説明

1成分形接着剤組成物

【課題】高周波誘電加熱による硬化性に優れた1成分形接着剤組成物を提供することである。
【解決手段】アミンポリオールとイソシアネート化合物を反応させることにより得られる末端イソシアネートプレポリマー(A)と、ひまし油ポリオールとイソシアネート化合物を反応させることにより得られる末端イソシアネートプレポリマー(B)とから成り、(A)と(B)の全体量に対して(A)が5重量%以上35重量%以下であり、高周波誘電加熱により硬化することを特徴とする1成分形接着剤組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窯業系サイディングのコーナー役物等の製造において、平面部材を略90度に接着させることによりコーナー役物等を製造する際に使用する1成分形接着剤組成物に関し、詳しくは高周波誘電加熱により硬化させても所定の機械的強度と接着性を有し、発泡することがないウレタン系の1成分形接着剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ウレタン系で1成分形の接着剤組成物としては、炭素数2〜24の脂肪族アミンにアルキレンオキシドを付加して得られるアミンポリオールを含有するポリオール成分と有機ポリイソシアネート成分とを反応させることにより得られる、末端にイソシアネート基を有する湿気硬化型ウレタンプレポリマーであって、アミンポリオールの含有量が、ポリオール成分全体の2〜100重量%の範囲に設定されている湿気硬化型一液性ポリウレタン樹脂組成物が提案されている(特許文献1)。しかし、当該湿気硬化型一液性ポリウレタン樹脂組成物は、高周波誘電加熱により硬化させると発泡することがあり、所定の機械的強度と接着性が得られないという課題があった。
【0003】
また、一成分ポリウレタン反応接着剤として、ポリマー鎖中に導入するための少なくとも一つの官能基を含有する少なくとも一つの第三アミンを触媒として含有することを特徴とする、少なくとも一つのポリイソシアネート、イソシアネート基に対して反応性の少なくとも一つのオリゴマー化合物および少なくとも一つの触媒に基づく一成分反応性ポリウレタン接着剤が開示されている(特許文献2)。しかし当該一成分反応性ポリウレタン接着剤は、高周波誘電加熱により硬化させると所定の機械的強度と接着性が得られない場合があるという課題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−67422号公報
【特許文献2】国際公開第1997/19122号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、ウレタン系1成分形で取り扱いが容易であって、窯業系サイディングのコーナー役物等の製造の際の高周波誘電加熱による硬化条件であっても、発泡を生じることが無く、また硬化物が十分な機械的強度を保持することで優れた接着性を有する1成分形接着剤組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1記載の発明は、アミンポリオールとイソシアネート化合物を反応させることにより得られる末端イソシアネートプレポリマー(A)と、ひまし油ポリオールとイソシアネート化合物を反応させることにより得られる末端イソシアネートプレポリマー(B)とから成り、(A)と(B)の全体量に対して(A)が5重量%以上35重量%以下であり、高周波誘電加熱により硬化することを特徴とする1成分形接着剤組成物であって、接着剤に発泡がなく且つ十分な機械的強度と接着性を有する。
【0007】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の1成分形接着剤組成物において、イソシアネート化合物が芳香族ポリイソシアネート化合物であることを特徴とする接着剤組成物であり、接着剤に発泡がなく且つ十分な機械的強度と接着性を有する。
【0008】
請求項3記載の発明は、請求項1又は請求項2記載の1成分形接着剤組成物において、高周波誘電加熱により20秒以上60秒以下で硬化することを特徴とする1成分形接着剤組成物であり、接着剤に発泡がなく且つ十分な機械的強度と接着性を有する。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る1成分形接着剤組成物は、窯業系サイディング材のように水分を含有する材料同士を短時間で接着させるような、例えば窯業系サイディング材のコーナー役物等の製造において、2つの平面部材を略90度に、高周波誘電加熱によって接着させる場合に、接着剤に発泡が生じることが無く、また硬化後の接着剤の機械的強度が高く、接着性に優れるという効果がある。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下本発明について詳細に説明する。
