説明

1環芳香族炭化水素の製造方法

【課題】多環芳香族炭化水素から付加価値の高い1環芳香族炭化水素を、高価な水素を過剰に消費することなく過分解を抑制し、効率よく製造する方法を提供する。
【解決手段】多環芳香族炭化水素が50容量%以上、1環芳香族炭化水素及び1.5環芳香族炭化水素の合計量が20容量%未満である原料炭化水素油を、(1)水素の存在下、モリブデンの含有量が0.5重量%以上8.0重量%未満である水素化精製触媒に接触させ、脱硫脱窒素処理を行うとともに、多環芳香族炭化水素を1.5環芳香族炭化水素に変換する第一工程に次いで、(2)第一工程から得られた中間油を水素の存在下、水素化分解触媒に接触させ、アルキルベンゼン類に変換する第二工程を行うことにより、アルキルベンゼン類が20容量%以上、多環芳香族炭化水素が1.0容量%未満である付加価値の高い1環芳香族炭化水素を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
余剰な多環芳香族炭化水素を原料油として、高価な水素を過剰に消費することなく適切な水素化分解反応を施すことにより、付加価値の高い1環芳香族炭化水素を製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
水素化分解触媒を用いた分解反応に先立った前処理(主に脱硫)により、水素化分解触媒の被毒を抑制することは、当業者では常識となっている。その際、水素化分解触媒の保護を考えると、脱硫活性が高い触媒ほど好ましく、そのために水素化活性を極力高めることが有望な手段であると考えられていた(非特許文献1)。
【0003】
一方、多環芳香族を含む留分から選択的に1環芳香族炭化水素であるアルキルベンゼン類を製造する方法は開示されている(特許文献1)が、上記のとおり、水素化活性を高めた水素化脱硫触媒が使用されており、必ずしも過剰の核水添反応を抑制した方法ではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2007/135769号パンフレット
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Hydrocracking Science and Technology, J.Scherzer and A.J.Gruia,Marcel Dekker,Inc
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
余剰傾向の多環芳香族炭化水素から、付加価値の高い1環芳香族炭化水素を選択的に製造する際、高価な水素を過剰に消費することなく適切な水素化精製および水素化分解反応を施す効果的な方法は確立されていなかった。かかる状況下、過分解を抑制し、多環芳香族炭化水素から付加価値の高い1環芳香族炭化水素を効率よく製造する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
水素化活性を抑制した水素化精製触媒により、多環芳香族炭化水素の1環のみを残存させるような選択的な核水添反応を行なうことにより、脱硫脱窒反応を進行させながら、過剰な核水添反応を抑制することが可能になった。
【0008】
すなわち本発明は次のとおりのものである。
【0009】
[1] 多環芳香族炭化水素が50容量%以上、1環芳香族炭化水素及び1.5環芳香族炭化水素の合計量が20容量%未満である原料炭化水素油を、
(1)水素の存在下、モリブデンの含有量が0.5重量%以上8.0重量%未満である水素化精製触媒に接触させ、脱硫脱窒素処理を行うとともに、多環芳香族炭化水素を1.5環芳香族炭化水素に変換する第一工程に次いで
(2)第一工程から得られた中間油を水素の存在下、水素化分解触媒に接触させ、1環芳香族炭化水素に変換する第二工程を行うことにより、
1環芳香族炭化水素が20容量%以上、多環芳香族炭化水素が1.0容量%未満である炭化水素を製造することを特徴とする1環芳香族炭化水素の製造方法。
[2] 前記第1工程及び第2工程の全工程において、原料油に対する生成油の1環芳香族炭化水素残存度(1RAsel)と、脱硫率(HDS)の比が0.36以上である上記[1]記載の1環芳香族炭化水素の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
脱硫脱窒反応に適した水素化精製触媒を使用し、適切な反応条件で過剰な核水添を抑制し、原料油中に多く含まれる芳香環を不必要に低減させず効率的に利用することにより、付加価値の高い1環芳香族炭化水素を高濃度で得るとともに、高価な水素の消費を抑えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明において、多環芳香族炭化水素とは2以上の芳香環を有する炭化水素を指し、1環芳香族炭化水素とはベンゼンの水素を0〜6個の鎖状炭化水素基で置換したものを意味しアルキルベンゼン類とも呼ぶ。また、1.5環芳香族炭化水素とはテトラリン(1,2,3,4−テトラヒドロナフタレン)やインダン(2,3−ジヒドロインデン)等のように1個の芳香環と飽和された1個のナフテン環を1分子内に有する化合物を指す。
【0012】
以下、本発明の炭化水素留分の製造方法の詳細について、原料炭化水素油、第一工程、第二工程、水素化分解触媒、水素化分解触媒の製造方法、水素化分解生成油の分離方法、及び製品炭化水素に分けて順次説明する。
【0013】
[原料炭化水素油]
本発明において、原料として使用する炭化水素油は、多環芳香族炭化水素が50容量%以上、好ましくは55容量%以上、特に好ましくは60容量%以上であり、1環芳香族炭化水素及び1.5環芳香族炭化水素の合計量が20容量%未満、好ましくは15容量%未満、特に好ましくは10容量%である原料炭化水素油である。多環芳香族炭化水素が50容量%未満の場合、目的とする1環芳香族炭化水素(アルキルベンゼン類)を高収率で得ることができず好ましくない。また、1環芳香族炭化水素及び1.5環芳香族炭化水素の合計量が20容量%以上である場合、1環芳香族炭化水素自身の水素化分解反応が促進されてしまうため好ましくない。
【0014】
