説明

1種以上のクレアチン化合物を含んでなる血液透析液及び腹膜透析液

本発明は、クレアチン化合物を含んでなる血液透析液又はその濃縮物、及び透析液又はその濃縮物を調製するためのクレアチン化合物の使用に関する。更に、本発明は、クレアチン含有透析液及び濃縮物を調製する方法に関する。加えて、本発明は、透析依存性の腎不全を患う患者をクレアチン化合物を用いて治療する方法に関し、種々の重要な健康上の利益と生活の質パラメータの改善を透析患者に対し提供することに関する。これは、患者へのクレアチン化合物送達を介して、患者の臓器と細胞の生理的機能を支持し改善することにより達成され、疾患状態又は臨床治療方法に関連する種々の内因性又は外因性の細胞ストレッサーの有害効果からこれらの患者の臓器と細胞(特に血液細胞を含有する)を保護することにより達成される。更に、腹膜透析液においては、高グルコース補充により生じる副作用を防ぐ浸透物質として、クレアチンを使用することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1のプレアンブルに記載の血液透析液及び腹膜透析液又はその濃縮物に関し、請求項15のプレアンブルに記載の透析液又はその濃縮物を調製するためのクレアチン化合物の使用に関する。更に、本発明は、クレアチン含有血液透析液及び腹膜透析液及び濃縮物を調製する方法に関する。加えて、本発明は、腎不全を患い、透析治療に依存する患者を治療して、細胞と臓器内の患者のクレアチンレベルを高め、患者の健康状態を改善するための方法に関する。
【0002】
最後に、本発明は、請求項18のプレアンブルに記載の腹膜の線維症と2型糖尿病の誘発を最終的にもたらす腹膜透析液流中の高いグルコース濃度を著しく低下させるために、活性オスモライトとしての高濃度のクレアチン化合物を用いて腹膜透析患者を治療する単独の方法、又は他の浸透活性物質と組み合わせた方法に関する。
【背景技術】
【0003】
本発明は、腎不全を患い、透析治療に依存する患者に対するクレアチン補充並びに血液透析及び/又は腹膜透析の分野に関する。クレアチンは、多数の生理的機能に関連する天然の体物質であり、それ故に、脊椎動物生命体、特に哺乳類成体中でクレアチンの殆どが位置する(約75kgの体重のヒトの場合120〜150g)、脳、骨格筋及び心筋に特に関連する。クレアチンとホスホクレアチンは、細胞にエネルギーを供給するクレアチン/ホスホクレアチンキナーゼ系の主要な基質である。細胞内では、クレアチンキナーゼは、ホスホクレアチン(PCr)とADPをATPとクレアチンに可逆的に変換する。この可逆反応は、骨格筋及び心筋、脳、感覚の細胞、例えば、網膜及び内耳、並びに精子及びその他の細胞のエネルギー代謝において主要な役割を果たす。クレアチン/ホスホクレアチンキナーゼ系は、二重機能を有する。これは、ATP再生用の直ちに利用可能な高エネルギーホスフェート緩衝系、並びにミトコンドリア又はエネルギーを要する場所に対する解糖部位、例えば、高ATPアーゼ活性部位の間の細胞内エネルギー輸送システム又はシャトル(細胞遊走、イオンポンピング等のための)を示す。より具体的には、クレアチン系は、ATPアーゼ周辺の細胞内の局所的なADP/ATP比を維持し、これにより上記ATPアーゼの効果的な機能を保証する。ホスホクレアチン/クレアチンの濃度は、ADP/ATPの濃度よりもはるかに高く、細胞の代謝制御に対する影響が小さく、要求に応じATPを補充する。更に、ATPとADPは拡散能力が限定されるが、一方クレアチン及びホスホクレアチンは、ミトコンドリアから、又は解糖によるATP産生領域から、エネルギーとATPが必要なそれらの場所に容易に拡散する。栄養性の又は補充されたクレアチンは、クレアチン−Na/K−共輸送体(CrT)により細胞内に能動的に輸送される。
【0004】
動物実験では、ミトコンドリア筋疾患を患う患者の場合と同様に、クレアチンの欠乏は筋肉内の機能異常と組織病理学的変化をもたらすことが実証された。クレアチンキナーゼノックアウトマウス(脳及び筋肉内)は、収縮装置とカルシウムイオンポンプにエネルギーを提供する際に、クレアチンが重要な役割を果たすため、筋力の著しい低下と筋弛緩に関する問題を実証した。また、これらの遺伝子導入マウスは、筋肉及び脳における不規則な行動的表現型と組織学的異常を示す。クレアチン代謝において遺伝子欠損を有する患者は、重篤な神経症状を示す。例えば、これらの遺伝子欠損を有する子どもは、発達障害、言葉の遅れ、自閉症及びてんかんを示す。遺伝子欠損の種類に依存して、経口的なクレアチン補充はこれらの異常を逆行させることができる。
【0005】
特に、骨格筋細胞及び心筋細胞、並びに神経細胞及び皮膚細胞の場合には、クレアチン補充は、著しい細胞保護効果、酸化防止効果及び抗アポトーシス効果さえ誘発することが示された。クレアチンのこれらの効果は、様々な筋疾患、神経筋疾患、神経疾患及び神経変性疾患を患う患者だけでなく、健康な人々にも利点がある。
内因性クレアチンは腎臓と肝臓で主に産生される。具体的には、腎臓では、グアニジノ−酢酸塩がアルギニンとグリシンから産生され、続いて肝臓中で、活性化メチオニンによりメチルグアニジノ酢酸塩、即ちクレアチンにメチル化される。日々のヒトによるクレアチンの要求量は約3〜4gであるが、一方、内因性の産生量は約1〜2g/日に限定される。天然のクレアチンは魚と肉から主に入手可能であり、わずかな程度であるがミルクからも入手可能である。
【0006】
肉と魚の消費に伴い摂取される食物由来のクレアチン、又は化学的に純粋な物質(例えば、クレアチン一水和物又はクレアチン塩)の形態でのクレアチン補充は、ヒトに対しいくつかの利益と利点がある。当然、それは菜食主義者の慢性的なクレアチン欠乏を補償するのに役立つ。またそれは、筋肉持久力の増強、筋肉疲労の遅延及び筋肉療養の促進をもたらす、強化された細胞エネルギー状態に至る運動選手のための公認されたダイエット用栄養補助食品である。更に、クレアチン補充は、いくつかの筋肉、神経筋、神経及び神経変性の疾患、例えば、うっ血性心不全、心不全、不整脈、筋肉廃用性萎縮、脳回転状萎縮、マッカードル病、糖尿病及び中毒性神経炎、末梢神経系疾患、髄鞘形成異常及び脱髄疾患、運動ニューロン疾患、外傷性神経損傷、多発性硬化症、ミトコンドリア病、筋ジストロフィー、筋萎縮性側索ジストロフィー(ALS)、ハンチントン病、パーキンソン病、シャルコーマリーツース症候群(Charcot Marie tooth syndrome)、てんかん、脳卒中、脊椎損傷、頭蓋脳損傷(cranial cerebral injury)、脳萎縮、認知障害(欧州特許出願公開第03/101402号A2明細書を参照)、骨粗鬆症、皮膚障害(国際公開第2008/073332号パンフレット、国際公開第01/00203号A1パンフレットを参照)、皮膚炎(国際公開第2009/002913号パンフレットを参照)、眼疾患(米国特許出願公開第2009/0005450号A1明細書を参照)、伝達性海綿状脳症(国際公開第01/00212号パンフレットを参照)、グルコース代謝の疾患(欧州特許第0854712号B1明細書を参照)において有益であることが示された。
【0007】
クレアチン補充の好ましい効果は、細胞のエネルギー状態、細胞保護能力及びその抗アポトーシス性の影響に対するその効果に直接的又は間接的に基づく。
【0008】
臨床研究では、クレアチンが、成人に対し著しく高い投与量まで、例えば20g以下の日常摂取量でも安全であることが実証された。これまでの所、重篤な副作用は知られていない。クレアチン一水和物の形態のクレアチンは、室温で保管可能な白色粉末である。酸性水溶液中では、クレアチンは60℃を超える温度で多少不安定である。しかし、中性pHと冷却下においては、クレアチンは喪失することなく30日間保管可能である。経口投与された場合には、クレアチンの殆どは胃の酸性環境で変化せずに通過する。水に中程度に溶解するだけであるクレアチン一水和物の他には、クレアチンのピルビン酸塩とクエン酸塩のような、より可溶性のあるいくつかの塩が市販されている。体内のクレアチンレベルが大幅に減少した人々に対しては、7〜10日の期間、1日当たりクレアチン4×5gを用いる初期負荷段階と、その後の3〜6gの低投与量の日常摂取が一般に推奨される。クレアチンのホスホリル化によるエネルギーロスを補償するためには、クレアチンとグルコースの同時投与が有益であることが示された。
【0009】
腎不全による腎臓機能の喪失に対し人工補てつ物を提供するために、血液透析が使用される。突発的であるが一時的な腎臓機能の喪失(急性腎不全)のある患者、又は腎臓機能を永久に欠く患者(慢性腎疾患のステージ5)に対し、透析を使用してもよい。健康な場合には、腎臓は水と無機質の体内平衡を維持し、血液からの老廃物と毒素の日々の代謝負荷を除去する。内分泌系の一部として、腎臓はエリスロポエチンと1.25−ジヒドロキシコレカルシフェロール(カルシトリオール)を産生する。透析は腎臓の内分泌機能を矯正しないため、腎臓機能の置換に対しては不完全な治療法である。透析は、溶質の拡散(排泄物除去)と限外濾過(流体除去)を通して排泄機能を置換する。しかし、腎臓による再吸収が不足するため、長期の透析治療は、価値ある体物質(透析プロセスの過程で失われる無機質、ビタミン及び他の栄養化合物)の流失にもつながる。従って、内因性のクレアチン合成は病的腎臓内で妨害され、摂取されたクレアチンは透析の間に洗い流されるため、透析患者はクレアチンが枯渇している。
【0010】
血液透析は、(i)溶質の拡散と、(ii)半透膜による流体の限外濾過の原則に基づいて作用する。半透膜の片側では血液が流れ、反対側では透析液が流れる。小型及び中型の溶質(典型的には25kDa以下)と流体は膜を通過する。血液と透析液の向流は、血液と透析液の間の溶質の濃度勾配を最大化するが、このことは血液からより多くの尿素とクレアチンを除去するのに役立つ。溶質(例えば、カリウム、リン及び尿素)の濃度は残念ながら血液中で高いが、透析液中では低いか又は全くなく、透析液の定常的な置換により、望ましくない溶質の濃度が膜のこの面側で低く維持されることが確実となる。透析液中の無機物レベルは、健康な血液中の無機物の通常の濃度に類似する。別の溶質である炭酸水素塩の場合は、炭酸水素塩の血中への拡散を促進し、pH緩衝剤として作用して、これら患者が経験することの多い代謝性アシドーシスを中和するために、透析液のレベルは通常の血液中よりもわずかに高いレベルで定期的に設定される。透析液成分のレベルは、典型的には個々の患者の要求に応じて腎臓病専門医が処方する。
【0011】
