説明

1,2−ジクロロエタンの製造方法

【課題】エタノールと塩化水素と分子状酸素から1,2−ジクロロエタンを効率よく製造する方法を提供する。
【解決手段】エタノールと塩化水素と分子状酸素を触媒の存在下に反応させて1,2−ジクロロエタンを製造する方法であって、触媒を少なくとも2段階の触媒層とし、固体酸触媒が充填された前段の触媒層にエタノールと塩化水素を接触させ、その生成物を固体酸触媒および塩化銅が担持されたオキシ塩素化触媒を混合した後段の触媒層に接触させることを特徴とする1,2−ジクロロエタンの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、1,2−ジクロロエタンの製造方法に関する。詳しくは、エタノールと塩化水素と分子状酸素からの1,2−ジクロロエタンの新規な製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
1,2−ジクロロエタンは、脱塩化水素による塩化ビニル製造の原料となる有用な化合物である。エチレンのオキシ塩素化反応による1,2−ジクロロエタンの製造法は公知で、触媒として塩化銅が活性を持つことが知られている。例えば、アルミナ担体に塩化銅とアルカリ金属またはアルカリ土類金属塩化物を担持させた触媒にエチレン、塩化水素および分子状酸素を、接触させる方法が知られている(例えば、特許文献1)。
【0003】
しかし、オキシ塩素化反応の原料であるエチレンは、ナフサやエタンの熱分解によって製造され、その製造には700℃以上の高温が必要で、多大なエネルギーを必要とするというという問題がある。
【0004】
反応形式には、触媒と反応ガスの接触方法が異なる固定床法と流動床法がある。オキシ塩素化反応は発熱量が大きいために、固定床法では急激な発熱を抑制するための希釈剤が用いられるが、流動床法を用いると反応層の均一な温度分布が得られやすい(例えば、特許文献2)。
【0005】
しかし、流動床触媒の凝集や粉化又は反応装置の摩耗等が起こるという問題がある。
【0006】
エチレン以外の原料を用いる方法も公知である。酸素、塩化水素およびクロロエタンまたはエタノールを、最大平均細孔径が0.6nmのゼオライト系担体上に沈着させた塩化銅からなる触媒の存在下255〜275℃で反応させ1,2−ジクロロエタンを製造する方法が開示されている(例えば、特許文献3)。
【0007】
しかし、クロロエタンおよびエタノールを原料とする方法では、最大平均細孔径が0.6nmのシリカライトに塩化銅溶液を浸し、または噴霧し、溶媒を除去するための乾燥と有機残渣を除くための焼成が必要である。また、開示された方法では、原料エタノールが100%転化しないために未反応のエタノールがクロロエタンやエチレンおよび反応で生成した水と混合した状態で反応器から流出する。そのため、生成物からのエタノールの分離にエネルギーを必要し、効率的な方法ではなかった。
【0008】
さらには、塩化銅を単体上に沈着させた触媒にエタノールを直接接触させると塩化銅が飛散し、触媒活性が低下すると同時に触媒から流出した塩化銅を分離除去する必要があることから、効率的な方法ではなかった。
【0009】
【特許文献1】特公昭46−40251号公報
【特許文献2】特開平11−292804号公報
【特許文献3】特開昭59−95935号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、エタノール、塩化水素および分子状酸素から1,2−ジクロロエタンを効率よく製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討した結果、エタノール、塩化水素および分子状酸素を固体酸触媒、固体酸触媒と塩化銅が担持された触媒を混合した触媒存在下に反応させる1,2−ジクロロエタンの新規な製造方法を見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、エタノールと塩化水素と分子状酸素を触媒の存在下に反応させて1,2−ジクロロエタンを製造する方法であって、触媒を少なくとも2段階の触媒層とし、固体酸触媒が充填された前段の触媒層にエタノールと塩化水素を接触させ、その生成物を固体酸触媒および塩化銅が担持されたオキシ塩素化触媒を混合した後段の触媒層に接触させることを特徴とする1,2−ジクロロエタンの製造方法である。
