説明

1塩基認識能を増幅する人工核酸コンジュゲート

【課題】本発明は、可溶性で酵素的安定性であり、優れたTm値を有する人工核酸コンジュゲートを提供することを目的とする。
【解決手段】標的ポリヌクレオチド中の第一領域の配列と相補する配列からなる第一の一本鎖人工核酸と、上記標的ポリヌクレオチド中の第二領域の配列と相補する配列からなる第二の一本鎖人工核酸と、上記第一の一本鎖人工核酸及び上記第二の一本鎖人工核酸の間に連結している親水性ポリマーとを備える、人工核酸コンジュゲートを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人工核酸コンジュゲートに関する。
【背景技術】
【0002】
ヒト全ゲノムの配列決定がなされて以降その解析が進められ、既に多くの疾患・疾病遺伝子、癌遺伝子などの病因遺伝子の配列が明らかにされている。病因遺伝子群が明らかにされれば、遺伝子診断等による病気の予測や予防、さらには遺伝情報発現制御による遺伝子治療が期待される。
【0003】
mRNAをターゲットとしたアンチセンスRNAやmicroRNAなどのRNAiに基づく方法により、非常に多くの遺伝子発現制御が可能であるが、酵素安定性に乏しいことから天然のDNA/RNAにかわるアンチセンス分子の開発が精力的に行われてきた。オリゴヌクレオチドが有する欠点を克服するために、核酸の塩基部や糖部、リン酸ジエステル部を化学的に修飾した「修飾核酸」と呼ばれる核酸誘導体が開発されてきた。更に、核酸の糖-リン酸骨格を変更した「人工核酸」と呼ばれる核酸誘導体も開発されてきた。人工核酸及び核酸誘導体は、高い核酸塩基配列認識能、高い相補鎖形成能、酵素安定性など従来のDNA/RNAと比較すると優れた特性・機能を示す。
【0004】
これら非天然の核酸を用いたアンチセンスRNAの開発が盛んに行われている。例えば、特許文献1には、ポリエチレングリコール(PEG)に機能性核酸(修飾核酸)を結合させたコンジュゲートを用いたRNAi(RNA interference)法が開示されている。特許文献2には、人工核酸であるペプチド核酸(PNA)を含む核酸にPEGを結合させたコンジュゲートが開示されている。特許文献3には、リンカーを間に介した2つの二本鎖ヌクレオチドを用いたRNAi法が開示されている。非特許文献1には、PNAとRNAのキメラによるRNAi法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】WO2005/100447
【特許文献2】WO2004/087931
【特許文献2】WO2008/109105
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】N Potenza, L Moggio, G Milano, V Salvatore, B Di Blasio, A Russo, A Messere. RNA Interference in Mammalia Cells by RNA-3'-PNA Chimeras. Int J Mol Sci (2008) 9: 299-315.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記文献記載の従来技術では、以下の点で改善の余地を有していた。特許文献1で開示されているPEG-機能性核酸は、コントロールと比較して、アンチセンス効果が高くなく、また1塩基認識能も優れていないため、十分なRNAi効果を期待することができない。特許文献2で開示されるPEGとPNAのコンジュゲートでは、PNAの長さを長くすると、逆に溶解性が低下し且つ融解温度の値(Tm値)の上昇により実用的な温度で1塩基認識能を発揮できない問題が生じる。逆に、溶解性を上げるためにPNAの長さを短くすると、標的とするポリヌクレオチド配列とは異なる配列を認識する確率が高くなる問題が生じる。また特許文献3は、天然の核酸を用いている点で酵素安定性が乏しく、持続的なRNAi効果を期待することができない。非特許文献1で開示されているRNA-PNAは、溶解性の低いPNAにRNAを結合すことで溶解性を高めている。しかし、RNAは生体分子であるため酵素安定性が乏しく、持続的なRNAi効果を期待することができない。更に、PNAの長さを長くすると、逆に溶解性が低下し且つTm値の上昇により実用的な温度で1塩基認識能を発揮できない問題が生じる。逆に、溶解性を上げるためにPNAの長さを短くすると、標的とするポリヌクレオチド配列とは異なる配列を認識する確率が高くなる問題が生じる。
【0008】
本発明は、上記事情を鑑みてなされたものであり、可溶性で酵素安定性であり、優れたTm値を有する人工核酸のコンジュゲートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば、標的ポリヌクレオチド中の第一領域の配列と相補する配列からなる第一の一本鎖人工核酸と、上記標的ポリヌクレオチド中の第二領域の配列と相補する配列からなる第二の一本鎖人工核酸と、上記第一の一本鎖人工核酸及び上記第二の一本鎖人工核酸の間に連結している親水性ポリマーとを備える、人工核酸コンジュゲートが提供される。
【0010】
この人工核酸コンジュゲートは、後述する実施例に示すように可溶性で酵素安定性であり、優れたTm値を有する。
【0011】
また、本発明によれば、標的ポリヌクレオチド中の第一領域の配列と相補する配列からなる第一の一本鎖人工核酸と、上記標的ポリヌクレオチド中の第二領域の配列と相補する配列からなる第二の一本鎖人工核酸との間に親水性ポリマーを連結する工程を含む、人工核酸コンジュゲートの作製方法が提供される。
【0012】
この作製方法によれば、第一の一本鎖人工核酸と第二の一本鎖人工核酸の間に親水性ポリマーを連結して人工核酸コンジュゲートが得られる。そして、後述する実施例に示すように、このコンジュゲートは可溶性で酵素安定性であり、優れたTm値を有する。
【0013】
また、本発明によれば、上述の人工核酸コンジュゲートを含有する、遺伝子発現調節剤が提供される。
【0014】
この人工核酸コンジュゲートは、後述する実施例に示すように可溶性で酵素安定性であり、優れたTm値を有する。そのため、この人工核酸コンジュゲートを含有する遺伝子発現調節剤は、酵素安定的に標的遺伝子の発現を調節することができる。
【0015】
また、本発明によれば、上記の人工核酸コンジュゲートを含有する、遺伝子疾患治療薬が提供される。
【0016】
この人工核酸コンジュゲートは、後述する実施例に示すように可溶性で酵素安定性であり、優れたTm値を有する。そのため、この人工核酸コンジュゲートを含有する遺伝子疾患治療薬は、酵素安定的に疾患の原因遺伝子の発現を調節することが可能である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、可溶性で酵素安定性であり、優れたTm値を有する人工核酸コンジュゲートが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は、RTSシステム用ルシフェラーゼ発現プラスミドの作製を示した流れ図である。
【図2】図2は、PNA-PEGコンジュゲートの合成を示した流れ図である。
【図3】図3は、作製したPNA-PEGコンジュゲート及びPNAオリゴマーの配列を示した図である。
【図4】図4は、DNAとPNA-PEGコンジュゲートの酵素安定性試験の結果(a及びb)とその結果(c)を比較した図である。