血液透析では、患者の血液が、半透膜を通して透析液の血液区画に血液を曝露させる透析器内の前記区画にポンプで通されて、溶質の拡散が可能となる。次いで、浄化された血液はサーキットバック(circuit back)を介して体内に戻される。透析器膜を介する静水圧を高めることにより限外濾過が起こる。これは透析器内の透析液区画に陰圧を加えることにより通常なされる。この圧力勾配は水と溶解した溶質を血液から透析液に移行させ、典型的な3〜5時間の治療の過程で数リットルの過剰な流体の除去を可能とする。
【0012】
腹膜透析では、無機物とグルコースを含む滅菌溶液が、腸を包む腹腔体腔である腹膜腔に向かって管を流れ、ここで腹膜が半透膜として作用する。透析液は老廃物を吸収するためにその場に一定時間残り、次いで管を通して排出され廃棄される。このサイクル、即ち、「交換」は、通常1日に4〜5回繰り返され(CAPD:持続携行式腹膜透析)、時には自動システム(APD:自動腹膜透析)で一晩繰り返される。限外濾過は浸透により起こり、使用される透析液は高濃度のグルコースを含み、結果として得られる浸透圧は、流体を血液から透析液に移行させる。限外濾過の量は、グルコース、又は多糖類(eicodextrin)若しくはアミノ酸のような浸透圧活性を有する他の物質の濃度レベルに直接的に依存する。結果として、注入された量より多量の流体が排出される。
【0013】
血液濾過は血液透析に類似する治療ではあるが、異なる原則を利用する。血液は、透析で見られるような透析器又は「血液濾過器」にポンプで通されるが、透析液を使用しない。圧力勾配が適用され、結果として水が透過性の高い膜を迅速に移動し、それに伴い、多くの溶解物質、重要なことには、血液透析ではあまり浄化されない高分子量物質を「ドラッギング」する。このプロセスの過程で血液から失われる塩と水は、治療の過程で循環路に注入される「置換用流体」と置換される。血液透析濾過法は、血液透析と血液濾過を1つのプロセス内で組み合わせる数種の方法を記述するのに使用される用語である。
【0014】
排泄機能の喪失により、透析治療の間に蓄積する血液量と代謝毒性負荷は、腎不全と透析治療、例えば、低血圧、高血圧、筋痙攣、疲労、吐気、嘔吐に直接関連する疾患の増加をもたらす不健康な範囲に達する。更に、透析器内の血液と血液細胞に一様に課される高い機械的(剪断力)及び免疫学的ストレス(接触面の生体非適合性)は、更に、また多くの場合、慢性疾患、例えば、溶血、アミロイドーシス、恐らくは栄養失調と心血管疾患の罹患及び死亡をもたらす。透析治療の間に受ける機械的及び化学的ストレスによる、生理的に機能する血液細胞、例えば、赤血球及び免疫細胞の損失は、定期的に長期間の透析治療を受ける患者にとって重要な問題である。最適に構成された生体適合性のある透析液の選択を含む、透析器用材料の選択とこれに付随する抗凝固剤治療は、患者の死亡率に影響を与える重要な要因となる場合が多い。
【0015】
クレアチンによる細胞と臓器の保護
細胞と臓器を保護するためのクレアチン化合物の作用機序及び多面発現機能
クレアチンの抗異化効果
クレアチンは一般的に筋細胞の増殖と筋細胞の分化を増強することが見出された。例えば、クレアチンは、インスリン自体のみでなく、成長ホルモン(GH)、インスリン様増殖因子(IGF−IとIGF−1)の放出も増強することが示された。加えて、クレアチンは筋原性転写因子の発現を促進し、Akt/PKBシグナル経路を介する筋細胞のシグナル伝達に良い影響を与える。最終的には、クレアチンは、筋肉の発達と修復に重要な筋肉衛星細胞の動員及び分裂を促進する。クレアチンの内因合成では、S−アデノシル−メチオニン(SAM)の形態の、細胞により活性化されたかなりの割合のメチオニンを使用するため、外部からクレアチンを補充すると、後にタンパク質合成、細胞と組織の同化に利用されるSAMSの形態中の不安定なメチル基を使用しない。
【0016】
これら全ての効果はクレアチンの抗異化効果に寄与し、筋力及び良好な運動強調(coordination of movement)のみでなく筋細胞と除脂肪体重の改善及び/又は維持につながる。これは筋萎縮症が誘発される筋肉不使用の状況に特に当てはまる。固定化と筋細胞の喪失は透析患者にとって確かに一般的な問題である。クレアチンは、固定化を誘発するこのような筋細胞萎縮症を防ぎ、リハビリテーションを改善及び迅速化することが示された。従って、異化現象と細胞の喪失を防ぐことにより、クレアチン補充は、透析患者が自らの筋細胞量を維持し、自らの生理的機能を維持できるのにも役立ち、このことは生活の質と運動性に良い影響を与え、結果として患者がより一層独立し安全となる。こうすることにより、クレアチン化合物を用いてクレアチンを補充すると能力障害ソーンに入るのを遅延させ、その結果かかる透析患者に対し、たくさんのポジィティブな生活の質パラメータを与えることとなる。
【0017】
細胞及び臓器の細胞エネルギー状態の改善
クレアチンを補充した結果、細胞内のクレアチンキナーゼにより、その後ホスホリル化されるクレアチンを細胞が取り込み、高エネルギーに富むホスホクレアチン(PCr)を与える。細胞内のホスホクレアチンレベルを高めることにより、即ち、PCr/ATPエネルギーチャージ比率とPCr/Crシャトルを介する細胞内エネルギー輸送を増やすことにより、クレアチン補充は細胞エネルギー状態を改善する(Wallimann et al. 2007)。クレアチンはミトコンドリア呼吸を刺激し、その結果ミトコンドリア内でのエネルギー産出を改善する。クレアチンは、一般的なエネルギーセンサーであるAMP刺激タンパク質キナーゼ(AMPK)と、細胞内でのグルコース取り込みと酸化を促進することによりエネルギー供給を改善する細胞ストレスキナーゼも活性化する。クレアチン化合物による細胞のこのようなエネルギーチャージングは、細胞の代謝活性がより高くなり、細胞機能が改善される結果となる。
【0018】
ミトコンドリア透過性孔の開孔、膜損傷及び細胞死(アポトーシス)の防止
クレアチンは、ミトコンドリアの膨張とプログラム細胞死(アポトーシス)の誘発を防止し、その結果代謝的及び環境的ストレスに対し細胞をより耐性とする。両親媒性物質として、クレアチンは、またホスホクレアチンであればなおさら、脂質二重層との相互作用により機械的浸透ストレスに対し、膜と細胞を安定化することができる。これらの細胞は外部からのクレアチンを取り込むことができ、クレアチンキナーゼを発現することから、取り込まれた補充クレアチンのいくらかは、次いでホスホクレアチンに変換され、これにより細胞の内側からの膜の安定化と保護が可能となる。透析プロセスの間に代謝的ストレスと機械的ストレスの両方がまさにこれらの細胞に課される場合には、上記後者の事実は、透析プロセスの過程における、クレアチン、ホスホクレアチン又はその他のクレアチン化合物による赤血球と白血球の保護に特に関連する。従って、クレアチン化合物による透析液流の補充は意味のある細胞保護をもたらし、その結果透析患者に対し健康上の利益をもたらす。
【0019】
クレアチンの直接的及び間接的な酸化防止効果、終末糖化産物(AGE)の低減、並びに細胞及び臓器の老化防止
クレアチンは生体外と生体内で細胞に対する酸化防止剤として直接的又は間接的に作用し、その結果TBARS(チオバルビツール酸反応生成物)を低減するなどの、酸化ストレスと脂質過酸化に対して細胞と組織を保護する効果を及ぼすことが示された;2008)。故に、クレアチンは一般的に多数のストレス要因から体内細胞を保護する。この保護は、透析プロセスの過程で赤血球と白血球が機械的且つ酸化的にストレスを受ける透析患者に対しても特に関連する。従って、クレアチン化合物は、透析患者に共通して観察される貧血と免疫応答の低下を低減する。クレアチンは、細胞のより早い老化をもたらす最終タンパク質糖化産物(Advanced Protein Glycation)(AGE)の低減に関連する化合物である、筋肉中のカルノシンとアンセリンのレベルを増強する。従って、クレアチン化合物の補充は細胞を保護し、透析患者対しても老化防止の処置として作用することとなる。
【0020】
クレアチン補充によるホモシステインレベルの低減
クレアチン補充は、動物モデルにおいては、血液透析患者も一般的に高くなる重要な心血管リスク因子であるホモシステインの血清レベルを低減することが示された。別の研究によれば、約5gCr/日を用いてクレアチンをヒトに補充すると、ホモシステインレベルが低下することが示された。2g/日というより低い1日投与量では、ビタミンBを更に補充した被検者の場合には、そのような効果は見られなかった。しかし、それらの血液中のホモシステイン濃度を低下させ、その結果透析患者には深刻な問題である心血管と内皮の損傷のリスクを低減することにより、ビタミンB群を更に補充してもしなくても、透析患者は、1日当たり5g以上の投与量でクレアチン化合物を補充することによる利益を得る可能性がある。
【0021】
浸透活性なクレアチンの添加により、腹水中のグルコース濃度の低が可能となる。
クレアチンは浸透活性物質であり、そのため腹膜透析液流に必要なオスモル濃度得るために必要とされるグルコース濃度を著しく低減することができ、その結果、健康に対するその全てのマイナスの結果と共に、腹膜の線維症と2型糖尿病を最終的にもたらす場合がある、薄膜の慢性的な高グルコース暴露に対する生体非適合性を緩和している。
【0022】
クレアチンの細胞及び臓器に対するその他の作用
クレアチンが多面発現的な栄養補助食品として作用することは、知識のある読者にとっては自明である。従って、細胞と組織に対しクレアチンがより多くの好ましい効果を有する可能性があり、このような効果はこれまで記載されておらず、未だ発見が待たれている。従って、透析患者が最終的にそのような効果からも同様に利益を得るであろうことを自ら認識することができる。健康なヒトと病気のヒトに対するクレアチンとその生理的な影響についての詳細な検討のためには、参照により本明細書中に組み入れられる、Theo Wallimannの文献「Kreatin−warum, wann und fur wen?」、Schweizer Zeitschrift fur Emnahrungsmedizin、5/08、p. 29−40、2008を参照されたい。
【0023】
透析患者に適するクレアチン化合物による細胞保護
クレアチン化合物による残存する腎臓細胞機能の保護
血液透析患者は、残存するなんらかの腎臓機能を依然として示す場合が多く、この場合クレアチンは、その細胞保護効果と抗アポトーシス効果により、腎臓細胞を保護することができ、腎臓内での更なる変性と細胞死を停止又は遅延させることができる。
【0024】
