説明

1,1,1,3,3−ペンタフルオロブタンを含む共沸様組成物

【課題】不燃性かつ低毒性等の性質を有し、取り扱いが容易であり、地球温暖化係数が小さく、かつ、温室効果の小さい新規の組成物を提供し、金属やプラスチック部材の洗浄に有効であり、特に、洗浄対象となるプラスチック部材に対する損傷が極めて少ない、洗浄組成物を提供することを課題とする。
【解決手段】1,1,1,3,3−ペンタフルオロブタンと(Z)−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンからなる共沸様組成物を用いた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、1,1,1,3,3−ペンタフルオロブタンを含む共沸様組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、塩素化フッ素化飽和炭化水素、具体的には、トリクロロフルオロメタン(CFC−11)、ジクロロジフルオロメタン(CFC−12)、1,1,2−トリクロロ−1,2,2−トリフルオロエタン(CFC−113)、1,1−ジクロロ−1−フルオロエタン(HCFC−141b)、1,1,1−トリクロロエタン等を使って冷媒、発泡剤等に使用されてきたが、これらの物質は塩素を含むということもあり、オゾン層を破壊するということが懸念されてきた。
【0003】
そこで、塩素化フッ素化飽和炭化水素に取って代わる物質の開発がされてきており、ジフルオロメタン(HFC−32)、1,1,2−トリフルオロエタン(HFC−134a)、1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパン(HFC−245fa)あるいは1,1,1,3,3−ペンタフルオロブタン(HFC−365mfc)、等の含フッ素飽和炭化水素が用いられている。
【0004】
含フッ素飽和炭化水素化合物の一つである1,1,1,3,3−ペンタフルオロブタン(HFC−365mfc)は、その分子内構造中に塩素を含まずオゾン破壊係数(ODP)は0であり、毒性も少なく、また地球温暖化係数(GWP)も小さく、環境にクリーンであるという優れた特徴を有しているが、1,1,1,3,3−ペンタフルオロブタン(HFC−365mfc)は、油脂などに対する溶解性が低く、各種洗浄剤としては、十分な洗浄性能が得られないという問題点があった。
【0005】
そこで、1,1,1,3,3−ペンタフルオロブタン(HFC−365mfc)を用いた従来技術として、特許文献1〜3において、1,1,1,3,3−ペンタフルオロブタン(HFC−365mfc)に対して、ノルマルパラフィンなどの炭化水素系化合物、メタノールなどのアルコール系化合物を添加することによって、油に対する溶解性を向上させる方法、また、特許文献4〜6において、塩化メチレン、1,2ージクロロエチレン、ノルマルプロピルブロマイド、などのハロゲン系化合物を添加することによって油に対する溶解性を向上させる方法が開示されている。
【0006】
一方、分子内に二重結合を有する含フッ素不飽和炭化水素は、二重結合を有するため、一般的に大気中のOHラジカルとの反応性が大きいため、オゾン破壊係数(ODP)や地球温暖化係数(GWP)が著しく小さくなる。(Z)−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンは、分子内に二重結合を有するため、地球温暖化係数(GWP)が比較的小さく、不燃性かつ低GWPの特性を有する組成物として検討されている。
【0007】
これまで、特許文献7、8において、(Z)−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンを洗浄組成物として用いることが開示されているが、具体的な洗浄性能および洗浄結果については報告されていない。
【0008】
また、特許文献9において、本出願人らは、1,1,2,2,−テトラフルオロ−メトキシエタン(HFE−254pc)と(Z)−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンを組み合わせた洗浄用等組成物、洗浄方法について開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平6−322394号公報
【特許文献2】特開2002−348692号公報
【特許文献3】特開2006−516296号公報
【特許文献4】特開平11−152236号公報
【特許文献5】特開平7−188700号公報
【特許文献6】特開2002−241796号公報
【特許文献7】米国特許出願公開第096246号明細書
【特許文献8】米国特許出願公開第142173号明細書
