プロファイルは、化合物IがIR錠剤で投与されるか又は小腸において放出されるかには実質的に無関係であることが明らかである。化合物Iの静脈内注入も、同様の血漿プロファイルを生じさせる。
【実施例2】
【0078】
HPMC(ヒドロキシプロピルメチルセルロース)のヒドロコロイドマトリックスに基づいた改質放出膨潤性マトリックス錠剤
【0079】
【表3】

【0080】
240gの化合物Iを950gのAvicel PH200(微結晶セルロース)、560のMetolose 90SH100SR及び240gのマンニトールとTurbula混合機により3分間混合する。続いて10.4gのステアリン酸マグネシウムをTurbula混合機により0.5分間混合する。複合形状を有する直径8mmの錠剤を単式打錠機Korsch EK0により圧縮する。錠剤硬度:85N。
【実施例3】
【0081】
腸溶性被覆(アクリル酸ポリマー)を含むHPMC(ヒドロキシプロピルメチルセルロース)のヒドロコロイドマトリックスに基づいた改質放出膨潤性マトリックス錠剤
実施例2の錠剤を以下の組成のフィルム被覆配合物で腸溶性被覆する。
【0082】
【表4】

【0083】
被覆懸濁液は、クエン酸トリエチル、消泡エマルション及び精製水をUltra Turrax装置により9500rpmで10分間混合することにより調製する。1分後、タルクを加える。その後Eudragit懸濁液を穏やかに撹拌しながら加え、最後に懸濁液を0.3mmの篩に通す。1.2kgの錠剤を回転有孔容器(CombuLab)で被覆する。流入空気温度:40℃。500m/時間。流出空気温度:33℃。噴霧速度8〜10g/分。霧化圧力:2バール。被覆は、およそ1時間後に8%の重量増加が達成されるまで続ける。
【実施例4】
【0084】
腸溶性被覆ペレットに基づいた多粒子状組成物
化合物Iを薬剤懸濁液としてプラセボペレット(MCC球体−Celphere CP−203)に積層する。薬剤積層ペレットの組成は以下のとおりである。
【0085】
【表5】

【0086】
水/薬剤/PVPの比が85/11.25/3.75である、化合物Iと結合剤のPVPとの水性懸濁液を、Wursterインサートを使用して、流動床Aeromatic MP−1により1.76kgのペレット上に噴霧する。流入空気温度:60〜70℃。80m/時間。流出空気温度:35〜45℃。噴霧速度10〜15g/分で2時間。霧化圧力:1バール。
【0087】
続いて薬剤積層ペレットに実施例3の腸溶性被覆を被覆する。2kgのペレットを、Wursterインサートを使用して流動床Aeromatic MP−1に装填する。流入空気温度:60℃。90m/時間。流出空気温度:30℃。噴霧速度10〜15g/分。霧化圧力:1バール。被覆は、おそよ2.5時間後に20%の重量増加が達成されるまで続ける。腸溶性被覆ペレットを硬質ゼラチンカプセルに充填する。
【実施例5】
【0088】
腸溶性被覆錠剤コアに基づいた30mgの遅延放出組成物
顆粒は、最初に流動床Aeromatic MP−1によりブレンドし、顆粒化し、乾燥することによって作製した。6w/w%のKlucel EXFの水性懸濁液を、26500gのブレンド(化合物I HBr、マンニトール50c、Avicel PH 101及びデンプングリコール酸ナトリウム(A型))上に噴霧した。
【0089】
【表6】

【0090】
流入空気温度:60℃、500m/時間。流出空気温度:26℃。噴霧速度500〜700g/分。霧化圧力:3バール。次に、顆粒を乾燥して、顆粒の相対湿度を25〜55%RHにした:流入空気温度:60℃、500m/時間。次に得られた顆粒を、1.5748mmのスクリーンに通し、1500gのAvicel PH 101及び900gのKlucel EXFと、bohleブレンダー(8分間、7回転/分)によりブレンドした。次に300gのステアリン酸マグネシウムを加え、混合物を7回転/分で3分間ブレンドした。9mmのパンチを備えたKorschプレスを使用して、ブレンドを圧縮して錠剤コアにした。次に錠剤を以下の組成のフィルムコート配合物で腸溶性被覆した。
【0091】
【表7】

【0092】
被覆懸濁液は、クエン酸トリエチル、消泡エマルション及び精製水を混合容器において混合することによって調製した。その後アクリル−EZE懸濁液を穏やかに撹拌しながら加え、最後に懸濁液を0.3mmの篩に通した。1.2kgの錠剤を回転有孔容器(CombuLab)で被覆した。流入空気温度:40℃。500m/時間。流出空気温度:33℃。噴霧速度8〜12g/分。霧化圧力:2バール。被覆は、およそ90分後に12%の重量増加が達成されるまで続けた。
【0093】
上記に記載された溶解試験に曝露したとき、被覆錠剤は以下の溶解プロファイルを有した。
【0094】
【表8】