また、多環の芳香環数は多ければ多いほど良いというわけではなく、最終的に1環の芳香族を効率的に製造する観点から、原料中の多環芳香族は2環のものが好ましい。中でも、原料中の多環芳香族は3環以上のものが少なく、2環のものが多いほど好ましい。3環以上の芳香族炭化水素の含有量は5.0容量%以下が好ましく、より好ましくは3.0容量%以下、特に好ましくは1.0容量%以下であり、2環芳香族炭化水素としては30容量%以上が好ましく、より好ましくは40容量%以上、特に好ましくは50容量%以上である。
【0015】
前記芳香族組成に基づき、好ましい蒸留性状を設定することができる。すなわち、2環芳香族炭化水素のナフタレンの沸点(218℃)を考慮して、少なくとも160℃以上280℃未満の留分が10容量%以上であり、215℃以上の留分として30容量%以上、より好ましくは40容量%以上が好ましい。従って、好ましい原料油の蒸留性状としては、10%留出温度が100℃以上230℃未満、より好ましくは140℃以上230℃未満、さらに好ましくは150℃以上220℃未満であり、90%留出温度が230℃以上400℃未満、より好ましくは230℃以上380℃未満、さらには230℃以上360℃未満、特には240℃以上330℃未満である。
【0016】
水素化分解反応用原料中の反応阻害物質として、通常、窒素分が0.1重量%以上3000重量ppm未満、硫黄分が0.1重量%以上3重量%未満含まれる。主な硫黄化合物としては、ベンゾチオフェン類、ジベンゾチオフェン類、スルフィド類であるが、本発明に用いる原料炭化水素油の沸点範囲では、ベンゾチオフェン類とジベンゾチオフェン類が多い。ジベンゾチオフェンは電子的に非局在化しているため安定であり、反応しにくいことが知られていることから、本発明に使用する原料炭化水素油中にはあまり多く含まれない方が好ましい。
【0017】
本発明において、原料として用いる多環芳香族炭化水素を含有する炭化水素油として、多環芳香族炭化水素が50容量%以上、1環芳香族炭化水素及び1.5環芳香族炭化水素の合計量が20容量%未満であれば、どのようなものでも使用することができる。
具体的には、原油を常圧蒸留して得られる留出分、常圧残渣を減圧蒸留して得られる減圧軽油、各種の重質油の軽質化プロセス(接触分解装置、熱分解装置等)から得られる留出物、例えば接触分解装置から得られる接触分解油(特に、LCO)、熱分解装置(コーカーやビスブレーキング等)から得られる熱分解油、エチレンクラッカーから得られるエチレンクラッカー重質残渣、接触改質装置から得られる接触改質油、さらに接触改質油を抽出、蒸留、あるいは膜分離して得られる芳香族リッチな接触改質油、潤滑油ベースオイルを製造する芳香族抽出装置から得られる留分、溶媒脱ろう装置から得られる芳香族リッチな留分などが挙げられる。ここで、芳香族リッチとは、接触改質装置から得られる炭素数10以上でかつ芳香族化合物の含有量が50容量%を超えるものを指す。その他、常圧蒸留残渣、減圧蒸留残渣、脱ろうオイル、オイルサンド、オイルシェール、石炭、バイオマス等などを精製する脱硫法又は水素化転化法(例えば、H−Oilプロセス、OCRプロセス等の重油分解プロセスや重油の超臨界流体による分解プロセス)から生ずる留出物等も好ましく用いることができる。
【0018】
また、複数の上記精製装置で適宜の順序で処理されて得られた留出物も水素化分解反応用原料の炭化水素油として用いることもできる。さらに、これら炭化水素油は、単独で用いても2種以上の混合物を使用してもよく、水素化分解の原料油として上記の沸点範囲及び芳香族環構成炭素比率に調整されたものであれば使用できる。したがって、上記の沸点範囲及び芳香族環構成炭素比率を外れる炭化水素油であっても、沸点範囲及び芳香族環構成炭素比率を上記の範囲に調整して用いることもできる。上記の炭化水素油のなかでも、接触分解油、熱分解油、減圧軽油、エチレンクラッカー重質残渣、接触改質油、超臨界流体分解油が好ましく、特には接触分解軽油(LCO)が好ましい。
【0019】
[第一工程]
本発明の第一工程は、あらかじめ水素化精製処理を行うことにより硫黄分や窒素分を低減しつつ、多環芳香族炭化水素を1.5環芳香族炭化水素(テトラリン類およびインダン類)に変換する工程である。
【0020】
第一工程の水素化精製処理に用いる水素化精製触媒としては、耐火性酸化物担体にモリブデンを含有する水素化精製触媒である。特に、硫黄分を低減せしめる作用をなすので、脱硫触媒ともいう。
このような触媒として、具体的には、アルミナ、シリカ、ボリア、ゼオライトから選ばれる少なくとも1種が含まれる担体に、モリブデンと周期律表の第6族及び第8族の金属としてタングステン、ニッケル、コバルト、白金、パラジウム、鉄、ルテニウム、オスミウム、ロジウム、イリジウムから選ばれる少なくとも1種の金属前記元素を担持した触媒が挙げられる。
【0021】
前記金属の含有量が多すぎる場合、過剰な核水添反応が進行してしまい、脱硫脱窒素反応と核水添反応のバランスが満足できなくなる。したがって、モリブデン含有量としては0.5重量%以上8.0重量%未満、好ましくは1.0重量%以上6.0重量%未満、より好ましくは2.0重量%以上4.0重量%未満である。
また、水素化精製触媒として、ニッケル、コバルト、リンを適宜添加しても良いが、本発明においては、水素化活性を過剰に向上させることは好ましくないため、ニッケルとコバルトの合計含有量は2.0重量%未満、好ましくは1.5重量%未満、より好ましくは1.0重量%未満である。さらに、リンの含有量としては2.0重量%未満、好ましくは1.5重量%未満、より好ましくは1.0重量%未満である。
【0022】
水素化精製触媒は、必要に応じて水素化反応前に乾燥、還元、硫化等の処理をしてから使用する。また、第一工程に用いる触媒の量は、後述する水素化分解触媒に対して10〜200容量%の範囲で使用することが好ましい。ここで、10容量%未満の場合、硫黄分の除去が不十分であり、一方200容量%超える場合、装置が大規模なものになってしまい非効率である。なお、第一工程と後述する第二工程は、一つの反応塔に充填したそれぞれのための触媒層として構成されても良く、あるいは別々の反応塔から構成されても良い。この際、両触媒層の間に水素供給ラインさらにその上流に反応生成ガス抜出ラインを設置して反応生成ガスを抜き出し、フレッシュな水素ガスを供給して反応を促進させることもできる。また、第一工程と第二工程は、それぞれ別々の個々の装置であっても良いことは断るまでもない。
