説明

1型糖尿病の処置のための治療的ワクチン組成物

本発明は、1型糖尿病の処置および予防のための免疫原としての使用に適する修飾インスリンB鎖組成物を含む治療的ワクチン組成物に関する。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2003年6月2日出願の米国仮特許出願番号第60/474,857の優先権を主張し、その開示内容は、その全体を本明細書に包含される。
【0002】
発明の分野
本発明は、1型糖尿病の処置および予防のための免疫原性物質として用いるのに適する修飾インスリンB鎖成分を含む、治療的ワクチン組成物に関する。
【0003】
発明の背景
1型糖尿病は、膵島細胞に影響を及ぼす自己免疫性疾患である。様々な膵島細胞タンパク質に対する抗体が、1型糖尿病の進行の初期段階でその疾患の血清中に発見されている。これらには、インスリン(Vardiら、(1988) Diabetes Care 11、736−739);グルタミン酸脱炭酸酵素(GAD65)(Hagoplanら、(1993) Diabetes 42:631−636)に対する抗体が含まれる。1型糖尿病に罹患しているかまたは危険のある個人に対する低用量のインスリンB鎖の反復投与が、糖尿病の症状および患者のインスリン依存性を予防または減少することを示す証拠がある(Kellerら、(1993) Lancet 341:927−928)。インスリンB鎖(米国特許番号第5,891,435号および米国特許出願番号第2003/0045467号を参照のこと)またはインスリンB鎖の断片、特に残基9−23(米国特許番号第5,594,100号、Danielら、(1996)PNAS 93:956−960を参照のこと)での免疫は、NODマウスにて糖尿病の発症を防ぐことが実証されている。
【0004】
発明の概要
本発明は、インスリンB鎖類似体ペプチドを含む免疫原性組成物(ここで、インスリンB鎖の2個のシステイン残基のうち少なくとも1個が、セリン、スレオニンまたはアラニン残基により置換されている。)、ならびに糖尿病および前糖尿病状態を処置するためのかかるインスリンB鎖類似体の使用、に関する。本発明のある態様は、免疫原性の担体と複合体形成したインスリンB鎖類似体ペプチド(ここで、インスリンB鎖の2個のシステイン残基のうち少なくとも1個が、セリン、スレオニンまたはアラニン残基により置換されている。)を含む免疫原性組成物に関する。ヒト被験者の糖尿病または前糖尿病状態を処置する方法であって、修飾インスリンB鎖類似体を含む免疫原性組成物を上記被験者に投与することを含む方法も提供する。
【0005】
発明の詳しい説明
インスリンのA鎖およびB鎖のアミノ酸配列は、下記:
【0006】
【表1】