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0013】
本発明の1,2−ジクロロエタンの製造方法は、エタノールと塩化水素と分子状酸素を触媒の存在下に反応させるものであり、触媒を少なくとも2段階の触媒層とし、固体酸触媒が充填された前段の触媒層にエタノールと塩化水素を接触させ、その生成物を固体酸触媒および塩化銅が担持されたオキシ塩素化触媒を混合した後段の触媒層に接触させるものである。
【0014】
本発明の製造方法では、固体酸触媒が充填された前段の触媒層にエタノールと塩化水素を接触させることにより、クロロエタンおよびエチレンを生成させるものである。そして、その生成物を、固体酸触媒および塩化銅が担持された触媒を混合した後段の触媒層に接触させることにより、前段で生成したクロロエタンをエチレンと塩化水素に変換させると共に前段および後段で生成したエチレンを塩化水素および分子状酸素と反応させて1,2−ジクロロエタンを得ることができるものである。
【0015】
本発明の製造方法では、前段の触媒層と後段の触媒層は、同一反応器内にあっても良いし、2つ以上の反応器に別々に充填されても良い。
【0016】
本発明の製造方法において、前段の触媒層に充填される固体酸触媒および後段の触媒層で使用される固体酸触媒は、特に限定されず、一般に市販されている固体酸触媒を使用することができる。例えば、シリカ−アルミナ、チタニア−シリカ、チタニア−アルミナ、チタニア−ジルコニア、シリカ−ジルコニア、シリカ−酸化亜鉛、アルミナ、アルミナ−ジルコニア、アルミナ−酸化亜鉛、ジルコニア、硫酸化ジルコニア、タングステンジルコニア、硫酸化酸化鉄、ゼオライト等の固体酸触媒が使用できるが、低温で、かつ、高いエタノール転化率でクロロエタンおよびエチレンを得ることができることから、シリカ−アルミナ、チタニア−シリカ、チタニア−アルミナ、チタニア−ジルコニア、シリカ−ジルコニア、アルミナ−ジルコニア、ゼオライトが好ましく、シリカ−アルミナ、チタニア−シリカ、チタニア−アルミナ、ゼオライトがさらに好ましい。ここで使用されるゼオライトとしては、フェリエライト(国際ゼオライト学会が規定する構造コード、以下同じ:FER)、ZSM−5(MFI)、モルデナイト(MOR)、ZSM−11(MEL)、ZSM−4(MAZ)、A型(LTA)、L型(LTL)、ZK−5(KFI)、X型(FAU)、Y型(FAU)、ホージャサイト(FAU)、エリオナイト(ERI),ZSM−20(EMT)、リューサイト(ANA)、ベータ(Beta)、ZSM−23(MTT)、ZSM−12(MTW)、MCM−22(MWW)、ソーダライト(SOD)、シータ−1(TON)、ZSM−22(TON)等のゼオライトが使用でき、フェリエライト、モルデナイト、ZSM−5を用いることでさらに収率良く1,2−ジクロロエタンを得ることができる。
【0017】
本発明の製造方法における後段の触媒層では、固体酸触媒および塩化銅が担持されたオキシ塩素化触媒を混合した混合触媒を用いる。混合触媒層では、前段の触媒層で生成したクロロエタンが固体酸触媒との接触による脱塩化水素反応によってエチレンと塩化水素に変換されると共に、前段および後段の触媒層で生成したエチレンと塩化銅が担持された触媒との接触によるオキシ塩素化反応によって塩化水素および分子状酸素と反応し、1,2−ジクロロエタンを得ることができる。また、大きな発熱反応であるオキシ塩素化反応と吸熱反応であるクロロエタンの脱塩化水素反応を混合触媒層中で行わせることで、急激な発熱を抑制することが可能となり、固定床型反応形式においても反応器内の温度分布が均一になりやすい。ここに、後段の触媒層における、固体酸触媒と塩化銅が担持されたオキシ塩素化触媒の割合は特に限定されず、クロロエタンがエチレンに転化される反応とエチレンが1,2−ジクロロエタンに転化される反応を進行させるために触媒の充填容量として固体酸触媒/オキシ塩素化触媒比が0.05〜10が好ましく、さらに0.2〜5が好ましい。