【特許文献9】特開2008−133438号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1〜3の方法では、HFC−365mfcおよび炭化水素系化合物、アルコール類の化合物は引火点を有し、可燃性の物質であることから、可燃性を嫌う作業現場等での使用が非常に難しく、特許文献4〜6の方法では、毒性の高い塩化メチレンなどの塩素系化合物や、ノルマルプロピルブロマイドなどの臭素化飽和炭化水素化合物を使用しているため取り扱いには十分な注意が必要であった。
【0011】
また、特許文献7〜9に開示されている(Z)−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンは、それ自身洗浄能力が高く、洗浄剤として有用であるが、プラスチック部材を洗浄する際、プラスチック部材に損傷を及ぼしやすいという問題点があった。
【0012】
本発明は、不燃性かつ低毒性等の性質を有し、取り扱いが容易であり、地球温暖化係数が小さく、かつ、温室効果の小さい新規の組成物を提供し、金属やプラスチック部材の洗浄に有効であり、特に、洗浄対象となるプラスチック部材に対する損傷が極めて少ない、洗浄組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、1,1,1,3,3−ペンタフルオロブタン(HFC−365mfc)と(Z)−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンを組み合わせることによって、不燃性かつ低毒性であり、取り扱いが非常に容易な組成物を得、さらに、本発明の組成物は、洗浄対象物となるプラスチック部材などに対して損傷が極めて少なく、金属およびプラスチック部材に対して有用な洗浄組成物である知見を得、上記課題を解決するに至った。
【0014】
本発明の組成物は、後述の実施例2に示されるように、1,1,1,3,3−ペンタフルオロブタン(HFC−365mfc)単独で用いた場合と比較して、格段に優れた洗浄性能を有するものである。
【0015】
さらに、1,1,1,3,3−ペンタフルオロブタン(HFC−365mfc)と(Z)−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンを組み合わせることによって、常に安定した洗浄能力を提供することが可能であり、本発明の組成物は混合比率の幅が広く、組成物を繰り返し蒸発・凝縮させても組成物の組成変化がなく、極めて安定した性能を維持できる知見を得た。
【0016】
また、1,1,1,3,3−ペンタフルオロブタンと(Z)−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンとの共沸様組成物は報告されていない。
【0017】
すなわち、本発明は、以下の[発明1]〜[発明4]に記載した発明を提供する。
[発明1]
1,1,1,3,3−ペンタフルオロブタンと(Z)−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンからなる共沸様組成物。
[発明2]
1,1,1,3,3−ペンタフルオロブタン10〜90モル%、及び(Z)−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン90〜10モル%からなる、発明1に記載の共沸様組成物。
[発明3]
発明1または発明2に記載の共沸様組成物からなる洗浄剤。
[発明4]
発明1または発明2に記載の共沸様組成物を、汚れが付着した要素に接触させることで、該要素を洗浄する洗浄方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、不燃性かつ低毒性等の性質を有し、取り扱いが容易であり、地球温暖化係数が小さく、かつ、温室効果の小さい新規の組成物を提供し、金属やプラスチック部材の洗浄に有効であり、特に、洗浄対象となるプラスチック部材に対する損傷が極めて少ない、洗浄組成物を提供することができる。
【0019】
さらに、本発明の組成物は、幅広い混合比率において共沸様組成物を形成するため、組成物の組成変化が極めて少なく、安定した性能を維持することができ、かつ、引火点が比較的高いため、取り扱いが非常に容易な洗浄用組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明による共沸様組成物を詳細に説明する。
【0021】
本発明で用いる1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンは、文献記載の公知化合物であり、例えば、3,3,3−トリフルオロプロピンの塩化水素の付加反応、または、3−クロロ−1,1,1,−トリフルオロ−3−ヨードプロパンの水酸化カリウムによる脱ヨウ化水素反応などで製造することができる。