である。
インスリンB鎖は、7位および19位に2個のシステイニル残基を有する。これらは両方とも、インスリンA鎖のシステイニル残基7および20との鎖間ジスルフィドに関与する。A鎖のシステイニル残基6および11は、鎖間ジスルフィド結合に関与する。遊離インスリンB鎖ペプチドまたはインスリンB鎖のペプチド断片9−23は両方とも、酸化されやすいスルフヒドリル残基を含み、それは、結果としてペプチドの重合化をもたらすジスルフィド結合を形成するかもしれない。このことは、中性かまたは中性付近のpH(それは、医薬的使用に最も適するpHである。)にて製剤中に望まれないシステイニル残基を有するかかるペプチドをもたらす。
【0007】
本発明は、上記ペプチドのシステイニル残基の一方または両方が、その位置で置換基セリン、スレオニン、またはアラニン残基により置換されている、修飾ヒトインスリンB鎖ペプチドに関する。かかる修飾インスリンB鎖ペプチド類似体は、天然のインスリンB鎖の免疫模倣性等価物(immunomimic equivalent)として機能するはずであるが、中性pHで保存のとき酸化重合の傾向はないはずである。アラニン、セリンまたはスレオニン置換基はいずれも、天然B鎖のそれに近い流体力学的性質を保持していなければならない。本発明の修飾ペプチドは、ヒト被験者の糖尿病または前糖尿病状態の免疫治療的処置のための組成物に有用である。
【0008】
インスリンB鎖またはインスリンB鎖の9−23ペプチド断片でのヒト患者の免疫治療的処置は、米国特許番号第5,891,435号および第5,594,100号、ならびに刊行された米国特許出願番号第2003/0045467に開示されており、その開示内容は出典明示によりその全体を本明細書に包含される。
【0009】
単一のシステイン置換基(すなわち、Cys7およびSer/Thr/Alal9またはSer/Thr/Ala7およびCysl9)を含むペプチド類似体は、制御された酸化によるホモジスルフィド二量体などのB鎖二量体の製造に適する。かかる修飾インスリンB鎖ペプチド・ホモジスルフィド二量体類似体は、天然のインスリンB鎖の免疫模倣性等価物として機能するはずであるが、安定な医薬品の製剤化に悪影響をもたらす中性pHで保存のときさらに酸化重合の傾向はないはずである。その他のシステイン部位のアラニン、セリンまたはスレオニン置換基のいずれかは、天然B鎖のそれに近い流体力学的性質を保持していなければならない。本発明の修飾ホモジスルフィド二量体ペプチドは、ヒト被験者の糖尿病または前糖尿病状態の免疫治療的処置のための組成物に有用である。
【0010】
さらに、単一のシステイン置換基(すなわち、Cys7およびSer/Thr/Alal9またはSer/Tllr/Ala7およびCysl9)を含む上記ペプチド類似体は、ジフテリアトキソイド(DT)、キーホールリンペットヘモシアニン(KLH)、破傷風トキソイド(TT)またはコレラBトキソイドなどの免疫原性のタンパク質性担体との架橋にも適する。DTおよびTTなどの免疫原性タンパク質は、不規則なT細胞エピトープを担持する。インスリンB鎖類似体とDTまたはTTなどの免疫原性担体との架橋は、トキソイド分子のアミノ基とそれぞれのB鎖類似体の単一のスルフヒドリル基を介するカップリングに適する二官能性架橋剤を用いて達成され得る。かかるトキソイド結合インスリンB鎖エピトープは、インスリンB鎖またはインスリンB鎖類似体自体と比較して、初期の免疫応答、ならびに免疫応答のより高い維持の両方でより優れた免疫原性を提供すると予期され得る。
【0011】
B鎖類似体およびそのトキソイド複合誘導体は、免疫原としてのその利用性を最大にするために、ミョウバンなどのアジュバントと共にまたは不完全なフロイント様エマルジョン中に製剤化され得る。
【0012】
インスリンB鎖9−23の水剤(aqueous formulation)は、NODマウスに皮下に投与されたときインスリンに対する免疫応答を誘導し得、かつその動物モデルの糖尿病の発症を防ぎ得ることが報告されている。さらに、NODマウスの糖尿病に対する部分的な予防が、鼻腔内に投与されたインスリンB鎖断片9−23での免疫化後に得られることが報告されている。B鎖断片9−23は1個のシステイニル残基を含み、それは、中性pHまたは中性付近のpHで水剤中酸化的二量体化を受けることが予期され得る。原則として、二量体化は、9−23インスリンB鎖断片の免疫原性特性に不利に影響しないかもしれないが、中性pH値でかまたは中性付近のpH値で製造された剤形中のこの分子の薬学的な許容性を損なうであろう。インスリンB鎖断片9−23の単一のシステイニル残基におけるセリン、スレオニンまたはアラニンの置換は、「天然の」9−23断片と実質的に同じ流体力学的性質を有するが、薬学的に悪影響を及ぼす酸化二量体化の傾向のない、免疫学的に等価な分子を提供するであろう。