【図5】図5は、T7プロモーター領域を標的とするPNA-PEGコンジュゲート及びその1塩基置換体を用いたルシフェラーゼ発現抑制を示すグラフである。
【図6】図6は、ルシフェラーゼ遺伝子の開始コドンを含む領域を標的とするPNA-PEGコンジュゲート、PNAオリゴマー及びそれらの1塩基置換体を用いたルシフェラーゼ発現抑制を示すグラフである。
【図7】図7は、PNA-PEGコンジュゲートが認識する、標的ポリヌクレオチドの第一領域と第二領域の間の長さを変更した際の、ルシフェラーゼ発現抑制を示すグラフ(a)及びそのモデル図(b及びc)である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。なお、同様な内容については、繰り返しの煩雑を避けるために、適宜説明を省略する。
【0020】
<人工核酸コンジュゲート>
本実施形態は、標的ポリヌクレオチド中の第一領域の配列と相補する配列からなる第一の一本鎖人工核酸と、上記標的ポリヌクレオチド中の第二領域の配列と相補する配列からなる第二の一本鎖人工核酸と、上記第一の一本鎖人工核酸及び上記第二の一本鎖人工核酸の間に連結している親水性ポリマーとを備える、人工核酸コンジュゲートである。
【0021】
本実施形態における人工核酸コンジュゲートは、後述する実施例で示すように、ルシフェラーゼ遺伝子又はそれに関連するプロモーター領域を標的とすることでルシフェラーゼの発現を抑制することが実証されている。そのため、この人工核酸コンジュゲートは、タンパク質の発現を調節する目的で好適に使用できる。また、このコンジュゲートは、後述する実施例で示すように、血清中において分解耐性を示したことから、酵素安定性を有することが実証されている。そのため、このコンジュゲートは、生体内環境下や生体外環境下において好適に使用できる。更に、このコンジュゲートは、後述する実施例で示すように、DNA鎖又はRNA鎖との間でTm値が測定できたことから、DNA鎖又はRNA鎖とハイブリダイズすることが実証されている。そのため、このコンジュゲートは、アンチジーン又はアンチセンスRNAとして好適に使用することができる。また、このコンジュゲートは、後述する実施例で示すように、同じ数の人工核酸モノマーを有する人工核酸のTm値よりも低いTm値を示すことが実証されている。そのため、このコンジュゲートは、同じ数の人工核酸モノマーを有する人工核酸のTm値が高くて使用できない場合、好適に使用することができる。更に、このコンジュゲートは、後述する実施例で示すように、相補する配列に1塩基の変異がある場合、変異がない場合と比較してTm値が低下したことから、相補する配列に1塩基以上の変異がある場合はより低いTm値を有することが実証されている。そのため、このコンジュゲートは、実用的な温度において、正常なポリヌクレオチド配列と比較して1塩基以上の変異を有するポリヌクレオチドを標的とするアンチジーン又はアンチセンスRNAとして好適に使用することができる。
【0022】
本明細書において「人工核酸」とは、天然の核酸が有する糖-リン酸ジエステル骨格を主骨格としない核酸及びその類縁体を言う。人工核酸を例示すると、N-(2-アミノエチル)グリシンを骨格とするPNA(ペプチド核酸)や、モルフォリノ骨格を有するモルフォリノ、非環式プロピレングリコールホスホジエステル骨格を有するグリコール核酸等が挙げられるが、これらに限定されることはない。本明細書における人工核酸としては、好ましくは、天然核酸の主骨格と比較して、ポリアミドの主骨格由来の剛直性を有するPNAである。
【0023】
本実施形態において、各一本鎖人工核酸と親水性ポリマーの連結部位は、本発明の目的に従う限り、如何なるものであってもよいが、第一の一本鎖人工核酸が自己の5‘末端を介して親水性ポリマーと連結し且つ第二の一本鎖人工核酸が自己の3‘末端を介して上記親水性ポリマーと連結している人工核酸コンジュゲートが、直鎖状の構造をとる点で好ましい。
【0024】
本明細書において「人工核酸の3’末端」とは、人工核酸を構成する最小単位(モノマー)同士が連結する連結部位であって、天然の核酸と人工核酸がハイブリダイズした場合、5’末端側の天然の核酸に対応する人工核酸のフリーの連結部位を意味する。また、本明細書において「人工核酸の5’末端」とは、人工核酸を構成するモノマー同士が連結する連結部位であって、天然の核酸と人工核酸がハイブリダイズした場合、3’末端側の天然の核酸に対応する人工核酸のフリーの連結部位を意味する。例えば、PNAならばアミノ末端が3’末端に相当し、カルボキシ末端が5’末端に対応する。
【0025】
本明細書中における「標的ポリヌクレオチド」とは、人工核酸コンジュゲートがハイブリダイズするポリヌクレオチドを意味する。具体的な例として、プロモーター、エンハンサー、サイレンサー等の遺伝子発現を調節する領域のDNA鎖、遺伝子やncRNA等をコードする領域のDNA鎖及びmRNAやncRNA等のRNA鎖を挙げることができる。
【0026】
本明細書中における「第一領域」と「第二領域」とは、標的ポリヌクレオチド中における任意の一連の塩基配列を意味する。この第一領域と第二領域の塩基配列は、なるべく自己相補性を有さないことが好ましく、配列中のGC含量は,標的とするTm値に依存して選択可能であるため特に制限はないが、好ましくは20%以上〜80%以下、より好ましくは20%以上〜60%以下である。また,この配列によってはアンチジーンとして作用することも考えられる。また,第一領域と第二領域は,標的とするTm値にそろえるため,好ましくはそれぞれ4塩基以上18塩基以下,より好ましくはそれぞれ6塩基以上15塩基以下で,さらに好ましいのは8塩基以上12塩基以下である。
【0027】
ポリヌクレオチドと人工核酸コンジュゲートとのTm値は、UV波長を測定することで確認できる。核酸を加温しながら260nmのUV波長をモニターし、得られるシグモイド型の曲線からTm値を求めることができる。Tm値は核酸を溶解するバッファーの塩濃度の影響を受けやすいため、10 mMリン酸緩衝液, pH 7.0, 10 mM NaClのバッファー等を用いることで精度良く測定できる。また、核酸の濃度もTm値に影響を与えるため、ポリヌクレオチドと人工核酸コンジュゲートの総濃度を、5.0μMとすることで精度良く測定できる。
【0028】
また、Tm値の測定に用いる標的ポリヌクレオチドは、生体から単離されたものであってもよく、またPCR法により増幅したものであってもよい。好ましくは、二本鎖を一本鎖に分離する手間を省くことが可能な、合成した一本鎖ポリヌクレオチドである。更に、Tm値の測定に用いる標的ポリヌクレオチドは、全長配列であってもよく、好ましくは正確なTm値の測定が期待される、第一領域と第二領域を含む各領域間の配列、より好ましくは正確なTm値の測定と近似的な生体内環境が期待される、第一領域と第二領域を含む各領域間の配列に更に3’末端側と5’末端側に1〜3塩基を加えた配列である。
【0029】
また、本実施形態における人工核酸コンジュゲートと標的ポリヌクレオチドのTm値は、対応する第一領域と第二領域の配列に依存する。従って、安定した人工核酸コンジュゲートと標的ポリヌクレオチドのハイブリダイズを実現するためには、上記Tm値が実用的な温度、即ち人工核酸コンジュゲートを用いる対象生物又はシステムの平均的な温度を超えるように第一領域と第二領域を選択することが好ましい。例えば、発現温度が30℃の無細胞タンパク質合成システムで使用する場合、上記Tm値が発現温度より高いことで安定したハイブリダイズが実現できるため,好ましくは39℃超〜80℃未満、より好ましくは39℃超〜70℃未満、更に好ましくは39℃超〜60℃未満である。
