説明

1つ以上のインテグリンアンタゴニストを使用する慢性腎不全の治療

【課題】 慢性腎不全の哺乳動物または慢性腎不全の危険のある哺乳動物に対する処置方法を提供すること。
【解決手段】 本発明は、慢性腎不全の哺乳動物、または慢性腎不全の危険がある哺乳動物、または腎臓代償療法を必要とする危険のある哺乳動物の処置のための方法、およびその処置において使用するための処方物を提供する。この方法は、特定のインテグリンアンタゴニストを投与する工程を包含する。好ましい実施形態においては、このインテグリンアンタゴニストは、α4サブユニット含有インテグリンとその同種のリガンドまたはレセプターとの間の相互作用を拮抗するポリペプチドを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の分野)
本発明は、一般に、腎臓病に対する処置方法に関する。特に、本発明は、哺乳動物(ヒトを含む)を慢性腎不全にする状態、または慢性腎不全の危険のある状態に対する処置方法に関する。この方法は、特定のインテグリンアンタゴニストを投与する工程を包含する。
【背景技術】
【0002】
(発明の背景)
多くの生理学的プロセスは、細胞が他の細胞および/または細胞外マトリックスと密に接触することを必要とする。このような接着事象は、細胞の活性化、移動(例えば、白血球移動)、増殖および分化のために、必要であり得る。細胞間相互作用および細胞−マトリックス相互作用は、いくつかのファミリーの細胞接着分子を介して媒介され、このファミリーの1つとしては、インテグリンが挙げられる。
【0003】
細胞接着分子は、正常なプロセスと病態生理学的プロセスとの両方において、必須の役割を果たす。従って、特定の疾患状態における、正常な細胞機能の妨害なしでの、特定かつ関連する分子の標的化は、細胞間相互作用および細胞−マトリックス相互作用を阻害する、効果的かつ安全な治療剤のために必須である。
【0004】
例えば、糸球内への白血球の移動は、ヒト糸球体腎炎(GN)の代表的な特徴であり、そして白血球は、腎臓損傷の主要な媒介物である。類似の白血球移動は、GNの動物モデルにおいて見られる。Allenら、Journal of Immunology,162:5519−5527(1999)およびそこに引用される参考文献を参照のこと。本発明者らは、以前に、インテグリンVLA−4のブロッキングが、この疾患のラットモデルにおいて、急性腎細胞毒素腎炎を阻害することを実証した(Allenら、前出;Tam,F.W.K.ら、Nephrol.Dial.Transplant.14:1658−1666(1999))。
【0005】
急性腎臓病におけるインテグリンの役割に関するいくらかの情報が存在するが、それにもかかわらず、慢性腎疾患における細胞接着分子の重要性を分類する、利用可能な現在の情報は、存在しない。急性腎疾患における細胞接着分子の重要性が、このような分子が慢性腎疾患において重要であることを必然的に意味することを、演繹的に仮定し得ない(実施例を参照のこと)。
【0006】
慢性腎不全(CRF)は、有意かつ連続的なネフロンの損失に起因する、進行性の、永続的かつ重大な、糸球体濾過率(GFR)の減少として、定義され得る。慢性腎不全は、代表的に、ネフロン単位の有意な損失を引き起こした腎組織のいくらかの傷害から生じた、慢性腎不全の点(すなわち、少なくとも50〜60%の腎機能の永続的な減少)から開始する。この最初の傷害は、急性腎不全のエピソードに関連していても関連していなくてもよく、またはこの傷害は、多数の腎障害と関連し得る。この腎障害としては、末期腎臓病、慢性糖尿病性腎症、糖尿病性糸球体症、糖尿病性腎肥大、高血圧性腎硬化症、高血圧性糸球体硬化症、慢性糸球体腎炎、遺伝性腎炎、腎臓形成異常症および腎臓同種移植拒絶に続く慢性的拒絶が挙げられるが、これらに限定されない。最初の傷害の性質にかかわらず、慢性腎不全は、ネフロンが次第に損失され、そしてGFRが次第に減衰するにつれて、兆候および症状の「最終共通経路」を明らかにする。腎機能のこの進行性の悪化はゆっくりであり、代表的に、ヒト患者において数年または数十年にわたるが、不可避であるようである。
【0007】
ヒトにおいて、慢性腎不全が進行し、そしてGFRが減衰し続けて正常値の10%未満(例えば、5〜10ml/分)となるにつれて、被験体は、末期腎臓病(ESRD)に入る。この段階の間に、残りのネフロンが老廃物を血液から十分に除去し、一方で有用な産物を保持し、かつ流体と電解質とのバランスを維持することができないないことにより、多くの器官系および特に心臓血管系が急速に衰え始め得る衰弱がもたらされる。この時点において、腎不全は、被験体が腎臓代償療法(すなわち、慢性血液透析、連続的腹膜透析、または腎臓移植)を受けない限り、迅速に進行して死に到る。
【0008】
百万人あたり約600の患者が、1人の患者1年あたり60,000〜80,000ドルに近付く平均費用において、合衆国において毎年慢性的透析を受けている。毎年の末期腎臓病の新たな症例のうちの、約28〜33%が、糖尿病性腎症(または糖尿病性糸球体症または糖尿病性腎肥大)に起因し、24〜29%が、高血圧性腎硬化症(または高血圧性糸球体硬化症)に起因し、そして15〜22%が、糸球体腎炎に起因する。全ての慢性透析の患者に対する5年の生存率は、約40%であるが、65歳を超える患者については、この率は、約20%に低下する。従って、合衆国のみにおいてほぼ20万の患者を慢性的透析に依存させ、そして毎年何十万もの早期の死を生じる腎機能の進行性の損失を予防する処置に対する必要性が存在する。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0009】
(発明の要旨)
本発明者らは、インテグリンのような細胞接着分子が、急性腎障害の病因学において重要であるのみでなく、CRFの病因学においても重要であることを、見出した。本発明は、慢性腎不全の哺乳動物患者、または慢性腎不全の危険のある哺乳動物患者、または腎臓代償療法を必要とする危険のある哺乳動物患者の処置の方法、ならびにその処置において使用するための薬学的組成物に関する。このような被験体としては、既に慢性腎不全を罹患している患者、または既に腎臓代償療法を受けた患者、ならびに機能的ネフロン単位の進行的な損失に関連する腎機能の進行的な損失を患うと合理的に予測される任意の患者が挙げられる。
【0010】
本発明の方法および組成物は、本明細書中においてインテグリンアンタゴニストと定義される、腎臓治療剤である特定の薬剤(抗VLA−4抗体および抗VLA−1抗体が挙げられる)が、慢性腎不全の危険のある被験体(本明細書中において定義されるような)、または腎臓代償療法を必要とする被験体の処置において使用され得るという発見を、部分的には利用する。
【0011】
本発明の腎臓治療剤は、選択された薬剤に適合性の任意の経路投与によって投与され得、そして投与経路に適した任意の薬学的に受容可能なキャリアとともに処方され得る。好ましい投与経路は、非経口であり、特に、皮下、筋内、静脈内、腹腔内、および腎臓胞内である。腎臓治療剤の毎日の投薬量は、約0.1〜50mg/kg体重、そしてより好ましくは、約1〜3mg/kg体重であると予測されるが、正確な投薬量は、使用される特定の腎臓治療剤、ならびに特定の患者の医学的状態および病歴に依存して、変動する。投薬量は、1週間に1回または数回、1週間、2週間または4週間の間隔で、与えられ得る。本発明の処置は、機能的ネフロン単位の進行的損失、およびその結果である腎機能の進行的損失(これは、慢性腎不全の代表である)を予防、阻害、または遅延する際に有用である。それ自体として、これらは、慢性腎不全を患う患者における慢性透析または腎臓代償療法の必要性を予防または遅延する際に、あるいは末期腎障害を患う被験体における慢性腎臓透析の必要な頻度を減少させる際に、非常に価値がある。
【0012】
例えば、本願発明は、以下を提供する:
(項目1) 慢性腎不全の哺乳動物または慢性腎不全の危険のある哺乳動物に対する処置方法であって、該哺乳動物に、治療有効量のインテグリンアンタゴニストを投与する工程を包含する、方法。
(項目2) 前記インテグリンアンタゴニストが、α4サブユニット含有インテグリンとその同種のリガンドまたはレセプターとの間の相互作用を拮抗するポリペプチドを含む、項目1に記載の方法。
(項目3) 前記インテグリンアンタゴニストが、抗VLA−4抗体ホモログを含む、項目2に記載の方法。
(項目4) 前記インテグリンアンタゴニストが、α1サブユニット含有インテグリンとその同種のリガンドまたはレセプターとの間の相互作用を拮抗するポリペプチドを含む、項目1に記載の方法。
(項目5) 前記インテグリンアンタゴニストが、抗VLA−1抗体ホモログを含む、項目4に記載の方法。
(項目6) 前記インテグリンアンタゴニストが、インテグリンの、α4インテグリンサブユニット以外の少なくとも1つのさらなるα含有サブユニットとの間の相互作用を拮抗し得る、項目2に記載の方法。
(項目7) 慢性腎不全の哺乳動物または慢性腎不全の危険のある哺乳動物に対する処置方法であって、該哺乳動物に、治療有効量の2つ以上のインテグリンアンタゴニストを投与する工程を包含し、ここで、該アンタゴニストのうちの少なくとも2つが、第1のインテグリンアンタゴニストおよび第2のインテグリンアンタゴニストを含み、該第1のインテグリンアンタゴニストは、α4含有サブユニットとその同種のリガンドまたはレセプターとの間の相互作用を拮抗し、そして該第2のインテグリンアンタゴニストは、α4ではない別のα含有サブユニットとの間の相互作用を拮抗する、方法。
(項目8) 前記アンタゴニストが低分子である、項目1または6に記載の方法。
(項目9) 前記哺乳動物が、慢性腎不全、末期腎臓病、慢性糖尿病性腎症、糖尿病性糸球体症、糖尿病性腎肥大、高血圧性腎硬化症、高血圧性糸球体硬化症、慢性糸球体腎炎、遺伝性腎炎、および腎臓形成異常症からなる群より選択される状態に罹患している、項目1または7に記載の方法。
(項目10) 前記抗体ホモログが、核酸配列によってその一部がコードされたヒト化抗体であり、該核酸配列は、高ストリンジェンシーな条件下で、米国特許第5,840,299号の表6の配列の群より選択される核酸配列または該核酸配列の相補体とハイブリダイズする核酸を含む、項目2に記載の方法。
(項目11) 前記抗体ホモログが、核酸配列によってその一部がコードされたヒト化抗体であり、該核酸配列が、低ストリンジェンシーな条件下で、米国特許第5,840,299号の表6の核酸配列の群より選択される核酸配列または該核酸配列の相補体とハイブリダイズする核酸を含む、項目2に記載の方法。
(項目12) 前記抗体ホモログが、核酸配列によってその一部がコードされたヒト化抗体であり、該核酸配列が、低ストリンジェンシーな条件下で、
a)米国特許第5,932,214号に見出される配列番号2;
b)米国特許第5,932,214号に見出される配列番号4;および
c)細胞株ATCC CRL 11175により産生される抗体の可変ドメイン、
からなる群より選択されるポリペプチド配列をコードする核酸配列とハイブリダイズする核酸を含む、項目2に記載の方法。
(項目13) 前記抗体ホモログが、核酸配列によってその一部がコードされたヒト化抗体であり、該核酸配列が、高ストリンジェンシーな条件下で、
a)米国特許第5,932,214号に見出される配列番号2;
b)米国特許第5,932,214号に見出される配列番号4;および
c)細胞株ATCC CRL 11175により産生される抗体の可変ドメイン、
からなる群より選択されるポリペプチド配列をコードする核酸配列とハイブリダイズする核酸を含む、項目2に記載の方法。
(項目14) 前記第1のインテグリンアンタゴニストが、核酸配列によってその一部がコードされたヒト化抗体であり、該核酸配列は、高ストリンジェンシーな条件下で、米国特許第5,840,299号の表6の配列の群より選択される核酸配列または該核酸配列の相補体とハイブリダイズする核酸を含む、項目7に記載の方法。
(項目15) 前記第1のインテグリンアンタゴニストが、核酸配列によってその一部がコードされたヒト化抗体であり、該核酸配列が、低ストリンジェンシーな条件下で、米国特許第5,840,299号の表6の核酸配列の群より選択される核酸配列または該核酸配列の相補体とハイブリダイズする核酸を含む、項目7に記載の方法。
(項目16) 前記第1のインテグリンアンタゴニストが、核酸配列によってその一部がコードされたヒト化抗体であり、該核酸配列が、低ストリンジェンシーな条件下で、
a)米国特許第5,932,214号に見出される配列番号2;
b)米国特許第5,932,214号に見出される配列番号4;および
c)細胞株ATCC CRL 11175により産生される抗体の可変ドメイン、
からなる群より選択されるポリペプチド配列をコードする核酸配列とハイブリダイズする核酸を含む、項目7に記載の方法。
(項目17) 前記第1のインテグリンアンタゴニストが、核酸配列によってその一部がコードされたヒト化抗体であり、該核酸配列が、高ストリンジェンシーな条件下で、
a)米国特許第5,932,214号に見出される配列番号2;
b)米国特許第5,932,214号に見出される配列番号4;および
c)細胞株ATCC CRL 11175により産生される抗体の可変ドメイン、
からなる群より選択されるポリペプチド配列をコードする核酸配列とハイブリダイズする核酸を含む、項目7に記載の方法。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、陰性コントロールを受容するラットに対する、可溶性TGFβアンタゴニストを受容するラット(黒四角)に関する動物モデルの、慢性腎不全段階の間の血清クレアチニンの測定を示す。
【図2】図2は、陰性コントロールを受容するラットに対する可溶性TGFβアンタゴニストを受容するラット(黒四角)に関する動物モデルの慢性腎不全段階の間に、線維組織形成された糸球体領域の平均の%(50の継続性糸球体に対して推定した)およびフィブリンによって占められる糸球体四分円の数を示すグラフである。
【図3】図3は、陰性コントロールを受容するラットおよび抗VLA−1抗体を受容するラットに対する、動物モデルの慢性腎不全段階における生存曲線を示す。
【図4】図4は、抗VLA−4抗体を受容するラット(黒丸)および陰性コントロールを受容するラット(白丸)に対する、動物モデルの慢性腎不全段階における生存曲線を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(発明の詳細な説明)
(1.定義)
特許請求された本発明の内容をより明らかにかつ簡潔に示すために、以下に記載の詳細な説明および添付の特許請求の範囲において使用される特定の用語について、以下の定義を提供する。
【0015】
インテグリン最後期(very late)抗原(VLA)スーパーファミリーは、近隣の全ての哺乳動物細胞型上に種々の組み合わせで見い出される、(αおよびβ)ヘテロダイマー性の膜貫通レセプター分子からなる、構造的および機能的に関連する糖タンパク質から構成される。インテグリンスーパーファミリーは、近隣の全ての哺乳動物細胞型上に種々の組み合わせで見い出される、αおよびβヘテロダイマー性の膜貫通レセプター分子からなる、構造的および機能的に関連する糖タンパク質から構成される。概説については、以下:E.C.Butcher,Cell,67,1033(1991);D.Coxら、「The Pharmacology of the Integrins」Medicinal Research Rev.第195巻(1994)およびV.W.Englemanら、「Cell Adhesion Integrins as Pharmaceutical Targets」Ann.Rev.Medicinal Chemistry、第31巻、J.A.Bristol編;Acad.Press,NY,1996、191頁を参照のこと。VLAファミリーのインテグリンとしては、VLA−1、VLA−2、VLA−3、VLA−4、VLA−5、VLA−6が挙げられ、ここで、各々の分子は、それぞれ、α鎖(α1、α2、α3、α4、α5、α6)に非共有結合的に結合されたβ1鎖を含む。
【0016】