【0013】
本発明の他の態様は、インスリンペプチド類似体二量体の免疫原性組成物に関する。これらの二量体にはホモ二量体が含まれ、前記二量体は、上記ペプチドそれぞれのシステイン残基のジスルフィド結合を介して2個の同一のインスリンB鎖類似体分子をカップリングすることにより製造されるホモ二量体または2個の異なるインスリンB鎖類似体分子が、システイン−システイン・ジスルフィド結合を介して結合されるヘテロ二量体を含む。例えば、ヒトインスリンB鎖断片9−23のホモジスルフィド二量体は、制御された酸化により製造され得る。かかる修飾インスリンB鎖9−23断片ホモジスルフィド二量体類似体は、9−23B鎖断片単量体の免疫模倣性等価物として機能するはずであるが、中性pHでの保存のとき酸化重合の傾向はないはずである。酸化重合は、安定な医薬品の製剤化に悪影響を及ぼすであろう。
【0014】
本発明による薬学的に許容される免疫原としてのインスリンB鎖類似体の製造方法には、下記の実施例が含まれる:
【0015】
実施例1
免疫原ビヒクルの選択
天然のB−インスリンを、プレミックスした30:70 水/油の均質化により30:70 油中水型(w/o)エマルジョンとして製剤化することができる。連続油相を、マンニドモノオレエート(Mannide monooleate、MMO)、ポリオキシル−40−水添ヒマシ油(POCO)、または同様の両親媒性物質およびそれらの混合物などの乳化剤と共に適当に製剤化されたスクワレン、スクアラン、またはスクアランおよびスクワレンの組合せから製造することができる。別法にて、天然のB−インスリンを、乳化剤、例えば、マンニドモノオレエート、ポリオキシル−40−水添ヒマシ油、または同様の両親媒性物質およびそれらの混合物と共に剤形化された、鉱物油が基礎のプレミックスした50:50 水/油の均質化による50:50 w/oエマルジョンとして製剤化することができる。油中水エマルジョン中連続油相として用いるのに適する製剤は、SEPPIC(パリ、フランス)によりマンニド製剤として市販されている。
【0016】
得られた油中水型エマルジョンは、NODマウスもしくは前糖尿病ラット、または前糖尿病患者もしくは糖尿病患者を免疫化するために用いられ得、そしてその免疫応答を比較する。
【0017】
油中水型エマルジョンはまた、水性天然インスリンB鎖のリン酸緩衝食塩水(PBS)溶液を、プレミックスしたが均質化していない30:70 水/油として適切に製剤化された油性ビヒクルと共に混合することにより製造され得る。その後、上記プレミックスを、NODマウスまたは前糖尿病ラットモデル、または前糖尿病患者または糖尿病患者に免疫化する前に、手で激しく振るかまたは約30から120秒間ボルテックスする。
【0018】
さらに、「活性」油中水型エマルジョンはまた、PBS中天然インスリンB鎖と、30:70 水:油(w/o)の割合で適当に剤形された油性ビヒクルプレミックスとを均質化することにより提供され得、その後「活性」エマルジョンを、同様に製造された「プラセボ」エマルジョンで「活性」エマルジョンを希釈することにより所望の強度に調整する。故に、「抗原」用量および「アジュバント」用量の割合は、免疫原性応答を最大にし、かつ注射部位における炎症反応を最小にするために最適化され得る、免疫原性組成物を提供するために修正され得る。製剤成分比率および分散(水)相および連続(油)相の水:油比率は、プロセシングのための剤形の強さを最適にし、かつエマルジョンの寿命を最大にするためにさらに調整され得る。様々なエマルジョンの安定性および薬学的許容性を、その水球サイズ分布、粘度、ならびに氷点下温度、冷蔵温度(2−8℃)、室温(25℃)、およびより高いよりストレスのある温度(40℃)で長時間にわたり相分離することなくエマルジョンを維持する能力により評価することができる。
【0019】
実施例2
選択的インスリン抗原剤形:
セリン、スレオニン、またはアラニンのいずれかでシステインを置換することにより、天然インスリンB鎖と本質的に関連する酸化重合化の可能性を排除するために適当に修飾されたインスリンB鎖類似体を、上記のエマルジョンに製剤化することができる。適当なインスリンB鎖類似体を、当技術分野で公知のいずれかの方法で作製することができ、下記:
インスリン−Ser(Thr/Ala)7、Ser(Thr/Ala)19 B鎖類似体:
FVNQHLSGSHLVEALYLVSGERGFFYTPKA (配列番号3)
FVNQHLSGSHLVEALYLVTGERGFFYTPKA (配列番号4)
FVNQHLSGSHLVEALYLVAGERGFFYTPKA (配列番号5)
FVNQHLTGSHLVEALYLVSGERGFFYTPKA (配列番号6)