【0030】
また、ヒトや非ヒト哺乳動物に対して使用する場合は、上記Tm値がヒトや非ヒト哺乳動物の平均的な体温(核心温度)付近より高いことで安定したハイブリダイズが実現できるため、好ましくは38.7℃超〜70℃未満、より好ましくは38.9℃超〜70℃未満、更に好ましくは39.1℃超〜70℃未満である。
【0031】
また、本実施形態における人工核酸コンジュゲートが、1塩基認識能を発揮するためには、フルマッチの場合のTm値が上述した温度を超える場合に加えて、以下の(1)及び(2)の条件を満たすように第一領域と第二領域を選択することが好ましい。(1)人工核酸コンジュゲートと標的ポリヌクレオチドとの間の相補鎖に1塩基以上のミスマッチが存在する場合に、ハイブリダイズができない又は不安定になる。(2)1塩基認識能を発揮するために、フルマッチの場合のTm値よりもミスマッチの場合のTm値の方が低い。ハイブリダイズができない場合は、ミスマッチ配列のTm値が測定不能になることで確認できる。言い換えれば、例えば、温度を0℃から90℃まで温度を上昇させても、UV波長の吸光度にミスマッチ配列のTm値が測定出来る程度の変化が現れない場合であって、フルマッチ配列のTm値に対応するUV波長の吸光度よりも、ミスマッチ配列の場合のUV波長の吸光度が高い場合と言える。ハイブリダイズが不安定になる場合は、測定されたTm値が人工核酸コンジュゲートを用いる対象生物又はシステムの平均的な温度(実用的な温度)付近以下の場合である。
【0032】
例えば、発現温度が30℃の無細胞タンパク質合成に対して使用する場合は、ミスマッチ配列のTm値が30℃以下であることが好ましく、Tm値の下限値は特に設定しないが、測定不能の場合を0℃とすると、より好ましくは0℃以上〜30℃以下、更に好ましくは0℃以上〜20℃以下、特に好ましくは0℃以上〜10℃以下である。また、1塩基認識能を発揮するためには、フルマッチの場合のTm値よりもミスマッチの場合のTm値の方が低いことが好ましく、その差が好ましくは5℃以上、より好ましくは10℃以上、更に好ましくは15℃以上であって、差の上限値は特に設定しないが、測定不能の場合を0℃とすると、60、50及び40℃からなる群より選択される1つの温度以下であることが優れた1塩基認識能を発揮する点で好ましい。
【0033】
また、例えば、ヒトや非ヒト哺乳動物に対して使用する場合は、ミスマッチ配列のTm値がヒトや非ヒト哺乳動物の平均的な体温付近以下であることが好ましく、より好ましくは38.7℃以下、更に好ましくは38.5℃以下、特に好ましくは38.3℃以下であって、Tm値の下限値は特に設定しないが、測定不能の場合を0℃とすると、0、1、3、5、7、9、11、13及び15℃から選択される1つの温度以上であることが好ましい。また、1塩基認識能を発揮するためには、フルマッチの場合のTm値よりもミスマッチの場合のTm値の方が低いことが好ましく、その差が好ましくは5℃以上、より好ましくは10℃以上、更に好ましくは15℃以上であって、差の上限値は特に設定しないが、測定不能の場合を0℃とすると、60、50及び40℃からなる群より選択される1つの温度以下であることが優れた1塩基認識能を発揮する点で好ましい。
【0034】
また、親水性ポリマーは柔軟性を有することから、本明細書中における第一領域と第二領域については、互いに重複又は部分重複してもよい。好ましくは、親水性ポリマー又は標的ポリヌクレオチドによる立体障害の回避,及び擬似的な長鎖相補鎖形成を可能とするために、第一領域と第二領域とが互いに離れていることがよく、より好ましくは、6塩基以上38塩基以下の領域を挟んで離れていることがよい。
【0035】
また、本明細書中における第一領域は、第二領域より5’末端側の領域であることが、親水性ポリマー又は標的ポリヌクレオチドによる立体障害を緩やかにする点で好ましい。
【0036】
本明細書中における親水性ポリマーの重量平均分子量は、親水性ポリマーによる立体障害の回避及び擬似的な長鎖相補鎖形成を可能とするために,好ましくは100〜50000 Da、より好ましくは150〜30000 Da、更に好ましくは200〜10000 Daの範囲内である。
【0037】
本明細書中における親水性ポリマーの例としては、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリビニルアルコール(PVA),デキストラン、キチン、キトサン等が含まれるが、好ましくは、無毒で免疫源ではない生物適合性ポリマーであるPEGである。
【0038】
本明細書中における「PEG」は、一般式:
(-CH2-CH2-O-)n (nは正の整数であり、PEGの重合度を表す)
と表すことが可能であり、好ましくは、哺乳類の体温で柔軟性を発揮し,かつ溶解性を向上できるn=2〜27,より好ましくはn=6〜18,更に好ましくはn=11〜13である。
【0039】
本発明の目的に従う限り、親水性ポリマーに如何なる基を設けてもよく、例えば、PNAモノマーを用いて人工核酸コンジュゲートを作製する場合は、アミノ基とカルボキシル基を親水性ポリマーに結合することで、連続合成が可能となる点で好適である。また、親水性ポリマーと人工核酸との連結基は、本発明の目的に従う限り如何なるものであってもよく、例えば、安定した人工核酸と親水性ポリマーの結合を可能にするために、―NHCO―、―COO―、―POO―、―NH―、―S―、―O―及び―NHCO―NH―より選択される1種以上からなるもの選択してもよい。好ましくは、ヌクレアーゼに耐性を示し、化学的に安定な―NHCO―である。
【0040】
本明細書における「酵素安定性」とは、ヌクレアーゼ等の核酸を分解する酵素に対して耐性であることを意味する。上記酵素に対する耐性試験としては、市販のヌクレアーゼや血清を用いた試験を例として挙げることができる。例えば、ウシ胎仔血清(FBS)中において、サンプルを37℃、1時間のインキュベートをした後、アガロースゲル電気泳動法により泳動し、エチジウムブロミド-UV検出法により検出することで確認することが可能である。また、エチジウムブロミド-UV検出法を用いた蛍光強度の比較に変えて、逆相HPLC法を用いた溶出時間の比較であってもよい。コントロール(0時間処理のDNA又はRNA)の蛍光強度又は溶出時間と比較して、蛍光強度比又は溶出時間比が好ましくは0.93以上〜1.00以下、より好ましくは0.95以上〜1.00以下、更に好ましくは0.97以上〜1.00以下の場合に、生体内で安定して用いることができるため酵素安定性を有すると言える。本明細書における「ヌクレアーゼ」とは、ポリペプチド中の糖-リン酸ジエステル結合を加水分解する酵素であり、DNAを分解するデオキシリボヌクレアーゼやRNAを分解するリボヌクレアーゼ等が該当する。また、これらの酵素は、核酸配列の内部から切断するエンド型でも、核酸配列の外側から切断するエキソ型であってもよい。
【0041】
<人工核酸コンジュゲートの作製方法>
本実施形態は、標的ポリヌクレオチド中の第一領域の配列と相補する配列からなる第一の一本鎖人工核酸と、上記標的ポリヌクレオチド中の第二領域の配列と相補する配列からなる第二の一本鎖人工核酸との間に親水性ポリマーを連結する工程を含む、人工核酸コンジュゲートの作製方法である。
【0042】