特に、α1−β1インテグリンは、コラーゲンI、コラーゲンIV、ラミニンおよび可能な他のリガンド(後者の用語は、個々にかつ集合的に「αインテグリンリガンド」または「VLA−1リガンド」と称する)に対する細胞表面レセプターである。用語「コラーゲン」は、全てのこのようなα1インテグリンリガンドを含むように全体に渡って使用されるが、α1インテグリンに対する他のリガンドが存在しそして従来の方法を使用して分析され得ることが、当業者に理解される。インテグリンα1β1は、コラーゲン依存性の接着および遊走を支持するだけでなく、損傷後のECM再形成に関与し得る、間葉細胞(mesenchymally−derived cell)上の重要なコラーゲンレセプターであるようである(Gotwalsら、J.Clin.Invest.97:2469−2477(1996))。細胞がコラーゲンマトリックスを収縮および組織化する能力は、任意の創傷治癒応答の重要な要素である。本明細書中の用語「a1b1インテグリン」(あるいは、交換可能に使用される、「VLA−1」または「a1b1」または「a1b1インテグリン」)は、細胞外マトリックスタンパク質のメンバー(例えば、ラミニンまたはコラーゲン、あるいはこのような細胞外マトリックスタンパク質のホモログまたはフラグメント)に結合し得る、ポリペプチドあるいはそのホモログまたはフラグメントをいう。
【0017】
α4β1インテグリンは、VCAM−1、フィブロネクチンおよび可能なリガンド(個々にかつ集合的に「α4リガンド」と称するこれらのリガンド)に対する細胞表面レセプターである。従って、本明細書中の用語「a4b1インテグリン」(あるいは、交換可能に使用される、「VLA−4」または「a4b1」または「a4b1インテグリン」)は、VCAM−1および細胞外マトリックスタンパク質のメンバー(最も特には、フィブロネクチン、あるいはこのような細胞外マトリックスタンパク質のホモログまたはフラグメント)に結合し得る、ポリペプチドあるいはそのホモログまたはフラグメントをいうが、VLA−4に対する他のリガンドが存在し得そして従来の方法を使用して分析され得ることが、当業者に理解される。にもかかわらず、α4サブユニットは、β1に加え、他のβサブユニットと会合することが公知であり、その結果、本発明者らは、用語「α4インテグリン」を、そのα4サブユニットが1つまたは別のβサブユニットと会合するインテグリンと定義し得る。「α4」インテグリンの例は、α4β7である(R.LobbおよびM.Hemler,J.Clin.Invest.,94:1722−1728(1994))。本明細書中で使用される場合、用語「インテグリン」は、VLA−1および/またはVLA−4、ならびにβ1、β7または任意のβサブユニットを含むインテグリンを意味する。
【0018】
インテグリン「アンタゴニスト」としては、インテグリンがインテグリンのリガンドおよび/またはレセプターと結合するのを阻害する任意の化合物が挙げられる。抗インテグリン抗体または抗体ホモログ含有タンパク質(以下に議論する)、ならびにインテグリンに対するリガンドタンパク質の可溶性形態のような他の分子が、有用である。インテグリンに対するリガンドタンパク質の可溶性形態としては、可溶性VCAM−1またはコラーゲンペプチド、VCAM−1融合タンパク質、あるいは二官能性VCAM−1Ig融合タンパク質が挙げられる。例えば、インテグリンリガンドまたはそのフラグメントの可溶性形態は投与されて、インテグリンに結合し得、そして好ましくは細胞のインテグリン結合部位について競合し得、これによって、抗インテグリン(例えば、VLA−1Iおよび/またはVLA−4)抗体のようなアンタゴニストの投与と類似の効果を誘導する。特に、リガンドを結合するがインテグリン依存性シグナル伝達を誘発しない可溶性インテグリン変異体は、本発明の範囲に含まれる。このようなインテグリン変異体は、野生型インテグリンタンパク質の競合的インヒビターとして作用し得、「アンタゴニスト」とみなされる。本発明の方法において使用される他のアンタゴニストは、以下に定義するような「低分子」である。1より多いインテグリンの作用を拮抗する分子(例えば、α4インテグリン(例えば、VLA−4)およびVLA−1の両方またはインテグリンの他の組み合わせを拮抗する、低分子または抗体ホモログ)を使用する方法もまた、本発明に含まれる。分子の組み合わせを使用して、その結果、その組み合わせが、1より多いインテグリンの作用を拮抗する、方法(例えば、組み合わせにおいて、α4インテグリン(例えば、VLA−4)およびVLA−1の両方または他のインテグリンの組み合わせを拮抗するいくつかの低分子または抗体ホモログを使用する方法)もまた、本発明に含まれる。
【0019】
本明細書中で議論されるように、特定のインテグリンアンタゴニストは、例えば、免疫グロブリンまたはそのフラグメントのような抗体ホモログに融合され得るか、さもなければ結合体化され得、そしてこれらは、インテグリンまたはリガンドあるいは他の分子の特定の型または構造に限定されない。従って、本発明の目的のために、融合タンパク質(以下に定義するような)を形成し得かつインテグリンリガンドに結合し得、そしてVLA−1および/またはα4(例えば、VLA−4)インテグリンを効果的にブロックまたはコートする任意の因子が、本明細書中の実施例において使用されるアンタゴニストの等価物であるとみなされる。
【0020】
「抗体ホモログ」としては、ジスルフィド結合を介して連結される免疫グロブリン軽鎖および重鎖からなるインタクトな抗体が挙げられる。用語「抗体ホモログ」はまた、免疫グロブリン軽鎖、免疫グロブリン重鎖、および1以上の抗原(すなわち、インテグリンまたはインテグリンリガンド)に結合可能なそれらの抗原結合フラグメントから選択される、1以上のポリペプチドを含むタンパク質を包含することが意図される。1より多いポリペプチドから構成される抗体ホモログの成分ポリペプチドは、必要に応じてジスルフィド結合され得るか、さもなければ共有結合的に架橋され得る。従って、「抗体ホモログ」は、IgA、IgG、IgE、IgD、IgM型(ならびにそれらのサブタイプ)のインタクトな免疫グロブリンを含み、ここで、免疫グロブリンの軽鎖は、κ型またはλ型の軽鎖である。「抗体ホモログ」はまた、抗原結合特異性を保持するインタクトな抗体の部分(例えば、Fabフラグメント、Fab’フラグメント、F(ab’)2フラグメント、F(v)フラグメント、重鎖および軽鎖のモノマーまたはダイマーあるいはそれらの混合物)を含む。
【0021】
「ヒト化抗体ホモログ」は、組換えDNA技術によって産生される抗体ホモログであり、ここで、抗原結合に必要とされるヒト免疫グロブリンの軽鎖または重鎖のアミノ酸のいくつかまたは全てが、非ヒト哺乳動物免疫グロブリン軽鎖または重鎖由来の対応するアミノ酸で置換されている。
【0022】
本明細書中で使用される場合、「ヒト抗体ホモログ」は、組換えDNA技術によって産生された抗体ホモログであり、ここで、免疫グロブリン軽鎖または重鎖のアミノ酸の全てが、(このようなアミノ酸が抗原結合に必要か否かに関わらず)ヒト供給源に由来する。
【0023】
インテグリン「アゴニスト」は、インテグリンリガンドを活性化する任意の化合物を含む。
【0024】
「アミノ酸」は、ペプチド、ポリペプチドまたはタンパク質のモノマー単位である。天然に存在するペプチド、ポリペプチドおよびタンパク質には、20のアミノ酸が見い出され、これらは全て、L−異性体である。この用語はまた、これらのアミノ酸のアナログならびにこれらのタンパク質アミノ酸のD−異性体およびそれらのアナログを含む。
【0025】
用語「アンタゴニスト生物学的活性」とは、本発明のアンタゴニストあるいはそれらの機能的等価物または改変体が、慢性腎不全の標準的な動物モデルにおける腎機能の進行的損失を有意に予防、阻害、遅延または軽減し得るか、または慢性腎不全であるかまたはその危険性のある哺乳動物に投与された場合に腎機能の標準マーカーにおける臨床的に有意な改善を生じ得ることを意味する。
【0026】
「ブロードキャスト」とは、遠位の曲尿細管または集合尿細管の管腔のモールドまたはキャストを代表的に表す凝集した材料の筒状の塊である尿中に存在し得る形成されたエレメントをいう。しかし、CRF被験体において、細管の肥大は、正常キャストの直径の2〜6倍大きく、そしてしばしば均一な蝋状の概観を有する「ブロードキャスト」または「腎不全キャスト」の存在を生じ得る。形成されたエレメントの存在についての尿沈渣の顕微鏡検査は、尿検査における標準的な手順である。
【0027】
「バイオアベイラビリティー」とは、投与後に身体によって吸収される化合物の能力をいう。例えば、もし第一の化合物および第二の化合物の両者が等量で投与され、第一の化合物が第二の化合物よりも大きな程度に血液中に吸収される場合は、第一の化合物は、第2の化合物より大きいバイオアベイラビリティーを有する。
【0028】
「慢性」とは、少なくとも3ヶ月、そしてより好ましくは、少なくとも6ヶ月の期間、持続することを意味する。したがって、例えば、慢性的に、予期されるGFRの50%を下回る測定されたGFRを有する被験体は、GFRが測定され、そして少なくとも3ヶ月、そしてより好ましくは、少なくとも6ヶ月隔たった少なくとも2回の測定において予期されるGFRの50%を下回ることが見出された被験体であり、そしてその患者についてGFRが、介在する期間の間において実質的により高い(例えば、10%)と考えられる医学的に納得できる理由が存在しない患者である。当業者は、動物モデルに関して、用語「慢性」は、動物モデルのタイプに依存する種々の異なる期間を意味することを理解する。
【0029】
「共有結合」とは、本発明の特定された部分(例えば、免疫グロブリンフラグメント/インテグリンアンタゴニスト)は、直接互いに共有結合するか、または間接的に介在する部分(単数または複数)(例えば、架橋、スペーサー、または連結部分(単数または複数))を介して互いに共有結合により結び付けられているかのいずれかであることを意味する。介在する部分(単数または複数)は、「結合基」と呼ばれる。用語「結合体化」は、「共有結合した」と互換的に使用される。
【0030】
「発現制御配列」は、その遺伝子に作動可能に結合された場合に、遺伝子の発現を制御および調節するポリヌクレオチドの配列である。
【0031】
「発現ベクター」は、発現ベクターが、宿主細胞中に導入された場合、少なくとも1つの遺伝子の発現を可能にするDNAプラスミドまたはファージ(一般的な例のなかでもとりわけ)のようなポリヌクレオチドである。そのベクターは、細胞において複製することが可能かもしれないし、可能でないかもしれない。
【0032】
句「細胞外シグナリングタンパク質」は、細胞から分泌されたか、細胞膜に結合したかのいずれかであり、そして標的細胞上のそのタンパク質に対するレセプターへの結合の際に、標的細胞における応答を誘発する任意のタンパク質を意味する。
【0033】
本発明の薬剤の「有効量」は、処置されている特定の条件に対する影響を生じるかまたは発揮する量である。
【0034】
アミノ酸残基の「機能的等価物」は、(i)機能的等価物によって置換されたアミノ酸残基と類似の反応性特性を有するアミノ酸;(ii)本発明のアンタゴニストのアミノ酸であって、機能的等価物によって置換されたアミノ酸残基と類似の特性を有するアミノ酸;(iii)機能的等価物によって置換されるアミノ酸残基と類似の特性を有する非アミノ酸分子である。本発明のタンパク質性のアンタゴニストをコードする第一のポリヌクレオチドは、それが少なくとも1つの以下の条件を満たす場合、アンタゴニストタンパク質をコードする第二のポリヌクレオチドと比較して、「機能的等価物」である:1.「機能的等価物」は、標準的なハイブリダイゼーション条件下で第二のポリヌクレオチドにハイブリダイズし、および/または第一のポリヌクレオチド配列に対して縮重である第一のポリヌクレオチドである。最も好ましくは、それは、インテグリンアンタゴニストタンパク質の活性を有する変異体タンパク質をコードする;2.その「機能的等価物」は、第二のポリヌクレオチドによってコードされるアミノ酸配列の発現をコードする第一のポリヌクレオチドである。
【0035】
本発明において使用されるインテグリンアンタゴニストには、本明細書に列挙される薬剤ならびにそれらの機能的等価物が含まれるが、これらに限定されない。本明細書において使用される場合、したがって、用語「機能的等価物」は、インテグリンアンタゴニスト、またはレシピエントに対して、機能的等価物であると推定されるインテグリンアンタゴニストと同じかもしくは改善された有益な効果を有するインテグリンアンタゴニストをコードするポリヌクレオチドをいう。当業者により理解されるように、機能的に等価なタンパク質は、例えば、「機能的に等価なDNA」を発現することによるような、組換え技術によって産生され得る。したがって、本発明は、天然に存在するDNAによってコードされる、ならびに天然に存在しないDNA(天然に存在するDNAによってコードされるタンパク質と同一のものをコードする)によってコードされるインテグリンタンパク質を包含する。ヌクレオチドコード配列の縮重に起因して、他のポリヌクレオチドは、インテグリンタンパク質をコードするために使用され得る。これらには、その配列内で同じアミノ酸残基をコードし、したがって、サイレント変異を生成する異なるコドンの置換によって変更された上記の配列の全てかまたは一部が含まれる。このような変更された配列は、これらの配列に等価であると考えられる。例えば、Phe(F)は、2つのコドン、TTCまたはTTTによってコードされ、Tyr(Y)は、TACまたはTATによってコードされ、そしてHis(H)は、CACまたはCATによってコードされる。他方、Trp(W)は、単一のコドンTGGによってコードされる。したがって、特定のインテグリンをコードする所定のDNA配列について、それをコードする多くのDNA縮重配列が存在することが理解される。これらの縮重DNA配列は、本発明の範囲内にあると考えられる。
【0036】
用語「融合」または「融合タンパク質」は、2つ以上のタンパク質またはそのフラグメントの、それらの個々のペプチド骨格を介しての、最も好ましくは、これらのタンパク質をコードするポリヌクレオチド分子の遺伝子発現を介しての同一直線上の共有結合をいう。タンパク質またはそのフラグメントは、異なる供給源に由来し、それによりこのタイプの融合タンパク質が、「キメラ」分子と呼ばれることが好ましい。したがって、好ましい融合タンパク質は、インテグリンアンタゴニストではない第二の部分に共有結合したインテグリンアンタゴニストまたはフラグメントを含むキメラタンパク質である。本発明の好ましい融合タンパク質には、抗原結合特異性を保持するインタクトな抗体の部分、例えば、Fabフラグメント、Fab’フラグメント、F(ab’)2フラグメント、F(v)フラグメント、重鎖モノマーもしくはダイマー、軽鎖モノマーもしくはダイマー、1つの重鎖および1つの軽鎖からなるダイマーなどが含まれ得る。
【0037】
最も好ましい融合タンパク質は、キメラであり、融合されたか、またはそうでなければ、免疫グロブリン軽鎖、重鎖、もしくはその両方のヒンジまたは定常領域の全部または一部に結合したインテグリンアンタゴニスト部分を含む。したがって、本発明は、以下を含む分子を特徴とする:(1)インテグリンアンタゴニスト部分、(2)第二のペプチド(例えば、インテグリンアンタゴニスト部分の可溶性またはインビボでの寿命を増大するもの、例えば、免疫グロブリンスーパーファミリーのメンバーまたはそのフラグメントもしくは部分、例えば、IgGの部分またはフラグメント、例えば、ヒトIgG重鎖定常領域、例えば、CH2、CH3、およびヒンジ領域)。具体的には、「インテグリンアンタゴニスト/Ig融合」は、免疫グロブリン鎖のN−末端に結合した本発明の生物学的に活性なインテグリンアンタゴニスト分子(例えば、可溶性VLA−4リガンド、またはその生物学的に活性なフラグメント)を含むタンパク質である。ここで、その免疫グロブリンのそのN末端の一部は、インテグリンアンタゴニストと置換される。インテグリンアンタゴニスト/Ig融合の種は、免疫グロブリンの定常ドメインの少なくとも1部に連結した本発明のインテグリンアンタゴニストを含むタンパク質である「インテグリン/Fc融合」である。好ましいFc融合は、重鎖免疫グロブリン鎖のC末端ドメインを含有する抗体のフラグメントに結合した本発明のインテグリンアンタゴニストを含む。
【0038】
用語「融合タンパク質」はまた、インテグリンアンタゴニスト(「キメラ」分子を生じる)ではなく、そして以下に記載のように精製されたタンパク質から新規に作製された第二の部分に、モノまたはヘテロの機能的分子を介して化学的に連結したインテグリンアンタゴニストを意味する。したがって、融合タンパク質である化学的に結合した(組換え的に結合したものに対比して)キメラ分子の1つの例は、以下を含み得る:(1)VLA−4保有細胞の表面上のα4インテグリンサブユニット標的化部分(例えば、VLA−4に結合し得るVCAM−1部分);(2)標的化部分の可溶性およびインビボ寿命を増大する第二の分子(例えば、ポリエチレングリコール(PEG)のようなポリアルキレングリコールポリマー))。α4標的化部分は、任意の天然に存在するα4リガンドまたはそのフラグメント(例えば、VCAM−1ペプチドまたは類似の保存的に置換されたアミノ酸配列)であり得る。
【0039】