クレアチン化合物による血液細胞:赤血球と免疫細胞の保護:
透析プロセスの間、血液細胞は代謝的、機械的、浸透圧的及び酸化的、並びにその他のストレスに供され、これにより細胞機能の喪失と細胞死をもたらし得る。従って、透析患者においては、クレアチンは血液細胞にエネルギーをチャージし、代謝的で酸化的なストレスに対し細胞を保護し、機械的ストレスに対しその膜を保護し、その結果赤血球の喪失を相殺し、エリスロポエチン(EPO)と共に、血液透析患者に共通して見られる問題である貧血を防ぐために相乗的に作用する。しかし、EPOは重篤な副作用を引き起こすことが知られているため、溶血から赤血球を保護するクレアチンを添加することにより、血液透析患者の治療にはEPOをそれ程必要とせず、その結果クレアチン補充により、血液透析患者におけるEPO関連の副作用の可能性は低下する。
【0025】
加えて、白血球、即ち、免疫システムの細胞は、クレアチンとホスホクレアチンにより、クレアチン欠乏によるエネルギー損失からも保護され、細胞膜を安定化することにより、機械的ストレスからこれらの細胞を保護するであろう。従って、クレアチンは細胞の適切な機能を維持し、患者の免疫システムを強化し、これは血液透析患者に対してもこの上なく重要である。
【0026】
クレアチン化合物による筋肉及び筋細胞の保護
(成長ホルモンの分泌と筋肉分化因子の増加による)その抗異化効果のため、クレアチン化合物の補充により、筋細胞量、筋細胞機能、増殖及び分化、並びに最終的な筋細胞全体の性能(力発生)と、体重、筋肉量及び筋力が一般的に低い(loose)血液透析患者の生活パラメータに全てが非常に関連する性質のパラメータが改善される。
【0027】
クレアチン化合物による脳及び脳細胞の尿毒症毒素からの保護及び維持
クレアチン化合物の神経保護効果は十分に実証されており(評価には、Andres et al. 2008を参照)、透析患者がクレアチンによる脳及び神経細胞の保護をも利用していることは自明であり、その結果疲労レベルが低下し、記憶と学習の機能及び一般的な健康問題が改善される。
加えて、尿毒症毒素は脳機能と形態に悪影響を与えることが知られており、クレアチン化合物はこれらの毒素に対しかなりの程度で神経を保護し、これらのうちのいくつかは脳内のクレアチン合成とクレアチン輸送に影響を与えることが実証され、クレアチン補充はかかる毒素に対するその神経保護効果を発揮しており、その結果透析患者の脳機能と生活の質も改善する。
【0028】
クレアチン化合物による骨細胞の保護及び維持
クレアチンは骨細胞の増殖、分化及びミネラル化を増強し、その結果骨粗鬆症、骨軟化症及び無力性骨疾患、透析患者にしばしば見られる問題を相殺する。
【0029】
細胞及び臓器に対するクレアチン化合物による老化防止効果
クレアチン化合物を補充することにより、酸化ストレス、脂質過酸化、最終糖化産物(AGE)に対し体細胞と体組織が保護される。クレアチンによるこれらの保護メカニズムは透析患者にも同様に当てはまり、重要である。
【0030】
透析患者に必要なサプリメントであるクレアチン
透析患者は一般に異化作用を受けており、それらの骨格筋内及び心臓内、並びにその他の組織及び細胞内は、クレアチンが枯渇しているだけでなく、エネルギーも枯渇している。後者は、健康な肉食者と比較して透析患者が食事からのクレアチンの取り込みが少ないことだけでなく、クレアチンの前駆体であるグアニジノ酢酸塩の内因性合成が腎臓内で低下していることによる。この場合、クレアチンは透析患者にとって必須の栄養素であることが分かっており、外部から添加されたクレアチンは、これらの患者の体と臓器の正常な生理的機能には絶対的に必要である。
【0031】
経口摂取により1日当たりクレアチン粉末を5〜20グラム消費することを透析患者に強いる代わりに、クレアチンを透析液流に直接添加し、ここからクレアチンが血液中に取り込まれ(患者が気付かないうちに)、そこからクレアチン輸送体を介して、筋肉、脳及び神経組織等の標的臓器に取り込まれる。クレアチンを透析液流に添加することにより、細胞内クレアチンプールを満たすのに必要な限られた量のクレアチンが細胞に取り込まれ、残りのクレアチンは透析液流中に残る。このような治療の有利な点は、クレアチンの過負荷によりこれらの患者に負担がかかり過ぎないことであり、このことはクレアチンが経口摂取される場合にあてはまる。後者の状況では、経口摂取されるクレアチンが過剰となることは避けるべきであり、患者の生命体に対し重荷になる可能性がある。しかし、クレアチンが透析液流内に補充される場合には、各患者は、そのクレアチンの状態により、その細胞内クレアチンプールを満たすのに必要な限られた量のクレアチンを摂取し、クレアチンの除去は必要なく、患者のシステムに過剰な負荷を与えることはない。
【0032】
浸透活性なクレアチンの添加により、腹膜透析液流中のグルコース濃度を著しく低下できる
腹膜透析の場合には、非常に高い濃度のグルコース又はその他のオスモライトは、例えば腹水に存在する常に高いグルコース濃度への暴露のようなマイナスの効果を有する可能性があるが、透析患者における最終糖化産物(AGE)の形成、腹膜の輸送機能の喪失を著しく促進し、最終的に体重増加の確率と2型糖尿病にかかる確率を増やす。クレアチンは浸透活性物質であるため、代わりにクレアチンを添加する場合には、この場合好ましくは可能なかぎり最も高い濃度、例えば37℃の体温で、透析液流1リットル当たり24〜25g以下のクレアチンでは、透析液流中のグルコース濃度を著しく低下させることができる。本発明により、透析患者が正にこの流体に対し高グルコース暴露して生じる有害な副作用を低減することができる。一例として、グルコース濃度を著しく低減させる目的のために、要求された温度でのそれぞれの溶解限度付近のクレアチン濃度が添加されるが、腹膜透析に要求されるオスモル濃度は維持される。典型的な腹膜透析の手順の間には、2〜3リットルの腹膜透析液流を4〜5回置換し、即ち、定期的な腹膜透析治療の場合よりも200g〜375g少ないグルコースに相当する、合計で8×25〜15×25g少ないグルコースに患者の腹膜を暴露させるように、患者及び治療当たり8〜15リットルの腹水を使用する。このグルコースの低減は非常に重要である。
【0033】
クレアチンは、グルコースをより一層低減できるように、ベタイン、アミノ酸、グルコースの単糖質類若しくは多糖質類、又はその他の糖質化合物のような他の浸透活性化合物と組み合わせてもよい。
【0034】
このストラテジーには2つの利点があり、第1に、最初にクレアチンがグルコースを置換するためにオスモライトとして使用されること、第2に、同時に必要とされるクレアチンが腹膜を介して輸送され、患者の標的臓器に取り込まれることである。この組み合わせは新規であり、血液透析に比べ透析治療の簡単で安価な選択肢としての持続的外来腹膜透析(CAPD)又は自動腹膜透析(APD)が、従来の治療に比べ慢性腎不全患者の治療に対し一層長期間使用し得ることを可能とする。
【0035】
透析患者に対するクレアチンの補充経路
クレアチンの送達経路は、患者の具体的な要求と臨床症状の在り方に応じて変化する。クレアチンは経口、腹膜内、静脈内の経路を介するか、又は血液透析液流により送達させてもよい。
【0036】
1)経口的なクレアチン補充の場合
透析患者に対する経口的なクレアチン補充の特定範囲は、運動選手が使用する場合と同様であろう。クレアチンの推奨される日常摂取量は、粉末、錠剤、及び水溶液の形態で、又は懸濁液として経口摂取する場合、1日当たりクレアチン1〜20gの投与量(Cr一水和物又は他のCr含有化合物、Cr塩又はCr類似体として)であろう。好ましい補充スキームでは、7〜14日の負荷段階期間に、5〜20gのクレアチン又はクレアチン類似体が見込まれ、次いで無制限の期間、又は必要な期間、1日当たり2〜5gのクレアチン維持段階が見込まれる。経口補充は透析液流を介するクレアチン補充と組み合わせてもよい。
【0037】
2)腹膜及び/又は血液透析の場合
a)腹膜又は血液透析のためにクレアチンを最終的な透析液に直接添加すること
本発明とその好ましい実施形態の新規性は、クレアチン(分子量131.13ダルトン)、クレアチン一水和物、クレアチン含有塩又はCr類似体を最終的な透析液に直接添加することにある。この用途のために治療効果のあるクレアチン濃度の特定範囲は、溶液中でクレアチンを長期保管する過程で望まないクレアチンの生成を避けるために、使用の直前に最終的な透析液流に固体の形態(粉末)で添加した、Cr一水和物又は他のCr含有化合物である、Cr塩又はCr類似体として、最終濃度0.05mM/l〜20mM/lのクレアチンである。クレアチン又はクレアチン類似体は、好ましくは固体状態(粉末として)で、最終的な透析液が調製される直前に添加される。これは、室温では溶液中で、より長期間(数週間)はそれ程安定ではないクレアチンが、溶液中でクレアチンを長期保管する過程で、自発的な非酵素的化学反応により別途生成するであろう不必要なクレアチンに変換されることはないという利点を有する。
【0038】
b)腹膜又は血液透析用の透析液流濃縮物へのクレアチンの添加
本発明とその好ましい実施形態の新規性は、クレアチン(分子量131.13ダルトン)、クレアチン一水和物、クレアチン含有塩又はCr類似体を濃縮された透析保管液(濃縮物)に添加することにある。腹膜透析のためには、このクレアチン含有濃縮物を使用前に直接希釈する。血液透析のためには、透析治療プロセス全体の過程で完全に生理的濃度のクレアチンに患者が常に暴露されるように、血液透析の過程で、濃縮物中に存在するクレアチンは連続的に希釈されるであろう。クレアチンの濃度(最終的な透析液流中)は0.05〜20mMの範囲であり、故に5〜20gのクレアチンの単独部分を補充した被検者の血清中で到達される濃度と同じ範囲である。3〜4時間の透析の過程における、クレアチン摂取量と共に本明細書中で提案されたクレアチン濃度は、本願において請求項に記載されるように、患者に対しそれらの細胞保護効果と健康上の利益を提供するのに十分である。
【0039】
クレアチン又はクレアチン類似体は、好ましくは固体状態(粉末として)で、透析濃縮溶液が調製される直前に添加される。これは、室温では溶液中で、より長期間(数週間)はそれ程安定ではないクレアチンは、溶液中でクレアチンを長期保管する過程で、自発的な非酵素的化学反応により別途生成するであろう不必要なクレアチンに変換されることはないという利点を有する。
【0040】
3)腹膜透析の場合:腹膜透析用のオスモライトとしてのクレアチン化合物