この作製方法で得られた人工核酸コンジュゲートは、上記のように第一の一本鎖人工核酸と第二の一本鎖人工核酸との間に親水性ポリマーを連結することができる。このようにして得られたコンジュゲートは、後述する実施例で示すように、ルシフェラーゼ遺伝子又はそれに関連するプロモーター領域を標的とすることでルシフェラーゼの発現を抑制することが実証されている。そのため、この人工核酸コンジュゲートは、タンパク質の発現を調節する目的で好適に使用できる。また、このコンジュゲートは、後述する実施例で示すように、血清中において分解耐性を示したことから、酵素安定性を有することが実証されている。そのため、このコンジュゲートは、生体内環境下や生体外環境下において好適に使用できる。更に、このコンジュゲートは、後述する実施例で示すように、DNA鎖又はRNA鎖との間でTm値が測定できたことから、DNA鎖又はRNA鎖とハイブリダイズすることが実証されている。そのため、このコンジュゲートは、アンチジーン又はアンチセンスRNAとして好適に使用することができる。また、このコンジュゲートは、後述する実施例で示すように、同じ数の人工核酸モノマーを有する人工核酸のTm値よりも低いTm値を示すことが実証されている。そのため、このコンジュゲートは、同じ数の人工核酸モノマーを有する人工核酸のTm値が高くて使用できない場合、好適に使用することができる。更に、このコンジュゲートは、後述する実施例で示すように、相補する配列に1塩基の変異がある場合、変異がない場合と比較してTm値が低下したことから、相補する配列に1塩基以上の変異がある場合はより低いTm値を有することが実証されている。そのため、このコンジュゲートは、実用的な温度において、正常なポリヌクレオチド配列と比較して1塩基以上の変異を有するポリヌクレオチドを標的とするアンチジーン又はアンチセンスRNAとして好適に使用することができる。従って、この製法は、第一の一本鎖人工核酸と第二の一本鎖人工核酸との間に親水性ポリマーを連結することができる点で優れている。また、この製法は、酵素安定的に標的遺伝子の発現を調節することが可能で、更にポリヌクレオチドの1塩基変異を認識して標的遺伝子の発現を調節することが可能な人工核酸コンジュゲートを製造することが可能である点で優れている。
【0043】
本実施形態において、人工核酸コンジュゲートの作製方法は、液相合成法と固相合成法のいずれであってもよく、好ましくは、未反応の試薬や溶媒を容易に除去することができる固相合成法である。例えば、固相合成法によるPNA合成の場合は、ベンズヒドリルオキシカルボニル(Bhoc)基、又はモノメトキシトリチル(Mmt)基等の保護基で核酸塩基部位を保護し、9-フルオレニルメチルオキシカルボニル(Fmoc)基等の保護基でPNAの主骨格のアミノ基を保護したPNAモノマーを用いて、固相担体上に連結し合成する方法が例示できる。また、PNA固相合成法の場合は、合成後固相担体と保護基を切り離す反応条件が穏やかなFmoc法が好ましい。また、本明細書において、親水性ポリマーも上記合成法の過程で連結することが可能である。たとえば、PNAとPEGのコンジュゲート(PNA-PEGコンジュゲート)の場合、PEGにカルボキシル基とアミノ基を付加し、付加したアミノ基を上記保護基で保護することで、上記合成法の過程で連結できる。
【0044】
<遺伝子発現調節剤>
本実施形態は、上記の人工核酸コンジュゲートを含有する、遺伝子発現調節剤である。
【0045】
本実施形態における人工核酸コンジュゲートは、後述する実施例で示すように、ルシフェラーゼ遺伝子又はそれに関連するプロモーター領域を標的とすることでルシフェラーゼの発現を抑制することが実証されている。そのため、この人工核酸コンジュゲートは、タンパク質の発現を調節する目的で好適に使用できる。また、このコンジュゲートは、後述する実施例で示すように、血清中において分解耐性を示したことから、酵素安定性を有することが実証されている。そのため、このコンジュゲートは、生体内環境下や生体外環境下において好適に使用できる。更に、このコンジュゲートは、後述する実施例で示すように、DNA鎖又はRNA鎖との間でTm値が測定できたことから、DNA鎖又はRNA鎖とハイブリダイズすることが実証されている。そのため、このコンジュゲートは、アンチジーン又はアンチセンスRNAとして好適に使用することができる。また、このコンジュゲートは、後述する実施例で示すように、同じ数の人工核酸モノマーを有する人工核酸のTm値よりも低いTm値を示すことが実証されている。そのため、このコンジュゲートは、同じ数の人工核酸モノマーを有する人工核酸のTm値が高くて使用できない場合、好適に使用することができる。更に、このコンジュゲートは、後述する実施例で示すように、相補する配列に1塩基の変異がある場合、変異がない場合と比較してTm値が低下したことから、相補する配列に1塩基以上の変異がある場合はより低いTm値を有することが実証されている。そのため、このコンジュゲートは、実用的な温度において、正常なポリヌクレオチド配列と比較して1塩基以上の変異を有するポリヌクレオチドを標的とするアンチジーン又はアンチセンスRNAとして好適に使用することができる。従って、このコンジュゲートは、酵素安定的に標的遺伝子の発現を調節することが可能であり、更にポリヌクレオチドの1塩基変異を認識して標的遺伝子の発現を調節することが可能である。このことから、この人工核酸コンジュゲートを含有する遺伝子発現調節剤は、遺伝子の発現を調節することができる。
【0046】
本明細書における「遺伝子発現調節剤」とは、医療のみならず、化粧品、食品、畜産、実験用試薬、再生医療用の組織培養等に用いることができるものを意味する。また、上記遺伝子発現調節剤は、標的タンパク質又はRNAの発現量を増加又は減少させる用途に用いることができる。ここで、増加又は減少する量は、コントロール細胞やその他の好適な比較対象に比べて有意差があることが好ましい。
【0047】
また、上記人工核酸コンジュゲートを生体に投与する際の投与経路は、治療に際して最も効果的なものを使用するのが好ましく、経口投与又は口腔内、気道内、直腸内、皮下、筋肉内、腹腔内、眼内又は静脈内などの非経口投与をあげることができ、全身又は局部的に投与することができる。投与経路は、好ましくは非経口投与をあげることができる。この場合、人工核酸コンジュゲートが患部へ到達する効率が高い。
【0048】
その他の投与形態としては、カプセル剤、錠剤、顆粒剤、シロップ剤、乳剤、注射剤、座剤、噴霧剤、軟膏、テープ剤等があげられる。経口投与に適当な製剤としては、乳剤、シロップ剤、カプセル剤、錠剤、散剤、顆粒剤等があげられる。乳剤及びシロップ剤のような液体調製物は、水、ショ糖、ソルビトール、果糖等の糖類、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール等のグリコール類、ゴマ油、オリーブ油、大豆油等の油類、p−ヒドロキシ安息香酸エステル類等の防腐剤、ストロベリーフレーバー、ペパーミント等のフレーバー類等を添加剤として用いて製造できる。さらに、カプセル剤、錠剤、散剤、顆粒剤等は、乳糖、ブドウ糖、ショ糖、マンニトール等の賦形剤、デンプン、アルギン酸ナトリウム等の崩壊剤、ステアリン酸マグネシウム、タルク等の滑沢剤、ポリビニルアルコール、ヒドロキシプロピルセルロース、ゼラチン等の結合剤、脂肪酸エステル等の界面活性剤、グリセリン等の可塑剤等を添加剤として用いて製造できる。
【0049】