【0023】
原料炭化水素油は、水素化精製触媒と、水素の存在下で、温度150℃以上400℃未満、より好ましくは200℃以上380℃未満、さらに好ましくは250℃以上360℃未満で、圧力1MPa以上10MPa未満、より好ましくは2MPa以上8MPa未満、液空間速度(LHSV)0.1h−1以上10.0h−1未満、より好ましくは0.1h−1以上8.0h−1未満、さらに好ましくは0.2h−1以上5.0h−1未満、水素/炭化水素比100NL/L以上5000NL/L未満、好ましくは150NL/L以上3000NL/L未満で接触させることが好ましい。
【0024】
以上の処理により、硫黄分は好ましくは500重量ppm以下、より好ましくは100重量ppm以下、特に好ましくは50重量ppm以下、窒素分は好ましくは50重量ppm以下、より好ましくは20重量ppm以下、特に好ましくは10重量ppm以下に低減される。この水素化精製処理による脱硫、脱窒素反応に伴い、芳香族分の水素化も一部進行してしまう。
【0025】
本発明の第一工程において、前述のとおり多環芳香族炭化水素を極力1.5環芳香族炭化水素へ変換することが望ましい。すなわち、第一工程後の2環芳香族炭化水素としては20容量%未満が好ましく、より好ましくは15容量%未満、特に好ましくは10容量%未満であり、3環以上の芳香族炭化水素はとしては4容量未満、好ましくは2容量%未満、特に好ましくは1容量%未満である。また、1.5環芳香族炭化水素としては40容量%以上、好ましくは45容量%以上、特に好ましくは50容量%以上である
【0026】
本発明において、多環芳香族炭化水素の量を減少させることは問題ないが、1環芳香族炭化水素の量も減少させることは望ましくない。従って、多環芳香族分を1環あるいは1.5環芳香族炭化水素へ水素化するところまでで留めることができるような反応条件で処理することが好ましく、このためには、所定の脱硫率に対する1環芳香族炭化水素を残存させる比率が高いことが望ましい。
後述する第二工程において、主として多環芳香族分あるいは1.5環芳香族炭化水素を1環芳香族炭化水素へ水素化反応を行うので、第1工程及び第2工程の全工程において、原料油に対する生成油の1環芳香族炭化水素残存度(1RAsel)と、脱硫率(HDS)の比(1RAsel)/(HDS)を好ましくは0.36以上、より好ましくは0.37以上、特には0.38以上になるように第一工程の反応条件を設定することが好ましい。
【0027】
第一工程の反応形態は特に限定されるものではなく、従来から広く使用されている反応形態が適用できる。中でも、固定床式は装置構成が複雑でなく操作も容易である。
【0028】
[第二工程]
第二工程は、水素化分解反応であって、第一工程に引き続き実施する。前述の第一工程で水素化処理された中間油は、水素の存在下で、後述する水素化分解触媒と接触させ1環芳香族炭化水素を始めとする各種の軽質炭化水素留分を生成する。
【0029】
本発明における第二工程の反応形態は、特に限定されるものではなく、従来から広く使用されている反応形態、すなわち、固定床、沸騰床、流動床、移動床等が適用できる。この中で、固定床式が好ましく、装置構成が複雑でなく操作も容易である。
【0030】
第二工程に使用する水素化分解触媒は、反応器に充填した後、乾燥、還元、硫化などの前処理をして用いられる。これらの処理は当業者に一般的であり、周知の方法によって反応塔内又は反応塔外で実施できる。触媒の硫化による活性化は、一般的には水素化分解触媒を水素/硫化水素混合物流下150℃以上800℃未満、好ましくは200℃以上500℃未満の温度で処理することによって行われる。
【0031】
第二工程の水素化分解反応において、例えば、反応温度、反応圧力、水素流量、液空間速度などの操作条件は、原料の性状、生成油の品質、生産量や精製設備・後処理能設備の能力に応じて適宜調整すればよい。水素化分解反応用の原料炭化水素油と水素化分解触媒を、水素の存在下で反応温度200℃以上450℃未満、より好ましくは250℃以上430℃未満、さらに好ましくは280℃以上400℃未満で、反応圧力2MPa以上10MPa未満、より好ましくは2MPa以上8MPa未満で、液空間速度(LHSV)0.1h−1以上10.0h−1未満、より好ましくは0.1h−1以上8.0h−1未満、さらに好ましくは0.2h−1以上5.0h−1未満で、水素/炭化水素比(容積比)100NL/L以上5000NL/L未満、好ましくは150NL/L以上3000NL/L未満で接触させる。以上の操作により、水素化分解反応用の原料炭化水素油中の多環芳香族あるいは1.5環芳香族炭化水素は分解され、所望の1環芳香族炭化水素(アルキルベンゼン類)に転化する。上記の操作条件の範囲外では、分解活性が不足したり触媒の急激な劣化を引き起こしたりするなどの理由から好ましくない。
【0032】
[水素化分解触媒]
本発明の水素化分解触媒は、複合酸化物とそれを結合するバインダーとから構成される担体に周期律表の第6族及び第8族から選ばれる少なくとも1種の金属成分を担持し、ペレット状(円柱状、異形柱状)、顆粒状、球状等に成形したものである。また、その物性として、比表面積が100m/g以上800m/g未満、中央細孔直径が3nm以上15nm未満、細孔直径2nm以上60nm未満の細孔の占める細孔容積が0.1mL/g以上1.0mL/g未満であることが好ましい。
比表面積はASTM規格D3663−78に準拠して窒素吸着によって求めたBET比表面積の値であり、好ましくは150m/g以上700m/g未満、より好ましくは200m/g以上600m/g未満である。BET比表面積が上記100m/gよりも小さい場合は活性金属の分散が不十分になり活性が向上せず、逆に800m/gより大きすぎる場合は十分な細孔容積を保持できないため反応生成物の拡散が不十分になり、反応の進行が急激に阻害されるので好ましくない。
【0033】