【0018】
塩化銅が担持されたオキシ塩素化触媒は、従来から知られているエチレンのオキシ塩素化反応用触媒や市販のオキシ塩素化触媒をそのまま用いることができる。例えば、アルミナ担体に塩化銅を担持した触媒、塩化銅とアルカリ金属塩化物(NaCl、KCl、LiCl等)またはアルカリ土類金属塩化物(MgCl等)が担持された触媒等を用いることができる。一般に、エチレンのオキシ塩素化反応に用いられる塩化銅が担持された触媒において、活性成分としての塩化銅の担持量は塩化第二銅として5〜15重量%である。本発明における触媒においても、塩化第二銅として同程度の5〜15重量%で良い。触媒の調製法も一般に行われる担持方法を用いることができる。例えば、所定量の塩化第二銅および塩化カリウムの混合水溶液中に活性アルミナを浸漬し、溶液を活性アルミナに吸収させた後に溶液をろ別する。その後、乾燥器を用い200〜300℃で数時間乾燥する等の簡便な方法で調製することができる。
【0019】
本発明の製造方法では、触媒を少なくとも2段階の触媒層としており、上記した触媒層の他に、第3段の触媒層を用いてもかまわない。この第3段の触媒層としては、例えば、未反応のエチレンとクロロエタンを反応させるためのオキシ塩素化触媒と個体酸触媒を混合した第2段と同等な触媒層や未反応エチレンを反応させるオキシ塩素化触媒層等があげられる。
【0020】
本発明の反応形式は、特に限定されず、固定床型、流動床型が使用できる。また、本発明で使用される触媒の形状は、反応形式に適合する形状であれば特に限定されず、例えば、固定床法では球形、円筒形、円柱形、ハニカム形等が、流動床法では粉体、顆粒状等が使用できる。
【0021】
本発明で使用されるエタノールは、特に限定されない。例えば、サトウキビやトウモロコシ等の植物性の原料をアルコール発酵させて製造した、所謂、バイオエタノールを使用しても良いし、エチレンの水和反応により製造した石油由来のエタノール等を用いることもできる。石油資源の枯渇問題や二酸化炭素による地球温暖化防止の観点からは、バイオエタノールを用いることによって地球環境への負荷を低減させることが期待できる。エタノールの純度は、特に限定されず少量の水等が混入することは問題ない。なお、分離工程の負荷を下げ、効率的に1,2−ジクロロエタンを製造できることから、50〜100重量%のエタノール純度が好ましく、さらには85〜100%が好ましい。
【0022】
エタノールは、塩化水素および分子状酸素と共に上記の触媒が充填された反応器に供給される。その際の、エタノールと塩化水素および分子状酸素の比率は、特に制限されないが、エタノールの転化率を維持し、効率的に1,2−ジクロロエタンを製造できることから、ガス容量比で、好ましくは塩化水素/エタノール比=1〜10、さらに好ましくは1.5〜5、好ましくは分子状酸素/エタノール比=0.1〜5、さらに好ましくは0.2〜2.0である。
【0023】
エタノールは、エチレンで希釈して用いても良く、その際のエタノールとエチレンの希釈比率は特に制限されない。エチレンで希釈されたときのエタノール、エチレン、塩化水素および分子状酸素の比率は、エタノールとエチレンの合計が、上記のエチレンを用いない場合のエタノールと塩化水素および分子状酸素の比率になることが好ましい。すなわち、ガス容量比で、好ましくは塩化水素/(エタノール+エチレン)比=1〜10、さらに好ましくは1.5〜5、好ましくは分子状酸素/(エタノール+エチレン)比=0.1〜5、さらに好ましくは0.2〜2.0である。