本発明の新規性は、腹膜透析液流の場合には、腹膜透析に必要なグルコース又はその他のオスモライトを置換又は交換するために、高濃度の浸透活性クレアチン又はクレアチン化合物を添加することにある。
【0041】
腹膜透析の設定において、高濃度の浸透活性クレアチンを添加することにより、1リットル当たり24〜25gのクレアチン、クレアチン塩又はクレアチン類似体が、37℃の温度の最終的な腹膜透析液に直ちに添加される。これらの濃度はクレアチンの飽和限界に近く、その溶解度は温度に非常に敏感である。この方法により、最大量の浸透活性クレアチン化合物を溶解させることができ、その結果として腹膜透析液流中のグルコース含有量を低減することができる。この手順において、クレアチン化合物は一次的にはオスモライトとして作用し、二次的ではあるが、添加された全クレアチン化合物のうちのごく僅かの部分が摂取される。透析液流中のグルコースを著しく低減させることにより、かかるストラテジーは、透析患者の腹膜が高グルコース負荷に慢性的に暴露することの有害となり得る副作用、例えば、患者が腹膜の線維症及び腹膜機能の喪失及び糖尿病を誘発することを長期的に軽減することが可能となる。
【0042】
腹膜透析の場合には、高濃度のクレアチン、例えば、37℃の透析液流で1リットル当たり24〜25gのクレアチン化合物(約190mM/l以下)が本明細書中で提案されており、ここでは、クレアチンはまず第一に、高グルコース濃度を交換又は低減するためにオスモライトとして作用する。腹膜透析と血液透析との決定的な相違点は、前者の場合は、輸送システムとイオンポンプを備える生理活性フィルターである腹膜により、患者の血液システムから腹膜透析液流が分離されるため、透析液流が患者の血液システムと直接接触しない点である。一方、血液透析では、透析液は代謝的に不活性で受動的な拡散膜によって分離されているだけである。従って、腹膜透析の場合には、これを避けるべきである血液透析とは対照的に、体温で飽和に近い高濃度の腹膜透析液にクレアチン化合物を添加することができる。次いで、腹膜を介するクレアチン輸送は、血液透析におけるように、単純な拡散では受動的にはならないが、特定の塩化ナトリウム依存性のクレアチン輸送体(CRT)を介して活性に媒介されるため、腹膜によるクレアチン化合物の摂取は二次的ではあるが全く望まれた効果である。このように、実際のクレアチン化合物のうち、腹膜が暴露されるごく少量の部分のみがCRTを介して取り込まれる。
【0043】
最も重要なことには、このCRT媒介性の取り込みは、患者の体のクレアチンに対する実際の生理的な要求と必要性に支配され、それ故に、たとえ過剰のクレアチンが流体中に提供され得るとしても、腹膜透析によりクレアチン化合物による過剰負荷は起こらない。高濃度のクレアチン化合物を添加することにより、非常に高いグルコースレベルへの患者の暴露を低減でき、同時にクレアチン化合物の生理的取り込みを可能とするこの新しいストラデジーは、以下のように回避された多数の不必要な副作用の可能性を排除するものである。
【0044】
Chang et al., Nephrol. Dial. Transplant, 17: 1978−1981 (2002)には、クレアチン一水和物による治療が血液透析関連の筋痙攣(HAMC)を軽減することが教示されており、これは筋肉エネルギー代謝、透析低血圧、過剰な限外濾過及び/又は血清クレアチンキナーゼの上昇における障害の結果であると考えられる。この目的のために、血液透析の過程で筋痙攣を頻発する10人の患者を選択し、5人をクレアチン補充群とし、5人をプラシーボ群とした。クレアチンを受ける群に対しては、水100ml中のクレアチン一水和物12gを血液透析開始前に5分間経口投与した。著者らは、クレアチンを受ける群では、筋痙攣が60%減少したこと、及び血清クレアチンが4週間の治療期間に10.7〜12.4mg/dl増加したことを主張している。
【0045】
各群(各々が5人)中の患者が限られた数であることの他に、12gのクレアチン一水和物は一度には容易に可溶化せず、腸上皮細胞により取り込まれるべき摂取されたクレアチンは血流中の最大レベルに達するのに約2〜4時間かかることを認識すべきである。故に、透析開始前5分にクレアチンを投与するタイミングは、その主張される効果とは無関係である。著者らは、患者数が少なく追跡調査期間が短いことから、クレアチン一水和物をHAMC中に補充する効果と安全性を確認するために更に長期間で大規模な研究が必須であることを自ら認めている。
【0046】
米国特許出願公開第2003/0013767号A1明細書には、肝臓と腎臓の疾患に関連する体重減少を特に治療するためにクレアチン化合物を使用する方法が教示されており、この点において、114.4mM/lの濃度に相当する1.5gクレアチン/100mlを含有する、血液透析のための透析液流が開示されている。しかし、血液透析おいて、このような高濃度のクレアチンが不利である点は以下にある:
1)血液透析の過程において、血液透析器の様々な部分でクレアチンが沈殿又は結晶化する場合がある。
2)血液透析の過程でのこのような高濃度のクレアチンは、生理的とは程遠く、実際に、魚若しくは肉を多く含む食事の後、又は5〜20gの化学的に純粋なクレアチンを用いて直接クレアチンを経口補充した後に、摂取後に達するそれらの血清クレアチン濃度の濃度よりも2桁高いことから、必要はなく、また望まれてもいない。
3)クレアチンの慢性的な過負荷は、体内でのクレアチンの内因的生合成を減少させることになるが(Guerrero and Wallimann 1998)、一方、適度なクレアチン補充は、本明細書中で提案したように長期間であっても減少させることにはならない。
4)透析患者にクレアチンを慢性的に過負荷させることは、クレアチンの過剰供給により保管されていたクレアチンが枯渇した場合には、肝臓にとって負担となる。
5)細胞内ATPは標的臓器に取り込まれるクレアチンのホスホリル化に使用されてホスホクレアチン(PCr)を産生するため、クレアチンの慢性的な過負荷はATPの欠乏をもたらす。
6)クレアチンの過負荷は、未知の副作用の可能性と併せて、細胞シグナル伝達に影響を与え、例えば低エネルギーセンサーと細胞内ストレス応答AMP活性化タンパク質キナーゼ(AMPK)を活性化することが示された。
7)高い経口投与量のクレアチンは、透析患者には望まれない場合がある炎症マーカーとホルモン反応に影響を与えることが示された。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0047】
上記に鑑みると、本発明の目的は、血液透析治療に直接的又は間接的に起因する障害及び/又は副作用を軽減又は回避するための新たな手段を提供することである。更に、その目的は、クレアチン補充のための新たな医療適用と新たな医薬組成物を提供することである。
【0048】
本発明は、少なくとも部分的に、非常に低濃度のクレアチンを血液透析液に補充すると血液透析治療に直接的又は間接的に起因する障害及び/又は副作用を軽減又は回避可能であるという驚くべき予想外の発見に根拠を置くものであり、特に血液細胞の機械的、酸化的、アポトーシス促進的、代謝的及び免疫学的ストレスが透析される。
【課題を解決するための手段】
【0049】
この発見に鑑み、第一の態様では、本発明は、0.002〜45mM/lクレアチン、好ましくは0.05〜40mM/l、最も好ましくは0.05〜20mM/lクレアチンに相当する濃度の1種以上のクレアチン化合物を含んでなる新たな(血液)透析液を提供する。
【0050】
「0.05〜20mM/lクレアチンに相当する濃度」なる用語は、透析液中の全クレアチン化合物について総濃度が0.05〜20mM/lであることを指す。
【0051】
本明細書中で使用する透析液なる用語は、血液透析、腹膜透析、血液濾過及び血液透析濾過法を含む透析による腎不全の安全な治療に適するあらゆる溶液である。これは、小型及び中型の血液溶質(典型的には15〜50、好ましくは20〜35、より好ましくは約25kDa)が透析中に拡散する溶液である。これは典型的には、生理的に許容可能な濃度の無機塩と緩衝物質を含む。更に、これは、栄養素、例えば、グルコース及びアミノ酸、ヘパリンのような抗凝固剤、酸化防止剤、並びに生理的又は医学的に関連する他の化合物を含んでいてもよい。当然であるが、そのpHと重量オスモル濃度は生理的に許容可能である。
【0052】
透析液中のクレアチン化合物は、クレアチンとホスホクレアチンのレベルを、透析患者の血液中の正常な生理的に健康な濃度まで最終的に上げる、いかなる生理的に許容可能なクレアチン及び/又はホスホクレアチン((ホスホ)クレアチン)化合物、その誘導体、類似体及び/又は前駆体であってもよい。
【0053】
例えば、適切なクレアチン化合物と誘導体は、(ホスホ)クレアチン、(ホスホ)シクロクレアチン、ホモシクロクレアチン、(ホスホ)クレアチン一水和物、(ホスホ)クレアチン塩、例えばクレアチンのピルビン酸塩、乳酸塩、アスコルビン酸塩、酢酸塩、クエン酸塩、ヒドロキシクエン酸塩、アレウレート(aleurate)、フィチン酸塩、マンデル酸塩、リンゴ酸塩、クリコール酸塩、桂皮酸塩、サリチル酸塩、ヒアルロン酸塩、β‐ヒドロキシ酪酸塩、グルコン酸塩、コリン、カルニチン、プロピオニルカルニチン、コエンザイムQ10、アデノシン、フルクトース、フルクトース−1,6−重リン酸塩等である。他の例としては、クレアチン‐アデノシンのエステル、クレアチン‐グルタミンの酸無水物及びクレアチンピルビン酸塩の酸無水物である。本発明を実施するための好ましいクレアチンアスコルビン酸誘導体は、国際公開第2008/137137号A1パンフレットの請求項1〜11に具体的に記述されたものであり、これは参照によりその全体が本明細書中に組み入れられる。更に好ましいクレアチン誘導体は国際公開第2007/133731号A2パンフレットの請求項1〜11に具体的に記述されたものであり、これは参照によりその全体が本明細書中に組み入れられ、より好ましくはクレアチン‐リガンド化合物であり、ここで前記リガンドは、アミノ酸、水溶性ビタミン、好ましくはビタミンC又はビタミンB群のビタミンからなる群から選択され、好ましくは、チアミン、リボフラビン、ピリドキシン、ナイアシン、ビタミンB12、葉酸、パントテン酸、ビオチン、リスベラトロール、オメガ脂肪酸、ポリ不飽和脂肪酸、リノール酸、S−アデノシン−メチオニン(SAM)、L−カルニチン、及びベタインからなる群から選択される。
【0054】