水素化分解触媒の中央細孔直径は、好ましくは4.0nm以上12nm未満、より好ましくは5.0nm以上10nm未満である。また、細孔直径2nm以上60nm未満の細孔の占める細孔容積は、好ましくは0.15mL/g以上0.8mL/g未満、より好ましくは0.2mL/g以上0.7mL/g未満である。中央細孔直径及び細孔容積は、反応に関与する分子の大きさと拡散との関係から適正範囲が存在するため、大きすぎても小さすぎても好ましくない。
【0034】
いわゆるメソポアの細孔特性、すなわち上記細孔直径、細孔容積は窒素ガス吸着法によって測定し、BJH法などによって細孔容積と細孔直径の関係を算出することができる。また、中央細孔直径は、窒素ガス吸着法において相対圧0.9667の条件で得られる細孔直径2nm以上60nm未満の細孔の占める細孔容積の累積をVとするとき、各細孔直径の容積量を累積させた累積細孔容積曲線において、累積細孔容積がV/2となる細孔直径をいう。
【0035】
本発明における水素化分解触媒は、マクロポア、メソポア、ミクロポアを有するものを用いることができる。通常、複合酸化物担体のメソポアの細孔特性が触媒形成時まで維持されることから、上記水素化分解触媒のメソポアの細孔特性は、基本的には複合酸化物担体の細孔特性として上記メソポアの細孔特性を持つように、混練条件(時間、温度、トルク)や焼成条件(時間、温度、流通ガスの種類と流量)を制御することにより調節することができる。
【0036】
マクロポアの細孔特性は、複合酸化物粒子間の空隙とバインダーによる充填率とにより制御することができる。複合酸化物粒子間の空隙は複合酸化物粒子の粒径により、充填率はバインダーの配合量により制御することができる。
【0037】
ミクロポアの細孔特性は、主にゼオライト等の複合酸化物が本来有する細孔に依存するところが大きいが、スチーミングなどの脱アルミニウム処理により制御することもできる。
【0038】
メソポアとマクロポアの細孔特性は、また、後述するバインダーの性状及び混練条件により影響され得る。複合酸化物は、無機酸化物マトリックス(バインダー)と混合して担体とする。
【0039】
[複合酸化物]
本発明でいう複合酸化物とは、固体酸性を有する複合酸化物である。例えば、二元複合酸化物では、K.Shibata,T.Kiyoura,J.Kitagawa,K.Tanabe,Bull.Chem.Soc.Jpn.,46,2985(1973)で酸性発現が確認されているものをはじめ、数多くのものが知られている。本発明に用いる複合酸化物としては、それらの中でも特にシリカ−アルミナ、シリカ−チタニア、シリカ−ジルコニア、シリカ−マグネシアを好ましく用いることができる。三元複合酸化物としては、シリカ−アルミナ−チタニア、シリカ−アルミナ−ジルコニアを好ましく用いることができる。また、本発明でいう複合酸化物には、USYゼオライトなどのゼオライトも含まれる。
【0040】
複合酸化物は、シリカ−アルミナ、シリカ−チタニア、シリカ−ジルコニア、シリカ−マグネシア、シリカ−アルミナ−チタニア、シリカ−アルミナ−ジルコニア、酸化タングステン−ジルコニア、硫酸化ジルコニア、硫酸アルミナ、ゼオライトから選ばれる1種を単独で使用することもできるし、又は2種以上を組み合わせて用いることもできる。特に、複合酸化物としてシリカ−アルミナを用いる場合、SiO/Al比(モル比)が1〜20になるように用いることが好ましい。
【0041】
前記ゼオライトとしては特に限定されるものではないが、X型、Y型、β型、MOR型及びMFI型のゼオライトが好ましく、中でもY型、β型及びMFI型のゼオライトを好適に用いることができる。Y型ゼオライトのうち、Na−Y型のようなアルカリ金属型のものよりも、アルカリ金属をイオン交換したH−Y型のような酸性タイプのものが好ましく用いられ、H−Y型ゼオライトを脱アルミニウム処理したUSY型ゼオライト(超安定Y型ゼオライト)を用いることもできる。これは、酸処理、高温処理、水蒸気処理などによって得られるものであり、結晶性の劣化に高い抵抗力を有し、アルカリ金属イオンの含有量が1.0重量%未満、好ましくは0.5重量%未満で、かつ2.46nm以下の格子定数、ならびにSiO/Al比(モル比)が5以上であることによって特徴付けられる。
【0042】
本発明で用いる上記H−Y型ゼオライトやUSY型ゼオライトは、アルミニウムとケイ素のモル比率が1:2.0以上1:10.0未満でフォージャサイト構造を有するものであれば、製法の如何にかかわらず、いずれをも支障なく用いることができる。本発明では、先ずY型ゼオライトを脱アルカリ処理し、次いで水蒸気処理及び/又は酸処理し、格子定数が2.43nm以上2.46nm未満の結晶性アルミノシリケートとすることが好ましい。格子定数が2.46nmを超えるものでは、後述する酸処理の際にpH3未満の水溶液と接触したときに結晶構造の崩壊が生じて分解活性が低下し、目的留分の収率が減少する。また、格子定数が2.43nmより小さいものでは、結晶性が悪く酸量も少ないことから同様に分解活性が低下し、目的留分の収率が減少する。なお、格子定数とはX線回折法により得られた面間隔dの値より、次の式で算出される。
格子定数=d×(h+k+l1/2
ただし、h、k、lはミラー指数を示す。
【0043】
前述の脱アルカリ処理は、Y型ゼオライトをアンモニア含有溶液等に浸漬処理して、Naのようなアルカリ金属イオンをアンモニウムイオン等によりイオン交換し、これを焼成することにより行う。まずH−Y型ゼオライトを得、さらにこの一連の処理を数回繰り返すことにより、SY(Stable Y)型ゼオライトを経て、アルカリ金属含有量をより低減したUSY(Ultra Stable Y)型ゼオライトを調製することができる。脱アルカリ処理をしたUSY型ゼオライトのアルカリ金属含有量は1.0重量%未満にすることが好ましく、さらに好ましくは0.5重量%未満である。
【0044】
また、水蒸気処理は、前記脱アルカリ処理したゼオライトを500〜800℃、好ましくは550〜750℃の水蒸気と接触させる方法により行うとよい。さらに酸処理はpH3以下の硝酸水溶液等に浸漬することにより行うとよい。この水蒸気処理と酸処理はどちらか一方でもよいが、両処理を併用することにより部分的な脱アルミニウム化処理を行い、これの乾燥、焼成により簡便に上記格子定数を有する結晶性アルミノシリケートを調製することができる。