「異種プロモーター」とは、本明細書で使用される場合、遺伝子もしくは精製された核酸とは天然には結合しないプロモーターである。
【0040】
「相同性」とは、本明細書で使用される場合、用語「同一性」と同義であり、そして2つのポリペプチド、分子間、または2つの核酸間の配列類似性をいう。2つの比較された配列の両方における位置が、同じ塩基またはアミノ酸モノマーサブユニットによって占有されている場合(例えば、2つのDNA分子のおのおのにおける位置がアデニンによって占有されている場合、または2つのポリペプチドのおのおのにおける位置が、リジンによって占有されている場合)、それぞれの分子は、その位置で相同である。2つの配列間のパーセント相同性は、2つの配列によって共有される整合するかまたは相同な位置の数を、比較される位置の数によって除算し、100を掛けたものの関数である。例えば、2つの配列における10の位置のうちの6が整合するか、または相同である場合、2つの配列は、60%相同である。例示として、DNA配列CTGACTおよびCAGGTTは、50%の相同性を共有する(6の総位置のうちの3が整合する)。一般的に、2つの配列が、最大の相同性を生じるようにアラインされた場合に比較がなされる。このようなアラインメントは、例えば、以下により詳述に記載するKarlinおよびAltschulの方法を使用して提供され得る。
【0041】
相同な配列は、類似の残基が、アラインされた参照配列における対応するアミノ酸残基の保存的置換であるか、または「許容された点変異」である場合、同一または類似のアミノ酸残基を共有する。この点において、参照配列中の残基の「保存された置換」は、例えば、類似のサイズ、形状、電荷、化学的特性(共有結合または水素結合などを形成する能力を含む)を有する対応する参照残基に物理的にかまたは機能的に類似の置換である。特に好ましい保存的置換は、Dayhoffら、5:Atlas of Protein Sequence and Structure,5:Suppl.3,chapter 22:354−352,Nat.Biomed.Res.Foundation,Washington,D.C.(1978)における「受容される点変異」について規定される基準を満たすものである。「相同性」および「同一性」は、本明細書において互換的であり、そして各々は、2つのポリペプチド配列間の配列類似性のことをいう。相同性および同一性は、比較の目的でアラインされ得る各配列における位置を比較することによって決定され得る。比較される配列における位置が同じアミノ酸残基によって占有される場合、そのポリペプチドは、その位置で同一であると言われ得る;その等価な部位が同じアミノ酸(例えば、同一)か、または類似のアミノ酸(例えば、立体および/または電気的性質において類似)によって占有される場合、その分子は、その位置で相同であると言われ得る。配列間の相同性または同一性のパーセントは、配列によって共有される整合するかまたは相同な位置の数の関数である。「関連しない」または「非相同な」配列は、本発明の配列と、40パーセント未満の同一性を共有し、好ましくは、25パーセント未満の同一性を共有する。
【0042】
2つのアミノ酸配列または2つの核酸配列の「パーセント相同性」は、KarlinおよびAltschul(Proc.Nat.Acad.Sci.,USA 90:5873(1993))で改変されたKarlinおよびAltschul(Proc.Nat.Acad.Sci.,USA 87:2264(1990))のアラインメントアルゴリズムを使用して決定される。このようなアルゴリズムは、Altschulら(J.Mol.Biol.215:403(1990))のNBLASTまたはXBLASTプログラムに組み込まれている。本発明の核酸と相同なヌクレオチド配列を入手するためには、BLAST検索は、NBLASTプログラム(スコア=100、ワード長=12)を用いて実行される。参照ポリペプチドと相同なアミノ酸配列を入手するためには、BLASTタンパク質検索は、XBLASTプログラム(スコア=50、ワード長=3)を用いて実行される。比較のためにギャップを有するアラインメントを得るためには、Altschulら(Nucleic Acids Res.,25:3389(1997))に記載されるギャップド(gapped)BLASTが使用される。BLASTおよびギャップドBLASTを使用する場合、それぞれのプログラム(XBLASTおよびNBLAST)の初期値パラメータが使用される(http://www/ncbi.nlm.nih.govを参照)。
【0043】
「単離された」(「実質的に純粋な」と互換的に使用される)は、核酸(すなわち、インテグリンアンタゴニストをコードするポリヌクレオチド配列)に適用される場合、その起源または操作により、(i)天然では結合しているポリヌクレオチド(例えば、発現ベクターまたはその部分として宿主細胞中に存在する)と全く結合していないか、または(ii)天然では連結している核酸または他の化学的部分以外の核酸または他の化学部分に連結しているか、または(iii)天然では生じない、RNAまたはDNAポリヌクレオチド、ゲノムポリヌクレオチドの部分、cDNAまたは合成ポリヌクレオチドを意味する。「単離された」はさらに、(i)例えばポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により、インビトロで増幅されたか、(ii)化学的に合成されたか、(iii)クローニングにより組換え産生されたか、または(iv)(例えば切断およびゲル分離により)精製された、ポリヌクレオチド配列を意味する。
【0044】
「単離された」(「実質的に純粋な」と互換的に使用される)は、ポリペプチドに適用される場合、その起源または操作により、(i)発現ベクターの部分の発現産物として宿主細胞中に存在するか、または(ii)天然では連結しているタンパク質または他の化学的部分以外のタンパク質または他の化学的部分に連結しているか、または(iii)天然で生じない(例えば、少なくとも1つの疎水性部分を追加または付加することにより化学的に操作され、その結果、天然で見出されない形態で存在するタンパク質)、ポリペプチドまたはその部分を意味する。「単離された」はさらに、(i)化学的に合成されたか、または(ii)宿主細胞において発現され、そして結合タンパク質および混入タンパク質から精製された、タンパク質を意味する。この用語は一般に、天然では共に生じる他のタンパク質および核酸から分離されたポリペプチドを意味する。好ましくは、ポリペプチドはまた、そのポリペプチドを精製するために使用される、抗体またはゲルマトリクス(ポリアクリルアミド)のような物質から分離されている。
【0045】
「多価タンパク質複合体」は、複数のインテグリンアンタゴニスト(すなわち、1またはそれ以上)をいう。例えば、抗インテグリン抗体ホモログまたはフラグメントが、別の抗体ホモログまたはフラグメントに架橋または結合されていてもよい。それぞれのタンパク質は同じであっても異なってもよく、それぞれの抗体ホモログまたはフラグメントは同じであっても異なってもよい。
【0046】
「変異体」は生物の遺伝物質の任意の変化、特に、野生型ポリヌクレオチド配列における任意の変化(すなわち、欠失、置換、付加、または変更)または野生型タンパク質における任意の変化である。用語「ムテイン」は「変異体」と互換的に使用される。
【0047】
「作動可能に連結された」−発現制御配列が、ポリヌクレオチド配列(DNA、RNA)の転写および翻訳を制御および調節する場合、そのポリヌクレオチド配列は、その発現制御配列に作動可能に連結されている。用語「作動可能に連結された」は、発現されるべきポリヌクレオチド配列の前に適切な開始シグナル(例えば、ATG)を有し、そして正確なリーディングフレームを維持して発現制御配列の制御下でのそのポリヌクレオチド配列の発現およびそのポリヌクレオチド配列によってコードされる所望のポリペプチドの産生を可能にすることを包含する。
【0048】
「タンパク質」は、20アミノ酸の任意のものから本質的になる任意のポリマーである。「ポリペプチド」はしばしば比較的大きなポリペプチドをいうときに使用され、そして「ペプチド」は小さなポリペプチドをいうときにしばしば使用されるが、当該分野におけるこれらの用語の用法は重複しており、そして変化する。用語「タンパク質」は、本明細書中で使用される場合、そうでないと明記されない限り、ペプチド、タンパク質およびポリペプチドをいう。用語「ペプチド」、「タンパク質」および「ポリペプチド」は本明細書中で互換的に使用される。
【0049】
用語「ポリヌクレオチド配列」および「ヌクレオチド配列」もまた本明細書において互換的に使用される。
【0050】
「組換え体」は、本明細書中で使用される場合、タンパク質が組換え発現系から誘導されたことを意味する。インテグリンはグリコシル化もされず、ジスルフィド結合も含まないので、ほとんどの原核生物および真核生物の発現系において発現され得る。
【0051】
「小分子」はIIA2節と同様な定義を有する。
【0052】
「スペーサー」配列は、抗体ホモログまたはフラグメントで改変されるアミノ酸と、そのタンパク質の残りの部分との間に挿入され得る部分をいう。スペーサーは、その改変とタンパク質の残りの部分との間の分離を提供し、その結果、その改変がタンパク質機能を妨げるのを防ぎ、そして/またはその改変が抗体ホモログ部分または他の任意の部分と連結されるのを容易にするように設計される。
【0053】
「実質的に純粋な核酸」は、その核酸が由来する生物の天然に存在するゲノムにおいてその核酸と通常連続しているコード配列の一方または両方と直接連続していない核酸である。実質的に純粋なDNAはまた、さらなるインテグリン配列をコードするハイブリッド遺伝子の部分である組換えDNAを含む。
【0054】
句「表面アミノ酸」は、タンパク質がネイティブな形態に折り畳まれたとき、溶媒に曝される任意のアミノ酸を意味する。
【0055】
「ハイブリダイゼーション条件」は一般に、ハイブリダイゼーションおよび洗浄の両方について、0.5×SSC〜ほぼ5×SSCで65℃に実質的に等価な塩および温度の条件を意味する。したがって、用語「標準的なハイブリダイゼーション条件」は、本明細書中で使用される場合、操作上の定義であり、ある範囲のハイブリダイゼーション条件を包含する。にもかかわらず、「高ストリンジェンシー」条件はプラークスクリーン緩衝液(0.2%ポリビニルピロリドン、0.2%Ficoll 400;0.2%ウシ血清アルブミン、50mM Tris−HCl(pH7.5);1M NaCl;0.1%ピロリン酸ナトリウム;1%SDS);10%デキストラン硫酸、および100μg/mlの超音波処理した変性サケ精子DNAとの65℃にて12〜20時間のハイブリダイゼーション、および75mM NaCl/7.5mMクエン酸ナトリウム(0.5×SSC)/1%SDSでの65℃にての洗浄を含む。「低ストリンジェンシー」条件は、プラークスクリーン緩衝液、10%デキストラン硫酸および110μg/mlの超音波処理した変性サケ精子DNAとの55℃にて12〜20時間のハイブリダイゼーション、および300mM NaCl/30mMクエン酸ナトリウム(2.0×SSC)/1%SDSでの55℃にての洗浄を含む(Current Protocols in Molecular Biology,John Wiley & Sons,Inc.New York,6.3.1節〜6.3.6節(1989)もまた参照)。
【0056】
「慢性腎不全の被験体またはその危険のある被検体」はまた、その被検体がヒト患者であり、そして機能するネフロン単位の進行性喪失に関連する腎機能の進行性喪失を患っていると合理的に予想される場合、腎臓代償療法(すなわち、慢性血液透析、連続腹膜透析、または腎臓移植)を必要とする危険にあり得る。特定の動物モデルまたは臨床試験の特定の被検体が、慢性腎不全であるかまたはその危険にあるかどうかは、関連する医学または獣医学の分野における当業者によって慣用的に行われ得る決定である。慢性腎不全であるかまたはその危険にある(または腎臓代償療法を必要とする危険にある)被検体には、以下が含まれるがそれらに限定されない:慢性腎不全、末期腎臓疾患、慢性糖尿病性腎症、高血圧性腎硬化症、慢性糸球体腎炎、遺伝性腎炎、および/または腎形成異常に冒されたとみなされ得る被検体;糸球体肥大、尿細管肥大、慢性糸球体硬化症および/または慢性尿細管間質性硬化症を示すバイオプシーを有する被検体;腎線維症または正常な腎臓より小さな腎臓を示す超音波、MRI、CATスキャン、または他の非侵襲的検査を有する被検体。CRFであるかまたはその危険にある被検体のさらなる指標は、当業者に周知である。例えば、以下の全てが、被検体がCRFであるかその危険にあるかどうかを決定するための基準であり得る:尿沈渣中に存在する異常な数の幅の広い円柱を有する被検体;その被検体について予想されるGFRの慢性的に約50%未満(より特別には、約40%、30%、または20%未満)であるGFRを有する被検体;少なくとも約50kgの体重であり、そして慢性的に約50ml/分未満(より特別には、約40ml/分、30ml/分または20ml/分未満)であるGFRを有するヒト男性被検体;少なくとも約40kgの体重であり、そして慢性的に約40ml/分未満(より特別には、約30ml/分、20ml/分または10ml/分未満)であるGFRを有するヒト女性被検体;健常であるがその他は同様な被検体が有する機能的ネフロン単位の数の約50%未満(より特別には、約40%、30%、または20%未満)である数の機能的なネフロン単位を有する被検体;腎臓を1だけ有する被検体;および腎臓移植のレシピエントである被検体。
【0057】
「治療組成物」は、本明細書中で使用される場合、本発明のタンパク質および他の生物学的に適合性の成分を含むと定義される。治療組成物は、水、ミネラル、およびキャリア(例えば、タンパク質)のような賦形剤を含み得る。
【0058】
ある量の本発明のアンタゴニストの投与が、慢性腎不全であるかまたはその危険にある被検体(例えば、動物モデルまたはヒト患者)に投与されるとき、腎機能の標準的なマーカーの臨床的に有意な改善を引き起こすに十分である場合、そのアンタゴニストは「治療効力」を有すると呼ばれ、その量は「治療的に有効」であると呼ばれる。腎機能のこのようなマーカーは医学文献において周知であり、そしてBUNレベルの増加率、血清クレアチニンの増加率、BUNの静的測定値、血清クレアチニンの静的測定値、糸球体濾過速度(GFR)、BUN/クレアチニン比、ナトリウム(Na+)の血清濃度、クレアチニンの尿/血漿比、尿素の尿/血漿比、尿の重量オスモル濃度、日々の尿量などを含むがこれらに限定されない(例えば、Harrison’s Principles of Internal Medicine,第13版、Isselbacherら編、McGraw Hill Text,New York中のBrennerおよびLazarus(1994);Internal Medicine,第4版、J.H.Stein編、Mosby−Year Book,Inc.St.Louis中のLukeおよびStrom(1994)を参照)。
【0059】
糸球体濾過速度(GFR):「糸球体濾過速度」または「GFR」は、血清タンパク質に結合されておらず、糸球体を横切って自由に濾過され、そして腎細管によって分泌も再吸収もされない血漿保持物質の尿中へのクリアランス速度に比例する。したがって、本明細書中で使用される場合、GFRは好ましくは以下の等式によって定義される:
conc×V
GFR=−−−−−−
conc
ここで、はマーカーの尿中濃度であり、Pconcはそのマーカーの血漿濃度であり、そしてVは尿の流速(ml/分)である。必要であれば、GFRは体表面積について較正される。したがって、本明細書中で使用されるGFR値はml/分/1.73m2の単位であるとみなされ得る。
【0060】
GFRの好ましい尺度はイヌリンクリアランスであるが、この物質の濃度を測定することは困難であるので、クレアチニンクリアランスが臨床設定では代表的に使用される。例えば、平均サイズの健常ヒト男性(70kg、20〜40才)については、クレアチニンクリアランスにより測定される代表的なGFRは、およそ125ml/分(クレアチニンの血漿濃度0.7〜1.5mg/dL)であると予想される。比較できる平均サイズの女性については、クレアチニンクリアランスにより測定される代表的なGFRは、およそ115ml/分(クレアチニンレベル0.5〜1.3mg/dL)であると予想される。良好な健康状態の間、ヒトGFR値は約40才まで比較的安定であり、代表的には約40才からGFRは年齢とともに低下し始める。85才または90才まで生存している被検体については、GFRは40才の値の50%まで減少し得る。
【0061】
(予想された糸球体濾過率(GFRexp))