好ましいクレアチン前駆体は、グアニジノ酢酸、3−グアニジノプロピオン酸酸、グアニジノ安息香酸、並びにクレアチングリシン、アルギニン及びメチオニンの3つの基本的な構成要素の組み合わせの他、それらの生理的に許容可能な塩及び誘導体である。前駆体としては、1種類のクレアチン化合物を形成させるのには1以上の前駆体が必要となり得ることが留意される。故に、前駆体の場合には、「0.05〜20mM/lクレアチンに相当する濃度の」なる用語は、0.05〜20mM/lクレアチンを提供するのに必要な前駆体の量と解釈すべきである。
【0055】
クレアチン類似体は、クレアチン構造を欠くが生体内でその生物活性を模倣する化合物である。好ましいクレアチン類似体は、欧州特許出願公開第1719510号A1明細書の請求項2、及び米国特許出願公開第2009/0005450号A1明細書の請求項7で具体的に記述されたものであり、参照によりその全体が本明細書中に組み入れられる。
【0056】
典型的には、健康なヒトは、血清中の空腹時クレアチン化合物濃度が約20〜40μM/lである。魚や肉のようなクレアチン含有食品を消費すると、この濃度は一時的に1〜2mM/lに増加する。血液中の赤血球と免疫細胞はクレアチン輸送体(CRT)を介してクレアチンを細胞内に蓄積することができ、クレアチンキナーゼ(CK)がこれらの細胞内に存在するため、これらの細胞がホスホクレアチンの約2/3とクレアチンの1/3を含むように、ある種のクレアチンはホスホクレアチンに変換される。赤血球中のクレアチン(ホスホクレアチンとクレアチン)の全濃度は、細胞齢に依存して約0.5〜1mM/lであり、白血球中では約0.75〜1.25mM/lである。
【0057】
先行技術に教示されるように、実行可能な程度に高いクレアチン濃度(溶解限度)は筋肉量の維持には好ましいが、本発明の血液透析液のクレアチン化合物の濃度は、健康なヒトの血液中の(ホスホ)クレアチン濃度よりもはるかに低い可能性があり、依然として透析された血液細胞の保護に生理的に非常に有効である。この効果は、血液細胞によるクレアチンと殆どのクレアチン化合物の取り込みが活発であることによる。前述したように、生理的条件下では、血液細胞は、周囲の血清中の濃度よりも約10〜50倍高い濃度で(ホスホ)クレアチンを含む。それ故に、本発明の透析液中のクレアチン化合物は細胞により活発に取り込まれ、その結果所望の細胞保護効果と抗アポトーシス効果を提供する血液細胞中に蓄積する。
【0058】
従って、好ましい実施形態では、本発明の透析液は、0.05〜20mM/lクレアチン、0.05〜15mM/l、0.05〜10mM/l、好ましくは0.1〜10mM/l、最も好ましくは0.1〜5mM/l、また好ましくは0.1〜2.0又は0.1〜1.0mM/lクレアチンに相当する濃度の1種以上のクレアチン化合物を含んでなる。更に、本発明の透析液中のクレアチン化合物の濃度範囲としては、下限値は0.001、0.002、0.003、0.004、0.005、0.01、0.02、0.03、0.04、0.05、0.1、0.15、0.2、0.25、0.3、0.35、0.4、0.45、0.5、0.55、0.6、0.65、0.7、0.75、0.8、0.85、0.9、0.95、1、1.5、2、2.5、3、3.5、4、4.5、5mM/lから選択され、上限値は1、1.5、2、2.5、3、3.5、4、4.5、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20mM/lから選択してもよい点が留意される。上記の下限値と上限値は全て本発明の透析液に適するクレアチン化合物の濃度範囲と組み合わせてもよく、それらに由来する全ての選択肢は、具体的に列挙され十分開示されているものと考えられる。
【0059】
透析の種類と様式、腎機能障害の程度及びその他の生理的パラメータに依存するが、患者は、典型的には、5〜200リットル、治療セッション当たり定期的には約100〜600リットル、典型的には120〜170リットルの範囲の透析液量を約3〜8時間の間に受ける。治療持続時間と血流(100〜400ml/min)に依存して、18〜192リットルの血液が透析液に定期的に供給される。
【0060】
当業者は、十分に実施可能であり、通常の透析液を調製し、適合させ、滅菌し、保管し及び用いる方法を承知している。血液透析の原則と透析液を調製するための基本的要件は、1940年代後期から知られている。血液透析と血液濾過のより詳細な議論のために、Kuhlmann, Walb, Luft, Nephrologie, 4th ed., chapter 15, 516, 2003 et seq.と、販売パンフレット「Haemodialyse; Konzentrate und Loesungen fuer die Dialyse」、Lieferprogramm, Fresenius Medical Care; 2008も参照でき、これらのいずれも参照により本明細書中に組み入れられる。
【0061】
通常の透析液は、典型的には、無機イオンNa−、K−、Ca−、Mg−、Cl−、及びpHを生理的に許容可能な値に調節し緩衝する少なくとも1種の緩衝物質を含み、最も通常には7〜7.8、好ましくは7.1〜7.5、より好ましくは7.2〜7.4の範囲で含む。
【0062】
透析は、透析した血液中の炭水化物系のエネルギー含量を低減させ、それにより患者にエネルギーを消耗させるため、殆どの透析液は、グルコース及び/又はその他のある種のエネルギー炭水化物源を含む。しかし、本発明の透析液の場合には、クレアチン化合物、特にホスホクレアチン化合物は喪失したエネルギーを補充することができる。一方、細胞内の解糖と止血を不均衡にしないために、本発明の透析液中にある種の炭水化物エネルギー源を有することは、恐らく依然として有利であろう。更に、クレアチン化合物はブドウ糖(グルコース)と組み合わせると、薬剤的に有利な効果を誘発することが示された(例えば、国際公開第2007/133673号A2パンフレットを参照)。大事なことを言い忘れていたが、本発明の透析液中のグルコースのような炭水化物エネルギー源は、血液細胞にエネルギーを与え、即ちクレアチン化合物をホスホリル化するという利点を有する。
【0063】
好ましい実施形態では、本発明の透析液は、更に:
(i)Na−、K−、Ca−、Mg−、Cl−イオン、
(ii)好ましくは炭酸水素塩、乳酸塩及び/又は酢酸塩から選択される、少なくとも1種の生理的に許容可能な緩衝物質、
(iii)所望によるが、好ましくは炭水化物塩、より好ましくはグルコース
を含んでなり、(i)〜(iii)の全てが生理的に許容可能な濃度である。
【0064】
更に好ましい実施形態では、本発明の透析液は、生理的に許容可能な濃度の生理的に許容可能な添加剤、好ましくは水溶性ビタミン、痕跡元素、栄養素、好ましくはアミノ酸からなる群から選択される添加剤を含んでいてもよい。
【0065】
前述したように、本発明の使用に適するクレアチン化合物は、クレアチンとホスホクレアチンのレベルを透析患者の血液中と体内の生理的に健康な正常な濃度まで最終的に上昇させる、生理的に許容可能なクレアチン及び/又はホスホクレアチン化合物、誘導体、類似体及び/又は前駆体である。
【0066】
好ましい実施形態では、本発明の透析液のクレアチン化合物は以下からなる群から選択される:
(i)(ホスホ)クレアチン化合物、好ましくは(ホスホ)クレアチン、(ホスホ)クレアチン一水和物、(ホスホ)シクロクレアチン、ホモシクロクレアチン、
(ii)(ホスホ)クレアチン誘導体、好ましくは(ホスホ)クレアチン塩、より好ましくはクレアチンのピルビン酸塩、乳酸塩、アスコルビン酸塩、酢酸塩、クエン酸塩、ヒドロキシクエン酸塩、アレウレート(aleurate)、フィチン酸塩、マンデル酸塩、リンゴ酸塩、グリコール酸塩、桂皮酸塩、サリチル酸塩、ヒアルロン酸塩、β‐ヒドロキシ酪酸塩、グルコン酸塩、コリン、カルニチン、プロピオニルカルニチン、コエンザイムQ10、アデノシン、フルクトース、フルクトース−1,6−重リン酸塩、クレアチン‐アデノシンのエステル、クレアチン‐グルタミン及びクレアチンピルビン酸塩の酸無水物、
(iii)クレアチン前駆体、好ましくはグアニジノ酢酸、3−グアニジノプロピオン酸、グアニジノ安息香酸、並びにグリシン、アルギニン及びメチオニンの組み合わせ、並びにそれらの生理的に許容可能な塩及び誘導体、及び
(iv)クレアチン類似体、好ましくは具体的な参照による先に開示されたもの
【0067】
より好ましい実施形態では、本発明の透析液のクレアチン化合物は、(ホスホ)クレアチン化合物、好ましくは(ホスホ)クレアチン、(ホスホ)クレアチン一水和物、及び(ホスホ)クレアチン塩、好ましくはピルビン酸塩、乳酸塩、アスコルビン酸塩、酢酸塩、クエン酸塩、及びヒドロキシクエン酸塩からなる群から選択される。
【0068】
殆どのクレアチン化合物は、本発明の透析液の重量オスモル濃度の一因となる。本発明の透析液の重量オスモル濃度は、生理的に許容可能な限界を満たすよう調整すべきことは当然である。本発明の透析液中のクレアチン化合物濃度は非常に低く、抗異化効果のために推奨される濃度よりもはるかに低いため、これらのクレアチン濃度は重量オスモル濃度の問題を引き起こすことはない。
【0069】
特定の非限定的で、好ましい実施形態では、本発明の透析液は、
a)0.05〜20、好ましくは0.1〜10、より好ましくは0.5〜10、最も好ましくは0.1〜5mmol/lのクレアチン化合物、
b)130〜150、好ましくは135〜145、より好ましくは約138mmol/lのNaイオン、
c)0〜10、好ましくは1〜6、より好ましくは1〜4mmol/lのKイオン、
d)0.5〜3、好ましくは1〜2、より好ましくは1〜1.25mmol/lのCaイオン、
e)0〜10、好ましくは1〜6、より好ましくは1〜4mmol/lのMgイオン、
f)0〜10、好ましくは1〜6、より好ましくは1〜4mmol/lのClイオン、
から本質的になり、及び
好ましくは、
g)0.2〜3g/l、好ましくは0.5〜2.5g、より好ましくは1〜2g/lのグルコース、並びに
h)25〜40、好ましくは28〜35、より好ましくは約32mmol/lの炭酸水素イオン、及び
i)生理的に許容可能な緩衝物質としての1〜5、好ましくは2〜4、より好ましくは2〜3mmol/lの酢酸イオン、及び
j)所望により、生理的に許容可能な濃度の更なる生理的に許容可能な化合物、
を含んでなり、
ここで、前記透析液の理論上の重量オスモル濃度が270〜310、好ましくは280〜305、より好ましくは285〜300、最も好ましくは287〜298であり、pHが7.1〜7.5、好ましくは7.2〜7.4の範囲である。
【0070】