【0045】
Y型ゼオライトの他、β型、モルデナイトに代表されるMOR型やZSM−5に代表されるMFI型ゼオライトを使用することもできる。この場合、これらゼオライトはシリカ/アルミナ比は高いものなので、特段、脱アルミニウム処理を施さずに使用することができる。
【0046】
このようにしてシリカ/アルミナ比を調整した結晶性アルミノシリケートを、鉄、コバルト、ニッケル、モリブテン、タングステン、銅、亜鉛、クロム、チタン、バナジウム、ジルコニア、カドミウム、スズ、鉛等の遷移金属の塩や、ランタン、セリウム、イッテルビウム、ユウロピウム、ジスプロシウム等の希土類の塩を含有する溶液に浸漬することにより、これらの金属イオンを導入し、遷移金属含有結晶性アルミノシリケートや希土類含有結晶性アルミノシリケートとしてもよい。後述する水素化分解反応に供する際には、前記結晶性アルミノシリケート、遷移金属含有結晶性アルミノシリケート、あるいは希土類含有結晶性アルミノシリケートを単独で用いても、これらの2種以上を混合して使用してもよい。
【0047】
[バインダー]
バインダーとしては、アルミナ、シリカ−アルミナ、チタニア−アルミナ、ジルコニア−アルミナ、ボリア−アルミナなど、多孔質でかつ非晶質のものを好適に用いることができる。なかでも、複合酸化物を結合する力が強く、また比表面積が高いことから、アルミナ、シリカ−アルミナ及びボリア−アルミナが好ましい。これらの無機酸化物は活性金属を担持する物質として働くと共に、上記複合酸化物を結合するバインダーとして働き、触媒の強度を向上させる役割がある。このバインダーの比表面積は30m/g以上であることが望ましい。
【0048】
担体の構成成分の一つであるバインダーは、アルミニウム水酸化物及び/又は水和酸化物からなる粉体(以下、単にアルミナ粉体ともいう)、特には、擬ベーマイトなどのベーマイト構造を有する酸化アルミニウム1水和物(以下、単にアルミナともいう)が水素化分解活性や選択性を向上できるので好ましく用いることができる。また、バインダーは、ボリア(ホウ素酸化物)を含むアルミニウム水酸化物及び/又は水和酸化物からなる粉体、特にはボリアを含む擬ベーマイトなどのベーマイト構造を有する酸化アルミニウム1水和物も水素化分解活性や選択性を向上できるので好ましく用いることができる。
【0049】
酸化アルミニウム1水和物としては、市販のアルミナ源(例えば、SASOL社から市販されているPURAL(登録商標)、CATAPAL(登録商標)、DISPERAL(登録商標)、DISPAL(登録商標)、UOP社から市販されているVERSAL(登録商標)、又はALCOA社から市販されているHIQ(登録商標)など)を使用することができる。あるいは、酸化アルミニウム3水和物を部分的に脱水する周知の方法によって調製することもできる。上記酸化アルミニウム1水和物がゲルの形である場合、ゲルを水又は酸性水によって解こうする。アルミナを沈殿法で合成する場合、酸性アルミニウム源としては、塩化アルミニウム、硫酸アルミニウム、硝酸アルミニウムなどから選択することができ、塩基性アルミニウム源としては、アルミン酸ナトリウム、アルミン酸カリウムなどから選択できる。
【0050】
バインダーの配合割合は、触媒を構成する複合酸化物とバインダーの合計重量に対して5重量%以上70重量%未満、特には10重量%以上60重量%未満とすることが好ましい。5重量%未満では触媒の機械的強度が低下しやすく、70重量%を超えると相対的に水素化分解活性や選択性が低下する。複合酸化物としてUSYゼオライトを用いる場合、触媒を構成する複合酸化物部分及びバインダー部分の合計重量に対するUSYゼオライトの重量は1重量%以上80重量%未満、特には10重量%以上70重量%未満とすることが好ましい。1重量%未満では、USYゼオライトを用いたことによる分解活性向上効果が発現しにくく、80重量%を超えると相対的に中間留分選択性が低下する。
【0051】
[金属成分]
本発明の水素化分解触媒は、周期律表の第6族及び第8族から選ばれる金属を活性成分として含有することが好ましい。第6族及び第8族の金属のなかでも、モリブデン、タングステン、鉄、ルテニウム、オスミウム、コバルト、ロジウム、イリジウム、ニッケル、パラジウム、白金が特に好適に用いられる。これらの金属は1種のみで用いることも、2種以上を組み合わせて用いることもできる。これら金属の添加量は、水素化分解触媒中に占める第6族と第8族の金属元素の合計量が0.05重量%以上35重量%未満、特には0.1重量%以上30重量%未満となるように含有することが好ましい。金属としてモリブデンを用いる場合、その含有量は水素化分解触媒中5重量%以上20重量%未満、特には7〜15重量%とすることが好ましい。金属としてタングステンを用いる場合、その含有量は水素化分解触媒中5重量%以上30重量%未満、特には7重量%以上25重量%未満とすることが好ましい。モリブデンやタングステンの添加量は、上記の範囲より少ないと、水素化分解反応に必要な活性金属の水素化機能が不足し好ましくない。逆に、上記の範囲より多いと、添加した活性金属成分の凝集が起こりやすく好ましくない。
【0052】
金属としてモリブデン又はタングステンを用いる場合には、さらに、コバルト又はニッケルを添加すると、活性金属の水素化機能が向上し一層好ましい。その場合のコバルト又はニッケルの合計含有量は、水素化分解触媒中0.5重量%以上10重量%未満、特には1重量%以上7重量%未満とすることが好ましい。金属としてロジウム、イリジウム、白金、パラジウムのうちの1種又は2種以上を用いる場合、その含有量は0.1重量%以上5重量%未満、特には0.2重量%以上3重量%未満とすることが好ましい。この範囲未満では、十分な水素化機能が得られず、この範囲を超えると添加効率が悪く経済的でないため好ましくない。
【0053】