非経口投与に適当な製剤としては、注射剤、座剤、噴霧剤等があげられる。注射用の水溶液としては、例えば生理食塩水、ブドウ糖やその他の補助薬を含む等張液、例えばD−ソルビトール、D−マンノース、D−マンニトール、塩化ナトリウムが挙げられ、適当な溶解補助剤、例えばアルコール、具体的にはエタノール、ポリアルコール、例えばプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、非イオン性界面活性剤、例えばポリソルベート80(TM)、HCO−50と併用してもよい。座剤はカカオ脂、水素化脂肪又はカルボン酸等の担体を用いて調製することができる。また、噴霧剤は上記人工核酸コンジュゲートを含有するいずれかの薬剤、ないしは受容者の口腔及び気道粘膜を刺激せず、且つ上記人工核酸コンジュゲートを含有するいずれかの薬剤を微細な粒子として分散させ吸収を容易にさせる担体、などを用いて調製することができる。この担体としては具体的には乳糖、グリセリン等が例示できる。上記人工核酸コンジュゲートを含有するいずれかの薬剤と、用いる担体の性質により、エアロゾル、ドライパウダー等の製剤化が可能である。また、これらの非経口剤においても経口剤で添加剤として例示した成分を添加することもできる。
【0050】
<遺伝子疾患治療薬>
本実施形態は、上記の人工核酸コンジュゲートを含有する、遺伝子疾患治療薬である。
【0051】
本実施形態における人工核酸コンジュゲートは、後述する実施例で示すように、ルシフェラーゼ遺伝子又はそれに関連するプロモーター領域を標的とすることでルシフェラーゼの発現を抑制することが実証されている。そのため、この人工核酸コンジュゲートは、タンパク質の発現を調節する目的で好適に使用できる。また、このコンジュゲートは、後述する実施例で示すように、血清中において分解耐性を示したことから、酵素安定性を有することが実証されている。そのため、このコンジュゲートは、生体内環境下や生体外環境下において好適に使用できる。更に、このコンジュゲートは、後述する実施例で示すように、DNA鎖又はRNA鎖との間でTm値が測定できたことから、DNA鎖又はRNA鎖とハイブリダイズすることが実証されている。そのため、このコンジュゲートは、アンチジーン又はアンチセンスRNAとして好適に使用することができる。また、このコンジュゲートは、後述する実施例で示すように、同じ数の人工核酸モノマーを有する人工核酸のTm値よりも低いTm値を示すことが実証されている。そのため、このコンジュゲートは、同じ数の人工核酸モノマーを有する人工核酸のTm値が高くて使用できない場合、好適に使用することができる。更に、このコンジュゲートは、後述する実施例で示すように、相補する配列に1塩基の変異がある場合、変異がない場合と比較してTm値が低下したことから、相補する配列に1塩基以上の変異がある場合はより低いTm値を有することが実証されている。そのため、このコンジュゲートは、実用的な温度において、正常なポリヌクレオチド配列と比較して1塩基以上の変異を有するポリヌクレオチドを標的とするアンチジーン又はアンチセンスRNAとして好適に使用することができる。従って、このコンジュゲートは、酵素安定的に疾患の原因遺伝子の発現を調節することが可能であり、更にポリヌクレオチドの1塩基変異により生じる疾患(例えば、常染色体優性遺伝性疾患)の原因遺伝子の発現を調節することが可能である。このことから、この人工核酸コンジュゲートを含有する遺伝子疾患治療薬は、遺伝子疾患を治療できる。
【0052】
上記遺伝子疾患治療薬は、さらに、DDS (Drug Delivery System)を含んでいてもよい。この場合、人工核酸コンジュゲートを細胞内に効率的に導入できる。DDSとしては、ゼラチンハイドロゲル又はアテロコラーゲンを含む。本明細書において「ゼラチンハイドロゲル」とは、ゼラチンを原料としたハイドロゲルでDDSとして使用できる。ゼラチンハイドロゲルは生体適合性、生体吸収性に優れている。本明細書において「アテロコラーゲン」とは、アテロコラーゲンを原料としたDDSである。細胞への導入効率や安全性に優れている。アテロコラーゲンとは、一般的にコラーゲンに含まれるテロペプチドを酵素的に分解したもので、免疫反応を誘発し難い。また、上記人工核酸コンジュゲートに、核内移行シグナルペプチドを結合してもよい。これにより、人工核酸コンジュゲートの核内移行が促進され、疾患の原因遺伝子の発現を効率的に、また迅速に調節することができる。
【0053】
また、上記人工核酸コンジュゲートを治療薬又は予防薬として使用する場合、単独で投与することも可能ではあるが、通常はDDS又は薬理学的に許容される1つあるいはそれ以上の担体と一緒に混合し、製剤学の技術分野においてよく知られる任意の方法により製造した医薬製剤として提供するのが好ましい。
【0054】
また、上記の治療薬又は予防薬は、緩衝剤(例えば、リン酸塩緩衝液、酢酸ナトリウム緩衝液)、無痛化剤(例えば、塩化ベンザルコニウム、塩酸プロカイン等)、安定剤(例えば、ヒト血清アルブミン、ポリエチレングリコール等)、保存剤(例えば、ベンジルアルコール、フェノール等)、酸化防止剤等と配合してもよい。調製された注射液は通常、適当なアンプルに充填される。このようにして得られる製剤は安全で低毒性であるので、例えば、ヒトや哺乳動物(例えば、ラット、マウス、ウサギ、ヒツジ、ブタ、ウシ、ネコ、イヌ、サル等)に対して投与することができる。
【0055】
また、投与方法は被験者の年齢、症状、対象臓器等により適宜選択することができる。上記人工核酸コンジュゲートを含有するいずれかの薬剤を含有する医薬組成物の投与量としては、例えば、一回につき体重1kgあたり0.0001 mgから1000 mgの範囲で選ぶことが可能である。あるいは、例えば、被験者あたり0.001〜100000 mg/bodyの範囲で投与量を選ぶことができるが、これらの数値に必ずしも制限されるものではない。体重 1 kg あたりの投与量は、例えば0.0001、0.01、1、50、100、250、500、又は1000 mgである。この投与量は、ここで例示したいずれか2つの値の範囲内であってもよい。投与量は目的とする治療効果、投与方法、治療期間、年齢、体重等により異なる。投与量、投与方法は、被験者の体重や年齢、症状などにより変動するが、当業者であれば適宜選択することが可能である。また、適切な化学療法薬と併用で投与してもよい。
【0056】
ポリヌクレオチドの1塩基変異により生じる疾患としては、染色体上に存在する1対の遺伝子の内、一方の遺伝子と比較して他方の遺伝子の配列中に1塩基変異があれば発症する遺伝子疾患を例示することができる。この遺伝子疾患として、例えば、鎌状赤血球症等があげられる。鎌状赤血球症は、11番染色体にあるヘモグロビンβ鎖の第6番目のアミノ酸をコードする塩基配列が(3’-CTC-5’)から(3’-CAC-5’)に置換されることで発症する。Selda, Sらは、RNAi法を用いて変異したヘモグロビンβ鎖(βS)の転写産物を細胞レベルで抑制することを実証した(Selda S, et al. Nature Biotechnology 24, 89 - 94 (2006))。本実施形態における遺伝子疾患治療薬は、1塩基認識能を有する人工核酸コンジュゲートを含有する。従って、上記塩基配列中に存在する変異(3’-CAC-5’)を含む領域と相補するように人工核酸コンジュゲートを設計することで、変異したヘモグロビンβ鎖(βS)の発現を抑制可能な人工核酸コンジュゲートを作製することが可能である。この人工核酸コンジュゲートを含有する遺伝子疾患治療薬は、変異したヘモグロビンβ鎖(βS)の発現を抑制する一方で、正常なヘモグロビンβ鎖の発現は抑制しないことから、鎌状赤血球症の治療薬として用いることができる。