病院の透析器には典型的には多量の透析液が必要とされるため、手動又は自動で希釈され、混合され(複数成分システム)、滅菌され、体温まで加温される透析液を調製するための乾燥濃縮物と含水濃縮物を製造するのが、当該技術分野では一般的である。可溶性の低い成分、特にマグネシウム及びカルシウム等の無機物の場合には、pHが大体中性で、すぐに使える透析液が製造される場合が多く、酸性及び/若しくは塩基性の溶液、並びに/又は濃縮物として保管される。特に、炭酸水素塩で緩衝化された透析液は、長時間保管した場合には、中性から塩基性のpHで炭酸塩を沈殿させる傾向がある。従って、炭酸水素塩成分は、典型的には、透析液を患者に投与する直前にのみ透析器の透析液に添加される。透析液のための標準的な市販の濃縮物は複数(殆どの場合2つ)部分系であり、通常は、(i)バッグ又はカートリッジ等の容器中の乾燥した又は含水の炭酸水素塩濃縮物、及び(ii)キャニスター等の容器中の乾燥した又は含水の精鉱を含み、所望により、更にグルコース等の非無機成分を含む。
【0071】
本明細書中で使用する「透析液」なる用語は、これを必要とする患者に投与する前に更に希釈する必要のない、すぐに使える透析液又は透析液の成分を示すことを意味する。本明細書中で使用する「透析濃縮物」なる用語は、少なくとも水で希釈し、所望によりこれを必要とする患者に投与するのに適するすぐに使える透析液とする前に、更なる成分を添加することを要する、乾燥させた又は含水の透析液成分を示すことを意味する。本発明によれば、クレアチン化合物は、(i)すぐに使える透析液中に存在し得るが、(ii)一成分透析系としての乾燥した若しくは含水の濃縮物中、又は(iii)すぐに使える透析液を調製するための多成分透析系の一部である乾燥した若しくは含水の濃縮物中でも存在することができる。
【0072】
別の態様では、本発明は、(i)少なくとも1種のクレアチン化合物と、(ii)生理的に許容可能なイオン及び/又は少なくとも1種の緩衝物質を含む乾燥した又は含水の透析濃縮物に関し、ここで前記濃縮物は、水溶液で希釈し、所望により更なる物質を添加すると、結果として本発明に係る透析液となる。
【0073】
本発明で使用する(ホスホ)クレアチンとクレアチン化合物の多くは、酸性のpHとより高い温度において、自発的な非酵素的反応によりクレアチンを形成する傾向がある。それ故に、透析液中のクレアチン化合物と本発明の乾燥した又は含水の濃縮物を低温と中性から塩基性のpHに維持することにより、クレアチンの形成を回避するという利点を有する。水溶液として保持できる場合には、冷却によりクレアチンの化学的安定性が増強され、溶液の保管期間が延長されることから、2〜5℃に冷却することが好ましい。しかし、例えばpH7.0〜pH8.5のたとえ中性とアルカリ性の条件下であっても、本発明の透析液と濃縮物は、冷却下での保管により延長し得る許容可能な期間、クレアチンを著しく形成させることなくクレアチン化合物を含み得る。
【0074】
それ故に、好ましい実施形態では、本発明は、希釈して、好ましくは炭酸水素塩、乳酸塩及び/又は酢酸塩から選択される少なくとも1種の生理的に許容可能な塩基性緩衝物質を添加することにより、
(i)Na−、K−、Ca−、Mg−及びCl−イオン、
(ii)少なくとも1種のクレアチン化合物、
(iii)好ましくは炭酸水素塩、乳酸塩及び/又は酢酸塩から選択される所望による少なくとも1種の生理的に許容可能な緩衝物質、
(iv)グルコース、
を、生理的に許容可能な濃度と7.1〜7.5の範囲のpHを提供する濃度で含んでなる酸性透析濃縮物、に関する。
【0075】
例えば、本発明に記載の酸性透析濃縮物は、生理的に許容可能な量のクレアチン化合物を適切な濃縮物に添加することにより調製できる。
【0076】
酸性濃縮物の重量オスモル濃度とpHは、添加されたクレアチン化合物の種類と量に依存して調整すべきである。
【0077】
より良い安定性のために、本発明のより好ましい実施形態は、少なくとも1種のクレアチン化合物と、好ましくは炭酸水素塩、乳酸塩及び/又は酢酸塩から選択される少なくとも1種の生理的に許容可能な塩基性の緩衝物質を含んでなり、好ましくはマグネシウム及びカルシウムを本質的に含まない塩基性透析濃縮物に関する。最も好ましくは、本発明の塩基性透析濃縮物は炭酸水素塩濃縮物である。乾燥した濃縮物は、水、例えば、水性環境下でのある種の成分の不安定性、酸化及び微生物増殖に起因する化学的及び生物学的不利益のみでなく、重量を回避できるという利点を有する。
【0078】
最も好ましい実施形態では、本発明は、本質的に水を含まず、好ましくは、少なくとも1種のクレアチン化合物、及び好ましくは炭酸水素塩、乳酸塩及び/又は酢酸塩からなる群から選択される少なくとも1種の塩基性緩衝物質からなる、本発明の乾燥透析濃縮物、に関する。
【0079】
好ましくは、本発明の透析濃縮物は、前述した本発明の透析液を製造するために、重量で25〜60、好ましくは30〜50、より好ましくは32〜48、最も好ましくは35〜45倍の水希釈を必要とする。
【0080】
更なる態様では、本発明は、本発明の透析液又は透析濃縮物を調製するための、少なくとも1種のクレアチン化合物の使用に関する。前記使用のためには、先に記述したクレアチン化合物が適しており、好ましくは(ホスホ)クレアチン化合物、好ましくは(ホスホ)クレアチン、(ホスホ)クレアチン一水和物、及び(ホスホ)クレアチン塩、好ましくはピルビン酸塩、乳酸塩、アスコルビン酸塩、酢酸塩、クエン酸塩及びヒドロキシクエン酸塩からなる群から選択されるクレアチン化合物である。
【0081】
付加的な態様では、本発明は、本発明の透析液又は透析濃縮物を調製する方法であって、少なくとも1種の(i)クレアチン化合物と、(iia)生理的に許容可能なイオン及び/又は(iib)少なくとも1種の生理的に許容可能な緩衝物質を混合する工程を含んでなる方法に関する。
【0082】
好ましくは、本発明は、(i)透析液を調製するのに有用な濃縮物、又は(ii)透析液をもたらす上記方法に関し、前記透析液は、
a)0.05〜20、好ましくは0.1〜10、より好ましくは0.5〜10、最も好ましくは0.1〜5mmol/lのクレアチン化合物、
b)130〜150、好ましくは135〜145、より好ましくは約138mmol/lのNaイオン、
c)0〜10、好ましくは1〜6、より好ましくは1〜4mmol/lのKイオン類、
d)0.5〜3、好ましくは1〜2、より好ましくは1〜1.25mmol/lのCaイオン、
e)0〜10、好ましくは1〜6、より好ましくは1〜4mmol/lのMgイオン、
f)0〜10、好ましくは1〜6、より好ましくは1〜4mmol/lのClイオン
から本質的になり、
好ましくは、
g)0.2〜3g/l、好ましくは0.5〜2.5g、より好ましくは1〜2g/lのグルコース、並びに
h)25〜40、好ましくは28〜35、より好ましくは約32mmol/lの炭酸水素イオン、及び
i)生理的に許容可能な緩衝物質として、1〜5、好ましくは2〜4、より好ましくは2〜3mmol/lの酢酸イオン、
j)所望により、更に生理的に許容可能な濃度の生理的に許容可能な化合物
を含んでなり、
ここで、前記透析液の理論的な重量オスモル濃度が270〜310、好ましくは280〜305、より好ましくは285〜300、最も好ましくは287〜298であり、pHが7.1〜7.5、好ましくは7.2〜7.4の範囲である。
【0083】
特定の実施形態では、37℃で0.002mM/l〜45mM/l、好ましくは0.05mM/l〜40mM/lに相当する濃度の1種以上のクレアチン化合物を含んでなる透析液が血液透析用に使用される。
【0084】
他の実施形態では、37℃で40mM/l〜200mM/lに相当する濃度の1種以上のクレアチン化合物を含んでなる透析液が腹膜透析のための使用の対象となり、ここで前記クレアチン化合物はオスモライトとして作用している。好ましくは前記濃度は、37℃で115mM/l〜200mM/l、最も好ましくは120mM/l〜200mM/lに相当する。
【0085】
更なる実施形態は、1種以上のクレアチン化合物を含んでなる不飽和透析液の腹膜透析のための使用を対象とし、ここで前記クレアチン化合物がオスモライトとして作用している。前記透析液は、以下の3分類の化合物からの1種以上の有機オスモライトを更に含み得る:
A)ポリオール、好ましくはイノシトール、ミオイノシトール又はソルビトール;
B)メチルアミン、好ましくはコリン、ベタイン、カルニチン(L−、D−及びDL型)、n‐アセチル‐カルニチン、L−カルニチン誘導体、ホスホリルコリン、リゾホスホリルコリン又はグリセロホスホリルコリン;及び
C)アミノ酸。
【0086】
更なる実施形態は、40〜200mM/lクレアチンに相当する濃度で、グルコースの量が106g/l未満、好ましくは62.6g/l未満、最も好ましくは37.5g/l未満のクレアチン化合物を1種以上含んでなる透析液を対象とする。
【0087】
大事なことを言い忘れていたが、本発明のもう1つの態様は、生理的有効量の本発明に係る透析液を、例えば血液解毒のためにこれを必要とする患者に投与する工程を含む治療方法を対象とする。本発明の更なる態様は、腎機能障害を患う患者を治療する方法を対象とし、この方法は、
a)クレアチン化合物を経口投与する第一工程;及び
b)クレアチン化合物を用いて透析を行う第二工程
を含んでなる。
【0088】
「治療すること」により、は腎機能障害及び/又は透析治療に関連する疾患又は条件の開始を防止するのみでなく、進行を遅延させ、妨害し、抑止し又は停止させることを意味し、治療することは、全ての疾患症状と徴候の完全な除去を必ずしも必要としない。「防止」とは、疾患又は条件の予防を含むことを意図し、ここで「予防」は、疾患又は条件の徴候又は症状の開始時期又は重症度を様々な程度で阻害することと理解され、疾患又は条件の完全な予防を含むがこれに限定されない。
【0089】
本発明の上記及びその他の目的、並びに更なる本発明の特徴は、本明細書中に提示した詳細な記載から明らかとなるであろう。
【0090】
別途定義しない限り、本明細書中で使用する全ての技術的で科学的な用語は、本発明が関連する当業者の1人が通常理解するのと同じ意味を有する。
【0091】
本発明の実施又は試験には、本明細書中で記載したものに類似するか又はこれに相当する方法及び材料が使用できるが、好ましい方法及び材料を以下に記載する。以下の実施例は本発明を更に例証することに役立つものであり、決して本発明の範囲を限定することを意図するものではない。
【発明を実施するための形態】
【0092】
実施例1