「予想されたGFR」または「GFRexp」の予測は、被験体の年齢、体重、性別、体表面積、および筋肉系の程度、ならびに血液検査により判定されるいくつかのマーカー化合物の血漿濃度(例えば、クレアチニン)の考慮に基づき提供され得る。したがって、例として、予想されるGFRまたはGFRexpは、以下のとおり見積もられ得る:
(140−年齢)×体重(kg)
GFRexp≒−−−−−−−−−−−−−−−
72xPconc(mg/dl)
この見積もりは、表面積、筋肉系の程度または体脂肪率のような因子を考慮していない。しかし、血漿クレアチニンレベルをマーカーとして使用することによって、この公式は、GFRを見積もる安価な手段としてヒト雄性について使用されてきた。クレアチニンは、黄紋筋によって生成されることから、ヒト雌性被験体の予想されるGFRまたはGFRexpは、筋肉質量における予想される相違について考慮する0.85を乗じて同じ等式により見積もられる (Lemann,et al.(1990)Am.J.Kidney Dis.16(3):236−243を参照のこと)。
【0062】
「野生型」とは、それがインビボで正常に存在するときの、それぞれ、タンパク質、タンパク質の部分、またはタンパク質配列、またはその部分のエキソンの天然に存在するポリヌクレオチド配列である。
【0063】
本発明の実施は、そうではないと指示しない限り、細胞生物学、細胞培養、分子生物学、微生物学、組換えDNA、タンパク質化学、および免疫学の従来の技術を使用する。これらは、当該分野の技術範囲内にある。そのような技術は、文献に記載されている。そうではないと説明しない限り、発明の詳細な説明において引用されたすべての参考文献は、本明細書において参考として援用される。
【0064】
(好ましい実施形態の説明)
(概説)
本発明は、部分的に、急性腎不全であるかまたはその危険にある被験体に対する特定のインテグリンアンタゴニストの効力が慢性腎不全における効力を予測させないという発見に一部基づく。本発明者らは、これらの知見を実施例においてまとめる。さらに、本発明者らは、特定のインテグリンアンタゴニストが、死亡率および/または罹患率を減少させ得、そして/あるいは慢性腎不全を特徴付ける腎臓機能の進行性の喪失を予防、妨害、遅延または緩和し得ることを見出した。手短には、本発明者らは、2相(10日間続く免疫媒介性腎臓炎症(急性半月形糸球体腎炎)の第一相、続いて約40日目のCRFから死亡まで続く、進行性糸球体硬化症が伴う二次細管腸管腎炎相)を有する腎臓疾患の動物モデルを開発した。本発明者らは、TGFβ(これは、CRFにおいて線維症の公知のメディエーターであり、そしてこのモデルでは11日目以降に発現される)。は、急性相の間はこの動物も出るにおいて効力がなかったが、慢性相においては有効であった。本発明者らは、抗VLA−1抗体を用いて、急性相と慢性相との間に類似の非共役を見出した。従って、両方の相において効力を有するα4インテグリンに対するアンタゴニストを見出すことは予測されない。
【0065】
(A.インテグリンアンタゴニスト)
本発明の目的のために、インテグリンアンタゴニストは、インテグリンとその同族リガンドもしくはレセプターとの間の任意の相互作用のアンタゴニストであり得る。インテグリンアンタゴニストの1つの好ましい実施形態は、α4インテグリンとそのリガンドとの相互作用のアンタゴニストである(例えば、VCAM−1/VLA−4の相互作用またはMadCAM/α4β7の相互作用(Lobb and Hemler,前出を参照のこと)。これは、VCAM−1および/またはVLA−4に媒介される結合を阻害もしくは媒介し得るか、または他の方法でVCAM−1および/またはVLA−4機能を調節し得(例えば、VLA−4リガンドに媒介されるVLA−4シグナル伝達またはVCAM−1リガンド媒介されるVCAM1シグナル伝達を阻害もしくはブロックすることによる)、そして慢性腎不全の処置において(好ましくは、抗VLA−4抗体と同じ様式で)有効である因子(例えば、ポリペプチドまたは他の分子)である。同様に、これは、MadCAMおよび/もしくはα4β7媒介される結合を阻害もしくはブロックし得るか、または他の方法でMadCAMおよび/もしくはα4β7機能を調節し得(例えば、α4β7リガンド媒介されるα4β7シグナル伝達またはMadCAMリガンドを阻害もしくはブロックすることによる)、そして慢性腎不全の処置において有効である因子(例えば、ポリペプチドまたは他の分子)である。
【0066】
例えば、VCAM−1/VLA−4の相互作用のアンタゴニストは、以下の特性の1つ以上を有する因子である:(1)それは、VLA−4を有する細胞(すなわち、リンパ球)の表面上のVLA−4を、VLA−4リガンド/VLA−4の相互作用(例えば、VCAM−1/VLA−4相互作用)に対して十分な特異性をもってコーティングするかまたはそれに結合する;(2)それは、VLA−4を有する細胞(すなわち、リンパ球)の表面上のVLA−4を、VLA−4に媒介されるシグナルの伝達(例えば、VCAM−1/VLA−4に媒介されるシグナル伝達)を改変(好ましくは、阻害する)に十分な特異性をもってコーティングするかまたはそれに結合する;(3)それは、VLA−4/VCAM−1の相互作用を阻害するに十分な特異性をもって、内皮細胞におけるVLA−4リガンド(例えば、VCAM−1)をコーティングするかまたはそれに結合する;(4)それは、VLA−4リガンド媒介されたVLA−4シグナル伝達の伝達(例えば、VCAM−1媒介されたVLA−4シグナル伝達)を改変(好ましくは、阻害)するに十分な特異性を伴ってVLA−4リガンド(例えば、VCAM−1)をコーティングするか、またはそれに結合する。好ましい実施形態において、そのアンタゴニストは、特定1および2の一方または両方を有する。他の好ましい実施形態において、そのアンタゴニストは、特性3および4の一方または両方を有する。さらに、1を超えるアンタゴニストは、患者に投与され得る(例えば、VLA−4に結合する因子は、VCAM−1に結合する因子と組合され得る)。
【0067】
本明細書において考察されるように、本発明の方法において使用されるアンタゴニストは、特定の型または構造の分子に限定されることはなく、その結果、本発明の目的について、細胞の表面上のα4インテグリンに、またはα4リガンド保有細胞の表面上のVCAM−1またはMadCAMのようなアルファ4リガンドに結合し得、そしてα4インテグリン(例えば、VLA−4またはα4β7)もしくはα4リガンド(例えば、それぞれVCAM−1もしくはMadCAM)を有効にブロックまたはコーティングする任意の因子(それぞれ、「α4インテグリン結合因子」および「α4インテグリンリガンド結合因子」)は、本明細書中の実施例において使用されるアンタゴニストの等価物であるとみなされる。
【0068】
例えば、抗体または抗体ホモログ(上記に考察される)、ならびにVLA−4およびVCAM−1についての可溶性形態の天然の結合タンパク質が有用である。VLA−4についての可溶性形態の天然の結合タンパク質は、可溶性VCAM−1ペプチド、VCAM−1融合タンパク質、二機能性VCAM−1/Ig融合タンパク質(例えば、「キメラ」分子、上記に考察される)、フィブロネクチン、代替的スプライスされる非III型結合セグメントを有するフィブロネクチン、およびアミノ酸配列EILDVまたは類似の保存的置換されたアミノ酸配列を含むフィブロネクチンを包含する。VCAM−1についての可溶性形態の天然のタンパク質は、可溶性VLA−4ペプチド、VLA−4融合タンパク質、二機能性VLA−4/Ig融合タンパク質などを含む。本明細書において使用されるように、「可溶性VLA−4ペプチド」または「可溶性VCAM−1ペプチド」とは、VLA−4またはVCAM−1ポリペプチドであって、膜中ではそれ自体を固定することができないものをいう。そのような可溶性ポリペプチドとしては、例えば、VLA−4およびVCAMポリペプチドであって、そのポリペプチドを固定するに十分な部分のその膜貫通ドメインを欠如するか、またはその膜貫通ドメインが非機能性になるように改変されたものが包含される。これらの結合因子は、VLA−4についての細胞表面結合タンパク質と競合すること、または他の方法でVLA−4機能を変更することによって作用し得る。例えば、可溶性形態のVCAM−1(例えば、以下を参照のこと:Osbom et al.1989,Cell,59:1203−1211)またはそのフラグメントが投与されて、VLA−4に結合し得、そして好ましくは、VCAM−1を有する細胞におけるVLA−4結合部位について競合し得、それにより、低分子または抗体のようなアンタゴニストの投与に類似する効果をもたらし得る。
【0069】
本発明の目的について、「コラーゲン/VLA−1の相互作用のアンタゴニスト」とは、コラーゲンおよび/またはVLA−1に媒介される結合を阻害もしくはブロックし得るか、または他の方法でコラーゲンおよび/またはVLA−1機能を調節し得(VLA−1に媒介されるVLA−1シグナル伝達またはコラーゲンに媒介されるコラーゲンシグナル伝達を阻害またはブロックすることによる)、そして慢性腎不全の処置において(好ましくは抗VLA−1抗体と同様の様式で)有効である因子(例えば、ポリペプチドまたは他の分子)をいう。VLA−1リガンド(例えば、コラーゲン)/VLA−1の相互作用のアンタゴニストは、以下の特性の1つ以上を有する因子である:(1)それは、VLA−1を有する細胞の表面上のVLA−1を、コラーゲン/VLA−1相互作用に対して十分な特異性をもってコーティングするかまたはそれに結合する;(2)それは、VLA−1を有する細胞の表面上のVLA−1を、VLA−1に媒介されるシグナルの伝達(例えば、VLA−1/コラーゲンに媒介されるシグナル伝達)を改変(好ましくは、阻害する)に十分な特異性をもってコーティングするかまたはそれに結合する;(3)それは、コラーゲン/VLA−1の相互作用を阻害するに十分な特異性をもって、VLA−1リガンド(例えば、コラーゲン)をコーティングするかまたはそれに結合する;(4)それは、VLA−1リガンド媒介されたVLA−1シグナル伝達の伝達(例えば、コラーゲン媒介されたVLA−1シグナル伝達)を改変(好ましくは、阻害)するに十分な特異性を伴ってコラーゲンをコーティングするか、またはそれに結合する。好ましい実施形態において、そのアンタゴニストは、特定1および2の一方または両方を有する。他の好ましい実施形態において、そのアンタゴニストは、特性3および4の一方または両方を有する。さらに、1を超えるアンタゴニストは、患者に投与され得る(例えば、VLA−1に結合する因子は、コラーゲンに結合する因子と組合され得る)。本明細書において考察されるように、本発明の方法において使用されるVLA−1アンタゴニストは、特定の型または構造の分子に限定されない。その結果、本発明の目的について、VLA−1保有細胞上のVLA−1に(またはコラーゲンに対して)結合し得る任意の因子であって、VLA−1またはそのリガンドを有効にブロックまたはコーティングするものは、本明細書における実施例において使用されるVLA−1の等価物であるとみなされる。例えば、抗体または抗体ホモログ(以下に考察される)、ならびにVLA−1およびそのそれぞれのリガンドについての可溶性形態の天然の結合タンパク質が有用である。VLA−1についての可溶性形態の天然の結合タンパク質は、可溶性コラーゲンペプチド、コラーゲン融合タンパク質、二機能性コラーゲン/Ig融合タンパク質、または類似の保存的置換されたアミノ酸配列を包含する。コラーゲンについての可溶性形態の天然のタンパク質は、可溶性VLA−1ペプチド、VLA−1融合タンパク質、二機能性VLA−1/Ig融合タンパク質などを含む。本明細書において使用されるように、「可溶性VLA−1ペプチド」または「可溶性コラーゲンペプチド」とは、VLA−1またはコラーゲンのポリペプチドであって、膜中ではそれ自体を固定することができないものをいう。そのような可溶性ポリペプチドとしては、例えば、VLA−1およびコラーゲンポリペプチドであって、そのポリペプチドを固定するに十分な部分のその膜貫通ドメインを欠如するか、またはその膜貫通ドメインが非機能性になるように改変されたものが包含される。これらの結合因子は、VLA−1についての細胞表面結合タンパク質と競合すること、または他の方法でVLA−1機能を変更することによって作用し得る。
【0070】
別の実施例において、コラーゲンまたはそのフラグメントであって、VLA−1保有細胞の表面上のVLA−1に結合し得るものは、VLA−1アンタゴニストキメラ分子を形成する第二の部分に連結または他の方法で融合され得る。その第二の部分は、ペプチド、可溶性ペプチドのフラグメント、好ましくは人ペプチド、より好ましくは血漿タンパク質、または免疫グロブリンスーパーファミリーのメンバーであり得る。特に好ましい実施形態において、その第二のペプチドは、IgGまたはその部分もしくはフラグメント(例えば、ヒトIgG1重鎖定常領域)であり、そして少なくともヒンジドメイン、CH2ドメインおよびCH3ドメインを含む。
【0071】
1.抗インテグリン抗体ホモログ
他の好ましい実施形態において本発明の方法において、細胞表面α4インテグリン(例えば、VLA−4)および/またはα4インテグリンに対する細胞表面リガンド(例えば、VCAM−1)に結合(ブロックまたはコーティングを含む)するために用いられるアンタゴニストは、以前に定義されるように、抗VLA−4および/または抗VCAM−1のモノクローナル抗体または抗体ホモログである。処置特にヒトの処置について、好ましい抗体およびホモログは、ヒト抗体ホモログ、ヒト化抗体ホモログ、キメラ抗体ホモログ、Fab、Fab’、F(ab’)2およびF(v)の抗体フラグメント、ならびに抗体重鎖または軽鎖あるいはそれらの混合物のモノマーまたはダイマーを包含する。VLA−4および/またはVLA−1に対するモノクローナル抗体は、本発明の方法において好ましい結合因子である。
【0072】
(2.低分子インテグリンアンタゴニスト)
用語「低分子」インテグリンアンタゴニストは、例えば、細胞表面上のVLA−4レセプターを結合することによってVLA−4を阻害するかまたは細胞表面上のVCAM−1レセプターを結合することによってVCAM−1を阻害することによって、インテグリン/インテグリンリガンド相互作用を乱し得るペプチド(すなわち、ペプチド結合を含み得るかまたは含み得ない有機分子)の作用を模倣する因子をいう。VLA−4およびVCAM−1(またはVLA−1およびコラーゲン)低分子は、それ自身がペプチド、セミペプチド化合物または非ペプチド化合物(VCAM−1/VLA−4および/またはコラーゲン/VLA−1相互作用のアンタゴニストである低有機分子など)である。本明細書中で定義されるように、「低分子」は、抗体または抗体ホモログを含むことを意図しない。例示的な低分子の分子量は、一般的に約2000未満であるが、分子が機能的定義を満たす条件で、任意の特定のサイズに制限されることを意図しない。
【0073】
例えば、VLA−4リガンドの結合ドメインを模倣し、そして、VLA−4のレセプタードメインに適合するオリゴ多糖などの低分子が使用され得る(例えば、J.J.Devlinら、1990,Science 249:400−406(1990),J.K.ScottおよびG.P.Smith,1990,Science 249:386−390、ならびに米国特許第4,833,092号(Geysen)(これら全てが、本明細書中に参考として援用される))。逆に、VCAM−1リガンドの結合ドメインを模倣し、そして、VCAM−1のレセプタードメインに適合する低分子はおそらく使用される。
【0074】