【0022】
本発明で用いられる(Z)−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンは、1,1,1,3,3−ペンタクロロプロパンをクロム触媒による気相フッ素化反応あるいは無触媒で液相フッ素化反応を行うことにより、(E)−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンとともに得ることができる。
【0023】
1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンは、置換基の種類により、立体異性体としてシス体(Z体)及びトランス体(E体)が存在するが、両者の異性体は、蒸留により分離、精製することができる。
【0024】
本発明においては、出発原料の1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンとして、これら立体異性体は特に制限はなく、単一の異性体でも、それぞれの異性体の混合物でも使用できるが、この2つの異性体のうち、シス体(Z体)、すなわち(Z)−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンの方が、より良い共沸様組成物的性質を示すことから、好ましく用いられる。
【0025】
なお、共沸様組成物とは、あたかも一つの物質のように挙動し、組成物の組成変化、すなわち液体組成と蒸気組成がほぼ同一である2つ以上の物質から成り、蒸発、凝縮を繰り返した後の組成物の組成変化が無視できる程度の組成物のことである。「共沸様」とは、2成分以上の混合物が一定圧力下において分離が生じず、液相と気相の成分比が実質的に近い組成物を意味する。
【0026】
次に、本発明の共沸様組成物の好ましい組成について、具体的に説明する。
【0027】
本発明の共沸様組成物は、1,1,1,3,3−ペンタフルオロブタンと(Z)−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンからなる化合物を含むことによってなる。
【0028】
次に、これらについて、具体的な共沸様組成物に対する各々の好ましい組成比について、以下に説明する。
【0029】
1,1,1,3,3−ペンタフルオロブタンに(Z)−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンを混合することにより、それぞれの常圧(0.0101MPa、絶対圧、以下同じ)時の沸点(1,1,1,3,3−ペンタフルオロブタン:40.0℃、(Z)−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン:38.9℃)の間の沸点(38.9〜40.0℃)を有する共沸様組成物を得ることができる。
【0030】
例えばこの組成物においては、1,1,1,3,3−ペンタフルオロブタン、及び(Z)−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンとの混合比は、通常1,1,1,3,3−ペンタフルオロブタン1〜99モル%、及び(Z)−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン99〜1モル%であるが、好ましくは1,1,1,3,3−ペンタフルオロブタン20〜99モル%、及び(Z)−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン80〜1モル%、より好ましくは1,1,1,3,3−ペンタフルオロブタン40〜97モル%、及び(Z)−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン60〜3モル%の際に、良好な共沸様組成物を形成することができる。
【0031】
本発明の共沸様組成物は、その蒸発過程における液相と気相の組成が同一であるかほぼ同じであり、高い溶解力を示す。また、本発明の共沸様組成物は、それ自身、共沸様組成物を形成しており、不燃性または難燃性物質として取り扱うことができる。
【0032】
次に、本発明の共沸様組成物からなる、洗浄剤としての使用について説明する。
【0033】
本発明の組成物は、すぐれた溶解性を有し、公知の洗浄及び乾燥用途に広く使用できるが、特に脱脂洗浄剤、フラックス洗浄剤、洗浄溶剤、水切り乾燥剤として使用でき、その具体的用途としては、油、グリース、ワックス、フラックス、インキ等の除去剤、電子部品(プリント基板、液晶表示器、磁気記録部品、半導体材料等)、電機部品、精密機械部品、樹脂加工部品、光学レンズ、衣料品等の洗浄剤や水切り乾燥剤等を挙げることができる。その洗浄方法としては、浸漬、スプレー、沸騰洗浄、超音波洗浄、蒸気洗浄等或いはこれらの組み合わせ等の従来から用いられている方法が採用できる。