なお、活性成分として担持する第6族金属成分は、パラモリブデン酸アンモニウム、モリブデン酸、モリブデン酸アンモニウム、リンモリブデン酸、タングステン酸アンモニウム、タングステン酸、無水タングステン酸、タングストリン酸などの化合物を水溶液として含浸させ、付加することができる。
また、第8族金属成分は、ニッケルやコバルトの硝酸塩、硫酸塩、塩化物、フッ化物、臭化物、酢酸塩、炭酸塩、リン酸塩などの水溶液や、塩化白金酸、ジクロロテトラアンミン白金、テトラクロロヘキサアンミン白金、塩化白金、ヨウ化白金、塩化白金酸カリウム、酢酸パラジウム、塩化パラジウム、硝酸パラジウム、パラジウムアセチルアセトナート、酢酸ロジウム、塩化ロジウム、硝酸ロジウム、塩化ルテニウム、塩化オスミウム、塩化イリジウムなどの化合物を水溶液として用いるとよい。
さらに、第三成分として、リン、ホウ素、カリウム、及びランタン、セリウム、イッテルビウム、ユウロピウム、ジスプロシウム等の希土類を添加しても良い。
【0054】
[水素化分解触媒の製造方法]
本発明の水素化分解触媒は、複合酸化物とバインダーを混練して成形した後、乾燥、焼成して担体を作成し、さらに金属成分を含浸担持した後、乾燥、焼成することによって調製することができる。本発明の水素化分解触媒の製造方法をより詳細に下記に説明するが、下記の方法に限定するものでなく、所定の細孔特性、性能を有する触媒を作製できる他の方法を用いることもできる。
【0055】
混練には、一般に触媒調製に用いられている混練機を用いることができる。通常は原料を投入し、水を加えて攪拌羽根で混合するような方法が好適に用いられるが、原料及び添加物の投入順序など特に限定はない。混練の際には通常水を加えるが、原料がスラリー状の場合などには特に水を加える必要はない。また、水以外にあるいは水の代わりに、エタノール、イソプロパノール、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどの有機溶媒を加えてもよい。混練時の温度や混練時間は、原料となる複合酸化物、バインダーにより異なるが、好ましい細孔構造が得られる条件であれば特に制限はない。同様に、本発明の触媒の性状が維持される範囲内であれば、硝酸などの酸やアンモニアなどの塩基、クエン酸やエチレングリコールなどの有機化合物、セルロースエーテル類やポリビニルアルコールのような水溶性高分子化合物、セラミックス繊維などを加えて混練しても構わない。
【0056】
混練後、触媒調製に一般的に用いられている周知の成形方法を用いて成形することができる。特に、ペレット状(円柱状、異形柱状)、顆粒状、球状等の任意の形状に効率よく成形できるスクリュー式押出機などを用いた押出成形や、球状に効率よく成形できるオイルドロップ法による成形が好ましく用いられる。成形物のサイズに特に制限はないが、例えば円柱状のペレットであれば、直径0.5〜20mm、長さ0.5〜15mm程度のものを容易に得ることができる。
【0057】
上記のようにして得られた成形物は、乾燥、焼成処理をすることにより担体とされる。この焼成処理は、空気又は窒素などのガス雰囲気中において300〜900℃の温度で0.1〜20時間焼成すればよい。
【0058】
担体に金属成分を担持する方法に特に制限はない。担持したい金属の酸化物やその塩、例えば硝酸塩、酢酸塩、炭酸塩、リン酸塩、ハロゲン化物などの水溶液を用意して、スプレー法、浸漬などによる含浸法や、イオン交換法等により担持する。担持処理と乾燥処理を繰り返すことにより、より多くの金属成分を担持することができる。
【0059】
例えば、担体に第6族の金属成分を含有した水溶液を含浸させた後、常温〜150℃、好ましくは100〜130℃で0.5時間以上乾燥させるか、或いは乾燥させることなくそのまま第8族の金属成分を含有した水溶液を含浸させ、常温〜150℃、好ましくは100〜130℃で0.5時間以上乾燥させた後、350〜800℃、好ましくは450〜600℃で0.5時間以上焼成することにより触媒を調製することができる。
【0060】
本発明の触媒に担持された第6族及び第8族の金属は、金属、酸化物、硫化物などの何れの形態であってもよい。
【0061】
[水素化分解触媒及び担体の機械的強度]
水素化分解触媒の機械的強度は高いほど好ましく、例えば直径1.6mmの円柱ペレットの側面圧壊強度として3kg以上が好ましく、より好ましくは4kg以上である。また、成形担体を作製した後、金属成分を含浸担持して触媒を作製する場合においては、歩留りよく触媒を製造するために成形担体についても十分な機械的強度を有することが好ましい。具体的には、本発明における成形担体の機械的強度としては、同様に直径1.6mmの円柱ペレットの側面圧壊強度として3kg以上が好ましく、より好ましくは4kg以上である。
【0062】
触媒のバルク密度は、0.4g/cm以上2.0g/cm未満が好ましく、より好ましくは0.5g/cm以上1.5g/cm未満、特に好ましくは0.6g/cm以上1.2g/cm未満である。
【0063】
[水素化分解生成油の性状]
第二工程において、原料炭化水素油中の沸点215℃以上に相当する留分のうち40容量%以上は215℃未満の留分に転化される。水素化分解生成油は、沸点215℃以下の炭化水素、すなわちナフタレンよりも軽質な炭化水素の含有量が40容量%以上であり、好ましくは50容量%以上、より好ましくは60容量%以上、特に好ましくは75容量%以上である。また、水素化分解処理によって得られる水素化分解生成油は、1環芳香族炭化水素(アルキルベンゼン類)を20容量%以上含有することが好ましく、より好ましくは30容量%以上、さらに好ましくは40容量%以上であり、1.5環芳香族炭化水素を30容量%未満含有することが好ましく、さらに好ましくは28容量%未満であり、多環芳香族炭化水素を1容量%未満含有することが好ましく、より好ましくは0.7容量%未満、さらには0.5容量%未満である。
【0064】
[後処理工程]
本発明において、必要に応じて得られた水素化分解生成油を精製する後処理工程を設置することも可能である。後処理工程は特に限定されるものではないが、第一工程と同様の触媒種、触媒量及び操作条件を設定することができる。後処理工程は、第二工程直後に設置して水素化分解生成油を処理しても良いし、そのあとの分離工程の後に設置して分離された各炭化水素留分を個々に処理しても良い。この後処理工程の設置により製品中の不純物を大幅に低減することができ、例えば硫黄分や窒素分を0.1重量ppm以下にすることも可能である。