本発明において有用である他の低分子の例は、Komoriyaら(「The Minimal Essential Sequence for a Major Cell Type−Specific Adhesion Site(CS1)Within the Alternatively Spliced TypeIII Connecting Segment Domain of Fibronectin Is Leucin−Aspartic Acid−Valin」,J.Bio.Chem.,266(23),15075−79頁(1991))に見出され得る。これらは、VLA−4に結合するために必要な最小の活性アミノ酸配列を同定し、そして、特定の種のフィブロネクチンのCS−1領域(VLA−4結合ドメイン)のアミノ酸配列に基づいた種々の重複ペプチドを合成した。これらは、フィブロネクチン依存細胞付着に対する抑制的な活性を保有する、8アミノ酸ペプチド、Glu−Ile−Leu−Asp−Val−Pro−Ser−Thr、ならびに、2つのより小さい重複ペンタペプチド、Glu−Ile−Leu−Asp−ValおよびLeu−Asp−Val−Pro−Serを同定した。LDV配列を含む特定のより大きいペプチドは、インビボで活性であることが続いて示された(T.A.Fergusonら、「Two Integrin Binding Peptides Abrogate T−cell Mediated Immune Responses In Vivo」,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,88、8072−76頁(1991);ならびにS.M.Wahlら、「Synthetic Fibronectin Peptides Suppress Arthritis in Rats by Interrupting Leukocyte Adhesion and Recruitment」,J.Clin.Invest.,94,655−62頁(1994))。環状ペンタペプチド;Arg−Cys−Asp−TPro−Cys(ここで、TProは、4−チオプロリンを示す)(これは、フィブロネクチンに対するVLA−4およびVLA−5付着の両方を阻害し得る)がまた記載されている(例えば、D.M.Nowlinら、「A Novel Cyclic Pentapeptide Inhibits Alpha4Betal Integrin−mediated Cell Adhesion」,J.Biol.Chem.,268(27)、20352−59頁(1993);およびPCT公開PCT/US91/04862)。このペンタペプチドは、いくつかの細胞外マトリックスタンパク質の認識部位における共通部分として公知であるフィブロネクチン由来のトリペプチド配列Arg−Gly−Aspに基づいている。他のVLA−4インヒビターの例が、例えば、Adamsら、「Cell Adhesion Inhibitors」、PCT US97/13013において報告されており、細胞付着阻害活性を有するβアミノ酸を含む直鎖ペプチジル化合物を記載する。国際特許出願WO94/15958およびWO92/00995は、細胞付着阻害活性を有する環状ペプチドおよびペプチド模倣化合物を記載する。国際特許公開WO93/08823およびWO92/08464は、グアニジル、ウレアおよびチオウレア含有細胞付着阻害化合物を記載する。米国特許第5,260,277号は、グアニジル細胞付着調節化合物を記載する。VLA−4の他のペプチジルアンタゴニストは、D.Y.Jacksonら、「Potent a4betal peptide antagonists as potential anti−inflammatory agents」,J.Med.Chem.,40,3359(1997);H.Shroffら、「Small Peptide Inhibitors of alpha4beta7 mediated MadCAM−1 adhesion to lymphocytes」,Bio.Med,Chem.Lett.,1:2495(1996);米国特許第5,510,332号、PCT公開WO98/53814、WO97/03094、WO97/02289、WO96/40781、WO96/22966、WO96/20216、WO96/01644、WO96/106108、およびWO95/15973に記載される。
【0075】
このような低分子因子は、多数のペプチド(例えば、520アミノ酸長)、セミペプチド化合物または非ペプチド、有機化合物を合成することによって生成され得、次いで、VLA−4/VCAM相互作用を阻害するそれらの能力についてこれらの化合物をスクリーニングする。例えば、一般的に、米国特許第4,833,092号、ScottおよびSmith、「Searching for Peptide Ligands with an Epitope Library」,Science,249、386−90頁(1990)ならびにDevlinら、「Random Peptide Libraries:A Source of Specific Protein Binding Molecules」、Science,249、40407頁(1990)を参照のこと。
【0076】
(抗インテグリン抗体ホモログの作製の方法)
モノクローナル抗体(例えば、抗インテグリンモノクローナル抗体を含む)を産生するための技術は周知である。例えば、Mendrickら、1995、Lab.Invest.72:367−375(マウス抗−α1β1および抗α2β1に対するmAbs);Sonnenbergら、1987 J.Biol.Chem.262:10376−10383(マウス抗α6β1に対するmAbs);Yaoら、1996、J Cell Sci 109:3139−50(マウス抗α7β1に対するmAbs);Hemlerら、1984、J Immunol 132:3011−8(ヒトα1β1に対するmAbs);Pischelら、1987 J Immunol 138:226−33(ヒトα2β1に対するmAbs);Waynerら、1988、J Cell Biol 107:1881−91(ヒトα3β1に対するmAbs);Hemlerら、1987 J Biol Chem 262:11478−85(ヒトα4β1に対するmAbs);Waynerら、1988 J Cell Biol 107:1881−91(ヒトα5β1に対するmAbs);Sonnenbergら、1987、J.Biol.Chem.262:10376−10383(ヒトα6β1に対するmAbs);A Wangら、1996 Am.J.Respir.Cell Mol.Biol.15:664−672(ヒトα9β1に対するmAbs);Dviesら、1989 J Cell Biol 109:1817−26(ヒトαVβ1に対するmAbs);Sanchez−Madridら、1982、Proc Natl Acad Sci USA 79:7489−93(ヒトαLβ2に対するmAbs);Diamondら、1993、J Cell Biol 120:1031−43(ヒトαMβ2に対するmAbs);Stackerら、1991 J Immunol 146:648−55(ヒトαXβ2に対するmAbs);Van der Vierenら、1995 Immunity 3:683−90(ヒトαDβ2に対するmAbs);Bennettら、1983 Proc Natl Acad Sci USA 80:2417−21(ヒトαIIbβ3に対するmAbs);Hessleら、1984、Differentiation 26:49−54(ヒトα6β4に対するmAbs);Weinackerら、1994 J Biol Chem 269:6940−8(ヒトαVβ5に対するmAbs);Weinackerら、1994 J Biol Chem 269:6940−8(ヒトαVβ6に対するmAbs);Cerf−Bensussanら、1992 Eur J Immunol 22:273−7(ヒトαEβ7に対するmAbs);Nishimuraら、1994 J Biol Chem 269:28708−15(ヒトαVβ8に対するmAbs);Bossyら、1991 EMBO J 10:2375−85(ヒトα8β1に対するポリクローナル抗血清);Camperら、1998 J.Biol.Chem.273:20383−20389(ヒトα10β1に対するポリクローナル抗血清)を参照のこと。
【0077】
本明細書中で意図される好ましいインテグリンアンタゴニストは、原核生物または真核生物宿主細胞において、インタクトもしくは短縮されたゲノムまたはcDNAからかまたは合成DNAから発現され得る。このダイマータンパク質は、培養培地から単離され得、そして/または再び折り畳まれ、そして、インビトロでダイマー化して生物学的に活性な組成物を形成する。ヘテロダイマーは、別々の別個のポリペプチド鎖を組み合わせることによって、インビトロで形成され得る。あるいは、ヘテロダイマーは、別々の別個のポリペプチド鎖をコードする核酸を同時発現することによって、単一細胞において形成され得る。例えば、いくつかの例示的な組換えヘテロダイマータンパク質産生プロトコールについては、WO93/09229または米国特許第5,411,941号を参照のこと。現在好ましい宿主細胞としては、制限することなく、E.coliを含む原核生物、または酵母、Saccharomyces、昆虫細胞を含む真核生物、またはCHO、COSもしくはBSC細胞などの哺乳動物細胞が挙げられる。当業者は、他の宿主細胞が有利に使用され得ることを理解する。本発明の実施において有用なタンパク質の詳細な説明(軟骨形成活性についてそれらを作製、使用および試験する方法を含む)は、米国特許第5,266,683号および同第5,011,691号を含む(これらの開示は本明細書中に参考として援用される)多数の刊行物において開示される。
【0078】
モノクローナル抗体ホモログを産生する技術は周知である。手短には、不死細胞株(代表的には骨髄腫細胞)が、所定の抗原(例えば、VLA−4)を発現する全細胞で免疫化した哺乳動物由来のリンパ球(代表的には脾細胞)へと融合され、そして、得られたハイブリドーマ細胞の培養物上清は、抗原に対する抗体についてスクリーニングされる。例えば、一般的に、Kohlerら、1975、Nature,265:295−297を参照のこと。免疫化は、標準的手順を使用して達成され得る。ユニット用量および免疫化レジメンは、免疫化される哺乳動物の種、その免疫状態、哺乳動物の体重などに依存する。代表的には、免疫化哺乳動物は出血させ、そして、それぞれの血液サンプル由来の血清は、適切なスクリーニングアッセイを使用することによって、特定の抗体についてアッセイされる。例えば、抗VLA−4抗体は、VLA−4発現細胞由来の125I標識の細胞溶解物の免疫沈降によって同定され得る(例えば、Sanchez−Madridら、1986、Eur.J.Immunol.,16:1343−1349およびHemlerら、1987、J.Biol.Chem.,262,11478−11485を参照のこと)。抗VLA−4抗体はまた、フローサイトメトリーによって(例えば、VLA−4を認識すると考えられている抗体でインキュベートしたRamos細胞の蛍光染色を測定することによって)同定され得る(例えば、Elicesら、1990、Cell、60:577−584を参照のこと)。ハイブリドーマ細胞の産生において使用されるリンパ球は、代表的には、このようなスクリーニングアッセイを使用して、その血清が抗VLA−4抗体の存在について陽性であるとすでに試験された免疫化された哺乳動物から単離される。
【0079】
代表的には、不死細胞株(例えば骨髄腫細胞株)は、リンパ球などの同一の哺乳動物種に由来する。好ましい不死細胞株は、ヒポキサンチン、アミノプテリンおよびチミジンを含む培養培地(「HAT培地」)に対して感受性であるマウス骨髄腫細胞株である。代表的には、HAT感受性マウス骨髄腫細胞は、1500分子量ポリエチレングリコール(「PEG 1500」)を使用してマウス脾細胞へと融合させる。次いで、融合から得られたハイブリドーマ細胞は、HAT培地を使用して選択され、この培地は、融合されていないおよび非産生的に融合された骨髄腫細胞を殺す(融合されていない脾細胞は、形質転換されていないので、数日後に死ぬ)。所望の抗体を産生するハイブリドーマは、ハイブリドーマ培養物上清をスクリーニングすることによって検出される。例えば、抗VLA−4抗体を産生するように調製されたハイブリドーマは、組換えα4サブユニット発現細胞株に結合する能力を有する分泌された抗体について、ハイブリドーマ培養物上清を試験することによって、スクリーニングされ得る(Elicesら、前出を参照のこと)。
【0080】
インタクトな免疫グロブリンである抗VLA−4またはVLA−1抗体ホモログを産生するために、このようなスクリーニングアッセイにおいて陽性であると試験されたハイブリドーマ細胞を、ハイブリドーマ細胞が、培養培地にモノクローナル抗体を分泌するのを可能にするのに十分な条件下および時間で、栄養培地で培養した。組織培養技術およびハイブリドーマ細胞に適した培養培地は、周知である。調製されたハイブリドーマ培養物上清は収集され得、そして、抗VLA−4またはVLA−1抗体は必要に応じて周知の方法によって、さらに精製される。
【0081】
あるいは、所望の抗体は、ハイブリドーマ細胞を非免疫化マウスの腹腔に注射することによって産生され得る。このハイブリドーマ細胞は、腹腔において増殖し、腹水として蓄積する抗体を分泌する。この抗体は、シリンジを使用して、腹腔から腹水を取り出すことによって収集され得る。
【0082】
いくつかのマウス抗VLA−4モノクローナル抗体が以前に記載されている。例えば、Sanchez−Madridら、1986、前出;Hemlerら、1987、前出;Pulidoら、1991、J.Biol.Chem.,266(16)、10241−10245を参照のこと。VLA−4のβ鎖を認識可能な、これらの抗VLA−4モノクローナル抗体(HP 1/2など)および他の抗VLA−4抗体(例えば、HP2/1、HP2/4、L25、P4C2、P4G9)は、本発明に従う処置の方法において、有用である。VCAM−1およびフィブロネクチンリガンドへの結合に関連するCLA−4α4鎖エピトープを認識する抗VLA−4抗体(すなわち、リガンド認識ならびにVCAM−1およびフィブロネクチン結合の阻害に関与する部位でVLA−4に結合し得る抗体)が好ましい。このような抗体は本発明に従って、Bエピトープ特異的抗体(B1またはB2)(Pulidoら、1991、前出)および抗VLA−4抗体としても定義される。抗VLA1抗体である、本発明の市販されている抗体ホモログは、米国特許第5,855,888号に記載されている。
【0083】
VLA−4および/またはVLA−1に対する完全なヒトモノクローナル抗体ホモログは、本発明の方法においてVLA−4および/またはVLA−1リガンドをブロックまたはコーティングし得る別の好ましい結合因子である。それらのインタクトな形態においてこれらは、Boemerら、1991、J.Immunol.147,86−95によって記載されるように、インビトロでプライムされた(prinied)ヒト脾細胞を使用して調製され得る。あるいは、これらは、Perssonら,1991,Proc.Nat.Acad Sci.USA,88:2432−2436またはHuangおよびStollar,1991,J.Immunol.Methods 141,227−236によって記載されるようにレパートリークローニングによって調製され得る。
【0084】
米国特許第5,798,230号(1998年8月25日、「Process for the preparation of human monoclonal antibodies and their use」)は、ヒトB細胞からのヒトモノクローナル抗体の調製を記載する。このプロセスに従って、ヒト抗体産生B細胞を、エプスタイン−バーウイルス、またはそれらの誘導体(エプスタイン−バーウイルス核抗原2(EBNA2)を発現する)に感染させることによって不死化する。EBNA2機能(不死化に必要とされる)は、続いて遮断され、抗体産生の増加を生じる。
【0085】
完全なヒト抗体を産生するためのなお別の方法において、米国特許第5,789,650号(1998年8月4日、「Transgenic non−human animals for producing Heterologous antibodies」)は、異種抗体を産生し得るトランスジェニック非ヒト動物および不活化された内因性免疫グロブリン遺伝子を有するトランスジェニック非ヒト動物を記載する。内因性免疫グロブリン遺伝子は、内因性免疫グロブリンを指向するアンチセンスポリヌクレオチドおよび/または抗血清によって抑制される。異種抗体は、その種の非ヒト動物のゲノムには通常見出されない免疫グロブリン遺伝子によってコードされる。再配列されていない異種ヒト免疫グロブリン重鎖の配列を含む1つ以上の導入遺伝子は、非ヒト動物に導入され、それによってトランスジェニック免疫グロブリン配列を機能的に再配列し得、そしてヒト免疫グロブリン遺伝子によってコードされる種々のアイソタイプの抗体のレパートリーを産生し得るトランスジェニック動物を形成する。このような異種ヒト抗体は、B細胞中で産生され、これは、その後、例えば、黒色腫のような不死化細胞株と融合することによって、またはモノクローナル異種完全ヒト抗体ホモログを産生し得る細胞株を永続化させるための他の技術によってこのようなB細胞を操作することによって不死化される。
【0086】
大きな非免疫化ヒトファージディスプレイライブラリーもまた使用して、標準的なファージ技術を使用してヒト治療法として開発され得る高親和性抗体を単離し得る。
【0087】