【0057】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。
【実施例】
【0058】
以下、本発明を実施例によりさらに説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0059】
<実施例1>
プラスミドの構築
5’-GCCACCATGGAAGACGCC-3’(配列番号:1)及び5’-AGCTCGCTCGAGACACGGCGATCTTTC-3’(配列番号:2) プライマーを用いて、pGL3コントロールベクター(promega)をテンプレートするPCRを行い、ホタル(Photinus pyralis)のルシフェラーゼ遺伝子をコードする1.7-kbpのDNA断片を得た。制限酵素でNcoI 及びXhoIで消化した後、pIVEX-2.3d発現ベクター(Roshe Diagnostics)にライゲースした(pIVEX2.3d-Luc+)(図1)。pIVEX2.3d-Luc+には、T7 RNAポリメラーゼと原核細胞の溶解物の組み合わせにもとづくインビトロ発現に必要な全ての調節エレメントを含んでいる。ライゲースしたpIVEX2.3d-Luc+を、ヒートショック法により大腸菌へ形質転換し、LB培地にて37℃、12時間、培養した後、プラスミドpIVEX2.3d-Luc+をアルカリ/SDS法にて精製した。精製したプラスミドを上記プライマーを用いて、PCRを行い、得られたPCR産物をアガロースゲル電気泳動法により泳動した。予想される分子量にバンドが検出されたことから、Luc+遺伝子の導入が確認され、目的とするプラスミドpIVEX2.3d-Luc+を得た。
【0060】
PEGの両末端にPNAを有するPNA-PEGコンジュゲートは、Fmoc基及びBhoc基を用いた固相ペプチド合成法を用いて調整した。合成の流れを図2に示す。無細胞タンパク質発現システムに最適化したプラスミドpIVEX2.3d-Luc+の配列をもとに合成するPNAの配列を決定した(図3)。固相合成用樹脂として、NovaPEG Rink Amide resin (Novabiochem, Merck)を用いた。Fmoc/Bhoc PNAのモノマーは、panagene社のFmoc-A(Bhoc)-aeg-OH, Fmoc-G(Bhoc)-aeg-OH, Fmoc-C(Bhoc)-aeg-OH, Fmoc-T-aeg-OHを用いた。カップリング試薬(2-(1H-7-アザベンゾトリアゾール-1-イル)-1,1,3,3-テトラメチルウラニウムヘキサフルオロホスファートメタナミニウム(HATU):N,N-ジイソプロピルエチルアミン(DIPEA)=1:1 (いずれもwako)) 及びFmoc/Bhoc PNAモノマーを固相合成用樹脂の表面アミノ基量の5倍量をN-メチルピロリドン(NMP)(Wako)に溶解し、70 mgのNovaPEG Rink Amide resinと1.5時間、室温で反応させ、PNAと樹脂とのカップリングを行った。樹脂をNMPで洗浄し、3mlの20%ピペリジン含有NMPを用いて、Fmoc基を除いた。Fmoc基の除去による脱保護で放出されたジベンゾフルベンをUVモニターで測定することでFmoc基除去を確認し、更なる合成を進めた。カップリング反応とFmoc基の除去を繰り返すことでPNAを合成した。8量体のPNAを合成した後、O-(N-Fmoc-2-アミノエチル)-O’-(2-カルボキシエチル)-アンデカエチレングリコール(Fmoc-NH-PEG12-COOH) (Novabiochem, Merck)を上記方法でPNAにカップリングした。更に、PNAを合成した。合成したPNA-PEG-PNA-樹脂に、95%トリフルオロ酢酸(TFA)、2.5%トリイソプロピルシラン(TIS)及び2.5%ジクロロエタン(いずれもWako)の混合液を加え、4℃、1時間反応させ、Bhoc基の除去とPNA-PEGコンジュゲートの樹脂の切り出しを行った。得られたPNA-PEGコンジュゲートを冷ジエチルエーテルで沈殿させ、遠心することで沈殿物を回収した。沈殿物を冷ジエチルエーテルで洗浄し、乾燥することで粗PNA-PEGコンジュゲートを得た。また、同じ方法で、8量体の粗PNA及び16量体の粗PNAを合成した。
【0061】
PNA-PEGコンジュゲート及びPNAオリゴマーの精製
粗PNA-PEGコンジュゲート及び粗PNAオリゴマーは、逆相高速液体クロマトグラフィー(RP-HPLC;JASCO PU-2089i-plus 4溶媒グラジェントイナートポンプ付きJASCO HPLC system及びJASCO MD-2015plus 多重波長 UV-vis 検出器)を用いて精製した。カラムは、ODSカラム(Inertsil ODS-3, 粒径10μm, 孔径120A, 10.0 mm I.D. x 250mm, GL Science)を使用した。精製は、流速4.0ml/min、温度25℃、A-B 直線勾配(溶液A:0.1% TFA含有H2O, 溶液B:0.1% TFA含有CH3CN)の条件で行い、詳細は表1に表す。溶出したPNA-PEGコンジュゲート及びPNAオリゴマーを分画し、凍結乾燥し-80℃に保管した。
【0062】
【表1】

【0063】
PNAオリゴマー及びPNA-PEGコンジュゲートの純度評価
PNAオリゴマー及びPNA-PEGコンジュゲートの純度は、分析カラム(GL science ODS-3, 粒径 5μm, 孔径 120 Å, 4.6mm I.D. x 250mm)を用いたRP-HPLCで、流速を1.0ml/minとし、A-B直線勾配(溶液A:0.1% TFA含有H2O, 溶液B: 0.1% TFA含有CH3CN、条件は表1と同じ)で、温度25℃の条件で測定した。それぞれの純度は、90%以上であった(表2)。
【0064】
【表2】

【0065】
MALDI-TOF/MS測定
RP-HPLCで精製した後、目的とするPAN-PEGコンジュゲート及びPNAオリゴマーの分子量をMALDI-TOF/MS(Bulker)により評価した。シナピン酸飽和溶液(0.1% TFA含有アセトニトリル: 水)をマトリクスとし、サンプル溶液と混合した後にターゲットをキャストした(表2)。いずれのサンプルも、計算による予測値の2Da以内であることからいずれのサンプルも精製度の高いサンプルが得られた。
【0066】
<実施例2>
合成したPNA-PEGコンジュゲート及びPNAオリゴマー
ルシフェラーゼ発現抑制のターゲット領域として、T7プロモーター領域(T7領域)とルシフェラーゼ遺伝子の開始コドンを含む領域(ATG領域)を選択した。作製したT7領域に対応するPNA-PEGコンジュゲート及びその1塩基置換体を図3に示す。また、ATG領域に対応する、作製したPNA-PEGコンジュゲート、PNAオリゴマー及びその1塩基置換体も図3に示した。図3中のT7領域及びATG領域の塩基配列のうち、PNA-PEGコンジュゲートがハイブリダイズする塩基配列は、斜体で示している。一方、PNA -PEGコンジュゲートのうち、下線を引いた塩基は置換した塩基を示す。
【0067】
酵素安定性試験及び合成DNA断片(1kbpのDNA断片)の調製