【0024】
分子状酸素は、純酸素、空気、酸素富加空気等を用いることができる。
【0025】
供給されるエタノール、クロロエタン、塩化水素、分子状酸素は、そのままで用いても、不活性なガスで希釈して用いても良い。不活性ガスの種類は、特に限定されないが、例えば、窒素、ヘリウム、アルゴンまたは二酸化炭素の一種または混合ガスを用いることができる。エタノールおよび塩化水素は前段の触媒層に供給されるが、分子状酸素は後段の触媒層での反応のみに使用されることから、分子状酸素をエタノールおよび塩化水素と共に前段の触媒層に供給しても良いし、前段の触媒層と後段の触媒層の間に供給しても良い。
【0026】
反応温度は、特に限定されないが、転化率や触媒活性や選択率の低下を防止し、さらに炭素の析出等を防止することで触媒活性を維持して、効率的に1,2−ジクロロエタンを製造できることから、前段の触媒層温度は好ましくは150〜450℃、さらに好ましくは200〜450℃である。また、後段の触媒層温度は好ましくは150〜350℃、さらに好ましくは180〜350℃である。
【0027】
反応圧力は、供給原料および生成物がガス状態を保つ範囲であれば問題ないが、効率的に1,2−ジクロロエタンを製造できることから、0〜1MPaGが好ましい。
【発明の効果】
【0028】
本発明によると、エタノールと塩化水素と分子状酸素から効率よく1,2−ジクロロエタンを製造できるという効果を有する。
【実施例】
【0029】
以下に、本発明の実施例を示すが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0030】
実施例に用いた測定法は以下の通りである。
【0031】
<反応評価>
エタノールから1,2−ジクロロエタンの反応評価は、石英製反応管(内径20mm、長さ600mm)を用いた固定床気相流通式反応装置を用いた。石英製反応管の上部に前段の触媒を充填し、その後流側に後段の触媒を充填した。エタノール、塩化水素、分子状酸素および希釈用窒素を反応管上部の前段の触媒層および生成物を分離することなく後段の触媒層に供給した。反応温度は、2段加熱式の電気炉を用い、前段触媒層および後段触媒層を個別に制御した。生成物の液成分は、氷冷した2−ブタノールを用いてトラップした。生成物の定量分析は、ガスクロマトグラフを用い、ガス成分および液成分を個別に分析した。ガス成分は、ガスクロマトグラフ(島津製作所製商品名GC−14B、熱伝導度検出器、2台)を用いて分析した。充填剤は、Waters社製商品名PorapakQ(カラム:3m×2.3mm)およびGLサイエンス社製商品名MS−5A(カラム:3m×2.3mm)を用いた。液成分は、ガスクロマトグラフ(島津製作所製商品名GC−14A、水素炎イオン化検出器、2台)を用いて分析した。分離カラムは、キャピラリーカラム(GLサイエンス社製、商品名TC−1、60m×0.25mm、膜厚0.25μmおよびGLサイエンス社製、商品名TC−FFAP、60m×0.25mm、膜厚0.25μm)を用いた。
【0032】
<表面積および平均細孔径の確認>
表面積および平均細孔径の確認は、窒素吸着法比表面積・細孔分布測定装置(マイクロメリティクス社製 商品名ASAP2400)を用い、液体窒素温度および0.001〜0.995の窒素相対圧の条件で行った。
【0033】
<固体酸の確認>
固体酸の確認は、アンモニア昇温脱離スペクトル装置(アンモニアTPD、日本ベル社製、商品名TPD−1−AT)を用い、前処理温度500℃、アンモニア吸着温度100℃、昇温速度10℃/分、脱離温度100℃〜700℃の条件で、ヘリウム気流中でアンモニアを脱離させて行った。
【0034】
<結晶状態の確認>
得られた成型体の結晶状態は、粉末X線回折測定装置(XRD、マックサイエンス社製、商品名M18XHF)を用い、電圧40kV、電流200mAで測定した。