本発明の方法においてインテグリンリガンドをブロックまたはコーティングし得るなお別の好ましい結合因子は、抗インテグリン特異性を有するヒト化組換え抗体ホモログである。真の「キメラ抗体」(全定常領域および全可変領域が異なる供給源に由来する)を調製するための初期の方法に続いて、新たなアプローチが、EP0239400(Winterら)に記載され、これによって、抗体は、別の種での、ある種についての相補性決定領域(CDR)の(所定の可変領域内での)置換によって改変される。このプロセスは、例えば、ヒト重鎖および軽鎖Ig可変領域ドメインをマウス可変領域ドメイン由来の代替のCDRで置換するために使用され得る。これらの改変されたIg可変領域は、続いて、ヒトIg定常領域と組み合せられて、置換されたマウスCDRを除いて組成において全てヒトである抗体を作製し得る。このようなCDR置換抗体は、CDR置換抗体がかなり少ない非ヒト成分を含むので、真のキメラ抗体と比べてヒトにおいて免疫応答を惹起しそうにないと予期される。CDR「移植」によってモノクローナル抗体をヒト化するためのプロセスは、「リシェイピング」と呼ばれている(Riechmannら,1988,Nature 332,323−327;Verhoeyenら,1988,Science 239,1534−1536)。
【0088】
代表的には、マウス抗体の相補性決定領域(CDR)は、ヒト抗体の対応する領域に移植される。なぜなら、これは、特定の抗原に結合するマウス抗体の領域であるCDR(抗体重鎖に3つ、軽鎖に3つ)であるからである。CDRの移植は、遺伝子操作によって達成され、これによってCDR DNA配列は、マウス重鎖および軽鎖可変(V)領域遺伝子セグメントのクローニングによって決定され、次いで、部位特異的変異原性によって対応するヒトV領域に移入される。このプロセスの最後の段階において、所望のアイソタイプ(通常、CHに対してγIおよびCLに対してκ)のヒト定常領域遺伝子セグメントが加えられ、ヒト化重鎖および軽鎖遺伝子が、哺乳動物細胞において同時発現されて可溶性ヒト化抗体を産生する。
【0089】
これらのCDRのヒト抗体への移入は、この抗体に、元のマウス抗体の抗原結合性質を与える。マウス抗体の6つのCDRは、構造的にV領域「フレームワーク」領域にのっている。CDR移植が成功する理由は、マウス抗体とヒト抗体の間のフレームワーク領域が、CDRについて類似した結合点を有する非常に類似した3次元構造を有し得、その結果、CDRが交換され得るからである。このようなヒト化抗体ホモログは、以下に例示されるように調製され得る:Jonesら,1986,Nature 321,522−525;Riechmann,1988,Nature 332,323−327;Queenら,1989,Proc.Nat.Acad.Sci.USA 86,10029;およびOrlandiら,1989,Proc.Nat.Acad.Sci.USA 86,3833。
【0090】
それにもかかわらず、フレームワーク領域内の特定のアミノ酸は、CDRと相互作用し、そして全体の抗原結合親和性に影響すると考えられる。ヒトV領域フレームワークについて任意の改変なしに組換えヒト化抗体を産生するためのマウス抗体からのCDRの直接的な移入は、しばしば、結合親和性の部分的または完全な損失を生じる。多くの場合において、結合活性を得るためにアクセプター抗体のフレームワーク領域の残基を改変することが重要であるようである。
【0091】
Queenら、1989(前出)およびWO90/07861(Protein Design Labs)は、マウスMAb(抗Tac)のCDRをヒト免疫グロブリンフレームワークおよび定常領域と組み合わせることによってアクセプター抗体のフレームワーク領域に改変残基を含むヒト化抗体の調製を記載した。これらは、ヒトV領域フレームワーク残基の任意の改変なしでの直接的CDR移入からしばしば生じる結合親和性の損失の問題に対する一つの解決を示した;それらの解決は、2つの鍵となる工程を含む。第1に、ヒトVフレームワーク領域は、元のマウス抗体のV領域フレームワーク(この場合、抗Tac−Mab)に対する最適なタンパク質配列相同性についてコンピュータ分析によって選択する。第2の工程において、マウスV領域の3次構造をコンピュータによってモデル化してマウスCDRと相互作用しそうであるフレームワークアミノ酸残基を視覚化し、次いでこれらのマウスアミノ酸残基を相同なヒトフレームワークに重ねる。Protein Design Labs 米国特許第5,693,762号もまた参照のこと。
【0092】
異なるアプローチ(Tempestら,1991,Biotechnology 9,266−271)を使用し得、標準として、マウス残基の根本的な(radical)導入なしで、CDR移植のためにNEWMおよびREIの重鎖および軽鎖のそれぞれから誘導されるV領域フレームワークを利用し得る。NEWMおよびREIに基づくヒト化抗体を構築するためのTempestらのアプローチを使用する利点は、NEWMおよびREIの可変領域の3次元構造が、X線結晶から公知であり、従って、CDRとV領域フレームワーク残基との間の特定の相互作用がモデル化され得ることである。
【0093】
行われるアプローチに関わらず、現在までに調製された最初のヒト化抗体ホモログの例は、直線的なプロセスでないことが示されている。しかし、このようなフレームワークの変化が必要であり得ると認知してさえ、たとえあったにしても、どのフレームワーク残基が所望の特異性の機能的ヒト化組換え抗体を得るために改変される必要があるかを利用可能な先行技術に基づいて予測することはできない。これまでの結果は、特異性および/または親和性を保存するのに必要な変化が、大部分について所定の抗体に対して独特であり、そして異なる抗体のヒト化に基づいて予測可能でないことを示す。
【0094】
本発明に有用な好ましいVLA−4アンタゴニストには、同時係属の1994年1月7日に出願されたPCT US94/00266、1993年1月12日に出願された米国出願シリアル番号08/004,798号において調製され、記載されたBエピトープ特異性を有するキメラおよびヒト化組換え抗体ホモログ(すなわち、インタクトな免疫グロブリンおよびそれらの部分)が挙げられる。キメラ(マウス可変−ヒト定常)およびヒト化抗インテグリン抗体ホモログの調製のための開始物質は、先に記載されたマウスモノクローナル抗インテグリン抗体、市販のモノクローナル抗インテグリン抗体(例えば、HP2/1、Amae International,Inc.,Westbrook,Maine)、または本明細書中の技術に従って調製されたモノクローナル抗インテグリン抗体であり得る。例えば、抗VLA−4抗体HP1/2の重鎖および軽鎖の可変領域は、クローン化され、配列決定され、そしてヒト免疫グロブリン重鎖および軽鎖の定常領域と組み合わせて発現された。このようなHP1/2抗体は、マウスHP1/2抗体に対する特異性および効力において類似しており、本発明に従った処置の方法において有用であり得る。
【0095】
他の好ましいヒト化抗VLA4抗体ホモログは、PCT/US95/01219(1995年7月27日)および米国特許第5,840,299号のAthena Neurosciences,Inc(参考として援用される)によって記載される。これらのヒト化抗VLA−4抗体は、ヒト化軽鎖およびヒト化重鎖を含む。ヒト化軽鎖は、マウス21−6免疫グロブリン軽鎖の対応する相補性決定領域からのアミノ酸配列を有する3つの相補性決定領域(CDR1、CDR2およびCRD3)、ならびにマウス21.6免疫グロブリン軽鎖可変領域フレームワークの等価な位置に存在する同じアミノ酸によって少なくとも1つの位置においてアミノ酸位置が占められることを除いて、ヒトκ軽鎖可変領域フレームワーク配列からの可変領域フレームワークを含む。ヒト化重鎖は、マウス21−6免疫グロブリン重鎖の対応する相補性決定領域からのアミノ酸配列を有する3つの相補性決定領域(CDR1、CDR2およびCRD3)、ならびにマウス21−6免疫グロブリン重鎖可変領域フレームワークの等価な位置に存在する同じアミノ酸によって少なくとも1つの位置においてアミノ酸位置が占められることを除いて、ヒト重鎖可変領域フレームワーク配列からの可変領域フレームワークを含む。ヒトα4インテグリンに対するヒト化抗体(AN100226)を記載するLeger,O.J.ら、Hum.Antibodies 8:3−16(1997)も参照のこと。
【0096】
本発明の方法は、インテグリンを含むα4サブユニットを指向する抗体をコードする核酸配列にストリンジェントな条件下でハイブリダイズする任意の核酸配列によってコードされるアンタゴニストを利用し得る。例えば、本発明のアンタゴニストは、米国特許第5,840,299号の表6に見出される核酸配列の1つ以上またはこのような1つ以上の配列の相補体に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸配列によってコードされるタンパク質であり得る。アンタゴニストはまた、米国特許第5,932,214号に見られる配列番号2または配列番号4をコードする核酸に対して高いストリンジェンシーの条件下でハイブリダイズする核酸配列によってコードされるタンパク質であり得る。さらに、アンタゴニストはまた、細胞株ATCC CRL11175によって産生される抗体の可変ドメインをコードする核酸に対して高いストリンジェンシーの条件下でハイブリダイズする核酸配列によってコードされるタンパク質であり得る。
【0097】
あるいは、本発明のアンタゴニストは、米国特許第5,840,299号の表6に見出される核酸配列の1つ以上またはこのような1つ以上の配列の相補体に対して低いストリンジェンシーの条件下でハイブリダイズする核酸配列によってコードされるタンパク質であり得る。アンタゴニストはまた、米国特許第5,932,214号に見られる配列番号2または配列番号4をコードする核酸に対して低いストリンジェンシーの条件下でハイブリダイズする核酸配列によってコードされるタンパク質であり得る。さらに、アンタゴニストはまた、細胞株ATCC CRL11175によって産生される抗体の可変ドメインをコードする核酸に対して低いストリンジェンシーの条件下でハイブリダイズする核酸配列によってコードされるタンパク質であり得る。
【0098】
(治療適用)
単一投薬形態を生成するためにキャリア材料と合わされ得る活性成分の量は、処置される宿主、および特定の投与形態に依存して変化する。しかし、任意の特定の患者に対する特定の投薬量および処置レジメンが、使用される特定化合物の活性、年齢、体重、通常の健康、性別、食事、投与時間、排出速度、薬物の組み合わせ、ならびに処置する医師の判断および処置される特定の疾患の重篤度を含む種々の因子に依存することが理解されるべきである。活性成分の量はまた、治療剤または予防剤に依存し得、存在する場合、この成分はこれらと同時投与される。
【0099】
細胞接着を予防、抑制または阻害するのに効果的な本発明の化合物の投薬量および投与速度は、インヒビターの性質、患者の大きさ、処置の目的、処置される病因の性質、使用される特定の薬学的組成物、および処置する医師の判断のような種々の因子に依存する。1日あたり約0.001mg/kg体重と約100mg/kg体重との間の投薬量レベル、好ましくは約0.1mg/kg体重と約50mg/kg体重との間の活性成分の化合物が有用である。最も好ましくは、α4インテグリン結合因子(抗体または抗体誘導体の場合)が、約0.1mg/kg体重と約20mg/kg体重との間の範囲、好ましくは約1mg/kg体重と約3mg/kg体重との間の範囲の用量で、毎1〜14日の間隔で投与される。非抗体または低分子結合因子に関して、用量範囲は、好ましくは抗体の量と等価なモル濃度の量の間であるべきである。好ましくは、抗体組成物は、有効量で投与されて、少なくとも1mg/mlの血漿抗体レベルを与える。投薬量の最適化は、結合剤の投与、続く、所定の用量のインビボでの投与後時間が経ってからの、この薬剤によるインテグリン陽性細胞のコーティングの評価によって決定され得る。
【0100】
投与された薬剤の存在は、個々の細胞のそれ自身(例えば、蛍光色素によって)標識された同じ薬剤への結合する能力の、不能または減少によって、インビトロ(またはエキソビボ)で検出され得る。好ましい投薬量は、検出可能なコーティングの広範な大多数のインテグリン陽性細胞を生成するはずである。好ましくは、コーティングは、抗体ホモログの場合、1〜14日の期間維持される。
【0101】
(処置の被験体)
一般的な事項として、本発明の方法は、慢性腎不全であるかまたは慢性腎不全の危険性のある任意の哺乳動物被験体、あるいは腎臓代償療法(すなわち、慢性透析または腎臓移植)が必要な危険性のある哺乳動物被験体に対して使用され得る。本発明の方法に従って処置され得る哺乳動物被験体としては、ヒト被験体またはヒト患者が挙げられるがこれらに限定されない。しかし、さらに、本発明は、ヒトコンパニオンとして維持される家庭の哺乳動物(例えば、イヌ、ネコ、ウマ)の処置に使用され得、これらの動物らは、重要な商業的価値を有するか(例えば、乳牛、肉牛、競技用動物)、重要な科学的価値を有するか(例えば、捕らわれたかまたは自由な絶滅危機種の検体)、または他の価値を有する。さらに、一般的な事項として、本発明の方法を用いて処置するための被験体は、慢性腎不全の危険性と関連する徴候以外は、本発明の腎臓治療剤を用いて処置するための指標を提示する必要はない。すなわち、処置のための被験体は、本発明の薬剤を用いた処置に関する指標を含まない他のものに対して予期される。しかし、いくつかの場合において、被験体は、本発明の薬剤を用いた処置が示される他の徴候(例えば、骨形成異常)で示され得る。そのような場合、処置は、過剰投薬を回避するように従って調節されなければならない。医学分野または獣医分野の当業者は、養成されて、実質的に慢性腎不全の危険性があり得るかまたは実質的に腎臓代償療法が必要な危険性があり得る被験体を認識する。特に、本明細書中に開示される処置方法および他の処置方法に関連する臨床試験および非臨床試験、ならびに累積した経験は、所定の被験体が腎不全であるかもしくは腎不全の危険性があるか、または腎臓代償療法が必要な危険性があるか否か、および任意の特定の処置(本発明に従う処置を含む)が被験体が必要とするものに最も適したものであるか否かを決定する際に熟練した実施者に情報を提供することが予想される。
【0102】
一般的な事項として、哺乳動物被験体は、この被験体が既に機能的ネフロン単位の進行性損失と関連する腎機能の進行性損失を代表的に導く状態に冒されていると診断されるか、またはこの状態に冒されているとみなされる場合、慢性腎不全であるかもしくは慢性腎不全の危険性があるか、または腎臓代償療法を必要とする危険性があるとしてみなされ得る。このような状態としては、末期腎疾患、慢性糖尿病性腎症、糖尿病性糸球体症、糖尿病性腎肥大、高血圧性腎硬化症、高血圧性糸球体硬化症、慢性糸球体腎炎、遺伝性腎炎、腎形成異常症および腎同種移植片移植後の慢性拒絶などが挙げられるが、これらに限定されない。これらならびに当該分野で公知の他の疾患および状態は、代表的に、機能的ネフロンの進行性損失および慢性腎不全の発症を導く。
【0103】
しばしば、医学分野および獣医学分野の当業者は、腎生検サンプルの試験に対して予後決定、診断決定または処置決定の基礎を置き得る。このような生検は、腎障害を診断する際に有用な豊富な情報を提供するが、手順の侵入性、およびおそらく健康でない腎臓に対するさらなる外傷に起因して、全ての被験体に対して適切ではないようである。それにもかかわらず、慢性腎不全であるかもしくは慢性腎不全の危険性があるか、または腎臓代償療法を必要とする危険性がある被験体は、糸球体肥大、尿細管肥大、糸球体硬化症、尿細管間質性腎炎などを含むがこれらに限定されない腎生検からの組織学的識別によって認識され得る。
【0104】
腎形態を評価するためのほとんど侵襲性ではない技術としては、MRI、CATおよび超音波スキャンが挙げられる。走査技術がまた利用可能であり、これは、造影剤または画像剤(例えば、放射性色素)を用いるが、これらのいくつかは腎組織および腎構造に対して特に毒性であり、ゆえに、これらの使用は、慢性腎不全である被験体もしくは慢性腎不全の危険性がある被験体において賢明でないかもしれないことに注意すべきである。このような非侵襲性走査技術は、慢性腎不全であるかもしくは慢性腎不全の危険性があるか、または腎臓代償療法を必要とする危険性がある被験体に位置する、腎線維症または腎硬化症、病巣腎壊死、腎嚢胞、および腎肉眼的肥大などの状態を検出するために使用され得る。
【0105】
しばしば、予後決定、診断決定および/または処置決定は、腎機能の臨床指標に依存する。1つのそのような指標は、尿沈渣中の異常な数の「広範」または「腎不全」の円柱の存在であり、これは、尿細管肥大を示し、そして慢性腎不全を典型的に表す代償性の腎肥大を示唆する。腎機能の良好な指標は、糸球体流速(GFR)であり、これは、特定マーカーのクリアランスの速度を定量することによって直接測定され得るか、または間接的な測定から推測され得る。