【0065】
[水素化分解生成油の分離方法]
得られた水素化分解生成油は、適宜の分離工程を経て、LPG留分、ガソリン留分、灯油留分、軽油留分、非芳香族ナフサ留分及び1環芳香族炭化水素などの製品に分離することができる。これらの製品は、石油製品等の規格を満足すれば、そのままLPG、ガソリン、灯油、軽油や石油化学原料として用いることもできるが、通常は、主にそれらを調合、精製して製造するための基材として用いる。分離プロセスは特に限定するものではなく、精密蒸留、吸着分離、収着分離、抽出分離、膜分離等など公知の方法を目的とする製品性状に応じて採用できる。また、それらの運転条件も適宜設定すればよい。
【0066】
一般的に広く使用されているのは蒸留方法であるが、これは沸点の差を利用して、例えばLPG留分、ガソリン留分、灯油留分、及び軽油留分に分離するものである。具体的には、沸点0〜30℃付近より軽質な部分をLPG留分、それより沸点が高く150〜215℃付近までの部分をガソリン留分、さらに沸点が高く215〜260℃付近までの部分を灯油留分、そしてそれより高沸点で260〜370℃付近までの部分を軽油留分とすることができ、それより重質な留分は未反応物として、再度水素化分解反応工程で処理しても良いし、A重油などの基材に使用しても良い。
【0067】
芳香族分を分離する抽出方法の場合、適宜な溶剤を使用して芳香族分と非芳香族分に分離することができるが、上記蒸留方法と適宜組み合わせて使用しても良い。この場合、蒸留分離から得られたガソリン留分及び/又は灯油留分を用いて、芳香族分を選択的に抽出する溶剤、例えばスルフォラン(テトラヒドロチオフェンジオキサイド)を混合し、温度を20〜100℃、圧力を常圧から1.0MPaの抽出条件で処理することにより、芳香族化合物がスルフォランにより選択的に抽出されたエキストラクト留分と、スルフォランに抽出されないパラフィン系炭化水素が濃縮されたラフィネート留分とに分離される。この抽出処理で得た少なくとも80℃以上の沸点成分を含むエキストラクト留分は、芳香族化合物が選択的に抽出されているため、必要に応じて水素化精製処理を施すことにより芳香族基材として製品に使用することができる。また、ラフィネート留分は比較的多くのイソパラフィンやナフテンを含有しているので、高オクタン価ガソリン組成物を製造するためのガソリン基材としてそのまま用いることができ、さらに接触改質工程原料油として用いることにより芳香族炭化水素へ変換することもできる。
【0068】
スルフォランで抽出されたエキストラクト留分の芳香族分とスルフォランとは蒸留操作により容易に分離され、分離されたスルフォランは抽出溶剤として再使用される。分離された芳香族分は、トランスアルキレーション処理、異性化処理などを経て、さらに付加価値の高いパラキシレンやベンゼン等に転換することもできる。
【0069】
[製品炭化水素]
上記の分離工程を経て得られる炭化水素製品としては、沸点−10〜30℃のLPG留分、沸点30〜215℃のガソリン留分、沸点215〜260℃の灯油留分、沸点260〜370℃の軽油留分、及び以上の留分を分離した後に残った残渣分が挙げられる。本発明において、残渣分は少ないほど好ましく、再度第二工程にリサイクルして軽質化することもできる。
また、ガソリン留分をスルフォランなどの溶剤で抽出してエキストラクト留分とラフィネート留分を得ることもできる。ラフィネート留分は非芳香族ナフサ留分であり、ガソリン基材、溶剤原料などとして有用である。エキストラクト留分は石油化学原料として有用な1環芳香族炭化水素(アルキルベンゼン類)である。
【実施例】
【0070】
以下、本発明の炭化水素留分の製造方法を、実施例及び比較例を用いて詳細且つ具体的に説明する。
[水素化精製触媒A〜D]
【0071】
市販の擬ベーマイト粉体にアンモニア水および水を加えて混練した後、直径1.4mmの柱状物に押し出し成形した。この成形体を130℃で6時間乾燥し、800℃で1時間焼成してγ-アルミナ担体を得た。このγ-アルミナ担体にモリブデン酸水溶液をスプレー法で含浸させ130℃で6時間乾燥した。その後、600℃で30分焼成することにより脱硫触媒Aを得た。脱硫触媒Aの組成(担持金属含有量)と代表的物性を表1に示す。
【0072】
市販の擬ベーマイト粉体に硝酸および水を加えて混練した後、直径1.4mmの柱状物に押し出し成形した。この成形体を130℃で6時間乾燥し、600℃で1時間焼成してγ-アルミナ担体を得た。このγ-アルミナ担体にモリブデン酸水溶液をスプレー法で含浸させ130℃で6時間乾燥し、さらに、硝酸ニッケル水溶液をスプレー法で含浸させ130℃で6時間乾燥した。その後、500℃で30分焼成することにより脱硫触媒Bを得た。脱硫触媒Bの組成(担持金属含有量)と代表的物性を表1に示す。
【0073】
市販の擬ベーマイト粉体に硝酸および水を加えて混練した後、直径1.4mmの柱状物に押し出し成形した。この成形体を130℃で6時間乾燥し、600℃で1時間焼成してγ-アルミナ担体を得た。このγ-アルミナ担体にモリブデン酸水溶液をスプレー法で含浸させ130℃で6時間乾燥し、さらに、硝酸ニッケルとリン酸の混合水溶液をスプレー法で含浸させ130℃で6時間乾燥した。その後、500℃で30分焼成することにより脱硫触媒Cを得た。脱硫触媒Cの組成(担持金属含有量)と代表的物性を表1に示す。
【0074】
脱硫触媒Cの調製方法において、硝酸ニッケルの代わりに硝酸コバルトを使用した以外は同様の方法により脱硫触媒Dを得た。脱硫触媒Dの組成(担持金属含有量)と代表的物性を表1に示す。
[水素化分解触媒の調製]
【0075】
SiO/Al比が6.9、比表面積が697m/gであるNH−Y型ゼオライト(東ソー製HSZ−341NHA)を1684g、アルミナ粉末(UOP社製アルミナVersal 250)834g、4.0重量%の希硝酸溶液500mL、イオン交換水50gを添加して混練し、円柱状(ペレット)に押し出し成形し、130℃で6時間乾燥した後、600℃で2時間焼成して担体とした。