【0035】
<ナトリウムおよびカリウムの定量>
ナトリウムおよびカリウムの定量は原子吸光分光光度計(AA)(ジャーレルアッシュ製、商品名AA800MarkII)を用い、フレームはアセチレン−エアー、測定波長はナトリウムが589.0nm、カリウムが766.5nmの測定条件で行った
<銅およびアルミニウムの定量>
銅およびアルミニウムの定量は誘導結合プラズマ発光分光分析装置(ICP−AES、京都光研製、商品名UOP−1MKII)を用い、プラズマ電力1.2kW、測定波長は銅が324.754nm、アルミニウムが396.152nmの測定条件で行った
実施例1
シリカ−アルミナ(日揮化学製N632HN、比表面積453m/g、平均細孔径6.5nm、アンモニアTPD測定による酸量0.33mmol/g)8.3gを石英製反応管上部に充填し、前段の酸触媒とした。エタノール(和光純薬製、純度99.5%)0.067g/分、塩化水素64.2ml/分、酸素12.8ml/分、および窒素90.6ml/分を供給し、触媒層温度を260℃に制御して、前段の触媒層のみの反応を行った。反応開始3時間目の生成物をガスクロマトグラフで分析した結果、エタノール転化率100%、クロロエタン選択率51.4%およびエチレン選択率48.5%であり、クロロエタンおよびエチレンが高収率で得られた。
【0036】
次に、塩化第二銅2水和物35.9g、塩化カリウム14.6gを純水100mlに溶解させ、活性アルミナ成形体100ml(球形6〜7mm、比表面積155m/g)を添加し、室温で1時間浸漬した。溶液をろ別した後、200℃で4時間乾燥し、塩化銅および塩化カリウムが担持されたオキシ塩素化触媒を調製した。比表面積は104m/g、平均細孔径13.4nmであった。
【0037】
このオキシ塩素化触媒10.6gとシリカ−アルミナ(日揮化学製N632HN)8.3gを混合した触媒を後段の触媒として充填した。すなわち、前段の触媒としてシリカ−アルミナを、後段の触媒として塩化銅および塩化カリウムが担持されたオキシ塩素化触媒とシリカ−アルミナを混合した触媒を充填した。
【0038】
前段の触媒層温度および後段の触媒層温度を共に260℃に制御しながら、エタノール(和光純薬製、純度99.5%)0.067g/分、塩化水素64.2ml/分、酸素12.8ml/分、および窒素90.6ml/分を供給した。生成物をガスクロマトグラフで分析した結果、エタノール転化率100%、1,2−ジクロロエタン選択率27.6%、クロロエタン選択率39.4%、エチレン選択率32.5%、COおよびCOの選択率の和が0.5%であり、原料エタノールは全て転化し、生成物中には検出されなかった。また、1,2−ジクロロエタンおよび1,2−ジクロロエタンに転化可能なクロロエタンとエチレンが高収率で得られた。
【0039】
実施例2
塩化第二銅2水和物35.9gを純水100mlに溶解させ、活性アルミナ成形体100ml(球形6〜7mm、比表面積155m/g)を添加し、室温で1時間浸漬した。溶液をろ別した後、200℃で4時間乾燥し、塩化銅を含むオキシ塩素化触媒を調製した。比表面積は116m/g、平均細孔径14.2nmであった。
【0040】
この触媒をオキシ塩素化触媒として用いた以外は実施例1と同様に、前段の触媒層にシリカ−アルミナを用い、後段の触媒層にシリカ−アルミナと上記塩化銅を含むオキシ塩素化触媒を混合した触媒を充填して反応を行った。その結果、エタノール転化率100%、1,2−ジクロロエタン選択率26.8%、クロロエタン選択率39.5%、エチレン選択率33.0%、COおよびCOの選択率の和が0.7%であり、1,2−ジクロロエタンおよび1,2−ジクロロエタンに転化可能なクロロエタンとエチレンが高収率で得られた。また、原料エタノールは全て転化し、生成物中には検出されなかった。
【0041】
実施例3