【0034】
本発明の組成物は、洗浄剤として、金属部材に対して有効であるだけでなく、アクリルなどのプラスチック部材に対しても有効である。例えば、アクリル樹脂製ボタンを含む衣服などのドライクリーニング、プラスチック型の離型剤、プラスチック部品のパーティクル洗浄などに対して使用することができる。
【0035】
後述の実施例3に示すように、(Z)−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン単独では、アクリル樹脂に損傷を及ぼしていることが分かる。また、(Z)−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンと1,1,1,3,3−ペンタフルオロブタンの混合組成物において、(Z)−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンの混合割合を減少させるにつれ、アクリル樹脂への影響が少なくなる。
【0036】
そのため、本発明の組成物を洗浄剤として使用するにおいて、アクリル樹脂などのプラスチック部材の洗浄剤として使用する場合、(Z)−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンの混合割合を1,1,1,3,3−ペンタフルオロブタンより少なくすることが好ましく、金属部材などの脱脂洗浄剤として使用する場合、洗浄性能の高い(Z)−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンの混合割合を1,1,1,3,3−ペンタフルオロブタンより大きくすることが、好ましく、洗浄する部材に応じて混合比を調整することができる。
【0037】
さらに、共沸状態の組成比では、気液平衡での液相組成比と気相組成比の比が同一となるから、経時的に揮発が生じても組成変化が非常に小さく、常に安定した洗浄能力を得ることが可能となる。また、保管中での保管容器内での組成変化も避けることができる。
【0038】
また、本発明の組成物は、混合比(HFC−365mfc/OHCFC−1233c=50/50)、温度20℃において、表面張力の値が16.8 mNmであり、(Z)−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン(OHCFC−1233c)単独の組成物(温度 20℃、表面張力 18.1mNm)や、1,1,2,2,−テトラフルオロ−メトキシエタン(HFE−254pc)と(Z)−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンの混合組成物(温度 20℃、混合比 :HFE−254pc/OHCFC−1233c=50/50、表面張力 17.8mNm)と比較して、表面張力の値が低い。そのため、極めて微細な隙間がある被洗浄物に対しても奥部までスムーズに浸透し、被洗浄物の細部まで十分に洗浄することができ、精密部品などの洗浄に好適である。
【0039】
そこで、本発明の共沸様組成物を洗浄剤として用いる場合、前述した重量割合にて洗浄剤として用いることが可能である。
【0040】
通常、1,1,1,3,3−ペンタフルオロブタン99〜1モル%、及び(Z)−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン1〜99モル%の範囲で洗浄剤として用いることができるが、好ましくは1,1,1,3,3−ペンタフルオロブタン70〜1モル%、及び(Z)−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン30〜99モル%、より好ましくは1,1,1,3,3−ペンタフルオロブタン50〜1モル%、及び(Z)−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン50〜99モル%の際に、洗浄能力の高い洗浄剤を形成することができる。
【0041】
ここで本発明者らは、不燃性及び難燃性物質としての混合割合、すなわち1,1,1,3,3−ペンタフルオロブタンを70〜1モル%及び(Z)−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン30〜99モル%の範囲にすることで、不燃性又は難燃性の性質を持ち、かつ洗浄能力の高い洗浄剤を形成することができる。
【0042】