本発明の接着剤組成物は、アミンポリオールとイソシアネート化合物を反応させることにより得られる末端イソシアネートプレポリマー(A)と、ひまし油ポリオールとイソシアネート化合物を反応させることにより得られる末端イソシアネートプレポリマー(B)とからなり、(A)と(B)の全体量に対して(A)が5重量%以上35重量%以下であり、必要に応じて反応性希釈剤、脱水剤、充填材、消泡剤、触媒が配合される。
【0011】
アミンポリオール
本発明で用いるアミンポリオールは、脂肪族アミンにアルキレンオキシドを付加して得られるアミンポリオールであり、脂肪族のアミンとしては、例えばオクタン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノレン酸等をアミン変性して得られる脂肪族アミンを挙げることができる。これら以外の脂肪族アミンとしては、牛脂、ココナッツ油、大豆油、亜麻仁油およびそれら油脂に水添して得られる硬化油をアミン変性して得られる各種アミンが挙げられる。
【0012】
当該脂肪族アミンに付加反応させるアルキレンオキシドとしては、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシド等が挙げられ、これらを単独又は2種以上併用して反応させることでアミンポリオールが得られる。
【0013】
ひまし油ポリオール
本発明で用いるひまし油ポリオールとしては、リシノール酸誘導体を挙げることができ、ひまし油又はひまし油に更に水酸基を導入した変性ポリオールをいう。3官能ひまし油ポリオールとしては、市販品としてTLM(商品名、豊国製油(株)製)がある。
【0014】
イソシアネート化合物
イソシアネート化合物は、2, 4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(2,4’−MDI)、4, 4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(4,4’−MDI)、ポリメリックジメニルメタンジイソシアネート(p−MDI)、トリレンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート等の芳香族ポリイソシアネート化合物のほか、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート等の脂肪族ポリイソシアネート化合物や脂環式ポリイソシアネート化合物等が挙げられる。高周波誘電加熱で、より短時間で硬化させるためには反応性の高い芳香族ポリイソシアネート化合物が好ましい。4,4’−MDIの市販品としては、ミリオネートMT(商品名、NCO33.6重量%、日本ポリウレタン(株)製)がある。
【0015】
末端イソシアネートプレポリマー(A)及び(B)
前記アミンポリオールと前記イソシアネート化合物を混合攪拌して反応させることで、末端イソシアネートプレポリマー(A)を合成し、前記ひまし油ポリオールと前記イソシアネート化合物を混合攪拌して反応させることで、末端イソシアネートプレポリマー(B)が合成される。アミンポリオールと4,4’−MDIとの合成品である末端イソシアネートプレポリマー(A)としては、市販品として、スミジュールE21−1(商品名、NCO15.0重量%、粘度9Pa・s/23℃、住化バイエルウレタン(株)製)がある。末端イソシアネートプレポリマー(A)と(B)とから成る本発明の1成分形接着剤組成物のNCO重量%は2〜9重量%であり、好ましくは4〜8重量%である。NCO重量%が2重量%未満であると、接着剤の接着性が低下する。NCO重量%が9重量%超である場合は、接着剤の発泡が多くなり、接着性が低下する。またNCO重量%が4重量%未満であると接着剤の接着性が低下する傾向があり、NCO重量%が8重量%超であると、接着剤の発泡が多くなり接着性が低下する傾向がある。
【0016】
末端イソシアネートプレポリマー(A)と末端イソシアネートプレポリマー(B)の全体量に対する末端イソシアネートポリマー(A)の含有量は5重量%以上35重量%以下で有り、好ましくは10重量%以上30重量%以下である。5重量%未満であると、高周波誘電加熱により硬化させた場合、硬化した接着剤の接着性が低下し、35重量%超であると、同様に硬化した接着剤の発泡が多くなり、接着性が低下する。また末端イソシアネートプレポリマー(A)の含有量が10重量%未満であると、同様に硬化した接着剤の接着性が低下する傾向にあり、30重量%超であると、同様に硬化した接着剤の発泡が多くなり、接着性が低下する傾向にある。