フェリエライト:HSZ720KOA(東ソー株式会社製、Si/Al比=8.9)56.1gを1N−塩化アンモニウム水溶液1.5リットルに懸濁させ、攪拌しながら80℃で2時間加熱した後、水溶液をろ別し、白色のケーキ状フェリエライトを得た。この操作を4回繰り返した。次に、このケーキ状フェリエライトを純水1.5リットルに懸濁させ、攪拌しながら80℃で2時間加熱した後、洗浄液をろ別した。この操作を5回繰り返した。
【0042】
得られた白色ケーキ状フェリエライトを100℃で15時間乾燥させた。熱処理後のフェリエライトのナトリウムおよびカリウム含有量はいずれも0.005wt%未満であった。
【0043】
乾燥したフェリエライト51.1gに、粉砕したSiO(富士シリシア製、商品名キャリアクト30)19.4gを混合し、打錠成型機(畑鉄工所製、商品名HU−A)を用い、直径5mm高さ2mmの円柱状のペレットに成粒した。500℃で5時間熱処理して酸型のフェリエライトペレットを得た。比表面積は453m/g、平均細孔径4.8nm、アンモニアTPD測定による酸量は1.25mmol/gであった。
【0044】
前段の触媒層にシリカ−アルミナ(日揮化学製N632HN)を用い、後段の触媒層に上記のフェリエライトおよび実施例1のオキシ塩素化触媒を混合した触媒を用いて、実施例1と同様に反応を行った。その結果、エタノール転化率100%、1,2−ジクロロエタン選択率29.0%、クロロエタン選択率27.8%、エチレン選択率41.9%、COおよびCOの選択率の和が1.0%、トリクロロエタン0.2%、アセトアルデヒド0.1%であり、1,2−ジクロロエタンおよび1,2−ジクロロエタンに転化可能なエチレンとクロロエタンが高収率で得られた。
【0045】
実施例4
実施例3で得られたフェリエライトペレット7.5gを前段の触媒として用いた以外は、実施例1の前段のみの反応と同様に行った。その結果、エタノール転化率100%、クロロエタン選択率57.2%、エチレン選択率42.6%および1,2−ジクロロエタン選択率0.2%であった。
【0046】
前段の触媒層に上記のフェリエライトを用い、後段の触媒層にフェリエライトと実施例1のオキシ塩素化触媒を混合した触媒を用いて、実施例1と同様に反応を行った。その結果、エタノール転化率100%、1,2−ジクロロエタン選択率19.3%、クロロエタン選択率24.0%、エチレン選択率53.4%、COおよびCOの選択率の和2.8%であり、1,2−ジクロロエタンおよび1,2−ジクロロエタンに転化可能なクロロエタンとエチレンが高収率で得られた。また、原料エタノールは全て転化し、生成物中には検出されなかった。
【0047】
実施例5
モルデナイト:HSZ640NAA(東ソー株式会社製、Si/Al比=9.3)50.0gを1N−塩化アンモニウム水溶液1.5リットルに懸濁させ、攪拌しながら80℃で1時間加熱した後、水溶液をろ別し、白色ケーキ状モルデナイトを得た。この操作を4回繰り返した。次にこのケーキ状モルデナイトを純水1.5リットルに懸濁させ、攪拌しながら80℃で1時間加熱した後、洗浄液をろ別した。この操作を5回繰り返した。
【0048】
得られた白色ケーキ状モルデナイトを100℃で15時間乾燥した。得られたモルデナイトのナトリウム含有量は0.005wt%未満であった。
【0049】
次に、得られたモルデナイト34gにコロイダルシリカ(スノーテックスN、日産化学社製)36gを加え、温風をあてながら混練乾燥した。次に、500℃で5時間焼成した後、直径2mmから3mmに粉砕し、モルデナイト触媒を得た。比表面積は495m/g、平均細孔径1.7nm、アンモニアTPD測定による酸量は1.42mmol/gであった。
【0050】
後段の触媒層のシリカ−アルミナの代わりに上記モルデナイト10.3gを用いた以外は、実施例1と同様な操作で反応を行った。その結果、エタノール転化率100%、1,2−ジクロロエタン選択率21.3%、クロロエタン選択率26.3%、エチレン選択率50.2%、COおよびCOの選択率の和が2.2%であり、1,2−ジクロロエタンおよび1,2−ジクロロエタンに転化可能なクロロエタンとエチレンが高収率で得られた。