本発明の共沸様組成物からなる洗浄剤を用いた洗浄方法については、前述した浸漬、スプレー、沸騰洗浄、超音波洗浄、蒸気洗浄等、従来公知の方法が挙げられるが、中でも後述の実施例に示すように、浸漬を行うことで、汚れを除去する方法が特に好適である。なお、ここで言う浸漬とは、油等の汚れが付着した要素(後述の実施例では「金網」に相当)を、本発明の共沸様組成物と接触させることを言い、この方法により、汚れを組成物中に溶解させることで、汚れを要素より取り除くことができる。なお、ここで言う「要素」とは、汚れが付着した対象物(被洗浄物)のことを示す。なお、当該浸漬操作と共に、他の洗浄操作(沸騰洗浄、超音波洗浄など)を組み合わせることもできる。
【0043】
また、洗浄力、界面作用等をより一層改善する為に、必要に応じて各種の界面活性剤を添加することができる。界面活性剤としては、ソルビタンモノオレエート、ソルビタントリオレエート等のソルビタン脂肪族エステル類;ポリオキシエチレンのソルビットテトラオレエート等のポリオキシエチレンソルビット脂肪酸エステル類;ポリオキシエチレンモノラウレート等のポリエチレングリコール脂肪酸エステル類;ポリオキシエチレンラウリルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルエーテル類;ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル類;ポリオキシエチレンオレイン酸アミド等のポリオキシエチレンアルキルアミン脂肪酸アミド類等のノニオン系界面活性剤が挙げられ、単独で使用してもよく或いは2種以上組み合わせて使用してもよい。相乗的に洗浄力及び界面作用を改善する目的で、これらのノニオン系界面活性剤に更にカチオン系界面活性剤やアニオン系界面活性剤を併用してもよい。界面活性剤の使用量は、その種類により異なるが、組成物の共沸様の性質に支障のない程度で、通常、組成物中0.1〜20重量%程度であり、0.3から5重量%程度とすることがより好ましい。
【0044】
一般に、冷媒、洗浄剤、エアゾール、または水切り乾燥用溶剤の使用において、使用後の混合組成物を蒸発や蒸留によって回収し、再使用する場合、その回収組成物は、使用前の混合組成物と比べて、できるだけ組成変動がないものであることが望まれるが、本発明による前記混合物は、このような組成変動がないか、非常に少ないものである。
【0045】
本発明による組成物は、過酷な条件での使用に際しては更に各種の安定剤を添加してもよい。安定剤としては、蒸留操作により同伴留出されるもの或いは共沸様混合物を形成するものが望ましい。このような安定剤の具体例としては、ニトロメタン、ニトロエタン、ニトロプロパン等の脂肪族ニトロ化合物;ニトロベンゼン、ニトロトルエン、ニトロスチレン、ニトロアニリン等の芳香族ニトロ化合物;ジメトキシメタン、1,2−ジメトキシエタン、1,4−ジオキサン、1,3,5−トリオキサン、テトラヒドロフラン等のエーテル類;グリシドール、メチルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、1,2−ブチレンオキシド、フェニルグリシジルエーテル、シクロヘキセンオキシド、エピクロルヒドリン等のエポキシド類;ヘキセン、ヘプテン、ペンタジエン、シクロペンテン、シクロヘキセン等の不飽和炭化水素類;アリルアルコール、1−ブテン−3−オール等のオレフィン系アルコール類;3−メチル−1−ブチン−3−オール、3−メチル−1−ペンチン−3−オール等のアセチレン系アルコール類;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸ビニル等のアクリル酸エステル類が挙げられる。また更に相乗的安定化効果を得る為に、フェノール類、アミン類、ベンゾトリアゾール類を併用してもよい。これらの安定剤は、単独で使用してもよく或いは2種以上組み合わせて使用してもよい。安定剤の使用量は、安定剤の種類により異なるが、組成物の共沸様の性質に支障のない程度とする。その使用量は、通常、組成物中0.01〜10重量%程度であり、0.1〜5重量%程度とすることがより好ましい。
【0046】
また、本発明の共沸様組成物は、洗浄剤の他に、発泡剤、塗料用溶剤、抽出剤、冷媒等の熱媒体あるいはエアゾール、または水切り乾燥用溶剤等の各種用途にも使用できる。
【実施例】
【0047】
次に、本発明を、例を挙げて具体的に説明するが、これらによって本発明は限定されるものではない。
【0048】
[実施例1]