【0017】
上記のように本発明に係る1成分形接着剤組成物は、高周波誘電加熱により硬化させても発泡がなく、且つ硬化物の機械的強度が十分に高いとともに接着性に優れるが、高周波誘電加熱により硬化させるのに適した接着機としては、高周波窯業系外壁出隅接着機WALLEX−5(商品名、山本ビニター(株)製)がある。なお高周波誘電加熱による加熱時間は、20秒未満では加熱による温度上昇が不十分なことがあり、また60秒超では過加熱になる場合があると共に、接着加工に係る作業時間が増大して接着加工製品である前記コーナー役物等の生産効率が低下することがある。
【0018】
以下、実施例及び比較例にて本出願に係る1成分形接着剤組成物について具体的に説明する。
【実施例】
【0019】
末端イソシアネートプレポリマー(A)
末端イソシアネートプレポリマー(A)は、スミジュールE21−1(商品名、NCO15.0重量%、住化バイエルウレタン(株)製)を使用した。
【0020】
末端イソシアネートプレポリマー(B)
3官能ひまし油ポリオールTLMを100重量部セパラブルフラスコ内に投入後、減圧下、80℃で2時間攪拌した後、4,4’−MDIとしてミリオーネートMTを145.1重量部投入し、窒素雰囲気下、80℃で2時間反応させてNCO15.0重量%の末端イソシアネートプレポリマー(B)を得た。NCO重量%はn−ブチルアミン・塩酸滴定法により測定した(以下同じ)。
【0021】
末端イソシアネートプレポリマー(C)
実施例1乃至実施例3と比較評価するためのプレポリマーとして末端イソシアネートプレポリマー(C)を合成した。EXENOL240(商品名、3官能末端エチレンオキサイド系ポリオール付加型ポリプロピレンオキサイド系ポリオール、旭硝子(株)製)100重量部をセパラブルフラスコ内に投入後、減圧下、80℃で2時間攪拌した後、4,4’−MDIとしてミリオーネートMTを103.3重量部投入し、窒素雰囲気下、80℃で2時間反応させてNCO15.0重量%の末端イソシアネートプレポリマー(C)を得た。
【0022】
末端イソシアネートプレポリマー(D)
実施例1乃至実施例3と比較評価するためのプレポリマーとして末端イソシアネートプレポリマー(D)を合成した。EXENOL902(商品名、3官能末端エチレンオキサイド系ポリオール付加型ポリプロピレンオキサイド系ポリオール、旭硝子(株)製)100重量部をセパラブルフラスコ内に投入後、減圧下、80℃で2時間攪拌した後、4,4’−MDIとしてミリオーネートMTを125.7重量部投入し、窒素雰囲気下、80℃で2時間反応させてNCO15.0重量%の末端イソシアネートプレポリマー(D)を得た。
【0023】
実施例1
末端イソシアネートプレポリマー(A)10重量部、末端イソシアネートプレポリマー(B)90重量部、反応性希釈剤としてスミジュールJ243(商品名、NCO31.5重量%、住化バイエルウレタン(株)製)25重量部、脱水剤PTSI(商品名、PCI社製)、3.3重量部をプラネタリーミキサー内に投入後、表面処理炭酸カルシウムであるM−300J(商品名、丸尾カルシウム(株)製)70重量部、表面未処理炭酸カルシウムホワイトンSB(商品名、白石カルシウム(株)製)140重量部、を加え、減圧下で30分間攪拌した。減圧攪拌後、スズ系触媒であるネオスタンU830(商品名、日東化成(株)製)0.3重量部、消泡剤KF−50−100CS(商品名、信越化学工業(株)製)1重量部を添加し、減圧下で15分間攪拌し、ウレタン系1成分形の接着剤である、実施例1の1成分形接着剤組成物を得た。粘度は300Pa・s/23℃(BS型粘度計、7号ローター、10rpm)、NCO重量%は6.7%であった。なお以下の表1中の実施例2、実施例3、及び比較例1乃至比較例8の粘度は、同様にBS型粘度計、7号ローター、10rpmでの測定結果を示した。
【0024】
実施例2、実施例3、比較例1、比較例2、比較例5
実施例1において、末端イソシアネートプレポリマー(A)と(B)の配合量を表1の記載のように変えたほかは、実施例1と同様に製造し、実施例2、実施例3、比較例1、比較例2、比較例5の1成分形接着剤組成物を得た。NCO重量%はすべて6.7重量%であった。
【0025】
比較例3、比較例4、比較例6乃至比較例8