この担体に、モリブデン酸アンモニウム水溶液をスプレー含浸して130℃で6時間乾燥した後、硝酸ニッケル水溶液をスプレー含浸して130℃で6時間乾燥した。次いで、空気の気流下で、500℃で30分間焼成して分解触媒Eを得た。分解触媒Eの組成(担持金属含有量)と代表的物性を表1に示す。
【0076】
上記触媒物性測定において使用した測定装置及び方法を以下に示す。
[細孔特性の測定方法]
【0077】
窒素ガス吸着法による細孔特性(比表面積、細孔直径2nm以上60nm未満の細孔の占める細孔容積、中央細孔直径)の測定にはMicromeritics社製ASAP2400型測定器を用いた。
【0078】
【表1】

【0079】
(実施例1〜4)
原料油として接触分解軽油(硫黄分:1740重量ppm、窒素分:293重量ppm、1環芳香族炭化水素(1.5環も含む):16.5容量%、2環芳香族炭化水素:41.2容量%、3環以上の芳香族炭化水素:12.4容量%、全芳香族化合物量:70.1容量%、10容量%留出温度:222.5℃、50容量%留出温度:279.5℃、90容量%留出温度:342.0℃)を用い、1塔目に水素化精製触媒としての脱硫触媒A、2塔目に水素化分解触媒としての分解触媒Eを等量ずつ充填し、表2に示すとおり、反応圧力7.0MPa、LHSV=0.5h−1、水素/原料油比=1400NL/L、1塔目反応温度320〜400、2塔目反応温度360℃の条件下で、水素化分解反応を行った。その結果得られた生成油の性状を表2に示す。
【0080】
【表2】

【0081】
(比較例1〜7)
1塔目に充填する触媒として、脱硫触媒Aの代わりに、脱硫触媒B(比較例1〜3)、脱硫触媒C(比較例4〜5)、脱硫触媒D(比較例6〜7)を使用し、表3および表4に記載の反応条件で、実施例1〜4と同様に水素化分解反応を行なった。
【0082】
1RAsel.は、原料油に対する生成油の1環芳香族炭化水素残存度であり、次式で得られた値である。
1RAsel.(%)=生成油中の1環芳香族炭化水素含有量(容量%)/原料油中の全芳香族炭化水素含有量(容量%)×100
【0083】
HDSは、脱硫率を示しており、次式で得られた値である。
HDS(%)=1−(生成油の硫黄濃度(重量ppm)/原料油の硫黄濃度(重量ppm))×100
【0084】
反応液収率は、反応後における炭素数5以上の留分の残存率(重量%)とした。
【0085】
【表3】

【0086】
【表4】

【0087】
表2〜4に示したとおり、実施例1〜4から明らかなように、1塔目に適切な水素化精製触媒を使用して適切な反応条件で水素化精製・水素化分解することにより、従来から広く使用されてきた水素化精製触媒を使用した場合(比較例1〜7)と比較して、水素消費量が少なくでき高価な水素を過剰に消費することなく、2環芳香族炭化水素から所望の1環芳香族炭化水素(アルキルベンゼン類)への変換が効率的に進行している。とりわけ付加価値の高いベンゼンやトルエンなどのBTX留分が、低水素消費条件のもと高収率・高選択的に得られることが分かる。
【0088】
上記の実施例及び比較例において使用した原料油及び生成油性状の分析方法は次のとおりである。
【0089】
1環芳香族炭化水素(アルキルベンゼン類)の組成(ベンゼン、トルエン、キシレン類)および1.5環芳香族炭化水素(テトラリン類)の組成は、島津製作所製の炭化水素全成分分析装置を用いて測定し、JIS K2536に準じて算出した。
【0090】
芳香族化合物のタイプ分析(環分析)の測定は、石油学会法JPI−5S−49−97に従って、高速液体クロマトグラフ装置を使用し、移動相にはノルマルヘキサン、検出器にはRI法を用いて実施した。
【0091】
硫黄分の測定は、JIS K2541の硫黄分試験方法に従い、高濃度領域では蛍光X線法を、低濃度領域では微量電量滴定法を使用して測定した。窒素分の測定は、JIS K2609の窒素分試験方法に従い、化学発光法を使用して測定した。
【産業上の利用可能性】
【0092】
水素化活性を抑制した水素化精製触媒により、多環芳香族炭化水素の1環のみを残存させるような選択的な核水添反応を行なうことにより、脱硫脱窒反応を進行させながら、過剰な核水添反応を抑制することが可能になり、得られた水素化分解生成油は、適宜の分離工程を経て、LPG留分、ガソリン留分、灯油留分、軽油留分、非芳香族ナフサ留分及び1環芳香族炭化水素などの製品に分離することができ、これらの製品は、石油製品等の規格を満足すれば、そのままLPG、ガソリン、灯油、軽油や石油化学原料として用いることもできる、更にそれらを調合、精製して製造するための基材として用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多環芳香族炭化水素が50容量%以上、1環芳香族炭化水素及び1.5環芳香族炭化水素の合計量が20容量%未満である原料炭化水素油を、
(1)水素の存在下、モリブデンの含有量が0.5重量%以上8.0重量%未満である水素化精製触媒に接触させ、脱硫脱窒素処理を行うとともに、多環芳香族炭化水素を1.5環芳香族炭化水素に変換する第一工程に次いで
(2)第一工程から得られた中間油を水素の存在下、水素化分解触媒に接触させ、1環芳香族炭化水素に変換する第二工程を行うことにより、
1環芳香族炭化水素が20容量%以上、多環芳香族炭化水素が1.0容量%未満である炭化水素を製造することを特徴とする1環芳香族炭化水素の製造方法。
【請求項2】
前記第1工程及び第2工程の全工程において、原料油に対する生成油の1環芳香族炭化水素残存度(1RAsel)と、脱硫率(HDS)の比が0.36以上である請求項1記載の1環芳香族炭化水素の製造方法。

【公開番号】特開2010−235670(P2010−235670A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−82482(P2009−82482)
【出願日】平成21年3月30日(2009.3.30)
【出願人】(590000455)財団法人石油産業活性化センター (249)
【出願人】(304003860)株式会社ジャパンエナジー (344)
【Fターム(参考)】