加圧式平衡蒸留装置(協和科学株式会社製)を用いて1,1,1,3,3−ペンタフルオロブタン(HFC−365mfc)と(Z)−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン(OHCFC−1233c、ここでOHCFCは、Olefine HydroChloroFluoroCarbonの略で、分子内二重結合を有する不飽和HCFCを示し、これらの不飽和化合物は一般的に大気中のOHラジカルとの反応性が大きいためオゾン破壊係数やGWPが著しく小さくなることから、HCFCと区別する意味で表記をOHCFCとした。)との気液平衡組成(x1及びy1)及び沸点(t)を測定した。1,1,1,3,3−ペンタフルオロブタンと(Z)−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンとの一定組成の混合試料を試料容器部に入れ、加熱した。そして気相凝縮液の滴下速度が適正になるように加熱を調整して、安定した沸騰を30分間以上保った。圧力及び沸点が安定していることを確かめた後、それらを測定した。
【0049】
加熱における沸点、及び試料容器内で気液平衡となった気相成分及び液相成分の組成比を求めた。その結果を表1に示す。
【0050】
【表1】

【0051】
表1に示すように、1,1,1,3,3−ペンタフルオロブタン21.5〜73.8モル%と(Z)−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン78.5〜26.2モル%の液相組成比の範囲では、沸点が39〜40℃となり、1,1,1,3,3−ペンタフルオロブタン単一成分の沸点(40.0℃)、及び(Z)−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン単一成分の沸点(38.9℃)の間の沸点を示しており、共沸様の状態にあることが確認できた。
【0052】
次に、この表1を基に、横軸(X軸)に、液相中の(Z)−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンのモル分率を、縦軸(Y軸)に、気相中の(Z)−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンのモル分率及び反応系内の温度をとり、(Z)−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンと1,1,1,3,3−ペンタフルオロブタンとの混合系における気液平衡図(X−Y線図)を作成した。その結果を図1に示す。
【0053】
共沸様状態においては、液相の組成比と、気相の組成比が同一となることから、X−Y線図と、関数Y=Xの交点が共沸組成となる。また、共沸様状態では、液相の組成比と気相の組成比がほぼ同一となることから、X−Y線図より(Z)−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン1〜99モル%および1,1,1,3,3−ペンタフルオロブタン99〜1モル%においてこの現象が見られ、広い範囲で共沸様となることが確認された。
【0054】
[実施例2及び比較例、参考例]
(洗浄性能試験)
洗浄剤として、それぞれHFC−365mfc/OHCFC−1233c=30/70(重量比)、HFC−365mfc/OHCFC−1233c=50/50(重量比)、HFC−365mfc/OHCFC−1233c=65/35(重量比)の組成を選び、それぞれ洗浄試験を行い、その結果を表2に示した。
【0055】
比較例として、HFC−365mfc単独での洗浄結果を表3に示した。
【0056】
参考例として、HFE−254pc/OHCFC−1233c=35/65(重量比)、HFE−254pc/OHCFC−1233c=50/50(重量比)の組成物を用いて洗浄試験を行った結果を表4に示した。
【0057】
洗浄方法は、図2に示した大きさの60メッシュSUS製金網(重量;Ag)を各種試料油に30秒間浸漬し、さらに室温にて1時間放置して過剰分を油切りしてから油付着金網の重量を測定(重量;Bg)した後、所定温度に保たれた洗浄剤100ml(超音波水槽中のビーカー内)に5秒間及び30秒間浸漬し、油除去した後、90℃にて2時間乾燥し、さらに室温にて1時間冷却放置し油除去後の金網重量(重量;Cg)を測定して、下式より油除去率を求めた。
【0058】
油除去率(wt%):(Bg−Cg/Bg−Ag)×100
【0059】
【表2】

【0060】
【表3】

【0061】
【表4】

【0062】
表4と表5の結果から、本発明の共沸様組成物は、比較例のHFC−365mfc単独に比べ、いずれの油に対しても洗浄効果(油除去率)が優れていることが分かる。
【0063】
また、表4の[参考例]より、本発明の組成物は、いずれの油に対しても、HFE−254pc/OHCFC−1233cの洗浄組成物と同程度の洗浄能力を有していることが分かる。
【0064】
[実施例3および比較例、参考例]
(プラスチックに対する影響試験)