【0106】
本発明の処置方法は、GFRの任意の特定の測定または腎機能の任意の他の特定マーカーを用いて示される被験体に限定される必要はない。実際、被験体のGFRまたは腎機能の任意の他の特定マーカーが本発明の処置を実施する前に必ずしも決定される必要はない。それにもかかわらず、GFRの測定は、腎機能を評価する好ましい手段であるとみなされる。
【0107】
当該分野で周知のように、GFRは、血漿から尿への参照化合物またはマーカー化合物のクリアランス速度を反映する。考慮されるマーカー化合物は、代表的に、糸球体によって大量に濾過されるが、尿細管によって活発に分泌または再吸収されず、そして循環しているタンパク質にによってほとんど結合されないものである。このクリアランス速度は、代表的に、上記に示される式によって規定され、これは、24時間以内に産生された尿の容積、ならびに尿および血症中の相対的なマーカー濃度に関連する。より正確に言うと、GFRはまた、体の表面積に対して補正されるべきである。その濾過特性および血清結合の欠失に起因して、「第1(gold)の標準」参照化合物は、イヌリンである。しかし、この化合物の濃度は、血液または尿中で定量することが困難である。従って、クレアチニンを含む他の化合物のクリアランス速度が、しばしば、イヌリンの変わりに使用される。さらに、実際のマーカーの尿濃度、実際の生成される毎日の尿容積、または実際の体の表面積を考慮することを除外することによって、実際のGFRの概算を単純化することを模索する種々の式がしばしば使用される。これらの値は、他の因子に基づく概算、同じ被験体に関して確立されたベースラインの値、または類似した被験体に関する標準値によって置換され得る。しかし、これらの概算は注意して使用されるべきである。なぜなら、これらは、正常または健康な被験体の腎機能に基づく不適切な仮定を必要とし得るからである。さらに、p−アミノ馬尿酸塩(PAH)のクリアランスが、腎クリアランス速度を概算するために使用される。
【0108】
特定の特徴を有する健康な被験体に関する予想GFR値を記載する、種々の方法および式が当該分野で開発されている。特に、血漿クレアチニンレベル、年齢、体重および性別に基づく予想GFR値を提供する式が利用可能である。当然、他の式が使用され得、そして標準値の錠剤が、被験体の所定の年齢、体重、性別、および/または血漿クレアチニン濃度に対して生成され得る。GFRを測定または概算するより新規な方法(例えば、NMR技術またはMRI技術を使用する)がまた当該分野で現在可能であり、そして本発明に従って使用され得る(例えば、米国特許第5,100,646号、および同第5,335,660号を参照のこと)。
【0109】
一般的な事項として、GFRが測定または概算される様式に関係なく、被験体がその被験体の予想GFRの約50%よりも短く慢性的であるGFRを有する場合、この被験体は、慢性腎不全であるかもしくは慢性腎不全の危険性があるか、または腎臓代償療法を必要とする危険性があるとみなされ得る。この危険性は、GFRがより下へ低下するにつれ大きくなるとみなされる。従って、被験体がその予想GFRの約40%、30%または20%よりも短く慢性的であるGFRを有する場合、この被験体はますます危険性があるとみなされる。少なくとも約50kgの体重であるヒト男性被験体は、この被験体が約50ml/分よりも短く慢性的であるGFRを有する場合、慢性腎不全であるかもしくは慢性腎不全の危険性があるか、または腎臓代償療法を必要とする危険性があるとみなされ得る。この危険性は、GFRがより下へ低下するにつれ大きくなるとみなされる。従って、被験体が約40ml/分、約30ml/分または約20ml/分よりも短く慢性的であるGFRを有する場合、この被験体はますます危険性があるとみなされる。少なくとも約40kgの体重であるヒト女性被験体は、この被験体が約40ml/分よりも短く慢性的であるGFRを有する場合、慢性腎不全であるかもしくは慢性腎不全の危険性があるか、または腎臓代償療法を必要とする危険性があるとみなされ得る。この危険性は、GFRがより下へ低下するにつれ大きくなるとみなされる。従って、被験体が約30ml/分、約20ml/分または約10ml/分よりも短く慢性的であるGFRを有する場合、この被験体はますます危険性があるとみなされる。一般的な事項として、被験体が健康な(しかし他の類似の)被験体の機能的ネフロン単位の数の約50%よりも小さい機能的ネフロン単位の数を保有する場合、この被験体は、慢性腎不全であるかもしくは慢性腎不全の危険性があるか、または腎臓代償療法を必要とする危険性があるとみなされ得る。上記のように、この危険性は、機能的ネフロン数がさらに減少するにつれ、より大きくなくとみなされる。従って、被験体が類似するが健康な被験体に関する数の約40%、30%または20%よりも少ない機能的ネフロン数を有する場合、この被験体は、ますます危険であるとみなされる。
【0110】
最後に、単一の腎臓を保有する被験体が、他方の腎臓の損失様式(例えば、物理的外傷、外科的除去、出生時欠損)に関わらず、一応、慢性腎不全の危険性があるか、または腎臓代償療法を必要とする危険性があるとみなされ得ることに注意すべきである。これは、1つの腎臓が残りの腎臓を冒し得る疾患または状態に起因して損失された被験体に関して、特にあてはまる。同様に、既に腎臓移植のレシピエントである被験体、または既に慢性透析(例えば、慢性血液透析または連続した外来の腹膜透析)を受けている被験体は、慢性腎不全の危険性があるか、またはさらなる腎臓代償療法を必要とする危険性があるとみなされ得る。
【0111】
(処方および処置方法)
本発明のインテグリンアンタゴニスト薬剤は、使用される特定の腎臓治療剤に適合し得る任意の経路によって投与され得る。従って、適切なものとして、投与は、経口投与または非経口(静脈および腹腔内を含む)投与、および腎臓の嚢内(renal intracapsular)の経路の投与であり得る。さらに、投与は、本明細書中に記載の薬剤のボーラス(bolus)の周期的な注射により得るか、または外側(例えば、静脈バック)または内側(例えば、生腐食可能な(bioerodable)移植物または移植されたポンプ)であるリザバからの静脈または腹腔内投与によって、より連続的になされ得る。本発明に従う方法において、インテグリンアンタゴニストは、好ましくは、非経口で投与される。本明細書中で使用される場合、用語「非経口」とは、エアロゾル、皮下、静脈、筋肉内、関節腔内、滑液包内、胸骨下、肝臓内、病巣内、および頭蓋内注射または輸血流技術を含む。
【0112】
本発明の薬剤は、任意の手法によって、好ましくは、直接的に(例えば、注射または組織位置への局部的投与として、局所的に)、あるいは全身的(例えば、非経口または経口で)、個体に提供され得る。薬剤が、例えば、静脈、皮下、または筋肉内投与のような非経口で提供されるべき場合、薬剤は、好ましくは、水溶液の部分を含む。この溶液は、生理学的に受容可能であり、その結果、さもなくば、被験体への所望の薬剤の送達に加えて、溶液は、被験体の電解質および/または容量バランスに悪影響を及ぼさない。従って、薬剤のための水溶液媒体は、一般の生理的食塩水(例えば、0.9%NaCl、0.15M、pH7−7.4)を含み得る。
【0113】
インテグリンアンタゴニストは、好ましくは、薬学的に受容可能なキャリアを含む無菌の薬学的組成物として投与され、このキャリアは、多くの周知のキャリアのいずれか(例えば、水、生理食塩水、リン酸緩衝化生理食塩水、ブドウ糖、グリセロール、エタノールなど)、またはそれらの組み合わせであり得る。本発明の化合物は、無機または有機の酸および塩基から誘導された薬学的に受容可能な塩の形態で使用され得る。このような酸性塩の間には、以下が含まれる:酢酸塩、アジピン酸塩、アルギン酸塩、アスパラギン酸塩、安息香酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、重硫酸塩、酪酸塩、クエン酸塩、ショウノウ酸塩、ショウノウスルホン酸塩、シクロペンタンプロピオン酸塩、ジグルコン酸塩、ドデシル硫酸塩、エタンスルホン酸塩、フマル酸塩、グルコヘプタン酸塩、グルセロリン酸塩、ヘミ硫酸塩、ヘプタン酸塩、ヘキサン酸塩、塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、2−ヒドロキシエタンスルホン酸塩、乳酸塩、マレイン酸塩、メタンスルホン酸塩、2ナフタレンスルホン酸塩、ニコチン酸塩、シュウ酸塩、パモ酸塩、ペクチン酸塩(pectinate)、過硫酸塩、3−フェニル−プロピオン酸塩、ピクリン酸塩、ピバル酸塩、プロピオン酸塩、コハク酸塩、タートルズルテ(tartrzlte)、チオシアン酸塩、トシル酸塩、およびウンデカン酸塩(utidecanoate)。塩基性塩としては、アンモニウム塩、アルカリ金属塩(例えば、ナトリウム塩およびカリウム塩)、アルカリ土類金属塩(例えば、カルシウム塩およびマグネシウム塩)、有機塩基を有する塩(例えば、ジシクロヘキシルアミンの塩、N−メチル−D−グルカミン、トリス(ヒドロキシルメチル)メチルアミン)、およびアミノ酸(例えば、アルギニン、リジンなど)を有する塩が挙げられる。また、塩基性窒素含有基は、低級アルキルハロゲン化物(例えば、塩化メチル、塩化エチル、塩化プロピル、および塩化ブチル、臭化メチル、臭化エチル、臭化プロピル、および臭化ブチル、ならびにヨウ化メチル、ヨウ化エチル、ヨウ化プロピル、およびヨウ化ブチル);ジアルキルスルフェート(例えば、ジメチルスルフェート、ジエチルスルフェート、ジブチルスルフェート、およびジアミルスルフェート)、長鎖のハロゲン化物(例えば、塩化デシル、塩化ラチリル(ラチリル(latiryl))、塩化ミリスチル、および塩化ステアリル、臭化デシル、臭化ラチリル(latiryl)、臭化ミリスチル、および臭化ステアリル、ならびにヨウ化デシル、ヨウ化ラチリル(latiryl)、ヨウ化ミリスチル、およびヨウ化ステアリル)、ハロゲン化アラルキル(例えば、臭化ベンジルおよび臭化フェネチル)などのような薬剤で四級化(quatemize)され得る。それによって、水または油に可溶な、あるいは分散する生成物が得られる。
【0114】
本発明の薬学的組成物は、任意の薬学的に受容可能なキャリアと共に、任意の本発明の化合物、またはそれらの薬学的に受容可能な誘導体を含む。本明細書中で使用される場合、用語「キャリア」は、受容可能なアジュバントおよびビヒクルを含む。本発明の薬学的組成物において使用され得る、薬学的に受容可能なキャリアとしては、以下が挙げられるが、これらに限定されない:イオン交換体、アルミナ、ステアリン酸アルミニウム、レシチン、ヒト血清アルブミンのような血清タンパク質、リン酸塩のような緩衝物質、グリシン、ソルビン酸、ソルビン酸カルシウム、飽和植物性脂肪酸、水、塩または電解質の部分的なグリセリド混合物(例えば、プロラミンスルフェート)、リン酸水素二ナトリウム、リン酸水素カリウム、塩化ナトリウム、亜鉛塩、コロイダルシリカ、ケイ酸マグネシウム、ポリビニルピロリドン、セルロース−ベースの物質、ポリエチレングリコール、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリアクリレート、ろう、ポリエチレン−ポリオキシプロピレン−ブロックポリマー、ポリエチレングリコールおよび羊毛脂。
【0115】
本発明に従うと、薬学的組成物は、無菌の注射用の調製形態(例えば、無菌の注射用の水性または油性の懸濁液)であり得る。この懸濁液は、適切な分散剤または界面活性剤および懸濁剤を使用して、当該分野において公知の技術に従って処方され得る。無菌の注射用の調製はまた、無毒の非経口的に受容可能な希釈液または溶媒中の無菌の注射用溶液または懸濁液(例えば、1,3−ブタンジオール中の溶液として)であり得る。利用され得る受容可能なビヒクルおよび溶媒には、水、リンガー溶液、および塩化ナトリウム等張液がある。さらに、無菌の不揮発性油が、必要に応じて、溶媒または懸濁媒体として利用される。この目的のために、合成のモノグリセリドまたはジグリセリドを含む、任意のブランドの不揮発性油が利用され得る。オレイン酸およびそのグリセリド誘導体のような脂肪酸は、注射液の調製において有用であり、天然に存在する薬学的に受容可能な油(例えば、オリーブ油またはヒマシ油)も、特にポリオキシエチル化バージョンでは、同様である。これらの油の溶液または懸濁液はまた、長鎖のアルコール希釈剤または分散剤を含む。
【0116】
本発明の薬学的に受容可能な組成物、特に、低分子のインテグリンアンタゴニストは、非経口または経口で与えられ得る。経口で与えられると、これらは、任意の経口的に受容可能な用量の、カプセル、錠剤、水性懸濁液または水溶液を含む形態(しかし、これらに限定されない)で投与され得る。経口使用のための錠剤の場合、通常使用されるキャリアとしては、ラクトースおよびコーンスターチが挙げられる。ステアリン酸マグネシウムのような滑沢剤がまた、典型的に添加される。カプセル形態での経口投与のために、有用な希釈剤としては、ラクトースおよび乾燥したコーンスターチが挙げられる。経口使用のために水性懸濁液が必要とされる場合は、活性成分が乳化剤および懸濁剤と合わせられる。所望ならば、特定の甘味料、矯味矯臭剤、または着色剤がまた添加され得る。部分的な経皮パッチもまた使用され得る。
【0117】
本発明の薬学的組成物はまた、ネブライザー、ドライパウダー吸入器または測定量吸入器の使用によって、経鼻のエアロゾルまたは吸入によって投与され得る。このような組成物は、薬学的処方の分野において周知の技術に従って調製され、そして、ベンジルアルコールまたは他の適切な防腐剤、生物学的利用能を増強するための吸収プロモーター、フルオロカーボン、および/または他の従来の可溶化剤または分散剤を利用して、生理食塩水中の溶液として調製され得る。別の実施形態に従うと、本発明の化合物を含む組成物はまた、コルチコステロイド、抗炎症剤、免疫抑制剤、代謝拮抗剤、および免疫モジュレーターからなる群から選択される添加剤を含み得る。これらのクラスの各々に含まれる化合物は、「総合医薬品化学(Comprehensive Medicinal Chemistry)」、Pergamon Press、Oxford、England、pp.970−986(1990)(この開示は、本明細書中で参考として援用される)における、適切な群の見出しのもとにリストされる任意の化合物から選択され得る。特定の化合物は、テオフィリン、スルファサラジン、およびアミノサリチレート(抗炎症剤);シクロスポリン、FK−560、およびラパマイシン(免疫抑制剤);シクロホスファミドおよびメトトレキサート(代謝拮抗剤);ステロイド(吸入される、経口的、または部分的)およびインターフェロン(免疫モジュレーター)である。
【0118】
非経口投与のための有用な溶液は、例えば、レミングトンの薬学(Remington’s Pharmaceutical Siences)(Gennaro、A.版)、Mack Pub.、1990に記載される、薬学的分野で周知の任意の方法によって調製され得る。当業者によって考えられるように、処方された化合物は、治療的有効量の腎臓治療剤を含む。つまり、この化合物は、適切な濃度の薬剤を、持続的または進行性の腎機能の喪失を防止するか、阻害するか、遅れさせるか、または緩和するか、さもなくば治療的効果を提供するのに十分な時間、腎組織に提供する量で含む。当業者によって考えられるように、本発明の治療的組成物に記載される化合物の濃度は、選択された薬剤の生物学的効果、利用される化合物の化学的性質(例えば、疎水性)、化合物賦形剤の処方、投与経路、および、考えられる処置(活性成分が腎臓または腎皮膜に直接投与されるか否か、またはそれが全身的に投与されるか否か、が挙げられる)を含む、多数の因子に依存して変化する。投与されるべき好ましい投薬はまた、腎組織の状態、腎機能喪失の程度、および特定の被験体の全体的な健康状態のような変数に依存すると考えられる。投薬は、連続的に、または毎日行われ得るが、現在は、(例えば、適切な医学マーカーおよび/または生活の質の指標による、腎機能の安定性および/または改善によって測定される場合、)十分な応答が続く限り、週に1度、2度、または3度、投薬を行うことが好ましい。より頻度の低い投薬(例えば、月に一度の投薬)もまた利用され得る。連続的な、週2回、または週3回の血液透析期間をさもなくば必要とする被験体にとって、連続的な、週2回、または週3回静脈または腹腔内の輸血は、過度に都合が悪いと考えられない。さらに、頻繁な輸血を簡易にするために、半永久的なステントの(例えば、静脈内、腹腔内、または嚢内の)移植が賢明であり得る。
【0119】
本発明の腎臓治療剤は、もちろん、単独、または、本明細書中に記載される症状の処置において有益であると公知の他の分子と組み合わせて投与され得る。従って、他の薬剤と組み合わせて使用される場合、本発明の腎臓治療剤の用量を変えることは、賢明であり得る。