【0095】
化合物Iを、Symmetry Shield RP18、2.1×20mm ID、3.5μmカラムを備えたHLPC系により分析した。移動相は、20mMの酢酸緩衝剤、pH4.8/アセトニトリル(75/25)であった。流速2.0ml/分及び226nmでのUV検出器による検出。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
化合物1−[2−(2,4−ジメチル−フェニルスルファニル)−フェニル]ピペラジン及びその薬学的に許容される酸付加塩を含み、前記化合物が胃において放出されないように適合されている、経口投与用医薬組成物。
【請求項2】
持続放出組成物である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
遅延放出組成物である、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
pH感受性被覆を含む、請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
腸溶性被覆錠剤である、請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
実質的に各粒子が腸溶性被覆されている多粒子状組成物である、請求項4に記載の組成物。
【請求項7】
化合物I、マンニトール、微結晶セルロース、デンプングリコール酸ナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース及びステアリン酸マグネシウムを含む錠剤であり、錠剤がメタクリル酸エチルアクリレート(1:1)コポリマーで被覆されている、請求項1に記載の組成物。
【請求項8】
化合物Iが、1〜50mgの量の1−[2−(2,4−ジメチル−フェニルスルファニル)−フェニル]ピペラジンHBrである、請求項1から7のいずれかに記載の組成物。
【請求項9】
気分障害;大うつ病性障害;全般性不安障害;パニック障害;外傷後ストレス障害:認知機能障害、アルツハイマー病又は不安を伴ううつ病;残存症状を有するうつ病;慢性疼痛;摂食障害又は乱用から選択される疾患を治療する方法であって、請求項1から8のいずれかに記載の医薬組成物の治療有効量を、それを必要とする患者に投与することを含む方法。
【請求項10】
気分障害;大うつ病性障害;全般性不安障害;パニック障害;外傷後ストレス障害:認知機能障害、アルツハイマー病又は不安を伴ううつ病;残存症状を有するうつ病;慢性疼痛;摂食障害又は乱用から選択される疾患を治療するための経口投与用医薬組成物の製造における1−[2−(2,4−ジメチル−フェニルスルファニル)−フェニル]ピペラジン及びその薬学的に許容される酸付加塩の使用であって、前記医薬が、1−[2−(2,4−ジメチル−フェニルスルファニル)−フェニル]ピペラジン及びその薬学的に許容される酸付加塩が胃において放出されないように適合されている、使用。
【請求項14】
前記組成物が、pH感受性被覆で被覆されている錠剤又は多粒子状組成物である、請求項13に記載の使用。
【請求項15】
前記pH感受性被覆が腸溶性被覆である、請求項14に記載の使用。
【請求項16】
前記組成物が、化合物Iの放出が小腸において生じるように適合されている、請求項13に記載の使用。
【請求項17】
前記組成物が、1〜50mgの量の1−[2−(2,4−ジメチル−フェニルスルファニル)−フェニル]ピペラジンHBr Iを含む、請求項13から16のいずれかに記載の使用。
【請求項18】
気分障害;大うつ病性障害;全般性不安障害;パニック障害;外傷後ストレス障害:認知障害、アルツハイマー病又は不安を伴ううつ病;残存症状を有するうつ病;慢性疼痛;摂食障害又は乱用から選択される疾患の治療に使用される化合物1−[2−(2,4−ジメチル−フェニルスルファニル)−フェニル]ピペラジン及びその薬学的に許容される酸付加塩であって、前記化合物が胃において放出されないように適合されている経口投与用医薬組成物中にある、化合物1−[2−(2,4−ジメチル−フェニルスルファニル)−フェニル]ピペラジン及びその薬学的に許容される酸付加塩。
【請求項19】
前記組成物が、pH感受性被覆で被覆されている錠剤又は多粒子状組成物である、請求項18に記載の化合物。
【請求項20】
前記pH感受性被覆が腸溶性被覆である、請求項19に記載の使用。
【請求項21】
前記組成物が、化合物Iの放出が小腸において生じるように適合されている、請求項18に記載の使用。
【請求項22】
1〜50mgの量の1−[2−(2,4−ジメチル−フェニルスルファニル)−フェニル]ピペラジンHBr Iである、請求項18から21のいずれかに記載の化合物。

【図1】
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【公表番号】特表2013−502446(P2013−502446A)
【公表日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−525884(P2012−525884)
【出願日】平成22年8月23日(2010.8.23)
【国際出願番号】PCT/DK2010/050216
【国際公開番号】WO2011/023194
【国際公開日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【出願人】(591143065)ハー・ルンドベック・アクチエゼルスカベット (129)
【Fターム(参考)】