精製したPNA-PEGコンジュゲートとPNAオリゴマーの可溶性を比較するために、それぞれ50μM分、HEPES(pH7.5)に溶かし目視観察を行った。PNA-PEGコンジュゲートは、速やかに可溶化するのに対して、PNAオリゴマーは、沈殿することが確認され、軽く懸濁することで可溶化された。このことから、PNA-PEGコンジュゲートは、優れた可溶性を示すことが明らかとなった(データは示さず)。精製したPNA-PEGコンジュゲートをウシ胎仔血清(FBS)に溶かし酵素安定性を試験した。比較対象は、プライマー5’-TCCCGCGAAATTAATACGAC-3’ (配列番号:3)及び 5’-CAGAGTGCTTTTGGCGAAG-3’ (配列番号:4)を用いてpIVEX2.3d-Luc+プラスミドをテンプレートとするPCRで得られた1kbpのDNA断片を用いた。1kbpのDNA断片及びPNA-PEGコンジュゲートをFBSに溶かし(1kbp DNA:100nM/50%FBS、PNA-PEGコンジュゲート(PP_ATG01):100μM/50%FBS),37℃で、インキュベートした。インキュベートした1kbpのDNA断片を1%アガロースゲルを用いたアガロースゲル電気泳動法で検出した(図4a)。インキュベートしたPNA-PEGコンジュゲートは、逆相クロマトグラフィー(RPLC)(GL science ODS-3, 粒径 5μm, 孔径 120 Å, 4.6 mm I.D. x 250 mm)に反応液を5μlアプライして溶出時間を測定した(図4b)。インキュベートした1kbpのDNA断片及びPNA-PEGコンジュゲートの分解した割合を図4cにまとめた。
【0068】
図4cより、1kbpのDNA断片は、およそ90%が1時間で分解されたのに対して、PNA-PEGコンジュゲートは4時間経過しても分解されなかった。従って、PNA-PEGコンジュゲートは、DNAと比較して高い酵素安定性を有することが明らかとなった。
【0069】
DNAとPNA-PEGコンジュゲートとの熱変性試験
PNA-PEGコンジュゲートと対応するDNAテンプレートとでハイブリダイズする複合体の融解曲線は、温度制御ユニットを備えるJASCO J-820 CD spectrometer (JASCO)を用いて測定した。各PNA-PEGコンジュゲートをハイブリダイズバッファー(10 mM リン酸緩衝液, pH 7.0, 10 mM NaCl)に溶解した。対応するDNAテンプレートは、T7領域は、5’-ATTAATACGACTCACTATAGGGAGAC-3’(配列番号:5)とし、ATG領域は、5’-CCATGGAAGACGCCAAAAACATAAAG-3’(配列番号:6)とした。PNA-PEGコンジュゲートと対応するDNAテンプレート溶液を混合し、総濃度を5.0 μMとした。降温・昇温過程における吸光度を測定(測定条件:測定波長260 nm, 応答: 2秒, 帯域幅: 2nm, スキャン速度: 1℃/min)し、得られた融解曲線からTm値を測定器のプログラムに従い算出した。
【0070】
結果を、表3に示す。T7領域に対応するPNA-PEGコンジュゲートであるPP_T7のTm値は、UP:42.8℃, DOWN:41.2℃であった。一方、その1塩基置換体であるPP_T7-MのTm値は、検出することができなかった。また、ATG領域に対応するPNA-PEGコンジュゲートであるPP_ATG01のTm値は、UP:39.3℃, DOWN:38.4℃であった。一方、その1塩基置換体であるPP_ATG01_MMのTm値は、検出することができなかった。更に、16量体のPNAオリゴマー(PNA16)のTm値は、UP:75.9℃, DOWN:76.1℃であり、その1塩基置換体であるPNA16_MMのTm値は、UP:62.2℃, DOWN:62.0℃と、PP_T7やPP_ATG01のTm値よりも高い。
【0071】
【表3】

【0072】
以上の結果から、PNA-PEGコンジュゲートは、DNAテンプレートとハイブリダイズできることが明らかとなった。また、PP_ATG01のTm値は、同じ数のPNAモノマーを有するPNA16のTm値よりも30℃以上低くなることが明らかとなった。更に、PP_ATG01の1塩基置換体であるPP_ATG01_MMは、Tm値が測定できなくなるまで低下した。また、T7領域に対応するPP_T7も同じ数のPNAモノマーを有するPNA16のTm値よりも30℃以上低くなることが明らかとなった。更に、PP_T7の1塩基置換体であるPP_T7-Mは、Tm値が測定できなくなるまで低下した。よって、PNA-PEGコンジュゲートは、同じ数のPNAモノマーを有するPNAオリゴマーよりもTm値が低くなることが明らかとなった。更に、相補鎖に1塩基の変異が入ると、Tm値が低下することから、PNA-PEGコンジュゲートは、DNA鎖に対して、1塩基変異を認識することができる優れた特性を有することが明らかとなった。
【0073】
RNAとPNA-PEGコンジュゲートとの熱変性試験
更に、RNA鎖とPNA-PEGコンジュゲートの熱変性試験を行った。PNA-PEGコンジュゲートと対応するRNAテンプレートとで形成する複合体の融解曲線は、温度制御ユニットを備えるJASCO J-820 CD spectrometer(JASCO)を用いて測定した。各PNA-PEGコンジュゲートをハイブリダイズバッファー(10 mM リン酸緩衝液, pH 7.0, 10 mM NaCl)に溶解した。対応するRNAテンプレート(synRNA)は、5’-CCAUGGAAGACGCCAAAAACAUAAAG-3’(配列番号:7)とした。PNA-PEGコンジュゲートと対応するRNAテンプレート溶液を混合し、総濃度を5.0 μMとした。降温・昇温過程における吸光度を測定(測定条件:測定波長260 nm, 応答: 2秒, 帯域幅: 2nm, スキャン速度: 1℃/min)し、得られた融解曲線からTm値を測定器のプログラムに従い算出した。
【0074】
結果を、表4に示す。表4中に記載されている配列の内、下線を引いた塩基は、置換した塩基を示す。また、表4には、実験に用いたsynRNAの配列に対応するsynDNAの実験結果も比較のために記載している。フルマッチ配列であるPNA-PEGコンジュゲート(PP_ATG01)のTm値は、56.0℃である一方で、ミスマッチ配列であるPNA-PEGコンジュゲート(PP_ATG01_MM)のTm値は、38.1℃であった。フルマッチ配列である16量体PNA(PNA16)のTm値は、86.8℃であり、ミスマッチ配列である16量体PNA(PNA16_MM)のTm値は、75.9℃であった。
【0075】
【表4】

【0076】
以上の結果から、PNA-PEGコンジュゲートは、RNAテンプレートとハイブリダイズできることが明らかとなった。また、PP_ATG01のTm値は、同じ数のPNAモノマーを有するPNA16のTm値よりも30℃以上低下することが明らかとなった。更に、PP_ATG01の1塩基置換体であるPP_ATG01_MMは、Tm値が17℃以上低下した。よって、PNA-PEGコンジュゲートは、同じ数のPNAモノマーを有するPNAオリゴマーよりもTm値が低下することが明らかとなった。更に、相補鎖に1塩基の変異が入ると、Tm値が17℃以上低下したことから、PNA-PEGコンジュゲートは、RNA鎖に対しても、1塩基変異を認識することができる優れた特性を有することが明らかとなった。
【0077】
<実施例3>
無細胞タンパク質発現系によるルシフェラーゼの発現と評価