【0120】
(動物モデル)
本発明の薬剤はまた、慢性的な腎不全の動物モデルにおいて試験され得る。哺乳動物のモデルの慢性的な腎不全(例えば、マウス、ラット、モルモット、ネコ、イヌ、ヒツジ、ヤギ、ブタ、ウシ、ウマ、および非ヒト霊長類における)が、動物の腎組織に対して、適切な直接的または間接的な損傷、あるいは傷害を引き起こすことによって作られ得る。例えば、動物モデルの慢性的な腎不全は、部分的な(例えば、5/6の)腎摘除術を行うことによって作られ得、この腎摘除術は、機能するネフロン単位の数を、代償性の腎臓肥大、さらにネフロン喪失、そして腎機能における進行性の減少(これは、慢性的な腎不全によって特徴付けられる)を惹起するレベルに減少させる。最終的に、本発明の薬剤は、慢性的な腎不全にある、またはその危険性がある哺乳動物の被験体(例えば、ヒト被験体)に投与される場合、腎機能の標準的マーカーにおいて臨床的に有意な改善を引き起こすことにおける、その薬剤の治療効果について評価され得る。このような腎機能のマーカーは、医学文献で周知であり、そしてBUNレベルにおける増加率、血清クレアチンにおける増加率、BUNの静的測定、血清クレアチンの静的測定、糸球体濾過率(GFR)、BUN/クレアチンの割合、ナトリウム(Na+)の血清濃度、クレアチンに対する尿/血漿の割合、尿素に対する尿/血漿の割合、尿の重量オスモル濃度、毎日の尿量などが挙げられるが、これらに限定されない(例えば、ハリソンの内科学の原則(Harrison’s Principles of Internal Medicine)、第13版のBrennerおよびLzarus(1994)を参照のこと。)
(等価物)
本発明は、その精神または本質的な特徴を逸脱することなく、他の特定の形態で具体化され得る。従って、前述の実施形態は、全ての点において、本明細書中に記載される発明に対する限定ではなく、例示として考慮されるべきである。本発明の実施は、さらなる好ましい局面およびその実施形態を含み、以下の実施例(これらは、本明細書中で例示のためのみに記載され、そしていかなる点においても本発明を制限すると解釈されるべきではない)からなおより完全に理解される。
【実施例】
【0121】
(実施例)
(実施例1:腎機能不全動物モデル)
高力価の抗ラット糸球体基底膜(GBM)血清(NTS)のWKYラットへの静脈注射によって、ラットGBM上へのウサギIgGの沈着が生じ、これは、移植された抗原として働き、そして、プロ炎症性(proinflammatory)サイトカインおよびアドヘシン分子(例えば、ともに糸球体への白血球の漸増を伴うICAM−1およびVCAM−1)のアップレギュレートによって特徴付けられる活発な炎症性応答を開始する。細胞流入はおもに単球であり、CD8+細胞もまた存在するが、これらは古典的T細胞ではない。いくつかの細胞は、CD8+およびラット単球/マクロファージマーカーED1(CD68等価物)を同時発現し、これらがマクロファージサブセットに存在することを示唆する。
【0122】
細胞流入は、この腎毒性腎炎モデル(NYN)の1日目までに進行し、そして、糸球体白血球は、3〜4日目にピークとなる。腎傷害は、4日目までに蛋白尿の形態で現れ、そしてフィブリノイド壊死および半月形成は、7日目までに糸球体内で生じる。
【0123】
炎症性間質性浸潤物は、炎症性プロセスが糸球体から溢れ出る場合、11日目までに形成する。この「2次的」尿細管間質性腎炎はまた、初期糸球体腎炎を伴うヒトに見られ、そしてしばしばほとんど徴候を示さない。クレアチニンクリアランス(CNC)が低下し始め、血清クレアチニンは、NTNの3週間目に上昇する。CRFから40日付近で死を生じるまで、糸球体内の線維症および間質性区画は、進行性に悪化する。
【0124】
簡単には、6週齢と8週齢との間の雄Wistar−Kyoto(WKY)ラット(200〜250g体重)を、Charles River Laboratoriesから購入し、そして標準のラットの餌および水(ad libitum)を与える。異種性腎毒素血清(NTS)を、標準法によって調製する。例えば、ラット糸球体を単離し、超音波処理しそして凍結乾燥して、5%未満の腎細管(tubular)夾雑物を有するラット糸球体基底膜(GBM)調製物を提供する。アルビノNew Zealand WhiteウサギをCFA中でラットGBMで免疫して、ついで、試験血液に高力価の抗GBM抗血清を得るまでGBMで1カ月おきにブーストする。次いで、総量0.1mlのNTSをWKYラットに静脈注射し、上記のような腎毒素腎炎の発達を導く。このモデルの詳細は、F.W.K.ら、Nephrology Dialysis Transplantation 14:1658−1666(1999)に見出され得る。
【0125】
(腎疾患の評価)
(機能的パラメーター:)
アルブミン尿/蛋白尿:これは、糸球体漏出、および軽度ではあるが、濾過されたタンパク質の腎細管(tubular)代謝の機能不全を反映する。このようなデータの解釈は困難であり得る。なぜなら、これは、2つの独立する変数の積であるからである;増加したGBM透過性は、高度の蛋白尿を導くが、低減した糸球体濾過率は、糸球体蛋白尿を減少する。
【0126】
尿を、摘出24時間前に代謝ケージ内で回収した。尿アルブミン濃度を、ロケット免疫電気泳動によって決定した。尿タンパク質濃度を、スルホサリチル酸沈殿によって決定した。
【0127】
血清クレアチニンおよびクレアチニンクリアランス(CrCl):Olympus試薬およびOlympus AU600分析機(Olympus,Eastleigh,U.K.)を使用する血清クレアチニン濃度の決定のために、摘出時に末梢血を採取した。尿クレアチニン濃度はまた、クレアチニンクリアランスの計算を可能にするために測定した(Bayer RA−XT,Newbury、U.K.)。
【0128】
生存:これらの研究の終了点は、突然死かまたは苦痛から救済するための屠殺かのいずれかである。観察者に依存しない盲検によって動物を毎日観察し、そして第三者によって必要と思われる場合は瀕死の動物を屠殺する。特に、生存研究における生存する動物の約半分は、「殺害」終了点に達した。
【0129】
(組織学的パラメーター:)
ヘマトキシリン染色およびエオジン染色の切片によって、任意の計測スケール(scoring scale)を使用する糸球体の瘢痕、腎細管(tubular)の脱落、間質性炎症性浸潤物および間質性線維症を天然のままで評価し得る。
【0130】
糸球体線維症:本発明者らは、Masson−Trichrome組織化学(腎臓内に「ロードされた」コラーゲンを評価する方法を提供する)によって緑色に染色された腎皮質領域の%をコンピューターによって評価した。個々の糸球体をまた、目的の領域として選択して特定の糸球体線維症を計算し得る。糸球体内の間質性線維症を定量するために、標準のトリクロム法(Mattius Yellow,Brilliant Crystal ScarletおよびAniline Blue)を使用して、パラフィン包埋した腎臓切片を染色した。糸球体フィブリンの脱落(例えば、フィブリノイド壊死)を定量するために、パラフィン包埋した腎臓切片を、フィブリンを赤/オレンジ色に染色するMattius Yellowを使用して染色した。切片を、Photonicデジタルカメラ(Photonic Science,East Sussex,U.K.)をマウントしたOlympus BX40顕微鏡(Olympus Optical,London,U.K.)を使用して、X200倍率下で試験した。画像を捕捉し、そしてImage−Pro PlusTMソフトウェア(Media Cybernetics,Silver Spring,MD)を使用して分析した。
【0131】
フィブロネクチンのED(A)ドメインについて腎臓切片を免疫ペルオキシダーゼ染色した後に褐色に染色された腎臓皮質領域の%の定量は、CRFの異なる機能的な重症度の間を区別するようである。同様に、コラーゲンIII型の免疫組織化学によって、染色された腎臓皮質領域の%を計算し得る。
【0132】
糸球体α平滑筋アクチン(SMA)発現を、免疫蛍光によって測定した。このタンパク質は、糸球体内の「筋線維芽細胞性」の細胞の集団を規定する。このことは、糸球体線維症における重要な因子であることを教示する。αSMAについての免疫蛍光染色の定量は、糸球体Masson−トリクロム線維症計測と良く相関する。
【0133】
(実施例2:急性段階v.慢性段階におけるTGFβアンタゴニスト効果)
TGFβは、腎機能不全の病原性においてよく確立された役割を有する。本発明者らは、インビボでTGFβアンタゴニストとして働くように、ヒトFc幹(stem)(Smith,P.D.ら、Circ.Res.84:1212−1222(1999)を参照のこと)上の可溶性ダイマーウサギTGFβレセプターII型を使用した。Fc融合物として可溶性TGFβレセプターを、5mg/kgで1日目に開始して3日毎に腹腔内注射によって与えた。コントロールとして使用したPBSでの実験を持続する間、投与を続けた。NTNを上記のように0日目の12匹のラットに誘導し、そしてこれらのラットの半分を9日目に屠殺し、残りを21日目に屠殺した。アルブミン尿またはクレアチニンクリアランスに顕著な効果は見られなかったが、研究した時間点の全てにおいて糸球体でのフィブリノイド壊死は減少する傾向があった。群の間で半月の数において差異は見られなかった。免疫組織化学は、TGFβアンタゴニストが以下に顕著な効果を有さなかったことを示した:1)糸球体細胞性浸潤物(EDl+マクロファージまたはCD8+細胞);2)糸球体マクロファージ活性(誘導性一酸化窒素合成酵素発現);または3)糸球体細胞増殖(Ki67発現)(データは本明細書には示さず)。
【0134】
慢性の腎機能障害の研究において、12匹のラットにNTNを誘導し、そしてヒトFc幹上の可溶性ダイマーウサギTGFβレセプターII型を、14日目〜35日目(ラットを屠殺した日)まで一日おきに1mg/kg用量の腹腔内注射によって与えた。NTSで誘導した12匹のラットのうち6匹を、匹敵する量のヒトIgGを受けたコントロールとして供給した。可溶性TGFβアンタゴニストを28日目および35日目に受けたラットにおいて、血清クレアチニンは、顕著に低かった(図1を参照のこと)。糸球体半月が存在するか否かの計測は、群の間に差異を示さなかったが、このことは、この実験での処置の開始における遅延がほとんど全ての糸球体がいくつかの異常を有することを意味するからである。図2に示されるのは、線維化した糸球体領域の平均%(50の連続する糸球体について評価する)およびフィブリンによって占められる糸球体の四分円の数である。
【0135】
(実施例3:急性段階v.慢性段階に対する抗VLA−1抗体ホモログ効果)
VLA−1に対する抗体を、10日目までの短期間の研究において評価した。ラットα1インテグリンVLA−1に対するハムスター抗体(Ha3 1/8)を、1日目、次いで、1、3、6および8日目に投与した。コントロール抗体(HA4/8)をまた、投与した。腹腔内への2.5mg/kg用量において、アンタゴニストとコントロールとの間に蛋白尿に対する顕著な効果はなかった。本発明者らはまた、いずれかの抗体のいずれの用量においても糸球体フィブリノイド壊死または半月形成に対して効果がないことを観察した。
【0136】
抗体を14〜28日目に与えること以外、慢性の研究は、上記の可溶性TGFβレセプター研究と同様のプロトコールに従った。24匹のラットを0日目にNTSで誘導し、14〜28日目に10匹のラットが抗VLA−1(Ha3 1/8)を受け、同一の期間に10匹のラットがコントロール抗体(Ha4/8)を受けた。4匹のラットを、基準線の形態学のために14日目に屠殺した。10匹のラットを、形態学のために35日目に屠殺した(5匹の処置ラットおよび5匹のコントロールラット)。10匹のラットは、生存する腕が残存し、そして死んだかまたは人道的理由で屠殺されたかのいずれかである。抗VLA−1mAb群のラット中の1匹は、麻酔剤で死んだ。
【0137】
この実験における疾患の速度は、以前に観察されたものよりも遅く、その結果、死ぬのは通常より遅い。生存曲線(図3)は、コントロールラットの全てが約75日目までに死亡し、そして抗VLA−1mAb群中の4匹のラット全てが125日目以降さえ健康に見え続けるように、発散した。
【0138】
(実施例4:急性段階v.慢性段階に対する抗α4抗体ホモログ効果)
このモデルの急性期において、本発明者らは、α4インテグリンアンタゴニストが腎傷害(アルブミン尿、糸球体フィブリノイド壊死および半月形成)を顕著に低減することを以前に示した。Allen,A.R.ら、J.Immunology 162:5519−5527(1999)を参照のこと。
【0139】
このモデルにおける慢性で進行性の腎傷害の媒介におけるα4インテグリンアンタゴニストの役割を探るために、本発明者らは、可溶性TGFβIIについて実施例2に示されたプロトコールと同様のものを使用した。本発明者らは、VLA−4/α4β7媒介白血球接着をブロックするマウス抗体TA−2(PharMingen(San Diego)から供給されるマウスIgG1抗ラットα4インテグリン)を使用した。使用した用量は、急性の研究において効果的であることが見出された2.5mg/kgであり、そして一日おきに腹腔内に与えられた。この研究において、5日目と13日目との間に24匹のラットがNTSを受け、そして12匹にTA−2コントロールmAbを与えた。他の12匹が、13日目と21日目との間にTA−2またはコントロールmAbを受けた。全てのラットを30日目に屠殺した。驚くことに、TA−2投与の期間中、アルブミン尿を顕著に減少したが、抗体処理の休止後に群は収束した。形態学的な傷害計測は、13〜21日目におけるTA−2処置ラットの、コントロールに対して低い糸球体瘢痕を示唆した(p=0.06)。TA−2被験体において、血清クレアチニンが低くそしてCrClが高い傾向がある。
【0140】
本発明者らは、生存および後期の形態学を試験することを目的として、このCRF研究を長く続けた。なぜなら、CrCl曲線が30日目に収束するようであるからである。実施例2についてのように、24匹のラットを静脈内投与のNTSで誘導し、そして4匹を基準線形態学を提供するために14日目に屠殺した。抗α4抗体TA−2を、14日目と24日目との間の10匹のラットに与え、そして10匹のラットは、アイソタイプの一致するコントロール抗体(Biogen,Inc.から得た1E6抗ヒトLFA3 IgG1抗体)を受けた。各群からの5匹のラットを、形態学のために35日目に屠殺し、そして残りを以前に記載したような生存の研究に用いた。
【0141】
生存は、コントロールよりTA−2を受けたラットにおいて顕著に良化した(半分生存68日対49日、ログ等級(log−rank)p=0.01)(図4)。TA−2被験体における蛋白尿は、35日目以降に増大し(おそらく、より良く持続された糸球体濾過率のマーカー)、そしてCrClは、コントロールよりこれらのラットにおいてより持続された(35日目にp<0.05)。間質性瘢痕計測は、抗α4mAbを受けたラットにおいて、コントロールに比べて顕著に低減し(p<0.05)、そして、適切に染色された切片をコンピューター画像分析ソフトウェアで計測した場合、糸球体瘢痕および糸球体α平滑筋アクチン発現におけるわずかな差異が観察された。同様の技術を使用して、皮質ED(A)フィブロネクチン沈着の存在はまた、抗α4mAb被験体において低減したが、これらの2群の間で皮質M型コラーゲン沈着において差異は見られなかった。糸球体白血球数は、抗α4被験体において顕著に増大し、おそらくは、コントロールラットにおいて悪化する瘢痕を反映する(本明細書でデータは示さず)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
明細書に記載の発明。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−116791(P2011−116791A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2011−59947(P2011−59947)
【出願日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【分割の表示】特願2001−523027(P2001−523027)の分割
【原出願日】平成12年9月14日(2000.9.14)
【出願人】(592221528)バイオジェン・アイデック・エムエイ・インコーポレイテッド (224)
【出願人】(502091700)インペリアル カレッジ オブ サイエンス, テクノロジー アンド メディスン (2)
【Fターム(参考)】