臨床的な手順として、0.1〜30gのクレアチン(分子量131.13g/mol)を約4.7リットルの透析濃縮物(これは、透析機器内で1日当たり、患者1人当たり1回の透析治療に対し通常使用される)に添加して、濃縮透析液流又は保管溶液中のクレアチン化合物の最終濃度0.16〜48mM/lを提供することができる。クレアチンの場合には、透析濃縮物1リットル当たり6.4gの濃度が、中性のpHと約5℃の温度における、水中のクレアチンの最大溶解度に相当する。透析濃縮物を沈殿のリスクのない安定性の目的のために冷却する場合には、クレアチンの濃度がより高いと実行不可能である。
【0093】
4時間にわたる典型的な透析流動速度800ml/minでは、透析プロセスの間に、前述の濃縮透析液を、最終量が192リットルの実際の透析液(約40倍の透析保管溶液の希釈倍数に相当する)に希釈することとなり、最終的な透析液中の効果的なクレアチン濃度は0.004〜1.2mM/lであろう。
【0094】
血漿膜中のクレアチン輸送体タンパク質(CrT)はクレアチンに対し、約25〜30マイクロモルのkmという非常に高い親和性を有することから、言及された最終的な透析液中のクレアチン濃度(0.004〜1.2mM/l)は、クレアチン輸送体のkm範囲内であるか、又はこれを大きく超えており、最終的な透析液からクレアチン化合物を血液細胞が効果的に取り込むことが可能となる。
【0095】
典型的には、4.7リットルの透析濃縮物に添加された20〜30gのクレアチンを使用して、32mM〜48mM/lの保管濃度のクレアチン濃度が得られ、0.8〜1.2mM/lの最終的な透析液中で希釈される。患者の血液は、全治療の間、これらの濃度のクレアチンと常に接触しており、またCrTはクレアチンを細胞内に輸送するのに効果的であるため、細胞はクレアチンで満たされている。約1mMの最終的な透析液中のクレアチンの上述した濃度は、筋肉量を維持し構築するために透析患者にクレアチンを補充することを教示する先行技術文献に提案された濃度よりもはるかに低いが、細胞保護ためには非常に効果的である。クレアチン濃度が非常に低い本発明の透析液を用いる透析プロセスの間、患者は最終的に、濃縮透析液流に最初に添加された全てのクレアチンに暴露される。結果として得られるクレアチン濃度は生理的であり、このようなクレアチン濃度は、例えば肉又は魚を十分食べた後、ヒト血清中で摂取後に得られる。透析液中のクレアチン濃度は、何ら副作用を誘発せず、患者内の内因性クレアチン合成を不必要に、また不健康に減少させることはない。
【0096】
実施例2
透析においてクレアチンを直接的に経口補充するための好ましい実施例として、患者はクレアチン、Cr一水和物又はその他のCr含有化合物、例えば、Cr塩又はCr類似体を経口的に消化するであろう。これらのクレアチン含有化合物は、粉末若しくは錠剤の形態、又は水溶液若しくは懸濁液として経口的に摂取されるであろう。好ましい補充スキームでは、7〜14日の負荷段階期間における、1日当たり1〜20gのクレアチン又はクレアチン化合物と、その後に、無制限の期間又は必要な期間における、1日当たり2〜5gのクレアチンの維持段階が考慮される。
【0097】
この経口補充に加えて、クレアチンが透析によっても2mM/lの濃度で患者に対し投与された。
【0098】
実施例3
臨床的な血液透析設定のための好ましい実施例として、1〜30gのクレアチンを5リットルの血液透析濃縮物(市販の血液透析器において、1日当たり患者1人あたり1回の血液透析治療に通常使用される)に添加して、透析濃縮物中の最終的なクレアチン濃度を0.08〜45mM/lとした。
【0099】
4時間にわたる典型的な透析流動速度800ml/minでは、透析プロセスの間に、前述の濃縮透析液流を、最終量が190リットルの実際の透析液流(約40倍の透析濃縮物の希釈倍数に相当する)に希釈することとなり、患者に投与された最終的な透析液中の効果的なクレアチン濃度は0.002〜1.125mM/lであろう。
【0100】
血漿膜中のクレアチン輸送体タンパク質(CrT)は、クレアチンに対し約25〜30マイクロモルのkmという非常に高い親和性(Straumann et al. 2006)を有することから、最終的な透析液からクレアチンを細胞が効果的に取り込むことが完全に保証されるように、最終的な透析液中の後者のクレアチン濃度(0.004〜1.125mM/l)は、クレアチン輸送体のkmの完全に範囲内であるか、又はこれを大きく超える。
【0101】
典型的には、5リットルの透析濃縮物に添加された20〜30gのクレアチンを使用して、30mM〜45mM/lのクレアチン濃度が得られる。次いで、これを最終的な透析液流中で0.75〜1.125mM/lに希釈する。患者の血液は、全治療の間、これらの濃度のクレアチンと常に接触しており、またCrTはクレアチンを細胞内に輸送するのに効果的であるため、細胞は、3〜4時間の各透析セッションの間クレアチンで十分に満たされる機会を有する。従って、本明細書中で提案される最終的な透析液流中のクレアチン濃度範囲は、単一投与量が5〜20gのクレアチンを直接経口的に消化することにより、又は別法として新鮮な魚と肉を多く含む食事を消費することにより達する摂取後の生理的なクレアチン濃度に相当する。前述したように、3〜4時間の血液透析時間における透析液からのクレアチンの摂取は、体内への最適なクレアチン摂取を可能とするのに十分であり、標的の臓器と細胞にクレアチンを充填し、患者に対し、細胞保護を含むクレアチンの有利な生理的効果を達成する。
【0102】
本明細書中で提案するこのようなクレアチン濃度は何ら副作用を有さず、体内での内因性クレアチン合成を減少させないであろう。本明細書中で提案する約1mMの最終的な血液透析液中のクレアチン濃度は、Bessmanによる特許出願である米国特許出願公開第2003/0013767号A1明細書で提案された濃度と比較してはるかに低いけれども、依然として、前述した報告された細胞保護効果を可能とするのに全く十分なものである。本発明者らの場合には、全透析プロセスの過程で濃縮透析液流(1〜30g)に添加されたクレアチンの全量に患者を暴露させ、希釈後には(上記参照)、クレアチンのこれらの濃度は完全に生理的であり(約1〜2mM/l)、例えば、このようなクレアチン濃度は、肉若しくは魚の十分な食事の後、又は単一投与量のクレアチンを、5〜20gのクレアチンで経口的に補充した後に、ヒト血清中で摂取後となると考えられる。Bessmanの特許出願である米国特許出願公開第2003/0013767号A1明細書における値(最終的な透析液流1リットル当たり15gのクレアチンは、1リットル当たり0.1〜0.15gのクレアチンに等しいような、約200リットルの最終的な透析液流中で希釈された20〜30gのクレアチンという本明細書中で提案された濃度に比べはるかに高い)。先行技術において公知のクレアチン濃度は血液透析液流としては非常に非生理的であり、細胞に対し高い浸透圧性で代謝的なストレスを及ぼす可能性がある。加えて、都合の悪く望ましくない副作用としては、生命体をこのような非常に高い濃度のクレアチンに暴露させると、体内の内因性クレアチン合成を低減させ、ホスホクレアチンを産生する細胞内ATP−レベルを低下させ、AMPKを活性化して、透析患者の体内のホルモンと炎症のパラメータに影響を与える場合がある。これは、本明細書中で提案する、血液透析に使用される比較的低いクレアチン濃度の場合とは全く異なる。最後に、Bessmanの出願である米国特許出願公開第2003/0013767号A1明細書において提案されたクレアチンの高い濃度は、水中のクレアチンの溶解度がかなり低く、クレアチン溶解度の温度依存性が非常に大きいため、技術的に実現不可能である。Bessmanの特許出願である米国特許出願公開第2003/0013767号A1明細書で提案された、流体1リットル当たり15gのクレアチンという高濃度条件下は、25℃におけるクレアチン溶液の溶解限界であるが、透析プロセスの実行可能性にとって非常に都合の悪い全ての結果を伴って、透析液流中にクレアチンが沈殿するという危険性が高い。
【0103】
実施例4
持続的外来腹膜透析(CAPD)又は自動腹膜透析(APD)設定についての好ましい実施例として、クレアチン濃度150〜190mM/lに相当する、37℃の腹膜透析液流1リットル当たり20〜24gのクレアチンを添加する。クレアチンの上記濃度は、各々の温度での臨界的な溶解限度を依然として下回るため、沈殿の問題が生じない。同時に、上記クレアチン濃度は、浸透圧的に適切であると説明するのに十分高いものである。従って、結果的に、標準的な腹膜透析液流中のグルコース濃度を低くすることができる。水により良く溶解するその他のクレアチン化合物、例えばクレアチン塩及び類似体を使用することにより、クレアチン化合物の濃度は更に高く設定してもよく、その結果より多くのグルコースを置換することができる。
【0104】
典型的には、また好ましくは、37℃の腹膜透析液1リットル当たり20〜24gのクレアチンを添加して、37℃での最終的なクレアチン濃度を150〜190mM/lとする。このストラテジーを用いて、例えば37.5g/l、62.6g/l又は106g/lを含む様々な濃度の腹膜透析液中のグルコース量を、上記の24gのクレアチン/lを添加することにより、それぞれ13.5g/l、38.6g/l又は82g/lに低下することができる。前述したように、これにより、マイナスとなり得る結果と共に、腹膜に対するグルコース負荷が著しく低減される。実際に、APDとCAPDでは、2〜3リットルの実際の腹膜透析液流が単一の透析セッションの間に4〜5回交換されるため、全体のグルコース節約効果、即ち、高グルコースに対する患者の腹膜のより少ない暴露は、それ自体としては4〜5倍高く、例えば5×24g、即ち120gのグルコースを1回の透析セッションでクレアチンにより置換することができる。
【0105】
別法として、腹膜透析の場合には、高グルコースが問題ない場合には、5〜最大20gの全クレアチン量を最終的な透析液に直接添加し、その結果標準的なクレアチンの経口補充により到達するのと同様のクレアチン暴露となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
0.002〜45mM/lクレアチンに相当する濃度のクレアチン化合物を1種以上含んでなる透析液。
【請求項2】
前記相当する濃度が0.05〜20mM/lクレアチンの範囲である請求項1記載の透析液。
【請求項3】
クレアチン化合物の前記濃度が0.05〜10mM/l、好ましくは0.1〜10mM/lクレアチンに相当する請求項2記載の透析液。
【請求項4】
クレアチン化合物の前記濃度が0.1〜5mM/lクレアチンに相当する請求項3記載の透析液。