FVNQHLTGSHLVEALYLVTGERGFFYTPKA (配列番号7)
FVNQHLTGSHLVEALYLVAGERGFFYTPKA (配列番号8)
FVNQHLAGSHLVEALYLVSGERGFFYTPKA (配列番号9)
FVNQHLAGSHLVEALYLVTGERGFFYTPKA (配列番号10)
FVNQHLAGSHLVEALYLVAGERGFFYTPKA (配列番号11)
インスリン−Ser(Thr/Ala)7、CySHl9 B鎖類似体:
FVNQHLSGSHLVEALYLVCGERGFFYTPKA (配列番号12)
FVNQHLTGSHLVEALYLVCGERGFFYTPKA (配列番号13)
FVNQHLAGSHLVEALYLVCGERGFFYTPKA (配列番号14)
インスリン−CySH7、Ser(Thr/Ala)19 B鎖類似体
FVNQHLCGSHLVEALYLVSGERGFFYTPKA (配列番号15)
FVNQHLCGSHLVEALYLVTGERGFFYTPKA (配列番号16)
FVNQHLCGSHLVEALYLVAGERGFFYTPKA (配列番号17)
インスリン9−23、Ser(Thr/Ala)19 B鎖類似体:
SHLVEALYLVSGERG (配列番号18)
SHLVEALYLVTGERG (配列番号19)
SHLVEALYLVAGERG (配列番号20)
が含まれる。
【0020】
これらのインスリンB鎖類似体は、1型糖尿病の処置のための治療的ワクチンまたは免疫寛容原(toleragen)として使用される薬学的に許容される担体と共に製剤化され得る。前記インスリンB鎖類似体はまた、ミョウバンまたはトキソイドなどの免疫原性担体と共に投与されるか、またはトキソイドなどの免疫原性担体と直接的に複合体形成され、そして薬学的に許容される担体(所望により許容されるアジュバントを含んでいて良い。)中で製剤化されて投与され得る。治療的ワクチンまたは免疫寛容原(tolerogen)は、当技術分野で報告される処置方法を用いて投与され得る。ある態様にて、油中水型エマルジョンを、ヒト患者の糖尿病または前糖尿病状態の処置のための薬学的に許容される免疫原の製剤化に用いることができる。
【0021】
実施例3
インスリンB鎖類似体−トキソイド複合体の調製
初期の免疫原性の高い抗体力価および持続性免疫応答を、不規則なT細胞エピトープを有する適当な免疫原性の担体タンパク質に適したインスリンB鎖類似体を複合体化することにより得ることができる。本発明の特定の態様にて、ヒト患者に最初にTh2型IgG、または混合Thl/Th2型免疫応答を誘発する免疫原性担体を用いる。適したタンパク質担体には、ジフテリアトキソイド(DT)および破傷風トキソイド(TT)が含まれる。下記のインスリンB鎖類似体は、トキソイドとの複合体化に適し得る:
インスリン−Ser(Thr/Ala)7、CySHl9 B鎖類似体:
FVNQHLSGSHLVEALYLVCGERGFFYTPKA (配列番号12)
FVNQHLTGSHLVEALYLVCGERGFFYTPKA (配列番号13)
FVNQHLAGSHLVEALYLVCGERGFFYTPKA (配列番号14)
インスリン−CySH7、Ser(Thr/Ala)19 B鎖類似体:
FVNQHLCGSHLVEALYLVSGERGFFYTPKA (配列番号15)
FVNQHLCGSHLVEALYLVTGERGFFYTPKA (配列番号16)
FVNQHLCGSHLVEALYLVAGERGFFYTPKA (配列番号17)
インスリン9−23CySH、Ser(Thr/Ala)19 B鎖類似体:
SHLVEALYLVSGERC (配列番号21)
SHLVEALYLVTGERC (配列番号22)
SHLVEALYLVAGERC (配列番号23)
インスリンCys7−23、Ser(Thr/Ala)19 B鎖類似体
CGSHLVEALYLVSGERG (配列番号24)
CGSHLVEALYLVTGERG (配列番号25)
CGSHLVEALYLVAGERG (配列番号26)
【0022】
さらに、インスリンB鎖類似体 配列番号3−11も、担体タンパク質との結合に適する。特に、アミノ末端またはカルボキシ末端のどちらかにシステイン残基を有し、2から6個の中性アミノ酸残基の介在するスペーサー配列を有するかまたは有しない、インスリンB鎖類似体 配列番号3−11が、担体タンパク質との結合に適する。
【0023】