【0051】
実施例6
特公昭46−10064号公報に準拠してナトリウム型のZSM−5を調製した。すなわち、30重量%シリカゾル(日産化学製、商品名コロイダルシリカN)76gを2.2mol/lのテトラ−n−プロピルアンモニウムヒドロキシド水溶液108gと混合した。次いで、3.2gのアルミン酸ナトリウムを水54mlに溶かし、この水溶液と前記溶液をSUS製オートクレーブに入れた。この混合物を自圧で150℃、6日間攪拌しながら加熱された。冷却後、生成したスラリーをろ別し、蒸留水100mlを用い洗浄し、この洗浄操作を5回繰り返した。次いで、110℃で一晩乾燥後、空気中540℃で焼成し、白色のナトリウム型のZSM−5を得た。粉末X線回折測定の結果、MFI型すなわちZSM−5形構造を有することがわかった。得られたZSM−5のケイ素/アルミニウム比(原子比)=20であった。
【0052】
得られたナトリウム型ZSM−5を実施例3と同様に塩化アンモニウム処理および洗浄処理を行った。得られた酸型のZSM−5のナトリウム含有量は0.009wt%であった。次に、実施例3と同様に成形および熱処理し触媒を得た。比表面積は339m/g、平均細孔径1.7nm、アンモニアTPD測定による酸量は0.88mmol/gであった。
【0053】
後段の触媒層のシリカ−アルミナの代わりに上記ZSM−5を用いた以外は、実施例1と同様な操作で反応を行った。その結果、エタノール転化率100%、1,2−ジクロロエタン選択率26.5%、クロロエタン選択率36.1%、エチレン選択率36.5%、COおよびCOの選択率の和が0.9%であり、1,2−ジクロロエタンおよび1,2−ジクロロエタンに転化可能なクロロエタンとエチレンが高収率で得られた。また、原料エタノールは全て転化し、生成物中には検出されなかった。
【0054】
実験例1
石英製反応管に実施例1のオキシ塩素化触媒10.7gとシリカ−アルミナ(日揮化学製N632HN)8.3gを混合した触媒を充填した。触媒層温度を260℃に制御しながら、クロロエタン(和光純薬製、純度99%)0.093g/分、塩化水素64.2ml/分、酸素12.8ml/分、および窒素90.6ml/分を供給し、後段触媒でのクロロエタンの反応を確認した。その結果、クロロエタン転化率25.8%、1,2−ジクロロエタン選択率43.0%、エチレン選択率57.0%となりCOおよびCOは検出されなかった。後段の触媒でクロロエタンから1,2−ジクロロエタンが生成することがわかった。
【0055】
比較例1
実施例1のオキシ塩素化触媒10.6gおよび希釈剤(セラミックボール6〜7mm、比表面積0.6m/g、平均細孔径2.2nm、アンモニアTPD測定による酸量0.00mmol/gであった。)24.5gを混合して石英製反応管に充填した。
【0056】
触媒層温度を260℃に制御しながら、エタノール(和光純薬製、純度99.5%)0.067g/分、塩化水素64.2ml/分、酸素12.8ml/分、および窒素90.6ml/分を供給し反応を行った。その結果、エタノール転化率59%、1,2−ジクロロエタン選択率0.1%、クロロエタン選択率68.8%、エチレン選択率0.7%、COおよびCOの選択率の和4.2%、アセトアルデヒド選択率3.3%、ジエチルエーテル選択率0.5%、および高沸点の生成物の選択率が22.4%となり、オキシ塩素化触媒のみではエタノールから1,2−ジクロロエタンが生成しないことがわかった。
【0057】
また、反応器出口の2−ブタノールトラップは、濃青色に変化し、分析の結果触媒成分の銅0.05ppm、カリウム0.2ppmおよびアルミニウム0.4ppmが検出され、更に反応後の触媒の色が反応前の茶色から灰色に変化していたことから、触媒成分が溶出したことがわかった。