実施例1において末端イソシアネートプレポリマー(A)又は(B)の少なくとも一つを、表1の記載の配合量のように末端イソシアネートプレポリマー(C)又は(D)の少なくとも一つに変えたほかは、実施例1と同様に製造し、比較例3、比較例4、比較例6乃至比較例8の1成分形接着剤組成物を得た。NCO重量%はすべて6.7重量%であった。
【0026】
【表1】

【0027】
評価方法
【0028】
破壊強度(機械的強度)
窯業系サイディングボード(厚さ15mm)を長さ450mm、幅90mmに切り出し、長さ450mm側の木口を45度に斜めにカットし1枚の試験体とする。当該試験体のカット面全体に実施例1乃至実施例3、及び比較例1乃至比較例8の1成分形接着剤組成物を3g塗布し、もう一枚の試験体のカット面を当接させ、全体として90度のコーナー役物形状となるように保持する。この状態で高周波窯業系外壁出隅接着機WALLEX−5(商品名、高周波出力5KW、発振周波数27.12MHz、山本ビニター(株)製)にて加熱時間30秒(加熱30秒後の接着剤の温度は80℃〜120℃に上昇)、養生時間30秒にて、高周波プレスにより接着させる。その後当該試験体を23℃3日間養生後、インストロンディジタル材料試験機5582型(インストロン・ジャパン(株)製)にて、接着面が水平となるように載置し、上下方向に載荷する。試験体が破壊した際の荷重を破壊荷重(KN)とした。なお当該破壊強度を、硬化後の接着剤の機械的強度とみなして評価した。
【0029】
接着性
上記破壊強度測定後の接着剤組成物塗布面の破壊状態を目視にて観察し、その状態を接着性として評価した。すべての部分でサイディングボードが破壊したものを○、接着剤の破壊が混在しているものを△、すべての部分で接着剤が破壊したものを×とした。
【0030】
発泡
実施例1乃至実施例3、及び比較例1乃至比較例8の1成分形接着剤組成物25gと水道水2.5gを混合攪拌後、直径40mmのポリカップに高さ15mmとなるように流し込み、23℃にて24時間放置する。高さ15mmから発泡により上昇した高さをノギスで測定し、上昇した高さが5mm以下を○、5mm超10mm以下を△、10mm超を×とした。
【0031】
総合評価
実施例1乃至実施例3の1成分形接着剤組成物は、十分な破壊強度であるとともに破壊状態もすべての場所でサイディングボードが破壊し、良好な接着性を有し、さらには発泡は5mm以下で良好であった。しかし末端イソシアネートプレポリマー(A)の配合量が40部と多い比較例5では破壊強度が2.0KN以下で接着性は△であり、発泡は△であった。末端イソシアネートプレポリマー(A)が配合されていない比較例1は接着性が△で、末端イソシアネートプレポリマー(B)が配合されていない比較例2は接着性が×評価であるとともに発泡は×評価で大きな発泡があった。
【0032】
末端イソシアネートプレポリマー(C)のみを配合した比較例3は発泡が△評価であり、末端イソシアネートプレポリマー(D)のみを配合した比較例4は発泡が△評価であるとともに、破壊強度が低く、接着性も×評価であった。末端イソシアネートプレポリマー(B)と末端イソシアネートプレポリマー(C)を配合した比較例6又は比較例7は、ともに発泡が△であり、末端イソシアネートプレポリマー(A)と末端イソシアネートプレポリマー(C)を配合した比較例8は発泡が×評価となり大きな発泡が生じた。




【特許請求の範囲】
【請求項1】
アミンポリオールとイソシアネート化合物を反応させることにより得られる末端イソシアネートプレポリマー(A)と、ひまし油ポリオールとイソシアネート化合物を反応させることにより得られる末端イソシアネートプレポリマー(B)とから成り、(A)と(B)の全体量に対して(A)が5重量%以上35重量%以下であり、高周波誘電加熱により硬化することを特徴とする1成分形接着剤組成物。
【請求項2】
イソシアネート化合物が芳香族ポリイソシアネート化合物であることを特徴とする請求項1記載の1成分形接着剤組成物。
【請求項3】
高周波誘電加熱により20秒以上60秒以下で硬化することを特徴とする請求項1又は請求項2記載の1成分形接着剤組成物。


【公開番号】特開2011−74322(P2011−74322A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−229907(P2009−229907)
【出願日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【出願人】(000100698)アイカ工業株式会社 (566)
【Fターム(参考)】