DTまたはTTなどの免疫原性担体を、低分子量不純物および分解産物を除去するために0.1M リン酸ナトリウム緩衝液、1mM EDTA、pH6.6±0.2(PA緩衝液、pH6.6)でダイアフィルトレーション(diafiltration)することにより無関係な非特異的タンパク質断片がないように精製することができる。例えば、DTの例としては、上記精製DTをPA緩衝液、pH6.6で約20mg/mlに調整し、その後、0.1M リン酸ナトリウム緩衝液、1mM EDTA、pH6.6±0.2中、過剰量の二官能性架橋剤 N−スクシンイミジル−6−マレイミドカプロレート(maleimdocaproate)(EMCS)で室温にて1−3時間反応させる。本目的のために、EMCSをN,N−ジメチルホルムアミド(DMF)に溶解し、10分かけてトキソイド水溶液に滴下する。EMCSは、その活性なエステル基によりタンパク質トキソイドの遊離アミノ基と反応し、故に、遊離スルフヒドリル基との反応を可能とするマレイミジル基を生じる。EMCSとの反応後、「活性化された」トキソイドを0.1M クエン酸ナトリウム緩衝液、1mM EDTA、pH6.0±0.2(CC緩衝液、pH6.0)でダイアフィルトレーションすることにより過剰な反応物質がないように精製する。CC緩衝液、pH6.0中に溶解されたスルフヒドリル含有インスリンB鎖類似体それぞれを、マレイミジル−トキソイドに加え、そして室温で一晩反応させる。類似体−DT複合体を、リン酸緩衝食塩水、pH7.2±0.2(PBS、pH7.2)でダイアフィルトレーションすることにより過剰な反応物質がないように精製する。別の態様にて、類似体ペプチドは、当技術分野で公知の方法によりシステイン残基を含むスペーサーペプチドを介してトキソイドと複合体形成され得る。
【0024】
それぞれの場合にて、トキソイドとカップリングしたペプチド類似体の割合は、トキソイド1モル当たり類似体5から25モルの範囲で変化し得る。薬学的に許容される複合体(PBS中溶解性および安定性、pH7.2)を提供し、かつエマルジョンに製剤化後許容される免疫応答を誘発するための最適な類似体対トキソイド置換率を、NODマウスまたは前糖尿病性ラットモデルを免疫化後に選択することができる。
【0025】
実施例4
インスリンB鎖ホモジスルフィド二量体類似体の調製
安定な免疫原性の医薬組成物を、システインモノ置換インスリンB鎖類似体の制御された酸化を介する二量体の形成により得ることができる。インスリンB鎖のホモジスルフィド二量体類似体の製造に適するシステインモノ置換インスリンB鎖類似体には、本明細書にて配列番号12、13、14、15、16、17、21、22、23、24、25および26として同定されるペプチドが含まれる。それぞれの場合にて、上記選ばれたペプチドを室温でリン酸緩衝食塩水、pH7.2±0.2に溶解する。純粋な、フィルターを通した酸素を、システイン残基の酸化二量体化を促進し、それらのそれぞれのホモジスルフィド二量体を形成させるために、ペプチド溶液に通して泡立てる。前記反応を、反応混合物をサンプリングすることにより定期的に観測し、そして逆相高速液体クロマトグラフィーにより単量体・二量体比について分析するか、または5,5’−ジチオ−ビス−(2−ニトロ安息香酸)(エルマン試薬)との反応により残った遊離スルフヒドリル残基について分析する。
【0026】
これらのインスリンB鎖ホモジスルフィド二量体類似体(要すれば許容されるアジュバントを含んでいてよい。)は、当技術分野で報告されている処置方法を用いて治療的ワクチンまたは免疫寛容原として用いられ得る。ある態様にて、最適な油中水型エマルジョンを、糖尿病または前糖尿病状態の処置のための薬学的に許容される免疫原を製剤化するために用いることができる。
【0027】
実施例5
インスリンB鎖類似体ヘテロジスルフィド二量体の調製
インスリンB鎖類似体のヘテロジスルフィド二量体を、モノシステインB鎖類似体を5,5’−ジチオ−ビス−(2−ニトロ安息香酸)(DTNB)と反応させることにより製造し得る。これは、5−チオ−2−ニトロ安息香酸で混合ジスルフィドを形成することにより、システイン残基のスルフヒドリル基を活性化し得る。DTNB−活性化B鎖類似体を、過剰量のDTNBおよび遊離5−チオ−2−ニトロ−安息香酸塩から精製し、その後、第二の異なるモノシステインB鎖類似体と反応させ、5−チオ−2−ニトロ安息香酸を除去してヘテロジスルフィドインスリンB鎖類似体を形成させる。活性化反応およびジスルフィド形成反応の両方を、5−チオ−2−ニトロ−安息香酸塩の除去を、412nmでのその吸収を測定することによる分光光度法で観測することにより追跡できる。ヘテロジスルフィドインスリンB鎖類似体は、1型糖尿病の人々に広範な免疫応答を与え得る。ヘテロジスルフィド二量体のこの特定の形成方法を、1型糖尿病の寛容化のための免疫治療的医薬として有用なインスリンB鎖類似体の多様なヘテロジスルフィド二量体を製造するため、それぞれのB鎖類似体のいずれかの利用可能部位にアミノ酸残基のさらなる置換基を導入するために用いることができる。