【0058】
比較例2
反応温度を350℃にした以外は、比較例1と同様に反応を行った結果、エタノール転化率83.2%、1,2−ジクロロエタン選択率0.1%、クロロエタン選択率66.7%、エチレン選択率2.6%、COおよびCOの選択率の和14.9%、アセトアルデヒド選択率7.6%、ジエチルエーテル選択率0.2%、および高沸点の生成物の選択率7.9%であった。
【0059】
実験例2
実施例1で示したオキシ塩素化触媒10.6gおよび希釈剤(セラミックボール6〜7mm)22.0gを混合して石英製反応管に充填した以外は、実験例1と同様に反応を行った。その結果、クロロエタン転化率3.4%、1,2−ジクロロエタン選択率15.7%、エチレン選択率5.6%、COおよびCOの和1.5%、および高沸点の生成物の選択率77.2%となり、オキシ塩素化触媒のみではクロロエタンから1,2−ジクロロエタンへの反応活性が極めて低いことがわかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エタノールと塩化水素と分子状酸素を触媒の存在下に反応させて1,2−ジクロロエタンを製造する方法であって、触媒を少なくとも2段階の触媒層とし、固体酸触媒が充填された前段の触媒層にエタノールと塩化水素を接触させ、その生成物を固体酸触媒および塩化銅が担持されたオキシ塩素化触媒を混合した後段の触媒層に接触させることを特徴とする1,2−ジクロロエタンの製造方法。
【請求項2】
固体酸触媒が充填された前段の触媒層にエタノールと塩化水素を接触させることにより、クロロエタンおよびエチレンを生成させ、その生成物を、固体酸触媒および塩化銅が担持されたオキシ塩素化触媒を混合した後段の触媒層に接触させることにより、前段で生成したクロロエタンをエチレンと塩化水素に変換させると共に前段および後段で生成したエチレンを塩化水素および分子状酸素と反応させて1,2−ジクロロエタンを生成させることを特徴とする請求項1に記載の1,2−ジクロロエタンの製造方法。
【請求項3】
エタノールと塩化水素と共に分子状酸素を固体酸触媒が充填された前段の触媒層に供給することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の1,2−ジクロロエタンの製造方法。
【請求項4】
分子状酸素を固体酸触媒が充填された前段の触媒層の出口より後流の位置から固体酸触媒および塩化銅が担持されたオキシ塩素化触媒を混合した後段の触媒層に供給することを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれかの項に記載の1,2−ジクロロエタンの製造方法。
【請求項5】
固体酸触媒が、シリカ−アルミナおよび/またはゼオライトであることを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれかの項に記載の1,2−ジクロロエタンの製造方法。
【請求項6】
ゼオライトがフェリエライト、モルデナイト又はZSM−5であることを特徴とする請求項5に記載の1,2−ジクロロエタンの製造方法。
【請求項7】
前段の触媒層温度が150〜450℃であることを特徴とする請求項1〜請求項6のいずれかの項に記載の1,2−ジクロロエタンの製造方法。
【請求項8】
後段の触媒層温度が150〜350℃であることを特徴とする請求項1〜請求項7のいずれかの項に記載の1,2−ジクロロエタンの製造方法。

【公開番号】特開2010−24186(P2010−24186A)
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−188059(P2008−188059)
【出願日】平成20年7月22日(2008.7.22)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】