本発明における組成物のプラスチックへの影響を調べる試験を行った。洗浄剤として、それぞれOHCFC−1233c単独、HFC−365mfc/OHCFC−1233c=30/70(重量比)、50/50(重量比)、65/35(重量比)、HFE−254pc/OHCFC−1233c=30/70(重量比)、50/50(重量比)、65/35(重量比)の組成を選び、それぞれプラスチックに対する影響試験を行い、その結果を表5に示した。
【0065】
プラスチックへの影響を調べる試験は、プラスチックとしてアクリル樹脂を用い、アクリル樹脂のテストピース(50mm×20mm×2mm、日本テストパネル製)を、それぞれ調製した組成物溶剤50mlに浸漬し、恒温槽で40℃に保った。浸漬1時間後にテストピースを取り出し、測定前後の重量変化を測定した。
【0066】
【表5】

【0067】
表5の結果から、本発明の組成物は、OHCFC−1233c単独の組成物と比較して、アクリル樹脂に対する重量変化が少なく、影響が少ないことが分かる。また、本発明の組成物は、HFE−254pc/OHCFC−1233cの組成物に比べてアクリル樹脂に対する影響が少ないことが分かる。
【0068】
さらに、表2、表4、表5の結果より、本発明の組成物は、HFE−254pc/OHCFC−1233cの組成物と比較して、同程度の洗浄能力を有し、かつ、アクリル樹脂に対する影響が少ないことがわかる。そのため、本発明の組成物は、HFE−254pc/OHCFC−1233cの組成物と比較して、金属およびプラスチック部材など幅広い部材に対して、洗浄として有効であることが分かる。
[実施例4および比較例、参考例]
(引火性試験)
洗浄剤として、それぞれHFC−365mfc/OHCFC−1233c=95/5(重量比)、90/10(重量比)、HFE−254pc/OHCFC−1233c=85/15(重量比)、80/20(重量比)、75/25(重量比)、70/30(重量比)の組成を選び、各組成物の引火点測定(タグ密閉式引火点測定器)を行った。その結果を表6に示す。
【0069】
その結果、HFC−365mfc/OHCFC−1233c=95/5(重量比)、HFC−365mfc/OHCFC−1233c=90/10(重量比)では、引火点が認められなかった。
【0070】
一方、HFE−254pc/OHCFC−1233c=85/15(重量比)、80/20(重量比)、75/25(重量比)、70/30(重量比)では、引火点がそれぞれ、21℃、30℃、35℃であった。
【0071】
【表6】

表6の結果より、HFC−365mfc/OHCFC−1233c=95/5(重量比)、90/10(重量比)の割合において、引火点はなく、HFE−254pc/OHCFC−1233c=85/15(重量比)、80/20(重量比)、75/25(重量比)の割合において、引火点が見られた。そのため、HFC−365mfc/OHCFC−1233cの組成物は、HFE−254pc/OHCFC−1233cの組成物と比較して、引火点がないため、洗浄剤などとして使用する場合、取り扱いが容易なことが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】0.101MPaにおけるHFC−365mfc、及びOHCFC−1233cとの混合系における気液平衡図を示す。なお、モル分率とは、HFC−365mfc、及びOHCFC−1233cの、各成分のモル比のことを表し、温度とは、蒸留装置内で加熱蒸留した際の、登頂部の温度のことを表す。
【図2】実施例2の洗浄試験における概略図を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1,1,1,3,3−ペンタフルオロブタンと(Z)−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンからなる共沸様組成物。
【請求項2】
1,1,1,3,3−ペンタフルオロブタン10〜90モル%、及び(Z)−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン90〜10モル%からなる、請求項1に記載の共沸様組成物。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の共沸様組成物からなる洗浄剤。
【請求項4】
請求項1または請求項2に記載の共沸様組成物を、汚れが付着した要素に接触させることで、該要素を洗浄する洗浄方法。







【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−248443(P2010−248443A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−102086(P2009−102086)
【出願日】平成21年4月20日(2009.4.20)
【出願人】(000002200)セントラル硝子株式会社 (1,198)
【Fターム(参考)】