【0028】
【表2】



【0029】
【表3】



【0030】
【表4】



【0031】
【表5】




【0032】
【表6】

【配列表】






【特許請求の範囲】
【請求項1】
インスリンB鎖の2個のシステイン残基のうち少なくとも1個が、セリン、スレオニンまたはアラニン残基により置換されている、インスリンB鎖類似体ペプチドを含む免疫原性組成物。
【請求項2】
第一のインスリンB鎖ペプチド類似体の2個のシステイン残基のうち少なくとも1個が、セリン、スレオニンまたはアラニン残基により置換され、かつ残りのシステインが、ジスルフィド結合により第二のインスリンB鎖分子のシステインと結合している、第一のインスリンB鎖ペプチド類似体を含むインスリンB鎖類似体ペプチド二量体。
【請求項3】
インスリンB鎖類似体が、配列番号3−26からなる群から選択されるペプチドである、請求項1記載の免疫原性組成物。
【請求項4】
第一のインスリンB鎖ペプチド類似体が、配列番号12−16および21−26からなる群から選択される、インスリンB鎖類似体ペプチド二量体。
【請求項5】
インスリンB鎖類似体ペプチドが、免疫原性の担体と複合体を形成している、請求項1または3記載の免疫原性組成物。
【請求項6】
請求項2または4記載の二量体および免疫原性の担体を含んで成る、免疫原性組成物。
【請求項7】
請求項1、2、3または4記載の組成物を被験者に投与することを含んで成る、ヒト被験者の糖尿病または前糖尿病状態を処置する方法。

【公表番号】特表2006−526651(P2006−526651A)
【公表日】平成18年11月24日(2006.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−515058(P2006−515058)
【出願日】平成16年6月1日(2004.6.1)
【国際出願番号】PCT/US2004/017247
【国際公開番号】WO2004/110373
【国際公開日】平成16年12月23日(2004.12.23)
【出願人】(505444916)マーシア・ファーマ・インコーポレイテッド (3)
【氏名又は名称原語表記】Mercia Pharma, Inc.
【Fターム(参考)】