【請求項5】
更に、
(i)Na−、K−、Ca−、Mg−、Cl−イオン、
(ii)好ましくは炭酸水素塩、乳酸塩及び/又は酢酸塩から選択される、少なくとも1種の生理的に許容可能な緩衝物質、並びに
(iii)所望によるが、好ましくは炭水化物源、より好ましくはグルコース
を含んでなり、(i)〜(iii)の全てが生理的に許容可能な濃度である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の透析液。
【請求項6】
生理的に許容可能な濃度の生理的に許容可能な添加剤、好ましくは水溶性ビタミン、痕跡元素、栄養素、好ましくはアミノ酸からなる群から選択される添加剤を更に含んでなる請求項1〜5のいずれか一項に記載の透析液。
【請求項7】
前記クレアチン化合物が、
(i)(ホスホ)クレアチン化合物、好ましくは(ホスホ)クレアチン、(ホスホ)クレアチン一水和物、(ホスホ)シクロクレアチン、ホモシクロクレアチン、
(ii)(ホスホ)クレアチン誘導体、好ましくは(ホスホ)クレアチン塩、より好ましくはクレアチンのピルビン酸塩、乳酸塩、アスコルビン酸塩、酢酸塩、クエン酸塩、ヒドロキシクエン酸塩、アレウレート(aleurate)、フィチン酸塩、マンデル酸塩、リンゴ酸塩、グリコール酸塩、桂皮酸塩、サリチル酸塩、ヒアルロン酸塩、β‐ヒドロキシ酪酸塩、グルコン酸塩、コリン、カルニチン、プロピオニルカルニチン、コエンザイムQ10、アデノシン、フルクトース、フルクトース−1,6−重リン酸塩、クレアチン‐アデノシンのエステル、クレアチン‐グルタミン及びクレアチンピルビン酸塩の酸無水物、
(iii)クレアチン前駆体、好ましくはグアニジノ酢酸、3−グアニジノプロピオン酸、グアニジノ安息香酸、並びにグリシン、アルギニン及びメチオニンの組み合わせ、並びにそれらの生理的に許容可能な塩及び誘導体、
(iv)並びにクレアチン類似体、
からなる群から選択される、請求項1〜6のいずれか一項に記載の透析液。
【請求項8】
前記クレアチン化合物が、(ホスホ)クレアチン化合物、好ましくは(ホスホ)クレアチン、(ホスホ)クレアチン一水和物、及び(ホスホ)クレアチン塩、好ましくはピルビン酸塩、乳酸塩、アスコルビン酸塩、酢酸塩、クエン酸塩、及びヒドロキシクエン酸塩からなる群から選択される請求項7記載の透析液。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか一項に記載の透析液であって、
a)0.05〜20、好ましくは0.1〜10、より好ましくは0.5〜10、最も好ましくは0.1〜5mmol/lのクレアチン化合物、
b)130〜150、好ましくは135〜145、より好ましくは約138mmol/lのNaイオン、
c)0〜10、好ましくは1〜6、より好ましくは1〜4mmol/lのKイオン、
d)0.5〜3、好ましくは1〜2、より好ましくは1〜1.25mmol/lのCaイオン、
e)0〜10、好ましくは1〜6、より好ましくは1〜4mmol/lのMgイオン、
f)0〜10、好ましくは1〜6、より好ましくは1〜4mmol/lのClイオン、
から本質的になり、及び
好ましくは、
g)0.2〜3g/l、好ましくは0.5〜2.5g、より好ましくは1〜2g/lのグルコース、並びに
h)25〜40、好ましくは28〜35、より好ましくは約32mmol/lの炭酸水素イオン、
及び
i)生理的に許容可能な緩衝物質として、1〜5、好ましくは2〜4、より好ましくは2〜3mmol/lの酢酸イオン、及び
j)所望により、生理的に許容可能な濃度の更なる生理的に許容可能な化合物、
を含んでなり、
ここで、前記透析液の理論上の重量オスモル濃度が270〜310、好ましくは280〜305、より好ましくは285〜300、最も好ましくは287〜298であり、pHが7.1〜7.5、好ましくは7.2〜7.4の範囲である透析液。
【請求項10】
(i)少なくとも1種のクレアチン化合物、及び(ii)生理的に許容可能なイオン、及び/又は少なくとも1種の緩衝物質を含んでなる透析濃縮物であって、前記濃縮物を水で希釈し、所望により更なる物質を添加すると、結果として請求項1〜9のいずれか一項に記載の透析液になる透析濃縮物。
【請求項11】
希釈して、好ましくは炭酸水素塩、乳酸塩及び/又は酢酸塩から選択される少なくとも1種の生理的に許容可能な塩基性緩衝物質を添加することにより、
(i)Na−、K−、Ca−、Mg−及びCl−イオン、
(ii)少なくとも1種のクレアチン化合物、
(iii)好ましくは炭酸水素塩、乳酸塩及び/又は酢酸塩から選択される、所望による少なくとも1種の生理的に許容可能な緩衝物質、
(iv)グルコース、
を、生理的に許容可能な濃度と7.1〜7.5の範囲のpHを提供する濃度で含んでなる請求項10記載の酸性透析濃縮物。
【請求項12】
少なくとも1種のクレアチン化合物と、好ましくは炭酸水素塩、乳酸塩及び/又は酢酸塩から選択され、好ましくはマグネシウム及びカルシウムを本質的に含まない少なくとも1種の生理的に許容可能な塩基性緩衝物質を含んでなる塩基性透析濃縮物。
【請求項13】
本質的に水を含まず、好ましくは、少なくとも1種のクレアチン化合物と、好ましくは炭酸水素塩、乳酸塩及び/又は酢酸塩から選択される少なくとも1種の塩基性緩衝物質からなる、請求項10〜12のいずれか一項に記載の乾燥透析濃縮物。
【請求項14】
請求項1〜9のいずれか一項に記載の透析液を製造するために、重量で25〜60、好ましくは30〜50、より好ましくは32〜48、最も好ましくは35〜45倍の水希釈を必要とする、請求項10〜12のいずれか一項に記載の含水透析濃縮物。
【請求項15】
請求項1〜9のいずれか一項に記載の透析液、又は請求項10〜14のいずれか一項に記載の透析濃縮物を調製するための、少なくとも1種のクレアチン化合物の使用。
【請求項16】
前記クレアチン化合物が、(ホスホ)クレアチン化合物、好ましくは(ホスホ)クレアチン、(ホスホ)クレアチン一水和物、及び(ホスホ)クレアチン塩、好ましくはピルビン酸塩、乳酸塩、アスコルビン酸塩、酢酸塩、クエン酸塩及びヒドロキシクエン酸塩からなる群から選択される請求項15記載の使用。
【請求項17】
血液透析のために、37℃で0.002mM/l〜45mM/l、好ましくは0.05mM/l〜40mM/lに相当する濃度のクレアチン化合物を1種以上含んでなる透析液の使用。
【請求項18】
腹膜透析のために、37℃で40mM/l〜200mM/lに相当する濃度のクレアチン化合物を1種以上含んでなる透析液の使用であって、前記クレアチン化合物がオスモライトとして作用する使用。
【請求項19】
前記濃度が、37℃で115mM/l〜200mM/l、好ましくは37℃で120mM/l〜200mM/lに相当する請求項18記載の使用。
【請求項20】
腹膜透析のために、1種以上のクレアチン化合物を含んでなる不飽和透析液の使用であって、前記クレアチン化合物がオスモライトとして作用する使用。
【請求項21】
前記透析液が、以下の3分類の化合物からの有機オスモライトを1種以上更に含んでなる、請求項18〜20のいずれか一項に記載の使用:
A)ポリオール、好ましくはイノシトール、ミオイノシトール又はソルビトール;
B)メチルアミン、好ましくはコリン、ベタイン、カルニチン(L−、D−及びDL型)、n‐アセチル‐カルニチン、L−カルニチン誘導体、ホスホリルコリン、リゾホスホリルコリン又はグリセロホスホリルコリン;及び
C)アミノ酸。
【請求項22】
40〜200mM/lクレアチンに相当する濃度であり、グルコースの量が106g/l未満、好ましくは62.6g/l未満、最も好ましくは37.5g/l未満であるクレアチン化合物を1種以上含んでなる透析液。
【請求項23】
請求項1〜9のいずれか一項に記載の透析液、又は請求項10〜14のいずれかに記載の透析濃縮物を調製する方法であって、少なくとも(i)1種のクレアチン化合物と、(iia)生理的に許容可能なイオン、及び/又は(iib)少なくとも1種の緩衝物質を混合する工程を含んでなる方法。
【請求項24】
(i)透析液を調製するのに有用な濃縮物又は(ii)透析液をもたらす請求項23記載の方法であって、前記透析液は、
a)0.05〜20、好ましくは0.1〜10、より好ましくは0.5〜10、最も好ましくは0.1〜5mmol/lのクレアチン化合物、
b)130〜150、好ましくは135〜145、より好ましくは約138mmol/lのNaイオン、
c)0〜10、好ましくは1〜6、より好ましくは1〜4mmol/lのKイオン、
d)0.5〜3、好ましくは1〜2、より好ましくは1〜1.25mmol/lのCaイオン、
e)0〜10、好ましくは1〜6、より好ましくは1〜4mmol/lのMgイオン、
f)0〜10、好ましくは1〜6、より好ましくは1〜4mmol/lのClイオン
から本質的になり、
好ましくは、
g)0.2〜3g/l、好ましくは0.5〜2.5g、より好ましくは1〜2g/lのグルコース、並びに
h)25〜40、好ましくは28〜35、より好ましくは約32mmol/lの炭酸水素イオン、
及び
i)生理的に許容可能な緩衝物質として、1〜5、好ましくは2〜4、より好ましくは2〜3mmol/lの酢酸イオン、
j)所望により、生理的に許容可能な濃度の生理的に許容可能な化合物を更に含んでなり、
ここで、前記透析液の理論的な重量オスモル濃度が270〜310、好ましくは280〜305、より好ましくは285〜300、最も好ましくは287〜298であり、pHが7.1〜7.5、好ましくは7.2〜7.4の範囲である方法。
【請求項25】
腎機能障害を患う患者を治療する方法であって、請求項1〜9のうちの一項に記載の透析液を、これを必要とする患者に対し、好ましくは血液解毒のために、生理的に有効な量投与する工程を含んでなる方法。
【請求項26】
腎機能障害を患う患者を治療する方法であって、
c)クレアチン化合物を経口投与する第一工程;及び
d)クレアチン化合物を用いて透析を行う第二工程
を含んでなる方法。

【公表番号】特表2012−522812(P2012−522812A)
【公表日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−503842(P2012−503842)
【出願日】平成22年3月10日(2010.3.10)
【国際出願番号】PCT/CH2010/000065
【国際公開番号】WO2010/115291
【国際公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【出願人】(511241572)クレアレン リミテッド (2)
【Fターム(参考)】