PNA-PEGコンジュゲートがタンパク質発現を抑制することができるか否かを無細胞タンパク質合成システムで実験した。無細胞タンパク質合成システムは、Roche社製 RTS100 E. coli HY Kit (大腸菌由来)を用いた。製造元プロトコールに従い、各反応液を混合した50μlの標準反応液(12 μl 大腸菌溶解液, 10 μl 反応混合液, 12 μl アミノ酸, 1 μl メチオニン、5 μl 再構成バッファー、1.0 μg プラスミドpIVEX2.3d-Luc+ /2 μl (H2O)、及び 8 μl バッファー)を30℃で4時間インキュベートした。ルシフェラーゼ発現量を、ONE-Glo Luciferase Assay system (promega)を用いて定量した。定量は、ルミノメータによる相対発光強度から評価した。コントロールは、空ベクター(pIVEX-2.3d)を用いた。
【0078】
T7領域と相補するPP_T7では、50μMを添加した際の蛍光強度がコントロールと比較して20%程度抑制した。一方、PP_T7の1塩基置換体であるPP_T7-MMは、いずれの濃度であっても抑制を示さなかった(図5)。
【0079】
以上の結果から、PNA-PEGコンジュゲートは、プロモーターの機能を抑制することが明らかとなった。従って、PNA-PEGコンジュゲートは、遺伝子の発現を調節する領域に対しても作用することが明らかとなった。
【0080】
ATG領域と相補するPP_ATG_01では10 μM の添加量で、コントロールの蛍光強度と比較しておよそ85%抑制した(図6, PP_ATG_01)。また、50 μMの添加量では、蛍光を観察することができず、ルシフェラーゼの発現をほぼ抑制したことが明らかとなった。一方、PP_ATG_01の1塩基置換体であるPP_ATG_01_MMは、50μMの添加量であっても、コントロールと比較して、ルシフェラーゼの発現抑制を示さなかった(図6, PP_ATG_01-MM)。また、PNAの16量体(PNA16)に関しては、ルシフェラーゼの発現を抑制する一方で、PNA16の1塩基置換体であるPNA16_MMもルシフェラーゼの発現を抑制した(図6, PNA16とPNA16_MMを比較)。更に、PP_ATG_01のC末端側の8塩基PNA (PNA-C)では、50μlの添加量であっても、PP_ATG_01とは異なり、ルシフェラーゼが僅かに発現していた。また、PNA-C及びPP_ATG_01のN末端側の8塩基PNA(PNA-N)の両方を混ぜ、総添加量を100μMとしても、PP_ATG_01とは異なり、ルシフェラーゼが僅かに発現していた(図6 PNA-C、PNA-N及びPNA-C&N)。
【0081】
以上の結果、PP_ATG_01は、1塩基認識能を有する一方で、同じ数のPNAモノマーを有するPNA16は、1塩基認識能を有さないことが明らかとなった。また、PNAの間にPEG12を挟むPNA-PEGコンジュゲートの方が、PEG12を挟まず別々にPNA(PNA-C&N)を加えるよりも、顕著なタンパク質発現を抑制することが明らかとなった。
【0082】
更に、PNA-PNA間の塩基配列の長さを6塩基から38塩基にとするPNA-PEGコンジュゲートを作製し(PP_ATG_02)、PNA_ATG_01(配列の長さ:6塩基)と比較実験を行った。
【0083】
その結果、50μlの添加量の場合、PP_ATG_02もPNA_ATG_01と同様に、蛍光を観察することができず、ルシフェラーゼの発現をほぼ抑制したことが明らかとなった(図7)。このことは、PEG12の長さを第一領域-第二領域間の塩基配列の長さに対応させる必要がないことを示している。具体的なメカニズムは不明であるが、図7のb及びcのモデルが考えられる。即ち、PEGもポリヌクレオチドもフレキシビリティを有することから、いずれかが湾曲することで、ハイブリダイズしていると考えられる。
【0084】
以上、本発明を実施例に基づいて説明した。この実施例はあくまで例示であり、種々の変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
標的ポリヌクレオチド中の第一領域の配列と相補する配列からなる第一の一本鎖人工核酸と、前記標的ポリヌクレオチド中の第二領域の配列と相補する配列からなる第二の一本鎖人工核酸と、前記第一の一本鎖人工核酸及び前記第二の一本鎖人工核酸の間に連結している親水性ポリマーと、を備える、人工核酸コンジュゲート。
【請求項2】
前記第一の一本鎖人工核酸が自己の5‘末端を介して前記親水性ポリマーと連結し、且つ前記第二の一本鎖人工核酸が自己の3‘末端を介して前記親水性ポリマーと連結している、請求項1記載のコンジュゲート。
【請求項3】
前記第一領域が4塩基以上18塩基以下の領域である、請求項1又は2記載のコンジュゲート。
【請求項4】
前記第二領域が4塩基以上18塩基以下の領域である、請求項1〜3のいずれかに記載のコンジュゲート。
【請求項5】
前記一本鎖人工核酸が、ペプチド核酸、ペプチド核酸類縁体及びこれらを構成する単量体の共重合体からなる群より選択される、請求項1〜4のいずれかに記載のコンジュゲート。
【請求項6】
前記標的ポリヌクレオチド中の第一領域及び第二領域が互いに離れている、請求項1〜5のいずれかに記載のコンジュゲート。
【請求項7】
前記標的ポリヌクレオチド中の第一領域及び第二領域の間が、6塩基以上38塩基以下の領域を挟んで離れている、請求項1〜6のいずれかに記載のコンジュゲート。
【請求項8】
前記親水性ポリマーが、重量平均分子量100〜50000 Daである請求項1〜7のいずれかに記載のコンジュゲート。
【請求項9】
前記親水性ポリマーが、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、デキストラン、キチン、キトサン及びこれらを構成する単量体の共重合体からなる群より選択される、請求項1〜8のいずれかに記載のコンジュゲート。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれかに記載の人工核酸コンジュゲートを含有する遺伝子発現調節剤。
【請求項11】
請求項1〜9のいずれかに記載の人工核酸コンジュゲートを含有する遺伝子疾患治療薬。
【請求項12】
前記遺伝子疾患が、染色体上に存在する1対の遺伝子における、異常ヘテロ接合体により発症する遺伝子疾患である、請求項11記載の遺伝子疾患治療薬。
【請求項13】
前記疾患が、遺伝子をコードする塩基配列中の1塩基変異で生じる異常ヘテロ接合体により発症する遺伝子疾患である、請求項11又は12記載の遺伝子疾患治療薬。
【請求項14】
前記遺伝子疾患が、鎌状赤血球症である、請求項11〜13のいずれかに記載の遺伝子疾患治療薬。
【請求項15】
標的ポリヌクレオチド中の第一領域の配列と相補する配列からなる第一の一本鎖人工核酸と、前記標的ポリヌクレオチド中の第二領域の配列と相補する配列からなる第二の一本鎖人工核酸との間に、親水性ポリマーを連結する工程を含む、人工核酸コンジュゲートの作製方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−165672(P2012−165672A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−27898(P2011−27898)
【出願日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り (社団法人)有機合成化学協会、第26回若手化学者のための化学道場(鳥取 2010)(若手研究者のためのセミナー)講演要旨集、平成22年9月6日
【出願人】(504150461)国立大学法人鳥取大学 (271)
【Fターム(参考)】